(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091648
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】壁面吸着自走装置のためのウインチシステム
(51)【国際特許分類】
B66D 1/40 20060101AFI20220614BHJP
B66D 1/46 20060101ALI20220614BHJP
B66D 1/50 20060101ALI20220614BHJP
B62D 57/02 20060101ALI20220614BHJP
A47L 11/38 20060101ALI20220614BHJP
A47L 1/02 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B66D1/40 A
B66D1/46 E
B66D1/50 A
B62D57/02 L
B62D57/02 M
A47L11/38
A47L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204632
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】710006367
【氏名又は名称】ウラカミ合同会社
(72)【発明者】
【氏名】浦上 不可止
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ウインチシステムが壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与するだけではなく、壁面吸着自走装置の上昇方向への直進性を阻害しないこと。
【解決手段】2本のワイヤロープ32,42の各々のワイヤロープの張力を検出するための2個の荷重センサー34,44と、2本のワイヤロープ32,42の各々のワイヤロープと重力線とがなす角度を検出するための2個の角度センサー37,47が具備されており、2個の荷重センサー34,44と2個の角度センサー37,47から得られたデータを基にしかつ2本のワイヤロープ32,42の各張力の水平方向の分力を同一の値とする条件下で小型のコンピュータにより演算を行い、2個のワイヤロープ牽引機の各々の張力が自動制御されることにより、壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧または磁石などの作用により壁面へ吸着し且つその壁面に沿って自走可能ないわゆる壁面吸着自走装置に装備された落下防止用のウインチシステムにおいて、
該ウインチシステムは一対のウインチユニットから構成されており、
各々のウインチユニットは、ワイヤロープと、該ワイヤロープを引っ張るワイヤロープ牽引機から構成されており、
該ワイヤロープの一方の端部は壁面の上部もしくは地上に配置された該ワイヤロープ牽引機に装着されており、他方の端部は該壁面吸着自走装置に連結されており、
あるいは、該ワイヤロープの一方の端部は該壁面吸着自走装置に具備された該ワイヤロープ牽引機に装着されており、他方の端部は壁面の上部に固定されており、
各々のウインチユニットは、該ワイヤロープの張力を計測する荷重センサーと、該ワイヤロープと重力線とが成す角度を計測する角度センサーと、2個の荷重センサーと2個の角度センサーが計測したデータを演算して各々のワイヤロープの張力を自動制御する演算システムを具備しており、
該壁面吸着自走装置に作用する2本のワイヤロープの張力のそれぞれを、重力線方向の分力と水平方向の分力に分解して、分力の方向が180度異なる2個の水平方向の分力の力の値がほぼ同一になるように、該演算システムにより各々のワイヤロープの張力を自動制御している、
ことを特徴とする、壁面吸着自走装置のためのウインチシステム。
【請求項2】
壁面に向かって左側にあるウインチユニット1において、ウインチユニット1のワイヤロープ1の該壁面吸着自走装置に作用する張力をF1とし、F1の水平方向の分力をf11とし、F1の垂直方向の分力をf12とし、ワイヤロープ1と重力線とが成す角度をθ1とし、ワイヤロープ1の最大張力すなわちワイヤロープ牽引機1の定格張力をF1maxとし、該壁面吸着自走装置の自重をWとし;
壁面に向かって右側にあるウインチユニット2において、ウインチユニット2のワイヤロープ2の該壁面吸着自走装置に作用する張力をF2とし、F2の水平方向の分力をf21とし、F2の垂直方向の分力をf22とし、ワイヤロープ1と重力線とが成す角度をθ2とし、ワイヤロープ2の最大張力すなわちワイヤロープ牽引機2の定格張力をF2maxとし、該壁面吸着自走装置の自重をWとし;
f11=f21とすれば;
下記式1乃至式5が成立する、ことを特徴とする、請求項1に記載の壁面吸着自走装置のためのウインチシステム。
(数1)
(式1)
F1*sinθ1=F2*sinθ2
(式2)
F1≦F1max
(式3)
F2≦F2max
(式4)
f12=F1*cosθ1
(式5)
f22=F2*cosθ2
【請求項3】
θ1≧θ2の時、f22のプリセット値としてf22≦F2max*cosθ2の任意の値をf22のプリセット値として設定し、
θ1<θ2の時、f12のプリセット値としてf12≦F1max*cosθ1の任意の値をf12のプリセット値として設定する、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項2に記載の壁面吸着自走装置のためのウインチシステム。
【請求項4】
f12の作用点とf22の作用点とを近接して配置した、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3に記載の壁面吸着自走装置のためのウインチシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面吸着自走装置のためのウインチシステムに関する。
従来、負圧または磁石などの作用により壁面へ吸着し且つその壁面に沿って自走可能ないわゆる壁面吸着自走装置には、停電などの事象により壁面から離脱して地上へ落下することを防止するために、落下防止用のウインチシステムが装備されている。
該ウインチシステムは、一般的に2式のウインチユニットから構成されている。
各々のウインチユニットは、ワイヤロープと、該ワイヤロープを引っ張るワイヤロープ牽引機から構成されている。
該ワイヤロープの一方の端部は該ワイヤロープ牽引機に装着されており、他方の端部は該壁面吸着自走装置に連結されている。
なお、該ワイヤロープ牽引機が地上に配置される場合には、該ワイヤロープの他方の端部は、壁面の上部に配置された滑車を経由して該壁面吸着自走装置に連結されている。
なお、該ワイヤロープ牽引機の種類について、一般的に、該ワイヤロープを巻き取って収納するウインチドラムを具備したドラム式ワイヤロープ牽引機と、該ワイヤロープを牽引するだけのエンドレス式ワイヤロープ牽引機の2種類がある。
2式のウインチユニットから構成されている本発明のウインチシステムにおいては、2本のワイヤロープの各々のワイヤロープの張力を検出するための2個の荷重センサーと、2本のワイヤロープの各々のワイヤロープと重力線とがなす角度を検出するための2個の角度センサーが具備されている。
本発明の壁面吸着自走装置のためのウインチシステムの第1の目的は、壁面吸着自走装置が停電などの事象により壁面から離脱して地上へ落下することを防止するためである。
本発明の壁面吸着自走装置のためのウインチシステムの第2の目的は、壁面吸着自走装置が壁面に沿って重力線と平行な方向かつ上昇方向へ自走するいわゆる上昇方向自走能力を補完するために、壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与するためである。
本発明の壁面吸着自走装置のためのウインチシステムの第2の目的を達成するためには、該ウインチシステムが壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与するだけではなく、該ウインチシステムが壁面吸着自走装置の上昇方向への直進性を阻害してはならない。
すなわち、本発明の壁面吸着自走装置のためのウインチシステムの第2の目的を達成するために、2個の荷重センサーと2個の角度センサーから得られたデータを基にしてPLC(プログラマブルコントローラ)などの小型のコンピュータにより演算を行い、2個のワイヤロープ牽引機の各々の張力を自動制御するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の壁面吸着自走装置のためのウインチシステムは、オートテンション機能を有するウィンチ装置の技術分野に属する。
オートテンション機能を有するウィンチ装置としては、特許公開平5-8768号に記載の装置を一例として挙げることができる。
特許公開平5-8768号に記載のオートテンション機能を有するウィンチ装置は、ビルディング壁面等の構造物の壁面を清掃したり、劣化した塗料等を剥離する目的で使用される、負圧を利用して壁面に吸着し且つ壁面に沿って自走することができる「壁面剥離ロボット」の機能を補完するために提供されるものである。
特許公開平5-8768号においては、該壁面剥離ロボットにおけるオートテンション機能を有するウィンチ装置の適用例として、下記が記載されている。
「該壁面剥離ロボットは一対のオートテンションウィンチ50,50によって吊り下げられている。
該一対のオートテンションウィンチ50,50は、そのテンションをロープ51にたるみが生じない程度で、ロボット本体1の走行に支障を生じない程度に設定しておくと、該オートテンションウィンチ50,50のテンションがロボット本体1の自重の全部または一部を支承する作用を呈する。
このオートテンションウィンチ50,50は所定のテンション(実施例としては、ロボット本体1の重量を290Kgfとして15~20Kgf)を有して常時(通電時)ワイヤ51を巻上げるようになしてある。そして、両オートテンションウィンチ50,50は、適宜の間隔を有して設置され、両オートテンションウィンチ50,50間にロボット本体1を吊下げるもので、
そのワイヤ51,51を屋上側に配した滑車52,52で案内して折返しその先端を、本体部10に固定した吊下げ金具3,3に連結している。
上記オートテンションウィンチ50,50は、ロボット本体1を吊下げるも、このオートテンションウィンチ50,50によってロボット本体1を壁面Wに添って積極的に移動させるものではなく、ロボット本体1の自重の一部または全部を支承して、後述吸着リング3の吸着力の負担を低減するのが主目的であるため、そのテンションは上記ワイヤ51,51がたるまない程度で、かつ、ロボット本体1を積極的に引上げない程度に設定される。
また、上記オートテンションウィンチ50,50の他の目的は停電等の万が一の場合に、ロボット本体1の壁面Wへの吸着力不足による該ロボット本体1の落下を防止することにあり、本実施例では、上記に示したごとくテンションはロボット本体1の自重を支えるには小さい値に設定し、主にこの目的のために使用している。」
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許公開平5-8768号公報においては、
「上記オートテンションウィンチ50,50は、ロボット本体1を吊下げるも、このオートテンションウィンチ50,50によってロボット本体1を壁面Wに添って積極的に移動させるものではなく、ロボット本体1の自重の一部または全部を支承して、後述吸着リング3の吸着力の負担を低減するのが主目的であるため、そのテンションは上記ワイヤ51,51がたるまない程度で、かつ、ロボット本体1を積極的に引上げない程度に設定される。」と記載されているが、
本発明のウインチシステムにおいては、2本のワイヤロープの各々のワイヤロープの張力を検出するための2個の荷重センサーと、2本のワイヤロープの各々のワイヤロープと重力線とがなす角度を検出するための2個の角度センサーが具備されており、本発明のウインチシステムにおける特許公開平5-8768号公報と異なる目的は、壁面吸着自走装置が壁面に沿って重力線と平行な方向かつ上昇方向へ自走するいわゆる上昇方向自走能力を補完するために、壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与するためである。
本発明のウインチシステムの上記の目的を達成するためには、該ウインチシステムが壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与するだけではなく、該ウインチシステムが壁面吸着自走装置の上昇方向への直進性を阻害してはならない。
すなわち、本発明のウインチシステムの該目的を達成するために、2個の荷重センサーと2個の角度センサーから得られたデータを基にしてPLC(プログラマブルコントローラ)などの小型のコンピュータにより演算を行い、2個のワイヤロープ牽引機の各々の張力を自動制御するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記の課題を達成するための手段を説明する。
上記の課題を達成するために、本発明によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載されているように、
負圧または磁石などの作用により壁面へ吸着し且つその壁面に沿って自走可能ないわゆる壁面吸着自走装置に装備された落下防止用のウインチシステムにおいて、
該ウインチシステムは一対のウインチユニットから構成されており、
各々のウインチユニットは、ワイヤロープと、該ワイヤロープを引っ張るワイヤロープ牽引機から構成されており、
該ワイヤロープの一方の端部は壁面の上部もしくは地上に配置された該ワイヤロープ牽引機に装着されており、他方の端部は該壁面吸着自走装置に連結されており、
あるいは、該ワイヤロープの一方の端部は該壁面吸着自走装置に具備された該ワイヤロープ牽引機に装着されており、他方の端部は壁面の上部に固定されており、
各々のウインチユニットは、該ワイヤロープの張力を計測する荷重センサーと、該ワイヤロープと重力線とが成す角度を計測する角度センサーと、2個の荷重センサーと2個の角度センサーが計測したデータを演算して各々のワイヤロープの張力を自動制御する演算システムを具備しており、
該壁面吸着自走装置に作用する2本のワイヤロープの張力のそれぞれを、重力線方向の分力と水平方向の分力に分解して、分力の方向が180度異なる2個の水平方向の分力の力の値がほぼ同一になるように、該演算システムにより各々のワイヤロープの張力を自動制御している、
ことを特徴とする、壁面吸着自走装置のためのウインチシステム、が提供される。
【0006】
更に、上記の課題を達成するための別の手段として、特許請求の範囲の請求項2に記載されているように、
壁面に向かって左側にあるウインチユニット1において、ウインチユニット1のワイヤロープ1の該壁面吸着自走装置に作用する張力をF1とし、F1の水平方向の分力をf11とし、F1の垂直方向の分力をf12とし、ワイヤロープ1と重力線とが成す角度をθ1とし、ワイヤロープ1の最大張力すなわちワイヤロープ牽引機1の定格張力をF1maxとし、該壁面吸着自走装置の自重をWとし;
壁面に向かって右側にあるウインチユニット2において、ウインチユニット2のワイヤロープ2の該壁面吸着自走装置に作用する張力をF2とし、F2の水平方向の分力をf21とし、F2の垂直方向の分力をf22とし、ワイヤロープ1と重力線とが成す角度をθ2とし、ワイヤロープ2の最大張力すなわちワイヤロープ牽引機2の定格張力をF2maxとし、該壁面吸着自走装置の自重をWとし;
f11=f21とすれば;
下記式1乃至式5が成立する、ことを特徴とする、請求項1に記載の壁面吸着自走装置のためのウインチシステム、が提供される。
(数1)
(式1)
F1*sinθ1=F2*sinθ2
(式2)
F1≦F1max
(式3)
F2≦F2max
(式4)
f12=F1*cosθ1
(式5)
f22=F2*cosθ2
【0007】
更に、上記の課題を達成するための別の手段として、特許請求の範囲の請求項3に記載されているように、
θ1≧θ2の時、f22のプリセット値としてf22≦F2max*cosθ2の任意の値をf22のプリセット値として設定し、
θ1<θ2の時、f12のプリセット値としてf12≦F1max*cosθ1の任意の値をf12のプリセット値として設定する、ことを特徴とする、請求項1乃至請求項2に記載の壁面吸着自走装置のためのウインチシステム、が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は下記の効果をもたらすものである。
本発明のウインチシステムにおいては、壁面吸着自走装置の直進性が阻害されることなく、当該壁面吸着自走装置の上昇方向への自走する能力が当該ウインチシステムにより補完されるために、当該壁面吸着自走装置の上昇方向への自走能力が増大され、よって当該壁面吸着自走装置に搭載される作業装置の質量を増加させることが可能となり、作業能力が増大される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に従って構成された装置の好適実施例について、添付図を参照して説明する。
【実施例0010】
以下、本発明に従って構成された装置の第1の好適実施例について、添付図を参照して説明する。
図1乃至
図4を参照して説明すると、
図示の装置は、台車フレーム11と、台車フレーム11の4隅に配置された4個の車輪駆動モータ13と、車輪駆動モータ13の各々の出力軸に装着された車輪12と、吸盤または磁石などの壁面1へ吸着する手段(図示せず)から構成された壁面吸着自走装置10と;
ワイヤロープ巻取ドラムを備えたドラム式ワイヤロープ牽引機31と、ワイヤロープ牽引機31に巻き取られるワイヤロープ32から構成され、壁面1に向かって左側の地上に配置されたウインチユニット1と;壁面1に向かって左側の上部壁面に配置された滑車38と;台車フレーム11の左側の上部に配置されたシーブ35と;シーブ35の軸に揺動自在に装着されたワイヤロープ案内揺動アーム36と;回転軸がシーブ35の軸に装着され、ハウジングがワイヤロープ案内揺動アーム36に装着され、ワイヤロープ案内揺動アーム36の揺動角度を計測する角度センサー37と;台車フレーム11の左側の下部に配置され、ワイヤロープ32の端部のフック33に連結された荷重センサー34と;
ワイヤロープ巻取ドラムを備えたドラム式ワイヤロープ牽引機41と、ワイヤロープ牽引機41に巻き取られるワイヤロープ42から構成され、壁面1に向かって右側の地上に配置されたウインチユニット2と;壁面1に向かって右側の上部壁面に配置された滑車48と;台車フレーム11の右側の上部に配置されたシーブ45と;シーブ45の軸に揺動自在に装着されたワイヤロープ案内揺動アーム46と;回転軸がシーブ45の軸に装着され、ハウジングがワイヤロープ案内揺動アーム46に装着され、ワイヤロープ案内揺動アーム46の揺動角度を計測する角度センサー47と;台車フレーム11の右側の下部に配置され、ワイヤロープ42の端部のフック43に連結された荷重センサー44;
から構成されている。
図1乃至
図4において、壁面吸着自走装置10は、その車輪12の回転軸が重心線2に直交した姿勢で壁面1に吸着しており、その吸着力については、壁面吸着自走装置10の自重Wを壁面上に保持可能な吸着力を具備しており、車輪駆動モータ13が駆動されることにより壁面吸着自走装置10は壁面に沿って重力線に平行な方向に上昇または下降することが出来る。
図1乃至
図4において、壁面1に向かって左側にあるウインチユニット1において、ワイヤロープ1の壁面吸着自走装置10に作用する張力をF1とし、F1の水平方向の分力をf11とし、F1の垂直方向の分力をf12とし、ワイヤロープ1と重力線とが成す角度をθ1とし、ワイヤロープ1の最大張力すなわちワイヤロープ牽引機1の定格張力をF1maxとし;
壁面1に向かって右側にあるウインチユニット2において、ワイヤロープ2の壁面吸着自走装置10に作用する張力をF2とし、F2の水平方向の分力をf21とし、F2の垂直方向の分力をf22とし、ワイヤロープ1と重力線とが成す角度をθ2とし、ワイヤロープ2の最大張力すなわちワイヤロープ牽引機2の定格張力をF2maxとし;
f11=f21とすれば;
下記の式1乃至式4が成立する。
(数2)
(式1)
f11=f21
(式2)
f11=F1*sinθ1
(式3)
f21=F2*sinθ2
(式2)(式3)を(式1)に代入すると、
(式4)
F1*sinθ1=F2*sinθ2
また、本発明のウインチシステムにおいては、下記の式1乃至式2に示す条件と、下記の式3乃至式4が成立する。
(数3)
(式1)
F1≦F1max
(式2)
F2≦F2max
(式3)
f12=F1*cosθ1
(式4)
f22=F2*cosθ2
また、本発明のウインチシステムにおいては、θ1≧θ2の時、f22のプリセット値としてf22≦F2max*cosθ2の任意の値がf22のプリセット値として設定され、
θ1<θ2の時、f12のプリセット値としてf12≦F1max*cosθ1の任意の値がf12のプリセット値として設定される。
【0011】
上述した装置の作用について説明する前に、
本発明のウインチシステムの目的とその達成手段について整理する。
すなわち、本発明のウインチシステムにおいては、2本のワイヤロープの各々のワイヤロープの張力を検出するための2個の荷重センサーと、2本のワイヤロープの各々のワイヤロープと重力線とがなす角度を検出するための2個の角度センサーが具備されており、本発明のウインチシステムにおいては、壁面吸着自走装置が壁面に沿って重力線と平行な方向かつ上昇方向へ自走するいわゆる上昇方向自走能力を補完するために、壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与する。
本発明のウインチシステムの上記の目的を達成するためには、該ウインチシステムが壁面吸着自走装置へ上昇方向への力を付与するだけではなく、該ウインチシステムが壁面吸着自走装置の上昇方向への直進性を阻害してはならない。
すなわち、該直進性を阻害させないために、壁面吸着自走装置へ作用する2本のワイヤロープの各張力の水平方向の分力は同一の値とし、すなわちf11=f21とすることにより、2本のワイヤロープの各張力の水平方向の分力が互いに打ち消しあって壁面吸着自走装置へ作用しないようにする。
本発明のウインチシステムにおいては、2個の荷重センサーと2個の角度センサーから得られたデータを基にしてPLC(プログラマブルコントローラ)などの小型のコンピュータにより演算を行い、2個のワイヤロープ牽引機の各々の張力が自動制御される。
【0012】
以下に、上述の、本発明に従って構成された装置の第1の好適実施例の装置の作用について説明する。
図4は、壁面吸着自走装置へ作用するワイヤロープ32の張力F1とその分力、およびワイヤロープ42の張力F2とその分力を図示している。
角度センサー37により計測されたアナログ値がA/D変換器によりデジタル値に変換された後に小型のコンピュータへ入力されて演算が行われ、よってワイヤロープ32の張力F1の目標デジタル値が算出され、一方、荷重センサー34により計測された実際のワイヤロープ32の張力のアナログ値がA/D変換器によりデジタル値に変換されたワイヤロープ32の実デジタル値が該コンピュータへ入力され、次に、該コンピュータにてワイヤロープ32の張力F1の目標デジタル値とワイヤロープ32の実デジタル値とが比較され、該実デジタル値が該目標デジタル値より小さい場合には、該コンピュータは、該実デジタル値と該目標デジタル値とが同一値になるまで、ワイヤロープ牽引機31にワイヤロープ32の巻取り動作を実行させ、該実デジタル値が該目標デジタル値より大きい場合には、該コンピュータは、該実デジタル値と該目標デジタル値とが同一値になるまで、ワイヤロープ牽引機31にワイヤロープ32の巻戻し動作を実行させる。
同様に、角度センサー47により計測されたアナログ値がA/D変換器によりデジタル値に変換された後に小型のコンピュータへ入力されて演算が行われ、よってワイヤロープ42の張力F2の目標デジタル値が算出され、一方、荷重センサー44により計測された実際のワイヤロープ42の張力のアナログ値がA/D変換器によりデジタル値に変換されたワイヤロープ42の実デジタル値が該コンピュータへ入力され、次に、該コンピュータにてワイヤロープ42の張力F2の目標デジタル値とワイヤロープ42の実デジタル値とが比較され、該実デジタル値が該目標デジタル値より小さい場合には、該コンピュータは、該実デジタル値と該目標デジタル値とが同一値になるまで、ワイヤロープ牽引機41にワイヤロープ42の巻取り動作を実行させ、該実デジタル値が該目標デジタル値より大きい場合には、該コンピュータは、該実デジタル値と該目標デジタル値とが同一値になるまで、ワイヤロープ牽引機41にワイヤロープ42の巻戻し動作を実行させる。
上述のように、本発明のウインチシステムにおいては、壁面吸着自走装置10に対して、上昇方向への力であるf12とf22が付与されるものである。
【0013】
なお、壁面吸着自走装置10の左側の上部に作用点があるf12の力の大きさと、壁面吸着自走装置10の右側の上部に作用点があるf22の力の大きさとを比較すると、それらの力の大きさに違いがあることに起因して壁面吸着自走装置10の直進性が阻害される可能性がある。
よって、
図5に図示する本発明に従って構成された装置の第2の好適実施例の装置においては、f12の作用点とf22の作用点とが近接するように、すなわち、シーブ35およびワイヤロープ案内揺動アーム36と、シーブ45およびワイヤロープ案内揺動アーム46とが近接するように、つまり、シーブ35とシーブ45を2個ずつ配置することによりf12の作用点とf22の作用点との距離Lが最小になるように配置されている。
【0014】
図6に図示する本発明に従って構成された装置の第3の好適実施例の装置においては、本発明に従って構成された装置の第1の好適実施例や本発明に従って構成された装置の第2の好適実施例とは異なって、エンドレス式ワイヤロープ牽引機(1)31Eとエンドレス式ワイヤロープ牽引機(2)41Eが、壁面吸着自走装置10の左側の部分と右側の部分にそれぞれ具備されている。
本発明の第3の好適実施例の装置においては、ワイヤロープ32の一方の端部は壁面1の上部39に固定され、他方の端部はエンドレス式ワイヤロープ牽引機(1)31Eに装着された後に下方に延びて垂れ下がっている。なお、壁面吸着自走装置10の左側下部に具備された荷重センサー34はフック33を介してエンドレス式ワイヤロープ牽引機(1)31Eの本体に連結されている。
また、ワイヤロープ42の一方の端部は壁面1の上部49に固定され、他方の端部はエンドレス式ワイヤロープ牽引機(2)41Eに装着された後に下方に延びて垂れ下がっている。なお、壁面吸着自走装置10の右側下部に具備された荷重センサー44はフック43を介してエンドレス式ワイヤロープ牽引機(2)41Eの本体に連結されている。
【0015】
本発明に従って構成された好適実施例の装置の効果を説明すると、
本発明のウインチシステムにおいては、壁面吸着自走装置の直進性が阻害されることなく、当該壁面吸着自走装置の上昇方向への自走する能力が当該ウインチシステムにより補完されるために、当該壁面吸着自走装置の上昇方向への自走能力が増大され、よって当該壁面吸着自走装置に搭載される作業装置の質量を増加させることが可能となり、作業能力が増大される、といった効果がある。
以上に本発明の装置の好適実施例について説明したが、本発明の装置は該好適実施例の他にも特許請求の範囲に従って種々実施例を考えることができる。
例えば、ワイヤロープと重力線とが成す角度を計測する角度センサーとして、ポテンショメーターの代わりに、レーザー光を使用した角度計測システムや、慣性センサーを使用した位置計測システムを使用することも可能である。