(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092146
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】液封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20220615BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
F16F13/10 J
B60K5/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204760
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】堀部 真司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋徳
【テーマコード(参考)】
3D235
3J047
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB22
3D235CC01
3D235EE05
3J047AA03
3J047AB01
3J047CA04
3J047CA06
3J047CB03
3J047DA02
3J047FA02
(57)【要約】
【課題】空気室のシール性を向上できる液封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】液封入式防振装置は、第1取付具および筒状の第2取付具と、防振基体と、ダイヤフラムと、液室を防振基体側の第1液室とダイヤフラム側の第2液室とに仕切る仕切体と、第1液室と第2液室とを連通するオリフィスと、径方向外側に張り出す環状の鍔部を有し、第2液室の反対側でダイヤフラムとの間に空気室を形成する空気室形成部材と、を備える。環状部材は、ダイヤフラムの外縁部が全周に亘って固定される環状の内側部と、内側部の外周に連なって内側部に対し段差状に防振基体とは反対側へ張り出す環状の外側部と、を備える。第2取付具は、外側部および鍔部を防振基体側へ押し付けて保持する環状の保持部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1取付具および筒状の第2取付具と、
前記第1取付具と前記第2取付具とを連結する弾性体製の防振基体と、
環状部材を介し前記第2取付具に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、
前記液室を前記防振基体側の第1液室と前記ダイヤフラム側の第2液室とに仕切る仕切体と、
前記第1液室と前記第2液室とを連通するオリフィスと、
径方向外側に張り出す環状の鍔部を有し、前記第2液室の反対側で前記ダイヤフラムとの間に空気室を形成する空気室形成部材と、を備え、
前記環状部材は、
前記ダイヤフラムの外縁部が全周に亘って固定される環状の内側部と、
前記内側部の外周に連なって前記内側部に対し段差状に前記防振基体とは反対側へ張り出す環状の外側部と、を備え、
前記第2取付具は、前記外側部および前記鍔部を前記防振基体側へ押し付けて保持する環状の保持部を備えることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項2】
前記ダイヤフラムの外縁部は、前記内側部と前記鍔部との間に全周に亘り挟まれることを特徴とする請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記鍔部は、前記ダイヤフラムに全周に亘って当たる環状の第1突起を備えることを特徴とする請求項2記載の液封入式防振装置。
【請求項4】
前記ダイヤフラムは、前記鍔部に全周に亘って当たる環状の第2突起を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の液封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液封入式防振装置に関し、特に空気室のシール性を向上できる液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の振動源を車体に支持する防振装置として、例えば特許文献1に開示される液封入式防振装置が知られている。特許文献1に開示される液封入式防振装置は、振動源側(エンジン側)に取り付けられる第1取付具と、車体側(支持側)に取り付けられる筒状の第2取付具と、第1取付具と第2取付具とを連結する防振基体と、を備えている。この液封入式防振装置は、第2取付具に取り付けられたダイヤフラムと防振基体との間に液室が形成され、この液室が仕切体によって第1液室と第2液室とに仕切られる。この第1液室と第2液室とをオリフィスが連通する。
【0003】
さらに、特許文献1では、ダイヤフラムのうち第2液室の反対側の面と、外縁に環状の鍔部を有するカップ状の空気室形成部材との間に空気室が形成される。この空気室形成部材の鍔部を第2取付具の環状の挟持部で挟み込み、さらに鍔部と挟持部との間にダイヤフラムを挟み込むことで、空気室形成部材およびダイヤフラムが第2取付具に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、空気室形成部材の鍔部と挟持部との接触位置までダイヤフラムが設けられているので、その鍔部と挟持部との間にダイヤフラムが挟み込まれるおそれがある。そうすると、鍔部と挟持部との間の周方向の一部が離れ、空気室形成部材とダイヤフラムとの間に形成される空気室のシール性が低下してしまう。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、空気室のシール性を向上できる液封入式防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の液封入式防振装置は、第1取付具および筒状の第2取付具と、前記第1取付具と前記第2取付具とを連結する弾性体製の防振基体と、環状部材を介し前記第2取付具に取り付けられて前記防振基体との間に液体が封入された液室を形成する弾性体製のダイヤフラムと、前記液室を前記防振基体側の第1液室と前記ダイヤフラム側の第2液室とに仕切る仕切体と、前記第1液室と前記第2液室とを連通するオリフィスと、径方向外側に張り出す環状の鍔部を有し、前記第2液室の反対側で前記ダイヤフラムとの間に空気室を形成する空気室形成部材と、を備え、前記環状部材は、前記ダイヤフラムの外縁部が全周に亘って固定される環状の内側部と、前記内側部の外周に連なって前記内側部に対し段差状に前記防振基体とは反対側へ張り出す環状の外側部と、を備え、前記第2取付具は、前記外側部および前記鍔部を前記防振基体側へ押し付けて保持する環状の保持部を備える。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、環状部材の内側部にダイヤフラムの外縁部が全周に亘って固定される。この内側部の外周に連なる環状の外側部と、空気室形成部材に設けた径方向外側へ張り出す環状の鍔部とが、第2取付具の環状の保持部により防振基体側へ押し付けられて第2取付具に保持される。このように第2取付具に環状部材を介して保持されたダイヤフラムと、空気室形成部材との間に空気室が形成される。
【0009】
環状部材の内側部に対し外側部が段差状に防振基体とは反対側へ張り出すので、内側部に固定したダイヤフラムを段差の内側に収め易くできる。これにより、外側部と、保持部や鍔部との間にダイヤフラムを挟み込み難くできるので、保持部と鍔部との間の周方向の一部を、ダイヤフラムの挟み込みに起因して離れ難くできる。その結果、保持部に保持された空気室形成部材とダイヤフラムとの間の空気室のシール性を向上できる。
【0010】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、内側部と外側部との段差によって、外側部と、保持部や鍔部との間にダイヤフラムが挟み込まれ難いので、内側部と鍔部との間隔を周方向に均一化できる。この間隔が均一化された内側部と鍔部との間にダイヤフラムの外縁部を全周に亘って挟んで、内側部と鍔部との間をシールできる。その結果、請求項1の効果に加え、ダイヤフラムの外縁部の厚さを周方向に均一化することで、空気室のシール性をより向上できる。
【0011】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、空気室形成部材の鍔部は、ダイヤフラムに全周に亘って当たる環状の第1突起を備えている。この第1突起がダイヤフラムに食い込むことで鍔部とダイヤフラムとの間のシール性を向上できるので、請求項2の効果に加え、空気室のシール性をより一層向上できる。
【0012】
請求項4記載の液封入式防振装置によれば、ダイヤフラムは、空気室形成部材の鍔部に全周に亘って当たる環状の第2突起を備えている。この第2突起が鍔部により潰されることで鍔部とダイヤフラムとの間のシール性を向上できるので、請求項2又は3の効果に加え、空気室のシール性をさらに向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態における液封入式防振装置の断面図である。
【
図2】
図1のII-II線における第2部材の断面図である。
【
図3】第2実施形態における液封入式防振装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は第1実施形態における液封入式防振装置10の断面図である。なお、
図1には、液封入式防振装置10がエンジンを支持する前の状態(即ち、エンジンの重量が付加される前の状態)であって、液封入式防振装置10に振動が入力されていない静置状態を示している。また、以下の説明では、
図1の紙面上側を液封入式防振装置10の上側などとして説明するが、この液封入式防振装置10の上下と、液封入式防振装置10が取り付けられる車両の上下とは必ずしも一致しない。
【0015】
液封入式防振装置10は、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントである。液封入式防振装置10は、振動源であるエンジン(図示せず)側に取り付けられる第1取付具11と、支持側の車体(図示せず)側に取り付けられる筒状の第2取付具12と、第1取付具11と第2取付具12とを連結する弾性体から構成される防振基体13と、第2取付具12の下端に取り付けられる空気室形成部材18と、を主に備える。なお、
図1の液封入式防振装置10の断面図は、筒状の第2取付具12の軸心Cを含む軸方向断面図である。
【0016】
第1取付具11は、第2取付具12の上方に位置するように第2取付具12の軸心C上に配置されたボス金具であり、鉄鋼やアルミニウム合金などの金属により形成される。第1取付具11の上端面にはボルト孔(図示せず)が形成されている。第1取付具11は、ボルト孔に取り付けられるボルト(図示せず)を介してエンジン側に取り付けられる。
【0017】
第2取付具12は、円筒状に形成された部材であり、主に鉄鋼などの金属により形成される。第2取付具12は、上端側の大径部12aと、大径部12aの下端に連なり下方へ向かって徐々に内外径が小さくなる縮径部12bと、縮径部12bの下端に連なり大径部12aよりも内外径が小さい小径部12cと、小径部12cから径方向外側へ略垂直に張り出す張出部12dと、張出部12dから下方へ略垂直に延びる垂下部12eと、垂下部12eから径方向内側へ略垂直に延びる環状の保持部12fと、を備える。
【0018】
防振基体13は、略傘状に形成されるゴムや熱可塑性エラストマ等の弾性体製の部材である。防振基体13は、第1取付具11の下部と、大径部12a及び縮径部12bの内周面とにそれぞれ加硫接着され、これらを連結する。防振基体13の下端部には、小径部12cの内周面を覆うゴム膜状のシール壁部14が連なる。このシール壁部14は第2取付具12の一部である。
【0019】
第2取付具12には、小径部12cの下端開口部を塞ぐように第1ダイヤフラム15が環状部材16を介して取り付けられる。第1ダイヤフラム15は、ゴム等の弾性体製の膜である。環状部材16は、鉄鋼などの金属から構成される。
【0020】
環状部材16は、第1ダイヤフラム15の外縁部15a,15bが上下両面に加硫接着により固定される環状の内側部16aと、内側部16aの外周に連なって内側部16aに対し段差状に下方(防振基体13とは反対側)へ張り出す環状の外側部16bと、を備える。なお、外縁部15aが内側部16aの下面に固定され、外縁部15bが内側部16aの上面に固定される。
【0021】
空気室形成部材18は、底部18aを有するカップ状に形成された部材であり、金属や合成樹脂によって構成される。この底部18aから下方へ突出するボルト(図示せず)が車体側に取り付けられることで、空気室形成部材18を介して第2取付具12が車体側に取り付けられる。空気室形成部材18は、底部18aとは反対側の上端縁から径方向外側へ張り出す環状の鍔部18bを備える。環状の鍔部18bには、上方へ突出する環状の第1突起18cが全周に亘って形成されている。
【0022】
防振基体13、第2取付具12及び第1ダイヤフラム15により区画される密閉空間によって液室が形成され、第1ダイヤフラム15及び空気室形成部材18により区画される密閉空間によって空気室19が形成される。液室には、エチレングリコール等の不凍性の液体(図示せず)が封入される。液室は、仕切体30により、防振基体13が室壁の一部を構成する第1液室20と、第1ダイヤフラム15が室壁の一部を構成する第2液室21とに仕切られる。
【0023】
なお、第1ダイヤフラム15、空気室形成部材18及び仕切体30を第2取付具12に取り付けるには、まず、保持部12fを垂下部12eから下方へ延ばした状態にする。次いで、縮径部12bの内側における防振基体13に形成した段差13aに当たるまで、第2取付具12に仕切体30を圧入する。次いで、第1ダイヤフラム15の外縁部15a,15bが一体化された環状部材16の外側部16bを第2取付具12の張出部12dに当て、環状部材16の内側部16aの上面に固定された外縁部15bを仕切体30に押し付ける。この外縁部15bにより仕切体30と環状部材16との間がシールされる。
【0024】
その後、内側部16aの下面に固定された外縁部15aに空気室形成部材18の鍔部18bを押し付け、垂下部12eに対し保持部12fを内側へ曲げる。これにより、外側部16b及び鍔部18bが保持部12fによって防振基体13側へ押し付けられ、第1ダイヤフラム15、空気室形成部材18及び仕切体30が第2取付具12に取り付けられる。
【0025】
このような液封入式防振装置10によれば、環状部材16の内側部16aに対し外側部16bが段差状に下方へ張り出すので、内側部16aに固定した第1ダイヤフラム15の外縁部15aを段差の内側(外側部16bよりも内側)に収め易くできる。これにより、外側部16bと第2取付具12の保持部12fとの間に第1ダイヤフラム15を挟み込み難くできる。そのため、この挟み込みに起因して、外側部16bに対し保持部12fの周方向の一部が浮き、保持部12fと空気室形成部材18の鍔部18bとの間の周方向の一部が離れてしまうことを抑制できる。
【0026】
また、内側部16aと外側部16bとの段差によって、外側部16bの内側で保持部12fに保持された空気室形成部材18の鍔部18bと外側部16bとの間にも第1ダイヤフラム15を挟み込み難くできる。そのため、この挟み込みに起因して、外側部16bに対し鍔部18bの周方向の一部が変形するように浮き、保持部12fと鍔部18bとの間の周方向の一部が離れてしまうことを抑制できる。これらの結果、保持部12fに保持された第1ダイヤフラム15と空気室形成部材18との間の空気室19のシール性を向上できる。
【0027】
さらに、保持部12fが下面に当たる外側部16bの内側に内側部16aが段差状に連なり、同じ保持部12fが鍔部18bの下面に当たるので、内側部16aと鍔部18bとの間隔を周方向に均一化し易い。内側部16aと外側部16bとの段差によって、外側部16bと、保持部12fや鍔部18bとの間に第1ダイヤフラム15が挟み込まれ難いので、この挟み込みに起因した内側部16aと鍔部18bとの間隔の周方向のばらつきを抑制できる。このように間隔が均一化された内側部16aと鍔部18bとの間に第1ダイヤフラム15の外縁部15aを全周に亘って挟むことで、内側部16aと鍔部18bとの間をシールできる。よって、外縁部15aの厚さを周方向に均一化することで、空気室19のシール性をより向上できる。
【0028】
また、環状部材16の外側部16bは、第2取付具12の張出部12dと保持部12fとの間に直接挟まれる。これにより、環状部材16を弾性体製の外縁部15bを介して仕切体30に押し付けるだけの場合と比べ、第2取付具12に対して環状部材16を位置決めし易い。これにより、環状部材16の内側部16aと、鍔部18bとの間隔を変化し難くできるので、それらの間に挟んだ外縁部15aによる空気室19のシール性を更に向上できる。
【0029】
鍔部18bに設けた環状の第1突起18cが外縁部15aに全周に亘って当たる。この第1突起18cが外縁部15aに食い込むことで、鍔部18bと外縁部15aとの間の面圧が第1突起18cの位置で局所的に大きくなる。これにより、空気室形成部材18と第1ダイヤフラム15との間のシール性を向上できるので、空気室19のシール性をより一層向上できる。
【0030】
外側部16bと保持部12fとの間に鍔部18bが挟まれることなく、外側部16bの内側に鍔部18bが位置するので、外縁部15aへの鍔部18bの押付力を調整し易い。この押付力の調整によって、外縁部15aと鍔部18bとの間のシール性を容易に調整でき、空気室19のシール性の調整を容易にできる。
【0031】
次に
図1に加えて
図2を参照しながら仕切体30の詳細構成について説明する。
図2は
図1のII-II線における第2部材35の断面図である。
図1に示すように、仕切体30は、外周部の上端が段差13aに接触してシール壁部14の内側に保持される板状の第1部材31と、第1部材31に固定される板状の第2部材35と、第1部材31と第2部材35との間に挟まれる第2ダイヤフラム38と、を備える。第2ダイヤフラム38は、円形状の平板からなる弾性体製の部材である。
【0032】
第1部材31は、金属や合成樹脂製の円板状の部材であり、第1ダイヤフラム15に干渉しないよう下面の径方向中央を凹ませている。第1部材31の外周面は、全周に亘りシール壁部14を介して第2取付具12の内周面に押し付けられる。
【0033】
第1部材31の外周面には略1周の長さの外周溝32が形成される。この外周溝32とシール壁部14との間に第1オリフィス22が形成される。外周溝32の一端が、段差13aよりも径方向内側で第1部材31の外周部の上端に開口することで、第1オリフィス22が第1液室20に連通する。外周溝32の他端が、外縁部15bよりも径方向内側で第1部材31の外周部の下端に開口することで、第1オリフィス22が第2液室21に連通する。
【0034】
このように、第1オリフィス22は、第1液室20と第2液室21とを連通する流路である。第1オリフィス22は、例えば車両走行時のシェイク振動を減衰するため、大振幅のシェイク振動の入力時にシェイク振動に対応した周波数帯(例えば5~15Hz程度)で減衰係数が大きくなるよう、第1オリフィス22の流路断面積、長さ、断面周長などが設定される。
【0035】
第1部材31の径方向中央(軸心C上)には貫通孔33が形成されている。さらに、第1部材31は、この貫通孔33から径方向外側へ離れた位置に上方へ突出する筒状部34を備える。筒状部34は、軸心Cを中心とした円筒状に構成され、外周面が第1液室20に面する。筒状部34の内径は、第2ダイヤフラム38の外径と略同一である。また、貫通孔33から筒状部34までの第1部材31の上面が、第2ダイヤフラム38に接触する挟持面31aである。
【0036】
図1及び
図2に示すように、第2部材35は、金属や合成樹脂製の円板状の部材であり、外周面の上端部から径方向外側へフランジ35aが張り出す。このフランジ35aが第1部材31の筒状部34の上端に当たるまで、第2部材35が筒状部34に挿入され、筒状部34に第2部材35が相対回転可能に嵌まる。なお、液封入式防振装置10の組立時には、第1部材31と第2部材35とが溶着や接着により接合され、第1部材31と第2部材35とが相対回転不能になる。
【0037】
第2部材35の下面である挟持面35bと、第1部材31の挟持面31aとで第2ダイヤフラム38が挟まれて保持される。第2部材35の挟持面35bには、軸心Cを中心とした円形状に径方向中央を上方へ凹ませた凹部36と、凹部36の周囲を上方へ凹ませた溝部37とが形成されている。凹部36の内径は、貫通孔33の内径と略同一に構成される。この凹部36の下端が第2ダイヤフラム38で塞がれることによって、第3液室24が仕切体30の内部に形成される。第2ダイヤフラム38は、第3液室24と第2液室21とを仕切る。
【0038】
溝部37は、凹部36の周囲に略3周分が設けられ、隣り合う溝部37同士が径方向に離れて並んでいる。最外周の溝部37は、第2部材35の外周面に開口する。溝部37の一端が凹部36に開口部37aを介して連なる。溝部37の他端には、溝部37の溝底から、第1液室20に面する第2部材35の上面までを板厚方向(上下方向)に貫通して開口部37bが形成されている。
【0039】
この溝部37、第2ダイヤフラム38、筒状部34の内周面に囲まれた空間によって第2オリフィス25が仕切体30の内部に形成される。第2オリフィス25が開口部37a,37bによって第3液室24と第1液室20とにそれぞれ開口する。よって、第2オリフィス25は、第1液室20と第3液室24とを連通する流路である。
【0040】
この第2オリフィス25は、第1オリフィス22と同じような周波数帯で減衰係数が大きくなるよう、第2オリフィス25の流路断面積、長さ、断面周長などが設定される。具体的に、第2オリフィス25を形成する溝部37が第3液室24の周囲に設けられ、その溝部37が第3液室24に対し径方向に並んでいるので、仕切体30内といった限られたスペース内で第2オリフィス25を細く長くできる。これにより、第2オリフィス25の減衰ピーク位置を、仕切体30の外周に形成される第1オリフィス22の減衰ピーク位置に近づけ易くできる。その結果、液封入式防振装置10により高い減衰特性が得られる領域を広くできる。
【0041】
以上説明した液封入式防振装置10によれば、第3液室24の壁面の一部を形成する第2ダイヤフラム38が平板状なので、弾性体製シートの抜き打ち等によって第2ダイヤフラム38を容易に形成できる。また、第2ダイヤフラム38が平板状なので、第2ダイヤフラム38を挟む第1部材31及び第2部材35の挟持面31a,35bに、第2ダイヤフラム38の凹凸に合わせた形状を設ける必要がない。その結果、第2ダイヤフラム38や第1部材31、第2部材35の生産性を向上でき、仕切体30の内部に第2ダイヤフラム38が保持された液封入式防振装置10の生産性を向上できる。
【0042】
さらに、第2ダイヤフラム38が平板状なので、そのゴム硬さを変更するだけで容易に第2ダイヤフラム38の変形量などを調整できる。例えば、第2ダイヤフラム38を比較的柔らかくし、上述した通り第2オリフィス25を細く長くすることで、第2オリフィス25の減衰ピーク位置を第1オリフィス22の減衰ピーク位置に更に近づけ易くできる。このように、平板状の第2ダイヤフラム38によって液封入式防振装置10の減衰特性などを容易に調整できる。
【0043】
第2オリフィス25を形成する溝部37が、第2部材35のうち第2ダイヤフラム38を挟む挟持面35bに形成されている。このような溝部37は、板状の第2部材35の挟持面35bへの切削加工などによって容易に形成できる。よって、第2オリフィス25を形成するための第2部材35の形状を簡素化できるので、仕切体30に第2オリフィス25を設けた液封入式防振装置10の生産性を向上できる。
【0044】
さらに、挟持面35bに溝部37が形成されているので、溝部37の角などに第2ダイヤフラム38を食い込ませることができる。これにより、第2ダイヤフラム38が平板状であっても、第2ダイヤフラム38の変形に伴って第2ダイヤフラム38が内側へずれることを抑制できる。
【0045】
特に、第2オリフィス25の壁面の一部を第2ダイヤフラム38が形成するように第2ダイヤフラム38が溝部37を覆うので、挟持面35bに押された第2ダイヤフラム38が溝部37内へ膨らむようにして溝部37に食い込む。さらに、その溝部37が第3液室24に対し径方向に複数並び、その全体を第2ダイヤフラム38が覆うので、溝部37間の幅が狭い挟持面35bが第2ダイヤフラム38に食い込み易くなる。これらの結果、平板状の第2ダイヤフラム38を、自身の変形に伴って内側へずれ難くできる。
【0046】
また、凹部36及び溝部37を第2ダイヤフラム38で覆うことで、第3液室24及び第2オリフィス25を形成しているので、第3液室24と第2オリフィス25との間の液漏れや、径方向に隣接する第2オリフィス25間の液漏れを第2ダイヤフラム38によって抑制できる。これにより、第2オリフィス25による減衰特性を安定化できる。
【0047】
第2オリフィス25の第1液室20側の開口部37bは、第2オリフィス25を形成する溝部37の溝底から、その溝底とは反対側の第2部材35の上面までを貫通して形成されている。これにより、溝部37を形成した後からでも、開口部37bの位置を溝部37に沿って調整し易くでき、第2オリフィス25の長さを調整し易くできるので、第2オリフィス25による減衰特性を調整し易くできる。
【0048】
次に
図3,4を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、空気室形成部材18の鍔部18bに第1突起18cがあり、仕切体30の内部に1つの第3液室24が形成される場合について説明した。これに対して第2実施形態では、第1突起18cがない代わりに第1ダイヤフラム15の外縁部15aから第2突起15cが突出し、仕切体41の内部に第3液室24及び第4液室46が形成される場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図3は第2実施形態における液封入式防振装置40の断面図である。
図4は第1部材42の平面図である。
【0049】
図3に示すように、液封入式防振装置40の空気室形成部材18の鍔部18bには、第1実施形態における液封入式防振装置10に対し、上方へ突出する第1突起18c(
図1参照)がなく、鍔部18bの上面が略平坦に形成されている。また、液封入式防振装置40の第1ダイヤフラム15の環状の外縁部15aには、下方へ突出する環状の第2突起15cが全周に亘って形成されている。
【0050】
この第2突起15cが鍔部18bに全周に亘って当たり、第2突起15cが鍔部18bで潰されることによって、外縁部15aと鍔部18bとの間の面圧が第2突起15cの位置で局所的に大きくなる。これにより、空気室形成部材18と第1ダイヤフラム15との間のシール性を向上できるので、それらの間に形成される空気室19のシール性を向上できる。
【0051】
液封入式防振装置40の仕切体41は、外周部の上端が段差13aに接触してシール壁部14の内側に保持される板状の第1部材42と、第1部材42に固定される板状の第2部材35と、第1部材42と第2部材35との間に挟まれる第2ダイヤフラム38と、を備える。第2実施形態における第2部材35は、第1実施形態における第2部材35の略3周分の溝部37に対し、凹部36(第3液室24)のまわりの溝部37が略2周分に減っており、開口部37b(
図2参照)がない。その他の第2部材35の構成は、第1実施形態と第2実施形態とで同一である。
【0052】
図3及び
図4に示すように、第1部材42は、金属や合成樹脂製の円板状の部材であり、第1ダイヤフラム15に干渉しないよう下面の径方向中央を凹ませている。第1部材42の外周面は、全周に亘りシール壁部14を介して第2取付具12の内周面に押し付けられる。この第1部材42の外周面には、第1実施形態と同様に、第1オリフィス22を形成する外周溝32が形成される。
【0053】
第1部材42は、第1実施形態における第1部材31と同様に、上方へ突出する軸心Cを中心とした円筒状の筒状部34と、筒状部34の内側における第1部材42の上面である挟持面31aと、を備える。第2部材35が相対回転可能に嵌まる筒状部34には、内周面から外周面までを径方向に貫通する開口部34aが形成される。
【0054】
この開口部34aは、第2部材35の外周面に開口した溝部37に面し、溝部37により形成される第2オリフィス25を第1液室20に連通させる。第1部材42と第2部材35とを相対回転させることで、第2オリフィス25の開口部34aが溝部37に沿って移動し、第2オリフィス25の長さを容易に調整できる。これにより、第2オリフィス25による減衰特性を容易に調整できる。なお、この調整後に第1部材42と第2部材35とを互いに接合して相対回転不能にする。
【0055】
第1部材42の挟持面31aには、第1実施形態における第1部材31の貫通孔33の代わりに、挟持面31aの中央を下方へ凹ませた有底の凹部43が形成され、その凹部43のまわりに溝部44が形成されている。凹部43の内径は、第2部材35の凹部36の内径と略同一に構成される。この凹部43の上端が第2ダイヤフラム38で塞がれることによって、第4液室46が仕切体41の内部に形成される。第2ダイヤフラム38は、第3液室24と第4液室46とを仕切る。
【0056】
溝部44は、凹部43の周囲に略1周分が設けられる。溝部44の一端が凹部43に開口部44aを介して連なる。溝部44の他端には、溝部44の溝底から、第2液室21に面する第1部材42の下面までを板厚方向(上下方向)に貫通して開口部44bが形成されている。
【0057】
この溝部44、第2ダイヤフラム38に囲まれた空間によって第3オリフィス47が仕切体41の内部に形成される。第3オリフィス47が開口部44a,44bによって第4液室46と第2液室21とにそれぞれ開口する。よって、第3オリフィス47は、第2液室21と第4液室46とを連通する流路である。
【0058】
第1オリフィス22の減衰ピーク位置と、第2オリフィス25の減衰ピーク位置と、第3オリフィス47の減衰ピーク位置とがそれぞれ相違するように、各オリフィスの流路断面積、長さ、断面周長などを設定する。特に、各オリフィスの減衰可能な周波数帯を重ねつつ、減衰ピーク位置を相違させることで、液封入式防振装置40により高い減衰特性が得られる領域を広くできる。
【0059】
第2ダイヤフラム38を挟む挟持面31a,35bのそれぞれに溝部37,44が形成されているので、第2ダイヤフラム38の両面に溝部37,44の角などを食い込ませることができる。これにより、平板状の第2ダイヤフラム38を、自身の変形に伴って内側へずれ難くできる。
【0060】
第3オリフィス47を形成する溝部44が、第1部材42のうち第2ダイヤフラム38を挟む挟持面31aに形成されている。このような溝部44は、板状の第1部材42の挟持面31aへの切削加工などによって容易に形成できる。よって、第3オリフィス47を形成するための第1部材42の形状を簡素化できるので、仕切体41に第3オリフィス47を設けた液封入式防振装置40の生産性を向上できる。
【0061】
第3オリフィス47の第2液室21側の開口部44bは、第3オリフィス47を形成する溝部44の溝底から、その溝底とは反対側の第1部材42の下面までを貫通して形成されている。これにより、溝部44を形成した後からでも、開口部44bの位置を溝部44に沿って調整し易くでき、第3オリフィス47の長さを調整し易くできるので、第3オリフィス47による減衰特性を調整し易くできる。
【0062】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。第1取付具11や第2取付具12、防振基体13、空気室形成部材18、仕切体30,41等の各部の形状や寸法などを適宜変更しても良い。また、第1オリフィス22や第2オリフィス25、第3オリフィス47の形成位置や長さ等を適宜変更しても良い。さらに、空気室形成部材18を省略しても良く、仕切体30,41内に設けられる第2ダイヤフラム38や第3液室24、第4液室46、第2オリフィス25、第3オリフィス47等を省略しても良い。
【0063】
上記形態では、液封入式防振装置10,40を、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントとして用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ボディマウント、デフマウント等、種々の防振装置に液封入式防振装置10,40を適用しても良い。また、第1取付具11を車体側に取り付け、第2取付具12を振動源側に取り付けても良い。
【0064】
上記形態では、環状部材16の外側部16bに第2取付具12の保持部12fが接触する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。外側部16bと保持部12fとの間に、空気室形成部材18の鍔部18bを挟み、鍔部18bを介して保持部12fが外側部16bを防振基体13側へ押し付けるように構成しても良い。
【0065】
上記第1実施形態では、空気室形成部材18の鍔部18bに1つの環状の第1突起18cを設ける場合について説明した。一方、上記第2実施形態では、第1突起18cを設ける代わりに第1ダイヤフラム15の外縁部15aに1つの環状の第2突起15cを設ける場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、液封入式防振装置10,40に第1突起18c及び第2突起15cの両方を設けても良い。第1突起18cを径方向に複数配置しても良く、第2突起15cを径方向に複数配置しても良い。
【0066】
上記第2実施形態では、第1液室20と第3液室24とを第2オリフィス25で連通し、第2液室21と第4液室46とを第3オリフィス47で連通する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。この第3液室24(凹部36)及び第2オリフィス25(溝部37)を省略し、第4液室46を第3液室とし、第3オリフィス47を第2オリフィスとしても良い。
【符号の説明】
【0067】
10,40 液封入式防振装置
11 第1取付具
12 第2取付具
12f 保持部
13 防振基体
15 第1ダイヤフラム(ダイヤフラム)
15a,15b 外縁部
15c 第2突起
16 環状部材
16a 内側部
16b 外側部
18 空気室形成部材
18b 鍔部
18c 第1突起
19 空気室
20 第1液室
21 第2液室
22 第1オリフィス(オリフィス)
30,41 仕切体