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特開2022-92184音声信号処理装置、音声信号処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092184
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】音声信号処理装置、音声信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 5/00 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
H04S5/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204835
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】波多野 渉
【テーマコード(参考)】
5D162
【Fターム(参考)】
5D162AA09
5D162BA07
5D162CA06
5D162CB12
5D162CC36
5D162EE05
(57)【要約】
【課題】ステレオの音源に歪みを生じさせないようにアップミックスすることの出来る音声信号処理装置を提供する。
【解決手段】ステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする音声信号処理装置100である。ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する分離部10と、直接音または間接音の少なくとも一方を調整するためのパラメータを生成する設定部20と、パラメータに基づき、サラウンドの音源におけるチャンネルごとに直接音及び間接音に乗算する係数を生成する係数生成部30と、直接音及び間接音に係数を乗算することにより、ステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする演算部40を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする音声信号処理装置であって、
前記ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する分離部と、
前記直接音または前記間接音の少なくとも一方を調整するためのパラメータを生成する設定部と、
前記パラメータに基づき、前記サラウンドの音源におけるチャンネルごとに前記直接音及び前記間接音に乗算する係数を生成する係数生成部と、
前記直接音及び前記間接音に前記係数を乗算することにより、前記ステレオの音源を前記サラウンドの音源にアップミックスする演算部を備える音声信号処理装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記サラウンドの音源のフロント側チャンネルにおいて、センター音源と当該センター音源以外の音源とのバランスを調整するためのものを含む、
請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項3】
前記パラメータは、前記サラウンドの音源のリア側チャンネルにおいて、センター音源と当該センター音源以外の音源とのバランスを調整するためのものを含む、
請求項1または2に記載の音声信号処理装置。
【請求項4】
前記パラメータは、前記サラウンドの音源のフロント側チャンネルから出力される前記直接音に対して、前記間接音のミキシング量を調整するためのものを含む、
請求項1乃至3のいずれかに記載の音声信号処理装置。
【請求項5】
前記サラウンドの音源は、3Dオーディオに対応し、
前記パラメータは、前記サラウンドの音源における中層のチャンネルから出力される前記直接音及び前記間接音と、上下層のチャンネルから出力される前記直接音及び前記間接音とのバランスを調整するものを含む、
請求項1乃至4のいずれかに記載の音声信号処理装置。
【請求項6】
前記パラメータは、前記直接音と前記間接音とのバランスを調整するためのものを含む、
請求項1乃至5のいずれかに記載の音声信号処理装置。
【請求項7】
前記設定部は、直接音/間接音バランス調整部を備え、
前記直接音/間接音バランス調整部は、前記直接音と前記間接音とのバランスを調整する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の音声信号処理装置。
【請求項8】
コンピュータにステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする処理を実行させる音声信号処理プログラムであって、
前記ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する分離手順と、
前記直接音または前記間接音の少なくとも一方を調整するためのパラメータを生成する設定手順と、
前記パラメータに基づき、前記サラウンドの音源におけるチャンネルごとに前記直接音及び前記間接音に乗算する係数を生成する係数生成手順と、
前記直接音及び前記間接音に前記係数を乗算することにより、前記ステレオの音源を前記サラウンドの音源にアップミックスする演算手順をコンピュータに実行させる音声信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音質の低下を抑制しつつ音声信号をアップミックスする音声信号処理装置、音声信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、4K放送や8K放送の実現に伴い、ステレオ(2ch)の音声フォーマットをアップミックスして5.1chサラウンドや3Dオーディオに対応する22.2chサラウンドの音声フォーマットを生成する需要が高まっている。生放送では、ステレオの音声フォーマットから5.1chサラウンドや22.2chサラウンドの音声フォーマットをリアルタイムで生成することにより、2K放送と同時に4K放送や8K放送を行うこともある。
【0003】
アップミックスの具体的な手法としては、特許文献1に記載されているように、ステレオの音源を左右それぞれで直接音と間接音とに分離し、これら4つの音源に対して遅延処理などの各種処理を行うことにより、サラウンドにおける各チャンネルの出力とする。また、特許文献2に記載されている技術では、ステレオの音源を左右それぞれで直接音と間接音とに分離した後に、HRIRを用いてアップミックスする手法も知られている。なお、ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する手法としては、特許文献3に記載されているように、ステレオの音源からコヒーレント成分を抽出する方法が優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-076857号公報
【特許文献2】特開2017-163458号公報
【特許文献3】国際公開第2017/188141号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2においては、ステレオの音源を分離した後、遅延処理やHRIRに伴うフィルタ処理を行うため、元の音源に歪みが生じるという問題があった。特に、近年ではステレオの音源からアップミックスして生成したサラウンドの音源を、再びステレオの音源にダウンミックスするという需要もあるが、アップミックスの際に元の音源に歪みが生じていると、ステレオの音源にダウンミックスした際にもこのような歪みが残るという問題もあった。また、特許文献2においては、リファレンスのHRIRを必要としているが、入手が困難という問題もあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく、ステレオの音源に歪みを生じさせないようにアップミックスすることの出来る音声信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音声信号処理装置は、次のような構成を備える。
(1)ステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする音声信号処理装置である。
(2)前記ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する分離部。
(3)前記直接音または前記間接音の少なくとも一方を調整するためのパラメータを生成する設定部。
(4)前記パラメータに基づき、前記サラウンドの音源におけるチャンネルごとに前記直接音及び前記間接音に乗算する係数を生成する係数生成部。
(5)前記直接音及び前記間接音に前記係数を乗算することにより、前記ステレオの音源を前記サラウンドの音源にアップミックスする演算部。
【0008】
また、本発明の音声信号処理装置は、次のような構成を更に備えてもよい。
(1)前記パラメータは、前記サラウンドの音源のフロント側チャンネルにおいて、センター音源と当該センター音源以外の音源とのバランスを調整するためのものを含む。
(2)前記パラメータは、前記サラウンドの音源のリア側チャンネルにおいて、センター音源と当該センター音源以外の音源とのバランスを調整するためのものを含む。
(3)前記パラメータは、前記サラウンドの音源のフロント側チャンネルから出力される前記直接音に対して、前記間接音のミキシング量を調整するためのものを含む。
(4)前記サラウンドの音源は、3Dオーディオに対応し、前記パラメータは、前記サラウンドの音源における中層のチャンネルから出力される前記直接音及び前記間接音と、上下層のチャンネルから出力される前記直接音及び前記間接音とのバランスを調整するものを含む。
(5)前記パラメータは、前記直接音と前記間接音とのバランスを調整するためのものを含む。
(6)前記設定部は、直接音/間接音バランス調整部を備え、前記直接音/間接音バランス調整部は、前記直接音と前記間接音とのバランスを調整する。
【0009】
本発明の音声信号処理プログラムは、次のような構成を備える。
(1)コンピュータにステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする処理を実行させる音声信号処理プログラムである。
(2)前記ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する分離手順。
(3)前記直接音または前記間接音の少なくとも一方を調整するためのパラメータを生成する設定手順。
(4)前記パラメータに基づき、前記サラウンドの音源におけるチャンネルごとに前記直接音及び前記間接音に乗算する係数を生成する係数生成手順。
(5)前記直接音及び前記間接音に前記係数を乗算することにより、前記ステレオの音源を前記サラウンドの音源にアップミックスする演算手順。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ステレオの音源に歪みを生じさせないようにアップミックスすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の音声信号処理装置の構成を示すブロック図。
図2】実施形態の音声信号処理装置の構成の一部を詳細に示すブロック図。
図3】実施形態の直接音/間接音バランス調整部における作用を示す図。
図4】実施形態のフロントバランス調整部における作用を示す図。
図5】実施形態のリアバランス調整部における作用を示す図。
図6】実施形態のミキシング量調整部における作用を示す図。
図7】実施形態の層間バランス調整部における作用を示す図。
図8】実施形態の演算部における作用を示す図。
図9】実施形態の音声信号処理装置の作用を示すフローチャート。
図10】他の実施形態の音声信号処理装置の構成の一部を詳細に示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
[構成]
図1に示す本実施形態の音声信号処理装置100は、例えば、音声調整卓あるいはミキサーとして知られているものである。以下の説明においては、ステレオから22.2chサラウンドへのアップミックスを例に挙げ、音声信号処理装置100に入力される音声信号は、ステレオの音源のものとする。22.2chサラウンドは、チャンネル1~24の24のチャンネルにより構成される。具体的には、上層の9チャンネルと、中層の10チャンネルと、下層の3.2チャンネルとにより構成される。なお、下層の3.2チャンネルには、2つのLFEが含まれる。また、22.2chサラウンドは、フロント側の11.2チャンネルとサイド側及びリア側の11チャンネルに分けて考えることも出来る。説明を容易にするため、フロント側チャンネルからは主に直接音が、サイド側チャンネル及びリア側チャンネルからは主に間接音が、それぞれ出力されるものとして考えるが、間接音は、フロント側チャンネルから出力されても良い。
【0013】
音声信号処理装置100は、ステレオの音源を左右それぞれで直接音と間接音とに分離する分離部10と、分離した音源を調整するための各種パラメータを生成する設定部20と、生成したパラメータに基づいて係数を生成する係数生成部30と、この係数と分離した音源とからアップミックスされたサラウンドの音源を生成する演算部40と、を備える。
【0014】
分離部10は、ステレオの音源を左右それぞれで直接音と間接音とに分離する。すなわち、左の直接音DL、右の直接音DR、左の間接音RL、右の間接音RRの4つの音源に分離する。ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する手法としては、背景技術で説明した特許文献3の技術など、周知技術を用いることが出来る。分離部10は、後段に設けられた演算部40に、これら4つの音源を出力する。なお、直接音とは、直接耳に届く音であり、間接音とは、壁などに反射して耳に届く音である。
【0015】
設定部20は、分離部10が分離した4つの音源を調整するためのパラメータを生成する。図2に示すように、設定部20は、直接音と間接音とのバランスを調整する直接音/間接音バランス調整部21と、直接音におけるセンター音源とセンター音源以外の音源とのバランスを調整するフロントバランス調整部22と、間接音におけるセンター音源とセンター音源以外の音源とのバランスを調整するリアバランス調整部23と、直接音と間接音とのミキシング量を調整するミキシング量調整部24と、直接音及び間接音における中層チャンネルからの出力と上下層チャンネルからの出力とのバランスを調整する層間バランス調整部25と、を備える。
【0016】
図3に示すように、直接音/間接音バランス調整部21は、例えば1つの操作子を備え、この操作子を左に回転させると直接音のミキシング量が増加し、右に回転させると間接音のミキシング量が増加する。ミキシングエンジニアは、この操作子を左右に回転させることにより、アップミックス後のサラウンドの音源における直接音と間接音とのバランスを調整する。この調整の度合いは、ROOM値として後段に設けられた演算部40に出力される。
【0017】
図4に示すように、フロントバランス調整部22は、直接音のうち、センター音源とセンター音源以外の音源とのバランスを調整する。このセンター音源は、直接音のうちセンターに定位する成分である。また、このセンター音源以外の音源とは、直接音のうちセンター音源以外の成分である。フロントバランス調整部22は、例えば1つの操作子を備え、この操作子を左に回転させるとセンター音源のミキシング量が増加し、右に回転させるとセンター音源以外の音源のミキシング量が増加する。ミキシングエンジニアは、この操作子を左右に回転させることにより、アップミックス後のサラウンドの音源における、フロント側チャンネルから出力されるセンター音源とセンター音源以外の音源とのバランスを調整する。この調整の度合いは、Fdiv値として後段に設けられた係数生成部30に出力される。
【0018】
図5に示すように、リアバランス調整部23は、間接音のうち、センター音源とセンター音源以外の音源とのバランスを調整する。このセンター音源は、間接音のうちセンターに定位する成分である。また、このセンター音源以外の音源とは、間接音のうちセンター音源以外の成分である。リアバランス調整部23は、例えば1つの操作子を備え、この操作子を左に回転させるとセンター音源のミキシング量が増加し、右に回転させるとセンター音源以外の音源のミキシング量が増加する。ミキシングエンジニアは、この操作子を左右に回転させることにより、アップミックス後のサラウンドの音源における、リア側チャンネルから出力されるセンター音源とセンター音源以外の音源とのバランスを調整する。この調整の度合いは、Rdiv値として後段に設けられた係数生成部30に出力される。
【0019】
図6に示すように、ミキシング量調整部24は、フロント側チャンネルから出力される直接音に対する間接音のミキシング比率、及びリア側チャンネルから出力される間接音に対する直接音のミキシング比率を調整する。このために、ミキシング量調整部24は、例えば主操作子Xと副操作子Yとを備える。
【0020】
主操作子Xは、フロント側チャンネルから出力される直接音と、間接音とのバランスを調整する。例えば、主操作子Xを左に回転させると直接音及び間接音のミキシング量が減少し、右に回転させると直接音及び間接音のミキシング量が増加する。一方で、副操作子Yは、間接音に対して直接音をミキシングする量、及びフロント側チャンネルから出力される直接音に対して間接音をミキシングする量を調整する。例えば、副操作子Yを左に回転させると間接音に対してミキシングする直接音の量及び直接音に対してミキシングする間接音の量が減少し、右に回転させると間接音に対してミキシングする直接音の量及び直接音に対してミキシングする間接音の量が増加する。ミキシングエンジニアは、主操作子Xと副操作子Yとを回転させることにより、フロント側チャンネルから出力される直接音に対する間接音のミキシング比率、及び間接音に対する直接音のミキシング比率を調整する。なお、主操作子Xと副操作子Yは連動するようにしても良いし、主操作子Xは固定して副操作子Yだけが回転するようにしても良い。連動させる場合は、主操作子Xの回転方向と反対方向に副操作子Yが回転するようにすると良い。この調整の度合いは、FRdiv値として後段に設けられた係数生成部30に出力される。
【0021】
図7に示すように、アップミックス後のサラウンドの音源が3Dオーディオに対応している場合、層間バランス調整部25は、中層チャンネルから出力される直接音及び間接音と、上下層チャンネルから出力される直接音及び間接音とのバランスを調整する。すなわち、層間バランス調整部25は、例えば1つの操作子を備え、この操作子を左に回転させると中層チャンネルから出力される直接音及び間接音が強調され、右に回転させると上下層チャンネルから出力される直接音及び間接音が強調される。ミキシングエンジニアは、この操作子を左右に回転させることにより、中層チャンネルから出力される直接音及び間接音と、上下層チャンネルから出力される直接音及び間接音とのバランスを調整する。この調整の度合いは、ELdiv値として後段に設けられた係数生成部30に出力される。
【0022】
図2に戻り、係数生成部30は、設定部20が生成した4つのパラメータFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivを任意に組み合わせて四則演算することにより、係数A、B、C、Dを生成する。また、この組み合わせ及び四則演算は、サラウンドにおける各チャンネルにより異なっている。すなわち、22.2chのそれぞれに対してFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivの各値が組み合わせられることにより、24組の係数A1~D1、・・・、A24~D24が生成される。
【0023】
各係数An~Dnの生成について、より詳細に説明する。Fdivは、AnFdiv、BnFdiv、CnFdiv、DnFdivからなる。同様に、Rdivは、AnRdiv、BnRdiv、CnRdiv、DnRdivからなり、FRdivは、AnFRdiv、BnFRdiv、CnFRdiv、DnFRdivからなり、ELdivは、AnELdiv、BnELdiv、CnELdiv、DnELdivからなる。
【0024】
例えば、フロントバランス調整部22の操作子を回転させることにより、サラウンドの音源におけるチャンネルごとにAnFdiv、BnFdivが生成される。同様に、リアバランス調整部23の操作子を回転させることにより、サラウンドの音源におけるチャンネルごとにCnRdiv、DnRdivが生成され、ミキシング量調整部24の操作子を回転させることにより、サラウンドの音源におけるチャンネルごとにAnFRdiv、BnFRdiv、CnFRdiv、DnFRdivが生成され、層間バランス調整部25の操作子を回転させることにより、サラウンドの音源におけるチャンネルごとにAnELdiv、BnELdiv、CnELdiv、DnELdivが生成される。
【0025】
そして、An~Dnは、次の各式により生成される。
An=AnFdiv×AnRdiv×AnFRdiv×AnELdiv
Bn=BnFdiv×BnRdiv×BnFRdiv×BnELdiv
Cn=CnFdiv×CnRdiv×CnFRdiv×CnELdiv
Dn=DnFdiv×DnRdiv×DnFRdiv×DnELdiv
【0026】
以上のようにして生成された係数A1~D1、・・・、A24~D24は、後段に設けられた演算部40に出力される。
【0027】
図8に示すように、演算部40は、分離部10が分離した4つの音源DL、DR、RL、RRと、直接音/間接音バランス調整部21が生成したパラメータROOMと、係数生成部30が生成した係数A1~D1、・・・、A24~D24に基づいて、アップミックス後のサラウンドにおいて各チャンネルから出力する音声信号を演算する。演算部40は、各チャンネルからの出力Tを、以下の(式1)により演算する。なお、(式1)において出力T及び各係数A、B、C、Dに付されるnは、サラウンドにおけるチャンネル番号であり、例えばT1はチャンネル1の出力Tである。また、DL’、DR’、RL’、RR’は、それぞれDL、DR、RL、RRをROOM値で調整したものである。これにより、演算部40は、チャンネル1~24からの出力T1~T24をそれぞれ生成し、サラウンドの音源を生成する。なお、アップミックスされたサラウンドの音源は、各チャンネルに設けられた図示しないスピーカなどの出力装置から外部に出力される。
(数1)
Tn=An×DL’+Bn×DR’+Cn×RL’+Dn×RR’・・・(式1)
【0028】
[作用]
図9を参照しつつ、本実施形態における音声信号処理装置100の作用について説明する。まず、元の音声信号であるステレオの音源が、分離部10に入力される。分離部10は、ステレオの音源を、左の直接音DL、右の直接音DR、左の間接音RL、右の間接音RRの4つの音源に分離する(ステップS01)。分離された4つの音源は、演算部40に入力される。
【0029】
設定部20において、直接音/間接音バランス調整部21がROOM値を、フロントバランス調整部22がFdiv値を、リアバランス調整部23がRdiv値を、ミキシング量調整部24がFRdiv値を、層間バランス調整部25がELdiv値を、それぞれ生成し、後段に設けられた係数生成部30または演算部40に出力する(ステップS02)。より詳細には、これらの各構成において、ミキシングエンジニアが1つまたは2つの操作子を回転させ、直接音または間接音の少なくとも一方を調整するためにミキシング量の調整を行う。この調整の結果として、上述の各パラメータが生成される。ROOM値と4つのパラメータFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivに基づいて生成された係数とが演算部40に入力され、アップミックス後のサラウンドの音源に反映される。すなわち、設定部20におけるミキシング量の調整は、アップミックス後のサラウンドの音源を調整するものであるとも言える。
【0030】
係数生成部30は、設定部20が生成した4つのパラメータFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivを任意に組み合わせて四則演算することにより、サラウンドの出力におけるチャンネルごとに係数A、B、C、Dを生成する。すなわち、22.2chのそれぞれに対してFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivの各値が組み合わせられることにより、24組の係数A1~D1、・・・、A24~D24が生成される(ステップS03)。係数A1~D1、・・・、A24~D24は、後段に設けられた演算部40に出力される。なお、間接音RL、RRの係数Cn、Dnの生成においては、直接音のミキシング量に関係するFdiv値を用いなくてもよい。同様に、直接音DL、DRの係数An、Bnの生成においては、間接音のミキシング量に関係するRdiv値を用いなくてもよい。このように、各係数の生成において、必ずしも全てのパラメータを用いる必要はない。また、チャンネルによっては、全ての係数を四則演算により生成する必要もない。例えば、中層のフロント側における左チャンネル出力の係数は、Bn=Dn=1とすることが出来る。
【0031】
演算部40は、分離部10が生成した4つの音源DL、DR、RL、RRと、直接音/間接音バランス調整部21が生成したパラメータROOMと、係数生成部30が生成した24組の係数A1~D1、・・・、A24~D24とに基づいて、上記(式1)から、22.2chサラウンドにおける各チャンネルの出力T1~T24を演算する(ステップS04)。演算された出力T1~T24は、サラウンドにおける各チャンネルに設けられた図示しないスピーカから出力される。
【0032】
[効果]
(1)本実施形態の音声信号処理装置100は、ステレオの音源を分離部10が分離して生成した左の直接音DL、右の直接音DR、左の間接音RL、右の間接音RRの4つの音源に対して、直接音/間接音バランス調整部21が生成したROOM値により調整した上で、設定部20が生成した4つのパラメータFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivに基づいて係数生成部30が生成した係数を、演算部40が乗算することにより、ステレオの音源からサラウンドの音源を生成する。このように、遅延処理やフィルタ処理を行うことなくステレオの音源をアップミックスするので、アップミックスに伴う音源の歪みを抑制することが出来る。そのため、アップミックスしたサラウンドの音源をステレオの音源に再度ダウンミックスしても、ステレオの音源に生じる歪みが少ない。
【0033】
(2)本実施形態の音声信号処理装置100の設定部20は、フロントバランス調整部22を備える。これにより、フロント側チャンネル出力においてセンター音源だけを他の音源に比較して強調することが出来るので、センター音源が他の音源に埋もれて聞こえづらくなるという事態を回避することが出来る。特に、センター音源にコメントなどの重要な情報が含まれている場合に、コメントが聞こえないという事態を回避することが出来る。
【0034】
(3)本実施形態の音声信号処理装置100の設定部20は、リアバランス調整部23を備える。これにより、リア側チャンネル出力においてセンター音源と他の音源とのバランスを調整することが出来るので、リア側チャンネルから出力される音の拡がり方を調整することが出来る。
【0035】
(4)本実施形態の音声信号処理装置100の設定部20は、ミキシング量調整部24を備える。これにより、センター音源が他の音源に比較して弱々しい場合であっても、フロント側チャンネルから出力される直接音に間接音をミックスすることにより、フロント側チャンネルから出力されるセンター音源を補強し、センターに定位する音を聴き易くすることが出来る。同様にして、間接音に直接音をミックスすることにより、センター音源を補強することが出来る。
【0036】
(5)本実施形態の音声信号処理装置100の設定部20は、層間バランス調整部25を備える。これにより、サラウンドにおける中層の直接音及び間接音を上層及び下層にも拡げることが出来る。
【0037】
(6)本実施形態の音声信号処理装置100の設定部20は、直接音/間接音バランス調整部21を備える。これにより、アップミックス後のサラウンドの音源において間接音を強調することが出来る。
【0038】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。具体的には、次のような他の実施形態も包含する。
【0039】
(1)上記の実施形態においては、ステレオから22.2chサラウンドへのアップミックスについて説明したが、例えばステレオから5.1chサラウンドへのアップミックスや、ステレオから3Dオーディオに対応する5.1.2chサラウンドへのアップミックスについても本発明を適用することが出来る。
【0040】
(2)上記の実施形態においては、各チャンネルの出力Tnをそれぞれ演算するものとしたが、これに限られない。例えば、フロント側の左右チャンネルやサイド側及びリア側の左右チャンネルの出力については、同じにしてもよい。これにより、係数生成部30や演算部40の演算量を削減することが出来る。
【0041】
(3)上記の実施形態の設定部20は、4つのパラメータFdiv、Rdiv、FRdiv、ELdivを生成するようにしたが、これに限られない。設定部20が1つでもパラメータを生成できるのであれば、係数An~Dnを生成するための四則演算を多様にすることで、各チャンネルnの出力Tnを細やかに調整することも可能である。また、図10に示すように、Room値も含めた5つのパラメータで係数An~Dnを生成するようにしても良い。この場合、例えば以下の各式により、係数を生成することが出来る。ただし、AnRoom=BnRoom、CnRoom=DnRoom=1-AnRoomとする。
An=AnRoom×AnFdiv×AnRdiv×AnFRdiv×AnELdiv
Bn=BnRoom×BnFdiv×BnRdiv×BnFRdiv×BnELdiv
Cn=CnRoom×CnFdiv×CnRdiv×CnFRdiv×CnELdiv
Dn=DnRoom×DnFdiv×DnRdiv×DnFRdiv×DnELdiv
【0042】
(4)上記の実施形態の設定部20においては、ミキシングエンジニアが各構成に設けられた操作子を操作することによってパラメータを生成したが、音声信号処理装置100に設けられたGUIを操作することによってパラメータを生成してもよい。
【0043】
(5)上記の実施形態の設定部20は、直接音/間接音バランス調整部21、フロントバランス調整部22、リアバランス調整部23、ミキシング量調整部24、層間バランス調整部25を備えるものとしたが、これらの構成に加えて、イコライザを備えてもよい。この場合、イコライザは、ステレオの音源を歪め過ぎない程度に利用される。
【0044】
(6)上記の実施形態のミキシング量調整部24は、直接音に対してミキシングする間接音の量と、間接音に対してミキシングする直接音の量を調整するようにしたが、前者だけであってもよい。すなわち、間接音に対して直接音をミキシングしなくてもよい。
【0045】
(7)上記の実施形態の層間バランス調整部25は、1つの操作子でサラウンドの音源における中層の直接音及び間接音を上下層に拡げることとしたが、2つの操作子を備えることにより、直接音と間接音とを個別に調整することも出来る。なお、2つの操作子は連動するようにしても良いし、一方は固定して他方だけが回転するようにしても良い。連動させる場合は、一方の回転方向と反対方向に他方が回転するようにすると良い。
【0046】
(8)上記の実施形態においては、音声信号処理装置100というハードウェアについて説明したが、コンピュータに音声信号処理装置100の各構成の作用を手順として実行させるプログラムなどのソフトウェアによっても同様の効果を奏することが出来る。例えば、分離部10と、設定部20と、係数生成部30と、演算部40を構成として備える音声信号処理装置100の代わりに、ステレオの音源を直接音と間接音とに分離する分離手順と、直接音または間接音の少なくとも一方を調整するためのパラメータを生成する設定手順と、パラメータに基づき、サラウンドの音源におけるチャンネルごとに直接音及び間接音に乗算する係数を生成する係数生成手順と、直接音及び間接音に係数を乗算することにより、ステレオの音源をサラウンドの音源にアップミックスする演算手順をコンピュータに実行させる音声信号処理プログラムによっても、同様の効果を奏することが出来る。この手順は、例えば図9の説明と同様に行われる。
【符号の説明】
【0047】
100…音声信号処理装置
10…分離部
20…設定部
21…直接音/間接音バランス調整部
22…フロントバランス調整部
23…リアバランス調整部
24…ミキシング量調整部
25…層間バランス調整部
30…係数生成部
40…演算部
X…主操作子
Y…副操作子
DL…左の直接音
DR…右の直接音
RL…左の間接音
RR…右の間接音
A~D…係数
T…出力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10