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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091605
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】免疫増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20220614BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220614BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220614BHJP
   A23F 3/14 20060101ALI20220614BHJP
   B65D 85/808 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A61K36/82
A61K31/353
A61P37/04
A61P11/00
A61P29/00
A23L33/105
A23F3/14
B65D85/808
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204528
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 壯幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 壮矢
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD59
4B018ME14
4B018MF01
4B027FB08
4B027FC06
4B027FE09
4B027FP90
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB09
4C086ZB11
4C088AB45
4C088AC05
4C088CA05
4C088MA17
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA59
4C088ZB09
4C088ZB11
(57)【要約】
【課題】通常の飲食条件において急性上気道炎症の発症および症状の抑制に対して有効な免疫増強剤を提供すること。
【解決手段】紅茶ポリフェノールを継続的に摂取することにより、唾液中のSIgAとNK細胞活性を上昇させることによって粘膜免疫と自然免疫を増強し、急性上気道炎症の発症リスクと症状の重症度を抑制することができる。本発明の紅茶ポリフェノールを摂取する形態としては、ティーバッグであることが好ましく、1バッグあたりに70~150mgのポリフェノールを含み、そのうちの80%以上がテアフラビンやテアシネンシンを含む紅茶ポリフェノールであることが好ましい。このティーバッグの浸出液を一日当たり3杯分以上を12週間以上継続して摂取することによって、免疫増強の作用を享受することができる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅茶ポリフェノールを有効成分とする免疫増強剤。
【請求項2】
免疫が自然免疫および/または粘膜免疫である請求項1に記載の免疫増強剤。
【請求項3】
急性上気道炎症状発現抑制用である請求項1または2に記載の免疫増強剤。
【請求項4】
自然免疫増強の作用がNK細胞活性を上昇させるもので、粘膜免疫増強の作用がSIgAを上昇させるものである請求項3に記載の免疫増強剤。
【請求項5】
1バッグあたりに70~150mgのポリフェノールを含み、ポリフェノール中の80%以上が紅茶ポリフェノールであることを特徴とする紅茶ティーバッグである請求項1から4に記載の免疫増強剤。
【請求項6】
ポリフェノールとしてテアフラビン類および/またはテアシネンシン類をそれぞれ3.0mg以上含むものである請求項5に記載の免疫増強剤。
【請求項7】
ヒトに対し、12週間以上継続して1日あたり3バッグ分以上の紅茶浸出液を経口摂取されるように用いられることを特徴とする請求項5または6に記載の免疫増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫増強剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
急性上気道炎症は主に上気道へのウイルス感染によって引き起こされる臨床症候群である。この疾患には、ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザおよび呼吸器合胞体ウイルスを含む広範囲のウイルスが関与することが知られている(非特許文献1)。インフルエンザウイルス複製阻害剤を除いて根本的な治療薬や治療法はないが、健常な感染者であれば通常は、自己免疫力により医学的介入がなくとも一週間程度で回復する。
【0003】
一方で、高齢者や慢性呼吸器疾患を有する免疫系が弱い患者では、副次的な細菌感染によって症状の重症度が高まる。急性上気道炎症の初期症状は喉や鼻などの不快感があり、その後に鼻詰まりや咽頭痛、さらには発熱による倦怠感や頭痛を生じる。これら症状はQOL低下のみならず、ウイルスの伝播は集団感染を引き起こし、休業や休校によって大きな経済的損失が生じる。米国では、インフルエンザ以外の上気道感染症による経済的影響は年間870億ドルと推定されている(非特許文献2)。
【0004】
植物に含まれるポリフェノール成分は、様々な動植物感染症の原因となるウイルスに対して抗ウイルス作用を示すことが知られている。In vitro研究では、ポリフェノールがエンベロープなどのウイルス体のタンパク質と結合し、ウイルスが宿主細胞へ吸着して感染するのを阻害することや、細胞内での増殖を抑制する作用があることが報告されている(非特許文献3、4)。このため、ポリフェノールの抗ウイルス作用は、有用かつ安全性の高い感染症対策の一つ手段として応用が期待されている。
【0005】
チャノキ(Camellia sinensis)の生葉には、カテキン類をはじめとしたポリフェノール成分を乾燥重量あたりで約20%含有し、チャノキの葉や茎などを加工して製造される「茶」(緑茶、紅茶、烏龍茶など)の抽出液は、ポリフェノール成分を豊富に含有している飲料である。紅茶には、酵素酸化発酵の製造工程におけるカテキンの酸化生成物としてテアフラビン類、テアシネンシン類、テアルビジンなどの紅茶特有のポリフェノールが含まれる。その中で、テアフラビン類には、ウイルス粒子の感染性に直接影響を及ぼし、インフルエンザウイルスをin vitroで不活化するのに優れていることが分かっている(非特許文献5)。さらにテアフラビン類には、血球凝集素遺伝子の複製およびノイラミニダーゼ活性に対する阻害効果及びウイルス感染中に深刻な組織損傷やアポトーシスを引き起こす可能性がある炎症性サイトカインIL-6の発現レベルを低下させる効果があるため、テアフラビン類はインフルエンザウイルスの複製阻害と抗炎症特性を持つ潜在的な化合物であることが示されている(非特許文献6)。
【0006】
茶は世界中で最も一般的で、あらゆる社会において幅広い年齢層で飲用されている飲料である。また、茶は生産者である発展途上国の経済を支える重要な農作物でもある。世界では一日あたり3億杯の茶が摂取されており、この豊富な摂食経験は、茶ポリフェノールの安全性の根拠となる。さらに、これまでの臨床研究により、茶の摂取による様々な健康上の利点が示唆されている。例えば、抗酸化作用があるポリフェノールを豊富に含む茶の摂取は、心血管疾患のリスクを低下させる可能性があり(非特許文献7)、茶の習慣的な摂取は高齢者における健康関連のQOL向上に関連し、その関連性は緑茶よりも紅茶の方が高いことが示されている(非特許文献8)。
【0007】
茶に含まれる成分について、急性上気道炎症の予防効果を検証した臨床研究の事例としては、高齢者を対象とした茶カテキン抽出物を用いたうがいによるインフルエンザの感染の抑制効果(非特許文献9)、茶カテキンおよびテアニンを封入したカプセル摂取によるインフルエンザ感染予防効果(非特許文献10)、紅茶抽出液を用いたうがいによるインフルエンザ感染予防効果(非特許文献11)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The American Journal of Medicine(2002),112(6),p.4-12
【非特許文献2】Vaccine(2007),25(27),p.5086-5096
【非特許文献3】PLoS ONE(2013),8(1),e55343
【非特許文献4】BMC Complementary and Alternative Medicine(2018),18(1):102
【非特許文献5】Antiviral Research(1993),21(4),p.289-299
【非特許文献6】Antiviral Research(2012),94(3),p.217-24
【非特許文献7】Current Opinion in Lipidology,(2002),13(1),p.41-49
【非特許文献8】The journal of nutrition, health and aging(2017),21(5),p.480-486.
【非特許文献9】The Journal of Alternative and Complementary Medicine(2006),12(7),p.669-672
【非特許文献10】BMC Complementary and Alternative Medicine,(2011) ,11:15
【非特許文献11】感染症学雑誌、1997年、第71巻、第6号、p.487-494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、茶に含まれる成分について、急性上気道炎症の予防効果を検証した研究が開示されているが、これらは通常の茶の飲用習慣によるインフルエンザを含む急性上気道炎症の予防効果を検証したものではない。したがって本発明の目的は、通常の飲食条件において急性上気道炎症の発症および症状の抑制に対して有効な免疫増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた過程で、紅茶ポリフェノールを含有するティーバッグの浸出液を12週間継続して摂取した場合に、唾液中のSIgAとNK細胞活性を上昇させることによって免疫を増強し、急性上気道炎症の発症リスクと症状の重症度を抑制しうることを発見し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]紅茶ポリフェノールを有効成分とする免疫増強剤。
[2]免疫が自然免疫および/または粘膜免疫である[1]に記載の免疫増強剤。
[3]急性上気道炎症状発現抑制用である[1]または[2]に記載の免疫増強剤。
[4]自然免疫増強の作用がNK細胞活性を上昇させるもので、粘膜免疫増強の作用がSIgAを上昇させるものである[3]に記載の免疫増強剤。
[5]1バッグあたりに70~150mgのポリフェノールを含み、ポリフェノール中の80%以上が紅茶ポリフェノールであることを特徴とする紅茶ティーバッグである[1]から[4]に記載の免疫増強剤。
[6]ポリフェノールとしてテアフラビン類および/またはテアシネンシン類をそれぞれ3.0mg以上含むものである[5]に記載の免疫増強剤。

[7]ヒトに対し、12週間以上継続して1日あたり3バッグ分以上の紅茶浸出液を経口摂取 されるように用いられることを特徴とする[5]または[6]に記載の免疫増強剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の紅茶ポリフェノールを有効成分として含有するティーバッグの浸出液(以下、この浸出液を「紅茶浸出液」または「紅茶」として表現する場合がある)を12週間継続して摂取すると、SIgAの上昇によって粘膜免疫を増強させ、また、NK細胞活性の上昇によって自然免疫を増強させるため、これらの作用によって急性上気道炎症の発症リスクと症状の重症化を抑制することができる。さらに、粘膜免疫に関しては、唾液中のSIgA濃度が低いヒトに対しては分泌能力を向上させる作用を有する。したがって、本発明の紅茶を12週間継続して日常的に摂取することは、免疫機能を強化し、急性上気道炎症などの外来抗原によるリスクを抑制するための食事療法となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】被験者の処置の流れ
図2】年齢を共変量としたときのNK細胞活性とSIgA変化量の群間比較結果
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、特別な記載がない場合、「%」は質量%を示す。また、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値範囲を意味する。
【0015】
本発明の免疫増強剤における有効成分は紅茶ポリフェノールである。紅茶ポリフェノールとは、チャノキ(Camellia sinensis)の生葉などに存在するカテキン類(エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、ガロカテキン(GC)、カテキン(C)、ガロカテキンガレート(GCg)およびカテキンガレート(Cg))が酸化酵素であるポリフェノールオキシダーゼの発酵作用によって酸化重合することで形成されたオリゴマー(テアシネンシン類、テアフラビン類等)や、さらに発酵が進むにつれこれら成分が複雑に重合した構造の定かではない化合物(テアルビジン類)を主とした紅茶に特有のポリフェノールを意味する。
【0016】
本発明において紅茶ポリフェノール量とは、酒石酸鉄吸光光度法(参考文献1:文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室監修、「日本食品標準成分表2015年度版(七訂)分析マニュアル・解説」、建帛社2016年2月、p.242-243)で測定されるポリフェノール量からHPLC法で測定される総カテキン量(上記8種カテキン類の合計値)および没食子酸量を差し引いて求められるものである。
【0017】
本発明においてテアフラビン類とは、上記カテキン類の2分子が重合し、分子内にベンゾトロポロン環を有する2量体のカテキン重合物であり、テアフラビン1(テアフラビン)、テアフラビン2A(テアフラビン-3-ガレート)、テアフラビン2B(テアフラビン-3’-ガレート)、テアフラビン3(テアフラビン-3,3’-ジガレート)の4種を意味する。これらはHPLC法によって定量することができ、前記4種のテアフラビンの合算値をテアフラビン類量とする。
【0018】
本発明においてテアシネンシン類とは、上記カテキン類のうちでピロガロール構造を有するカテキン2分子が重合した2量体のカテキン重合物であり、その構成と立体構造によりテアシネンシンA~Gが知られているが、本発明においては主要なテアシネンシンであるテアシネンシンA~Cの3種を意味する。これらはHPLC法によって定量することができ、3種テアシネンシンの合算値をテアシネンシン類量とする。
【0019】
上記の紅茶ポリフェノールは免疫増強剤として機能する。これらは紅茶葉中に含まれるものであり、本発明においては紅茶葉を水や熱水を用いて有効成分を浸出させた液を継続して摂取することで免疫増強作用を享受することができる。ここで、紅茶葉の浸出方法としては、紅茶葉をティーポットに入れて熱水を注ぎ、茶漉しにより茶葉を取り除く方法でも良いが、紅茶葉を不織布などのメッシュ状の素材に封入したいわゆるティーバッグの形態から浸出するのが好ましい。ティーバッグの形態では一定量の茶葉が封入されていることから、有効成分である紅茶ポリフェノールを安定して簡便に取り出すことができるため、日常的に継続して摂取するのに適している。茶葉やティーバッグを浸出する際の水は常温以下の低温水から沸騰直後の熱水まで利用可能であるが、紅茶ポリフェノールの浸出特性から高温の水で浸出させるのが有効である。本発明では、上記のように紅茶葉から成分が浸出された状態の液体を「紅茶浸出液」または単に「紅茶」として扱う。
【0020】
ティーバッグの中にはポリフェノールを70~150mgを含有する茶葉が封入されているのが好ましく、浸出液の香味との関係から、その茶葉量は紅茶一杯分(およそ150ml)に対して1.0~3.0gであるのが一般的で、1.5~2.5gであるのが好ましい。また、茶葉中のポリフェノール含有率は5~35%が好ましく。10~25%がより好ましい。また、ポリフェノールに占める紅茶ポリフェノールの含有率は80%以上であることが好ましい。このような茶葉を利用することによって、本発明の効果を安定的に享受することができる。また、紅茶ポリフェノールの中でもテアフラビン類とテアシネンシン類は特に効果が期待できる成分であり、これらは紅茶一杯分の茶葉の中にいずれも3.0mg以上を含有するのが好ましく、茶葉あたりでは0.1~5.0%が好ましい。その他、あらかじめ紅茶葉から抽出した紅茶抽出物をティーバッグの中に封入し、紅茶ポリフェノール分を強化しても良い。)
【0021】
本発明において、「免疫増強」とは、ヒトまたは動物の免疫機能を高める作用または低下した機能を回復するなどの免疫調節作用を意味し、本発明の免疫増強剤は「自然免疫」と「粘膜免疫」を増強させ、その結果として急性上気道炎症のような感染症等の各種疾患の予防治療改善効果を期待することができる。
【0022】
自然免疫とは、生体が備える免疫のうち、生体に先天的に備わっており、事前に抗原に暴露していなくても前記抗原を生体から排除するに際に機能する機構を意味する。本発明における自然免疫の増強剤としてより具体的には、ナチュラルキラー細胞(Natural Killer Cell:NK細胞)等を介した非特異的な免疫応答を活性化する薬剤を意味する。なお、NK細胞の活性は51Cr遊離法により定量することができる。NK細胞はリンパ球の一つであり、癌細胞やウイルス性疾患に対する主要な防御メカニズムとして機能する重要な自然免疫細胞であり、事前の感作なしに腫瘍細胞やウイルス感染細胞を攻撃することができる。本発明では、全身免疫系へ影響する血清中のNK細胞の細胞傷害活性を対象とする。NK細胞活性と急性上気道炎症との関連性については、健常人が風邪に罹る頻度はNK活性およびNKサブセット(CD3-CD16+CD56+)の割合と逆相関していることが報告されている(参考文献2:Environmental Health and Preventive Medicine(2000),4(4),p.212-216)。また、NK細胞活性と感染症発症との関連性については、高齢者における低NK細胞活性が感染症の発症と短生存率と相関していることが報告されている(参考文献3:Clinical & Experimental Immunology(2001),124(3),p.392-397)。
【0023】
粘膜免疫とは、ウイルスや病原性微生物の侵入口である粘膜面で機能する免疫であり、二量体の分泌型免疫グロブリンA(Secretory Immunoglobulin A:SIgA)は上気道および消化管の粘膜上皮から分泌される粘液に含まれる主要な粘膜免疫成分であり、最初の生体防御線として機能する。粘液に外来抗原および病原性微生物を閉じ込め、上皮受容体へのアクセスを阻害し、付着および中和によってそれらを不活性化し、蠕動および粘液線毛活動による除去を容易にする。SIgAは抗体の可変領域とは無関係に、上皮表面への病原体と毒素の付着を防ぐこともでき、自然免疫系の構成要素と見なすこともできる。呼吸器と消化管の入り口として重要な役割を果たしている口腔内には唾液SIgAが多量に存在しており、一日に約50~200mgが分泌されている。本発明における粘膜免疫の増強剤とは具体的には、口腔内のSIgA量の増加による粘膜免疫を増強する薬剤を意味する。なお、唾液中のSIgAは競合ELISA法により定量することができる。
【0024】
本発明の免疫増強剤のヒトへの投与方法は、上記のとおり茶葉をティーバッグの形態などから浸出させて得られる紅茶浸出液を経口摂取するものである。紅茶浸出液の投与量は上記ティーバッグとして1日あたり3バッグ分以上であることが好ましい。また、投与の期間は継続して12週間以上であることが好ましい。本発明の免疫増強剤の有効成分である紅茶ポリフェノールを含むティーバッグの浸出液を1日あたり3バッグ分以上を継続して12週間以上経口摂取した場合に、SIgAの上昇によって粘膜免疫を増強させ、また、NK細胞活性の上昇によって自然免疫を増強させるため、これらの作用によって急性上気道炎症の発症リスクと症状の重症度を抑制することができる。さらに、粘膜免疫では、唾液中のSIgA濃度が低いヒトでは分泌能力を向上させる。したがって、本発明の紅茶を12週間継続して摂取することは、免疫機能を強化し、急性上気道炎症などの外来抗原によるリスクを抑制するための食事療法となる。
【実施例0025】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0026】
本発明の紅茶ポリフェノールを有効成分とする免疫増強剤の摂取による急性上気道炎症に対する抑制効果をプラセボと比較するため、ランダム化プラセボ対照単盲検並行群間比較試験を実施した。インフォームドコンセントを得た20~59才の成人被験候補者に対し、ベースラインを評価するため、自己調査票(年齢、性別、BMI、喫煙とアルコール摂取習慣、インフルエンザウイルスのワクチン接種など)に回答し、身体測定、血圧、血液学検査、血液生化学検査、尿検査、インフルエンザ抗体価(A型:H1N1およびH3N2、B型:山形系統およびビクトリア系統)、NK細胞活性(E/T比10:1および20:1)、唾液SIgAの事前検査を受けさせ、以下の基準で被験者の適格性を判断した。
【0027】
<適格性基準>
(I)同意取得時の年齢が20歳以上60歳未満の健常者。
(II)当該試験について十分な説明を受け、内容を理解することができ、本人による文書同意が得られる者。
<除外基準>
(i)同意取得日より起算して8カ月前から試験開始24時間前までにインフルエンザに罹患した者。
(ii)同意取得日から起算して8カ月以内にインフルエンザワクチンを接種した者。
(iii)特定保健用食品、機能性表示食品、健康食品を常用しており、試験期間中に中止できない者。
(iv)茶類(緑茶、ウーロン茶、紅茶、麦茶など)に対するアレルギーを有する者。
(v)茶飲料を一日あたり2L以上飲む習慣のある者。
(vi)心臓、肝臓、腎臓、呼吸器、消化器に重篤な現病歴、既往歴がある者。
(vii)妊娠中、試験期間中に妊娠予定・意志のある者、授乳中の者。
(viii)他の医薬品または健康食品の臨床試験に参加中、試験終了後4週間以内、あるいは当該試験の参加同意後に他の臨床試験に参加する予定のある者。
(ix)同意取得日から1ヶ月以内に、成分献血あるいは全血200mL献血を行った者。
(x)同意取得日から3ヶ月以内に、全血400mL献血を行った男性。
(xi)同意取得日から4ヶ月以内に、全血400mL献血を行った女性。
(xii)同意取得日から12ヶ月以内の採血量に、当該試験の予定総採血量を加えると1200mLを超える男性。
(xiii)同意取得日から12ヶ月以内の採血量に、当該試験の予定総採血量を加えると800mLを超える女性。
(xiv)試験責任医師または試験分担医師が本試験への参加が不適当と判断した者。
【0028】
試験責任医師によって適格性基準を満たし、試験への参加に問題が無いと判断した者のうち、インフルエンザ抗体価が低いこと(A型/H1N1)を第一優先とし、NK細胞活性(E/T比10:1)が低いことを第二優先として、72名の被験者を選定した。試験品作成者は、外観形状が同一となるように作成した2種のティーバッグ(紅茶:被験品(本発明品)、麦茶:比較品)とし、各々に異なる試験品記号を無作為に割り当てた。割付責任者は、選定された72名の被験者に被験者コードを付し、性別、年齢、インフルエンザ抗体価(A型/H1N1およびA型/H3N2)、NK細胞活性(E/T比10:1)、唾液SIgA濃度および被験者選定時までのインフルエンザワクチン接種者数について考慮して36名ずつの2群(本発明の紅茶摂取群:被験群、麦茶摂取群:比較群)に層別割付を行い、各群に異なる試験群記号を付した。なお、層別因子において試験群間で大きく偏らないように考慮した。被験者コード、試験群記号および試験品記号を紐づけた割付け表は割付責任者によって厳重に保管し、試験実施者、試験責任医師および試験分担医師への開示はデータ固定まで行わなかった。
【0029】
被験者には、1日に3杯の試験品(被験品:紅茶、比較品:麦茶)を12週間(84日間)摂取させた。試験品は内容量をそれぞれ紅茶2.0g、麦茶1.5gのティーバッグの形態とし、いずれの試験品も白色無地の外装で個包装したものを用いた。試験品の摂取方法としては、ティーバッグ1つを150mLの沸騰水で90秒間浸漬して得られる浸出液約130mLを1杯分とし、被験者には試験品には砂糖やミルク等の他の食品素材は加えず、そのまま摂取するよう求めた。なお、紅茶ティーバッグの内容物については市販のティーバッグ商品「日東デイリークラブ(三井農林製)」と同じものを採用した。
【0030】
試験品の詳細を表1に示した。試験品中の成分含量は以下の方法により測定した。
・総ポリフェノール量:酒石酸鉄吸光光度法により測定した(参考文献4:文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室監修、「日本食品標準成分表2015年度版(七訂)分析マニュアル・解説」、建帛社2016年2月、p.242-243)。
・カテキン類、カフェイン:HPLC法により測定した(参考文献5:特開2018-134052号公報)。総カテキン量は、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、ガロカテキン(GC)、カテキン(C)、ガロカテキンガレート(GCg)およびカテキンガレート(Cg)含量の合算値とした。
・テアフラビン類:HPLC法により測定した(参考文献6:特開2010-35548号公報)。総テアフラビン量は、TF1、TF2A、TF2BおよびTF3含量の合算値とした。
・テアシネンシン類:HPLC法により測定した(参考文献7:特開2010-138103号公報)。総テアシネンシン量は、テアシネンシンA、テアシネンシンBおよびテアシネンシンC含量の合算値とした。
・紅茶ポリフェノール:総ポリフェノール量から総カテキン量および没食子酸量を差し引いた値を紅茶ポリフェノール量とした。
【0031】
表1に示した分析結果より、被験群の被験者は、試験品から1日あたり約270±31mgの総ポリフェノール(うち、26.5±0.1mgのカテキン類、12.8±0.3mgのテアフラビン類、17.2±0.2mgのテアシネンシン類、10.4±0.1mgの没食子酸を含む)および104.5±1.8mgのカフェインを摂取したことが確認される。なお、紅茶ポリフェノールは総ポリフェノール中の約88.1%を占めていた。
【0032】
【表1】
【0033】
<有効性評価>
有効性評価における主要評価項目として、試験品摂取期間中に発生した、急性上気道炎症状の発現率、インフルエンザ罹患(臨床診断あり)の発現率、急性上気道炎症状の発現回数、急性上気道炎症状発現1回当たりの罹患期間、試験品の摂取開始から急性上気道炎症の発現およびインフルエンザ罹患までの日数について評価した。また、副次評価項目として、WURSS-21調査票、唾液中SIgA濃度変化、NK細胞活性の変化およびインフルエンザ抗体価の変化について評価した。各々の検査方法を以下に示す。
【0034】
(1)自覚症状
試験品の摂取期間中、被験者は日誌に試験品の摂取、食事、飲酒、試験品以外の茶飲料の摂取、体温、自覚症状、医療機関の受診・治療に関する事項、およびWURSS-21調査票(参考文献8:Health and Quality of Life(2009),7(76))日本語版に毎日の状況を記録させた。WURSS-21調査票では、急性上気道炎症に共通する10項目の症状と、QOLに対する9項目の機能障害に関して、0(障害がない、又は全くない)から1点(非常に軽度)、3点(軽度)、5点(中程度)、7点(重度)までの8ポイントのリッカート尺度でスコアリングした。
【0035】
(2)唾液SIgA濃度
事前検査時および摂取終了時(12週間)に検査を行った。食後30分以上経過後、うがい後の安静時に流涎法により2~3mL程度の唾液を採取し、凍結保管をした。この唾液についてSalivary Secretory IgA indirect enzyme immunoassay kit(Salimetrics, LLC.)を用い、競合ELISA法により唾液中のSIgA濃度を定量した。
【0036】
(3)NK細胞活性
事前検査時および摂取終了時(12週間)に検査を行った。被験者の末梢血から比重遠心分離法により回収したリンパ球を効果細胞(エフェクター細胞)とし、51Cr標識したK562細胞をNK細胞感受性細胞(標識細胞)として共培養した。リンパ球の細胞傷害作用により遊離した51Crの放射性活性を測定し、NK細胞活性(%)を以下の計算式に基づき算出した。NK細胞活性(%)=(細胞遊離値cpm-自然遊離値cpm)/(最大遊離値cpm-自然遊離値cpm)×100とした。Effecter cell/Target cell(E/T比)は10:1および20:1とした場合の2条件でNK細胞活性を求めた。
【0037】
(4)インフルエンザウイルス抗体価
事前検査時および摂取終了時(12週間)に検査を行った。2019/2020シーズンのインフルエンザHAワクチン製造株をウイルス抗原(A/Brisbane/02/2018(H1N1)pdm09、A/Kansas/14/2017(H3N2)、B/Phuket/3073/2013(山形系統)、B/Maryland/15/2016(ビクトリア系統))として赤血球凝集阻止反応試験によりインフルエンザウイルス抗体価を測定した。
【0038】
<安全性評価項目>
安全性評価項目として、試験品の摂取開始から摂取終了後4週間後までの試験期間中に発生した有害事象および副作用の発現率について評価した。
【0039】
<その他評価項目>
事前検査時、摂取開始後6週間、終了時(12週間)および終了後4週間(16週目)に身長、体重を測定してBMIを算出した。また、生理学検査として収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍数を測定した。また、血液学検査として白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)、血小板数(PLT)、血液生化学検査として総蛋白質(TP)、アルブミン(ALB)、aspartate aminotransferase(AST)、alanine aminotransferase(ALT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、総ビリルビン(T-BIL)、アルカリホスファターゼ(ALP)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)、クレアチンキナーゼ(CPK)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)、尿酸(UA)、ナトリウム(Na)、クロール(Cl)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、総コレステロール(T-Cho)、low density lipoprotein-コレステロール(LDL-Cho)、high density lipoprotein-コレステロール(HDL-Cho)、中性脂肪(TG)、血糖(GLC)、ヘモグロビンAlc(HbA1c)および尿検査(蛋白定性、糖定性、ウロビリノーゲン、ビリルビン)を測定した。
【0040】
<統計解析>
サンプルサイズの設計に際しては、カテキン飲料による急性上気道炎症の抑制効果に関する過去の研究(参考文献9:Nutrients(2019),12(1);4)、NK活性と感冒頻度の関係(参考文献10:Environmental Health and Preventive Medicine(2000),4(4),p. 212-216)、紅茶の消費量とインフルエンザの発生率の内部調査結果(データ非開示)を参考にした。急性上気道炎症の発生率は被験群で27.0%、比較群で64.8%と仮定し、検出力0.8以上、両側確率0.05のαエラーを有する場合、両群の必要被験者数は32人であった。ドロップアウト率を10%と推定し、合計被験者数を72と設定した。
【0041】
全被験者から、試験品を摂取しなかった被験者を除いた集団をIntention to Treat(ITT)とした。ITTから中止・脱落した被験者を除いた集団をFull Analysis Set(FAS)とした。FASから、以下の解析除外基準に該当する被験者を除いた集団をPer Protocol Set(PPS)とした。被験者の背景および有効性評価はPPS、安全性評価はITTで解析を行った。
【0042】
<解析除外基準>
(1)試験品の摂取率が85%未満であった。
(2)日記とWURSS-21の入力率が85%未満であった。
(3)被験者が、治験責任医師の指示に繰り返し違反した。
(4)被験者が、試験結果の信頼性を著しく損なう行動をとった。
(5)試験後に除外基準を満たすことが明らかになった。
(6)除外すべき他の明らかな理由があった。
【0043】
二値変数の比較にはフィッシャーの正確確率検定を使用した。連続データの平均値の違いは、スチューデントのt検定を行った。順序変数に基づく群間比較は、Wilcoxon順位和検定を行った。試験品とインフルエンザおよび急性上気道炎症発生率との関連性について、多重ロジスティック回帰分析を用いて、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。共分散分析(ANCOVA)は、NK細胞活性と唾液SIgA濃度に関して被験者年齢による補正を行い、群間で比較するために行った。統計的有意性のしきい値は、P<0.05に設定した。統計処理にはSPSS Statistics(IBM社)、EZR(Easy R,自治医科大学、参考文献11:Bone marrow transplantation,48(3),p.452-458)バージョン1.40を使用した。
【0044】
《結果》
本試験で採取した連続データ中には定量上下限値を超えた値はなかったため、データの解析にはすべて実測値を用いた。
<被験者背景の特徴>
被験者の処置の流れを図1に示した。書面によるインフォームドコンセントを提供した申請者(n=145)は、自己管理調査に回答し、事前検査を受けた。72名の被験者を選定し、各群36人ずつ2群に割付けた。試験に参加した全被験者が試験を完遂したことから、ITTとFASは72人であった。2人の被験者(各グループに1人)は試験品摂取開始時に急性上気道炎症を発症していたためFASから除外され、PPSは70人(被験群35人、比較群35人)であった。事前の調査・検査の結果から、PPSの2群の背景には統計学的に有意な差は認められなかった(表2)。
【0045】
【表2】
【0046】
<試験品摂取率>
本試験では、被験者は12週間、1日あたり任意のタイミングで3杯の試験品を摂取した。試験期間終了後、未開封の試験品の数が摂取の日誌記録と差異がないか確認した。PPSにおける試験品の摂取率は、摂取杯数では比較群で99.67±1.57%、被験群で99.94±0.14%であった。摂取日数では、比較群で99.97±0.20%、被験群で100.00±0.00%であった。群間で摂取率に統計学的な有意差はみられなかった。
【0047】
<急性上気道炎症およびインフルエンザ発現への影響>
試験品摂取期間中の急性上気道炎症およびインフルエンザ(臨床診断あり)についての発生データを表3に示した。インフルエンザの臨床診断は、37.8℃以上の発熱症状、または咳、喉の痛み、頭痛、筋肉痛のうちのいずれか2以上の症状が認められ、医師による診断結果に基づきインフルエンザの発症とした。急性上気道炎症については、試験期間中に発現した有害事象の中から急性上気道炎症に特徴的な症例を収集し、発生率、被験者あたりの発現回数、発現1回あたりの罹患日数を群間で比較した。PPS解析では、急性上気道炎症の発現率は群間で有意差はなく、比較群で37.1%(35人中13人)、被験群で17.1%(35人中6人)であり、被験者当たりの発現回数および1発現当たりの罹患日数においても有意差はなかったものの(オッズ比=0.35、95%信頼区間=0.12-1.07、P値=0.106)、本発明の免疫増強剤の摂取によって大幅に減少していることが確認された。
【0048】
試験品摂取開始後、インフルエンザワクチンを接種した被験者は7名(被験群5名、比較群2名)いた。ワクチン接種によってもたらされた獲得免疫および自然免疫強化の効果により、インフルエンザ症状が軽症化し、感染者は症状に気づかなかったか、一般的な風邪と判断して医師診察を受けなかった被験者がPPSに含まれる可能性が考えられた。そこで、層別解析としてワクチンを接種していない被験者のみを対象に急性上気道炎症への影響について検証を行った。インフルエンザワクチンの接種による影響を受けた7人の被験者を除外した層別解析では、急性上気道炎の発生率は、比較群(39.4%、33人中13人)に対して、被験群(10.0%、30人中3人)で有意に低くなっていることが確認された(オッズ比=0.17,95%信頼区間=0.04-0.68,p値=0.009)。さらに、被験者当たりの発現回数も比較群に比べ被験群の方が有意に少なかった(p=0.008)。このことから、インフルエンザワクチンを非接種の場合において、特に本発明の免疫増強剤が有効となることが確認された。
【0049】
【表3】
【0050】
<急性上気道炎症の発現に起因した症状の重症度および健康関連QOL機能障害への影響>
12週間の試験品摂取期間中、急性上気道炎症状の重症度レベルとQOL妨害レベルのスコアはWURSS-21調査票を用いて毎日記録された。ワクチンを接種しなかった被験者63人のうち42人が、少なくとも1回は10項目の症状のうち1以上の症状について1点以上の重症度スコアを報告した。これら42人の被験者(n数:比較群=22、被験群=20)を対象とした層別解析により、試験品摂取期間中の症状重症度レベルおよびQOL妨害度レベルの合計スコアについて2群間で比較した結果を表4に示した。
【0051】
【表4】
【0052】
結果より、症状重症度レベルについて被験群(紅茶)は比較群(麦茶)に比べ、症状10項目のうち5項目:「鼻水」(p=0.007)、「鼻詰まり」(p=0.040)、「声がれ」(p=0.033)、「鼻詰まりによる頭部および顔面の圧迫感、重さ(表中では“頭部圧迫感“)」(p=0.011)および「疲労感」(p=0.002)において有意にスコアが低く、「くしゃみ」症状(p=0.062)においては低くなる傾向が見られた。10症状すべての重症度の合計スコアに関する中央値と25~75%値の範囲は、被験群で13.5[3.5-44.8]、比較群で52[23-196.3]、ウィルコクソン順位和検定に基づく群間比較のp値は0.015であった。これら結果から試験品摂取期間中において、被験群は比較群よりも急性上気道炎症の発現に起因する症状が軽かったことが確認された。
【0053】
また、QOL妨害レベルについて被験群(紅茶)は比較群(麦茶)と比較して、9項目のうち4つのQOL項目「物事を明確に考えられる(表中では”嗜好“)」(p=0.025)、「熟睡する(表中では”睡眠“)」(p=0.024)、「楽に呼吸できる(表中では”呼吸“)」(p=0.011)および「家の中で仕事ができる(表中では”家事“)」(p=0.037)において有意に低いスコアであり、「他の人と交流ができる(表中では”外部交流“)」(p=0.089)および「自分の生活を楽しめる(表中では”生活の楽しみ“)」(p=0.078)の項目では低くなる傾向があった。9つの項目すべてのQOLへの妨害レベルの合計スコアに関する中央値と25~75%値の範囲は、被験群で1.5[0.0-3.0]、比較群で5.5[0.3-63.3]、p値=0.050で、有意に被験群でQOLへの妨害が少なくなることが示された。これらの結果より、本発明の免疫増強剤を継続的に摂取することで、急性上気道炎症の発症リスクが低減するだけでなく、症状が軽減され、身体および精神的なダメージを効果的に低減できることが確認された。
【0054】
<粘膜免疫系および全身免疫系指標値への影響>
PPS集団における、粘膜免疫系の指標として唾液分泌型IgA抗体濃度、全身免疫系の指標として血清NK細胞活性値(E/T比10:1)を測定した結果を表5に示す。被験群のみで、摂取終了時の唾液SIgA濃度の平均値は事前検査時よりも有意に増加したが(p=0.007)群間での変化量の比較では有意差はなかった(p=0.275)。一方、NK細胞活性(E/T比10:1)についても、被験群でのみ摂取終了時に有意な上昇が認められ(p=0.002)、増加量は比較群よりも有意に多いことが示された(p=0.031)。また、エフェクター(E)とターゲット(T)の比率が異なるNK細胞活性値(E/T比20:1)においても、前後値の群内比較および変化量の群間比較の結果は前述と同様の結果になった。これらの結果から、本発明の免疫増強剤の摂取は唾液中のSIgAの増加とNK細胞を活性化させることによって免疫を増強し、その結果として急性上気道炎症の発現を抑制する作用があることが確認された。
【0055】
【表5】
【0056】
免疫力は加齢により低下することが知られている(参考文献12:Transplant International(2009), 22(11), p. 1041-1050)。そこで、共分散分析(ANCOVA)で年齢を共変量にしてNK活性とSIgA変化量を群間比較した(図2の(A):NK細胞活性、(B):SIgA濃度)。その結果、NK活性では群間有意差(p=0.034)があり、両群の被験者年齢平均を46.9才に調整した場合、NK活性の調整済み変化量(95%信頼区間)は、比較群で+0.39(-1.07~+1.85)%、被験群で+2.62(+1.16~+4.08)%であった。一方、SIgA濃度は群間有意差はなかった(p=0.303)が、比較群に比べて被験群の方が唾液SIgA濃度の変化量が大きくなる傾向が見られ、両群の被験者年齢平均を46.9才に調整した場合、SIgA活性の調整済み変化量(95%信頼区間)は、比較群で+20.00(-8.31~+48.32)μg/mL、被験群で+40.81(+12.50~+69.13)μg/mLであった。
【0057】
そこで、事前検査時の唾液SIgA濃度の平均値(200.4μg/mL)を境界としてPPSを低SIgA被験者グループと高SIgA被験者グループに分けて解析を行った。表6に示した低SIgA(事前検査時の唾液SIgA濃度が200.4μg/mL未満)被験者グループの結果より、被験群において摂取期間後の唾液SIgA濃度が摂取前よりも有意に高くなり(p=0.003)、比較群よりも高値を示す傾向(p=0.067)が確認され、摂取前後の唾液SIgA濃度の変化量についても比較群に比べて被験群の方が大きくなる傾向(p=0.056)が見られた。また、NK細胞活性の有意な増加(p=0.009)が認められるとともに、急性上気道炎症発症リスクの有意な低下(p=0.041)および発現頻度の有意な減少(p=0.018)が見られた。一方で、事前検査時の唾液SIgA濃度が200.4μg/mL以上の被験者では被験品摂取による両免疫パラメータ変動影響は見られなかった。
【0058】
【表6】
【0059】
上記の結果から、本発明の免疫増強剤を継続的に摂取することにより、年齢の影響を受けずに血清NK細胞活性が有意に増加することが確認された。すなわち、老化による免疫機能低下の影響を受けず、本発明の免疫増強剤を継続的に摂取することにより、血清NK細胞活性は増加し、全身における自然免疫機能の強化につながったと考えられた。唾液SIgA濃度については、比較品摂取に比べて有意な増加は見られなかったが、摂取開始前に比べるとSIgA濃度が有意に増加した。特に、唾液SIgA濃度が低い被験者においては、本発明の免疫増強剤を継続的に摂取することにより、唾液SIgA濃度の増加によって比較群よりも唾液中のSIgA濃度が有意に高くなるだけでなく、NK細胞の活性化、急性上気道炎症の発症リスクおよび発現頻度が低減した。すなわち、唾液中のSIgA濃度が低く粘膜免疫力が弱まった人は、本発明の免疫増強剤を継続的に摂取すると、粘膜免疫力が回復するだけでなく自然免疫力も高まり、感染を阻止して外来抗原を排除する生理学的防衛力(免疫力)が強化されることが期待できる。
【0060】
<安全性評価>
有害事象は比較群および被験群の全ての症状について評価し、比較群で26名に61件、被験群で23名に53件の有害事象が認められたが、重度および重篤な有害事象は認められなかった。有害事象の発現率は比較群72.2%(36名中26名)、被験群63.9%(36名中23名)であり、統計学的有意差は認められなかった。試験品との因果関係が「おそらくあり」と判断された副作用として「嘔吐」が被験群で1例認められた。副作用の発現率は比較群0.0%(36名中0名)、被験群2.8%(36名中1名)で統計学的有意差は認められなかった(p=1.000)。身体および生理学的計測、血液生化学および尿検査項目において、摂取開始後6週間、12週間および摂取終了後4週間の値と事前検査時からの変化量は、いずれも群間で統計学的な有意差は認められなかった。

図1
図2