(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092327
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】車両用ドア装置
(51)【国際特許分類】
E05D 15/32 20060101AFI20220615BHJP
E05F 11/54 20060101ALI20220615BHJP
E05F 15/655 20150101ALI20220615BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
E05D15/32
E05F11/54 A
E05F15/655
B60J5/04 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205087
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】角谷 誠一
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052DA02
2E052DB02
2E052EB01
2E052EC01
(57)【要約】
【課題】安定的にドアを支持すること。
【解決手段】車両用ドア装置20は、ドア5の閉側端部45に設けられたドア側係合部41と、ドア開口部3の閉側端部46に設けられた車体側係合部42と、第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60と、を備える。車体側係合部42は、車両の上下方向に延びる軸状係合部51を備え、ドア側係合部41は、ドア側係合部41は、車幅方向に対向する一対の側壁部を有してドア5の開閉動作方向に延在するガイド溝57を備えてなる。更に、ドア側係合部41と車体側係合部42とが係合するドア5の全閉位置近傍の開閉動作位置においては、そのガイド溝57内に軸状係合部51が配置される。そして、伸縮機構60の動作に基づいた第2のリンクアーム12の長さ変更を伴いながら、そのガイド溝57の延在方向に沿って軸状係合部51が相対変位することによりドア5が開閉動作するように構成される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対する第1の回動連結点と車両のドアに対する第2の回動連結点とを有する第1及び第2のリンクアームと、
前記第1及び第2のリンクアームが形成するリンク機構の動作に基づき前記車両のドア開口部を開閉する前記ドアの閉側端部に設けられたドア側係合部と、
前記ドアの開閉動作に基づいて該ドアの前記閉側端部が接離する前記ドア開口部の閉側端部に設けられた車体側係合部と、
前記第1及び第2のリンクアームの少なくとも何れかに設けられて前記第1及び第2の回動連結点間の長さを変更可能とする伸縮機構と、を備え、
前記ドア側係合部及び前記車体側係合部の一方側は、前記車両の上下方向に延びる軸状係合部を備え、
前記ドア側係合部及び前記車体側係合部の他方側は、車幅方向に対向する一対の側壁部を有して前記ドアの開閉動作方向に延在するガイド溝を備えてなり、
前記ドア側係合部と前記車体側係合部とが係合する前記ドアの全閉位置近傍の開閉動作位置においては、前記ガイド溝内に前記軸状係合部が配置されるとともに、前記伸縮機構の動作に基づいた前記第1及び第2の回動連結点間の長さ変更を伴いながら前記ガイド溝の延在方向に沿って前記軸状係合部が相対変位することにより、前記ドアが開閉動作するように構成された車両用ドア装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ドア装置において、
前記ドア側係合部が前記ガイド溝を有し、前記車体側係合部が前記軸状係合部を有すること、を特徴とする車両用ドア装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用ドア装置において、
前記ドア側係合部が前記軸状係合部を有し、前記車体側係合部が前記ガイド溝を有すること、を特徴とする車両用ドア装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車両用ドア装置において、
前記ドアの開閉動作方向に延在して車幅方向に並ぶ二本の係合爪間に前記ガイド溝が形成されること、を特徴とする車両用ドア装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の車両用ドア装置において、
前記軸状係合部が回転自在に軸支されていること、を特徴とする車両用ドア装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の車両用ドア装置において、
前記第1のリンクアームは、前記第2のリンクアームよりも前記ドアの重心に近い位置において該ドアに連結される前記第2の回動連結点を有するとともに、
前記第2のリンクアームのみに前記伸縮機構が設けられていること、
を特徴とする車両用ドア装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用ドア装置において、
前記第2のリンクアームは、前記第1のリンクアームよりも前記ドアの閉側端部に近い位置において該ドアに連結される前記第2の回動連結点を有するとともに、
前記伸縮機構は、前記第1及び第2の回動連結点間の長さを縮める方向の引張力を付与する付勢部材を備えること、を特徴とする車両用ドア装置。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか一項に記載の車両用ドア装置において、
前記第1及び第2のリンクアームの少なくとも何れかに対し、前記第1の回動連結点と前記第2の回動連結点との間の位置に第3の回動連結点を有して連結される駆動アームと、
前記駆動アームに駆動力を付与して回動させることにより前記リンク機構を駆動するアクチュエータと、を備えること、を特徴とする車両用ドア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車体に対する第1の回動連結点と車両のドアに対する第2の回動連結点とを有した第1及び第2のリンクアームを備える車両用ドア装置がある。このような車両用ドア装置は、第1及び第2のリンクアームが形成するリンク機構の動作に基づいて、そのドア開口部に設けられたドアが開閉動作する。また、例えば、特許文献1には、そのリンク機構を形成する各リンクアームを、ドアが閉状態にある場合において、車体側部の端末部に装着されるドアオープニングの外側、且つドアの車内側に装着されるウェザストリップの内側となる位置に格納する構成が記載されている。そして、例えば、特許文献2には、このような各リンクアームが形成するリンク機構を、車体側のガイドレールとドア側のガイドローラユニットとが係合する構造に組み合わせる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-90097号公報
【特許文献2】特開2008-163693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような第1及び第2のリンクアームが形成するリンク機構を介して車両のドアを車体に支持する構成においては、そのドアの開閉動作位置が全閉位置近傍にある場合、第1及び第2のリンクアームの距離が近づいて直線的に並んだ状態になりやすい。このため、そのドアを安定的に支持することが難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する車両用ドア装置は、車体に対する第1の回動連結点と車両のドアに対する第2の回動連結点とを有する第1及び第2のリンクアームと、前記第1及び第2のリンクアームが形成するリンク機構の動作に基づき前記車両のドア開口部を開閉する前記ドアの閉側端部に設けられたドア側係合部と、前記ドアの開閉動作に基づいて該ドアの前記閉側端部が接離する前記ドア開口部の閉側端部に設けられた車体側係合部と、前記第1及び第2のリンクアームの少なくとも何れかに設けられて前記第1及び第2の回動連結点間の長さを変更可能とする伸縮機構と、を備え、前記ドア側係合部及び前記車体側係合部の一方側は、前記車両の上下方向に延びる軸状係合部を備え、前記ドア側係合部及び前記車体側係合部の他方側は、車幅方向に対向する一対の側壁部を有して前記ドアの開閉動作方向に延在するガイド溝を備えてなり、前記ドア側係合部と前記車体側係合部とが係合する前記ドアの全閉位置近傍の開閉動作位置においては、前記ガイド溝内に前記軸状係合部が配置されるとともに、前記伸縮機構の動作に基づいた前記第1及び第2の回動連結点間の長さ変更を伴いながら前記ガイド溝の延在方向に沿って前記軸状係合部が相対変位することにより、前記ドアが開閉動作するように構成される。
【0006】
上記構成によれば、ガイド溝内に軸状係合部が配置されることにより、その車幅方向におけるドアの変位が規制される。そして、これにより、第1及び第2のリンクアームの距離が近づいて直線的に並んだ状態になりやすい全閉位置近傍の開閉動作位置においても、そのドアを安定的に支持することができる。更に、ドア側係合部と車体側係合部とが係合した状態においては、伸縮機構の動作に基づいて、そのドアの開閉動作軌跡が円弧状のグライド軌跡から直線状のスライド軌跡に変化する。そして、これにより、円滑に、そのドアを全閉位置に閉動作させ、及び全閉位置から開動作させることができる。
【0007】
上記課題を解決する車両用ドア装置は、前記ドア側係合部が前記ガイド溝を有し、前記車体側係合部が前記軸状係合部を有することが好ましい。
上記構成によれば、車両に対する乗降時、その車体側係合部が利用者の邪魔になりにくい。そして、これにより、その利便性を向上させることができる。
【0008】
上記課題を解決する車両用ドア装置は、前記ドア側係合部が前記軸状係合部を有し、前記車体側係合部が前記ガイド溝を有することが好ましい。
上記構成によれば、そのドア側係合部及び車体側係合部が係合状態にある場合のスライド軌跡に形成される略J字状のオーバーストローク、つまりはドアの余剰動作が抑えられるという利点がある。
【0009】
上記課題を解決する車両用ドア装置は、前記ドアの開閉動作方向に延在して車幅方向に並ぶ二本の係合爪間に前記ガイド溝が形成されることが好ましい。
上記構成によれば、簡素な構成にて容易に、車幅方向に対向する一対の側壁部を有してドアの開閉動作方向に延在するガイド溝を形成することができる。そして、そのガイド溝の周辺構造をコンパクトにまとめることができる。
【0010】
上記課題を解決する車両用ドア装置において、前記軸状係合部が、回転自在に軸支されていることが好ましい。
上記構成によれば、より円滑に、その車幅方向両側を挟み込むガイド溝の両側壁部に摺接する状態で軸状係合部を相対変位させることができる。
【0011】
上記課題を解決する車両用ドア装置において、前記第1のリンクアームは、前記第2のリンクアームよりも前記ドアの重心に近い位置において該ドアに連結される前記第2の回動連結点を有するとともに、前記第2のリンクアームのみに前記伸縮機構が設けられていることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、より大きな荷重を支えるメインリンクとして位置付けられた第1のリンクアームによって、安定的にドアを支持することができる。そして、全閉位置近傍の開閉動作位置においては、その荷重が比較的小さい第2のリンクアームに設けられた伸縮機構の動作に基づいてドアを開閉動作させることができる。
【0013】
上記課題を解決する車両用ドア装置は、前記第2のリンクアームは、前記第1のリンクアームよりも前記ドアの閉側端部に近い位置において該ドアに連結される前記第2の回動連結点を有するとともに、前記伸縮機構は、前記第1及び第2の回動連結点間の長さを縮める方向の引張力を付与する付勢部材を備えることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、伸縮機構の動作に基づき第2のリンクアームにおける第1及び第2の回動連結点間の長さが長くなる、つまりは第2のリンクアームが伸長することにより、そのドアが全閉位置に移動する。また、第2のリンクアームにおける第1及び第2の回動連結点間の長さが短くなる、つまりは第2のリンクアームが収縮することにより、そのドアが全閉位置から開動作する。更に、ドアの開閉動作時、ドア側係合部と車体側係合部との係合が解除された状態にある場合には、その付勢部材の引張力に基づいて、第2のリンクアームにおける第1及び第2の回動連結点間の長さが短くなる、つまりは、第2のリンクアームが収縮した状態に保持される。そして、これにより、安定的に、そのドアを開閉動作させることができる。
【0015】
更に、ドアを全閉位置に保持する全閉ロックのアンロック動作時、付勢部材の引張力に基づいて、その全閉位置からドアを開動作させることができる。そして、これにより、そのドアに所謂ポップアップ機能を付与することができる。
【0016】
上記課題を解決する車両用ドア装置は、前記第1及び第2のリンクアームの少なくとも何れかに対し、前記第1の回動連結点と前記第2の回動連結点との間の位置に第3の回動連結点を有して連結される駆動アームと、前記駆動アームに駆動力を付与して回動させることにより前記リンク機構を駆動するアクチュエータと、を備えることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、構成簡素、且つコンパクトに、そのアクチュエータの駆動力に基づいてドアを開閉動作させるパワードア装置を形成することができる。加えて、そのアクチュエータの配置自由度を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ドアの開閉動作位置が全閉位置近傍にある場合においても、そのドアを安定的に支持する状態で開閉動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】リンク機構を形成する第1及び第2のリンクアームの平面図。
【
図4】リンク機構を形成する第1及び第2のリンクアームの平面図。
【
図5】リンク機構を形成する第1及び第2のリンクアームの平面図。
【
図6】第1のリンクアームに連結された駆動アーム及びアクチュエータの側面図。
【
図7】第1のリンクアームに連結された駆動アーム及びアクチュエータの平面図。
【
図9】ドア側係合部及び車体側係合部の配置を示す説明図。
【
図10】リンク機構を形成する第1及び第2のリンクアームの平面図。
【
図11】伸縮機構が設けられた第2のリンクアームの断面図。
【
図12】伸縮機構が設けられた第2のリンクアームの断面図。
【
図13】ドア側係合部及び車体側係合部近傍の拡大図。
【
図14】ドア側係合部及び車体側係合部近傍の拡大図。
【
図15】ドア側係合部及び車体側係合部近傍の拡大図。
【
図16】別例のドア側係合部及び車体側係合部を示す拡大図。
【
図17】別例のドア側係合部及び車体側係合部を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、車両用ドア装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の車両1は、車体2の側面に設けられたドア開口部3を備えている。そして、そのドア開口部3には、このドア開口部3に車両1のドア5を支持する第1のリンクアーム11及び第2のリンクアーム12が設けられている。
【0021】
詳述すると、本実施形態の車両1において、これら第1及び第2のリンクアーム11,12は、それぞれ、車体2に対する第1の回動連結点X1と、ドア5に対する第2の回動連結点X2と、を有している。具体的には、第1のリンクアーム11は、上下方向(各図中、上下方向)に延びる支軸N1aに軸支された状態で車体2に連結されるとともに、上下方向に延びる支軸N1bに軸支された状態でドア5に連結されている。そして、第2のリンクアーム12もまた、上下方向に延びる支軸N2aに軸支された状態で車体2に連結されるとともに、上下方向に延びる支軸N2bに軸支された状態でドア5に連結されている。
【0022】
即ち、
図3~
図5に示すように、本実施形態の車両1においては、これらの第1及び第2のリンクアーム11,12が四節リンクとしての構成を有するリンク機構15を形成する。そして、本実施形態の車両1は、このリンク機構15の動作に基づいて、そのドア開口部3に支持されたドア5が開閉動作する構成になっている。
【0023】
さらに詳述すると、
図1及び
図2に示すように、本実施形態の車両1は、これらの第1及び第2のリンクアーム11,12を用いて、そのドア5を車両後方側(
図1中、左側、
図2中、右側)のドア開口部3に支持する。本実施形態の車両1において、これらの第1及び第2のリンクアーム11,12は、それぞれ、ドア開口部3の後縁部3rにおいて、その車体2に対して回動可能に連結された第1の回動連結点X1を有している。また、本実施形態の車両1において、第1のリンクアーム11は、第2のリンクアーム12よりも上方に設けられている。更に、第1のリンクアーム11は、ドア5の前後方向略中央位置において、このドア5に対して回動可能に連結された第2の回動連結点X2を有し、第2のリンクアーム12は、ドア5の前端部5f近傍において、このドア5に連結された第2の回動連結点X2を有している。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、その第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15の動作に基づいて、そのドア5が開閉動作するような車両用ドア装置20が形成されている。
【0024】
具体的には、
図3~
図5に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20は、その第1の回動連結点X1周りに第1及び第2のリンクアーム11,12が、各図中、反時計回り方向に回動することにより、これらの第1及び第2のリンクアーム11,12に支持された車両1のドア5が車両後方側(各図中、左側)に開動作する。そして、その第1の回動連結点X1周りに第1及び第2のリンクアーム11,12が、各図中、時計回り方向に回動することで、これら第1及び第2のリンクアーム11,12に支持されたドア5が車両前方側(各図中、右側)に閉動作する構成になっている。
【0025】
また、本実施形態の車両用ドア装置20は、第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15の動作に基づいて、そのドア5の開閉動作軌跡が規定される。即ち、
図4に示すように、第1及び第2のリンクアーム11,12が車幅方向(
図3~
図5中、上下方向)に延在する状態となる中間位置においては、車両前後方向への移動成分が大きくなる。そして、
図3に示すように、ドア5の開閉動作位置が全閉位置P0に近いほど、第1及び第2のリンクアーム11,12が車両前後方向(
図3~
図5中、左右方向)に延在する状態となることで、その車幅方向への移動成分が大きくなる。
【0026】
更に、
図1~
図5に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20においては、第2のリンクアーム12よりも第1のリンクアーム11の方が、より重心Gに近い位置においてドア5に連結された第2の回動連結点X2を有している。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、ドア5の荷重を支える支持機能について、その第1のリンクアーム11が、より大きなドア荷重を支えるメインリンク21となり、第2のリンクアーム12は、その作用するドア荷重が比較的小さいサブリンク22となるように構成されている。
【0027】
尚、本実施形態の車両用ドア装置20においては、第1のリンクアーム11の方が、第2のリンクアーム12よりも大きな径を有している。そして、車両用ドア装置20は、これにより、そのメインリンク21に位置付けられた第1のリンクアーム11に高い支持剛性を付与する構成となっている。
【0028】
また、
図6及び
図7に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20は、第1の回動連結点X1と第2の回動連結点X2との間の位置において、そのメインリンク21に位置付けられた第1のリンクアーム11に対して回動可能に連結された駆動アーム23を備えている。更に、車両用ドア装置20は、この駆動アーム23に駆動力を付与して回動させることにより、そのリンク機構15を駆動するアクチュエータ25を備えている。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、このアクチュエータ25の駆動力に基づいて、そのドア5を開閉動作させることができるパワードア装置30としての構成を有している。
【0029】
具体的には、本実施形態の車両用ドア装置20において、その第1のリンクアーム11に対する駆動アーム23の連結位置、つまり第1のリンクアーム11における第3の回動連結点X3は、その第2の回動連結点X2よりも第1の回動連結点X1に近い位置に設定されている(
図3~
図5参照)。また、本実施形態のアクチュエータ25は、第1のリンクアーム11の下方となる位置において、その車体2に固定されている。更に、本実施形態の車両1において、このアクチュエータ25は、その出力軸25xが第1の回動連結点X1と略同軸となる位置に配置されている。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、このアクチュエータ25の出力軸25xに対して、その第1のリンクアーム11に並行して配置された駆動アーム23の一端側を連結する構成となっている。
【0030】
即ち、本実施形態の車両用ドア装置20においては、アクチュエータ25の駆動力に基づいて、その駆動アーム23の回動に連動して第1のリンクアーム11及び第2のリンクアーム12が回動する。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、これらの第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15の動作に基づいて、そのドア5が開閉動作する構成になっている。
【0031】
さらに詳述すると、本実施形態の駆動アーム23は、アクチュエータ25の出力軸25xに対し、その第1端部23aが相対回転不能に連結されている。また、駆動アーム23は、その第2端部23bに設けられた上方に向かって突出する係合突部33を備えている。更に、第1のリンクアーム11は、その下面11bに設けられた係合凹部34を備えている。そして、本実施形態の車両用ドア装置20においては、この第1のリンクアーム11に設けられた係合凹部34に対して、駆動アーム23の係合突部33が係合することにより、その第3の回動連結点X3が形成されている。
【0032】
具体的には、本実施形態の車両用ドア装置20において、駆動アーム23側の係合突部33は軸形状、詳しくは、駆動アーム23の第2端部23bを貫通するピン形状をなしている。また、第1のリンクアーム11側の係合凹部34は、第1のリンクアーム11の下面11bに設けられた取り付け凹部36に対して、長孔37xを有したブッシュ37を取着することにより形成されている。更に、このブッシュ37は、例えば、樹脂やゴム、或いはエラストマ等の軟質素材を用いて形成される。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、その第1のリンクアーム11と駆動アーム23との接触により生ずる打音を抑制して高い静粛性を確保する構成になっている。
【0033】
(全閉位置近傍におけるドアの保持構造)
次に、本実施形態の車両用ドア装置20における全閉位置P0近傍におけるドア5の保持構造について説明する。
【0034】
図3~
図5、及び
図8に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20は、ドア5の前端部5fに設けられたドア側係合部41を備えている。また、この車両用ドア装置20は、ドア開口部3の前縁部3fに設けられた車体側係合部42を備えている。即ち、本実施形態の車両1において、ドア側係合部41は、第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15の動作に基づき車両1のドア開口部3を開閉するドア5の閉動作側に位置する閉側端部45に設けられている。そして、車体側係合部42は、その車両前後方向に移動するドア5の開閉動作に基づいて、このドア5の閉側端部45が接離、即ち接近又は離間するドア開口部3の閉側端部46に設けられている。
【0035】
具体的には、
図9に示すように、本実施形態のドア5には、このドア5を全閉位置で保持する全閉ロックとしての構成を有したフロントロック47及びリアロック48が設けられている。尚、本実施形態のリアロック48には、そのフロントロック47及びリアロック48に設けられたラッチ機構をハーフラッチ状態からフルラッチ状態へ移行させ、及びフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行させるためのクローザー装置49が一体に設けられている。また、本実施形態の車両用ドア装置20は、フロントロック47を間に挟む上下方向に離間した二位置において、そのドア5の前端部5fに設けられたドア側係合部41,41を備えている。更に、この車両用ドア装置20は、同じく上下方向に離間した二位置において、そのドア開口部3の前縁部3fに設けられた車体側係合部42,42を備えている。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これらのドア側係合部41,41及び車体側係合部42,42が互いに係合する状態で、そのドア5を全閉位置P0に保持する構成になっている。
【0036】
詳述すると、
図8及び
図10に示すように、本実施形態の車体側係合部42は、車体2に対する固定部50と、この固定部50に支持された軸状係合部51と、を備えている。具体的には、本実施形態の車体側係合部42において、軸状係合部51は、その固定部50によって回転自在に軸支されたローラー52としての構成を有している。そして、本実施形態の車体側係合部42は、この軸状係合部51が車両1の上下方向に延在する状態で、そのドア開口部3の前縁部3fに対して固定部50が締結される構成となっている。
【0037】
一方、本実施形態のドア側係合部41は、ドア5に対する固定部53と、この固定部53に支持された二本の係合爪55,55と、を備えている。本実施形態のドア側係合部41において、その固定部53は、略平板状の外形を有している。また、各係合爪55,55は、この固定部53の表面53sから並んで突出する態様で設けられている。そして、本実施形態のドア側係合部41は、これらの係合爪55,55が車幅方向に並ぶ状態で、そのドア5の前端部5fに対して固定部53が締結される構成となっている。
【0038】
即ち、本実施形態のドア側係合部41においては、これら二本の係合爪55,55間に、そのドア5の開閉動作方向に延在するガイド溝57が形成される。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、ドア5が全閉位置P0近傍にある場合には、このガイド溝57内に軸状係合部51を配置する状態で、そのドア側係合部41及び車体側係合部42が互いに係合する構成となっている。
【0039】
具体的には、本実施形態のドア側係合部41においては、その二本の係合爪55,55が、ガイド溝57の両側壁部57s,57sとなる。更に、これら車幅方向に対向する一対の側壁部57s,57s間に挟み込まれる状態で、そのガイド溝57内に車体側係合部42の軸状係合部51が配置される。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、その車幅方向におけるドア5の変位が規制されることで、第1及び第2のリンクアーム11,12が直線的に並んだ状態になりやすい全閉位置P0近傍の開閉動作位置においても、そのドア5を安定的に支持することのできる構成となっている。
【0040】
また、
図11及び
図12に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20において、サブリンク22としての位置付けを有する第2のリンクアーム12には、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLを変更可能とする伸縮機構60が設けられている。
【0041】
詳述すると、第2のリンクアーム12は、同心状に配置されたアウタチューブ61及びインナチューブ62を備えている。具体的には、アウタチューブ61は、車体2に対する第1の回動連結点X1を第1端部61a側に有するとともに、第2端部61b側に開口部61xを有している。また、第2のリンクアーム12は、ドア5に対する第2の回動連結点X2を第2端部62b側に有するとともに、第1端部62a側に開口部62xを有している。更に、アウタチューブ61の内径は、インナチューブ62の外径よりも大きな値に設定されている。そして、第2のリンクアーム12は、これにより、アウタチューブ61の筒内に、その第2端部61b側からインナチューブ62の第1端部62a側を挿入することで、これらのアウタチューブ61及びインナチューブ62を同心状に配置する構成となっている。
【0042】
即ち、本実施形態の車両用ドア装置20においては、これらのアウタチューブ61及びインナチューブ62が軸方向に相対変位することにより、その第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60が形成されている。具体的には、アウタチューブ61の筒内からインナチューブ62が引き出される方向に相対変位することで、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが長くなる。そして、インナチューブ62がアウタチューブ61の筒内に没入する方向に相対変位することで、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが短くなる。
【0043】
また、本実施形態の車両用ドア装置20において、この伸縮機構60は、第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLを縮める方向の引張力を付与する付勢部材65を備えている。具体的には、第2のリンクアーム12を構成するアウタチューブ61及びインナチューブ62の筒内には、アウタチューブ61に対する係合部66aとインナチューブ62に対する係合部66bとを有した引っ張りバネ66が設けられている。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、この引っ張りバネ66の弾性力に基づいて、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLを縮める方向の引張力を第2のリンクアーム12に付与する構成となっている。
【0044】
さらに詳述すると、
図8及び
図13に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20において、ドア側係合部41を構成する二本の係合爪55,55は、車幅方向外側に配置される外側係合爪55aの方が、車幅方向内側に配置される内側係合爪55bよりも大きな突出量を有している。換言すると、外側係合爪55aの方が、内側係合爪55bよりも長くなっている。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、円弧状のグライド軌跡Rg(
図5参照)を描いて閉動作するドア5の閉側端部45に設けられたドア側係合部41のガイド溝57に対して、円滑に、そのドア開口部3の閉側端部46に設けられた車体側係合部42の軸状係合部51が係合することのできる構成になっている。
【0045】
また、
図13~
図15に示すように、本実施形態の車両用ドア装置20においては、第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60の動作に基づいて、そのドア側係合部41と車体側係合部42とが係合した状態でのドア5の開閉動作が許容される。即ち、伸縮機構60の動作に基づき第2のリンクアーム12における第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが変化することで、その第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15に支持されたドア5の姿勢が変化する。更に、このとき、そのドア側係合部41を構成する二本の係合爪55,55間のガイド溝57内に配置された車体側係合部42側の軸状係合部51は、見かけ上、その車幅方向両側を挟み込む各係合爪55,55の延在方向、つまりはガイド溝57の延在方向に沿って、そのローラー52としての構成に基づき回転しながら摺動する。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、この各係合爪55,55の間に形成されるガイド溝57内に配置された軸状係合部51の相対変位に基づいて、そのドア側係合部41が設けられたドア5の前端部5f側が車両前後方向に移動するとともに、その後端部5r側が車幅方向に移動する態様で、このドア5が開閉動作する構成になっている。
【0046】
具体的には、
図10及び
図13に示すように、例えば、全閉位置P0に向かうドア5の閉動作時、そのドア側係合部41と車体側係合部42とが係合する開閉動作位置にある場合、ドア5は、その前端部5f側よりも後端部5r側が車幅方向外側(各図中、上側)に突出した傾斜姿勢となっている。
【0047】
また、
図13~
図15に示すように、このようなドア側係合部41と車体側係合部42とが係合する状態で、そのドア5が閉動作する方向にアクチュエータ25の駆動力又は手動による操作力が付与されることにより、第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60が、その引っ張りバネ66の弾性力に抗して伸長する(
図11及び
図12参照)。更に、これにより、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが長くなることで、見かけ上、そのドア側係合部41のガイド溝57における開口側から奥側、つまりは各係合爪55,55の先端側から基端側に向かって車体側係合部42の軸状係合部51が摺動する。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、車幅方向内側に向かう後端部5r側の移動(
図3及び
図10参照、各図中、上側から下側)を伴いながら前端部5f側が直線的なスライド軌跡Rsを描く態様で、そのドア5が全閉動作する構成になっている。
【0048】
一方、ドア5が全閉位置P0にある状態からの開動作時には、このドア5を開動作させる力に基づいて、その第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60が収縮する。また、これにより、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが短くなることで、見かけ上、そのドア側係合部41のガイド溝57における奥側から開口側、つまりは各係合爪55,55の基端側から先端側に向かって車体側係合部42の軸状係合部51が摺動する。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、車幅方向外側に向かう後端部5r側の移動(
図3及び
図10参照、各図中、下側から上側)を伴いながら前端部5f側が直線的なスライド軌跡Rsを描く態様で、そのドア5が開動作する構成になっている。
【0049】
更に、本実施形態の車両用ドア装置20においては、全閉位置P0にあるドア5には、その伸縮機構60に設けられた引っ張りバネ66のバネ力に基づいて、このドア5を開動作させる方向の付勢力が付与されている。このため、全閉ロックを構成するフロントロック47及びリアロック48のアンロック動作によって、アクチュエータ25の駆動力又は手動による操作力の付与を待たず、ドア5は、上記のようなスライド軌跡Rsを描いて全閉位置P0から開動作する。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、そのドア5に所謂ポップアップ機能を付与する構成となっている。
【0050】
さらに詳述すると、
図1及び
図2に示すように、本実施形態の車両1においては、このような車両用ドア装置20が、その後部ドア70に適用されている。
また、
図13~
図15に示すように、後部ドア70としての構成を有するドア5は、その前端部5fに、車両前方側に向かって突出するヘミング加工部71を有している。具体的には、このヘミング加工部71は、ドア5を形成する金属製の板材を、折り返す態様でプレス加工することにより、そのドア5の前端部5fを上下方向に縁取りするような折曲板形状をなしている。更に、本実施形態の車両1においては、このドア5の前方(各図中、右側)に配置された前部ドア72の後端部72rにも、車両後方側(各図中、左側)に向かって突出する同様のヘミング加工部73が設けられている。そして、本実施形態の車両1は、これらの後部ドア70及び前部ドア72の両方が全閉状態にある場合、その後部ドア70を構成するドア5の前端部5fに設けられたヘミング加工部71が、前部ドア72の後端部72rに設けられたヘミング加工部73の車幅方向内側(各図中、下側)に配置される構成となっている。
【0051】
即ち、本実施形態の車両1においては、これらのヘミング加工部71,73が、車幅方向(各図中、上下方向)において互い違いに配置される。このため、そのドア5が円弧状のグライド軌跡Rgを描いて全閉位置P0まで閉動作した場合、これらのヘミング加工部71,73が干渉するおそれがある。
【0052】
しかしながら、本実施形態の車両用ドア装置20は、上記のように、ドア5の全閉動作時には、円弧状のグライド軌跡Rgから直線状のスライド軌跡Rsに移行させる態様で、このドア5を全閉位置P0まで閉動作させる。また、全閉位置P0からの開動作時には、反対に、スライド軌跡Rsからグライド軌跡Rgに移行させる態様で、このドア5を開動作させる。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、車両1の後部ドア70を構成するドア5の前端部5fに設けられたヘミング加工部71と、その前部ドア72の後端部72rに設けられたヘミング加工部73との干渉を回避する構成になっている。
【0053】
次に、本実施形態の作用について説明する。
即ち、本実施形態の車両用ドア装置20は、ドア5が全閉位置P0近傍にある場合に、その車幅方向に対向する一対の側壁部57s,57sを有してドア5の開閉動作方向に延在するドア側係合部41のガイド溝57内に車体側係合部42側の軸状係合部51が配置される。そして、これにより、その車幅方向におけるドア5の変位が規制される。
【0054】
また、第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60の動作に基づいて、第2のリンクアーム12における第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが変化することで、その第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15に支持されたドア5の姿勢が変化する。更に、このとき、そのドア側係合部41のガイド溝57内に配置された車体側係合部42側の軸状係合部51が、見かけ上、そのドア5の開閉動作方向に延びるガイド溝57の延在方向に沿って摺動する。そして、本実施形態の車両用ドア装置20は、これにより、ドア5が全閉位置P0近傍にある場合においても、安定的に支持された状態で、そのドア5が開閉動作する。
【0055】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)車両用ドア装置20は、車体2に対する第1の回動連結点X1と車両1のドア5に対する第2の回動連結点X2とを有する第1及び第2のリンクアーム11,12を備える。また、車両用ドア装置20は、第1及び第2のリンクアーム11,12が形成するリンク機構15の動作に基づき車両1のドア開口部3を開閉するドア5の閉側端部45に設けられたドア側係合部41を備える。更に、車両用ドア装置20は、ドア5の開閉動作に基づいて、このドア5の閉側端部45が接離、即ち接近又は離間するドア開口部3の閉側端部46に設けられた車体側係合部42を備える。そして、車両用ドア装置20は、第2のリンクアーム12に設けられて、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さを変更可能とする伸縮機構60を備える。
【0056】
また、車体側係合部42は、車両1の上下方向に延びる軸状係合部51を備え、ドア側係合部41は、車幅方向に対向する一対の側壁部57s,57sを有してドア5の開閉動作方向に延在するガイド溝57を備えてなる。更に、ドア側係合部41と車体側係合部42とが係合するドア5の全閉位置P0近傍の開閉動作位置においては、そのガイド溝57内に軸状係合部51が配置される。そして、伸縮機構60の動作に基づいた第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さ変更を伴いながら、そのガイド溝57の延在方向に沿って軸状係合部51が相対変位することによりドア5が開閉動作するように構成される。
【0057】
上記構成によれば、ガイド溝57内に軸状係合部51が配置されることにより、その車幅方向におけるドア5の変位が規制される。そして、これにより、第1及び第2のリンクアーム11,12の距離が近づいて直線的に並んだ状態になりやすい全閉位置P0近傍の開閉動作位置においても、そのドア5を安定的に支持することができる。更に、ドア側係合部41と車体側係合部42とが係合した状態においては、伸縮機構60の動作に基づいて、そのドア5の開閉動作軌跡が円弧状のグライド軌跡Rgから直線状のスライド軌跡Rsに変化する。そして、これにより、円滑に、そのドア5を全閉位置に閉動作させ、及び全閉位置から開動作させることができる。例えば、ドア5の閉側端部45に、その閉側端部45を上下方向に縁取りするような折曲板形状をなすヘミング加工部71が設けられている場合であっても、このヘミング加工部71が、そのドア5の全閉状態において隣り合う他のドアや車体の縁部に干渉し難いという利点がある。
【0058】
(2)更に、ドア開口部3の閉側端部46に軸状係合部51を設けることで、車両1に対する乗降時、その車体側係合部42が利用者の邪魔になり難い。そして、これにより、その利便性を向上させることができる。
【0059】
(3)ドア側係合部41は、ドア5の開閉動作方向に延在して車幅方向に並ぶ二本の係合爪55,55を備える。そして、これら二本の係合爪55,55間にガイド溝57が形成される。
【0060】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易に、車幅方向に対向する一対の側壁部57s,57sを有してドア5の開閉動作方向に延在するガイド溝57を形成することができる。そして、そのガイド溝57の周辺構造をコンパクトにまとめることができる。
【0061】
(4)軸状係合部51は、回転自在に軸支されたローラー52としての構成を有する。
上記構成によれば、より円滑に、その車幅方向両側を挟み込むガイド溝57の両側壁部57s,57sに摺接する状態で軸状係合部51を相対変位させることができる。
【0062】
(5)第1のリンクアーム11は、第2のリンクアーム12よりもドア5の重心Gに近い位置において、このドア5に連結される第2の回動連結点X2を有する。そして、車両用ドア装置20は、その第2のリンクアーム12のみに伸縮機構60が設けられた構成を有する。
【0063】
上記構成によれば、より大きな荷重を支えるメインリンク21に位置付けられた第1のリンクアーム11によって、安定的にドア5を支持することができる。そして、全閉位置P0近傍の開閉動作位置においては、その作用するドア荷重が比較的小さい第2のリンクアーム12に設けられた伸縮機構60の動作に基づいて、そのドア5を開閉動作させることができる。
【0064】
(6)第2のリンクアーム12は、第1のリンクアーム11よりもドア5の閉側端部45に近い位置において、このドア5に連結される第2の回動連結点X2を有する。そして、伸縮機構60は、第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLを縮める方向の引張力を付与する付勢部材65としての引っ張りバネ66を備える。
【0065】
上記構成によれば、伸縮機構60の動作に基づいて第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが長くなる、つまりは第2のリンクアーム12が伸長することにより、そのドア5が全閉位置P0に移動する。また、第2のリンクアーム12における第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが短くなる、つまりは第2のリンクアーム12が収縮することにより、そのドア5が全閉位置から開動作する。更に、ドア5の開閉動作時、ドア側係合部41と車体側係合部42との係合が解除された状態にある場合には、その付勢部材65の引張力に基づいて、第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLが短くなる、つまりは、第2のリンクアーム12が収縮した状態に保持される。そして、これにより、安定的に、そのドア5を開閉動作させることができる。
【0066】
更に、ドア5を全閉位置P0に保持する全閉ロックのアンロック動作時、付勢部材65の引張力に基づいて、その全閉位置P0からドア5を開動作させることができる。そして、これにより、そのドア5に所謂ポップアップ機能を付与することができる。
【0067】
(7)車両用ドア装置20は、その第1の回動連結点X1と第2の回動連結点X2との間の位置に第3の回動連結点X3を有して、第1のリンクアーム11に連結された駆動アーム23を備える。そして、車両用ドア装置20は、この駆動アーム23に駆動力を付与して回動させることにより、そのリンク機構15を駆動するアクチュエータ25を備える。
【0068】
上記構成によれば、構成簡素、且つコンパクトに、そのアクチュエータ25の駆動力に基づいてドア5を開閉動作させるパワードア装置30を形成することができる。加えて、そのアクチュエータ25の配置自由度を確保することができる。
【0069】
例えば、アクチュエータ25を第1のリンクアーム11の下方、第2のリンクアーム12との間のデッドスペースに配置することで、広い車内スペースを確保することができる。また、車体2側にアクチュエータ25を配置することで、ドア5の軽量化を図ることができる。そして、メインリンク21としての構成を有する第1のリンクアーム11を駆動することで、軽量化及び低コスト化を図りつつ、安定的に、そのドア5を開閉させることができる。
【0070】
(8)駆動アーム23は、軸状の係合突部33を備える。また、第1のリンクアーム11には、長孔状の係合凹部34が設けられる。そして、これらの係合突部33及び係合凹部34が互いに係合することにより、その第3の回動連結点X3が形成される。
【0071】
上記構成によれば、組付け性を向上させることができる。例えば、ドア開口部3に対する第1及び第2のリンクアーム11,12の組付け、及びドア5の建付け後に、アクチュエータ25の組付けを行うことができる。また、これにより、ドア5及び第1及び第2のリンクアーム11,12の塗装工程が容易になる。更に、係合突部33及び係合凹部34の係合部において、その係合突部33の軸線方向における第1のリンクアーム11と駆動アーム23との変位を吸収することができる。そして、これにより、簡素な構成にて、円滑に、そのドア5を開閉駆動することができる。
【0072】
(9)係合凹部34は、第1のリンクアーム11に設けられた取り付け凹部36に対して、長孔37xを有したブッシュ37を取着することにより形成される。そして、このブッシュ37は、例えば、樹脂やゴム、或いはエラストマ等の軟質素材を用いて形成される。これにより、例えば、ドア5の開閉速度や負荷の変化時、その第1のリンクアーム11と駆動アーム23との接触により生ずる打音を抑制して高い静粛性を確保することができる。
【0073】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0074】
・上記実施形態では、メインリンク21としての構成を有する第1のリンクアーム11を、サブリンク22としての構成を有した第2のリンクアーム12よりも上方に配置する。そして、第2のリンクアーム12を、第1のリンクアーム11よりもドア5の閉側端部45に近い位置に配置することとした。しかし、これに限らず、第1のリンクアーム11の上方に第2のリンクアーム12を設ける構成であってもよい。
【0075】
また、第1のリンクアーム11を、第2のリンクアーム12よりもドア5の閉側端部45に近い位置に配置する構成であってもよい。そして、この場合には、第2のリンクアーム12が収縮しながらドア5が全閉位置P0に閉動作するように、その伸縮機構60を構成するとよい。
【0076】
・上記実施形態では、第2のリンクアーム12のみに伸縮機構60が設けられることとしたが、第1のリンクアーム11に伸縮機構60を設けてもよい。そして、第1及び第2のリンクアーム11,12の両方に伸縮機構60を設けてもよい。即ち、ドア5が全閉位置P0に閉動作する際、第1及び第2のリンクアーム11,12のうち、ドア5の閉側端部45から近い方が伸長する、又は遠い方が収縮する、或いは、その両方が行われるように、伸縮機構60の構成及び配置を設定するとよい。
【0077】
・上記実施形態では、伸縮機構60は、第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLを縮める方向の引張力を付与する付勢部材65としての引っ張りバネ66を備えることとした。しかし、これに限らず、例えば、引っ張りバネ66以外の弾性部材、或いはガス式や電磁式等、付勢部材65の構成は任意に変更してもよい。また、上記別例に示すように、第1及び第2のリンクアーム11,12のうち、ドア5の閉側端部45から遠い方が収縮する態様で、ドア5が全閉位置P0に移動する構成においては、例えば、圧縮バネ等、第1及び第2の回動連結点X1,X2間の長さLを伸ばす方向の付勢力を発生するような付勢部材65を用いるとよい。そして、その伸縮機構60が、このような付勢部材65を有しない構成を採用してもよい。
【0078】
・上記実施形態では、軸状係合部51は、回転自在に軸支されたローラー52としての構成を有することとしたが、必ずしも、軸状係合部51は回転しなくともよい。
・上記実施形態では、ドア5には、このドア5を全閉位置で保持する全閉ロックとしての構成を有したフロントロック47及びリアロック48が設けられる。そして、そのフロントロック47を間に挟む上下方向に離間した二位置にドア側係合部41,41が設けられることとした。
【0079】
しかし、これに限らず、ドア側係合部41の数及び配置については、任意に変更してもよい。尚、車体側係合部42の数及び配置は、ドア側係合部41に合わせるとよい。また、例えば、ドア側係合部41及び車体側係合部42の係合力をドア5の保持に用いることにより、フロントロック47を廃止する構成としてもよい。これにより、そのドア5の建付け調整が容易になるという利点がある。
【0080】
・車体側係合部42は、車両1の上下方向に延びる軸状係合部51を有し、ドア側係合部41は、車幅方向に対向する一対の側壁部57s,57sを有してドア5の開閉動作方向に延在するガイド溝57を備えてなることとした。
【0081】
しかし、これに限らず、
図16に示すように、ドア側係合部41Bが軸状係合部51Bを有し、車体側係合部42Bが車幅方向に対向する一対の側壁部57s,57sを有してドア5の開閉動作方向に延在するガイド溝57Bを有する構成としてもよい。
【0082】
具体的には、この
図16に例示する車体側係合部42Bにおいても、その車幅方向に並ぶ二本の係合爪55B,55B間に、ガイド溝57Bが形成される。また、この場合、車幅方向外側に配置される外側係合爪55Baよりも、車幅方向内側に配置される内側係合爪55Bbに大きな突出量を設定するとよい。換言すると、外側係合爪55Baを、内側係合爪55Bbよりも短くするとよい。これにより、円弧状のグライド軌跡Rgを描いてドア5と一体に閉動作方向に移動するドア側係合部41Bが、その車体側係合部42Bに対して円滑に係合することができる。そして、このように、上記実施形態との比較において、そのドア側係合部41B及び車体側係合部42Bの形状を入れ替えた構成を採用することで、これらのドア側係合部41B及び車体側係合部42Bが係合状態にある場合のスライド軌跡Rsに形成される略J字状のオーバーストローク、つまりはドア5の余剰動作が抑えられるという利点がある。
【0083】
・また、
図17に示すように、軸状係合部51とガイド溝57とが係合状態にある場合に、そのガイド溝57を形成する各係合爪55,55の少なくとも何れか一方が内側に配置されるような凹部80を備える構成としてもよい。即ち、この
図17に示す例では、上記実施形態と同様、その車体側係合部42が軸状係合部51を有し、ドア側係合部41が二本の係合爪55,55を有している。更に、車体側係合部42が設けられたドア開口部3の閉側端部46に、その凹部80が形成されている。そして、このような構成を採用することで、ドア5が全閉位置P0にある場合に、そのドア5の閉側端部45とドア開口部3の閉側端部46との間に形成される隙間を小さく抑えることができる。
【0084】
・上記実施形態では、車幅方向に並ぶ二本の係合爪55,55間に、ガイド溝57が形成されることとしたが、このガイド溝57を形成する構造については、任意に変更してもよい。例えば、上記実施形態における各係合爪55,55とは形状の異なる2つの部材間に、そのガイド溝57が形成される構成であってもよい。そして、一つの部材に対してガイド溝57を凹設する構成であってもよい。
【0085】
・上記実施形態では、駆動アーム23に軸状の係合突部33を設け、第1のリンクアーム11に長孔状の係合凹部34を設ける。そして、これらの係合突部33及び係合凹部34が係合することにより、第3の回動連結点X3が形成されることとした。しかし、これに限らず、駆動アーム23に係合凹部34を設け、第1のリンクアーム11に係合突部33を設ける構成としてもよい。
【0086】
・また、上記実施形態では、係合凹部34は、第1のリンクアーム11に設けられた取り付け凹部36に対して、軟質素材からなる長孔37xを有したブッシュ37を取着することにより形成されることとした。しかし、これに限らず、第3の回動連結点X3の構造は、任意に変更してもよい。例えば、その係合突部33及び係合凹部34の材質は、任意に変更してもよい。また、例えば、係合突部33の先端をボール形状とし、係合凹部34もまた、そのボール形状が嵌合する形状とする。そして、このような構成を採用することで、その駆動アーム23と第1のリンクアーム11との間に生じた「捩じれ」の位置関係を吸収することができる。
【0087】
・上記実施形態では、その駆動アーム23及びアクチュエータ25によって、メインリンク21としての構成を有する第1のリンクアーム11を駆動することとした。しかし、これに限らず、サブリンク22としての構成を有した第2のリンクアーム12を駆動してもよい。そして、第1及び第2のリンクアーム11,12の両方を駆動する構成としてもよい。
【0088】
即ち、駆動アーム23及びアクチュエータ25の数、並びに、これらの配置は、任意に変更してもよい。例えば、第1のリンクアーム11の上方、或いは第2のリンクアーム12の下方に、そのアクチュエータ25を配置してもよい。また、ドア5側にアクチュエータ25を配置してもよい。そして、車体2側及びドア5側の両方にアクチュエータ25を配置してもよい。
【0089】
・上記実施形態では、車両1のドア5が車両後方側に開動作する構成に適用したが、ドア5が車両前方側に開動作する構成に適用してもよい。また、その第1及び第2のリンクアーム11,12の各支軸N1a,N1b及び各支軸N2a,N2bが傾いた構成に適用してもよい。そして、アクチュエータ25のような駆動源を有しない手動式のドア装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1…車両
2…車体
3…ドア開口部
5…ドア
11…第1のリンクアーム
12…第2のリンクアーム
15…リンク機構
20…車両用ドア装置
41…ドア側係合部
42…車体側係合部
45…閉側端部
46…閉側端部
51…軸状係合部
57…ガイド溝
57s…側壁部
60…伸縮機構
X1…第1の回動連結点
X2…第2の回動連結点
P0…全閉位置