IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -燃料電池用触媒及びその製造方法 図1
  • -燃料電池用触媒及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092187
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/92 20060101AFI20220615BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220615BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220615BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20220615BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20220615BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20220615BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220615BHJP
【FI】
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M4/90 B
H01M4/88 K
H01M4/88 C
B01J37/12
B01J37/16
B01J23/89 M
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204840
(22)【出願日】2020-12-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 広輔
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB06C
4G169BB08C
4G169BB10C
4G169BB12C
4G169BB14C
4G169BB20C
4G169BC03C
4G169BC17A
4G169BC31A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC52A
4G169BC58A
4G169BC58C
4G169BC62A
4G169BC62C
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC73A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD01C
4G169BD02C
4G169BD12C
4G169BE06C
4G169BE08C
4G169BE10C
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EB18X
4G169ED02
4G169FA02
4G169FB04
4G169FB19
4G169FB29
4G169FB30
4G169FB31
4G169FB39
4G169FB43
4G169FB57
4G169FC03
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE10
5H018HH00
5H018HH01
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】触媒粒子としてPt合金粒子を用いる場合に、向上された触媒活性と、低加湿時の触媒性能とが両立されるとともに、高度の触媒活性が長期間維持される、燃料電池用触媒を提供すること。
【解決手段】炭素粉末担体と、前記炭素粉末担体上に担持されている触媒粒子とを含む、燃料電池用触媒であって、前記触媒粒子が、Pt合金粒子であり、前記燃料電池用触媒が、0.65mmol/g以上の親水性基を有し、かつ、前記燃料電池用触媒0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、撹拌下、室温にて100時間保持したときの、Ptの溶出量が、前記燃料電池用触媒1g当たり、0.625mg以下である、燃料電池用触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粉末担体と、前記炭素粉末担体上に担持されている触媒粒子とを含む、燃料電池用触媒であって、
前記触媒粒子が、Pt合金粒子であり、
前記燃料電池用触媒が、0.65mmol/g以上の親水性基を有し、かつ、
前記燃料電池用触媒0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、撹拌下、室温にて100時間保持したときの、Ptの溶出量が、前記燃料電池用触媒1g当たり、0.625mg以下である、
燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記親水性基が酸性基である、請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
前記Ptの溶出量が、前記燃料電池用触媒1g当たり、0.300mg以下である、請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒。
【請求項4】
前記Pt合金粒子が、
Ptと、
Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Hf、Ru、Ir、Pd、Os、及びRhから成る群から選択される1種又は2種以上の金属と
を含む合金粒子である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒。
【請求項5】
前記触媒粒子の平均粒径が、2nm以上10nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒を含む、燃料電池の電極。
【請求項7】
カソードである、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電極を含む、燃料電池。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒の製造方法であって、
前記炭素粉末担体に前記触媒粒子を担持して、触媒粒子担持炭素粉末を調製すること、
前記触媒粒子担持炭素粉末を酸化剤と接触させて、前記触媒粒子担持炭素粉末に親水性基を付与して、燃料電池用触媒前駆体を調製すること、及び
前記燃料電池用触媒前駆体を還元剤と接触させて、燃料電池用触媒を調製すること
を含む、方法。
【請求項10】
前記触媒粒子担持炭素粉末との接触に使用される酸化剤が、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸、及びクロム酸から成る群から選択される1種又は2種以上の酸化剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記燃料電池用触媒前駆体との接触に使用される還元剤が、アルコール、カルボン酸、及びアルデヒドから成る群から選択される1種又は2種以上の還元剤である、請求項9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、次世代の電池として期待されている。特に、固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、起動時間が短く、コンパクトである等の利点を有し、自動車の駆動用電源等の分野では、既に実用化が始まっている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、カソード(空気極)、固体高分子電解質膜、及びアノード(燃料極)がこの順に積層させた構造を有する。このような固体高分子形燃料電池では、カソードには酸素又は空気が供給され、アノードには燃料、例えば水素が供給されると、各極で酸化・還元反応が起こり、電力が発生する。
【0004】
燃料電池では、電極中に、上記の酸化・還元反応を促進するための燃料電池用触媒を含む。この燃料電池用触媒としては、炭素粉末担体上に、触媒粒子を担持させた構造のものが、広く用いられている。燃料電池用触媒の触媒粒子としては、Pt粒子及びPt合金粒子が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、担体粒子の存在下、液相にて、Pt前駆体化合物を還元する、Pt担持触媒の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、固体高分子形燃料電池のカソードの活性を向上するために、触媒粒子として、Pt合金粒子を用いることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3及び4には、燃料電池用触媒の活性(特に初期活性)を向上するために、Ptを担持する炭素粉末担体に、親水性基を導入することが提案されている。この親水性基の導入は、燃料電池用触媒の初期活性の向上のほか、燃料電池用触媒が低加湿状態になったときの触媒性能の維持にも有利であると考えられる。
【0007】
一方、特許文献5では、Pt担持触媒の耐久性と、Ptの溶出性との間に関連があることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08-084930号公報
【特許文献2】特開2003-142112号公報
【特許文献3】特開2011-003492号公報
【特許文献4】特開2012-124001号公報
【特許文献5】国際公開第2018/194007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、触媒粒子としてPt合金粒子を用いる燃料電池用触媒において、特許文献3及び4の教示にしたがって、燃料電池用触媒に親水性基を導入すると、電極作製時に用いる溶媒中にPtが溶出し、触媒活性が損なわれる現象が起こることを見出した。この現象は、触媒粒子としてPt合金粒子を用いる燃料電池用触媒の活性向上検討の障害になると考えられる。
【0010】
そこで本発明は、触媒粒子としてPt合金粒子を用いる場合に、向上された触媒活性と、低加湿時の触媒性能とが両立されるとともに、高度の触媒活性が長期間維持される、燃料電池用触媒、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のとおりである。
【0012】
《態様1》炭素粉末担体と、前記炭素粉末担体上に担持されている触媒粒子とを含む、燃料電池用触媒であって、
前記触媒粒子が、Pt合金粒子であり、
であり、
前記燃料電池用触媒が、0.65mmol/g以上の親水性基を有し、かつ、
前記燃料電池用触媒0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、撹拌下、室温にて100時間保持したときの、Ptの溶出量が、前記燃料電池用触媒1g当たり、0.625mg以下である、
燃料電池用触媒。
《態様2》前記親水性基が酸性基である、態様1に記載の燃料電池用触媒。
《態様3》前記Ptの溶出量が、前記燃料電池用触媒1g当たり、0.300mg以下である、態様1又は2に記載の燃料電池用触媒。
《態様4》前記Pt合金粒子が、
Ptと、
Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Hf、Ru、Ir、Pd、Os、及びRhから成る群から選択される1種又は2種以上の金属と
を含む合金粒子である、
態様1~3のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒。
《態様5》前記触媒粒子の平均粒径が、2nm以上10nm以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒。
《態様6》態様1~5のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒を含む、燃料電池の電極。
《態様7》カソードである、態様6に記載の電極。
《態様8》態様6又は7に記載の電極を含む、燃料電池。
《態様9》態様1~5のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒の製造方法であって、
前記炭素粉末担体に前記触媒粒子を担持して、触媒粒子担持炭素粉末を調製すること、
前記触媒粒子担持炭素粉末を酸化剤と接触させて、前記触媒粒子担持炭素粉末に親水性基を付与して、燃料電池用触媒前駆体を調製すること、及び
前記燃料電池用触媒前駆体を還元剤と接触させて、燃料電池用触媒を調製すること
を含む、方法。
《態様10》前記触媒粒子担持炭素粉末との接触に使用される酸化剤が、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸、及びクロム酸から成る群から選択される1種又は2種以上の酸化剤である、態様9に記載の方法。
《態様11》前記燃料電池用触媒前駆体との接触に使用される還元剤が、アルコール、カルボン酸、及びアルデヒドから成る群から選択される1種又は2種以上の還元剤である、態様9又は10に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、向上された触媒活性と、低加湿時の触媒性能とが両立されるとともに、高度の触媒活性が長期間維持される、燃料電池用触媒、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例及び比較例で得られた触媒粒子の、親水性基量と低加湿時の触媒能(低加湿時性能電圧)との関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例及び比較例で得られた触媒粒子の、親水性基量とPt溶出量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《燃料電池用触媒》
本発明の燃料電池用触媒は、
炭素粉末担体と、炭素粉末担体上に担持されている触媒粒子とを含む、燃料電池用触媒であって、
触媒粒子が、Pt合金粒子であり、
燃料電池用触媒が、0.65mmol/g以上の親水性基を有し、かつ、
前記燃料電池用触媒0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、撹拌下、室温にて100時間保持したときの、Ptの溶出量が、前記燃料電池用触媒1g当たり、0.625mg以下である、
燃料電池用触媒である。
【0016】
本発明の燃料電池用触媒では、触媒粒子として、Pt合金粒子を用いる。触媒粒子として、Pt合金粒子を用いることにより、合金化されていないPt粒子を用いる場合に比べて、燃料電池用触媒の活性を高くすることができる。
【0017】
また、本発明の燃料電池用触媒は、0.65mmol/g以上の親水性基を有する。燃料電池用触媒の親水性基量が0.65mmol/g以上であることにより、燃料電池用触媒に適度の親水性が付与され、低加湿時の触媒性能が向上される。
【0018】
更に、本発明の燃料電池用触媒0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、撹拌下、室温にて100時間保持したときの、Ptの溶出量が、燃料電池用触媒1g当たり、0.625mg以下である。本発明の燃料電池用触媒は、上記条件下のPtの溶出量が、燃料電池用触媒1g当たり0.625mg以下であることにより、電極作製時に用いる溶媒へのPtの溶出が抑制され、得られる電極における触媒活性が確保される。
【0019】
本発明の燃料電池用触媒では、以上のような作用機序によって、本発明が所期する目的が達成される。
【0020】
当業界の技術常識では、燃料電池用触媒中の親水性基量を多くすると、低加湿時の触媒性能の向上に有利であるものの、電極製造時のPt溶出量が多くなって、所期する触媒性能が得られないと考えられていた。
【0021】
しかしながら、本発明の燃料電池用触媒では、高い親水基量と低いPt溶出量とが両立されている。これは、本発明の燃料電池用触媒が、親水性基を付与された後、還元剤による処理工程を経由して製造されていることによると思われる。この還元剤処理工程を経由することにより、Pt溶出量が低くなる理由は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。
【0022】
すなわち、電極製造時に、燃料電池用触媒から溶出するPtは、粒径が極めて小さい、極微粒子状の触媒粒子に含まれると考えられる。この極微粒子状の触媒粒子は、還元剤処理工程によって、炭素粉末担体上を移動し、適度の粒径を有する他の触媒粒子に取り込まれて、溶出しなくなるものと推察される。ただし、本発明は、特定の理論に拘束されるものではない。
【0023】
〈炭素粉末担体〉
本発明の燃料電池用触媒における炭素粉末担体は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、アモルファス炭素、ナノカーボン材料等であってよい。ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等を包含する。
【0024】
本発明の燃料電池用触媒における炭素粉末担体としては、特に、カーボンブラックを用いてよい。カーボンブラックとしては、特に限定されず、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスブラック等のいずれを用いてもよい。
【0025】
炭素粉末担体の比表面積は、窒素ガス吸着によって測定したBET比表面積として、50m/g以上1,500m/g以下が好ましく、より好ましくは200m/g以上1,000m/g以下であり、更に好ましくは500m/g以上1,000m/g以下である。比表面積が50m/g以上である炭素粉末担体は、触媒粒子を高分散に担持できる利点がある。一方、比表面積が1,500m/g以下の炭素粉末担体は、ミクロ孔量が適度であり、燃料電池の電極中の反応において、酸素及びプロトンの輸送効率を高くすることができるため、触媒性能を高くすることができる。
【0026】
本発明における炭素粉末担体は、表面に親水性基を有する。これについては後述する。
【0027】
〈触媒粒子〉
触媒粒子は、炭素粉末担体上に担持されている。
【0028】
本発明の燃料電池用触媒における触媒粒子は、Pt合金粒子である。触媒粒子がPt合金粒子であることにより、本発明の燃料電池用触媒の活性は、高いものとなる。
【0029】
Pt合金粒子は、
Ptと、
Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Hf、Ru、Ir、Pd、Os、及びRhから成る群から選択される1種又は2種以上の金属と
を含む合金粒子であってよい。このようなPt合金は、酸素の還元に対する触媒活性が高いとの利点がある。
【0030】
Pt合金粒子は、典型的には、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、又はPt-Ni合金であってよい。
【0031】
Pt合金粒子中のPt原子の割合は、Pt合金粒子中の金属原子のモル数の合計に対してPt原子のモル数が占める百分率として、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、又は85モル%以上であってよく、99モル%以下、95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、又は75モル%以下であってよい。Pt原子の割合が50モル%以上のPt合金粒子は、卑金属の溶出による燃料電池性能の低下が抑制されるとの利点がある。Pt原子の割合が99モル%以下のPt合金粒子は、Ptに他の金属を導入することの利点、すなわち、酸素の還元に対する触媒活性が高くなるとの利点を享受し得る。
【0032】
触媒粒子の平均粒径は、好ましくは2nm以上10nm以下であり、より好ましくは2nm以上7nmであり、更に好ましくは3nm以上5nm以下である。この平均粒径が、2nm以上であることにより、燃料電池用触媒使用の際に、触媒粒子の凝集が抑制され、本発明が所期する高い触媒活性が長期間維持される。一方、触媒粒子の平均粒径が、10nm以下であることにより、触媒粒子の比表面積が大きくなって、触媒粒子表面に露出する触媒活性点の数が多くなり、したがって、触媒活性が高くなる。
【0033】
上記の触媒粒子の平均粒径は、XRDの結晶子径分布から得られた平均粒径である。
【0034】
本発明の燃料電池用触媒における触媒粒子の担持量は、燃料電池用触媒の全質量に対する触媒粒子の質量が占める割合として、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、又は30質量%以下であってよい。触媒粒子の担持量が10質量%以上であれば、良好な触媒活性が発現される。触媒粒子の担持量が60質量%以下であれば、親水性基を有する炭素粉末担体が、有意の面積で触媒表面に露出して、燃料電池用触媒の親水性が確保されるから、特に低加湿時の触媒活性が向上される。
【0035】
〈任意成分〉
本発明の燃料電池用触媒は、上記のとおり、炭素粉末担体と、前記炭素粉末担体上に担持されている触媒粒子とを含む。しかし、本発明の燃料電池用触媒は、炭素粉末担体及び触媒粒子以外の任意成分を含んでいてもよい。
【0036】
〈親水性基〉
本発明の燃料電池用触媒は、0.65mmol/g以上の親水性基を有する。燃料電池用触媒の親水性基量が0.65mmol/g以上であることにより、燃料電池用触媒に適度の親水性が付与され、低加湿時の触媒性能が向上される。一方、燃料電池用触媒の化学的安定性を確保し、触媒活性を長期間維持するために、燃料電池用触媒の親水性基量は、1.20mmol/g以下であってよい。
【0037】
燃料電池用触媒の親水性基量は、0.67mmol/g以上、0.70mmol/g以上、0.72mmol/g以上、0.75mmol/g以上、0.77mmol/g以上、又は0.80mmol/g以上であってもよく、1.10mmol/g以下、1.00mmol/g以下、0.95mmol/g以下、0.90mmol/g以下、0.85mmol/g以下であってもよい。
【0038】
本発明の燃料電池用触媒が有する親水性基は、酸性基であってよい。酸性基である親水性基は、例えば、滴定法によって定量することができる。
【0039】
本発明の燃料電池用触媒における親水性基は、例えば、炭素粉末担体の露出面(炭素粉末担体表面のうちの触媒粒子を担持していない部分)、若しくは触媒粒子の表面、又はこれらの双方上にあってよい。しかしながら、本発明の燃料電池用触媒の親水性を高めつつ、触媒活性を確保する観点からは、親水性基は、炭素粉末担体の露出面上に存在していてよく、触媒粒子の表面上には存在しない方がよいと推察される。
【0040】
〈Ptの溶出量〉
本発明の燃料電池用触媒0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、撹拌下、室温にて100時間保持したときの、Ptの溶出量が、燃料電池用触媒1g当たり、0.625mg以下である。本発明の燃料電池用触媒は、上記条件下のPtの溶出量が、燃料電池用触媒1g当たり0.625mg以下であることにより、電極作製時に用いる溶媒へのPtの溶出が抑制され、得られる電極における触媒活性が確保される。
【0041】
上記条件下のPtの溶出量は、燃料電池用触媒1g当たり、0.500mg以下、0.400mg以下、0.375mg以下、0.300mg以下、0.250mg以下、0.200mg以下、若しくは0.125mg以下であってよく、0.000mgであってもよい。
【0042】
Ptの溶出量は、具体的には、後述の実施例に示した手順によって、測定される。
【0043】
《燃料電池用触媒の製造方法》
本発明の燃料電池用触媒は、例えば、以下を含む方法によって製造されてよい:
炭素粉末担体に触媒粒子を担持して、触媒粒子担持炭素粉末を調製すること(担持工程);
触媒粒子担持炭素粉末を酸化剤と接触させて、触媒粒子担持炭素粉末に親水性基を付与して、燃料電池用触媒前駆体を調製すること(親水性基付与工程);及び
燃料電池用触媒前駆体を還元剤と接触させて、燃料電池用触媒を調製すること(還元工程)。
【0044】
以下、本発明の燃料電池用触媒の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0045】
(担持工程)
担持工程では、炭素粉末担体に触媒粒子を担持する。
【0046】
使用される炭素粉末担体は、所望の燃料電池用触媒における炭素粉末担体に応じて、適宜選択して使用してよい。炭素粉末担体は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、アモルファス炭素、ナノカーボン材料等から選択されてよい。
【0047】
Pt合金粒子である触媒粒子は、例えば、以下のいずれかの方法によって、炭素粉末担体の表面上に担持することができる。
(1)Ptと合金金属とを順次に還元担持する方法(方法1):
適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体を還元して、炭素粉末担体上にPt粒子が担持された、Pt担持炭素粉末を得ること;
適当な溶媒中で、Pt担持炭素粉末の存在下で、合金金属前駆体を還元して、Pt担持炭素粉末上に合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持炭素粉末を得ること;及び
Pt-合金金属担持炭素粉末を加熱して、Ptと合金金属とを合金化して、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末を得ること。
【0048】
(2)Ptと合金金属とを順次に還元担持する方法の別法(方法2):
適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体を還元して、炭素粉末担体上にPt粒子が担持された、Pt担持炭素粉末を得ること;
適当な溶媒中で、Pt担持炭素粉末の存在下で、合金金属前駆体を中和剤と接触させて、Pt担持炭素粉末上に、高価数の合金金属が担持された、Pt-高価数合金金属担持炭素粉末を得ること;及び
Pt-高価数合金金属担持炭素粉末を加熱して、高価数合金金属を還元するとともに、Ptと合金金属とを合金化して、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末を得ること。
【0049】
(3)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法(方法3):
適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体及び合金金属前駆体を還元して、炭素粉末担体上にPt粒子及び合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持担持炭素粉末を得ること;
Pt-合金金属担持炭素粉末を加熱して、Ptと合金金属とを合金化して、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末を得ること。
【0050】
(4)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法の別法(方法4):
適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体及び合金金属前駆体を中和剤と接触させて、炭素粉末担体上に、高価数Pt及び高価数合金金属が担持された、高価数Pt-高価数合金金属担持担持炭素粉末を得ること;及び
高価数Pt-高価数合金金属担持炭素粉末を加熱して、高価数Pt及び高価数合金金属を還元するとともに、Ptと合金金属とを合金化して、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末を得ること。
【0051】
本明細書において、「合金金属」とは、触媒粒子を構成するPt合金のうちの、Pt以外の金属を意味する。また、Pt及び合金金属が「高価数」であるとは、これらの金属原子の価数が1価以上であることを意味する。
【0052】
以下、担持工程を行うための方法1~方法4について、順に説明する。
【0053】
(1)Ptと合金金属とを順次に還元担持する方法(方法1)
方法1では、先ず、適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体を還元して、Pt担持炭素粉末を得る。
【0054】
Pt前駆体は、溶媒可溶のPt化合物から適宜選択して使用してよい。Pt前駆体としては、例えば、PtCl、PtCl、PtBr、PtS、Pt(CN)、Pt(NO(NH(ジニトロジアンミン白金)等から適宜選択して使用してよい。
【0055】
溶媒は、使用するPt前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。例えば、Pt前駆体が、PtClであるときには塩酸を使用してよく、PtBrであるときには臭化水素酸水溶液を使用してよく、ジニトロジアンミン白金であるときには硝酸水溶液を使用してよく、PtCl、PtS、又はPt(CN)であるときには水を使用してよい。
【0056】
Pt前駆体の還元は、適当な還元剤を使用して行ってよい。還元剤は、例えば、アルコール、カルボン酸、アルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等であってよい。アルコールとしては例えばエタノール等が、カルボン酸としては例えば酢酸等が、アルデヒドとしては、例えばアセトアルデヒド等が、それぞれ挙げられる。還元は、不活性雰囲気下、60℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。
【0057】
このようにして、炭素粉末担体上にPt粒子が担持された、Pt担持炭素粉末が得られる。
【0058】
次いで、適当な溶媒中で、得られたPt担持炭素粉末の存在下、合金金属前駆体を還元して、Pt-合金金属担持炭素粉末を得る。
【0059】
合金金属前駆体は、所望の燃料電池用触媒における合金金属の種類に応じて、適宜選択して使用してよい。
【0060】
合金金属前駆体は、所望の合金金属を含む、溶媒可溶の化合物から適宜選択して使用してよい。例えば、所望の合金金属の、水酸化物、塩化物、硫化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等であってよい。
【0061】
溶媒は、使用する合金金属前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。溶媒は、例えば、水であってよい。
【0062】
合金金属前駆体の還元は、適当な還元剤を使用して行ってよい。
【0063】
還元剤は、例えば、アルコール、カルボン酸、アルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等であってよい。アルコールとしては、例えば、エタノール、エチレングリコール等が、カルボン酸としては例えば酢酸等が、アルデヒドとしては例えばアセトアルデヒド等が、それぞれ挙げられる。
【0064】
還元は、室温以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上40時間以下の時間で行われてよい。
【0065】
このようにして、Pt担持炭素粉末上に合金金属が担持された、Pt合金金属担持炭素粉末が得られる。
【0066】
続いて、得られたPt合金金属担持炭素粉末を、加熱して、Ptと合金金属とを合金化することにより、Pt合金粒子担持炭素粉末(触媒粒子担持炭素粉末)を得る。加熱は、不活性雰囲気下、最高到達温度が600℃以上1,200℃以下の条件にて行われてよい。最高到達温度の維持時間は、0時間以上10時間以下であってよい。
【0067】
以上のようにして、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末が得られる。
【0068】
(2)Ptと合金金属とを順次に還元担持する方法の別法(方法2):
方法2では、適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体を還元して、炭素粉末担体上にPt粒子が担持された、Pt担持炭素粉末を得る。この工程は、方法1の場合と同様に行われてよい。
【0069】
次いで、適当な溶媒中で、Pt担持炭素粉末の存在下で、合金金属前駆体を中和剤と接触させて、Pt担持炭素粉末上に、高価数の合金金属が担持された、Pt-高価数合金金属担持炭素粉末を得る。
【0070】
ここで使用される合金金属前駆体は、方法1の説明において、合金金属前駆体として例示したものの中から、適宜選択して使用してよい。
【0071】
中和剤は、例えば、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アンモニア等であってよい。水酸化物としては例えば水酸化ナトリウム等が、炭酸塩としては例えば炭酸ナトリウム等が、リン酸塩としては例えばリン酸ナトリウム等が、ホウ酸塩としては例えばホウ酸ナトリウム等が、それぞれ挙げられる。
【0072】
中和剤による、高価数の合金金属の担持は、室温以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上40時間以下の時間で行われてよい。
【0073】
このようにして、Pt担持炭素粉末上に高価数の合金金属が担持された、Pt-高価数合金金属担持炭素粉末が得られる。
【0074】
続いて、得られたPt-高価数合金金属担持炭素粉末を加熱して、高価数合金金属を還元するとともに、Ptと合金金属とを合金化することによりして、Pt合金粒子担持炭素粉末(触媒粒子担持炭素粉末)を得る。加熱は、不活性雰囲気下、最高到達温度が600℃以上1,200℃以下の条件にて行われてよい。最高到達温度の維持時間は、0時間以上10時間以下であってよい。
【0075】
なお、この加熱による高価数合金金属の還元では、炭素粉末担体中の炭素が還元剤として働くと考えられる。
【0076】
以上のようにして、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末が得られる。
【0077】
(3)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法(方法3)
方法3では、先ず、適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体及び合金金属前駆体を還元して、Pt-合金金属担持担持炭素粉末を得る。
【0078】
ここで使用されるPt前駆体、及び合金金属前駆体は、それぞれ、所望の燃料電池用触媒の構成に応じて、それぞれ、上記方法1の説明において例示したものの中から、適宜選択して使用してよい。
【0079】
Pt前駆体及び合金金属前駆体の還元は、適当な還元剤を使用して行ってよい。
【0080】
還元剤は、例えば、アルコール、カルボン酸、アルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等であってよい。アルコールとしては例えばエタノール、エチレングリコール等が、カルボン酸としては例えば酢酸等が、アルデヒドとしては例えばアセトアルデヒド等が、それぞれ挙げられる。
【0081】
還元は、室温以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上40時間以下の時間で行われてよい。
【0082】
このようにして、炭素粉末上に、Pt及び合金金属が担持された、Pt合金金属担持炭素粉末が得られる。得られたPt合金金属担持炭素粉末を加熱して、Ptと合金金属とを合金化することにより、Pt合金粒子担持炭素粉末(触媒粒子担持炭素粉末)を得る。加熱条件は、方法(1)における加熱の説明をそのまま適用してよい。
【0083】
以上の方法(3)によっても、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末が得られる。
【0084】
(4)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法の別法(方法4):
方法4では、先ず、適当な溶媒中で、炭素粉末担体の存在下で、Pt前駆体及び合金金属前駆体を中和剤と接触させて、炭素粉末担体上に、高価数Pt及び高価数合金金属が担持された、高価数Pt-高価数合金金属担持担持炭素粉末を得る。
【0085】
ここで使用されるPt前駆体、及び合金金属前駆体は、それぞれ、所望の燃料電池用触媒の構成に応じて、それぞれ、上記方法1の説明において例示したものの中から、適宜選択して使用してよい。
【0086】
中和剤は、例えば、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アンモニア等であってよい。水酸化物としては例えば水酸化ナトリウム等が、炭酸塩としては例えば炭酸ナトリウム等が、リン酸塩としては例えばリン酸ナトリウム等が、ホウ酸塩としては例えばホウ酸ナトリウム等が、それぞれ挙げられる。
【0087】
中和剤による、高価数のPt及び高価数の合金金属の担持は、室温以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上40時間以下の時間で行われてよい。
【0088】
このようにして、炭素粉末上に、高価数のPt及び高価数の合金金属が担持された、高価数Pt-高価数合金金属担持炭素粉末が得られる。得られた高価数Pt-高価数合金金属担持炭素粉末を加熱して、高価数Pt及び高価数合金金属を還元するとともに、Ptと合金金属とを合金化することにより、Pt合金粒子担持炭素粉末(触媒粒子担持炭素粉末)を得る。加熱条件は、方法(1)おける加熱の説明をそのまま適用してよい。
【0089】
なお、この加熱による高価数Pt及び高価数合金金属の還元では、炭素粉末担体中の炭素が還元剤として働くと考えられる。
【0090】
以上の方法(4)によっても、炭素粉末担体上にPt合金粒子が担持された、触媒粒子担持炭素粉末が得られる。
【0091】
(親水性基付与工程)
次に、親水性基付与工程において、得られた触媒粒子担持炭素粉末を酸化剤と接触させて、触媒粒子担持炭素粉末に親水性基を付与して、燃料電池用触媒前駆体を調製する。
【0092】
この工程は、適当な溶媒中で行われてよい。溶媒は、例えば、適宜pHが調整された水であってよい。
【0093】
親水性基を付与に用いる酸化剤は、例えば、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸、クロム酸等から選択されてよい。
【0094】
親水性基付与工程では、触媒粒子担持炭素粉末と酸化剤との接触時、及び接触後の少なくとも片方において、加熱処理を伴っていてよい。この加熱処理の条件は、例えば、60℃以上110℃以下の温度にて、例えば、6時間以上100時間以下の時間で行われてよい。
【0095】
この親水性基付与工程により触媒粒子担持炭素粉末に親水性基が付与された、燃料電池用触媒前駆体が得られる。親水性基付与工程では、触媒粒子にも親水性基が付与され得ると考えられる。しかし、触媒粒子に付与された新水性基は、次の還元工程で除去されると考えられる。
【0096】
(還元工程)
還元工程では、燃料電池用触媒前駆体を還元剤と接触させて、燃料電池用触媒を調製する。この還元工程では、触媒粒子上の親水性基は還元除去されるが、炭素粉末担体上の親水性基は除去されないように、還元の程度を調整することが望まれる。
【0097】
したがって、還元工程で用いる還元剤は、比較的弱い還元剤であってよく、例えば、エタノール等のアルコール、酢酸等のカルボン酸、アセトアルデヒド等のアルデヒド等から選択されてよい。
【0098】
この工程は、適当な溶媒中で行われてよい。溶媒は、例えば、適宜pHが調整された水であってよい。
【0099】
還元工程では、燃料電池用触媒前駆体と還元剤との接触時、及び接触後の少なくとも片方において、加熱処理を伴っていてよい。この加熱処理の条件は、例えば、室温以上100℃以下の温度にて、例えば、0.5時間以上48時間以下の時間で行われてよい。
【0100】
本発明の燃料電池用触媒は、上記の方法によって、又は上記の方法に当業者による適宜の変更を加えた方法によって、調製されてよい。
【0101】
《電極》
本発明は、別の観点において、本発明の燃料電池用触媒を含む、燃料電池の電極に関する
【0102】
電極は、本発明の燃料電池用触媒を含み、好ましくは更にアイオノマーを含む。
【0103】
アイオノマーとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)等の市販品を使用してよい。
【0104】
触媒層は、本発明の燃料電池用触媒、及び好ましくは更にアイオノマーを含むが、これ以外に、例えばバインダー等の任意成分を、更に含んでいてよい。
【0105】
本発明における燃料電池の電極は、燃料電池のカソードとして用いると、本発明が所期する目的が達成でき、好ましい。
【0106】
《燃料電池》
本発明は、更に別の観点において、上述の燃料電池の電極を含む、燃料電池に関する。
【0107】
本発明の燃料電池は、固体高分子形燃料電池であってよい。
【0108】
固体燃料電池は、例えば、カソード、固体高分子電解質膜、及びアノードがこの順に積層させた構造を有していよく、カソードが、本発明の燃料電池用触媒を含む電極であってよい。
【0109】
この固体燃料電池における、固体高分子電解質膜及びアノードは、それぞれ、公知の固体高分子電解質膜及びアノードであってよい。
【0110】
本発明の固体燃料電池は、カソード側に、空気チャネル又は酸素チャネルを有していてよく、アノード側に、燃料チャネルを有していてよい。
【0111】
本発明の固体燃料電池は、カソードとして、本発明の燃料電池用触媒を含む電極を用いる他は、公知の方法により、製造されてよい。
【実施例0112】
《実施例1》
(1)担持工程(PtCo合金担持炭素粒子の調製)
市販の炭素粉末(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、カーボンブラック、品名「ケッチェンブラック」)100質量部を、0.1mol/Lの硝酸水溶液中に分散させ、Pt換算42.9質量部(219.9mmol)相当のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を加えた。その後、ここに、還元剤としてのエタノール1,200質量部を加えて、15分間撹拌した後、90℃において2時間加熱撹拌することにより、炭素粉末上にPt粒子を析出させて、Pt担持炭素粒子とした。固形分をろ取、乾燥して、Pt担持炭素粒子を回収した。このPt担持炭素粒子中のPt含有量は、30質量%であった。
【0113】
得られたPt担持炭素粒子142.9質量部を、純水中に分散させ、最終的な触媒粒子中のPt/Co比率が7:1(モル比)となるように、硝酸コバルト水溶液を加えた。その後、ここに、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム4質量部を加えて、終夜撹拌することにより、Pt担持炭素粒子上にCo粒子を析出させた。固形分をろ取し、80℃に調温した送風乾燥機中で15時間乾燥して、PtCo担持炭素粒子を得た。
【0114】
得られたPtCo担持炭素粒子を、アルゴン雰囲気下、900℃において1時間加熱処理を行って、PtCo合金担持炭素粒子を得た。
【0115】
(2)親水性基付与工程(PtCo合金担持炭素粒子への親水化処理)
上記で得られたPtCo合金担持炭素粒子を、0.5mol/Lの硝酸水溶液中に投入し、90℃において21時間撹拌して、親水化処理を行った。その後、固形分をろ取し、80℃に調温した送風乾燥機中で15時間乾燥して、親水化PtCo合金担持炭素粒子(燃料電池触媒前駆体)を得た。
【0116】
(3)還元工程(親水化PtCo合金担持炭素粒子の還元処理)
上記で得られた親水化PtCo合金担持炭素粒子を、硝酸0.1mol/L及びエタノール10質量%を含む水溶液中に投入し、沸点(91~92℃)にて2時間加熱撹拌して、還元処理を行った。その後、固形分をろ取し、80℃に調温した送風乾燥機中で15時間乾燥することにより、実施例1の触媒粒子を得た。この触媒粒子は、カーボンブラック上に、PtCo合金粒子から成る触媒粒子が担持されたものである。この触媒粒子中のPt:Coのモル比は、7:1であった。
【0117】
《実施例2》
「(1)担持工程」において、硝酸コバルト水溶液の使用量を、最終的な触媒粒子中のPt/Co比率が3:1(モル比)となるように調整した他は、実施例1と同様にして、実施例2の触媒粒子を得た。
【0118】
《比較例1及び2》
実施例1及び2と同様にして得られた親水化PtCo合金担持炭素粒子に対し、「(3)還元工程」を実施せず、各親水化PtCo合金担持炭素粒子を、そのまま比較例1及び2の触媒粒子として用いた。
【0119】
《比較例3》
「(1)担持工程」において、硝酸コバルト水溶液を添加せず、水素化ホウ素ナトリウムによるCo還元処理を行わなかった他は、比較例1と同様にして、比較例3の触媒粒子を得た。この触媒粒子は、カーボンブラック上に、Pt粒子から成る触媒粒子が担持されたものである。
【0120】
《比較例4及び5》
「(2)親水性基付与工程」の条件を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は、比較例1と同様にして、比較例4及び5の触媒粒子を得た。
【0121】
《触媒の評価》
(1)親水性基の同定、及び親水基量の定量
各実施例及び比較例で得られた触媒粒子について、Boehm法による酸塩基滴定分析を行うことにより、触媒粒子中の親水性基量を定量した。
【0122】
(2)触媒粒子の粒径の測定
各実施例及び比較例で得られた触媒粒子について、XRD分析を行い、2θ=65~73°の範囲に現れるピークの半値幅を、シェラーの式に代入して、粒径を算出した。
【0123】
(3)Pt溶出量の測定
各実施例及び比較例で得られた触媒粒子各0.5gを、0.5mol/Lの硫酸水溶液30mL中に浸漬し、室温において100時間保持した。その後、触媒粒子をろ別して得られたろ液を、5mL採取し、メスフラスコに移して、50mLにメスアップし、希釈した溶液に含まれるPt量を、誘導結合プラズマ(ICP)分析によって測定して、触媒粒子1g当たりのPt溶出量を算出した。
【0124】
(5)性能評価用単セルの作製
各実施例及び比較例で得られた触媒粒子、及びアイオノマーとしてのナフィオン(Sigma-Aldrich製)を、エタノール及び水から成る混合溶媒中に分散させて、分散液を得た。この分散液を、テフロン(登録商標)製のシートの片面上に塗布した後、乾燥して、シート上に触媒層(カソード)を形成することにより、カソード転写用積層体を得た。
【0125】
また、上記の触媒粒子の代わりに、30質量%のPtを担持させたケッチェンブラックを用いて、カソードと同様にしてシート上に触媒層(アノード)を形成することにより、アノード転写用積層体を得た。
【0126】
高分子電解質膜を介して、上記で得られたカソード転写用積層体及びアノード転写用積層体を、それぞれ、触媒層形成面を対向させて積層し、ホットプレスによって貼り合わせて、高分子電解質膜の両面に、カソ―ド及びアノードをそれぞれ転写した。シートを剥離した後、触媒層貼り合わせ品の両面上にそれぞれ拡散層を設置することにより、性能評価用単セルを製造した。
【0127】
(6)触媒性能の評価
「性能評価用単セルの作製」で得られた性能評価用単セルを、(株)東洋テクニカ製の燃料電池評価システムに装着し、セル温度80℃、両極の相対湿度50%-RHの条件下で、電流値を0.01A/cmから2.0A/cmまで変化させて、各電流値におけるセル電圧を測定した。
【0128】
このときの電流1.0A/cmのときのセル電圧を、低加湿時性能電圧として、低加湿時の触媒能の指標とした。また、このときの電流値及び電圧値を用いて、ターフェルプロットによる解析を行い、セル電圧0.9Vのときの電流値を触媒質量で除した値を、触媒質量活性電流として、触媒質量活性の指標とした。
【0129】
得られた結果を、表1に示す。また、触媒粒子中の親水性基量を横軸にとり、低加湿時性能電圧を縦軸にとったグラフを図1に示す。更に、触媒粒子中の親水性基量を横軸にとり、触媒粒子のPt溶出量を縦軸にとったグラフを図2に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
図1は触媒粒子中の親水性基量を横軸にとり、低加湿時性能電圧を縦軸にとったグラフである。
【0132】
表1及び図1を参照すると、触媒粒子の親水性基量が0.65mmol/g-cat以上の場合に、低加湿時性能電圧が高く、低加湿時の性能が向上することが検証された。しかし、0.65mmol/g-cat以上の高い親水基量を示す触媒粒子は、Pt溶出量が多くなって、触媒質量活性が低くなることが懸念される。
【0133】
図2は、触媒粒子中の親水性基量を横軸にとり、触媒粒子のPt溶出量を縦軸にとったグラフである。
【0134】
表1及び図2を参照すると、本発明所定の要件を満たす、実施例1及び2の触媒粒子は、親水性基量が0.65mmol/g-cat以上と高いにもかかわらず、Pt溶出量が極めて低いものであり、高い触媒質量活性が期待される。
【0135】
そして、実際、表1を参照すると、実施例1及び2の触媒粒子は、低加湿時の性能が向上されているとともに、触媒質量活性も高いことが検証されている。
【0136】
以上のことから、本発明所定の要件を満たす、実施例1及び2の触媒粒子を用いた場合、低加湿時の性能と触媒質量活性とが、両立されることが検証された。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
固体高分子形燃料電池は、カソード(空気極)、固体高分子電解質膜、及びアノード(燃料極)がこの順に積層さた構造を有する。このような固体高分子形燃料電池では、カソードに酸素又は空気が供給され、アノードに燃料、例えば水素が供給されると、各極で酸化・還元反応が起こり、電力が発生する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
しかしながら、本発明の燃料電池用触媒では、高い親水基量と低いPt溶出量とが両立されている。これは、本発明の燃料電池用触媒が、親水性基を付与された後、還元剤による処理工程を経由して製造されていることによると思われる。この還元剤処理工程を経由することにより、Pt溶出量が低くなる理由は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。