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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092186
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ウエアバルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/12 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
F16K7/12 B
F16K7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204839
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000180298
【氏名又は名称】四国化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中西 満春
(57)【要約】
【課題】
ダイアフラム弁体の当接離間動作に伴うウエアバルブのボディとの摩擦により生じる摩耗を抑制すること。
【解決手段】
ダイアフラム弁体4は、薄膜部42の外周に、薄膜部42と接続された被固定部43を備えること、ウエアバルブ1は、被固定部43を当接離間の方向の双方向から挟持することでダイアフラム弁体4を固定する固定部231,36を備えること、固定部36の表面には、ダイヤモンドライクカーボンのコーティング37が施されており、ダイアフラム弁体4の当接離間の動作に伴った固定部36とダイアフラム弁体4との摩擦により生じるダイアフラム弁体4の摩耗を抑制すること、を特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、前記流路に設けられた堰と、薄膜部を有するダイアフラム弁体と、を備え、前記薄膜部が弾性変形することで前記ダイアフラム弁体が前記堰に対して当接離間の動作を行い、前記流路を流れる流体の流体制御を行うウエアバルブにおいて、
前記ダイアフラム弁体は、前記薄膜部の外周に、前記薄膜部と接続された被固定部を備えること、
前記ウエアバルブは、被固定部を前記当接離間の方向の双方向から挟持することで前記ダイアフラム弁体を固定する固定部を備えること、
前記固定部の表面に、ダイヤモンドライクカーボンのコーティングが施されており、前記ダイアフラム弁体の前記当接離間の動作に伴った前記固定部と前記ダイアフラム弁体との摩擦により生じる前記ダイアフラム弁体の摩耗を抑制すること、
を特徴とするウエアバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のウエアバルブにおいて、
前記ウエアバルブは、飲料の充填装置に用いられるエアオペレイト式のウエアバルブであること、
を特徴とするウエアバルブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウエアバルブにおいて、
前記コーティングは、前記固定部の、前記ダイアフラム弁体の前記流体と接触する側の面と接触する部分に施されていること、
を特徴とするウエアバルブ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載のウエアバルブにおいて、
前記コーティングの表面の動摩擦係数が0.1以上0.2以下であること、
を特徴とするウエアバルブ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載のウエアバルブにおいて、
前記ダイアフラム弁体は、
前記流体と接触する側の第1層と、前記流体と接触する側とは反対側の第2層と、の2層により構成されていること、
前記第1層は、フッ素樹脂により形成されていること、
前記第2層は、エチレン・プロピレン・ジエンゴムにより形成されていること、
を特徴とするウエアバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路と、流路に設けられた堰と、薄膜部を有するダイアフラム弁体と、を備え、薄膜部が弾性変形することでダイアフラム弁体が堰に対して当接離間の動作を行い、流路を流れる流体の流体制御を行うウエアバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料の充填装置においては、飲料用容器への飲料の充填量を制御するために、ウエアバルブが多く用いられる。ウエアバルブとは、例えば特許文献1に示すように、流路と、流路に設けられた堰と、薄膜部を有するダイアフラム弁体と、を備えており、薄膜部が弾性変形することでダイアフラム弁体が堰に対して当接離間し、流路を流れる流体の流体制御を行うものである
【0003】
特許文献1に示すウエアバルブは、手動開閉式であるが、飲料の充填装置には、例えば図3図5図7に示すような、エアオペレイト式のウエアバルブ5が用いられる。
【0004】
ウエアバルブ5は、駆動部2と、ボディ6と、駆動部2とボディ6とにより挟持固定されているダイアフラム弁体4と、から構成されている。
【0005】
駆動部2は、内部にピストン25、スプリング28を有している。駆動部2に導入される操作エアや、スプリングの弾性力により、ピストン25がピストン室27内で上昇または下降され、このピストン25の上昇または下降に伴い、ダイアフラム弁体4の中央部が上昇または下降される。これにより、ダイアフラム弁体4と堰35の離間または当接が行われ、ウエアバルブ5の開弁動作または閉弁動作が行われる。
【0006】
ボディ6は、入力側流路31と出力側流路32とにより、入力ポート33から出力ポート34までの流路が形成されている。当該流路上には、ダイアフラム弁体4が当接離間する堰35が設けられている。
【0007】
ダイアフラム弁体4は、接液面側のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる第1層4aと、接液面側とは反対側のエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)からなる第2層4bとにより、2層構造となっている。また、ダイアフラム弁体4は、薄膜部42を有し、薄膜部42の外周には、薄膜部42と接続された被固定部43を備える。この被固定部43が、駆動部2の固定部231と、ボディ6の固定部36により、ダイアフラム弁体4が堰35に対して当接離間する方向(図中上下方向)の双方向から挟持されることで、ダイアフラム弁体4がウエアバルブ5に固定されている。また、固定部36は、凸部36aを有しており、この凸部36aがダイアフラム弁体4を圧縮することで、ダイアフラム弁体4の外部シールをより強固なものとしている。
【0008】
飲料の充填装置にこのようなウエアバルブが多く用いられるのは、ポペット弁などと比べて、流路構造が比較的単純で、液溜りが少ないことが挙げられる。食品衛生上の観点から、飲料の充填装置に用いられるバルブは、洗浄が行われる頻度が高い。よって、流路構造の単純なウエアバルブが適しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-62953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術には、ウエアバルブの開閉(すなわちダイアフラム弁体4の堰35に対する当接離間の動作)が繰り返されると、ダイアフラム弁体4の薄膜部42が、ボディ6の固定部36の端部(凸部36a)と摩擦することで、第1層4aが摩耗し、摩耗粉が生じてしまうおそれがあった。
【0011】
この摩耗が発生するメカニズムは以下の通りである。図3に示すように、ピストン25が下限位置にあり、ダイアフラム弁体4が堰35に当接した状態(すなわちウエアバルブ5が閉弁状態)にあるとき、ダイアフラム弁体4の薄膜部42に負荷がかかっていない状態である。この状態から開弁動作が行われると、まず、図7に示すように、ピストン25が下限位置から上方に移動し始め、ダイアフラム弁体4が堰35から離間する方向に向かって弾性変形される。このようにダイアフラム弁体4の弾性変形が行われると、ダイアフラム弁体4の被固定部43が図中上下方向から挟持固定されている状態であるため、図3において負荷がかけられていなかったダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、図8に示すように、ダイアフラム弁体4の外方(矢印Y12の方向)に圧縮または押し込まれる状態とされる。
【0012】
そして、さらにピストン25が上方に移動され、上限位置まで移動すると、図5に示すように、ウエアバルブ5が全開状態となる。この全開状態においては、ダイアフラム弁体4の被固定部43が図中上下方向から挟持されている状態で、ダイアフラム弁体4の中心部が上方向に引っ張られているため、図8において圧縮または押し込まれていたダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、図6に示すように、ダイアフラム弁体4の中心部に向かう方向(矢印Y11の方向)に引き延ばされる。
【0013】
そして、全開状態から閉弁動作が行われる場合、ピストン25が上限位置から下方に移動し始め、ダイアフラム弁体4が堰35に当接する方向に向かって弾性変形されるため、ダイアフラム弁体4は、再度、図7に示した状態となる。つまり、図6において引き延ばされていたダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、再度、ダイアフラム弁体4の外方(矢印Y12の方向)に圧縮または押し込まれる状態とされる。
【0014】
そして、図3に示すように、ピストン25が下限位置まで移動し、ダイアフラム弁体4が堰35に当接し、ウエアバルブ5が閉弁状態となると、図7において圧縮または押し込まれた状態となっていたダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、図4に示すように、矢印Y13の方向に引き延ばされ、薄膜部42に負荷がかかっていない状態に戻る。
【0015】
以上のように、ダイアフラム弁体4の当接離間の動作が行われると、ダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、矢印Y11および矢印13の方向に引き延ばされたり、矢印Y12の方向に圧縮または押し込まれたりするため、ダイアフラム弁体4が、ボディ6の固定部36の端部(凸部36a)と摩擦する。この摩擦により、ダイアフラム弁体4の第1層4aが摩耗し、摩耗粉が発生するのである。
【0016】
飲料の充填装置に用いられるウエアバルブにおいて、ダイアフラム弁体4の第1層4aに摩耗が発生すると、その摩耗粉が、飲料に混入するおそれがある。第1層4aを形成するPTFEは、食品衛生法上、摂取しても人体に影響がない材料とされているが、飲料内で目視可能なほどの大きさの摩耗粉は、外観上問題がある。このため、第1層4aに摩耗が生じたウエアバルブ5は、摩耗が進むと大きな摩耗粉が発生するおそれがあることから、ウエアバルブ5自体の機能に問題が無い場合であっても、目視可能なほどの大きさの摩耗粉が発生する前に交換しなければならない。ウエアバルブ5自体の機能に問題が無い場合でも、交換をしなければならないことは経済的でなく、可能な限り、ダイアフラム弁体の摩耗を抑え、摩耗粉の発生を抑制するウエアバルブが望まれている。
【0017】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、ダイアフラム弁体の当接離間動作に伴うウエアバルブのボディとの摩擦により生じる摩耗粉を抑制することが可能なウエアバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のウエアバルブは、次のような構成を有している。
(1)流路と、前記流路に設けられた堰と、薄膜部を有するダイアフラム弁体と、を備え、前記薄膜部が弾性変形することで前記ダイアフラム弁体が前記堰に対して当接離間の動作を行い、前記流路を流れる流体の流体制御を行うウエアバルブにおいて、前記ダイアフラム弁体は、前記薄膜部の外周に、前記薄膜部と接続された被固定部を備えること、前記ウエアバルブは、被固定部を前記当接離間の方向の双方向から挟持することで前記ダイアフラム弁体を固定する固定部を備えること、前記固定部の表面には、ダイヤモンドライクカーボンのコーティングが施されており、前記ダイアフラム弁体の前記当接離間の動作に伴った前記固定部と前記ダイアフラム弁体との摩擦により生じる前記ダイアフラム弁体の摩耗を抑制すること、を特徴とする。
【0019】
(2)(1)に記載のウエアバルブにおいて、前記ウエアバルブは、飲料の充填装置に用いられるエアオペレイト式のウエアバルブであること、を特徴とする。
【0020】
(3)(1)または(2)に記載のウエアバルブにおいて、前記コーティングは、前記固定部の、前記ダイアフラム弁体の前記流体と接触する側の面と接触する部分に施されていること、を特徴とする。
【0021】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のウエアバルブにおいて、前記コーティングの表面の動摩擦係数が0.1以上0.2以下であること、を特徴とする。
【0022】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のウエアバルブにおいて、前記ダイアフラム弁体は、前記流体と接触する側の第1層と、前記流体と接触する側とは反対側の第2層と、の2層により構成されていること、前記第1層は、フッ素樹脂により形成されていること、前記第2層は、エチレン・プロピレン・ジエンゴムにより形成されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウエアバルブは、ダイアフラム弁体を固定する固定部の表面にダイヤモンドライクカーボンのコーティングが施されているため、固定部の表面の動摩擦係数が低下される。固定部の表面の動摩擦係数が低下されれば、ダイアフラム弁体と固定部との間に摩擦が発生しても、ダイアフラム弁体に生じる摩耗の発生を抑えることが可能である。
【0024】
ウエアバルブを飲料の充填装置に用いる場合には、ダイアフラム弁体に摩耗が発生し、流体に目視可能な摩耗粉が混入すると、ウエアバルブ自体の機能に問題が無い場合であっても、ウエアバルブの交換を余儀なくされていたが、ダイアフラム弁体に生じる摩耗の発生を抑えることができれば、ウエアバルブの交換までの寿命を延ばすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係るウエアバルブの断面図である。
図2図1のX11部分の部分拡大図である。
図3】従来技術に係るウエアバルブの断面図であり、閉弁状態を表す。
図4図3のX12部分の部分拡大図である。
図5】従来技術に係るウエアバルブの断面図であり、開弁状態を表す。
図6図5のX13部分の部分拡大図である。
図7】従来技術に係るウエアバルブの断面図であり、閉弁動作中の状態を表す。
図8図7のX14部分の部分拡大図である。
図9】固定部にコーティングを施していない場合において、ダイアフラム弁体の当接離間動作を150万回行った後のダイアフラム弁体を、第1層側から観察した状態を表す。
図10】固定部に、動摩擦係数0.15~0.2のコーティングを施した場合において、ダイアフラム弁体の当接離間動作を150万回連続して行った後のダイアフラム弁体を、第1層側から観察した状態を表す。
図11】固定部に、動摩擦係数0.1~0.15のコーティングを施した場合において、ダイアフラム弁体の当接離間動作を150万回連続して行った後のダイアフラム弁体を、第1層側から観察した状態を表す。
図12】当接離間動作を50万回、100万回、150万回行った場合に発生した摩耗痕の、半径方向の幅のうち、最大のものを測定した結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のウエアバルブの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(ウエアバルブの構成について)
まず、本実施形態に係るウエアバルブ1の構成について、図1および図2を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るウエアバルブ1の断面図である。図2は、図1のX11部分の部分拡大図である。
【0028】
ウエアバルブ1は、飲料の充填装置に用いられる、ノーマルクローズタイプのエアオペレイト式開閉弁であり、駆動部2と、ボディ3と、駆動部2とボディ3とにより挟持固定されているダイアフラム弁体4と、から構成されている。
【0029】
駆動部2は、上カバー21と、下カバー22と、ロッドカバー23と、ピストンロッド24と、ピストン25と、コンプレッサ26とにより構成される。
【0030】
上カバー21は、例えばアルミダイカストからなり、一端(図1中上端)が閉塞され、他端が開放されたカップ状に形成されている。上カバー21の開放されている側の端部には、下カバー22が結合されている。
【0031】
下カバー22は、例えばアルミダイカストからなり、上カバー21とともに、ピストン室27を形成している。
【0032】
ピストン室27には、例えばアルミニウム合金により円盤状に形成されたピストン25が、図1中の上下方向に摺動自在に保持されており、このピストン25によって、ピストン室27は、上ピストン室271と、下ピストン室272とに区切られている。上ピストン室271には、スプリング28が、上ピストン室271の上壁面とピストン25の上端面とに圧縮されるよう配設されており、スプリング28は、ピストン25を下カバー22側に常時付勢している。
【0033】
また、上ピストン室271は、上カバー21側面に設けられた貫通孔213により、第1操作ポート211に連通している。さらにまた、下ピストン室272は、上カバー21側面に設けられた貫通孔214により、第2操作ポート212に連通している。
【0034】
ピストン25には、ピストン室27に貫装されたピストンロッド24が、ピストン25と同軸に結合されている。ピストンロッド24は、例えばステンレス等により、ピストン25が上昇または下降する方向と平行な方向に長手方向を有する円柱状に形成されており、ピストン室27から、下カバー22に設けられたガイド孔221を通り、図1中の下方へ突出している。そして、ピストンロッド24のピストン室27から突出している部分は、下カバー22の、上カバー21の側とは反対の側に結合された、筒状のロッドカバー23により保護されている。
【0035】
ロッドカバー23は、例えばアルミダイカストからなる。ロッドカバー23の、下カバー22の側とは反対の側の端部(図1中下端部)は、フランジ状に形成されており、ダイアフラム弁体4を固定するための固定部231となっている。
【0036】
ダイアフラム弁体4は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)により形成される第1層4aと、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)により形成されている第2層4bと、の2層により構成されている。第1層4aの表面は、ボディ3に設けられた流路を流れる流体である飲料に接触する面(以下、接液面)となる。
【0037】
ダイアフラム弁体4の、接液面とは反対側の面の中央部には、結合部44が突設されており、結合部44はコンプレッサ26を介してピストンロッド24に結合されている。また、ダイアフラム弁体4の、接液面側の中央部には、ボディ3の堰35と当接離間する当接部41が設けられている。そして、当接部41の外周に薄膜部42が設けられ、さらに薄膜部42の外周には被固定部43が設けられている。また、被固定部43の上端面および下端面には、それぞれ位置決め45,46が突設されている。
【0038】
ボディ3は、例えばSUS316L等のステンレス鋼からなり、入力側流路31と出力側流路32とにより、入力ポート33から出力ポート34までの流路が形成されている。当該流路上には、ダイアフラム弁体4が当接離間する堰35が、ダイアフラム弁体4側に突出するようにして設けられている。
【0039】
ボディ3の、ロッドカバー23の固定部231とダイアフラム弁体4を挟んで対向する部分は固定部36である。固定部231と固定部36とが、ダイアフラム弁体4の被固定部43を、ダイアフラム弁体4が堰35に対して当接離間する方向(図1および図2の上下方向)の双方向から挟持することで、ダイアフラム弁体4は固定されている。また、固定部36は、当接離間する方向と直交する方向を半径方向とし、ピストン25やピストンロッド24と同軸とされた、環状の凸部36aを有しており、この凸部36aがダイアフラム弁体4を圧縮することで、ダイアフラム弁体4の外部シールをより強固なものとしている。
【0040】
ボディ3の固定部36の表面には、ダイヤモンドライクカーボンのコーティング37(例えば、水素含有アモルファスカーボン(a-C:H))が施されている。このコーティング37は、例えば、化学気相成長法による蒸着(CVD蒸着)により成膜されたものであり、その厚みは1~20μmである。そして、このコーティング37の表面の動摩擦係数は、0.1以上0.2以下の範囲であることが望ましく、0.1以上0.15以下の範囲であることがさらに望ましい。この動摩擦係数は、表面に上記コーティング37と同一のコーティングを施した円板状試験片と、炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)製の球とによるボールオンディスク方式の摩擦試験を行い、得られた値である。
【0041】
(ウエアバルブの動作について)
まず、ウエアバルブ1の弁開動作について説明する。第2操作ポート212から貫通孔214を通して下ピストン室272に操作エアが供給されると、下ピストン室272の圧力が上昇し、ピストン25が、上ピストン室271側に上昇する。このとき、上ピストン室271内の空気は、第1操作ポート211から排出される。
【0042】
ピストン25には、ピストン室27に貫装されたピストンロッド24が結合されているため、ピストン25がピストン室27内で上昇すると、これに伴って、ピストンロッド24が上昇する。
【0043】
さらに、ダイアフラム弁体4が、結合部44によりコンプレッサ26を介してピストンロッド24に結合されているため、ピストンロッド24が上昇すると、これに伴って、薄膜部42が弾性変形し、ダイアフラム弁体4の中央部が上昇する。ダイアフラム弁体4の中央部が上昇することで、当接部41が堰35から離間し、ウエアバルブ1は弁開状態となる。
【0044】
次に閉弁動作について説明する。ウエアバルブ1が開弁状態にあるときに、下ピストン室272への操作エアの供給が停止されると、スプリング28の付勢力により、ピストン25は、下ピストン室272側に下降する。ピストン25がピストン室27内で下降すると、これに伴って、ピストン25に結合されたピストンロッド24が下降する。
【0045】
さらに、ピストンロッド24が下降すると、これに伴って、薄膜部42が弾性変形し、ダイアフラム弁体4の中央部が下降する。ダイアフラム弁体4の中央部が下降することで、当接部41が堰35に当接し、ウエアバルブ1は弁開状態となる。
【0046】
以上のような、ダイアフラム弁体4の堰35に対する当接離間の動作が繰り返されると、ダイアフラム弁体4の薄膜部42とボディ6の固定部36の端部(凸部36a)との間に摩擦が発生するおそれがある。どのようにして、ダイアフラム弁体4とボディ6の固定部36の端部(凸部36a)との摩擦が発生するのか、図3から図8を用いて説明する。なお、図3から図8は、従来技術に係るウエアバルブ5について表すものであるが、説明に用いる構成が共通しているため、以下においては、本実施形態に係るウエアバルブ1のものとして説明する。
【0047】
図3に示すように、ピストン25が下限位置にあり、ダイアフラム弁体4が堰35に当接した状態(すなわちウエアバルブ1が閉弁状態)にあるとき、薄膜部42に負荷がかかっていない状態である。この状態から開弁動作が行われると、まず、図7に示すように、ピストン25が下限位置から上方に移動し始め、ダイアフラム弁体4が堰35から離間する方向に向かって弾性変形される。このようにダイアフラム弁体4の弾性変形が行われると、ダイアフラム弁体4の被固定部43が図中上下方向から挟持固定されている状態であるため、図3において負荷がかけられていなかったダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、図8に示すように、ダイアフラム弁体4の外方(矢印Y12の方向)に圧縮または押し込まれる状態とされる。
【0048】
そして、さらにピストン25が上方に移動され、上限位置まで移動すると、図5に示すように、ウエアバルブ1が全開状態となる。この全開状態においては、ダイアフラム弁体4の被固定部43が図中上下方向から挟持されている状態で、ダイアフラム弁体4の中心部が上方向に引っ張られているため、図8において圧縮または押し込まれていたダイアフラム弁体4の、薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、図6に示すように、ダイアフラム弁体4の中心部の方向(矢印Y11の方向)へ引き延ばされる。
【0049】
そして、全開状態から閉弁動作が行われる場合、ピストン25が上限位置から下方に移動し始め、ダイアフラム弁体4が堰35に当接する方向に向かって弾性変形されるため、ダイアフラム弁体4は、再度、図7に示した状態となる。つまり、図6において引き延ばされていたダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、再度、ダイアフラム弁体4の外方(矢印Y12の方向)に圧縮または押し込まれる状態とされる。
【0050】
そして、ピストン25が下限位置まで移動し、ダイアフラム弁体4が堰35に当接し、ウエアバルブ5が閉弁状態となると、図7において圧縮または押し込まれた状態となっていたダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、図4に示すように、矢印Y13の方向に引き延ばされ、薄膜部42に負荷がかかっていない状態に戻る。
【0051】
ダイアフラム弁体4の当接離間の動作が行われると、以上のように、ダイアフラム弁体4の薄膜部42と被固定部43との境界近傍が、矢印Y11および矢印13の方向に引き延ばされたり、矢印Y12の方向に圧縮または押し込まれたりするため、ダイアフラム弁体4が、ボディ6の固定部36の端部(凸部36a)と摩擦するのである。
【0052】
しかし、ウエアバルブ1の固定部36には、図2に示すように、ダイヤモンドライクカーボンのコーティング37が施されているため、ダイアフラム弁体4とボディ6の固定部36の端部(凸部36a)とが摩擦しても、ダイアフラム弁体4(第1層4a)に摩耗が発生することを抑えることができる。
【0053】
(実験結果について)
以下に、固定部36(凸部36a)にコーティング37を施していない場合と、動摩擦係数0.15~0.2のコーティング37を施した場合と、動摩擦係数0.1~0.15のコーティング37を施した場合とにおいて、ダイアフラム弁体4の当接離間動作を50万回、100万回、150万回行い、ダイアフラム弁体4に発生する摩耗痕の大きさを比較した実験の結果を説明する。
【0054】
図9は、固定部36(凸部36a)にコーティング37を施していない場合(即ち従来技術に係るウエアバルブ5)において、ダイアフラム弁体4の当接離間動作を150万回行った後のダイアフラム弁体4を、第1層4a側から観察した状態を表す図である。
【0055】
固定部36(凸部36a)にコーティング37を施さずに、ダイアフラム弁体4の当接離間動作を150万回連続して行うと、図9に示すように、薄膜部42に、円弧状の摩耗痕S11が発生していることが分かる。摩耗痕S11が円弧状になっているのは、凸部36aが環状に設けられており、この凸部36aと薄膜部42とが摩擦しているためである。摩耗痕S11の半径方向の幅は、最大で約400μm(図12参照)である。
【0056】
さらに、当接離間動作50万回、100万回行った場合において、摩耗痕S11の半径方向の幅は、最大で、図12に示すように、50万回で190μm、100万回で270μmであった。
【0057】
図10は、固定部36(凸部36a)に、動摩擦係数0.15~0.2のコーティング37を施した場合において、ダイアフラム弁体4の当接離間動作を150万回連続して行った後のダイアフラム弁体4を、第1層4a側から観察した状態を表す図である。
【0058】
固定部36(凸部36a)に、動摩擦係数0.15~0.2のコーティング37を施し、当接離間動作を150万回連続して行うと、図10に示すように、薄膜部42に、円弧状の摩耗痕S12が発生している。しかし、摩耗痕S12が発生している範囲は、図9に示す摩耗痕S11が発生している範囲よりも小さくなっていることが分かる。さらに、摩耗痕S12の半径方向の幅は、最大で約200μm(図12参照)であり、コーティング37を施さない場合の摩耗痕S11に比べ、約半分となっている。
【0059】
さらに、当接離間動作50万回、100万回行った場合において、摩耗痕S12の半径方向の幅は、最大で、図12に示すように、50万回で100μm、100万回で145μm、であった。
【0060】
図11は、固定部36(凸部36a)に、動摩擦係数0.1~0.15のコーティング37を施した場合において、ダイアフラム弁体4の当接離間動作を150万回連続して行った後のダイアフラム弁体4を、第1層4a側から観察した状態を表す図である。
【0061】
固定部36(凸部36a)に、動摩擦係数0.1~0.15のコーティング37を施し、当接離間動作を150万回連続して行うと、図11に示すように、薄膜部42に、摩耗痕S13が発生している。しかし、摩耗痕S13が発生している範囲は、図9に示す摩耗痕S11が発生している範囲よりも小さく、図10に示す摩耗痕S12が発生している範囲よりも更に小さくなっていることが分かる。さらに、摩耗痕S13の半径方向の幅は、最大で約150μm(図12参照)であり、コーティング37を施さない場合の摩耗痕S11に比べ、約3分の1となっている。
【0062】
さらに、当接離間動作50万回、100万回行った場合において、摩耗痕S13の半径方向の幅は、最大で、図12に示すように、50万回で90μm、100万回で100μmであった。
【0063】
以上説明したように、本実施形態のウエアバルブ1は、
(1)流路(例えば入力側流路31および出力側流路32)と、流路に設けられた堰35と、薄膜部42を有するダイアフラム弁体4と、を備え、薄膜部42が弾性変形することでダイアフラム弁体4が堰35に対して当接離間の動作を行い、流路を流れる流体(例えば飲料)の流体制御を行うウエアバルブ1において、ダイアフラム弁体4は、薄膜部42の外周に、薄膜部42と接続された被固定部43を備えること、ウエアバルブ1は、被固定部43を当接離間の方向の双方向から挟持することでダイアフラム弁体4を固定する固定部231,36を備えること、固定部36の表面には、ダイヤモンドライクカーボンのコーティング37が施されており、ダイアフラム弁体4の当接離間の動作に伴った固定部36とダイアフラム弁体4との摩擦により生じるダイアフラム弁体4の摩耗を抑制すること、を特徴とする。
【0064】
(2)(1)に記載のウエアバルブ1において、ウエアバルブ1は、飲料の充填装置に用いられるエアオペレイト式のウエアバルブであること、を特徴とする。
【0065】
(3)(1)または(2)に記載のウエアバルブ1において、コーティング37は、固定部231,36の、ダイアフラム弁体4の流体(飲料)と接触する側の面と接触する部分(例えば固定部36の表面)に施されていること、を特徴とする。
【0066】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のウエアバルブ1において、コーティング37の表面の動摩擦係数が0.1以上0.2以下であること、を特徴とする。
【0067】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のウエアバルブ1において、ダイアフラム弁体4は、流体(飲料)と接触する側の第1層4aと、流体(飲料)と接触する側とは反対側の第2層4bと、の2層により構成されていること、第1層4aは、フッ素樹脂(例えばPTFE)により形成されていること、第2層4bは、エチレン・プロピレン・ジエンゴムにより形成されていること、を特徴とする。
【0068】
上記構成を有するウエアバルブ1によれば、ダイアフラム弁体4を固定する固定部36の表面にダイヤモンドライクカーボンのコーティング37が施されているため、固定部36の表面の動摩擦係数が低下される。固定部36の表面の動摩擦係数が低下されれば、ダイアフラム弁体4と固定部36との間に摩擦が発生しても、ダイアフラム弁体4に生じる摩耗(摩耗痕S11,S12,S13)の発生を抑えることが可能である。
【0069】
従来、ウエアバルブを飲料の充填装置に用いる場合、ダイアフラム弁体4に摩耗(摩耗痕S11,S12,S13)が発生したウエアバルブは、摩耗が進むと大きな摩耗粉が発生するおそれがあることから、ウエアバルブ自体の機能に問題が無い場合であっても、目視可能なほどの大きさの摩耗粉が発生する前に交換しなければならなかったが、本実施形態に係るウエアバルブ1のように、ダイアフラム弁体4に生じる摩耗の発生を抑えることができれば、ウエアバルブ1の交換までの寿命を延ばすことが可能である。
【0070】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、本実施形態においては、コーティング37は、固定部36の表面に施されているが、コーティング37を施す範囲はこれに限定されず、固定部36のうち、凸部36aの表面のみに施しても良いし、ボディ3の表面全体に施しても良い。また、固定部36は必ずしも凸部36aを備える必要はなく、平坦な面としても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 ウエアバルブ
4 ダイアフラム弁体
31 入力側流路
32 出力側流路
35 堰
36 固定部
37 コーティング
42 薄膜部
43 被固定部
231 固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12