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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092330
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】コラーゲン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/31 20060101AFI20220615BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220615BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220615BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220615BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220615BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220615BHJP
【FI】
A61K36/31 ZNA
A61K8/9789
A61Q19/08
A61P43/00 107
A23L33/105
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205092
(22)【出願日】2020-12-10
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】507045904
【氏名又は名称】ヤクルトヘルスフーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 智弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 茂
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC03
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB15
4C088AC01
4C088CA05
4C088CA12
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安全性が高く、長期に適用可能なコラーゲン産生促進剤を提供する。
【解決手段】ケール由来のエクソソームを有効成分とするコラーゲン産生促進剤、コラーゲン産生促進用食品、皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善剤、及び皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善用食品を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケール由来のエクソソームを有効成分とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
ケール由来のエクソソームを有効成分とするコラーゲン産生促進用食品。
【請求項3】
ケール由来のエクソソームを有効成分とする皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善剤。
【請求項4】
ケール由来のエクソソームを有効成分とする皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコラーゲンの産生を促進するコラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シワやタルミといった皮膚の老化の原因は様々あるが、その一つに真皮マトリックス成分量の低下が挙げられる。コラーゲンは真皮マトリックスの主要成分であり、皮膚にハリを与え、タルミなどを抑制する作用があるが、加齢や紫外線の照射によりその量が低下することが知られている(非特許文献1)。コラーゲン量の減少の原因としては、真皮の線維芽細胞によるコラーゲンの産生能の低下が挙げられ、その結果、皮膚のシワやタルミが発生する。
【0003】
そこで、コラーゲン産生を促進する素材を天然物から探索する試みがなされ、植物の抽出物(特許文献1、特許文献2)やその成分(特許文献3)の他、種々の物質にコラーゲン産生促進作用があることがこれまでに報告されている。
【0004】
エクソソーム(exosome)は、脂質二重膜で囲まれた膜小胞で、従来は不要な細胞内成分を外に放出するために機能していると考えられてきたが、近年、免疫細胞や腫瘍細胞をはじめ、多くの細胞がエクソソームを放出し、これが分泌細胞(エクソソーム放出細胞)とその標的細胞(エクソソーム受容細胞)の間で蛋白質や脂質を交換する重要なメッセンジャーとなっていることが解明されつつある。
【0005】
エクソソームには、メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(miRNA)、二本鎖DNA、タンパク質、脂質等が含まれ、これらのRNAやタンパク質の組成は、エクソソームを分泌する細胞の種類等によって異なることが知られている。植物にもエクソソームあるいはエクソソーム様の小胞が存在するが、エクソソームが持つ活性や機能は由来によって異なると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-235482号公報
【特許文献2】特開2012-148991号公報
【特許文献3】特開2010-030911号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】American Journal of Pathology. 2006;168:1861-1868.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高く、長期に適用可能なコラーゲン産生促進剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、多くの天然物の中からコラーゲンの産生を促進する素材を見出すべく検討した結果、ケール由来のエクソソームが線維芽細胞におけるコラーゲン産生を促進する作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)ケール由来のエクソソームを有効成分とするコラーゲン産生促進剤。
2)ケール由来のエクソソームを有効成分とするコラーゲン産生促進用食品。
3)ケール由来のエクソソームを有効成分とする皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善剤。
4)ケール由来のエクソソームを有効成分とする皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善用食品。
【発明の効果】
【0011】
ケール由来のエクソソームは、ケールから容易に取得可能であり、長期投与又は摂取可能である。したがって、本発明によれば、安全性の高いコラーゲン産生促進剤が提供され、コラーゲンの減少に起因ないし関連する皮膚のシワやタルミの予防又は改善、皮膚の弾力性改善の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ケール由来エクソソームの透過電子顕微鏡(TEM)による観察像、エクソソームの粒子数及び粒子径。
図2】ケール由来エクソソームの皮膚線維芽細胞への取り込み。
図3】ケール由来エクソソームの皮膚線維芽細胞におけるI型コラーゲン遺伝子発現促進作用。
図4】ケール由来エクソソームの皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進作用。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、ケール由来のエクソソームとは、ケールに含まれるエクソソームであって、ケールから得られるエクソソームと同義である。
本発明において、ケールとは、アブラナ科のケール(Brassica oleracea var. acephala)を指すが、ケールの品種は特に限定されない。例えば、ケール変種(Brassica oleracea L.convar. acephala (DC.)Alef. var. sabellica L.)である「ハイパール」(農林水産省品種登録第20555号)の他、ハイクロップ、エステ、エキストラ・カールド・スコッチ等が利用できるが、コラーゲン産生促進作用が強いため、「ハイパール」(農林水産省品種登録第20555号)を利用することが好ましい。また、グルコラファニン又はスルフォラファンの含有量を高めたケールに属する新品種を使用することもできる。また、ブランチング処理がなされたものであってもよい。
【0014】
エクソソームは、膜小胞の一種であり、脂質二重膜で覆われた微粒子であって、脂質、タンパク質、RNA(mRNA、miRNA)、及びDNAを含むものである。ケール由来のエクソソームの粒子数は3.0×1010~4.0×1012(粉末5gあたり),平均粒子径は115~260nmである。
【0015】
ケールからのエクソソームの調製は、超遠心法、密度勾配遠心法、スクロースクッション法、フィルター法等の公知の方法を適宜組み合わせることにより行うことができる。
例えば、1)ケールの搾汁粉末にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えて混合した後,高速冷却遠心分離を用いて,例えば1,200×g,3,000×g,10,000×gのように徐々に回転を早くしながら遠心分離を行い,上清を回収する。2)回収した上清を超遠心機を用いて30,000~50,000rpm,2~24時間,超遠心分離し、上清を除去することにより粗エクソソーム画分を得る。
次いで、得られた粗エクソソーム画分をイオジキサノール密度勾配遠心分離することにより,エクソソームを単離精製することができる。例えば、チューブ内にイオジキサノールのグラジエント(濃度40%,20%,10%,5%)を作製し、その上に粗エクソソーム画分を添加後,30,000~50,000rpmで超遠心分離を行ない、エクソソームの密度(1.15~1.19g/mL)に相当する層を回収して,これをエクソソーム画分とする。さらに,50,000~100,000rpmで超遠心分離を行い,沈殿物を精製エクソソームとして得ることができる。
【0016】
本発明で用いられるエクソソームは、精製エクソソーム、粗エクソソーム画分のいずれでも良い。エクソソーム画分は、実質的にエクソソーム又はその溶液もしくは懸濁物であってもよい。また、本発明に用いるエクソソームは、インタクトなものであってもよく、膜小胞構造が一部又は完全に破壊された破砕物であってもよい。
【0017】
本発明のエクソソームは、後記実施例に示すように、正常ヒト皮膚線維芽細胞に取り込まれ、コラーゲン産生を促進する。したがって、ケール由来のエクソソームは、コラーゲン産生促進剤となり、コラーゲン産生促進のために使用できる。
本発明において、コラーゲンの産生促進とは、ヒト皮膚真皮の繊維芽細胞のコラーゲンの産生能、好ましくはI型コラーゲンの産生能を促進または改善し、これにより、ヒト皮膚真皮においてコラーゲン量が増大し得ることを意味する。真皮のコラーゲン量を増加させることによって、シワの改善や防止効果が得られ、また、皮膚の弾力性を向上させることができる。したがって、ケール由来のエクソソームは、コラーゲンの減少に起因又は関連する皮膚のシワやタルミの予防又は改善剤にもなり得る。
【0018】
上記コラーゲン産生促進剤は、コラーゲン産生を促進するため、皮膚のシワやタルミを予防又は改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品、サプリメント又は食品(コラーゲン産生促進用食品、皮膚のシワ若しくはタルミ予防又は改善用食品)となり、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤となり得る。また、本発明のケール由来のエクソソームは何れも経口摂取した場合に体内に吸収されることから、細胞評価試験の結果と同じ効果を奏すると考えられる。
尚、上記食品には、一般飲食品のほか、コラーゲン産生、皮膚のシワやタルミの予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が包含される。
【0019】
本発明のケール由来のエクソソームを含む上記医薬品(医薬部外品を含む)は、任意の投与形態で投与され得る。投与に際しては、有効成分を経口、直腸内、注射、外用等の投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0020】
例えば、経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0021】
また、外用剤(化粧品、医薬品および医薬部外品を含む。)の形態としては、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤の他、各種化粧品の形態(例えば、化粧水、乳液、各種クリーム、パック、美容液等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ヘアミルク等の頭髪用製品、入浴剤等の浴用化粧品、ファンデーション、口紅、マスカラ、アイシャドウ等のメーキャップ化粧品、日焼け止め等)が挙げられる。
【0022】
また、上記外用剤には、必須成分であるケール由来のエクソソームの他に、通常、外用剤に配合される任意成分を配合することができる。このような任意成分としては、界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、粉体、ビタミン類、アミノ酸類、水溶性高分子、発泡剤、顔料、植物抽出物、動物由来成分、海藻抽出物、各種薬剤、添加剤、水等を挙げることができる。
【0023】
また、ケール由来のエクソソームを配合した上記食品の形態は、各種食品組成物の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のケール由来のエクソソームを単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定化剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記の医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品及び食品中のケール由来のエクソソームの含有量は、その使用形態により異なるが、通常、エクソソームとして、製剤全質量の0.01~10質量%、好ましくは0.1~1質量%である。
【0025】
本発明のケール由来のエクソソームを医薬品、化粧品又は食品として、或いは医薬品や食品に配合して使用する場合の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、エクソソームとして、好ましくは0.1mg~100g、より好ましくは1mg~10gである。
また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回~数回に分け、数週間~数ヶ月間継続して投与することが好ましい。
【実施例0026】
製造例 ケール由来エクソソームの調製
(1)密度勾配超遠心分離法によるエクソソームの単離
ケール(ブランチング済み,品種:ハイクロップ)およびグルコラファニン高含有ケール(ブランチング済み、品種:ハイパール、以下,「GEK」という)の搾汁粉末5.0gを遠沈管にそれぞれ量り取り,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)50mLを加えた。搾汁粉末とPBSをよく混合した後,高速冷却遠心分離機(himac CR21N,himac社)を用いて,1,200×g,4℃で20分間,3,000×g,4℃で20分間,10,000×g,4℃で1時間,徐々に回転を早くしながら遠心分離を行い,上清を回収した。回収した上清を0.45μmフィルターでろ過後,超遠心機用遠心チューブ(13PET TUBE,himac社)に10mLずつ分注した。遠心チューブをスイング型ローター(P40ST,himac社)に取り付け,超遠心機(himac CP75β,himac社)を用いて30,000rpm,4℃で2時間,超遠心分離を行った。上清を捨て,沈殿に500μLのPBSを添加し,粗エクソソーム画分とした。次に,Optiprep(60%イオジキサノール,Abbot Diagnostics Technologies AS社)を用いたイオジキサノール密度勾配遠心分離により,エクソソームを単離した。遠心チューブの底から,イオジキサノール濃度40%,20%,10%,5%のOptiprep希釈液を層状に重ねチューブ内にイオジキサノールのグラジエントを作製した。その上に粗エクソソーム画分500μLを添加後,30,000rpm,4℃で18時間,超遠心分離を行った。上から1mLずつ回収し,エクソソームの密度が1.15~1.19g/mLであることを指標に,この密度に相当する層を回収して,これをエクソソーム画分とした。さらに,55,000rpm,4℃で2時間,超遠心分離を行い,得られた沈殿に500μLのPBSを添加し,これを精製エクソソームとした。エクソソームは小分けして,実験に使用するまで-80℃で保存した。
【0027】
(2)ナノサイト解析によるエクソソームの粒子濃度および粒子径の測定
エクソソームの粒子濃度および粒子径はナノサイト解析により測定した。ナノサイト解析は富士フィルム和光純薬株式会社に委託した。
図1に示すように、ケール由来エクソソームの粒子数は3.9×1012(粉末5gあたり),平均粒子径は200±1.1nmで,GEK由来エクソソームの粒子数は1.9×1011(粉末5gあたり),平均粒子径は176±2.1nmであった。
【0028】
(3)透過電子顕微鏡(TEM)による観察
エクソソーム溶液500μLに固定のため25%グルタルアルデヒドを終濃度が0.1%(w/v)となるように加え,4℃で一晩静置した。超遠心分離用1.5mLマイクロチューブに移し,超遠心機(himac CP75β, himac社)を用いて55,000rpm,4℃で2時間超遠心分離し,上清を除いた。沈殿物に無水エタノールを50μL加え,エクソソームを洗浄した後,遠心分離エバポレーター(CVE-3000, EYELA社)を用いてエタノールを除去した。PBS 20μLを加えてよく混合し,TEM観察用の試料とした。この試料をCarbon/Formvar film coated TEM grids(ALLIANCE Biosystems社)に5μL滴下し,10分間静置した。添加試料を除去し,1%(w/v)ホスホタングステン酸溶液を5μL滴下した。すぐに除去した後,よく乾燥させてTEM観察用グリッドを作製した。透過電子顕微鏡はJEM-1400(日本電子株式会社,Tokyo,Japan)を使用し,操作手順は付属の説明書に従って観察した。観察像を図1に示す。
【0029】
実施例1 ヒト皮膚線維芽細胞へのエクソソームの取り込み評価
ヒト皮膚線維芽細胞NB1RGBは理化学研究所バイオリソース研究センター細胞材料開発室から入手した。NB1RGBを終濃度5.0×10cells/mLとなるように24wellプレートに各well 0.4mLずつ播種し,10%FBSを含むMEM-αで24時間培養した。PBSで洗浄した後,10%FBSを含むMEM-αに置換した。さらに,DNAに結合する試薬であるDAPI(コスモバイオ社)を添加したサンプル(Control)、VybrantTM DiI Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher社)で標識したGEK由来エクソソーム(終濃度5×10粒子/mL)およびDAPI(コスモバイオ社)を添加したサンプル(GEK由来エクソソーム)、VybrantTM DiI Cell-Labeling Solution(Thermo Fisher社)で標識したケール由来エクソソーム(終濃度5×10粒子/mL)およびDAPI(コスモバイオ社)を添加したサンプル(ケール由来エクソソーム)を作成した。3時間培養後,蛍光顕微鏡EVOS(Thermo Fisher社)で蛍光観察した(DiI:励起波長550nm,蛍光波長565nm)(DAPI:励起波長360nm,蛍光波長460nm)。
図2に示すように、GEK由来エクソソームおよびケール由来エクソソームがヒト皮膚線維芽細胞に取り込まれていることが確認された。
【0030】
実施例2 リアルタイムPCR法を用いたI型コラーゲン遺伝子の発現解析
NB1RGBを終濃度2.0×10cells/mLとなるように12wellプレートに各1mL/well播種し,10%FBSを含むMEM-αで24時間培養した。PBSで洗浄した後,FBSを含まないMEM-αに置換し,血清飢餓状態で24時間培養した。その後,ケール由来エクソソームについてはエクソソームを終濃度が、1×10粒子/mLとなるように調製した培地を添加し、GEK由来エクソソームについてはエクソソームを終濃度で、1×10、2.5×10粒子/mLとなるように調製した培地を添加し,COインキュベーター内で12時間培養した。なお,すべての細胞培養はCOインキュベーターで37℃,CO濃度5%の条件で行った。培地を除去した細胞をPBSで洗浄し,TRIzol(Thermo Fisher社)1mLを加えた。RNAの抽出は,TRIzolの付属説明書に従って行った。
【0031】
抽出したRNAの濃度および純度はNanoDropTM Lite(Thermo Fisher社)を用いて測定した。核酸の純度を示すA280に対するA260の比(A260/A280)が1.8~2.1であることを確認し,cDNA合成を行った。抽出したtotal RNAを65℃で5分間インキュベーションし,氷上で急冷を行った。cDNA合成にはReverTra Ace qPCR RT Master Mix gDNA Remover(TOYOBO社)を使用した。RNA template 1.5μgに対してgDNA Removerを含む4×DN Master Mix 6μLおよびNuclease-free Waterを加えて総量24μLとした。均一になるようによく撹拌し,37℃で5分間インキュベーションしてDNase反応を行った。反応後の溶液を再び氷上に移し,5×RT Mater Mix II 6μLを加えて,均一になるようによく撹拌した。その後,37℃で15分間,50℃で5分間,98℃で5分間インキュベートすることにより逆転写反応を行い,cDNAを合成した。
【0032】
I型コラーゲン遺伝子col1a1の発現量はリアルタイムPCR法により定量した。反応溶液の組成はcDNAを超純水で10倍希釈した溶液2μL,KAPA SYBR FAST Universal qPCR Kit(日本ジェネティクス社) 10μL,プライマー溶液(10μmol/μL)をForward,Reverseそれぞれ0.4μLおよび超純水7.2μLとして全量20μLとなるように調製した。反応条件はプレインキュベートを95℃で1分間行った後,2step PCR(95℃,5秒および60℃,30秒)を40サイクル行った。ハウスキーピング遺伝子である18S rRNAを内部標準として各遺伝子発現量を比較Ct法(ΔΔCt法)により解析した。
【0033】
【表1】
【0034】
図3に示すように、I型コラーゲン遺伝子col1a1の発現を解析したところ,ケール,GEKともにエクソソームの添加によりcol1a1の遺伝子発現量が顕著に増加することが示された。
【0035】
実施例3 ヒト皮膚線維芽細胞を用いたコラーゲン産生能の評価
NB1RGBを終濃度2.0×10cells/mLとなるように12wellプレートに各well 1mLずつ播種し,10%FBSを含むMEM-αで24時間培養した。PBSで洗浄した後,FBSを含まないMEM-αに置換し,血清飢餓状態で24時間培養した。さらに,エクソソーム(終濃度1×10~2×10粒子/mL)を添加後,18時間培養した細胞から培地を除去し,PBSで2回洗浄を行った。このとき,コラーゲン産生促進作用が報告されているTGF-β(終濃度50ng/mL)をポジティブコントロールとして,コラーゲン減少の誘発が報告されているH(終濃度1mM)をネガティブコントロールとして使用した。RIPA Lysis Buffer(Santa Cruz社)を80μL添加し,回収した細胞液を1.5mLマイクロチューブに移し,30秒間ボルテックスミキサーで混和した後,12,000×g,4℃で10分間,遠心分離して上清を回収した。10% 2-メルカプトエタノールを含有するSDSサンプルバッファーを加えて混合した後,100℃で5分間インキュベートし,SDS-PAGE用の試料とした。コラーゲンの発現解析は、以下に示すようにウエスタンブロッティング法により行った。
【0036】
SDS-PAGE用試料を各レーンのタンパク質濃度が20μgとなるようにSDS-PAGEに供した。SDS-PAGEには,10%アクリルアミドを含有した分離ゲルと5%アクリルアミドを含有した濃縮ゲルを用いた。電気泳動は100V,100mAで120分間行った。電気泳動後,ゲルを転写溶液に10分間浸け,セミドライ式転写装置(ATTO社)を使用して,30V,1.5mA/cm,90分間の条件でPVDF膜(Merck社)に転写した。タンパク質が転写されたPVDF膜をPBST(0.05%(w/v)Tween 20を含むPBS)で5分間,3回洗浄して,ブロッキングを行った。ブロッキング剤には3%(w/v)スキムミルク/PBSTを用い,室温で5分間2回,浸透させた。一次抗体として,Rabbit anti-COLIポリクロナール抗体(2,000倍希釈, Abcam社)またはMouse anti-β-actinモノクロナール抗体HRP Conjugate(10,000倍希釈,Cell Signaling technology社)を用いて4℃で一晩振盪して反応させた。コラーゲン検出の二次抗体として,Goat anti-Rabbit IgG horseradish peroxidase抗体(4,000倍希釈,Bio Rad社)を用いて,1時間振盪させながら反応させた。最後に,化学発光イメージャー EZ-Capture MG(ATTO社)で撮影し,ソフトウェア Image Jにより目的タンパク質の定量を行った。
【0037】
図4に示すように、ポジティブコントロールのTGF-βではコラーゲンの増加,ネガティブコントロールのHではコラーゲンの低下が認められた。これに対して,ケール,GEKともにエクソソームの添加によりコラーゲン産生が顕著に増加することが示され、ケールよりもGEKがコラーゲン産生促進効果が高かった。
【0038】
以上の結果より、ケールおよびGEK由来エクソソームはヒト皮膚皮膚線維芽細胞においてコラーゲン産生促進作用を発揮することが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022092330000001.app