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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092911
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】歯付円筒体形成方法
(51)【国際特許分類】
   B21H 5/02 20060101AFI20220616BHJP
   B21D 22/16 20060101ALI20220616BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20220616BHJP
   B21H 5/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B21H5/02
B21D22/16 B
B21D22/26 C
B21H5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205900
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】399131563
【氏名又は名称】株式会社カネミツ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(74)【代理人】
【識別番号】100142376
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直樹
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137BB01
4E137CA06
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA18
4E137GA02
4E137GB20
(57)【要約】
【課題】 加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【解決手段】 歯付円筒体形成方法は、円筒体形成工程S300と、歯形成工程S302とを備える。円筒体形成工程S300において、歯形成区間と小外径区間と段差区間112とに分かれるように円筒体が形成される。歯形成工程S302において、段差区間が支えられ円筒体のうち段差区間よりも円筒体の他端側の部分が宙に浮いた状態で歯形成区間が型に押付けられる。これにより、歯形成区間に歯車の歯が形成される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体が形成されるように金属板が塑性加工を受ける円筒体形成工程と、
前記円筒体の一端に配置される区間である歯形成区間に対し塑性加工により歯車の歯が形成される歯形成工程とを備える歯付円筒体形成方法であって、
前記円筒体形成工程において、前記歯形成区間、前記歯形成区間よりも前記円筒体の他端側に配置され前記歯形成区間よりも外径が小さい小外径区間、および、前記歯形成区間と前記小外径区間との間に配置され前記歯形成区間と前記小外径区間との間の段差となる段差区間に分かれるように前記円筒体が形成され、
前記歯形成工程において、前記段差区間が支えられ前記円筒体のうち前記段差区間よりも前記円筒体の他端側の部分が宙に浮いた状態で前記歯形成区間が塑性加工を受けることを特徴とする歯付円筒体形成方法。
【請求項2】
前記円筒体形成工程が、
前記金属板に対する塑性加工により円筒状の素形材が形成される素形材形成工程と、
前記素形材の一端側の外径に比べて前記素形材の他端側の外径が縮小するように前記素形材の他端が塑性加工を受けることで前記小外径区間が形成される小外径区間形成工程と、
前記段差区間が形成される段差形成工程とを有しており、
前記段差形成工程において、段差面形成ローラが前記歯形成区間と前記小外径区間との間を押し均すことにより前記段差面形成ローラが前記段差区間に段差面を形成することを特徴とする請求項1に記載の歯付円筒体形成方法。
【請求項3】
前記段差面形成ローラが、前記素形材の前記他端から前記素形材の前記一端へ向かう方向に沿う軸を自転軸として自転自在であり、
前記段差形成工程において、前記段差面形成ローラの自転軸に沿う軸を中心に前記素形材が自転することを特徴とする請求項2に記載の歯付円筒体形成方法。
【請求項4】
前記小外径区間形成工程において、前記段差面形成ローラが前記素形材の前記他端の外周に押付けられながら前記素形材の他端から前記素形材の一端へ向かう方向へ移動し、かつ、前記段差面形成ローラの自転軸に沿う軸を中心に前記素形材が自転することにより、前記素形材の前記他端が塑性加工を受けることを特徴とする請求項3に記載の歯付円筒体形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付円筒体形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内歯車の成形方法を開示する。その内歯車の成形方法は、外周面に歯形を有するマンドレルに素材を取り付け、その素材に絞りローラを押圧することによってマンドレルに押付け、円筒形の内歯車を形成する内歯車の成形方法である。その内歯車の成形方法においては、素材に当接する円弧部分を2箇所に有し、素材に対して先に当接する円弧部分の外径よりも、後に当接する円弧部分の外径を大きくした絞りローラが用いられる。その絞りローラをマンドレルの軸芯と平行方向に移動させることによって円筒形の内歯車が成形される。特許文献1に開示された内歯車の成形方法によれば、薄肉の素材を塑性加工によって行う内歯車の成形であっても、欠肉が生じることなくサイクルタイムを短くできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-050905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明には、加工の途中で素材に亀裂が生じやすいという問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる歯付円筒体形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述された目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、歯付円筒体形成方法は、円筒体形成工程S300と、歯形成工程S302とを備える。円筒体形成工程S300において、円筒体12が形成されるように金属板が塑性加工を受ける。歯形成工程S302において、歯形成区間30に歯車の歯が形成される。歯形成区間30は、円筒体12の一端に配置される区間である。歯車の歯は、塑性加工により形成される。円筒体形成工程S300において、歯形成区間30、小外径区間110、および、段差区間112に分かれるように円筒体12が形成される。小外径区間110は、歯形成区間30よりも円筒体12の他端側に配置される。小外径区間110は、歯形成区間30よりも外径が小さい。段差区間112は、歯形成区間30と小外径区間110との間に配置される。段差区間112は、歯形成区間30と小外径区間110との間の段差となる。歯形成工程S302において、段差区間112が支えられ円筒体12のうち段差区間112よりも円筒体12の他端側の部分が宙に浮いた状態で歯形成区間30が塑性加工を受ける。
【0007】
歯形成工程S302において歯形成区間30が塑性加工を受ける際、段差区間112が支えられ段差区間112よりも円筒体12の他端側の部分が宙に浮いた状態である。段差区間112よりも円筒体12の他端側の部分が宙に浮いた状態なので、段差区間112よりも円筒体12の他端側の部分に塑性変形が生じる可能性が低くなる。その塑性変形は、歯形成区間30が塑性加工を受けることに伴って生じる内部応力と円筒体12の他端側の部分の動きが拘束されることとに起因するものである。その塑性変形が生じる可能性が低くなるので、その塑性変形に起因する亀裂が生じる可能性が低くなる。その結果、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【0008】
また、上述された円筒体形成工程S300が、素形材形成工程S320と、小外径区間形成工程S322と、段差形成工程S324とを有していることが望ましい。素形材形成工程S320において、金属板に対する塑性加工により円筒状の素形材10が形成される。小外径区間形成工程S322において、素形材10の一端側の外径に比べて素形材10の他端側の外径が縮小するように素形材10の他端が塑性加工を受ける。これにより小外径区間110が形成される。段差形成工程S324において、段差区間112が形成される。この場合、段差形成工程S324において、段差面形成ローラ74が歯形成区間30と小外径区間110との間を押し均すことにより段差面形成ローラ74が段差区間112に段差面を形成することが望ましい。
【0009】
段差形成工程S324において、段差面形成ローラ74が歯形成区間30と小外径区間110との間を押し均す。これにより段差面形成ローラ74が段差区間112に段差面を形成する。押し均すことにより段差区間112に段差面が形成されると、歯形成工程S302においてその段差面を支えることが可能になる。押し均すことにより形成された段差面が支えられると、押し均されなかったことで歯形成区間30と小外径区間110との間に残った凹凸の一部において段差区間112が支えられる場合に比べて、円筒体12の一部に大きな力がかかる可能性が低くなる。その可能性が低くなると、そのことに起因して段差区間112およびこれよりも円筒体12の他端側の部分に塑性変形が生じる可能性が低くなる。その塑性変形が生じる可能性が低くなるので、その塑性変形に起因する亀裂が生じる可能性が低くなる。その結果、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【0010】
もしくは、段差面形成ローラ74が素形材10の他端から素形材10の一端へ向かう方向に沿う軸を自転軸として自転自在であることが望ましい。この場合、段差形成工程S324において、段差面形成ローラ74の自転軸に沿う軸を中心に素形材10が自転することが望ましい。
【0011】
段差面形成ローラ74の自転軸に沿う軸を中心に素形材10が自転すると、次に述べられる場合に比べて、段差面形成ローラ74が歯形成区間30と小外径区間110との間を押し均す際にそれらの間を転がり易くなる。その場合とは、素形材10の自転軸が段差面形成ローラ74の自転軸に沿っていない場合である。段差面形成ローラ74が転がり易くなると、段差面形成ローラ74がそれらの間を押し均す際にそれらの間を滑る場合に比べて、段差面形成ローラ74がそれらの間へ摩擦力を加え難くなる。摩擦力が加えられ難くなると、摩擦熱によってそれらの間の表面が悪影響を受ける可能性が低くなる。
【0012】
もしくは、上述された小外径区間形成工程S322において、次に述べられることにより、素形材10の他端が塑性加工を受けることが望ましい。それは、段差面形成ローラ74が素形材10の他端の外周に押付けられながら素形材10の他端から素形材10の一端へ向かう方向へ移動し、かつ、段差面形成ローラ74の自転軸に沿う軸を中心に素形材10が自転することである。
【0013】
段差面形成ローラ74が素形材10の他端の外周に押付けられながら素形材10の他端から素形材10の一端へ向かう方向へ移動する。段差面形成ローラ74が素形材10の他端から素形材10の一端へ向かう方向に沿う軸を自転軸として自転自在である。段差面形成ローラ74の自転軸に沿う軸を中心に素形材10が自転する。これにより、素形材10の他端は段差面形成ローラ74によって螺旋状に押し拡げられることとなる。これにより、素形材10の他端から一端へ向かって直線状に押し拡げられる場合に比べて、押し拡げられる各箇所間の塑性変形の程度差は小さくなる。その程度差が小さくなるので、その程度差に起因する歪が素形材10に生じる可能性が低くなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が示されるフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態にかかる素形材の外観が示される概念図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる外径縮小加工装置の構成が示される概念図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる小外径区間形成工程を実施中の外径縮小加工装置が示される概念図である。
図5】本発明の一実施形態において段差面形成ローラが外径縮小予定区間の端付近まで移動した状況が示される概念図である。
図6】本発明の一実施形態にかかる円筒体の外観が示される概念図である。
図7】本発明の一実施形態にかかる歯形成装置の構成が示される概念図である。
図8】本発明の一実施形態において歯形成工程を実施中の歯形成装置が示される概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面が参照されつつ、本発明の実施形態が説明される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能は同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返されない。
【0017】
[歯付円筒体形成方法の工程]
図1は、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が示されるフローチャートである。図1に基づいて、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が説明される。
【0018】
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法は、円筒体形成工程S300と、歯形成工程S302とを備える。
【0019】
円筒体形成工程S300において、円筒体12が形成されるように金属板が塑性加工される。本実施形態の場合、円筒体形成工程S300が、素形材形成工程S320と、小外径区間形成工程S322と、段差形成工程S324とを有している。素形材形成工程S320において、金属板に対する塑性加工により円筒状の素形材10が形成される。小外径区間形成工程S322において、素形材10の一端側の外径に比べて素形材10の他端側の外径が縮小するように素形材10の他端が塑性加工を受ける。段差形成工程S324において、段差面形成ローラ74が素形材10のうち後述される区間を押し均す。
【0020】
歯形成工程S302において、塑性加工により歯車の歯が形成される。本実施形態の場合、歯車の歯が形成されるのは、素形材10の一端である。
【0021】
[歯付円筒体形成方法が実施されている際の各工程における動作の説明]
図2は、本実施形態にかかる素形材10の外観が示される図である。図3は、本実施形態にかかる外径縮小加工装置50の構成が示される概念図である。図4は、小外径区間形成工程S322を実施中の外径縮小加工装置50が示される概念図である。図5は、段差面形成ローラ74が外径縮小予定区間32の端付近まで移動した状況が示される概念図である。図6は、本実施形態にかかる円筒体12の外観が示される概念図である。図7は、本実施形態にかかる歯形成装置の構成が示される概念図である。図8は、歯形成工程S302を実施中の歯形成装置が示される概念図である。図1乃至図8に基づいて、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法が実施される際の各工程の具体的内容が説明される。
【0022】
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法を実施する者(以下「実施者」と称される)は、金属板に対する塑性加工により円筒状の素形材10を形成する(S320)。図2に示されるように、本実施形態にかかる素形材10は、開口形成部20と胴部22と底部24とを有する。開口形成部20は、胴部22の一端に配置される円環状の面である。開口形成部20が設けられていることで、素形材10は開口を有することとなる。胴部22は、素形材10のうち主に加工対象とされる部分である。胴部22は素形材10の外周の曲面を形成する。底部24は胴部22の他端に配置される。底部24は胴部22の他端を塞いでいる。胴部22は、歯形成区間30と外径縮小予定区間32とを有する。歯形成区間30は、胴部22の一端に配置される。歯形成区間30には歯車の歯が形成される。外径縮小予定区間32は、胴部22のうち歯形成区間30から見て胴部22の他端側に配置される。外径縮小予定区間32は、歯形成区間30に連なる。本実施形態にかかる素形材10の形成方法は周知の塑性加工方法と同一である。したがってここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0023】
素形材10が形成されると、実施者は、素形材10を外径縮小加工装置50に取付ける。図3に示されるように、本実施形態にかかる外径縮小加工装置50は、マンドレル70と、素形材押付部材72と、段差面形成ローラ74と、押付部材保持体76と、段差面形成ローラ保持体78と、縮小加工用保持体基部80と、コイルバネ82と、図示されないマンドレル回転装置と、図示されない下降駆動装置とを備える。
【0024】
マンドレル70は、先端が丸みを帯びた円柱状の部材である。素形材10はマンドレル70の先端に被せられるように取付けられる。マンドレル70は、その中心軸を中心に回転自在となっている。
【0025】
素形材押付部材72は、マンドレル70に対向する面が凹んでいる厚い円板状の部材である。素形材押付部材72も素形材押付部材72自身の中心軸を中心に回転自在となっている。マンドレル70の中心軸と素形材押付部材72の中心軸とは連なっている。その結果、マンドレル70と素形材押付部材72とは同一の軸を中心に回転自在である。
【0026】
段差面形成ローラ74は、マンドレル70の側面に沿って移動自在に配置される。段差面形成ローラ74も段差面形成ローラ74自身の中心軸を中心に回転自在となっている。段差面形成ローラ74は、素形材10を塑性変形させるための部材である。
【0027】
押付部材保持体76は、素形材押付部材72を保持する。押付部材保持体76は、力を受けるとその力によって素形材押付部材72を移動させる。
【0028】
段差面形成ローラ保持体78は、段差面形成ローラ74を回転自在に保持する。段差面形成ローラ保持体78は、力を受けるとその力によって段差面形成ローラ74を移動させる。
【0029】
縮小加工用保持体基部80は、押付部材保持体76を移動自在に保持する。縮小加工用保持体基部80には、段差面形成ローラ保持体78が固定される。縮小加工用保持体基部80が上述された力を受けて移動することにより段差面形成ローラ保持体78も移動する。
【0030】
コイルバネ82は、押付部材保持体76を縮小加工用保持体基部80に接続する。コイルバネ82は、縮小加工用保持体基部80が上述された力を受けて移動すると押付部材保持体76を押す。押された押付部材保持体76が移動すると素形材押付部材72も移動する。
【0031】
マンドレル回転装置は、マンドレル70をこれが回転するように駆動する。下降駆動装置は、縮小加工用保持体基部80をこれが下降するように駆動する。この駆動により、縮小加工用保持体基部80は上述された力を受けることとなる。その結果、素形材押付部材72はマンドレル70に近づく。段差面形成ローラ74はマンドレル70の側面に沿って移動する。
【0032】
外径縮小加工装置50のマンドレル70に素形材10が取付けられると、実施者は、下降駆動装置を起動させる。起動した下降駆動装置は縮小加工用保持体基部80を駆動する。この駆動によって力を受けた縮小加工用保持体基部80は下降する。これにより押付部材保持体76および段差面形成ローラ保持体78も下降する。押付部材保持体76が下降すると素形材押付部材72は素形材10をマンドレル70に押付ける。段差面形成ローラ保持体78は段差面形成ローラ74を素形材10の傍まで近づける。素形材10がマンドレル70に押付けられ、かつ、段差面形成ローラ74が素形材10の傍まで近づけられると、実施者は、マンドレル回転装置を起動させる。起動したマンドレル回転装置はマンドレル70を回転させる。これに伴い、素形材10が回転する。素形材押付部材72も回転する。そのために、素形材押付部材72は回転自在となっている。マンドレル70と素形材10と素形材押付部材72とが回転すると、実施者は、縮小加工用保持体基部80がさらに下降するように下降駆動装置を制御する。その制御によって縮小加工用保持体基部80がさらに下降するとコイルバネ82が縮む。コイルバネ82が縮むので、素形材押付部材72が移動せず段差面形成ローラ74がマンドレル70の付け根方向へ移動する。すなわち、段差面形成ローラ74は、素形材10の他端から素形材10の一端へ向かう方向へ自転自在に移動する。これに伴い、図4に示されるように素形材10の他端の外周に段差面形成ローラ74が押し付けられる。段差面形成ローラ74が移動するにつれ、外径が縮小するように素形材10のうち底部24と歯形成区間30との間の区間が塑性加工される(S322)。これにより、素形材10の他端が塑性加工されることとなる。
【0033】
その後、段差面形成ローラ74が外径縮小予定区間32の端付近まで移動する。その間、素形材10が回転し続けている。図5は、段差面形成ローラ74が外径縮小予定区間32の端付近まで移動した状況が示される図である。本実施形態の場合、段差面形成ローラ74はローラテーパ面90を有する。これに伴い、外径縮小予定区間32の端には段差面形成ローラ74のローラテーパ面90が押付けられることとなる。そのローラテーパ面90が押付けられることで、段差面形成ローラ74が外径縮小予定区間32の端を押し均す。外径縮小予定区間32の端が押し均されるので、外径縮小予定区間32の端にテーパ面が形成される。テーパ面が形成されるので、外径縮小予定区間32の端には段差が形成される(S324)。段差が形成されると、素形材10は円筒体12となる。実施者は、円筒体12を外径縮小加工装置50から取り外す。
【0034】
図6から明らかなように、本実施形態にかかる円筒体12においては、素形材10の外径縮小予定区間32であった箇所が、小外径区間110、および、段差区間112となる。小外径区間110は、外径縮小予定区間32のうち段差面形成ローラ74が通過したことで形成された区間である。これにより、小外径区間110は、歯形成区間30よりも底部24側に配置されることとなる。小外径区間110は、歯形成区間30よりも外径が小さくなる。段差区間112は、外径縮小予定区間32の端が段差面形成ローラ74のローラテーパ面90によって押し均されたことで形成された区間である。これにより、段差区間112は、歯形成区間30と小外径区間110との間に配置されることとなる。段差区間112は、歯形成区間30と小外径区間110との間の段差を形成する。その結果、円筒体形成工程S300において、歯形成区間30、小外径区間110、および、段差区間112に分かれるように素形材10の胴部22が塑性加工されたこととなる。
【0035】
外径縮小加工装置50から円筒体12が取り外されると、実施者は、円筒体12を外歯形成装置130に取付ける。図7に示されるように、本実施形態にかかる外歯形成装置130は、台座150と、円筒体保持部材152と、歯形成部材154と、揺動防止部材156と、拡径ローラ158と、拡径ローラ保持体160と、歯形成用保持体基部162と、コイルバネ164と、図示されない台座回転装置と、図示されない下降駆動装置とを備える。
【0036】
台座150は、先端が平坦な円柱状の部材である。円筒体12の底部24は隙間を空けて台座150に対向する。台座150は、その中心軸を中心に回転自在となっている。
【0037】
円筒体保持部材152は、台座150に被さるように配置される。円筒体保持部材152の中心に孔が形成されている。これにより、台座150の先端はその孔を介して露出する。円筒体12はその孔に入る。これに伴い、円筒体保持部材152はその孔の縁で円筒体12を支える。そのため、その孔の縁はテーパ面となっている。
【0038】
歯形成部材154は、円筒体保持部材152に載せられるようにこれに固定される。歯形成部材154の中心に孔が形成されている。その孔は円筒体保持部材152に形成されている孔に連通している。これにより、台座150の先端はその孔を介して露出する。円筒体12はその孔に入る。その孔の内周面には歯車の歯型が形成されている。上述されたように、円筒体保持部材152はこれの中心に形成されている孔の縁で円筒体12を支える。そのため、歯形成部材154に形成されている孔の内周面は円筒体12の歯形成区間30に対向する。
【0039】
揺動防止部材156は、円柱状の軸部の先端に円板状の接触部が設けられている部材である。その接触部の外縁には曲面が形成されている。揺動防止部材156はその軸部を中心に回転自在となっている。
【0040】
拡径ローラ158は、歯形成部材154に形成された孔の内周面に沿って移動自在となるよう配置される。拡径ローラ158は、拡径ローラ158自身の中心軸を中心に回転自在となっている。拡径ローラ158は、円筒体12を塑性変形させるための部材である。
【0041】
拡径ローラ保持体160は、拡径ローラ158を自転自在に保持する。拡径ローラ保持体160は、力を受けると移動する。これに伴って拡径ローラ158も移動する。
【0042】
歯形成用保持体基部162には、拡径ローラ保持体160が固定される。歯形成用保持体基部162が力を受けて移動することにより拡径ローラ保持体160も移動する。
【0043】
コイルバネ164は、揺動防止部材156を歯形成用保持体基部162に接続する。コイルバネ164は、歯形成用保持体基部162が力を受けて移動すると揺動防止部材156を押す。押された揺動防止部材156は移動する。
【0044】
台座回転装置は、台座150と円筒体保持部材152と歯形成部材154とをこれらが回転するように駆動する。下降駆動装置は、歯形成用保持体基部162をこれが下降するように駆動する。この駆動により、歯形成用保持体基部162は上述された力を受けることとなる。その結果、揺動防止部材156は台座150に近づく。拡径ローラ158は歯形成部材154に形成された孔の内周面に沿って移動する。
【0045】
円筒体12は台座150に載せられるように外歯形成装置130に取付けられる。円筒体12が外歯形成装置130に取付けられると、実施者は、下降駆動装置を起動させる。下降駆動装置が起動すると、揺動防止部材156が円筒体12の底部24を押さえる。一方、実施者は、台座回転装置を起動させる。起動した台座回転装置は台座150と円筒体保持部材152と歯形成部材154とを回転させる。これに伴い、円筒体12が回転する。揺動防止部材156も回転する。それらが回転すると、実施者は、下降駆動装置を制御することにより拡径ローラ158を台座150がある方向へ移動させる。これに伴い、図8に示されるように回転している円筒体12へ拡径ローラ158が押し付けられる。拡径ローラ158が移動するにつれ、歯形成区間30が押し拡げられる。押し拡げられた歯形成区間30の外周面は、歯形成部材154に形成された孔の内周面に押し付けられる。これにより、歯形成区間30の外周に歯車の歯が形成される(S302)。このとき、段差区間112が支えられている。小外径区間110および底部24が宙に浮いている。この状態で歯形成区間30の外周が歯形成部材154に形成された孔の内周面に押付けられる。歯形成区間30の外周に歯車の歯が形成されると本実施形態にかかる外歯付円筒体が完成する。
【0046】
[本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の効果]
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、歯形成区間30が歯車の歯型に押付けられる際、段差区間112が支えられた状態である。この際、小外径区間110および底部24が宙に浮いた状態である。それらの部分が宙に浮いた状態なので、それらの部分の動きが拘束された状態でそれらの部分に内部応力がかかる可能性は低くなる。その可能性が低くなると、それらの部分に塑性変形が生じる可能性が低くなる。それらの部分に塑性変形が生じる可能性が低くなるので、その塑性変形に起因する亀裂が生じる可能性が低くなる。その結果、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【0047】
また、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、段差形成工程S324において、段差面形成ローラ74のローラテーパ面90が歯形成区間30と小外径区間110との間を押し均す。これにより段差面形成ローラ74が段差区間112にテーパ面を形成する。段差区間112にテーパ面が形成されると、歯形成工程S302においてそのテーパ面を支えることが可能になる。テーパ面が支えられると、押し均されなかったことで歯形成区間30と小外径区間110との間に残った凹凸の一部において段差区間112が支えられる場合に比べて、円筒体12の一部に大きな力がかかる可能性が低くなる。その可能性が低くなると、そのことに起因して段差区間112およびこれよりも円筒体12の他端側の部分に塑性変形が生じる可能性が低くなる。その塑性変形が生じる可能性が低くなるので、その塑性変形に起因する亀裂が生じる可能性が低くなる。その結果、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【0048】
また、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、段差面形成ローラ74の自転軸に沿う軸を中心に素形材10が自転する。素形材10が自転すると、素形材10の自転軸が段差面形成ローラ74の自転軸に沿っていない場合に比べて、段差面形成ローラ74が歯形成区間30と小外径区間110との間を押し均す際にそれらの間を転がり易くなる。段差面形成ローラ74が転がり易くなると、段差面形成ローラ74がそれらの間を押し均す際にそれらの間を滑る場合に比べて、段差面形成ローラ74がそれらの間へ摩擦力を加え難くなる。摩擦力が加えられ難くなると、摩擦熱によってそれらの間の表面が悪影響を受ける可能性が低くなる。
【0049】
また、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、小外径区間形成工程S322において、素形材10が自転する。素形材10が自転すると、素形材10の他端は段差面形成ローラ74によって螺旋状に押し拡げられることとなる。これにより、素形材10の他端から一端へ向かって直線状に押し拡げられる場合に比べて、素形材10の他端の各箇所間の塑性変形の程度差は小さくなる。その程度差が小さくなるので、その程度差に起因する歪が素形材10に生じる可能性が低くなる。特に、円筒体12の素材がオーステナイト系ステンレスである場合に亀裂が生じる可能性が低くなる。
【0050】
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではない。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更がされてもよい。
【0051】
例えば、円筒体12は底部24を有していなくてもよい。円筒体12の一端から他端までの長さは特に限定されない。
【0052】
また、小外径区間形成工程S322において、素形材10は自転しなくてもよい。したがって、段差面形成ローラ74は素形材10の他端から一端へ向かって直線状に進んでもよい。段差面形成ローラ74が直線状に進むと、素形材10の他端は直線状に押し拡げられることとなる。
【0053】
また、歯形成工程S302において、歯形成区間30のうち実際に歯車の歯が形成される箇所は特に限定されない。その歯の形成手段も特に限定されない。
【0054】
また、段差形成工程S324において、段差区間112に形成される面はテーパ面に限定されない。例えば、その面は円筒体12の他端に近づくにつれ窄まる曲面であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…素形材
12…円筒体
20…開口形成部
22…胴部
24…底部
30…歯形成区間
32…外径縮小予定区間
50…外径縮小加工装置
70…マンドレル
72…素形材押付部材
74…段差面形成ローラ
76…押付部材保持体
78…段差面形成ローラ保持体
80…縮小加工用保持体基部
82,164…コイルバネ
90…ローラテーパ面
110…小外径区間
112…段差区間
130…外歯形成装置
150…台座
152…円筒体保持部材
154…歯形成部材
156…揺動防止部材
158…拡径ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8