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特開2022-92288インクジェット記録装置、クリーニング装置、及びワイパーブレード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092288
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、クリーニング装置、及びワイパーブレード
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20220615BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B41J2/165 301
B41J2/14 501
B41J2/165 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205012
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 万梨絵
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056JB03
2C056JB04
2C056JB08
2C057AG01
(57)【要約】
【課題】 ワイパーによって払拭されたインクの飛散を抑制する。
【解決手段】 インクジェット記録装置100は、記録ヘッド21の吐出面20Fをワイピングする弾性変形可能なワイパーブレード55を有する。ワイパーブレードは、吐出面に接触する接触部が前記ワイピング方向における前記吐出面の前端に対して傾斜して配置され、前記接触部は、複数の接触領域56、57、58に分割されている。少なくとも1つの接触領域には、ワイピング方向X2における後方部に前方から後方にかけて傾斜する傾斜部57a、58aが形成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の吐出口が配列された吐出面を有する記録ヘッドと、前記吐出口の配列方向と交差する所定のワイピング方向に沿って前記吐出面をワイピングする弾性変形可能なワイパーブレードと、を有するインクジェット記録装置であって、
前記ワイパーブレードは、前記吐出面に接触する接触部が前記ワイピング方向における前記吐出面の前端に対して傾斜するように配置され、
前記接触部は、複数の接触領域に分割され、
少なくとも1つの前記接触領域には、前記ワイピング方向における後方部に前方から後方にかけて傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記傾斜部は、直線的な形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記傾斜部は、曲線的な形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記傾斜部は、弧状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記吐出面は、前記吐出口が形成されたヘッドチップの吐出口形成面と、前記ヘッドチップを保持するヘッド本体の底面とにより構成され、
前記接触部は、前記吐出口形成面に接触してワイピングを行う第1接触領域と、前記底面に接触してワイピングを行う第2接触領域と、を備えることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記吐出面は、前記吐出口形成面の両端部に沿って前記ワイピング方向に延在する2つの凸部を有し、
前記ワイパーブレードは、前記2つの凸部との接触を避けるための2つの切欠部を有し、
前記接触部は、前記2つの切欠部によって前記第1接触領域と当該第1接触部の両側に位置する2つの前記第2接触領域とに分割されることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記ワイピングは、所定の位置に保持されたワイパーブレードに対し前記記録ヘッドを前記ワイピング方向に沿って移動させることにより行われることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記ワイピングは、所定の位置に保持された前記記録ヘッドに対し前記ワイパーブレードを移動させる対し前記記録ヘッドを前記ワイピング方向に沿って移動させることにより行われることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記ワイパーブレードは、前記吐出口の配列方向に対して10度~20度の角度で傾斜していることをとを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
記録ヘッドの吐出面に形成された複数の吐出口の配列方向と交差する所定のワイピング方向に沿って前記吐出面をワイピングする弾性変形可能なワイパーブレードを有するクリーニング装置であって、
前記ワイパーブレードは、前記吐出面に接触する接触部が前記ワイピング方向における前記吐出面の前端に対して傾斜するように配置され、
前記接触部は、複数の接触領域に分割され、
少なくとも1つの前記接触領域には、前記ワイピング方向における後方部に前方から後方にかけて傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とするクリーニング装置。
【請求項11】
記録ヘッドの吐出面に形成された複数の吐出口の配列方向と交差する所定のワイピング方向に沿って前記吐出面をワイピングする弾性変形可能なワイパーブレードであって、
前記ワイパーブレードは、前記吐出面に接触する接触部が前記ワイピング方向における前記吐出面の前端に対して傾斜するように配置され、
前記接触部は、複数の接触領域に分割され、
少なくとも1つの前記接触領域には、前記ワイピング方向における後方部に前方から後方にかけて傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とするワイパーブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録装置、これに設けられるクリーニング装置、及びワイパーブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドの吐出口が形成されている面(吐出面)に付着したインクや紙粉等の異物は、吐出口の吐出性能を低下させる要因となる。このため、インクジェット記録装置には、弾性部材からなるワイパーブレードによって吐出面をワイピングすることにより異物を除去するクリーニング装置が設けられている。
【0003】
クリーニング装置によるワイピング動作中、ワイパーブレードは、記録ヘッドの吐出面との圧接により弾性変形した状態となる。このため、ワイピングが終了してワイパーブレードが記録ヘッドから離間する際には、弾性復帰する勢いでワイパーブレードに付着したインクが飛散し、記録媒体や周辺部分を汚損する場合がある。
【0004】
特許文献1には、記録ヘッドの吐出口の配列方向に対してワイパーブレードを斜めに当接させる構成が開示されている。これによれば、ワイパーブレードが吐出面から徐々に離間するため、ワイパーブレードが弾性復帰する際の勢いを低減し、インクの飛散を抑えることが可能になる。
【0005】
また、特許文献2には、ワイパーの先端をスリットによって分割し、記録ヘッドの吐出面を構成するチップ部の吐出口形成面とその周囲の面とを独立して払拭する構成が開示されている。これによれば吐出口形成面とその周囲の面との間に段差が形成されている場合にも、各面を適正に払拭することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-127432号公報
【特許文献2】特開2005-67028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の技術を組み合わせた場合、チップ部を払拭するワイパー中央部については、ワイパーの弾性変形が徐々に復元するためインクの飛散を抑制することができる。しかし、吐出口形成面の外側の面を払拭するワイパーの両端部については、ワイパーを斜めに当接させたとしてもワイパーの弾性変形は瞬間的に復元されるため、インクの飛散を抑制することができない。
【0008】
本発明は、ワイパーによって払拭されたインクの飛散を抑制することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インクを吐出する複数の吐出口が配列された吐出面を有する記録ヘッドと、前記吐出口の配列方向と交差する所定のワイピング方向に沿って前記吐出面をワイピングする弾性変形可能なワイパーブレードと、を有するインクジェット記録装置であって、前記ワイパーブレードは、前記吐出面に接触する接触部が前記ワイピング方向における前記吐出面の前端に対して傾斜するように配置され、前記接触部は、複数の接触領域に分割され、少なくとも1つの前記接触領域には、前記ワイピング方向における後方部に前方から後方にかけて傾斜する傾斜部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ワイパーによって払拭されたインクの飛散を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態におけるインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図。
図2図1に示すインクジェット記録装置におけるキャリッジユニットの側面図。
図3図1に示すインクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図。
図4】実施形態における記録ヘッドの回復動作を示す説明図。
図5】記録ヘッドの吐出面とワイパーブレードとの位置関係を示す図。
図6】第1実施形態におけるワイパーブレードの配置を示す図。
図7】第1実施形態におけるワイパーブレードの寸法形状を示す図。
図8】ワイピング動作及びインクが飛散する様子を示す図。
図9】第2実施形態におけるワイパーブレードの配置を示す図。
図10】第2実施形態におけるワイパーブレードの寸法形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態におけるインクジェット記録装置(以下、単に記録装置という)100の内部構成を概略的に示す斜視図である。記録装置100は、この記録装置100に画像情報を送るホストPC(パーソナルコンピュータ)12に接続されている。また記録装置100は、インクを吐出する記録ヘッド21と、記録ヘッド21をY方向に移動可能に保持すると共にキャリッジレールガイド40に沿って主走査方向(図1のX方向(X1、X2方向))に移動可能に保持されるキャリッジユニット20とを有する。キャリッジユニット20は、キャリッジ走査モータ30の駆動力によって移動する駆動ベルト32に連結されており、駆動ベルト32と共に主走査方向へと移動する。本実施形態では、キャリッジ走査モータとしてDCモータを使用しているが、ステッピングモーターでも代用可能である。
【0014】
また、インクジェット記録装置100は、記録媒体を支持するプラテン部材10とプラテン部材10の下方に、記録媒体としての記録用紙を載置する用紙載置部11が設けられている。用紙載置部11に対し、ユーザがF方向から記録用紙をセットしたことを検知すると、不図示のリフタ部が用紙載置部11を垂直方向(Z方向)にリフトアップする。これにより、記録用紙が用紙載置部11とプラテン部材10とに挟持されて固定される。プランテン部材10は、固定状態にある記録用紙の記録領域Rに相当する部分が露出するように開口部10aが設けられている。記録ヘッド21は、開口部10aにおいて露出している記録媒体に対してインクを吐出して記録を行う。
【0015】
また、記録装置100には、記録ヘッド21における吐出口の吐出性能を維持・回復させるための回復ユニット50が設けられている。回復ユニット50は、記録装置100の端部(図1では右側の端部)であるホームポジションに配置されており、任意のタイミングで記録ヘッド21の回復動作を実施する。回復ユニット50には、記録ヘッド21の下面、すなわち、インクを吐出する吐出口が形成されている側の面である吐出面に付着した異物を払拭するクリーニング装置と、記録ヘッドの吐出口から強制的にインクを吸引する吸引回復装置と、が設けられている。
【0016】
クリーニング装置には、記録ヘッド21の吐出面を払拭(ワイピング)する後述のワイパーブレード55(図4)と、これを昇降させる不図示のブレード昇降機構とが設けられている。なお、ワイパーブレード55の詳細については後に詳細に説明する。
【0017】
また、吸引回復装置は、記録ヘッド21の吐出口を覆うキャップ部材51(図4)、キャップ部材51を吐出面に接離させるキャップピングモータ、キャップ部材51内に負圧を発生させる不図示の吸引ポンプ及びメンテナンスカートリッジ58等を備える。
【0018】
以上の構成を有する記録装置において、キャリッジ走査モータ30の駆動力を受けたキャリッジユニット20は主走査方向に移動し、記録領域Rの上を通過するタイミングで記録ヘッド21からインクを吐出する。これにより、記録媒体への記録が行われる。なお、キャリッジユニット20の動作領域上には、リニアエンコーダのエンコーダスケール33が設けられている。このエンコーダスケール33の位置をキャリッジユニット20に設けられたエンコーダセンサ34(図3)で読み取ることにより、キャリッジユニット20の位置が検出される。また、記録ヘッド21の吐出口の回復動作を行う場合には、キャリッジユニット20を記録装置のホームポジションに設けられた回復ユニット50上へと移動させ、後述の回復動作を行う。
【0019】
図2は、キャリッジユニット20の構成を示す側面図である。本実施形態において、記録ヘッド21は、インクを吐出する吐出口が形成されたヘッドチップ23(図6)と、不図示のインクタンクとをヘッド本体22(図5)内に一体的に設けた構成を有する。この記録ヘッド21は、記録ヘッドホルダ25と共に記録系キャリッジ24を構成し、駆動系キャリッジ26に支持されている。記録ヘッドホルダ25には、記録ヘッド21に備えられた導通部と接点をとる不図示の記録ヘッド制御基板を備えており、導通部材により制御部と通信をとることで記録ヘッド21の取り付け状況などを示す信号を制御部に伝達している。
【0020】
駆動系キャリッジ26は、前述のキャリッジ走査モータ30の駆動力によって移動する駆動ベルト32に連結され、キャリッジレールガイド40に案内されつつ主走査方向(X方向)に移動する。これに対し記録系キャリッジ24は、駆動系キャリッジ26内において、主走査方向と交差する方向(Y方向)に移動可能に支持されている。また、記録系キャリッジ24は、駆動系キャリッジ26内の所定位置に当接するように、付勢部材27によってY方向に付勢されている。
【0021】
記録動作時において、記録ヘッド21は、駆動系キャリッジ26と共に記録領域Rまで移動する。この後、記録ヘッド21は、駆動系キャリッジ26と共に記録領域R内に位置する記録用紙を走査しつつインクを吐出して記録を行う。記録ヘッド21には、主走査方向(X方向)と交差するY方向に沿って配置された複数の吐出口からなる吐出口列が形成されており、吐出口列の長さに応じた幅(Y方向の長さ)の領域に記録が行われる。
【0022】
1つの領域に対する記録が終了すると、駆動系キャリッジ24は所定位置から復動(X2方向の移動)を開始する。このとき、記録ヘッド21は、不図示の案内レールによってY方向へと移動し、先に記録した記録媒体上の領域とは異なる領域を走査しつつ記録を行う。この記録ヘッドの往復走査によって記録媒体の記録領域Rに所定の画像が記録される。
【0023】
図3は、記録装置100に設けられた制御系の概略構成を示すブロック図である。記録装置100の制御部300は、インターフェイスコントローラ301を介してホストコンピュータ12に接続されている。制御部300は、中央処理装置(CPU)306を備え、プログラムROM302に格納されている制御プログラムを実行することにより記録装置100の各構成要素を制御する。また、制御部300は、各種データ処理のワークエリアや受信バッファとして使用されるメモリとして、ワークRAM304、及び記録データの展開部としてのイメージメモリ303を備える。
【0024】
制御部300の制御回路307は、記録ヘッド21を駆動する記録ヘッド制御部308を備える。また、出力ポート311は、各モータの駆動を制御するモータ制御部313を備える。モータ制御部313は記録ヘッド21を移動させるためのキャリッジ走査モータ30、リフタ部(不図示)を駆動するリフトアップモータ316を制御する。さらに、モータ制御部313は、キャップ部材51を移動させるためのキャッピングモータ317、吸引ポンプを制御するためのポンプモータ318、ワイパーブレードを上下に移動させるブレード昇降機構54の駆動力を発生するワイパーアップモータ319を制御する。また、制御部300には、ユーザが種々の指示やデータを入力するための操作パネル305が設けられている。
【0025】
図4は、本実施形態において記録ヘッド21の吐出性能の維持・回復を行うために実施される、記録ヘッド21の回復動作を示す図である。
【0026】
図4(a)は、記録ヘッド21内のインクを吸引することによって吐出口21aの吐出性能を回復させる吸引回復動作を示す図である。キャッピング昇降機構52に設けられたキャッピングモータ317を駆動し、記録ヘッド21の吐出面20Fにキャップ部材51を当接させる。この状態でポンプモータ318を駆動させ、キャップ部材51内に負圧を発生させる。これにより、記録ヘッド内に生じている増粘したインクが吐出口21aを介して吸引され、メンテナンスカートリッジ58に排出される。
【0027】
図4(b)は、吸引動作後、記録ヘッド21に当接させていたキャップ部材51を吐出面20Fから引き離す動作を示している。キャッピングモータ317を駆動させることにより、下方(矢印bの方向)にキャップ部材51を移動させ、キャップ部材51を吐出面20Fから離間させる。このとき、記録ヘッド21の吐出面20Fには、吸引動作によって引き出されたインクIが付着している。
【0028】
図4(c)は、記録ヘッド21の吐出面20Fに付着したインクIを払拭するためのワイピング準備動作を示している。記録ヘッド21の吐出面20Fに付着しているインクIをワイピングするため、ワイパーブレード55は、吐出面20Fに対する侵入量がTsとなるまで、矢印c方向(上方)へ移動する。この動作は、ワイパーアップモータ319の駆動力によってブレード昇降機構54を動作させることにより行う。
【0029】
図4(d)は、ワイピング動作によって、記録ヘッド21の吐出面20Fをワイピングする様子を示している。キャリッジ走査モータ30の駆動力によって、キャリッジユニット20を矢印X1に示す往走査方向へ記録ヘッド21を移動させると、侵入量Tsとなる位置にあるワイパーブレード55に記録ヘッド21が当接する。弾性変形可能な部材(弾性部材)により構成されるワイパーブレード55は、図4(d)に示すように弾性変形する。そして、記録ヘッド21の主走査方向(X1方向)への移動によって、ワイパーブレード55の端部に位置する接触部が記録ヘッド21の吐出面20Fを摺動し、吐出面20Fに付着していたインクIを払拭していく。
【0030】
ここで、図5を参照しつつ、本実施形態における記録ヘッド21の吐出面20Fとワイパーブレード55との位置関係を説明する。
【0031】
図5(a)は、記録ヘッド21を下方から見た状態を示す底面図である。記録ヘッド21において、記録用紙と対向する吐出面20Fは、ヘッド本体22の底面22aと、この底面22aの中央部に固定されたヘッドチップ23の底面であるチップ面(吐出口形成面)23aとを含む。
【0032】
チップ面23aには、インクを吐出する複数の吐出口をY方向に沿って配列してなる吐出口列23bが形成されている。吐出面20Fの外形をなすヘッド本体22の底面22aは矩形形状を有している。そして、吐出口列23bは、吐出面20Fのワイピング方向(Y方向)の前端と平行する方向に延在している。また、吐出面20Fには、ヘッドチップ23のY方向における両端部に沿って延在する凸部22b、22cが形成されている。
【0033】
図5(b)は、図5(a)に示す記録ヘッド21を側方から見た状態を示す側面図である。図5(b)に示すように、ヘッド本体22の底面22aには、前述の凸部22bと22cが下方に突出している。また、僅かではあるが、ヘッドチップ23のチップ面23aは、ヘッド本体22の底面22aより凹んでいる。
【0034】
このように、記録ヘッド21のヘッド面20Fには、凹凸形状を有している。この凹凸形状の影響を受けずに吐出面20F全体を適正に払拭するために、ワイパーブレード55の先端部には、図5(c)に示すように、2つのスリット55b、55cが形成されている。図5(c)はワイパーブレード55をヘッド本体22を側方から見た側面図である。図5(b)と図5(c)との対比から明らかなように、ワイパーブレード55の2つのスリット55bと55cは、記録ヘッド21の吐出面20Fに形成された凸部22bと22cと対応する位置に形成されている。このため、ワイパーブレード55が、前述のように吐出面20Fと当接して払拭する際、吐出面20Fに形成された凸部22b、22cは、ワイパーブレード55のスリット55bの内を通過する。従って、ワイパーブレード55は、凸部22b、22cと干渉することなく、吐出面20Fを摺動することができる。
【0035】
また、ワイパーブレード55における吐出面20Fとの接触部は、スリット55b及び55cによって、3つの接触領域(第1接触領域56、第2接触領域57、58)に分割されている。ここで、接触領域56は、ヘッドチップ23のチップ面23aを払拭(ワイピング)する領域となる。この接触領域56の両側に設けられている接触領域57、58は、ヘッド本体22の底面22aを払拭する領域となる。
【0036】
図6は、第1実施形態におけるワイパーブレード55の配置及び形状を示す図であり、図6(a)は、記録ヘッド21及びワイパーブレード55の平面図、図6(b)は、記録ヘッド21及びワイパーブレード55の側面図である。
【0037】
本実施形態におけるワイパーブレード55は、図6(a)に示すように、吐出口列23bの形成方向(Y方向)に対して10度ないし20度傾けた角度をもって配置されている。また、本実施形態においてワイパーブレード55は、前述のキャップ部材51の設置位置からプラテン10の開口部10aに至る記録ヘッド21の移動経路中に配置されている。従って、記録ヘッド21が、ホームポジションであるキャップ部材51との対向位置から開口部10aに向かう方向(X1方向)に移動する間に、ワイパーブレード55が吐出面に摺接してワイピングを行う。この際、ワイパーブレード55は、接触領域57、56、58の順で吐出面20Fに接触する。以下、本明細書では、ワイパーブレード55において接触領域57が形成されている側をワイピング方向の前方と定義し、接触領域58が形成されている側をワイピング方向の後方と定義する。
【0038】
また、図6(b)に示すように、ワイパーブレード55には、ワイピング方向(X2方向)の前方側に位置する接触領域57からスリット55bにかけて、直線的に傾斜する傾斜部57aが形成されている。さらに、ワイパーブレード55には、ワイピング方向の後方側に位置する接触領域58からその後方側端部にかけて、直線状に傾斜する傾斜部58aが形成されている。
【0039】
図7は、第1実施形態におけるワイパーブレード55の形状を特定するために必要とされる要素を示す図である。図7(a)は記録ヘッド21及びワイパーブレード55の平面図、図7(b)はワイパーブレード55の平面図及び側面図である。ワイパーブレード55に形成されたスリット55b、55c、及び傾斜部57a、58aは、ワイピング動作において、記録ヘッド21の吐出面20Fに当接させないように構成する必要がある。また、ヘッドチップ23のチップ面23aについては確実にワイパーブレード55を用いてワイピングを行う必要がある。このような要求を満たすようにワイパーブレード55を形成するためには、ワイパーブレード55の以下の部分の寸法形状及び大小関係を特定すればよい。
・ワイパーブレード55の接触領域56の長さ:Lc
・ワイパーブレード55の接触領域57、58の長さ:Le
・ワイパーブレード55において記録ヘッド21の吐出面20Fに当接しない長さ:Lb
・ワイパーブレード55が記録ヘッド21に当接したときの重なり長さ(侵入量):Ts
・吐出口列23bの長さ:Ln
・吐出口列23bの端部から凸部22bの端部までの長さ長さ:Lg
・吐出口の配列方向に対するワイパーブレード55の当接角度:θ
・Lc*cosθ>Ln
【0040】
図8は記録ヘッド21の吐出面20Fをワイパーブレードによってワイピングしたときに、ワイパーブレード55Aによって掻き集められたインクが飛散する様子を示す図である。図8の(A1)から(A3)は、本実施形態に対する第1比較例のワイピング動作を示す図である。第1比較例に示すワイパーブレード55Aには、本実施形態のワイパーブレード55のような傾斜部57a、58aが形成されておらず、スリット55b、55cのみが形成されている。さらに、ワイパーブレード55Aの先端部は、吐出口列が延在する方向(Y方向)に対して傾いていない。つまり、記録ヘッド21の吐出面20Fの端部と平行に配置されている。
【0041】
この第1比較例の(A1)から(A2)に至るワイピングにおいて、ワイパーブレード55Aは、記録ヘッド21の吐出面20Fに弾性変形した状態で当接しつつ吐出面20Fを摺動し、吐出面20Fに付着したインクを払拭していく。これにより、ワイパーブレード55Aと吐出面20Fとの間には掻き集められたインクが保持される。
【0042】
ワイピング動作の終了時、すなわち吐出面20Fの端部からワイパーブレード55Aが離間するとき、ワイパーブレード55Aの両端は同じタイミングで瞬時に吐出面20Fから解放される。その結果、ワイパーブレード55には大きな弾性復元力が発生し、ワイパーブレードの払拭動作によって掻き集められたインクは、(A3)に示すように勢い良くワイピング方向に飛散する。さらに、大きな弾性復元力によって高速に移動するワイパーブレード55Aは、弾性変形前の初期状態を超えてワイピング方向とは逆方向に弾性変形し、その弾性変形によって生じた復元力により、ワイパーブレード55Aは、ワイピング方向とは逆方向に移動する。このときのワイパーブレード55Aの移動によって、ワイパーブレード55Aに付着していたインクは、ワイピング方向とは逆方向にも飛散することとなる。このように、(A1)~(A3)に示す第1比較例では、払拭動作によって掻き集められたインクの多くが記録装置100内の広範囲に飛散し、内部機構や記録用紙を汚損するという問題が生じる。
【0043】
図8の(B1)~(B3)は、本実施形態に対する第2比較例のワイピング動作を示す図である。この第2比較例におけるワイパーブレード55Bには、本実施形態のワイパーブレード55のような傾斜部57a、58aが形成されておらず、スリット55b、55cのみが形成されている。但し、第2比較例のワイパーブレード55Bは、記録ヘッド21の吐出口が配列されている方向(Y方向)に対して傾いた状態で配置されている。例えば、記録ヘッド21の吐出面21Sの端部に対して10度から20度の傾きをもって配置されている。
【0044】
この第2比較例の(B1)から(B2)に至るワイピング動作において、ワイパーブレード55Bは、記録ヘッド21の吐出面20Fに弾性変形した状態で当接しつつ吐出面20Fを摺動し、吐出面20Fに付着したインクを払拭していく。これにより、ワイパーブレード55と吐出面20Fとの間には掻き集められたインクが保持される。(B2)はワイパーブレード55が吐出面20Fから離間する直前の状態を示している。ワイパーブレード55Bにおいて、図8の紙面手前側の接触部は吐出面20Fに当接した状態にあるが、図8の紙面奥側の接触部は、既に吐出面20Fには当接しておらず、紙面手前側のワイパーブレード55の接触部に比べて立ち上がった状態になっている。
【0045】
このように、ワイパーブレード55Bの弾性変形は図面の紙面奥側から徐々に解放されていく。このため、(B3)に示すようにワイパーブレード55Bが吐出面20Fから完全に離間してた時点でワイパーブレード55Bに生じる弾性復元力は、(A3)の場合に比べて減少し、ワイピング方向への移動速度も低減される。従って、(B3)におけるインクの飛散量及び飛散範囲は(A3)に比べて減少する。但し、ワイパーブレード55Bの接触領域が図5(c)の接触領域57のように狭い領域であった場合、その接触領域の先端部が吐出面20Sの端部に対して傾斜していたとしても、その接触領域の両端部が吐出面20Fから離間するタイミングは略同一となる。従って、吐出面20Fから離間した際の接触領域の幅が狭い場合には、弾性復元力はさほど低減されず、依然として多くのインクが装置内あるいは紙面に飛散することとなる。
【0046】
図8の(C1)~(C3)は、本実施形態におけるワイピンク動作を示す図である。本実施形態におけるワイパーブレード55は、スリット55b及び55Cによって3つの接触領域56、57、58に分割され、かつ狭い接触領域57、58には、それぞれ、ワイピング方向(X2方向)における後方部に、傾斜部55b、55cが形成されている。さらに、ワイパーブレード55の接触部は、吐出口の配列方向(Y方向)と平行する吐出面20Fの端部に対し、10度~20度の角度をもって傾斜している。
【0047】
本実施形態のワイパーブレード55Bでは、ヘッドチップ23を払拭する接触領域56の先端部は広い幅を有し、吐出面20の端部に対して傾斜している。このため、接触領域56の先端部は吐出面20Fから徐々に開放されていく。その結果、接触領域60が吐出面20Fから完全に離間する場合にも、大きな弾性復元力が発生することはなく、接触領域60によって掻き集められたインクが広範囲に飛散することはない。
【0048】
また、比較的狭い幅を有する接触領域57、58には、ワイピング方向における後方部に傾斜部57a、57bが形成されているため、各領域の両端部が吐出面20Fから離間するタイミングには時間差が生じる。つまり、ワイパーブレード55は、徐々に吐出面20Fから離間していくこととなる。このため、接触領域57、58のいずれにあっても、吐出面20Sから完全に離間する際に生じる弾性復元力は、第2比較例に比べて大幅に減少し、払拭動作によって掻き集められたインクが飛散する量及び飛散する範囲も大幅に抑制される。さらに、吐出面20Sから離間した際のワイパーブレード55の移動速度も低減されるため、ワイピング方向とは逆方向に弾性変形する程度も大幅に抑制され、ワイピング方向とは逆方向、つまり記録用紙の存在する方向へのインクの飛散も抑制される。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、ワイパーブレード55によって払拭されたインクによる装置内及び記録用紙の汚損を抑制することが可能になり、記録される画像の品質向上及び記録装置の吐出性能及び寿命を向上させることができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、図9及び図10を参照しつつ説明する。第2実施形態の基本的構成は、第1実施形態と同様であるため、以下においては、本実施形態の特徴的なワイパーブレード55の形状を中心に説明を行う。なお、図9及び図10において、第1実施形態と同一もしくは相当部分には、同一符号を付す。
【0051】
図9は、第2実施形態におけるワイパーブレード155の配置及び形状を示す図であり、図9(a)は、記録ヘッド21及びワイパーブレード155の平面図、図9(b)は、記録ヘッド21及びワイパーブレード155の平面図である。
【0052】
本実施形態におけるワイパーブレード155は、第1実施形態と同様に、ヘッド本体22の底面22aとヘッドチップ23のチップ面23aとを含む吐出面20Fに付着したインクを払拭(ワイピング)するものである。従って、本実施形態においても、吐出面20Fの凸部22b、22cとの干渉を避けるスリット155b、155cがワイパーブレード155に形成されている。また、このスリット155b、155cにより、ワイパーブレード155の先端は、3つの接触領域156、157、158に分割されている。ここで、接触領域156は、ヘッドチップ23のチップ面を払拭する接触領域であり、接触領域157、158はヘッド本体22の底面22aを払拭する接触領域である。また、本実施形態のワイパーブレード155は、吐出口列23bが延在する方向(Y方向)に対して10度~20度の傾きをもって配置されている。
【0053】
また、ワイパーブレード155には、ワイピング動作方向(X2方向)における前方側に位置する接触領域157からスリット155bにかけて、曲線的な形状を有する傾斜部157aが形成されている。さらに、ワイパーブレード155には、ワイピング動作方向における後方側に位置する接触領域158からその後方側端部にかけて曲線的な形状を有する傾斜部158aが形成されている。なお、図示の例では、傾斜部157a、158aはいずれも円弧状をなしている。
【0054】
図10は、第2実施形態におけるワイパーブレード55の寸法形状を示す図であり、図10(a)は記録ヘッド21及びワイパーブレード55の平面図、図10(b)はワイパーブレード55の平面図及び側面図である。本実施形態においても、ワイパーブレード55に形成されたスリット155b、155c、及び傾斜部157a、158aは、ワイピング動作において、記録ヘッド21の吐出面20Fに当接させないように構成する必要がある。さらにヘッドチップ23のチップ面23aについては確実にワイパーブレード55を用いてワイピングを行う必要がある。従って、本実施形態においても、このような要求に応じたワイパーブレード155を形成する場合には、ワイパーブレード155の、Lc、Le、Lb、Ts、Ln、θ等を適宜設定すればよい。
【0055】
(他の実施形態)
上記実施形態では、本発明を適用する記録ヘッドとして、1列の吐出口列を形成した例を示したが、複数の吐出口列が並設されている記録ヘッドにも本発明は適用可能である。複数の吐出口列を備える記録ヘッドの場合、それぞれの吐出口列から吐出されるインク色は、単一色であっても複数色であってもよい。
【0056】
また、記録ヘッド21は1本に限らず、複数本備えられていてもよい。記録ヘッドが複数本備えられている場合、ワイパーブレード55は記録ヘッド1本に対して1枚のワイパーブレードを用いるように構成することも可能である。また、複数の記録ヘッドを1枚のワイパーブレードでワイピングするように構成することも可能である。
【0057】
さらに、上記実施形態では、ワイパーブレードにおける吐出面との接触部を複数の接触領域に分割するための切欠部として、吐出面に形成されている凸部を通過させ得る幅を有するスリットを形成した例を示した。しかし、記録ヘッドの凹凸形状に適合する形状であれば、スリット以外の切欠部を形成してもよい。例えば、ワイパーブレードの先端に切込みや、V字状の切欠部を形成してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ワイパーブレードに対して記録ヘッドを移動させることによって記録ヘッドの吐出面をワイピングする例を示した。これに対し、記録ヘッドが定位置にある状態でワイパーブレードを移動させることにより、吐出面をワイピングするようにに構成することも可能である。また、記録ヘッドとワイパーブレードの双方を同時に移動させて払拭動作を行うようにすることも可能である。
【0059】
また、上記実施形態では、複数の接触領域のうち、ヘッド本体の底面に対応する接触領域(両端に位置する接触領域)にのみ傾斜部を形成した。しかし、ヘッド本体の底面に対応する接触領域だけでなく、ヘッドチップの吐出口形成面に対応する接触領域にも傾斜部を形成してもよい。すなわち、吐出口形成面を適正にワイピングできる領域を確保できる場合には、吐出口形成面のワイピングを担当する接触部に傾斜部を形成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
100 インクジェット記録装置
20F 吐出面
21 記録ヘッド
55 ワイパーブレード
56、57、58 接触領域
57a、58a 傾斜部
X2 ワイピング方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10