(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092531
(43)【公開日】2022-06-22
(54)【発明の名称】音響装置の製造方法および音響装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20220615BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20220615BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/28 310B
H04R1/02 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205396
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000103138
【氏名又は名称】エムケー精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 照正
【テーマコード(参考)】
5D017
5D220
【Fターム(参考)】
5D017AF07
5D220AB03
(57)【要約】
【課題】マスクなどの遮蔽物越しの音であっても聞き取り易くする。
【解決手段】マイク(11)からの信号を処理する処理回路部(12)と、処理回路部(12)からの信号を音に変換して出力するスピーカ(13)とを備える音響装置(10)を提供する。その際、音測定器(51)と、スピーカ(13)との間の空間に遮蔽物(50)を配置し、処理回路部(12)のマイク(12)側に可聴域の信号を入力してスピーカ(13)から出力させた音を音測定器(51)で第1信号として測定する。次いで、音測定器(51)と、スピーカ(13)との間の空間に遮蔽物(50)を配置せずに、処理回路部(12)のマイク(11)側に可聴域の信号を入力してスピーカ(13)から出力させた音を音測定器(51)で第2信号として測定する。次いで、第1信号を第2信号に近づけるよう、処理回路部(12)の回路定数の調整を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロフォンからの信号を処理する処理回路部と、前記処理回路部からの信号を音に変換して出力するスピーカとを備える音響装置の製造方法であって、
(a)音測定器と、前記スピーカとの間の空間に遮蔽物を配置し、前記処理回路部のマイクロフォン側に可聴域の信号を入力して前記スピーカから出力させた音を前記音測定器で第1信号として測定する工程と、
(b)前記音測定器と、前記スピーカとの間の空間に前記遮蔽物を配置せずに、前記処理回路部のマイクロフォン側に可聴域の信号を入力して前記スピーカから出力させた音を前記音測定器で第2信号として測定する工程と、
(c)前記第1信号を前記第2信号に近づけるよう、前記処理回路部の回路定数の調整を行う工程と、を含む、
ことを特徴とする音響装置の製造方法。
【請求項2】
前記スピーカを収容する筐体が、前記スピーカの出力端と内側で対向し、複数の孔を有する出力面を備え、
前記第1信号を前記第2信号に近づけるよう、前記スピーカの出力端と前記筐体の出力面との間の容積の調整を行う、
請求項1記載の音響装置の製造方法。
【請求項3】
マイクロフォンと、
前記マイクロフォンからの信号を処理する処理回路部と、
前記処理回路部からの信号を音に変換して出力するスピーカと、を備え、
前記処理回路部は、マスクを通して可聴域の音が前記マイクロフォンに入力された場合、母音のレベルより子音のレベルが高い回路を有する、
ことを特徴とする音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4365414号(以下、「特許文献1」という。)には、部屋の外側と内側を仕切る板または壁(遮蔽物)を介して部屋の外側の者と内側の者の通話をスムーズに行うための通話装置が記載されている。この通話装置は、男性の声の90Hzぐらいから女性や子供の声の400Hzぐらいまでに着目した周波数帯域フィルタと、このフィルタを通過した音声を検知する音声検知回路を備える。そして、通話装置は、帯域フィルタを経由せずに音声信号がそのまま増幅される音声増幅系統を有する。これにより、送話側の音声は何らフィルタで劣化されることなく受話側に明瞭に伝えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4365414号(段落[0015」-[0017])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、話し手(送話側の者)の少なくとも口を覆うマスク越しの会話では、そのマスクの影響を受け、可聴域(人が聞こえる20Hzから20kHzくらいまでの周波数の範囲)での音圧が下がってしまう。特に、可聴域の高域側(子音側)でカットされることを本発明者は見出している。このため、特許文献1に記載のような装置を用いても、聞き手(受話側の者)にとって聞き取りにくいおそれがある。
【0005】
本発明の一目的は、マスクなどの遮蔽物越しの音であっても聞き取り易くすることのできる音響装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(解決項1)
マイクロフォンからの信号を処理する処理回路部と、前記処理回路部からの信号を音に変換して出力するスピーカとを備える音響装置の製造方法であって、
(a)音測定器と、前記スピーカとの間の空間に遮蔽物を配置し、前記処理回路部のマイクロフォン側に可聴域の信号を入力して前記スピーカから出力させた音を前記音測定器で第1信号として測定する工程と、
(b)前記音測定器と、前記スピーカとの間の空間に前記遮蔽物を配置せずに、前記処理回路部のマイクロフォン側に可聴域の信号を入力して前記スピーカから出力させた音を前記音測定器で第2信号として測定する工程と、
(c)前記第1信号を前記第2信号に近づけるよう、前記処理回路部の回路定数の調整を行う工程と、を含む、
ことを特徴とする音響装置の製造方法。
(解決項2)
前記スピーカを収容する筐体が、前記スピーカの出力端と内側で対向し、複数の孔を有する出力面を備え、
前記第1信号を前記第2信号に近づけるよう、前記スピーカの出力端と前記筐体の出力面との距離の調整を行う、
解決項1記載の音響装置の製造方法。
(解決項3)
マイクロフォンと、
前記マイクロフォンからの信号を処理する処理回路部と、
前記処理回路部からの信号を音に変換して出力するスピーカと、を備え、
前記処理回路部は、マスクを通して可聴域の音が前記マイクロフォンに入力された場合、母音のレベルより子音のレベルが高い回路を有する、
ことを特徴とする音響装置。
(解決項4)
マイクロフォンと、
前記マイクロフォンからの信号を処理する処理回路部と、
前記処理回路部からの信号を音に変換して出力するスピーカと、を備え、
前記処理回路部は、
マスクを通して可聴域の音が前記マイクロフォンに入力された場合、前記スピーカから出力される音のレベルが、2kHzに対して4kHz以降に-3dBとなる、回路を有する、
ことを特徴とする音響装置。
【発明の効果】
【0007】
一解決手段によれば、マスクなどの遮蔽物越しの音であっても聞き取り易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る音響装置の説明図である。
【
図2】
図1に示すスピーカを収納した筐体の斜視図である。
【
図4】
図1に示す音響装置の製造工程のフロー図である。
【
図6】
図5に示す処理回路部の周波数特性の説明図である。
【
図7】
図1に示す音響装置に関する周波数特性の説明図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る音響装置のブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下の本発明における実施形態では、必要な場合に複数のセクションなどに分けて説明するが、原則、それらはお互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細などの関係にある。このため、全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、構成要素などの形状に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合などを除き、実質的にその形状などに近似または類似するものなどを含むものとする。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の実施形態では、
図1~
図7を参照して音響装置10について説明する。
図1は、音響装置10の説明図である。
図2は、音響装置10のスピーカ13を収容したスピーカ筐体20の斜視図である。
図3は、スピーカ13の説明図である。
図4は、音響装置10の製造工程のフロー図である。
図5は、処理回路部12の回路図である。
図6は、横軸を周波数(Hz)、縦軸をレベル(dB)とした処理回路部12の周波数特性の説明図である。
図7は、横軸を周波数(Hz)、縦軸をレベル(dB)とした音響装置10の周波数特性の説明図である。
【0011】
音響装置10は、マイクロフォン(以下、単に「マイク」ともいう。)11と、処理回路部12と、アンプ回路部16と、スピーカ13とを備えている。マイク11は、入力された音を電気信号に変換するものである。処理回路部12は、HPF(ハイパスフィルタ)回路14と、LPF(ローパスフィルタ)15とを備えている。処理回路部12は、HPF回路14およびLPF回路15を介してマイク11からの電気信号を処理する電気回路(バンドパスフィルタ回路)である。アンプ回路部16は、処理回路部12で処理された信号を増幅させるものである。スピーカ13は、処理回路部12からの電気信号を変換して音として出力するものである。なお、音響装置10は、例えば、話し手の少なくとも口を覆うマスクを通過した音を拾って伝送し、聞き手に聞き取り易い音を提供するものである。
【0012】
また、音響装置10は、スピーカ筐体20と、筐体20が載せられるスタンド21とを備えている。スピーカ筐体20およびスタンド21は、例えばABS樹脂から形成される。音響装置10では、筐体20に処理回路部12およびスピーカ13が収容されている。筐体20は、正面側にスピーカ13からの音を外部に出力する出力面22を備えている。出力面22は、筐体20の右側面、左側面、上面(平面)およびスタンド21側の下面(底面)と隣接する正面から突出した位置に設けられている。出力面22は、音を通過させるために、複数の孔23を備えている。複数の孔23は、出力面22の中心から放射状に配置されている。スピーカ13は、筐体20の内部に収容され、その出力端17が筐体20の内側から出力面22と対向している(
図3)。
【0013】
スタンド21は、角度調整ノブ24を備えている。例えば、聞き手が角度調整ノブ24を回すことによって、聞き取り易い位置にスピーカ13の出力面22の向き(仰角)を換えることができる。また、筐体20は、背面にフック(不図示)を備えており、スタンド21を取り外し、フックを介して衝立などに引っ掛けることもできる。
【0014】
また、筐体20は、一側面に設けられたマイク入力部25および電源入力部26を備えている。マイク11がコード27(配線)を介してマイク入力部25と電気的に接続されることで、マイク11が処理回路部12と電気的に接続される。また、ACアダプタ(不図示)がコード(不図示)を介して電源入力部26と電気的に接続されることで、音響装置10に電力が供給される。また、筐体20は、上面に設けられたつまみ30を備えている。つまみ30は、電源ON/OFFの切替機能および音量調整機能を有しており、回されることでこれらの機能が実行される。
【0015】
ここで、音響装置10の製造方法の特徴となる工程(
図4)について説明する。その他の工程については、周知の組み立て工程などを適用することができる。
【0016】
まず、スピーカ13から出力される音を音測定器51のマイク52で拾えるよう、スピーカ13と音測定器51を配置する(工程S10)。具体的には、音測定器51が備えるマイク52とスピーカ13を収容する筐体20の出力面22とを対向させる。このとき、処理回路部12の入力側(マイク11側)に、例えば信号源53を接続しておく(
図5)。信号源53は、例えば、100Hzから8kHzまでの周波数の範囲を含む可聴域の信号を入力することができる。
【0017】
次いで、音測定器51と、スピーカ13との間の空間に遮蔽物50を配置する(工程S20、
図1)。具体的には、音測定器51のマイク52と、スピーカ筐体20の出力面22との間の空間に遮蔽物50を配置する。遮蔽物50としては、人の口を少なくとも覆うマスクやその部材、飛沫防止用の仕切りやその部材など、音響装置10の使用状況によって適宜選択される。もちろん、遮蔽物50として、マスクや仕切りを組み合わせたものであってもよい。
【0018】
マスクとしては、一般・家庭用マスク、医療用マスク、産業用マスクが例示される。一般・家庭用マスクとしては、不織布マスク、布製マスク、ウレタンマスクなどが例示される。また、医療用マスクとしては、サージカルマスク、N95マスクなどが例示される。また、産業用マスクとしては、防塵マスクなどが例示される。例えば、会話相手がマスクをしていた場合、マスク越しの声がこもってしまう。なお、マスク越しの音声が2kHz以上7kHz未満の周波数帯域で減衰してしまうことを本発明者は見出している。
【0019】
また、飛沫防止用の仕切りとしては、透明なビニールシート、アクリル板、それらに孔や切り欠きが形成されたものなどが例示される。例えば、感染防止のため会話相手との間に仕切りがあると声が遮られて会話が相手に届きにくくなってしまう。
【0020】
次いで、処理回路部12のマイク11側に可聴域の信号を入力してスピーカ13から音を出力させ、遮蔽物50を通過した音を第1信号として音測定器51で測定する(工程S30)。具体的には、信号源53により可聴域の信号を処理回路部12のマイク11側に入力して、スピーカ13から出力された音を、遮蔽物50越しに音測定器51で測定する。
【0021】
また、音測定器51と、スピーカ13との間の空間に遮蔽物50を配置せずに(工程S40)、処理回路部12のマイク11側に可聴域の信号を入力してスピーカ13から音を出力させ、第2信号として音測定器51で測定する(工程S50)。具体的には、信号源により可聴域の信号を処理回路部12のマイク11側に入力して、スピーカ13から出力された音を、そのまま音測定器51で測定する。
【0022】
次いで、第1信号を第2信号に近づけるよう、処理回路部12の回路定数の調整を行う(工程S60)。ここで、処理回路部12のHPF回路14は、例えば、抵抗R1、R2、キャパシタC1から構成される(
図5)。また、処理回路部12のLPF回路15は、例えば、抵抗R3、キャパシタC2から構成される(
図5)。
【0023】
この処理回路部12の出力側の周波数特性の一例を
図6に示す。この特性では、1kHz~20kHzの帯域(特に、2kHz~10kHz)が強調されている。すなわち、処理回路部12の回路定数の調整によれば、1kHz~20kHzの帯域(特に、2kHz~10kHz)の信号を抽出し易くすることができる。この調整結果を利用すれば、後述するように、例えば不織布マスク越しの音声が2kHzから7kHzにかけて減衰する場合であっても補うことができ、聞き取り易くすることができる。このような処理回路部12の回路定数の調整、決定により、音響装置10の周波数特性も調整することができるようになる。
【0024】
音測定器51によって測定した音の周波数特性について
図7を参照して詳細に説明する。信号S1は、遮蔽物50として不織布マスクを配置した場合に起因する(第1信号に対応する。)ものである。信号S2は、遮蔽物50として不織布マスクを配置しない場合に起因する(第2信号に対応する。)ものである。そして、信号S3は、信号S1を信号S2に近づける(信号S2に対して信号S1が減衰した帯域を補う)ように、処理回路部12の回路定数を調整して得られたものである。
【0025】
不織布マスクをしていない話し手の音声は、日常会話の周波数帯域である250Hz~5kHz(このうち、母音は低域、子音は高域の帯域とされる。)にあれば、聞き手に聞き取られる。しかしながら、不織布マスクをした(通過した)話し手の音声(信号S1)は、不織布マスクをしない音声(信号S2)より、2kHzから急激に減衰している。すなわち、不織布マスクをした話し手の音声は、母音の周波数帯域(例えば、700Hz以前の周波数帯)より子音の周波数帯域(例えば、2kHz以降の周波数帯)が聞き手にとって聞きづらいものとなっている。
【0026】
そこで、本実施形態では、不織布マスクのある場合に起因する信号S1の周波数特性を、不織布マスクのない場合に起因する信号S2の周波数特性に近づけるよう、処理回路部12の回路定数を調整している。具体的には、信号S1と信号S2を比較し、不織布マスクによる音のレベルの減衰が大きくなっている帯域を補うよう、処理回路部12の回路定数を調整する。これにより、処理回路部12は、マスクを通して可聴域の音がマイク11に入力された場合、スピーカ13から出力される音のレベルが、2kHzに対して4kHz以降に-3dBとなる(信号S3)、回路を有するよう構成される。言い換えると、処理回路部12は、母音のレベル(例えば、300Hzで22dB程度)より子音のレベル(例えば、4kHzで48dB程度)が高い回路を有するよう構成される。このような音響装置10によれば、不織布マスクを通過した状態では聞きずらかった2kHz以降の子音でも聞き取り易くすることができる。
【0027】
このように、話し手の音声がマスクをした場合としない場合とでは、スピーカ13から出力される音の周波数特性が異なるため、聞き手側の聞こえ方が異なる。そこで、音響装置10では、話し手の音声をマイク11で拾い、スピーカ13から出力される音のレベルは、2kHz以上の高帯域において、話し手の少なくとも口を覆うマスクを付けた場合より、マスクを付けない場合の方が高くなるよう、処理回路部12の回路定数が調整されている。これにより、音響装置10は、マスクを付けた話し手の声を聞き取り易くすることができる。なお、聴覚障害により2kHz以上の高帯域の音(子音)が聞きづらくなっている者においても、音響装置10によれば聞き取り易くすることができる。
【0028】
ところで、
図7に示す信号S4は、遮蔽物50として不織布マスクおよびアクリル板を一緒に適用した場合に起因するものである。信号S1と比較することで、アクリル板を通過した音は、400Hz~1.2kHzにかけて急激に減衰している。すなわち、話し手と聞き手との間にアクリル板を挟んだときの話し手の音声は、聞き手にとって聞きづらいものとなっている。
【0029】
そこで、前述した場合と同様に、不織布マスクおよびアクリル板のある場合に起因する信号S4の周波数特性を、それらのない場合に起因する信号S2の周波数特性に近づけるよう、処理回路部12の回路定数を調整する。これにより、例えば、信号S3と同様の周波数特性を得ることができる。すなわち、不織布マスクおよびアクリル板を通過した状態では聞きずらかった400Hz以上1.2kHz未満の音でも聞き取り易くすることもできる。
【0030】
また、第1信号S1を第2信号S2に近づけるよう、スピーカ13の出力端17(この端面)と筐体20の出力面22との間の容積で調整することもできる(工程S70)。
図3に示すような場合、その容積は、出力端17と出力面22との距離xと、円形状の出力面22(半径r)の面積から求めることができる。筐体20の内側でスピーカ13の出力端17から出力された音は、出力面22を通過して筐体20の外側へ放出されると共に、出力面22にも衝突し振動(共振)を引き起こす。このため、処理回路部12の回路定数を一定とし、出力端17と出力面22との容積を変化させた場合、出力面22から放出される音の周波数特性は、その容積が小さくなるにつれ高周波側へシフトし、その容積が増えるにつれ低周波側へシフトする。
【0031】
したがって、処理回路部12の回路定数による調整(工程S60)の他に、構造的な要因による調整(工程S70)も利用することができる。これらの調整工程によれば、第1信号S1を第2信号S2に近づけるための自由度が高くなる。また、これらの調整工程を繰り返して行うこともできる。
【0032】
このように、マスクなどの遮蔽物50を介することで減衰した周波数帯域がある場合であっても、これらの調整により遮蔽物50の影響を補う調整を行うことができる。したがって、マスクなどの遮蔽物50越しの音であっても聞き取り易くすることができる。
【0033】
(第2実施形態)
前記第1実施形態では、マスクや仕切りなどの遮蔽物50がある場合に対応するよう、信号S3に調整した音響装置10について説明した。本発明の実施形態では、遮蔽物がある場合とない場合のそれぞれに対応するよう、そのような場合の使用状況にあわせて切り換え可能な音響装置10Aについて
図8を参照して説明する。
図8は、音響装置10Aのブロック図である。
【0034】
音響装置10Aは、マイク11と、処理回路部12と、処理回路部12Aと、アンプ回路部16と、スピーカ13と、切り換えスイッチ31とを備えている。切り換えスイッチ31は、処理回路部12と処理回路部12Aの切り換えを行うものである。切り換えスイッチ31のボタンは、例えば、スピーカ筐体20やマイク11のスタンドに設けられる。
【0035】
処理回路部12は、前記第1実施形態で説明した、HPF回路14とLPF回路15とを備えている。この処理回路部12は、マスクを通して可聴域の音がマイク11に入力された場合、スピーカ13から出力される音のレベルが、2kHzに対して4kHz以降に-3dBとなるように(
図7の信号S3を参照)、HPF回路14およびLPF回路15の回路定数が調整されている。このように調整された処理回路部12で信号を処理することで、話し手がマスクを付けていた場合に、聞き手は聞き取り易くなる。
【0036】
また、処理回路部12Aは、HPF回路14AとLPF回路15Aとを備えている。処理回路部12Aは、マスクを通して可聴域の音がマイク11に入力された場合、スピーカ13から出力される音のレベルが、2kHzに対して2.5kHz以降に-3dBとなるように(
図7の信号S1を参照)、HPF回路14AおよびLPF回路15Aの回路定数が調整されている。または、処理回路部12Aは、マスクを通さずに可聴域の音がマイク11に入力された場合、スピーカ13から出力される音のレベルが、2kHzに対して3kHz以降に-3dBとなるように(
図7の信号S2)、HPF回路14AおよびLPF回路15Aの回路定数が調整されている。このように調整された処理回路部12Aで信号を処理することで、話し手がマスクを付けていない場合に、聞き手は聞き取り易くなる。
【0037】
そして、音響装置10Aは、処理回路部12と処理回路部12Aとがスイッチ31によって切り換え可能に構成されている。このため、音響装置10Aの使用状況に合わせてスイッチ31を切り換えることで、聞き手にとって聞き取り易い状況を提供することができる。なお、スイッチ31は、機械的な構成や、電気的な構成(電気回路)で用いられるてもよい。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0039】
前記実施形態では、信号源と音測定器をそれぞれ別体として用いた場合を説明した。これに限らず、信号源と音測定器とが一体となったオーディオアナライザを用いることもできる。
【0040】
また、前記実施形態では、マイクとスピーカーを一セットとして説明した。そこで、二セットを用いることで、対話システムを構築することができる。例えば、切符窓口、チケットブース、フロント、レジなどの窓口業務において、マスクや仕切りなどの遮蔽物を介して対話する場合、一方側に第1セットのマイク、第2セットのスピーカを設け、他方側に第1セットのスピーカ、第2セットのマイクを設けることで、対話システムを構築することができる。この際、マイクを指向性とすることで、ハウリングを防止したり、騒音環境下でも話し手の声を明瞭に伝えたりすることができる。また、音響装置の処理回路部が会話に適した音の周波数を通過させるバンドパスフィルタ回路を含むことで、その周波数帯域以外の音をカットし、ハウリングを防止することもできる。これにより、マスクや仕切りなどの遮蔽物を介した場合であっても、聞き取り易く、コミュニケーションを取りやすくなる。
【0041】
また、前記実施形態では、音響装置は、ACアダプタから電源供給を受けるよう構成される場合について説明した。これに限らず、音響装置は、充電装置(バッテリ)を備え、充電装置から電源供給を受けてもよい。この場合、ACアダプタに接続するコンセントが近くにない場合であっても使用できる。
【符号の説明】
【0042】
10、10A 音響装置、 11 マイクロフォン、 12、12A 処理回路部、 13 スピーカ。