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特開2022-91820液体金属脆化耐性のある、合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091820
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】液体金属脆化耐性のある、合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/02 20060101AFI20220614BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20220614BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20220614BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20220614BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20220614BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20220614BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20220614BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C23C2/02
C23C2/06
C23C2/40
C23C2/28
C21D9/46 H
C22C38/00 301T
C22C38/58
C22C18/00
C22C38/00 302X
B23K11/16 311
B23K11/00 570
C22C19/03 G
C22C18/04
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039900
(22)【出願日】2022-03-15
(62)【分割の表示】P 2019560237の分割
【原出願日】2018-04-25
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/000520
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・アレリー
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ベルト
(72)【発明者】
【氏名】アニルバン・チャクラボルティー
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン・ガーセミー-アルマキ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ホットプレス成形及び/又は溶接後、液体金属脆性(LME)についての問題がない合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】以下の連続工程を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、A.鋼板上に、150~650nmの厚のニッケルから成る第1被覆物を形成し、前記鋼板は、重量パーセントで以下の組成:0.10<C<0.40%、1.5<Mn<3.0%、0.7<Si<3.0%、0.05<Al<1.0%、0.75<(Si+Al)<3.0%、ならびに不可避不純物で構成されている残りの組成とを有する、鋼板の被覆と、
B.600~1200℃の温度での焼鈍と、
C.亜鉛系第2被覆物による工程B)で得られる前記鋼板の被覆と、
D.合金化溶融亜鉛めっき鋼板を形成するための合金化熱処理と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の連続工程を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造のための方法であって、
A.ニッケルから成る第1被覆物を使用し、及び150~650nmの厚みを有する鋼板の被覆であり、前記鋼板は、重量パーセントで以下の組成:
0.10<C<0.40%、
1.5<Mn<3.0%、
0.7<Si<3.0%、
0.05<Al<1.0%、
0.75<(Si+Al)<3.0%、
及び単に任意の主成分で、
Nb≦0.5%、
B≦0.010%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%などの1つ以上の成分と、
鉄及び精錬によって生じる不可避不純物で構成されている残りの組成と、を有する、鋼板の被覆と、
B.600~1200℃の温度で焼鈍された前記被覆鋼板の焼鈍と、
C.亜鉛系第2被覆物による工程B)で得られる前記鋼板の被覆と、
D.合金化溶融亜鉛めっき鋼板を形成するための合金化熱処理と、を含む方法。
【請求項2】
工程A)において、前記第1被覆物が200~500nmの厚みを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程A)において、前記第1被覆物が250~450nmの厚みを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程B)において、前記熱処理が連続焼鈍である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程B)において、前記熱処理が、-60℃~-30℃の露点で1~10%のHを含む雰囲気で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程B)において、前記熱処理が、-30℃~+30℃の露点で1~10%のHを含む雰囲気で実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程C)において、前記第2層が50%超の亜鉛を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程C)において、前記第2層が75%超の亜鉛を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程C)において、前記第2層が90%超の亜鉛を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2被覆物がニッケルを含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程C)において、前記第2層が亜鉛から成る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程D)において、前記合金化処理が、470~550℃の温度にて工程C)で得られる前記被覆鋼板の加熱により実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
亜鉛系第2層により直接覆われる、ニッケルを含む第1層で被覆され、前記第2合金層が、8~50重量%の鉄、0~25重量%のニッケルを含み、残りが亜鉛であるように、前記第1層及び第2層が拡散によって合金化される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法で得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項14】
請求項13に記載の少なくとも1枚の鋼板を含む、又は請求項1~12のいずれか一項に記載の方法により得られる、少なくとも2枚の金属板のスポット溶接継手であって、前記継手が100μm超の寸法を有する3か所未満の割れを含有し、その最長の割れが300μm未満の長さを有する、スポット溶接継手。
【請求項15】
前記第2の金属板が鋼板又はアルミニウム板である、請求項14に記載のスポット溶接継手。
【請求項16】
前記第2の金属板が、請求項13に記載の鋼板であり、又は請求項1~12に記載の方法から得られる鋼板である、請求項15に記載のスポット溶接継手。
【請求項17】
鋼板又はアルミニウム板である第3の金属板を備える、請求項14~16のいずれか一項に記載のスポット溶接継手。
【請求項18】
自動運転車両の製造のための、請求項13に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は請求項14~17のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造のための方法に関する。本発明は、自動運転車両の製造に特に良好に適する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系被覆は、バリア防食及びカソード防食の働きにより腐食に対し防食が可能となるため、一般的に使用される。バリア効果は、鋼表面に金属被覆又は非金属被覆を適用することで得られる。したがって、被覆により鋼と腐食性雰囲気との接触が防止される。バリア効果は、被覆及び基材の性質とは関係がない。これに反し、犠牲カソード防食は、標準電気列に準拠すると、亜鉛が鋼と比較して活性があるという事実に基づいている。したがって、もし腐食が発生した場合には、亜鉛は鋼に比べて優先的に消費される。カソード防食は、鋼の前に周囲の亜鉛が消耗する切断端部のような、鋼が腐食性雰囲気に直接曝露される領域では極めて重要なものである。
【0003】
しかしながら、例えばホットプレスハードニング中又は抵抗スポット溶接中など、加熱工程がこうした亜鉛被覆鋼板に施される時、鋼/被覆界面から開始する割れが鋼中に確認される。実際、場合によっては、上記作業後の被覆鋼板中に割れが存在することにより、機械的性質の減少が存在する。これらの割れは、被覆材料の融点を超える高温、引張応力の存在に加えて、低い融点(亜鉛など)を有する液体金属との接触、基材の鋼粒及び粒界を有する溶融金属の拡散及び濡れといった状況で発生する。こうした現象に対する名称は、液体金属脆性(LME)として知られており、液体金属助長割れ(LMAC)とも呼ばれる。
【0004】
特許US2016/0319415は、液体金属脆性による割れに高耐性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を開示し、この溶融亜鉛めっき鋼板は、
―オーステナイト分率が90面積%以上である微細構造を有する素地鋼板と、
―素地鋼板上に形成される溶融亜鉛めっき層と、を含み、
溶融亜鉛めっき層は、Fe-Zn合金層と、Fe-Zn合金層上に形成されるZn層と、を含み、該Fe-Zn合金層は[(3.4×t)/6]μm以上の厚みを有し、ここで、tは溶融亜鉛めっき層の厚みである。
【0005】
この特許では、LMEにより引き起こされる割れの発生は、鉄(Fe)の拡散を抑制するために使用される表面酸化物及びFe-Al又はFe-Al-Zn合金層の形成を抑制することにより、並びに溶融亜鉛めっき層中に十分な厚さを有するFe-Zn合金層を形成することにより、防止され得ることについて言及する。
【0006】
めっき密着性を確実にするためには、Fe-Ni合金層は素地鋼板表面の直接下にさらに含まれるのが好ましい。より具体的には、Fe-Ni合金層は、TWIP鋼といった形態ではMn又は同等物などの酸化成分がFe-Ni合金層の表面に豊富に存在するゆえ、MnO又は同等物などの表面酸化物の形成を抑制することでMnO又は同等物が内部酸化物として存在するので、高いめっき密着性が確実となり得る。上記効果を保証するため、Fe-Ni合金層は300mg/m~1000mg/mのNi被覆層によって形成され得る。しかしながら、この特許出願はTWIP鋼にのみ特化した解決策を開示している。
【0007】
特許出願US2012100391は、優れためっき品質、めっき接着力及びスポット溶接性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための方法を開示し、この方法は、
―素地鋼板を0.1~1.0g/mの被覆量(CNi)、すなわち約11~112nmにて、Niで被覆することと、
―Ni被覆鋼板を還元性雰囲気で加熱することと、
―鋼板が亜鉛めっき浴へと送り込まれる温度(X)まで過熱鋼板を冷却することと、
―0.11~0.14重量%である効果的なAl濃度(CAl)及び440~460℃の温度(Tp)を有する亜鉛めっき浴内に、冷却鋼板を送り込み、浸漬させることと、を含み、ここで、鋼板が亜鉛めっき浴へと送り込まれる温度(X)は、以下の関係式:CNi・(X-T)/2CAl=5-100を満たす。
【0008】
この特許出願はまた、亜鉛めっき層の断面積の1~20%を占めるFe-Ni-Zn合金相が素地鋼板と亜鉛めっき層の界面で形成される、溶融亜鉛めっき鋼板を開示する。
【0009】
素地鋼板上にNi層をめっきし、その上に亜鉛でめっきを施すことにより得られる高強度亜鉛めっき鋼板の場合、仮に、素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に形成されるFe-Ni-Zn合金相で覆われる面積分率が一定レベルで制御されるならば、鋼板のめっき性は低減され、亜鉛めっき層が形成過程中に剥離することを防止する。これは、鋼板のめっき密着性が向上することを示すということに言及する。加えて、スポット溶接過程中、Fe-Ni合金層を通り電極から素地鋼板まで電流が印加され、その間、Feは瞬時に鋼板から拡散されてFe-Ni-Zn合金相を形成し、結果、電極と亜鉛めっき層との合金化が遅延する。こうして溶接電極の寿命が向上される。
【0010】
しかしながら、スポット溶接過程は改善されるものの、LMEは改善しないことについて言及されている。
【0011】
いくつか利点があるため、合金化溶融亜鉛めっきが鋼に施される。しかしながら、合金化溶融亜鉛めっきで被覆された鋼板上へのホットプレスハードニング又は抵抗スポット溶接中に、LME割れが表れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0319415号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/100391号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって本発明の目的は、LMEについての問題がない合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することである。ホットプレス成形及び/又は溶接後、LMEについての問題がないアセンブリを得るために利用可能で、特に導入が容易である方法を提供することを目的とする。
【0014】
請求項1に記載の方法を提供することにより、この目的は達成される。本方法はまた、請求項2~12の任意の特徴を含むことができる。
【0015】
請求項13に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することにより、別の目的が達成される。
【0016】
請求項15に記載のスポット溶接継手を提供することにより、別の目的が達成される。スポット溶接継手はまた、請求項14~17の特徴を含むことができる。
【0017】
最終的に、請求項18に記載の鋼板又はアセンブリの使用を提供することにより、別の目的が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、以下に記す本発明の詳細な説明により明らかになるであろう。
【0019】
名称「鋼」又は「鋼板」は、最大2500MPa及びより好ましくは最大2000MPaの引張強さを達成することができる組成物を有する、鋼板、コイル、平板を意味する。例えば、引張強さは500MPa以上であり、好ましくは980MPa以上であり、有利には1180MPa以上であり、さらには1470MPa以上である。
【0020】
本発明は、以下に記載する連続工程を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造のための方法に関する。連続工程は、
A.ニッケルから成る第1被覆物を使用し、及び150~650nmの厚みを有する、鋼板の被覆であり、当該鋼板が重量パーセントで以下の組成:
0.10<C<0.40%、
1.5<Mn<3.0%、
0.7<Si<3.0%、
0.05<Al<1.0%、
0.75<(Si+Al)<3.0%、
及び単に任意の主成分で
Nb≦0.5%、
B≦0.010%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%
などの1つ以上の成分と、
鉄及び精錬によって生じる不可避不純物で構成されている残りの組成と、を有する、鋼板の被覆と、
B.600~1200℃の温度での当該被覆鋼板の焼鈍と、
C.亜鉛系第2被覆物による工程B)で得られる鋼板の被覆と、
D.合金化溶融亜鉛めっき鋼板を形成するための合金化熱処理と、を含む。
【0021】
任意の理論に束縛されるものではないが、工程B)の熱処理中、特定の厚さを有するNiは、Fe-Ni合金層を可能とする上記の特定の鋼組成物を有する鋼板に対して拡散すると思われる。一方、いくらかの量のNiは、鋼と被覆物との間の界面に依然として存在し、任意の加熱工程(例えば溶接)中に液体亜鉛又は亜鉛合金が鋼内へと貫入することを防ぐ。加えて、合金化処理(すなわち工程D)中に、Niは上を覆う被覆物中にも拡散し、これゆえにLMEを防ぐ。
【0022】
ニッケルから成る第1被覆物は、当業者に既知である任意の析出方法により析出される。第1被覆物は真空蒸着又は電気めっき法により析出され得る。好ましくは、第1被覆物は電気めっき法により析出される。
【0023】
任意に、第1被覆物は、Fe、Cu、Mn、Si、Al及びPから選択される不純物を含むことができる。例えば、不純物の量は5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満である。
【0024】
ニッケルから成る第1被覆物は、150~650nmの厚さを有し、好ましくは200~500nm、より好ましくは250~450nm、有利には300~450nm、例えば350~450nmの厚さを有する。例えば、ニッケルから成る第1被覆物は、250~650nmの厚さを有する。実際、任意の理論に束縛されるものではないが、発明者らは驚くべきことに、第1被覆物の厚みに関して、LMEの減少が非常に改善される最適条件が存在することを見出した。この最適な厚みにより、スポット溶接中の溶接電流を減少させ、それによる入熱量を減少させることができると考えられている。その結果、LMEによる割れ形成の数が大きく減少する。
【0025】
有利には、工程B)中、熱処理は連続焼鈍である。例えば、連続焼鈍は加熱工程、浸漬工程及び冷却工程を含む。連続焼鈍はまた、前加熱工程を含む。
【0026】
好ましくは、-60~-30℃の露点で、1~10%のHを含む雰囲気中で熱処理が実施される。例えば、雰囲気は-40℃~-60℃の露点で、1~10%のHを含む。
【0027】
別の好ましい実施形態において、工程B)中、-30~+30℃の露点で、1~10%のHを含む雰囲気中で熱処理が実施される。例えば、雰囲気は0℃~+20℃の間の露点で、1~10%のHを含む。
【0028】
好ましくは、工程C)中、第2層は50%超の亜鉛を含み、より好ましくは75%超の亜鉛、有利には90%超の亜鉛を含む。第2層は、当業者に既知である任意の析出方法にて析出され得る。析出は、溶融法、真空蒸着又は電気亜鉛めっき過程により行われる。
【0029】
例えば、亜鉛系被覆物は、0.01~8.0%のAl、任意に0.2~8.0%のMgを含み、残りの部分はZnである。
【0030】
別の好ましい実施形態では、第2層は亜鉛から成る。被覆物が溶融亜鉛めっきにより析出される場合、浴中のアルミニウムの比率は0.10~0.18重量%で含まれる。
【0031】
好ましくは、亜鉛系被覆物は溶融亜鉛めっき法により析出される。この実施形態では、溶融浴はまた、インゴットの導入又は溶融浴に鋼板を通すことによる、必ず生じる不純物及び残余成分を含む。例えば、任意の不純物はSr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択され、各追加成分の含有量(重量%)は0.3重量%よりも低い。インゴットの導入又は溶融浴内に鋼板を通すことによる残余成分は、最大0.1重量%の含有量の鉄であり得る。
【0032】
有利には、工程C)では、第2層はニッケルを含まない。
【0033】
好ましくは、工程D)では、例えば5~50秒間にわたり470~550℃の温度で、工程C)にて得られる被覆鋼板を加熱することにより合金化熱処理が実施される。例えば、工程Dは520℃で20秒間実施される。
【0034】
本発明に記載される方法にて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛系第2層により直接覆われている、ニッケルを含む第1層で被覆し、8~50重量%の鉄、0~25重量%のニッケルを含み、残りが亜鉛である第2合金層が得られるように、第1層及び第2層は拡散によって合金化される。好ましくは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛系第2層により直接覆われるニッケルを含む第1層で被覆され、第2合金層が12~50重量%の鉄、1~25重量%のニッケルを含み、残りが亜鉛であるように第1層及び第2層は拡散によって合金化される。有利には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛系第2層により直接覆われるニッケルを含む第1層で被覆され、第2合金層が13~50重量%の鉄、1~25重量%のニッケルを含み、残りが亜鉛であるように第1層及び第2層は拡散によって合金化される。
【0035】
好ましくは、鋼板は、1~50%の残留オーステナイト、1~60%のマルテンサイト、及び任意に、ベイナイト、フェライト、セメンタイト、パーライトから選択される少なくとも1つの要素を含む微細構造を有する。
【0036】
好ましい実施形態では、鋼板は、5~25%の残留オーステナイトを含む微細構造を有する。
【0037】
好ましくは、鋼板は、1~60%、より好ましくは10~60%の焼き戻しマルテンサイトを有する微細構造を有する。
【0038】
有利には、鋼板は10~40%のベイナイトを含む微細構造を有し、こうしたベイナイトは、10~20%の下部ベイナイト、0~15%の上部ベイナイト、0~5%のカーバイドを含まないベイナイトを含む。
【0039】
好ましくは、鋼板は1~25%のフェライトを含む微細構造を有する。
【0040】
好ましくは、鋼板は1~15%の焼き戻しされていないマルテンサイトを含む微細構造を有する。
【0041】
鋼板の製造後、いくつかの車両部品を製作するためには、2枚の金属板をスポット溶接することによる組立が知られている。
【0042】
本発明によるスポット溶接継手を製作するため、溶接は3kA~15kAである効果的な強度で実施され、当該電極活性面の直径が4~10mmである電極に印加される力は150~850daNである。
【0043】
したがって、本発明による、被覆鋼板を含む少なくとも2枚の金属板のスポット溶接継手が得られる。これは、100μm超の寸法を有する割れが3か所未満であることを目的とし、最長の割れは300μm未満の長さを有する。
【0044】
好ましくは、第2の金属板は鋼板又はアルミニウム板である。より好ましくは、第2の金属板は本発明による鋼板である。
【0045】
別の実施形態では、スポット溶接継手は鋼板又はアルミニウム板である第3の金属板を含む。例えば、第3の金属板は本発明による鋼板である。
【0046】
本発明による鋼板又はスポット溶接継手は、自動車両部品の製造用に使用され得る。
【0047】
本発明は、参考とすることのみを目的として実施された試験において説明される。そうした説明は制限されるものではない。
【実施例0048】
全ての試料において、使用される鋼板は重量パーセントで以下の組成物を有する:C=0.37%、Mn=1.95%、Si=1.95%、Cr=0.35%及びMo=0.12%。
【0049】
実験1では、鋼は、-45℃の露点で5%のH及び95%のNを含む雰囲気で焼鈍された。焼鈍は132秒間、900℃で実施された。焼鈍後、鋼板は室温に冷却された。焼鈍済鋼板上に、電気亜鉛めっき法により亜鉛被覆が施された。
【0050】
試験2~5では、焼鈍前に、それぞれ150、400、650及び900nmの厚みを有するNiが、電気めっき法により完全に硬質な鋼板上に最初に析出された。その後、予め被覆された鋼板が、-45℃の露点で5%のH及び95%のNを含む雰囲気で焼鈍された。焼鈍は132秒間、900℃で実施された。焼鈍の最後に、210℃の焼入れ温度で鋼板を冷却し、再び410℃の分配温度で加熱した。88秒間で分割を実施し、次いで460℃の亜鉛めっき温度まで再び加熱した。亜鉛被覆は、460℃に維持され、0.12重量%のAlを含む液体亜鉛浴を使用する溶融被覆法により施された。亜鉛めっき直後、合金化熱処理を20秒間520℃で実施した。
【0051】
上記の被覆された鋼のLME感受性は、抵抗スポット溶接法により評価された。この目的のため、各試験では、2枚の被覆鋼板が抵抗スポット溶接により共に溶接された。電極の種類は16mmの直径を有するISO TypeBであり、電極の力は5kNであり、水の流速は1.5g/分であった。溶接サイクルを表1に報告した。
【0052】
【表1】
【0053】
3層で積み重なった状態を使用して、LME割れ耐久性も評価した。各試験では、3層の被覆鋼板は耐性スポット溶接により共に溶接された。次に、表2に報告したように光学顕微鏡を使用して100μmの割れの数を評価した。
【0054】
【表2】
【0055】
本発明による試験2、3及び4は、試験1及び5と比較してLMEに対し優れた耐性を示す。実際に、100μm超の割れの数は3つ未満であり、最長の割れは300μm未満の長さを有する。加えて、最適なNi被覆厚さを有する試験2~4は溶接電流を減少させる。溶融電流の低減により、スポット溶接中の入熱量は減少し、それによって、LMEによる割れ形成の数を著しく減少させた。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
名称「鋼」は、最大2500MPa及びより好ましくは最大2000MPaの引張強さを達成することができる組成物を有し、鋼板、コイル、平板も意味する。例えば、引張強さは500MPa以上であり、好ましくは980MPa以上であり、有利には1180MPa以上であり、さらには1470MPa以上である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
試験1では、鋼は、-45℃の露点で5%のH及び95%のNを含む雰囲気で焼鈍された。焼鈍は132秒間、900℃で実施された。焼鈍後、鋼板は室温に冷却された。焼鈍済鋼板上に、電気亜鉛めっき法により亜鉛被覆が施された。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の連続工程を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造のための方法であって、
A.ニッケルから成る第1被覆物を使用し、及び150~650nmの厚みを有する鋼板の被覆であり、前記鋼板は、重量パーセントで以下の組成:
0.10<C<0.40%、
1.5<Mn<3.0%、
0.7<Si<3.0%
0<Cr≦1.0%、
0<Mo≦0.50%、

及び精錬によって生じる不可避不純物で構成されている残りの組成と、を有する、鋼板の被覆と、
B.600~1200℃の温度で焼鈍された前記被覆鋼板の焼鈍と、
C.亜鉛系第2被覆物による工程B)で得られる前記鋼板の被覆と、
D.合金化溶融亜鉛めっき鋼板を形成するための合金化熱処理と、を含む方法。
【請求項2】
工程A)において、前記第1被覆物が200~500nmの厚みを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程A)において、前記第1被覆物が250~450nmの厚みを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程B)において、前記焼鈍が連続焼鈍である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程B)において、前記焼鈍が、-60℃~-30℃の露点で1~10体積%のHを含む雰囲気で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程B)において、前記焼鈍が、-30℃~+30℃の露点で1~10体積%のHを含む雰囲気で実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程C)において、前記第2被覆物が50重量%超の亜鉛を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程C)において、前記第2被覆物が75%重量超の亜鉛を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程C)において、前記第2被覆物が90%重量超の亜鉛を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程C)において、前記第2被覆物がニッケルを含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程C)において、前記第2被覆物が亜鉛のみから成る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程D)において、前記合金化処理が、470~550℃の温度にて工程C)で得られる前記被覆鋼板の加熱により実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
求項1~12のいずれか一項に記載の方法で得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項14】
亜鉛系第2層により直接覆われる、ニッケルを含む第1層で被覆され、第2合金層が、8~50重量%の鉄、0~25重量%のニッケルを含み、残りが亜鉛であるように、前記第1層及び第2層が拡散によって合金化される、請求項13に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項15】
請求項13若しくは14に記載の少なくとも1枚の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含む、又は請求項1~12のいずれか一項に記載の方法により得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含む、少なくとも2枚の金属板のスポット溶接継手。
【請求項16】
スポット溶接継手が100μm超の寸法を有する3か所未満の割れを含有し、その最長の割れが300μm未満の長さを有する、請求項15に記載のスポット溶接継手。
【請求項17】
前記少なくとも2枚の金属板のうち、第2の金属板が鋼板又はアルミニウム板である、請求項15又は16に記載のスポット溶接継手。
【請求項18】
前記第2の金属板が、請求項13若しくは14に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、又は請求項1~12に記載の方法から得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板である、請求項17に記載のスポット溶接継手。
【請求項19】
鋼板又はアルミニウム板である第3の金属板を備える、請求項1518のいずれか一項に記載のスポット溶接継手