(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092285
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】鋳型構成部材およびそれを用いた鋳造製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 27/04 20060101AFI20220615BHJP
B22D 19/00 20060101ALI20220615BHJP
B22C 1/00 20060101ALI20220615BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220615BHJP
H05K 3/20 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B22D27/04 A
B22D19/00 E
B22C1/00 D
H05K1/03 610E
H05K3/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205009
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸司
(72)【発明者】
【氏名】井手口 悟
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 敦史
【テーマコード(参考)】
4E092
5E343
【Fターム(参考)】
4E092AA05
4E092BA07
5E343AA02
5E343AA23
5E343AA24
5E343BB28
5E343BB52
5E343DD62
5E343FF30
5E343GG06
5E343GG08
5E343GG11
(57)【要約】
【課題】寸法精度が高く、表面に鋳造欠陥がほとんど存在しない板状の鋳造製品を湯道の凝固部分から切り離された状態で直接鋳造する技術を提供する。
【解決手段】上記課題は、鋳型内部の製品形状空間へ金属溶湯を注入する注湯孔31と、その注湯孔へ前記溶湯を送給する湯道を有する鋳型構成部材であって、
前記湯道は、注湯孔31への溶湯送給方向が、鋳造時の当該鋳型構成部材に形成される温度勾配の低温側から高温側へ向かう流路部分Pを持ち、
前記流路部分Pへの溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X
0が、前記注湯孔の位置X
1より低温側にある、鋳型構成部材を用いることによって達成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内部の製品形状空間へ金属溶湯を注入する注湯孔と、その注湯孔へ前記溶湯を送給する湯道を有する鋳型構成部材であって、
前記湯道は、注湯孔への溶湯送給方向が、鋳造時の当該鋳型構成部材に形成される温度勾配の低温側(以下、単に「低温側」という。)から高温側(以下、単に「高温側」という。)へ向かう流路部分Pを持ち、
前記流路部分Pへの溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X0が、前記注湯孔の位置X1より低温側にある、鋳型構成部材。
【請求項2】
前記流路部分Pへの溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X0が、前記注湯孔の位置X1より低温側、かつ当該湯道から給湯を受ける前記製品形状空間の最も低温側の位置X2より高温側にある、請求項1に記載の鋳型構成部材。
【請求項3】
前記鋳型は、鋳造時に一端を冷却することにより一方向に抜熱されるものであり、前記温度勾配は当該抜熱によって生じるものである、請求項1または2に記載の鋳型構成部材。
【請求項4】
ガス透過性を有する炭素材料からなる請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳型構成部材。
【請求項5】
当該鋳型構成部材は、外型と、注湯孔を有する中型とが接合した構造を有し、外型と中型の接合面において、外型または中型の表面に設けられた溝によって前記流路部分Pを含む湯道が形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋳型構成部材。
【請求項6】
前記鋳型は、金属溶湯を絶縁基板の表面に接触させた状態で凝固させることにより、前記絶縁基板の表面の一部領域に前記金属の板状体を接合するための鋳型であり、その板状体は前記製品形状空間に鋳造されるものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の鋳型構成部材。
【請求項7】
請求項1に記載の鋳型構成部材を用いて鋳型を構築する過程、
その鋳型の内部の製品形状空間へ、当該鋳型構成部材に備わる注湯孔から金属溶湯を供給し、当該製品形状空間を溶湯で満たす過程、
鋳型の一端を冷却することにより抜熱し、製品形状空間の溶湯を抜熱方向と反対方向へ凝固させる過程、
鋳型内の溶湯がすべて凝固した後、鋳型を分解して製品形状部に得られた鋳造製品を取り出す過程、
を有する、鋳造製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の鋳型構成部材を用いて鋳型を構築する過程(ステップ1)、
その鋳型の内部の製品形状空間へ、当該鋳型構成部材に備わる注湯孔から金属溶湯を供給し、当該製品形状空間を溶湯で満たす過程(ステップ2)、
鋳型の一端を冷却することにより抜熱し、製品形状空間の溶湯を抜熱方向と反対方向へ凝固させながら、当該製品形状空間の未凝固位置にある前記注湯孔から溶湯を供給し続けることにより、製品形状空間での凝固収縮に伴う溶湯不足を補填する過程(ステップ3)、
当該鋳型構成部材に備わる湯道の前記流路部分Pにおいてその低温側で溶湯が凝固し始めた後、流路部分Pと注湯孔との間の流路部分(以下、「パイプQ」という。)に存在する未凝固の溶湯を、製品形状空間での凝固収縮および流路部分Pでの凝固収縮を利用して製品形状空間への注入および湯道内での逆流に供し、パイプQ内を空洞化させる過程(ステップ4)、
鋳型内の溶湯がすべて凝固した後、鋳型を分解して製品形状部に得られた鋳造製品を取り出す過程(ステップ5)、
を有する、鋳造製品の製造方法。
【請求項9】
ステップ1で鋳型を構築するに際し、鋳型内に絶縁基板を配置し、前記鋳型構成部材と前記絶縁基板の間に板状の回路用金属部材が鋳造される1つまたは複数の製品形状空間を形成し、
ステップ5において、絶縁基板の表面に1つまたは複数の回路用金属部材が接合された状態の、絶縁回路基板用の鋳造製品を取り出す、請求項8に記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項10】
ステップ1で鋳型を構築するに際し、鋳型内に絶縁基板を配置し、前記鋳型構成部材と前記絶縁基板の間に板状の回路用金属部材が鋳造される1つまたは複数の製品形状空間を形成するとともに、前記絶縁基板の前記製品形状空間の背面側を含む領域に、前記製品形状空間から分離された放熱ベース部材が鋳造される第2の製品形状空間を形成し、
ステップ5において、絶縁基板の表面に、1つまたは複数の回路用金属部材と、前記回路用金属部材から絶縁された放熱ベース部材とが接合された状態の、ベース一体型絶縁回路基板用の鋳造製品を取り出す、請求項8に記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項11】
絶縁基板はセラミックス板である請求項9または10に記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項12】
絶縁基板は窒化アルミニウム板、窒化珪素板または酸化アルミニウム板である請求項9または10に記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項13】
鋳型は、ガス透過性を有する炭素材料を使用したものである、請求項7~12のいずれか1項に記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項14】
前記鋳型構成部材は、外型と、注湯孔を有する中型とが接合した構造を有し、外型と中型の接合面において、外型または中型の表面に設けられた溝によって前記流路部分Pを含む湯道が形成されているものである、請求項7~13のいずれか1項に記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項15】
鋳型へ注湯する金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金である請求項7~14のいずれか1項に記載の鋳造製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造製品の離型性を改善した鋳型構成部材に関する。特に、絶縁基板の表面に回路用金属板を形成するために適した鋳型構成部材に関する。また、その鋳型構成部材を用いた鋳型によって鋳造製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールなどの半導体装置に用いる半導体素子は、一般的に、セラミックスなどの絶縁基板の上に接合された板状の回路用金属部材の表面に搭載される。その回路用金属部材はアルミニウム系材料や銅系材料で構成されることが多い。絶縁基板と板状の回路用金属部材が一体化したものを、本明細書では「絶縁回路基板」と呼ぶ。絶縁基板の表面に回路用金属部材を接合する手法としては、ろう材層などを介する接合法ではなく、回路用金属部材となる金属の溶湯(溶融金属)を絶縁基板の表面に接触させた状態で板状に凝固させる「溶湯接合法」を適用する場合がある。溶湯接合法では鋳型の内部構造を工夫することで、絶縁基板の回路用金属部材に対して背面側の表面を含む部位に、回路用金属部材から絶縁された所定形状の放熱ベース部材を同時に接合することができる。このように、放熱ベース部材と一体化した絶縁回路基板を、本明細書では特に「ベース一体型絶縁回路基板」と呼ぶ。
【0003】
上記の回路用金属部材は、所望の回路パターンに応じて1つまたは複数の板状体として絶縁基板上に形成される。絶縁回路基板において、回路用金属部材は他の金属部材から絶縁された状態であることが必要である。すなわち、個々の回路用金属部材は絶縁基板上に島状に配置される。そのため、溶湯接合法において回路用金属部材を絶縁基板上に鋳造する際には、回路用金属部材に相当する鋳造製品が、鋳型に設ける湯道(溶湯供給路)部分の凝固金属から切り離された状態で島状に形成されることが望ましい。また、回路用金属部材に相当する板状の鋳造製品は、特に厚さおよび表面平滑性において、目的の回路用金属部材にできるだけ近い、寸法精度の高い形状で鋳造されることが望ましい。さらに、半導体素子を搭載することになる表面の近傍には引け巣やボイドなどの鋳造欠陥がほとんど存在しないことが望ましい。しかし、寸法精度が高く、表面に鋳造欠陥がほとんど存在しない板状の鋳造製品を、湯道の凝固部分から切り離された状態で、鋳造時において直接形成させることは容易でない。
【0004】
セラミックス絶縁基板の表面に回路用金属部材を接合する溶湯接合法として、例えば特許文献1には、アルミニウムの溶湯をセラミックス基板上の型に所定の高さまで充填し、固化させる手法が開示されている(段落0051、
図4)。この場合、鋳型内に注入された溶融金属の湯面(溶融金属と気相部の界面)が凝固後にそのまま回路用金属部材の表面となるので、厚さおよび表面平滑性において寸法精度の高い回路用金属部材を直接形成することは困難である。また、最終凝固部が回路用金属部材の表面となるので、その表面近傍に微細な引け巣やボイド等の鋳造欠陥が生じ易く、半導体素子を搭載する前に入念な表面手入れが必要となる場合がある。さらに、この文献の鋳造方法では、ベース一体型絶縁回路基板を製造する際、放熱ベース部材(ベース板)と回路用金属部材を別々に溶湯接合する必要がある。
【0005】
特許文献2には、セラミックス基板の周縁部と裏面を覆うベース板を、回路用金属部材とともに溶湯接合法で形成する手法が記載されている。このような構造のベース一体型絶縁回路基板では、半導体チップをはんだ付けする際などの加熱によるベース板の「反り」のばらつきを抑制することができるという。しかし、この文献に開示の鋳造法では引け巣が生じ易い。また、湯道の凝固部分から切り離された状態の回路用金属部材を直接鋳造することはできない。
【0006】
特許文献3には、冷し金を鋳型の内部に押し込みながら金属溶湯の温度勾配を制御することにより、金属部材における結晶粒の粗大化が抑制されたベース一体型絶縁回路基板を得る技術が開示されている。この文献に開示の溶湯接合法でも、湯道の凝固部分から切り離された状態の回路用金属部材を直接鋳造することはできない。また、島状に独立した回路用金属部材を得るためには、金属回路層のアルミニウムの一部を薬液処理等で除去する工程が必要となる(段落0040)。
【0007】
特許文献4には、溶湯接合法により絶縁回路基板を作製するに際し、アルミニウム系の金属溶湯を鋳型の高温側から低温側へ向けて加圧しながら注湯して凝固させることにより、引け巣やボイドなどの欠陥を抑制する技術が開示されている。しかし、湯道の凝固部分から切り離された回路用金属部材を鋳造により直接形成させる手法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-76551号公報
【特許文献2】特開2017-228551号公報
【特許文献3】特開2018-163995号公報
【特許文献4】特開2008-253996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、寸法精度が高く、表面に鋳造欠陥がほとんど存在しない板状の鋳造製品を湯道の凝固部分から切り離された状態で直接鋳造することができる技術の提供を第1の目的とする。また、その技術を利用して、絶縁基板の表面に湯道の凝固部分から切り離された状態の回路用金属部材が島状に形成された絶縁回路基板用の鋳造製品を得ること、更には絶縁基板の表面に上記の回路用金属部材と放熱ベース部材とが接合されたベース一体型絶縁回路基板用の鋳造製品を得ることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋳型内部の製品形状空間へ金属溶湯を供給するための湯道(溶湯供給路)は、通常、鋳型構成部材の高温側から低温側へと溶湯が送給されるように流路が設計される。それにより湯道内で溶湯が先に凝固して溶湯供給が途絶えてしまうようなトラブルが防止され、最後まで安定した溶湯供給が実現できる。発明者らは研究の結果、湯道の途中に、低温側から高温側へと溶湯が流れる部位を設け、溶湯供給の最終的な段階において湯道の途中部分で先に凝固を生じさせることによって、湯道の凝固部分から切り離された鋳造製品を得ることができることを見出した。湯道の途中で凝固を生じさせて溶湯の送給を遮断すると、その先の湯道に残った溶湯を、製品形状空間および湯道内の凝固収縮を利用して、製品形状空間への注入および湯道内での逆流に供することができ、製品形状空間近傍の湯道を空洞化させることが可能になる。これにより、湯道の凝固部分から切り離された状態の鋳造製品が得られ、離型性も向上する。本発明はこのような知見に基づいて成されたものである。
【0011】
本明細書では以下の発明を開示する。
[1]鋳型内部の製品形状空間へ金属溶湯を注入する注湯孔と、その注湯孔へ前記溶湯を送給する湯道を有する鋳型構成部材であって、
前記湯道は、注湯孔への溶湯送給方向が、鋳造時の当該鋳型構成部材に形成される温度勾配の低温側(以下、単に「低温側」という。)から高温側(以下、単に「高温側」という。)へ向かう流路部分Pを持ち、
前記流路部分Pへの溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X0が、前記注湯孔の位置X1より低温側にある、鋳型構成部材。
[2]前記流路部分Pへの溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X0が、前記注湯孔の位置X1より低温側、かつ当該湯道から給湯を受ける前記製品形状空間の最も低温側の位置X2より高温側にある、上記[1]に記載の鋳型構成部材。
[3]前記鋳型は、鋳造時に一端を冷却することにより一方向に抜熱されるものであり、前記温度勾配は当該抜熱によって生じるものである、上記[1]または[2]に記載の鋳型構成部材。
[4]ガス透過性を有する炭素材料からなる上記[1]~[3]のいずれかに記載の鋳型構成部材。
[5]当該鋳型構成部材は、外型と、注湯孔を有する中型とが接合した構造を有し、外型と中型の接合面において、外型または中型の表面に設けられた溝によって前記流路部分Pを含む湯道が形成されている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の鋳型構成部材。
[6]前記鋳型は、金属溶湯を絶縁基板の表面に接触させた状態で凝固させることにより、前記絶縁基板の表面の一部領域に前記金属の板状体を接合するための鋳型であり、その板状体は前記製品形状空間に鋳造されるものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の鋳型構成部材。
[7]上記[1]に記載の鋳型構成部材を用いて鋳型を構築する過程、
その鋳型の内部の製品形状空間へ、当該鋳型構成部材に備わる注湯孔から金属溶湯を供給し、当該製品形状空間を溶湯で満たす過程、
鋳型の一端を冷却することにより抜熱し、製品形状空間の溶湯を抜熱方向と反対方向へ凝固させる過程、
鋳型内の溶湯がすべて凝固した後、鋳型を分解して製品形状部に得られた鋳造製品を取り出す過程、
を有する、鋳造製品の製造方法。
[8]上記[1]に記載の鋳型構成部材を用いて鋳型を構築する過程(ステップ1)、
その鋳型の内部の製品形状空間へ、当該鋳型構成部材に備わる注湯孔から金属溶湯を供給し、当該製品形状空間を溶湯で満たす過程(ステップ2)、
鋳型の一端を冷却することにより抜熱し、製品形状空間の溶湯を抜熱方向と反対方向へ凝固させながら、当該製品形状空間の未凝固位置にある前記注湯孔から溶湯を供給し続けることにより、製品形状空間での凝固収縮に伴う溶湯不足を補填する過程(ステップ3)、
当該鋳型構成部材に備わる湯道の前記流路部分Pにおいてその低温側で溶湯が凝固し始めた後、流路部分Pと注湯孔との間の流路部分(以下、「パイプQ」という。)に存在する未凝固の溶湯を、製品形状空間での凝固収縮および流路部分Pでの凝固収縮を利用して製品形状空間への注入および湯道内での逆流に供し、パイプQ内を空洞化させる過程(ステップ4)、
鋳型内の溶湯がすべて凝固した後、鋳型を分解して製品形状部に得られた鋳造製品を取り出す過程(ステップ5)、
を有する、鋳造製品の製造方法。
[9]ステップ1で鋳型を構築するに際し、鋳型内に絶縁基板を配置し、前記鋳型構成部材と前記絶縁基板の間に板状の回路用金属部材が鋳造される1つまたは複数の製品形状空間を形成し、
ステップ5において、絶縁基板の表面に1つまたは複数の回路用金属部材が接合された状態の、絶縁回路基板用の鋳造製品を取り出す、上記[8]に記載の鋳造製品の製造方法。
[10]ステップ1で鋳型を構築するに際し、鋳型内に絶縁基板を配置し、前記鋳型構成部材と前記絶縁基板の間に板状の回路用金属部材が鋳造される1つまたは複数の製品形状空間を形成するとともに、前記絶縁基板の前記製品形状空間の背面側を含む領域に、前記製品形状空間から分離された放熱ベース部材が鋳造される第2の製品形状空間を形成し、
ステップ5において、絶縁基板の表面に、1つまたは複数の回路用金属部材と、前記回路用金属部材から絶縁された放熱ベース部材とが接合された状態の、ベース一体型絶縁回路基板用の鋳造製品を取り出す、上記[8]に記載の鋳造製品の製造方法。
[11]絶縁基板はセラミックス板である上記[9]または[10]に記載の鋳造製品の製造方法。
[12]絶縁基板は窒化アルミニウム板、窒化珪素板または酸化アルミニウム板である上記[9]または[10]に記載の鋳造製品の製造方法。
[13]鋳型は、ガス透過性を有する炭素材料を使用したものである、上記[7]~[12]のいずれかに記載の鋳造製品の製造方法。
[14]前記鋳型構成部材は、外型と、注湯孔を有する中型とが接合した構造を有し、外型と中型の接合面において、外型または中型の表面に設けられた溝によって前記流路部分Pを含む湯道が形成されているものである、上記[7]~[13]のいずれかに記載の鋳造製品の製造方法。
[15]鋳型へ注湯する金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金である上記[7]~[14]のいずれかに記載の鋳造製品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、湯道などのいわゆる方案部で凝固した不要な凝固金属から切り離された状態の寸法精度に優れた鋳造製品を得ることができる。その鋳造製品を鋳型から取り出す際の離型性も向上する。本発明を、絶縁基板の表面に板状の回路用金属部材を形成するための溶湯接合法に適用すれば、他の金属部分から電気的に孤立した島状の回路用金属部材を絶縁基板上に直接形成させることができるので、その後の工程でレジスト膜を用いたエッチングなどによる煩雑なパターン化の作業が回避され、絶縁回路基板の生産性向上に寄与できる。また、所定の形状を有する放熱ベース部材を回路用金属部材とともに絶縁基板の表面に形成させるための溶湯接合法に適用することも可能である。その場合、一度の鋳造で絶縁基板、回路用金属部材および放熱ベース部材が一体化した鋳造製品を得ることができ、後工程で放熱ベース部材に付随する湯道の凝固部分を除去すれば、煩雑なエッチング作業を回避した工程でベース一体型絶縁回路基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の鋳型構造部材を用いた溶湯接合法を利用して作製することができるベース一体型絶縁回路基板の構造の一例を模式的に示した図。
【
図2】本発明の鋳型構成部材の構造を模式的に例示した平面図。
【
図3】
図2の鋳型構成部材の断面構造を模式的に例示した断面図。
【
図4】
図2の鋳型構成部材を構成する外型の構造を模式的に例示した平面図。
【
図5】
図4の外型の断面構造を模式的に例示した断面図。
【
図6】
図2の鋳型構成部材を構成する中型の構造を模式的に例示した平面図。
【
図7】
図6の中型の断面構造を模式的に例示した断面図。
【
図8】
図2の鋳型構造部材と組み合わせて使用する第2の鋳型構成部材の構造を模式的に例示した平面図。
【
図9】
図8の第2の鋳型構成部材の断面構造を模式的に例示した断面図。
【
図10】
図2の本発明の鋳型構成部材と
図8の第2の鋳型構成部材とを組み合わせて構築した鋳型の断面構造を模式的に例示した断面図。
【
図11】
図10の鋳型による鋳造時の凝固過程を時系列に例示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、一例として、本発明の鋳型構造部材を用いた溶湯接合法を利用して作製することができるベース一体型絶縁回路基板の構造を模式的に例示する。
図1(a)は平面図、(b)はB-B断面図である。セラミックスなどの絶縁基板1の片側表面上に、板状体である回路用金属部材2が接合されている。
図1の例では3個の回路用金属部材2が島状に形成されている。絶縁基板1の、回路用金属部材2に対して背面側には、放熱ベース部材3が接合されている。
図1に示した放熱ベース部材3は絶縁回路基板1の端面を囲むように周壁部4を有している。このような構造のベース一体型絶縁回路基板は、半導体素子をはんだ等により搭載する工程での「反り」に対する抵抗力が強く、また、放熱性や強度にも優れる。放熱ベース部材は表面に放熱フィンを有する構造とすることもできる。放熱ベース部材3の周壁部4の部分には、半導体装置の筐体や冷却器に取り付ける際に使用する貫通孔5が形成されている。
【0015】
溶湯接合法によりベース一体型絶縁回路基板を作製する場合、回路用金属部材2および放熱ベース部材3の金属としてはアルミニウムまたはアルミニウム合金を適用することが好ましい。絶縁基板1の材質としては窒化アルミニウム、窒化珪素、酸化アルミニウムなどが好適である。絶縁基板1の厚さは例えば0.25~1mm程度とすることができる。絶縁基板1の形状が矩形の場合、その一辺の長さは例えば30~150mm程度とすることができる。回路用金属部材2の厚さは例えば0.2~2mm程度の範囲で設定することができる。
図1では、これらの厚さを誇張して描いてある。必要に応じて、回路用金属部材2の半導体素子搭載位置には、はんだ層や銀焼結層を介した接合工程の前にニッケル系めっき等が施される。
以下、
図1に示した構造のベース一体型絶縁回路基板の作製を例に挙げて、本発明の鋳型構成部材およびそれを用いた鋳造製品の鋳造方法を説明する。
【0016】
図2、
図3に、本発明の鋳型構成部材の構造を模式的に例示する。
図2は平面図、
図3は
図2に表示したA-A、B-BおよびC-Cの断面図である。ここで例示する本発明の鋳型構成部材100は、外型10と中型20が嵌め合わされた構造を有している。中型20の表面には、鋳造時に絶縁基板(
図1の符号1)に当接することになる凸部21と、回路用金属部材(
図1の符号2)に対応する製品形状空間となる凹部22と、放熱ベースの周壁部(
図1の符号4)に対応する製品形状空間となる凹部23と、周壁部の貫通孔(
図1の符号5)の部分に対応する凸部24が形成されている。外型10には、鋳造時に組み合わされることになる図示しない第2の鋳型構成部材の溶湯貯留部(
図8、
図9の符号201参照)の空間に嵌合する凸部11があり、鋳造時には凸部11の上面に金属溶湯が注がれる。外型10の表面には、回路用金属部材(
図1の符号2)に対応する凹部22に溶湯を供給するための湯道30が溝状に形成されている。
図2中には、中型20の下にある湯道30の位置を破線で示してある。中型20の凹部22には注湯孔31があり、注湯孔31の内部は中型20の板厚を直線的に貫通している。その貫通部は枝分かれした湯道30の溝の先端付近に繋がっている。
【0017】
鋳造時には凸部11の上面部分に金属溶湯が注がれ、その溶湯が加圧されて溶湯流入口30Aから湯道30へと送給されることになる。したがって、
図2、
図3において、右側が温度勾配の高温側、左側が温度勾配の低温側となる。湯道30は、温度勾配の低温側から高温側へ向かう流路部分Pを有している。そして、流路部分Pから注湯孔31までの湯道はストレートな形状、すなわち屈曲がなく中心軸が直線的である管で構成されている。この流路部分Pから注湯孔31までの湯道部分を、本明細書では「パイプQ」と呼び、
図3中に記号Qで示してある。
なお、放熱ベース部材(
図1の符号3)の製品形状空間である凹部23へ溶湯を供給するための湯道は、回路用金属部材(
図1の符号2)の製品形状空間である凹部22に溶湯を供給するための湯道30(溶湯流入口30Aからの下流部分)とは別の経路となる。
【0018】
図4、
図5に、上記
図2、
図3の鋳型構成部材を構成する外型10について、その構造を模式的に例示する。
図4は平面図、
図5は
図4に表示したA-A、B-BおよびC-Cの断面図である。符号12は中型(
図2、
図3の符号20)が嵌め込まれる凹部である。
【0019】
図6、
図7に、上記
図2、
図3の鋳型構成部材を構成する中型20について、その構造を模式的に例示する。
図4は平面図、
図5は
図4に表示したA-A、B-BおよびC-Cの断面図である。
【0020】
図8、
図9に、上記
図1に示したベース一体型絶縁回路基板用の鋳造製品を作製するために、上記
図2、
図3に示した本発明の鋳型構成部材と組み合わせて使用する第2の鋳型構成部材の構造を模式的に例示する。
図8は平面図、
図9は
図8に表示したB-BおよびC-Cの断面図である。このB-B断面は、鋳型を構成したときに
図3のB-B断面と同一平面を形成する部分である。第2の鋳型構成部材200は、鋳型に供給された金属溶湯を受け入れる溶湯貯留部201を有する。溶湯貯留部201は第2の鋳型構成部材200の胴体を貫通する空間からなり、鋳造時には溶湯貯留部201の開口部である給湯口204から金属溶湯が導入されることになる。第2の鋳型構成部材200の表面には、放熱ベース部材(
図1の符号3)に対応する製品形状空間となる凹部202と、放熱ベース周壁部の貫通孔(
図1の符号5)の部分に対応する凸部203が形成されている。溶湯貯留部201と凹部202の間には湯道230が凹状に形成されている。
【0021】
図10に、上記
図2、
図3に示した本発明の鋳型構成部材と、
図8、
図9に示した第2の鋳型構成部材とを組み合わせて構築した鋳型の断面構造を模式的に例示する。この断面は、
図2および
図8のそれぞれB-Bで表示した位置の断面に相当する。以下、この断面を単に「B-B断面」と呼ぶ。鋳型内部には溶湯接合法に供するための絶縁基板1が配置されている。鋳造時に、鋳型構成部材の最も高温になる部位は、通常、鋳型の外部から供給された金属溶湯が最初にその鋳型構成部材と接触する部分である。
図10の鋳型を構成する鋳型構成部材100では、溶湯貯留部201に面する凸部11の部分が「最も高温になる部位」に相当する。「鋳造時の鋳型構成部材に形成される温度勾配の高温側」とは、通常、その鋳型構成部材の、ある位置から見て、当該鋳型構成部材の最も高温になる部位に近づく方向に存在する領域である。「鋳造時の鋳型構成部材に形成される温度勾配の低温側」とは、通常、その鋳型構成部材の、ある位置から見て、当該鋳型構成部材の最も高温になる部位から遠ざかる方向に存在する領域である。
図10の鋳型構成部材100の場合、凸部11より左側に存在する任意の位置において、図の左側が低温側、右側が高温側となる。実際の鋳型においては、溶湯が外部から鋳型へ注がれる給湯口の位置や冷却手段の設置条件などから、鋳型構成部材の各位置における温度勾配の方向を判断することができる。
【0022】
それぞれの鋳型構成部材の材質は、例えばガス透過性を有する炭素材料とすることができる。
【0023】
このB-B断面内には、回路用金属部材が鋳造される製品形状空間が2つある。それらを区別するために、
図10中には低温側および高温側の製品形状空間をそれぞれ記号AおよびBで示してある。製品形状空間Aに繋がる湯道の流路部分Pを「P(A)」、パイプQを「Q(A)」と表示する。同様に、製品形状空間Bに繋がる湯道の流路部分Pを「P(B)」、パイプQを「Q(B)」と表示する。また、
図10中には、流路部分Pへの溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X
0、注湯孔31の位置X
1、およびその注湯孔31がある製品形状空間の最も低温側の位置X
2についても、製品形状空間AおよびBに対応してそれぞれ「(A)」および「(B)」の記号を添えて表示してある。一方、放熱ベース部材が鋳造される製品形状空間については、記号Cで表示してある。
【0024】
前記流路部分Pの深さは0.2~2mm程度、長さは1~10mm程度が好ましい。パイプQが円筒形の場合、その直径は0.2~2mm程度、長さは1~10mm程度が好ましい。
パイプQは屈曲した形状でもよいが、パイプQの作製しやすさ、金属溶湯の供給や凝固収縮によるパイプQ内の空洞化を考慮すると、ストレートな形状であるのが好ましい。 放熱ベース部材の外形は、絶縁基板の端部(側面)より外側に10~50mm程度大きいことが好ましく、絶縁基板の回路用金属部材が形成される反対側の面に形成される放熱ベース部材の厚さは1~5mm程度であるのが好ましい。
第2の鋳型構成部材の放熱ベース部材が鋳造される製品形状空間の形状を、多数の放熱用ピンまたはフィンが絶縁基板の反対側の放熱ベース部材の表面に形成されるようにして、放熱用ピンまたはフィンと一体化された放熱ベース部材を有する鋳造製品が得られるようにしてもよい。
【0025】
鋳造は、例えば以下のようにして行う。鋳型を加熱炉に装入し、窒素ガスなどの非酸化性ガス雰囲気中で加熱しておき、溶解炉で溶融させた金属材料の溶湯を給湯口204から溶湯貯留部201へ導入する。その際、注湯される金属溶湯は、溶湯表面の酸化皮膜が除去された状態のものであることが望ましい。例えば、溶解炉から供給される溶湯に対して酸化皮膜除去処理を行いながら注湯することが好ましい。前記の酸化皮膜除去処理としては、アルミニウム系金属の溶湯の場合であれば、例えば極小ノズルを通過させることにより溶湯表面の酸化皮膜を除去しながら注湯する手法が有効である。鋳型内の溶湯貯留部201に溜まった金属溶湯を湯道230および湯道30へと送給し、鋳型内の空間に溶湯を充填させる。低温側端部の鋳型外壁(
図10の左端)に冷却装置として例えば水冷の銅ブロックを接触させるなどの方法で、鋳型の低温側から強制的に抜熱することにより、指向性凝固させることが望ましい。引け巣などの鋳造欠陥を防止するために、給湯口204から窒素ガス等の不活性ガスにより例えば30~200kPaの圧力で加圧しながら湯道への溶湯送給を行い、凝固を進行させることが望ましい。
【0026】
【0027】
図11(a)は、製品形状空間A、B、Cの全てに溶湯50が充填された段階である。この段階は上述[8]に記載のステップ2に相当する。A、B、C以外の図示しない製品形状空間にも溶湯50の充填が完了している。
鋳造に際しては、まず給湯口204から鋳型の溶湯貯留部201へ金属溶湯が導入される。溶湯50は、給湯口204からの不活性ガスによる加圧を受けながら、溶湯貯留部201から湯道230を通り製品形状空間Cに供給される。一方、溶湯貯留部201内の溶湯50の一部は、溶湯貯留部201の底部にある図示しない溶湯流入口(
図3のA-A断面の符号30A)から湯道230とは別の経路である湯道30に進み、注湯孔31から製品形状空間A、Bに供給される。この段階では、鋳型内の溶湯50はまだ凝固を開始していない。
【0028】
図11(b)は、製品形状空間CとAの、それぞれ低温側の一部分において凝固が完了した段階である。この段階は製品形状空間Aにおいて上述[8]に記載のステップ3を迎えている。溶湯の凝固開始面を符号51で示してある。
鋳造時には鋳型の低温側端部(図の左端)から冷却装置により抜熱を行うことによって、高温側と低温側の温度勾配の方向を、よりいっそう一方向化することができる。その温度勾配に従い、凝固開始面51は図の左側から右側へと概ね一方向へ進行し、指向性凝固が実現できる。
図11(b)には凝固開始面51の進行方向を白抜き矢印で示してある(
図11(c)、
図12(d)(e)において同様)。凝固開始面51の直後には凝固進行部52、すなわち固液共存領域があり、それに続いてハッチングで示した凝固完了部53が形成されて行く。
【0029】
製品形状空間Aに繋がる湯道30には、製品形状空間Aへの溶湯送給方向が低温側から高温側へと向かう流路部分P(A)が設けられている。
図11の例では、この流路部分P(A)への溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X
0(A)は、製品形状空間Aの最も低温側の位置X
2(A)より高温側にある。
図11(b)の段階において、X
2(A)の位置では、まだ凝固が開始していない。そのため、製品形状空間A内での凝固収縮に見合った溶湯が流路部分P(A)を経由して供給され続けている。
【0030】
図11(c)は、製品形状空間CとAの、それぞれ低温側の一部分に加え、製品形状空間Aへの湯道に存在する流路部分P(A)の低温側の一部分において凝固が始まっている段階である。この段階は製品形状空間Aにおいて上述[8]に記載のステップ4を迎えている。
注湯孔の位置X
1(A)は、流路部分P(A)への溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X
0(A)より高温側にある。
図11(c)の段階において、X
1(A)の位置、すなわちパイプQ(A)内では、まだ凝固が開始していない。一方、流路部分P(A)の低温側の一部分は既に凝固が始まっているので、製品形状空間Aに繋がる湯道は、途中の凝固部分で溶湯貯留部201からの溶湯の供給が遮断されている。このとき、パイプQ(A)内の溶湯は、製品形状空間Aでの凝固収縮によって製品形状空間A内へ吸引されると同時に、流路部分P(A)での凝固収縮によって湯道内を逆流する方向へも吸引される。そのため、パイプQ(A)内の溶湯が双方へ流動することにより、パイプQ(A)内に空洞部32が形成される。
【0031】
図12(d)は、製品形状空間Aでの凝固が完了し、製品形状空間Bへの湯道に存在する流路部分P(B)の低温側の一部分において凝固が始まっている段階である。この段階は製品形状空間Bにおいて上述[8]に記載のステップ4を迎えている。
製品形状空間Aに繋がるパイプQ(A)では空洞化が完了し、空洞部32は最終的に注湯孔31の近傍にまで広がっている。
製品形状空間Bにおける注湯孔の位置X
1(B)は、流路部分P(B)への溶湯供給ルートとなる湯道部分の最も低温側の位置X
0(B)より高温側にある。
図12(d)の段階において、X
1(B)の位置、すなわちパイプQ(B)内では、まだ凝固が開始していない。一方、流路部分P(B)の低温側の一部分は既に凝固が始まっているので、製品形状空間Bに繋がる湯道は、途中の凝固部分で溶湯貯留部201からの溶湯の供給が遮断されている。このとき、上述した
図11(c)におけるパイプQ(A)の場合と同様に、パイプQ(B)内の溶湯は、製品形状空間Bでの凝固収縮によって製品形状空間B内へ吸引されると同時に、流路部分P(B)での凝固収縮によって湯道内を逆流する方向へも吸引される。そのため、パイプQ(B)内の溶湯が双方へ流動することにより、パイプQ(B)内に空洞部32が形成される。
【0032】
図12(e)は、製品形状空間Aに加え、製品形状空間BおよびCにおいても凝固が完了している段階である。
凝固開始面51は湯道230へと進んでいる。パイプQ(A)と同様に、製品形状空間Bに繋がるパイプQ(B)でも空洞化が完了し、その空洞部32は最終的に注湯孔31の近傍にまで広がっている。
【0033】
以上のような凝固過程によって、絶縁基板上に、他の金属部材から島状に独立した1つまたは複数の回路用金属部材を、湯道から切り離された状態で形成することができると考えられる。注湯孔31の近傍まで空洞部32が広がっていると、鋳型を分解して鋳造製品を取り出す際の離型性がよりいっそう向上する。そのためには、注湯孔31に繋がるパイプQの径を細くすることが有利となる。一方、パイプQを細くすると注湯孔31からの注湯速度が遅くなるため、その場合には多数のパイプQを設ける必要がある。細いパイプQを数多く設けることは鋳型構成部材の製造コスト上昇を招く。また、鋳型を繰り返し使用する際の清掃にも手間がかかる。したがって、離型性とコストのバランスを考慮し、パイプQの本数や径を最適化することが望ましい。また、注湯孔31から注湯する製品形状空間の最終凝固部での引け巣の発生を抑止する観点から、注湯孔31を製品形状空間のできるだけ高温側に設けることが有効である。
また、製品形状空間の最も低温側の位置X2が、湯道部分の最も低温側の位置X0より高温側にある場合でも、湯道の幅(容積)などの適切な設計により本発明の作用効果を得ることができる。引け巣などの鋳造欠陥を抑止する鋳造制御を行いやすくするためには、温度勾配の低温側から前記位置X2、前記位置X0、前記位置X1とすることがより効果的である。
【0034】
上記のようにして得られたベース一体型絶縁回路基板用の鋳造製品は、放熱ベース部材に繋がる湯道(符号230)の凝固部分を切断除去し、注湯孔31の部分に残った突起部などを研磨で手入れすることにより、所定形状のベース一体型絶縁回路基板とすることができる。絶縁基板上の回路用金属部材は、既に島状に孤立しているので、レジスト膜を使用する煩雑な除去工程が回避される。
【実施例0035】
図2、
図3に示したものと同様の構造を有する本発明の鋳型構成部材と、
図8、
図9に示したものと同様の構造を有する第2の鋳型構成部材を組み合わせて、
図10に示した構造の鋳型を構築し、その鋳型を用いた溶湯接合法を利用して、
図1に示したものと同様の構造を有するベース一体型絶縁回路基板用の鋳造製品を以下のようにして作製した。
このベース一体型絶縁回路基板は、絶縁基板が72mm×70mm×0.6mmの窒化アルミニウム板、回路用金属部材が厚さ1.2mmの純アルミニウム製、放熱ベース部材が絶縁基板の背面の厚さ1.2mm、絶縁基板の回路面から周壁部のまでの高さ1.2mm、周壁部のトータル厚さ1.2+0.6+1.2=3mmの純アルミニウム製である。
【0036】
(本発明の鋳型構成部材)
外型、中型とも、ガス透過性を有する等方性黒鉛材のブロックを切削して作製した。
図2、
図3に示した流路部分Pは、外型の表面に溝を形成することにより作製した。いずれの流路部分Pにおいても、溝の深さは1mm程度、幅は1mmとした。中型を貫通するパイプQは、いずれも内径1mm程度とした。回路用金属部材の製品形状空間の相当する凹部(
図2、
図3の符号22)の、最も高温側の端部から約1mm低温側の位置に、注湯孔(
図2、
図3の符号31)の中心が位置するように、各パイプQの貫通孔を作製した。
【0037】
(第2の鋳型構成部材)
第2の鋳型構成部材(
図10の符号200)についても、上記と同様の等方性黒鉛材のブロックを切削して作製した。
【0038】
(鋳型の構築)
上記の本発明の鋳型構成部材と、上記の第2の鋳型構成部材との間に、上記の絶縁基板を配置して、
図10に示す断面構造を有する鋳型を構築した。絶縁基板は中型(
図10の符号20)の表面に設けた図示しない柱状の凸部により保持する方法で鋳造中に動かないようにした。本発明の鋳型構成部材と、上記の第2の鋳型構成部材とは、数箇所をボルトにより締結する方法で接合した。それらのボルト締結部については、
図2、
図8において記載を省略してある。
【0039】
(鋳造)
上記の鋳型を窒素ガス雰囲気のチャンバー内に置き、約700℃に加熱した状態とし、純度99.9%以上の純アルミニウムの溶湯を鋳型の給湯口(
図10の符号204)から導入した。導入前の溶湯には極小ノズルを通過させることにより溶湯表面の酸化皮膜を除去する処理を施し、鋳型へ導入する際の溶湯温度は約700℃とした。鋳型の給湯口から窒素ガスにより数10kPa程度で加圧して、鋳型の溶湯貯留部(
図10の符号201)に溜まった金属溶湯を湯道へ送給し、鋳型内の全空間に溶湯を充填した。鋳型の低温側端部の外壁(
図10の左端)に冷却装置として水冷の銅ブロックを接触させることにより抜熱し、指向性凝固を進行させた。鋳型への溶湯導入開始から鋳型内のすべての溶湯の凝固が完了するまでの所要時間は数分であった。
【0040】
(鋳造製品の取り出し)
溶湯の凝固が完了し、鋳型温度が常温付近まで低下した後、本発明の鋳型構成部材と第2の鋳型構成部材を分離し、鋳造製品を取り出した。本発明の鋳型構成部材を構成していた中型に設けられた貫通孔(パイプQ)は、いずれも内部が空洞化しており、鋳造製品の離型性は良好であった。
【0041】
絶縁基板表面に島状に接合された板状の回路用金属部材は、その表面の注湯孔(
図2、
図3の符号31)の部分に小さい突起を有していたが、その突起高さは表面から概ね0.5mm程度以下、最大でも1mm以下であり、通常の研磨作業で十分に除去することができる程度であった。回路用金属部材に、使用上問題となるような引け巣やボイド等の鋳造欠陥は見られなかった。すなわち、本発明に従う鋳造製品の製造方法によって、厚さおよび表面平滑性において寸法精度の高い形状を有するニア・ネット・シェイプの回路用金属部材を絶縁基板表面に形成することができた。鋳造製品に付随する不要な凝固部分は、放熱ベース部材の一端に付随する湯道部分(
図10の符号230の部分)のみであり、これは通常の機械加工により簡単に除去できる。この鋳造製品は、回路用金属部材が回路パターンに応じて既に島状に形成されているので、回路パターン化のための煩雑なエッチング作業を回避することができる。このあと、簡単な表面手入れと洗浄作業を施せば、めっき工程へ進めることができる。