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▶ 国立研究開発法人理化学研究所の特許一覧
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092246
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ダイヤモンドアンビルとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20220615BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20220615BHJP
   C01B 32/28 20170101ALI20220615BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C30B29/04 W
C30B29/04 P
C30B25/20
C01B32/28
C23C16/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204936
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】福井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】バロン, アルフレッド
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 凌
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BA03
4G077DB01
4G077EB01
4G077ED06
4G077HA20
4G077TA04
4G077TK01
4G146AA04
4G146AA17
4G146AB05
4G146AB07
4G146AD36
4G146BC09
4K030AA10
4K030AA17
4K030BA28
4K030CA01
4K030DA03
4K030DA08
4K030FA01
(57)【要約】
【課題】ダイヤモンドアンビルにより試料に超高圧(例えば150GPa程度の圧力)を作用させている状態でダイヤモンドアンビルにX線が長時間照射された場合に、X線の影響でダイヤモンドアンビルが破損することを抑制する
【解決手段】試料を加圧するためのダイヤモンドアンビル20は、ダイヤモンドの本体10と、本体10の表面に形成されたCVDダイヤモンド膜21とを有する。本体10は、試料を配置する箇所に相当する先端面11を有する。CVDダイヤモンド膜21は、本体10の表面において少なくとも先端面11を含む領域に形成されている。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加圧するためのダイヤモンドアンビルであって、
ダイヤモンドの本体と、前記本体の表面に形成されたCVDダイヤモンド膜とを有する、ダイヤモンドアンビル。
【請求項2】
前記本体は、試料を配置する箇所に相当する先端面を有し、
前記CVDダイヤモンド膜は、前記本体の前記表面において少なくとも前記先端面を含む領域に形成されている、請求項1に記載のダイヤモンドアンビル。
【請求項3】
前記CVDダイヤモンド膜の表面を構成するダイヤモンド結晶は、酸素終端されている、請求項1又は2に記載のダイヤモンドアンビル。
【請求項4】
前記CVDダイヤモンド膜の表面を構成するダイヤモンド結晶は、水素終端されている、請求項1又は2に記載のダイヤモンドアンビル。
【請求項5】
前記CVDダイヤモンド膜の表面において、所定形状の局所的な凹部としての印が形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のダイヤモンドアンビル。
【請求項6】
試料を加圧するためのダイヤモンドアンビルの製造方法であって、
(A)ダイヤモンドの本体を用意し、
(B)化学気相成長法により前記本体の表面にCVDダイヤモンド膜を形成して、前記本体と前記CVDダイヤモンド膜とを有するダイヤモンドアンビルを得る、ダイヤモンドアンビルの製造方法。
【請求項7】
前記本体は、試料を配置する箇所に相当する先端面を有し、
前記(B)では、前記本体の前記表面において少なくとも前記先端面を含む領域に、前記CVDダイヤモンド膜を形成する、請求項6に記載のダイヤモンドアンビルの製造方法。
【請求項8】
前記(B)の前に、前記本体の前記表面に水素プラズマを接触させる、請求項6又は7に記載のダイヤモンドアンビルの製造方法。
【請求項9】
前記(B)の後に、前記CVDダイヤモンド膜の表面を構成するダイヤモンド結晶を酸素終端させる酸素終端処理を行う、請求項6~8のいずれか一項に記載のダイヤモンドアンビルの製造方法。
【請求項10】
前記本体は、ダイヤモンドを所定の形状にカットし、カットされた当該形状のダイヤモンドの表面を研磨して得られたものである、請求項6~9のいずれか一項に記載のダイヤモンドアンビルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に高圧力を作用させるためのダイヤモンドアンビルに関する。
【背景技術】
【0002】
超高圧状況下の試料の物性(電気抵抗、X線散乱スペクトル等)を測定するために、ダイヤモンドアンビルを用いて試料に高圧力を作用させる。ダイヤモンドアンビルは、小さな先端面を有する略円錐形状の本体であり、例えば天然のダイヤモンドをカットし研磨することにより得られる。
【0003】
このような1対のダイヤモンドアンビルは、互いの先端面同士が対向するように配置され、両先端面の間に試料を挟んだ状態で、1対のダイヤモンドアンビルを互いに押し付けるように高圧を作用させる。これにより、超高圧(例えば150GPa~200GPa)を試料に作用させる。このように超高圧が作用している試料の物性を測定することにより、超高圧状況下の試料の物性を測定して、試料の新機能の探索を進めることができる。
【0004】
例えば、液体窒素により凝固させた硫化水素を試料として、上述のように150GPa程度の超高圧を当該硫化水素に作用させて、その物性として電気抵抗を測定したところ、硫化水素が、絶対温度200Kを超える高い超電導転移温度を示すことが発見されている。
【0005】
なお、ダイヤモンドアンビルは、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-128286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようにダイヤモンドアンビルにより、試料(例えば、凝固した硫化水素)に150GPa程度の圧力を作用させた状態で、その物性(X線散乱スペクトル等)を測定するために、試料にX線を長時間(例えば12時間程度)照射し続けると、X線の影響によりダイヤモンドアンビルが破損してしまう問題がある。
【0008】
本発明は、この問題を解決するために成されたものである。すなわち、本発明の目的は、ダイヤモンドアンビルにより試料に超高圧(例えば150GPa程度の圧力)を作用させている状態でダイヤモンドアンビルにX線が長時間照射された場合に、X線の影響でダイヤモンドアンビルが破損することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明によると、試料を加圧するためのダイヤモンドアンビルであって、
ダイヤモンドの本体と、前記本体の表面に形成されたCVDダイヤモンド膜とを有する、ダイヤモンドアンビルが提供される。
【0010】
また、本発明によると、試料を加圧するためのダイヤモンドアンビルの製造方法であって、
(A)ダイヤモンドの本体を用意し、
(B)化学気相成長法により前記本体の表面にCVDダイヤモンド膜を形成して、前記本体と前記CVDダイヤモンド膜とを有するダイヤモンドアンビルを得る、ダイヤモンドアンビルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、ダイヤモンドの本体の表面にCVDダイヤモンド膜が形成されている。これにより、ダイヤモンドアンビルを用いて試料に超高圧を作用させた状態で、試料およびダイヤモンドアンビルにX線を長時間照射することでダイヤモンドアンビルが破損することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明が適用可能なダイヤモンドアンビルの一例を示す側面図である。
図2】1対のダイヤモンドアンビルを用いて試料を加圧する場合の説明図である。
図3A-3D】割れが発生したダイヤモンドアンビルを、その先端面側から見た実際の画像である。
図4A】本発明の実施形態によるダイヤモンドアンビルの構成を示す側面図である。
図4B図4Aの4B-4B矢視図である。
図5A-5B】CVDダイヤモンド膜の表面においてダイヤモンド結晶が酸素終端されている結晶構造例の模式図である。
図6A-6B】CVDダイヤモンド膜の表面においてダイヤモンド結晶が水素終端されている結晶構造例の模式図である。
図7】本発明の実施形態によるダイヤモンドアンビルの製造方法を示すフローチャートである。
図8A】実施例によるダイヤモンドアンビルを、X線照射前に、その先端面を裏面側から観察した画像である。
図8B】実施例によるダイヤモンドアンビルを、X線照射後に、その先端面を裏面側から観察した画像である。
図9A】比較例によるダイヤモンドアンビルを、X線照射前に、その先端面を裏面側から観察した画像である。
図9B】比較例によるダイヤモンドアンビルを、X線照射後に、その先端面を裏面側から観察した画像である。
図10図4Bにおいて、ダイヤモンドアンビルの表面に印が設けられた場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
(本発明が適用可能なダイヤモンドアンビル)
図1は、本発明が適用可能なダイヤモンドアンビル10の一例を示す側面図である。ダイヤモンドアンビル10は、試料に高圧力を加えるためのものである。ダイヤモンドアンビル10は、先端面11と、先端面11側の傾斜面12と、先端面11と反対側に位置する基底部13とを有する。先端面11は、ダイヤモンドアンビル10により試料を加圧する時に試料が配置される面(キュレットともいう)である。また、基底部13は、先端面11と反対側を向く底面15を有する。
【0015】
ダイヤモンドアンビル10は、先端面11から基底部13へ移行するにつれて断面積が次第に大きくなっていく形状を有する。この場合、傾斜面12は、先端面11からダイヤモンドアンビル10の基底部13まで、ダイヤモンドアンビル10の中心軸Cに対して(例えば45度より大きく)傾斜した方向に中心軸Cから離れていくように延びるとともに、中心軸Cを回る周方向に延びて1周している。
【0016】
なお、上記断面積は、ダイヤモンドアンビル10の中心軸Cと直交する仮想平面による断面の面積である。中心軸Cは、基底部13から先端面11の側を向いている。先端面11と底面15は、中心軸Cに直交する面であってよい。
【0017】
ダイヤモンドアンビル10において、先端面11から傾斜面12と基底部13との境界までの部分の形状は、略円錐形状であってよく、例えば、多角錐(一例では正十六角錐)の先端部をカットした接頭多角錐の形状であってよい。なお、先端面11は、10μm以上1mm以下の程度の寸法(例えば直径)を有する面であってよいが、この寸法の面に限定されない。
【0018】
図2は、上述のダイヤモンドアンビル10を1対用いて試料を加圧する場合の説明図である。図2において、側方から見た場合の各ダイヤモンドアンビル10を図示しているが、後述のガスケット14は、ダイヤモンドアンビル10の中心軸Cを含む平面による断面として図示している。
【0019】
図2のように、1対のダイヤモンドアンビル10を、互いの先端面11が対向するように配置し、先端面11同士の間に試料を配置する。この時、試料(図示せず)は、ガスケット14を用いて配置されてよい。ガスケット14は、中央部に貫通穴が形成された板状のシール部材である。この貫通穴に試料を配置した状態で、試料と共にガスケット14を両方の先端面11同士の間に配置する。この状態で、図示しない加圧機構を用いて、各ダイヤモンドアンビル10の底面15に、当該ダイヤモンドアンビル10の先端面11へ向かって荷重を作用させる。これにより、試料を、1対のダイヤモンドアンビル10の先端面11で挟み込んで、当該試料に超高圧(例えば150GPa~200GPa)を作用させる。この時、ガスケット14は、変形してもダイヤモンドアンビル10に密着していることにより、試料が先端面11から外れることを防止する。
【0020】
図2の各ダイヤモンドアンビル10は、天然のダイヤモンドをカットして、カットした当該ダイヤモンドの表面を研磨することにより得られたものである。このようなダイヤモンドアンビル10により、上述した図2のように、試料(例えば、凝固した硫化水素)に超高圧(150GPa~200GPa)の圧力を作用させた状態で、その物性(X線散乱スペクトル等)を測定するために、当該試料にX線を長時間(例えば12時間程度)照射し続けると、X線の影響によりダイヤモンドアンビル10が破損してしまう。
【0021】
このように破損したダイヤモンドアンビル10を図3A図3Dに示す。図3A図3Dは、それぞれ、ダイヤモンドアンビル10を、その先端面11側から見た実際の画像である。図3A図3Dのように、ダイヤモンドアンビル10には、多数の割れが発生して破損している。なお、図3A図3Dでは、ダイヤモンドアンビル10は照明光の影響で不透明に見えている。
【0022】
(本発明の実施形態の構成)
このような破損を抑制するための本発明の実施形態によるダイヤモンドアンビル20について説明する。図4Aは、本発明の実施形態によるダイヤモンドアンビル20の構成を示す側面図である。図4Bは、図4Aの4B-4B矢視図である。
【0023】
本実施形態によるダイヤモンドアンビル20は、上述したダイヤモンドアンビル10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成したものである。すなわち、試料の加圧に使用されていない上述のダイヤモンドアンビル10をダイヤモンドの本体として、当該本体10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成したものが、本実施形態のダイヤモンドアンビル20である。本実施形態では、CVDダイヤモンド膜21の表面は、研磨されないので、当該表面には研磨跡(後述するナノメートルオーダーの極微小なクラック等)が、例えば、少ないか又はほとんど存在しない。
【0024】
本実施形態によると、本体10の表面において、少なくとも先端面11(試料を配置する箇所に相当する先端面)の全体に、合成(すなわち人工)のダイヤモンド膜としてのCVDダイヤモンド膜21が形成されていてよい。一例では、図3Aのように、本体10の表面において、先端面11と傾斜面12(例えば先端面11と傾斜面12の全体)に、CVDダイヤモンド膜21が形成されていてよい。CVDダイヤモンド膜21の厚みは、例えば10nm以上であり100nm以下(一例では40nm以下)であってよい。この場合、CVDダイヤモンド膜21の厚みの上限は、数百nm程度であってもよい。
【0025】
CVDダイヤモンド膜21のうち、先端面11上に形成された部分の表面は、ダイヤモンドアンビル20の新たな先端面21aとなる。また、この場合、CVDダイヤモンド膜21のうち、傾斜面12上に形成された部分の表面は、ダイヤモンドアンビル20の新たな傾斜面21bとなる。傾斜面21bは、傾斜面12と同様に、先端面21aからダイヤモンドアンビル20の基底部13まで、ダイヤモンドアンビル20の中心軸Cに対して(例えば45度より大きく)傾斜した方向に中心軸Cから離れていくように延びるとともに、中心軸Cを回る周方向に延びて1周している。なお、ダイヤモンドアンビル20は、上述のダイヤモンドアンビル10と同じ形状を有する。すなわち、ダイヤモンドアンビル20において、先端面21aから傾斜面21bと基底部13との境界までの部分の形状は、略円錐形状であってよく、例えば、多角錐(一例では正十六角錐)の先端部をカットした接頭多角錐の形状であってよい。
【0026】
また、CVDダイヤモンド膜21の表面(例えば、表面全体)を構成するダイヤモンド結晶が酸素終端されていてよい。すなわち、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶において、炭素原子の各未結合手(ダングリングボンド)に酸素原子が結合されていてよい。
【0027】
或いは、CVDダイヤモンド膜21の表面(例えば、表面全体)を構成するダイヤモンド結晶が水素終端されていてよい。すなわち、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶において、炭素原子の各未結合手に水素原子が結合されていてよい。
【0028】
図5A図5Bは、CVDダイヤモンド膜21の表面においてダイヤモンド結晶が酸素終端されている結晶構造例の模式図である。図5A図5Bにおいて、各白丸は、炭素原子であり、斜線が付された各丸は、酸素原子である。また、図5A図5Bにおいて、上側が、CVDダイヤモンド膜21の表面側である。図5Bの場合のように、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶の未結合手に結合された酸素原子により、架橋結合が形成されていてよい。
【0029】
図6A図6Bは、CVDダイヤモンド膜21の表面においてダイヤモンド結晶が水素終端されている結晶構造例の模式図である。図6A図6Bにおいて、大きい方の各白丸は、炭素原子であり、小さい方の各白丸は、水素原子である。また、図6A図6Bにおいて、上側が、CVDダイヤモンド膜21の表面側である。
【0030】
なお、CVDダイヤモンド膜21の表面において、ダイヤモンド結晶が酸素終端又は水素終端されている具体的な形態は、図5A図6Bの各例に限定されない。
【0031】
(ダイヤモンドアンビルの製造方法)
図7は、本発明の実施形態によるダイヤモンドアンビル20の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態によるこの製造方法は、ステップS1~S4を有する。
【0032】
ステップS1では、ダイヤモンドの本体10を用意する。例えば、ステップS1では、図1に示す上述のダイヤモンドアンビル10をダイヤモンドアンビル本体10として用意する。一例では、ステップS1で用意された本体10は、ダイヤモンド(例えば天然の単結晶ダイヤモンド)を所定の形状(例えば略円錐形状)にカットし、カットされた当該形状のダイヤモンドの表面を研磨して得られたものである。
【0033】
ステップS2では、本体10の表面(例えば先端面11の全体と傾斜面12の全体)に水素プラズマを接触させる。ステップS2は、次のように行われてよい。本体10を真空チャンバーに入れる。次に、真空チャンバーの内部を真空ポンプで吸引することにより、真空チャンバーの内部を真空にする。その後、真空状態の当該チャンバーの内部に水素ガスを導入し、水素プラズマを発生させる。この水素プラズマは、例えば真空チャンバーの内部にマイクロ波を導入することにより発生させられてよい。
【0034】
このように発生した水素プラズマを本体10の表面に接触させることにより(例えば、水素プラズマを本体10の表面に照射することにより)、当該表面のクリーニングを行う。これにより、本体10の表面における不良部分を除去することができる。ここで、不良部分は、例えば、結晶性が悪い部分、水素や酸素が結合している部分、微細な割れ部分などであってよい。なお、ステップS2の処理条件の一例では、上記チャンバー内に導入するマイクロ波のエネルギー(強さ)は750W程度であり、上記チャンバー内に導入する水素ガスの流量と圧力はそれぞれ300sccm程度と35torr程度であり、処理温度(本体10の表面温度)は800℃程度であり、処理時間は5分程度である。ただし、ステップS2の処理条件は、これに限定されない。
【0035】
ステップS2を終えたら、例えば上述のマイクロ波の強さ(単位面積あたり強さ)を低下させることにより、水素プラズマの発生強度を低下させる。このように水素プラズマの発生強度を低下させた状態を、後述のステップS3が終了するまで維持する。すなわち、ステップS3が終了するまで、真空チャンバー内への水素ガスの導入と、真空チャンバー内へのマイクロ波の導入を継続させて、真空チャンバー内を水素プラズマ雰囲気に維持する。また、真空チャンバー内の減圧による真空状態も、ステップS3が終了するまで維持する。
【0036】
ステップS3では、化学気相成長(CVD: Chemical Vapor Deposition)法により、本体10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成する。本実施形態では、ステップS3では、CVD法により、本体10の表面において少なくとも先端面11の全体を含む領域(例えば先端面11の全体と傾斜面12の全体)に、CVDダイヤモンド膜21を形成する。
【0037】
ステップS3は、次のように行われてよい。本体10が入れられている上述の真空チャンバー内に、更に炭化水素ガス(例えばメタンガス)を導入する。この炭化水素が、カーボンソースとして機能して、本体10の表面に、ダイヤモンド膜(すなわち上述のCVDダイヤモンド膜21)を成長させていく。このダイヤモンド膜の厚みが十分(例えば10nm~40nm程度)になったら、ステップS3を終了する。例えば、真空チャンバーの内部への炭化水素ガスの導入を停止し、上述の水素プラズマの発生を停止させ、真空チャンバー内の減圧を停止する。なお、ステップS3の処理条件の一例では、上記チャンバー内に導入するマイクロ波のエネルギーは250W程度であり、上記チャンバー内に導入する水素ガスの流量と圧力はそれぞれ300sccm程度と35torr程度であり、上記チャンバー内へのメタンガス(CH)の流量は0.2sccm程度であり、処理温度(本体10の表面温度)は600℃程度であり、処理時間は2時間程度である。ただし、ステップS3の処理条件は、これに限定されない。
【0038】
ステップS3により形成されたCVDダイヤモンド膜21の表面は、水素プラズマと接していたので、当該表面を構成するダイヤモンド結晶は、水素終端されている。すなわち、CVDダイヤモンド膜21の表面において、例えば図6A又は図6Bのように、炭素原子の各未結合手に水素原子が結合されている。
【0039】
ステップS4では、CVDダイヤモンド膜21の表面の水素終端を炭素終端に変換する酸素終端処理を行う。これにより、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶は、例えば図5A又は図5Bのように、炭素原子の各未結合手に酸素原子が結合された状態となる。
【0040】
ステップS4では、例えば、本体10と当該本体10の表面に形成されたCVDダイヤモンド膜21とを有するダイヤモンドアンビル20を、上述の真空チャンバーから取り出し、酸素終端処理を行ってよい。酸素終端処理をCVDダイヤモンド膜21に対して行うことにより、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶を、水素終端されている状態から、酸素終端されている状態に変換する。
【0041】
酸素終端処理は、例えば、ダイヤモンドアンビル20を、硫酸と硝酸の混合溶液に入れ、当該混合溶液を加熱する処理であってよい。なお、酸素終端処理の条件の一例では、硫酸に対する硝酸の混合比(硝酸/硫酸)は、1/3程度であり、混合溶液の温度は200℃程度であり、処理時間は30分程度である。ただし、酸素終端処理の条件は、これに限定されない。
また、酸素終端処理は、上記混合溶液を用いた処理に限定されず、他の処理であってもよい。例えば、酸素終端処理は、本体10に形成したCVDダイヤモンド膜21を、高濃度オゾン又は酸素プラズマに晒す処理であってもよい。
【0042】
(本実施形態の効果)
本実施形態によるダイヤモンドアンビル20の表面において、少なくとも先端面11を含む領域に、CVDダイヤモンド膜21が形成されている。これにより、ダイヤモンドアンビル20を用いて試料に超高圧(例えば150GPa~200GPa)を作用させた状態で、試料およびダイヤモンドアンビル20にX線を長時間照射することでダイヤモンドアンビル20が破損することを抑制できる。
【0043】
詳しくは、次の通りである。ダイヤモンドの本体10にCVDダイヤモンド膜21を形成しない場合には、本体10の表面は、機械研磨された状態であるので、当該表面に、ナノメートルオーダーの極微小な(例えば、1nm以上500nm以下程度の)クラックが発生している可能性がある。そこで、本実施形態では、本体10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成している。CVDダイヤモンド膜21の表面のダイヤモンド結晶には、機械研磨による極微小なクラックは発生していないので、当該表面のダイヤモンド結晶は良好な状態になっているといえる。これにより、上述のように、本体10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成したダイヤモンドアンビル20により試料に超高圧を作用させながら、ダイヤモンドアンビル20にX線を長時間照射した場合に、X線の影響でダイヤモンドアンビル20が破損することを抑制できる。
【0044】
また、上述のように、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶は、酸素終端されていてよい。この場合、図5Bのように、当該ダイヤモンド結晶の未結合手に結合された酸素原子により架橋結合が形成され得る。これにより、CVDダイヤモンド膜21の表面におけるダイヤモンド結晶構造が更に安定する。その結果、上述のようなダイヤモンドアンビル20の破損を更に抑制できる。
【0045】
(実施例)
この実施例では、上述の図7のフローチャートに従って製造した1対のダイヤモンドアンビル20を用意した。これら1対のダイヤモンドアンビル20の各々では、上述のように、その表面(先端面11と傾斜面12)にCVDダイヤモンド膜21が形成されており、当該CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶は、酸素終端されている。
【0046】
また、上述の1対のダイヤモンドアンビル20を用いて、図2のように試料に超高圧を作用させる実験を行った。この実験では、凝固させた硫化水素を試料として、145GPaの超高圧を試料に与えながら、エネルギーが18keVのX線をダイヤモンドアンビル20に36時間以上照射した。
【0047】
このX線照射前とX線照射後のダイヤモンドアンビル20の実際の画像を、それぞれ、図8A図8Bに示す。図8A図8Bは、ダイヤモンドアンビル20をその裏面15側から先端面21aを観察した画像である。図8A図8Bは、ダイヤモンドアンビル20により試料に超高圧を作用させている状態を示す。X線照射後の図8Bに示すように、ダイヤモンドアンビル20は、上述の実験により破損しなかった。
【0048】
(比較例)
一方、比較例では、天然のダイヤモンドをカットして研磨することにより得られた1対のダイヤモンドアンビル10を用意した。これら1対のダイヤモンドアンビル10は、上述のステップS1で用意したダイヤモンドの本体10と同じであり、その表面には、CVDダイヤモンド膜21は形成されていない。
【0049】
用意した1対のダイヤモンドアンビル10を用いて、図2のように試料に超高圧を作用させる実験を行った。この実験では、凝固させた硫化水素を試料として、135GPaの超高圧を、試料に与えながら、エネルギーが18keVのX線をダイヤモンドアンビル10に24時間程度照射した。
【0050】
このX線照射前とX線照射後のダイヤモンドアンビル10の実際の画像を、それぞれ、図9A図9Bに示す。図9A図9Bは、ダイヤモンドアンビル10をその裏面15側から先端面11を観察した画像である。図9A図9Bは、ダイヤモンドアンビル20により試料に超高圧を作用させている状態を示す。X線照射後の図9Bに示すように、ダイヤモンドアンビル10は、上述の実験により割れが生じて破損した。この損傷は、ダイヤモンドアンビル10の表面におけるナノクラックに起因すると考えられる。例えば、硫化水素を圧縮すると水素が生じて当該クラックに入り、当該水素がダイヤモンド結晶構造のダングリングボンドと好ましくない結合をし、その結果、結晶が弱くなるとも考えられる。
【0051】
上述の実施例と比較例から分かるように、本体10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成することにより、ダイヤモンドアンビル20の破損を抑制できる。これは、CVDダイヤモンド膜21の表面におけるダイヤモンドには、ナノクラックが存在せず、その結晶性が良好であるためと考えられる。また、CVDダイヤモンド膜21の表面を構成するダイヤモンド結晶が酸素終端されていることにより、その結晶が更に強くなり、ダイヤモンドアンビル20の破損が更に抑制されることを期待できる。
【0052】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態によるダイヤモンドアンビル20は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0053】
また、以下の変更例1~4のいずれかを採用してもよいし、変更例1~4の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0054】
(変更例1)
本発明のダイヤモンドアンビル20は、人工的に製作された合成のダイヤモンドをカットしその表面を研磨することにより得られた本体10の表面に、CVDダイヤモンド膜21を形成したものであってもよい。
【0055】
(変更例2)
本発明のダイヤモンドアンビル20は、その先端面21aと、他のダイヤモンドとの間に試料を挟み込んで試料を加圧するものであればよい。当該他のダイヤモンドは、ダイヤモンドアンビル20と同じものであってもよいし、異なる形状のダイヤモンド(例えば基板状のダイヤモンド)であってもよい。当該異なる形状のダイヤモンドの表面にもCVDダイヤモンド膜が形成されていてよい。
【0056】
(変更例3)
ダイヤモンドアンビル10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成する処理は、上述した例に限定されない。
【0057】
(変更例4)
CVDダイヤモンド膜21が表面に形成されたダイヤモンドアンビル20と、CVDダイヤモンド膜21が形成されていないダイヤモンドアンビル10とを、その構造に基づいて互いに識別することが困難である。そのため、CVDダイヤモンド膜21が形成されていることを示すための印が、CVDダイヤモンド膜21の表面(傾斜面21b)において、任意の所定形状の局所的な凹部として形成されていてもよい。当該所定形状は、上記印を傷等と識別できるように、人工的に形成されたことが示される整った形状や特徴的な形状(例えばT字形状)であってよい。図10は、図4Bにおいて、上記印22が設けられた場合を示す。
【0058】
印22の上記所定形状は、印22の位置においてCVDダイヤモンド膜21の表面(例えば傾斜面21b)に直交する方向から見た形状(図10では略矩形)を意味する。また、印22の寸法(CVDダイヤモンド膜21の表面に沿った各方向の寸法)は、サブマイクロメートルのオーダ又はマイクロメートルのオーダ(例えば、0.1μm以上10μm以下)であってよいが、これに限定されない。印22としての凹部の深さは、CVDダイヤモンド膜21の上述の厚みと同じである。ここで、深さとは、印22の位置においてCVDダイヤモンド膜21の表面に直交する方向の深さであってよい。
【0059】
印22は、次のように設けることができる。ダイヤモンドアンビル10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成する前に(例えば上述のステップS2の前に)、ダイヤモンドの本体10の表面(例えば傾斜面12)における局所位置(例えば1箇所)に、微小な印22用の金属マスク(金属微小部)を設ける。すなわち、本体10の表面(例えば傾斜面12)における局所位置に金属マスク(金属微小部)を設け、この状態で、本体10の表面にCVDダイヤモンド膜21を形成してよい(例えば上述のステップS2~S4を行ってよい)。CVDダイヤモンド膜21は金属マスク上には成膜されないため、CVDダイヤモンド膜21の形成後に金属マスクを酸溶解することによって、任意の形状の印22を、ダイヤモンドアンビル20の表面(例えば傾斜面21b)に凹部として設けることができる。
【0060】
なお、上記金属マスクは、例えば、リソグラフィーなどを用いて、圧力発生に影響しない傾斜面12に形成してよい。金属マスクは、例えば、面積が1μm程度の矩形であり、厚みが100nm程度である。ここで、矩形とは、金属マスクの位置においてダイヤモンドアンビル20の表面(例えば傾斜面21b)に直交する方向から見た場合の形状であり、厚みとは、当該直交する方向の厚みである。ただし、金属マスクの面積、形状、厚みは、上記の例に限定されない。
【0061】
本変更例4では、印22の存在を確認することにより、当該ダイヤモンドアンビル20は、CVDダイヤモンド膜21が形成されたものであると識別することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
10 ダイヤモンドアンビル(本体)
11 先端面(キュレット)
12 傾斜面
13 基底部
14 ガスケット
15 底面
20 ダイヤモンドアンビル
21 CVDダイヤモンド膜
21a 先端面
21b 傾斜面
22 印(凹部)
C 中心軸
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10