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特開2022-91665無線通信用中継アンテナシートおよびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091665
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】無線通信用中継アンテナシートおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/26 20060101AFI20220614BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20220614BHJP
   H04B 7/145 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01Q9/26
H01Q1/38
H04B7/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087138
(22)【出願日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020204499
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591186888
【氏名又は名称】株式会社トッパンインフォメディア
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】板倉 哲之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】槇田 知巳
(72)【発明者】
【氏名】久保 泰一
(72)【発明者】
【氏名】折井 一也
【テーマコード(参考)】
5J046
5K072
【Fターム(参考)】
5J046AB07
5J046PA04
5K072AA19
5K072GG01
(57)【要約】
【課題】通信障害となる障害物が存在しても、簡便な方法で、無電力で安定した無線通信を行うことができる無線通信用中継アンテナシートを提供すること。
【解決手段】シート状基材の一方の面に、導電線からなる導電性パターンが埋め込まれ、該導電性パターンは、第1のアンテナ部と、当該第1のアンテナ部と距離的に離れて設けられた第2のアンテナ部と、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部とを接続する伝送線部とを備えた無線通信用中継アンテナシート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材の一方の面に、導電線からなる導電性パターンが埋め込まれ、該導電性パターンは、第1のアンテナ部と、当該第1のアンテナ部と距離的に離れて設けられた第2のアンテナ部と、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部とを接続する伝送線部とを備えた無線通信用中継アンテナシート。
【請求項2】
前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部がいずれもメアンダ状に折れ曲がった導電線からなるアンテナエレメントを左右対称に設けたダイポールアンテナである請求項1の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項3】
前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部のいずれか一方の最外縁のアンテナエレメントが左右一本の導電線で繋がっており、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部と前記伝送線部とが、全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けられている請求項1又は2の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項4】
前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部の間に少なくとも1つの第3のアンテナ部をさらに備えた請求項1又は2の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項5】
前記第3のアンテナ部が、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部とは異なる偏波面に設けられる請求項4の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項6】
前記第3のアンテナ部がメアンダ状に折れ曲がった導電線からなるアンテナエレメントからなるダイポールアンテナである請求項4又は5の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項7】
前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部のいずれか一方の最外縁のアンテナエレメントが左右一本の導電線で繋がっており、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部と前記伝送線部と前記第3のアンテナ部が、全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けられている請求項4~6のいずれか1項に記載の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項8】
前記伝送線部が一定周期の波形の形状をなす2本の導電線が交差する形態で設けられていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項9】
前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面であって、前記導電性パターン上に保護層が設けられた請求項1~8のいずれか1項に記載の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項10】
前記保護層が、前記導電性パターンを視覚的に隠蔽する隠蔽層である請求項9の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項11】
前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面および前記シート状基材の導電性パターンが設けられていない他方の面の少なくともどちらか一方に第1の粘着層を設けた請求項1~8のいずれか1項に記載の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項12】
前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面および前記シート状基材の導電性パターンが設けられていない他方の面の少なくともどちらか一方に第1の粘着層を設けた請求項9又は10に記載の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項13】
前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面であって、前記保護層上に第2の粘着層が設けられた請求項12の無線通信用中継アンテナシート。
【請求項14】
建造物を構成する少なくとも2つの面を有する部材において、該部材の第1面に設置される第1のアンテナ部と、該第1面に近接する第2面に設置される第2のアンテナ部と、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部とを接続する伝送線部とを、前記第1の粘着層または前記第2の粘着層を介して前記部材に貼り付けた請求項1~13のいずれか1項に記載の無線通信用中継アンテナシートの使用。
【請求項15】
前記建造物を構成する前記部材が、建築物の建具である請求項14の無線通信用中継アンテナシートの使用。
【請求項16】
前記保護層が、前記導電性パターンを視覚的に隠蔽する前記部材と外観類似の化粧層である請求項14又は15の無線通信用中継アンテナシートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を通さない又は減衰退させる障害物があっても無電力で通信距離を伸ばすことができる無線通信用中継アンテナシートおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にパソコンやスマートフォンをインターネットに接続するときには、中継機となるモデムやルーターを介してインターネット回線に接続する。無線LANルーター(Wi-Fiルーター)を利用して別の場所にあるパソコンやスマホなどの機器をインターネットに無線接続する場合、親機となる無線LANルーターと子機となるパソコンなどとをケーブルで接続する必要がないため見栄えや使い勝手はよいが、例えば、家庭など室内で利用する場合は、扉や壁や天井などを構成する部材の材質によっては電波を通さない、または電波を減衰退させることがあり、通信が十分にできない場合がある。またRFIDタグとRFIDリーダとの間で比較的短い通信距離で無線通信を行うRFIDシステムにおいても、障害物が介在することで同様の通信障害が起きる場合がある。このような場合、中継装置(リピーター)や中継アンテナを設置することで通信距離の延長や、電波の届かない死角エリアへの通信を可能にすることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、室内の壁面の対向するそれぞれの面に設けた平面アンテナを壁板内に配設された高周波伝送用ケーブルで接続することで、部屋の外観を損なうことなく、各部屋で安定した無線通信を行うことができる屋内中継用平面アンテナが記載されている。また、特許文献2、3には、RFIDタグと、当該RFIDタグと無線通信を行うRFIDリーダとを含むRFIDシステムにおいて用いられるRFID用中継アンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-96607号公報
【特許文献2】特開2006-246372号公報
【特許文献3】特表2007-515848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、通信障害となる障害物が存在しても、簡便な方法で、無電力で安定した無線通信を行うことができる無線通信用中継アンテナシートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、一側面において、シート状基材の一方の面に、導電線からなる導電性パターンが埋め込まれ、該導電性パターンは、第1のアンテナ部と、当該第1のアンテナ部と距離的に離れて設けられた第2のアンテナ部と、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部とを接続する伝送線部とを備えた無線通信用中継アンテナシートである。
【0007】
一側面において、本発明は、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部がいずれもメアンダ状に折れ曲がった導電線からなるアンテナエレメントを左右対称に設けたダイポールアンテナであるとよい。
【0008】
一側面において、本発明では、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部のいずれか一方の最外縁のアンテナエレメントが左右一本の導電線で繋がっており、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部と前記伝送線部とが全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けることができる。
【0009】
一側面において、本発明では、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部の間に少なくとも1つの第3のアンテナ部をさらに備えることができる。
【0010】
一側面において、本発明では、前記第3のアンテナ部が、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部とは異なる偏波面に設けられてもよい。
【0011】
一側面において、本発明では、前記第3のアンテナ部がメアンダ状に折れ曲がった導電線からなるアンテナエレメントからなるダイポールアンテナであってもよい。
【0012】
一側面において、本発明では、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部のいずれか一方の最外縁のアンテナエレメントが左右一本の導電線で繋がっており、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部と前記伝送線部と前記第3のアンテナ部が、全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けられてもよい。
【0013】
一側面において、本発明では、前記伝送線部が一定周期の波形の形状をなす2本の導電線が交差する形態で設けることができる。
【0014】
一側面において、本発明では、前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面および前記シート状基材の導電性パターンが設けられていない他方の面の少なくともどちらか一方に第1の粘着層を設けることができる。
【0015】
一側面において、本発明では、前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面であって、前記導電性パターン上に保護層を設けることができる。
【0016】
一側面において、本発明では、前記保護層が、前記導電性パターンを視覚的に隠蔽する隠蔽層とすることができる。
【0017】
一側面において、本発明では、前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面の前記保護層上に更に第2の粘着層を設けることができる。
【0018】
本発明の1つの実施態様として、建造物を構成する少なくとも2つの面を有する部材において、該部材の第1面に設置される第1のアンテナ部と、該第1面に近接する第2面に設置される第2のアンテナ部と、前記第1のアンテナ部と前記第2のアンテナ部とを接続する伝送線部とを、前記第1の粘着層または前記第2の粘着層を介して前記部材に貼り付けた無線通信用中継アンテナシートである。
【0019】
本発明の1つの実施態様において、前記建造物を構成する前記部材が、建築物の建具であるとよい。
【0020】
本発明の1つの実施態様において、前記保護層が、前記導電性パターンを視覚的に隠蔽する前記部材と外観類似の化粧層であるとよい。
【発明の効果】
【0021】
一側面において、本発明は、通信障害となる障害物が存在しても、簡便な方法で、無電力で安定した無線通信を行うことができる。具体的には、建造物を構成する部材において、例えば、扉や壁、窓などの建築物の建具に、粘着層を介して容易に貼り付けることができ、通信距離の延長や、電波の届かない死角エリアへの通信を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は、本発明の無線通信用中継アンテナシートの一例を模式的に示す平面図、(b)はその断面図である。
図2】(a)は、本発明の無線通信用中継アンテナシートの別の一例を模式的に示す平面図、(b)はその断面図である。
図2-2】(a)及び(b)は、本発明の無線通信用中継アンテナシートにおいて、導電性パターンがシート状基材の面に埋め込まれた状態の一例を示す。
図3】本発明の無線通信用中継アンテナシートの更に別の一例を模式的に示す平面図である。
図4】(a)は本発明の無線通信用中継アンテナシートに保護層を設けた一例を模式的に示す平面図、(b)はその断面図である。
図5】本発明の無線通信用中継アンテナシートに第2の粘着層を設けた一例を模式的に示す断面図である。
図6】(a)は、本発明の無線通信用中継アンテナシートの貼り付け態様の一例を示す模式図である。また、別の図(b)は、貼り付け態様を上面から見た図である。
図7】本発明の無線通信用中継アンテナシートの貼り付け態様の別の一例を示す模式図である。
図8】本発明の無線通信用中継アンテナシートの更に別の一例を示す平面図である。
図9】本発明の無線通信用中継アンテナシートの更に別の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
図1(a)は本発明の無線通信用中継アンテナシートの一例を模式的に示す平面図である。図1(b)は本発明の無線通信用中継アンテナシートの一例を模式的に示す断面図である。
【0025】
図1(a)によると、シート状基材2の一方の面に、導電線からなる導電性パターン3が埋め込まれ、導電性パターン3は、第1のアンテナ部31と、第1のアンテナ部31と距離的に離れて設けられた第2のアンテナ部32と、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4とを備えた無線通信用中継アンテナシート1である。
【0026】
図1(b)では、シート状基材2の導電性パターン3が設けられていない他方の面に第1の粘着層51を設けた例を示している。
【0027】
本発明の1つの実施態様に用いるシート状基材は、所定の厚みを有し、単層又は複数層で構成され、紙、合成紙、熱可塑性樹脂シートなどを用いることができる。好ましくは、少なくともその一層が樹脂材料からなるものとすることができる。シート状基材の少なくとも一層を構成する樹脂材料には熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂等を用いることができ、これらを2種以上含有するものであってもよい。
【0029】
シート状基材を複数層で構成する場合の例としては、紙基材上に熱可塑性樹脂を塗工やラミネートしたものを挙げることができる。
【0030】
熱可塑性樹脂シートで構成する場合、透明な熱可塑性樹脂シートからなるものであると、全体として透明な無線通信用中継アンテナシートを好適に作製することができる。全体として透明な無線通信用中継アンテナシートは、貼り付け対象となる建築物等の被着体の意匠性を損なうことなく貼着可能となる。
【0031】
シート状基材には、無機微細粉末あるいは有機フィラー、分散剤、酸化防止剤、相溶化剤、紫外線安定剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤等を適宜添加することができる。
【0032】
シート状基材の厚みは、好ましくは0.030mm~1.000mm、さらに好ましくは0.050mm~0.500mmである。
【0033】
上述の様にシート状基材は単層又は複数層(即ち、異なる材料の層の組み合わせ)で構成されてもよいが、シート状基材全体としては、可撓性又は可塑性を有することが好ましい。この理由として、後述する図6~7に示すように、折り曲げて使用する態様に適用することができるからである。
【0034】
本発明の1つの実施態様では、シート状基材の一方の面に、導電線からなる導電性パターンが設けられ、該導電性パターンは、第1のアンテナ部と、第1のアンテナ部と距離的に離れて設けられた第2のアンテナ部と、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部とを接続する伝送線部4とを備える。好ましくは、導電性パターンの第1のアンテナ部と第2のアンテナ部がいずれもメアンダ状に折れ曲がった導電線からなるアンテナエレメントを左右対称に設けたダイポールアンテナであるとよい。
【0035】
図1によると、導電性パターン3は、第1のアンテナ部31と、第1のアンテナ部31と距離的に離れて設けられた第2のアンテナ部32と、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4とを備えている。
【0036】
第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32は、全長W1が電波通信に使用する無線周波数の波長の半分(1/2波長)の長さを有し、これをおおよそ2分割(1/4波長)した長さW2の直線状のアンテナエレメントを平行に複数回折り返した半波長ダイポールアンテナの構造になっている。
【0037】
無線周波数とアンテナエレメントの長さを例示すると、920MHzの場合はλ=約33cmとなり、アンテナ部の全長W1は約16cm、直線状の導線エレメントの長さW2は約8cmとなり、2.4GHzの場合はλ=約12cmとなり、アンテナ部の全長W1は約6cm、直線状のアンテナエレメントW2の長さは約3cmとなる。
【0038】
折返した直線状のアンテナエレメントは、平行間隔など設計の自由度が高いので、指向性や周波数帯域をある程度調整でき、また小型化に寄与することができる。直線状のアンテナエレメントの平行本数は、2本以上、好ましくは、10本以上、平行間隔は、2mm~20mm、好ましくは、3mm~10mmが好適である。
【0039】
第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4は、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32との間で電力信号を送信する伝送路で、平行な2本の直線で構成される。伝送線部4の長さは特に制限はないが、例えば、5mm~500mm、好ましくは、10mm~100mmが好適である。また、平行間隔は、1mm~5mm、好ましくは、1.5mm~3mmが好適である。
【0040】
導電性パターン3は、銀ペースト等の導電性インキを用いた印刷や銅箔等の金属箔のエッチングによる形成、一定の径を有する断面視で円形の導電線を所定のパターンに配設して形成することができる。
【0041】
導電性パターン3を導電線で形成する場合、その導電線は、少なくとも金属線を含んで構成され、好ましくは、金属線が自己融着性の絶縁被膜により被覆されてなるものとすることができる。金属線としては、例えば、銅、鉄、金、銀、銅ニッケル、ニッケルクロム、鉄ニッケルクロム等の金属線を用いることができるが、導電性を有するものであれば他の材料を用いることもできる。通信特性や耐久性、コストの観点から、金属線として銅又は銅合金が好ましい。銅合金の例としては、亜鉛、鉛、錫、銀、アルミ、ニッケル、ベリリウム、ジルコニウムなどを単独もしくは複数組み合わせてある銅合金を用いることが好ましい。
【0042】
金属線を被覆する絶縁被膜は、絶縁性の樹脂被膜であり、絶縁被膜で被覆された導電線は市販のエナメル線とすることができる。絶縁性の樹脂被膜の具体例としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂等を挙げることができる。絶縁被膜は、典型的には黒色であるが、貼り付け対象となる被着体の色彩にあわせて絶縁被膜を任意の色に着色させてもよい。
【0043】
導電性パターン3を構成する導電線の直径は通信特性を考慮すると、例えば、0.03mm~0.2mmである。細い導電線を形成するのは容易ではない場合もあるが、貼り付け対象となる被着体の意匠性を損なわないためには導電線はできるだけ細いほうがよく、導電線の直径は好ましくは、0.05mm~0.15mmである。
【0044】
本発明の好ましい1つの実施態様として、導電性パターンは、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部のメアンダ状に折れ曲がった導電線と第1のアンテナ部と第2のアンテナ部を接続する伝送線部が1つの連続した導電線で形成することができる。図2(a)では、第2のアンテナ部32のメアンダ状に折れ曲がった導電線の最外縁のアンテナエレメントが左右一本の導電線で繋がっており、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32と伝送線部4とが全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けた例を示している。
【0045】
また図2(b)では、シート状基材2の導電性パターン3が設けられている一方の面に、第1の粘着層51を設けた例を示している。
【0046】
このような導電性パターンの形成方法としては、典型的にはシート状基材の一方の面に、導電線を引き回して、所定のパターン形態を描き、導電線を少なくともシート状基材の一方の面の表面に埋め込むことにより固定することで、形成することができる。ここで、埋め込むとは、導電線に接しているシート部分の位置が、導電線の下端よりも高い状態にあることを意味する。例えば、図2-2(a)に示すように、シート状基材の面によりも奥側に導電線の下端がめりこんだ状態であってもよい。或いは、図2-2(b)に示すように、導電線の下端は、シート面と同じ高さかそれよりも高い位置にあるが、シート面の一部が盛り上がって、導電線の下端の一部を覆うような状態であってもよい。
【0047】
シート状基材の表面への導電線の埋め込み方法としては、例えば、少なくともシート状基材の一方の面の表面を樹脂熱可塑性樹脂で構成するシート状基材を用い、超音波融着の原理を活用して導電線をシート状基材の表面に埋め込むことが望ましい。超音波融着を行うに際しては、導電線を繰り出しながら熱可塑性樹脂からなるシート状基材の表面を溶融させ、導電線をシート状基材の表面に埋め込むことが可能な配線描画装置を用いることができる。このような配線描画装置が備える超音波ヘッドにより、導電線をシート状基材の表面上へ繰り出しつつ、振動と加圧によりシート状基材の表面に導電線を埋め込むことができる。
【0048】
シート状基材の表面への導電線の埋め込みにより、シート状基材上での導電性パターンの位置決めを行うことができ、外部からの衝撃等による導電線の位置ずれの抑制を図ることができる。また、シート状基材の表面に導電線を埋め込むことで、シート状基材の表面上に導電線を配置することによるシート状基材の表面の凹凸の程度を低減することができる。
【0049】
本発明の別の1つの実施態様として、図3に示すように、伝送線部4を一定周期の波形の形状をなす2本の導電線が交差する形態で設けることができる。伝送線部4を構成する2本の導電線をそれぞれ一定周期の波形の形状にし、この2本の導電を交差させ、撚り対線状に形成することで、外部磁場(ノイズ)の影響を受け難く、低減させることができる。
【0050】
図1図3では、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを伝送線部4を挟んで左右に1つずつ設けているが、1つの実施態様における本発明の目的、機能等を考慮して、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部の間に1つ乃至複数のアンテナ部をさらに設けることもできる。これにより通信障害となる障害物が複雑な形状で存在しても、通信距離の延長や、電波の届かない死角エリアへ、無電力で安定した無線通信を行うことができる。
【0051】
図8では、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4の途中に第3のアンテナ部33を備えた例を示している。また図9では、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4を途中で直角に引き伸ばし第3のアンテナ部331、332を備えた例を示している。特に電波の偏波面が異なる信号を受信する場合には、例えば図1に示すアンテナシートを2枚用いてそれぞれのアンテナエレメントの方向が異なるようにして用いることもできるが、図9に示す無線通信用中継アンテナシートを用いれば、図7のように、通信障害となる扉や窓などの障害物の両面を跨ぐように、図中の折り曲げ線で折り曲げて貼り付けたとき、受信する電波の偏波面が異なっても1枚のアンテナシートで安定に信号を受信することができる。
【0052】
なお、第3のアンテナ部を、第1のアンテナ部31及び第2のアンテナ部32とは異なる偏波面に設ける場合、図9に示す形態に限定されず、様々な改変が可能である。例えば、図9のシートでは、第3のアンテナ部を2つ設けており、一方が、第1のアンテナ部31に対応する第3のアンテナ部331であり、他方が、第2のアンテナ部32に対応する第3のアンテナ部332である。そして、第1のアンテナ部31に対応する第3のアンテナ部331は、第1のアンテナ部31とは偏波面が異なるように設けられる。また、第2のアンテナ部32に対応する第3のアンテナ部332は、第2のアンテナ部32とは偏波面が異なるように設けられる。
【0053】
ここで、「偏波面が異なるように設ける」とは、典型的には、図9のように、第1のアンテナ部31及び第2のアンテナ部32に対して直角になるように設けることが挙げられるが、厳密に直角でなくてもよく、設置する状況に応じて角度を適宜調整してもよい。例えば、第1のアンテナ部31をつなぐ伝送線部と、第1のアンテナ部31に対応する第3のアンテナ部331をつなぐ伝送線部との角度が、例えば、以下に示すいずれかの範囲であってもよい:-90°~+90°、-80°~+80°、-70°~+70°、-60°~+60°。第2のアンテナ部32に対応する第3のアンテナ部332についても同様である。
【0054】
また、図9では、2つの第3のアンテナ部331、332が伝送線部4を介して異なる方向に設けられているが、同一方向に設けるように改変してもよい。
【0055】
さらに、図9では、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32のいずれか一方の最外縁のアンテナエレメントが左右一本の導電線で繋がっており、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32と伝送線部4と第3のアンテナ部331、332が、全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けられている。しかし、必ずしもこのような形態にする必要はなく、例えば、図1に示すように1本ではなく複数本の線で、パターン形成されてもよい。
【0056】
本発明の1つの実施態様では、図1(b)、図2(b)に例示したようにシート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面およびシート状基材の導電性パターンが設けられていない他方の面の少なくともどちらか一方に第1の粘着層51を設けることができる。
【0057】
粘着層51は、シート状基材の他方の面に設けられ、無線通信用中継アンテナシートを貼り付け対象となる建造物や建築物の建具等の被着体に貼り付けるものである。粘着層51としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、ゴム系、ポリエステル系、セルロース系、エマルジョン等の粘着剤が使用可能である。また必要により粘着剤の特性向上のための添加剤として、フィラーや粘着付与剤や硬化剤なども適宜使用できる。
【0058】
粘着層51の厚みは接着力が得られる厚みであれば特に限定されず、通常は20μm~200μmとし、好ましくは25μm~75μm程度がよい。粘着層を形成する場合、粘着剤をグラビアコーティング、グラビアリバースコーティング、コンマコーティング、ナイフコーティング、ダイコーティング等の塗布方式を用いて形成できる。
【0059】
本発明の1つの実施態様では、前記シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面に、導電性パターンを保護する保護層を設けることができる。
【0060】
図4(a)は本発明の1つの実施態様の無線通信用中継アンテナシートに保護層6を設けた一例を模式的に示す平面図である。図4(b)は本発明の1つの実施態様の無線通信用中継アンテナシートに保護層6を設けた一例を模式的に示す断面図である。
【0061】
図4によると、シート状基材2の一方の面に、導電性パターン3が設けられ、シート状基材2の全面に、導電性パターン3を被覆するように保護層6が設けられている。
【0062】
保護層6は、シート状基材2の一方の面に設けられた導電性パターン3が外部に露出するのを保護する。導電性パターン3が自己融着性の絶縁層により被覆された導電線であれば保護層6は必ずしも必要ではないが、保護層6は、擦れなどで導電線がシート状基材2から剥がれたり、衝撃で断線したりすることを防止することができる。
【0063】
保護層6の具体例としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアクリル系もしくはポリメタクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン共重合体、ポリビニルアセタール系樹脂、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ-プラスト系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂等を構成するモノマー、プレポリマーもしくはオリゴマーまたはポリマーの一種ないし2つ以上を主成分とする組成物を挙げることができる。
【0064】
保護層6の形成方法としては、例えば、オフセット印刷やグラビア印刷等、スクリーン印刷等の印刷方式で形成することができる。また、シート状基材と同様の透明な熱可塑性樹脂シートを、必要により接着層を介して熱プレスでラミネート形成することもできる。シート状基材と保護層が透明なものであると、全体として透明な無線通信用中継アンテナシートを好適に作製することができる。全体として透明な無線通信用中継アンテナシートは、貼り付け対象となる建築物等の被着体の意匠性を損なうことなく貼着可能となる。
【0065】
保護層6の厚みは、例えば、印刷方式で形成する際には1μm~100μm、好ましくは5μm~50μm、熱可塑性樹脂シートを用いる際には10μm~500μm、好ましくは50μm~300μmである。
【0066】
本発明の1つの実施態様では、保護層が導電性パターンを視覚的に隠蔽する隠蔽層とすることができる。隠蔽層は保護層を着色したものでよく、保護層そのもの、又は保護層上に印刷による意匠を施したものでもよい。意匠としては、貼り付け対象となる建造物や建築物の建具等の被着体と外観類似の化粧層とすることで、貼り付けた無線通信用中継アンテナシートを目立たないようにすることができる。例えば、建築物の建具等の被着体が一定パターンの模様を表面に有している場合には、外見上、当該パターンと連続的になるように貼り付けることが可能な化粧層であってもよい。
【0067】
本発明では、シート状基材の導電性パターンが設けられた一方の面の保護層上に更に第2の粘着層を設けることができる(ただし、保護層と第2の粘着層が接することは必須ではなく、間に別の層を設けてもよい)。
【0068】
図5は、本発明の無線通信用中継アンテナシートに第2の粘着層を設けた一例を模式的に示す断面図である。
【0069】
図5によると、シート状基材2の一方の面に、導電性パターン3が設けられ、シート状基材2の全面に、導電性パターン3を被覆するようにシート状基材2と同じ透明な熱可塑性樹脂シートからなる保護層が設けられ、シート状基材2の他方の面に第1の粘着層51を、保護層上に第2の粘着層52を設けている。この構成により、無線通信用中継アンテナシートを建造物や建築物の建具等の被着体に貼り付けた後、任意の文字や絵柄を施した化粧紙等を無線通信用中継アンテナシート上に貼り付けることができる。
【0070】
本発明の1つの実施態様として、建造物を構成する少なくとも2つの面を有する部材において、該部材の第1面に第1のアンテナ部を、該第1面に近接する第2面に第2のアンテナ部を配置し、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部に接続された伝送線部で第1のアンテナ部と第2のアンテナ部との間に電力信号を送信する無線通信用中継アンテナシートである。特に、建造物を構成する部材が建築物の建具である場合に好適に用いられる。
【0071】
図6は、コンクリートや土壁などの建造物の壁面に本発明の無線通信用中継アンテナシートを貼り付けた一例を示す模式図である。図7は建築物の建具、例えば扉に本発明の無線通信用中継アンテナシートを貼り付けた一例を示す模式図である。
【0072】
図6のように、コンクリートや土壁などの建造物の角部に無線通信用中継アンテナシートを貼り付けることで、コードレス電話機やFAX機、加熱中の電子レンジなどの電波干渉を起こすような機器があっても通信距離の延長や電波の届かない死角エリアへの通信を可能にすることができる。また図7のように、通信障害となる扉や窓などの障害物の両面を跨ぐように無線通信用中継アンテナシートを貼り付けることで、電波が遮蔽された空間の無線通信を、簡便な方法で、安定に行うことができる。
【0073】
本発明の1つの実施態様において、無線通信用中継アンテナシートは、シンプルな構成となっている。例えば、特許文献3に示すような、インピーダンス調整回路を含まなくてもよい。
【実施例0074】
(実施例1)
シート状基材2となる熱可塑性樹脂シート(三菱樹脂株式会社製ポリカシートDPI-AO 厚み0.075mm)を準備し、シート状基材2の一方の面に導電線(ELEKTRISOLA社製自己融着被膜導線AB15φ0.10mm)を、超音波ヘッドを備えた配線描画装置(Ruhlamat社製WCE150、設定条件:USP1200、speed40%)を用いて埋め込み、図1に示す導電性パターン3を形成した。
【0075】
第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32は、2.4GHzの無線周波数に対応するように、全長W1を62.5mm、線状の導線エレメントの長さW2を31mmとし、直線状の導線エレメントの平行本数を、21本、平行間隔は、3mmとした。また第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4の長さは50mmとした。
シート状基材2の他方の面には粘着層51を形成した。粘着層51は主剤としてアクリル系樹脂「BR1122」(三菱レイヨン(株)製)、硬化剤としてイソシアヌレート系硬化剤(「TPA100」旭化成(株)製)を用い、主剤と硬化剤を固形分比で100:1の割合で配合した粘着層ペーストを作製し、メイヤーバーを用いて膜厚20μmになるように塗布形成し、熱風恒温槽で120℃、5minの乾燥を行った。その後、粘着層面に剥離性フィルム「A31」を貼り合せ、50℃、72時間で粘着層を熱硬化させた。最後に、縦100mmm×横200mmにカットし、図1に示す無線中継用アンテナシートを作製した。
【0076】
(実施例2)
実施例1と同様に、シート状基材2の一方の面に導電線(ELEKTRISOLA社製自己融着被膜導線AB15φ0.10mm)を、超音波ヘッドを備えた配線描画装置(Ruhlamat社製WCE150、設定条件:USP1200、speed40%)を用いて埋め込み導電性パターン3を形成した。このとき図2に示すように、第2のアンテナ部32の最外縁の左右のアンテナエレメントを一本の導電線で繋げ、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32と伝送線部4とが全体で一本の導電線からなる連続した導電性パターンとして設けた例を示している。導電性パターン3を形成した。
【0077】
(実施例3)
保護層6となる熱可塑性樹脂シート(三菱樹脂株式会社製ポリカシートDPI-AO 厚み0.075mm)を準備し、実施例1の導電性パターン3を配線したシート状基材2の表面に熱可塑性樹脂シートを貼り合わせて、真空ラミネート機(名機製作所製MVLP-500、温度180℃、圧力0.5MPa)により加熱プレスし、シート状基材2に十分に密着させた。その後、実施例1と同様に粘着層51を形成し、最後に、縦100mmm×横200mmにカットし、図4に示す無線中継用アンテナシートを作製した。
【0078】
(実施例4)
実施例3において粘着層51を形成した後、保護層6上に実施例1と同じ第2の粘着層52を形成し、最後に、縦100mm×横200mmにカットし、図5に示す無線中継用アンテナシートを作製した。
【0079】
(実施例5)
実施例1と同様に、図3に示す導電性パターン3を形成した。導電性パターン3は、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32を2.4GHzの無線周波数に対応するように、全長W1を62.5mm、線状の導線エレメントの長さW2を30mmとし、直線状の導線エレメントの平行本数を、22本、平行間隔は、3mmとした。
【0080】
また第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4の長さは50mmとし、波長λを10mm、振幅Aを1mmとして一定周期の波形の形状とした。
【0081】
(実施例6)
実施例1と同様に、図9に示す導電性パターン3を形成した。このとき、第1のアンテナ部31と第2のアンテナ部32とを接続する伝送線部4を途中で直角に30mm引き伸ばして第3のアンテナ部331、332を設けた。第3のアンテナ部331、332は2.4GHzの無線周波数に対応するように、全長W1を62.5mm、線状の導線エレメントの長さW2を30mmとし、直線状の導線エレメントの平行本数を、21本、平行間隔は、3mmとした。
【符号の説明】
【0082】
1 無線中継用アンテナシート
2 シート状基材
3 導電性パターン
31 第1のアンテナ部
32 第2のアンテナ部
33 第3のアンテナ部
4 伝送線部
51 第1の粘着層
52 第2の粘着層
6 保護層
331 第3のアンテナ部
332 第3のアンテナ部
図1
図2
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9