(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092331
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】クライオポンプ、および、クライオポンプ用断熱構造体
(51)【国際特許分類】
F04B 37/08 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
F04B37/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205093
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】591176306
【氏名又は名称】アルバック・クライオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】朴 文官
(72)【発明者】
【氏名】日高 康祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
(72)【発明者】
【氏名】村山 吉信
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA25
3H076BB03
3H076BB28
3H076CC46
(57)【要約】
【課題】クライオポンプの外表面における結露の発生を抑制し、断熱構造体の機械的な強度を向上可能にしたクライオポンプ、および、クライオポンプ用断熱構造体を提供する。
【解決手段】第1筒状部11Aと、第1筒状部11Aにおける一方の端部を塞ぐ底部11Bとを備えるポンプケース11と、第1の熱伝導率および第1の剛性を有し、第1筒状部11Aの径方向において、ポンプケース11の外部に位置する第1断熱部材21と、第2の熱伝導率および第2の剛性を有し、第1筒状部11Aの径方向において、ポンプケース11の外部に位置する第2断熱部材22であって、第1断熱部材21よりも内側に位置する部分を含む第2断熱部材22とを備える。第1の熱伝導率は、第2の熱伝導率よりも低く、第1の剛性は、第2の剛性よりも高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部と、前記筒状部における一方の端部を塞ぐ底部とを備えるポンプケースと、
第1の熱伝導率および第1の剛性を有し、前記筒状部の径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第1断熱部材と、
第2の熱伝導率および第2の剛性を有し、前記筒状部の前記径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第2断熱部材であって、前記第1断熱部材よりも内側に位置する部分を含む前記第2断熱部材と、を備え、
前記第1の熱伝導率は、前記第2の熱伝導率よりも低く、
前記第1の剛性は、前記第2の剛性よりも高い
クライオポンプ。
【請求項2】
前記第1断熱部材は、真空断熱部材であり、
前記第2断熱部材は、発泡樹脂である
請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記筒状部の前記径方向において、前記第1断熱部材の厚さが、前記第2断熱部材の厚さよりも薄い
請求項1または2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記ポンプケース内に収容されたクライオパネルをさらに備え、
前記第1断熱部材は、前記筒状部の径方向において前記クライオパネルに対向する第1部分を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記第1断熱部材は、前記ポンプケースの前記底部と対向する第2部分を含む
請求項1から4のいずれか一項に記載のクライオポンプ。
【請求項6】
前記第2断熱部材は、前記筒状部を覆う形状を有し、前記筒状部の外表面と対向する内表面と、当該内表面とは反対側の外表面とを含み、前記外表面には窪みが位置し、
前記第1断熱部材は、前記第2断熱部材の前記窪みに嵌め込まれている
請求項1から5のいずれか一項に記載のクライオポンプ。
【請求項7】
筒状部と、前記筒状部における一方の端部を塞ぐ底部とを備えるクライオポンプ用のポンプケースに搭載されるクライオポンプ用断熱構造体であって、
第1の熱伝導率および第1の剛性を有し、前記筒状部の径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第1断熱部材と、
第2の熱伝導率および第2の剛性を有し、前記筒状部の前記径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第2断熱部材であって、前記第1断熱部材よりも内側に位置する部分を含む前記第2断熱部材と、を備え、
前記第1の熱伝導率は、前記第2の熱伝導率よりも低く、
前記第1の剛性は、前記第2の剛性よりも高い
クライオポンプ用断熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプ、および、クライオポンプ用断熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプの一例は、クライオポンプハウジングの外側に位置する吸水断熱シートを備えている。吸水断熱シートは、吸水層と断熱層とを備えている。吸水断熱シートは、クライオポンプハウジングと吸水層との間に断熱層が位置するように、クライオポンプハウジングに装着されている。
【0003】
クライオポンプの再生時には、クライオパネルに凝縮または吸着した気体を外部に排出するために、クライオポンプが昇温される。これにより、クライオパネルに凝縮または吸着した気体がクライポンプハウジング内に放出される。クライオポンプの再生が開始された直後において、クライオパネルは極低温に維持されているから、クライオポンプハウジング内に放出された気体を介してクライオポンプハウジングが冷却される。これにより、クライオポンプハウジングの外表面における温度での飽和水蒸気圧が、クライオポンプハウジング外の水蒸気圧を下回ることによって、クライオポンプハウジングの外表面において結露が生じる。
【0004】
吸水断熱シートを備えるクライオポンプでは、断熱層によってクライオポンプハウジングからの熱伝導を抑えるから、クライオポンプの外表面において結露が生じにくくなる。また、断熱層の外側に吸水層が位置するから、断熱層の外表面における温度での飽和水蒸気圧が、吸水層外の水蒸気圧を下回ったとしても、断熱層の外表面などにおいて生じた水滴が吸収層によって吸収される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、吸水断熱シートでは、断熱層が熱伝導を抑える機能を有する一方で、吸水層は熱伝導を抑える機能を有しないから、クライオポンプの外表面での結露を抑える観点において、より熱伝導を抑えることが可能な構造が求められている。
【0007】
また、断熱層の外側に位置する吸水層の形成材料には、多孔質材料、および、水分の吸着によって膨潤する材料が選択される。そのため、吸水層は、断熱層よりも剛性が小さい傾向を有し、かつ、他の部材などの衝突によって損傷しやすい傾向を有する。そのため、断熱層を含む断熱構造体の機械的な強度がより高いクライオポンプが求められている。
【0008】
本発明は、クライオポンプの外表面における結露の発生を抑制し、断熱構造体の機械的な強度を向上可能にしたクライオポンプ、および、クライオポンプ用断熱構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためのクライオポンプは、筒状部と、前記筒状部における一方の端部を塞ぐ底部とを備えるポンプケースと、第1の熱伝導率および第1の剛性を有し、前記筒状部の径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第1断熱部材と、第2の熱伝導率および第2の剛性を有し、前記筒状部の前記径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第2断熱部材であって、前記第1断熱部材よりも内側に位置する部分を含む前記第2断熱部材と、を備える。前記第1の熱伝導率は、前記第2の熱伝導率よりも低く、前記第1の剛性は、前記第2の剛性よりも高い。
【0010】
上記課題を解決するためのクライオポンプ用断熱構造体は、筒状部と、前記筒状部における一方の端部を塞ぐ底部とを備えるクライオポンプ用のポンプケースに搭載されるクライオポンプ用断熱構造体である。第1の熱伝導率および第1の剛性を有し、前記筒状部の径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第1断熱部材と、第2の熱伝導率および第2の剛性を有し、前記筒状部の前記径方向において、前記ポンプケースの外部に位置する第2断熱部材であって、前記第1断熱部材よりも内側に位置する部分を含む前記第2断熱部材と、を備える。前記第1の熱伝導率は、前記第2の熱伝導率よりも低く、前記第1の剛性は、前記第2の剛性よりも高い。
【0011】
上記クライオポンプ、および、クライオポンプ用断熱構造体によれば、第2断熱部材と、第2断熱部材よりもさらに熱伝導率が低い第1断熱部材とを有するから、第2断熱部材のみを備える場合に比べて、クライオポンプの内部から外部に向けた熱伝導がより抑えられ、クライオポンプの外表面での結露が抑えられる。また、第1断熱部材の剛性が第2断熱部材の剛性よりも高いから、第2断熱部材の全体が第1断熱部材よりも外側に位置する場合に比べて、断熱構造体の機械的な強度を高めることが可能である。
【0012】
上記クライオポンプにおいて、前記第1断熱部材は、真空断熱部材であり、前記第2断熱部材は、発泡樹脂であってよい。このクライオポンプによれば、第1断熱部材の剛性を第2断熱部材の剛性よりも高くし、かつ、第2断熱部材が、ポンプケースの熱変形に対して第1断熱部材の緩衝材として機能することが可能である。これにより、ポンプケースの熱変形に起因した第1断熱部材の損傷が抑えられる。
【0013】
上記クライオポンプにおいて、前記筒状部の前記径方向において、前記第1断熱部材の厚さが、前記第2断熱部材の厚さよりも薄くてもよい。このクライオポンプによれば、第1断熱部材が第2断熱部材以上の厚さを有する場合に比べて、ポンプケースの外側に位置する第1断熱部材と第2断熱部材との総厚を小さくすることが可能である。
【0014】
上記クライオポンプにおいて、前記ポンプケース内に収容されたクライオパネルをさらに備え、前記第1断熱部材は、前記筒状部の径方向において前記クライオパネルに対向する第1部分を含んでもよい。
【0015】
上記クライオポンプによれば、熱伝導率が低い第1断熱部材が、再生対象であるクライオパネルと対向するように位置するから、第1断熱部材がクライオパネルと対向しない場合に比べて、ポンプケースの筒状部において生じる結露が抑えられる。
【0016】
上記クライオポンプにおいて、前記第1断熱部材は、前記ポンプケースの前記底部と対向する第2部分を含んでもよい。このクラインポンプによれば、熱伝導率が低い第1断熱部材がポンプケースの底部と対向する第2部分を含むから、ポンプケースの底部の周囲においても結露が抑えられる。
【0017】
上記クライオポンプにおいて、前記第2断熱部材は、前記ポンプケースを覆う形状を有し、前記ポンプケースの外表面と対向する内表面と、当該内表面とは反対側の外表面とを含み、前記外表面には窪みが位置し、前記第1断熱部材は、前記第2断熱部材の前記窪みに嵌め込まれていてもよい。
【0018】
上記クライオポンプによれば、第1断熱部材が窪みに嵌め込まれるため、第1断熱部材のうち、第2断熱部材に対向する面とは反対側の面以外の表面は、第2断熱部材によって覆われる。そのため、第1断熱部材が第2断熱部材上に位置する場合に比べて、第1断熱部材が損傷しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態のクライオポンプの構造を示す断面図。
【
図2】
図1が示すII‐II線に沿う構造を示す断面図。
【
図3】
図1が示すIII‐III線に沿う構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から
図3を参照して、クライオポンプの一実施形態を説明する。
図1が示すように、クライオポンプ10は、ポンプケース11、第1断熱部材21、および、第2断熱部材22を備えている。ポンプケース11は、第1筒状部11Aと、第1筒状部11Aにおける一方の端部を塞ぐ底部11Bとを備えている。第1断熱部材21は、第1の熱伝導率および第1の剛性を有している。第1断熱部材21は、第1筒状部11Aの径方向において、ポンプケース11の外部に位置している。第2断熱部材22は、第2の熱伝導率および第2の剛性を有している。第2断熱部材22は、第1筒状部11Aの径方向において、ポンプケース11の外部に位置する。第2断熱部材22は、第1断熱部材21よりも内側に位置する部分を含んでいる。第1の熱伝導率は、第2の熱伝導率よりも低い。第1の剛性は、第2の剛性よりも高い。
【0021】
クライオポンプ10が、第2断熱部材22と、第2断熱部材22よりもさらに熱伝導率が低い第1断熱部材21とを有するから、第2断熱部材22のみを備える場合に比べて、クライオポンプ10の内部から外部に向けた熱伝導がより抑えられ、クライオポンプ10の外表面での結露が抑えられる。また、第1断熱部材21の剛性が第2断熱部材22の剛性よりも高いから、第2断熱部材22の全体が第1断熱部材21よりも外側に位置する場合に比べて、第1断熱部材21と第2断熱部材22とが構成される断熱構造体の機械的な強度が高められる。
【0022】
第1断熱部材21は真空断熱部材であり、第2断熱部材22は発泡樹脂であってよい。第1断熱部材21の剛性を第2断熱部材22の剛性よりも高くし、かつ、第2断熱部材22が、ポンプケース11の熱変形に対して第1断熱部材21の緩衝材として機能することが可能である。これにより、ポンプケース11の熱変形に起因した第1断熱部材21の損傷が抑えられる。
【0023】
真空断熱部材は、例えば、断熱材と断熱材を覆うフィルムとを備えている。断熱材は、フィルムによって画定された密閉空間内に位置している。真空断熱部材は、密閉空間内に乾燥剤を備えることが可能である。密閉空間は、大気圧よりも減圧されている。すなわち、密閉空間内は真空である。断熱材は、例えばグラスウールであってよい。フィルムは、例えば、樹脂フィルムおよび金属薄膜の少なくとも一方を備えることができる。フィルムは、例えばアルミニウム薄膜であってよい。乾燥剤は、例えば、酸化カルシウム、シリカゲル、塩化カルシウム、クレイ系乾燥剤、および、合成ゼオライトなどであってよい。
【0024】
真空断熱材は、例えば、0.002W/m・K以上0.010W/m・K以下の範囲に含まれる熱伝導率を有することが可能である。そのため、真空断熱部材によれば、発泡性の合成樹脂などによって形成された断熱部材に比べて、所定の断熱効果を発現するために必要な厚さを非常に薄くすることが可能である。また、真空断熱部材によれば、発泡樹脂などによって形成された断熱部材に比べて、高い剛性を有することが可能である。
【0025】
第2断熱部材22は、例えば高硬度発泡ポリスチレン(EPS)であってよい。第2断熱部材22は、例えば、0.020W/m・K以上0.050W/m・K以下の範囲に含まれる熱伝導率を有することが可能である。
【0026】
クライオポンプ10は再生時に加熱され、排気時には冷却される。そのため、ポンプケース11も加熱と冷却との繰り返しによって、熱収縮と熱膨張とを繰り返す。上述したように、第2断熱部材22は第1断熱部材21に比べて剛性が低いから、ポンプケース11が熱収縮と熱膨張とを繰り返しても、当該熱収縮と熱膨張とに追従して変形することが可能である。これに対して、第1断熱部材21は第2断熱部材22に比べて剛性が高いから、ポンプケース11の熱収縮と熱膨張とに伴う変形を繰り返した場合に、損傷する場合がある。この点で、第1断熱部材21とポンプケース11との間に第2断熱部材22が位置し、これによって、第2断熱部材22が第1断熱部材21の熱変形において緩衝部材として機能するから、熱変形に起因した第1断熱部材21の損傷が抑えられる。
【0027】
クライオポンプ10の製造時およびメンテナンス時などにおいて、断熱構造体は、断熱構造体を覆うカバーと接触したり、ポンプケース11と接触したりすることがある。この場合には、断熱構造体が欠けたり破れたりすることがある。この点で、本開示の断熱構造体は、第2断熱部材22と、第2断熱部材22よりも剛性が高い第1断熱部材21を備えることによって機械的な強度が高められるから、断熱構造体の欠けおよび破れなどが抑えられる。
【0028】
第1筒状部11Aの径方向において、第1断熱部材21の厚さが、第2断熱部材22の厚さよりも薄い。これにより、第1断熱部材21が第2断熱部材22以上の厚さを有する場合に比べて、ポンプケース11の外側に位置する第1断熱部材21と第2断熱部材22との総厚を小さくすることが可能である。なお、第2断熱部材22が第1の厚さを有する部分と、第1の厚さよりも厚い部分とを有してもよい。この場合には、第1断熱部材21の厚さは、第2断熱部材22における最小の厚さよりも薄くてよい。
【0029】
クライオポンプ10は、冷凍機31、クライオパネル12、熱シールド13、および、バッフルプレート14をさらに備えている。クライオパネル12は、冷凍機31に接続されている。熱シールド13は、クライオパネル12を収容している。熱シールド13は、気体導入口13Aを有している。バッフルプレート14は、熱シールド13の気体導入口13Aに位置している。
【0030】
ポンプケース11は、上述した第1筒状部11Aおよび底部11Bに加えて、第2筒状部11Cを備えている。第1筒状部11Aは、熱シールド13を収容している。第2筒状部11Cは、冷凍機31を収容している。第1筒状部11Aにおいて、底部11Bが位置する端部とは反対側の端部には、フランジ11Fが位置している。フランジ11Fは、第1筒状部11Aの周方向における全体にわたる環状を有している。
【0031】
熱シールド13は、ポンプケース11からの輻射熱からクライオパネル12を保護する。熱シールド13は、ポンプケース11とクライオパネル12との間に位置している。熱シールド13は、筒状を有している。熱シールド13において、一方の端部が底部によって塞がれ、かつ、他方の端部には気体導入口13Aが位置している。
【0032】
上述した第1断熱部材21は、第1筒状部11Aの径方向においてクライオパネル12に対向する第1部分21Aを含んでいる。熱伝導率が低い第1断熱部材21が、再生対象であるクライオパネル12と対向するように位置するから、第1断熱部材21がクライオパネル12と対向しない場合に比べて、ポンプケース11の筒状部11Aにおいて生じる結露が抑えられる。
【0033】
上述したように、クライオパネル12の再生が開始された直後では、クライオパネル12が極低温の状態に維持されているから、クライオパネル12の周囲に放出されたガスを介してクライオパネル12からポンプケース11への熱伝導が生じる。第1筒状部11Aのうち、第1筒状部11Aの径方向においてクライオパネル12と対向する部分は、クライオパネル12からの距離が最短の部分であるから、クライオパネル12からの熱伝導が最も生じやすい部分である。そのため、第1筒状部11Aのうち、第1筒状部11Aの径方向においてクライオパネル12と対向する部分は、クライオパネル12の再生が開始された直後において、最も冷却されやすい部分である。この点で、第1断熱部材21の第1部分21Aがクライオパネル12と対向するから、クライオパネル12の再生が開始された直後において、クライオポンプ10の外表面に結露が生じることが抑えられる。
【0034】
第1断熱部材21は、ポンプケース11の底部11Bと対向する第2部分21Bを含んでいる。熱伝導率が低い第1断熱部材21がポンプケース11の底部11Bと対向する第2部分21Bを含むから、ポンプケース11の底部11Bの周囲においても結露が抑えられる。
【0035】
クライオパネル12の再生が開始されると、クライオパネル12に堆積された凝縮気体が液化する。液化した凝縮気体は、熱シールド13内において、クライオパネル12からポンプケース11の底部11Bに向かう方向に沿って流れる。そのため、ポンプケース11の底部11B近傍は、液化した凝縮気体によって冷却される。この点で、第1断熱部材21がポンプケース11の底部11Bと対向する第2部分21Bを含むから、液化した凝縮気体による冷却に起因した結露が、第2部分21Bによって抑えられる。
【0036】
第2断熱部材22は、第1筒状部11Aを覆う形状を有している。第2断熱部材22は、第1筒状部11Aと対向する内表面22S1と、当該内表面22S1とは反対側の外表面22S2とを含む。外表面22S2には、窪みが位置している。第1断熱部材21は、第2断熱部材22の窪みに嵌め込まれている。第1断熱部材21が窪みに嵌め込まれるため、第1断熱部材21のうち、第2断熱部材22に対向する面とは反対側の面以外の表面は、第2断熱部材22によって覆われる。そのため、第1断熱部材21が第2断熱部材22上に位置する場合に比べて、第1断熱部材21が損傷しにくい。
【0037】
本実施形態では、第2断熱部材22は、第1窪み22D1と第2窪み22D2とを備えている。第1窪み22D1には、第1断熱部材21の第1部分21Aが嵌め込まれる。第2窪み22D2には、第1断熱部材21の第2部分21Bが嵌め込まれる。第1窪み22D1は、第1筒状部11Aの周方向において、第2断熱部材22の全体にわたっている。すなわち、本実施形態では、第1断熱部材21が有する表面と、第2断熱部材22の外表面22S2のうちで、第1断熱部材21によって覆われていない部分が、断熱構造体の外表面を形成する。
【0038】
第2断熱部材22は、筒状部22Aと底部22Bとから構成されている。筒状部22Aは、ポンプケース11の第1筒状部11Aを覆う形状を有している。筒状部22Aは、第1筒状部11Aに接している。底部22Bは、ポンプケース11の底部11Bを覆う形状を有している。底部22Bは、ポンプケース11の底部11Bに接している。
【0039】
第1断熱部材21が真空断熱部材である場合には、帯状を有する真空断熱部材を第2断熱部材22の第1窪み22D1に沿うような筒状を有するように変形させてもよい。あるいは、真空断熱部材の製造時において、第2断熱部材22の第1窪み22D1に沿うような筒状を有するように、真空断熱部材を成型してもよい。帯状を有する真空断熱部材を用いる場合には、真空断熱部材を筒状に変形させることによって、真空断熱部材の内表面にしわが生じる。第2断熱部材22が発泡樹脂である場合には、第1窪み22D1に真空断熱部材が嵌め込まれた際に、真空断熱部材の内表面に位置するしわを埋めるように、発泡樹脂が真空断熱部材に追従することが可能である。これにより、真空断熱部材の内表面に位置するしわに起因する結露が内表面に生じることが抑えられる。
【0040】
クライオポンプ10は、カバー23をさらに備えている。カバー23は、第2断熱部材22を覆う形状を有している。第2断熱部材22は、筒状部23Aと底部23Bとから構成されている。筒状部23Aは、第2断熱部材22の筒状部22Aを覆う形状を有している。底部23Bは、第2断熱部材22の底部22Bを覆う形状を有している。カバー23は、第1断熱部材21以上の剛性を有することが可能である。カバー23は、例えば金属板によって形成されている。金属板は、例えばステンレス鋼によって形成されてよい。カバー23により、断熱構造体が外部に露出しないから、断熱構造体の外表面における損傷が抑えられる。
【0041】
第1筒状部11Aの径方向において、第2断熱部材22、第1断熱部材21、および、カバー23のそれぞれの厚さを加算した総厚は、フランジ11Fの突出量以下であることが好ましい。これにより、第1筒状部11Aの径方向において、クライオポンプ10の大きさを拡大することなく、第2断熱部材22、第1断熱部材21、および、カバー23をポンプケース11に搭載することが可能である。
【0042】
冷凍機31は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機である。冷凍機31は、第1シリンダー31A1、第1ステージ31A2、第2シリンダー31B1、および、第2ステージ31B2を備えている。第1シリンダー31A1は、第2シリンダー31B1に直列に接続されている。第1シリンダー31A1内には図示されない第1ディスプレーサーが位置し、かつ、第2シリンダー31B1内には図示されない第2ディスプレーサーが位置している。
【0043】
第1シリンダー31A1は、ポンプケース11の第2筒状部11C内に位置している。第1ステージ31A2は、第1シリンダー31A1の端部であって、第2シリンダー31B1に接続される端部に固定されている。第1ステージ31A2は、熱シールド13に接触し、これによって、第1ステージ31A2は、熱シールド13に熱的に接続されている。
【0044】
第2シリンダー31B1は、熱シールド13によって画定される空間内に位置している。第2シリンダー31B1のうち、第1シリンダー31A1に接続される端部とは反対側の端部に第2ステージ31B2が固定されている。第2ステージ31B2には、冷凍機31に対してクライオパネル12を接続するための取付部材31Cが接続されている。
【0045】
熱シールド13によって画定される空間内には、複数のクライオパネル12が位置している。各クライオパネル12は、取付部材31Cに取り付けられている。これにより、各クライオパネル12は、第2ステージ31B2に熱的に接続されている。各クライオパネル12は、板部材によって形成されている。各クライオパネル12は、円錐台状に成型されている。各クライオパネル12は、バッフルプレート14が広がる平面と対向する平面視において、各クライオパネル12の中心が同一の中心軸上に位置するように取付部材31Cに取り付けられている。
【0046】
冷凍機31は、第1ステージ31A2を例えば80K以上100K以下の範囲に含まれる所定の第1温度に冷却し、かつ、第2ステージ31B2を例えば10K以上20K以下の範囲に含まれる所定の第2温度に冷却する。上述したように、熱シールド13は第1ステージ31A2に熱的に接続されるから、熱シールド13は第1ステージ31A2と同等の温度に冷却される。クライオパネル12は取付部材31Cを介して第2ステージ31B2に接続されるから、クライオパネル12は第2ステージ31B2と同等の温度に冷却される。
【0047】
クライオポンプ10では、第1温度において凝縮する気体であって、蒸気圧が相対的に低い気体が、バッフルプレート14および熱シールド13によって捕捉され、これによって、当該気体は、クライオポンプ10が接続された真空槽内から排気される。また、クライオポンプ10では、第2温度において凝縮する気体であって、蒸気圧が相対的に高い気体が、クライオパネル12によって捕捉され、これによって、当該気体は、クライオポンプ10が接続された真空槽内から排気される。
【0048】
図2は、
図1に示されるII‐II線に沿う断面構造を示している。
図2が示すように、第1断熱部材21の第2部分21Bが広がる平面と対向する視点から見て、第2部分21Bは四角形状を有している。
図2が示す例では、第2部分21Bは、正方形状を有している。なお、第2部分21Bは、正方形状以外の多角形状を有してもよい。例えば、第2部分21Bは、六角形状および八角形状などであってもよい。あるいは、第2部分21Bは円形状を有してもよい。ポンプケース11が確定する空間からポンプケース11外への熱伝導を低くする上では、第1断熱部材21の第2部分21Bの大きさと、第2断熱部材22の底部22Bの大きさとの差が小さいことが好ましい。
【0049】
図3は、
図1に示されるIII‐III線に沿う断面構造を示している。
図3が示すように、III‐III線に沿う断面において、第2断熱部材22の筒状部22Aとカバー23の筒状部23Aとの間に、第1断熱部材21の第1部分21Aが位置している。当該断面において、第2断熱部材22の筒状部22A、第1断熱部材21の第1部分21A、および、カバー23の筒状部23Aの各々は、優弧状を有している。第2断熱部材22の筒状部22Aは、第1部材22A1と第2部材22A2とから構成されている。筒状部22Aは、筒状部22Aの周方向において第1部材22A1と第2部材22A2とに分割されている。筒状部22Aが2つの部材から構成されることによって、筒状部22Aが1つの部材から構成される場合に比べてポンプケース11の第1筒状部11Aに対して第2断熱部材22の筒状部22Aを取り付けることが容易である。
【0050】
なお、第2断熱部材22の筒状部22Aは、3つ以上の部材から構成されてもよいし、1つの部材のみから構成されてもよい。また、第1断熱部材21の第1部分21A、および、カバー23はそれぞれ、第1筒状部11Aの周方向において分割された2つ以上の部材から構成されてもよい。
【0051】
以上説明したように、クライオポンプの一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)クライオポンプ10が、第2断熱部材22と、第2断熱部材22よりもさらに熱伝導率が低い第1断熱部材21とを有するから、クライオポンプ10の内部から外部に向けた熱伝導がより抑えられ、クライオポンプ10の外表面での結露が抑えられる。また、第1断熱部材21の剛性が第2断熱部材22の剛性よりも高いから、第2断熱部材22の全体が第1断熱部材21よりも外側に位置する場合に比べて、断熱構造体の機械的な強度が高められる。
【0052】
(2)第1断熱部材21の剛性を第2断熱部材22の剛性よりも高くし、かつ、第2断熱部材22が、ポンプケース11の熱変形に対して第1断熱部材21の緩衝材として機能することが可能である。これにより、ポンプケース11の熱変形に起因した第1断熱部材21の損傷が抑えられる。
【0053】
(3)第1断熱部材21が第2断熱部材22以上の厚さを有する場合に比べて、ポンプケース11の外側に位置する第1断熱部材21と第2断熱部材22との総厚を小さくすることが可能である。
【0054】
(4)熱伝導率が低い第1断熱部材21が、再生対象であるクライオパネル12と対向するように位置するから、第1断熱部材21がクライオパネル12と対向しない場合に比べて、ポンプケース11の筒状部11Aにおいて生じる結露が抑えられる。
【0055】
(5)熱伝導率が低い第1断熱部材21がポンプケース11の底部11Bと対向する第2部分21Bを含むから、ポンプケース11の底部11Bの周囲においても結露が抑えられる。
【0056】
(6)第1断熱部材21が窪みに嵌め込まれるため、第1断熱部材21のうち、第2断熱部材22に対向する面とは反対側の面以外の表面は、第2断熱部材22によって覆われる。そのため、第1断熱部材21が第2断熱部材22上に位置する場合に比べて、第1断熱部材21が損傷しにくい。
【0057】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[第2断熱部材]
・第2断熱部材22は、第1断熱部材21が位置するための窪みを有しなくてもよい。この場合には、第1筒状部11Aの径方向において、第2断熱部材22の全体が、第1断熱部材21よりもポンプケース11寄りに位置してよい。この場合であっても、第1筒状部11Aの径方向において、第2断熱部材22が第1断熱部材21よりも内側に位置するから、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0058】
・第2断熱部材22は、第1の熱伝導率が第2の熱伝導率よりも低く、かつ、第1の剛性が第2の剛性よりも高いことを満たしていれば、発泡樹脂でなくてもよい。この場合であっても、クライオポンプ10が第1断熱部材21および第2断熱部材22を備えることによって、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0059】
[第1断熱部材]
・第1断熱部材21は、第2部分21Bを備える一方で、第1部分21Aを備えなくてもよい。この場合であっても、第1断熱部材21が第2部分21Bを備えるから、上述した(5)と同等の効果を得ることはできる。
【0060】
・第1断熱部材21は、第1部分21Aを備える一方で、第2部分21Bを備えなくてもよい。この場合であっても、第1断熱部材21が第1部分21Aを備えるから、上述した(4)と同等の効果を得ることはできる。
【0061】
・第1断熱部材21の第1部分21Aは、第1筒状部11Aの径方向において、クライオパネル12と対向していなくてもよい。例えば、第1筒状部11Aの軸方向において、第1断熱部材21の第1部分21Aは、クライオパネル12よりもバッフルプレート14寄りに位置してもよい。あるいは、第1筒状部11Aの軸方向において、第1断熱部材21の第1部分21Aは、クライオパネル12よりもポンプケース11の底部11B寄りに位置してもよい。いずれの場合であっても、クライオポンプ10が第1断熱部材21および第2断熱部材22を備えることによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0062】
・第1断熱部材21の厚さは、第2断熱部材22の厚さよりも厚くてもよい。この場合であっても、クライオポンプ10が第1断熱部材21および第2断熱部材22を備えることによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0063】
・第1断熱部材21は、第1の熱伝導率が第2の熱伝導率よりも低く、かつ、第1の剛性が第2の剛性よりも高いことを満たしていれば、第1断熱部材21は真空断熱部材でなくてもよい。この場合であっても、クライオポンプ10が第1断熱部材21および第2断熱部材22を備えることによって、上述した(1)に準じた効果を得ることができる。
【0064】
[カバー]
・クライオポンプ10は、第1断熱部材21および第2断熱部材22の一部を覆うカバー23を備えていなくてもよい。この場合であっても、第2断熱部材22よりも高い剛性を有する第1断熱部材21が断熱構造体の外表面を形成することによって、第2断熱部材22のみが断熱構造体の外表面を形成する場合に比べて、断熱構造体の外表面での機械的な強度を高めることは可能である。なお、この場合には、第1断熱部材21および第2断熱部材22がクライオポンプ10の外表面に位置するから、クライオポンプ10の外表面での機械的な強度を高めることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
10…クライオポンプ
11…ポンプケース
12…クライオパネル
13…熱シールド
14…バッフルプレート
21…第1断熱部材
22…第2断熱部材
22D1…第1窪み
22D2…第2窪み