IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

<>
  • 特開-リチウム二次電池 図1
  • 特開-リチウム二次電池 図2
  • 特開-リチウム二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092896
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220616BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220616BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220616BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220616BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220616BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20220616BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220616BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20220616BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220616BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M4/80 Z
H01M4/134
H01M4/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205877
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】13-15 Quai Alphonse Le Gallo 92100 Boulogne-Billancourt,France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 和宙
(72)【発明者】
【氏名】高田 晴美
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017CC25
5H017DD05
5H017EE00
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE06
5H017HH02
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ07
5H029DJ13
5H029EJ01
5H029EJ04
5H029HJ09
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA04
5H050DA06
5H050DA13
5H050FA13
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層を有するリチウム二次電池において、充放電レート特性を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、第1のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備えるリチウム二次電池において、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆する第2のリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を負極に含ませるとともに、上記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が上記固体電解質層の空隙率よりも大きくなるように構成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、第1のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層と、
を有する発電要素を備え、
前記負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆する第2のリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含み、
前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きい、リチウム二次電池。
【請求項2】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、第1のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層と、
を有する発電要素を備え、
前記負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆する第2のリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含み、
前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きく、かつ、
前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙中に金属リチウムが保持されている、リチウム二次電池。
【請求項3】
前記導電性を有する多孔体が、金属材料または炭素材料を含む、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記導電性を有する多孔体が、ステンレス、ニッケル、カーボンブラック、ハードカーボン、メソポーラスカーボンまたは活性炭を含む、請求項3に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記負極が、リチウムと合金化しうる金属を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記第1のリチウムイオン伝導性固体電解質および前記第2のリチウムイオン伝導性固体電解質が硫化物固体電解質を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
全固体リチウム二次電池である、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池等の全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。硫黄単体(S)や硫化物系材料からなる正極活物質や、硫黄を含有する固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池は、その有望な候補である。
【0006】
ところで、リチウム二次電池においては、その充電の進行に伴って負極電位が低下する。負極電位が低下して0V(vs. Li/Li)を下回ると、負極において金属リチウムが析出してデンドライト(樹枝状)結晶が析出する(この現象を金属リチウムの電析とも称する)。金属リチウムの電析が発生すると、析出したデンドライトが電解質層を貫通することで電池の内部短絡が引き起こされるという問題がある。この内部短絡の問題は、電池のエネルギー密度の向上の観点から固体電解質層を薄膜化した場合に特に顕著に発現する。
【0007】
このような金属リチウムの電析を防止することを目的として、例えば特許文献1には、リチウムイオン伝導性無機固体電解質を含む固体電解質層を有する二次電池において、負極活物質として粒状の金属リチウムとカーボンブラックとの混合体を使用し、これらの混合比を特定の範囲に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-218005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の技術を用いて金属リチウムの電析を防止しようとすると、高い充放電レートでの充放電の際に十分な容量が取り出せない(すなわち、いわゆる充放電レート特性が十分ではない)という問題があることが判明した。このように充放電レート特性が不十分である二次電池は、急速充放電に対応して十分な容量を活用することができない。
【0010】
そこで本発明は、リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層を有するリチウム二次電池において、充放電レート特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態によれば、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備えるリチウム二次電池が提供される。そして、当該リチウム二次電池においては、前記負極が、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆するリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含み、かつ、前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きい点に特徴がある。
【0012】
本発明の他の形態もまた、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備えるリチウム二次電池に関するものである。当該形態に係るリチウム二次電池においては、前記負極が、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆するリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含み、前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きく、かつ、前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙中に金属リチウムが保持されている点に特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るリチウム二次電池においては、導電性多孔体が固体電解質で被覆されてなるリチウムイオン/電子伝導性構造体の存在により、負極におけるリチウムイオンの伝導パスおよび電子の伝導パスがともに十分に確保される。その結果、本発明によれば、リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層を有するリチウム二次電池において、充放電レート特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である扁平積層型電池の外観を表した斜視図である。
図2図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。
図3図3は、図1および図2に示す積層型電池の発電要素を構成する単電池層の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一形態(第1の形態)は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、第1のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備え、前記負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆する第2のリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含み、前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きい、リチウム二次電池である。第1の形態に係るリチウム二次電池が完全放電状態のとき、負極(具体的には、リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙)は金属リチウムを含まない。一方、第1の形態に係るリチウム二次電池が充電された状態のとき、負極は金属リチウムを含んでいる。
【0016】
本発明の他の形態(第2の形態)は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、第1のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備え、前記負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆する第2のリチウムイオン伝導性固体電解質と、を含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含み、前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きく、かつ、前記リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙中に金属リチウムが保持されている、リチウム二次電池である。つまり、第2の形態に係るリチウム二次電池は、充電された状態である。
【0017】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
図1は、本発明に係る二次電池の一実施形態である扁平積層型全固体電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でない全固体リチウム二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係る全固体電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0019】
図2に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0020】
なお、本形態に係る全固体電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型の全固体電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0021】
また、図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1および図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウム二次電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0022】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。本実施形態において、固体電解質層17は、硫化物固体電解質の1種であるアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl)を含んでいる。負極は、負極集電体11’の両面にリチウムイオン/電子伝導性構造体13が配置された構造を有する。ここで、リチウムイオン/電子伝導性構造体13は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆するリチウムイオン伝導性固体電解質とを含んでいる(リチウムイオン/電子伝導性構造体13の詳細については後述する)。なお、積層型電池10aが完全放電状態のとき、負極には金属リチウムが存在しない。一方、積層型電池10aが充電されると、リチウムイオンが正極活物質層15から固体電解質層17を経て負極のリチウムイオン/電子伝導性構造体13に到達し、当該構造体13の空隙中に金属リチウムまたはリチウム含有合金として析出する。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つのリチウムイオン/電子伝導性構造体13とこれに隣接する正極活物質層15とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、負極、固体電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する負極、固体電解質層および正極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図2に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0023】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみにリチウムイオン/電子伝導性構造体13が配置されているが、両面にリチウムイオン/電子伝導性構造体が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ当該構造体を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に当該構造体がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。
【0024】
負極集電体11’および正極集電体11”には、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。負極集電板25および正極集電板27はそれぞれ、必要に応じて負極リードおよび正極リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体11’および正極集電体11”に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0025】
図3は、図1および図2に示す積層型電池10aの発電要素21を構成する単電池層19の拡大断面図である。図3では、単電池層19を構成する負極集電体11’と、リチウムイオン/電子伝導性構造体13と、固体電解質層17と、正極活物質層15と、正極集電体11”と、がこの順に積層されている。そして、図3に示す実施形態において、リチウムイオン/電子伝導性構造体13は、導電性を有する多孔体(導電性多孔体)であるステンレス(ここでは、SUS304)製の多孔体によってその形状が規定されている。導電性多孔体(ステンレス製多孔体)の内表面は、固体電解質層17を構成するのと同じ硫化物固体電解質であるアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl)によって被覆されている。ここで、上記のような構成を有するリチウムイオン/電子伝導性構造体13の空隙率は例えば60%であり、固体電解質層の空隙率(例えば、5%)よりも大きい値となるように構成されている。また、積層型電池10aが充電された状態のとき、上記導電性多孔体(ステンレス製多孔体)の空隙中には金属リチウムが保持されている。なお、上述した導電性多孔体の空隙率の値は、空隙中に金属リチウムが保持されていない状態で測定される値である。
【0026】
好ましい実施形態において、負極はリチウムと合金化しうる金属をさらに含んでいる。具体的には、例えば、リチウムと合金化しうる金属である銀(Ag)の粒子が、導電性多孔体の内表面を被覆する固体電解質の表面上に分散した状態で付着している。このような構成によれば、積層型電池10aの充電時に負極に到達したリチウムイオンは銀(Ag)と合金化してリチウム含有合金としてリチウムイオン/電子伝導性構造体13の空隙中に保持されることになる。金属リチウムが単体で析出する場合と比較して、リチウム含有合金として析出する場合の方が析出エネルギーは小さいことから、上記のような構成とすることにより、金属リチウムをより均一に析出させることが可能となる。また、リチウムイオン/電子伝導性構造体と固体電解質層との間の界面抵抗も低下してより大きい電流密度を実現することが可能である。その結果、レート特性がよりいっそう向上しうる。なお、本明細書において、「リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙中に金属リチウムが保持されている」という概念には、金属リチウムがリチウム含有合金としてリチウムイオン/電子伝導性構造体13の空隙中に保持されている形態も包含されるものとする。
【0027】
図3に示す実施形態において、例えば積層型電池10aの充電時には、リチウムイオン/電子伝導性構造体13と固体電解質層17との界面において電析により金属リチウムからなるデンドライトが発生することがある。このデンドライトは正極活物質層15側に向かって成長する。本実施形態においてはリチウムイオン/電子伝導性構造体13を構成する導電性多孔体の空隙率が固体電解質層17の空隙率よりも大きいため、発生したデンドライトは固体電解質層17側(すなわち、正極活物質層15側)よりも導電性多孔体側に成長しやすい。したがって、図3に示す実施形態においては、固体電解質層17側(すなわち、正極活物質層15側)へのデンドライトの成長が抑制され、内部短絡の発生が防止されうる。
【0028】
また、積層型電池10aの充放電時には、各電極におけるリチウムイオンおよび電子の伝導がスムーズになされることが入出力特性の観点からは重要である。ここで、図3に示す実施形態においては、負極を構成するリチウムイオン/電子伝導性構造体13のうち、導電性多孔体(ステンレス製多孔体)が電子の伝導パスとして機能する。また、負極を構成するリチウムイオン/電子伝導性構造体13のうち、導電性多孔体の内表面を被覆している固体電解質(アルジロダイト型硫化物固体電解質)がリチウムイオンの伝導パスとして機能する。このように、本形態に係るリチウム二次電池においては、負極における電子およびリチウムイオンの伝導パスがともに十分に確保されている。その結果、本形態に係るリチウム二次電池によれば、リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層を有するリチウム二次電池において、充放電レート特性を向上させることが可能となる。
【0029】
以下、本形態に係る全固体電池の主要な構成部材について説明する。
【0030】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0031】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0032】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0033】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0034】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0035】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0036】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
【0037】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。また、本形態に係る全固体リチウム二次電池において、負極は導電性多孔体によってその形状が規定されている。したがって、場合によっては、負極集電体を別途設けることなく、導電性多孔体に負極集電体としての機能を担わせることも可能である。この場合には、導電性多孔体に直接、後述する負極リードを接続すればよい。
【0038】
[負極]
本発明に係るリチウム二次電池において、負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の内表面の少なくとも一部を被覆するリチウムイオン伝導性固体電解質とを含むリチウムイオン/電子伝導性構造体を含む点に特徴がある。また、上述したように、本発明に係るリチウム二次電池が完全放電状態のとき、負極は金属リチウムを含まない。一方、本発明に係るリチウム二次電池が充電された状態のとき、負極は金属リチウムを単体またはリチウム含有合金の形態で含んでいる。なお、負極集電体を別途用いずに導電性多孔体自体に負極集電体としての機能を担わせる場合には、リチウムイオン/電子伝導性構造体がそのまま負極となる。
【0039】
(導電性を有する多孔体)
導電性を有する多孔体(導電性多孔体)は、多孔質構造(多数の空隙)を内部に有し、導電性を有する部材である。導電性多孔体を構成する材料は、導電性を有する材料であればよく、集電体の構成材料として上述した材料が同様に採用されうる。なかでも、安価に入手が容易で本発明の作用効果に優れるという観点から、導電性多孔体は金属材料または炭素材料を含むことが好ましい。ここで、金属材料としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス(SUS304、SUS316L等)、チタン、および銅などが挙げられる。また、炭素材料としては、ハードカーボン、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、フラーレン、メソポーラスカーボンまたは活性炭などが挙げられる。なかでも、導電性多孔体はステンレス、ニッケル、カーボンブラック、ハードカーボン、メソポーラスカーボンまたは活性炭を含むことがより好ましい。
【0040】
導電性多孔体の形状について特に制限はないが、例えば金属材料から構成されるのであれば、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタル、発泡体などの形状が好ましく例示される。また、金属材料または炭素材料の粉末を圧粉成形などの方法によって成形してなる成形体を導電性多孔体として用いてもよい。
【0041】
上述したように、導電性多孔体は多孔質構造(多数の空隙)を内部に有するが、その空隙率の値は、固体電解質層の空隙率よりも大きければ特に制限されない。導電性多孔体の空隙率は、好ましくは5~95%であり、より好ましくは30~90%であり、さらに好ましくは50~70%である。なお、導電性多孔体の空隙率の値は、従来公知の手法を適宜採用することによって制御することが可能である。
【0042】
導電性多孔体の厚みについても特に制限はないが、好ましくは20~300μmであり、より好ましくは30~250μmであり、さらに好ましくは50~200μmである。
【0043】
(リチウムイオン伝導性固体電解質)
リチウムイオン伝導性固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、リチウムイオン伝導性および耐久性に優れるという観点から、硫化物固体電解質であることが好ましい。なお、本明細書においては、固体電解質層17に含まれるリチウムイオン伝導性固体電解質を「第1のリチウムイオン伝導性固体電解質」とも称し、リチウムイオン/電子伝導性構造体を構成するリチウムイオン伝導性固体電解質を「第2のリチウムイオン伝導性固体電解質」とも称することがある。これらの呼称は固体電解質が配置されている部位を区別することのみを目的としたものであり、第1および第2という序数自体に実質的な意味はない。すなわち、本発明においては、第1のリチウムイオン伝導性固体電解質および第2のリチウムイオン伝導性固体電解質の双方が硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0044】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P(LPS)、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPS4、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0045】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、活物質層に含まれる硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。イオン伝導性に優れるという観点からは、好ましい一実施形態において、リチウムイオン伝導性固体電解質は、LiS-P、Li11、Li3.20.96S、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP12およびLiPSX(Xは、Cl、BrまたはIである)からなる群から選択される硫化物固体電解質を含む。
【0046】
なお、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
【0047】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、リチウムイオン伝導性固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0048】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0049】
リチウムイオン伝導性固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0050】
本発明に係るリチウム二次電池において、負極を構成するリチウムイオン/電子伝導性構造体は、導電性多孔体の内表面がリチウムイオン伝導性固体電解質によって被覆されている構成を有している。ここで、導電性多孔体の内表面におけるリチウムイオン伝導性固体電解質の被覆厚さについて特に制限はないが、好ましくは1~100μm程度であり、より好ましくは10~80μmである。
【0051】
本発明に係るリチウム二次電池の好ましい実施形態において、負極は、リチウムと合金化しうる金属を含む。リチウムと合金化しうる元素としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、インジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金、カドミウム、ガリウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できるという観点から、リチウムと合金化しうる材料は、銀、ケイ素、金、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウムおよび亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、銀、ケイ素、金またはインジウムを含むことがより好ましい。これらのリチウムと合金化しうる金属は、それ自体からなる導電性多孔体の形態で用いられてもよいし、リチウムと合金化しない材料からなる導電性多孔体の表面に形成されたコーティングの形態で用いられてもよい。この際、リチウムと合金化しうる金属は、固体電解質が導電性多孔体の内表面を被覆することによって形成された被覆層の上に露出するように存在してもよいし、当該導電性多孔体と当該被覆層との間に存在してもよいが、前者の形態がより好ましい。
【0052】
上記のような構成によれば、リチウム二次電池の充電時に負極に到達したリチウムイオンは、リチウムと合金化しうる金属と合金化する。そして、リチウム含有合金としてリチウムイオン/電子伝導性構造体13の空隙中に保持されることになる。金属リチウムが単体で析出する場合と比較して、リチウム含有合金として析出する場合の方が析出エネルギーは小さいことから、上記のような構成とすることにより、金属リチウムをより均一に析出させることが可能となる。また、リチウムイオン/電子伝導性構造体と固体電解質層との間の界面抵抗も低下してより大きい電流密度を実現することが可能である。その結果、レート特性をよりいっそう向上させることができる。
【0053】
[固体電解質層]
本形態に係るリチウム二次電池において、固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極と負極との間に介在する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。ここで、固体電解質の具体的な形態や好ましい例については上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0055】
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0056】
固体電解質層の空隙率の値は、負極を構成するリチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙率よりも小さければ特に制限されない。固体電解質層の空隙率は、理想的には0%に近いほど好ましい。一方、固体電解質層の空隙率の上限値は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。なお、固体電解質層の空隙率の値は、従来公知の手法を適宜採用することによって制御することが可能である。一例として、固体電解質の粉末を圧粉成形することによって固体電解質層を作製する場合には、当該圧粉成形の際に印加される圧力を調節することによって固体電解質層の空隙率を制御することができる。また、固体電解質をアモルファス(非晶質)化したり、有機固体電解質とのハイブリッドの形態としたりすることで、固体電解質の緻密度が向上し、結果的として空隙率を低下させることができる。ここで、固体電解質層は、組成や密度(空隙率)などが均一な単層から構成されていてもよいし、組成や密度(空隙率)などが異なる複数の層の積層体であってもよい。
【0057】
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1~500μmの範囲内であることがより好ましい。
【0058】
[正極]
正極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む。ここで、電池の作製時に完全放電状態の電池が作製される場合、負極には金属リチウムが保持されていない。このため、正極は充電時にリチウムイオンを放出可能な正極活物質を含んでいる必要がある。このような正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質、LiTi12等が挙げられる。また、硫黄(S)の還元生成物(例えば、流加リチウム(Li))が正極活物質として用いられてもよい。
【0059】
一方、電池の作製時に完全充電状態の電池が作製される場合、負極には金属リチウムが保持されている(例えば、リチウムイオン/電子伝導性構造体の空隙中に金属リチウムが充填されている)。このため、正極は放電時にリチウムイオンを吸蔵可能な正極活物質を含んでいる必要がある。このような正極活物質としては、例えば、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられる。これらの正極活物質は、硫黄の酸化還元反応を利用して、放電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時にリチウムイオンを放出することができる。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS4、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS4、FeSおよびMoSが好ましく、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiSおよびFeSがより好ましく、硫黄単体(S)が特に好ましい。ここで、S-カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
【0060】
なお、場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0061】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0062】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、正極活物質層は、導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよい。
【0063】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0064】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11’、11”)と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウム二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0065】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0066】
本発明に係るリチウム二次電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性および充放電レート特性に優れるものである。したがって、本発明に係るリチウム二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0067】
以上、全固体電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0068】
例えば、本形態に係るリチウム二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。
【0069】
用いられうる液体電解質(電解液)は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。中でも、有機溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、好ましくは鎖状カーボネートであり、より好ましくはジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)から選択される。
【0070】
リチウム塩としては、Li(FSON(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。中でも、リチウム塩は、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、好ましくはLi(FSON(LiFSI)である。
【0071】
液体電解質(電解液)は、上述した成分以外の添加剤をさらに含有してもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0072】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0073】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0074】
[車両]
本発明に係るリチウム二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性および充放電レート特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0075】
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0077】
《試験用セルの作製例》
[実施例1-1]
(負極の作製)
リチウムイオン伝導性固体電解質であるアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl)の所定量を秤量した。次いで、これを適量の脱水エタノール中に分散させて、溶液Aを調製した。
【0078】
一方、導電性を有する多孔体として、ステンレス(SUS304)製のメッシュを準備し、これを溶液Aに十分な時間浸漬した。次いで、これを溶液Aから取り出し、150℃の恒温槽の内部で十分な時間乾燥して、電解質被覆ステンレスメッシュ(リチウムイオン/電子伝導性構造体)からなる負極を作製した。
【0079】
(試験用セルの作製)
正極活物質として、LiNi0.8Mn0.1Co0.1の均一組成を有し、一次粒子の凝集体である二次粒子の形態を有するリチウム含有複合酸化物を準備した。なお、このリチウム含有複合酸化物(二次粒子)の平均粒子径(D50)をレーザー回折散乱法により測定したところ、11.5μmであった。また、正極合剤用固体電解質として、上記と同様のアルジロダイト型硫化物固体電解質を準備した。さらに、正極合剤用導電助剤としてアセチレンブラックを準備した。
【0080】
上記で準備した正極活物質60質量部、導電助剤6質量部、およびアルジロダイト型硫化物固体電解質34質量部をそれぞれ秤量し、テーブルミルを用いて混合して、正極合剤を調製した。
【0081】
続いて、上記と同様のアルジロダイト型硫化物固体電解質を治具(マコール管)に入れ、400[MPa]の成形圧で圧粉成形することにより、固体電解質層(直径10mmおよび厚み600μmの円板形状)を作製した。
【0082】
次いで、上記で作製した固体電解質層の一方の面に、上記で調製した正極合剤を入れ、200[MPa]の成形圧で圧粉成形することにより、正極活物質層(直径10mmおよび厚み70μmの円板形状)を作製した。
【0083】
その後、上記で作製した(リチウムイオン/電子伝導性構造体)を、上記で作製した固体電解質層の他方の面に配置した。次いで、100[MPa]の拘束圧力で治具を締結した後、各電極に電流取り出しのためのリードを接続して、本実施例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0084】
[実施例1-2]
リチウムと合金化しうる金属として、銀(Ag)粉末の所定量を秤量した。次いで、これを適量の脱水エタノール中に分散させて、溶液Bを調製した。そして、試験用セルの作製前に、電解質被覆ステンレスメッシュ(リチウムイオン/電子伝導性構造体)からなる負極に対して溶液Bを均一に噴霧し、自然乾燥させた。
【0085】
上記の処理を施した負極を用いたこと以外は、上述した実施例1-1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0086】
[比較例1-1]
上述した実施例1-1において、試験用セルの負極を配置する際に、上記で作製した負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)に代えて、固体電解質で被覆されていないステンレス製メッシュと、アルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl)7mgとを単に同時に封入し、上記と同様の条件で拘束圧力を印加した。このこと以外は、上述した実施例1-1と同様の手法により、本比較例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0087】
[比較例1-2]
上述した比較例1-1において、試験用セルの負極を配置する際に、固体電解質で被覆されていないステンレス製メッシュのみを配置して固体電解質を同時に封入しなかったこと以外は、上述した比較例1-1と同様の手法により、本比較例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0088】
[実施例2-1]
導電性多孔体の構成材料として、炭素材料であるケッチェンブラック(登録商標)(ケッチェンブラック・インターナショナル社製)EC300を準備した。次いで、この炭素材料を上記で調製した溶液Aに十分な時間浸漬した。その後、これを溶液Aから取り出し、150℃の恒温槽の内部で十分な時間乾燥して、電解質被覆炭素材料を作製した。
【0089】
続いて、上述した実施例1-1と同様の手法により、固体電解質層と正極活物質層との積層体を作製した。
【0090】
次いで、上記で作製した固体電解質層の他方の面に、上記で調製した電解質被覆炭素材料を入れ、100[MPa]の成形圧で圧粉成形することにより、負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)(直径10mmおよび厚み70μmの円板形状)を作製した。その後、各電極に電流取り出しのためのリードを接続して、本実施例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0091】
[実施例2-2]
試験用セルの作製前に、上記で調製した溶液Bを電解質被覆炭素材料に対して均一に噴霧し、自然乾燥させた。
【0092】
上記の処理を施した電解質被覆炭素材料を用いて負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)を作製したこと以外は、上述した実施例2-1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0093】
[比較例2]
上述した実施例2-1において、電解質被覆炭素材料に代えて、炭素材料(ケッチェンブラックEC300)1mgとアルジロダイト型硫化物固体電解質5.6mgとをロールミルで混合して得られた混合物を用いて負極を作製した。このこと以外は、上述した実施例2-1と同様の手法により、本比較例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0094】
[実施例3-1]
ケッチェンブラック(登録商標)に代えて、別の炭素材料であるハードカーボンを導電性多孔体の構成材料として用いたこと以外は、上述した実施例2-1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0095】
[実施例3-2]
試験用セルの作製前に、上記で調製した溶液Bを電解質被覆炭素材料に対して均一に噴霧し、自然乾燥させた。
【0096】
上記の処理を施した電解質被覆炭素材料を用いて負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)を作製したこと以外は、上述した実施例3-1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極(リチウムイオン/電子伝導性構造体)の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0097】
[比較例3]
上述した実施例3-1において、電解質被覆炭素材料に代えて、炭素材料(ハードカーボン)1mgとアルジロダイト型硫化物固体電解質5.6mgとをロールミルで混合して得られた混合物を用いて負極を作製した。このこと以外は、上述した実施例3-1と同様の手法により、本比較例の試験用セルを作製した。なお、このようにして作製された試験用セルにおける固体電解質層および負極の空隙率は、それぞれ5%および60%であった。
【0098】
《試験用セルの試験例(充放電レート特性の評価)》
上述した実施例および比較例において作製された試験用セルについて、充放電レート特性を評価した。
【0099】
充放電試験は、Liに対して4.3V/2.5Vの電圧範囲において、定電流・低電圧(CCCV)モードでの充電および定電流(CC)モードでの放電を、それぞれ0.2C(低レート条件)およびそれぞれ2C(高レート条件)のレート条件で行った。なお、評価温度は298K(25℃)とし、充電と放電との間は30分間休止した。なお、「1C」とは、その電流値で1時間充電するとちょうどその電池が満充電(100%充電)状態になる電流値のことである。
【0100】
このようにして測定された0.2Cおよび2Cでの放電容量から、放電容量維持率(=2C放電容量/0.2C放電容量×100)を算出し、充放電レート特性の指標とした(この値が大きいほど充放電レート特性に優れることを意味する)。結果を下記の表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示す結果から、導電性多孔体の構成材料が同一である実施例および比較例同士を比較すると、本発明の構成を備えることで充放電レート特性が格段に向上しうることがわかる。また、負極がリチウムと合金化しうる金属(Ag)を含むことで、充放電レート特性がよりいっそう向上することもわかる。
【符号の説明】
【0103】
10a 積層型電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 リチウムイオン/電子伝導性構造体、
15 正極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板(負極タブ)、
27 正極集電板(正極タブ)、
29 ラミネートフィルム。
図1
図2
図3