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特開2022-91900二酸化炭素の排出量推定システム及び二酸化炭素の排出量推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091900
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】二酸化炭素の排出量推定システム及び二酸化炭素の排出量推定方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20220614BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022053748
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃敏
(57)【要約】      (修正有)
【課題】建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定する方法でありながら、容易に建物の総二酸化炭素排出量を精度よく算出することが可能な二酸化炭素の排出量推定システム及び二酸化炭素の排出量推定方法を提供する。
【解決手段】建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量推定システム1であって、演算処理部3は、二酸化炭素の排出量を直接算出する品目として選定された直接算定品目について、建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するカバー率設定部31と、直接算定品目の二酸化炭素排出量を算出する直接排出量算出部32と、直接算定品目の二酸化炭素排出量及びカバー率を積算して合計排出量及び合計カバー率を算出する積算処理部33と、合計カバー率に含まれない建設資材の割合に基づいて合計排出量を補正することで、建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出する総排出量算出部35と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量推定システムであって、
二酸化炭素の排出量を直接算出する品目として選定された直接算定品目について、前記建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するカバー率設定部と、
前記直接算定品目の使用数量を入力データとして、二酸化炭素排出量の原単位を乗ずることで、それぞれの二酸化炭素排出量を算出する直接排出量算出部と、
前記入力データがある前記直接算定品目の前記二酸化炭素排出量及び前記カバー率を積算して合計排出量及び合計カバー率を算出する積算処理部と、
前記合計カバー率に含まれない前記建物に用いられる建設資材の割合に基づいて前記合計排出量を補正することで、前記建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出する総排出量算出部とを備えたことを特徴とする二酸化炭素の排出量推定システム。
【請求項2】
前記建物の類型に基づいて前記カバー率を設定するカバー率データベースを備えたことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の排出量推定システム。
【請求項3】
前記カバー率データベースから取り込まれたカバー率に杭工事に関するものが含まれている場合に、前記カバー率設定部では、前記杭工事を対象外にしたカバー率の設定が可能であることを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素の排出量推定システム。
【請求項4】
建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量推定方法であって、
建物に用いられるすべての建設資材の中から、二酸化炭素の排出量を直接算出する品目を直接算定品目として選定して、前記建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するステップと、
前記直接算定品目の使用数量及び二酸化炭素排出量の原単位に基づいて、それぞれの二酸化炭素排出量を算出して積算することで合計排出量を算出するステップと、
使用数量が入力された前記直接算定品目の前記カバー率を積算することで合計カバー率を算出するステップと、
前記合計カバー率に含まれない前記建物に用いられる建設資材の割合に基づいて前記合計排出量を補正することで、前記建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出するステップとを備えたことを特徴とする二酸化炭素の排出量推定方法。
【請求項5】
前記カバー率は、前記建物に類似する建物の実績データに基づいて設定されることを特徴とする請求項4に記載の二酸化炭素の排出量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量推定システム及び二酸化炭素の排出量推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、地球環境への配慮が求められるなかで、二酸化炭素排出量(CO2排出量)の増加とその影響が問題になっている。建物の建設を考えたときに、二酸化炭素排出量は、世界基準であるGHGプロトコルにより、Scope1,2,3に分けられており、さらにScope3は15のカテゴリに分類される。このうち建設資材は、カテゴリ1(購入・取得した原材料の排出量)に分類されている。
【0003】
そして、特許文献1,2には、建設資材の使用数量及び建設資材の原単位(単位物量におけるCO2排出量)に基づいて算出される二酸化炭素排出量を積み上げることで、建物に用いられる建設資材の二酸化炭素の総排出量を算出できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-265178号公報
【特許文献2】特開2002-245202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、建設資材ごとにCO2排出量を算定して積み上げる方式は、建物に用いられる建設資材の種類や使用量が膨大となるため、非常に手間がかかる。一方、各工事のCO2排出量削減の取り組みを促進させるには、各建設資材の二酸化炭素排出量をできるだけ正確に把握することが求められる。
【0006】
そこで本発明は、建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定する方法でありながら、容易に建物の総二酸化炭素排出量を精度よく算出することが可能な二酸化炭素の排出量推定システム、及び二酸化炭素の排出量推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の二酸化炭素の排出量推定システムは、建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量推定システムであって、二酸化炭素の排出量を直接算出する品目として選定された直接算定品目について、前記建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するカバー率設定部と、前記直接算定品目の使用数量を入力データとして、二酸化炭素排出量の原単位を乗ずることで、それぞれの二酸化炭素排出量を算出する直接排出量算出部と、前記入力データがある前記直接算定品目の前記二酸化炭素排出量及び前記カバー率を積算して合計排出量及び合計カバー率を算出する積算処理部と、前記合計カバー率に含まれない前記建物に用いられる建設資材の割合に基づいて前記合計排出量を補正することで、前記建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出する総排出量算出部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記建物の類型に基づいて前記カバー率を設定するカバー率データベースを備えた構成とすることができる。前記カバー率は、前記建物に類似する建物の実績データに基づいて設定することができる。
【0009】
また、二酸化炭素の排出量推定方法の発明は、建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量推定方法であって、建物に用いられるすべての建設資材の中から、二酸化炭素の排出量を直接算出する品目を直接算定品目として選定して、前記建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するステップと、前記直接算定品目の使用数量及び二酸化炭素排出量の原単位に基づいて、それぞれの二酸化炭素排出量を算出して積算することで合計排出量を算出するステップと、使用数量が入力された前記直接算定品目の前記カバー率を積算することで合計カバー率を算出するステップと、前記合計カバー率に含まれない前記建物に用いられる建設資材の割合に基づいて前記合計排出量を補正することで、前記建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の二酸化炭素の排出量推定システムは、二酸化炭素の排出量を直接算出する品目として選定された直接算定品目について、建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するカバー率設定部を備えている。また、総排出量算出部では、合計カバー率に含まれない建物に用いられる建設資材の割合に基づいて合計排出量を補正することで、建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出する。
【0011】
このように、建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定する方法でありながら、カバー率を使用することで、容易に建物の総二酸化炭素排出量を精度よく算出することができるようになる。
【0012】
また、建物の類型に基づいてカバー率を設定するカバー率データベースを備えていれば、建設しようとする建物に類似する建物が区分された類型を入力するだけで、簡単にカバー率を設定することができる。
【0013】
そして、二酸化炭素の排出量推定方法の発明についても、建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定する方法でありながら、カバー率を使用することで、容易に建物の総二酸化炭素排出量を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定システムの構成を説明するブロック図である。
図2】本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図3】建物に用いられる各建設資材の二酸化炭素排出量の割合を例示した説明図である。
図4】建設資材の二酸化炭素排出量の算出に必要な項目を示した説明図である。
図5】本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定システムの計算シートを例示した説明図である。
図6】本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定システムによって算出される結果を例示した説明図である。
図7】算出された二酸化炭素排出量を建設資材毎にまとめて円グラフと一覧表で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定システムの構成を説明するブロック図である。また、図2は、本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【0016】
本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定システムとなるCO2推定システム1は、建物に用いられる建設資材に関する二酸化炭素の排出量を算出する。すなわち、総重量を秤等によって直接、計測することができない建物について、その建物を構成するすべての建設資材に基づく二酸化炭素排出量を、建物の総二酸化炭素排出量として算出する。
【0017】
建設資材は、温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の排出量を算定して報告する際の国際的な基準であるGHGプロトコルによって、Scope3のカテゴリ1(購入・取得した原材料の排出量)に分類されている。
【0018】
本実施の形態のCO2推定システム1は、図1に示すように、入力装置2などからの入力情報によって演算処理を行う演算処理部3を備え、演算処理部3には、各種データベース(21,22)、記憶部4、ディスプレイ等の表示装置5などが接続される。
【0019】
入力装置2には、キーボード、マウス、タッチパッド、タッチパネル、音声入力用のマイクなどが該当する。演算処理に必要となるデータを取得するための各種データベース(21,22)については、後述する。
【0020】
また、記憶部4は、演算処理部3における処理時に生成されたデータや演算処理に必要なデータを記録させる記憶媒体で、ハードディスク、フラッシュメモリ、磁気ディスク、光ディスクなどが該当する。また、クラウドサーバを記憶部4として使用することもできる。
【0021】
本実施の形態のCO2推定システム1の演算処理部3は、カバー率設定部31と、直接排出量算出部32と、積算処理部33と、非カバー率算出部34と、総排出量算出部35とを備えている。
【0022】
カバー率設定部31を説明するにあたって、まずは、図3に例示した建物に用いられる各建設資材の二酸化炭素排出量の割合について説明する。図3に示すように、建物を新築で建設する場合には、多くの建設資材が使用される。
【0023】
列記すると、コンクリート、鉄筋、ガラス、デッキプレート、鉄骨、アルミサッシ、OAフロア、金属サンドイッチパネル、ALCパネル、SD(鋼製重量ドア)、LGS(軽量鉄骨)、ロックウール、システム天井、石膏ボード、タイル、砕石、石などの建設資材が、建物の構築に用いられる。
【0024】
そして、これらの建設資材には、単位物量における二酸化炭素排出量(CO2排出量)となる原単位を設定することができる。原単位は、独自に算出することもできるし、第三者が作成したものを入手して使用することもできる。原単位は、建設資材の使用数量の単位に合わせて、単位変換された建設資材毎の原単位が、記憶部4に保存される。
【0025】
そして、各建設資材の使用数量に、それに応じた原単位を乗ずることで、新築される建物の各建設資材の二酸化炭素排出量(t-CO2)を算出することができる。図3を見ると分かるように、建物を構築するためには多くの建設資材が使用されるが、総CO2排出量に占める割合は、例えば上位3品目で50%を超えている。ここでは、コンクリート(杭を除く)、鉄筋(杭)、ガラスのCO2排出量が多いことが分かる。
【0026】
要するに、建物に用いられるすべての建設資材の品目を積み上げなくても、全体に占める割合が大きい建設資材の品目を選定して、その選定された直接算定品目についてだけ二酸化炭素の排出量を直接、算出するようにしても、一定以上の推定精度が確保できると言える。
【0027】
そこで、本実施の形態のCO2推定システム1では、建物の総重量に占める直接算定品目の使用重量の割合をカバー率として設定する。すなわち、カバー率設定部31では、この重量によるカバー率の設定を行う。
【0028】
上述したように、建物の総重量は、秤等によって直接、計測することができないうえに、建物の建設前の見積時には建物は存在していない。そこで、建物の総重量は推定値となるとともに、直接算定品目の使用重量についても、類似する建物などから導かれた推定使用重量を、カバー率の設置時には用いる。
【0029】
本実施の形態のCO2推定システム1に接続される直接算定品目データベース21には、建物を構成する建設資材の全重量を集計したときに、例えば重量比率で90%以上をカバーできるうえに、使用数量の算定がしやすい品目が、直接算定品目として選定されて保存されている。
【0030】
一方、カバー率データベース22には、類似する建物をまとめた類型ごとに、直接算定品目のカバー率が保存されている。建物の建設によく使用される建設資材であっても、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)、木造など、建物の類型によって、建設資材(直接算定品目)の重量カバー率が異なる。また、S造やRC造などの構造が同じであっても、延床面積(10000m2以上、10000-5000m2、5000m2未満など)や、階数(20階建以上、20-10階建、9-4階建、3階建未満)などの規模によって、建設資材の重量カバー率が異なる。
【0031】
そこで、カバー率データベース22には、建物の構造や規模などによって区分け可能な類型ごとに、直接算定品目の重量によるカバー率を設定して保存しておく。このカバー率は、同じ類型の建物の実績データが複数、蓄積されている場合は、平均値などを算定して使用することができる。また、カバー率データベース22に蓄積される建物の数や種類が増えれば、カバー率の信頼性を高めたり、建物の類型を細分化したりすることができるようになる。
【0032】
直接排出量算出部32では、直接算定品目の使用数量を入力データとして、二酸化炭素排出量の原単位を乗ずることで、それぞれの二酸化炭素排出量を算出する。直接算定品目の使用数量は、入力装置2によって入力することもできるし、記憶部4に見積時に算定した使用数量が保存されている場合は、そこから取り出して使用することもできる。
【0033】
積算処理部33では、使用数量の入力データがある直接算定品目の二酸化炭素排出量及びカバー率を積算して合計排出量及び合計カバー率を算出する。要するに、推定対象とした類型の標準的な建物に用いられる直接算定品目は、直接算定品目データベース21から取り出されているが、推定対象の建物では使用されない建設資材や、使用数量が算定されていない建設資材については、直接、二酸化炭素排出量を算出することができない。
【0034】
そこで、積算処理部33の積算対象は、使用数量の入力データがある直接算定品目に限定される。そして、積算対象となる直接算定品目ごとに、使用数量に原単位を乗じることで品目毎の二酸化炭素排出量を算出するとともに、それらを積算して合計排出量を算出する。
【0035】
さらに、積算対象となった直接算定品目に対して、カバー率データベース22から取り出されたカバー率を積算することで、合計カバー率を算出する。合計カバー率は、建物に用いられる建設資材の中で、直接、二酸化炭素排出量を算出して積み上げることができた建設資材の重量の割合を示している。この合計カバー率が、例えば90%以上となっていれば、信頼性の高い積み上げ式の算定が行えていると言える。
【0036】
非カバー率算出部34では、合計カバー率に含まれない建物に用いられる建設資材の割合を、非カバー率として算出する。要するに、本実施の形態のCO2推定システム1では、建物に用いられるすべての建設資材に対して二酸化炭素排出量を算出しているわけではないので、二酸化炭素排出量を算出しなかった建設資材の重量の割合を、非カバー率として算出する。
【0037】
総排出量算出部35では、カバー率が設定されて使用数量が入力された直接算定品目から算出された合計排出量を、非カバー率によって補正することで、不足する二酸化炭素排出量の補完を行う。具体的には、合計カバー率の逆数(100/カバー率)を非カバー率に基づく補正係数として設定し、その補正係数に合計排出量を乗じることで、建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量として算出する。
【0038】
次に、本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定方法の処理の流れについて、図2を参照しながら説明する。
まず、ステップS1では、直接算定品目データベース21に登録されている直接算定品目を取り込むとともに、記憶部4に保存された建設資材ごとの二酸化炭素排出量の算出基準になる原単位の取り込みを行う。
【0039】
ここで、図4図6は、建設資材の二酸化炭素排出量の算出に必要な項目を、計算シート状に示した説明図である。以下では、便宜上、ステップに区切って処理を説明するが、計算シートに必要項目が入力されると、自動的に総二酸化炭素排出量の算出まで行われるのは、一般的な計算シートと同じである。
【0040】
直接算定品目データベース21から取り込まれた直接算定品目の数は、建物に用いられるすべての建設資材の数より少なく、入力の負担が軽減される数であることが好ましい。ここでは、杭工事に関する品目を「必須項目(標準外)」とし、それ以外を「必須項目(標準)」とした。
【0041】
例えば、「必須項目(標準)」に分類されるのは、コンクリート(杭を除く)、鉄筋(杭を除く)、鉄骨、PCa部材(プレキャスト部材)、デッキプレート、砕石、ALCパネル、ECP(押出成形セメント板)、ロックウール、金属サンドイッチパネルなどである。
【0042】
一方、「必須項目(標準外)」に分類されるのは、コンクリート(杭)、鉄筋(杭)などである。杭工事は、施工場所により長さが異なり、物件ごとに数量のバラつきが大きくなるため、物件間で二酸化炭素排出量の比較を行う場合に、杭工事を対象外として比較できるようにした。
【0043】
ここで、例えば、単板ガラス、複層ガラス、強化ガラスなど同じ「ガラス」という品目であっても、仕様によって大きくCO2排出量が変わるものがある。このような場合は、品目の仕様が選択できるようにして、選択された仕様の原単位を使用することで、より精度の高い推定ができるようになる。
【0044】
続いてステップS2では、カバー率データベース22から、建物の類型ごとに設定されたカバー率を取り込む。図4には、建物の構造を類型として、S造(鉄骨造)とRC造(鉄筋コンクリート造)の重量によるカバー率が取り込まれている状態を示している(M7欄参照)。
【0045】
そして、二酸化炭素排出量の算出を行う推定対象となる建物の類型を、入力装置2を操作することでM1欄に入力すると、その類型(この例ではS造)に応じたカバー率が、カバー率設定部31によって設定されて、M6列に取り込まれる。
【0046】
この段階で計算シートには、選定された品目の分類(躯体、仕上など)や名称(M2列)、建設資材ごとの原単位(kg-CO2)の数値(M3列)、カバー率(M6)が表示されている。
【0047】
ステップS3では、計算シートに列記された直接算定品目について、推定対象となる建物における使用数量を入力する。図4のM4列に入力される数値は、入力装置2を操作することで入力することができる。また、見積時に使用数量を算定しており、その見積データが記憶部4に保存されている場合は、そこから取り込むこともできる。
【0048】
ステップS4では、直接排出量算出部32によって、入力された直接算定品目の使用数量に原単位を乗じることで、各直接算定品目の二酸化炭素の排出量(t-CO2)を算出して、図4のM5列に示すように表示させる。
【0049】
図5は、CO2推定システム1の計算シートに、直接算定品目の使用数量が入力された状態を例示している。この図に示すように、すべての直接算定品目に使用数量を入力する必要はなく、空欄があってもよい。
【0050】
使用数量が入力されなかった直接算定品目にカバー率が設定されていた場合は、そのカバー率を再配分するカバー率の再計算を行わせることもできる。また、「必須項目(標準外)」の杭工事に関する品目を対象外にした場合も、カバー率の再計算を行わせて、再設定することもできる。
【0051】
ステップS5では、積算処理部33によって、使用数量が入力された直接算定品目の二酸化炭素排出量を積算して、合計排出量を算出する(図6のM11欄参照)。また、同じく使用数量が入力された直接算定品目のカバー率を積算して、合計カバー率を算出する(図6のM12欄参照)。上述した直接算定品目による重量比率は90%以上になることが好ましく、図6のM12欄に示した合計カバー率は、「96.3%」と90%以上の値を示している。
【0052】
合計カバー率が算出されると、非カバー率算出部34によって100%から合計カバー率を減ずることで、非カバー率を算出することができる(ステップS6)。計算シートには、非カバー率の値自体は表示されないが、図6のM13欄に示すように、非カバー率に基づいた補正係数が表示される。
【0053】
この補正係数は、合計カバー率(M12欄)の逆数(100/合計カバー率)であり、合計排出量(M11欄)を補正係数(M13欄)によって補正することで、合計カバー率に含まれない建物に用いられる建設資材の二酸化炭素排出量を、加えることができるようになる。
【0054】
要するにステップS7では、総排出量算出部35によって、合計排出量(M11欄)に補正係数(M13欄)を乗じることで、建物全体の総二酸化炭素排出量(総CO2排出量)を算出して、M14欄に表示させる。
【0055】
総CO2排出量は、M15欄に示すように、直接算定品目の標準外や選択された品目を除いて算出することができる。また、M16欄に示すように、建物の単位面積当たりの排出量(kg-CO2/m2)に換算して表示することもできる。
【0056】
図7は、算出された二酸化炭素排出量を建設資材毎にまとめて、円グラフと一覧表で示した説明図である。この円グラフを見れば、二酸化炭素排出量が大きいものから順に表示されているので、CO2削減対策に効果的な建設資材を一目で把握することができる。
【0057】
次に、本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定システム及び二酸化炭素の排出量推定方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のCO2推定システム1は、二酸化炭素の排出量を直接算出する品目として選定された直接算定品目について、建物の総重量に占める推定使用重量からカバー率を設定するカバー率設定部31を備えている。
【0058】
また、直接算定品目に含まれていないなど、合計カバー率に含まれない建物に用いられる建設資材の割合を、非カバー率算出部34によって非カバー率として算出することもできる。そして総排出量算出部35では、非カバー率に基づいて直接算定品目の合計排出量を補正することで、建物に用いられる建設資材の総二酸化炭素排出量を算出する。
【0059】
このように、建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定する方法でありながら、カバー率を使用することで、容易に建物の総二酸化炭素排出量を精度よく算出することができる。すなわち、総重量を秤等によって直接、計測することができない建物について、その建物を構成するすべての建設資材に基づく二酸化炭素排出量を、建物の総二酸化炭素排出量として算出することができる。
【0060】
合計カバー率は、例えば90%以上となっていれば、精度の高い積み上げ式の算定が行えていると言える。使用数量が分かる項目だけ入力した場合でも、コンクリート、鉄筋、鉄骨などの主要品目の入力がされれば80%以上の重量がカバーできるようになるため、補正係数による補正の効果で、建物全体の二酸化炭素排出量の予測精度を向上させることができる。
【0061】
また、建物の類型に基づいてカバー率を設定するカバー率データベース22を備えていれば、建設しようとする建物の類型を入力するだけで、簡単にカバー率を設定することができる。さらに、建設しようとする建物に類似する建物の実績データが多く蓄積されていれば、より精度の高い推定を行うことができるようになる。
【0062】
また、表示装置5などに出力される計算シート(図5参照)の表示や、円グラフや一覧表(図7参照)などによって、各建設資材の二酸化炭素排出量が把握できれば、効率的な二酸化炭素排出量の削減案を検討して、実行することができるようになる。
【0063】
そして、本実施の形態の二酸化炭素の排出量推定方法についても、建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定する方法でありながら、カバー率を使用することで、容易に建物の総二酸化炭素排出量を精度よく算出することができる。
【0064】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0065】
例えば、前記実施の形態では、建物の類型を1つ選択してカバー率を設定する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、用途や構造がミックスされた複合建物であれば、それぞれの類型で設定されたカバー率により算出された結果を、複合の比率に応じて合算するなどして、複合建物全体の二酸化炭素排出量を推定することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 :CO2推定システム(二酸化炭素の排出量推定システム)
22 :カバー率データベース
31 :カバー率設定部
32 :直接排出量算出部
33 :積算処理部
35 :総排出量算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7