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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092193
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】塗膜転写具
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
B43L19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204847
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一也
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で、音の発生を防止し、かつ転写テープの巻き戻り量も非常に小さい逆転防止機構を有する塗膜転写具の提供。
【解決手段】
コア(繰出コア又は巻取コア)のラチェット歯車と係合する逆転防止ツメを有する回動部材、自己弾性力でコアの外周部に圧着され、コアとともに回転する弾性部材を有し、回動部材は逆転防止ツメがラチェット歯車と係合する位置と係合しない位置間で回動可能で、コアとともに弾性部材が逆転すると、弾性部材の押圧片が回動部材を回動して、逆転防止ツメがラチェット歯車に係合し、コアとともに弾性部材が正転すると、弾性部材の押圧片の回動部材への押圧が解除された後に弾性部材が停止部と接触して停止され、又は押圧片が回動部材と一体に回動して、回動部材の逆転防止ツメのラチェット歯車への係合が解除又は係合が解除可能となる塗膜転写具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に繰出コアと巻取コアが回転可能に収納され、前記筐体から転写押圧部を備えた転写ヘッドが突出し、前記繰出コアから転写テープが繰出され、前記転写押圧部において前記転写テープ表面の塗膜が被転写面に転写され、塗膜が転写された残りの基材テープが前記巻取コアに巻取られるようになっている塗膜転写具において、
前記繰出コアの前記転写テープを繰出す方向の反対方向への回転、又は前記巻取コアの前記基材テープを巻き取る方向の反対方向への回転を防止する逆転防止機構が設けられ、前記逆転防止機構は、前記巻取コア若しくは前記繰出コアの外周部、又は前記巻取コア若しくは前記繰出コアとともに回転する部材の外周部に連続して設けられたラチェット歯車、前記ラチェット歯車と係合して前記繰出コアの前記転写テープを繰出す方向の反対方向への回転、又は前記巻取コアが前記基材テープを巻取る方向の反対方向への回転を防止する逆転防止ツメを有する回動部材、及び自己弾性力によって前記繰出コア又は前記巻取コアの外周部に圧着され、前記繰出コア又は前記巻取コアとともに回転する弾性部材を少なくとも有し、前記回動部材は前記逆転防止ツメが前記ラチェット歯車と係合する位置と係合しない位置の間で回動可能に前記筐体内に設けられ、前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向の反対方向又は前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向の反対方向へ回転すると、前記弾性部材が前記繰出コア又は前記巻取コアとともに回転して、前記弾性部材に一体に設けられた押圧片が、前記回動部材を押圧し、又は前記回動部材と一体となって回動して、前記回動部材に設けられた前記逆転防止ツメが前記ラチェット歯車に係合し、前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向又は前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向へ回転すると、前記弾性部材が前記繰出コア又は前記巻取コアとともに回転して、前記弾性部材に一体に設けられた前記押圧片の前記回動部材への押圧が解除された後に前記弾性部材が前記筐体内に設けられた停止部と接触して回転が停止され、又は前記押圧片が前記回動部材と一体となって回動して、前記回動部材に設けられた前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車への係合が解除又は係合が解除可能となることを特徴とする塗膜転写具。
【請求項2】
前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向若しくは前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向へ回転し、前記弾性部材が前記繰出コア若しくは前記巻取コアとともに回転して、前記弾性部材に一体に設けられた前記押圧片の前記回動部材への押圧が解除された後に前記弾性部材が前記筐体内に設けられた停止部と接触して回転が停止され、前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車への係合が解除可能となった状態において、前記回動部材を前記押圧片と接触する位置まで回動させると、前記ラチェット歯車の最大外径部を繋いだ円周と、前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車と係合する形状のうち前記ラチェット歯車に最も近い位置との最短距離が0.5mm以上1mm以下であり、又は前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向若しくは前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向へ回転し、前記弾性部材が前記繰出コア若しくは前記巻取コアとともに回転することによって、前記押圧片が前記回動部材と一体となって回動し、前記回動部材に設けられた前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車への係合が解除された状態において、前記ラチェット歯車の最大外径部を繋いだ円周と、前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車と係合する形状のうち前記ラチェット歯車に最も近い位置との最短距離が0.5mm以上1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗膜転写具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字修正用塗膜、接着用の粘着剤塗膜、装飾用塗膜等を被転写体の被転写面に押圧転写するための塗膜転写具の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
塗膜転写具では、繰出コアから繰り出された転写テープ上の塗膜を、転写ヘッド先端で被転写体へ転写し、塗膜が無くなった転写テープ(基材テープ)を巻取コアに巻き取ることにより、塗膜転写を行っている。
【0003】
塗膜転写を終え、前記転写ヘッドを被転写体から持ち上げることにより、被転写体へ転写された塗膜と転写テープ上の塗膜が、前記転写ヘッドの先端で切断される。転写ヘッド先端で切断された転写テープ上の塗膜が、転写ヘッドの先端に留まっていれば、次に転写ヘッド先端を被転写体へ押し当てた位置から、確実に塗膜が被転写体へ転写される。このため、転写ヘッド先端で切断された転写テープ上の塗膜が、転写ヘッドの先端に留まっていれば、使用者が塗膜転写を開始したいと欲した位置から、塗膜転写を確実に開始することができる。しかしながら、塗膜転写具では、前記繰出コアと前記巻取コアを連動回転させる連動回転機構により、転写テープが繰出コア側へ巻き戻されることがある。
【0004】
このような連動回転機構としては、繰出コアと巻取コアのそれぞれと同心円で回転するギア同士を噛合せたものや、繰出コアと巻取コアのそれぞれと同心円で回転するプーリー間にOリングなどのベルトを掛けまわしたものがある。
【0005】
ギア同士を噛合わせた連動回転機構では、ギアのバックラッシュにより、転写テープが繰出コア側へ巻き戻される。ベルトを掛けまわす連動回転機構では、繰出コアと同心円で回転するプーリー(繰出コアのプーリー)が引っ張る側のベルトの張力よりも、繰出コアのプーリーが送り出す側のベルトの張力が小さくなるため、送り出す側のベルトにたるみが生じる。塗膜転写を終え、前記転写ヘッドを被転写体から持ち上げると、ベルトを引っ張る側とベルトを押し出す側のベルト張力差を解消しようとして、繰出コアのプーリーが逆回転する。このように、繰出コアのプーリーが逆回転するので、転写テープが繰出コア側へ巻き戻される。
【0006】
転写テープが繰出コアに巻き戻されると、転写ヘッド先端の転写テープ上に塗膜がないため、使用者が塗膜転写を開始したいと欲した位置から、塗膜転写を開始することがでない。このため、例えば塗膜が修正テープの場合には、修正し始めようとした箇所に、修正テープの塗膜が転写されないことがある。また、塗膜を積層している転写テープの基材テープ表面は、塗膜を容易に剥離できるようにするため、平滑で摩擦係数が小さな面となっている。このため、塗膜が転写ヘッド先端にあるときにくらべて、転写テープが繰出コアに巻き戻されて転写ヘッド先端に塗膜がないときには、使用者が強い力で転写ヘッド先端を被転写体へ押し付けなければ転写テープを引き出すことができなくなる。このため、転写テープが繰出コアに巻き戻されて転写ヘッド先端の転写テープ上に塗膜がないときには、塗膜転写具は使い勝手が悪くなるという問題もある。
【0007】
このような問題を解決するために、塗膜転写具には従来から、繰出コアや、繰出コアと連動する巻取コアに逆転防止機構を設けて、転写テープが繰出コアへ巻き戻されることを防止してきた。塗膜転写具の逆転防止機構としては、転写テープの巻き戻し量をできるだけ小さくするために、図7に示すラチェット機構が一般的に用いられてきた。図7に、従来の逆転防止機構を有する塗膜転写具を示す。図7(a)は上ケースを取り外した状態の従来の逆転防止機構を有する塗膜転写具の正面図である。図7(b)は、図7(a)のY-Y断面図である。図7(c)は従来の塗膜転写具の下ケース及び下ケースに設けられたラチェット歯車を示す図であり、図7(d)は、従来の塗膜転写具の巻取コア及び巻取コアに設けられた逆転防止ツメを示す図である。ただし、図7(b)は上ケースを取り付けた状態を示している。
【0008】
ラチェット機構は、円周上に連続して設けられた方向性を有するラチェット歯車5Cと、ラチェット歯車5Cの個々の歯と噛み合う逆転防止ツメ3Bで構成されるものである。逆転防止ツメ3Bは弾性片の先端に設けられ、弾性片の弾性力によってラチェット歯車5Cに押し当てられる。図7に示すように、逆転防止ツメ3Bの設けられた巻取コア3が、通常の塗膜転写時に回転する方向である、正転方向へ回転する場合には、ラチェット歯車5Cと逆転防止ツメ3Bは、逆転防止ツメ3Bが先端に設けられた弾性片が弾性変形することにより、逆転防止ツメ3Bがラチェット歯車5Cの斜面を滑って、ラチェット歯車5Cを乗り越えることができる形状となっている。一方、巻取コア3が逆転する場合には、ラチェット歯車5Cと逆転防止ツメ3Bは、それぞれの接触面を、相手方の接触面に対して対面方向へ押し合う形状となっており、逆転防止ツメ3Bはラチェット歯車5Cを乗り越えることができない。
【0009】
ラチェット機構では、このようにラチェット機構を設けた回転体が逆転しようとすると、すぐにラチェット歯車と逆転防止ツメが係合して逆転が防止される。また、ラチェット歯車の歯車間隔を調整することにより、ラチェット歯車の逆転量を容易に小さくすることができる。このため、ラチェット機構を塗膜転写具の逆転防止機構として採用することにより、転写テープの巻き戻し量を小さくすることができる。
【0010】
しかしながら、ラチェット機構を塗膜転写具の逆転防止機構として採用すると、正転時にラチェット音が発生するという問題がある。上記のように、巻取コア3の正転時には、逆転防止ツメがラチェット歯車の個々の歯を乗り越えることによって、巻取コア3が回転する。このとき、逆転防止ツメは弾性片の弾性力により、ラチェット歯車に押し当てられているので、逆転防止ツメがラチェット歯車を乗り越えるたびに、逆転防止ツメはラチェット歯車に打ちつけられる。このため、ラチェット機構を逆転防止機構として使用した塗膜転写具では、塗膜転写時に常に逆転防止機構から音、所謂ラチェット音が発生する。
【0011】
そこで、このようなラチェット音を対策した塗膜転写具が特許文献1などで提案されている。特許文献1では、ラチェット音の低減を課題として、供給リールの一方に配置された第1枠体部材の内面に、リールの回転軸を中心として環状にラチェット歯が形成された環状突起を設け、第1枠体部材よりもリール側に、リールとともに回転し、リールの回転軸を中心とした周方向に延びるアームの先端に、リールが逆転した場合にラチェット歯と噛み合ってリールの逆転を防止するラチェット爪を有するラチェット爪保持体と、ラチェット爪保持体よりもリール側に、リールとともに回転するラチェットアーム押さえ部を備え、ラチェットアーム押さえ部と第1枠体部材により、該アームにおけるラチェット爪保持体の厚さ方向の移動が制限されている塗膜転写具が提案されている。
【0012】
特許文献2では、ギア歯形状を複雑化する必要がなく、ギアの製造が容易な逆転防止機構を備える塗膜転写具の提供を目的として、供給ボビン駆動軸、巻取ボビン駆動軸及び回転連結機構による回転系と連結するロールギアと、ロールギア周りの所定範囲を移動可能に配置されてロールギアと歯合する移動ギアと、ロールギアの逆転方向側に対応して配置されて移動ギアと係止可能な係止突起を有する塗膜転写具が提案されている。
【0013】
また、特許文献3では、ケースおよび供給ギアの形状を単純化するとともに、使用時における音の発生を防止することを課題として、支軸に環装させた圧縮コイルスプリングの上端を押えボタンに係止し、下端をスプリング受けに係止させ、圧縮コイルスプリングの付勢力によりスプリング受けの下面を供給ギアの筒状ボスの上面に圧接させて、供給ギアを逆回転させようとする力が生じた場合に、圧縮コイルスプリングが支軸に巻き締められて、供給ギアの逆回転を防止する塗膜転写具が提案されている。
【0014】
特許文献4では、塗膜転写具の使用時の逆転防止機構音の発生を防ぐことを課題として、ケース内側面に形成したラチェットの円周方向で隣り合うラチェット歯の間に貫通した開口を形成し、供給リールに一体に形成した係止爪はラチェット歯を乗り越えて復帰するときに、アームの弾性により静止位置を越えた位置まで移動するが、係止爪の先端部が開口に入る塗膜転写具が提案されている。
【0015】
しかしながら、特許文献1の塗膜転写具では、第1枠体部材、リールとともに回転しアームの先端にリールの逆転を防止するラチェット爪を有するラチェット爪保持体、リールとともに回転するラチェットアーム押さえ部などの多くの追加部品を要するとともに、構造が複雑なものとなっていた。特許文献2の塗膜転写具では、移動ギアが所定範囲を移動することによって、逆転防止機構が作用する構造となっており、転写テープの巻き戻り量を非常に小さくすることが困難であった。引用文献3の塗膜転写具でも、供給ギアの逆回転が開始してから、圧縮コイルスプリングが支軸に巻き締められるまでの間、供給ギアが逆回転するため、転写テープの巻き戻り量を非常に小さくすることが困難であった。また、特許文献4の塗膜転写具では、係止爪の先端部が開口に入って、係止爪とラチェット歯が接触しないようになっているので、係止爪はラチェット歯間に、所謂“がた”のある状態で入る。このため、係止爪の先端部が開口に入った状態から、さらに係止爪は移動可能であり、転写テープの巻き戻り量を非常に小さくすることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2020-090043号公報
【特許文献2】特開2019-025827号公報
【特許文献3】特開2005-047201号公報
【特許文献4】特開2005-219277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、簡単な構造で、音の発生を防止し、かつ転写テープの巻き戻り量を非常に小さくすることができる逆転防止機構を有する塗膜転写具の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1発明は、筐体内に繰出コアと巻取コアが回転可能に収納され、前記筐体から転写押圧部を備えた転写ヘッドが突出し、前記繰出コアから転写テープが繰出され、前記転写押圧部において前記転写テープ表面の塗膜が被転写面に転写され、塗膜が転写された残りの基材テープが前記巻取コアに巻取られるようになっている塗膜転写具において、
前記繰出コアの前記転写テープを繰出す方向の反対方向への回転、又は前記巻取コアの前記基材テープを巻き取る方向の反対方向への回転を防止する逆転防止機構が設けられ、前記逆転防止機構は、前記巻取コア若しくは前記繰出コアの外周部、又は前記巻取コア若しくは前記繰出コアとともに回転する部材の外周部に連続して設けられたラチェット歯車、前記ラチェット歯車と係合して前記繰出コアの前記転写テープを繰出す方向の反対方向への回転、又は前記巻取コアが前記基材テープを巻取る方向の反対方向への回転を防止する逆転防止ツメを有する回動部材、及び自己弾性力によって前記繰出コア又は前記巻取コアの外周部に圧着され、前記繰出コア又は前記巻取コアとともに回転する弾性部材を少なくとも有し、前記回動部材は前記逆転防止ツメが前記ラチェット歯車と係合する位置と係合しない位置の間で回動可能に前記筐体内に設けられ、前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向の反対方向又は前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向の反対方向へ回転すると、前記弾性部材が前記繰出コア又は前記巻取コアとともに回転して、前記弾性部材に一体に設けられた押圧片が、前記回動部材を押圧し、又は前記回動部材と一体となって回動して、前記回動部材に設けられた前記逆転防止ツメが前記ラチェット歯車に係合し、前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向又は前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向へ回転すると、前記弾性部材が前記繰出コア又は前記巻取コアとともに回転して、前記弾性部材に一体に設けられた前記押圧片の前記回動部材への押圧が解除された後に前記弾性部材が前記筐体内に設けられた停止部と接触して回転が停止され、又は前記押圧片が前記回動部材と一体となって回動して、前記回動部材に設けられた前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車への係合が解除又は係合が解除可能となることを特徴とする塗膜転写具である。
【0019】
第2発明は、前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向若しくは前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向へ回転し、前記弾性部材が前記繰出コア若しくは前記巻取コアとともに回転して、前記弾性部材に一体に設けられた前記押圧片の前記回動部材への押圧が解除された後に前記弾性部材が前記筐体内に設けられた停止部と接触して回転が停止され、前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車への係合が解除可能となった状態において、前記回動部材を前記押圧片と接触する位置まで回動させると、前記ラチェット歯車の最大外径部を繋いだ円周と、前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車と係合する形状のうち前記ラチェット歯車に最も近い位置との最短距離が0.5mm以上1mm以下であり、又は前記繰出コアが前記転写テープを繰り出す方向若しくは前記巻取コアが前記基材テープを巻き取る方向へ回転し、前記弾性部材が前記繰出コア若しくは前記巻取コアとともに回転することによって、前記押圧片が前記回動部材と一体となって回動し、前記回動部材に設けられた前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車への係合が解除された状態において、前記ラチェット歯車の最大外径部を繋いだ円周と、前記逆転防止ツメの前記ラチェット歯車と係合する形状のうち前記ラチェット歯車に最も近い位置との最短距離が0.5mm以上1mm以下であることを特徴とする第1発明に記載の塗膜転写具である。
【発明の効果】
【0020】
逆転防止機構を、巻出コア又は繰出コアの外周に連続して設けられたラチェット歯車、ラチェット歯車と係合して繰出コアの転写テープを繰出す方向の反対方向への回転(以下、逆転と言う)、又は巻取コアが基材テープを巻取る方向の反対方向への回転(以下、逆転と言う)を防止する逆転防止ツメを有する回動部材、及び自己弾性力によって繰出コア又は巻取コアの外周部に圧着され、繰出コア又は巻取コアとともに回転し、繰出コア又は巻取コアが逆転すると逆転防止ツメがラチェット歯車に係合する方向に回動部材を押圧して回動させる弾性部材で構成にした。このような構成とすることにより、繰出コアの転写テープを繰出す方向へ回転(以下、正転と言う)、又は巻取コアが基材テープを巻取る方向へ回転(以下、正転と言う)する場合には、逆転防止ツメはラチェット歯車に押圧されない。このため、繰出コア又は巻取コアの正転時には、逆転防止ツメはラチェット歯車から離れているか、或いは、ラチェット歯車に接触するとしても、逆転防止ツメがラチェット歯車に対して加える圧力は回動部材のわずかな自重のみとなる。このため、本発明の塗膜転写具では巻取コア又は繰出コアが正転する場合には逆転防止ツメがラチェット歯車を強く打ち付けることがなく、塗膜を転写する場合の逆転防止機構によるラチェット音を防止することができる。したがって、本発明の塗膜転写具では、コアの外周に連続して設けられたラチェット歯車、回動部材、弾性部材の3点のみで構成される簡単な構造で、確実に逆転防止機構による音が発生しない塗膜転写具を提供することができる。また、本発明の逆転防止機構では、巻取コア、又は繰出コアが正転する際の弾性部材の回動量を規制する停止部などを設けることなどにより、簡単に弾性部材の回動量を規制できるので、巻取コア又は繰出コアの正転時にも、逆転防止ツメとラチェット歯車を近接した状態とすることができる。このため、本発明の逆転防止機構では、巻取コア又は繰出コアの逆転時に、弾性部材が回動部材を回動させて、すぐに回動部材の逆転防止ツメがラチェット歯車に係合することができるので、転写テープの巻き戻り量も非常に小さくすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態の塗膜転写具Aを示す。
図2】本発明の第1実施形態の塗膜転写具Aの逆転防止機構を示す。
図3】本発明の第2実施形態の塗膜転写具Bの逆転防止機構を示す。
図4】本発明の第3実施形態の塗膜転写具Cの逆転防止機構を示す。
図5】本発明の第4実施形態の塗膜転写具Dの逆転防止機構を示す。
図6】本発明の第5実施形態の塗膜転写具Eを示す。
図7】従来の塗膜転写具の逆転防止機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明の第1実施形態の塗膜転写具Aを示す。図1(a)は上ケースを取外した状態の正面図である。図1(b)は、図1(a)のX矢視図である。図1(c)は図1(b)のY-Y断面図である。図1(d)は塗膜転写具Aの底面図である。また、図1(e)は回動部材1と弾性部材8の接触部分の詳細を示す拡大斜視図である。ただし、図1(b)は上ケースを取り付けた状態を示している。
【0023】
塗膜転写具Aは、下ケース5、上ケース6、塗膜を基材テープS上に塗工した転写テ-プT、転写テープTを繰出コア2に巻き回した供給リール、転写テープTに塗工された塗膜を紙等の被転写体の被転写面に転写するために下ケース5と上ケース6で構成される開口部より突出した転写ヘッド4、塗膜を転写した後の基材テ-プSを巻取コア3に巻き取った巻取リール、繰出コア2と巻取コア3に設けられたプーリーに掛け回され、繰出コア2の回転を巻取コア3に伝えるベルト7、回動部材1、及び弾性部材8で構成されるものである。
【0024】
塗膜転写具Aでは、繰出コア2の回転を巻取コア3に伝える伝達方法としてベルト7を使用しているが、ギア等による伝達も可能であり、特に制限はない。また、塗膜転写具Aでは、繰り出し側と巻き取り側の周速差を吸収するスリップ機構もベルト7と、繰出コア2に設けられたプーリーと巻取コア3に設けられたプーリー間のスベリを利用しているが、スリップリング、コイルスプリング、樹脂バネ等によるスベリ機構も利用可能であり、特にその方法を制限するものではない。
【0025】
塗膜転写具Aでは、転写ヘッド4の先端部の転写押圧部4Aで転写テープTを、紙などの被転写面に押圧しつつ、塗膜転写具Aを移動させると、転写テープTから塗膜が被転写面に転写され、転写テープTが繰出コア2から繰り出される。繰出コア2から転写テープTが繰り出されることによって、繰出コア2が回転すると繰出コア2のプーリーに掛けまわされたベルト7もプーリーの回転に伴って移動する。ベルト7が移動することによって、繰出コア2の回転が巻取コア3に伝えられ、巻取コア3が回転する。プーリーによって伝えられた回転によって、転写ヘッド4で塗膜が転写された残りの基材テープSを巻取コア3が巻き取って、転写テープTが弛むことなく走行する。塗膜転写具Aでは、巻取コア3が巻き取る基材テープSの長さが、繰出コア2から繰り出される転写テープTよりも長くなるように、繰出コアと巻出コアの回転比率が設定されているので、転写テープが弛むことがない。また、基材テープSの巻き取り長さと転写テープTの繰り出し長さの差は、巻取コア3のプーリーとベルト7が滑ることによって吸収されるので、転写テープTが引っ張られて切れることもない。
【0026】
図2に塗膜転写具Aの逆転防止機構を示す。塗膜転写具Aでは逆転防止機構を巻取コア3に設ける。図2(a)と図2(b)は、図1(b)のY-Y断面図であり、塗膜転写具Aの逆転防止機構の詳細を示す図である。図2(a)は塗膜転写具Aの巻取コア3が正転している状態、即ち、塗膜転写具Aで塗膜を転写した残りの基材テープを巻取コア3が巻き取っている状態を示す図であり、図2(b)は塗膜転写具Aの巻取コア3が逆転している状態、例えば、塗膜転写具Aの転写ヘッド4で転写テープTを被転写体に押圧した状態で、転写ヘッド4を塗膜転写方向と逆方向に移動させて、巻取コア3から基材テープが引き出されることによって、巻取コア3が基材テープを巻き取る方向とは反対方向に回転した状態を示す図である。
【0027】
図2(a)(b)に示すように、塗膜転写具Aの逆転防止機構は巻取コア3に一体に設けられたラチェット歯車3A、回動部材1、弾性部材8、及び下ケース5に設けられたストッパ(停止部)5Aで構成されている。回動部材1はラチェット歯車3Aと係合する逆転防止ツメ1A、及び下ケース5に設けられた支軸5Bに回動可能に軸支される軸受け部1Bを有している。弾性部材8は巻取コア3の外周部に圧着される圧着部8Aと回動部材1を押圧して移動させる押圧片8Bを有している。塗膜転写具Aでは、回動部材1の軸受け部1Bを回動可能に軸支する支軸5Bを、下ケース5のみに設けたが、回動部材1は必ずしも下ケース5に設けた支軸5Bのみで軸支する必要はない。回動部材がスムースに回動して逆転防止機構が正常に動作できるのであれば、回動部材1は下ケース5及び/又は上ケース6に設けた支軸に回動可能に軸支されてもよいし、回動部材1に設けた軸がケース5及び/又は上ケース6に設けた穴に回動可能に軸支されてもよい。また、塗膜転写具Aでは、ラチェット歯車3Aを巻取コア3に一体に設けたが、巻取コア3と一体となって回転することができれば、ラチェット歯車3Aは巻取コア3とは別部品としてもよい。
【0028】
塗膜転写具Aの逆転防止機構では、図2(b)に示すように、巻取コア3が逆転すると、弾性部材8も巻取コア3とともに回転して、弾性部材8の押圧片8Bが回動部材1を押圧し、回動部材1の逆転防止ツメ1Aが、巻取コア3のラチェット歯車3Aに係合する。逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aと係合した状態では、図2(b)に示すように、ラチェット歯車3Aと逆転防止ツメ1Aの接触する面同士が、相手方の接触面に対して対面方向に押し合う形状となっており、逆転防止ツメ1Aはラチェット歯車3Aを乗り越えることができず、巻取コア3の逆転が防止される。
【0029】
一方、図2(b)の状態で、塗膜転写具Aの転写ヘッド4を被転写面に押圧して、塗膜を転写すると、繰出コア2から転写テープTが繰り出されることによって、繰出コア2が回転し、繰出コア2の回転がベルト7により巻取コア3に伝えられて、巻取コア3が正転する。巻取コア3が正転すると、弾性部材8も巻取コア3とともに回転して、弾性部材8の押圧片8Bが回動部材1を押圧する状態が解除される。押圧片8Bの回動部材1への押圧が解除されると同時に、巻取コア3が正転することにより、ラチェット歯車3Aが正転するので、ラチェット歯車3Aの斜面が逆転防止ツメ1Aの斜面を押し上げて、逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aの外周から遠ざかり、ラチェット歯車3Aと逆転防止ツメ1Aの係合が解除されて、塗膜転写具Aの逆転防止機構は、図2(a)の状態となる。
【0030】
図2(a)に示すように、塗膜転写具Aの逆転防止機構には、弾性部材8が正転した際には押圧片8Bと接触して、押圧片8Bの回転を停止するストッパ(停止部5A)が設けられている。塗膜転写具Aではストッパは下ケース5に設けたが、必ずしも下ケースのみに設ける必要はない。ストッパは、下ケース5又は上ケース6のどちらか一方から突出した形状としても良いし、下ケース5と上ケース6の両方の形状を組み合わせた構成としても良い。下ケース5と上ケース6の両方の形状を組み合わせた構成としては、例えばストッパを、下ケース5から突出する円柱と、上ケース6から突出する嵌合ピンで構成し、上ケース6の嵌合ピンを、下ケース5の円柱に設けた嵌合穴に嵌合させた、所謂両持ち構造とすることが好ましい。このような両持ち構造とすることで、ストッパの位置精度が向上できるとともに、ストッパが傾くことを防止できる。
【0031】
図2(a)に示すように、巻取コア3が正転している状態で、ラチェット歯車3Aの正転により、ラチェット歯車3Aの斜面が逆転防止ツメ1Aの斜面を押し上げて、ラチェット歯車3Aの外周から遠ざかった回動部材1は、弾性部材8の押圧片8Bと接触して、それ以上は巻取コア3(ラチェット歯車3A)から遠ざかれなくなっている。この状態におけるラチェット歯車3Aの最大外径部を繋いだ円周と、逆転防止ツメ1Aのラチェット歯車3Aと係合する形状のうちラチェット歯車3Aに最も近い位置との最短距離Lは、0.5mm以上1mm以下であること好ましい。Lが0.5mmを下回ると、回動部材1が押圧片8Bと接触している状態でも、回動部材1の逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車と接触する恐れがあるので、好ましくない。回動部材1が押圧片8Bと接触している状態で、回動部材1の逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aと接触すると、回動部材1が巻取コア3の摺動抵抗となって、巻取コア3の回転が阻害されることにより、巻取コア3で基材テープが巻き取れなくなる恐れがある。巻取コア3が下ケース5及び/又は上ケース6に回転可能に軸支されている軸支部分のクリアランス、所謂「がた」や、ラチェット歯車の外径の偏芯を考慮すると、前記Lは0.5mm以上が好ましい。一方、Lが1mmを超えると、ラチェット歯車3Aの個々の歯の大きさにもよるが、逆転防止機構の作用が遅れ、転写テープの巻き戻り量が大きくなるおそれがある。
【0032】
塗膜転写具Aの逆転防止機構では、回動部材1と弾性部材8は連結されておらず、別々に動くことができる。また、巻取コア3が正転している間は、弾性部材8の押圧片8Bは回動部材1を押圧していないので、回動部材1は弾性部材8の押圧片8Bと接触する位置と、ラチェット歯車3Aの外周部と接触する位置の間で、自由に回動できる状態となる。したがって、回動部材1に作用する重力が、回動部材1をラチェット歯車3Aから遠ざける方向に作用する場合には、回動部材1の逆転防止ツメ1Aはラチェット歯車3Aと接触しないので、塗膜を転写することによって、巻取コア3が正転しても、逆転防止機構による音、所謂ラチェット音が発生することはない。図2に示すように塗膜転写具Aでは、図2(a)における手前側が重力方向であるため、回動部材1に作用する重力は、回動部材1の逆転防止ツメ1Aをラチェット歯車3Aに近づける方向に作用するが、塗膜転写具Aでは、逆転防止機構による音、所謂ラチェット音は発生しない。塗膜転写具Aでは、ラチェット歯車3Aが正転しているとき、逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車にわずかに係合すると、ラチェット歯車3Aの斜面が逆転防止ツメ1Aの斜面を押し上げて、逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aの外周から遠ざかる。ラチェット歯車3Aから遠ざかった逆転防止ツメ1Aは再び、自重でラチェット歯車3Aに近づく。このように、逆転防止ツメ1Aは、微小な範囲でラチェット歯車3Aに対して、接近と離脱を繰り返す。逆転防止ツメ1Aはラチェット歯車3Aの表面を振動しながら滑るような状態となるが、逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aを押圧する力は、回動部材1の自重による力のみであり、非常に微小な力であるため、逆転防止ツメ1Aにより発生する音は、人間には聞き取ることができない。このため、塗膜転写具Aでは、逆転防止機構による音の発生を防止することができる。
【0033】
弾性部材8の圧着部8Aは巻取コア3の外周部に、圧着部8Aの弾性力によって圧着されているので、巻取コア3が回転すると弾性部材8も巻取コア3と共に回転するが、弾性力はごく弱い力に設定されているので、図2(a)に示すように弾性部材8の押圧片8Bが、下ケース5に設けられたストッパ(停止部)5Aに接触して回転することができなくなると、巻取コア3のみが圧着部8Aと滑りながら回転する。圧着部8Aが巻取コア3に圧着する好ましい弾性力は、塗膜転写具の転写テープ長、転写テープ幅などにもよるが、一般的な塗膜転写具であれば、トルク値に換算して、1.96×10-4N・m以上4.90×10-4N・m以下が好ましい。トルク値が1.96×10-4N・mを下回ると、巻取コアが逆転し始めても、すぐに弾性部材8の押圧片8Bが回動部材1を押圧出来ず、逆転防止ツメ1Aとラチェット歯車3Aの係合が遅れて、巻取コア3の逆転量が大きくなる恐れがある。一方、トルク値が4.90×10-4N・mを超えると、巻取コア3の正転時に弾性部材8によって巻取コアを回転させるために必要なトルクが大きくなり、使用者が塗膜転写具を使いづらくなる。
【0034】
塗膜転写具Aの弾性部材8は、コイルスプリングに使用するステンレス鋼線や、ピアノ線などの金属線を曲げて成形したものを、使用することが好ましい。弾性部材8は樹脂を成形したものでも使用可能であるが、圧着部8Aが巻取コア3に圧着する力の経時安定性を考慮すると、金属線の使用が好ましい。また、図1(b)に示すように、巻取コア3からの弾性部材8の脱落を防止するため、巻取コア3には弾性部材8を装着するための溝が設けられることが、好ましい。
【0035】
塗膜転写具Aでは逆転防止機構を巻取コア3側に設けたが、逆転防止機構を繰出コア2側に設けてもよく、巻取コア3と繰出コア2の両方に設けてもよい。巻取コア3と繰出
コア2の両方に逆転防止機構を設けると、転写ヘッド4で引き出す転写テープTの張力が大きくなって、使用者が塗膜転写具を使いづらくなる他、塗膜の転写不良が発生し易くなるため、逆転防止機構は、繰出コア2側か巻取コア3側のどちらか一方に設けることが好ましい。繰出コア2側に逆転防止機構を設けた場合には、繰出コアが逆転しないために転写テープTが巻き戻されることを防止できる。巻取コア3側に逆転防止機構を設けた場合には、巻取コアが逆転しないために、転写テープが巻き戻されることが防止でき、また、使用者が間違って、転写ヘッドを被転写面に押圧した状態で、通常の転写方向と反対の方向に塗膜転写具を走行させたとしても、巻取コアから転写後の基材テープSが引き出されることも防止できる。
【0036】
図3に、本発明の第2実施形態の塗膜転写具Bの逆転防止機構を示す。塗膜転写具Bの全体図は省略するが、図2図1(b)のY-Y断面を示すのと同様に、図3も塗膜転写具Bの弾性部材8を図1(b)のY-Y断面と同じ位置で切り取り、同じ方向から見た断面図である。図3(a)は巻取コア3が正転している状態を示す図であり、図3(b)は塗膜転写具Bの逆転防止機構が巻取コア3の逆転を防止している状態を示す図である。塗膜転写具Bの逆転防止機構以外の構成は、塗膜転写具Aと同様である。塗膜転写具Bの逆転防止機構は、回動部材1の形状が、塗膜転写具Aとは異なっている。
【0037】
塗膜転写具Aでは、弾性部材8の押圧片8Bが、回動部材1の逆転防止ツメ1A付近を押圧して、逆転防止ツメ1Aをラチェット歯車3Aに係合させる形状であった。これに対して、塗膜転写具Bでは、図3に示すように支軸5Bから逆転防止ツメ1Aまでの距離に比べて、支軸5Bから押圧片8Bが回動部材1を押圧する位置までの距離が短くなるように構成した。このような構成とすることにより、弾性部材8の押圧片8Bが回動部材1を押圧する速度よりも、逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aに係合する速度を早くすることができる。このため、塗膜転写具Bでは塗膜転写具Aに比べて、より確実に巻取コア3の逆転を防止することができる。
【0038】
図4に、本発明の第3実施形態の塗膜転写具Cの逆転防止機構を示す。塗膜転写具Cの全体図は省略するが、図2図1(b)のY-Y断面として弾性部材8の中央部分の断面を切り取っていたのに対して、図4は塗膜転写具Cの弾性部材8のラチェット歯車3A側と反対側の端面で切り取り、図1(b)のY-Y断面と同じ方向から見た断面図である。図4(a)は巻取コア3が正転している状態を示す図であり、図4(b)は塗膜転写具Cの逆転防止機構が巻取コア3の逆転を防止している状態を示す図である。図4(c)は、回動部材1と弾性部材8の連結部の詳細を示す斜視図である。塗膜転写具Cの逆転防止機構以外の構成は、塗膜転写具A、Bと同様である。塗膜転写具Cの逆転防止機構は、回動部材1と弾性部材8が連結されている点が塗膜転写具A、Bとは異なっている。塗膜転写具Cでは、弾性部材8の押圧片8Bの先端部分が図4(a)、(b)の下方向(ラチェット歯車が設けられた平面に対して垂直方向)に、ほぼ直角に折り曲げられた形状の係合片8Cが設けられており、この係合片8Cが回動部材1に設けられた長穴状の案内穴1C内に挿入されており、係合片8Cは案内穴1C内を移動可能になっている。このように、係合片8Cが案内穴1C内に挿入されることによって、回動部材1と弾性部材8が連結されているので、回動部材1と弾性部材8は連動して動くようになっている。塗膜転写具Cでは、巻取コア3が正転している間は、弾性部材8の係合片8Cは巻取コア3とともに、図4において時計回りに回転して、図4(a)の状態になる。図4(a)の状態になると係合片8Cが案内穴1Cの右端に接触して、これ以上移動することができないので、巻取コア3が正転している間、弾性部材8と回動部材1は図4(a)の状態で維持される。このように、塗膜転写具Cでは、巻取コア3が正転している間は、回動部材1の逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aに全く接触することがないので、塗膜転写具A、Bよりもさらに確実に、逆転防止機構による音の発生を防止することができる。図4(a)の状態におけるラチェット歯車3Aの最大外径部を繋いだ円周と、逆転防止ツメ1Aのラチェット歯車3Aに最も近い位置との最短距離Lは、0.5mm以上1mm以下であること好ましいことは、塗膜転写具Cでも同様である。塗膜転写具Cでは、案内穴1Cの寸法を調節することにより、Lを0.5mm以上1mm以下の範囲とすることができる。
【0039】
塗膜転写具Cの逆転防止機構では、図4に示すように、巻取コア3が逆転すると、弾性部材8も巻取コア3とともに回転して、弾性部材8の係合片8Cが、回動部材1の案内穴1C内を移動して、図4(a)の状態から図4(b)の状態になる。弾性部材8の係合片8Cが回動部材1の案内穴1C内の右端から左端まで移動することにより、回動部材1の逆転防止ツメ1Aがラチェット歯車3Aと係合して、ラチェット歯車3Aはこれ以上逆転することができなくなり、巻取コア3の逆転を防止することができる。塗膜転写具Cでは、案内穴1Cを回動部材1に設け、案内穴1C内を移動する係合片8Cを弾性部材8に設けたが、案内穴1Cに相当するガイド穴を弾性部材8に設け、係合片8Cに相当し、前記ガイド穴内を移動するガイド軸を回動部材1に設けてもよい。弾性部材8を樹脂製の樹脂バネとすれば、弾性部材8にガイド穴を設けることができる。
【0040】
図5に、本発明の第4実施形態の塗膜転写具Dの逆転防止機構を示す。塗膜転写具Dの全体図は省略するが、図2図1(b)のY-Y断面を示すのと同様に、図5も塗膜転写具Dの弾性回動部材9の弾性部材8に相当する部分を図1(b)のY-Y断面と同じ位置で切り取り、同じ方向から見た断面図である。図5(a)は巻取コア3が正転している状態を示す図であり、図5(b)は塗膜転写具Dの逆転防止機構が巻取コア3の逆転を防止している状態を示す図である。塗膜転写具Dの逆転防止機構以外の構成は、塗膜転写具A、B、Cと同様である。塗膜転写具Dの逆転防止機構は、回動部材1と弾性部材8が一体の部材である弾性回動部材9となっている以外は、塗膜転写具A、B、Cと同様である。塗膜転写具Dでは、弾性部材8と回動部材1に相当する部品が一体の成形品となっているが、必ずしも一体成形品とする必要はなく、弾性部材に相当する部分を金属で製作し、回動部材に相当する部分を樹脂で製作して、これらの2以上の部品を嵌合や接着で一体としてもよい。
【0041】
塗膜転写具Dでも、塗膜転写具Bと同様に、下ケース5に設けられ弾性回動部材9における回動部材1に相当する部分を回動可能に保持する支軸5Bが設けられており、逆転防止ツメ9Aが支軸5Bを中心として回動可能となっている。また、塗膜転写具Dでも弾性回動部材9の弾性部材8に相当する部分には圧着部9Dが設けられ、弾性回動部材9は巻取コア3の外周部に圧着部9Dの弾性力によって圧着されている。この弾性力により、巻取コア3が回転すると弾性回動部材9も巻取コア3と共に回転するが、弾性力はごく弱い力に設定されているので、ある一定の外力が弾性回動部材9に作用して弾性回動部材9が回転できなくなると、巻取コア3のみが圧着部9Dと滑りながら回転することも塗膜転写具A、B、Cと同様である。塗膜転写具Dでも、巻取コア3が逆転すると圧着部9Dが巻取コア3とともに逆転し、これによって、弾性回動部材9の押圧片9Cが回転して、逆転防止ツメ9Aをラチェット歯車3A方向へ移動させて、逆転防止ツメ9Aとラチェット歯車3Aを係合させるのも、塗膜転写具Bと同様である。
【0042】
塗膜転写具Dの弾性回動部材9では、逆転防止ツメ9Aの支軸5Bに軸支される付近と押圧片9Cが、弾性連結部9Bで連結されている点が、塗膜転写具A、B、Cと異なる。弾性連結部9Bは、押圧片9Cと逆転防止ツメ9Aよりも弾性変形し易くなっている。塗膜転写具Dでは、弾性連結部9Bの厚みを押圧片9Cよりも薄くするとともに、弾性連結部9Bの形状が、図5に示す所謂「コの字」の形状などの、限られた面積の中に多くの変形可能な箇所が存在する形状となるようにして、弾性連結部9Bを変形し易くしている。このように、塗膜転写具Dでは、弾性連結部9Bを変形し易くするために、弾性連結部9Bの形状を「コの字」の形状としているが、弾性連結部9Bの形状は他の部分よりも変形し易く、かつ、図5(a)の状態と図5(b)の状態の間で繰り返し変形し続けても、クリープなどにより破損しない形状であれば、任意の形状を採用可能である。また、弾性回動部材9を一体成形品で製作した場合に、逆転防止機構を正常に作動させるために必要な弾性連結部9Bの弾性力と、弾性連結部9Bに要求される前記耐クリープ性などの耐久性の両方を同時に満足させることが困難であれば、弾性回動部材9の弾性連結部9Bのみを金属薄板や金属線で製作し、その他の部分を樹脂で製作して、これらの部品を嵌合や接着で一体としてもよいし、逆転防止ツメ9Aのみを樹脂で製作し、その他の部分を金属薄板や金属線で製作してもよい。
【0043】
塗膜転写具Dでは、巻取コア3が正転すると、弾性回動部材9の圧着部9Dは巻取コア3とともに時計回りに回転し、押圧片9Cも圧着部9Dとともに時計回りに回転する。弾性連結部9Bも、押圧片9Cと連結されているので、押圧片9Cが時計回りに回転すると、押圧片9Cとともに時計回りに回転し始める。しかしながら、弾性連結部9Bは、端部が支軸5Bに回転可能に軸支されているため、押圧片9Cと同様の回転運動をすることはできず、弾性変形しながら時計回りに回転する。弾性連結部9Bの変形量が大きくなると、弾性連結部9Bの弾性力により、押圧片9Cを引っ張る力が大きくなる。弾性連結部9Bが押圧片9Cを引っ張る力が大きくなって、圧着部9Dが押圧片9Cを引っ張る力が釣り合うと、圧着部9Dが巻取コア3の外周部と滑って、弾性連結部9Bは、その位置で回転を停止する。図5(a)はこの状態を示しており、弾性回動部材9の逆転防止ツメ9Aも弾性連結部9Bを介して、押圧片9Cに引っ張られて時計回りに回動するので、逆転防止ツメ9Aはラチェット歯車3Aと係合しない状態となっている。このため、塗膜転写具Dでも塗膜転写具A、Bよりもさらに確実に、逆転防止機構による音の発生を防止することができる。図5(a)の状態におけるラチェット歯車3Aの最大外径部を繋いだ円周と、逆転防止ツメ1Aのラチェット歯車3Aに最も近い位置との最短距離Lは、0.5mm以上1mm以下であること好ましいことは、塗膜転写具Dでも同様である。塗膜転写具Dでは、弾性連結部9Bの弾性力を調整することにより、Lを0.5mm以上1mm以下の範囲とすることができる。
【0044】
塗膜転写具Dの逆転防止機構では、巻取コア3が逆転すると、図5(b)に示すように、弾性回動部材9も巻取コア3とともに回転して、弾性回動部材9の圧着部9Dが反時計回りに回転し、これによって押圧片9Cも反時計回りに回転する。押圧片9Cが反時計回りに回転すると、弾性連結部9Bは回動しつつ、弾性変形が解除されて、図5(b)の状態となる。逆転防止ツメ9Aが支軸5Bに回動可能に軸支されているため、弾性連結部9Bの押圧片9Cに近い箇所に比べて、逆転防止ツメ9Aに近い部分の移動できる距離が短くなっており、この移動量の差を吸収するために、正転時と反対に弾性連結部9Bの弾性変形が解除される。弾性連結部9Bが回動した分だけ、逆転防止ツメ9Aも回動し、逆転防止ツメ9Aがラチェット歯車3Aに係合して、巻取コア3の逆転が防止される。
【0045】
図6に、本発明の第5実施形態の塗膜転写具Eを示す。図6(a)は上ケースを取外した状態の正面図である。図6(b)は、図6(a)のX矢視図である。ただし、図6(b)は上ケースを取り付けた状態を示している。塗膜転写具Eは逆転防止機構を繰出コア2側に設けた以外の構成は、塗膜転写具Aと同様である。塗膜転写具Eの逆転防止機構は、塗膜転写具Aの逆転防止機構と同様の構成である。このように、逆転防止機構は、巻取コア3側、繰出コア2側のどちらに設けてもよく、繰出コア2側に逆転防止機構を設ける場合にも、前記の巻取コア3側に設けたそれぞれの逆転防止機構が採用可能である。
【0046】
1:回動部材
1A(3B):逆転防止ツメ
1B:軸受け部
1C:案内穴
2:繰出コア
3:巻取コア
3A(5C):ラチェット歯車
4:転写ヘッド
4A:転写押圧部
5:下ケース
5A:ストッパ(停止部)
5B:支軸
6:上ケース
7:ベルト
8:弾性部材
8A:圧着部
8B:押圧片
8C:係合片
9:弾性回動部材
9A:逆転防止ツメ
9B:弾性連結部
9C:押圧片
9D:圧着部
A、B、C、D:塗膜転写具
T:転写テープ
S:基材テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7