(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091645
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】摺動部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20220614BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20220614BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20220614BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220614BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F16C33/12 Z
F16C33/12 A
F16C9/02
C25D5/48
C23C26/00 B
C23C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204629
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 祐磨
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】稲見 茂
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
4K024
4K044
【Fターム(参考)】
3J011AA10
3J011AA20
3J011BA02
3J011DA01
3J011DA02
3J011JA02
3J011MA02
3J011NA01
3J011QA03
3J011QA05
3J011SB05
3J011SB20
3J011SC01
3J033AA05
3J033AB01
3J033AB03
3J033AC01
3J033GA05
3J033GA07
4K024AA01
4K024AA07
4K024AA08
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4K024AB01
4K024AB19
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4K024CA04
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4K024DB10
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4K044BA10
4K044BA21
4K044BB01
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4K044BC01
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4K044CA07
4K044CA15
4K044CA18
4K044CA53
4K044CA67
(57)【要約】 (修正有)
【課題】摺動部材の軟質金属層の耐疲労性を維持しつつ、なじみ性を向上させる。
【解決手段】軟質金属の結晶が積層してなる金属軟質層を有する摺動部材であって、前記軟質金属層を厚さ方向へ5等分割して仮想分割領域を形成したとき、前記軟質金属層の表面を含む第1分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均が、他の第2~5分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均の2/3以下である、摺動部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質金属の結晶が積層してなる金属軟質層を有する摺動部材であって、
前記軟質金属層を厚さ方向へ5等分割して仮想分割領域を形成したとき、前記軟質金属層の表面を含む第1分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均が、他の第2~5分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均の2/3以下である、摺動部材。
【請求項2】
前記軟質金属はビスマス(Bi)、鉛(Pb)、インジウム(In)、スズ(Sn)、及びアンチモン(Sb)から選ばれる1種若しくは2種以上、又はそれらの合金である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記軟質金属はビスマス又はビスマス合金である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記軟質金属層の上に樹脂層が更に積層される、請求項1~3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項5】
軟質金属層を有する摺動部材の製造方法であって、
基材表面に軟質金属の結晶を積層して、前駆層を形成するステップと、
前記前駆層の表面を構成する前記結晶を変成してこれを微細化する結晶微細化ステップと、を含む摺動部材の製造方法であって、
前記微細化ステップでは、前記前駆層を厚さ方向へ5等分割して仮想分割領域を形成したとき、前記前駆層の表面を含む第1分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均を、他の第2~5分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均の2/3以下とする、摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記軟質金属はビスマス(Bi)、鉛(Pb)、インジウム(In)、スズ(Sn)、及びアンチモン(Sb)から選ばれる1種若しくは2種以上、又はそれらの合金である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記軟質金属はビスマス又はビスマス合金である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記軟質金属層の上に樹脂層を更に積層する、請求項5~7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記結晶微細化ステップは負圧吸引式ブラストによりなされる、請求項5~8のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材は一般的に基材層と表面層とを備え、表面層で被摺動部材を支持する。この表面層の全部又は一部が軟質な金属材料を用いてめっきで形成されることがある。
かかる摺動部材において、特許文献1には、軟質金属層を構成する材料として、結晶粒径が0.1μm~1μmの軟質材料の結晶粒を塊状に集合させたものが提案されている。
細かい結晶粒を有するめっき層は特許文献2にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2017/094094号公報
【特許文献2】特開2003-156045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のようにある程度細かい結晶粒を有するめっき層を軟質金属層とすると、その表面を摺動面としたとき、Hall-Petchの関係により、被膜強度が向上し、高い耐疲労性を備える。
ところで、近年の自動車用エンジンは、環境問題への意識の高まりや法規制により、ハイブリッドシステムやアイドリングストップシステム、ダウンサイジング化によるエンジンの軽量化など、低燃費なエンジンへと開発が進んでいる。ターボチャージャーを使用したエンジンのダウンサイジング化により、従来のエンジンと同等の動力性能を確保したままエンジンが小型化するため、軸径、メタル幅が縮小される。そのため、負荷荷重が従来に比べて増加するなど、自動車エンジン用軸受は従来に比べて、厳しい環境で使用される傾向があり、耐疲労性を維持しつつなじみ性を向上させることが求められる。
特許文献1に記載の軟質金属層を採用した場合、耐疲労性は確保されるが、結晶粒子の微細化にともない軟質金属層自体の硬度が大きくなってしまう。そのため、なじみ性が不十分になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するものであり、この発明の第1の局面は次のように規定される。
軟質金属の結晶が積層してなる金属軟質層を有する摺動部材であって、
前記軟質金属層を厚さ方向へ5等分割して仮想分割領域を形成したとき、前記軟質金属層の表面を含む第1分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均が、他の第2~5分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均の2/3以下である、摺動部材。
【0006】
このように規定される第1の局面の摺動部材の軟質金属層の表面部位を
図1(A)に模式的に示す。
図1(A)において、符号Sが表層側の第1分割領域を構成する比較的に微細な結晶粒子の層を示し、符号Lが第2分割領域以下を構成する比較的に大径な結晶粒子の層を示す。
図1(A)の左側図に示すように軟質金属層の表面に図示下向き矢印で示す荷重が掛けられたとき、その荷重は比較的に大径な結晶粒子の層Lの変形により吸収される。即ちなじみ性が確保される(
図1(A)右側図参照)。一方、軟式金属層の表面は比較的に微小な結晶粒子の層Sで構成されているため、大きな荷重がかけられてもクラックは生じ難い。即ち、高い耐疲労性を備える。
【0007】
図1(B)は軟質金属層の全体が比較的に微細な結晶粒子のみで構成されたときの模式図を示す。この例では、耐疲労性は確保できるものの、荷重がかけられたときに変形し難く、十分ななじみ性を得難い。
他方、
図1(C)は軟質金属層の全体が比較的に大径な結晶粒子のみで構成されたときの模式図を示す。この例では、荷重がかけられたときに大きく変形するのでなじみ性は確保できるが、その右側図に示すようにクラックが生じやすくなる。
【0008】
図1(A)に示すように、軟質金属層において比較的に微細な結晶粒子からなる表層において耐疲労性が担保され、軟質金属層において比較的大径な結晶粒子からなる深層においてなじみ性が担保される。
ここに、軟質金属層を厚さ方向に5等分割したとき、比較的に微細な結晶粒子からなる領域を表層側の第1層のみとし、残り4領域は比較的に大径な結晶粒子から構成されている。このように、比較的に大径な結晶粒子からなる領域に十分な厚さを確保することでなじみ性が確保できる。
【0009】
軟質金属層において表層側の第1分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均が深層側の第2~5分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均の2/3以下とされている。軟質金属層において表層側と深層側の結晶粒径の分布に、このような差を設けることにより、軟質金属層は耐疲労性となじみ性とをバランスよく備えることができる。
両者において結晶粒径の比の値が2/3を超えると、耐疲労性及び/又はなじみ性が低下するおそれがある。例えば、当該比の値が2/3を超えるものとなる一態様として、深層を構成する結晶粒子の結晶粒径の平均が小さくなると、軟質金属層において深層が変形しがたくなるので、なじみ性が低下する。
ここに、結晶粒径は軟質金属層の表面の垂直断面を切片法により画像処理して得られる。切片法は、観察画像上に形成した円周を通過する結晶粒の数で、円周の長さを除算することにより、結晶粒の結晶粒径を計測した。本件発明では、直径2μmの円周長さより算出した。
【0010】
この発明の第2の局面は次のように規定される、即ち、第1の局面に規定の摺動部材において、前記軟質金属はビスマス(Bi)、鉛(Pb)、インジウム(In)、スズ(Sn)、及びアンチモン(Sb)から選ばれる1種若しくは2種以上、又はそれらの合金である。
第2の局面で列挙した軟質金属が、工業的にみて、摺動部材の軟質金属層を構成するものとして好適である。
中でも、軟質金属としてビスマス若しくはその合金を選択することが好ましい(第3の局面)。環境負荷を軽減するためである。
【0011】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、第1~3の局面に規定の摺動部材において、前記軟質金属層の上に樹脂層が更に積層される。
このように規定される第3の局面の摺動部材によれば、軟質金属層の表面に当該樹脂層を積層した場合においても、軟質金属層に十分な耐疲労性を確保しつつこれに好適ななじみ性が確保できる。
【0012】
この発明の第5の局面は次のように規定される。
軟質金属層を有する摺動部材の製造方法であって、
基材表面に軟質金属の結晶を積層して、前駆層を形成するステップと、
前記前駆層の表面を構成する前記結晶を変成してこれを微細化する結晶微細化ステップと、を含む摺動部材の製造方法であって、
前記微細化ステップでは、前記前駆層を厚さ方向へ5等分割して仮想分割領域を形成したとき、前記前駆層の表面を含む第1分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均を、他の第2~5分割領域に存在する結晶粒子の結晶粒径の平均の2/3以下とする、摺動部材の製造方法。
このように規定される第5の局面の摺動部材の製造方法により製造される摺動部材によれば、第1の局面に記載の摺動部材と同等の作用を奏する。
【0013】
この発明の第6局面は次のように規定される。即ち、
第5の局面に規定の摺動部材の製造方法において、前記軟質金属はビスマス(Bi)、鉛(Pb)、インジウム(In)、スズ(Sn)、及びアンチモン(Sb)から選ばれる1種若しくは2種以上、又はそれらの合金である。
このように規定される第6の局面に規定の製造方法では、軟質金属として工業的に好適な材料を選択したので、摺動部材を安定してかつ安価に製造可能となる。
軟質金属として、ビスマス又はその合金を選択することが更に好ましい(第7の局面)。
【0014】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、
第5~第7の局面に規定の摺動部材の製造方法において、前記軟質金属層の上に樹脂層を更に積層する。
樹脂層を構成する樹脂を選択することにより、耐焼付き性等の特性の向上を図ることができる。
【0015】
この発明の第9の局面は次のように規定される、即ち、
第4~第8の局面に規定の摺動部材の製造方法であって、前記結晶微細化ステップは負圧吸収式ブラストによりなされる。
結晶微細化ステップに負圧吸収式ブラストを採用することにより、工程が簡素化されまた粗大結晶のサイズの調整が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1はこの発明の摺動部材の軟質金属層の構造の作用を模式的に示す模式図である。
【
図2】
図2はこの発明の実施形態の摺動部材の構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は結晶粒径の平均の求め方を説明するための軟質金属層の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明を実施の形態に基づき更に詳細に説明する。
摺動部材を構成する基材層は一般的に金属材料から構成される。
摺動部材の一例の軸受では、基材層は、鋼材からなる裏金層へ銅基の軸受合金層を積層した構成である。軸受合金層の上にAg,Ni等からなる中間層を形成することもある。
基材層の上に軟質金属層が積層される。一般的に、この軟質金属層はめっきにより形成されるが、めっきに限定されるものではない。
軟質金属としてインジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)及びアンチモン(Sb)から選ばれる1種若しくは2種以上、又はそれらの合金を用いることができる。中でもビスマス又はその合金を採用することが好ましい。
めっきの方法としては湿式の電解めっきを用いることができるが、他のめっき法の採用を妨げるものではない。
【0018】
これらの軟質金属で基材層にめっきを施すと、形成されためっき層を構成する結晶は所定の範囲の大きさに収まる。
この発明では、めっきにより形成された層であって、後述する結晶微細化処理がなされていない層を前駆層と呼ぶ。
かかる前駆層を構成する軟質金属の結晶の結晶粒径は0.3~1.5μmとすることができる。
この結晶粒径は、前駆層の垂直断面を画像処理し、切片法により得たものである。
めっき条件を調節することにより、前駆層を構成する結晶の構造が柱状となる。この柱状結晶の長軸は前駆層の表面に対して垂直方向となる。
【0019】
かかる前駆層の表面へ負圧吸収式ブラストを施したところ、前駆層の表面側の層を構成する結晶粒子が選択的に微細化された(結晶微細化処理)。以下、この明細書において、このように微細化された結晶粒子を微細粒子と呼ぶことがある。
微細結晶の粒径は前駆層を構成する結晶の粒径より微小である。
【0020】
微細結晶は、めっきにより形成された前駆層の表面へ負圧吸収式ブラストを施すことにより得られた。
前駆層へ一般的なブラストを施すと、前駆層の結晶は全体的に微細化される。
負圧吸収式ブラストに用いるショット材、ショット圧は、前駆層の材質に応じて任意に選択できる。
【0021】
例えば、ショット材としてはアルミナ、ガラスビーズその他の汎用的なショット材を採用でき、その大きさも汎用的なものでよい。
選択された前駆層の材料やショット材の材質、大きさに応じて、ショット圧は適宜調整される。
【0022】
上記においては、めっきにより、全体がほぼ均質な大きさの結晶粒子で構成された軟質金属層(前駆層)を得た後、負圧吸収式ブラスト処理を実行してその表面側の層を構成する結晶粒子を選択的に微細化した。
その他、めっきの条件を多段的に変化させることで軟質金属層に結晶粒子の大きさが異なる層を形成できる。例えば、第5分割領域~第2分割領域までは第1の条件でめっきを施し、比較的に大径な結晶粒子からなる領域(第2~5分割領域)を形成し、その後、同じめっき材料を用いつつめっき条件を調整して、当該領域の上へ比較的に微細な結晶粒子からなる他の領域(第1分割領域)を形成する。かかる手法を用いれば、表面側の層において耐疲労性を担保する比較的に微細な結晶粒子からなる領域(第1分割領域)とそれより深い位置においてなじみ性を担保する比較的に大径な結晶粒子からなる領域(第2~5領域)との厚さを任意に制御できる。
軟質金属層において、その厚さ方向に、結晶粒子の大きさの異なる3つ以上の領域を形成することも可能である。
【実施例0023】
以下、この発明の実施例について説明する。
実施例の摺動部材1は、例えば
図2に示す断面構造とした。より具体的には、鋼裏金層3の上に銅系の軸受合金層4をライニングしてバイメタルを製造し、このバイメタルを半円筒状又は円筒状に成形した。その後、軸受合金層4の表面をボーリング加工して表面仕上げをした。これにより基材層2(厚さ:1.5mm)が形成された。次に、半円筒状又は円筒状の成形物の表面を洗浄した(電解脱脂+酸洗浄)。
このようにして得られた基材層2の上面へ湿式めっきを施して、めっき層(約15μm)を積層させた。
【0024】
本実施例でのめっき層を形成したときのめっきの条件は次の通りである。
<実施例1及び比較例1、2のめっき条件>
ビスマスめっきに用いるめっき液として、一般的なもの(酸化ビスマス:10~70g/l、メタンスルホン酸:30~150ml/、添加剤:20~60ml/l)を選択した。めっき条件は、電流密度:1~6A/dm2、めっき浴温:20~40℃であった。
<比較例3のめっき条件>
比較例3はビスマス-銅合金メッキであり、めっき液として、酸化ビスマス:20~40g/l、メタンスルホン酸:30~70ml/、添加剤:20~60ml/l、0.5~5g/lの塩基性炭酸を用い、電流密度:3~4A/dm2、めっき浴温:20~40℃とした。
これらめっき条件は固定されるものではなく、めっきのオペレータの経験に基づき適宜選択されることは当業者であれば理解できよう。
【0025】
このようにして得られためっき層を周知の方法で洗浄し、実施例1では負圧吸収式ブラストを実行した。
負圧吸引式ブラストの条件は次の通りであった。
円筒状の試料に対し、ブロア周波数、サークルフィーダ周波数を制御し、差圧を-0,05~-0.02MPaとした。ブラスト粉は褐色溶融アルミナ#1000を用い、試料の内面(軟質金属層の表面)に対して負圧吸引式ブラストを実行した。負圧吸引式ブラストでは筒状の試料内を旋回しながらブラスト粉がめっき層(前駆層)の表面に衝突する。換言すれば、ブラスト粉は前駆層の表面に対して垂直方向からではなく、角度をもって衝突する。その結果、ブラスト粉のエネルギーは前駆層において表層側へ集中され、表層側にある結晶粒子のみを微細化し、前駆層においてその表面から離れた深い層にはその結晶微細化作用は及ばない。
【0026】
比較例2では、同様にして得られためっき層に対して汎用的なショットブラスト処理を実行した。
ショットブラスト処理の条件は次の通りであった。
半割筒状の試料に対し、噴出圧:0.15MPa、ブラスト粉:褐色溶融アルミナ#800。
かかるショットブラストではめっき層(前駆層)の表面に対して垂直にブラスト粉が衝突する。その結果、前駆層を構成する全結晶粒子が微細化される。即ち、表層側の結晶粒子のみではなくその下側にある深層に至るまで全体的に結晶が微細化された。
【0027】
得られた各試料の特性を表1に示す。
【表1】
表1において各分割領域の結晶粒子の結晶粒径の平均は次のようにして得た。
試料を軸方向に切断して得られた切断面を観察する。観察方法は特に限定されないが、例えばSIM(走査イオン顕微鏡)、SEM(走査電子顕微鏡)、EBSD(後方散乱電子回折)を利用できる。視野のサイズは軟質金属材料層の膜厚全体が入れば特に限定されない。
【0028】
観察した断面において、
図3に示すとおり、軟質金属材料層の膜厚方向に均等に5点とり、各点の中心から半径1μmの円を描き、この円が横切った結晶粒の数nとする。
ここに、結晶粒径DはD=6.28/n (μm)
かかる処理作業を少なくとも5列は測定し、結晶粒径の平均D1~D5(結晶粒径の平均D1は結晶粒径D1-1,D1-2,D1-3…の平均を指す)を算出する。ここでD1は最も表面側に存在する第1分割領域に存在する結晶粒径の平均を表し、D2~D5は第2~第5分割領域に存在する結晶粒径の平均である。
【0029】
表1において、なじみ性試験の結果は次のようにして評価した。
実施例及び比較例の摺動部材を回転軸に摺接させ、摺接部分へ供給する潤滑油に異物を順次加えたとき、焼き付きが生じた時間を観察する。40分以上たっても焼き付きが生じないときクリアとした。
なじみ試験の試験条件は表2に示す通りである。
【表2】
【0030】
表1において、耐疲労性試験の結果は次のようにして評価した。
回転軸が嵌入された筒状の摺動部材(軸受)へ半径方向から繰り返し荷重をかけた後、試料である摺動部材の軟質金属層の表面を観察する。表面において、クラックした部位が疲労部分となる。
摺動部材の軟質金属層の表面を撮影して得られた画像処理し、表面全体に対するクラックした部位の面積割合を計算する。得られた面積割合を疲労面積率として、その疲労面積割合が20%以下の場合をクリアとした。
【0031】
【0032】
表1の結果から、結晶粒径の平均の比の値A/Bが57%である実施例1のみにおいて、なじみ性試験及び耐疲労試験がクリアとなったことがわかる。
この結果から、結晶粒径の平均の比の値は2/3(=66%)以下とすることが好ましいと考えられる。
【0033】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本発明の摺動部材を用いた内燃機関等の軸受機構使用装置は、優れた摺動特性を発揮する。