(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092802
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205721
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中辻 重義
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA07
3H131BA08
3H131CA01
3H131CA34
(57)【要約】
【課題】熱膨張による性能の低下を効果的に抑制できる真空ポンプを提供する。
【解決手段】吸気口101が設けられた外装体203と、外装体203に内包され、回転自在に支持された回転体103と、回転体103の外周に配置された略円筒状のねじ溝ステータ131と、回転体103の外周面またはねじ溝ステータ131の内周面の少なくとも一方に刻設されたねじ溝131aと、を備え、回転体103を回転させることにより、吸気口101側から吸気した気体を外装体203外へ排気する真空ポンプであって、ねじ溝ステータ131の外周に、ねじ溝ステータ131の材料よりも線膨張係数の低い材料で形成され、ねじ溝ステータ131の熱膨張時の径方向の変形を低減させる拘束手段220が配設される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口が設けられた外装体と、
前記外装体に内包され、回転自在に支持された回転体と、
前記回転体の外周に配置された略円筒状のステータと、
前記回転体の外周面または前記ステータの内周面の少なくとも一方に刻設されたねじ溝と、を備え、前記回転体を回転させることにより、前記吸気口側から吸気した気体を前記外装体外へ排気する真空ポンプであって、
前記ステータの外周に、前記ステータの材料よりも線膨張係数の低い材料で形成され、前記ステータの熱膨張時の径方向の変形を低減させる拘束手段が配設されることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記拘束手段は、前記ステータの下流側の端部に配設されることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記真空ポンプは、内部温度が異なる複数の仕様を有し、
各々の前記仕様における、前記真空ポンプの軸方向の所定位置の前記回転体の前記外周面と前記ステータの前記内周面とのギャップ量は、前記拘束手段によって同じになるようにされたことを特徴とする請求項1また2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ステータの熱膨張時における、前記拘束手段から前記ステータに作用する応力は、前記ステータの材料の降伏応力未満となるようにされたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡、表面分析装置または微細加工装置等は、装置内の環境を高度の真空状態にすることが必要である。これらの装置の内部を高度の真空状態とするために、真空ポンプが用いられている。
【0003】
真空ポンプは、例えば特許文献1に示すように、回転翼と固定翼を有するターボ分子ポンプの下流側に、ねじ溝ポンプが設けられる場合がある。いわゆるホルベック型のねじ溝ポンプは、回転体の外周面と、回転体の外周に配置されたステータとにより構成され、回転体の外周面またはステータの内周面にねじ溝が刻設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、半導体製造等で生じた反応生成物が堆積することを防ぐために、ねじ溝ポンプを形成するステータを、反応生成物の昇華温度以上に保温する技術が考案されている。しかしながら、回転体の外周に配置されるステータが高温になると、熱膨張により回転体とステータの間のギャップ量が広がり、ねじ溝ポンプの性能が低下する。
【0006】
一方、真空ポンプにおいては、排気性能以外にも、上記半導体製造等における種々の製造工程に応じた、最適な内部温度などの仕様要求などがある。在庫数の削減などを目的として、同一のポンプで、内部温度の設定仕様を変えることが求められる場合がある。この場合には、内部温度の設定仕様の変更によって、上述の熱膨張で生じる回転体とステータの間のギャップ量が変化する。このギャップ量が大きくなるように変化する場合、ねじ溝ポンプの排気性能が低下して問題となる可能性がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、熱膨張による性能の低下を効果的に抑制できる真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプは、吸気口が設けられた外装体と、前記外装体に内包され、回転自在に支持された回転体と、前記回転体の外周に配置された略円筒状のステータと、前記回転体の外周面または前記ステータの内周面の少なくとも一方に刻設されたねじ溝と、を備え、前記回転体を回転させることにより、前記吸気口側から吸気した気体を前記外装体外へ排気する真空ポンプであって、前記ステータの外周に、前記ステータの材料よりも線膨張係数の低い材料で形成され、前記ステータの熱膨張時の径方向の変形を低減させる拘束手段が配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した真空ポンプは、ステータの熱膨張時の径方向の変形を低減させる拘束手段を有するため、回転体の外周面とステータの内周面との間のギャップ量が広がることを抑制できる。このため、本真空ポンプは、熱膨張によるねじ溝ポンプの性能の低下を効果的に抑制できる。
【0010】
前記拘束手段は、前記ステータの下流側の端部に配設されてもよい。これにより、下流側で外周面を固定されていないステータの下流側の端部の径方向への熱膨張を抑制し、ねじ溝ポンプの性能の低下を効果的に抑制できる。
【0011】
前記真空ポンプは、内部温度が異なる複数の仕様を有し、各々の前記仕様における、前記真空ポンプの軸方向の所定位置の前記回転体の前記外周面と前記ステータの前記内周面とのギャップ量は、前記拘束手段によって同じになるようにされてもよい。これにより、本真空ポンプは、内部温度が異なる各々の仕様において、ねじ溝ポンプの性能を効果的に維持できる。
【0012】
前記ステータの熱膨張時における、前記拘束手段から前記ステータに作用する応力は、前記ステータの材料の降伏応力未満となるようにされてもよい。これにより、拘束手段によって拘束されて熱膨張時に応力を受けるステータが破損することを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】実施形態に係る真空ポンプの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
本発明の実施形態に係る真空ポンプは、高速回転する回転体の回転ブレードが気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するターボ分子ポンプ100である。ターボ分子ポンプ100は、例えば半導体製造装置等のチャンバからガスを吸引して排気するために使用される。
【0016】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0017】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0018】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0019】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0020】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0021】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0022】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0023】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0024】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0025】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0026】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0027】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0028】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ねじ溝ステータ131(ステータ)が配設される。ねじ溝ステータ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のねじ溝131aが複数条刻設されている。ねじ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつねじ溝ステータ131の内周面に向かって張り出されており、このねじ溝ステータ131の内周面と所定のギャップ量を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってねじ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ねじ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0029】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0030】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0031】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0032】
なお、上記では、ねじ溝ステータ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ねじ溝ステータ131の内周面にねじ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にねじ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0033】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0034】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0035】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0036】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0037】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やねじ溝ステータ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0038】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0039】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0040】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0041】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0042】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0043】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0044】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0045】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0046】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0047】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0048】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0049】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0050】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0051】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0052】
本実施形態に係る真空ポンプは、上述した構成に加えて、
図5に示すように、ねじ溝ステータ131に連結される高温ステータ201と、高温ステータ201に収容される加熱体202と、高温ステータ201に外周に配置される下側外筒210と、ねじ溝ステータ131の外周に配置される拘束手段220と、を有している。
【0053】
下側外筒210は、上端側が外筒127の下側に連結され、下端側がベース部129の上側に連結されている。外筒127、下側外筒210およびベース部129は、回転体103を回転可能に内包する外装体203を構成する。
【0054】
高温ステータ201は、略円筒形状であり、下端側がOリングを介してベース部129の上に連結され、上端側がOリングを介して下側外筒210の内側に連結される。なお、加熱体202が配置される高温ステータ201は、ねじ溝ステータ131と別構造ではなく、ねじ溝ステータ131と一体的な構造であってもよい。
【0055】
加熱体202は、高温ステータ201の内部に差し込まれて固定されている。加熱体202は、図示しない加熱体制御装置に接続されており、加熱体制御装置は、加熱体202の温度を制御する。加熱体202は、高温ステータ201およびねじ溝ステータ131の温度を、回転体103の温度よりも高い所定値で維持するように、適宜調整される。
【0056】
ねじ溝ステータ131は、略円筒形状であり、上流側に位置するステータ上端部131bと、下流側に位置するステータ下端部131cとを有している。ねじ溝ステータ131は、ステータ上端部131bにて、高温ステータ201の内側に連結されている。さらに、ねじ溝ステータ131の外周側には、排気口133までのガス流路となる空間が設けられ、ねじ溝ステータ131は、ステータ下端部131cが自由端となるように、ステータ上端部131bから下側へ延在している。ステータ下端部131cは、内周側に配置される回転体103の円筒部102dの外周面から隙間を空けて離れているとともに、外周側に配置される高温ステータ201の内周面から隙間を空けて離れている。なお、ステータ下端部131cの外周面は、高温ステータ201の内周面に対向するのではなく、他の部材(例えば、外筒127や下側外筒210などの外装体203や、外装体203の内側に配置される他のステータ部材)の内周面に対向してもよい。
【0057】
拘束手段220は、円筒形状であり、ねじ溝ステータ131の外周に配置される。拘束手段220の内周面は、ステータ下端部131cの外周面と接触している。拘束手段220は、例えばステータ下端部131cを圧入されて固定されている。なお、拘束手段220のねじ溝ステータ131への固定方法は、特に限定されず、例えばボルト等により固定されてもよい。拘束手段220の外周面は、隙間を空けて、高温ステータ201の内周面に対向している。拘束手段220の内周面および外周面の軸方向側の縁部は、曲面または平面で面取りされることが好ましい。なお円筒形状である拘束手段220の軸方向とは、円筒の2つの開口部の中心を結ぶ方向である。
【0058】
拘束手段220の軸方向の長さおよび径方向の肉厚は、特に限定されない。拘束手段220は、ねじ溝ステータ131の材料よりも線膨張係数の低い材料で形成される。例えば、ねじ溝ステータ131の材料がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合に、拘束手段220の材料は、例えばステンレス、セラミックス、チタン合金等を好適に使用できる。ステンレスは、特に限定されないが、例えばSUS403、SUS405、SUS410、SUS430等のSUS400系が好適に使用できる。
【0059】
なお、拘束手段220の外周面は、高温ステータ201の内周面に対向するのではなく、他の部材(例えば、外筒127や下側外筒210などの外装体203や、外装体203の内側に配置される他のステータ部材)の内周面に対向してもよい。拘束手段220の形状は、軸方向へ一定の内径および外径を有する円筒形状であるが、これに限定されない。例えば、拘束手段220の外径は、軸方向へ一定でなくてもよい。
【0060】
次に、上述した真空ポンプの作用を説明する。真空ポンプの回転軸113が駆動機構であるモータ121により駆動されると、回転体103が回転する。これにより、回転ブレード102と静止ブレード123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
【0061】
吸気口101から吸気された排気ガスは、回転ブレード102と静止ブレード123によって形成されるターボ分子ポンプ機構によって、下流側へ移送される。下流側へ移送されてきた排気ガスは、回転体103の円筒部102dおよびねじ溝ステータ131により形成されるホルベック型ポンプ機構へ案内された後、排気口133へ移送される。
【0062】
ねじ溝ステータ131および高温ステータ201は、半導体製造等で生じた反応生成物が堆積することを防ぐために、加熱体202によって加熱される。円筒部102dおよびねじ溝ステータ131が、同程度の線膨張係数を有する材料により形成される場合、円筒部102dよりも高い温度となるねじ溝ステータ131は、拘束手段220がなければ、円筒部102dよりも大きく熱膨張する。一例として、円筒部102dおよびねじ溝ステータ131はアルミニウム製であり、拘束手段220はステンレス製である。なお、内側の円筒部102dは、遠心力によっても拡径するが、その拡径量を考慮しても、ねじ溝ステータ131は、円筒部102dよりも大きく熱膨張しやすい。このため、拘束手段220がない場合、円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間のギャップ量が広がり、ねじ溝ポンプの性能が低下する。しかしながら、ねじ溝ステータ131の外周には、ねじ溝ステータ131の材料よりも線膨張係数の低い材料により形成される拘束手段220が配置される。拘束手段220は、ねじ溝ステータ131と同じ温度に加熱されても、ねじ溝ステータ131ほど熱膨張しない。このため、ねじ溝ステータ131は、拘束手段220によって径方向外側への熱膨張を抑制される。したがって、ガスが流れる円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間のギャップ量を、適切に維持することができる。
【0063】
拘束手段220は、円筒形状であるために周方向に均一な構造であり、かつ外周が他の部材から離れている。このため、拘束手段220は、周方向に均一な拘束力でねじ溝ステータ131を拘束できるため、円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間のギャップ量を、適切な量で均一に維持できる。
【0064】
本真空ポンプは、内部温度が異なる複数の仕様を有してもよい。一例として、真空ポンプのホルベック型ポンプ機構における内部温度は、70℃~200℃の範囲で設定される。ホルベック型ポンプ機構における内部温度とは、当該ポンプ機構を構成する部品(円筒部102dおよび/またはねじ溝ステータ131)の温度である。各々の仕様(内部温度)における、本真空ポンプの円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間のギャップ量は、適切な範囲内にあることが好ましく、より好ましくは略一定であり、さらに好ましくは一定である。すなわち、内部温度が仕様の範囲内で変化しても、ねじ溝ステータ131の外周に拘束手段220が設けられることで、円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間のギャップ量は、ほとんど変化しないことが好ましい。なお、円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間の適切なギャップ量は、例えば200~1000μmである。なお、回転体103の回転による振れにより、円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面の間のギャップ量は、1回転の間で変化し得る。円筒部102dの外周面とねじ溝ステータ131の内周面が接触しないように、真空ポンプは、計測される回転体103の振れが閾値(例えば100μm)に達する場合に警告音を発報してもよい。
【0065】
ねじ溝ステータ131および拘束手段220の温度が上昇すると、ねじ溝ステータ131は拘束手段220から応力を受ける。ねじ溝ステータ131は、アルミニウムやアルミニウム合金のように、ステンレス等よりも変形しやすい材料である場合がある。したがって、ねじ溝ステータ131が塑性変形しないように、拘束手段220からねじ溝ステータ131に作用する応力は、ねじ溝ステータ131の材料の降伏応力未満であることが好ましい。特に、真空ポンプは、ねじ溝ステータ131の内部温度が異なる複数の仕様を有している場合には、各々の仕様(内部温度)における、拘束手段220からねじ溝ステータ131に作用する応力が、ねじ溝ステータ131の材料の降伏応力未満であることが好ましい。すなわち、内部温度が仕様の範囲内で変化しても、ねじ溝ステータ131に作用する応力は常に降伏応力未満であり、ねじ溝ステータ131の塑性変形を抑制できる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る真空ポンプは、吸気口101が設けられた外装体203と、外装体203に内包され、回転自在に支持された回転体103と、回転体103の外周に配置された略円筒状のねじ溝ステータ131と、回転体103の外周面またはねじ溝ステータ131の内周面の少なくとも一方に刻設されたねじ溝131aと、を備え、回転体103を回転させることにより、吸気口101側から吸気した気体を外装体203外へ排気する真空ポンプであって、ねじ溝ステータ131の外周に、ねじ溝ステータ131の材料よりも線膨張係数の低い材料で形成され、ねじ溝ステータ131の熱膨張時の径方向の変形を低減させる拘束手段220が配設される。これにより、真空ポンプは、ねじ溝ステータ131の熱膨張時の径方向の変形を低減させる拘束手段220を有するため、回転体103の外周面とねじ溝ステータ131の内周面との間のギャップ量が広がることを抑制できる。このため、本真空ポンプは、熱膨張によるねじ溝ポンプの性能の低下を効果的に抑制できる。
【0067】
また、拘束手段220は、ねじ溝ステータ131の下流側の端部に配設される。これにより、下流側で外周面を固定されていないねじ溝ステータ131の下流側の端部の径方向への熱膨張を抑制し、ねじ溝ポンプの性能の低下を効果的に抑制できる。
【0068】
また、真空ポンプは、内部温度が異なる複数の仕様を有し、各々の仕様における、真空ポンプの軸方向の所定位置の回転体103の外周面とねじ溝ステータ131の内周面とのギャップ量は、拘束手段220によって同じになるようにされてもよい。これにより、本真空ポンプは、内部温度が異なる各々の仕様において、ねじ溝ポンプの性能を効果的に維持できる。
【0069】
また、ねじ溝ステータ131の熱膨張時における、拘束手段220からねじ溝ステータ131に作用する応力は、ねじ溝ステータ131の材料の降伏応力未満となるようにされてもよい。これにより、拘束手段220によって拘束されて熱膨張時に応力を受けるねじ溝ステータ131が破損することを効果的に抑制できる。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、本実施形態では、円筒部102dの外周面が平滑であり、ねじ溝ステータ131の内周面にねじ溝が形成されているが、円筒部102dの外周面にねじ溝が形成され、その外側のステータの内周面が平滑であってもよい。また、真空ポンプの下流側のねじ溝ポンプは、シグバーン型ポンプ機構と、ホルベック型ポンプ機構とを組み合わせて形成されてもよい。また、ねじ溝ステータ131は、高温ステータ201に対して下流側の端部で連結される構造や、流れ方向の中央部で連結される構造であってもよい。したがって、拘束手段220は、ねじ溝ステータ131の上流側の端部ではなく、上流側の端部や、流れ方向の中央部に配設されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
100 ターボ分子ポンプ
101 吸気口
102d 円筒部
103 回転体
131 ねじ溝ステータ(ステータ)
131a ねじ溝
131b ステータ上端部
131c ステータ下端部
133 排気口
201 高温ステータ
202 加熱体
203 外装体
220 拘束手段