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  • 特開-四節回転機構 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092302
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】四節回転機構
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/32 20060101AFI20220615BHJP
   G10B 3/00 20190101ALI20220615BHJP
   G10C 3/02 20060101ALI20220615BHJP
   E05F 5/00 20170101ALI20220615BHJP
   E05F 3/14 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
G10H1/32 Z
G10B3/00 210
G10C3/02 100
E05F5/00 A
E05F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205041
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】目崎 愼太郎
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478JJ03
(57)【要約】
【課題】蓋のデザインに制約を生じさせることなく、蓋を開くときおよび閉じるときの双方において減速効果を得ることができる四節回転機構を提供する。
【解決手段】蓋の開閉に用いられる四節回転機構であって、その一端が前記蓋の回転軸Aに接続されるリンクaと、その一端が前記リンクaの他端の回転軸Bと接続されるリンクbと、その一端がリンクbの他端の回転軸Cと接続され、その他端に歯車を設けたリンクcと、その一端が前記歯車の回転軸Dと接続され、その他端が前記蓋の回転軸Aと接続される固定リンクであるリンクdと、前記歯車と咬み合い、1方向の回転に対して粘性抵抗を有する1方向性ロータリーダンパーを含み、前記蓋の可動域内に前記リンクcを原動節とした場合の死点の位置が含まれる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋の開閉に用いられる四節回転機構であって、
その一端が前記蓋の回転軸Aに接続されるリンクaと、
その一端が前記リンクaの他端の回転軸Bと接続されるリンクbと、
その一端がリンクbの他端の回転軸Cと接続され、その他端に歯車を設けたリンクcと、
その一端が前記歯車の回転軸Dと接続され、その他端が前記蓋の回転軸Aと接続される固定リンクであるリンクdと、
前記歯車と咬み合い、1方向の回転に対して粘性抵抗を有する1方向性ロータリーダンパーを含み、
前記蓋の可動域内に前記リンクcを原動節とした場合の死点の位置が含まれる
四節回転機構。
【請求項2】
請求項1に記載の四節回転機構であって、
前記リンクcを原動節とした場合の死点の位置を基準として、前記蓋を閉じる方向の可動域である第1可動域θが、前記蓋を開ける方向の可動域である第2可動域θよりも大きい
四節回転機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載の四節回転機構であって、
前記回転軸A、B、C、Dに直交する平面との交点を点A、B、C、Dとし、直線ABと直線CDの交点を点Iとし、前記蓋が前記蓋を閉じる方向に傾斜すればするほど、線分ICの長さを線分IBの長さで除算した値が大きくなる
四節回転機構。
【請求項4】
蓋の開閉に用いられる四節回転機構であって、
前記蓋に接続される原動節と、
前記原動節に接続される中間節と、
前記中間節に接続される従動節と、
前記従動節と前記原動節に接続される静止節と、
前記従動節に伴って回転する歯車と、
前記歯車と咬み合い、1方向の回転に対して粘性抵抗を有する1方向性ロータリーダンパーを含み、
前記蓋の可動域内に前記従動節を原動節とした場合の死点の位置が含まれる
四節回転機構。
【請求項5】
請求項4に記載の四節回転機構であって、
前記従動節を原動節とした場合の死点の位置を基準として、前記蓋を閉じる方向の可動域である第1可動域が、前記蓋を開ける方向の可動域である第2可動域よりも大きい
四節回転機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋の開閉に用いられる四節回転機構に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵盤楽器の蓋の開閉に用いられる蓋開閉装置の従来例として例えば特許文献1がある。特許文献1の蓋開閉装置は、簡易な構造で、スムーズで安全な開閉を実現することを目的とし、第1蓋歯車、第2蓋歯車、第1制動歯車、第2制動歯車、1方向性ロータリーダンパーを備える。第1蓋歯車と第2蓋歯車は、蓋回転軸を回転の軸とし、蓋回転軸の軸方向の互いに異なる位置に配置されている。第1制動歯車は、第1回転軸を回転の軸とする。第2制動歯車は、第2回転軸を回転の軸とする。1方向性ロータリーダンパーは、第1回転軸または第2回転軸に配置されている。第1制動歯車と第2制動歯車とは、互いに逆方向に回転するようにかみ合った状態である。第1蓋歯車は、第1状態と閉状態との間で第1制動歯車とかみ合う。第2蓋歯車は、第2状態と開状態との間で第2制動歯車とかみ合う。1方向性ロータリーダンパーは、第1蓋歯車と第1制動歯車とがかみ合った状態で蓋が閉じる方向に動いているときに回転動作を制動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-212796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の蓋開閉装置によれば、蓋の回転軸に二つの歯車(第1蓋歯車、第2蓋歯車)を設ける必要があった。十分な減速効果を得るためにこれら二つの歯車を大きくする必要があり、蓋のデザインに制約が生じていた。
【0005】
そこで本発明では、蓋のデザインに制約を生じさせることなく、蓋を開くときおよび閉じるときの双方において減速効果を得ることができる四節回転機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の四節回転機構は、蓋の開閉に用いられる四節回転機構であって、その一端が蓋の回転軸Aに接続されるリンクaと、その一端がリンクaの他端の回転軸Bと接続されるリンクbと、その一端がリンクbの他端の回転軸Cと接続され、その他端に歯車を設けたリンクcと、その一端が歯車の回転軸Dと接続され、その他端が蓋の回転軸Aと接続される固定リンクであるリンクdと、歯車と咬み合い、1方向の回転に対して粘性抵抗を有する1方向性ロータリーダンパーを含み、蓋の可動域内にリンクcを原動節とした場合の死点の位置が含まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の四節回転機構によれば、蓋のデザインに制約を生じさせることなく、蓋を開くときおよび閉じるときの双方において減速効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の四節回転機構の状態S1、S2、S3を示す断面図。
図2】実施例1の四節回転機構の状態S4、S5、S6を示す断面図。
図3】原動節であるリンクaの回転動作に伴うリンクcの回転方向を説明する図。
図4】状態S1~S3における|IC|/|IB|の大きさとその推移を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0010】
以下、図1図2を参照して実施例1の四節回転機構を内蔵する楽器の構造について説明する。状態S1に示すように、楽器1は、蓋10と、回転軸Aと、第1のアーム11と、回転軸Bと、第2のアーム12と、回転軸Cと、第3のアーム13と、歯車21と、回転軸Dと、1方向性ロータリーダンパー22と、下ケース14を含む。
【0011】
<蓋10>
蓋10は、回転軸Aに回転可能に接続される。状態S1において下ケース14と接触することにより、蓋10の閉方向の回転がロックされる。状態S6において第2のアーム12の上端が下ケース14に設けられたロック板14aと接触することにより蓋10の開方向の回転がロックされる。
【0012】
<第1のアーム11>
第1のアーム11は、蓋10の裏面に接続される脚部11aと、その一端が脚部11aに接続され脚部11aの延伸方向と異なる方向に延伸される腕部11bからなり(状態S3参照)、腕部11bの他端は、回転軸Bに回転可能に接続される。
【0013】
<第2のアーム12>
第2のアーム12は、その一端が回転軸Bに回転可能に接続され、その他端が回転軸Cに回転可能に接続される。
【0014】
<第3のアーム13>
第3のアーム13は、その一端が回転軸Cと回転可能に接続され、その他端に歯車21が設けられている。第3のアーム13の他端および歯車21は、回転軸Dに回転可能に接続される。
【0015】
<歯車21>
歯車21は、第3のアーム13の他端に設けられており、1方向性ロータリーダンパー22と咬み合う。
【0016】
<1方向性ロータリーダンパー22>
1方向性ロータリーダンパー22は、歯車21と咬み合い、1方向の回転(同図における反時計回りの回転)に対して粘性抵抗を有する。
【0017】
<リンクa>
上記のパーツ群によって構成される機構は四節回転機構であり、てこクランク機構の一種である。図3に示すように、回転軸A、B、C、Dに直交する平面との交点を点A、B、C、Dとし、点A、Bを結ぶ線分ABをリンクaと呼ぶこととすると、リンクaは、四節回転機構における原動節に相当する。リンクaの一端は回り対偶である回転軸Aに回転可能に接続される。リンクaの他端は、回り対偶に該当する回転軸Bにおいて後述するリンクbと互いに回転可能に接続される。リンクaは実際には、蓋10の一部と、これに接続された脚部11aと、脚部11aから延伸された腕部11bとからなる剛体で構成されている。
【0018】
<リンクb>
点B、Cを結ぶ線分BCをリンクbと呼ぶこととすると、リンクbの一端は、回り対偶である回転軸Bにおいて、リンクaと互いに回転可能に接続される。リンクbの他端は、回り対偶に該当する回転軸Cにおいて後述するリンクcと互いに回転可能に接続される。リンクbは、四節回転機構における中間節に相当する。
【0019】
<リンクc>
点C、Dを結ぶ線分CDをリンクcと呼ぶこととすると、リンクcの一端は、回り対偶である回転軸Cにおいて、リンクbと互いに回転可能に接続される。リンクcの他端に歯車21が設けられ、回り対偶に該当する回転軸Dにおいて後述するリンクdと回転可能に接続される。なお、歯車21は点Dを回転中心としてリンクcと連動して回転する。リンクcは、四節回転機構における従動節に相当する。
【0020】
<リンクd>
点D、Aを結ぶ線分DAをリンクdと呼ぶこととすると、リンクdの一端は、回り対偶である回転軸Dにおいて、リンクcと接続される。リンクdの他端は回転軸Aにおいてリンクaと接続される。リンクdは四節回転機構における静止節(固定リンク)に相当する。
【0021】
<死点(思案点)>
図3に示すように、本実施例の四節回転機構は、蓋の可動域(蓋を完全に閉じた状態S1~蓋を完全に開いた状態S6)内に、リンクcを原動節とした場合の死点の位置(状態S4:点A,B,Cが一直線上に並び、リンクcを回転、揺動させた場合に点Bが左右のどちらに回転するか決まらない状態)が含まれることを特徴とする。
【0022】
蓋の可動域(S1~S6)内に、リンクcを原動節とした場合の死点の位置(S4)を含むことにより、リンクaの回転方向を一定とした場合に上記の死点の位置(S4)を境界として、リンクcの回転方向が変化することとなる。例えば、リンクaの回転方向を時計回りとした場合(S1→S6)、リンクcの回転方向は、S1~S3において反時計回りとなり、S4において静止した後、S5~S6において時計回りとなる。
【0023】
従って、状態S4からスタートしてリンクaを反時計回りに回転(蓋を閉じる方向に回転)させた場合に、リンクcは時計回りに回転する。一方、状態S4からスタートしてリンクaを時計回りに回転(蓋を開ける方向に回転)させた場合にも、リンクcは時計回りに回転する。
【0024】
従って、状態S4からスタートしてリンクaをいずれの方向に回転させても、歯車21は時計回りに回転し、歯車21と咬み合う1方向性ロータリーダンパー22は、反時計回りに回転することになる。1方向性ロータリーダンパー22は、反時計回りの回転に対して粘性抵抗を有するため、上記のいずれの場合にも減速効果を生じさせる。よって、蓋を閉じる方向の減速効果により、指を挟むなどの弊害を防ぎ、蓋を開ける方向の減速効果により、楽器の転倒や損傷を防ぎ、かつ製品の手触りに高級感を与えることができる。
【0025】
ここで、図2に示すように、リンクcを原動節とした場合の死点の位置(S4)を基準として、蓋を閉じる方向の可動域である第1可動域θが、蓋を開ける方向の可動域である第2可動域θよりも大きくなる(θ>θ)ように設計すれば、蓋を閉じる方向の減速効果をより重視した設計とすることができ、好適である。
【0026】
また、図4に示すように、直線ABと直線CDの交点を点Iとし、蓋10が蓋10を閉じる方向に傾斜すればするほど、線分ICの長さを線分IBの長さで除算した値が大きくなるように設計すればさらに好適である。蓋を閉じる速度をVとし、リンクcの回転速度をVとした場合、V=(|IC|/|IB|)・Vの関係が成り立つ(三中心の定理、参考非特許文献1)ため、Vを一定とした場合、蓋10が蓋10を閉じる方向に傾斜すればするほど、Vが大きくなり、1方向性ロータリーダンパー22においてVに比例した大きな減速効果を得ることになる。
【0027】
(参考非特許文献1:三浦宏文著、「機械力学」、第1版、森北出版株式会社、1995年12月、p.92-93)
なお、一般的なピアノで考えた場合、蓋の閉じ始めから閉じ終わりまで速度Vが一定に保たれることは考えにくく、状態S2のあたりでユーザは蓋から手を離している可能性が高い。従って、S2→S1においては、専ら蓋の自重によりVが決定されるものと考えられ、状態S3におけるVなどと比較してすでに相当程度減速しているものと考えられる。従って、減速していくVに対して、大きくなっていく係数を乗算することによりVが決定されるため、蓋の締め終わりにおいても確実かつ過度でない減速効果を得ることができる。これにより、ユーザが蓋を閉めるときに過度の抵抗を感じないようにする一方、ユーザが手を離した後も確実かつ過度でない減速効果を得ることができ、指を挟むなどの弊害を防ぐことができ、製品の手触りに高級感を与えることができる。
【0028】
<別の表現例>
本実施例の四節回転機構の別の表現例は以下である。本実施例の四節回転機構は、蓋10に接続される原動節(リンクa)と、原動節(リンクa)に接続される中間節(リンクb)と、中間節(リンクb)に接続される従動節(リンクc)と、従動節(リンクc)と原動節(リンクa)に接続される静止節(リンクd)と、従動節(リンクc)に伴って回転する歯車21と、歯車21と咬み合い、1方向の回転に対して粘性抵抗を有する1方向性ロータリーダンパー22を含み、蓋10の可動域内に従動節(リンクc)を原動節とした場合の死点の位置が含まれる。当該死点の位置を基準として、蓋10を閉じる方向の可動域である第1可動域が、蓋10を開ける方向の可動域である第2可動域よりも大きければさらに好適となる。
図1
図2
図3
図4