(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092840
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】組成物、組成物の製造方法、光学素子、光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20220616BHJP
C09D 201/10 20060101ALI20220616BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20220616BHJP
G02C 7/00 20060101ALN20220616BHJP
G02B 1/18 20150101ALN20220616BHJP
【FI】
C08L101/02
C09D201/10
C08K5/5415
G02C7/00
G02B1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205783
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲夫
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA03
2K009BB02
2K009BB11
2K009CC21
2K009DD02
2K009EE02
2K009EE05
4J002AA031
4J002AA051
4J002AA071
4J002BC121
4J002BG071
4J002BG131
4J002BJ001
4J002EX046
4J002FD146
4J002GH00
4J002GP01
4J002HA02
4J002HA05
4J038CG121
4J038CG171
4J038GA06
4J038GA13
4J038GA14
4J038GA15
4J038KA06
4J038NA06
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】セルフクリーニング性に優れた塗膜を形成できる組成物を提供する。また、組成物の製造方法、光学素子、及び、光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】ベタイン構造、及び、式(1)で表される基を有する第1化合物と、式(1)で表される基、及び、親水性基を有し、ベタイン構造を有さない第2化合物とを含み、上記第2化合物の分子量が2000以下である、組成物。
-Si(R1)n(R2)3-n (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベタイン構造、及び、式(1)で表される基を有する第1化合物と、
式(1)で表される基、及び、親水性基を有し、ベタイン構造を有さない第2化合物とを含み、
前記第2化合物の分子量が2000以下である、組成物。
-Si(R1)n(R2)3-n (1)
式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
R1は、水酸基又は加水分解性基を表す。
R2は、水酸基及び加水分解性基のいずれでもない基を表す。
【請求項2】
前記ベタイン構造が、スルホベタイン構造、ホスホベタイン構造、又は、カルボベタイン構造である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2化合物が、式(2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の組成物。
X-L-Si(R1)n(R2)3-n (2)
式(2)中、nは、1~3の整数を表す。
R1は、水酸基又は加水分解性基を表す。
R2は、水酸基及び加水分解性基のいずれでもない基を表す。
Xは、親水性基を表す。
Lは、2価の連結基を表す。
【請求項4】
前記親水性基が、酸基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記第1化合物を含む溶液に、前記第2化合物を配合することを含み、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物を製造する、組成物の製造方法。
【請求項6】
基材と、
前記基材上に配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物により形成された塗膜と、を有する光学素子。
【請求項7】
前記基材が、レンズ基材である、請求項5に記載の光学素子。
【請求項8】
基材上に、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物を塗布して塗膜を形成することを含む、光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物、組成物の製造方法、光学素子、及び、光学素子の製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
防曇性を有するフィルムとして、所定のベタインモノマーおよび所定のアルコキシシリル基含有化合物を含有するモノマー成分を重合させてなるアルコキシシリル基含有ポリマー等を含有する親水性コート剤を成形してなるフィルムが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ベタイン構造、及び、後述する式(1)で表される基を有する第1化合物と、式(1)で表される基、及び、親水性基を有し、ベタイン構造を有さない第2化合物とを含み、上記第2化合物の分子量が2000以下である、組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】光学素子の一実施形態としての眼鏡レンズの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本実施形態の組成物について詳述する。
セルフクリーニング性に優れた塗膜を形成できる組成物が求められている。本実施形態の組成物を用いて形成できる塗膜は、上記特性を有する。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及び、ヨウ素原子が挙げられる。
本明細書において、ハロゲン化としては、例えば、フッ素化、塩素化、臭素化、及び、ヨウ素化が挙げられる。
【0007】
以下、組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0008】
<第1化合物>
組成物は、第1化合物を含む。
第1化合物は、ベタイン構造、及び、後述する式(1)で表される基を有する。
第1化合物が有するベタイン構造は、強い親水性を示し、ベタイン構造を有する化合物を塗膜の形成に使用すると塗膜の親水性が向上する。このような塗膜は、セルフクリーニング性が良好で、表面に汚れが付着した場合でも、塗膜を水と接触させることで、汚れを除去できるか容易に汚れを除去できるようにさせられる、と考えられている。これは、塗膜の親水性が高いため、表面に汚れが付着していても、塗膜を水に接触させれば、汚れと塗膜との間に水が浸入して汚れが浮き上がるため、と考えられている。
また、第1化合物は、式(1)で表される基を有する。第1化合物は、式(1)で表される基を介して、第1化合物と他の材料との間や、第1化合物同士での化学結合を形成可能としており、塗膜中に第1化合物を固定することを可能としている、と考えられている。
【0009】
第1化合物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、高分子化合物であることがより好ましい。
上記高分子化合物は、側鎖を有するか又は有さない、直鎖状ポリマーであってもよいし、それ以外であってもよい。上記高分子化合物は、ブロック構造を有していても有していなくてもよいし、グラフト構造を有していても有していなくてもよいし、ブランチ構造又はスター構造を有していても有していなくてもよい。
第1化合物の数平均分子量は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましい。また、第1化合物の数平均分子量は、1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましい。
なお、本開示において、数平均分子量及び重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されたポリエチレングリコール換算の数平均分子量及び重量平均分子量である。
【0010】
(ベタイン構造)
第1化合物は、ベタイン構造を含む。
ベタイン構造は、例えば、共有結合によって形成される構造の中に、カチオン基とアニオン基との両方が存在する構造である。
カチオン基及びアニオン基は、それぞれ独立に、1価の基であってもよいし、2価以上の連結基であってもよい。
カチオン基としては、例えば、アンモニウム基(「N+(-*)4」を有する基等)、スルホニウム基(「S+(-*)3」を有する基等)、ホスホニウム基(「P+(-*)4」を有する基等)、カルボカチオン基(「C+(-*)3」を有する基等)、及び、アンモニウム基以外の含窒素カチオン基(1価又は2価のピリジニウム基等)が挙げられる。上記において*は結合位置を表す。アンモニウム基は環構造を有していてもよく、このようなアンモニウム基としては、例えば、1価又は2価のピペリジニウム基、及び、1価又は2価のピロリジニウム基が挙げられる。上記ピリジニウム基、上記ピペリジニウム基、及び、上記ピロリジニウム基は、置換基を有していてもよい。
アニオン基としては、例えば、スルホン酸アニオン基(-SO3
-)、カルボン酸アニオン基(-COO-)、ホスホン酸アニオン基(-PO3H-、-PO3
2-等)、及び、リン酸エステルアニオン基(-OPO3
--等)が挙げられる。
なお、ベタイン構造において、カチオン基におけるカチオン原子(N+、S+、P+、、及び、C+等)とアニオン基とは、直接には結合しなくても良い。
また、ベタイン構造は、スルホベタイン構造、ホスホベタイン構造、又は、カルボベタイン構造であることが好ましい態様の一例である。
スルホベタイン構造は、スルホン酸アニオン基を有するベタイン構造であり、ホスホベタイン構造は、ホスホン酸アニオン基又はリン酸エステルアニオン基を有するベタイン構造であり、カルボベタイン構造は、カルボン酸アニオン基を有するベタイン構造である。
【0011】
第1化合物が有するベタイン構造の数は、1以上であり、1~1000が好ましい。
第1化合物が複数のベタイン構造を有する場合、第1化合物は、ベタイン構造を1種単独で有してもよく、2種以上を有してもよい。
第1化合物が複数のベタイン構造を有する場合、第1化合物は、スルホベタイン構造、ホスホベタイン構造、及び、カルボベタイン構造からなる群から選択される1種以上有することが好ましい。
【0012】
ベタイン構造は、「-アニオン基-連結基-カチオン基」又は「-カチオン基-連結基-アニオン基」で表される構造であって良く、式(B1)で表される構造又は式(B2)で表される構造とすることができる。
【0013】
-LA-CB1-LB-AB1 (B1)
-LA-AB2-LB-CB2 (B2)
【0014】
式(B1)中、LAは、単結合又は2価の連結基を表す。
上記2価の連結基としては、例えば、-CO-、-O-、-SO-、-SO2-、-NRA-、アルキレン基(例えば炭素数1~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルケニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルキニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アリーレン基(例えば炭素数6~15、単環でも多環でもよい)、ヘテロアリーレン基(例えば環員原子数5~15。単環でも多環でもよい)、脂環基(例えば炭素数3~15。単環でも多環でもよい)、非芳香族複素環基(例えば環員原子数3~15。単環でも多環でもよい)、及び、これらの複数を組み合わせた基が挙げられる。
RAは、水素原子又は置換基を表し、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
上記アルキレン基、上記アルケニレン基、上記アルキニレン基、上記アリーレン基、上記ヘテロアリーレン基、上記脂環基、及び、上記非芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
【0015】
式(B1)中、CB1は、2価のカチオン基を表す。
上記カチオン基としては、例えば、-N+RN
2-、置換基を有してもよい2価のピリジニウム基、置換基を有してもよい2価のピペリジニウム基、又は、置換基を有してもよい2価のピロリジニウム基が挙げられる。
-N+RN
2-における2個のRNは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、水素原子又はアルキル基が好ましい。上記アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~5が好ましい。上記アルキル基は置換基を有していてもよく、上記アルキル基が有し得る置換基としては、例えば、水酸基が挙げられる。
上記ピリジニウム基は、ピリジニウム基の環員原子である窒素原子が、LA又はLBと直接結合していることが好ましい。
上記ピペリジニウム基及び上記ピロリジニウム基は、環員原子である窒素原子が、LA及び/又はLBと直接結合していることも好ましい。
【0016】
式(B1)中、LBは、単結合又は2価の連結基を表す。
上記2価の連結基としては、例えば、-CO-、-O-、-SO-、-SO2-、-NRA-、アルキレン基(例えば炭素数1~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルケニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルキニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アリーレン基(例えば炭素数6~15、単環でも多環でもよい)、ヘテロアリーレン基(例えば環員原子数5~15。単環でも多環でもよい)、脂環基(例えば炭素数3~15。単環でも多環でもよい)、非芳香族複素環基(例えば環員原子数3~15。単環でも多環でもよい)、及び、これらの複数を組み合わせた基が挙げられる。
RAは、水素原子又は置換基を表し、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
上記アルキレン基、上記アルケニレン基、上記アルキニレン基、上記アリーレン基、上記ヘテロアリーレン基、上記脂環基、及び、上記非芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
なお、LBが単結合の場合、CB1で表される上記カチオン基におけるカチオン原子(N+等)と、次に述べるAB1で表される1価のアニオン基とは、直接は結合しないことが好ましい。
【0017】
式(B1)中、AB1は1価のアニオン基を表し、-SO3
-又は-COO-が好ましい。
【0018】
式(B2)中、LAは、単結合又は2価の連結基を表す。
連結基であるLAの2価の連結基としての形態は、式(B1)中のLAの2価の連結基としての形態と同様である。
【0019】
式(B2)中、AB2は2価のアニオン基を表す。
上記アニオン基は、-OPO3
--が好ましい。
【0020】
式(B2)中、LBは、単結合又は2価の連結基を表す。
式(B2)中のLBの2価の連結基としての形態も、式(B1)中のLBの2価の連結基としての形態と同様である。
なお、LBが単結合の場合、AB2で表される上記アニオン基と、次に述べるCB2で表される1価のカチオン基におけるカチオン原子(N+等)とは、直接は結合しないことが好ましい。
【0021】
式(B2)中、CB2は、1価のカチオン基を表す。
上記カチオン基としては、例えば、-N+RN
3、置換基を有してもよい1価のピリジニウム基、置換基を有してもよい1価のピペリジニウム基、又は、置換基を有してもよい1価のピロリジニウム基が挙げられる。
-N+RN
3における3個のRNは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、水素原子又はアルキル基が好ましい。上記アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~5が好ましい。上記アルキル基は置換基を有していてもよく、上記アルキル基が有し得る置換基としては、例えば、水酸基が挙げられる。
上記ピリジニウム基は、ピリジニウム基の環員原子である窒素原子が、LBと直接結合していることが好ましい。
上記ピペリジニウム基及び上記ピロリジニウム基は、環員原子である窒素原子が、LA及び/又はLBと直接結合していることも好ましい。
【0022】
第1化合物中、ベタイン構造の存在の仕方に制限はなく、例えば、高分子化合物である第1化合物の主鎖末端に存在していてもよく、高分子化合物である第1化合物の側鎖に存在してもよい。
中でも、第1化合物は、下記式(X)で表される繰り返し単位を有しても良い。すなわち、第1化合物が式(X)で表される繰り返し単位を有することで、第1化合物がベタイン構造を有しても良い。
【0023】
【0024】
式(X)中、RX1~RX3は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。上記置換基としては、アルキル基(メチル基等)又は式(1)で表される基を有する基が好ましい。
上記式(1)で表される基を有する基は、式(1)で表される基そのものであってもよく、式(1)で表される基を一部に有する基であってもよい。式(1)で表される基については後述する。
【0025】
式(X)中、mは、1以上の整数を表し、1~5が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。
式(X)中、BXは、ベタイン構造を表す。上記ベタイン構造は、上述の式(B1)で表される構造又は式(B2)で表される構造とすることができる。
mが2以上の場合、m個のBXは、それぞれ独立であり、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0026】
式(X)中、LX1は、単結合、-COO-、又は、-CONH-を表す。-COO-及び-CONH-において、カルボニル炭素が主鎖側に存在することが好ましい。
【0027】
式(X)中、LX2は、単結合又は(m+1)価の連結基を表す。
ただし、LX2が単結合の場合、mは1である。
上記連結基としては、例えば、-CO-、-O-、-SO-、-SO2-、-NRA-(RAは水素原子又は置換基)、アルキレン基(例えば炭素数1~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルケニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルキニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、「-N<」で表される3価の基、「-CRY<」で表される3価の基(RYは水素原子又は置換基)、「>C<」で表される4価の基、芳香族炭化水素環基(例えば炭素数6~15、単環でも多環でもよい)、芳香族複素環基(例えば環員原子数5~15。単環でも多環でもよい)、脂環基(例えば炭素数3~15。単環でも多環でもよい)、非芳香族複素環基(例えば環員原子数3~15。単環でも多環でもよい)、及び、これらの複数を組み合わせた基が挙げられる。
上記アルキレン基、上記アルケニレン基、上記アルキニレン基、上記芳香族炭化水素環基、上記芳香族複素環基、上記脂環基、及び、上記非芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
【0028】
式(X)で表される繰り返し単位は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
第1化合物中、式(X)で表される繰り返し単位の含有量は、第1化合物の全繰り返し単位に対して、0質量%超100質量%以下が好ましく、30~100質量%がより好ましく、60~100質量%が更に好ましく、90~100質量%が特に好ましい。
【0029】
(式(1)で表される基)
第1化合物は、式(1)で表される基を有する。
-Si(R1)n(R2)3-n (1)
【0030】
式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
つまり、式(1)で表される基中には、R1とR2とが、合計3個存在する。
【0031】
式(1)中、R1は、水酸基又は加水分解性基を表す。
上記加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~10)、アセトキシ基、及び、塩素原子等のハロゲン原子が挙げられ、アルコキシ基がより好ましい。
R1が2個以上存在する場合、2個以上のR1はそれぞれ独立で、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。
【0032】
式(1)中、R2は、水酸基及び加水分解性基のいずれでもない基を表す。
R2としては、例えば、水素原子及び非加水分解性基が挙げられ、より具体的には、水素原子及びアルキル基(直鎖状でも分岐鎖状でもよい。好ましくは炭素数1~6)が挙げられる。
【0033】
第1化合物が、式(1)で表される基を有する形態に制限はなく、例えば、第1化合物が高分子化合物である場合に、その鎖状構造の末端(片末端又は両末端等)に式(1)で表される基が存在していてもよく、存在していなくてもよい。また、第1化合物が高分子化合物である場合に、その側鎖に式(1)で表される基が存在していてもよい。
第1化合物が、式(1)で表される基を有する数は、1個以上(例えば1~1000個)である。
中でも、第1化合物は、高分子化合物である第1化合物の末端(好ましくは片末端)にのみ、式(1)で表される基を有することがより好ましい。
【0034】
第1化合物に式(1)で表される基を導入する方法に制限はなく、例えば、高分子化合物である第1化合物を重合(ラジカル重合等)して合成する際に、式(1)で表される基を有する重合開始剤、及び/又は、式(1)で表される基を有する連鎖移動剤を使用する方法が挙げられる。
式(1)で表される基を有する重合開始剤としては、例えば、式(1-A)で表される化合物が挙げられる。
式(1)で表される基を有する連鎖移動剤としては、例えば、式(1-B)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
RS-LS-N=N-LS-RS (1-A)
RS-LS-SH (1-B)
【0036】
式(1-A)及び式(1-B)中、RSは、式(1)で表される基である。
式(1-A)中に複数存在するRSはそれぞれ独立で、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。
式(1-A)及び式(1-B)中、LSは、単結合又は2価の連結基を表す。
上記2価の連結基としては、例えば、-CO-、-O-、-SO-、-SO2-、-NRA-、アルキレン基(例えば炭素数1~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルケニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルキニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アリーレン基(例えば炭素数6~15、単環でも多環でもよい)、ヘテロアリーレン基(例えば環員原子数5~15。単環でも多環でもよい)、脂環基(例えば炭素数3~15。単環でも多環でもよい)、非芳香族複素環基(例えば環員原子数3~15。単環でも多環でもよい)、及び、これらの複数を組み合わせた基が挙げられる。
RAは、水素原子又は置換基を表し、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
上記アルキレン基、上記アルケニレン基、上記アルキニレン基、上記アリーレン基、上記ヘテロアリーレン基、上記脂環基、及び、上記非芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
式(1-A)中に複数存在するLSはそれぞれ独立で、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。
【0037】
(その他の部位)
第1化合物(特に高分子化合物である第1化合物)は、上述した以外の構造部位を有していてもよい。
例えば、高分子化合物である第1化合物は、式(X)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有していてもよく、ベタイン構造を有さない繰り返し単位を有していてもよい。
例えば、第1化合物は、下記に示すモノマー群から選択される1種以上のモノマーが、重合して形成する構造の繰り返し単位を有していてもよい。
モノマー群:スチレン、α-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム
【0038】
第1化合物の製造方法に制限はなく、例えば、式(X)で表される繰り返し単位に対応するモノマーを、式(1)で表される基を有する重合開始剤及び/又は式(1)で表される基を有する連鎖移動剤の存在下でラジカル重合して得てもよい。この際、所望に応じてベタイン構造を有さない重合性モノマー(上述のモノマー群から選択される1種以上のモノマー等)を反応系に加えて、第1化合物にベタイン構造を有さない繰り返し単位を導入してもよい。
【0039】
第1化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
組成物中、第1化合物の含有量は、組成物の全固形分に対して、1~90質量%が好ましく、5~75質量%がより好ましく、10~70質量%が更に好ましい。
なお、組成物の固形分とは、JIS K 5601-1-2に従って測定される加熱残分である。測定の際の乾燥条件は、加熱時間を60分、加熱温度を105℃、試料量を1±0.1gとする。
【0040】
<第2化合物>
組成物は、第2化合物を含む。
第2化合物は、式(1)で表される基、及び、親水性基を有し、ベタイン構造を有さない。
第2化合物の分子量は2000以下であり、1000未満が好ましく、500以下がより好ましい。第2化合物の分子量は、100以上が好ましく、120以上がより好ましい。
第2化合物が第1化合物と共に存在することで、組成物を用いて形成される塗膜中の第1化合物の凝集が抑制されると共に、塗膜中の第1化合物の分子運動性も向上してセルフクリーニング性も改善した、と考えられている。
なお、上記「塗膜中の第1化合物」は、組成物中の第1化合物に由来する成分であればよく、第1化合物が組成物中で存在していた状態から化学変化していてもよい。
【0041】
第2化合物が有する式(1)で表される基については上述の通りである。第2化合物が有する式(1)で表される基の数は、1個以上(例えば1~10個)であり、1個がより好ましい。
第2化合物が複数の有する式(1)で表される基を有する場合、複数損在する式(1)で表される基は、はそれぞれ独立で、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。
第2化合物が有する式(1)で表される基は、第1化合物が有する式(1)で表される基と、同一でも異なっていてもよい。
【0042】
第2化合物が有する親水性基としては、例えば、酸基、水酸基、及び、アミノ基(1級アミノ基等)が挙げられ、酸基がより好ましい。
酸基としては、例えば、カルボン酸基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-OP(=O)(OH)2)、ホスホン酸基(-P(=O)(OH)2)、硫酸エステル基(-OSO3H)、リン酸エステル含有基(-OP(=O)(ORS)(ORT))、ホスホン酸エステル含有基(-OP(=O)(RS)(ORT)、-P(=O)(ORS)(ORT))、並びに、これらの基が可能な場合に形成する塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、及び、アンモニウム塩)が挙げられる。
親水性基は、組成物中で電離していてもよい。
-OP(=O)(ORS)(ORT)、-OP(=O)(RS)(ORT)、及び、-P(=O)(ORS)(ORT)中の、RS及びRTは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基(炭素数1~6のアルキル基等)を表す。
第2化合物が有する親水性基の数は、1個以上(例えば1~10個)であり、1個がより好ましい。
なお、式(1)で表される基の中に含まれている基は、親水性基の数には算入しない。
【0043】
第2化合物は、式(2)で表される化合物であって良い。
X-L-Si(R1)n(R2)3-n (2)
【0044】
式(2)中、nは、1~3の整数を表す。
R1は、水酸基又は加水分解性基を表す。
R2は、水酸基及び加水分解性基のいずれでもない基を表す。
式(2)中の「-Si(R1)n(R2)3-n」で表される部分構造は、上述の式(1)で表される基と同様である。
【0045】
式(2)中、Xは、親水性基を表す。
上記親水性基は、第2化合物が有する親水性基として上述したのと同様である。
【0046】
式(2)中、Lは、2価の連結基を表す。
上記2価の連結基としては、例えば、-CO-、-O-、-SO-、-SO2-、-NRA-、アルキレン基(例えば炭素数1~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルケニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アルキニレン基(例えば炭素数2~6。直鎖状でも分岐鎖状でもよい)、アリーレン基(例えば炭素数6~15、単環でも多環でもよい)、ヘテロアリーレン基(例えば環員原子数5~15。単環でも多環でもよい)、脂環基(例えば炭素数3~15。単環でも多環でもよい)、非芳香族複素環基(例えば環員原子数3~15。単環でも多環でもよい)、及び、これらの複数を組み合わせた基が挙げられる。
RAは、水素原子又は置換基を表し、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
上記アルキレン基、上記アルケニレン基、上記アルキニレン基、上記アリーレン基、上記ヘテロアリーレン基、上記脂環基、及び、上記非芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
【0047】
第2化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
組成物中、第2化合物の含有量は、組成物の全固形分に対して、1~90質量%が好ましく、5~75質量%がより好ましく、20~50質量%が更に好ましい。
組成物中、第1化合物の含有量に対する、第2化合物の含有量の質量比(第2化合物の含有量/第1化合物の含有量)は、1/99~99/1が好ましく、10/90~90/10がより好ましい。
【0048】
<塩>
組成物は、上述の成分以外の成分として、塩を含んでも良い。
組成物中に塩が存在する場合、組成物中で第1化合物が凝集することを抑制できると考えられている。
塩は、無機塩でも有機塩でもよく、無機塩がより好ましい。
塩としては、例えば、NaCl、KCl、LiCl、MgCl2、BaCl2、NaF、KF、LiF、MgF2、BaF2、NaBr、KBr、LiBr、MgBr2、BaBr2、NaI、KI、LiI、MgI2、BaI2、Na2SO4、K2SO4、Li2SO4、MgSO4、Na2CO3、NaHCO3、K2CO3、KHCO3、Li2CO3、LiHCO3、MgCO3、NaNO3、KNO3、LiNO3、MgNO3、BaNO3、シュウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、及び、酒石酸ナトリウムが挙げられる。
塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
組成物中に塩を含む場合、塩の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.1~90質量%が好ましく、0.5~80質量%がより好ましく、1~70質量%が更に好ましい。
組成物中に塩を含む場合、塩の含有量は、第1化合物の全質量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、上記含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0049】
<溶媒>
組成物は溶媒を含んでも良い。
溶媒は、例えば、水等の無機溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。
有機溶媒の種類は特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、及び、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン、及び、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、及び、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、及び、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、及び、キシレン等の炭化水素系溶媒;ハロゲン化炭化水素系溶媒;アミド系溶媒;スルホン系溶媒;並びに、スルホキシド系溶媒が挙げられる。
溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
溶媒は、第1化合物、第2化合物、及び、所望に応じて添加される無機塩を溶解できることが好ましい。組成物が2種の以上の溶媒からなる混合溶媒の場合、混合溶媒全体として、第1化合物、第2化合物、及び、所望に応じて添加される無機塩を溶解できればよい。
溶媒は、水を含むことがより好ましい。溶媒が水を含む場合、水の含有量は、溶媒の全質量に対して、10~100質量%が好ましく、60~100質量%がより好ましく、90~100質量%が更に好ましい。
組成物が溶媒を含む場合、溶媒の含有量は、組成物の全質量に対して、10~99.9質量%が好ましく、60~99.5質量%がより好ましく、80~99質量%が更に好ましい。
【0050】
<その他の成分>
組成物は上述した以外のその他の成分を含んでもよく、例えば、触媒、界面活性剤、老化防止剤、塗膜調整剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料、充填剤、及び、内部離型剤などの種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0051】
<組成物の製造方法>
組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した成分を一括で混合してもよいし、分割して段階的に各成分を混合してもよい。
中でも、組成物の製造方法は、第1化合物を含む溶液に、第2化合物を配合することを含むことが好ましい。
第1化合物を含む溶液に第2化合物を配合する方法に制限はなく、これらの成分が混合されればよい。例えば、第1化合物を含む溶液に対して第2化合物又は第2化合物を含む溶液を添加することで配合をしてもよく、第2化合物又は第2化合物を含む溶液に対して第1化合物を含む溶液を添加することで配合をしてもよい。
組成物の溶媒の含有量を調整する点から、第1化合物を含む溶液、及び/又は、第2化合物を含む溶液に必要量の溶媒を配合しておいてもよい。また、第1化合物を含む溶液に、第2化合物を配合して得られた溶液に、更に溶媒を添加して、最終的な組成物中の溶媒の含有量を調整してもよい。
また、組成物が塩を含む場合、塩は、第1化合物を含む溶液に配合しておいてもよいし、第2化合物を含む溶液に配合しておいてもよいし、第1化合物を含む溶液に第2化合物を配合して得られた溶液に更に塩を添加してもよい。
【0052】
<光学素子>
上記組成物は、光学素子の製造に使用できる。
基材と、基材上に配置された、上述の組成物により形成された塗膜と、を有する光学素子は、セルフクリーニング性に優れる塗膜を有しており、セルフクリーニング性に優れる光学素子として有用に使用できる。
光学素子としては、例えば、眼鏡レンズ等のレンズが挙げられる。
【0053】
(塗膜)
上記塗膜は、上述の組成物を用いて形成される膜である。塗膜の厚さは、1~1000μmが好ましい。
【0054】
(基材)
基材は、光学基材を用いても良い。光学基材としてはレンズ基材(レンズの作製に用いられる基材)が好ましく、眼鏡レンズ基材がより好ましく、プラスチック眼鏡レンズ基材(構成材料がプラスチックである眼鏡レンズ基材)が更に好ましい。
基材の構成材料としては、例えば、プラスチック(樹脂)、及び、ガラスが挙げられる。プラスチック(いわゆる、樹脂)の種類は特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、チオウレタン樹脂、アリル樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート、ウレタン樹脂、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエ-テルサルホン、ポリ4-メチルペンテン-1、及び、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)が挙げられる。プラスチックは、ブルーイング剤、光安定剤、及び、酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0055】
基材の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の点から、1~30mm程度の場合が多い。
プラスチックである上記構成材料の屈折率は特に制限されないが、1.50以上の場合が多く、1.60~1.80が好ましく、1.60~1.74がより好ましい。
【0056】
基材は、上述の構成材料の表面上に、1以上の機能層を有していてもよい。
機能層としては、例えば、プライマー層、ハードコート層、及び、反射防止層が挙げられる。
【0057】
プライマー層は、層(塗膜を含む)同士の密着性を向上させる層である。
プライマー層を構成する材料は特に制限されず、公知の材料を使用でき、例えば、主に樹脂が使用される。使用される樹脂の種類は特に制限されず、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、及び、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0058】
プライマー層の形成方法は特に制限されず、公知の方法を採用でき、例えば、所定の樹脂を含むプライマー層形成用組成物を構成材料上に塗布して、必要に応じて硬化処理を施して、プライマー層を形成する方法が挙げられる。
プライマー層の厚さは特に制限されず、例えば、0.3~2μmである。
【0059】
ハードコート層は、プラスチックレンズに耐傷性を付与する層である。なお、本明細書において、ハードコート層とは、JIS K5600において定められた試験法による鉛筆硬度で、「H」以上の硬度を示すものとして定義される。
ハードコート層としては、公知のハードコート層を用いることができ、例えば、有機系ハードコート層、無機系ハードコート層、および、有機-無機ハイブリッドハードコート層などが挙げられる。
【0060】
反射防止層は、入射した光の反射を防止する機能を有する層である。なお、本明細書において、反射防止層とは、380~780nmの可視光領域において、反射率が5%以下程度に低減された反射特性を示す層として定義される。
反射防止層の構造は特に制限されず、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
多層構造の場合、一例として、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造が挙げられる。なお、高屈折率層を構成する材料としては、例えば、チタン、ジルコン、アルミニウム、タンタル、及び、ランタンの酸化物が挙げられる。また、低屈折率層を構成する材料としては、例えば、シリカが挙げられる。
【0061】
図1は、光学素子の一実施形態としての眼鏡レンズの断面図である。
図1に示す眼鏡レンズ10は、プラスチック眼鏡レンズ基材12と、プラスチック眼鏡レンズ基材12の両面上に配置された塗膜14とを含む。塗膜14は、上述した組成物を用いて作製(形成)された層である。
なお、
図1においては、プラスチック眼鏡レンズ基材12の両面に塗膜14が配置されているが、プラスチック眼鏡レンズ基材12の片面のみに塗膜14が配置されていてもよい。
【0062】
<光学素子の製造方法>
光学素子の製造方法に制限はなく、例えば、基材上に、上述の組成物を塗布して塗膜を形成することを含む方法が挙げられる。
上記塗膜は、基材上に塗布された組成物からなる組成物層を硬化して形成することが好ましい。
【0063】
組成物を基材上に塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、ディッピングコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェットコーティング法、及び、フローコーティング法)が挙げられる。
例えば、ディッピングコーティング法を用いる場合、組成物に基材を浸漬し、その後、基材を引き上げて乾燥することにより、基材上に所定の膜厚の組成物層を形成できる。
基材上に形成される組成物層の膜厚は特に制限されず、所定の塗膜の膜厚となるような膜厚が適宜選択される。
組成物が塗布される基材は、上述の構成材料の表面上に1以上の機能層(ハードコート層、プライマー層、及び/又は、反射防止層等)が事前に形成されていてもよい。
組成物を基材上に塗布する前に、基材は洗浄及び/又は表面処理等が施されていてもよい。
【0064】
組成物層を硬化させる方法に制限はなく、例えば、組成物層に乾燥処理を施し、次いで硬化処理を施すことができる。
乾燥処理において、処理温度は30~80℃が好ましく、処理時間は5~60分間が好ましい。
硬化処理において、処理温度は30~80℃が好ましく、処理時間は20~200分間が好ましい。硬化処理は、高湿環境下で実施することも好ましく、40~95%RHの環境下で実施することも好ましい。
乾燥処理と硬化処理とは、一連一体の処理として同時に実施してもよい。
組成物層を硬化させた後、形成された塗膜の表面上を洗浄しても良い。これにより、表面上に残存し得る未硬化の組成物を塗膜の表面から除去できる。洗浄には、水等の溶媒を使用できる。
【実施例0065】
以下、組成物に関して実施例及び比較例により更に詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0066】
実施例又は比較例の組成物の調製において使用した原料を説明する。
・第1化合物含有溶液:LAMBIC 771W(大阪有機化学工業社製、スルホベタイン構造を有するモノマーの重合体であって、かつ、ヒドロキシシリル基(式(1)で表される基に該当)を有する重合体を含む水溶液、固形分含有量10質量%)
・第2化合物含有溶液:3-(トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホナート,一ナトリウム塩水溶液(シグマ・アルドリッチ社製、固形分含有量50質量%)
【0067】
<実施例1>
第1化合物含有溶液に対して、第2化合物含有溶液、及び、水(脱イオン水)を、所定量で混合し、組成物1を得た。
組成物1は、第1化合物含有液に由来する固形分を組成物の全質量に対して1.97質量%含み、第2化合物含有液に由来する固形分を組成物の全質量に対して0.66質量%含む。
【0068】
得られた組成物を用いて、オゾン洗浄機(アイグラフィックス社製OC2506、処理時間3分間)でクリーニングした反射防止層付レンズ(ニコン・エシロール社製、商品名ECC、からトップコート層を除した(最初から付けていない)レンズ)を浸漬し、引き上げ速度4mm/secでディップコートした。
続いて上記レンズを50℃恒温槽で20分間加熱乾燥し、更に、50℃、80%RHの恒温恒湿槽で60分間加熱乾燥させた。最後に上記レンズを水道水の流水下で、表面のぬめり(基材と反応しなかったコーティング成分)が低減するまで洗浄し、実施例1のレンズ(光学素子)を得た。
【0069】
<実施例2>
第1化合物含有溶液に対して、第2化合物含有溶液、水(脱イオン水)、及び、更に添加する塩化ナトリウムを、所定量で混合し、組成物2を得た。
組成物2は、第1化合物含有液に由来する固形分を組成物の全質量に対して1.02質量%含み、第2化合物含有液に由来する固形分を組成物の全質量に対して1.04質量%含み、更に添加する塩化ナトリウムを組成物の全質量に対して0.15質量%含む。
組成物1に代えて組成物2を使用した以外は同様にして、実施例2のレンズを得た。
【0070】
<比較例1>
第1化合物含有溶液に対して、水(脱イオン水)を、所定量で混合し、組成物C1を得た。
組成物C1は、第1化合物含有液に由来する固形分を組成物の全質量に対して2.00質量%含む。
組成物1に代えて組成物C1を使用した以外は同様にして、比較例1のレンズを得た。
【0071】
<比較例2>
第2化合物含有溶液と水(脱イオン水)とを、所定量で混合し、組成物C2を得た。
組成物C2は、第2化合物含有液に由来する固形分を組成物の全質量に対して2.00質量%含む。
組成物1に代えて組成物C2を使用した以外は同様にして、比較例2のレンズを得た
【0072】
<評価>
以下に示す方法で、実施例又は比較例のレンズの評価をした。
【0073】
(膜厚のムラ)
レンズの表面上に存在する塗膜(組成物を用いて形成された塗膜)の膜厚のムラを、干渉色の違いを利用して、目視により評価した。
膜厚のムラが見られなければAとし、ムラが見られた場合はBとした。
【0074】
(防曇性)
レンズを70℃の温水上にレンズを3秒間さらしてから、レンズの表面上に存在する塗膜の状態を観察し、塗膜の防曇性を評価した。
塗膜上に水膜を形成して曇らないものをAとし、塗膜が曇るものをBとした。
【0075】
(セルフクリーニング性)
レンズの表面上に存在する塗膜にゼブラ社製ハイマッキーでペイントした。その後、上記レンズを水道水中に静置して、ペイントが浮き上がるまでの時間を評価した。
30秒以内にペイントが浮き上がるものをAとし、30秒以内にペイントが浮き上がらないものをBとした。
【0076】
評価の結果を下記表に示す。
表中、「第1化合物含有液:第2化合物含有液」欄は、各実施例又は比較例で使用した組成物中における、第1化合物含有液に由来する固形分と、第2化合物含有液に由来する固形分との質量比を示す。
【0077】
【0078】
表1に示すように、所定の成分を含む組成物を用いることにより、セルフクリーニング性に優れるレンズを得られることが確認された。
また、上記レンズは、膜厚のムラが抑制され、防曇性も良好であった。
第1化合物と第2化合物が併存することで、第1化合物の凝集が低減され、膜厚のムラが低減されてと考えられる(実施例1、2と比較例1との比較を参照)。
また、第1化合物と第2化合物が併存することで、第1化合物の分子の運動性も向上し、セルフクリーニング性の向上が実現したと考えられる(実施例1、2と比較例1との比較を参照)。