(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092424
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】防錆塗料組成物及び防錆塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220615BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220615BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220615BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/08
C09D7/63
C09D175/04
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205239
(22)【出願日】2020-12-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコ-ティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】内橋 諒
(72)【発明者】
【氏名】矢尾板 聡
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB001
4J038DD001
4J038DG111
4J038DG121
4J038DG131
4J038HA196
4J038KA05
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA26
4J038NA27
4J038PA19
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】優れた耐湿性と、長期に亘り、特に酸性環境条件においても長期に亘り優れた防錆性とを示す塗膜を形成し得る防錆塗料組成物であって、更に、良好な貯蔵安定性を有する防錆塗料組成物を提供すること。
【解決手段】塗膜形成樹脂(A)と、架橋剤(B)と、マグネシウム水酸化物(C)とを含み、
前記マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は70g/100g以下であり、且つ、BET比表面積は4.0m
2/g以下である、
防錆塗料組成物。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)と、架橋剤(B)と、マグネシウム水酸化物(C)とを含み、
前記マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は70g/100g以下であり、且つ、BET比表面積は4.0m2/g以下である、
防錆塗料組成物。
【請求項2】
前記マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、前記マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が250μS/cm以下の化合物である、
請求項1に記載の防錆塗料組成物。
【請求項3】
前記マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、前記マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるpHが、8以上12以下であり、且つ、
平均粒子径が0.5μm以上20μm以下である、請求項1又は2に記載の防錆塗料組成物。
【請求項4】
前記塗膜形成樹脂(A)は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項5】
前記塗膜形成樹脂(A)は、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記ウレタン樹脂は、-50℃以上70℃以下のガラス転移温度を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項6】
前記塗膜形成樹脂(A)は、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記ウレタン樹脂は、エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂及びカーボネート系ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項7】
前記塗膜形成樹脂(A)は、1,000以上40,000以下の数平均分子量を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項8】
前記塗膜形成樹脂(A)は、エステル系ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項9】
前記エステル系ウレタン樹脂、前記エポキシ樹脂及び前記ポリエステル樹脂における少なくとも1つにおいて、固形分酸価が30mgKOH/g以下である、請求項8に記載の防錆塗料組成物。
【請求項10】
前記塗膜形成樹脂(A)の固形分と、前記架橋剤(B)の固形分との合計100質量部に対して、前記マグネシウム水酸化物(C)を、1質量部以上150質量部以下の範囲で含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物を被塗物に塗装する塗装工程、及び
前記防錆塗料組成物を150℃以上270℃以下の温度で硬化させる工程、
を含む、防錆塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆塗料組成物及び前記塗料組成物を用いる防錆塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板、めっき鋼板を基材として塗装を施した塗装鋼板は、プレコートメタルとも呼ばれ、エアコンの室外機、給湯器の家電外装品、屋根、壁等の外装用建材等、種々の用途に用いられている。例えば、亜鉛めっき鋼板を含む塗装鋼板には、防錆性を向上させて発錆を防ぐために、通常、防錆塗料がその表面に塗装される。
【0003】
従来、防錆塗料としてはクロム含有塗料を使用することが一般的であり、クロム含有塗膜を形成することにより、錆の発生を抑制することができる。しかしながら、クロムは環境への悪影響が懸念され、その使用が制限されつつある。
そこで、クロム化合物以外の防錆剤として、バナジウム化合物を含む塗料組成物が提案されている。
【0004】
特開2008-222834号公報(特許文献1)には、(A)水酸基含有塗膜形成性樹脂、(B)架橋剤及び(C)防錆顔料混合物を含有する塗料組成物であって、該防錆顔料混合物(C)が、(1)五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物、(2)金属珪酸塩及び(3)リン酸系カルシウム塩、からなるものである、塗料組成物が開示されている。
【0005】
特開2009-227748号公報(特許文献2)には、(A)特定のアクリル樹脂及び特定のポリエステル樹脂のうちの少なくとも1種の水酸基含有皮膜形成性樹脂、(B)ビスフェノール型エポキシ樹脂、(C)硬化剤、(D)2級又は3級のアミノ基を有するエポキシ樹脂、2級又は3級のアミノ基を有するアクリル樹脂及びレゾール型フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種の付着付与樹脂及び(E)防錆顔料を含有することを特徴とする防錆塗料組成物が開示されている。また、防錆顔料(E)が、(1)五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物、(2)金属珪酸塩及びシリカ微粒子のうちの少なくとも1種の珪素含有化合物及び(3)リン酸系金属塩を含有するものであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-222834号公報
【特許文献2】特開2009-227748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また近年、様々な環境条件下における、塗装鋼板の耐久性が求められている。
例えば、「酸性雨」によって、塗装鋼板に腐食が生じる現象が認められている。「酸性雨」は、二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)等の酸性雨起因物質が、雨、雪、霧等に溶け込むことにより生じるものであり、通常より強い酸性を示す。また、酸性雨起因物質は、放出されてから酸性雨として降ってくるまでに、国境を越えて数百から数千kmも運ばれることもあり、塗装鋼板の腐食被害が広範囲な地域に亘って、今後とも増加すると予想されている。
更に、酸性雨起因物質が結露及び湿気のある環境下で存在すると、酸性雨起因物質に含まれる硫化物及び/又は窒化物が湿気のある状態に曝され、これらの物質が塗装鋼板の腐食反応を進行させる場合がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の塗料組成物で形成された塗膜では、防錆性が不十分である。例えば、屋外用途への適用に対して防錆性が十分でなく、特許文献1及び2の塗膜には改善の余地がある。その上、酸性環境条件における防錆性についても、改善の余地がある。
このように、酸性環境条件における防錆性を備え、その上、より長期に亘る防錆性を備える塗膜を形成し得る塗料組成物が要求されている。
【0009】
また、屋外で使用する場合、被塗物や塗膜が高湿度環境下に曝されることもあり、優れた耐湿性を示す塗膜を形成し得る塗料組成物が要求されている。
【0010】
本発明は、優れた耐湿性と、長期に亘り、特に酸性環境条件においても長期に亘り優れた防錆性とを示す塗膜を形成し得る防錆塗料組成物であって、更に、良好な貯蔵安定性を有する防錆塗料組成物を提供することを課題とする。なお、以下において、防錆塗料組成物を「塗料組成物」と記載することがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、以下の[1]~[11]を提供するものである。
[1] 塗膜形成樹脂(A)と、架橋剤(B)と、マグネシウム水酸化物(C)とを含み、
前記マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は70g/100g以下であり、且つ、BET比表面積は4.0m2/g以下である、
防錆塗料組成物。
[2] 前記マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、前記マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が250μS/cm以下の化合物である、
[1]に記載の防錆塗料組成物。
[3] 前記マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、前記マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるpHが、8以上12以下であり、且つ、
平均粒子径が0.5μm以上20μm以下である、[1]又は[2]に記載の防錆塗料組成物。
[4] 前記塗膜形成樹脂(A)は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]から[3]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物。
[5] 前記塗膜形成樹脂(A)は、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記ウレタン樹脂は、-50℃以上70℃以下のガラス転移温度を有する、
[1]から[4]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物。
[6] 前記塗膜形成樹脂(A)は、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記ウレタン樹脂は、エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂及びカーボネート系ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
[1]から[5]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物。
[7] 前記塗膜形成樹脂(A)は、1,000以上40,000以下の数平均分子量を有する、[1]から[6]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物。
[8] 前記塗膜形成樹脂(A)は、エステル系ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]から[7]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物。
[9] 前記エステル系ウレタン樹脂、前記エポキシ樹脂及び前記ポリエステル樹脂における少なくとも1つにおいて、固形分酸価が30mgKOH/g以下である、[8]に記載の防錆塗料組成物。
[10] 前記塗膜形成樹脂(A)の固形分と、前記架橋剤(B)の固形分との合計100質量部に対して、前記マグネシウム水酸化物(C)を、1質量部以上150質量部以下の範囲で含む、[1]から[9]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物。
[11] [1]から[10]のいずれか1つに記載の防錆塗料組成物を被塗物に塗装する塗装工程、及び
前記防錆塗料組成物を150℃以上270℃以下の温度で硬化させる工程、
を含む、防錆塗膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、優れた耐湿性と、長期に亘り、特に酸性環境条件においても長期に亘り優れた防錆性とを示す塗膜を形成し得る防錆塗料組成物であって、更に、良好な貯蔵安定性を有する防錆塗料組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】耐食性試験に用いた塗装鋼板試験片断面の概略を示す模式図である。
【
図1B】耐食性試験に用いた塗装鋼板試験片に設けられたクロスカット部及び4T折り曲げ加工部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に至った経緯を説明する。
塗膜に防錆性を付与するために、クロム系化合物が使用されている。例えば、クロム系化合物を含む塗料組成物を用いると、被塗物における錆の発生を良好に抑制することができる。その一方で、防錆塗料組成物の技術分野においても、人体や環境負荷への低減が求められており、今後、防錆塗料組成物におけるクロム系化合物の配合量を削減する又は使用しないことが必須になるものと考えられる。
【0015】
例えば、クロム系化合物を削減することを目的として、バナジン酸金属塩等のバナジウム化合物が使用されている。バナジウム化合物を含む防錆塗料組成物の防錆性を向上させるための手段として、塗料組成物に含まれるバナジウム化合物の量を、増加させることが有効とされている。
【0016】
しかし、バナジウム化合物、特に、バナジン酸塩は水溶性が高いため、塗料組成物がバナジウム化合物を多量に含むと、塗膜が吸湿しやすくなる。その結果、塗膜の耐湿性が低下して、特に酸性環境下において塗膜にフクレが生じ得るという問題があった。このような塗膜のフクレは、防錆性低下の原因や、塗膜の耐湿性低下の原因となり得る。したがって、塗料組成物がバナジウム化合物を多量に含む場合には、耐湿性と長期間の防錆性とを備える塗膜を形成することは困難になり得る。
【0017】
一方で、従来行われてきた防錆性に関する評価では、試験時間が短く、更に成形部(被塗物の平面)のみが評価部位として判断されてきた。
しかしながら、近年においては、様々な形状の被塗物が製造されている。このような様々な形状を有し得る被塗物において、例えば、加工部、端面、クロスカット部等においては、塗膜による保護効果が十分ではないことがあり、これらの箇所から、被塗物の腐食が発生するおそれがある。
このため、例えば、加工部分、端面、クロスカット部においても、長期に亘り優れた防錆性を示し、その上、超長期に亘る防錆性を示す塗料組成物が要求されている。
【0018】
そこで、本発明者等は鋭意検討し、本発明を完成させた。
本開示の防錆塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)と、架橋剤(B)と、マグネシウム水酸化物(C)とを含み、
前記マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は70g/100g以下であり、且つ、BET比表面積は4.0m2/g以下である。
【0019】
本開示の防錆塗料組成物を用いると、優れた耐湿性を示し、且つ、長期に亘り優れた防錆性を示す塗膜を形成できる。特に、酸性環境条件においても、長期に亘り優れた防錆性を示す塗膜を形成できる。このため、本開示の防錆塗料組成物を用いると、例えば、「酸性雨」等に起因して生じ得る錆の発生も抑制できる。また、本開示の防錆塗料組成物は、良好な貯蔵安定性を有する。なお、以下において、本開示の塗料組成物より形成された塗膜のことを、本発明の塗膜と称することがある。
【0020】
本発明の塗膜が、上記のような防錆性を有する理由は、以下のように考えられる。
被塗物(例えば、鋼板)に対する腐食を抑制するために、塗膜には、被塗物の腐食が生じる部分に対し、腐食を抑制する因子(腐食抑制因子)を継続的に供給することが求められる。本発明では、マグネシウム水酸化物(C)に由来する因子が、腐食抑制因子として機能する。マグネシウム水酸化物(C)は、比較的小さなBET比表面積を有するため、その表面における反応が生じにくい。その結果、本開示の塗料組成物を用いると、塗膜からマグネシウム水酸化物(C)は溶出しにくく、塗膜中にマグネシウム水酸化物(C)が長期間に亘って存在し得る。その結果、本開示の塗料組成物を用いると、塗膜から被塗物に長期間に亘って腐食抑制因子を供給し得ると考えられる。更に、マグネシウム水酸化物(C)が上記のような吸油量を有することによっても、塗膜から被塗物に対して腐食抑制因子を長期に亘り安定に供給できると考えられる。このように、本開示の塗料組成物を用いると長期間に亘って被塗物の腐食の防止に寄与し得る。更に、上記のようなBET比表面積と吸油量とを有することにより、酸性環境下においてもマグネシウム水酸化物(C)の溶出量が著しく大きくなることを抑制でき、その結果、酸性条件下においても長期間腐食の抑制が可能となると考えられる。また、本開示の塗料組成物は、マグネシウム水酸化物(C)を含むことにより、平面状の被塗物表面だけでなく、加工部分、端面、クロスカット部においても、長期に亘り被塗物に対し優れた防錆性を示し、様々な形状を有し得る被塗物において防錆性を示し得る。
【0021】
また、本発明の塗膜は、良好な耐湿性、耐水性を有し、塗膜においてフクレは生じにくい。その結果、本発明の塗膜は、酸性環境下において使用した場合であっても良好な腐食性を有する。本発明の塗膜は、例えば、屋外での使用する場合等、被塗物が高温、高湿度環境下に曝される態様においても、優れた耐湿性を示すことができる。特定の理論に限定して解釈すべきではないが、上記のような効果が得られる理由は以下のように考えられる。塗膜に湿気や水分が含まれる場合、酸性雨起因物質がこの湿気や水分に吸収され、その結果、被塗物の腐食が進行しやすくなると考えられる。しかしながら、マグネシウム水酸化物(C)は、上記のようなBET比表面積及び吸油量を有することにより水との反応性が低く、その結果、本発明の塗膜は良好な耐湿性、耐水性を有すると考えられる。耐湿性、耐水性が良好であることにより、本発明の塗膜では、酸性雨起因物質の塗膜中への吸収を抑制し得、被塗物の腐食を抑制し得ると考えられる。また、耐湿性、耐水性が良好であることにより、本発明の塗膜においてフクレも生じにくく、フクレに起因する防錆性の低下も抑制し得る。また、マグネシウム水酸化物(C)は、塗料組成物中における分散性がよく、その結果、塗料組成物の貯蔵安定性の向上にも寄与し得る。
【0022】
[マグネシウム水酸化物(C)]
マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は70g/100g以下であり、且つ、BET比表面積は4.0m2/g以下である。
【0023】
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、マグネシウム水酸化物(C)の吸油量が上記範囲内であることにより、被塗物の腐食が発生し得る部分に対して、腐食抑制因子を継続的に安定に供給でき、良好な耐食性を有する塗膜を形成できると考えられる。なお、本開示において吸油量は、JIS K 5101の規定に準拠して測定することができる。
【0024】
上記マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は、例えば、65g/100g以下であってもよい。
【0025】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は、20g/100g以上であり、例えば、25g/100g以上であってよい。
【0026】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は、20g/100g以上70g/100g以下であり、例えば、25g/100g以上65g/100g以下である。
【0027】
本開示において、マグネシウム水酸化物(C)の吸油量は、上記範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0028】
上記マグネシウム水酸化物(C)のBET比表面積は、好ましくは3.5m2/g以下であり、より好ましくは3.0m2/g以下である。
このようなBET比表面積を有することにより、本開示の塗料組成物は、更に長期に亘り優れた防錆性を有する塗膜を形成できる。より詳細には、本開示の塗料組成物は、防錆性を長期間示す塗膜を形成することができ、また、酸性環境下での腐食を長時間抑制又は大きく低減できる塗膜を形成することができる。
本開示において、BET比表面積は、例えば、自動比表面積測定装置ジェミニVII23900(島津製作所社製)等を用いて測定することができる。
【0029】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)のBET比表面積は、0.1m2/g以上であり、例えば、0.2m2/g以上であり、0.3m2/g以上であってよい。
【0030】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)のBET比表面積は、0.1m2/g以上2.0m2/g以下であり、例えば、0.3m2/g以上1.5m2/g以下である。
【0031】
本開示において、マグネシウム水酸化物(C)のBET比表面積は、上記範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0032】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、人工酸性海水溶液100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるマグネシウム金属イオン濃度が70ppm以下である。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、このような条件を満たすマグネシウム水酸化物(C)を含むことにより、本開示の塗料組成物は、被塗物(例えば鋼板)に対し腐食抑制因子を供給でき、被塗物の腐食の抑制を可能とする。また、塗膜の耐湿性が低下することを抑制又は大きく低減でき、その上、塗膜にフクレが生じることも抑制又は大きく低減できる。例えば、上記の条件を満たすことで、高温高湿環境下において、塗膜のフクレを抑制でき、塗膜と被塗物との剥離を長期間抑制できる。更に、加工部、端面、クロスカット部における塗膜のフクレも抑制又は大きく低減できる。
なお本開示において、高温環境下で防錆性を示すこととは、大気温度が高温である条件(例えば、40℃以上)の温度、及び80℃程度の高温であっても、良好に防錆性を示すことを意味する。
【0033】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、人工酸性海水溶液100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるマグネシウム金属イオン濃度が、69ppm以下であり、例えば、66ppm以下であり、65ppm以下であり得るマグネシウム水酸化物を含む。
【0034】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、人工酸性海水溶液100gに対して、本開示に係るマグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるマグネシウム金属イオン濃度は、10ppm以上、例えば、20ppm以上である。
【0035】
本開示において、人工酸性海水溶液100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるマグネシウム金属イオン濃度の測定は、JIS G 0594:2019サイクル腐食試験方法に基づき測定できる。例えば、JIS G 0594:2019サイクル腐食試験方法にて定められたB法に用いる酸性塩水溶液に基づく水溶液を、人工酸性海水溶液として使用できる。
【0036】
一の態様において、マグネシウム金属イオンの測定は、例えば以下のように行うことができる。
JIS G 0594:2019の4.1.1項に定められた硝酸と硫酸の混合液を用い、pH=2.5に調整し、人工酸性海水を調製する。例えば、試薬として、マリンアートシリーズ(富田製薬社製)等を用いることができる。
次に、容器内に人工酸性海水100g及びマグネシウム水酸化物(C)1gを添加し、スターラーチップを投入して、室温(23℃)下で4時間かくはんする。
その後、室温で24時間放置後、上澄み液をシリンジフィルターの付いたシリンジで採取し、例えば、ICP発光分析装置(ICPS-7510、島津製作所社製)等を用いて、元素濃度を測定することにより、マグネシウム金属イオン濃度の測定を行うことができる。
具体的には、上記の上澄み液に含まれる元素濃度(マグネシウム金属イオン濃度)からブランクを引いて得た値を、人工酸性海水溶液100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるマグネシウム金属イオン濃度とすることができる。ここで、ブランクとしては、人工酸性海水について、上澄み液と同様に元素濃度(マグネシウム金属イオン濃度)を測定した値を用いる。
【0037】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が250μS/cm以下の化合物であり、例えば、210μS/cm以下の化合物である。また、マグネシウム水酸化物(C)は、電導度が205μS/cm以下の化合物でよく、例えば、電導度が201μS/cm未満の化合物でもよい。
【0038】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が10μS/cm以上の化合物でよく、例えば、20μS/cm以上の化合物であり、50μS/cm以上の化合物でもよい。
【0039】
別の実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が250μS/cm以下の化合物である。例えば、マグネシウム水酸化物(C)は、例えば、210μS/cm以下の化合物であり、電導度が205μS/cm以下の化合物であってよく、電導度が201μS/cm未満の化合物である。これら条件を満たすことにより、更に効果的に、長時間、枯渇せずに鋼板に対し、マグネシウム水酸化物(C)からの腐食抑制因子がより安定して供給され、腐食の抑制が可能となる。また、塗膜の耐湿性が低下することを抑制又は大きく低減でき、その上、塗膜にフクレが生じることも、抑制又は大きく低減できる。更に、本開示の防錆塗料組成物であれば、加工部、端面、クロスカット部におけるフクレも抑制又は大きく低減できる。
【0040】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が10μS/cm以上の化合物であってよく、例えば、20μS/cm以上の化合物であり、50μS/cm以上の化合物であってよい。
【0041】
本開示において、上記電導度は、以下のように測定することができる。イオン交換水100g及びマグネシウム水酸化物(C)1gを混合し、スターラーチップを投入して、室温(23℃)下で4時間かくはんする。その後、例えば、電気電導度計(CM-42X、東亜ディーケーケー社製)等を用いて、電導度を測定することができる。
【0042】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液における電導度が250μS/cm以下の化合物である。
マグネシウム水酸化物(C)が、上記のようなマグネシウム金属イオン濃度及び電導度を有することにより、酸性環境下での腐食を更に長時間抑制することができる。また、酸性環境下での腐食の抑制に加えて、高温高湿環境下における、塗膜のフクレ、剥離を長期間、安定して抑制することが可能である。本開示において、このようなマグネシウム金属イオン濃度と電導度の組み合わせは、本開示に記載の範囲内で、適宜選択できる。
【0043】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、純水100gに対して、マグネシウム水酸化物(C)を1g添加した水溶液におけるpHが8以上13以下の化合物であり、例えば、9以上13以下であり、10以上13以下であってよい。別の実施態様においては、上記pHは8以上12以下である。このような条件を満たすことにより、被塗物の腐食速度の増加をより効果的に抑制でき、良好な耐食性を有する塗膜を形成できる。
本開示において、上記pH値は、既知の方法により測定できる。例えば、イオン交換水100g及びマグネシウム水酸化物(C)1gを混合し、スターラーチップを投入して、室温(23℃)下で4時間かくはんする。その後、例えば、pHメーター(卓上pHメーターF-74、堀場製作所社製)等を用いて、pHを測定することができる。
【0044】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)の平均粒子径は、0.5μm以上20μm以下であり、例えば、1μm以上15μm以下であり、1μm以上10μm以下である。平均粒子径が小さすぎると、マグネシウム水酸化物(C)の表面において反応点が増え、被塗物の腐食を充分に抑制できないことがあり、平均粒子径が大きすぎると、塗膜に欠陥が生じ得る。
本開示において、平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300(島津製作所社製)等を用いて測定することができる。
【0045】
一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は、塗膜形成樹脂(A)の固形分と、架橋剤(B)の固形分との合計100質量部に対して、1質量部以上150質量部以下、例えば、10質量部以上140質量部以下含まれ得る。マグネシウム水酸化物(C)を上記の範囲含むことにより、本開示の塗料組成物は、長期に亘り優れた防錆性を示し、更に、優れた耐湿性を示す塗膜を形成できる。
【0046】
マグネシウム水酸化物(C)は、本開示に係る塗料組成物において、防錆顔料としての機能を発揮し得る。一実施態様において、マグネシウム水酸化物(C)は防錆顔料である。
【0047】
一実施態様において、本開示の塗料組成物は、マグネシウム水酸化物(C)の有する効果を損なわない範囲で、他の金属化合物を含むことができる。
【0048】
[塗膜形成樹脂(A)]
本開示の防錆塗料組成物における塗膜形成樹脂(A)は、架橋剤(B)と反応しうる官能基を有し、かつ、塗膜形成能を有する樹脂である限り特に制限されない。
【0049】
塗膜形成樹脂(A)としては、例えば、エポキシ樹脂及びその変性物(アクリル変性エポキシ樹脂等);ポリエステル樹脂及びその変性物(ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等);アクリル樹脂及びその変性物(シリコーン変性アクリル樹脂等);ウレタン樹脂及びその変性物(エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂、カーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ系ウレタン樹脂等);フェノール樹脂及びその変性物(アクリル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等);フェノキシ樹脂;アルキド樹脂及びその変性物(ウレタン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂等);フッ素樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0051】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、エステル系ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0052】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、得られる塗膜の折り曲げ加工性や得られる塗膜の耐湿性、耐食性及び耐候性のバランスの観点から、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂又はこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0053】
一実施態様において、塗膜形成樹脂(A)は、ウレタン樹脂及びこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0054】
塗膜形成樹脂(A)は、1,000以上40,000以下の数平均分子量を有することができる。数平均分子量がこのような範囲内であることにより、本開示の塗料組成物は、優れた耐食性を示す塗膜を形成でき、更に、被塗物、上塗り塗料組成物(上塗り塗料)に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0055】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂、例えば、その変性物である、水酸基含有エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,400以上20,000以下であることが好ましく、2,000以上10,000以下であることがより好ましく、2,000以上4,000以下であることが特に好ましい。なお、本開示において、特に言及のない限り、単にエポキシ樹脂と記載する場合、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
本開示において、数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
上記数平均分子量を有することにより、エポキシ樹脂と後述する架橋剤(B)との架橋反応が十分に進行し、高い耐湿性を有し、優れた耐食性を有する塗膜を形成できる。特定の理論に限定して解釈すべきではないが、上記数平均分子量を有することにより、塗膜に含まれるマグネシウム水酸化物(C)の溶出は適切となり、酸性環境下においても耐食性の良好な塗膜が形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の防錆塗料組成物は適切な粘度を有し、塗料製造性及び塗装作業性等の取り扱い性が良好となる。
【0056】
エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、120℃以下であってよく、115℃以下であってもよい。例えば、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以下であってもよい。一実施態様において、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上であり、55℃以上であってよい。例えば、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上120℃以下の範囲であることができる。
なお、本開示において、ガラス転移温度(Tg)は、例えば、熱分析装置TMA7100(日立ハイテクサイエンス社製)等を用いて測定することができる。
エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、耐湿性が十分となり、耐食性も良好となる。
【0057】
エポキシ樹脂(その変性物を含む)の酸価は、0mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることができる。
なお、本開示において、酸価は固形分酸価を意味し、JIS K 0070の規定に準拠して測定することができる。
【0058】
エポキシ樹脂は、水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)であってよい。
【0059】
エポキシ樹脂として、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを必要に応じてアルカリ触媒等の触媒存在下で高分子量まで縮合させてなる樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;及びノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0060】
エポキシ樹脂の変性物としては、例えば、アクリル変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂を挙げることができる。例えば、アクリル変性エポキシ樹脂を例に挙げると、これは、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又は上記ノボラック型エポキシ樹脂に、アクリル酸又はメタクリル酸等を含む重合性不飽和モノマー成分を反応させて調製することができる。
【0061】
また、ウレタン変性エポキシ樹脂を例に挙げると、これは、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂又は上記ノボラック型エポキシ樹脂にポリイソシアネート化合物を反応させて調製することができる。
【0062】
エポキシ樹脂として、例えば、三菱ケミカル社製のjER1004、jER1007、1255HX30(ビスフェノールA骨格)、YX8100BH30等を挙げることができる。
【0063】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂、例えば、その変性物である、水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,400~40,000であることが好ましく、2,000~40,000であることがより好ましく、2,000~30,000であることが特に好ましい。
なお、本開示において、特に言及のない限り、単にポリエステル樹脂と記載する場合、ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
上記数平均分子量を有することにより、ポリエステル樹脂と架橋剤(B)との架橋反応が十分に進行し、高い耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。例えば、特定の理論に限定して解釈すべきではないが、上記数平均分子量を有することにより、塗膜中に含まれるマグネシウム水酸化物(C)の溶出が適切となり、酸性環境条件下においても、耐食性の良好な塗膜を形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の防錆塗料組成物は適切な粘度を有し、塗料製造性及び塗装作業性等の取り扱い性が良好となる。
【0064】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-35℃以上110℃以下であることが好ましく、例えば、-30℃以上80℃以下であり、-30℃以上60℃以下であることができる。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性が十分となり、耐食性も良好となる。
【0065】
ポリエステル樹脂(その変性物を含む)の酸価は、例えば、30mgKOH/g以下であり、具体的には、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であってよく、0.3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であってよい。
酸価がこのような範囲であることにより、例えば、耐加水分解性を向上させることができ、耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。
【0066】
ポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との重縮合により得ることができる。
【0067】
多価アルコールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール又は1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオネート(BASHPN)、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス-(ヒドロキシエチル)イソシアネート等を挙げることができる。多価アルコールは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
多塩基酸の具体例としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、無水エンド酸等を挙げることができる。多塩基酸は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
ポリエステル樹脂の変性物としては、例えば、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等の変性ポリエステル樹脂を挙げることができる。
ウレタン変性ポリエステル樹脂は、ポリエステルを主鎖に有し、その末端をイソシアネートで変性させ、ウレタン変性させた樹脂である。
シリコーン変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂と有機シリコーン(例えば、官能基として-SiOCH3基及び/又は-SiOH基を有する数平均分子量300~1,000程度の有機シリコーン)とを反応させることにより調製することができる。有機シリコーンの使用量は、通常、ポリエステル樹脂100質量部に対して、5~50質量部程度である。
ウレタン変性ポリエステル樹脂は、上記ポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物とを反応させて調製することができる。
【0070】
例えば、ポリエステル樹脂及び水酸基含有ポリエステル樹脂変性物の一例として、DIC社製のベッコライト46-118、ベッコライトM-6205-50、ベッコライトM-6401-52、ベッコライトM-6402-50、東洋紡社製のバイロン220、バイロンUR3500、バイロンUR5537、バイロンUR8300、バイロンUR4410等を挙げることができる。
【0071】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂及びその変性物の数平均分子量(Mn)は、1,400~40,000であることが好ましく、2,000~40,000であることがより好ましく、2,000~30,000であることが特に好ましい。
なお、本開示において、特に言及のない限り、単にアクリル樹脂と記載する場合、アクリル樹脂及びアクリル樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
上記数平均分子量を有することにより、アクリル樹脂と架橋剤(B)との架橋反応が十分に進行し、高い耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。例えば、特定の理論に限定して解釈すべきではないが、上記数平均分子量を有することにより、塗膜に含まれるマグネシウム水酸化物(C)の溶出は適切となり、酸性条件下においても耐食性の良好な塗膜が形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の防錆塗料組成物は適切な粘度を有し、塗料製造性及び塗装作業性等の取り扱い性が良好となる。
【0072】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-35℃以上110℃以下であることが好ましく、例えば、-30℃以上80℃以下であり、-30℃以上60℃以下であることができる。
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性が十分となり、耐食性も良好となる。
【0073】
アクリル樹脂(その変性物を含む)の酸価は、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、例えば、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であってよい。
酸価がこのような範囲であることにより、例えば、耐加水分解性を向上させることができ、耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。
【0074】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N-メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマー及びそのラクトン付加物;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アルキル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリル等から選択される1種又は2種以上のモノマーからなるアクリル樹脂を挙げることができる。アクリル樹脂は、上記モノマーに由来する構成単位のほか、他のモノマー(例えば、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有エチレン性モノマーや、スチレン等のビニル系モノマー等)に由来する構成単位を含んでいてもよい。なお、本開示において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。
アクリル樹脂の変性物としては、例えば、シリコーン変性アクリル樹脂等の変性アクリル樹脂を挙げることができる。例えば、シリコーン変性アクリル樹脂を例に挙げれば、これは、アクリル樹脂と上記したような有機シリコーンとを反応させることにより調製することができる。有機シリコーンの使用量は、通常、アクリル樹脂100質量部に対して、5~50質量部程度である。
【0075】
(ウレタン樹脂)
一実施態様において、ウレタン樹脂及び変性ウレタン樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,000以上30,000以下であり、例えば、2,000以上28,000以下であり、2,500以上25,000以下であってよい。一実施態様において、ウレタン樹脂及び変性ウレタン樹脂の数平均分子量(Mn)は、6,000以上15,000以下である。
なお、本開示において、特に言及のない限り、単にウレタン樹脂と記載する場合、ウレタン樹脂及びウレタン樹脂の変性物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを意味する。
上記数平均分子量を有することにより、ウレタン樹脂と架橋剤(B)との架橋反応が十分に進行し、高い耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。例えば、特定の理論に限定して解釈すべきではないが、上記数平均分子量を有することにより、塗膜中に含まれるマグネシウム水酸化物(C)の溶出は適切となり、酸性条件下においても耐食性の良好な塗膜が形成できる。また、塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑制でき、十分な伸び率を有する塗膜を形成でき、例えば、十分な折り曲げ加工性を有する塗膜を形成できる。更に、本開示の防錆塗料組成物は適切な粘度を有し、塗料製造性及び塗装作業性等の取り扱い性が良好となる。
【0076】
一実施態様において、ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-30℃以上80℃以下であり、例えば、-30℃以上60℃以下であり、-30℃以上50℃以下であることができる。別の実施態様において、ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-50℃以上70℃以下である。
ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性が十分となり、耐食性も良好となる。
【0077】
ウレタン樹脂(その変性物を含む)の酸価は、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、例えば、0.1mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、0.3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であってよい。
酸価がこのような範囲であることにより、例えば、耐加水分解性を向上させることができ、耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。
【0078】
一実施態様において、本開示における、ウレタン樹脂の樹脂中のウレタン基濃度(質量%)は2質量%以上20質量%以下であり、例えば、5質量%以上17質量%以下である。
ウレタン樹脂の樹脂中のウレタン基濃度がこのような範囲内であることにより、形成される塗膜において優れた耐湿性及び耐食性を確保できる。
【0079】
ウレタン樹脂として、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させ、その後に更に鎖伸長剤によって鎖伸長して得られるもの等を挙げることができる。
ポリオール化合物としては、1分子当たり2個以上の水酸基を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル等のポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、又はそれらの混合物が挙げられる。
ポリイソシアネート化合物としては、1分子当たり2個以上のイソシアネート基を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香脂肪族ジイソシアネート、又はそれらの混合物が挙げられる。
鎖伸長剤としては、分子内に1個以上の活性水素を含有する化合物であれば特に限定されず、水又はアミン化合物を適用できる。アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミンや、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミンや、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミンや、ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン類や、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタノール、3-アミノプロパンジオール等のアルカノールアミン等が挙げられる。
【0080】
一実施態様において、ウレタン樹脂は、エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂及びカーボネート系ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0081】
一実施態様において、ウレタン樹脂は、エステル系ウレタン樹脂である。
本開示において、エステル系ウレタン樹脂は、主鎖にウレタン基とエステル基の両方を持つ樹脂を意味する。また、主鎖におけるウレタン基の数とエステル基の数とを対比し、ウレタン基の数がエステル基の数より5%以上多く含むものを、エステル系ウレタン樹脂という。
【0082】
一実施態様において、ウレタン樹脂は、水酸基を有する共重合ポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物との重縮合により得ることができる。一実施態様において、水酸基含有ポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸及び/又は酸無水物等の酸成分と多価アルコールとを重縮合することによって調製することができる。
【0083】
一実施態様において、ウレタン樹脂は、エーテル系ウレタン樹脂である。本開示において、エーテル系ウレタン樹脂は、主鎖にウレタン基とエーテル基の両方を持つ樹脂を意味する。また、主鎖におけるウレタン基の数とエステル基の数とを対比し、ウレタン基の数がエーテル基の数より5%以上多く含むものを、エーテル系ウレタン樹脂という。
【0084】
一実施態様において、ウレタン樹脂は、カーボネート系ウレタン樹脂である。本開示において、カーボネート系ウレタン樹脂は、主鎖にウレタン基とカーボネート基の両方を持つ樹脂を意味する。また、主鎖におけるウレタン基の数とカーボネート基の数とを対比し、ウレタン基の数がカーボネート基の数より5%以上多く含むものを、カーボネート系ウレタン樹脂という。
【0085】
一実施態様において、エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂及びカーボネート系ウレタン樹脂の酸価は、0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であり、例えば、0.1mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であり、0.3mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であってよい。酸価がこのような範囲であることにより、例えば、耐加水分解性を向上させることができ、耐湿性を有する塗膜を形成できる。更に、優れた耐食性を確保できる。
【0086】
水酸基を有する共重合ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸等の脂肪族ポリカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、4,4゛-ジフェニルジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸、ポリオール成分としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタジオール、1.4-ブタジオール、1.5-ベンタンジオール、1.6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等が例示される。
本開示の共重合ポリエステルは、ポリカルボン酸中のカルボニル基とポリオール成分の水酸基の当量比を1.0/1.001~1.0/2.0の範囲で水酸基を過剰に配合したものが好ましく、通常のエステル交換法や直接エステル化反応により得られる。特に好ましい当量比は1.0/1.01~1.0/1.5の範囲である。
【0087】
酸成分中に含まれ得る、酸無水物は、特に限定されるものではなく、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸等が挙げられる。
【0088】
水酸基含有ポリエステル樹脂の調製において、酸成分及びポリオール成分に加えて、他の反応成分を用いてもよい。他の反応成分として、例えば、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、乾性油、半乾性油及びそれらの脂肪酸等が挙げられる。より具体的には、例えば、カージュラE(シェル化学社製)等のモノエポキサイド化合物、ラクトン類が挙げられる。上記ラクトン類は、多価カルボン酸及び多価アルコールのポリエステル類へ開環付加してグラフト鎖を形成し得るものであり、例えば、β-プロピオラクロン、ジメチルプロピオラクトン、ブチルラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-カプリロラクトン、クロトラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン等が挙げられる。なかでもε-カプロラクトンが最も好ましい。
【0089】
水酸基含有ポリエステル樹脂と、脂肪族ジイソシアネート化合物とを、例えば公知の方法で反応させることによって、エステル系ウレタン樹脂を調製できる。
【0090】
本開示の塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)に加えて、更に、熱可塑性樹脂を用いることもできる。
熱可塑性樹脂として、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化オレフィン系樹脂;塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等をモノマー成分とする単独重合体又は共重合体;セルロース系樹脂;アセタール樹脂;アルキド樹脂;塩化ゴム系樹脂;変性ポリプロピレン樹脂(酸無水物変性ポリプロピレン樹脂等);フッ素樹脂(例えば、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ素化オレフィンとビニルエーテルとの共重合体、フッ素化オレフィンとビニルエステルとの共重合体)等を挙げることができる。
熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂を併用することで、より良好な塗膜物性、例えば、塗膜強度、伸び等を得ることができる。
【0091】
[架橋剤(B)]
架橋剤(B)は、塗膜形成樹脂(A)と反応して硬化塗膜を形成するものである。
架橋剤(B)として、ポリイソシアネート化合物;ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物(「BI」と記載することがある);アミノ樹脂;フェノール樹脂等を挙げることができる。
これらのうち、架橋剤(B)は、ブロックポリイソシアネート化合物及びアミノ樹脂から選択される1種以上を含むことが好ましい。
このような架橋剤(B)を含むことにより、長期に亘り優れた防錆性を示すことができ、更に、優れた耐湿性を示す塗膜を形成できる。
【0092】
ポリイソシアネート化合物及び上記ブロックポリイソシアネート化合物を構成するポリイソシアネート化合物としては特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体例としては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-又は1,4-ジイソシアネート、1-イソシアナト-3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(別名イソホロンジイソシアネート;IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(別名:水添MDI)、2-又は4-イソシアナトシクロヘキシル-2’-イソシアナトシクロヘキシルメタン、1,3-又は1,4-ビス-(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、ビス-(4-イソシアナト-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-又は1,4-α,α,α’α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-ジイソシアナトトルエン、2,2’-、2,4’-又は4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-又はm-フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニル-4,4’-ジイソシアネート等を挙げることができる。また、ポリイソシアネート化合物として、各ジイソシアネート同士の環化重合体(イソシアヌレート型)、更にはイソシアネート・ビウレット体(ビウレット型)、アダクト型を使用してもよい。
ポリイソシアネート化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。イソシアヌレート型のポリイソシアネート化合物は、本発明において好ましく用いられるものの1つである。
【0093】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、分子内に1以上の芳香族官能基を含有する芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることにより、塗膜の耐湿性を向上させることができるとともに、塗膜強度を向上させることができる。好ましく用いられる芳香族ポリイソシアネート化合物としては、2,4-又は2,6-ジイソシアナトトルエン(TDI)、2,2’-、2,4’-又は4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)等を挙げることができる。
【0094】
ブロックポリイソシアネート化合物を構成するポリイソシアネート化合物の、JIS K 7301-1995に準拠して測定されるイソシアネート基含有率は、ポリイソシアネート化合物の固形分中、通常3~20%であり、好ましくは5~15%である。イソシアネート基含有率が上記範囲内であることにより、塗膜の硬化性が更に良好となる。また、得られる塗膜の架橋密度が過度に高くなることを抑制でき、耐食性が良好となり得る。
【0095】
ブロックポリイソシアネート化合物に用いられる活性水素含有化合物(ブロック化剤)としては特に制限されず、-OH基(アルコール類、フェノール類等)、=N-OH基(オキシム類等)、=N-H基(アミン類、アミド類、イミド類、ラクタム類等)を有する化合物や、-CH2-基(活性メチレン基)を有する化合物、アゾール類を挙げることができる。具体例としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ε-カプロラクタム、σ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、メタノール、エタノール、n-、i-、又はt-ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、ホルムアミドオキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケドキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ピラゾール等を挙げることができる。活性水素含有化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0096】
ブロックポリイソシアネート化合物の熱による解離温度は、これを構成するポリイソシアネート化合物及び活性水素含有化合物の種類や触媒の有無及びその量に依存するが、本開示においては、熱による解離温度(無触媒状態)が120~180℃であるブロックポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。この範囲内に解離温度を示すブロックポリイソシアネート化合物を用いることにより、塗料の安定性を向上させることができ、また、塗膜形成樹脂(A)との架橋反応性に優れているため、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。解離温度が120~180℃であるブロックポリイソシアネート化合物としては、例えば、住化コベストロウレタン社製デスモジュールBL3175、東ソー社製コロネート2554等を挙げることができる。
なお本開示において、ブロックポリイソシアネート化合物を(BI)と表記することがある。
【0097】
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂等を挙げることができ、なかでもメラミン樹脂が好ましく用いられる。
「メラミン樹脂」とは、一般的に、メラミンとアルデヒドから合成される熱硬化性の樹脂を意味し、トリアジン核1分子中に3つの反応性官能基-NX1X2を有する。メラミン樹脂としては、反応性官能基として-N-(CH2OR)2〔Rはアルキル基、以下同じ〕を含む完全アルキル型;反応性官能基として-N-(CH2OR)(CH2OH)を含むメチロール基型;反応性官能基として-N-(CH2OR)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、-N-(CH2OR)(CH2OH)と-N-(CH2OR)(H)とを含む、あるいは-N-(CH2OH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類を例示することができる。
本開示においては、上記メラミン樹脂のなかでも、メチロール基又はイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するメラミン樹脂、すなわち、メチロール基型、イミノ基型あるいはメチロール/イミノ基型メラミン樹脂又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
メラミン樹脂として、例えば、オルネクスジャパン社製の商品名マイコート715等を挙げることができる。
メラミン樹脂等のアミノ樹脂は、無触媒下においても塗膜形成樹脂(A)との架橋反応性に優れており、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。
なお本開示において、メラミン樹脂を(MF)と表記することがある。
【0098】
本開示に係る架橋剤(B)の量は、塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、固形分で、好ましくは1質量部以上150質量部以下であり、例えば、2質量部以上150質量部以下である。このような条件で架橋剤(B)を含むことにより、長期に亘り優れた防錆性を示すことができ、更に、優れた耐湿性を示す塗膜を形成できる。
【0099】
一実施態様において、架橋剤(B)の量は、塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、固形分で5質量部以上95質量部以下である。このような条件で架橋剤(B)を含むことにより、塗膜形成樹脂(A)と架橋剤(B)との架橋反応が更に良好に進行し、耐湿性及び耐食性の更に良好な塗膜が形成できる。また、塗膜中に含まれるマグネシウム水酸化物(C)を、長期に亘り安定して溶出させることができ、更に優れた耐食性を有する塗膜を得ることができる。
【0100】
[体質顔料]
本開示の塗料組成物は、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ及びシリカからなる群から選択される少なくとも1種の体質顔料を、更に含有してもよい。
体質顔料を含むことで、塗膜強度を更に向上させることができ、本開示に係る塗料組成物から形成される塗膜物性を損なうことなく、塗膜表面に凹凸が生じ得る。これによって、上塗り塗膜との密着性を更に向上させることができる。また、耐湿性をより良好にできる。
【0101】
一実施態様において、体質顔料の量は、塗膜形成樹脂(A)及び架橋剤(B)の固形分の合計100質量部に対して1質量部以上40質量部以下であり、例えば、10質量部以上30質量部以下である。体質顔料の量がこのような範囲内であることにより、塗膜の耐湿性を向上できる。また、塗膜の透湿性が過度に高くなることを抑制でき、例えば、塗膜に水が過度に浸入することを抑制でき、塗膜の耐湿性を向上できる。
【0102】
[カップリング剤]
本開示の塗料組成物は、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤及びジルコニウム系カップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種のカップリング剤を更に含んでよい。
カップリング剤の添加により、下地(被塗物)と、本開示に係る塗料組成物から形成される塗膜との密着性を更に向上させることができ、塗膜の耐湿性を更に向上させることができる。
【0103】
カップリング剤としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。好適に用いられるカップリング剤の具体例として、ダウ・東レ社製 Z-6011、Z-6040等のシラン系カップリング剤;松本ファインケミカル社製 オルガチックスTC-401、オルガチックスTC-750等のチタン系カップリング剤;松本ファインケミカル社製 オルガチックスZC-580、オルガチックスZC-700等のジルコニウム系カップリング剤が挙げられる。なかでも、シラン系カップリング剤が好ましく用いられる。
【0104】
カップリング剤の量は、塗膜形成性樹脂(A)及び架橋剤(B)の固形分の合計100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下であってよく、例えば、0.5質量部以上10質量部以下であってよい。
カップリング剤の量がこのような範囲内であることにより、塗膜の耐湿性を向上させることができ、また、塗料組成物の貯蔵安定性を良好に保持できる。
【0105】
[硬化触媒]
架橋剤(B)としてブロックポリイソシアネート化合物及び/又はポリイソシアネート化合物を用いる場合、本開示の塗料組成物は、更に硬化触媒を含有してもよい。
【0106】
硬化触媒としては、例えば、スズ触媒、アミン触媒、鉛触媒等を挙げることができ、なかでも有機スズ化合物が好ましく用いられる。
有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート(DBTL)、ジブチルスズオキサイド、テトラ-n-ブチル-1,3-ジアセトキシスタノキサン等を用いることができる。
硬化触媒の量は、塗膜形成樹脂(A)及び架橋剤(B)の固形分の合計100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であってよく、例えば、0.1質量部以上1.0質量部以下であってよい。硬化触媒の量がこのような範囲内であることにより、例えば、塗料組成物の貯蔵安定性を良好に保持できる。
【0107】
また、架橋剤(B)として、アミノ樹脂を用いる場合にも、本開示の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。
この場合の硬化触媒としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸のような酸触媒等を挙げることができ、なかでもドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が好ましく用いられる。
硬化触媒の含有量は、塗膜形成性樹脂(A)及び架橋剤(B)の固形分の合計100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下であり、0.1質量部以上1.0質量部以下であってもよい。硬化触媒の量がこのような範囲内であることにより、例えば、塗料組成物の貯蔵安定性を良好に保持できる。
【0108】
[その他の添加剤]
本開示の塗料組成物は、必要に応じて、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。
その他の添加剤としては、例えば、マグネシウム水酸化物(C)以外の防錆顔料;上記体質顔料以外の体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;光輝性顔料;溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;表面調整剤(シリコーン、有機高分子等);タレ止め剤;増粘剤;ワックス等の滑剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;防腐剤;凍結防止剤;乳化剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。
これらの添加剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0109】
マグネシウム水酸化物(C)以外の防錆顔料としては、非クロム系防錆顔料を挙げることができる。非クロム系防錆顔料は、本開示により奏される効果を損なわない範囲で用いることができる。
非クロム系防錆顔料としては、例えば、モリブデン酸塩顔料(モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ストロンチウム等)、リンモリブデン酸塩顔料(リンモリブデン酸アルミニウム系顔料等)、カルシウムシリカ系顔料、リン酸塩系防錆顔料、ケイ酸塩系防錆顔料、ハバナジン酸塩系防錆顔料、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の第2元素の水酸化物又は酸化物等を挙げることができる。
これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本開示の塗料組成物は、所定のマグネシウム水酸化物(C)を含むため、十分に高い耐食性を示すが、必要に応じて、上記のようなマグネシウム水酸化物(C)以外の防錆顔料を更に含み得る。
【0110】
体質顔料以外のその他の顔料として、得られる塗膜の耐湿性、防錆性、折り曲げ加工性等を損なわない範囲でアルミナ、ベントナイト等を添加してもよい。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
着色顔料として、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の着色無機顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の着色有機顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタン等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0112】
光輝性顔料としては、例えば、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、箔状フタロシアニンブルー等の箔顔料を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0113】
溶剤としては、例えば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3-メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;並びに、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、ペンタン、iso-ペンタン、ヘキサン、iso-ヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも芳香族炭化水素系溶剤、シェル化学社製)等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0114】
本開示の塗料組成物は、水系塗料であってもよく、有機溶剤系の塗料であってもよい。
【0115】
本開示の塗料組成物は、プライマーとも呼ばれる下塗り塗料として適用してもよい。また、下塗り塗料の上に重ねる上塗り塗料としてもよい。更には下塗り塗料と上塗り塗料の中間層に形成する中塗り塗料としてもよい。
【0116】
別の態様において、本開示の塗料組成物は、複層塗膜形成用ではなく1層の塗膜を形成するための塗料組成物として用いてもよい。
【0117】
本開示の塗料組成物は、複層塗膜のどの部位に用いても優れた耐食性及び耐湿性を発揮することができる。本開示の塗料組成物以外の下塗り塗料、上塗り塗料及び中塗り塗料は従来公知のものであってよく、例えば、下塗り塗料としては、従来公知の非クロム系防錆塗料等が挙げられ、上塗り塗料、中塗り塗料としては、ポリエステル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等が挙げられる。
【0118】
本開示の塗料組成物は、下塗り塗料として用いられることが好ましい。本開示の塗料組成物を下塗り塗料として用いた場合、下塗り塗料と直接接する上塗り塗料又は中塗り塗料で形成された塗膜との接触面において、特に良好な密着性を示す。
【0119】
[塗料組成物の調製方法]
本開示に係る塗料組成物を調製する方法は、特に限定されない。本開示に係る塗料組成物は、例えば、塗膜形成性樹脂(A)、架橋剤(B)及びマグネシウム水酸化物(C)、並びに、任意で用いられる熱可塑性樹脂、体質顔料、カップリング剤、硬化触媒及びその他の添加剤を、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー、ディスパー等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。
【0120】
別の態様において、本開示の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(A)及びマグネシウム水酸化物(C)を含む主剤成分と、架橋剤(B)を含む架橋剤成分とからなる2液型塗料であってもよい。
【0121】
[被塗物]
本開示の防錆塗料組成物による塗膜が形成される被塗物は、耐食性が要求されるものであるかぎり特に制限されない。例えば、プレコートメタル(塗装鋼板)等の基材となる鋼板を挙げることができる。
【0122】
鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板や冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等が例示される。
亜鉛めっき鋼板としては、亜鉛の犠牲防食を活用する亜鉛含有めっき鋼板、具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム-亜鉛めっき鋼板、ニッケル-亜鉛めっき鋼板、マグネシウム-アルミニウム-亜鉛めっき鋼板、マグネシウム-アルミニウム-シリカ-亜鉛めっき鋼板等が例示される。
鋼板は、塗装前に化成処理剤による表面処理を施したものであることが好ましい。表面処理は公知の方法で行ってよく、その例にはクロメート処理、リン酸亜鉛処理等の非クロメート処理等が含まれる。また、表面処理は、使用する鋼板に応じて適宜選択することができるが、重金属を含まない処理が好ましい。
【0123】
[防錆塗膜の製造方法]
ある実施態様において、本開示は、本開示の塗料組成物を被塗物に塗装する塗装工程、及び塗料組成物を150℃以上270℃以下の温度で硬化させる工程を含む、防錆塗膜の製造方法を提供する。
【0124】
本開示の塗料組成物の被塗物への塗装方法としては、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等従来公知の方法を採用することができる。
【0125】
本発明の塗膜は、塗料組成物を鋼板等の被塗物に塗布した後、被塗物を加熱する焼付け処理を行なうことによって形成することができる。焼付け温度(鋼板等の被塗物が達する最高温度)は、例えば、150℃以上270℃以下である。本開示の塗料組成物をこのような温度で硬化させることにより、十分な強度を有する塗膜を形成できる。十分な強度を有する塗膜を形成できることにより、更に、長期に亘り優れた防錆性を示すことができ、更に、優れた耐湿性を示す塗膜を形成できる。
【0126】
焼付け時間(硬化時間)は、例えば、10~200秒である。例えば、下塗り塗膜と上塗り塗膜の2層からなる複層塗膜を形成する場合、下塗り塗料組成物を塗布した後焼付けを行ない、その後、上塗り塗料組成物を塗布し、上塗り塗膜の焼付けを行なうものであってもよいし、下塗り塗料組成物を塗布した後、焼付けを行なわずにウェットオンウェットで上塗り塗料組成物を塗布し、同時に焼付けを行なうものであってもよい。
本発明の塗膜の膜厚(乾燥膜厚)は、通常1~30μmであり、例えば、上塗り塗膜である場合は、好ましくは10~30μmである。
【0127】
[耐食性について]
本開示の塗料組成物から形成された塗膜は、例えば、「酸性塩水による浸漬-乾燥サイクル試験 15サイクル」及び「CCHC試験 2,000時間」のいずれも良好な結果を示すことができる。これら試験において、良好な結果を示すことができるので、長期間安定した防錆性と、耐湿性とを両立することができる。
ここで、「酸性塩水による浸漬-乾燥サイクル試験」は、特許第5857156号に示される方法に基づき測定できる。この試験結果が良好であることにより、例えば、酸性環境条件における防錆性及び長期間安定した防錆性を有する塗膜が得られるものと考えられる。
また、「CCHC試験 2,000時間」は、CCHC(Cleveland Condensing Humidity Cabinet:ASTM D-2247-87-Type A2)と称される、高温高湿環境に2,000時間、塗膜を曝すことで評価される、塗膜フクレに関する評価試験である。
更に、試験時間を2,000時間としたことで、より厳しい環境下に塗膜が曝されても、本開示に係る塗膜は、優れた耐湿性を長期間保持できるものと考えられる。
本開示に係る塗料組成物は、このような複数の試験において優れた結果を示すことができ、長期間安定した防錆性と、耐湿性とを両立した塗膜を形成できる。
また、加工部、端面、クロスカット部等においても良好な防錆性と、耐湿性とを両立できる。
更に、酸性雨等に起因し得る錆の発生を抑制できる。
本開示において、酸性環境条件における防錆性は、「酸性塩水」を用いた試験に基づき評価することができる。また、本開示において、酸性環境条件における防錆性に優れた塗膜を得ることができ、例えば、酸性雨に対して優れた防錆性を示すことができる。
【実施例0128】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0129】
[マグネシウム水酸化物]
実施例及び比較例で用いたマグネシウム水酸化物(C1)~(C7)に関する各種条件及び特性値を表1A~1Bに示す。
【0130】
【0131】
【0132】
[塗膜形成樹脂(A1)(エステル系ウレタン樹脂1)の調製]
温度計、コンデンサー及びかくはん機を備えた反応容器に、アジピン酸55質量部、無水フタル酸6.1質量部、ネオペンチルグリコール27質量部及びプロピレングリコール26.1質量部を混合し、窒素気流中で230℃にまで徐々に昇温し、生成する水を留去しながら、酸価が1以下になるまで約10時間エステル化反応を行った(脱水量:14.2質量部)。その後、反応容器の温度を50℃に下げた後、シクロヘキサノン135質量部及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート35質量部を混合し、80℃で8時間保持し反応させ、エステル系ウレタン樹脂1(固形分濃度:50質量%)を得た。
【0133】
モノマー種、量を表2A~2Bのとおり変更した以外は、上記と同様にして、塗膜形成樹脂(A2)~(A8)(それぞれ、エステル系ウレタン樹脂2~8)を調製した。各樹脂におけるモノマー組成及び分子量等の諸特数値を表2A~2Bに示す。
【0134】
【0135】
【0136】
[塗膜形成樹脂(A9)(エーテル系ウレタン樹脂1)の調製]
温度計、コンデンサー及びかくはん機を備えた反応容器に、PTMG650(三菱ケミカル社製、ポリテトラメチレングリコール)100質量部、シクロヘキサノン135質量部及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート35質量部を混合し、80℃で8時間保持し反応させ、エーテル系ウレタン樹脂1(固形分濃度:50質量%)を得た。
【0137】
[塗膜形成樹脂(A10)(カーボネート系ウレタン樹脂1)の調製]
温度計、コンデンサー及びかくはん機を備えた反応容器に、デュラノールT5650E(旭化成社製、ポリカーボネートジオール)100質量部、シクロヘキサノン135質量部及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート35質量部を混合し、80℃で8時間保持し反応させ、カーボネート系ウレタン樹脂1(固形分濃度:50質量%)を得た。
【0138】
表2Cに、塗膜形成樹脂(A9)及び(A10)のモノマー組成及び分子量等の諸特数値を示す。
【0139】
【0140】
[塗膜形成樹脂(A11)~(A13)]
上記の他に、実施例及び比較例で用いた塗膜形成樹脂(A)の詳細は、以下のとおりである。
・塗膜形成樹脂(A11)(エポキシ樹脂1);E1255HX30(三菱ケミカル社製、水酸基含有エポキシ樹脂)、数平均分子量:10,000、固形分酸価:1.0mgKOH/g、ガラス転移温度:85℃、固形分濃度:30質量%
・塗膜形成樹脂(A12)(ポリエステル樹脂1);ベッコライトM-6902-50(DIC製)、数平均分子量:12,000、固形分酸価:7.5mgKOH/g、ガラス転移温度:26℃、固形分濃度:50質量%
・塗膜形成樹脂(A13)(アクリル樹脂1);アクリディックA452(DIC社製、)、;数平均分子量:17,000、固形分酸価:2.7mgKOH/g、ガラス転移温度:70℃、固形分濃度:40質量%
【0141】
[架橋剤(B1)、(B2)]
架橋剤(B)の詳細は以下のとおりである。
・架橋剤(B1)(ポリイソシアネート化合物1);デスモジュールBL3575(住化コベストロウレタン社製、ブロックポリイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のブロック体(イソシアヌレート型、ブロック剤:ジメチルピラゾール)、イソシアネート基含有率:10.5質量%、固形分濃度:75質量%
・架橋剤(B2)(アミノ樹脂);マイコート715(オルネクスジャパン社製、イミノ基型メラミン樹脂)、固形分濃度:80質量%
【0142】
その他成分の詳細は以下のとおりである。
・溶剤1;シクロヘキサノン(昭永化学工業社製)
・溶剤2;ソルベッソ150(シェル化学社製)
・硬化触媒;TVS KS-1260(共同薬品社製、ジブチルスズジラウレート)、不揮発分:100質量%
・水酸化アルミニウム;ハイジライトH32(昭和電工社製)、吸油量:20g/100g、BET比表面積:2.0m2/g
・バナジン酸カルシウム;LFボウセイ CRF-318(キクチカラー社製)
・第三リン酸カルシウム;第三リン酸カルシウム(太平化学産業社製)
・縮合リン酸塩;K-WHITE #82(テイカ社製、トリポリリン酸二水素アルミニウム)
・酸化マグネシウム;酸化マグネシウム RF-10CS(宇部マテリアルズ社製)
【0143】
(実施例1)
塗膜形成樹脂(A1)を142.9質量部、シクロヘキサノン45.0質量部、ソルベッソ150を45.0質量部及びマグネシウム水酸化物(C1)60質量部を混合し、サンドミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、顔料粗粒の最大粒子径が10μm以下になるまで分散し、分散体組成物1を調製した。得られた分散体組成物1に、架橋剤(B1)(デスモジュールBL-3575)38.1質量部及び硬化触媒としてKS1260(共同薬品社製)0.5質量部を加えて、ディスパーで均一に混合し、塗料組成物1を調製した。実施例1の組成の詳細を表3Aに示す
【0144】
(実施例2~31、比較例1~10)
各成分の種類及び量を、表3A~3H、表4A~4Cに記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物をそれぞれ調整した。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
[評価用塗板の作製方法]
厚さ0.4mmのアルミニウム亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、リン酸処理剤であるサーフコートEC2310(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を、鋼板表面及び裏面に塗布することにより、ノンクロム化成処理を施し、乾燥した。
次に、得られた処理鋼板の裏面に上記で得られた塗料組成物1を、乾燥塗膜が7μmとなるように塗布し、最高到達温度180℃にて30秒間焼き付けを行なって、裏面塗膜を形成した。
一方、上記処理鋼板の表面に、実施例1~31、比較例1~10のいずれかの塗料組成物を、乾燥塗膜が5μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒間焼き付けを行って、表面下塗り塗膜を形成した。更に、上記表面下塗り塗膜上に上塗り塗料としてニッペスーパーコート300HQ(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製;ポリエステル系上塗り塗料)を、乾燥塗膜が10μmとなるように塗布し、最高到達温度210℃にて40秒間焼付けを行なって、表面上塗り塗膜を形成し、評価用塗装鋼板を得た。
【0157】
(参考例1)
評価用塗板の作製方法のリン酸処理剤(サーフコートEC2310)の代わりに、クロメート系処理剤であるNRC300(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を、鋼板表面及び裏面に塗布し、クロメート処理を施し乾燥した。得られた処理鋼板の表面及び裏面に、下塗り塗料としてニッペスーパーコート667プライマー(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製;クロム酸ストロンチウム系下塗り塗料)を、乾燥塗膜が3μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒間焼付けを行って、表面及び裏面下塗り塗膜を形成した。更に、上塗り塗料としてニッペスーパーコート300HQ(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製;ポリエステル系上塗り塗料)を、乾燥塗膜が10μmとなるように塗布し、最高到達温度210℃にて40秒間焼付けを行なって、評価用塗装鋼板を得た。各種条件を、表4Cに示す。
【0158】
実施例、比較例及び参考例で得られた塗料組成物及び評価用塗装鋼板の評価結果を表5A~5H、6A~6Cに示す。
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
[評価項目]
(マグネシウム水酸化物の人工酸性海水への溶解度測定手順)
酸性で硫酸根を含有する溶液として、JIS G 0594:2019サイクル腐食試験方法にて定められたB法に用いる酸性塩水溶液を参考とした。
人工海水としてマリンアートSF-1(富田製薬社製)を用い、JIS G 0594の4.1.1項c)に定められた硝酸と硫酸の混合液にて、pH=2.5に調整し、人工酸性海水とした。
次に、ポリエチレン製細口瓶に、上記人工酸性海水100g及び顔料(マグネシウム水酸化物)1gを添加し、スターラーチップを投入して、室温下で4時間かくはんした。
その後、室温で24時間放置後、上澄み液をシリンジフィルターの付いたシリンジで採取し、ICP発光分析装置ICPS-7510(島津製作所社製)を用いて、元素濃度を測定した。人工酸性海水についても同様に元素濃度を測定した。上澄み液に含まれるマグネシウム金属イオン濃度から、人工酸性海水に含まれるマグネシウム金属イオン濃度を引いた値を、人工酸性海水溶液100gに対してマグネシウム水酸化物を1g添加した水溶液におけるマグネシウム金属イオン濃度とした。
【0171】
(純水中の電導度測定手順)
ポリエチレン製細口瓶に、イオン交換水100g及び顔料(マグネシウム水酸化物)1gを添加し、スターラーチップを投入して、室温下で4時間かくはんした。その後、電気電導度計CM-42X(東亜ディーケーケー社製)を用いて、電導度を測定した。
【0172】
(貯蔵安定性試験)
上記で得られた塗料組成物を50℃で4週間静置した。静置後の塗料組成物の状態を目視観察し、貯蔵安定性を以下の基準により評価した。
5:かくはんをしなくても塗料組成物が均一である。
4:一部に沈降物が発生しているが、スパチュラによるかくはんにより容易に塗料組成物が均一になる。
3:一部に沈降物が発生しているが、スパチュラによるかくはんにより塗料組成物が均一になる。
2:沈降物が発生しているが、ディスパーによるかくはんにより塗料組成物が均一になる。
1:沈降物が発生しており、ディスパーによるかくはんでも塗料組成物が均一にならない。
【0173】
[塗膜の評価項目]
1)耐沸騰水試験
上記で得られた塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、約100℃の沸騰水中に2時間浸漬した後、引き上げて表面側の塗膜外観を、ASTM D714-56に従って評価した(平面部フクレ評価)。
ここで、ASTM D714-56は、各フクレの大きさ(平均径)と密度について、標準判定写真と対比して評価し、等級記号を示すものである。大きさについては8(直径約1mm)、6(直径約2mm)、4(直径約3mm)、2(直径約5mm)の順に4段階、密度については、小さい方からF、FM、M、MD、Dの5段階に級別するものであり、フクレがなければ、10とする。8FM以上の評点を、良好と評価した。
また、約100℃の沸騰水中に2時間浸漬した後の塗装鋼板試験片について、碁盤目テープ付着試験(碁盤目密着性試験)を行ない、評価した。碁盤目テープ付着試験は、JIS K 5400 8.5.2(1990)碁盤目テープ法に準じて、切り傷の隙間間隔を1mmとし、碁盤目を100個作り、その表面にセロハン粘着テープを密着させ、急激に剥がしたときの塗面に残存する碁盤目の数を調べた。
【0174】
2)耐湿性試験(CCHC試験)
塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、純水により50℃×98RH%とした条件下に500時間放置した後、耐沸騰水試験と同様にして、ASTM D714-56に従って平面部のフクレ評価を行なった。8FM以上の評点を、良好と評価した。この試験においては、大型湿潤試験機(スガ試験機社製)を用いた。
【0175】
3)耐食性試験
塗装鋼板を5cm×15cmとなるよう切断した。この際、切断は表面からと裏面からの交互に行ない、各試験片の断面が上バリ(裏面より切断)、下バリ(表面より切断)の両方を有するように試験片を作製した。
次に、表面側中央部に素地に達するようにカッターナイフで、狭角30度、カット幅0.5mmのクロスカットを入れ、塗装鋼板上部エッジ部を防錆塗料にてシールし、下端部に4T折り曲げ加工部(加工後4枚の板は取り除く。)を設けた。
なお、4T折り曲げ加工とは、塗装板の表面部を外側にして折り曲げ、その内側に塗装板と同じ厚さの板を4枚挟み、上記塗装板を万力にて180度折り曲げする加工のことを言い、加工後4枚の板は取り除いて試験に供した。
【0176】
以上のようにして得られた塗装鋼板試験片の模式図を
図1に示す。
図1(A)は、得られた塗装鋼板試験片10における、上バリの断面20及び下バリ断面30を模式的に示す図である。また、塗装鋼板試験片10は、塗膜表面11と、塗膜裏面12を有する。
図1(B)は、耐食性試験に用いた塗装鋼板試験片10に設けられたクロスカット部40及び4T折り曲げ加工部50を示す模式図である。また、塗装鋼板試験片10は、上バリ21と下バリ31を有する。
【0177】
得られた各塗装鋼板試験片について、JIS K 5600-7-9A JASO M609に従い、複合サイクル腐食試験(CCT)を行なった。(35℃で5%食塩水噴霧2時間)-(60℃で乾燥4時間)-(50℃でRH95%以上の耐湿試験機内で静置2時間)を1サイクルとして、120サイクル試験(合計960時間)を行なった。この試験後の塗装鋼板試験片のエッジ部、クロスカット部及び4T折り曲げ加工部の状態を下記評価方法及び評価基準に基づいて評価した。いずれも4点以上を良好と評価した。
使用装置:複合サイクル試験機CYP-90(スガ試験機社製)
【0178】
(耐食性試験:4T折り曲げ加工部)
4T折り曲げ加工部における錆部の合計長さを求め、以下の基準により評価した。
5:錆の発生が認められない。
4:白錆が認められるが、10mm未満。
3:白錆が10mm以上かつ25mm未満。
2:白錆が25mm以上かつ40mm未満。
1:白錆が40mm以上、又は赤錆の発生が認められる。
【0179】
(耐食性試験:エッジ部)
塗装鋼板試験片の左右の長辺(すなわち、上バリを有する長辺と下バリを有する長辺)のエッジクリープ幅(フクレの幅)の平均値を求め、以下の基準により評価した。
5:フクレ幅が5mm未満。
4:フクレ幅が5mm以上かつ10mm未満。
3:フクレ幅が10mm以上かつ15mm未満。
2:フクレ幅が15mm以上かつ20mm未満。
1:フクレ幅が20mm以上。
【0180】
(耐食性試験:クロスカット部)
クロスカット部の腐食状態を0.5mmのカット幅の素地露出部における白錆発生長さ割合、及びクロスカット部の左右のフクレ幅(両側の和)の平均値により、以下の基準により評価した。
5:素地露出部における白錆発生長さ割合25%未満でかつフクレ幅3mm未満。
4:素地露出部における白錆発生長さ割合25%以上かつ50%未満でかつフクレ幅3mm未満。
3:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅3mm未満。
2:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅3mm以上5mm未満。
1:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅5mm以上。
【0181】
4)耐アルカリ性試験
各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、各試験片を、23℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に48時間浸漬した後、取り出し、水で洗浄した後、室温にて乾燥した。この塗装鋼板試験片について、耐沸騰水試験と同様にして、ASTM D714-56に従って平面部のフクレ評価を行なった。8FM以上の評点を、良好と評価した。
【0182】
5)耐酸性試験
各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、23℃の5%硫酸水溶液に48時間浸漬した後、取り出し洗浄し、室温にて乾燥した。この塗装鋼板試験片について、耐沸騰水試験と同様にして、ASTM D714-56に従って平面部のフクレ評価を行なった。8FM以上の評点を、良好と評価した。
【0183】
6)酸性塩水による浸漬-乾燥サイクル試験
(試験板の調整)
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片の下端部に耐食性試験の場合と同様にして、4T折り曲げ加工部を設けた。
【0184】
(酸性塩水の調整)
酸性で硫酸根を含有する溶液として、JIS G 0594サイクル腐食試験方法にて定められたB法に用いる酸性塩水溶液を参考とした。すなわち、JIS G 0594に規定された人工海水の組成に近いものとしてマリンアートSF-1(富田製薬社製)を用い、4.2.2項に定められた硝酸と硫酸の混合液にて、pH=2.5に調整し、酸性塩水とした。
【0185】
(試験条件)
得られた各塗装鋼板試験片について、23℃条件下で浸漬6時間→乾燥18時間を1サイクルとして、15サイクル試験(合計360時間)を行った。試験後の塗装鋼板試験片のエッジ部、クロスカット部及び4T折り曲げ加工部の状態を下記評価方法及び評価基準に基づいて評価した。いずれも4点以上を良好と評価した。
【0186】
(酸性塩水による試験:4T折り曲げ加工部)
4T折り曲げ加工部における錆部の合計長さを求め、以下の基準により評価した。
5:錆の発生が認められない。
4:白錆が認められるが、10mm未満。
3:白錆が10mm以上かつ25mm未満。
2:白錆が25mm以上かつ40mm未満。
1:白錆が40mm以上、又は赤錆の発生が認められる。
【0187】
(酸性塩水による試験:エッジ部)
塗装鋼板試験片の左右の長辺(すなわち、上バリを有する長辺と下バリを有する長辺)のエッジクリープ幅(フクレの幅)の平均値を求め、以下の基準により評価した。
5:フクレ幅が5mm未満。
4:フクレ幅が5mm以上かつ10mm未満。
3:フクレ幅が10mm以上かつ15mm未満。
2:フクレ幅が15mm以上かつ20mm未満。
1:フクレ幅が20mm以上。
【0188】
(酸性塩水による試験:クロスカット部)
クロスカット部の腐食状態を0.5mmのカット幅の素地露出部における白錆発生長さ割合、及びクロスカット部の左右のフクレ幅(両側の和)の平均値により、以下の基準により評価した。
5:素地露出部における白錆発生長さ割合25%未満でかつフクレ幅3mm未満。
4:素地露出部における白錆発生長さ割合25%以上かつ50%未満でかつフクレ幅3mm未満。
3:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅3mm未満。
2:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅3mm以上5mm未満。
1:素地露出部における白錆発生長さ割合50%以上かつフクレ幅5mm以上。
【0189】
実施例の結果によると、本発明の防錆塗料組成物は、貯蔵安定性が良好であり、長期に亘り優れた防錆性、優れた耐湿性を示す塗膜を形成できた。その上、酸性環境条件においても、長期に亘り優れた防錆性を示す塗膜を形成できた。このため、例えば、「酸性雨」等に起因し得る錆の発生も抑制できる。また、塗膜の耐湿性が低下することを抑制又は大きく低減でき、その上、塗膜にフクレが生じることも、抑制できた。更に、実施例においては、エッジ部、クロスカット部等においても、塗膜による保護効果を十分に呈することができた。また、実施例では、参考例1のクロムを含む塗料組成物を用いた結果と、同等の防錆性を示すことができ、塗料組成物の貯蔵安定性においては参考例1よりもよい評価が得られた。
【0190】
比較例1~5は、マグネシウム水酸化物のBET比表面積及び格子定数が、本発明に係るマグネシウム水酸化物(C)の範囲外である。このため、形成された塗膜は、十分な防錆性及び耐湿性等を示すことができなかった。
比較例6~10はマグネシウム水酸化物(C)を含まない。このため、塗料組成物の貯蔵安定性、形成された塗膜の防錆性及び耐湿性等の何れかにおいて良好でない結果となった。
例えば、比較例7では、マグネシウム水酸化物(C)の代わりに、バナジン酸カルシウムを用いている。比較例7の塗料組成物の貯蔵安定性は良好でなく、塗膜の耐久性は酸性塩水を用いた場合にエッジ部やクロスカット部で良好でない。これは、バナジン酸カルシウムは水溶性が高いため、塗料組成物中では水と反応し、その結果貯蔵安定性に影響が生じ、塗膜を形成した場合には塗膜中から溶出しやすく、腐食抑制因子を長期間提供することは困難なためと考えられる。
また、例えば、比較例10では、マグネシウム水酸化物(C)の代わりに酸化マグネシウムを用いている。比較例10の塗料組成物の貯蔵安定性は良好でない。これは、酸化マグネシウムは、マグネシウム水酸化物(C)と比較して、塗料組成物において分散性に劣るためと考えられる。