(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091764
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】血管性浮腫の治療としてのC1EIのアデノ随伴ウイルス介在性送達
(51)【国際特許分類】
C12N 15/15 20060101AFI20220614BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220614BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220614BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20220614BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220614BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220614BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220614BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220614BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220614BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20220614BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220614BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220614BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20220614BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220614BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220614BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C12N15/15 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/63 100Z
A01K67/027
C12N15/09 110
C12N7/01
A61P7/10
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/765
A61K48/00
A61K38/17
A61K38/36
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032186
(22)【出願日】2022-03-02
(62)【分割の表示】P 2019148846の分割
【原出願日】2016-05-27
(31)【優先権主張番号】62/167,603
(32)【優先日】2015-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/324,183
(32)【優先日】2016-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/167,729
(32)【優先日】2016-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508065732
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】クリスタル、ロナルド、ジー.
(72)【発明者】
【氏名】パゴヴィッチ、オデリア、イー.
(72)【発明者】
【氏名】チウチオロ、マリア、ジェイ.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】C1エラスターゼインヒビター欠損に付随する血管浮腫を治療するための新規な長期持続的な治療アプローチを提供する。
【解決手段】ヒトC1エステラーゼインヒビター(C1EI)をコードする核酸配列又はヒト第XII因子をコードする核酸配列、又はその両方に作動可能に連結したプロモーターを含むベクターを提供する。前記ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス又はプラスミドであってよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトC1エステラーゼインヒビター(C1EI)をコードする核酸配列又はヒト第XII因子をコ
ードする核酸配列、又はその両方に作動可能に連結したプロモーターを含むベクター。
【請求項2】
ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイ
ルス又はプラスミドである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
ベクターがAAVベクターである、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
AAVベクターが非ヒトアデノ随伴ウイルスである、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
非ヒトアデノ随伴ウイルスが、アカゲザルアデノ随伴ウイルスである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
アカゲザルアデノ随伴ウイルスがアデノ随伴ウイルス血清型rh.10である、請求項5に
記載のベクター。
【請求項7】
プロモーターが構成的に活性なプロモーターである、請求項1~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
プロモーターが細胞種特異的プロモーターである、請求項1~6のいずれかに記載のベクター。
【請求項9】
プロモーターが誘導プロモーターである、請求項1~6のいずれかに記載のベクター。
【請求項10】
プロモーターがニワトリβ-アクチンプロモーターである、請求項1~6のいずれかに
記載のベクター。
【請求項11】
ベクターが配列番号1を含むポリペプチドをコードするC1EIをコードする核酸配列を含む、請求項1~10のいずれかに記載のベクター。
【請求項12】
ベクターが配列番号3を含むポリペプチドをコードする第XII因子をコードする核酸配
列を含む、請求項1~11のいずれかに記載のベクター。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のベクター及び医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項14】
哺乳動物における機能的な血漿C1エステラーゼインヒビターの欠損の治療、又はその任意の症状の治療もしくは予防方法であって、請求項1~12のいずれかに記載のベクターを該哺乳動物に投与し、それによって核酸が発現しタンパク質を産生する、方法。
【請求項15】
哺乳動物が遺伝性血管浮腫を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該方法が哺乳動物における粘膜下又は皮下浮腫を阻害又は軽減する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
組成物を、浮腫の発症前及び/又は発症後に1回哺乳動物に投与する、請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
組成物を、浮腫の発症前及び/又は発症後に2回以上哺乳動物に投与する、請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
組成物を予防的に哺乳動物に投与する、請求項14~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物がヒトである、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
組成物を、口内、筋肉内、経皮、静脈内、動脈内、皮下、皮内及び腹腔内からなる群より選択される投与経路により哺乳動物に投与する、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ヒト遺伝性血管浮腫のモデルとなる組換えマウスであって、該マウスにおけるC1EI活性を、SERPING1変異を有しない同型のマウスと比較して低下させるSERPING1の変異を含む、組換えマウス。
【請求項23】
組換えマウスがSERPING1の第3エキソンに変異を含む、請求項22に記載の組換えマウ
ス。
【請求項24】
哺乳動物における機能的な血漿C1エステラーゼインヒビターの欠損の治療、又はその任意の症状の治療もしくは予防のための組成物であって、該哺乳動物に対する請求項1~12のいずれかに記載のベクターを含む、組成物。
【請求項25】
哺乳動物が遺伝性血管浮腫を有する、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
方法が哺乳動物における粘膜下又は皮下浮腫を阻害又は軽減する、請求項24又は25に記載の組成物。
【請求項27】
組成物が、浮腫の発症前及び/又は発症後に1回哺乳動物に投与するためのものである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
組成物が、浮腫の発症前及び/又は発症後に2回以上哺乳動物に投与するためのものである、請求項26又は27に記載の組成物。
【請求項29】
組成物が予防的に哺乳動物に投与するためのものである、請求項24~28のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
哺乳動物がヒトである、請求項24~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
組成物が、口内、筋肉内、経皮、静脈内、動脈内、皮下、皮内又は腹腔内投与により投与されるためのものである、請求項24~30のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2015年5月28日に出願された合衆国仮特許出願第62/167,603号、2016年4月18日に出願された合衆国仮特許出願第62/324,183号及び2016年5月27日に出願された合
衆国特許出願第15/167,729号の利益を主張し、ここで参照することにより、それらは本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された材料の参照による組込み
本明細書と同時に提出され、以下のとおり:2016年5月27日に作成された「724068_ST25.TXT」と名付けられた1つの41,866バイトの ASCII (Text) ファイル、と特定されたコン
ピュータ読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表は、参照することによりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
遺伝性血管浮腫(HAE)は、皮膚や上気道もしくは消化管の粘膜組織で最も頻繁に起こ
る腫れを繰り返すことにより特徴づけられる、稀少かつ生命を脅かす可能性のある遺伝的状態である(例えば、Banerji, Ann Allergy Asthma Immunol, 111: 329-336 (2013) 及びAygoren-Pursun et al., Orphanet J Rare Dis.,9: 99 (2014)を参照)。この疾患は常染
色体優性形式で遺伝し、10,000人に1人から15,000人に1人が罹患する。HAE(I型及びII型)の根本原因は、第11番染色体に位置するC1エステラーゼインヒビター遺伝子(C1EI遺伝子
又はSERPING1遺伝子)における変異の常染色体優性遺伝に帰する。HAE症例の85%は、C1エ
ステラーゼインヒビターの産生量が不足するI型である(例えば、Gower et al., World Allergy Organ J., 4: S9-S21 (2011); Cungo et al., Trends Mol Med, 15: 69-78 (2009); Gooptu et al., Annu Rev Biochem, 78: 147-176 (2009); 及びZuraw et al., J Allergy Clin Immunol Pract, 1: 458-467 (2013)を参照)。残りの症例は機能不全のC1エステ
ラーゼインヒビターの発現により特徴づけられる。
【0004】
HAEに付随する発作の頻度、持続及び重篤度は多様であり、患者の30%は月1回超の発作
頻度を訴え、40%は年6~11回の発作を訴え、残りの30%はあまり症状を示さない。通常、
症状は一過性であり、12~36時間にわたって進行し2~5日内で収まるが、1週間まで続く
発作もあり得る。HAE発作は自己制御されるが、予期せぬ発作の発生は患者に相当の負担
を課し、しばしば生活の質に多大な影響を及ぼし、命にかかわる場合もある。
【0005】
今のところ、治療剤は、長期予防、急性発作の治療及び短期予防(即ち、歯科手術前)に適応されており、高い副作用プロファイルを有するダナゾール、C1インヒビター代替タンパク質、ブラジキニン受容体アンタゴニスト、カリクレインインヒビター、新鮮凍結血漿及び精製C1インヒビター等の薬剤が挙げられる。これらの治療薬は症状を緩和し、生活の質を最大化することはできるが、病気の再発と長期継続投与が必要なことは、依然として治療への大きな障害である(例えば、Aberer, Ann Med, 44: 523-529 (2012); Charignon et al., Expert Opin Pharmacother, 13: 2233-2247 (2012); Papadopoulou-Alataki, Curr Opin Allergy Clin Immunol, 10: 20-25 (2010); Parikh et al., Curr Allergy Asthma Rep, 11: 300-308 (2011); Tourangeau et al., Curr Allergy Asthma Rep, 11: 345-351 (2011); Bowen et al., Ann Allergy Asthma Immunol, 100: S30-S40 (2008); Frank, Immunol Allergy Clin North Am, 26: 653-668 (2006); Cicardi et al., J Allergy
Clin Immunol, 99: 194-196 (1997); Kreuz et al., Transfusion 49: 1987-1995 (2009); Bork et al., Ann Allergy Asthma Immunol, 100: 153-161 (2008); and Cicardi et
al., J Allergy Clin Immunol, 87: 768-773 (1991)を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、C1エラスターゼインヒビター欠損に付随する血管浮腫を治療するための新規な長期持続的な治療アプローチが必要である。本発明は血管浮腫を治療するためのそのような治療アプローチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の簡単な要約
本発明は、ヒトC1エラスターゼインヒビター(C1EI)をコードする核酸配列又は第XII
因子をコードする核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含むベクターを提供する。本発明はまた、該ベクターを含有する組成物及び該ベクターを用いて哺乳動物における血漿C1エステラーゼインヒビターの欠損を治療する方法、あるいはその任意の症状を治療もしくは予防する方法を提供する。さらに、本発明は、ヒト遺伝性血管浮腫のモデルとなる組換えマウスを提供する。該組換えマウスは、SERPING1変異を有しない同型のマウスと比較して、該マウスにおけるC1EI活性が低下するSERPING1変異を含む。
【0008】
図面のいくつかの表示の簡単な説明
本特許又は出願ファイルは少なくとも1つのカラーで作製した図面を含む。カラー図面
付きの本特許又は特許出願の公開の写しは、請求及び必要な手数料の支払いにより、庁より提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、SERPING1 E3を標的化した変異により作製されたC1EI欠損のS63マウスモデルの作製に用いた方法の模式図である。野生型及び変異S63のDNA配列は、それぞれ配列番号5及び6に対応する。
【
図2A】
図2Aは、野生型及びS63 SERPING1
+/-ヘテロ接合型マウスにおけるC1EIのレベルを示すグラフである。変異S63及び野生型C1EIレベルをELISAにより測定した。
【
図2B】
図2Bは、野生型及びS63 SERPING1
+/-ヘテロ接合型マウスにおけるブラジキニンレベルを示すグラフである。変異S63及び野生型ブラジキニンレベルをELISAにより測定した。
【
図3A】
図3Aは、AAV2逆位末端反復(ITR)、カプシド形成シグナル(ψ)、CMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター、最適化したヒトC1EI (hC1EI) cDNA及びウサギβ-グロビンポリアデニル化シグナルを描写した、AAVrh.10hC1EI、AAV8hC1EI又はAAV9hC1EIベクターの模式図である。
【
図3B】
図3Bは、HEK293T細胞におけるAAV-hC1EIプラスミドにコードされたhC1EIの発現を示すウェスタンブロット像である。
【
図4A】
図4Aは、野生型C57Bl/6アルビノマウス(n=5/群)へのAAVrh.10hC1EIベクターの単回静脈内投与後のヒトC1EIの長期発現を示す実験データのグラフである。
【
図4B-D】
図4B、4C及び4Dは、C57Bl/6アルビノ(
図4B)、C57Bl/6(
図4C)マウス(n=4-5マウス/群)はS63(
図4D)マウスへの、10
10 gc AAVrh.10hC1EI、10
11 gc AAVrh.10hC1EI、10
11AAVrh.10hα1AT(コントロール)又はPBSの単回静脈内投与後のヒトC1EIの用量依存的な長期発現を示す実験データのグラフである。
【
図5A-C】
図5A、5B及び5Cは、C57/Bl/6マウス(n=5 雄/群、n=5 雌/群、PBS投与をコントロールとした)への、10
11 gc AAV8hC1EI(
図5A)、AAV9hC1EI(
図5B)又はAAVrh.10hC1EI(
図5C)の単回静脈内投与後のヒトC1EIの長期発現を示す実験データのグラフである。
【
図6】
図6は、S63及びコントロール野生型B6(Cg)-Tyr
c-2J/Jマウス(S63マウス: n=4 雄/群、n=4 雌/群; B6(Cg)-Tyr
c-2J/Jマウス: n=4 雄/群、n=4 雌/群)における、AAVrh.10hC1EIの単回投与後2週間のヒトC1EI活性の変化を示す実験データのグラフである。
【
図7A-B】
図7A及び7Bは、S63 SERPING1
+/-マウスのAAVrh.10hC1EIによる治療効果を示す。S63 SERPING1
+/-マウスにAAVrh.10hC1EIを投与してから2週間後に、エバンスブルー染料を尾静脈注射により投与し、30分後にマウスを撮影した。
図7Aは、S63ヘテロ接合型非処置マウス及びS63ヘテロ接合型AAVrh.10hC1EI処置マウス(n=4 雄、n=4 雌)の後足における該青色染料を示す。
図7Bは、S63ヘテロ接合型非処置マウス及びS63ヘテロ接合型AAVrh.10hC1EI処置マウス(n=4 雄、n=4 雌)の鼻における該青色染料を示す。
【
図8A-B】
図8A及び8Bは、S63 SERPING1
+/-マウスのAAVrh.10hC1EIによる治療効果を示す。S63 SERPING1
+/-マウスにAAVrh.10hC1EIを投与してから6週間後に、エバンスブルー染料を尾静脈注射により投与し、30分後にマウスを撮影した。
図8Aは、S63ヘテロ接合型非処置マウス及びS63ヘテロ接合型AAVrh.10hC1EI処置マウス(n=4 雄、n=4 雌)の後足における該青色染料を示す。
図8Bは、S63ヘテロ接合型非処置マウス及びS63ヘテロ接合型AAVrh.10hC1EI処置マウス(n=4 雄、n=4 雌)の鼻における該青色染料を示す。
【
図9】
図9A-9Fは、SERPING1
+/-S63 AAVrh.10hC1EI処置マウス及びAAVrh.10hC1EI非処置マウス(n=5/群)の、後足(
図9A)、腎臓(
図9B)、腸(
図9C)、肺(
図9D)、脾臓(
図9E)及び心臓(
図9F)における血管透過性応答の定量的な染料重量の実験結果のグラフである。
【
図10】
図10は、SERPING1
+/-S63非処置マウス(n=4 雌、n=4 雄)及びS63 SERPING1
+/- AAVrh.10hC1EI処置マウス(n=4 雄、n=4 雌)の血管透過性応答の分光光度分析を示す実験結果のグラフである。B6(Cg)-Tyr
c-2J/J野生型の処置及び非処置マウスをコントロールとした(n=2 雌、n=2 雄)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも幾分は、安全にヒトに投与され、治療導入遺伝子の持続的発現を提供するというベクターの能力に基づいている。本発明は、ヒトC1エステラーゼインヒビター(C1EI)をコードする核酸配列又は第XII因子をコードする核酸配列に作動可能に連結
したプロモーターを含む、から実質的になる、あるいは、からなるベクターを提供する。本発明のベクターが、C1EIをコードする核酸配列又は第XII因子をコードする核酸配列に
作動可能に連結したプロモーターから実質的になる場合、該ベクターに実質的に影響を与えない付加的構成要素(例えば、ポリ(A)配列又はインビトロでのベクターの操作を容易
にする制限酵素部位等の遺伝的構成要素)を含み得る。該ベクターが、C1EIをコードする核酸配列又は第XII因子をコードする核酸配列に作動可能に連結したプロモーターから実
質的になる場合、該ベクターはいかなる付加的構成要素(即ち、該ベクターに内在せず、それによって該タンパク質を提供する該核酸配列の発現をもたらすのに必要でない構成要素)も含まない。
【0011】
本発明のベクターは、当該技術分野で公知の任意の遺伝子導入ベクターを含む、から実質的になる、あるいは、からなることができる。そのようなベクターの例として、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レト
ロウイルスベクター及びプラスミドが挙げられる。好ましい実施態様において、該ベクターはAAVベクターである。
【0012】
アデノ随伴ウイルスはパルボウイルス科のメンバーであり、約5,000ヌクレオチド未満
の線状の一本鎖DNAゲノムを含む。AAVは、効率的な複製のために、ヘルパーウイルス(即
ち、アデノウイルス又はヘルペスウイルス)の共感染又はヘルパー遺伝子の発現を必要と
する。治療核酸の投与に用いられるAAVベクターは、通常、親ゲノムのおよそ96%を欠失し
ており、DNA複製及びパッケージングのための認識シグナルを含む末端反復(ITR)しか残っていない。これにより、ウイルス遺伝子の発現による免疫学的又は毒性の副作用が取り除かれる。さらに、所望により、産生細胞に特定のAAVタンパク質を送達することにより、
細胞ゲノムの特定の領域へのAAV ITRを含むAAVベクターの組込みが可能となる(例えば、
合衆国特許第6,342,390号及び第6,821,511号を参照)。組み込まれたAAVゲノムを含む宿主細胞は、細胞増殖や形態における変化はない(例えば、合衆国特許第4,797,368号を参照)
。
【0013】
AAV ITRは、非構造的な複製(Rep)タンパク質及び構造的なカプシド(Cap)タンパク質(ビリオンタンパク質(VP)としても知られる)のユニークなコーディングヌクレオチド配列の
側に位置する。末端の145ヌクレオチドは自己相補的で、T字形のヘアピンを形成するエネルギー的に安定は分子内二重鎖を形成し得るように構成されている。これらのヘアピン構造は、細胞のDNAポリメラーゼ複合体のプライマーとして働くことにより、ウイルスDNAの複製起点として機能する。Rep遺伝子は、Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする。Rep78とRep68はp5プロモーターから転写され、Rep52とRep40はp19プロモー
ターから転写される。Rep78とRep68は、生産的複製の間ヘリカーゼ及びニッカーゼ機能を発揮し、AAV末端の解離を可能にする多機能のDNA結合タンパク質である(例えば、Im et al., Cell, 61: 447-57 (1990)を参照)。これらのタンパク質はまた、内在性AAVプロモー
ター及びヘルパーウイルス内のプロモーターからの転写を制御する(例えば、Pereira et al., J. Virol., 71: 1079-1088 (1997)を参照)。その他のRepタンパク質はRep78及びRep68の機能を修飾する。cap遺伝子はカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする。該cap遺伝子はp40プロモーターから転写される。
【0014】
本発明のAAVベクターは、当該技術分野で公知の任意のAAV血清型を用いて作製することができる。いくつかのAAV血清型及び100を超えるAAVバリアントがアデノウイルスストッ
ク又はヒトもしくは非ヒト霊長類の組織から分離されている(例えば、Wu et al., Molecular Therapy, 14(3): 316-327 (2006)において総説されている)。一般的に、AAV血清型は、核酸配列及びアミノ酸配列レベルで顕著なホモロジーのあるゲノム配列を有しており、異なる血清型は同一の一連の遺伝的機能を有し、本質的に物理的かつ機能的に同等のビリオンを産生し、実質的に同一のメカニズムで複製し会合する。AAV血清型1-6及び7-9は、
それらが他のすべての既存の特徴づけられた血清型に特異的な中和血清とも効率よく交差反応しない点において、「真の」血清型として定義されている。対照的に、AAV血清型6、10(Rh10ともいう)及び11は、それらが「真の」血清型の定義に忠実ではないので、「バリアント」血清型であるとみなされている。AAV血清型2(AAV2)は、病原性がないこと、感染域が広いこと及び長期間導入遺伝子の発現を確立できることから、遺伝子治療応用に広く用いられている(例えば、Carter, B.J., Hum. Gene Ther., 16: 541-550 (2005); 及びWu
et al., 上述を参照)。種々のAAV血清型のゲノム配列及びそれらの比較が、例えば、GenBankアクセッション番号U89790、J01901、AF043303及びAF085716; Chiorini et al., J. Virol., 71: 6823-33 (1997); Srivastava et al., J. Virol., 45: 555-64 (1983); Chiorini et al., J. Virol., 73: 1309-1319 (1999); Rutledge et al., J. Virol., 72: 309-319 (1998); 及びWu et al., J. Virol., 74: 8635-47 (2000)に開示されている。
【0015】
AAVのrep及びITR配列は、ほとんどのAAV血清型にわたって特に保存されている。例えば、AAV2、AAV3A、AAV3B、AAV4及びAAV6のRep78タンパク質は、報告によると約89-93%同一
である(Bantel-Schaal et al., J. Virol., 73(2): 939-947 (1999)を参照)。AAV血清型2、3A、3B及び6は、ゲノムレベルで約82%の全ヌクレオチド配列同一性を共有すると報告されている(Bantel-Schaal et al., 上述)。さらに、多くのAAV血清型のrep配列及びITRは
、哺乳動物細胞内でのAAV粒子の産生の間、他の血清型由来の対応する配列を効率よく交
差相補する(即ち、機能的に代替する)ことが知られている。
【0016】
一般的に、AAV粒子の細胞指向性を決定するcapタンパク質及び関連するcapタンパク質
コード配列は、異なるAAV血清型間でRep遺伝子よりも有意に保存されていない。Rep及びITR配列が他の血清型の対応する配列を交差相補し得ることを考慮すれば、AAVベクターは
複数の血清型の混合物を含むことができ、それにより「キメラ」又は「偽型」AAVベクタ
ーであり得る。キメラAAVベクターは、通常、2以上(例えば、2、3、4、その他)の異なるAAV血清型由来のAAVカプシドタンパク質を含む。対照的に、偽型AAVベクターは、別のAAV
血清型のカプシド中にパッケージングされた1つのAAV血清型の1以上のITRを含む。キメラ及び偽型AAVベクターは、例えば、合衆国特許第6,723,551号; Flotte, Mol. Ther., 13(1): 1-2 (2006); Gao et al., J. Virol., 78: 6381-6388 (2004); Gao et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99: 11854-11859 (2002); De et al., Mol. Ther., 13: 67-76 (2006); 及びGao et al., Mol. Ther., 13: 77-87 (2006)に、さらに記載されている。
【0017】
一実施態様において、AAVベクターは、ヒトに感染するAAV(例えば、AAV2)を用いて作製される。好ましい実施態様において、ヒトに感染するAAVを用いて作製されたAAVベクターは、AAV8又はAAV9である。あるいは、AAVベクターは、例えば、大型ザル(例えば、チンパンジー)、旧世界ザル(例えば、マカク)及び新世界ザル(例えば、マーモセット)等の非ヒ
ト霊長類に完全するAAVを用いて作製される。好ましくは、該AAVベクターは、ヒトに感染するAAVで偽型化した非ヒト哺乳動物に感染するAAVを用いて作製される。そのような偽型AAVベクターの例は、例えば、Cearley et al., Molecular Therapy, 13: 528-537 (2006)に記載されている。一実施態様において、AAV2逆位末端反復(ITR)で偽型化した、アカゲ
ザルに感染するAAV由来のカプシドタンパク質を含むAAVベクターを作製することができる。特に好ましい実施態様において、本発明のAAVベクターは、AAV10由来のカプシドタンパク質(「AAVrh.10」ともいう)を含み、これはAAV2 ITRで偽型化されたアカゲザルに感染するものである(例えば、Watanabe et al., Gene Ther., 17(8): 1042-1051 (2010); 及びMao et al., Hum. Gene Therapy, 22: 1525-1535 (2011)を参照)。
【0018】
本発明のベクターは、ヒトC1EIをコードする核酸配列又は第XII因子をコードする核酸
配列に作動可能に連結したプロモーターを含む。DNA領域は、それらが互いに機能的に関
連する場合に「作動可能に連結」している。プロモーターは、それがコード配列の転写を制御すれば、該配列に「作動可能に連結」している。
【0019】
「プロモーター」は、特定の遺伝子の転写を開始するDNAの領域である。様々な異なる
ソース由来の数多くのプロモーターが、当該技術分野において周知である。プロモーターの代表的なソースとしては、例えば、ウイルス、哺乳動物、昆虫、植物、酵母及び細菌が挙げられ、これらのソースから適切なプロモーターが容易に入手可能であり、あるいは、例えばATCC等の寄託機関及び他の商業的もしくは個人的な供給先から、公共に入手可能な配列に基づいて、合成的に製造することができる。プロモーターは、一方向性(即ち、一
方法に転写を開始する)であっても、双方向性(即ち、3’もしくは5’方向のいずれにも転写を開始する)であってもよい。
【0020】
本発明のベクターのプロモーターは、当該技術分野で公知の任意のプロモーターを含む、から実質的になる、あるいは、からなることができる。そのようなプロモーターのクラスの例としては、構成的に活性なプロモーター(例えば、ヒトβ-アクチン、ニワトリβ-
アクチン、サイトメガロウイルス(CMV)及びSV40)、細胞種特異的プロモーター(例えば、CD19遺伝子プロモーター、CaMKIIa及びUAS)又は誘導プロモーター(例えば、Tetシステム(
合衆国特許第5,464,758号及び第5,814,618号)、エクジソン誘導システム(No et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93: 3346-3351 (1996))、T-REXTMシステム(Invitrogen, Carlsbad, CA)、Cre-ERTタモキシフェン誘導リコンビナーゼシステム(Indra et al., Nuc. Acid. Res., 27: 4324-4327 (1999); Nuc. Acid. Res., 28: e99 (2000); 合衆国特許第7,112,715号; 及びKramer & Fussenegger, Methods Mol. Biol., 308: 123-144 (2005)及びLACSW
ITCHTMシステム(Stratagene, San Diego, CA))が挙げられる。
【0021】
本発明の好ましい実施態様において、プロモーターは構成的に活性なプロモーター、誘導プロモーター又は細胞種特異的プロモーターである。本発明のより好ましい実施態様において、プロモーターは構成的に活性なプロモーターであり、好ましくは、構成的に活性なプロモーターは、ニワトリβ-アクチンプロモーターである。
【0022】
「核酸配列」は、DNA又はRNAのポリマー、即ち、ポリヌクレオチド包含することを意図しており、それは一本鎖又は二本鎖であっても、非天然の又は改変されたヌクレオチドを含んでもよい。本明細書において用いられる用語「核酸」及び「ヌクレオチド」は、任意の長さのヌクレオチド、リボヌクレオチド(RNA)又はデオキシリボヌクレオチド(DNA)のいずれかの多量体をいう。これらの用語は当該分子の一次構造をいい、従って、二本鎖及び一本鎖DNA、並びに二本鎖及び一本鎖RNAを含む。この用語は、等価物として、ヌクレオチド類縁体から製造されるRNA又はDNAのいずれかの類縁体、並びに、メチル化及び/又はキャッピングされたポリヌクレオチド等の、しかしそれらに限定されない修飾ポリヌクレオチドを含む。
【0023】
本発明のベクターのプロモーターに作動可能に連結する核酸配列は、遺伝子血管浮腫を有する哺乳動物における粘膜下又は皮下浮腫を阻害又は低減する治療遺伝子をコードする任意の核酸配列を含み得る。該核酸配列は、好ましくは、ヒトC1EI又は第XII因子をコー
ドする。好ましくは、該核酸配列は全長ヒトC1EIタンパク質をコードするが、該核酸配列は、産生するタンパク質が全長タンパク質の機能的特性(例えば、補体系の阻害)を維持する限り、バリアントや切断物コードしていてもよい。該核酸配列はまた、活性なタンパク質、例えばヒトC1EI、第XII因子、又は遺伝子血管浮腫を有する哺乳動物における粘膜下
又は皮下浮腫を阻害又は低減する任意の治療遺伝子と、該活性なタンパク質の特性(例え
ば、効力、溶解度又は半減期)を向上させる第二の部分、通常はタンパク質とで構成され
る融合タンパク質をコードしてもよい。該第二の部分の例は当該技術分野で公知であり、例えば、イムノグロブリンのFcドメインやポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0024】
C1EIは、血漿中を21-40mg/kg程度のレベルで循環するプロテアーゼインヒビターである。C1EIの主要な機能の1つは、古典的補体経路のC1r及びC1sプロテアーゼに結合してそれ
らを不活性化することにより、補体系を阻害して自発的活性化を防止することである。ヒトC1EIは、高度に糖鎖付加された500アミノ酸残基を有する一本鎖ポリペプチドを含み、
通常は肝細胞、線維芽細胞、単球及び内皮細胞により製造される。ヒトC1EIは、第11番染色体上の11q11-q13.1に位置するSERPING1遺伝子によってコードされている。染色体11q11-q13.1はおおよそ1.5kbの長さであり、8つのコーディングエキソンを含む。ヒトC1EIのアミノ酸配列及び核酸配列、並びにヒトC1EIの機能バリアントは当該技術分野で周知である。C1EIタンパク質のアミノ酸配列及びC1EIタンパク質をコードする核酸配列の一例は、例えば、GenBankアクセッション番号: AAM21515.1(アミノ酸配列)(配列番号1)及びAF435921.1(核酸)(配列番号2)に見出すことができる。
【0025】
第XII因子は血漿中を循環する凝固因子であり、III型遺伝性血管浮腫と関連する。第XII因子は、第XI凝固因子と相互作用することにより血液凝固カスケードの中で機能し、ま
た炎症刺激においても役割を果たしている。第XII因子はF12遺伝子にコードされている。第XII因子のアミノ酸配列及び核酸配列、並びに第XII因子の機能バリアントは当該技術分野で周知であり、例えば、GenBankアクセッション番号: AAB59490.1(アミノ酸)(配列番号3)及びM11723.1(核酸)(配列番号4)に見出すことができる。
【0026】
ヒトC1EI又は第XII因子をコードする核酸配列は、当該技術分野で公知の方法を用いて
生成することができる。例えば、核酸配列、ポリペプチド及びタンパク質は、標準的な組
換えDNA技術を用いて、組換え生産することができる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rded., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001; 及びAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, NY, 1994を参照)。さらに、合成的に製造したヒトC1EI又は第XII因子をコードする核酸配列は、細菌、昆虫、又は、例えば
ラット、ヒト等の哺乳動物などのソースから単離及び/又は精製することができる。単離及び精製の方法は当該技術分野で周知である。あるいは、本明細書に記載される核酸配列は、商業的に合成され得る。この点において、核酸配列は、合成されても、組換え体であっても、単離及び/又は精製されてもよい。当該配列(例えば、配列番号1-4)は、mRNAの
安定性を増大させるためや、変異mRNAによりトランスに阻害される可能性を低減させるために、さらに最適化することができる。
【0027】
ヒトC1EI又は第XII因子をコードする核酸配列に作動可能に連結したプロモーターに加
えて、ベクターは、好ましくは、宿主細胞内での該核酸配列の発現のために供される、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、内部リボソーム進入部位(IRES)等の付加的な発現調節配列を含むことができる。発現調節配列の例は当該技術分野で公知であり、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, CA. (1990)に記載されている。
【0028】
本明細書において用いられる用語「エンハンサー」とは、例えば、それに作動可能に連結した核酸配列の転写を増大させるDNA配列をいう。エンハンサーは該核酸配列のコード
領域から何キロベースも離れて位置することができ、調節因子の結合、DNAメチル化のパ
ターン又はDNA構造の変化を媒介することができる。様々な異なるソース由来の数多くの
エンハンサーが当該技術分野において周知であり、(例えば、ATCC等の寄託機関や他の商
業的又は個人の供給先から)クローン化されたポリヌクレオチドとして、又はその中で入
手可能である。(よく使用されるCMVプロモーターのように)プロモーターを含む多くのポ
リヌクレオチドは、エンハンサー配列も含んでいる。エンハンサーは、コード配列の上流、内部又は下流に位置することができる。ヒトC1EI又は第XII因子をコードする核酸配列
は、CMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター(「CAGプロモーター」ともいう)に作動可能に連結され得る(例えば、Niwa et al., Gene, 108: 193-199 (1991); Daly et
al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 96: 2296-2300 (1999); 及びSondhi et al., Mol. Ther., 15: 481-491 (2007)を参照)。
【0029】
本発明は、上記のベクター及び医薬上許容される(例えば、生理学上許容される)担体を含む、から実質的になる、あるいは、からなる組成物を提供する。該組成物が本発明のベクター及び医薬上許容される担体から実質的になる場合、該組成物に実質的な影響を与えない付加的構成要素(例えば、アジュバント、緩衝液、安定化剤、抗炎症剤、可溶化剤、
保存剤等)を含み得る。該組成物が本発明のベクター及び医薬上許容される担体からなる
場合、該組成物はいかなる付加的構成要素も含まない。本発明に照らして任意の適切な担体を使用することができ、そのような担体は当該技術分野で周知である。担体の選択は、部分的には、該組成物が投与され得る特定の部位、並びに、該組成物を投与するのに用いる特定の方法により決定されるであろう。該組成物は、本明細書に記載されるベクターを例外として、任意で無菌であり得る。該組成物は、保存のために凍結又は凍結乾燥し、使用前に適切な無菌の担体内で再構成させることができる。該組成物は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA (2001)に記載される慣用の技術に従って作製することができる
。
【0030】
該組成物の適切な剤形として、抗酸化剤、緩衝液及び静菌剤を含み得る水性又は非水性の溶液、等張の無菌溶液、並びに、懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤及び保存剤を
含み得る水性又は非水性の無菌懸濁液が挙げられる。製剤は一回用量もしくは複数回用量をアンプルやバイアル等の密封した容器内に存在させることができ、使用直前に無菌の液状担体、例えば水、を添加することのみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)の状態で保存することができる。以前に記載した種類の無菌の粉剤、顆粒剤及び錠剤から溶液又は懸濁液を即時調製することができる。好ましくは、担体は緩衝生理食塩水溶液である。より好ましくは、本発明のベクターは、本発明のベクターを投与前の損傷から防ぐように処方された組成物中で投与される。例えば、該組成物は、ベクターを調製、保存又は投与するのに用いられる、ガラス製品、シリンジ又はニードル等のデバイス上でのベクターの損失を低減するように製剤化することができる。該組成物は、ベクターの光感受性及び/又は温度感受性を低下させるように製剤化することができる。この目的のために、該組成物は、好ましくは、例えば、上記したような医薬上許容される液状担体、並びに、ポリソルベート80、L-アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース及びそれらの組み合わせからなる群より選択される安定化剤を含有する。そのような組成物を使用することにより、ベクターの保存可能期間が延長され、投与が容易になり、本発明の方法の効率が増大するであろう。ベクター含有組成物の処方は、例えば、Wright et al., Curr. Opin. Drug Discov. Devel., 6(2): 174-178 (2003)及びWright et al., Molecular Therapy, 12: 171-178 (2005)に、さらに記載されている。
【0031】
該組成物はまた、導入効率を増強すべく製剤化することができる。さらに、本発明のベクターを他の治療的又は生物学的に活性な薬剤を含む組成物中に存在させることができると、当業者は理解するであろう。例えば、ベクターのインビボ投与に伴う腫れや炎症を低減させるために、イブプロフェンやステロイド等の炎症を制御する因子を該組成物の一部とすることができる。抗生物質、即ち殺菌剤及び防カビ剤を既存の感染の治療及び/又は遺伝子導入手順に伴う感染のような将来の感染リスクの低減のために存在させることができる。
【0032】
本発明は、哺乳動物に本発明のベクターを投与することにより、核酸が発現して、粘膜下又は皮下浮腫を阻害又は軽減し、あるいは遺伝性血管浮腫を予防又は治療するタンパク質を産生することを含む、遺伝性血管浮腫を有する哺乳動物における粘膜下又は皮下浮腫を阻害又は軽減する方法、あるいは哺乳動物における遺伝性血管浮腫の予防又は治療方法を提供する。好ましい実施態様において、哺乳動物はヒトである。
【0033】
遺伝性血管浮腫の予防又は治療には、遺伝性血管浮腫によりもたらされるいかなる生理学的反応又は症状のいかなる程度の緩和も包含される。粘膜下又は皮下浮腫の阻害又は軽減には、粘膜下又は皮下浮腫のいかなる程度の緩和も包含される。
【0034】
哺乳動物に該組成物を送達させるために、任意の投与経路を用いることができる。実際、該組成物を投与するために2以上の経路を用いることができるが、ある特定の経路は、
他の経路よりも、より即時かつ有効な反応を提供することができる。好ましくは、該組成物は筋肉内注射により投与される。組成物はまた、体腔に塗布もしくは注入したり、経皮吸収させたり(例えば、経皮パッチ)、吸入したり、摂取したり、組織に局所適用したり、あるいは、例えば、静脈内、腹腔内、口内、皮内、皮下又は動脈内投与を通じて、非経口的に投与したりすることもできる。
【0035】
該組成物は、スポンジ、生体適合性メッシュ、機械的貯留物又は機械的インプラント等の、放出制御又は持続放出を可能にするデバイス中又はデバイス上で投与することができる。埋め込み可能なデバイス(例えば、ポリマー組成物で構成される機械的貯留物もしく
はインプラントもしくはデバイス)等のインプラント(例えば、合衆国特許第5,443,505号
を参照)、デバイス(例えば、合衆国特許第4,863,457号を参照)は、AAVベクターの投与に
特に有用である。該組成物はまた、例えば、発泡ゲル、ヒアルロン酸、ゼラチン、コンド
ロイチン硫酸、ポリリン酸エステル、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)及
び/又はポリ乳酸-グリコール酸等を含む、持続放出製剤(例えば、合衆国特許第5,378,475号を参照)の形態で投与することができる。
【0036】
哺乳動物に投与される組成物中のベクターの用量は、哺乳動物のサイズ(重量)、任意の副作用の程度、特定の投与経路等を含む多くの要因に依存するだろう。好ましくは、本発明の方法は、本明細書に記載される本発明のベクターを含む諸生物を「治療上有効な量」投与することを含む。「治療上有効な量」とは、必要な投与量及び期間で、所望の治療結果を実現するのに有効な量をいう。治療上有効な量は、個体のアレルゲン感受性の程度、齢、性別及び体重、並びに個体において所望の応答を引き起こすベクターの能力等の要因に応じて変動し得る。
【0037】
別の実施態様において、本発明の方法は、本発明のベクターを含む組成物を「予防上有効な量」投与することを含み得る。「予防上有効な量」とは、必要な投与量及び期間で、所望の予防結果(例えば、免疫応答又はアレルギー反応の阻止)を実現するのに有効な量をいう。予防的投与を必要とする対象は、当該技術分野で公知の常套的な試験により容易に決定することができる。さらに、以前に遺伝性血管浮腫の発作を起こした対象を、将来の発作に対して予防的に処置することができる。
【0038】
好ましい実施態様において、組成物は哺乳動物に一回投与される。該組成物の単回投与の結果、最少の副作用で、該哺乳動物におけるヒトC1EIの持続的発現を生じると信じられている。しかしながら、ある症例においては、該組成物に細胞を十分に曝露するのを確実にするために、治療的又は予防的処置期間の間に該組成物を複数回投与すること、及び/又は、複数の投与経路、例えば筋肉内と皮下とを用いることが適切であり得る。例えば、治療的又は予防的処置期間の間に、該組成物を2回以上(例えば、2、3、4、5、6、6、8、9又は10回以上)投与することができる。
【0039】
特定の治療又は予防効果(即ち、アレルギー反応の軽減又は阻害)を達成するのに必要な組成物中のベクターの用量が、通常、細胞あたりのベクターゲノムコピー(gc/細胞)又はkg体重あたりのベクターゲノムコピー(gc/kg)の単位で投与される。当業者は、これらの、及び当該技術分野で周知の他の要素に基づいて、特定の免疫応答を有する患者を治療するのに適切な用量範囲を容易に決定することができる。
【0040】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、もちろん、それらは本発明の範囲を何ら制限するものと解されるべきではない。
【実施例0041】
本実施例は、C1EI欠損遺伝性血管浮腫マウスモデルの開発及び特性解析を示す。
【0042】
clustered regularly interspaced short palindromic repeat (CRISPR)及びCRISPR-associated endonuclease 9 (Cas9)技術を用い、SEPING1の第3エキソン(E3)をターゲッティングしてC1EI欠損マウスモデルを開発した。所望の配列を標的化する合成の一本鎖ガイドRNA(sgRNA)が提供されると、Cas9エンドヌクレアーゼは、部位特異的DNA二重鎖切断(DSB)を生じるよう指示する。哺乳動物細胞において、Cas9切断により生じたDSBは、遺伝子内
に挿入/欠失変異(InDel)を導入する、細胞の非相同末端結合(NHEJ)修復経路により修復され、そのことがフレームシフトを引き起こし、その結果nullアレルが生じる。我々は、この技術を利用して、マウスSERPING1遺伝子に標的化したnull変異を導入した。
【0043】
CBA/J x B6/Jマウス由来のF1接合子に、SERPING1の第3エキソンを標的化する機能的な
一本鎖ガイドRNAとCas9 mRNAとを同時注入した。2細胞期に胚を仮親に移植し、すべての
仔について、SERPING1第3エキソンの挿入/欠失の存在を、T7エンドヌクレアーゼIに基づ
くPCR解析によりスクリーニングした。第3エキソンにInDelを有するマウスを繁殖及びさ
らなるDNAシーケンシングのために選択した。マウスを対(雌1匹と雄1匹)又は3匹(雌2匹と雄1匹)で、B6(Cg)-Tyrc-2J/Jマウス(B6アルビノマウス、Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)と繁殖させた。すべてのマウスは、マイクロアイソレーターケージ内で飼育し、標準的なガイドラインに従って維持した。
【0044】
すべての第1子孫を、T7エンドヌクレアーゼI消化により第3エキソンの変異についてス
クリーニングした。簡単にいうと、マウスのゲノムDNAを尾組織(尾端0.5cm)から抽出し、変異標的化領域をフランキングするプライマー(フォーワードプライマー, 5’-TTGCACGGCGGTCACTGGACACAGATAACT-3’(配列番号7); リバースプライマー, 5’-CAAGCGGCTCCGGGCAGAAAGGGTTCA-3’(配列番号8))を用いて、PCRにより増幅した。次いで、PCR産物を高温で
変性させ、DNA二重鎖形成のために再アニーリングし、ミスマッチを有するDNA二重鎖(ヘ
テロ二重鎖)を切断するT7エンドヌクレアーゼI(T7E-I)を用いて消化した。変異を有する
ヘテロ二重鎖のT7EIによる消化の結果、アガロースゲル電気泳動により分離し得る2以上
のより小さなDNA断片を生じる。
【0045】
第3エキソンに変異を有するファウンダーヘテロ接合型マウスをゲノムDNAシーケンシングのために選択した。イソフルランガス下で麻酔したSERPING1ノックアウトマウスから尾端組織(0.5cm)を採取し、KAPA Express Extract DNA Extraction Kit (KAPA Biosytems; Wilmington, MA)を用いて、ゲノムDNA(gDNA)を抽出した。SERPING1遺伝子の標的化した第3エキソン領域をフランキングする特異的プライマー(フォーワードプライマー, 5’-TTGCACGGCGGTCACTGGACACAGATAACT-3’(配列番号7); reverse primer, 5’-CAAGCGGCTCCGGGCAGAAAGGGTTCA-3’(配列番号8))を用いてゲノムDNAを増幅した。PCR増幅は、Taqポリメラ
ーゼと、KAPA2G Fast (HotStart) Genotyping Mix (KAPA Biosytems; Wilmington, MA)により供給される試薬とを用いて実施した。変性(95℃、30秒)、アニーリング(60℃、30秒)及び伸長(72℃、30秒)の各サイクルを35回繰り返した。得られたPCR産物をQIAGEN PCR Purification Kit (QIAGEN; Valencia, CA)を用いて精製し、DNAを50μlのEB緩衝液中に溶
出し、DNAシーケンシング用のTOPOベクター中(Life Technologies, Norwalk, CT)にクロ
ーン化した。各変異体について複数のTOPOクローンをSanger技術によりシーケンシングし、CRISPR/Cas9に指示されたNHEJ DNA修復システムにより導入された変異を同定した。
【0046】
この技術を用いて、我々は、SERPING1遺伝子の第3エキソンに異なる遺伝的バリアント
を有する多くのマウスを作製した(
図1)。これらのマウスの1つ(「S63」という)の特性を詳細に解析し、AAVrh.10hC1EI治療の有効性を実証するための、遺伝性血管浮腫のモデル
として使用した。S63マウスは出生時、外見上正常であり、その後正常に発生し繁殖した
。
【0047】
S63マウス血清中のマウスC1EI(mC1EI)レベルを、ELISA (Biomatik, Wilmington, DE)により、製造者の指示に従って評価した。S63マウス血清中のマウスブラジキニンレベルを
、ELISA (MyBioSource, San Diego, CA)により、製造者の指示に従って評価した。ヒトC1EI(hC1EI)活性レベルを、該タンパク質がその天然の基質であるC1エステラーゼを阻害す
る能力を測定する発色活性アッセイ(TECHNOCHROM(登録商標) C1-INH [CE], DiaPharma Group, West Chester, OH)により評価した。簡単に言うと、該アッセイはC1エステラーゼ活性の阻害に基づいている。基質C1-1(C2H5CO-lys (ε-Cbo)-Gly-Arg-pNA)のC1エステラー
ゼ切断により、発色団para-ニトロアニリン(pNA)が遊離する。遊離したpNAのOD405nmにおける吸光度を測定すると、該吸光度は、血清又は血漿中に存在するC1エステラーゼインヒビターの濃度(活性)に反比例する。該活性アッセイを、製造者のプロトコルに従って行い、結果を機能単位(U/mL)として表した。すべての分析を二連で実施した。エバンスブルー染料(100μlリン酸緩衝生理食塩水中30 mg/kg; Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)を6
-8週齢のマウスの尾静脈に注射した。エバンスブルー染料の注射から30分後に、後足及び鼻の写真を撮影した。マウスをCO2吸入により安楽死させた後、脚を除去し、拭き取り乾
燥し、秤量した。1mlのホルムアルデヒドを用いて、エバンスブルー染料を55℃で一晩抽
出し(等量)、600nmで分光光学的に測定した。
【0048】
これらの研究の結果は、S63マウスにおけるC1EIレベルは野生型コントロールにおけるC1EIレベルよりも顕著に低下していること(
図2A)、及びブラジキニンレベルは、野生型
コントロールに比べてS63マウスにおいて上昇していること(
図2B)を示す。S63マウスモデルは遺伝性血管浮腫のインビボ動物モデルを提供することを示している。
最適化した全長ヒトC1EI cDNA配列を合成し、CAGプロモーターの制御下のpAAVプラスミドにクローン化した。ベクターの複製に必要なAAV2由来のAAV Repタンパク質、作製され
るAAVベクターの血清型を規定するAAVrh.10ウイルス構造(Cap)タンパク質VP1、2及び3、
及びアデノウイルスのヘルパー機能であるE2、E4及びVA RNAを担持するプラスミドとともに、pAAVプラスミドをヒト胚性腎293T細胞(HEK293T; アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)に同時トランスフェクションすることにより、AAV-hC1EIプラスミドを製造した。該AAV-hC1EIベクター(「AAVrh.10hC1EI」という)をイオジキサノール密度勾配及びQHP陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。ベクターゲノム力価を定量的TaqManリアルタイムPCR解析により測定した。無関係のタンパク質をコードするベクターAAV-GFPを発現研究のためのコントロールとして使用した。