(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092273
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】モータ制御回路、電流値算出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 23/14 20060101AFI20220615BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20220615BHJP
H02P 21/14 20160101ALI20220615BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220615BHJP
H02M 7/06 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
H02P23/14
H02P27/08
H02P21/14
H02M7/48 F
H02M7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204983
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000538
【氏名又は名称】株式会社コロナ
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(72)【発明者】
【氏名】野水 清貴
(72)【発明者】
【氏名】川上 学
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 豪
(72)【発明者】
【氏名】松野 泰聖
【テーマコード(参考)】
5H006
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H006BB05
5H006CA07
5H006CB01
5H006DB01
5H006DC02
5H006DC05
5H505AA06
5H505CC05
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505KK06
5H505LL22
5H505LL24
5H505MM02
5H505MM12
5H770BA01
5H770DA03
5H770EA01
5H770HA02W
5H770HA03W
(57)【要約】
【課題】インバータ回路からコンバータ回路に流れる電流を良好な精度で推定できるモータ制御回路、電流値算出方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】モータ制御回路は、PWM信号のキャリア周期Tの1周期内において、第1タイミングA1、第2タイミングA2、第3タイミングA3及び第4タイミングA4のうち、3以上のタイミングで、インバータ回路からコンバータ回路へ流れる電流Idの瞬時値を取得する。モータ制御回路は、取得した各タイミングでの電流Idの瞬時値と、キャリア周期Tの1周期内における三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、キャリア周期Tの1周期内における平均電流値を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、
前記直流電圧を用いてモータを駆動するインバータ回路と、
前記コンバータ回路と前記インバータ回路の間に設けられた電流センサから、前記インバータ回路から前記コンバータ回路へ流れる電流の値を取得可能であるとともに、前記インバータ回路に前記モータの各相に対応する三相のPWM信号を出力する制御回路と、を備え、
キャリア周期の1周期内における前記三相のPWM信号のうち、オンの期間が最も長いものを第1信号とし、オンの期間が前記第1信号の次に長いものを第2信号とし、オフの期間が最も長いものを第3信号とすると、
前記制御回路は、
前記第1信号がオフからオンになった直後の第1タイミング、前記第2信号がオフからオンになった直後の第2タイミング、前記第2信号がオンからオフになる直前の第3タイミング、及び、前記第1信号がオンからオフになる直前の第4タイミングのうち、3以上のタイミングで前記電流の瞬時値を取得し、
取得した各タイミングでの前記電流の瞬時値と、前記1周期内における前記三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値を算出する、
モータ制御回路。
【請求項2】
前記制御回路は、前記第1タイミング、前記第2タイミング、前記第3タイミング及び前記第4タイミングで前記電流の瞬時値を取得する、
請求項1に記載のモータ制御回路。
【請求項3】
前記制御回路は、三相変調方式で前記インバータ回路を制御し、
前記第1信号がオフからオンになってから前記第2信号がオフからオンになるまでの期間を第1期間t
1とし、前記第2信号がオフからオンになってから前記第3信号がオフからオンになるまでの期間を第2期間t
2とし、前記第3信号がオンからオフになってから前記第2信号がオンからオフになるまでの期間を第3期間t
3とし、前記第2信号がオンからオフになってから前記第1信号がオンからオフになるまでの期間を第4期間t
4とすると、[数1]に基づいて前記1周期内における平均電流値を算出する、
請求項2に記載のモータ制御回路。
【数1】
I
AV:平均電流値
T:キャリア周期
I
1:第1タイミングで取得した電流の瞬時値
I
2:第2タイミングで取得した電流の瞬時値
I
3:第3タイミングで取得した電流の瞬時値
I
4:第4タイミングで取得した電流の瞬時値
【請求項4】
前記制御回路は、二相変調方式で前記インバータ回路を制御し、
前記第1信号がオフからオンになってから前記第2信号がオフからオンになるまでの期間を第1期間t
1とし、前記第2信号がオンの状態を保つ期間を第2期間t
2とし、前記第2信号がオンからオフになってから前記第1信号がオンからオフになるまでの期間を第3期間t
3とすると、[数2]に基づいて前記1周期内における平均電流値を算出する、
請求項2に記載のモータ制御回路。
【数2】
I
AV:平均電流値
T:キャリア周期
I
1:第1タイミングで取得した電流の瞬時値
I
2:第2タイミングで取得した電流の瞬時値
I
3:第3タイミングで取得した電流の瞬時値
I
4:第4タイミングで取得した電流の瞬時値
【請求項5】
前記制御回路は、前記直流電圧を検出する電圧センサから前記直流電圧の値を取得し、取得した前記直流電圧の値と前記1周期内における平均電流値とを用いて、前記コンバータ回路に供給される交流電流値を推定する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のモータ制御回路。
【請求項6】
交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路、及び、前記直流電圧を用いてモータを駆動するインバータ回路を備える回路において、前記インバータ回路から前記コンバータ回路へ流れる電流の値を算出する電流値算出方法であって、
前記インバータ回路に前記モータの各相に対応する三相のPWM信号を出力するステップと、
キャリア周期の1周期内における前記三相のPWM信号のうち、オンの期間が最も長いものを第1信号とし、オンの期間が前記第1信号の次に長いものを第2信号とし、オフの期間が最も長いものを第3信号とすると、前記第1信号がオフからオンになった直後の第1タイミング、前記第2信号がオフからオンになった直後の第2タイミング、前記第2信号がオンからオフになる直前の第3タイミング、及び、前記第1信号がオンからオフになる直前の第4タイミングのうち、3以上のタイミングで前記電流の瞬時値を取得するステップと、
取得した各タイミングでの前記電流の瞬時値と、前記1周期内における前記三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値を算出するステップと、を備える、
電流値算出方法。
【請求項7】
交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路、及び、前記直流電圧を用いてモータを駆動するインバータ回路を備える回路において、前記インバータ回路から前記コンバータ回路へ流れる電流の値を算出するプログラムであって、
コンピュータを、
前記インバータ回路に前記モータの各相に対応する三相のPWM信号を出力する手段、
キャリア周期の1周期内における前記三相のPWM信号のうち、オンの期間が最も長いものを第1信号とし、オンの期間が前記第1信号の次に長いものを第2信号とし、オフの期間が最も長いものを第3信号とすると、前記第1信号がオフからオンになった直後の第1タイミング、前記第2信号がオフからオンになった直後の第2タイミング、前記第2信号がオンからオフになる直前の第3タイミング、及び、前記第1信号がオンからオフになる直前の第4タイミングのうち、3以上のタイミングで前記電流の瞬時値を取得する手段、
取得した各タイミングでの前記電流の瞬時値と、前記1周期内における前記三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値を算出する手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御回路、電流値算出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ制御回路として、交流電源による交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ回路と、この直流電圧に基づいてモータを駆動するインバータ回路と、インバータ回路を制御する制御回路とを備えるものが知られている。例えば、モータは、空気調和機のコンプレッサを駆動する。制御回路は、交流電源からコンバータ回路に流れる交流電流を監視し、交流電源に定められた電流容量を超えると予測した場合には、モータの入力電力を抑える制御を行う。
【0003】
交流電流を監視する方法としては、交流電源とコンバータ回路の間に設けられたカレントトランス(以下、CT)を用いる方法がある。しかしながら、CTを用いると、回路基板の小型化を阻害する虞があるだけでなく、発熱や電力損失も懸念される。この問題に対処するため、例えば特許文献1には、CTを用いずに交流電流値を推定する空気調和機の駆動回路が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の駆動回路は、インバータ回路からコンバータ回路に流れる直流電流を検出する電流検出素子と、コンバータ回路の出力端に接続された直流電圧検知部とを備える。駆動回路は、電流検出素子で検出した電流に基づき求めた直流電流値と、直流電圧検知部が検知した直流電圧とに基づき直流電力を求める。そして、駆動回路は、求めた直流電力を交流電圧と力率の積によって除することにより交流電流値を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の駆動回路は、インバータ回路に入力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号のキャリアの周期毎に電流検出素子にて発生する電流値を取得していき、取得した複数の電流値の任意の個数の平均である平均電流値を計算する。そして、当該駆動回路は、計算した平均電流値に、PWM信号のデューティを考慮して直流電流値を演算する。このように、平均電流値を計算した後にデューティを考慮する手法では、直流電流値の推定精度が低下する虞がある。例えば、キャリア周期の1キャリア目において取得した電流値が1AでPWM信号のデューティが20%であり、2キャリア目において取得した電流値が2AでPWM信号のデューティが40%である場合を考える。この場合、特許文献1に記載の推定手法を用いると、平均電流値が1.5Aとなり、これにデューティの平均である30%を考慮すると直流電流値が0.45Aと算出されるが、実際の平均値は、(0.2A+0.8A)/2=0.5Aであるため、誤差が生じる。
【0007】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、インバータ回路からコンバータ回路に流れる電流を良好な精度で推定できるモータ制御回路、電流値算出方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るモータ制御回路は、
交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路と、
前記直流電圧を用いてモータを駆動するインバータ回路と、
前記コンバータ回路と前記インバータ回路の間に設けられた電流センサから、前記インバータ回路から前記コンバータ回路へ流れる電流の値を取得可能であるとともに、前記インバータ回路に前記モータの各相に対応する三相のPWM信号を出力する制御回路と、を備え、
キャリア周期の1周期内における前記三相のPWM信号のうち、オンの期間が最も長いものを第1信号とし、オンの期間が前記第1信号の次に長いものを第2信号とし、オフの期間が最も長いものを第3信号とすると、
前記制御回路は、
前記第1信号がオフからオンになった直後の第1タイミング、前記第2信号がオフからオンになった直後の第2タイミング、前記第2信号がオンからオフになる直前の第3タイミング、及び、前記第1信号がオンからオフになる直前の第4タイミングのうち、3以上のタイミングで前記電流の瞬時値を取得し、
取得した各タイミングでの前記電流の瞬時値と、前記1周期内における前記三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値を算出する。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る電流値算出方法は、
交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路、及び、前記直流電圧を用いてモータを駆動するインバータ回路を備える回路において、前記インバータ回路から前記コンバータ回路へ流れる電流の値を算出する電流値算出方法であって、
前記インバータ回路に前記モータの各相に対応する三相のPWM信号を出力するステップと、
キャリア周期の1周期内における前記三相のPWM信号のうち、オンの期間が最も長いものを第1信号とし、オンの期間が前記第1信号の次に長いものを第2信号とし、オフの期間が最も長いものを第3信号とすると、前記第1信号がオフからオンになった直後の第1タイミング、前記第2信号がオフからオンになった直後の第2タイミング、前記第2信号がオンからオフになる直前の第3タイミング、及び、前記第1信号がオンからオフになる直前の第4タイミングのうち、3以上のタイミングで前記電流の瞬時値を取得するステップと、
取得した各タイミングでの前記電流の瞬時値と、前記1周期内における前記三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値を算出するステップと、を備える。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
交流電圧を直流電圧に変換して出力するコンバータ回路、及び、前記直流電圧を用いてモータを駆動するインバータ回路を備える回路において、前記インバータ回路から前記コンバータ回路へ流れる電流の値を算出するプログラムであって、
コンピュータを、
前記インバータ回路に前記モータの各相に対応する三相のPWM信号を出力する手段、
キャリア周期の1周期内における前記三相のPWM信号のうち、オンの期間が最も長いものを第1信号とし、オンの期間が前記第1信号の次に長いものを第2信号とし、オフの期間が最も長いものを第3信号とすると、前記第1信号がオフからオンになった直後の第1タイミング、前記第2信号がオフからオンになった直後の第2タイミング、前記第2信号がオンからオフになる直前の第3タイミング、及び、前記第1信号がオンからオフになる直前の第4タイミングのうち、3以上のタイミングで前記電流の瞬時値を取得する手段、
取得した各タイミングでの前記電流の瞬時値と、前記1周期内における前記三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値を算出する手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インバータ回路からコンバータ回路に流れる電流を良好な精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御回路を主に示す構成図。
【
図2】同上実施形態に係る制御回路の主要機能を示すブロック図。
【
図3】(a)は三相変調方式でPWM制御を行う場合のキャリア周期の1周期内における第1~第3信号を示す図であり、(b)は当該1周期内における直流電流の挙動を示す図。
【
図4】(a)は二相変調方式でPWM制御を行う場合のキャリア周期の1周期内における第1~第3信号を示す図であり、(b)は当該1周期内における直流電流の挙動を示す図。
【
図5】同上実施形態に係る補正情報を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態に係るモータ制御回路100は、
図1に示すように、コンバータ回路10と、電圧センサ20と、電流センサ30と、コンプレッサ用のモータM1を駆動するインバータ回路40と、ファンモータM2を駆動するファンモータ駆動回路50と、制御回路60と、を備える。
【0015】
コンバータ回路10は、商用電源等の交流電源11による交流電圧Vaを直流電圧Vdに変換して出力する。コンバータ回路10は、全波整流回路(フルブリッジ)12と、平滑化回路13とを有する。全波整流回路12は、印加される交流電圧Vaを全波整流して、直流電圧を出力する。平滑化回路13は、直列接続の関係にある電解コンデンサ13a及び電解コンデンサ13bを有し、全波整流回路12からの脈動する出力を平滑化する。なお、交流電源11には電流容量が定められており、その容量以上で使用するとブレーカ等の保護装置が働き、通電を遮断する。
【0016】
電圧センサ20は、コンバータ回路10が出力する直流電圧Vdの値を測定する周知の構成である。電圧センサ20は、直流電圧Vdの値を示す検出信号を制御回路60に供給する。
【0017】
電流センサ30は、コンバータ回路10とインバータ回路40の間に設けられ、インバータ回路40からコンバータ回路10へ流れる電流Id(直流電流)の値を検出する。電流センサ30は、例えば、シャント抵抗とシャント抵抗の両端間の電圧降下を測定する電圧計などから構成され、電流Idの値を示す検出信号を制御回路60に供給する。なお、電流センサ30は、過電流検出のために設けられた周知の構成である。
【0018】
インバータ回路40は、3対のスイッチング素子を備えた周知の構成であって、制御回路60からのPWM信号Su,Sv,Swに従って、直流入力電圧をU,V,Wの3相の出力電圧に変換して、駆動対象であるコンプレッサ用のモータM1の3つのモータ端子に印加する。インバータ回路40は、例えば、IPM(Intelligent Power Module)から構成される。
【0019】
モータM1は、空気調和機のコンプレッサ装置200に設けられる3相ブラシレスモータである。コンプレッサ装置200は、モータM1と、モータM1の回転によって駆動される図示せぬコンプレッサとを備える。
【0020】
ファンモータ駆動回路50は、コンバータ回路10が出力する直流電圧Vdを用いて空気調和機のファンを回転させるファンモータM2を駆動する。ファンモータ駆動回路50は、3対のスイッチング素子を備えた周知の構成である。例えば、ファンモータM2は、3相ブラシレスモータである。
【0021】
制御回路60は、空気調和機の一部又は全体の動作を制御するマイクロコンピュータから構成され、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える。ROMは、CPUの処理手順を定めるとともに、コンピュータを後述の各部として機能させるプログラムPG、後述の補正情報D1、ファンモータ情報D2などの固定データを予め記憶する。RAMは、各種の演算結果などを一時的に記憶する。
【0022】
例えば、制御回路60は、外部より回転数指令を受信し、回転数指令により指示された目標回転数でモータM1を回転させるように、インバータ回路40を介してモータM1を駆動制御する。制御回路60は、周知のベクトル制御を行って、モータM1の各端子に印加すべき電圧(U,V,Wの各相への電圧指令値)を求め、求めた印加電圧が得られるようにインバータ回路40のスイッチング素子を切り替えるためのPWM信号Su,Sv,Swを生成する。そして、制御回路60は、生成したPWM信号Su,Sv,Swをインバータ回路40に出力する。また、制御回路60は、同様にベクトル制御を行ってファンモータ駆動回路50を介してファンモータM2を駆動制御する。また、制御回路60は、電流センサ30から取得した電流Idの値が、予め定めた閾値以上になった場合、インバータ回路40を停止可能である。
【0023】
この実施形態の制御回路60は、
図2に示すように、主な機能として、PWM信号出力部61と、瞬時値取得部62と、直流電流算出部63と、消費電力算出部64と、交流電圧算出部65と、電圧補正値決定部66と、交流電流推定部67と、を備える。
【0024】
PWM信号出力部61は、PWM信号Su,Sv,Swを生成してインバータ回路40に出力する。具体的に、PWM信号出力部61は、前述のように求めた電圧指令値(モータM1の回転数に同期した周波数の正弦波)とキャリア(例えば三角波形の変調波)とを比較することにより、経時的にオン又はオフに変化するPWM信号Su,Sv,Swを生成する。生成されるPWM信号Su,Sv,Swは、モータM1のU-V相間電圧、V-W相間電圧、W-U相間電圧の各相間電圧の平均電圧が正弦波状に変調された出力電圧となるように、キャリアの周期(以下、キャリア周期T)内でのそれぞれのデューティが異なる。PWM信号出力部61は、このように生成したPWM信号Su,Sv,Swをインバータ回路40へ出力する。インバータ回路40は、PWM信号Suがオンの期間に応じた電圧をモータM1のU相に出力し、PWM信号Svがオンの期間に応じた電圧をモータM1のV相に出力し、PWM信号Swがオンの期間に応じた電圧をモータM1のW相に出力する。これにより、各相間電圧の平均電圧が正弦波状に変調された出力電圧となる。
【0025】
また、PWM信号出力部61は、三相変調方式又は二相変調方式でインバータ回路40を制御可能である。以下では、
図3(a)、
図4(a)に示すように、キャリア周期Tの1周期内におけるPWM信号Su,Sv,Swのうち、オンの期間が最も長いものを第1信号S1とし、オンの期間が第1信号S1の次に長いものを第2信号S2とし、オフの期間が最も長いものを第3信号S3とする。
図3(a)は、三相変調方式の場合のキャリア周期Tの1周期内の第1~第3信号S1~S3を示す。
図3(b)は、
図3(a)に示す1周期内における電流Idの値の実際の挙動を示す。
図4(a)は、二相変調方式の場合のキャリア周期Tの1周期内の第1~第3信号S1~S3を示す。
図4(b)は、
図4(a)に示す1周期内における電流Idの値の実際の挙動を示す。
【0026】
瞬時値取得部62は、電流センサ30から以下に述べる複数のタイミングで電流Idの瞬時値を取得する。瞬時値の取得タイミングは、三相変調方式と二相変調方式の場合で同様である。具体的には
図3(b)、
図4(b)に示すように、瞬時値取得部62は、第1信号S1がオフからオンになった直後の第1タイミングA1、第2信号S2がオフからオンになった直後の第2タイミングA2、第2信号S2がオンからオフになる直前の第3タイミングA3、及び、第1信号S1がオンからオフになる直前の第4タイミングA4で電流Idの瞬時値を取得する。以下、電流Idの瞬時値として、第1タイミングA1での瞬時値をI
1、第2タイミングA2での瞬時値をI
2、第3タイミングA3での瞬時値をI
3、第4タイミングA4での瞬時値をI
4とする。
【0027】
なお、第1~第4タイミングA1~A4は、PWM信号がオフ及びオンの一方から他方に切り替わってから電流Idの値が安定するまでの期間を考慮して予め定められている。例えば、第1タイミングA1は、第1信号S1がオフからオンになってから第1設定期間の経過後の時点である。第2タイミングA2は、第2信号S2がオフからオンになってから第2設定期間の経過後の時点である。第3タイミングA3は、第2信号S2がオンからオフになる時点よりも第3設定期間だけ前の時点である。第4タイミングA4は、第1信号S1がオンからオフになる時点よりも第4設定期間だけ前の時点である。第1~第4設定期間の各設定期間は、μsオーダーの期間である。各設定期間の長さは任意であるが、後に説明する平均電流値IAVの算出方法と、キャリア周期T内における電流Idの値の遷移を考慮すると、少なくとも、第1設定期間と第4設定期間が等しく、第2設定期間と第3設定期間が等しいことが好ましい。この実施形態では、一例として、第1~第4設定期間の全てが5μsの長さに設定されている。
【0028】
直流電流算出部63は、上記各タイミングで取得した電流Idの瞬時値I1~I4と、キャリア周期Tの1周期内における三相のPWM信号(つまり、第1~第3信号S1~S3)のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、当該1周期内における平均電流値IAVを算出する。三相変調方式と二相変調方式で算出手法が異なるため、以下、場合分けして説明する。
【0029】
三相変調方式の場合、直流電流算出部63は、次に示す[数1]の式に基づいてキャリア周期Tの1周期内における平均電流値I
AVを算出する。ここでの第1~第4期間t
1~t
4は、
図3(a)及び
図3(b)を参照して分かるように、以下のように定められる。
第1期間t
1:第1信号S1がオフからオンになってから第2信号S2がオフからオンになるまでの期間
第2期間t
2:第2信号S2がオフからオンになってから第3信号S3がオフからオンになるまでの期間
第3期間t
3:第3信号S3がオンからオフになってから第2信号S2がオンからオフになるまでの期間
第4期間t
4:第2信号S2がオンからオフになってから第1信号S1がオンからオフになるまでの期間
【0030】
【0031】
二相変調方式の場合、直流電流算出部63は、次に示す[数2]の式に基づいてキャリア周期Tの1周期内における平均電流値I
AVを算出する。ここでの第1~第3期間t
1~t
3は、
図4(a)及び
図4(b)を参照して分かるように、以下のように定められる。
第1期間t
1:第1信号S1がオフからオンになってから第2信号S2がオフからオンになるまでの期間
第2期間t
2:第2信号S2がオンの状態を保つ期間
第3期間t
3:第2信号S2がオンからオフになってから第1信号S1がオンからオフになるまでの期間
【0032】
【0033】
ここで、比較例として、第1タイミングA1での瞬時値I
1と第2タイミングA2での瞬時値I
2とを用いてキャリア周期T内の平均電流値を求める手法も考えられる。三相変調方式でこの手法を用いた場合には、I
1(t
1+t
4)+I
2(t
2+t
3)をキャリア周期Tで割った値を、電流Idの平均電流値として算出できる。なお、ここでのt
1~t
4は、
図3(b)と同様である。また、二相変調方式でこの手法を用いた場合、I
1(t
1+t
3)+I
2×t
2をキャリア周期Tで割った値を、電流Idの平均電流値として算出できる。なお、ここでのt
1~t
3は、
図4(b)と同様である。
しかしながら、実際の電流Idの波形は、
図3(b)又は
図4(b)に示すように、キャリア周期T内で左右対称にならず、時間の経過により右肩上がりに増加するため、比較例の手法では、算出した平均値と実際の電流Idの平均値との間に、看過できない誤差が生じる虞がある。
一方、この実施形態の直流電流算出部63は、キャリア周期T内における実際の電流Idの挙動を考慮した[数1]又は[数2]を用いて平均電流値I
AVを算出する。これにより、電流Idを良好な精度で推定できる。
【0034】
消費電力算出部64は、直流電圧Vdを用いて駆動される対象の合計消費電力ΣPを算出する。まず、消費電力算出部64は、直流電流算出部63が算出した平均電流値IAVと電圧センサ20から取得した直流電圧Vdの値とを乗算して、コンプレッサの消費電力PCOMPを求める(PCOMP=IAV×Vd)。また、消費電力算出部64は、ファンモータM2の回転数を測定し、予めROMに記憶されたファンモータM2の回転数と消費電力PFMとの関係を示すファンモータ情報D2を参照して、ファンモータM2の消費電力PFMを求める。なお、消費電力算出部64は、周知の手法によりファンモータM2の回転数を測定する。例えば、消費電力算出部64は、ファンモータM2の各相に流れる電流を検出する、図示せぬ電流センサから取得した値に基づいてファンモータM2の回転数を測定可能である。そして、消費電力算出部64は、コンプレッサの消費電力PCOMPとファンモータM2の消費電力PFMの和を、合計消費電力ΣPとして算出する。なお、消費電力算出部64は、周知の手法でモータ制御回路100が実装される基板の消費電力Petcを求め、この消費電力Petcをコンプレッサの消費電力PCOMPとファンモータM2の消費電力PFMの和にさらに加算した値を合計消費電力ΣPとしてもよい。
【0035】
交流電圧算出部65は、電圧センサ20から取得した直流電圧Vdの値に基づき交流電源11の電圧である交流電圧Vaの値(実効値)を算出する。
【0036】
ここで、直流電圧Vdの値から交流電圧Vaの実効値を算出する方法として、Va=Vd/C(但し、Cは定数)の関係式を用いる手法がある。なお、この実施形態のモータ制御回路100では、コンバータ回路10が2つの電解コンデンサ13a,13bを用いた倍電圧整流回路として構成されているため、定数C=2√2である。しかしながら、モータM1及びファンモータM2の動作中の直流電圧Vdは、交流電圧Vaの実効値のC倍よりも小さくなるため、上記関係式をそのまま用いて交流電圧Vaの実効値を算出すると、算出した実効値と実際の交流電圧Vaとの間で誤差が生じてしまう。
【0037】
この問題に対処するため、交流電圧算出部65は、次に示す[数3]の式に基づいて交流電圧Vaの実効値を算出する。但し、αは、後述の電圧補正値決定部66によって決定される電圧補正値である。定数Cはこの実施形態では上記の通り2√2である。なお、平滑化回路13が1つの電解コンデンサで構成される場合は、C=√2である。
【0038】
【0039】
電圧補正値決定部66は、消費電力算出部64が算出した合計消費電力ΣPと、予めROMに記憶された補正情報D1とに基づいて電圧補正値αを決定する。補正情報D1は、
図5に示すように、予め実験で測定した合計消費電力ΣP[W]と電圧補正値α[V]との関係を示す情報である。例えば、実験で、任意の合計消費電力ΣP[W]の場合に必要な電圧補正値αの値をプロットしたグラフを作成し、作成したグラフの近似曲線を示す式のデータを補正情報D1とすることができる。なお、補正情報D1は、合計消費電力ΣP[W]と電圧補正値αとの対応関係を定めたテーブルデータであってもよい。
交流電圧算出部65は、このように決定された電圧補正値αと、電圧センサ20から取得した直流電圧Vdの値を前述の[数3]の式に代入し、交流電圧Vaの実効値を算出する。
【0040】
交流電流推定部67は、消費電力算出部64が算出した合計消費電力ΣPと、交流電圧算出部65が算出した交流電圧Vaの実効値を、次に示す[数4]の式に代入し、交流電流Iaの値を算出(推定)する。但し、cosθは、コンバータ回路10の構成に応じて予め定められる力率である。
【0041】
【0042】
なお、前述の消費電力Petcに代えて、[数4]の式に、係数である回路効率ηを考慮してもよい。例えば、[数4]の式内に、力率cosθに乗算する回路効率ηを設けてもよい。
【0043】
制御回路60は、以上のように機能する各部によって、交流電流Iaの値を算出(推定)する。そして、制御回路60は、空気調和機を過負荷の条件で運転する場合、または空気調和機の最大能力にて運転する場合、前述した交流電源11の電流容量を越えて運転しないようにするため、以上のように推定した交流電流Iaの値が予め定めた上限値を越えると予測した場合は、交流電流Iaの大半を占めるコンプレッサ用のモータM1への入力電力を抑えるようにインバータ回路40に指令を行う。また、制御回路60は、推定した交流電流Iaの値が予め定めた下限値を下まわると予測した場合は、モータM1への入力電力を上げるようにインバータ回路40に指令を行う。以上の制御によって、制御回路60は、空気調和機の最大能力を交流電源11の電流容量範囲内で持続して出力可能である。
【0044】
以上に説明したモータ制御回路100によれば、電流Idの値を良好な精度で推定でき、交流電圧Vaの実効値を良好な精度で推定できる。したがって、電流Idの値(平均電流値IAV)と交流電圧Vaの実効値とを用いて推定される交流電流Iaの精度も良好である。また、モータ制御回路100によれば、キャリア周期T毎の電流Idの値(平均電流値IAV)を用いて推定される交流電流Iaもキャリア周期T毎に監視できる。したがって、モータ制御回路100は、先に述べた、コンプレッサ用のモータM1への入力電力の制御を良好に実行することもできる。また、モータ制御回路100は、過電流検出用に従前から設けられている電流センサ30からの瞬時値を用いて、交流電流Iaの値を推定できるため、交流電流Iaの値を測定するカレントトランス(CT)を省略できる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。以上では、プログラムPGが制御回路60のROMに予め記憶されているものとしたが、着脱自在の記録媒体により配布・提供されてもよい。また、プログラムPGは、制御回路60と接続された他の機器からダウンロードされるものであってもよい。また、制御回路60は、他の機器と電気通信ネットワークなどを介して各種データの交換を行うことによりプログラムPGに従う各処理を実行してもよい。
【0046】
以上では、キャリア周期Tの1周期内において第1~第4タイミングA1~A4で取得した瞬時値I
1~I
4を用いて平均電流値I
AVを算出した例を説明したが、これに限られない。制御回路60(直流電流算出部63)は、第1~第4タイミングA1~A4のうち、3以上のタイミングで取得した電流Idの瞬時値を用いて、平均電流値I
AVを算出してもよい。例えば、直流電流算出部63は、三相変調方式の場合、(I
1+I
4)/2×(t
1+t
4)+I
2×(t
2+t
3)をキャリア周期Tで割った値を、電流Idの平均電流値I
AVとして算出してもよい。なお、ここでのt
1~t
4は、
図3(b)と同様である。また、直流電流算出部63は、二相変調方式の場合、(I
1+I
4)/2×(t
1+t
3)+I
2×t
2をキャリア周期Tで割った値を、電流Idの平均電流値I
AVとして算出してもよい。なお、ここでのt
1~t
3は、
図4(b)と同様である。さらに、このように瞬時値I
1、I
2、I
4を用いる手法に限られず、直流電流算出部63は、各タイミングでの電流の瞬時値I
1~I
4のうち任意の3つと、キャリア周期Tの1周期内における三相のPWM信号のそれぞれのオン又はオフを示す状態を考慮して求めた電流供給期間とに基づき、前記1周期内における平均電流値I
AVを算出することも可能である。このようにしても、従来の手法よりも電流Idを良好な精度で推定できる。
【0047】
本発明の実施の形態を説明したが、この実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
100…モータ制御回路
10…コンバータ回路
20…電圧センサ
30…電流センサ
40…インバータ回路、M1…モータ
50…ファンモータ駆動回路、M2…ファンモータ
60…制御回路
61…PWM信号出力部、62…瞬時値取得部、63…直流電流算出部
64…消費電力算出部、65…交流電圧算出部、66…電圧補正値決定部
67…交流電流推定部
T…キャリア周期、S1…第1信号、S2…第2信号、S3…第3信号
PG…プログラム、D1…補正情報、D2…ファンモータ情報