IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アスチュート メディカル,インコーポレイテッドの特許一覧

特開2022-91846C-Cモチーフケモカインリガンド14の測定に基づく腎損傷および腎不全の評価および処置のための方法および組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091846
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】C-Cモチーフケモカインリガンド14の測定に基づく腎損傷および腎不全の評価および処置のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220614BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20220614BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220614BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K35/14 Z
A61P7/08
A61P13/12
G01N33/53 P
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044473
(22)【出願日】2022-03-18
(62)【分割の表示】P 2019537845の分割
【原出願日】2018-01-12
(31)【優先権主張番号】62/445,692
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511053023
【氏名又は名称】アスチュート メディカル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】カンプ, ジェイムズ パトリック
(72)【発明者】
【氏名】マクファーソン, ポール
(72)【発明者】
【氏名】チャルフィン, ドナルド
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、腎損傷に罹患しているか、腎損傷が疑われる被験体のモニタリング、診断、予後および被験体における処置レジメンの決定のための方法および組成物に関する。特に、本発明は、腎損傷における診断および予後のためのバイオマーカーアッセイとしてのC-Cモチーフケモカイン14を検出するアッセイの使用に関する。
【解決手段】1つのC-Cモチーフケモカイン14の測定値を、腎機能損傷、腎機能低下、および/または急性腎不全(急性腎臓障害とも呼ばれる)に罹患している被験体および/または罹患するリスクのある被験体における診断、予後、リスク層別化、ステージ分類、モニタリング、分類、ならびにさらなる診断および処置レジメンの決定に使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書または図面に実質的に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年1月12日に出願された米国仮特許出願第62/445,692号(これは、全ての表、図面および特許請求の範囲を含むその全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
発明の背景の以下の考察は、読者が本発明を理解するのを助けるためにのみ提供され、本発明の先行技術を記載または構成することを許容しない。
【0003】
腎臓は、身体からの水および溶質の排出を担っている。その機能としては、酸-塩基平衡の維持、電解質濃度の制御、血液容積の調節、および血圧の制御が挙げられる。そのようなものとして、損傷および/または疾患によって腎機能を喪失することは、実質的な病的状態および死亡につながることが多い。腎損傷についての詳細な考察は、Harrison’s Principles of Internal Medicine,17th Ed.,McGraw Hill,New York,pages 1741-1830(その全体が本明細書中で参考として援用される)に提供されている。腎疾患および/または腎損傷は、急性または慢性であり得る。急性および慢性の腎臓疾患は、以下のように記載されている(Current Medical Diagnosis&Treatment 2008,47th Ed,McGraw Hill,New York,pages 785-815(その全体が本明細書中で参考として援用される)より抜粋):「急性腎不全は数時間~数日の間に腎機能が悪化し、それにより、窒素性老廃物(尿素窒素など)およびクレアチニンが血中に保持される。これらの物質の保持は、窒素血症と呼ばれている。慢性腎不全(慢性腎臓疾患)は、数ヶ月~数年にわたる腎機能の異常な喪失に起因する」。
【0004】
急性腎不全(ARF、急性腎臓障害またはAKIとしても公知)は、糸球体濾過の急激な(典型的には、約48時間~1週間以内に検出される)減少である。この濾過能力のこの喪失により、通常は腎臓によって排出される窒素性(尿素およびクレアチニン)および非窒素性の廃棄物の保持、尿量の減少、またはその両方が生じる。ARFは、入院の約5%、心肺バイパス手術の4~15%、および集中治療室入院の30%までで併発すると報告されている。ARFは、因果関係によって腎前性、内因性腎性、または腎後性に分類することができる。内因性腎疾患は、さらに、糸球体、尿細管、間質、および血管の異常に分類することができる。ARFの主因を以下の表に記載し、これは、Merck Manual,17th ed.,Chapter 222(その全体が本明細書中で参考として援用される)からの引用である:
【表1-1】
【表1-2】
【0005】
虚血性ARFの場合、疾患の経過を4つの期に分けることができる。数時間~数日持続する発症期の間、腎灌流減少が損傷に徐々に進行する。糸球体限外濾過が減少し、尿細管内デブリに起因して濾液流量が減少し、損傷上皮を通して濾液が逆流して漏れ出す。この時期に、腎臓の再灌流により腎損傷が媒介され得る。発症期の後に進展期が続き、これは、虚血傷害および炎症の継続を特徴とし、内皮の損傷および血管の鬱血を伴う可能性がある。1~2週間続く維持期(maintenance phase)の間、腎細胞損傷が発生し、糸球体濾過および尿量が最小に達する。その後に回復期に入り、腎上皮が修復され、GFRが徐々に回復する。これにもかかわらず、ARFを有する被験体の生存率は約60%の低さであり得る。
【0006】
放射性造影剤(造影剤とも呼ばれる)および他の腎毒素(シクロスポリン、抗生物質(アミノグリコシドが含まれる)、および抗癌薬(シスプラチンなど)など)に原因する急性腎臓障害は、数日から約1週間かけて顕在化する。造影剤腎症(CIN、放射性造影剤によって引き起こされるAKIである)は、腎内血管収縮(虚血傷害を引き起こす)によって引き起こされ、腎尿細管上皮細胞に直接的な毒性を示す活性酸素種の生成に由来すると考えられている。CINは、古典的には、急性(24~48時間以内に発症)であるが可逆的(3~5日間がピーク、1週間以内に消散)な血中尿素窒素および血清クレアチニンの上昇として現れる。
【0007】
AKIの定義および検出のために報告される共通の基準は、急激な(典型的には、約2~7日以内または入院期間内の)血清クレアチニンの上昇である。AKIを定義し検出するために血清クレアチニン上昇を使用することは十分に確立されているが、血清クレアチニン上昇の大きさ、およびAKIを規定するために測定される時間は、刊行物によってかなり異なる。伝統的には、比較的大きな血清クレアチニンの増加(100%、200%、少なくとも100%から2mg/dLを超える値の増加など)および他の定義が、AKIを定義するために使用されてきた。しかし、最近は、AKIを定義するためにより小さい血清クレアチニンの上昇を使用する傾向にある。血清クレアチニン上昇と、AKIと、関連する健康リスクとの間の関係は、Praught and Shlipak,Curr
Opin Nephrol Hypertens 14:265-270,2005およびChertowら,J Am Soc Nephrol 16:3365-3370,2005(これらの文献内に列挙されている参考文献と共に、その全体が本明細書中で参考として援用される)で概説されている。これらの刊行物に記載されるように、腎機能の急性の悪化(AKI)および死亡リスクの増加ならびに他の有害な転帰は、現在では、血清クレアチニンの非常に小さい増加に関連していることが知られている。これらの増加は、相対的(パーセント)値または名目値として決定することができる。損傷前の値に対し20%程度の小さな血清クレアチニンの相対的増加であっても腎機能の急性の悪化(AKI)および健康上のリスクの増加を示すと報告されているが、AKIおよび健康上のリスクの増加を定義するためのさらに一般的に報告されている値は、少なくとも25%の相対的増加である。名目値の0.3mg/dL、0.2mg/dL程度の小さな増加、さらには0.1mg/dLであっても、腎機能悪化および死亡リスクの増加を示すと報告されている。血清クレアチニンがこれらの閾値に上がる種々の時間(例えば、2日間、3日間、7日間、または患者が病院または集中治療室にいる時間として定義される種々の期間の範囲)を用いて、AKIが定義されてきた。これらの調査は、腎機能悪化またはAKIについて特定の閾値血清クレアチニン上昇(または上昇のための期間)は存在せず、むしろ、血清クレアチニン上昇の大きさの増大に伴ってリスクが継続的に増大することを示す。
【0008】
1つの研究(Lassniggら,J Am Soc Nephrol 15:1597-1605,2004(その全体が本明細書中で参考として援用される))において、血清クレアチニンの増加と減少の両方が調査されている。心臓手術後の血清クレアチニンの-0.1~-0.3mg/dLの緩やかな低下を示す患者は、死亡率が最も低い。より大きな血清クレアチニンの低下(-0.4mg/dLまたはそれを超える)または血清クレアチニンの任意の増加を示す患者は、死亡率がより高かった。これらの所見から、著者等は、腎機能の非常にわずかな変化(手術後48時間以内の小さなクレアチニン値の変化によって検出されるような)でさえも、患者の転帰に著しい影響を及ぼすという結論に至った。臨床試験および臨床診療においてAKIを定義するために血清クレアチニンを使用
するための統一された分類系に合意することを目指して、Bellomoら,Crit Care.8(4):R204-12,2004(その全体が本明細書中で参考として援用される))は、以下のAKI患者を層別化するための分類を提案している:
「リスク」:血清クレアチニンのベースラインから1.5倍の増加、または6時間の尿産生量が0.5ml/kg体重/時間未満;
「損傷」:血清クレアチニンのベースラインから2.0倍の増加、または12時間の尿産生量が0.5ml/kg/時間未満;
「不全」:血清クレアチニンのベースラインから3.0倍の増加、クレアチニン355μmol/l超(44超の上昇をともなう)、24時間の尿量0.3ml/kg/時間未満、または少なくとも12時間の無尿;
さらに以下の2つの臨床的転帰を含む:
「喪失」:4週間を超えて腎代償療法が持続的に必要である。
「ESRD」:末期腎疾患-3ヶ月超透析が必要である。
これらの基準は、RIFLE基準と呼ばれ、腎状態を分類する有用な臨床ツールを提供する。Kellum,Crit.Care Med.36:S141-45,2008およびRicciら,Kidney Int.73,538-546,2008(それぞれ、その全体が本明細書中で参考として援用される)で考察されているように、RIFLE基準は、AKIの統一的定義を提供し、これは、多くの調査により検証されている。
【0009】
より最近では、Mehtaら,Crit.Care 11:R31(doi:10.1186.cc5713),2007(その全体が本明細書中で参考として援用される)が、AKI患者を層別化するための以下の類似の分類(AKIN)を提案し、この分類はRIFLEを修正したものである:
「ステージI」:0.3mg/dLまたはそれを超える(26.4μmol/L以上)血清クレアチニンの増加、またはベースラインから150%(1.5倍)またはそれを超える増加、または6時間超の間の尿量が0.5mL/kg/hr未満;
「ステージII」:血清クレアチニンのベースラインからの200%超(2倍を超える)の増加、または12時間超の間の尿量が0.5mL/kg/hr未満;
「ステージIII」:血清クレアチニンのベースラインからの300%超(3倍を超える)の増加、または少なくとも44μmol/Lの急性の増加を伴う血清クレアチニン354μmol/L以上、または24時間の間で尿量が0.3mL/kg/hr未満もしくは12時間の無尿。
【0010】
同様に、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)Acute Kidney Injury Work Group.KDIGO Clinical Practice Guideline for
Acute Kidney Injury,Kidney inter.,Suppl.2012;2:1-138は、RIFLEおよびAKINの両方を参照し、以下のAKIステージ分類ガイドラインを提供している:
【化1】
【0011】
CINコンセンサスワーキングパネル(McColloughら,Rev Cardiovasc Med.2006;7(4):177-197(その全体が本明細書中で参考として援用される))では、血清クレアチニンの25%の上昇を使用して、造影剤腎症(AKIのうちの1つのタイプである)を定義している。様々なグループがAKIを検出するために血清クレアチニンを使用するための少しずつ異なる基準を提案しているが、コンセンサスは、AKI(腎機能の悪化)を検出するには、血清クレアチニンの小さい変化(0.3mg/dLまたは25%など)で充分であり、血清クレアチニンの変化の大きさは、AKIの重症度および死亡リスクの指標であるということである。
【0012】
数日間にわたる血清クレアチニンの逐次的な測定が、AKIの検出および診断の方法として認められており、AKI患者を評価する最も重要なツールの1つと見なされているが、一般に、血清クレアチニンは、AKI患者の診断、評価、およびモニタリングにおいていくつかの限界があると考えられている。AKIが診断されると見なされる値まで血清クレアチニンが上昇する(例えば、0.3mg/dLまたは25%の上昇)時間は、使用される定義に応じて、48時間またはそれを超え得る。AKIにおける細胞損傷は数時間のうちに起こり得るので、48時間またはそれを超える時間で検出された血清クレアチニンの上昇は、後手の損傷指標である可能性があり、従って、血清クレアチニン値に依存するとAKI診断が遅れる可能性がある。さらに、血清クレアチニンは、腎機能が急速に変化しているときのAKIの最急性期中の正確な腎臓状態および処置の必要性についての良好な指標ではない。AKIを有する患者の中には、完全に回復する患者もいるし、(短期間または長期間の)透析を必要とする患者もいるし、他の有害な転帰(死亡、主要心臓有害事象、および慢性腎疾患が含まれる)を有する患者もいるであろう。血清クレアチニンは、濾過率のマーカーであるので、AKIの原因(腎前性、内因性腎性、腎後性閉塞、アテローム塞栓など)または内因性腎疾患の損傷のカテゴリーもしくは位置(例えば、起源が尿細管、糸球体、または間質)の間の区別がなされない。尿量も同様に制限があり、これらのことを知ることは、AKI患者を管理し処置するのに極めて重要であり得る。
これらの限界により、特に、早期の無症状段階で、さらに、腎臓の回復および修復が起こりうる後期段階でも同様に、AKIを検出し評価するより良い方法の必要性が強調される。さらに、AKIを有するリスクのある患者をより適切に特定する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kellum,Crit.Care Med.(2008)36:S141~45
【非特許文献2】Ricciら,Kidney Int.(2008)73,538~546
【非特許文献3】Mehtaら,Crit.Care(2007)11:R31
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明の1つの目的は、被験体における腎機能を評価するための方法および組成物を提供することである。本明細書中に記載されるように、1つのC-Cモチーフケモカイン14(本明細書中で、「腎臓障害マーカー」と総称される)の測定値を、腎機能損傷、腎機能低下、および/または急性腎不全(急性腎臓障害とも呼ばれる)に罹患している被験体および/または罹患するリスクのある被験体における診断、予後、リスク層別化、ステージ分類、モニタリング、分類、ならびにさらなる診断および処置レジメンの決定に使用することができる。
【0015】
種々の実施形態では、被験体における腎状態を評価するために、C-Cモチーフケモカイン14を、個別に使用するか、複数の腎臓障害マーカーを含むパネルにおいて使用する。これらの方法は、被験体から得た体液試料中のC-Cモチーフケモカイン14を検出するように構成されたアッセイ方法を行う工程を含む。アッセイの結果(例えば、C-Cモチーフケモカイン14濃度の測定値)は、進行中(current)のAKIに罹患している被験体における持続性AKIの尤度と相関する。本明細書中で使用される「進行中のAKI」は、RIFLE IもしくはF、好ましくはRIFLE F、またはKDIGOステージIIもしくはIII、好ましくはステージIIIにある被験体を分類する特徴をいう。
【0016】
かかる被験体を、RIFLE IもしくはFまたはKDIGOステージ2もしくは3の定義を満たす急性腎臓障害を有するリスクの増加を示す1つまたは複数のAKIバイオマーカーの測定値に基づいた評価のための被験体として選択することができる。かかるバイオマーカーには、インスリン様成長因子結合タンパク質7、メタロプロテイナーゼインヒビター2、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、シスタチン-C、インターロイキン-18、A型肝炎ウイルス細胞受容体1、グルタチオンS-トランスフェラーゼP、脂肪酸結合タンパク質、肝臓、クレアチニン、またはこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
一定の実施形態では、C-Cモチーフケモカイン14レベルを、持続性AKIのための「除外項目(rule out)」として使用する。これらの実施形態では、C-Cモチーフケモカイン14の測定レベルを、集団調査から選択した閾値と比較して、集団を、閾値を超える第2の部分集団と比較して持続性AKIの尤度が低下した閾値未満の第1の部分集団に分類することができる。かかる閾値は、例えば、第1の部分集団において、少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.75、さらにより好ましくは少なくとも0.8、および最も好ましくは少なくとも0.9の陰性適中度(negative predictive value)を提供し得る。
【0018】
一定の実施形態では、C-Cモチーフケモカイン14レベルを、持続性AKIのための「組み入れ項目(rule in)」として使用する。これらの実施形態では、C-Cモチーフケモカイン14の測定レベルを、集団調査から選択した閾値と比較して、集団を、閾値未満の第2の部分集団と比較して持続性AKIの尤度が増加した閾値を超える第1の
部分集団に分類することができる。かかる閾値は、例えば、第1の部分集団において、少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.75、さらにより好ましくは少なくとも0.8、および最も好ましくは少なくとも0.9の陽性適中度を提供し得る。
【0019】
一定の実施形態では、「除外」された被験体を、被験体の「保存的な」(腎代償療法(RRT)を含まないことを意味する)既存のAKIのための処置経路に割り付ける。同様に、一定の実施形態では、「組み入れ」られた被験体を、被験体の既存のAKIのための、腎代償療法を投与することを含む処置経路に割り付ける。
【0020】
好ましい実施形態では、被験体を、被験体における腎前性、内因性腎性、または腎後性ARFについての1つまたは複数の既知のリスク因子の先在に基づく評価のために選択する。例えば、主要血管手術、冠状動脈バイパス、または他の心臓手術を受ける予定であるか既に受けた被験体;既存の鬱血性心不全、子癇前症、子癇、真性糖尿病、高血圧症、冠状動脈疾患、蛋白尿、腎機能不全、正常範囲未満の糸球体濾過、硬変、正常範囲を超える血清クレアチニン、または敗血症を有する被験体;またはNSAID、シクロスポリン、タクロリムス、アミノグリコシド、ホスカルネット、エチレングリコール、ヘモグロビン、ミオグロビン、イフォスファミド、重金属、メトトレキサート、放射線不透過性造影剤、もしくはストレプトゾトシンに暴露された被験体の全てが、本明細書中に記載の方法にしたがってリスクをモニタリングするのに好ましい被験体である。このリストは、限定的であることを意味しない。この文脈における「先在」は、体液試料を被験体から得た時点でリスク因子が存在することを意味する。特に好ましい実施形態では、腎機能損傷、腎機能低下、またはARFの既存の診断に基づいたリスク層別化のために被験体を選択する。
【0021】
本明細書中で使用される、将来の「持続性」は、21日間、14日間、7日間、5日間、96時間、72時間、48時間、36時間、24時間、および12時間からなる群より選択される期間継続されるであろう既存の急性腎損傷を指す。一定の実施形態では、被験体は、試料を得た時点で急性腎臓障害を有している。これは、被験体が試料を得た時点で急性腎臓障害を有していなければならないことを意味せず、むしろ、被験体が、急性腎臓障害の発症時点で、持続するであろう急性腎臓障害に罹患していることを意味する。
【0022】
当業者は、これらの方法で使用される所望の閾値に到達するための種々の方法を使用することができる。例えば、正常な被験体で測定されたC-Cモチーフケモカイン14の75、85、90、95、または99パーセンタイルを示す濃度を選択することにより、非持続性AKIを有する被験体集団から閾値を決定することができる。あるいは、閾値は、「疾患」被験体集団(例えば、持続性AKIに罹患している被験体の集団)から、かかる集団で測定されたC-Cモチーフケモカイン14の75、85、90、95、または99パーセンタイルを示す濃度を選択することにより決定することができる。別の代替法では、閾値を、同一の被験体の以前のC-Cモチーフケモカイン14測定から決定することができる;すなわち、被験体のC-Cモチーフケモカイン14レベルの時間的変化を使用して、被験体にリスクを割り付けることができる。
【0023】
しかし、前述の考察は、C-Cモチーフケモカイン14が、対応する個別の閾値と比較されねばならないことを暗示することを意味しない。アッセイ結果を組み合わせる方法は、多変量ロジスティック回帰、対数線形モデリング、ニューラルネットワーク解析、n-of-m解析、決定木解析、マーカー比率の計算などの使用を含み得る。このリストは限定を意味しない。これらの方法では、個別のマーカーの組み合わせによって決定される複合的結果は、それ自体がマーカーであるように処理することができる;すなわち、閾値を、個別マーカーについて本明細書に記載のように複合的結果について決定することができ、この閾値と比較される個別の患者のために、複合的結果について決定することができる。
【0024】
特定の試験が2つの集団を区別する能力は、ROC分析を使用して確立することができる。例えば、1つまたは複数の腎状態の将来の変化を受けやすい「第1の」部分集団、およびそれを受けやすくない「第2の」部分集団から確立されたROC曲線を使用してROC曲線を計算することができ、曲線下面積は、試験の質の尺度を提供する。好ましくは、本明細書中に記載の試験により、0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、および最も好ましくは少なくとも0.95のROC曲線面積が得られる。
【0025】
上記のように、一定の態様では、C-Cモチーフケモカイン14の単独またはマーカーの複合体としての測定濃度を、連続変数として処理することができる。例えば、任意の特定の濃度を、被験体の将来の腎機能の低下、損傷の発生、分類などの対応する確率に変換することができる。さらに別の代替態様では、閾値は、被験体集団を、「第1の」部分集団(例えば、1つまたは複数の将来の腎状態の変化、損傷の発生、分類などが起こりやすい部分集団)およびそれが起こりやすくない「第2の」部分集団などの「ビン」への分別おける許容され得るレベルの特異性および感度を提供することができる。閾値は、1つまたは複数の以下の試験精度の尺度により、この第1および第2の集団を分別するように選択される:
1超、好ましくは少なくとも約2またはそれを超えるか約0.5またはそれ未満、より好ましくは少なくとも約3またはそれを超えるか約0.33またはそれ未満、さらにより好ましくは少なくとも約4またはそれを超えるか約0.25またはそれ未満、さらにより好ましくは少なくとも約5またはそれを超えるか約0.2またはそれ未満、および最も好ましくは少なくとも約10またはそれを超えるか約0.1またはそれ未満のオッズ比;
0.5超、好ましくは少なくとも約0.6、より好ましくは少なくとも約0.7、さらにより好ましくは少なくとも約0.8、さらにより好ましくは少なくとも約0.9、および
最も好ましくは少なくとも約0.95の特異性であって、0.2超、好ましくは約0.3超、より好ましくは約0.4超、さらにより好ましくは少なくとも約0.5、さらにより好ましくは約0.6、さらにより好ましくは約0.7超、さらにより好ましくは約0.8超、より好ましくは約0.9超、および最も好ましくは約0.95超の感度が対応する、特異性;
0.5超、好ましくは少なくとも約0.6、より好ましくは少なくとも約0.7、さらにより好ましくは少なくとも約0.8、さらにより好ましくは少なくとも約0.9、および最も好ましくは少なくとも約0.95の感度であって、0.2超、好ましくは約0.3超、より好ましくは約0.4超、さらにより好ましくは少なくとも約0.5、さらにより好ましくは約0.6、さらにより好ましくは約0.7超、さらにより好ましくは約0.8超、より好ましくは約0.9超、および最も好ましくは約0.95超の特異性が対応する、感度;
少なくとも約75%の特異性と組み合わされた少なくとも約75%の感度;
1超、少なくとも約2、より好ましくは少なくとも約3、さらにより好ましくは少なくとも約5、および最も好ましくは少なくとも約10の陽性尤度比(感度/(1-特異性)で計算される);または
1未満、約0.5またはそれ未満、より好ましくは約0.3またはそれ未満、および最も好ましくは約0.1またはそれ未満の陰性尤度比((1-感度)/特異性で計算される)。
上記の測定値のいずれかの文脈中の用語「約」は、所与の測定値の+/-5%を指す。
【0026】
被験体における腎状態を評価するために複数の閾値も用いることができる。例えば、「除外」集団を確立するために第1の閾値を使用することができ、「組み入れ」集団を確立するために第2の閾値を使用することができ、いずれの群の被験体も、リスクを確立する
ための医師によるさらなる試験を受けていない。
【0027】
あるいは、閾値を、集団が3つまたはそれを超える等しい部分に細分される(下位区分数に応じて、三分位、四分位、五分位などとして公知)「分位数解析」を使用して確立することができる。オッズ比は、それらが分類される下位区分に基づいて被験体に割り付けられる。三分位を検討する場合、最小または最大の三分位は、他の下位区分の比較のための基準として使用することができる。この基準下位区分は、オッズ比1に割り付けられる。第2三分位は、第1三分位と比べたオッズ比が割り付けられる。すなわち、第2三分位の被験体は、第1三分位の被験体に比べて、持続性AKIが3倍高く起こる可能性があり得る。第3三分位もまた、第1三分位と比べたオッズ比が割り付けられる。
【0028】
一定の実施形態では、アッセイ方法は、イムノアッセイである。かかるアッセイで用いる抗体は、目的の全長腎臓障害マーカーに特異的に結合し、それに「関連する」(この用語は後で定義する)1つまたは複数のポリペプチドにも結合することができる。多くのイムノアッセイ形式が当業者に公知である。好ましい体液試料は、尿、血液、血清、唾液、涙、および血漿からなる群より選択される。
【0029】
前述の方法工程は、C-Cモチーフケモカイン14を本明細書中に記載の方法における単離で使用することを意味すると解釈されるべきでない。むしろ、さらなる変数または他の臨床的指標が、本明細書中に記載の方法に含まれ得る。例えば、リスク層別化、診断、分類、モニタリングなどの方法では、アッセイ結果を以下からなる群より選択される被験体に対し測定される1つまたは複数の変数と組み合わせることができる:人口学的情報(例えば、体重、性別、年齢、人種)、病歴(例えば、家族歴)、手術のタイプ、既存の疾患(動脈瘤、鬱血性心不全、子癇前症、子癇、真性糖尿病、高血圧症、冠状動脈疾患、蛋白尿、腎機能不全、または敗血症など)、毒素曝露のタイプ(NSAID、シクロスポリン、タクロリムス、アミノグリコシド、ホスカルネット、エチレングリコール、ヘモグロビン、ミオグロビン、イフォスファミド、重金属、メトトレキサート、放射線不透過性造影剤、またはストレプトゾトシンなど)、臨床的変数(例えば、血圧、温度、呼吸数)、リスクスコア(APACHEスコア、PREDICTスコア、UA/NSTEMI用のTIMIリスクスコア、Framinghamリスクスコア)、糸球体濾過率、推定糸球体濾過率、尿産生速度、血清または血漿クレアチニン濃度、尿クレアチニン濃度、ナトリウム排泄率(fractional excretion of sodium)、尿中ナトリウム濃度、尿クレアチニン対血清または血漿クレアチニン比、尿比重、尿浸透圧、尿中尿素窒素対血漿尿素窒素比、血漿BUN対クレアチニン(creatnine)比、尿中ナトリウム/(尿クレアチニン/血漿クレアチニン)として計算される腎不全指数、血清または血漿好中球ゼラチナーゼ(NGAL)濃度、尿中NGAL濃度、血清または血漿シスタチンC濃度、血清または血漿心筋トロポニン濃度、血清または血漿BNP濃度、血清または血漿NTproBNP濃度、および血清または血漿proBNP濃度。1つまたは複数の腎臓障害マーカーアッセイ結果(単数または複数)と組み合わせることができる腎機能の他の尺度は、本明細書の以後ならびにHarrison’s Principles of Internal Medicine,17th Ed.,McGraw Hill,New York,pages 1741-1830およびCurrent Medical Diagnosis&Treatment 2008,47th Ed,McGraw Hill,New York,pages 785-815(これらの各々のその全体が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0030】
1つを超えるマーカーを測定する場合、個別のマーカーを、同時に得られた試料中で測定することができるか、異なる時点(例えば、前または後で)で得た試料から測定することができる。個別のマーカーを、同一または異なる体液試料に対して測定することもできる。例えば、1つの腎臓障害マーカーを、血清または血漿試料で測定することができ、別
の腎臓障害マーカーを、尿試料中で測定することができる。さらに、尤度の割り付けでは、個別の腎臓障害マーカーアッセイの結果と、1つまたは複数のさらなる変数における時間的変化とを組み合わせることができる。
【0031】
種々の関連する態様では、本発明はまた、本明細書中に記載の方法を実施するためのデバイスおよびキットに関する。適切なキットは、記載された腎臓障害マーカーのうちの少なくとも1つについての検定を実施するのに十分な試薬を、記載の閾値比較を実施するための指示と一緒に含む。
【0032】
特定の実施形態では、かかるアッセイを行う試薬は、アッセイデバイスに含めて提供され、かかるアッセイデバイスは、かかるキット中に含めることができる。好ましい試薬は、1つまたは複数の固相抗体を含むことができ、この固相抗体は、固体支持体に結合した意図するバイオマーカー標的を検出する抗体を含む。サンドイッチイムノアッセイの場合、かかる試薬は、1つまたは複数の検出可能に標識された抗体も含むことができ、この検出可能に標識された抗体は、検出可能な標識を結合した意図するバイオマーカー標的を検出する抗体を含む。アッセイデバイスの一部として提供され得るさらなる必要に応じた要素は、本明細書中の以下に記載される。
【0033】
検出可能な標識には、それ自体が検出可能な分子(例えば、蛍光部分、電気化学標識、ecl(電気化学発光)標識、金属キレート、コロイド状金属粒子など)および検出可能な反応生成物(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素)の産生により、またはそれ自体が検出可能であり得る特異的結合分子(例えば、第2の抗体、ビオチン、ジゴキシゲニン、マルトース、オリゴヒスチジン、2,4-ジニトロベンゼン(dintrobenzene)、フェニルアルセナート、ssDNA、dsDNAなどに結合する標識抗体)の使用により、間接的に検出することができる分子が含まれ得る。
【0034】
シグナル発生要素からのシグナルの生成は、当該分野で周知の種々の光学的、音響学的、および電気化学的方法を使用して行うことができる。検出方法の例には、蛍光、放射化学的検出、反射率、吸光度、電流滴定、コンダクタンス、インピーダンス、干渉法、偏光解析法などが含まれる。これらうちの一定の方法では、シグナルの生成のために固相抗体がトランスデューサー(例えば、回折格子、電気化学センサーなど)に連結され、また、他の方法では、固相抗体から空間的に分離されたトランスデューサー(例えば、励起光源および光学的検出器を使用する蛍光光度計)によってシグナルが生成される。このリストは、限定を意味しない。抗体ベースのバイオセンサーを使用して検体の存在または量を測定することもでき、この場合、必要に応じて標識分子を必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
本発明は、急性腎臓障害に罹患している被験体を分類し、処置レジメンを決定するための方法および組成物に関する。種々の実施形態では、C-Cモチーフケモカイン14または1つまたは複数のこれに関連するマーカー、および必要に応じた1つまたは複数の当該分野で公知のさらなる腎臓障害マーカーの測定された濃度は、被験体における持続性AKIの尤度と相関し、この相関を使用して治療を導く。
【0036】
本文書の目的のために、以下の定義を適用する:
本明細書中で使用される場合、「腎機能に対する損傷」は、腎機能の尺度の急速で(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)測定な可能な減少である。かかる損傷は、例えば、糸球体濾過値率または推定GFRの減少、尿量の減少、血清クレアチニンの増加、血清シスタチンCの増加
、腎代償療法の必要性などにより同定可能である。「腎機能の改善」は、腎機能の尺度の急速で(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)測定可能な増加である。好ましいGFRの測定および/または推定方法は以下に記載する。
本明細書中で使用される場合、「腎機能低下」は、0.1mg/dLまたはそれを超える(8.8μmol/L以上)の血清クレアチニンの絶対増加、血清クレアチニンの20%(ベースラインから1.2倍)またはそれを超える百分率の増加、または尿量の減少(0.5ml/kg/時間未満の尿量減少として記録される)によって同定される腎臓機能の急速な(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)低下である。
本明細書中で使用される場合、「急性腎不全」または「ARF」は、0.3mg/dlまたはそれを超える(26.4μmol/l以上)血清クレアチニンの絶対増加、血清クレアチニンの50%(ベースラインから1.5倍)またはそれを超える百分率の増加、または尿量の減少(少なくとも6時間の間、0.5ml/kg/時間未満の尿量減少として記録される)によって同定される腎臓機能の急速な(14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは72時間以内、およびさらにより好ましくは48時間以内の)低下である。この用語は、「急性腎臓障害」または「AKI」の同義語である。
【0037】
これに関して、当業者は、イムノアッセイから得たシグナルが1つまたは複数の抗体と標的生体分子(すなわち、検体)および抗体が結合する必要なエピトープを含むポリペプチドとの間で形成された複合体の直接的な結果であることを理解するであろう。かかるアッセイが全長バイオマーカーを検出し、アッセイの結果を目的のバイオマーカーの濃度として表すことができるが、アッセイ由来のシグナルは、実際には、試料中に存在する全てのかかる「免疫反応性」ポリペプチドの結果である。バイオマーカーの発現を、イムノアッセイ以外の手段(タンパク質測定(ドットブロット、ウェスタンブロット、クロマトグラフ法、質量分析など)および核酸測定(mRNA定量)が含まれる)によって決定することもできる。このリストは制限を意味しない。
【0038】
本明細書中で使用される場合、用語「C-Cモチーフケモカイン14」は、C-Cモチーフケモカイン14前駆体(ヒト配列:Swiss-Prot Q16627(配列番号
1))由来の生物試料中に存在する1つまたは複数のポリペプチドを指す:
【化2】
【0039】
C-Cモチーフケモカイン14内で以下のドメインが同定されている:
【化3】
【0040】
本明細書中で使用される場合、検体の「存在または量にシグナルを関連付けること」という用語は、この理解を反映する。アッセイシグナルは、典型的には、既知濃度の目的の検体を使用して計算した検量線を用いることにより、検体の存在または量に関連付けられる。この用語を本明細書で使用する場合、アッセイが生理学的に関連する濃度の検体の存在または量を示す検出可能なシグナルを生成することができる場合、アッセイは、検体を「検出するように構成されている」。抗体エピトープはおよそ8アミノ酸であるので、目的のマーカーを検出するように構成されたイムノアッセイは、マーカー配列に関連するポリペプチドがアッセイで使用される抗体または複数の抗体に結合するのに必要なエピトープを含む限り、これらのポリペプチドも検出するであろう。
【0041】
本明細書中に記載の腎臓障害マーカーのうちの1つなどのバイオマーカーに関連して本明細書中で使用される用語「関連マーカー」は、マーカー自体の代替物として、または独立したバイオマーカーとして検出することができる特定のマーカーまたはその生合成用の親物質の1つまたは複数の断片、バリアントなどを指す。この用語はまた、さらなる種と複合体形成したバイオマーカー前駆体(結合タンパク質、受容体、ヘパリン、脂質、糖など)由来の生物試料中に存在する1つまたは複数のポリペプチドを指す。
【0042】
用語「ポジティブゴーイング(positive going)」マーカーは、この用語が本明細書中で使用される場合、疾患または状態に罹患していない被験体と比較して疾患または状態に罹患している被験体中で上昇して測定されるマーカーを指す。用語「ネガティブゴーイング(negative going)」マーカーは、この用語が本明細書中で使用される場合、疾患または状態に罹患していない被験体と比較して疾患または状態に罹患している被験体で減少して測定されるマーカーを指す。
【0043】
本明細書中で使用される用語「被験体」は、ヒトまたは非ヒト生物を指す。従って、本明細書中に記載の方法および組成物は、ヒト疾患および獣医学疾患の両方に適用可能である。さらに、被験体は、生きている生物が好ましいが、本明細書中に記載の本発明を、死後分析でも同様に使用することができる。好ましい被験体は、ヒトであり、最も好ましくは「患者」である。患者は、本明細書中で使用される場合、疾患または状態に対して医療ケアを受けている、生きているヒトを指す。これは、病理の徴候について調査中の規定された疾病のない人を含む。
【0044】
好ましくは、試料中の検体を測定する。かかる試料は、被験体から入手することができるか、被験体に提供されることになっている生物材料から得ることができる。例えば、試料を、被験体に移植が可能であるかについて評価される腎臓から得ることができ、検体の
測定値を、既存の損傷について腎臓を評価するために使用することができる。好ましい試料は体液試料である。
【0045】
本明細書中で使用される用語「体液試料」は、目的の被験体(患者または移植ドナーなど)の診断、予後、分類、または評価のために得た体液の試料を指す。一定の実施形態では、かかる試料は、進行中の状態または状態に及ぼす処置レジメンの影響の転帰を測定するために得ることができる。好ましい体液試料には、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、痰、および胸水が含まれる。さらに、当業者は、一定の体液試料を、分画または精製手順(例えば、全血の血清成分または血漿成分への分離)の後にさらに容易に分析されることを理解しているであろう。
【0046】
本明細書中で使用される用語「診断」は、患者が所与の疾患または状態に罹患しているかどうかの確率(「尤度」)を当業者が推定および/または決定することができる方法を指す。本発明の場合、「診断」は、必要に応じて、他の臨床的特性と併せて、本発明の腎臓障害マーカーのためのアッセイ、最も好ましくはイムノアッセイの結果を使用して、試料を採取しアッセイした被験体に対して急性腎損傷またはARFの診断(すなわち、発症または非発症)に至ることを含む。かかる診断が「決定される」ことは、診断が100%正確であることを意味しない。多くのバイオマーカーは、複数の状態を示す。熟練した臨床医は、情報がない状態でバイオマーカーの結果を使用しないが、むしろ、試験結果を他の臨床指標と併せて使用して診断に至る。従って、所定の診断閾値の一方にあるバイオマーカーの測定レベルは、所定の診断閾値の他方にある測定レベルと比較して、被験体における疾患の発生の尤度がより高い。
【0047】
同様に、予後リスクは、所与の経過または転帰が発生する確率(「尤度」)を示す。罹患確率の増加(例えば、腎機能の悪化、将来のARF、または死亡)に関連する予後指標のレベルまたはレベルの変化は、患者の有害転帰の「尤度の増加を示す」ことを指す。
【0048】
マーカーアッセイ
【0049】
一般に、イムノアッセイは、目的のバイオマーカーを含むか、含むと疑われる試料を、バイオマーカーに特異的に結合する少なくとも1つの抗体と接触させることを含む。次いで、試料中のポリペプチドの抗体への結合により形成された複合体の存在または量を示すシグナルが生成される。次いで、シグナルは、試料中のバイオマーカーの存在または量に関係付けられる。バイオマーカーの検出および分析用の多くの方法およびデバイスが当業者に周知である。例えば、米国特許第6,143,576号;同第6,113,855号;同第6,019,944号;同第5,985,579号;同第5,947,124号;同第5,939,272号;同第5,922,615号;同第5,885,527号;同第5,851,776号;同第5,824,799号;同第5,679,526号;同第5,525,524号;および同第5,480,792号、ならびにThe Immunoassay Handbook,David Wild,ed.Stockton Press,New York,1994(それぞれ、全ての表、図面、および特許請求の範囲を含むその全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0050】
当該分野で公知のアッセイデバイスおよび方法は、種々のサンドイッチアッセイ形式、競合アッセイ形式、または非競合アッセイ形式で標識分子を利用して、目的のバイオマーカーの存在または量に関連したシグナルを生成することができる。適切なアッセイ形式には、クロマトグラフ法、質量分析法、およびタンパク質「ブロッティング」法も含まれる。さらに、一定の方法およびデバイス(バイオセンサーおよび光学的イムノアッセイなど)を使用して、標識分子を必要とせずに検体の存在または量を測定することができる。例えば、米国特許第5,631,171号;および同第5,955,377(それぞれ、全
ての表、図面、および特許請求の範囲を含むその全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。当業者はまた、ロボット計装(Beckman ACCESS(登録商標)システム、Abbott AXSYM(登録商標)システム、Roche ELECSYS(登録商標)システム、Dade Behring STRATUS(登録商標)システムが含まれるが、これらに限定されない)がイムノアッセイを実行することができるイムノアッセイ分析機器のうちの1つであることを認識している。しかし、任意の適切なイムノアッセイ(例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、および競合結合アッセイなど)を利用することができる。
【0051】
抗体または他のポリペプチドを、アッセイで用いる種々の固体支持体上に固定することができる。特異的結合メンバーを固定するために使用することができる固相には、固相結合アッセイにおける固相として開発および/または使用された固相が含まれる。適切な固相の例には、メンブレンフィルター、セルロースベースの紙、ビーズ(ポリマー粒子、ラテックス粒子、および常磁性粒子が含まれる)、ガラス、シリコンウエハ、微粒子、ナノ粒子、TentaGel、AgroGel、PEGAゲル、SPOCCゲル、およびマルチウェルプレートが含まれる。アッセイストリップを、固体支持体上のアレイに1つまたは複数の抗体をコーティングすることによって調製することができる。次いで、このストリップを、試験試料中に浸漬し、次いで、洗浄および検出工程で素早く処理して、測定可能なシグナル(有色スポットなど)を生成することができる。抗体または他のポリペプチドを、アッセイデバイス表面に直接結合体化させるか、または間接的に結合させることにより、アッセイデバイスの特定のゾーンに結合させることができる。ラテックスの場合の一例では、抗体または他のポリペプチドを、粒子または他の固体支持体上に固定し、その固体支持体をデバイス表面に固定することができる。
【0052】
生物学的アッセイには、検出方法が必要であり、結果の定量に最も一般的な1つの方法は、調査される生物システム中の成分のうちの1つに対する親和性を有するタンパク質または核酸に検出可能な標識を結合体化することである。検出可能な標識には、それ自体が検出可能な分子(例えば、蛍光部分、電気化学標識、金属キレートなど)、ならびに検出可能な反応産物(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素)の産生により、またはそれ自体が検出可能であり得る特異的結合分子(例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、マルトース、オリゴヒスチジン、2,4-ジニトロベンゼン(dintrobenzene)、フェニルアルセナート、ssDNA、dsDNAなど)により間接的に検出することができる分子が含まれ得る。
【0053】
固相および検出可能な標識結合体の調製は、しばしば、化学架橋剤の使用を含む。架橋試薬は、少なくとも2つの反応基を含み、一般に、ホモ官能性架橋剤(同一の反応基を含む)およびヘテロ官能性架橋剤(同一でない反応基を含む)に分類される。アミン、スルフヒドリルを介してカップリングするか、非特異的に反応するホモ二官能性架橋剤は、多くの商業的供給元から入手可能である。マレイミド、アルキルおよびアリールハライド、α-ハロアシル、ならびにピリジルジスルフィドは、チオール反応基である。マレイミド、アルキルおよびアリールハライド、ならびにα-ハロアシルは、スルフヒドリルと反応して、チオールエーテル結合を形成し、一方、ピリジルジスルフィドは、スルフヒドリルと反応して混合ジスルフィドを生成する。ピリジルジスルフィド生成物は、切断可能である。イミドエステルはまた、タンパク質-タンパク質架橋に非常に有用である。首尾の良い結合体化のために異なる性質をそれぞれ組み合わせた種々のヘテロ二官能性架橋剤が市販されている。
【0054】
一定の態様では、本発明は、記載された腎臓障害マーカーの分析のためのキットを提供する。キットは、腎臓障害マーカーに結合する少なくとも1つの抗体を含む少なくとも1つの試験試料の分析のための試薬を含む。キットには、本明細書中に記載の診断および/
または予後での相関のうちの1つまたは複数を行うためのデバイスおよび指示も含み得る。好ましいキットは、検体についてのサンドイッチアッセイを行うための抗体対、または競合アッセイを行うための標識種を含むであろう。好ましくは、抗体対は、固相に結合体化した第1の抗体および検出可能な標識に結合体化した第2の抗体を含み、第1および第2の抗体のそれぞれが腎臓障害マーカーに結合する。最も好ましくは、各々の抗体はモノクローナル抗体である。キットの使用および相関を実施するための指示は、ラベル表示の形態であり得、ラベル表示(labelling)とは、キットに付着されているか、そうでなければ、その製造、輸送、販売、または使用の間いつでもキットに付随する任意の文書のまたは記録された材料を指す。例えば、ラベル表示という用語は、宣伝用のチラシおよび小冊子、包装材料、指示、オーディオまたはビデオカセット、コンピュータディスク、およびキットに直接印刷された記述を含む。
【0055】
抗体
【0056】
本明細書中で使用される用語「抗体」は、抗原またはエピトープに特異的に結合することができる1つまたは複数の免疫グロブリン遺伝子またはその断片に由来するか、これらをモデルにするか、これらによって実質的にコードされたペプチドまたはポリペプチドを指す。例えば、Fundamental Immunology,3rd Edition,W.E.Paul,ed.,Raven Press,N.Y.(1993);Wilson(1994;J.Immunol.Methods 175:267-273;Yarmush(1992)J.Biochem.Biophys.Methods 25:85-97を参照のこと。抗体という用語には、抗原結合部分(すなわち、抗原に結合する能力を保持している「抗原結合部位」(例えば、断片、部分配列、相補性決定領域(CDR))を含み、これには、(i)Fab断片(VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片);(ii)F(ab’)2断片(ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価の断片);(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Wardら,(1989)Nature 341:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。また、用語「抗体」の言及には、単鎖抗体も含まれる。
【0057】
本明細書中に記載のイムノアッセイで使用される抗体は、本発明の腎臓障害マーカーに特異的に結合するのが好ましい。用語「特異的に結合する」は、抗体がその意図する標的に排他的に結合することを示すことを意図しない。なぜなら、上述のように、抗体は、抗体が結合するエピトープを提示している任意のポリペプチドに結合するからである。むしろ、適切なエピトープを提示していない非標的分子に対する抗体の親和性と比較したときに、その意図する標的に対する抗体の親和性が約5倍である場合に、抗体は、「特異的に結合する」。好ましくは、抗体の親和性は、非標的分子に対するその親和性よりも、標的分子に対して、少なくとも約5倍、好ましくは10倍、より好ましくは25倍、さらにより好ましくは50倍、および最も好ましくは100倍または100倍を超えて大きいであろう。好ましい実施形態では、好ましい抗体は、少なくとも約10-1、および好ましくは約10-1~約10-1、約10-1~約1010-1、または約1010-1~約1012-1の親和性で結合する。
【0058】
親和性は、K=koff/konとして計算される(koffは解離速度定数であり、Konは会合速度定数であり、Kは平衡定数である)。親和性を、種々の濃度(c)で、平衡時の標識リガンドの結合割合(r)を測定することによって決定することができる。データは、スキャッチャードの式:r/c=K(n-r)を使ってグラフで示す:ここで、r=平衡時の結合リガンドのモル数/受容体のモル数;c=平衡時の遊離リガンド濃度;K=平衡結合定数;およびn=受容体分子当たりのリガンド結合部位数。グラフ解
析により、r/cをY軸上に、rをX軸上にプロットして、スキャッチャードプロットを作成する。スキャッチャード解析による抗体親和性測定は、当該分野で周知である。例えば、van Erpら,J.Immunoassay 12:425-43,1991;Nelson and Griswold,Comput.Methods Programs Biomed.27:65-8,1988を参照のこと。
【0059】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合することができる抗原決定基を指す。エピトープは、通常、化学的に活性な分子表面群(例えば、アミノ酸または糖側鎖)からなり、通常、特異的な3次元構造特性および特異的な電荷特性を有する。コンホメーションエピトープおよび非コンホメーションエピトープは、変性溶媒の存在下で、前者への結合が失われ、後者は結合が失われないという点で区別される。
【0060】
多くの刊行物において、ポリペプチドのライブラリーを生成し、選択された検体への結合に関してスクリーニングするためのファージディスプレイテクノロジーの使用について考察されている。例えば、Cwirlaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,6378-82,1990;Devlinら,Science 249,404-6,1990,Scott and Smith,Science 249,386-88,1990;およびLadnerら,米国特許第5,571,698号を参照のこと。ファージディスプレイ法の基本的概念は、スクリーニングされるべきポリペプチドをコードするDNAと前述のポリペプチドとの間の物理的結合を確立することである。この物理的結合は、ポリペプチドをコードするファージゲノムを封入するカプシドの一部としてポリペプチドを提示するファージ粒子により提供される。ポリペプチドとその遺伝物質の間の物理的結合の確立により、異なるポリペプチドを有する非常に多数のファージの集団の同時スクリーニングが可能になる。標的に対する親和性を有するポリペプチドを提示しているファージは、標的に結合し、これらのファージは、標的に対する親和性スクリーニングにより濃縮される。これらのファージから提示されたポリペプチドの正体は、それらのそれぞれのゲノムから決定することができる。次いで、これらの方法を使用して、所望の標的に対する結合親和性を有すると同定されたポリペプチドを、従来の手段によってバルクで合成することができる。例えば、米国特許第6,057,098号(全ての表、図面、および特許請求の範囲を含むその全体が本明細書中で援用される)を参照のこと。
【0061】
次いで、これらの方法によって生成された抗体を、最初に目的の精製ポリペプチドとの親和性および特異性に関してスクリーニングし、必要に応じて、その結果を、結合から排除されるように所望されるポリペプチドとの抗体の親和性および特異性と比較することによって選択することができる。スクリーニング手順は、マイクロタイタープレートの個別のウェル中に精製ポリペプチドを固定することを含み得る。次いで、有望な抗体または抗体群を含む溶液を、それぞれのマイクロタイターウェルに入れ、約30分間~2時間インキュベートする。次いで、マイクロタイターウェルを洗浄し、ウェルに標識二次抗体(例えば、産生した抗体がマウス抗体の場合は、アルカリホスファターゼに結合体化した抗マウス抗体)を添加して、30分間インキュベートし、次いで、洗浄する。基質をウェルに添加すると、固定化ポリペプチドに対する抗体が存在する場合は、呈色反応が起こるであろう。
【0062】
次いで、このようにして同定された抗体を、選択されたアッセイデザインで親和性および特異性についてさらに解析することができる。標的タンパク質のためのイムノアッセイの開発では、精製標的タンパク質は、選択された抗体を使用してイムノアッセイの感度および特異性を判定するための標準としての機能を果たす。種々の抗体の結合親和性が異なること、特定の抗体対(例えば、サンドイッチ法において)が立体的に相互に干渉することなどが起こり得るので、抗体のアッセイ性能は、抗体の絶対的な親和性および特異性よ
りも重要な尺度であり得る。
【0063】
アッセイの相関
【0064】
バイオマーカーの使用に関連して本明細書中で使用される用語「相関させること」は、患者中のバイオマーカーの存在または量を、所与の状態に罹患していることが知られているか、そのリスクがあることが知られている者;または所与の状態が無いと知られている者におけるその存在または量と比較することを指す。しばしば、これは、バイオマーカー濃度の形態のアッセイ結果を、疾患の発症または非発症、またはいくつかの将来の転帰の尤度を示すように選択された所定の閾値と比較する形態を取る。
【0065】
診断閾値の選択は、とりわけ、疾患の確率の考察、異なる試験閾値での真の診断および偽の診断の分布、および診断に基づいた処置の結果(または処置の失敗)の推定を含む。例えば、非常に有効且つリスクレベルの低い特異的治療を投与することを考慮する場合、臨床医は、実質的な診断上の不確定性を許容することができるので、試験をほとんど必要としない。他方では、処置選択肢があまり有効ではなく、且つより危険である場合、臨床医は、しばしば、より高度の診断の確実性を必要とする。従って、診断閾値の選択には費用/便益分析が必要である。
【0066】
適切な閾値を、種々の方法で決定することができる。例えば、心筋トロポニンを使用した急性心筋梗塞の診断のための1つの推奨される診断閾値は、正常な集団で認められる濃度の97.5パーセンタイルである。別の方法は、同一患者由来の逐次的な試料を調査することであり得る。この場合、前の「ベースライン」結果を、バイオマーカーレベルの時間的変化をモニタリングするために使用する。
【0067】
決定閾値の選択に集団調査を使用することもできる。受信者動作特性(「ROC」)は、第二次大戦中にレーダー画像分析用に開発されたシグナル検出理論の分野から発生し、ROC分析は、しばしば、「罹患」部分集団を「非罹患」部分集団と最良に識別することができる閾値を選択するために使用される。この場合の偽陽性は、検査で陽性であるが、実際は疾患を有していない場合に生じる。他方では、検査で健康であることを示唆する陰性であるが、実際には疾患を有する場合に偽陰性が生じる。決定閾値は絶え間なく変動するので、ROC曲線を描くために真陽性率(TPR)および偽陽性率(FPR)を決定する。TPRは、感度と等しく、FPRは、1-特異性と等しいので、ROCグラフは、時折、感度対(1-特異性)プロットと呼ばれる。完全な試験では、ROC曲線下面積は1.0であろう;無作為試験では、面積は0.5であろう。許容され得るレベルの特異性および感度が得られるように閾値を選択する。
【0068】
この文脈では、「罹患した」は、1つの特徴(疾患もしくは状態の存在またはいくつかの転帰の発生)を有する集団を指すことを意味し、「非罹患」は、前述の特徴を欠く集団を指すことを意味する。単一の決定閾値がかかる方法の最も単純な適用である一方で、複数の決定閾値を使用することができる。例えば、第1の閾値未満で疾患の非存在を比較的高い信頼度にて割り付けることができ、第2の閾値より上で疾患の存在を比較的高い信頼度にて割り付けることもできる。2つの閾値の間は不確定と見なされ得る。これは、事実上単なる例を意味している。
【0069】
閾値の比較に加えて、アッセイ結果を患者の分類(疾患の発症または非発症、転帰の尤度など)に相関させる他の方法には、決定木、ルールセット、ベイズの方法、およびニューラルネットワーク法が含まれる。これらの方法は、被験体が複数の分類から1つの分類に属する程度を表す確率値を生成することができる。
【0070】
Fischerら,Intensive Care Med.29:1043-51,2003に記載のように試験精度の尺度を得ることができ、これらの尺度は所与のバイオマーカーの有効性を決定するために使用される。これらの尺度には、感度および特異性、適中度、尤度比、診断オッズ比、およびROC曲線面積が含まれる。ROCプロットの曲線下面積(「AUC」)は、分類器が、無作為に選択された陽性の例を、無作為に選択された陰性の例より高く順位付けする確率に等しい。ROC曲線下面積は、マンホイットニーのU検定(連続データからなると見なされる2群で得られたスコア間のメジアンの差を検定する)またはウィルコクソン順位検定に等価であると考えることができる。
【0071】
上記で考察のように、適切な試験は、これらの種々の尺度に対する以下の結果のうちの1つまたは複数を示し得る:0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、および最も好ましくは少なくとも0.95の特異性であって、0.2超、好ましくは0.3超、より好ましくは0.4超、さらにより好ましくは少なくとも0.5、さらにより好ましくは0.6、さらにより好ましくは0.7超、さらにより好ましくは0.8超、より好ましくは0.9超、および最も好ましくは0.95超の感度が対応する、特異性;0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、および最も好ましくは少なくとも0.95の感度であって、0.2超、好ましくは0.3超、より好ましくは0.4超、さらにより好ましくは少なくとも0.5、さらにより好ましくは0.6、さらにより好ましくは0.7超、さらにより好ましくは0.8超、より好ましくは0.9超、および最も好ましくは0.95超の特異性が対応する、感度;少なくとも75%の特異性と組み合わされた少なくとも75%の感度;0.5超、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは0.7、さらにより好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、および最も好ましくは少なくとも0.95のROC曲線面積;1と異なる、好ましくは少なくとも約2またはそれを超えるか約0.5またはそれ未満、より好ましくは少なくとも約3またはそれを超えるか約0.33またはそれ未満、さらにより好ましくは少なくとも約4またはそれを超えるか約0.25またはそれ未満、さらにより好ましくは少なくとも約5またはそれを超えるか約0.2またはそれ未満、および最も好ましくは少なくとも約10またはそれを超えるか約0.1またはそれ未満のオッズ比;1超、少なくとも2、より好ましくは少なくとも3、さらにより好ましくは少なくとも5、および最も好ましくは少なくとも10の陽性尤度比(感度/(1-特異性)で計算される);および/または1未満、0.5またはそれ未満、より好ましくは0.3またはそれ未満、および最も好ましくは0.1またはそれ未満の陰性尤度比((1-感度)/特異性で計算される)。
【0072】
さらなる臨床指標を、本発明の腎臓障害マーカーアッセイの結果と組み合わせることができる。これらは、腎状態に関連する他のバイオマーカーを含む。例には以下が含まれ、これらの例は、バイオマーカーの一般名、続いてそのバイオマーカーまたはその親のSwiss-Protエントリー番号を列挙する:アクチン(P68133);アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(DPP4、P27487);α-1-酸性糖タンパク質(acid glycoprotein)1(P02763);α-1-ミクログロブリン(P02760);アルブミン(P02768);アンギオテンシノゲナーゼ(Renin、P00797);アネキシンA2(P07355);β-グルクロニダーゼ(P08236);B-2-ミクログロブリン(P61769);β-ガラクトシダーゼ(P16278);BMP-7(P18075);脳性ナトリウム利尿ペプチド(proBNP、BNP-32、NTproBNP;P16860);カルシウム結合タンパク質β(S100-β、P04271);炭酸脱水酵素9(Q16790);カゼインキナーゼ2(P68400);クラスタリン(P10909);補体C3(P01024);システインリッチタンパク質(CYR61、O00622);シトクロムC(P99999);上皮成長因子(EGF、P01133);エンドセリン-1(P05305);エキソソームフェチュイン-A(P02765);脂肪酸結合タンパク質、心臓(FABP3、P05413);脂肪酸結合タンパク質、肝臓(P07148);フェリチン(軽鎖、P02792;重鎖P02794);フルクトース-1,6-ビホスファターゼ(P09467);GRO-α(CXCL1、(P09341);成長ホルモン(P01241);肝細胞増殖因子(P14210);インスリン様成長因子I(P05019);免疫グロブリンG;免疫グロブリン軽鎖(κおよびλ);インターフェロンγ(P01308);リゾチーム(P61626);インターロイキン-1α(P01583);インターロイキン-2(P60568);インターロイキン-4(P05112);インターロイキン-9(P15248);インターロイキン-12p40(P29460);インターロイキン-13(P35225);インターロイキン-16(Q14005);L1細胞接着分子(P32004);乳酸デヒドロゲナーゼ(P00338);ロイシンアミノペプチダーゼ(P28838);メプリンA-αサブユニット(Q16819);メプリンA-βサブユニット(Q16820);ミッドカイン(P21741);MIP2-α(CXCL2、P19875);MMP-2(P08253);MMP-9(P14780);ネトリン-1(O95631);中性エンドペプチダーゼ(P08473);オステオポンチン(O14788);腎乳頭部抗原1(RPA1);腎乳頭部抗原2(RPA2);レチノール結合タンパク質(P09455);リボヌクレアーゼ;S100カルシウム結合タンパク質A6(P06703);血清アミロイドP成分(P02743);ナトリウム/水素交換輸送体アイソフォーム(NHE3、P48764);スペルミジン/スペルミンN1-アセチルトランスフェラーゼ(P21673);TGF-β1(P01137);トランスフェリン(P02787);トレフォイル因子3(TFF3、Q07654);Toll様タンパク質4(O00206);総タンパク質;尿細管間質性腎炎抗原(Q9UJW2);ウロモジュリン(Tamm-Horsfallタンパク質、P07911)。
【0073】
リスク層別化のために、アディポネクチン(Q15848);アルカリホスファターゼ(P05186);アミノペプチダーゼ N(P15144);カルビンジンD28k(P05937);シスタチンC(P01034);F1FO ATPアーゼの8サブユニット(P03928);γ-グルタミルトランスフェラーゼ(P19440);GSTa(α-グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、P08263);GSTpi(グルタチオン-S-トランスフェラーゼP;GSTクラス-π;P09211);IGFBP-1(P08833);IGFBP-2(P18065);IGFBP-6(P24592);内在性膜タンパク質1(Itm1、P46977);インターロイキン-6(P05231);インターロイキン-8(P10145);インターロイキン-18(Q14116);IP-10(10kDaインターフェロン-γ誘導タンパク質、P02778);IRPR(IFRD1、O00458);イソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ(IVD、P26440);I-TAC/CXCL11(O14625);ケラチン19(P08727);Kim-1(A型肝炎ウイルス細胞受容体1、O43656);L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(P50440);レプチン(P41159);リポカリン2(NGAL、P80188);MCP-1(P13500);MIG(γ-インターフェロン誘導性モノカインQ07325);MIP-1a(P10147);MIP-3a(P78556);MIP-1β(P13236);MIP-1d(Q16663);NAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ、P54802);有機イオン輸送体(OCT2、O15244);オステオプロテゲリン(O14788);P8タンパク質(O60356);プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1、P05121);ProANP(1-98)(P01160);タンパク質ホスファターゼ1-β(PPI-β、P62140);Rab GDI-β(P50395);腎カリクレイン(P06870);内在性膜タンパク質のRT1.B-1(α)鎖(Q5Y7A8);可溶性腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー1A(sTNFR-I、P19438);可溶性腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー1B(sTNFR-II、P20333);組織メタロプロテイナーゼインヒビター3(TIMP-3、P35625);uPAR(Q03405)を、本発明の腎臓障害マーカーアッセイの結果と組み合わせることができる。
【0074】
本発明の腎臓障害マーカーアッセイの結果と組み合わせることができる他の臨床指標には、人口学的情報(例えば、体重、性別、年齢、人種)、病歴(例えば、家族歴)、手術のタイプ、既存の疾患(動脈瘤、鬱血性心不全、子癇前症、子癇、真性糖尿病、高血圧症、冠状動脈疾患、蛋白尿、腎機能不全、または敗血症など)、毒素曝露のタイプ(NSAID、シクロスポリン、タクロリムス、アミノグリコシド、ホスカルネット、エチレングリコール、ヘモグロビン、ミオグロビン、イフォスファミド、重金属、メトトレキサート、放射線不透過性造影剤、またはストレプトゾトシンなど)、臨床的変数(例えば、血圧、温度、呼吸数)、リスクスコア(APACHEスコア、PREDICTスコア、UA/NSTEMI用のTIMIリスクスコア、Framinghamリスクスコア)、尿総タンパク質の測定値、糸球体濾過率、推定糸球体濾過率、尿産生速度、血清または血漿クレアチニン濃度、腎乳頭部抗原1(RPA1)の測定値;腎乳頭部抗原2(RPA2)の測定値;尿クレアチニン濃度、ナトリウム排泄率、尿中ナトリウム濃度、尿クレアチニン対血清または血漿クレアチニン比、尿比重、尿浸透圧、尿中尿素窒素対血漿尿素窒素比、血漿BUN対クレアチニン(creatnine)比、および/または尿中ナトリウム/(尿クレアチニン/血漿クレアチニン)として計算される腎不全指数が含まれる。腎臓障害マーカーアッセイの結果と組み合わせることができる腎機能の他の尺度は、以後ならびにHarrison’s Principles of Internal Medicine,17th Ed.,McGraw Hill,New York,pages 1741-1830およびCurrent Medical Diagnosis&Treatment 2008,47th Ed,McGraw Hill,New York,pages 785-815(それぞれ、その全体が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0075】
この様式でアッセイ結果/臨床指標を組み合わせることは、多変量ロジスティック回帰分析、対数線形モデル、ニューラルネットワーク解析、n-of-m分析、決定木解析などの使用を含み得る。このリストは、限定を意味しない。
【0076】
急性腎不全の診断
【0077】
上述のように、本明細書中で使用される用語「急性腎(または腎臓)障害」および「急性腎(または腎臓)不全」は、血清クレアチニンのベースライン値からの変化によってある程度定義される。ほとんどのARFの定義は、共通要素(血清クレアチニンおよび、しばしば、尿量の使用が含まれる)を有する。この比較で用いる腎機能のベースライン尺度を利用できずに、患者が腎機能障害を呈することがある。このような事象では、患者が最初はGFRが正常であると仮定して、ベースライン血清クレアチニン値を推定することができる。糸球体濾過値率(GFR)は、単位時間当たりの腎(腎臓)糸球体毛細管からボーマン嚢へ濾過される体液の容積である。糸球体濾過値率(GFR)を、血液中に一定のレベル存在し、自由に濾過されるが、腎臓により再吸収も分泌もされないあらゆる化学物質の測定により計算することができる。GFRは、典型的には、ml/分の単位で表される:
【数1】
【0078】
GFRを体表面積に対して正規化することにより、1.73mあたりおよそ75~1
00ml/分のGFRが仮定され得る。従って、測定された割合は、計算可能な血液容積に基づく尿中の物質の量である。
【0079】
糸球体濾過率(GFRまたはeGFR)を計算または推定するために使用される技術には、いくつかの異なるものが存在する。しかし、臨床診療では、クレアチニンクリアランスを使用してGFRを測定する。クレアチニンは、身体で自然に生成される(クレアチニンは筋肉中に認められるクレアチンの代謝物である)。クレアチニンは糸球体で自由に濾過されるが、腎尿細管によっても活発に極少量分泌され、その結果、クレアチニンクリアランスは実際のGFRより10~20%過大評価される。この誤差範囲は、クレアチニンクリアランスが容易に測定されることを考慮すると、容認できるものである。
【0080】
クレアチニンの尿中濃度(UCr)、尿流量(V)、およびクレアチニンの血漿濃度(PCr)の値が既知である場合、クレアチニンクリアランス(CCr)を計算することができる。尿中濃度と尿流量の積によりクレアチニンの排出率が得られるので、クレアチニンクリアランスはその排出率(UCr×V)をその血漿濃度で除したものとも言える。これは、一般に、数学的に以下のように表される:
【数2】
【0081】
一般に、ある朝の空の膀胱から翌朝の膀胱の内容物まで24時間採尿し、次いで、比較血液検査を行う:
【数3】
【0082】
異なるサイズの人の間での結果を比較できるようにするために、CCrは、しばしば、体表面積(BSA)で補正し、平均サイズの人と比較して、ml/分/1.73m2として表される。ほとんどの成人のBSAは1.7(1.6~1.9)付近であるが、極度の肥満であるか痩せている患者は、CCrを実際のBSAで補正すべきである:
【数4】
【0083】
糸球体濾過値率(GFR)が低下するにつれてクレアチニン分泌が増加し、したがって、血清クレアチニンの上昇が小さくなるので、クレアチニンクリアランス測定の精度は、(採取が完璧である場合でさえも)限定される。したがって、クレアチニン排出量は、濾過負荷量よりもはるかに大きく、GFRが非常に過大評価される可能性がある(2倍もの差異)。しかし、臨床を目的とする場合、腎機能が安定しているか、悪化または改善しているかを決定することが重要である。これは、しばしば、血清クレアチニンのみのモニタリングによって決定される。クレアチニンクリアランスのように、血清クレアチニンは、ARFの非定常状態の条件下では、GFRを正確に反映しないであろう。それにもかかわらず、血清クレアチニンがベースラインから変化する程度は、GFRの変化を反映しているであろう。血清クレアチニンは、すぐに且つ容易に測定され、腎機能に特異的である。
【0084】
mL/kg/時間での尿量を測定するためには、1時間毎の採尿および測定が適切であ
る。例えば、24時間の累積排出量のみが入手可能で、患者の体重が提供されない場合のRIFLE尿量基準に対する軽度の修正方法が報告されている。例えば、Bagshawら,Nephrol.Dial.Transplant.23:1203-1210,2008は、患者の平均体重を70kgと仮定し、以下に基づいて患者をRIFLE分類に割り付けている:35mL/h未満(リスク)、21mL/h未満(損傷)、または4mL/h未満(不全)。
【0085】
処置レジメンの選択
【0086】
診断が下された時点で、臨床医は、診断に適合した処置レジメン(腎代償療法の開始、腎臓を損傷させることが知られている化合物の送達中止、腎臓移植、腎臓を損傷させることが知られている手順の延期または回避、利尿薬投与の修正、目標指向型治療の開始など)を容易に選択することができる。当業者は、本明細書中に記載の診断方法に関連して考察した多数の疾患の適切な処置を承知している。例えば、Merck Manual of Diagnosis and Therapy,17th Ed.Merck Research Laboratories,Whitehouse Station,NJ,1999を参照のこと。さらに、本明細書中に記載の方法および組成物は予後情報を提供するので、本発明のマーカーは処置過程をモニタリングするために使用することができる。例えば、予後状態の改善または悪化は、特定の処置が有効であるか有効でないことを示し得る。
【0087】
当業者は、本発明が、目的を実行し、記載された結果および利点ならびにこれらに付随しているものが得られるように十分に適応していることを容易に認識する。本明細書中に提供した実施例は、好ましい実施形態の代表するものであり、例示であり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例0088】
実施例1:造影剤腎症試料の採取
【0089】
この試料採取研究の目的は、血管内造影剤を受ける前および後の患者から血漿試料および尿試料を採取することならびに臨床データを収集することである。ヨウ素化造影剤の血管内投与を含むX線検査/血管造影手法を受けているおよそ250人の成人を登録する。この研究に登録されるには、各患者は、以下の包含基準の全てを満たさなければならず、且つ、以下の除外基準のいずれも満たしてはならない:
包含基準
18歳またはそれを超える男性および女性;
造影剤の血管内投与を含むX線検査/血管造影手法(CTスキャンまたは冠動脈介入など)を受けていること;
造影剤投与後少なくとも48時間入院するつもりであること;
研究参加に対する書面によるインフォームドコンセントを提出し、全ての研究手順を遵守することが可能であり、且つその意思があること。
除外基準
腎移植のレシピエント;
造影剤手順前に腎機能が急性に悪化していること;
登録時点で既に透析(急性または慢性)を受けているか、透析を切迫して必要としていること;
造影剤投与後48時間以内に、大手術(心肺バイパスなどを伴う)またはさらなる腎損傷の大きなリスクを伴う造影剤を使用したさらなる画像処理手順を受けることが予期されること;
過去30日以内に実験的治療を使用した介入性臨床研究に参加したこと;
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)または肝炎ウイルスへの感染がわかっていること。
【0090】
最初の造影剤投与の直前(および任意の手順前水分補給後)に、EDTA抗凝固処理済み血液試料(10mL)および尿試料(10mL)を各患者から採取する。次いで、屈折コントラスト法(index contrast procedure)の間の造影剤の最終投与から4(±0.5)、8(±1)、24(±2)48(±2)、および72(±2)時間後に血液試料および尿試料を採取する。直接静脈穿刺または他の利用可能な静脈アクセス法(既存の大腿鞘、中心静脈ライン、末梢静脈内ライン、またはhep-lockなど)によって採血する。これらの研究血液試料を臨床現場で血漿に加工し、凍結し、Astute Medical,Inc.,San Diego,CAに送付する。研究尿試料を凍結し、Astute Medical,Inc.に送付する。
【0091】
血清クレアチニンを、最初の造影剤投与直前(任意の手順前水分補給後)ならびに造影剤の最終投与から4(±0.5)、8(±1)、24(±2)および48(±2))、ならびに72(±2)時間後に(理想的には、研究試料が得られると同時に)、その現場で評価する。さらに、さらなる血清クレアチニンおよび尿クレアチニンの測定値、透析の必要性、入院状態、および有害臨床転帰(死亡率が含まれる)に関して、30日目まで各患者の状態を評価する。
【0092】
造影剤の投与前に、各患者に、以下の評価に基づいてリスクを割り付ける:収縮期血圧80mmHg未満=5ポイント;動脈内バルーンポンプ=5ポイント;鬱血性心不全(クラスIII~IVまたは肺水腫の病歴)=5ポイント;年齢75歳超=4ポイント;ヘマトクリットレベル39%未満(男性)、35%未満(女性)=3ポイント;糖尿病=3ポイント;造影剤容積=100mL毎に1ポイント;血清クレアチニンレベル1.5g/dL超=4ポイントまたは推定GFR40~60mL/分/1.73m=2ポイント、20~40mL/分/1.73m=4ポイント、20mL/分/1.73m未満=6ポイント。割り付けられるリスクは以下の通りである:CINおよび透析のリスク:合計ポイントが5またはそれ未満=CINリスク-7.5%、透析リスク-0.04%;合計ポイントが6~10=CINリスク-14%、透析リスク-0.12%;合計ポイントが11~16=CINリスク-26.1%、透析リスク-1.09%;合計ポイントが16ポイント超=CINリスク-57.3%、透析リスク-12.8%。
【0093】
実施例2:心臓手術試料の採取
【0094】
この試料採取研究の目的は、心臓血管手術(腎臓機能に損傷を与える可能性があることが公知の手順)を受ける前および後の患者から血漿試料および尿試料を採取することならびに臨床データを収集することである。かかる手術を受けているおよそ900人の成人を登録する。この研究に登録されるには、各患者は、以下の包含基準の全てを満たさなければならず、且つ、以下の除外基準のいずれも満たしてはならない:
包含基準
18歳またはそれを超える男性および女性;
心臓血管手術を受けていること;
腎性代替リスクスコアに対するトロント/オタワリスク予測指数(Wijeysunderaら,JAMA 297:1801-9,2007)が少なくとも2であること;および
研究参加に対する書面によるインフォームドコンセントを提出し、全ての研究手順を遵守することが可能であり、且つその意思があること。
除外基準
妊娠が既知であること;
以前の腎移植;
登録前に腎機能が急性に悪化していること(例えば、RIFLE基準中のいずれかのカテゴリー);
登録時点で既に透析(急性または慢性)を受けているか、透析を切迫して必要としていること;
現時点で別の臨床研究に登録しているか、AKIに対する薬物注入または治療的介入を含む心臓手術の7日以内に別の臨床研究に登録するつもりであること;
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)または肝炎ウイルスへの感染がわかっていること。
【0095】
最初の切開から3時間以内(および任意の手順前水分補給後)に、EDTA抗凝固処理済み血液試料(10mL)、全血(3mL)、および尿試料(35mL)を各患者から採取する。次いで、血液試料および尿試料を、手順から3(±0.5)、6(±0.5)、12(±1)、24(±2)、および48(±2)時間後に採取し、次いで、被験体が入院中である場合、3~7日目に毎日採取する。直接静脈穿刺または他の利用可能な静脈アクセス法(既存の大腿鞘、中心静脈ライン、末梢静脈内ライン、またはhep-lockなど)によって採血する。これらの研究血液試料を凍結し、Astute Medical,Inc.,San Diego,CAに送付する。研究尿試料を凍結し、Astute Medical,Inc.に送付する。
【0096】
実施例3:急性疾病被験体の試料採取
【0097】
この研究の目的は、急性疾病患者から試料を採取することである。少なくとも48時間の間ICUにいることが予想されるおよそ2200人の成人を登録するであろう。この研究に登録されるには、各患者は、以下の包含基準の全てを満たさなければならず、且つ、以下の除外基準のいずれも満たしてはならない:
【0098】
包含基準
18歳またはそれを超える男性および女性;
研究集団1:以下のうちの少なくとも1つを有するおよそ300人の患者:
ショック(SBP90mmHg未満および/またはMAP60mmHg超を維持するための昇圧補助の必要性および/または少なくとも40mmHgのSBPにおける低下が記録されていること);および
敗血症;
研究集団2:以下のうちの少なくとも1つを有するおよそ300人の患者:
登録の24時間以内に医師によるコンピュータオーダーエントリー(CPOE)でIV抗生物質が指示されていること;
登録の24時間以内に造影剤に曝露されていること;
急性非代償性心不全に伴って腹腔内圧が増加していること;および
登録後48時間の間のICU入院についておよびICU入院の可能性が高い主な理由としての重篤な外傷。
【0099】
研究集団3:急性腎損傷の既知のリスク因子(例えば、敗血症、低血圧症/ショック(ショック=収縮期BP90mmHg未満および/またはMAP60mmHg超を維持するための昇圧補助の必要性および/または40mmHg超のSBPにおける低下が記録されていること)、大外傷、出血、または大手術)を有する、急性医療環境(ICUまたはED)を介して入院することが予期される;および/または登録後少なくとも24時間の間にICUに入院することが予期されるおよそ300人の患者。
【0100】
研究集団4:以下のおよそ1000人の患者:21歳またはそれを超えていること、ICUに入院して24時間以内、登録後少なくとも48時間の間に留置導尿カテーテルを行うことが予期されること、登録の24時間前以内に以下:
(i)呼吸器SOFAスコア2以上(PaO2/FiO2が300未満)、
(ii)(ii)心血管SOFAスコア1以上(MAPが70mmHg未満および/または任意の昇圧が必要であること)
の急性状態のうちの少なくとも1つを有すること。
【0101】
研究集団5:以下のおよそ300人の患者:21歳またはそれを超えていること、ICUで治療を受けていること、登録時点での標準的な治療として留置導尿カテーテルを行っていること、最初の試料採取時に急性腎臓障害(KDIGOステージ2またはステージ3)に罹患していること、36時間以内に採取した試料がKDIGOステージ2基準を満たしていること。
【0102】
除外基準
妊娠が既知であること;
囚人または施設に収容された個体;
以前の腎移植;
研究集団5について緩和優先状態であること;
研究集団1、2、3、および4について登録の前に腎機能が急性に悪化したことが既知であること(例えば、RIFLE基準の任意のカテゴリー);
登録前5日以内に透析(急性または慢性)を受けているか、登録の時点で透析を切迫して必要としていること;
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)または肝炎ウイルスへの感染がわかっていること;
研究集団4および5において以下のいずれかを満たすこと:
(i)1日に4単位超のPRBCを必要とすると予測される活発な出血;
(ii)ヘモグロビン7g/dL未満;
(iii)医師の見解において、臨床研究目的での一連の血液試料の採血に対して禁忌を示すであろう任意の他の状態;
上記のSBP90mmHg未満の包含基準のみを満たし、主治医または試験責任医師の見解では、ショックを示さないこと。
【0103】
インフォームドコンセントを得た後、EDTA抗凝固処理済み血液試料(10mL)および尿試料(25~50mL)を各患者から採取する。次いで、血液試料および尿試料を、造影剤投与から4(±0.5)および8(±1)時間後(適用可能な場合);登録から12(±1)、24(±2)、36(±2)、48(±2)、60(±2)、72(±2)、および84(±2)時間後、ならびにその後被験体が入院している間の7日目~14日目まで毎日採取する。直接静脈穿刺または他の利用可能な静脈アクセス法(既存の大腿鞘、中心静脈ライン、末梢静脈内ライン、またはhep-lockなど)によって採血する。これらの研究血液試料を臨床現場で血漿に加工し、凍結し、Astute Medical,Inc.,San Diego,CAに送付する。研究尿試料を凍結し、Astute Medical,Inc.に送付する。
【0104】
実施例4.イムノアッセイ形式
【0105】
ニトロセルロースメンブレンを、バッキングカード上に予め積層し、テストライン抗体およびポジティブコントロール抗体でしまをつけた。次いで、しまをつけたニトロセルロースメンブレンを硬化させ、吸上げパッドおよびサンプルパッドを積層した。カードを幅5mmの試験ストリップに切断し、カートリッジハウジングに入れた。
【0106】
精製した組換えヒトC-Cモチーフケモカイン14タンパク質をプールした尿に添加し、系列希釈を行って、濃度範囲に及ぶ一組の標準試料を生成した。使い捨ての凍結ヒト尿試料のアリコートを、試験前の20分未満にわたり室温の水浴中で解凍した。
【0107】
100μLの試験緩衝液を、C-Cモチーフケモカイン14検出抗体をコーティングした蛍光色素負荷ポリスチレン粒子を含む凍結乾燥した結合体ビーズに添加した。100μLの標準またはヒト尿試料を、再構成した結合体溶液に添加した。次いで、100μLの尿試料/結合体混合物を、試験カートリッジの試料ポートに負荷した。およそ20分で、663nmでの蛍光発光を、644nmでの励起の際に蛍光リーダーを使用して読み取った。C-Cモチーフケモカイン14濃度を、C-Cモチーフケモカイン14標準から決定した検量線との比較によって試験尿試料に割り付けた。本明細書中で報告したC-Cモチーフケモカイン14の単位は、ng/mLである。
【0108】
実施例5.外見上健康なドナーおよび慢性疾患患者の試料
【0109】
既知の慢性疾患または急性疾患のないドナー(「外見上健康なドナー」)由来のヒト尿試料を2つの供給者(Golden West Biologicals,Inc.,27625 Commerce Center Dr.,Temecula,CA 92590およびVirginia Medical Research,Inc.,915 First Colonial Rd.,Virginia Beach,VA 23454)から購入した。尿試料が送付され、-20℃未満で凍結保存した。供給者から、個別のドナーの人口学的情報(性別、人種(黒人/白人)、喫煙状態、および年齢が含まれる)が提供された。
【0110】
種々の慢性疾患(鬱血性心不全、冠状動脈疾患、慢性腎臓疾患、慢性閉塞性肺疾患、真性糖尿病、および高血圧症が含まれる)を有するドナー(「慢性疾患患者」)由来のヒト尿試料を、Virginia Medical Research,Inc.,915 First Colonial Rd.,Virginia Beach,VA 23454から購入した。尿試料が送付され、-20℃未満で凍結保存した。年齢、性別、人種(黒人/白人)、喫煙状態、およびアルコール摂取、身長、体重、慢性疾患診断、現在の薬物投与、および既往手術を含む各個別ドナーについての症例報告書が供給者から提供された。
【0111】
実施例6.ICUに入院した患者の腎状態を評価するためのC-Cモチーフケモカイン14の使用:RIFLE IおよびFからRIFLE 0への回復
【0112】
RIFLEステージが損傷(I)または不全(F)の集中治療室(ICU)由来の患者を、以下の研究に登録する。尿試料(50mL)を、被験体が入院している間、登録時、3日目まで12時間毎、次いで、7日目まで24時間毎に各患者から採取する。登録試料中のC-Cモチーフケモカイン14濃度を、イムノアッセイによって単位をng/mLとして測定する。
【0113】
腎臓状態を、血清クレアチニン、尿量、または血清クレアチニンと尿量との両方に基づいたRIFLE基準によって評価する。2つのコホートを、「回復」集団および「非回復」集団を表すように定義する。「回復」は、回復期間が試料採取時から試料採取48時間後までに開始され得るとした場合に、72時間の最大RIFLEステージが非損傷(RIFLE0)である患者を示す。「非回復」は、回復期間が試料採取時から試料採取48時間後までに開始され得るとした場合に、72時間の最大RIFLEステージが、損傷リスク(R)、損傷(I)、または不全(F)にある患者を示す。試料採取から試料採取の48時間後までの任意の時期に患者が死亡するか腎代償療法(RRT)を行う場合、患者を、「非回復」と見なす。
【0114】
「非回復」コホートと「回復」コホートを区別する能力を、受信者動作特性下面積(A
UC)および以下の異なる濃度カットオフでの統計尺度を使用して定量する:感度(Sens)または真陽性率、特異性(Spec)または真陰性率、陰性適中度(NPV)、陽性適中度(PPV)、オッズ比(OR)、および相対リスク(RR)。濃度カットオフを、バイオマーカー濃度範囲にわたる規則的なパーセンタイル間隔で決定する。
【0115】
表6.1:非回復被験体および回復被験体の数、各コホートについての平均(標準偏差)濃度およびメジアン(四分位数間範囲)濃度、ならびにAUC(標準誤差)。
【表6.1】
【0116】
表6.2:C-Cモチーフケモカイン14の測定濃度の2~100パーセンタイルに対応するカットオフでの感度、特異性、NPV、PPV、OR、およびRR。
【表6.2-1】

【表6.2-2】

【表6.2-3】
【0117】
実施例7.ICUに入院した患者の腎状態を評価するためのC-Cモチーフケモカイン14の使用:RIFLE Fでの持続性
【0118】
RIFLEステージが損傷(I)または不全(F)の集中治療室(ICU)由来の患者を、以下の研究に登録する。尿試料(50mL)を、被験体が入院している間、登録時、3日目まで12時間毎、次いで、7日目まで24時間毎に各患者から採取する。登録試料中のC-Cモチーフケモカイン14濃度を、イムノアッセイによって単位をng/mLとして測定する。
【0119】
腎臓状態を、血清クレアチニン、尿量、または血清クレアチニンと尿量との両方に基づいたRIFLE基準によって評価する。2つのコホートを、「持続性」集団および「非持続性」集団を表すように定義する。「持続性」は、持続期間が試料採取時から試料採取48時間後までに開始され得るとした場合に、72時間の最小RIFLEステージが不全(F)である患者を示す。「非持続性」は、持続期間が試料採取時から試料採取48時間後までに開始され得るとした場合に、不全(F)で持続せず、かつ72時間の最小RIFLEステージが、非損傷(RIFLE 0)、損傷リスク(R)または損傷(I)にある患者を示す。試料採取から試料採取の48時間後までの任意の時期に患者が不全(F)後に死亡するか、腎代償療法(RRT)を行う場合、患者を、「持続性」と見なす。
【0120】
「持続性」コホートと「非持続性」コホートを区別する能力を、受信者動作特性下面積(AUC)および以下の異なる濃度カットオフでの統計尺度を使用して定量する:感度(Sens)または真陽性率、特異性(Spec)または真陰性率、陰性適中度(NPV)、陽性適中度(PPV)、オッズ比(OR)、および相対リスク(RR)。濃度カットオフを、バイオマーカー濃度範囲にわたる規則的なパーセンタイル間隔で決定する。
【0121】
表7.1:持続性被験体および非持続性被験体の数、各コホートについての平均(標準偏差)濃度およびメジアン(四分位数間範囲)濃度、ならびにAUC(標準誤差)。
【表7.1】
【0122】
表7.2:C-Cモチーフケモカイン14の測定濃度の2~100パーセンタイルに対応するカットオフでの感度、特異性、NPV、PPV、OR、およびRR(95%信頼区間)。
【表7.2-1】

【表7.2-2】
【表7.2-3】
【0123】
実施例8.持続性腎不全を除外するためのC-Cモチーフケモカイン14の血清クレアチニンとの使用
【0124】
患者コホート、試料採取、およびC-Cモチーフケモカイン14測定は、実施例7に記載のとおりである。血清クレアチニンをICU患者の標準ケア毎に院内で測定し、C-Cモチーフケモカイン14測定のための登録尿試料採取前の48時間以内に得た2つの血清クレアチニン結果の間の差を、[登録時に最も近い血清クレアチニン]-[登録時に2番目に近い血清クレアチニン]として計算する。0より大きい差の患者を、血清クレアチニン増加を有すると分類し、0以下である差の患者を血清クレアチニン不変または減少を有すると分類する。
【0125】
血清クレアチニンが不変または減少した99人の患者のうち、82人が実施例7に記載されるように持続性腎不全(RIFLE F)を発症せず、これは、陰性適中度(NPV)83%に対応していた。血清クレアチニンが不変または減少した99人の患者のうち、0.24~23.5の範囲のC-Cモチーフケモカイン14濃度カットオフを使用したNPVは、100%~84%の範囲であり(表8.1)、これは、全患者におけるNPVより高く、血清クレアチニンの差のみを使用したNPVより高かった。
【0126】
表8.1:全患者(N=311)および血清クレアチニンが不変または減少した患者における異なるC-Cモチーフケモカイン14濃度カットオフを使用したNPV。
【表8.1】
【0127】
実施例9.処置について患者を選択するための閾値の選択
【0128】
前述のデータに基づいて、例示的な閾値1ng/mLを選択した。この閾値を超えるC-Cモチーフケモカイン14濃度は、持続性AKI(RIFLE F)のオッズ比13.3、陰性適中度0.94、および陽性適中度0.46に関連している。必要に応じて、他の閾値を使用することができる。例えば、閾値15ng/mLのC-Cモチーフケモカイン14濃度から、持続性AKIのオッズ比9.3、陰性適中度0.75、および陽性適中度0.76が得られる。これにより、1ng/mLと比較して持続性AKIの「組み入れ」は改善されるが、「除外」性能はより低くなる。
【0129】
実施例10.AKIを富化するためのICU入院患者におけるC-Cモチーフケモカイン14の使用:KDIGOステージ3での持続性
【0130】
集中治療室(ICU)由来の患者を、以下の研究に登録する。EDTA抗凝固処理済み血液試料(10mL)、抗凝固薬を使用しない血清試料(3mL)、および尿試料(50mL)を、被験体が入院している間、登録時、4日目まで12時間毎、次いで、7日目まで24時間毎に各患者から採取する。
【0131】
KDIGOステージ2または3患者が富化されているが、KDIGOステージ1患者およびKDIGOステージのない患者も含む部分集団を得るためにAKIバイオマーカーを使用する。最初の集団が持続性リスクの割り付けのためのCCL14試験のために「純粋な」KDIGOステージ2または3である必要はないことを実証するため、および、AKIバイオマーカーをCCL14と併せて使用することができることを実証するために、富化部分集団は、元の患者集団と比較してKDIGOステージ2または3の有病率が少なくとも1.5倍または2倍である。
【0132】
KDIGOステージ2または3を富化した部分集団における尿中CCL14を測定する。得られたCCL14濃度を使用して、前述の部分集団内で少なくとも72時間持続する持続性KDIGOステージ3のAKIを発症するであろう患者(「持続性」) 対 少なくとも72時間持続する持続性KDIGOステージ3のAKIを発症しないであろう患者(「非持続性」)を同定する。試料が分析に含まれるかどうかを決定する手順は、以下である:第1に、試料のAKIマーカー濃度を、閾値と比較する;濃度が閾値を超える場合、AKIマーカー試料と同一の時点で尿試料を採取するか、C-Cモチーフケモカイン14値が妥当な次の利用可能な尿試料を2つの個別の分析で使用する。同時に採取した試料について、尿中C-Cモチーフケモカイン14試料の採取と血漿/血清試料の採取との間の時間差のメジアンおよび平均は、それぞれ、0時間および0.14時間である。次の利用可能な試料採取について、AKIマーカー試料の採取とC-Cモチーフケモカイン14試料の採取との間の時間は24時間しか離れておらず、時間差のメジアンおよび平均はそれぞれ15時間および17時間である。閾値を超えるKDIGOステージ2被験体およびKDIGOステージ3被験体の集団が試料組全体についてのKDIGOステージ2およびKDIGOステージ3の有病率の1.5倍および2倍になるようなAKIマーカーの濃度閾値を決定する。「持続性」または「非持続性」の腎臓状態を、C-Cモチーフケモカイン14の試料採取時間に基づいて決定する。
【0133】
表10.1は、AKIバイオマーカー、バイオマーカーが測定されるマトリクス、単位、ならびに同時(0h diff)および次の利用可能な(24h diff以下)C-Cモチーフケモカイン14試料採取についての2つの閾値濃度(1.5xおよび2x)のリストを示す。
【表10.1】
【0134】
腎臓状態を、血清クレアチニンと尿量との両方に基づいたKDIGO基準によって評価する。2つのコホートを、「持続性」集団および「非持続性」集団を表すように定義する。「持続性」は、持続期間が試料採取時から試料採取48時間後までに開始され得るとした場合に、72時間の最小KDGOステージがステージ3である患者を示す。「非持続性」は、持続期間が試料採取時から試料採取48時間後までに開始され得るとした場合に、KDIGOステージ3で持続せず、かつ72時間の最小KDIGOステージが、非AKI、KDIGOステージ1、またはKDIGOステージ2である患者を示す。試料採取から試料採取の48時間後までの任意の時期に患者がKDIGOステージ3後に死亡するか、腎代償療法(RRT)を行う場合、患者を、「持続性」と見なす。
【0135】
「持続性」コホートと「非持続性」コホートを区別する能力を、以下の統計尺度を使用した尿中C-Cモチーフケモカイン14濃度によって定量する:受信者動作特性下面積(AUC)、感度(Sens)または真陽性率、および特異性(Spec)または真陰性率。感度および特異性を、以下の3つの濃度カットオフで計算する:25パーセンタイル(第2四分位数)、50パーセンタイル(第3四分位数)、および75パーセンタイル(第4四分位数)のC-Cモチーフケモカイン14濃度。
【0136】
表10.2:異なるAKIマーカーおよび閾値(1.5xおよび2x)を用いた、C-Cモチーフケモカイン14試料の同時採取を使用したROC曲線下面積(AUC)、各分析における試料数、「持続性」試料の百分率、およびAUCについてのp値。
【表10.2】
【0137】
表10.3:同時試料採取についての25パーセンタイル、50パーセンタイル、および75パーセンタイルの濃度範囲でのC-Cモチーフケモカイン14カットオフ。異なるAKIマーカーを用いたC-Cモチーフケモカイン14の試料サイズが異なるので(上の表10.2を参照のこと)、パーセンタイルカットオフを、AUC計算で用いた各試料組に基づいて決定する。
【表10.3-1】
【表10.3-2】
【0138】
表10.4:C-Cモチーフケモカイン14試料の同時採取を用いた、各々のC-Cモチーフケモカイン14カットオフおよび異なるAKIマーカー閾値(1.5xおよび2x)での感度。
【表10.4】
【0139】
表10.5:C-Cモチーフケモカイン14試料の同時採取を用いた、各々のC-Cモチーフケモカイン14カットオフおよび異なるAKIマーカー閾値(1.5xおよび2x)での特異性。
【表10.5-1】
【表10.5-2】
【0140】
表10.6:異なるAKIマーカーおよび閾値(1.5xおよび2x)を用いた、C-Cモチーフケモカイン14試料の次の利用可能な採取を使用したROC曲線下面積(AUC)、各分析における試料数、「持続性」試料の百分率、およびAUCについてのp値。
【表10.6】
【0141】
表10.7:次に利用可能な試料採取についての25パーセンタイル、50パーセンタイル、および75パーセンタイルの濃度範囲でのC-Cモチーフケモカイン14カットオフ。異なるAKIマーカーを用いたC-Cモチーフケモカイン14の試料サイズが異なるので(上の表10.2を参照のこと)、パーセンタイルカットオフを、AUC計算で用いた各試料組に基づいて決定する。
【表10.7】
【0142】
表10.8:C-Cモチーフケモカイン14試料の次に利用可能な採取を用いた、各々のC-Cモチーフケモカイン14カットオフおよび異なるAKIマーカー閾値(1.5xおよび2x)での感度。
【表10.8-1】
【表10.8-2】
【0143】
表10.9:C-Cモチーフケモカイン14試料の次に利用可能な採取を用いた、各々のC-Cモチーフケモカイン14カットオフおよび異なるAKIマーカー閾値(1.5xおよび2x)での特異性。
【表10.9-1】
【表10.9-2】
【0144】
実施例11.患者ケアの管理におけるC-Cモチーフケモカイン14の使用
【0145】
65歳の男性は、重度の市中肺炎の診断を受けて救急部を受診した後に集中治療室(ICU)に入院している。呼吸機能不全が悪化し、適切な酸素供給を維持できないので、男性は挿管および機械的換気を施されている。男性は、低血圧も認められ、緊急輸液療法(volume resuscitation)のための数リットルの静脈内(IV)晶質液(crystalloid intravenous fluid)を受けている。男性は反応がなく、結果として、全身血圧の維持のために昇圧剤治療を開始している。男性は、全培養(panculture)され、広域スペクトル抗菌治療も受けている。
【0146】
男性の尿量は、入院以来男性は積極的な緊急輸液療法を受けていたにもかかわらず持続して0.3mL/kg/時間未満であり、血清クレアチニンは入院時レベルの1.3mg/dLから5.1mg/dLに上昇していることから、KDIGOステージIII(RIFLE F)が示唆される。男性には、FiO2およびPEEPの上昇が含まれる有意な陽圧換気補助が必要である。重症AKIを考慮して、この時点での男性のC-Cモチーフケモカイン14レベルを導き出す。
【0147】
この時点での1ng/mL未満のC-Cモチーフケモカイン14濃度は、AKIからの回復の尤度が増加し、腎機能が回復する可能性が高いことを示す。かかる患者を、保存的治療を用いて安全に管理することができる。この保存的治療は、主にループ利尿薬を使用し、通常は間欠的または持続的な静脈内注入のいずれかによって静脈内に投与される利尿治療を含む。電解質レベルおよび容積シフトに及ぼす影響を考慮して、利尿治療は、一般的に、および特にAKI患者において綿密にモニタリングする必要があるが、それにもかかわらず、利尿薬を用いた保存的管理は、より積極的な介入を用いると認められる突然の体液シフトおよび電解質流出(複数の共存症の存在および随伴性の臓器系不全の結果としての生理学的貯蔵の低下のためにAKIで可能性が高まる現象)の回避に役立ち得るので、有益である。
【0148】
利尿治療は、AKIの改善の評価を補助するためだけでなく、利尿剤および利尿に続発する電解質の喪失および水素イオンの変化および重炭酸塩の喪失の結果としても、一般的な電解質、具体的には、ナトリウム、カリウム、塩化物だけでなく、マグネシウム、カルシウム、およびリンの綿密な評価が必要である。
【0149】
逆に、この時点での15ng/mLのC-Cモチーフケモカイン14濃度は、持続性AKIの尤度の増加を示す。医師は、腎代償療法ならびに電解質および生理学のモニタリングを開始する。RRTおよび透析カテーテルの挿入を待つ一方で、患者に、高カリウム血症を減弱するための標準的な内科的処置(心膜を安定化し、膜被刺激性を低下させるための薬剤(例えば、静脈内カルシウム)および細胞内へのカリウムの細胞内シフトを容易にする薬剤(例えば、重炭酸ナトリウム、インスリンおよび同時グルコース投与、アルブテロールなどの吸入βアドレナリン作動薬)が含まれる)を施す。全静脈内溶液からカリウムを除去する。
【0150】
実施例12.患者ケアの管理におけるC-Cモチーフケモカイン14の使用
【0151】
インスリン依存性糖尿病、高血圧症、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)(後者は、全身ステロイド療法が必要であった)の病歴を有する59歳の女性は、尿路感染に続発すると推定される敗血症と診断され、集中治療室(ICU)に入院している。患者は102.3°Fの発熱を呈し、有意な桿状核球血症(bandemia)を伴う白血球数の上昇および血清中乳酸が上昇した高アニオンギャップ代謝性アシドーシスも示す。女性は、入院時に深刻な低血圧が認められ(MAP60mmHg未満)、コロイド溶液に加えて数リットルのクリスタロイド治療薬の静脈内投与を含む最初の緊急蘇生が救急部で施された後、患者は、平均動脈圧(MAP)を維持し、重要臓器の灌流を改善するために静脈内昇圧剤治療(ノルエピネフリンおよびバソプレシンが含まれる)が連続注入されている。女性はまた、切迫した呼吸不全を鑑みて、挿管および機械的換気が行われている。血管作用薬の注入を容易にし、また、中心静脈圧をモニタリングするために、右内頸静脈に三管中心静脈カテーテルも入れている。女性の全身血圧の継続的評価を可能にし、頻繁な採血を容易にするために、左撓骨動脈カテーテルも入れられている。入院後40分以内に血液培養物および尿培養物を採取し、最も可能性の高い感染性病原体について患者を処置するために広域スペクトル抗菌薬治療も開始している。
【0152】
患者のベースライン血清クレアチニンは1.5mg/dLであり、入院時の初期クレアチニンの測定値は2.3mg/dLであり、この値は24時間後に3.4に上昇する。女性の尿量は、積極的な緊急輸液療法および昇圧剤治療を開始しても最小であり、0.3ml/kg/時間を超えることはないことから、重症AKI(KDIGO基準によるとAKIステージIII、RIFLE F)が示唆される。ICUでの48時間後、依然として挿管されており、女性の酸素供給は改善されているがFiO2は45%に低下しており、PEEPは5である。女性のアシドーシスもわずかに改善されているが、女性は、平均動脈圧(MAP)を65mmHg超に維持するために依然として昇圧剤治療が必要である。血清クレアチニンの上昇、持続的な低尿量、およびそれによるAKIステージIII診断を考慮して、この時点でC-Cモチーフケモカイン14濃度を導き出す。
【0153】
この時点での1ng/mL未満のC-Cモチーフケモカイン14濃度は、AKIからの回復の尤度が増加し、腎機能が回復する可能性が高いことを示す。特に、このような全身疾病、多臓器不全、および血行動態不全を有する不安定な患者においてAKIと共に頻繁に生じる容積および電解質の有意なシフトの尤度を低下させることを考えると、保存的管理を排他的に用いる処置(それ故、RRTが使用または開始されない)はさらに有益である。
【0154】
逆に、この時点での15ng/mLのC-Cモチーフケモカイン14濃度は、持続性AKIの尤度の増加を示す。医師は、腎代償療法を開始し、電解質および生理学的パラメーターを綿密にモニタリングする。RRTおよび透析カテーテルの挿入を待つ一方で、患者に、高カリウム血症を減弱するための標準的な内科的処置(心膜を安定化し、膜被刺激性を低下させる薬剤(例えば、静脈内カルシウム)および細胞内へのカリウムの細胞内シフトを容易にする薬剤(例えば、重炭酸ナトリウム、インスリンおよび同時グルコース投与、アルブテロールなどの吸入βアドレナリン作動薬)が含まれる)を施す。全静脈内溶液からカリウムを除去する。
【0155】
実施例13.患者ケアの管理におけるC-Cモチーフケモカイン14の使用
【0156】
軽度鬱血性心不全、高脂血症、および高血圧症の病歴のある71歳の女性は、足部浮腫の悪化および運動耐性の低下を伴う労作時の進行性の息切れ(shortness of
breath)、軽度の労作および家事実施時の息切れ(breathlessnes
s)の増加により入院している。女性は長年かかりつけ医にかかっており、最近の心エコー図で左室の高血圧症および肥大、駆出率の低下、および軽度大動脈弁閉鎖不全が示されている。入院時、患者は収縮期血圧がわずかに低下しており、軽度の頸静脈拡張、S3、両肺底部ラ音、および身体検査での2+圧痕浮腫が認められ、また、胸部X線によりCHFと一致する肺血管の鬱血が示唆される。女性のECGではACS/MIの証拠は示されないが、左軸偏位およびLVHを示す。女性の血清クレアチニンは、ベースライン0.8mg/DLから2.7mg/DLまで上昇しており、入院から最初の36時間の尿量は0.5ml/kg/時間未満と一貫して低い。女性の呼吸困難は、内科的処置によりわずかに改善しているが、尿量は医学療法および慎重な静脈内水分補給を用いても増加しない。
【0157】
患者は重症AKI(KDIGO基準ステージII~III)と診断され、カリウムレベルは6.1mEq/Lまで上昇し続けていることに留意すべきである。高カリウム血症と一致するECGの変化および伝導障害は認められないが(12誘導および連続ECGモニターの両方)、患者は、偶発性の異所性心室興奮(PVC、シングレット、非持続性)を呈する。顕著なアシドーシスが認められず、血清カリウムレベルの上昇に関連するいかなる薬物療法(例えば、カリウム保持性利尿薬)も受けていない。重症AKIを考慮して、この時点での女性のC-Cモチーフケモカイン14レベルを導き出す。
【0158】
この時点での1ng/mL未満のC-Cモチーフケモカイン14濃度は、AKIからの回復の尤度が増加し、腎機能が回復する可能性が高いことを示す。患者の高カリウム血症を、内科的治療を使用した保存的治療によって管理して、適切な電解質および生理学をモニタリングしながら血清カリウムを低下させる。これらの治療は、心膜を安定化し、膜被刺激性を低下させるための薬剤(例えば、静脈内カルシウム)、細胞内へのカリウムの細胞内シフトを容易にする薬剤(例えば、重炭酸ナトリウム、インスリンおよび同時グルコース投与、アルブテロールなどの吸入βアドレナリン作動薬)、および過剰なカリウムを除去するための薬剤(例えば、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどのカリウム結合樹脂-単独またはソルビトールを含む)を含む。確実に全静脈内溶液から全てのカリウムを除去し、低カリウム食も開始するよう指示する。他の電解質、酸塩基状態と協調して、血清カリウムもカリウム上昇の処置中に1日数回モニタリングし、患者に対してECG連続モニタリングも継続して、任意のカリウムに関連する電気機械的変化を評価する。
【0159】
逆に、この時点での15ng/mLのC-Cモチーフケモカイン14濃度は、持続性AKIの尤度の増加を示す。医師は、腎代償療法ならびに電解質および生理学のモニタリングを開始する。RRTおよび透析カテーテルの挿入を待つ一方で、患者に、高カリウム血症を減弱するための標準的な内科的処置(心膜を安定化し、膜被刺激性を低下させるための薬剤(例えば、静脈内カルシウム)および細胞内へのカリウムの細胞内シフトを容易にする薬剤(例えば、重炭酸ナトリウム、インスリンおよび同時グルコース投与、アルブテロールなどの吸入βアドレナリン作動薬)が含まれる)を施す。全静脈内溶液からカリウムを除去し、低カリウム食も開始する。
【0160】
実施例14.患者ケアの管理におけるC-Cモチーフケモカイン14の使用
【0161】
鬱血性心不全(ニューヨーク心臓協会クラスII~III)の病歴があり、ACEインヒビターおよびARBを含む複数の薬物療法を受けており、高脂血症、高血圧症、糖尿病(成人発症型)、および末梢血管疾患の病歴もある67歳の男性は、特に労作時の息切れの悪化および足部浮腫および末梢浮腫の悪化により入院している。男性はかかりつけ医および心臓病専門医の両方にかかっており、男性の最新の心エコー図は、駆出率の低下、大動脈弁閉鎖不全および僧帽弁閉鎖不全の悪化、および左心室肥大の増大を示す。入院時の男性の血圧は155/95であり、心拍数は110(正常洞調律)であり、両肺底部ラ音および2+圧痕浮腫があり、心臓肥大および両側肺血管鬱血は、5ヶ月前に実施した胸部
X線より悪化している。男性のECGは、偶発性PVC、左軸偏位、およびLVHを示す。男性の血清クレアチニンは、ベースライン1.3mg/DLから3.3mg/DLまで上昇し、入院から最初の36時間の尿量は0.5ml/kg/時間未満と一貫して低く、静脈内利尿の投与後でも最小限にしか改善されない。男性はICUに入院しており、変力支持のためのドブタミン投与の開始を決定する。患者は、入院時のレベル上昇に起因して最初に保持されたジゴキシンを有することに留意すべきである。
【0162】
患者は重症AKI(KDIGO基準ステージII~III)と診断され、血清カリウムは6.3mEq/Lレベルまで上昇し続けている。男性は、ECGの胸部誘導を通していくつかのT波ピークを有するが、12誘導および連続ECGモニターにおけるQRS群は不変のままである。男性の血清pHは、7.35である。重症AKIを考慮して、この時点での男性のC-Cモチーフケモカイン14レベルを導き出す。
【0163】
この時点での1ng/mL未満のC-Cモチーフケモカイン14濃度は、AKIからの回復の尤度が増加し、腎機能が回復する可能性が高いことを示す。かかる患者を、保存的治療を用いて安全に管理することができる。この保存的治療は、主にループ利尿薬を使用し、通常は間欠的または持続的な静脈内注入のいずれかによって静脈内に投与される利尿治療を含む。電解質レベルおよび容積シフトに及ぼす影響を考慮して、利尿治療は、一般的に、および特にAKI患者において綿密にモニタリングする必要があるが、それにもかかわらず、利尿薬を用いた保存的管理は、より積極的な介入を用いると認められる突然の体液シフトおよび電解質流出(複数の共存症の存在および随伴性の臓器系不全の結果としての生理学的貯蔵の低下のためにAKIで可能性が高まる現象)の回避に役立ち得るので、有益である。
【0164】
利尿治療は、AKIの改善の評価を補助するためだけでなく、利尿剤および利尿に続発する電解質の喪失および水素イオンの変化および重炭酸塩の喪失の結果としても、一般的な電解質、具体的には、ナトリウム、カリウム、塩化物だけでなく、マグネシウム、カルシウム、およびリンの綿密な評価が必要である。
【0165】
逆に、この時点での15ng/mLのC-Cモチーフケモカイン14濃度は、持続性AKIの尤度の増加を示す。医師は、腎代償療法ならびに電解質および生理学のモニタリングを開始する。RRTおよび透析カテーテルの挿入を待つ一方で、患者に、高カリウム血症を減弱するための標準的な内科的処置(心膜を安定化し、膜被刺激性を低下させるための薬剤(例えば、静脈内カルシウム)および細胞内へのカリウムの細胞内シフトを容易にする薬剤(例えば、重炭酸ナトリウム、インスリンおよび同時グルコース投与、アルブテロールなどの吸入βアドレナリン作動薬)が含まれる)を施す。全静脈内溶液からカリウムを除去し、低カリウム食も開始する。
【0166】
実施例15.患者ケアの管理におけるC-Cモチーフケモカイン14の使用
【0167】
過去に大きな病歴や手術歴のない51歳の男性は、救急部を受診している。男性は強い腹痛を伴い、悪心、嘔吐、発熱、および悪寒を伴い、突然の移動または位置の変化によって悪化している。男性は、タバコ、アルコール、薬物乱用の履歴を否定しており、薬物療法を行っていない。男性は、概して健康であり、糖尿病、高血圧症、COPD、心臓疾患、消化性潰瘍症、他の胃腸の病歴が無く、腸、膀胱、腎臓、肝臓に問題や病理がない。男性の妻は、男性が約4日前に腹痛を訴え始め、この2日間は飲食していなかったと述べている。男性がベッドから起き上がることができず、痛みのために発汗し、うめき声を上げているので、妻はEMSを要請し、男性を救急部に運び込んだ。
【0168】
来院時、患者は多呼吸(tachypneic)および頻脈が認められ、心拍数120
(正常洞調律)、血圧105/58、および呼吸数20である。男性の胸部は明瞭であり、心臓検査は正常であるが(頻脈を除く)、しかしながら;腹部試験で、全ての四分円部分であるが、最も顕著には右下部四分円部分に有意な防御および反跳圧痛が明らかとなる。男性の体温は100.8°Fであり、白血球数は19.0であり(88%が未熟な形態)、血清乳酸2.3、アニオンギャップ16、および2リットルの鼻カニューレOでの血液ガス7.36/36/88である。胸部X線を行い、肺の病理は認められないが、右肺にいくらかの横隔膜下空気が認められる。腹部CTを行ったところ虫垂炎が示唆され、直ちに外科医に相談する。外科的介入のために患者を手術室に搬送する。患者は、虫垂破裂および広汎性腹膜炎が認められる。その他の点では男性の手術は日常的なものであり、回復室、次いで、ICUに移され、依然として挿管されている。救急部で広域スペクトル抗生物質が開始され、急性腹症および腹膜炎を考慮して継続されている。複数の血液培養物および腹膜培養物を送付する。
【0169】
患者は挿管されたままであり、低血圧(低MAP)および最小尿量(0.3ml/kg/時間未満)に起因して、必要とされる有意且つ増加した静脈内溶液注入を数日間継続する(平衡クリスタロイド治療が提供される主な溶液である)。積極的な溶液による水分補給にもかかわらず男性の血圧は低下し続け、昇圧剤治療も開始する。さらに、男性の白血球数は増加し続け、男性の体温は急上昇し続け、腹腔内体液を隔離して他の空間に蓄積しているようである。FiO2およびPEEPを増加させる必要があるので、換気を悪化させる必要もあり、敗血症性ARDSが示唆される。男性の血清クレアチニン(入院時0.8mg/dL)は、3日目までに4.4mg/dLまで上昇していることに留意すべきである。男性の乳酸は術後最初は低下していたが、2日目に2.6に上昇している。患者はまた、血清重炭酸塩が低く、アニオンギャップアシドーシスが悪化している。男性の血清pHは7.21であり、75%FiO2においてpCO2 26およびpO2 78、一回換気量500(患者の理想体重は90kgである)、PEEP 8、および呼吸数26(呼吸数を、20回/分で設定している)である。
【0170】
患者の血清クレアチニンおよび低尿量に基づいて、男性を重症AKI(KDIGOステージIII)と診断する。敗血症およびその関連する続発症、持続的に低いMAP、およびAKIが含まれるいくつかの要因の結果として、重症アシドーシスおよびアカデミア(academia)も発症している。重症AKIを考慮して、この時点での男性のC-Cモチーフケモカイン14レベルを導き出す。
【0171】
この時点での1ng/mL未満のC-Cモチーフケモカイン14濃度は、AKIからの回復の尤度が増加し、腎機能が回復する可能性が高いことを示す。結果として、保存的治療を用いてこの患者の状態およびアシドーシスを管理することを決定する。アシドーシスを、医学療法および以下のアプローチによる綿密なモニタリングによって積極的に管理することができる:
・基礎疾患の処置(例えば、感染、敗血症、心機能不全、重症不整脈、呼吸不全などの処置)
・前の節に記載の容積の欠損および血管内容積の枯渇の補正。
・前の節に記載の昇圧剤および血管作用薬の使用。
・重症貧血が認められる場合の血液および血液製剤の輸注
・重症低温症の処置(認められる場合)
・機械的換気が必要な患者における過換気および換気パラメーターの調整。
・アシドーシスが重篤である場合、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)も有益であり得る。
【0172】
重症アシドーシス患者は、電解質、特に、血清カリウム(後に続く細胞内および細胞外シフトを考慮)および血清ナトリウム(特に患者が重炭酸ナトリウム、ナトリウム溶液お
よび電解質を含む抗菌治療、ならびに他のナトリウムおよび塩ベースの溶液を投与される場合)の綿密な評価も必要であろう。
【0173】
逆に、この時点での15ng/mLのC-Cモチーフケモカイン14濃度は、持続性AKIの尤度の増加を示す。医師は、腎代償療法ならびに電解質および生理学のモニタリングを開始する。RRTおよび透析カテーテルの挿入を待つ一方で、患者に、高カリウム血症を減弱するための標準的な内科的処置(心膜を安定化し、膜被刺激性を低下させるための薬剤(例えば、静脈内カルシウム)および細胞内へのカリウムの細胞内シフトを容易にする薬剤(例えば、重炭酸ナトリウム、インスリンおよび同時グルコース投与、アルブテロールなどの吸入βアドレナリン作動薬)が含まれる)を施す。全静脈内溶液からカリウムを除去する。
【0174】
当業者が本発明を実施し、使用するのに十分に詳細に本発明を記載し、例示してきたが、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、種々の変更形態、修正形態、および改善形態が明らかなはずである。本明細書中に提供した実施例は、好ましい実施形態を代表するものであり、例示であり、本発明の範囲を限定することを意図しない。当業者は、本発明の修正形態および他の使用を考えつくであろう。これらの修正形態は、本発明の意図の範囲内に含まれ、特許請求の範囲によって定義される。
【0175】
本発明の範囲および意図を逸脱することなく、本明細書中に開示の発明を様々に置換および修正することができることが当業者に容易に明らかであろう。
【0176】
本明細書中に言及した全ての特許および刊行物は、本発明の属する当業者のレベルを示している。全ての特許および刊行物は、各々の個別の刊行物が具体的且つ個別に参考として援用されることを示すのと同程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0177】
本明細書中に例証的に記載されている本発明は、本明細書中に具体的に開示されていない任意のまたは複数の要素または限定が無い場合に適切に実施可能である。従って、例えば、本明細書中の各々の例において、用語「含む」、「本質的に~からなる」、および「~からなる」のいずれかは、他の2つの用語のうちのいずれかと置換することができる。使用されている用語および表現は、制限ではなく説明の用語として使用され、かかる用語および表現の使用により、示され、記載された特徴のいかなる等価物またはその部分も排除する意図はないが、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内で種々の修正が可能であることが認識される。従って、本発明は、好ましい実施形態および必要に応じた特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書中に開示の概念の修正および変形が当業者によって実施することができること、およびこのような修正および変形が添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあると見なされることを理解すべきである。
【0178】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内で記載される。
【配列表】
2022091846000001.app