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▶ キシンテラ、アクチボラグの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091876
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】神経幹細胞のマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220614BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220614BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20220614BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20220614BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220614BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220614BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220614BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20220614BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 49/16 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20220614BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220614BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20220614BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20220614BHJP
   A61K 35/48 20150101ALI20220614BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20220614BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20220614BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/68 ZNA
C12N5/0797
C12N5/079
C12N5/0775
C07K14/705
C07K16/28
C12Q1/6851 Z
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K49/16
A61K51/10
A61K35/30
A61K35/28
A61K35/35
A61K35/51
A61K35/48
A61K35/14 Z
A61K35/50
A61P25/00
A61P9/10
A61P35/00
A61P25/02
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022048479
(22)【出願日】2022-03-24
(62)【分割の表示】P 2019509526の分割
【原出願日】2017-08-17
(31)【優先権主張番号】1651107-3
(32)【優先日】2016-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】509254926
【氏名又は名称】キシンテラ、アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】XINTELA AB
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】ルンドグレン エイカールンド, エヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ケミラースカ マソウミ, カタージナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】神経幹細胞(NSC)および神経前駆細胞(NPC)の同定と単離に適した特異的なマーカーに対する未だ対処されていない必要性が存在する。
【解決手段】神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10サブユニットを含むマーカーの哺乳類神経幹細胞および哺乳類神経前駆細胞のためのマーカーとしての使用。
また、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するための方法であって、
a)神経組織を含む試料を用意するステップと、
b)前記a)の試料に含まれる細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現を検出するステップと、
c)前記b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)前記c)でのスコア付けに従って前記哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を同定するステップと
を含む、方法。
【選択図】図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10サブユニットを含むマーカーの哺乳類神経幹細胞および哺乳類神経前駆細胞のためのマーカーとしての使用。
【請求項2】
哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するための方法であって、
a)神経組織を含む試料を用意するステップと、
b)前記a)の試料に含まれる細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現を検出するステップと、
c)前記b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)前記c)でのスコア付けに従って前記哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を同定するステップと
を含む、方法。
【請求項3】
哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を単離するための方法であって、
a)神経組織を含む試料を用意するステップと、
b)前記a)の試料に含まれる細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現を検出するステップと、
c)前記b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)前記c)でのスコア付けに従って前記哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を選択するステップと
を含む、方法。
【請求項4】
前記インテグリンα10サブユニットが前記哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の細胞表面で発現される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項5】
前記インテグリンα10サブユニットが哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞において細胞内で発現される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項6】
前記インテグリンα10がインテグリンβ1サブユニットとの組み合わせでヘテロ二量体として発現される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項7】
前記b)の検出の前にインテグリンα10サブユニットを特異的に結合する抗体と前記試料を接触させるステップをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項8】
Nestin、PSA-NCAM、GFAP、PDFGRα、SOX-2、CD133(プロミニン-1)、CD15、CD24、Musashi、EGFR、Doublecortin(DCX)、Pax6、FABP7、LeX、VimentinおよびGLASTからなる群から選択される第2のマーカーの発現を検出することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項9】
前記方法がin vitroで行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記神経組織が神経幹細胞および/または神経前駆細胞を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記神経組織が脳組織から得られるまたは脳組織に由来する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記神経組織が成体脳組織である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記神経組織が胎仔脳組織である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記神経組織が脳室下帯(SVZ)もしくは顆粒細胞下帯(SGZ)もしくは髄膜に由来する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記神経組織がヒト、イヌ、ウマ、ウシ、ネコ、マウス、ヒツジまたはブタの神経組織からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
細胞によるインテグリンα10サブユニット発現の前記検出がフローサイトメトリーによって決定される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
細胞によるインテグリンα10サブユニット発現の前記検出がインテグリンα10タンパク質発現を測定することによって決定される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
細胞によるインテグリンα10サブユニット発現の前記検出がインテグリンα10mRNA発現を測定することによって決定される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
細胞によるインテグリンα10サブユニット発現の前記検出が免疫測定法、免疫沈降法、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、およびウエスタンブロット法からなる群から選択される方法によって決定される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
細胞によるインテグリンα10サブユニット発現の検出のために用いられる前記抗体がモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体またはそれらのフラグメントである、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が非ヒト抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体がフルオロフォア、酵素または放射性トレーサーもしくは放射性同位体からなる群から選択される検出可能部分などの、検出可能部分に共有結合される、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体がIgA、IgD、IgGおよびIgMからなる群から選択されるアイソタイプを有する、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体が
a)受入番号DSM ACC2583のもとでDeutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって生成される、モノクローナル抗体、または
b)受入番号DSM ACC2583のもとでDeutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されたハイブリドーマによって生成されるモノクローナル抗体により結合されるエピトープと同じエピトープへの結合について競合する抗体、または
c)a)もしくはb)のフラグメントであって、前記フラグメントがインテグリンα10サブユニット鎖の細胞外I-ドメインに特異的に結合できる、フラグメント
である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体が固体支持体に結合される、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が1または複数のフルオロフォアで標識される、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記フルオロフォアがフィコエリトリン、アロフィコシアニン、フルオレセイン、Texasレッド、またはAlexa Fluor 647、ブリリアント染料である、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体が検出に適した部分をさらに含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記検出に適した部分がナノ粒子、および放射性同位体から選択される、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記ナノ粒子がミセル、非弾性シェル、ナノチューブ粒子、リポソーム、金ナノ粒子およびポリマーからなる群から選択される、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記放射性同位体がβ放射体、オージェ放射体、転換電子放射体、α放射体、および低光子エネルギー放射体からなる群から選択される、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記検出可能部分が常磁性同位体を含むまたは常磁性同位体からなる、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記常磁性同位体が157Gd、55Mn、162Dy、52Crおよび56Feからなる群から選択される、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記検出可能部分がSPECT、PET、MRI、光画像診断または超音波画像診断などの画像化技術によって検出できる、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
試験化合物がin vitroで哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞の分化を調節するかどうかを決定するための方法であって、
a)インテグリンα10サブユニットを発現する、または発現する能力を有する神経幹細胞および/または神経前駆細胞を用意するステップと、
b)前記神経幹細胞および/または前記神経前駆細胞を試験化合物と接触させるステップと、
c)前記試験化合物が神経幹細胞および/または神経前駆細胞の分化を調節する指標として前記神経幹細胞および/または神経前駆細胞の分化の速度またはパターンにおける変化を検出するステップと
を含み、前記分化の速度またはパターンが請求項2~35のいずれか1項に記載の方法に従って細胞によるインテグリンα10発現を検出することによって決定される、方法。
【請求項37】
基準集団と比較して神経幹細胞および/または神経前駆細胞に関して濃縮されている哺乳類細胞の単離集団をin vitroで製造するための方法であって、
a)神経幹細胞および/または神経前駆細胞を含む、細胞集団の少なくとも一部、または基準集団の一部を用意するステップと、
b)前記神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10サブユニットを同定する化合物を上記a)の細胞集団に導入するステップと、
c)上記b)の細胞集団から前記神経幹細胞および/または神経前駆細胞を選択し単離する、もしくは単離し選択する、もしくは単離する、もしくは選択するステップと
を含み、それによって神経幹細胞および/または神経前駆細胞に関して濃縮された細胞集団を生成する、方法。
【請求項38】
前記神経幹細胞および/または前記神経前駆細胞が請求項2~35のいずれか1項に記載の方法によって同定されるおよび/または単離される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ステップc)における選択が蛍光細胞選別または磁気ビーズ選別によって行われる、請求項37および38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
インテグリンα10サブユニットを発現する未分化哺乳類細胞のin vitro細胞培養物であって、前記細胞が神経組織に由来しかつ
a)培養中の細胞が(b)に記載の血清および増殖誘導成長因子の両方を実質的に含まない培地中で分化される場合にニューロンおよび/またはオリゴデンドサイトおよび/またはアストロサイトに分化する能力を有して少なくとも10%ニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトの細胞培養物を生成し、
b)前記細胞培養物がB27などの血清代替物と少なくとも1つの増殖誘導成長因子とを含有する培地中で分裂し、
c)培養中の細胞が前記血清代替物および増殖誘導成長因子の両方を取り除くとニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトに分化する、
細胞培養物。
【請求項41】
a)B27などの血清代替物と少なくとも1つの増殖誘導成長因子とを含む培地と、
b)哺乳類の中枢神経系に由来する未分化哺乳類細胞であって、前記細胞の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%がインテグリンα10サブユニットを発現する、未分化哺乳類細胞と
を含むin vitro細胞培養物。
【請求項42】
インテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類未分化細胞の浮遊培養物であって、前記細胞が実質的に細胞凝集体に形成され、かつ前記細胞凝集体が増殖誘導成長因子を含有する培地中で維持される、浮遊培養物。
【請求項43】
請求項3~28のいずれか1項に記載の方法によって得られる細胞培養物。
【請求項44】
前記インテグリンα10がインテグリンβ1鎖との組み合わせでてヘテロ二量体として発現される、請求項40~42のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項45】
前記インテグリンα10サブユニットが未分化哺乳類細胞の細胞表面で発現される、請求項40~44のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項46】
前記インテグリンα10サブユニットが未分化哺乳類細胞において細胞内で発現される、請求項40~45のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項47】
前記未分化哺乳類細胞の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%がインテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞である、請求項40~46のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項48】
前記未分化哺乳類細胞が神経幹細胞または神経前駆細胞である、請求項40~47のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項49】
前記培養中の細胞の一部がnestin、PSA-NCAM、GFAP、SOX2、PDGFRα、CD133、CD15、CD24、Musashi、EGFR、Doublecortin(DCX)、Pax6、FABP7およびGLASTからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーをさらに発現する、請求項40~48のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項50】
前記少なくとも1つの増殖誘導成長因子が上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)、トランスフォーミング成長因子α(TGF-α)、白血病抑制因子(LIF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、PDGFαまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項40~49のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項51】
前記培養中の細胞が哺乳類脳の脳室下帯(SVZ)もしくは顆粒細胞下帯(SGZ)もしくは髄膜から得られるまたは生じる、請求項40~50のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項52】
前記培養中の細胞がネズミである、請求項40~51のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項53】
前記培養中の細胞がヒトである、請求項40~52のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項54】
前記培養中の細胞がヒト胎児もしくはヒト成体の神経幹細胞および/または神経前駆細胞に由来する、請求項40~53のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項55】
前記培養中の細胞がヒト胚細胞またはヒト胎児に由来しない、請求項40~54のいずれか1項に記載の細胞培養物または浮遊培養物。
【請求項56】
それを必要とする対象において神経系の疾患もしくは損傷を治療する及び/または神経系の損傷を防止するおよび損傷から保護する方法であって、
a)哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、前記細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)前記対象に哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の単離集団の治療的有効量を投与することと
を含み、それによって中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する、方法。
【請求項57】
それを必要とする対象において精神および行動の障害を治療する方法であって、
a)哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、前記細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)前記対象に哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の単離集団の治療的有効量を投与することと
を含み、それによって精神症状を伴う神経障害を治療する、方法。
【請求項58】
それを必要とする対象において神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または神経系の損傷を防止するおよび損傷から保護する方法であって、
a)哺乳類間葉系幹細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、前記細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)前記対象に哺乳類間葉系幹細胞の単離集団の治療的有効量を投与することと
を含み、それによって中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する、方法。
【請求項59】
それを必要とする対象において精神障害または行動障害を治療する方法であって、
a)哺乳類間葉系幹細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、前記細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)前記対象に哺乳類間葉系幹細胞の単離集団の治療的有効量を投与することと
を含み、それによって精神症状を伴う神経障害を治療する、方法。
【請求項60】
前記哺乳類間葉系幹細胞が骨髄もしくは脂肪組織もしくは臍帯血もしくはワルトン膠質もしくは歯髄もしくは脊髄組織もしくは血液もしくは羊水もしくは羊膜もしくは子宮内膜もしくは肢芽もしくは唾液腺もしくは皮膚もしくは包皮もしくは滑膜から単離される、請求項58~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
それを必要とする患者においてCNSの損傷部位または患部の特性を決定するin vitroの方法であって、
a)対象に抗インテグリンα10サブユニットを投与するステップと、
b)前記対象のCNSの損傷部位または患部におけるインテグリンα10サブユニットの発現を検出するステップと、
c)CNSの前記損傷部位または患部の位置および大きさなどの特性を決定するステップと
を含む、方法。
【請求項62】
前記神経組織が神経幹細胞および/または神経前駆細胞を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記特性が脳卒中後のCNS組織の再生の程度を予測するために用いられる、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
インテグリンα10サブユニット発現の高い値が修正ランキンスケール(mRS)の低い値に対応する、請求項61~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記インテグリンα10サブユニットがバイオマーカーパネルで用いられる、請求項61~64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または神経系の損傷を防止するおよび損傷から保護するためのおよび/または精神障害と行動障害を治療するための、あるいは前記疾患もしくは損傷を診断するおよび/または特徴づけるための方法での使用のための、前記神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10鎖サブユニットを含む、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類前駆細胞のためのマーカー。
【請求項67】
神経系の疾患もしくは損傷および/または精神障害と行動障害を治療する方法での使用のためのインテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞の単離された集団を含む組成物。
【請求項68】
前記インテグリンα10がインテグリンβ1鎖との組み合わせでヘテロ二量体として発現される、請求項56~67のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項69】
前記インテグリンα10サブユニットが哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の細胞表面に発現する、請求項56~68のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項70】
前記インテグリンα10サブユニットが哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞において細胞内で発現される、請求項56~69のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項71】
前記細胞集団がインテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞に関して濃縮される、請求項56~70のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項72】
前記神経系の疾患もしくは損傷が中枢神経系または末梢神経系の傷害もしくは神経変性疾患である、請求項56~71のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項73】
前記神経系の傷害が脊髄傷害(SCI)、外傷性脳損傷(TBI)、末梢神経損傷、脳卒中および脳癌からなる群から選択される、請求項56~72のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項74】
前記神経系の傷害が脳卒中である、請求項56~73のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項75】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)および多系統萎縮症からなる群から選択される、請求項56~73のいずれか1項に記載の方法、マーカーまたは組成物。
【請求項76】
前記精神障害または行動障害がレット症候群、統合失調症、うつ病、自閉症スペクトラム症(ASD)および双極性障害(BPD)からなる群から選択される、請求項56~73のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカーまたは組成物。
【請求項77】
前記神経幹細胞が請求項2~55のいずれか1項に定義されるような方法を用いて単離される、または前記神経幹細胞が請求項2~55のいずれか1項に定義されるようである、請求項56~73のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカーまたは組成物。
【請求項78】
前記神経幹細胞が同種神経幹細胞である、請求項1~77のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカー、または組成物。
【請求項79】
前記神経幹細胞が自家神経幹細胞である、請求項1~78のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカー、または組成物。
【請求項80】
前記神経前駆細胞が同種神経前駆細胞である、請求項1~81のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカー、または組成物。
【請求項81】
前記神経前駆細胞が自家神経前駆細胞である、請求項1~80のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカー、または組成物。
【請求項82】
前記間葉系幹細胞が同種間葉系幹細胞である、請求項1~81のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカー、または組成物。
【請求項83】
前記間葉系幹細胞が自家間葉系幹細胞である、請求項1~82のいずれか1項に記載の方法、使用のためのマーカー、または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類の神経幹細胞および神経前駆細胞の同定および単離のためのマーカー、ならびに神経幹細胞および神経前駆細胞を濃縮した細胞集団を調製するためのその使用に関する。本発明はさらに、神経系の疾患および損傷を治療するため、ならびに神経系損傷を防止し、損傷から保護するための神経幹細胞、神経前駆細胞および間葉系幹細胞の使用に関する。さらに、本発明は、損傷を検出し診断するための、および予後マーカーとしてのこのマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系(脳、脊髄および末梢神経)を構成する複雑で繊細な構造は、外傷から進行性悪化を起こす神経変性疾患にわたる種々の種類の傷害に影響されやすい。残念ながら、傷害後、自然な再生、修復または治癒が生じるのはごくわずかである。したがって、脳損傷、脊髄傷害による麻痺および末梢神経の損傷は、永続的で機能不能であることが多い。重度の神経系傷害または重篤な脳卒中の患者は、生涯にわたる支援を必要とすることが多い。脳卒中は、特に先進国において、最も多い死因および成人能力障害の一つである。しかし、現在までのところ治療の選択肢は、極めて限定されている。したがって、神経損傷および脳卒中の治療を進めるために、革新的で、新しい戦略が必要とされる。
【0003】
神経幹細胞(NSC)は、かなりの数のニューロンとグリアとの両方の前駆細胞を増殖し、自己複製し、生成する能力を有する中枢神経系(CNS)中の細胞である。成体神経発生の過程で、NSCは、NSCの自己複製、一過性の増幅する前駆細胞、神経芽細胞、および最終的に成熟したニューロン、アストロサイト、ならびにオリゴデンドロサイトを含む、多数の段階を経る(Gage F.H.とTemple S.,2013)。NSCは、胚マウス、ラットおよびヒトCNSのほぼすべての領域で確認されている。成体のCNSにおいて、神経幹細胞および神経前駆細胞は、特殊化した幹細胞ニッチで神経発生に寄与することが示されている。NSCはこのように、疾患および損傷後の神経組織の再生に有用である。
【0004】
神経幹細胞(NSC)および前駆細胞(NPC)は、それらを脳損傷および神経変性障害での細胞療法の候補にする中枢神経系のすべての主要な細胞型を形成する能力を有する。しかし、2つの理由から、臨床適用のための細胞療法の開発が妨げられてきた。理由の1つは、ヒト組織からNSCを単離し療法用の十分な量で細胞を増やすことが困難なことである。もう1つの理由は、さらに分化した細胞型、および他の細胞が混入している細胞からNSCを精製することができないことである。したがって、神経幹細胞/神経前駆細胞(NSC)の特異的細胞マーカーが、治療的応用のためのヒトNSCの同定、単離および選択にとって重要である。
【0005】
いくつかのマーカーが長年にわたって、異なる細胞型および分化段階を確認するのに使用されてきた。
【0006】
Sox2(SRY box2)(転写因子のSoxファミリーのメンバー)およびNestin(細胞内フィラメントタンパク質)は、胚脳および成熟脳の両方においてNSCのマーカーとして頻繁に利用されている。しかし、両マーカーは細胞内に存在するので、機能性NSCを単離し選択するためにそれらを容易に用いることができない。
【0007】
PSA-NCAM(ポリシアル酸付加神経細胞接着分子)は、脳の発達期に神経前駆細胞内で高度に発現する。しかし、それは分化した神経細胞中でも見いだされる(Kim HSら,2014;Butenschon Jら,2016)。
【0008】
GFAP(中間フィラメントタンパク質である、グリア線維酸性タンパク質)は、神経前駆細胞に見いだされるが、成熟アストロサイト中の主要な中間フィラメントタンパク質としても主に見いだされる(Zhang QBら,2006)。
【0009】
CD133(プロミニン-1)は、NSCを含む様々な幹細胞型に存在するが、分化細胞上にも発現する(Kania G, Corbeil D, Fuchs Jら,2005;Zhang QBら,2006)。
【0010】
PDGFR-αは成体中枢神経系全体にわたり見いだされ、心室壁にそって均一に分布している(Chojnackiら,2011)。成体脳室下帯(SVZ)内で、PDGFR-αは、B型神経幹細胞であり(Jacksonら,2006)主にオリゴデンドロサイトを産生する(Chojnackiら,2011)細胞の特定の集団を標識することが見いだされている。複数の研究は、PDGFR-αがニューロン生成とオリゴデンドロサイト生成の間のバランスを調節することを示唆している(FarahaniとXaymardan 2015)。PDGFR-αはこのように、いくつかの分化した神経細胞によって発現されるが、主にオリゴデンドロサイト前駆細胞で見いだされる。
【0011】
Musashi-1(Msi-1)(RNA結合タンパク質)は、CNS幹細胞および前駆細胞中で発現され、そこで増殖と維持を調節すると推定される(概説については、MacNicolら,2008を参照されたい)。しかし、Msi-1は、細胞質および細胞核に、すなわち細胞内に局在し、したがって機能性NSCを単離し選択するために容易に用いることができない。
【0012】
CD24は、免疫細胞と中枢神経系細胞に見いだされる細胞接着分子である。脳内で、CD24は若年成体マウスの神経原性帯内に見いだされPSA-NCAMと共局在するので、神経芽細胞(A型NSC)マーカーとして認識される(Calaoraら,1996)。CD24は、フローサイトメトリーによりマウス脳からNSCを単離するために用いられており(Rietzeら,2001;Panchisionら,2009)、他の細胞表面マーカー(例えばCD15およびCD29)と組み合わせて、ニューロン培養物を濃縮するのに用いられる(Pruszakら,2009)。しかし、CD24のレベルはニューロン細胞が成熟すると増加するので、CD24は初期のニューロン分化のマーカーとも考えられる(Pruszakら,2009)。
【0013】
LeX(別名SSEA-1またはCD15)は、成体中枢神経系の室の内側を覆っている未成熟の神経上皮細胞のマーカーであり、かつ分化する有糸分裂後のニューロンのマーカーである(Calaoraら,1996;CapelaとTemple,2002)。その発現はGFAPと重複するが、SVZから単離されるほんのわずかな(4%)細胞がLeX陽性である。LeXが細胞外ニッチにおいてSVZ細胞によって取り除かれるという事実は、遊離LeXのレベルがそのように低いことを説明し得る。さらに、LeXは成体マウスSVZのB型細胞とC型細胞の両方によって発現されるが、A型(神経芽細胞)によっては発現されない(CapelaとTemple,2006)。
【0014】
Vimentinは、初期の脳の発達中に放射状神経膠と未熟なアストロサイトによって主に発現される主な中間径フィラメントタンパク質の1つである。
【0015】
β-IIIチューブリンまたはTuj1は、未熟なニューロンの細胞内フィラメントマーカーである。β-IIIは、軸索ガイダンスと維持に関与する。
【0016】
最後に、インテグリンファミリーのいくつかのメンバーがヒト神経幹細胞のマーカーとして提案されており、12の異なるインテグリンからなり異なるαサブユニットがインテグリンβ1と結合されて異なる機能をもつ独特の受容体を形成するβ1サブファミリーのいくつかのインテグリンを含む。インテグリンサブユニットβ1は、胎児脳組織からNSCを選択するために用いられてきたが、しかし、β1サブファミリーのインテグリンは分化細胞を含むほとんどの細胞に存在しているので、β1サブユニットに基づく選択は特異的ではない。β1と組むのはNSC上のどのαインテグリンかは不明である。α2、α3、α5、α6およびα7の発現はNSC上ですべて検出されている(Flanaganら,2006)が、これらのインテグリンは種々の細胞型上にも存在する。Hall PEら(2006)は、ヒトNSCの可能性のあるマーカーとして二量体インテグリンα6β1を用いることを提案した。このインテグリンは血管ラミニンの受容体であり、血小板粘着、活性化および動脈血栓症で役割を果たすことが知られている。
【0017】
結論として、神経幹細胞および神経前駆細胞の同定と単離に適した特異的なマーカーに対する未だ対処されていない必要性が存在する。
【発明の概要】
【0018】
インテグリンα10β1は、軟骨細胞で見つかるII型コラーゲン結合受容体である(Camperら,1998)。インテグリンα10β1は、軟骨細胞上の主要なコラーゲン結合インテグリンであり、発達期および成体組織の両方において軟骨で高度に発現される(Camperら,2001)。インテグリンα10β1は、間葉系幹細胞(MSC)によっても発現される(Varasら,2007)。線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)がインテグリンα10β1の発現を増加させMSCの軟骨形成の可能性を向上させることがさらに示されている(Varasら,2007)。Bengtssonら(2005)は、インテグリンα10β1欠如マウスが軟骨成長板に欠損を有し、結果として、長骨の成長遅延を発症することを示した。最近の研究は、イヌα10インテグリン遺伝子の自然発生変異が猟犬類の軟骨発育不全に関与することを明らかにし(Kyoostilaら,2013)、骨格発達におけるα10β1の重要な役割を裏づけている。
【0019】
本発明者らは意外にも、神経組織由来の神経幹細胞および神経前駆細胞上でヘテロ二量体α10β1の発現を検出し、哺乳類神経幹細胞および神経前駆細胞の同定と単離のための選択マーカーとしてその用途を本明細書に開示する。上述のNSC表面マーカーとは対照的に、インテグリンα10β1は、共局在の調査(図3、6、7、8、9、10、11および12)が示すように成体マウスSVZ幹細胞ニッチの3種類のNSC/NPC細胞型(以下の表1を参照されたい)のすべてに存在し、インテグリンα10β1が、他の既存のマーカーと比較して、幹細胞と前駆細胞の幅広いマーカーであり、脳幹細胞ニッチの種々の細胞亜型を包含することを示唆する。
【0020】
【表1】
【0021】
本開示の一態様は、哺乳類神経幹細胞および哺乳類神経前駆細胞のためのマーカーとしての神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10サブユニットを含むマーカーの使用に関する。
【0022】
本開示の別の態様は、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するための方法に関し、方法は
a)神経組織、例えば神経細胞を含む試料を用意するステップと、
b)インテグリンα10サブユニットの発現をa)の試料に含まれる細胞によって検出するステップと、
c)b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)c)でのスコア付けに従って哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を同定するステップと
を含む。
【0023】
本開示の別の態様は、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を単離するための方法に関し、方法は
a)神経組織を含む試料を用意するステップと、
b)インテグリンα10サブユニットの発現をa)の試料に含まれる細胞によって検出するステップと、
c)b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)c)でのスコア付けに従って哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を選択するステップと
を含む。
【0024】
本開示の別の態様は、試験化合物がin vitroで哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞の分化を調節するかどうかを決定するための方法に関し、方法は、
a)インテグリンα10サブユニットを発現する神経幹細胞および/または神経前駆細胞を用意するステップと、
b)神経幹細胞および/または神経前駆細胞を試験化合物と接触させるステップと、
c)試験化合物が神経幹細胞および/または神経前駆細胞の分化を調節する指標として神経幹細胞および/または神経前駆細胞の分化の速度またはパターンの変化を検出するステップと
を含み、分化の速度またはパターンは、本明細書に記載の方法に従って細胞によるインテグリンα10発現を検出することにより決定される。
【0025】
本開示の別の態様は、基準集団と比較して神経幹細胞および/または神経前駆細胞に関して濃縮される哺乳類細胞の単離集団をin vitroで製造するための方法に関し、方法は、
a)神経幹細胞および/または神経前駆細胞を含む、CNS由来の細胞集団の少なくとも一部、または基準集団の一部を用意するステップと、
b)神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されたインテグリンα10サブユニットを同定する化合物を上記a)の細胞集団に導入するステップと、
c)上記b)の細胞集団から神経幹細胞および/または神経前駆細胞を選択し単離するステップと
を含み、それによって、神経幹細胞および/または神経前駆細胞に関して濃縮された細胞集団を生成する。
【0026】
本開示の別の態様は、インテグリンα10サブユニットを発現する未分化哺乳類細胞のin vitro細胞培養物に関し、細胞は神経組織に由来し、および
a)培養中の細胞は血清および増殖誘導成長因子の両方を実質的に含まない培地中で分化されるとニューロンおよび/またはオリゴデンドサイトおよび/またはアストロサイトに分化する能力を有し、
b)培養中の細胞はB27などの血清代替物と少なくとも1つの増殖誘導成長因子とを含有する培地中で増殖し、
c)培養中の細胞は血清代替物B27および増殖誘導成長因子の両方を取り除くとニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトに分化する。
【0027】
本開示の別の態様は、
a)B27などの血清代替物と少なくとも1つの増殖誘導成長因子とを含む培地と、
b)哺乳類の中枢神経系に由来する未分化哺乳類細胞であって、上記細胞の少なくとも30%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%がインテグリンα10サブユニットを発現する、未分化哺乳類細胞と
を含むin Vitro細胞培養物に関する。
【0028】
本開示の別の態様は、インテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類未分化細胞の浮遊培養物に関し、細胞は実質的に細胞凝集体に形成され、および細胞凝集体は増殖誘導成長因子を含有する培地で維持される。
【0029】
本開示の別の態様は、それを必要とする対象において神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/またはCNS損傷を防止するおよび損傷から保護する方法に関し、方法は、
a)哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する。
【0030】
本開示の別の態様は、それを必要とする対象において精神障害および行動障害を治療する方法に関し、方法は、
a)哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって精神症状を伴う神経障害を治療する。
【0031】
本開示の別の態様は、それを必要とする対象において神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する方法に関し、方法は、
a)哺乳類間葉系幹細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類間葉系幹細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する。
【0032】
本開示の別の態様は、それを必要とする対象において精神障害および行動障害を治療する方法に関し、方法は、
a)哺乳類間葉系幹細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類間葉系幹細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって精神症状を伴う神経障害を治療する。
【0033】
本開示の別の態様は、神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する方法におけるおよび/または精神障害と行動障害を治療する方法における使用のための、神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10鎖サブユニットを含む、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類前駆細胞のためのマーカーに関する。
【0034】
本開示の別の態様は、神経系の疾患もしくは損傷および/または精神障害と行動障害を治療する方法での使用のためのインテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞の単離集団を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】インテグリンα10β1は成体マウス脳の脳室下帯から単離された細胞の亜集団によって発現される。図は、フローサイトメトリーによって評価された、成体マウス脳の脳室下帯から単離された細胞上でのインテグリンα10β1の発現を示す。非染色細胞の分析(A)。インテグリンα10サブユニットに対するモノクローナル抗体で染色された細胞(B)、および対象マウスIgG2a抗体で染色された細胞(C)および陽性細胞のパーセンテージを続いて分析した。結果は、単離細胞の亜集団がインテグリンα10β1を発現することを示す。
図2】インテグリンα10β1は、脳室下帯から単離されニューロスフェアとしてまたは単層として培養された細胞の亜集団によって発現される。図は、フローサイトメトリーによって評価した、単層(A~D)およびニューロスフェア(E~H)として培養された細胞によるインテグリンα10β1、PDFGRα、LexおよびCD24の発現を示す。細胞を、インテグリンα10サブユニットに対するモノクローナル抗体(A、E)、PDFGRαに対するモノクローナル抗体(B、F)、CD24に対する抗体(C、G)およびLexに対する抗体(D、H)で染色し、陽性細胞のパーセンテージをフローサイトメトリーで分析した。結果は、単層で、またはニューロスフェアとして培養された細胞の亜集団がインテグリンα10β1、PDGFRα、LexおよびCD24を発現することを示す。
図3】ニューロスフェアはインテグリンα10β1および他の神経幹/前駆幹細胞のマーカーを発現する。図は、マウスのSVZから単離され、次いでインテグリンα10β1および他の神経幹細胞/神経前駆細胞のマーカーについて免疫染色された、ニューロスフェアにおける細胞の二重免疫標識を示す。染色を可視化し、共焦点顕微鏡観察によって画像を取得した。全てのニューロスフェアは、α10と、神経幹/前駆細胞のマーカーのNestin(A)、PDGFRα(B)、GFAP(C)、PSA-NCAM(D)、Vimentin(E)との両方の発現を示す。Olig2染色(F)で示すように、in vivoでのSVZの細胞組成物(Doetschら,1997)と一致して、in vitroでのニューロスフェアも少量のC型細胞を示す。
図4】SVZから単離され幹細胞条件下で培養された神経幹/前駆細胞はニューロン細胞とグリア細胞に分化する可能性を保持する。神経幹/前駆細胞を分化させ、ニューロン遺伝子(Map2、β-III Tub)およびグリア遺伝子(Gfap、O4)についての発現を測定した。Gapdhを正規化のためのハウスキーピング遺伝子として使用した。遺伝子発現を、三つ組試料の平均値±標準誤差(SEM)として表す。
図5】インテグリンα10β1は成体マウス脳の脳室下帯(SVZ)の細胞によって発現される。図は、免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡観察によって評価した、成体マウス組織のSVZにおけるインテグリンα10β1の発現を示す。脳組織をインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(A)と細胞核DNAを可視化するためのDAPI(B)とで染色した。AとBの合成画像をCに示す。
図6】インテグリンα10β1および神経幹/前駆細胞マーカーのNestinは成体マウス脳の脳室下帯(SVZ)において部分的に共局在する。図は、免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡観察によって評価した、成体マウス組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびNestinの発現を示す。脳細胞をインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(A)、Nestinに対するマウスモノクローナル抗体(B)および細胞核DNAを可視化するためのDAPI(C)で染色した。
図7】インテグリンα10β1および神経芽細胞マーカーのPSA-NCAMは成体マウス脳の脳室下帯(SVZ)の細胞上に部分的に共局在する。図は、免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡観察によって評価した、成体マウス組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびPSA-NCAMの発現を示す。脳細胞をインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(C)、PSA-NCAMに対するマウスモノクローナル抗体(B)および細胞核DNAを可視化するためのDAPI(A)で染色した。A、BおよびCの合成画像をDに示す。
図8】インテグリンα10β1およびグリア細胞マーカーのGFAPは成体マウス脳の脳室下帯(SVZ)の細胞上に部分的に共局在する。図は、免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡観察によって評価した、成体マウス組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびGFAPの発現を示す。脳細胞をインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(A)、GFAPに対するヤギポリクローナル抗体(B)で染色した。AとBの合成画像をCに示す。
図9】インテグリンα10β1および神経幹細胞マーカーのSOX2は新生仔マウス脳の脳室下帯(SVZ)の細胞上に部分的に共局在する。図は、免疫蛍光染色と落射蛍光顕微鏡観察によって評価した、新生仔マウス組織のSVZにおけるインテグリンα10β1および神経幹細胞マーカーのSOX2の発現を示す。細胞核DNAを可視化するために、脳細胞をDAPI(A)、SOX2に対するマウスモノクローナル抗体(B)およびインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(C)で染色した。A、BおよびCの合成画像をDに示す。
図10】インテグリンα10β1およびPDFGRαは成体マウス脳の脳室下帯から単離された細胞の亜集団上に部分的に共局在する。図は、フローサイトメトリーによって評価した、成体マウス脳の脳室下帯から単離された細胞によるインテグリンα10β1およびPDFGRαの発現を示す。細胞をインテグリンα10サブユニットに対するモノクローナル抗体(A)とPDFGRαに対するモノクローナル抗体(B)とで染色し、陽性細胞のパーセンテージを分析した。フローサイトメトリー分析は、単離細胞の亜集団がインテグリンα10β1およびPDFGRαの両方を発現することを示す(C)。
図11】インテグリンα10β1は新生仔マウス脳の海馬の顆粒細胞下帯(SGZ)で発現され、神経幹細胞マーカーのSOX2と部分的に共局在する。図は、免疫蛍光染色と落射蛍光顕微鏡観察によって評価した、新生仔マウス脳組織のSGZにおけるインテグリンα10β1および神経幹細胞マーカーのSOX2の発現を示す。脳細胞を、細胞核DNAを可視化するためのDAPI(A)、SOX2に対するマウスモノクローナル抗体(B)およびインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(C)で染色した。A、BおよびCの合成画像をDに示す。
図12】インテグリンα10β1は新生仔マウス脳の髄膜内で発現され、グリア細胞/オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーであるPDGFRαと部分的に共局在する。図は、免疫蛍光染色と落射蛍光顕微鏡観察によって評価した、新生仔マウス脳組織の髄膜におけるインテグリンα10β1およびPDGFRαの発現を示す。脳細胞を、細胞核DNAを可視化するためのDAPI(A)、PDGFRαに対するヤギポリクローナル抗体(B)およびインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体(C)で染色した。A、BおよびCの合成画像をDに示す。
図13】インテグリンα10β1は脳卒中後のマウス脳において増加される。図は、免疫蛍光染色と落射蛍光顕微鏡観察によって評価した、マウス脳において損なわれていない部位に対して脳卒中部位でのインテグリンα10β1のより高い発現を示す。脳卒中部位は、破線の右側である。
図14】インテグリンα10β1、ニューロンマーカーのNeuN、およびアストロサイトマーカーのGFAPの発現。図は、免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡観察によって評価した、マウス脳におけるインテグリンα10β1、NeuN、GFAP、およびIba1の発現を示す。脳組織をインテグリンα10サブユニットに対するウサギポリクローナル抗体、NeuNに対するモルモットポリクローナル抗体、GFAPおよびIba1(ミクログリアマーカー)に対するヤギポリクローナル抗体で染色した。対照マウス脳の合成画像をA、Dに示し、かつインテグリンα10β1およびNeuNの発現(BおよびC)、インテグリンα10β1およびGFAPの発現(EおよびF)ならびにインテグリンα10β1およびIba1の発現(HおよびI)に関する脳卒中脳の合成画像を示す。共局在を矢印で示す。結果は、インテグリンα10β1が、それぞれニューロンおよびアストロサイト上で発現が増加したNeuNおよびGFAP(再生応答)と共局在するが、ミクログリアマーカーのIba1とは共局在しないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
定義
本明細書で用いる場合、「齧歯類」および「齧歯動物」という用語は、系統学的齧歯目のすべてのメンバーを指す。
【0037】
本明細書で用いる場合、「インテグリンα10」または「インテグリンα10サブユニット」は、ヘテロ二量体タンパク質インテグリンα10β1のα10サブユニットを指す。この指示的意味は、α10サブユニットに結合され、したがってインテグリンα10β1ヘテロ二量体の四次構造を形成するβ1サブユニットの存在を除外するものではない。
【0038】
本明細書で用いる場合、「抗インテグリンα10抗体」または「抗インテグリンα10サブユニット抗体」は、ヘテロ二量体タンパク質インテグリンα10β1の少なくともα10サブユニットを認識しそれに結合できる抗体を指す。これらの抗体はヘテロ二量体タンパク質インテグリンα10β1のエピトープを認識する抗体であってよく、このエピトープはα10およびβ1の両サブユニットのアミノ酸残基を含む。
【0039】
本明細書で用いる場合、「同定すること」という用語は、細胞をある特定の細胞型、例えば神経幹細胞または神経前駆細胞として認識する行為を指す。同定することへの代替用語は「検出すること」であり、これは本明細書では同じ意味で使用される。ある細胞は、例えばその細胞による特異的マーカーの発現を検出することによって、神経幹細胞または神経前駆細胞と同定される。
【0040】
本明細書で用いる場合、「単離すること」、「選別すること」および「選択すること」という用語は、細胞をある特定の細胞型と同定する行為、および同じ細胞型または分化状態に属していない細胞からその細胞を分離する行為を指す。
【0041】
本明細書で用いる場合、「スコア化する」という用語は、インテグリンα10サブユニット発現をスコア付けすることを指す。スコア化するとは、インテグリンα10サブユニット発現を例えば、試料集団における免疫測定法、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、ウエスタンブロットまたは免疫沈降法により測定すること、およびこの測定を、インテグリンα10サブユニットを発現する基準細胞集団で行った測定と、ならびにインテグリンα10サブユニットを発現しない細胞集団と比較することであり得る。インテグリンα10を発現する基準細胞の例は、インテグリン配列でトランスフェクトされたC2C12細胞、HEK293細胞である。インテグリンα10を発現しない基準細胞の例は、トランスフェクトされていないC2C12細胞およびHEK293細胞である。
【0042】
「マウス」という用語は、ラットおよびマウスを含む、ネズミ科の任意およびすべてのメンバーを指す。
【0043】
本明細書では、「実質的に含まない」という用語は、用いられるアッセイの検出限界未満を意味し、それによって陰性、すなわち含まないように見えることを意味すると意図される。
【0044】
本明細書では「コミットした」という用語は、専用である、または特化されることを意味する。したがって、コミットした細胞は、特定の分化経路に専用である、または特化される細胞である。このことから、コミットされていない細胞は、いかなる特定の分化経路にも専用でない、または特化されず、かついくつかの選択肢を有することになる。
【0045】
本明細書で用いる場合、「対象」という用語は任意の哺乳類を意味するために使われ、それに対し、細胞表面または細胞内でのインテグリンα10発現の検出に基づく、本明細書に開示される方法に従って同定および/または単離された神経幹細胞および/または神経前駆細胞および/または間葉系幹細胞が投与され得る。本開示の方法による治療のために具体的に意図される対象としては、ヒト、ならびに非ヒト霊長類、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラットとマウス、ならびにこれらの宿主から得られるまたは生じる器官、腫瘍、および細胞が挙げられる。
【0046】
発明の詳細な説明
神経幹細胞および神経前駆細胞のマーカーとしてのインテグリンα10
本発明者らは、意外にもインテグリンα10β1がヒト神経幹細胞(NSC)および/または神経前駆細胞(NPC)に存在することを見いだした。したがって、このインテグリンは、混合細胞集団から神経幹細胞および神経前駆細胞を同定し、選択しおよび特異的に単離するために使用でき、例えば神経系傷害の結果としてまたは神経変性疾患の治療のために、損傷した組織を修復する細胞治療において有用なツールである。上述のNSC表面マーカーと比較して、インテグリンα10β1は成体マウスSVZの3つの細胞型(上記表1を参照されたい)すべてを同定し、インテグリンα10β1が他の既知のマーカーと比較して、脳幹細胞ニッチの種々の細胞亜型を包含する、幹細胞と前駆細胞の幅広いマーカーであることを示唆する。
【0047】
ヒトインテグリンα10鎖配列は知られており、GenBank(商標)/EBI Data Bank受入番号AF074015で一般公開されている。このように、インテグリンα10鎖の新規用途および方法は、本発明で開示される。
【0048】
上で明らかにしたように、本開示の一態様は、哺乳類神経幹細胞および哺乳類神経前駆細胞のためのマーカーとして神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10サブユニットを含むマーカーの使用に関する。
【0049】
一実施形態において、インテグリンα10サブユニットはインテグリンβ1鎖と組み合わされてヘテロ二量体として発現される。
【0050】
一実施形態において、インテグリンα10サブユニットは哺乳類NSCおよび/またはNPCの細胞表面で発現される
【0051】
一実施形態において、インテグリンα10サブユニットは哺乳類NSCおよび/またはNPCの細胞内で発現される。
【0052】
神経幹細胞(NSC)および神経前駆細胞(NPC)を同定するための方法
本開示の一態様は、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するための方法に関する。方法は、
a)神経組織を含む試料を用意するステップと、
b)a)の試料に含まれる細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現を検出するステップと、
c)b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)c)でのスコア付けに従って哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を同定するステップと
を含む。
【0053】
本開示のさらなる態様は、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を単離するための方法に関する。方法は、
a)神経組織を含む試料を用意するステップと、
b)a)の試料に含まれる細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現を検出するステップと、
c)b)のインテグリンα10サブユニットの発現をスコア化するステップと、
d)c)でのスコア付けに従って哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞を選択するステップと
を含む。
【0054】
いくつかの実施形態において、哺乳類NSCおよび/またはNPCを同定する方法ならびに哺乳類NSCおよび/またはNPCを単離する方法は、b)のインテグリンα10サブユニトの発現を検出する前に、インテグリンα10サブユニットを特異的に結合する抗体と試料を接触させるステップをさらに含む。
【0055】
さらに詳細に、本開示による哺乳神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するおよび/または単離するための方法は、
e)NSCおよび/またはNPCを含む細胞懸濁液を用意するステップと、
f)モノクローナル抗体またはそのフラグメントがインテグリンα10β1の細胞外ドメインと抗体-抗原複合体を形成する条件下で、e)における細胞懸濁液をインテグリンα10β1に結合する上記モノクローナル抗体またはそのフラグメントと接触させるステップと、
g)f)における上記モノクローナル抗体またはそのフラグメントに結合している細胞を分離するステップと
をさらに含み、それによって、哺乳類NSCおよび/またはNPCの純粋集団を生成する。
【0056】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示による哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するおよび/または単離するための方法は、抗体もしくはそのフラグメントから上記モノクローナル抗体もしくはそのフラグメントに結合している細胞を回収することをさらに含み得る。
【0057】
哺乳類NSCおよび/またはNPCを含む、上記e)において用意される細胞懸濁液は、以下の「神経組織」の節で詳細に説明するように、神経組織から単離されてよい。
【0058】
本開示のいくつかの実施形態において、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞を同定するおよび/または単離するための方法は、in vitroで行われる。
【0059】
神経組織
哺乳類NSCおよびNPCの主要なソースは、神経組織である。実際に、NSCおよびNPCは、胎児または成体哺乳類の中枢神経系(CNS)中のニッチで、および神経発生が起こる胎児または成体哺乳類の脳または脊髄から見つかる。
【0060】
脳内の神経幹細胞ニッチは、神経前駆細胞を受け入れ維持できる組織微小環境である。最近まで、哺乳類においてわずかに2つの脳ニッチ、前外側脳室の脳室下帯(SVZ)と海馬歯状回の顆粒細胞下帯(SGZ)、が確認された。増加するエビデンスは、特に傷害後の、成体脳の他の部位でも神経発生およびグリア新生を明らかにし、さらなる幹細胞ニッチが成体脳に存在することを示唆する(LinとIacovitti,2015)。軟髄膜が、NestinおよびSOX2を示す未分化型の、増殖するおよび分化する神経前駆細胞のマーカーを発現する細胞のサブセットを提供し、この細胞のセットは成人期に存続することが最近示された。このように、髄膜は、胚発生期および成人期に前駆細胞のための別の機能的ニッチであり得る。
【0061】
したがって、本開示のいくつかの実施形態において、神経組織はNSCおよびNPCを含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、神経組織は脳組織から得られる、または由来する。
【0063】
いくつかの実施形態において、神経組織は成体脳組織である。
【0064】
いくつかの実施形態において、神経組織は胎児脳組織である。
【0065】
いくつかの実施形態において、神経組織は哺乳類の脳室下帯(SVZ)、顆粒細胞下帯(SGZ)または髄膜に由来する、またはこれらから得られる。
【0066】
すべての哺乳類は神経組織を得るのに適している。いくつかの実施形態において、神経組織はヒト、イヌ、ウマ、ウシ、ネコ、マウス、ヒツジまたはブタの神経組織からなる群から選択される。他の哺乳類神経細胞も、それを必要とする場合、入手されてよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、哺乳類NSCおよびNPCは、ヒトNSCおよびヒトNPCである。
【0068】
さらに一実施形態において、哺乳類NSCおよびNPCは、マウスNSCおよびNPCである。
【0069】
いくつかの実施形態において、神経組織はヒト胎児に由来しない。
【0070】
インテグリンα10発現の検出
哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞の同定のための、ならびにそれらの単離のための方法において重要なステップは、インテグリンα10タンパク質発現の検出ステップである。
【0071】
一実施形態において、細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現の検出は、フローサイトメトリーによって決定される。例えば、α10の発現は、フローサイトメトリー、または特異性が高い他の任意の方法によって分析されてよい。多色分析を、特に簡便である、フローサイトメトリーで利用してもよい。NSCおよび/またはNPCは、このように、特定の抗原に対する染色のレベルに基づいて、他の細胞から分離され得る。
【0072】
一実施形態において、細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現の検出は、インテグリンα10タンパク質発現を測定することによって決定される。例えば、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、免疫沈降法および/またはウエスタンブロット法を用いることができる。
【0073】
一実施形態において、細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現の検出は、インテグリンα10mRNA発現を測定することによって決定される。特定のタンパク質のmRNAの発現の検出は、当技術分野の当業者には周知であり、一般的に、そのプローブが他のmRNA分子にハイブリダイズしないハイブリダイゼーション条件下で、目的のmRNAに特異的なDNAまたはRNAプローブを用いてmRNAを探索することによって行われる。種々のポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を用いてもよく、これは当業者には明白である。
【0074】
適切なPCR方法を以下に示す。手短に言えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を用いることができる。
【0075】
RNAは、標準方法によって、例えば、RNeasy Mini Kit(Qiagen Germany)によってヒト神経幹細胞または神経前駆細胞から調製できる。
【0076】
cDNAは、オリゴd(T)-プライマーまたは遺伝子特異的プライマーを用いてメーカー推奨に従い逆転写酵素反応、Superscript II(Invitrogen,USA)により生成できる。
【0077】
PCRをその後に行ってcDNAを増幅する。α10のための特定のプライマー、順方向5’GCT CCA GGA AGG CCC CAT TTG TG 3’および逆方向5’GTG TTT TCT TGA AGG GTG CCA TTT 3’、をcDNAに加え、特異的産物を、メーカー推奨に従いPlatinumTaq DNAポリメラ-ゼ(Invitrogen,USA)によって65℃で40サイクル増幅させる。
【0078】
マーカー発現の検出についていくつかの方法が当業者に知られている。したがって、本開示の一実施形態において、細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現の検出は、免疫測定法、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、免疫沈降法およびウエスタンブロット法からなる群から選択される方法によって決定される。
【0079】
さらにさらなる実施形態において、インテグリン鎖α10の発現は、本発明による方法において、NSCおよび/またはNPCの細胞表面で、あるいはNSCおよび/またはNPCの細胞内で検出される。上記の方法、例えばフローサイトメトリーおよび免疫沈降法を用いてもよい。フローサイトメトリーを用いることが好ましい。
【0080】
さらにさらなる実施形態において、インテグリンα10サブユニットの発現は、Immunochemicalプロトコル(Methods in molecular biology, Humana Press Inc)に記載の方法などの、任意の免疫測定法によって検出される。検出は、種々の方法、例えば、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、磁気活性化細胞選別(MACS)またはフローサイトメトリー方法、例えば蛍光活性化細胞選別(FACS)などの、当業者に既知の任意の免疫方法によって行われてもよい。
【0081】
したがって、いくつかの実施形態において、細胞によるインテグリンα10サブユニットの発現は抗体を介して検出され、抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体またはそれらのフラグメントである。
【0082】
抗体、例えばモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、特定の細胞系列および/または分化段階に関連した、マーカー、細胞表面タンパク質ならびに細胞内マーカーを同定するのに特に有用である。したがって、抗体はインテグリンα10の同定に適している。
【0083】
一実施形態において、抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0084】
さらなる実施形態において、抗体は非ヒト抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0085】
さらに、同定は、インテグリンα10分子に特異的に結合するタンパク質またはペプチドなどの、任意の特異的分子によって行われてもよい。そのようなタンパク質またはペプチドの例は、インテグリンα10分子に結合する天然リガンドである。そのような天然リガンドは、組換えで生成され、化学的に合成され、または天然源から精製されてよい。
【0086】
インテグリンα10分子に特異的に結合する抗体、タンパク質またはペプチドが検出可能部分に結合される場合、検出は容易になる。
【0087】
いくつかの実施形態において、抗体は、インテグリンα10サブユニットの発現を検出するために用いられ、かつこの抗体は、フルオロフォア、酵素または放射性トレーサーもしくは放射性同位体からなる群から選択される検出可能部分などの、検出可能部分に共有結合される。
【0088】
いくつかの実施形態において、抗体はフルオロフォアに結合され、フルオロフォアは、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリンとフィコエリトリン複合体、アロフィコシアニンとアロフィコシアニン複合体、TexasレッドとTexasレッド複合体、Alexaシリーズの蛍光色素、ブリリアントバイオレットおよびブリリアントブルーのシリーズの蛍光色素からなる群から選択される。
【0089】
多くの他のフルオロフォアを用いることが可能であり、当業者は、特定の検出方法によって、および使用する抗体の特性によっても最適なものを選択するであろう。
【0090】
さらなる実施形態において、抗体はIgA、IgD、IgGおよびIgMからなる群から選択されるアイソタイプを有する。
【0091】
さらにさらなる実施形態において、抗体は、
a)受入番号DSM ACC2583のもとでDeutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbHで寄託されたハイブリドーマ細胞株によって生成されるモノクローナル抗体、または
b)受入番号DSM ACC2583のもとでDeutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbHで寄託されたハイブリドーマによって生成されるモノクローナル抗体により結合されるエピトープと同じエピトープへの結合について競合する抗体、または
c)インテグリンα10サブユニト鎖の細胞外I-ドメインに特異的に結合できる、a)もしくはb)のフラグメント
である。
【0092】
検出はまた、インテグリンα10分子に特異的に結合する抗体、タンパク質またはペプチドが固体支持体に結合されると、容易に行われる。したがって、一実施形態において、抗体は、インテグリンα10サブユニットの発現を検出するために用いられ、かつこの抗体は固体支持体に結合される。
【0093】
NSCおよびNPCの単離および培養
本開示の方法による哺乳類の神経幹細胞(NSC)および/または哺乳類神経前駆細胞(NPC)の単離は、特定の培養条件の下でプラスチック培養皿に付着し、コロニーを形成する細胞能力に基づいて行うことができる。哺乳類神経幹細胞および神経前駆細胞の単離に適したプロトコルは、本発明によるマーカーを含まないが、Giachinoら,2009, Guo Wら,(2012)およびOliver-De la CruzとAyuso-Sacido(2012)にさらに詳細に記載されている。このように、既知の方法は、本発明によるマーカーの導入を伴い、使用できる。
【0094】
分離のための方法は、例えば抗体被覆磁気ビーズを用いる磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、モノクローナル抗体に結合させた薬剤もしくはモノクローナル抗体と組み合わせて用いられる薬剤、例えば補体と細胞毒、および固体マトリックス、例えばプレートに結合された抗体による「パニング」、または他の簡便な手法を含み得る。正確な分離をもたらす手法としては、蛍光活性化細胞選別装置が挙げられ、これは、例えば、当業者には既知の複数のカラーチャネル、光散乱検出チャネル、インピーダンスチャンネルなど、種々の程度の精巧さを有し得る。
【0095】
本発明による方法で用いるのに適した分離方法のためのさらなるプロトコルは、Orfao, AとRuiz-Arguelles, A((1996) General Concepts about Cell Sorting Techniques. Clin Biochem.29(1):5-9),およびHerzenberg, LA, De Rose, SC とHerzenberg, LA ((2000) Monoclonal Antibodies and FACS:complementary tools for immunobiology and medicine. Immunol. Today.21(8):383-390)に記載される。
【0096】
哺乳類NSCおよびNPCは、神経組織から収集された細胞の混合物から最初に精製される。一般的に、陰性マーカーが、分化細胞からNSCとNPCを分離するのに用いられる。
【0097】
神経組織に存在する他の細胞、例えばコミットした神経細胞からのNSCおよびNPCの単離は、NSCとNPCをまず同定し次いで他の細胞から分離する、選択および選別のステップを含む。当業者には既知の種々の手法を用いて、NSCおよびNPCよりも他の系列専用の細胞を最初に除去することによって細胞を分離できる。
【0098】
第1の分離において、他のマーカーのための抗体は、1または複数の蛍光色素で標識して使用してもよい。
【0099】
NSCおよびNPCは、死細胞と結合する色素(ヨウ化プロピジウム、LDS)を使用することによって、死細胞に対して選択されてよい。これらの細胞は、それらの培地中でまたは、好ましくは緩衝された、任意選択でウシ胎児血清(FCS1%)もしくはウシ血清アルブミン(BSA1%)が存在する、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの、任意の生理食塩水中で回収されてよい。
【0100】
NSCおよびNPC上で発現されないマーカーは、例えば、CD326、CD34およびCD45であり、それらの発現または発現の欠如は、特定の実施形態において、NSCまたはNPCでない細胞の負の選択のマーカーとして用いることができる。
【0101】
NSCまたはNPCでないさらなる系列または細胞集団が1ステップで除去される場合、そのような系列-特異的マーカーに対する種々の抗体は含まれてよい。
【0102】
本開示のいくつかの実施形態において、それほど特異的でなく、かつ非ユニークな他の哺乳類NSCおよび/またはNPCマーカーが本発明によるマーカーと平行して分析されてよい。実際に、CNS発達の種々の段階で検出されるNSCおよびNPCのサブセットは、Nestin、GFAP、CD15、CD24、Sox2、Musashi、CD133、EGFR、PDGFRα、Doublecortin(DCX)、Pax6、FABP7およびGLASTなどのマーカーを発現することが示されている。実施例で示すように、これらのマーカーは、インテグリンα10サブユニットを発現するいくつかの細胞により同時発現される。しかし、これらのマーカーのいずれもNSCによっておよび/またはNPCによって独自に発現されず、多くは実際に、神経分化細胞および他の非神経細胞型によって発現される。
【0103】
対照的に、単離および増殖のプロトコルにおける本発明によるインテグリンα10マーカーの使用は、神経幹細胞および/または神経前駆細胞の同種集団に脳および脊髄の異なる細胞に分化する能力を与えることになり、したがって脳組織または脊髄組織の再生に有用である。
【0104】
したがって、本発明に従うマーカーを含むこと、既知の単離および増殖のプロトコルでインテグリンα10サブユニットを含むこと、ならびにマーカー(複数可)を単独で使用することは、神経幹細胞および神経前駆細胞の集団のさらなる評価および濃縮のために極めて有用である。特に、哺乳類神経幹細胞および神経前駆細胞のための本発明によるマーカーのような他の特異的かつユニークなマーカーは知られていない。
【0105】
NSCおよびNPCは、本発明による方法を用いる同定と組み合わせて、光散乱特性および種々の細胞表面抗原のそれらの発現に基づいて選択されてもよい。
【0106】
一般的に、細胞表面または細胞内に存在するマーカーは、蛍光色素の助けにより検出される。多色分析に用途を見出すことができる蛍光色素としては、フィコビリンタンパク質、例えばフィコエリトリンとアロフィコシアニン、フルオレセイン、Texasレッド、およびすべて当業者に周知であり、市販される他の多くの蛍光色素が挙げられる。
【0107】
それらの細胞表面に存在するマーカーの使用に基づく細胞の検出と選択のために一般的に用いられる手法は、フローサイトメトリーと免疫沈降法である。
【0108】
いくつかの実施形態において、NSCおよびNPCは、フローサイトメトリーまたは免疫沈降法によって分析されてよく、それによってインテグリンα10サブユニット発現を検出し同定する。当業者は、細胞の検出および/または選択のために使われるフローサイトメトリーと免疫沈降法のための好適なプロトコルに精通している。
【0109】
細胞の集団がマウス全脳から収集される場合、わずかな部分、例えば、細胞の総数の2%未満がNSCまたはNPCである。
【0110】
抗体またはそのフラグメントを用いる場合、抗体は、非常に特異的な分離を可能にするよう固体支持体に結合されてよい。使用する分離のための特定の方法、例えば遠心分離、カラム分離、膜分離または磁気分離などの機械的分離は、収集される画分の生存度を最大にしなければならない。当業者に知られている効力が異なる種々の手法を用いることができる。使用される特定の手法は、分離の効率、方法の細胞毒性、実施の容易さと速度、ならびに精巧な装置および/または技術的熟練の必要性に依存する。
【0111】
本発明による方法によって助けられる細胞懸濁液からのNSCおよび/またはNPCの分離のための方法としては、例えば抗体被覆磁気ビーズを用いる磁気分離、本発明による抗体もしくはそのフラグメントに基づくアフィニティークロマトグラフィー、および固体マトリックス、例えばプレートに結合された抗体もしくはそのフラグメントによる「パニング」、または他の簡便な手法を挙げることができる。
【0112】
正確な分離をもたらす手法としては、蛍光活性化細胞選別装置、磁気ビーズ選別、および当業者に既知の任意の適切な方法が挙げられる。
【0113】
さらなる実施形態において、本開示の方法の第1の濃縮ステップは、所望の純度のNSCまたはNPCが得られるまで繰り返されるNSCまたはNPCの正の選択である。
【0114】
哺乳類NSCおよび/またはNPCに関して濃縮された単離細胞集団を生成するための方法
本開示の一態様は、基準集団と比較して神経幹細胞および/または神経前駆細胞に関して濃縮されている哺乳類細胞の単離集団をin vitroで製造するための方法に関し、方法は、
a)神経幹細胞および/または神経前駆細胞を含む、細胞集団の少なくとも一部、または基準集団の一部を用意するステップと、
b)神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されたインテグリンα10サブユニットを同定する化合物を上記a)の細胞集団に導入するステップと、
c)上記b)の細胞集団から神経幹細胞および/または神経前駆細胞を選択し単離するステップと
を含み、それによって神経幹細胞および/または神経前駆細胞に関して濃縮された細胞集団を生成する。
【0115】
集団を用意することは、上に詳述したNSCおよびNPCの同定のための方法と同様に行うことができる。細胞の集団は、少なくとも1つのNSCおよび/または少なくとも1つのNPCを含んでよく、またはNSCもしくはNPCのいずれでもない細胞だけを含み得る。例えば、神経組織から得られた、または由来する細胞の集団を用意でき、またはインテグリンα10をトランスフェクトされたHEK細胞またはC2C12細胞などの、細胞の基準集団を用意してもよい。
【0116】
NSCおよび/またはNPCを同定するために導入される化合物は、タンパク質、ペプチド、モノクロ-ナル抗体、もしくはその一部、またはNSCおよび/またはNPCを同定するポリクローナル抗体であってよい。
【0117】
NSCおよび/またはNPCを同定するために導入される化合物は、タンパク質、ペプチド、モノクロ-ナル抗体、もしくはその一部、またはインテグリンα10を検出できるポリクローナル抗体であってよい。
【0118】
一実施形態において、NSCおよび/またはNPCは、上述のNSCおよび/またはNPCを同定する方法によって、上記NSCのおよび/または上記NPCの細胞表面でのインテグリン鎖α10の発現を検出することによってNSCとしておよび/またはNPCとして同定される。
【0119】
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、もしくはその一部は、マーカー、例えば無傷の生存細胞の細胞表面に発現されるマーカーを同定するのに特に有用である。NSCおよび/またはNPCを同定するために用いられる化合物は、分離ステップのために用いることもできる。したがって、抗体またはその一部などの、上記化合物(複数可)は、第1の粗分離を可能にするよう固体支持体に結合されてよい。固体支持体の例は、ビーズ、例えば、磁気ビーズ、アガロースまたは当業者に既知の他の同様の種類のビーズである。細胞の分離に好適な任意の手段を、分離が細胞の生存度に過度に有害でない条件で用いてよい。
【0120】
使用する分離手法は、回収される部分の生存度の保持を最大にしなければならない。生存度の評価を以下に記載する。
【0121】
手短に言えば、細胞生存度の評価は、例えばフローサイトメトリーを用いて行うことができる。適切な細胞生存性の染色のために色素が添加されて、生存細胞と、非生存細胞とを識別できる。多数のそのような色素が存在し、それについての例および一般的な使用方法を記述する。原則は、ほとんどのこれらの色素について同じである。細胞膜が損なわれている場合これらの色素は細胞に入るので、これらの色素で染色する細胞は、生存可能でなく、染色しない細胞は生存可能とみなされる。
【0122】
色素の例は、ヨウ化プロピジウム(PI)、7-アミノアクチノマイシンD(7AAD)、To-Pro3、およびエチジウムモノアジド(EMA)である。他の方法は、A. RadbruchによるFlow Cytometry and Cell Sorting(Springer Lab Manual)(Springer Verlag,第2版,January 2000)に記載されている。
【0123】
収集される画分の細胞生存率は一般的に>90%、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、またはさらに100%である。
【0124】
本発明による方法において細胞分離のために用いられる特定の手法は、分離の効率、方法の細胞毒性、実施の容易さと速度、ならびに精巧な装置および/または技術的熟練の必要性に依存する。
【0125】
本発明による方法の一実施形態において、哺乳類NSCおよび/またはNPCを濃縮する少なくとも1ステップが含まれる。
【0126】
本発明による方法の一実施形態において、哺乳類NSCを濃縮する少なくとも1ステップが含まれる。
【0127】
本発明による方法の一実施形態において、哺乳類NPCを濃縮する少なくとも1ステップが含まれる。
【0128】
さらにさらなる実施形態において、NSCおよび/またはNPCの第1の濃縮ステップはNSCおよび/またはNPCの負の選択であり、すなわち他の系列にコミットした細胞が初期の細胞集団から枯渇される、または除去される。例えば、CD34、CD45およびCD326などのマーカーを発現する細胞は、負に選択される。
【0129】
さらにさらなる実施形態において、本開示の方法は、インテグリンα11サブユニットの発現の検出に基づく負の選択をさらに含み、例えば、マーカーインテグリンα11を発現する細胞を細胞集団から枯渇させる、または除去する。
【0130】
さらにさらなる実施形態において、第1の濃縮は、NSCおよび/またはNPCの所望の純度が達成されるまで繰り返すことができるNSCおよび/またはNPCの正の選択である。正または負の選択に関して、タンパク質、ペプチド、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体が、上述のインテグリンα10分子を同定するための化合物として使用できる。上記の段落で例示した特定の細胞型の分離を容易にするために、化合物は、分離のための手段、例えば、直接分離を可能にする磁気ビーズ;アビジンとともに除去できるビオチン;または支持体に結合されるストレプトアビジン;蛍光活性化細胞選別装置とともに用いることができる蛍光色素など、に結合されてよい。関心の細胞、すなわちNSCおよびNPC、の生存度に過度に有害でない任意の手段を用いてよい。
【0131】
一実施形態において、選択は蛍光細胞選別によって、例えば、FACS(登録商標)などの細胞選別装置に基づくフローサイトメトリー、または特異性が高い任意の他の方法を用いることによって行われる。特に簡便でありフローサイトメトリーの分野で当業者に周知の手法である多色分析をフローサイトメトリーとともに用いてよい。細胞は、特定の抗原についての染色レベルに基づいて分離されてよい。第1の分離において、他のマーカーに対する抗体が1種の蛍光色素で標識されて用いられ、一方で専用の系列、すなわちインテグリンα10に対する抗体が異なる蛍光色素(複数可)に結合されてよい。さらなる実施形態における他のマーカーは、NSCおよび/またはNPCが発現し得るNestin、GFAP、CD15、CD24、Sox2、Musashi、CD133、EGFR、PDGFRα、Doublecortin(DCX)、Pax6、FABP7およびGLASTである。NSCおよびNPCで発現されないマーカーの例は、CD326、CD34、CD45およびインテグリンα11であり、それらの発現、または欠如はまた、さらなる実施形態において、本発明によるマーカー、例えばインテグリンα10発現、とともに評価されてよい。
【0132】
さらなる系統または細胞集団がこのステップで除去される場合、そのような系統特異的なマーカーに対する種々の抗体が含まれ得る。多色分析に用途を見出すことができる蛍光色素としては、フィコビリンタンパク質、例えばフィコエリトリンとアロフィコシアニン、フルオレセイン、Texasレッド、および当業者に知られている任意の適切な蛍光色素が挙げられる。
【0133】
細胞は、死細胞に結合する色素、例えばヨウ化プロピジウムまたはLDS-75 1(レーザー色素スチリル-75 1(6-ジメチルアミノ-2-14-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1,3-ブタジエニル]-1-エチルキノリニウムペルクロラート))を使用することによって、死細胞に対して選択されてよい。細胞は、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)などの、任意の適切な細胞培地中で、または好ましくは緩衝される、任意選択でウシ胎児血清(FCS)またはウシ血清アルブミン(BSA)が存在する、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの、任意の生理食塩水中で収集されてもよい。正確な分離を可能にする、アフィニティーカラムなどの、Silvestri F, Wunder E, Sovalat H, Henon P, Serke S in Positive selection of CD34+cells:実験および臨床用途のために現在利用できる免疫吸着方法についてのショートレビュー(“2nd European Workshop on stem Cell Methodology”,Mulhouse, France, May 3-7,1993. J Hematother. 1993 Winter;2(4):473-81に掲載のレポート)によって、およびBasch RS, Berman JW, Lakow E.in Cell separation using positive immunoselective techniques (J Immunol Methods. 1983 Feb 11;56(3):269-80)によってさらに記載される、正の選択または負の選択についての他の手法を用いてもよい。
【0134】
細胞は、光散乱特性ならびに種々の細胞表面抗原のそれらの発現に基づいて選択されてよい。
【0135】
分離の特定の順序は本発明にとって重要ではないと思われるが、表示した順序は、本発明を実施する1つの方法であり、機能することが知られている。このように、示唆的に、細胞は粗分離によって、好ましくはCD326、CD34およびCD45などの負の細胞マーカーを用いるNSCおよびNPCにコミットしていない細胞を除去する負の選択によって最初に分離される。負の選択の後に一般的に正の選択が続き、正の選択はNSCおよび/またはNPCと関連するマーカーの選択であり、負の選択は系列にコミットした細胞、ならびにNSCおよび/またはNPCでない他の幹細胞集団と関連するマーカーについてである。この分離の後に次いで、NSCおよび/またはNPCとして多系列の可能性と増強された自己再生能力とを有する細胞集団、または上記集団を含む細胞組成物の選択が続く。組成物をさらに後述する。
【0136】
さらなる実施形態において、そのような集団の濃縮は、約70、80、90、95、98、99、99.9、またはさらに100%である。そのような細胞の生存度は、上で詳述される。
【0137】
濃縮された細胞をさらに増殖し、次いで特徴付けられた因子、例えば上皮細胞成長因子(EGF)および線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)で誘導して特定の神経細胞に分化させてよい。例えば、FGF-2は一般にヘパリンと組み合わせて用いられ、それはその受容体への成長因子の結合を媒介する。細胞培養物を支持することが報告されている他の成長因子は、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)、白血球抑制因子(LIF)およびそれに相当する毛様体神経栄養因子(CNTF)、または脳由来神経栄養因子(BDNF)である。PDGFαは、オリゴデンドロサイト前駆細胞のための維持培地中で頻繁に用いられる。代替物として、または特定の成長因子を使用することに加えて、NPCおよびNSCは、物理的な接触により増殖されるNPCおよびNSCを好むように見えるアストロサイト、または血管内皮増殖因子(VEGF)産生により細胞増殖を増強できる内皮細胞のような他の支持細胞の存在下で共培養できる。
【0138】
NSCおよび/またはNPCの調節
本開示のさらなる態様は、試験化合物が哺乳類NSCおよび/または哺乳類NPCの分化をin vitroで調節するかどうかを決定するための方法に関する。そのような方法は、
a)インテグリンα10サブユニットを発現する神経幹細胞および/または神経前駆細胞を用意するステップと、
b)神経幹細胞および/または神経前駆細胞を試験化合物と接触させるステップと、
c)試験化合物が神経幹細胞および/または神経前駆細胞の分化を調節する指標として神経幹細胞および/または神経前駆細胞の分化の速度またはパターンの変化を検出するステップと
を含み、分化の速度またはパターンは、本明細書に開示される方法に従って細胞によるインテグリンα10の発現を検出することによって決定される。上記「インテグリンα10発現の検出」の節も参照されたい。
【0139】
用意されるNSCおよびNPCは、本明細書に開示される方法のいずれかによって達成される濃縮細胞集団、本発明に従って単離されるNSCおよび/またはNPC、または本発明による細胞組成物であり得る。
【0140】
試験化合物は、NSCおよび/またはNPCに影響を及ぼすことが知られている、または影響を及ぼすと推測される任意の化合物、例えば、医薬組成物、薬物、ポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、またはそれらの一部、例えばNSCおよび/またはNPC上でインテグリンα10または任意の他の分子に結合する抗体、NSCおよび/またはNPCの増殖を促進するために用いられる因子、例えばPDGFRα、EGFおよびFGF-2であってよい。
【0141】
試験化合物がNSCおよび/またはNPCの分化を調節する指標としての例えばNSCおよび/またはNPCの分化の速度またはパターンにおける変化の検出は、本明細書に開示される方法による上記神経幹細胞および/または神経前駆細部の細胞表面でまたは神経幹細胞および/または神経前駆細胞の細胞内でインテグリンα10発現を検出することによって行なわれてよい。
【0142】
試験化合物がNSCおよび/またはNPCの分化を調節する指標としての例えばNSCおよび/またはNPCの分化の速度またはパターンにおける変化の検出は、フローサイトメトリーまたは任意の他の適切な方法、例えば当業者に知られている任意の免疫方法によって行われてよい。分化の速度またはパターンにおける変化は、無処置のまたは擬似処置されるNSCおよび/またはNPC集団と比較して、試験化合物で調節されるNSCおよび/またはNPCの動態研究、機能的研究または表現型研究によって検出できる。
【0143】
細胞組成物
本開示の一態様は、インテグリンα10サブユニットを発現する未分化哺乳類細胞のin vitro細胞培養物に関し、細胞は神経組織に由来し、および
a)培養中の細胞は、少なくとも10%ニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトの細胞培養物を生成するために(b)に定めた血清および増殖誘導成長因子の両方を実質的に含まない培地中で分化させると、ニューロンおよび/またはオリゴデンドサイトおよび/またはアストロサイトに分化する能力を有し、
b)細胞培養物はB27などの血清代替物と少なくとも1つの増殖誘導成長因子とを含有する培地中で分裂し、
c)培養中の細胞は血清代替物および増殖誘導成長因子の両方を取り除くとニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはアストロサイトに分化する。
【0144】
一実施形態において、ステップc)はウシ胎児血清の添加を含む。
【0145】
本開示のさらなる態様は、
a)B27などの血清代替物と少なくとも1つの増殖誘導成長因子とを含む培地と、
b)哺乳類の中枢神経系に由来する未分化哺乳類細胞であって、細胞の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%がインテグリンα10サブユニットを発現する、未分化哺乳類細胞と
を含むin vitro細胞培養物に関する。
【0146】
本開示のさらにさらなる態様は、インテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類未分化細胞の浮遊培養物に関し、上記細胞は実質的に細胞凝集体に形成され、かつ細胞凝集体は増殖誘導成長因子を含有する培地で維持される。
【0147】
いくつかの実施形態において、インテグリンα10発現は、上記「神経幹細胞および神経前駆細胞のマーカーとしてのインテグリンα10」の節に記載の通りである。
【0148】
いくつかの実施形態において、未分化哺乳類細胞の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%は、インテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞である。
【0149】
いくつかの実施形態において、未分化哺乳類細胞は神経幹細胞または神経前駆細胞である。
【0150】
いくつかの実施形態において、未分化哺乳動物細胞は、成体哺乳類または胎児哺乳類、例えばヒトもしくはマウスの神経組織から得られる、またはこれらに由来し、それは、上記「神経組織」の節に詳細に記載されている。
【0151】
いくつかの実施形態において、未分化哺乳類細胞はヒト胚細胞またはヒト胎児から得られない、またはそれに由来しない。
【0152】
いくつかの実施形態において、未分化哺乳類細胞の一部は、Nestin、PSA-NCAM、GFAP、SOX2およびPDGFRαからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーをさらに発現する。
【0153】
50%を超える、例えば60%を超える、例えば70%を超える、例えば80%を超える、例えば90%を超える、例えば95%を超える、例えば96%、97%、98%、または99.9%のヒトNSC細胞またはNPC細胞を有する組成物は、NSCまたはNPCの濃縮について開示される方法に従って達成できる。そのようなNSCおよび/またはNPCは、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトならびに他の細胞などの、NSCの種々の系列のすべてのメンバーの細胞再生と発達をもたらすことができる。
【0154】
最終的に、単一細胞型はNSCまたはNPCの組成物から得ることができ、哺乳類神経組織の再構成または再生のために用いることができる。NSCまたはNPCの組成物は、治療的有効量で投与されることが好ましく、治療的有効量は上記哺乳類、例えばヒトに生息できる特定の細胞数である。細胞数はドナー間で異なることがあり、症例によって当業者が経験的に決定できる。
【0155】
細胞増殖誘導因子は各細胞型に特異的であり、当業者には既知である。本開示のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの増殖誘導成長因子は、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)、トランスフォーミング成長因子α(TGF-α)、白血病抑制因子(LIF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、PDGFα、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0156】
神経系傷害および神経変性疾患の治療
哺乳類NSCおよび/またはNPC、例えば本明細書に開示される方法によって同定され単離されるヒトまたはマウスのNSCおよび/またはNPCは、それを必要とする対象において損傷と傷害を治療するため、および/または神経系の損傷を防止し損傷から保護するため、および/または神経変性疾患を治療するために用いることができる。神経変性障害に関しては、これは、ニューロン組織の損失または損傷と関連する神経変性疾患に特に適用される。本発明は、欠失組織または損傷組織を再生することによって、そのような神経変性疾患を治療する。
【0157】
さらに、例えば国際公開第03/106492号に開示される方法によって同定され単離された間葉系幹細胞(MSC)も、Steinberg G.K.ら(2016)Stroke 47:1817-1824によって証明されたように、中枢神経系の欠失したまたは損傷された組織を再生するために使用できる。したがって、一態様において、本開示は、中枢神経系の欠失組織または損傷組織を再生する方法と、それを必要とする対象において中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療する、および/または損傷を防止するおよび損傷から保護する方法とに関し、方法は、
a)哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療し、および/または損傷を防止し、および損傷から保護する。
【0158】
本開示のさらなる態様は、それを必要とする対象において精神障害および行動障害を治療する方法に関し、方法は、
a)哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類神経幹細胞および/または神経前駆細胞の単離集団の治療的有効量を上記対象に投与することと
を含み、それによって精神症状を伴う神経障害を治療する。
【0159】
本開示のさらなる態様は、それを必要とする対象において神経系の疾患もしくは損傷を治療する、および/または神経系の損傷を防止するおよび損傷から保護する方法に関し、方法は、
a)哺乳類間葉系幹細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類間葉系幹細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって中枢神経系の疾患もしくは損傷を治療し、および/または損傷を防止し、および損傷から保護する。
【0160】
本開示のさらなる態様は、それを必要とする対象において精神障害および行動障害を治療する方法に関し、方法は、
a)哺乳類間葉系幹細胞が濃縮された集団を含む組成物を用意することであって、細胞がインテグリンα10サブユニットを発現する、組成物を用意することと、
b)哺乳類間葉系幹細胞の単離集団の治療的有効量を対象に投与することと
を含み、それによって精神症状を伴う神経障害を治療する。
【0161】
上記間葉系幹細胞は、例えば、骨髄、脂肪組織、臍帯血、ワルトン膠質、歯髄、羊水、羊膜、歯系組織、子宮内膜、肢芽、血液、胎盤膜と胎膜、唾液腺、皮膚と包皮、羊膜下臍帯内膜または滑膜から単離されてよい。
【0162】
本開示のさらなる態様は、神経系の疾患もしくは損傷を治療するおよび/または損傷を防止するおよび損傷から保護する方法において、および/または精神障害と行動障害を治療する方法における使用のための、神経幹細胞および/または神経前駆細胞によって発現されるインテグリンα10鎖サブユニットを含む、哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞のマーカーに関する。
【0163】
本開示のさらなる態様は、神経系の疾患もしくは損傷および/または精神障害および行動障害を治療する方法での使用のための、インテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞の単離集団を含む組成物に関する。
【0164】
いくつかの実施形態において、インテグリンα10発現は、上の「神経幹細胞および神経前駆細胞のためのマーカーとしてのインテグリンα10」の節に記述される。
【0165】
いくつかの実施形態において、細胞の集団は、例えば、上の「細胞組成物」および「哺乳類NSCおよび/またはNPCに関して濃縮された単離細胞集団を生成する方法」の節に記述されるように、インテグリンα10サブユニットを発現する哺乳類神経幹細胞および/または哺乳類神経前駆細胞に関して濃縮される。
【0166】
神経幹細胞、例えば、本明細書に開示される方法に従って上記細胞の細胞表面のインテグリンα10サブユニット発現を検出することによって単離される間葉系幹細胞などの神経前駆細胞、は対象の神経系の損傷部位に埋め込まれてよく、その結果、神経組織の増殖を促進し神経系傷害および神経変性疾患を修復できる。
【0167】
神経幹細胞、例えば、本明細書に開示される方法に従って上記細胞の細胞表面のインテグリンα10サブユニット発現を検出することによって単離され、かつそれを必要とする対象に埋め込まれるまたは移植される間葉系幹細胞などの神経前駆細胞、は神経幹細胞の遊走と分化および損傷細胞に栄養サポートを提供する細胞外マトリックス因子の産生を促進できる。
【0168】
いくつかの実施形態において、神経幹細胞、例えば、本明細書に開示される方法に従って上記細胞の細胞表面でインテグリンα10サブユニット発現を検出することによって単離される間葉系幹細胞などの神経前駆細胞、はそれを必要とする対象に脳内、動脈内、静脈内、または脳室内の経路を介して投与される。
【0169】
細胞は、上記対象に1または複数の機会で投与されてよい。
【0170】
細胞が対象に投与されるまたは移植されると、それらは、移入先の環境によって異なってふるまい、およびすべての型の神経細胞に分化できる。
【0171】
特性が明らかにされ治療される疾患、損傷および障害
いくつかの疾患および障害は、本開示のマーカーおよび/または細胞ならびに方法を用いて特性が明らかにされ、治療され得る。
【0172】
本開示の一実施形態において、神経系の疾患もしくは損傷は、中枢神経系または末梢神経系の傷害もしくは神経変性疾患である。上記疾患、損傷または傷害は、神経細胞の欠失もしくは損傷を伴うこともある。
【0173】
本開示のいくつかの実施形態において、神経系の傷害は、脳、脳幹、脊髄、および/または末梢神経への傷害を含み、脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄傷害(SCI)、びまん性軸索損傷(DAI)、てんかん、神経障害、末梢神経障害、およびこれらの症候群が引き起こし得る随伴疼痛、ならびに他の症状などの病態をもたらす。
【0174】
脳卒中は、脳への不十分な血流が細胞死をもたらす病状である。主に2つの種類の脳卒中:虚血性脳卒中および出血性脳卒中がある。脳虚血症(別名:脳虚血、脳血管虚血)は、代謝要求を満たすための脳への血流が不十分な状態である。これは、酸素供給不足または脳低酸素、したがって脳組織の壊死または脳梗塞/虚血性脳卒中を引き起こす。局所脳虚血は特定の脳領域への血流を減少させ、その特定部位の細胞死のリスクを増加させるのに対して、全脳虚血は全般的に脳に影響を及ぼす。局所脳虚血のげっ歯類モデルは、実験的脳卒中研究で頻繁に用いられる。
【0175】
(Fairbairnら,2015)に記載のように、NSCは、急性末梢神経傷害の結果としての末梢神経傷害部位に埋め込まれ得る。NSCはまた、形態学的および電気生理学的な回復を向上させるために、慢性的に除神経された神経に埋め込まれ得る。
【0176】
本発明者らは、インテグリンα10β1を発現する神経幹細胞が脳卒中に罹患した部位に補充されることを示した(例えば図13~14)。一実施形態において、本発明はこのように、脳卒中などの虚血性損傷によって悪影響を受けている部位の大きさおよび位置の特性を明らかにするために有用である。本発明はこのように、CNSの疾患または損傷後の診断および予後ツールとして、医療専門家にとって有用である。例えば、脳卒中の特性を評価するためのナノ粒子結合抗体の用途を示す、Panagiotouら(2015)Frontiers in Neuroscience Vol.9, Article 182を参照されたい。さらに、神経幹細胞(例えば自家神経幹細胞または前駆細胞)はドナー、例えば患者自身から取得され、神経幹細胞または前駆細胞として特性を明らかにされ、増殖されCNSの損傷部位または疾患部位に移植され得る。このように、本発明は、多数のCNS疾患および障害、ならびに神経組織の損失または損傷を含む傷害および外傷を治療するのに有用である。
【0177】
別の実施形態において、神経系の疾患または損傷は、脳、脳幹、脊髄および/または末梢神経におけるニューロンの変性と、それらのプロセスとを含む神経変性疾患であり、パーキンソン病、アルツハイマー病、老年認知症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)に付随する神経/軸索損傷、および随伴症状を含むがこれらに限定されない。
【0178】
他の実施形態において、神経系の傷害および/または神経変性疾患は、脳、脳幹、脊髄および/または末梢神経における機能障害、および/またはニューロンの損傷、例えば代謝疾患、栄養欠乏、毒性傷害、悪性腫瘍および/または遺伝的もしくは特発性状態に起因する機能傷害および/または損傷を含み、糖尿病、腎機機能障害、アルコール依存症、化学療法、化学物質、薬物乱用、ビタミン欠乏、感染、および随伴症状を含むがこれらに限定されない。
【0179】
他の実施形態において、神経系の傷害および/または神経変性疾患は、脳、脳幹、脊髄および/または末梢神経におけるオリゴデンドロサイト、アストロサイト、およびシュワン細胞などのグリアの変性または硬化症を含み、多発性硬化症(MS)、視神経炎、大脳硬化症、感染後脳脊髄炎とてんかん、および随伴症状を含むがこれらに限定されない。
【0180】
他の実施形態において、神経系の傷害および/または神経変性疾患は、網膜、光受容体および関連する神経を含み、網膜色素変性症、黄斑変性、緑内障および随伴する症状を含むがこれらに限定されない。
【0181】
他の実施形態において、神経系の傷害および/または神経変性疾患は、聴神経複合体の感覚上皮および関連神経節を含み、騒音性難聴、聴覚消失、耳鳴、耳炎、内耳炎、遺伝性委縮と蝸牛前庭萎縮、メニエール病、および随伴症状を含むがこれらに限定されない。
【0182】
いくつかの実施形態において、神経系の傷害は、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳損傷(TBI)、脳卒中および脳癌からなる群から選択される。好ましい実施形態において、神経系の傷害は脳卒中である。
【0183】
いくつかの実施形態において、神経組織の損傷を含む精神障害および行動障害は、本発明のNCSまたはNPCによって治療できる。例えば、Ladranら(2013)Interdiscip Rev Syst Biol Med.5(6):701-715およびKalmanら(2016)Stem Cells Int.7909176を参照されたい。
【0184】
特定の実施形態において、精神障害および行動障害は、レット症候群、統合失調症、うつ病、自閉症スペクトラム症(ASD)および双極性障害(BPD)からなる群から選択される。実際に、いくつかの精神障害および行動障害は、形態および/または機能が変化した神経細胞と関連する。したがって、正常なNSCおよび/またはNPCの移植は、形態学的かつ機能的に正常にコミットした神経細胞の生成、および精神および行動の障害の退行をもたらし得る。
【0185】
本発明による細胞組成物は、遺伝性疾患の治療でも用いることができる。NSCおよび/またはNPCと関連する遺伝性疾患は、遺伝子異常を修正するために、自家または同種のNSCの遺伝子修飾によって治療されてよい。例えば、ハンチントン病(HD)は遺伝病であり、親が罹患している子供はこの疾患を引き起こす遺伝子障害を受け継ぐ50%の可能性を有する。この障害は、ハンチンチンと呼ばれるタンパク質のコードを保持する遺伝子に起こる。この欠陥遺伝子により、身体がハンチンチンタンパク質の不完全な毒性のバージョンを作り、これが最終的に中型有棘ニューロン(MSN)および他のニューロンの損失をもたらす。正常なNSCおよび/またはNPSを含む細胞組成物の、欠陥遺伝子を含む細胞を有する対象への投与の結果、対象は正常なハンチンチンを産生できるようになり得る。
【0186】
同種のNSCおよび/またはNPCとともに、正常細胞は、遺伝子欠陥なしに同じ種の哺乳類を形成し、療法として用いられ得る。
【0187】
NSCおよび/またはNPCおよび/またはMSC、ならびにNSCおよび/またはNPCおよび/またはMSCを含む組成物を移入し固定するために、単離細胞を欠損部位、例えば脳への損傷部位、または骨髄に注射すること、単離細胞を適切なゲル中でインキュベートし埋め込むこと、生体吸収性足場とともにインキュベートすること、または全身注入によるなどを含む、種々の方法が検討されてよい。さまざまな方法が当業者に知られている。
【0188】
任意選択でNSCおよび/またはNPCおよび/またはMSCは、所定位置に細胞を保持するために、インテグリンα10に対する抗体とインキュベートされてよい。このように、抗体は、損傷部位または欠損部位への、例えば神経欠損の部位への埋め込みの前に細胞の固定を可能にする生体吸収性足場に結合されてよい。足場は、NSCおよび/またはNPCおよび/またはMSCの3次元の固定を可能にする。好適な生体用材料足場を、以下に例示する。示される例は、特定の用途に対しより好適である場合に選択することが当業者にとって明らかである、適切な他の足場の使用を限定するものではない。
【0189】
足場の種類としては、生体吸収型ポリ(α-ヒドロキシエステル)足場、例えばポリ乳酸(PLLA)、ポリグリコール酸(PGA)およびコポリマー(PLGA)が挙げられる。
【0190】
さらなる実施形態は、ヒアルロン酸、コラーゲン、アルギン酸およびキトサンなどのポリマーゲルに由来する足場を包含する。
【0191】
実施例
実施例1:マウス脳室下帯(SVZ)からの細胞の単離およびフローサイトメトリー分析
SVZ単離
神経幹細胞/前駆細胞を、仔マウスおよび成体マウスのSVZから単離した。マウスを断頭して、脳を摘出し、抗生物質を含む氷冷PBSに入れ、SVZを含有する切片(厚さ1mm)を収集した。側脳室の前角の側壁からSVZを切除した。組織を37℃で20分間StemPro Accutase(ThermoFisher Scientific)溶液中で消化した。P200およびP20チップでの粉砕後、細胞懸濁液を(50μmフィルタ、BD Biosciences)濾過し、37℃にて5%COでNSP培地:1×B27(Gibco)、1×N2(Gibco)、100U/mL抗真菌性抗生物質(Gibco)、bFGF(20ng/ml)(Gibco)およびEGF(20ng/ml)(Gibco)を補充したDMEM/F12 w/GlutamaxおよびNeurobasal(1:1)(Gibco)中に播種した。スフェアは、約5日後に出現し始めた。細胞を、Accutaseを用いて5~7日毎に継代培養した。
【0192】
フローサイトメトリー手順
1.抗体:インテグリンα10サブユニットに対するモノクローナル抗体を用いた。細胞を遠心分離し、エッペンドルフチューブあたり100μLのアリコートを加えた。1μg/mLの対照マウスIgG2a抗体を0.2mg/mLのストックから対照として使用した。
2.細胞を一次抗体と氷上で60分間インキュベートした。
3.細胞を500μLの染色緩衝液(2%FBSを含むPBS+/+)で2回洗浄した。
4.二次抗体を加え、細胞を氷上で45分間インキュベートした。
5.細胞を500μLの染色緩衝液で2~3回洗浄した。
6.500μLの染色緩衝液を最終ペレットに加え、細胞を再懸濁した。
7.細胞をフローサイトメトリーによって分析した。
【0193】
結論:本実施例は、成体マウス脳の脳室下帯から単離された細胞がインテグリンα10β1を発現することを示す。図1Bを参照されたい。
【0194】
実施例2:免疫蛍光法によるマウス脳組織におけるインテグリンα10β1と他のマーカーとの同時発現の分析
新鮮凍結マウス脳組織をTissueTek((Sakura,Japan)に包埋した。10μmの切片(MICROM HM 500OMクリオスタットで作製)をSuperFrost Plusスライド(Menzel-Glaser,GmbH)上に収集した。切片をアセトンで固定(100%、-20℃で10分間)した後、免疫標識で用いた。
【0195】
凍結切片を37℃で約20分間風乾した。切片が室温に達した時にそれらをPBS(リン酸緩衝生理食塩水、0.1M、pH7.4)で5分間、2回リンスした。シリコーンバリアー(PAPペン)を切片の周りに塗布した。切片を0.05%(0.1~0.001)Triton X-100と1%BSA含有PBS中で室温にて30分間インキュベートし、次いでPBSで1回2分間リンスした。切片を、異なる抗原(最初に特異性および最適な作業希釈について個々に評価した)に対して異なる種で作製された一次抗体の混合物とインキュベートした。インキュベーションは、α10一次抗体1.2μg/mL(0.6~1.2μg/mL)(0.05%TritonX-100および1%BSAを含有するPBSで希釈した)と、4~8℃で、16~18時間行った。2つのエピトープの同時蛍光可視化のために、それぞれ一次および二次抗体を混合物(「カクテル」)として適用した。切片を、PBSで1分間、続いて5分間2回リンスし、次いで、1:150で希釈したフルオロフォア結合二次抗体/複数抗体の混合物と室温で、30~45分間インキュベートした。
【0196】
多重標識(高度にアフィニティー精製された、主にFab2フラグメント)用の二次抗体をウサギ、マウスもしくはヤギIgGに対して、またはニワトリIgY(Jackson,USAまたはInvitrogen,USA)に対してロバまたはヤギで作製し、1%BSA含有PBSで希釈した。2つのエピトープの同時蛍光可視化のために、一次および二次抗体を混合物「カクテル」として適用した。切片をまずPBS-TritonX 100で2分間リンスし、次いでPBSで5分間1回リンスした。切片を、PBSで希釈された、細胞小器官(核)染色DAPI、0.1μM中でインキュベートし、PBSで希釈し、PBSで5分間2回リンスした。切片を「抗退色溶液」ProLong Gold(Invitrogen,USA)中でマウントし、カバーをそっと載せた。本研究で使用した抗体を表2に示す。
【0197】
【表2】
【0198】
分析:
分析を、共焦点レーザー走査顕微鏡観察と落射蛍光顕微鏡観察によって行った。
【0199】
試料を、305nmと633nmの間の励起用レーザーおよび420nmと650nmの間の発光検出用レーザーを利用して、Zeiss LSM 510META共焦点顕微鏡で調べた。画像を、3つの免疫蛍光チャネル、1つのDAPIチャネルおよび1つの明視野DICチャネルを用いて、20×/0.8プランアポクロマート対物レンズと、40×/1.3油浸漬プランアポクロマート対物レンズにより取得した。
【0200】
連続した共焦点面のZ-スタック(DICなし)を、40×/1.3対物レンズと、1024×1024pxフレームサイズ(画素幅0.22μm)または「ズーム」(小面積を走査)のいずれかと、最大分解能のためのナイキスト最適サンプリング周波数(画素幅0.115μm)とにより取得した。連続した共焦点面間のステップサイズは、ナイキスト最適サンプリング周波数(0.48μm)に従った。
【0201】
結果:免疫蛍光染色および共焦点顕微鏡観察からの画像は、成体マウス組織のSVZにおけるインテグリンα10β1の発現(図5);成体マウス脳組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびnestinの発現と共局在(図6);成体マウス脳組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびPSA-NCAMの発現と部分的な共局在(図7);成体マウス脳組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびGFAPの発現と部分的な共局在(図8);ならびに新生仔マウス脳組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびSOX2の発現と部分的な共局在(図9)を示す。図10に示すように、成体マウス脳組織のSVZにおけるインテグリンα10β1およびPDFGRαの部分的な共局在もフローサイトメトリーを使用して認められた。
【0202】
免疫蛍光染色、共焦点顕微鏡観察および落射蛍光顕微鏡観察からの画像は、新生仔マウス脳組織の顆粒細胞下帯におけるインテグリンα10β1およびSOX2の発現と部分的な共局在(図11)、ならびに新生仔マウス脳組織の髄膜におけるインテグリンα10β1およびPDFGRαの発現と部分的な共局在(図12)を示す。
【0203】
結論:本実施例では、種々のマーカーが成体マウス脳細胞の脳室下帯において発現されかつインテグリンα10β1と部分的に共局在すると示される。
【0204】
実施例3:単離されたマウスNSP/NSP細胞の分化および遺伝子発現分析
特定の神経細胞系列を確認するために、定量的PCRアッセイを用いて遺伝子発現を測定した。
【0205】
RNA抽出および定量的PCR
全RNAを、RNeasy Plus Micro Kit(Qiagen)を用いて細胞または組織から抽出し、次いでSuperScript cDNA Synthesis Kit(Life Technologies)を用いてcDNAに逆転写した。定量的PCRのために、TaqMan Gene Expression Master Mix(Life Technologies)およびTaqManプローブ(ThermoFisher Scientific)を用いた。標的遺伝子のサイクル閾値をハウスキーピング遺伝子Gapdhの幾何平均に正規化してΔCtを得た。最終分析のために2の-ΔCt(2-ΔCt)乗を算出した。図4を参照されたい。qPCR分析のために用いたTaqmanプローブを表3に示す。
【0206】
【表3】
【0207】
結論:結果は、Map2、β-Tubulin III、GfapおよびO4について遺伝子発現の増加を示した(図4)。これは、単離されたNSC/NSPがニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトに効果的に分化することを示す。
【0208】
実施例4:インテグリンα10サブユニット陽性神経幹細胞をニューロスフェアとして培養する
神経幹細胞/前駆細胞を出生後マウスおよび成体マウス(C57Bl/6)のSVZから単離した。脳を単離し、側面の心室壁を切除し、StemPro Accutase(ThermoFisher Scientific)中で37℃にて20分間消化した。P200およびP20チップで組織を粉砕し、細胞懸濁液を濾過し(50μmフィルタ、BD Biosciences)、NSP培地(B27(Gibco)、N2(Gibco)、100U/mL抗真菌性抗生物質(Gibco)、bFGF(20ng/ml)(Gibco)およびEGF(20ng/ml)(Gibco)を補充した(DMEM/F12 w/GlutamaxおよびNeurobasal培地(1:1)(Gibco))に播種した。細胞を、Accutaseを使用して5日毎に継代培養した。
【0209】
結果:フローサイトメトリーおよび免疫蛍光染色からの画像に続いて、共焦点顕微鏡観察は、ニューロスフェアとして培養された細胞の亜集団が他の幹細胞マーカーとともにインテグリンα10β1を発現することを示す(図2および図3)。
【0210】
実施例5:インテグリンα10サブユニット発現を検出することによって同定され単離されたNSCの濃縮集団を投与することによるマウスにおける脳卒中の治療
マウスNSCの単離および培養
インテグリンα10サブユニットを発現する神経幹細胞を、実施例1に記載の方法に従ってマウス全脳から単離する。
【0211】
単離後、神経幹細胞を実施例4に記載のニューロスフェア形態で培養する。
【0212】
継代培養を1:3の分割比で、4~6日毎に行う。通常、継代3の細胞は、実験にすぐに使用できる。継代3のNSCを特徴づけでも用いる。神経幹細胞マーカーCD133およびPDFGRα、ならびにインテグリンα10β1をフローサイトメトリーによって調べる。
【0213】
中大脳動脈永久閉塞(pMCAO)
マウスにおけるpMCAOを、例えばEngelら(2011)に記述される方法に従って、外科的に生成する。
【0214】
α10β1細胞を安定して発現する異なる数のNSCの、脳卒中を罹患したマウス脳への移植
2.5×10、5×10または10×10のNSC-α10細胞の単一用量をマウスに投与する。残存脳卒中体積の周りの標的部位を明確にするために、磁気共鳴画像定位技術を用いてインテグリンα10β1陽性NSCを埋め込む。
【0215】
結論として、本研究は、脳卒中の治療のためのNSC-α10発現細胞を用いる脳内幹細胞移植は一般的に安全であり、マウスによる忍容性が高く、神経機能の改善をもたらすことを示す。
【0216】
マウスBM-MSCの単離および培養
4週齢または8週齢のマウスを頸椎脱臼により安楽死させ、100mm細胞培養皿(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ,USA)に入れ、そこでマウスの全身を70v/v%のエタノールに2分間浸し、次いでマウスを新しい皿に移す。4つの鉤爪を足首関節と手根関節で切断し、後肢と体幹の間の接合部、前肢および躯幹の周辺を切開した。皮膚全体を続いて、爪の切断部位に向かって引っ張ることにより後肢および前肢から取り除く。筋肉、靭帯と腱を、顕微解剖ハサミおよび外科用メスを使用して、脛骨、大腿骨、および上腕骨から慎重に分離する。脛骨、大腿骨、および上腕骨を、関節で切断して切開し、骨を滅菌ガーゼ上に移す。骨を注意深くこすって残留する軟組織を取り除き、10mLの完全α-MEM培地を含む、氷上の100-mm滅菌培養皿に移す。すべての試料を動物の死後30分以内に処理して、高い細胞生存率を確保する。軟組織を骨から完全に分離して混入を避ける。
【0217】
バイオセイフティキャビネット中で、骨を1%PSN含有PBSで2回洗浄して血球および残留する軟組織を洗い流し、次いで骨を10mLの完全α-MEM培地を含む新しい100-mm滅菌培養皿に移す。骨を鉗子で保持し、顕微解剖ハサミを使用して、骨の両端を髄腔端部の真下で切除する。5mLシリンジに取り付けられた23ゲージの針を使用して、培養皿から5mLの完全α-MEM培地を引き出す。次いで、針を骨空洞に挿入する。出てきた骨髄をゆっくりと洗い流し、骨空洞を骨が青白くなるまで再び2回洗浄する。全ての骨片を、鉗子を用いて培養皿から取り除き、固体塊を培地中に残し、次いで培養皿を37℃、5%CO2インキュベーター内で5日間インキュベートする。十分な骨髄細胞を得るために、骨空洞を骨が青白く見えるまで繰り返し洗い流す。
【0218】
位相差顕微鏡観察において3日目に最初の紡錘形細胞が出現し、次いで培養物はよりコンフルエントになり、わずか2日以内に70~90%コンフルエントに達する。細胞をPBSで2回洗浄し、2.5mLの0.25%トリプシンで37℃にて2分間消化し、次いでトリプシンを7.5mLの完全α-MEM培地で中和する。プレートの底部を、ピペットエイドを用いて洗い流し、細胞を15mLのFalconチューブ(Becton Dickinson)に移し、これを800gで5分間遠心分離し、細胞を75cmの細胞培養フラスコ(Corning Inc.Corning,NY,USA)に1:3の分割比で再懸濁する。
【0219】
継代培養を1:3の分割比で、4~6日毎に行う。通常、継代3での細胞は、継代1と2の細胞よりも少ないマクロファージと血液細胞、および少ない脂肪を含み、したがってすぐに実験で使用できる。
【0220】
継代3のBM-MSCを特徴づけで用いる。間葉系幹細胞マーカーCD44とCD90、内皮細胞マーカーCD31、および造血マーカーCD45を、フローサイトメトリーによって調べる。
【0221】
BM-MSCへのインテグリンα10β1のレンチウイルス形質導入
1日目:新鮮な培地中の1.6×10BM-MSC細胞を、96ウェルプレートで各構築物について必要とされる数のウェルに加える。各レンチウイルス構造物および対照に対して2重または3重のウェルを使用しなければならない。37℃、5~7%CO雰囲気下の加湿インキュベーターで、18~20時間インキュベートする。
【0222】
2日目:ウェルから培地を取り除く。110μLの培地および臭化ヘキサジメトリン(最終濃度8μg/mL)を各ウェルに加える。プレートを穏やかに回して混合する。2~15μLのα10β1または対照レンチウイルス粒子を適切なウェルに加える。プレートを穏やかに回して混合する。37℃、5~7%CO雰囲気下の加湿インキュベーターで、18~20時間インキュベートする。
【0223】
3日目:レンチウイルス粒子を含有する培地をウェルから取り除く。120μL量の新鮮な培地を各ウェルに加える。
【0224】
4日目:培地をウェルから取り除く。新鮮なピューロマイシン含有培地を加える。
【0225】
5日目およびそれ以降:培地を、耐性コロニーが確認されるまで3~4日毎に新鮮なピューロマイシン含有培地と取り替える。
【0226】
中大脳動脈永久閉塞(pMCAO)
マウスにおけるpMCAOを、例えばEngelら(2011)に記述される方法に従って、外科的に生成する。
【0227】
α10β1細胞を安定して過剰発現する異なる数のBM-MSCの、マウス脳の脳卒中障害部位への移植
2.5×10、5×10または10×10のBM-MSC-α10細胞の単一用量をマウスに投与する。残存脳卒中体積の周りの標的部位を明確にするために、磁気共鳴画像定位技術を用いてNSC-α10β1を埋め込む。
【0228】
結論:結論として、本研究は、脳卒中の治療のためのBM-MSC-α10発現細胞を用いる脳内幹細胞移植が一般的に安全であり、マウスによる忍容性が高く、神経機能の改善をもたらすことを示す。
【0229】
実施例6:脳卒中マウスモデルにおけるインテグリンα10β1の発現
脳卒中モデル
手順を、C57BL/6マウス(25~30g、Charles River,Germany)で実行した。手短に言えば、光血栓(PT)による永久局所虚血モデルを用いた。手術中の体温を37℃に維持した。マウスにイソフルラン(自発呼吸下のO2中2%)で麻酔をかけた。感光性ローズベンガル染料(10mg/mL、Sigma)を尾静脈から静脈内注射した。頭蓋骨上の皮膚を切開した。脳を、定位的に定めた位置(横方向に1mmおよびブレグマの前方/後方+2/-2mm)で冷光(Kl 1500 LCD,Schott)および緑色フィルター(510nm)を用いて、露出した頭蓋骨を通して照射した。対照として、マウス脳を摘出し凍結した。
【0230】
脳卒中に応答して、インテグリンα10β1の発現は、7日目までに顕著に増加した(図13)。共焦点分析は、脳卒中部位においてニューロン上でのNeuN発現も増加し、かつインテグリンα10β1とNeuNの部分的な共局在が存在した(図14BおよびC)ことを示す。加えて、成熟アストロサイト上でのGFAPの発現は、脳卒中部位において増加し(図14EおよびF)、インテグリンα10β1と共局在することがわかった。ミクログリアマーカーIba1も脳卒中部位内で認められた(図14HおよびI)が、対照脳組織中では認められなかった(図14G)。しかし、それはインテグリンα10β1と共局在しなかった。これは、インテグリンα10β1が、脳卒中後の脳組織を再生することに関与し得る細胞型を同定することを示唆している。
【0231】
結論:脳卒中への応答として、単独でまたは他のマーカー(NeuN、GFAPおよびIba1)とともにインテグリンα10β1の発現の増加をバイオマーカーとして用いて、脳卒中患者における脳卒中部位を決定し、かつ損傷の重症度および予後を予測できる。
【0232】
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【配列表】
2022091876000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された発明。
【外国語明細書】