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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092100
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】直流き電線の高抵抗地絡検出装置
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/16 20060101AFI20220615BHJP
   B60M 1/28 20060101ALI20220615BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20220615BHJP
【FI】
H02H3/16 A
B60M1/28 R
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204671
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 秀規
(72)【発明者】
【氏名】大阿久 涼佑
(72)【発明者】
【氏名】林屋 均
【テーマコード(参考)】
2G014
5G004
【Fターム(参考)】
2G014AA03
2G014AA04
2G014AB04
2G014AB09
2G014AB23
2G014AB33
2G014AC15
2G014AC18
5G004AA04
5G004AB01
5G004BA01
5G004DC07
5G004DC14
(57)【要約】
【課題】直流き電線の高抵抗地絡を検出することができる高抵抗地絡検出装置を提供する。
【解決手段】変電所近傍のレールの電位と変電所メッシュ接地電位との電位差を検出する電位差検出手段と、電位差検出手段により検出された電位差に基づいて変電所からの電流が供給される直流き電線における高抵抗地絡の発生を検出する演算処理手段と、を備えた高抵抗地絡検出装置において、前記演算処理手段は、電位差検出手段により検出された電位差の一定時間(Δt)における電圧変化(ΔV/Δt)を算出する電圧変化算出手段と、電圧変化(ΔV/Δt)が、当該変電所において所定期間に検出された負極方向の最大レール電位変化量に基づいて予め設定された整定値を超えているか否か判定する判定手段と、前記電圧変化(ΔV/Δt)が整定値を超えたと判定した場合に直流高速度遮断器を開放させる指令信号を生成し出力する指令信号生成手段とを備えるようにした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所近傍のレールの電位と変電所メッシュ接地電位との電位差を検出する電位差検出手段と、
前記電位差検出手段により検出された前記電位差に基づいて変電所からの電流が供給される直流き電線における高抵抗地絡の発生を検出する演算処理手段と、を備えた高抵抗地絡検出装置であって、
前記演算処理手段は、
前記電位差検出手段により検出された前記電位差の一定時間(Δt)における電圧変化(ΔV/Δt)を算出する電圧変化算出手段と、
前記電圧変化(ΔV/Δt)が、当該変電所において所定期間に検出された負極方向の最大レール電位変化量に基づいて予め設定された整定値を超えているか否か判定する判定手段と、
前記判定手段が、前記電圧変化(ΔV/Δt)が前記整定値を超えたと判定した場合に、変電所の直流高速度遮断器を開放させる指令信号を生成し出力する指令信号生成手段と、
を備えていることを特徴とする直流き電線の高抵抗地絡検出装置。
【請求項2】
前記一定時間(Δt)は、1~100ミリ秒で任意に設定可能であることを特徴とする請求項1に記載の直流き電線の高抵抗地絡検出装置。
【請求項3】
前記整定値は、当該変電所において所定期間に検出された負極方向のレール電位変化量の最大値に安全率を掛けた値であることを特徴とする請求項1または2に記載の直流き電線の高抵抗地絡検出装置。
【請求項4】
前記所定期間は過去30日間であり、
前日~30日前の30日間における負極方向最大レール電位変化量に安全率を掛けた値を当日の前記整定値とすることを特徴とする請求項3に記載の直流き電線の高抵抗地絡検出装置。
【請求項5】
前記演算処理手段は、前記直流高速度遮断器の遮断指令信号生成手段により生成された直流高速度遮断器を開放させる前記指令信号を他の変電所へ送信する信号送出手段を備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の直流き電線の高抵抗地絡検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道における直流き電線の地絡検出装置に関し、特に変電所において直流き電線の高抵抗地絡を検出するのに利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
直流1500Vを用いたき電方式では、車両の負荷電流は数百~数千A程度となる。通常、き電回路での短絡や地絡事故は、変電所にて電流の監視を行い、電流の急激な増加を捉えることで検出し直流高速度遮断器により遮断している。しかしながら、き電回路と比較して大きい抵抗値(数Ωから数十Ω)を持つ構造物等を介して直流き電線が地絡した場合、事故電流が数百A程度となり、車両負荷電流と判別することが困難となる。この地絡現象を一般に高抵抗地絡と称し、直流き電方式における高抵抗地絡の検出は長年の間、大きな課題となっている。
【0003】
従来、変電所では、き電電流を監視して設定した電流値を超えた場合に直流高速度遮断器を作動させて電流を遮断する過電流検出装置(54F)や、電流変動(ΔI/Δt)が設定値を超えた場合に電流を遮断するΔI形故障選択装置(50F)を設けて地絡を検出し保護している。また、レール-変電所メッシュ接地間電位を監視する直流地絡検出装置(64P)および変電所メッシュ接地-基準接地間電位を監視する直流地絡検出装置(64PB)を設けて地絡を検出し保護している。
上記検出装置は、き電線が垂下して支持柱や大地に接触して数千A程度の大きな地絡電流が大地へ流れる完全な地絡事故が発生した場合には、これを検知して直流高速度遮断器を作動させて、き電線へ流す電流を遮断することができる。
【0004】
しかし、高抵抗地絡が発生した場合には、数百A程度の大きさの地絡電流しか流れないので、変電所に設けられている過電流検出装置(54F)やΔI形故障選択装置(50F)では検知することができない。また、高抵抗地絡が発生した際のレール電位や変電所メッシュ電位の変化は小さいので、上記地絡検出装置(64P, 64PB)でも検知することができないという課題があることが分かった。
なお、従来、高抵抗地絡の検出システムや検出装置、検出方法に関する発明としては、例えば特許文献1や2に提案されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-247155号公報
【特許文献2】特開2018-36054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている発明は、電気鉄道用変電所の構内において、整流器に接続されている全ての高圧側直流き電ケーブルを流れる電流の高調波成分と整流器に接続されている全ての帰線側直流き電ケーブルを流れる電流の高調波成分との差電流をサーチコイルで検出することによって、高圧側直流き電ケーブルの高抵抗地絡を検出するというものである。しかし、上記発明は、変電所構内の高抵抗地絡をターゲットにしたものであり、変電所外で発生した高抵抗地絡を検出することが困難であるという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されている地絡検出装置は、レール電位と大地電位間の電位差値を検出する電位差検出器と、き電回路の電流値を検出する電流検出器と、電位差検出器で検出された電位差値と電流検出器で検出された電流値とから電位差値/電流値の演算値を算出する演算器と、演算器による演算値を所定のしきい値と比較して演算値がしきい値よりも大きくなった場合に異常検出信号を送出する比較器とにより構成したものである。そのため、電位差検出器の他に電流検出器が必要であるとともに、電位差値/電流値を演算するため、処理が複雑で判定までに時間がかかるという課題がある。
【0008】
本発明は上記のような問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、比較的簡単な構成で、複雑な演算を行うことなく、変電所外において発生した直流き電線の高抵抗地絡を検出して変電所の電流を遮断することができる高抵抗地絡検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に先立って、本発明者らは、高抵抗地絡が発生した際の地絡電流のルートとレール電位の変化について検討を行なった。
先ず、通常の列車走行時においては、電車線とレールの間は直流1500Vの電圧が印加されており、き電回路上には車両の負荷抵抗があり、この車両の抵抗によってき電回路上の電圧は分圧される。そして、列車が在線する場所では、き電電圧1500Vから列車力行時の抵抗による分圧を差し引いた分がレール-大地間にかかる電圧となり、大地を基準としてプラス(正極)方向にレール電位は高くなる。
【0010】
また、列車在線場所から変電所までの負荷電流の帰線ルートとして、図4に示すように、レールを流れるルートと大地を流れるルートの2種類がある。1つ目は列車負荷電流の一部がレールから変電所へ流れるルートであり、2つ目は列車在線付近のレール電位が大地よりもプラス(正極)方向に大きいため大地に負荷電流が漏洩し大地を経由して変電所付近で大地→レール→変電所へ流れるルートである。このうち、大地を経由して変電所へ流れる電流ルートにおいては、変電所付近で大地を基準としてマイナス(負極)方向の電圧がレールに印加される。これは、大地を経由して負荷電流が流れた場合、この負荷電流は電源元である変電所へ必ず戻るため、大地がプラス(正極)、レールがマイナス(負極)となるためである。
【0011】
図5に地絡事故の等価回路を示す。地絡事故発生時には、図6に示すように、レール電位がマイナス電位となる。これは、大地に直流電圧が印加されることにより大地電位が上昇し、大地からレールへ地絡電流が流れることで、大地がプラス電位、レールがマイナス電位となるためである。そのため、地絡点および変電所でのレール電位は、大地を基準とした場合、マイナス方向(負極)に電位が変化する。地絡電流は大地とレール間に存在する漏れ抵抗を通り変電所まで流れる。その中で、一部の漏れ電流はレール抵抗を通り変電所まで流れるため、レール抵抗分だけ大地-レール間の電圧は低くなる。
【0012】
また、帰線電流用電線は変電所付近のレールと接続されており、変電所付近における大地からレール、変電所へ戻る帰線ルートではレール抵抗は低くなる。また、変電所付近ではレール抵抗が小さいため地絡点と比較し多くの地絡電流が流れることになり、大地-レール間の電圧は高くなる。
さらに、変電所付近の地絡電流は数十A~数百Aであること、またレールのリアクタンスにより地絡電流の立ち上がり(ΔI/Δt)は急峻ではないことにより、電流変化率(ΔI/Δt)による検出は困難である。よって、地絡電流の小さい高抵抗地絡事故は、電流変動ではなく、変電所付近の大地-レール間の電圧の変動を検出することで検知できるとの仮説を立て、検証を行なった。以下、その検証の内容と結果について説明する。
【0013】
地絡電圧及び地絡電流には、き電線路とレールの抵抗とリアクタンスが関係しており、地絡電圧はき電回路へ瞬時に印加されるが、地絡電流はき電線路上のリアクタンス(L)によって、定常電流が流れるまで時間を要する(時定数τ=L/R)ことから、地絡電流の変動よりも電圧変動を捉えることが有効である。地絡事故時のレール電位変動を列車負荷によるレール電位変動と区別することができれば、ある一定時間におけるレール-大地間電位変動(ΔV/Δt)により地絡事故の検出が可能であると考えられる。
【0014】
そこで、本発明者らは、列車負荷によるレール電位変動を変電所において実測してみた。その結果、図7に実線Aで示すように、列車負荷によるレール-大地間電位変動は10V以下でかなり小さいのに対し、高抵抗地絡の際には、図7に破線Bで示すように、レール-大地間電位変動は列車負荷によるレール電位変動よりも大きくなることが想定されるため、区別することは可能であるとの知見を得た。
なお、次の表1に、本発明者らが、実際にA変電所、B変電所、C変電所およびD変電所において、列車負荷による1日間のレール-大地間電位変動測定を実施して得られた、測定サンプリング時間を10ms,50ms(ミリ秒)とした場合のレール-大地間最大電位変動(ΔVmax)を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
また、図8には、過去に実際に高抵抗地絡が発生した際に、地絡発生個所に近いE変電所とF変電所において測定された電流変化を実線で示す。また、表2には、高抵抗地絡発生時の前後における測定電流値および電流変化量である前後の差分を示す。
【表2】
【0017】
本発明者らは、図9に示すような回路モデルを作成し、上記表2に示した結果を基に高抵抗地絡発生時の事故電流をE変電所:196A、F変電所:52Aとなるよう地絡点抵抗値を調整し、EMTP(Electro Magnetic Transients Program)と呼ばれる回路シミュレータによるシミュレーションおよび解析を実施した。なお、図9において、SSは変電所を、RsはE,F,Hの各変電所の内部抵抗を、Lsは変電所インダクタンスを、ISは駅構内を、Rw,Lwはき電線の1kmごとの抵抗成分およびインダクタンス成分を、Rfは地絡点抵抗を、Rgは地絡接地抵抗を、Rr,Lrはレールの1kmごとの抵抗成分およびインダクタンス成分を、Rlは漏れ抵抗を、Rlcはレール漏れ特性抵抗を、それぞれ表わしたものである。また、UPは上り側を、DWは下り側を意味している。表3には、図9に示す回路モデルにおけるき電回路の入力条件を示す。レール漏れ特性抵抗は、√(R/G)で表わされる値である(G:レール漏れコンダクタンス(s/m))。
【0018】
【表3】
【0019】
解析結果を表4及び図10に示す。表2と表4を比較すると、E変電所及びF変電所の地絡電流値は実測値とある程度合致していることから、本解析結果は実設備環境と同等であるということができる。また、各変電所のΔt=10ms(ミリ秒)における-方向レール電位変動は、表1のレール-大地間最大電位変動(最大-6.0V)と比較すると、高抵抗地絡時のレール電位変動(-61~64V)の方が大きくなる。よって、一定時間におけるレール電位変動(ΔV/Δt)に着目した高抵抗地絡の検出が可能である。
【0020】
【表4】
【0021】
本出願に係る発明は、上記知見に基づいてなされたもので、
変電所近傍のレールの電位と変電所メッシュ接地電位との電位差を検出する電位差検出手段と、
前記電位差検出手段により検出された前記電位差に基づいて変電所からの電流が供給される直流き電線における高抵抗地絡の発生を検出する演算処理手段と、を備えた高抵抗地絡検出装置において、
前記演算処理手段は、
前記電位差検出手段により検出された前記電位差の一定時間(Δt)における電圧変化(ΔV/Δt)を算出する電圧変化算出手段と、
前記電圧変化(ΔV/Δt)が、当該変電所において所定期間に検出された負極方向の最大レール電位変化量に基づいて予め設定された整定値を超えているか否か判定する判定手段と、
前記判定手段が、前記電圧変化(ΔV/Δt)が前記整定値を超えたと判定した場合に、変電所の直流高速度遮断器を開放させる指令信号を生成し出力する指令信号生成手段と、
を備えるようにしたものである。
【0022】
上記のような構成を有する高抵抗地絡検出装置によれば、電圧変化(ΔV/Δt)が、当該変電所において所定期間に検出されたマイナス方向のレール電位変化量に基づいて予め設定された整定値を超えた場合に、変電所の電流遮断器を開放させる指令信号を生成し出力するので、直流き電線の高抵抗地絡を検出して変電所の電流を遮断することができる。また、比較的簡単な構成で、複雑な演算を行うことなく、変電所外において発生した直流き電線の高抵抗地絡を検出して変電所の電流を遮断することができる。
【0023】
ここで、前記一定時間(Δt)は、1~100ミリ秒で任意に設定可能であるようにするのが望ましい。
また、望ましくは、前記整定値は、当該変電所において所定期間に検出された負極方向のレール電位変化量の最大値に安全率を掛けた値であるようにする。
これにより、誤検出を起こすことなく、確実に直流き電線の高抵抗地絡を検出することができる。
【0024】
さらに、望ましくは、前記所定期間は過去30日間であり、
前日~30日前の30日間における負極方向最大レール電位変化量に安全率を掛けた値を当日の前記整定値とするようにする。
かかる構成によれば、天候や季節の影響を受けてレールの漏れ抵抗が変化して地絡電流が変化したとしても、高抵抗地絡が発生したことを正確に検出することができる。
【0025】
また、望ましくは、前記演算処理手段は、前記直流高速度遮断器の遮断指令信号生成手段により生成された直流高速度遮断器を開放させる前記指令信号を他の変電所へ送信する信号送出手段を備えるようにする。
かかる構成によれば、変電所外において高抵抗地絡が発生したことを検知して、自変電所および隣接する他の変電所の直流高速度遮断器を開放させることができ、高抵抗地絡が発生したき電線への直流電圧の印加を停止させ、地絡電流が流れ続けて軌道周辺機器が破損したり燃焼したりするのを回避することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る高抵抗地絡検出装置によれば、変電所から離れた場所で発生した直流き電線の高抵抗地絡を検出することができる。また、比較的簡単な構成で、複雑な演算を行うことなく、変電所外において発生した直流き電線の高抵抗地絡を検出して変電所の電流を遮断することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る高抵抗地絡検出装置が適用された地絡検出システムの概略構成を示すシステム構成図である。
図2】実施形態の高抵抗地絡検出装置の構成例を示すブロック図である。
図3】実施形態の高抵抗地絡検出装置における高抵抗地絡検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】走行中の列車の負荷電流の電流ルートおよびレール電位の変化を示す図である。
図5】地絡事故の等価回路を示す回路図である。
図6】地絡事故発生時の電流ルートおよびレール電位の変化を示す図である。
図7】走行中の列車の負荷電流の変化および地絡事故発生前後の地絡電流の変化を示すグラフである。
図8】実際に地絡事故が発生した際の変電所において測定された地絡電流の変化を示すグラフである。
図9】EPMT(回路シミュレータ)による解析で使用した回路モデルの例を示す回路図である。
図10】EPMTによる解析で算出された複数の変電所におけるレール電位の変化および地絡電流の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る高抵抗地絡検出装置の一実施形態について詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る高抵抗地絡検出装置を適用した地絡検出システムの概略構成を示す図である。図1において、10は変電所、W1,W2は変電所10から直流電力が供給される直流き電線、W3はレールRに接続された帰線電流用電線である。
図1に示すように、変電所10には、断路器11(89B1,89B2)、受電用遮断器12(52-1,52-2)、交流変圧器13(SRTr1,SRTr2)、整流器14(SR1,SR2)、直流高速度遮断器15(54-1,54-2)と、完全地絡を検出するための地絡検出装置16および高抵抗地絡検出システム20が設けられている。
【0029】
地絡検出装置16は、変電所近傍のレールRと変電所メッシュ接地MGとの間の電位差を監視してき電回路上での完全地絡を検出する地絡検出装置(64P)および変電所メッシュ接地MGと基準接地CGとの間の電位差を監視する変電所構内地絡検出装置(64PB)を備え、地絡を検出すると直流高速度遮断器を作動させて直流き電線W1,W2へ送出する電流を遮断するように構成されている。
地絡検出装置(64P)は、電位差が予め設定した電圧(例えば500V)を超え、設定した時間(例えば400ms)継続したことを検出すると、直流高速度遮断器15(54-1,54-2)を作動させる。変電所構内地絡検出装置(64PB)も同様に電位差が予め設定した電圧を超え、設定した時間継続したことを検出すると、直流高速度遮断器15(54-1,54-2)を作動させる。
【0030】
高抵抗地絡検出システム20は、所定のサンプリング周期でレール-変電所メッシュ接地間電位を検出する電位差検出器21と、検出された電位差に基づいて一定時間におけるレール電位変動(ΔV/Δt)を算出し予め設定された整定値と比較して高抵抗地絡を検知し直流高速度遮断器15(54-1,54-2)を作動させるための指令信号を生成し出力する高抵抗地絡検出装置22、高抵抗地絡検出装置22により生成された指令信号を、変電所間に設けられた伝送路を介して他の変電所へ送出したり他の変電所からの指令信号を受信したりする信号送受信器23などにより構成される。
【0031】
高抵抗地絡検出装置22は、例えば図2に示すように、マイクロプロセッサ(MPU)のようなプログラム方式の演算処理装置31およびROM(読出し専用メモリ)32やRAM(随時読出し書込み可能なメモリ)33のような記憶手段と、ユーザインタフェース(ユーザI/F)34、キーボードやマウスなどの入力装置35、液晶表示パネルのような表示装置36、時刻を計時するタイマ37などを備えた一般的なコンピュータ装置(PC)により構成することができる。タイマ37は、ハードウェアとして備えても良いが、ソフトウェアで構成することも可能である。
上記ROM32内には演算処理装置31が実行する高抵抗地絡検出用プログラムが格納されており、演算処理装置31と高抵抗地絡検出用プログラムとによって一定時間におけるレール電位変動(ΔV/Δt)を算出する電圧変化算出手段や算出結果に基づく高抵抗地絡の判定手段、電流遮断器を作動させる指令信号の生成手段が構成される。
【0032】
図3には、上記演算処理装置31による高抵抗地絡検出処理の手順の一例が示されている。以下、図3の高抵抗地絡検出処理の手順について説明する。
図3のフローチャートに従った以下の処理は、高抵抗地絡検出装置22のメモリ(32または33)に格納されている高抵抗地絡検出用プログラムを演算処理装置31が実行することによって行われる。
【0033】
図3の高抵抗地絡検出処理が開始されると、演算処理装置31は、先ずタイマ37から現在時刻を読み込むとともに、電位差検出器21によって所定のサンプリング周期で検出されたレール-変電所メッシュ接地間の電位差を読み込む(ステップS1)。そして、検出された電位差に基づいて一定時間(Δt)におけるレール電位変動(ΔV/Δt)を算出する(ステップS2)。
【0034】
次に、ある一定期間計測した負極方向最大レール電位変動値を読み込む(ステップS3)。そして、抽出された最大変化量に安全率(例えば「2」)を掛けたものを整定値として決定しRAM33に記憶する(ステップS4)。
【0035】
次に、演算処理装置31は、ステップS5へ移行して、ステップS2で算出したレール電位変動(ΔV/Δt)とステップS4で決定した整定値とを比較して、(ΔV/Δt)が整定値よりも大きいか否か判定する。ここで、(ΔV/Δt)が整定値よりも小さい場合(No)には、高抵抗地絡は発生していないと判断してステップS1へ戻る。
【0036】
一方、ステップS5で、(ΔV/Δt)が整定値よりも大きい場合(Yes)と判定した場合は、ステップS6へ進んで、変電所の直流高速度遮断器15(54-1,54-2)を開放してき電線への電流を遮断させる指令信号を生成して処理を終了する。なお、生成された指令信号は、信号送受信器23によって他の変電所へも送出される。これにより、自変電所および隣接する他の変電所の直流高速度遮断器が開放されて、高抵抗地絡が発生したき電線への直流電圧の印加が停止され、地絡電流が流れ続けて軌道周辺機器が破損したり燃焼したりするのを回避することができる。
なお、演算処理装置31は、ステップS6で直流高速度遮断器を開放すると同時にアラーム信号を出力するように構成しても良い。
【0037】
上記のような手順によれば、車両負荷電流と区別して、確実に高抵抗地絡を検出することができる。また、一定時間(Δt)におけるレール電位変動(ΔV/Δt)と比較する整定値をある一定期間計測した負極方向最大レール電位変動に応じて決定しているので、例えば季節、天候、列車ダイヤの乱れ等があったとしても正確な高抵抗地絡の検出が可能である。
なお、一定時間(Δt)は10msに限定されるものでなく、適用する変電所に応じて例えば1ms~数百msの範囲で適宜決定すればよい。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、直前1週間のレール電位変動(ΔV/Δt)の最大値の移動平均など、統計処理によって整定値を決定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0039】
10 変電所
11 断路器
12 受電用遮断器
13 整流器用変圧器
14 整流器
15 直流高速度遮断器
16 地絡検出装置
20 高抵抗地絡検出システム
21 電位差検出器
22 高抵抗地絡検出装置
23 信号送受信器
31 演算処理装置
W1,W2 直流き電線
W3 帰線電流用電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10