(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092267
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】コンクリートの柱状物の保護方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204973
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二宮 晃
(72)【発明者】
【氏名】岩本 幸信
(72)【発明者】
【氏名】堀内 則幸
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA04
2E176BB04
(57)【要約】
【課題】既設コンクリートの柱状物の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、既設コンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができ、強度にも優れるコンクリートの柱状物の保護方法を提供する。
【解決手段】既設コンクリートの柱状物の表面に保護シートを貼り合わせるコンクリートの柱状物の保護方法であって、前記保護シートは、前記コンクリートの柱状物側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えることを特徴とするコンクリートの柱状物の保護方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリートの柱状物の表面に保護シートを貼り合わせるコンクリートの柱状物の保護方法であって、
前記保護シートは、前記コンクリートの柱状物側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備える
ことを特徴とするコンクリートの柱状物の保護方法。
【請求項2】
前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項1記載のコンクリートの柱状物の保護方法。
【請求項3】
前記コンクリートの柱状物の表面に接着剤を塗布した後に前記保護シートを貼り合わせることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリートの柱状物の保護方法。
【請求項4】
前記コンクリートの柱状物と前記接着剤との間に下塗り層を設ける、請求項3に記載のコンクリートの柱状物の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリートの柱状物の表面の保護方法に関する。さらに詳しくは、既設コンクリートの柱状物の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、既設コンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができるコンクリートの柱状物の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線や電話線などのケーブルを支持する鉄筋コンクリート柱等の電柱は、通常、屋外に長期間設置されるため長年風雨に曝されて表面が徐々に腐食する問題があるが、特に海岸線付近に設置された電柱や、融雪剤を散布するような場所にある電柱は、塩化物イオンがコンクリート内部に浸入して鉄筋が腐食して劣化が進行しやすいという問題があった。
【0003】
電柱の腐食を放置すると倒壊する危険性が高まるが、既設電柱の建て替えは難しく工期及び費用がかかる問題がある。そこで電柱を建て替えることなく腐食箇所を保護する方法が種々検討されている。
例えば、特許文献1にはコンクリート製電柱の内部の中空にセメントや特定の材料を含む配合物を充填して硬化させる方法が開示されている。
また、例えば、特許文献2には電柱の劣化層を削ぎ取った面にプライマーを塗布した後含浸樹脂下塗りを行い、繊維方向を縦にしてアラミド繊維製シートを貼り付け、含浸樹脂上塗りを行った後繊維方向を横にしてアラミド繊維シートを貼り付け、更に含侵接着樹脂液を塗布して仕上げ層を形成する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたような内部の中空にセメントを含む配合物を充填する方法は、表面の腐食に対応することはできずまた、配合物の硬化に相当の時間を要するため工期が長くなる問題があった。
また、特許文献2に開示されたような複数の塗工膜を形成する方法は、各塗工膜の乾燥、硬化が必要なため連続して行うことができず工期が長くなるという問題があった。
また、いずれの方法も屋外での作業であるため天候に左右されて雨天では十分な乾燥や硬化といった処理ができないこともあり、工期の短縮は難しく、その分の労務費がかかり、特許文献2に開示のような複数の塗工膜を形成する方法では、工事、品質(膜厚、表面粗さ、含水量等)が、塗り工程時の外部環境(湿度、温度等)によって影響を受ける結果安定したものとなりにくいものであった。
【0005】
また、複数の塗工膜の塗装はこて塗りやスプレー塗り等で行われるが、均一な塗工による安定した補修や補強は、職人の技量に寄るところが大きい。したがって、職人の技量によっても塗工膜の品質はばらつくことになる。さらに、建設従事者の高齢化及び人口の減少に伴い、コンクリートの補修作業や補強作業の従事者が減少している昨今、熟練した職人でなくとも行うことができるより簡易な電柱の保護方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-026552号公報
【特許文献2】特開2003-314085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、既設コンクリートの柱状物の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、既設コンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができ、強度にも優れるコンクリートの柱状物の保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、コンクリート製の既設コンクリートの柱状物の表面に塗工手段で層を形成する施工方法等によらないで、既設コンクリートの柱状物を長期間安定して保護する方法を研究した。その結果、既設コンクリートの柱状物の表面を保護する保護シートに、コンクリートの特性に応じた性能を付与すること、具体的には、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従できる追従性、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させない防水性、遮塩性、中性化阻止性、及び、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる水蒸気透過性等をさらに備えるとともに、保護シート自身の強度を担保する層を設けることを実現し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、既設コンクリートの柱状物用でない他のコンクリート又はその他の材料からなる構造物に対しても保護シートを用いた保護方法として応用可能である。
【0009】
本発明に係るコンクリートの柱状物の保護方法は、既設コンクリートの柱状物の表面に保護シートを貼り合わせるコンクリートの柱状物の保護方法であって、前記保護シートは、前記コンクリートの柱状物側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、基材や補強部材を含まない層だけで構成された保護シートを使用するので、既設コンクリートの柱状物の表面に容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくてもコンクリートの柱状物の表面に強度に優れた保護シートを安定して設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、コンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができる。
なお、上記保護シートは、コンクリートの柱状物側に設けられるポリマーセメント硬化層のコンクリートの柱状物との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層上に設けられる樹脂層に、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れる性能を付与できる。
また、上記保護シートは工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、本発明によると、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、コンクリートの柱状物の長期保護を実現することができる。
【0011】
本発明に係るコンクリートの柱状物の保護方法において、前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されていてもよい。さらに好ましくは樹脂が20重量%以上、30重量%以下であることが望ましい。
【0012】
この発明によれば、セメント成分と樹脂成分との比率を制御することでポリマーセメント硬化層を形成しやすくなると共に、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層となりやすいので、層自体の密着性が改善される傾向となる。さらに、コンクリートの柱状物側のポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分はコンクリート等のコンクリートの柱状物との密着性を高めるように作用する。
【0013】
本発明に係るコンクリートの柱状物の保護方法において、前記コンクリートの柱状物の表面に接着剤を塗布した後に前記保護シートを貼り合わせることが望ましい。
【0014】
この発明によれば、基材や補強部材を含まない層だけで構成された保護シートを使用するので、コンクリートの柱状物の表面に容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくてもコンクリートの柱状物の表面に強度に優れた保護シートを安定して設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、コンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができる。
【0015】
本発明に係るコンクリートの柱状物の保護方法において、前記コンクリートの柱状物と前記接着剤との間に下塗り層を設けてもよい。
【0016】
この発明によれば、コンクリートの柱状物と接着剤との間に設ける下塗り層は、相互の密着を高めるように作用するので、保護シートは、長期間安定してコンクリートの柱状物を保護することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができる保護シートを用いたコンクリートの柱状物の保護方法を提供することができる。特に、保護シートにコンクリートの柱状物の特性に応じた性能を付与し、コンクリートの柱状物に生じたひび割れや膨張に追従させること、コンクリートの柱状物に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、コンクリートの柱状物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること、強度を向上させること等を実現した保護シートを用いたコンクリートの柱状物の保護方法を提供することができる。さらに、これまで手塗りで形成してきた層を複数積層する方法と比較して品質の安定性、均一性を改善でき、工期を大幅に削減できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に用いる保護シートの一例を示す断面構成図である。
【
図2】本発明に用いる保護シートの貼付け方法の説明図である。
【
図3】本発明のコンクリートの柱状物の保護方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るコンクリートの柱状物の保護方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0020】
本発明は、既設コンクリートの柱状物の表面に保護シートを貼り合わせるコンクリートの柱状物の保護方法である。
すなわち、
図3は、本発明のコンクリートの柱状物の保護方法の説明図であるが、
図3に示したように、本発明では、既設コンクリートの柱状物21の表面に保護シート1を貼り合わせる工程を有する。
コンクリートの柱状物21の表面への保護シート1の貼り合せ方法としては、
図3に示したようにコンクリートの柱状物21に巻き付けるようにして貼り付けてもよいし、コンクリートの柱状物21の保護目的とする個所のみを覆うように貼り付けてもよい。前者の方法ではコンクリートの柱状物21の外周を保護シート1で覆うことができるため意匠性に優れた保護方法となり、後者の方法では必要な個所を最小限の保護シート1で保護することができる。
なお、コンクリートの柱状物21の外周を保護シート1で覆う方法は
図3に示した方法に限定されず、例えば、コンクリートの柱状物21に対し保護シート1を斜めに貼り付け、保護シート1の短手方向の端が互いに重なるように巻き付ける方法等も挙げられる。この方法によると、コンクリートの柱状物21の一部分から全体にまで自由に保護シート1を貼り付けることができる。
【0021】
ここで、融雪剤は道路面に対して散布されるが、この散布された融雪剤による電柱のようなコンクリートの柱状物21への塩害は地面との接触面付近で集中して生じる。そのため、本発明のコンクリートの柱状物の保護方法では、既設コンクリートの柱状物21の地面との接触表面から保護シート1を貼り付けることが好ましい。このように保護シート1をコンクリートの柱状物21に貼り付けることで、融雪剤による塩害を好適に防ぐことができる。
以下、各構成要素について説明する。
【0022】
[コンクリートの柱状物]
上記コンクリートの柱状物としては特に限定されず、例えば、複合鉄筋コンクリート柱、遠心力鉄筋コンクリートポール、パンザーマスト等が挙げられる。
本発明では、コンクリートの柱状物に保護シートを適用することで、コンクリートの柱状物に生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリートの柱状物内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリートの柱状物中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。
【0023】
[保護シート]
図1に示すように、本発明に用いる保護シート1は、コンクリートの柱状物側に設けられたポリマーセメント硬化層2と、ポリマーセメント硬化層2上に設けられた樹脂層3とを備えている。このポリマーセメント硬化層2と樹脂層3の両層は、それぞれ、単層で形成されてもよいし積層として形成されてもよい。また、求められる性能によっては、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との間に別の層を設けてもよい。
【0024】
本発明で用いる保護シート1は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。この保護シート1は、厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層をコンクリートの柱状物の表面に安定して設けることができる。また、厚さ分布を上記範囲内に制御することによって、コンクリートの柱状物の補強を均一に行いやすくなる。
コンクリートの柱状物側に設けられたポリマーセメント硬化層2は、コンクリートの柱状物との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層2上に設けられた樹脂層3は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等の性質を付与できる。
また、保護シート1は工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、コンクリートの柱状物の長期保護を実現することができる。その結果、コンクリートの柱状物の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともにコンクリートの柱状物を長期にわたって保護することができる。
【0025】
以下、保護シート1の各構成要素の具体例について詳しく説明する。
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層2は、コンクリートの柱状物側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層2は、例えば、
図1(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、
図1(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、コンクリートの柱状物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層2は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層3側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層がコンクリートの柱状物と接着することとなり両者に対する接着性が極めて優れたものとなる。
【0026】
ポリマーセメント硬化層2は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層2が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリートの柱状物への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。
【0027】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層3を構成する樹脂成分と同じものであることが、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との密着性を高める観点から好ましい。
【0028】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計に対して10質量%以上、40重量%以下である。10重量%未満であると、樹脂層に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、コンクリートの柱状物21に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量の好ましい範囲は10重量%以上、40重量%以下であるが、より好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0029】
ポリマーセメント硬化層2を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルジョンであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルジョンを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルジョンとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0030】
ポリマーセメント硬化層2は、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルジョンとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層2を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層2を形成した後に樹脂層3を形成してもよいが、離型シート上に樹脂層3を形成した後にポリマーセメント硬化層2を形成してもよい。
【0031】
ポリマーセメント硬化層2の厚さは特に限定されないが、コンクリートの柱状物の使用形態(塩害の有無等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層の厚さとしては、例えば、0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0032】
このポリマーセメント硬化層2は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層3に比べて水蒸気が容易に透過する。ポリマーセメント硬化層2の好ましい水蒸気透過率は、例えば20~60g/m
2・day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリートの柱状物のコンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、
図2に示すように、コンクリートの柱状物21の表面に下塗り層22と接着剤23が順に設けられている場合にも、セメント成分を含有するポリマーセメント硬化層2が接着剤23に密着性よく接着する。また、このポリマーセメント硬化層2は、延伸性があるので、コンクリートの柱状物21にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0033】
(樹脂層)
樹脂層3は、
図2(C)に示すように、コンクリートの柱状物21とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層3は、例えば、
図1(A)に示すように単層であってもよいし、
図1(B)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0034】
樹脂層3は、柔軟性を有し、コンクリートの柱状物のコンクリート表面に発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層3を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、前記したポリマーセメント層2を構成する樹脂成分と同じものであること好ましい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有す樹脂であることが好ましい。
【0035】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0036】
樹脂層3を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層3を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の実施例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層3を作製している。なお、離型シート上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層3、ポリマーセメント硬化層2の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層2、樹脂層3の順番であってもよい。もっとも、後述の実施例に示すように、離型シート上に樹脂層3を形成し、その後にポリマーセメント硬化層2を形成することが好ましい。
【0037】
樹脂層3の厚さは、コンクリートの柱状物21の使用形態(塩害の有無等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0038】
この樹脂層3は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。樹脂層3の水蒸気透過率としては、例えば、保護シート1の水蒸気透過率が10~50g/m2・dayとなるように適宜調整することが望ましい。こうすることにより、保護シート1に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層2と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層2との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0039】
また、樹脂層3は、本発明で用いる保護シート1のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層3は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層3に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。
更に、樹脂層3は、公知の防汚剤を含有していてもよい。本発明で用いられる保護シートは、通常屋外に設置されるコンクリート製のコンクリートの柱状物の補修に用いられるため、樹脂層3は汚染されることが多いが、防汚剤を含有することで保護シートが汚染されることを好適に防止できる。
また、樹脂層3は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー、等が挙げられる。
【0040】
(その他の構成)
作製された保護シート1は、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との一方の面に離型シートを備えてもよい。離型シートは、例えば、施工現場への移送の際に保護シート1の表面を保護することができ、施工現場では、対象となるコンクリートの柱状物21の上に(又は下塗り層22又は接着層23を介して)離型シートを貼り付けたままの保護シート1を接着し、その後離型シートを剥がすことで、施工現場での作業性が大きく改善される。なお、離型シートは、保護シート1の生産工程で利用する工程紙であってもよいし、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の保護フィルムを貼り付けてもよい。
【0041】
離型シートとして使用される工程紙は、製造工程で使用される従来公知のものであれば、その材質等は特に限定されない。例えば、公知の工程紙と同様、ポリロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂層やシリコンを含有する層を有するラミネート紙等を好ましく挙げることができる。その厚さも特に限定されないが、製造上及び施工上、取り扱いを阻害する厚さでなければ例えば50~500μm程度の任意の厚さとすることができる。
【0042】
以上説明した保護シート1は、コンクリートの柱状物21を長期にわたって保護することができる。特に、保護シート1にコンクリートの柱状物21の特性に応じた性能を付与し、コンクリートの柱状物21に生じたひび割れや膨張に追従させること、コンクリートの柱状物21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、コンクリートの柱状物21中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。そして、こうした保護シート1は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
更に、樹脂層3の表面に意匠性を付与することもできるので、保護シート1をコンクリートの柱状物21に貼り付けることで意匠性も付与することもできる。なお、上記意匠性付与方法としては特に限定されず公知の方法で凹凸形状を設けたり、印刷により意匠を付与したりする方法が挙げられる。
【0043】
本発明に係るコンクリートの柱状物の保護方法は、
図3に示すように、既設コンクリートの柱状物21の表面に保護シート1を貼り付ける。
本発明では、コンクリートの柱状物21の表面に接着剤23を塗布した後に保護シート1を貼り合わせることが好ましい。この施工方法は、コンクリートの柱状物21の表面に保護シート1を容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくとも厚さのバラツキの小さい層で構成された保護シート1を、コンクリートの柱状物21に設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、コンクリートの柱状物21を長期にわたって保護することができる。
【0044】
図2は、保護シート1の貼付け方法の説明図である。
図2(A)に示すように、コンクリートの柱状物21の表面に下塗り層22を形成することが好ましい。下塗り層22は、エポキシ樹脂等の樹脂と溶媒とを混合した塗工液を、コンクリートの柱状物21に塗工し、その後、塗工液中の溶媒を揮発乾燥させて形成することができる。このときの溶媒としては水等を挙げることができる。下塗り層22の厚さは特に限定されないが、例えば100~150μmの範囲内とすることができる。コンクリートの柱状物21と接着剤23との間に設ける下塗り層22は、相互の密着を高めるように作用するので、保護シート1は、長期間安定してコンクリートの柱状物21を保護することができる。なお、コンクリートの柱状物21にひび割れや欠損が生じている場合には、それを補修した後に下塗り層22を設けることが好ましい。また、補修は特に限定されないが、通常セメントモルタルやエポキシ樹脂等が使われる。
【0045】
下塗り層22を形成した後、
図2(B)に示すように、接着剤23を塗布することが好ましい。塗布した接着剤23は、乾燥させることなく、
図2(C)に示すように、その上に保護シート1を貼り合わせることが好ましい。
接着剤23としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)を用いた接着剤等を挙げることができる。なかでも、保護シート1のポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる23は、ポリマーセメント硬化層2との接着強度が高くなるのでより好ましい。接着剤23の厚さは特に限定されない。接着剤23は、通常、刷毛塗り又はスプレー塗り等の手段で塗布した後に時間経過によって自然乾燥させて硬化する。
なお、上記接着剤の材料の選択によっては下塗り層の存在は必須ではなく、1層の接着剤のみを介してコンクリートの柱状物の表面に保護シートを貼り付けることも可能である。
【実施例0046】
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0047】
(製造例1)
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シートを用意し、該離型シート上に樹脂層を以下の方法で形成した。
まず、アクリルシリコーン樹脂60質量部と、二酸化チタン25質量部と、酸化第二鉄10質量部と、カーボンブラック5質量部とを含有するエマルジョン組成物を準備した。このエマルジョン組成物を上記離型シート上に塗布した後、加熱処理をしてこれを硬化させて、樹脂層を形成した。樹脂層の厚さは0.1mmとなるようにした。
次に、樹脂層の上にポリマーセメント硬化層を形成した。
具体的には、セメント混合物を45質量部含む水系のアクリルエマルジョンをポリマーセメント層形成用組成物として準備した。ここで、セメント混合物は、ポルトランドセメント70±5質量部、二酸化ケイ素10±5質量部、酸化アルミニウム2±1質量部、酸化チタン1~2質量部を少なくとも含むものであり、アクリルエマルジョンは、アクリル酸エステルモノマーを乳化剤として使用して乳化重合したアクリル酸系重合物53±2質量部、水43±2質量部を少なくとも含むものである。これらを混合したポリマーセメント層形成用組成物を塗布乾燥して得られたポリマーセメント層は、ポルトランドセメントをアクリル樹脂中に50質量%含有する複合層である。
上記ポリマーセメント硬化層形成用組成物を、樹脂層の上に塗工し乾燥してから単層からなる厚さ1.29mmのポリマーセメント硬化層を形成した。
こうして合計厚さ1.39mmの保護シート1を作製した。なお、この保護シートは、約25℃に管理された工場内で連続生産され、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型シートを樹脂層表面に含んだ態様でロール状に巻き取った。
【0048】
[強度の測定]
製造例1で得られた保護シートの強度を引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J)で測定した破断強度で評価した。
幅50mmで測定した結果、製造例1の強度は1500Nであった。
[厚さバラツキの測定]
製造例1について、ロール状に巻き取った保護シートから、A4サイズ程度(200mm×300mm)を切り出し、各部で14箇所の厚さを測定し、その厚さバラツキを計算した。製造例1では、厚さバラツキが26μmであった。
【0049】
(製造例2~4)
製造例1において、保護シートの合計厚さを変化させた。製造例2は、厚み0.66mmのポリマーセメント硬化層と厚さ100μmの樹脂層とを積層した合計厚さ0.76mmの保護シートを作製した。製造例3は、厚さ0.96mmのポリマーセメント硬化層と厚さ100μmの樹脂層とを積層した合計厚さ1.06mmの保護シートを作製した。製造例4は、厚さ1.47mmのポリマーセメント硬化層と100μmの樹脂層とを積層した合計厚さ1.57mmの保護シートを作製した。それ以外は製造例1と同様とした。
【0050】
[強度と水蒸気透過率]
製造例2~4について、保護シートの強度と水蒸気透過率を測定した。強度は引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J)で測定した破断強度で評価した。水蒸気透過率(WVTR)は、「透湿度」とも呼ばれ、1m2のフィルム(保護シート)を24時間で透過する水蒸気の量をグラム数で表すものであり、g/m2・day又はg/ml/dayで表す。水蒸気バリア性を示す指標として用いられている。JIS Z0208(B)法に準拠した方法で測定した。
【0051】
幅50mmでの測定結果は、製造例2では、強度が1200N、水蒸気透過率が18.2g/m2.dayであった。製造例3では、強度が1500N、水蒸気透過率が13.0g/m2.dayであった。製造例4では、強度が1600N、水蒸気透過率が10.2g/m2.dayであった。いずれの厚さでも強度と水蒸気透過率は問題なく、使用可能であった。
【0052】
(実施例1)
測定対象となるコンクリート製電柱の地面から30センチメートルの高さの表面塩分濃度を測定した。測定には、elcometer社製Elcometer130 SSP塩分濃度計を用いた。
その後、同じ電柱の地面から30センチメートの高さで、上記測定を実施したエリアの近傍に縦横20センチメートルである略正方形状の『表面塩分測定エリア』を設定し、マジック(登録商標)で目印を付けた。
次いで、表面塩分測定エリアエリアを除く、地面から80センチメートル付近までの電柱表面に、接着剤として商品名「アロンブルコート(登録商標)P-300」を厚さ150μmで塗布して接着層を作製し、製造例1で作製した保護シートをポリマーセメント硬化層が接着層側となるように貼り付け、その後離型シートを剥離し、電柱表面への保護シート施工を行った。
【0053】
保護シート1の表面の表面塩分測定エリアに相当する部分に5日間塩水を散布し、続く2日間放置したのち、続く5日間塩水を散布した。
塩水の散布は以下のように行った。
すなわち、塩水散布日にその日用いる塩化ナトリウム水溶液(NaCl 15g/1リットル、以下「塩水」という)を1リットル準備し、水射出部が略円形であって、その直径がほぼ10cmの如雨露を用いて、保護シート上の表面塩分測定エリア相当部の直上約30センチメートルの付近に1リットルの塩水を全て散布した。なお、試験期間中に降雨はなく全て晴天であった。
塩水の散布を終えた翌日に、保護シートの表面塩分測定エリアに相当する部分をカッターナイフで切り取り、電柱表面の表面塩分測定エリアを露出させた。その露出面の表面塩分濃度を、東亜ディーケーケー株式会社製ポータブル表面塩分計「SSM-21P」を用いて測定したところ、保護シート適用前、実験当初に測定した電柱表面の塩分濃度と比較して有意差は無かった。すなわち、実施例1に係る保護シートによる保護は、電柱表面に対する塩分の付着を防止する効果が認められた。
なお、地上30センチメートルにおける塩水の適用は凍結防止剤を模したものであり、10日間の塩水適用としたのは、凍結防止剤すら無効となるような例外的な豪雪地帯ではない積雪地帯において、ワンシーズンで用いられる凍結防止剤量を想定したものである。
また、接着剤を介して予め作製した保護シートを電柱表面に貼り付けたものであるので、塗工膜を形成する保護方法と比較して工期を短縮できた。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同種のコンクリート製電柱を対象として、製造例1で作製した保護シート1に代えて、製造例2で作製した保護シートを用いた以外は実施例1と同様にして電柱に保護シートを貼り付け、実施例1と同様にして塩水の散布と塩分濃度の測定とを行った。
その結果、実施例1と同様に保護シート適用前と、10日間の塩水適用後の表面塩分濃度に優位の差は認めなかった。
【0055】
(評価結果)
実施例1及び2の結果から、実施例に係る保護シートの適用は、電柱表面に対する塩分の付着を防止する効果があることが確認できた。
なお、合計厚さを変えた製造例2、3に係る保護シートを用いた場合も同様の効果が確認できた。