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特開2022-92919トラクション変速機および電動機付きトラクション変速機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092919
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】トラクション変速機および電動機付きトラクション変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20220616BHJP
   H02K 7/10 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
F16H13/08 H
H02K7/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205917
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】山村 剛史
(72)【発明者】
【氏名】三木 浩
【テーマコード(参考)】
3J051
5H607
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB05
3J051BD02
3J051BE04
3J051EC02
3J051FA01
3J051FA08
5H607AA01
5H607BB01
5H607BB05
5H607BB14
5H607BB26
5H607EE29
5H607GG08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】インタナルリングが遊星ローラに押圧されて軸方向に対して傾斜した場合でも、インタナルリングの角部等がハウジング等の周辺の部材に接触することを抑制し、仮に接触した場合でもそのまま戻らなくなることを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】可動インタナルリング50の外周面は、中心軸9を含む断面において軸方向に延びる直線部と、直線部の軸方向の両側に位置する一対の連結部とを有する。連結部の軸方向の一端は、直線部と滑らかに繋がる。連結部の軸方向の他端は、上記の断面において径方向に延びる底面部と滑らかに繋がる。一対の連結部の軸方向の他端同士を結ぶ対角線の長さは、ケーシングにおける可動インタナルリングの径方向外側に位置する部位の内径以下である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクション変速機であって、
中心軸を中心として回転する太陽ローラと、
前記太陽ローラの周囲に配置された複数の遊星ローラと、
前記複数の遊星ローラをそれぞれ保持しつつ前記中心軸を中心として回転するキャリアと、
前記複数の遊星ローラのそれぞれの中心を通る各自転軸よりも径方向外側において、前記中心軸を中心として円環状に拡がり、かつ、軸方向に移動可能な可動インタナルリングと、
前記可動インタナルリングの外周面から間隙を隔てた径方向外側を覆うケーシングと、
を有し、
前記複数の遊星ローラはそれぞれ、前記太陽ローラの外周面および前記可動インタナルリングの内周面の双方に接触しつつ、前記太陽ローラから動力を受けることによって、前記自転軸を中心として自転しながら前記中心軸を中心として公転し、
前記可動インタナルリングの外周面は、
前記中心軸を含む断面において軸方向に延びる直線部と、
前記直線部の軸方向の両側に位置する一対の連結部と、
を有し、
前記連結部の軸方向の一端は、前記直線部と滑らかに繋がり、
前記連結部の軸方向の他端は、前記可動インタナルリングの前記断面において径方向に延びる底面部と滑らかに繋がり、
前記可動インタナルリングの前記断面における前記一対の連結部の軸方向の他端同士を結ぶ対角線の長さは、前記ケーシングにおける前記可動インタナルリングの径方向外側に位置する部位の内径以下である、トラクション変速機。
【請求項2】
請求項1に記載のトラクション変速機であって、
前記可動インタナルリングの前記断面において、
前記一対の連結部の前記他端同士を結ぶ前記対角線の長さは、前記可動インタナルリングの前記直線部の直径以下である、トラクション変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のトラクション変速機であって、
前記可動インタナルリングの前記断面における前記一対の連結部の前記一端同士を結ぶ対角線の長さは、前記ケーシングにおける前記可動インタナルリングの径方向外側に位置する部位の内径以下である、トラクション変速機。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のトラクション変速機であって、
前記複数の遊星ローラはそれぞれ、軸方向に対して傾斜した円環状の傾斜面を有し、
前記可動インタナルリングの内周面は、前記傾斜面に接触し、
前記トラクション変速機は、
前記可動インタナルリングを前記複数の遊星ローラへ直接的または間接的に押し付ける付勢部材
をさらに有する、トラクション変速機。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のトラクション変速機であって、
前記可動インタナルリングの前記断面において、
前記連結部は、径方向外側に凸である曲線を含む、トラクション変速機。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のトラクション変速機であって、
前記可動インタナルリングの前記断面において、
前記連結部は直線を含む、トラクション変速機。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のトラクション変速機であって、
前記直線部の軸方向の中央は、前記可動インタナルリングの外周面における軸方向の中央に位置する、トラクション変速機。
【請求項8】
請求項7に記載のトラクション変速機であって、
前記可動インタナルリングの外周面は、前記直線部の前記中央に対して、軸方向一方側と軸方向他方側とが対称である、トラクション変速機。
【請求項9】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のトラクション変速機であって、
前記直線部の軸方向の中央は、前記可動インタナルリングと前記複数の遊星ローラのそれぞれとの接触点の径方向外側に位置する、トラクション変速機。
【請求項10】
請求項9に記載のトラクション変速機であって、
前記可動インタナルリングの外周面は、前記直線部の前記中央に対して、軸方向一方側と軸方向他方側とが非対称である、トラクション変速機。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のトラクション変速機であって、
前記複数の遊星ローラは、それぞれ、
前記太陽ローラに接触する円板部と、
前記円板部から軸方向一方側に延びる一方側軸部と、
前記円板部から軸方向他方側に延びる他方側軸部と、
を有し、
前記トラクション変速機は、
前記円板部よりも軸方向一方側において、前記中心軸を中心として円環状に拡がり、前記複数の遊星ローラのそれぞれの前記一方側軸部に内周面が接触する一方側リングと、
前記円板部よりも軸方向他方側において、前記複数の遊星ローラのそれぞれの前記他方側軸部に接触する前記可動インタナルリングである他方側リングと、
を有し、
前記一方側リングの外周面と前記他方側リングの外周面とは、互いに同じ形状を有する、トラクション変速機。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のトラクション変速機と、電動機と、を有する電動機付きトラクション変速機であって、
前記電動機は、
前記ケーシングに直接的または間接的に固定されたステータを含む静止部と、
前記静止部に対して前記中心軸を中心として回転するロータを含み、前記太陽ローラに接続される入力軸が固定される回転部と、
を有する、電動機付きトラクション変速機。
【請求項13】
請求項12に記載の電動機付きトラクション変速機であって、
前記回転部は、
前記中心軸に沿って円柱状に延びるシャフト
を有し、
前記入力軸の直径は、前記シャフトの直径よりも大径である、電動機付きトラクション変速機。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の電動機付きトラクション変速機であって、
前記中心軸に対して略垂直に配置される板状の取付板
をさらに有し、
前記静止部は、
前記電動機の外枠を構成するモータハウジング
をさらに有し、
前記取付板の外径は、前記モータハウジングの外径よりも大きい、電動機付きトラクション変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクション変速機、および電動機付きトラクション変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽ローラと遊星ローラとの間に発生させたトラクション(摩擦)を利用して、入力軸の回転速度を変速させて出力軸を回転させる、トラクション変速機が知られている。このようなトラクション変速機については、例えば、特開2017-207193号公報および特許第3674723号公報に記載されている。
【0003】
特開2017-207193号公報のトラクション減速機(1)は、太陽ローラ(20)と、複数の遊星ローラ(30)と、インタナルリング(40)と、キャリア(50)と、ハウジング(80)と、出力軸(90)とを有する。太陽ローラ(20)は、入力側に位置するモータ(11)に連結され、回転軸(9)を中心として回転する。複数の遊星ローラ(30)は、太陽ローラ(20)の周囲に配置される。インタナルリング(40)は、円環形状を有し、その内周面において複数の遊星ローラ(30)に接触する。また、インタナルリング(40)は、軸方向の位置が固定された固定インタナルリング(41)と、軸方向に移動可能な可動インタナルリング(42)とを含む。複数の遊星ローラ(30)はそれぞれ、太陽ローラ(20)およびインタナルリング(40)の双方に接触しつつ、太陽ローラ(20)から動力を受けることによって、自転しながら回転軸(9)を中心として公転する。キャリア(50)は、遊星ローラ(30)を保持しつつ、回転軸(9)を中心として回転する。ハウジング(80)は、インタナルリング(40)の外周面を取り囲む円筒状の内周面を有する。出力軸(90)は、キャリア(50)に固定され、キャリア(50)とともに回転軸(9)を中心として減速後の回転数で回転する。
【0004】
特許第3674723号公報の遊星ローラ式動力伝達装置は、ハウジング(1)に固定された固定輪(2)と、固定輪(2)の内側に同心状に配置された高速の入出力軸となる太陽軸(3)と、太陽軸(3)と固定輪(2)との間に圧接状に介装された複数の遊星ローラ(4)と、複数の遊星ローラ(4)をそれぞれ回転自在に支持してこれら遊星ローラ(4)の公転により回転するキャリア(5)とを備えている。キャリア(5)は、低速の入出力軸となる軸部(8)と、軸部(8)に固定される環状板(9)と、環状板(9)の円周数箇所に固定される遊星軸(10)とで構成されている。遊星軸(10)は、軸受(11)を介して遊星ローラ(4)を回転自在に支持する(段落0013~0014等)。さらに、固定輪(2)の内周面および外周面の角部は、R形状に面取りされている。当該装置においては、固定輪(2)の内周面の軸方向中間領域にストレートな円筒面12を形成し、内周面の両端側にR形状に面取りした丸み部13,13を形成することにより、遊星ローラ(4)の面圧を設計どおりに設定でき、性能に安定化に貢献できる(図3および段落0015~0017等)。
【特許文献1】特開2017-207193号公報
【特許文献2】特許第3674723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、遊星ローラは、自転および公転する過程で、しばしば揺動し、軸方向に対する傾斜角度を変えながら、インタナルリングの内周面を押圧する。このため、特開2017-207193号公報のトラクション減速機(1)においては、遊星ローラ(30)が可動インタナルリング(42)の内周面を押圧することによって、可動インタナルリング(42)も軸方向に対して傾斜することがある。さらに、インタナルリングが大きく傾斜すると、インタナルリングの外周面の角部等が、ハウジング等の周辺の部材に接触し、そのまま戻らなくなる場合がある。この場合、装置全体の回転時の負荷が増大する虞がある。特に、小型のトラクション変速機においては、インタナルリングの外周面とハウジング等の周辺の部材との間に設けることができる隙間が限られているため、これらが接触する可能性がより高くなり、より大きな課題となっていた。
【0006】
そこで、対策として、特許第3674723号公報に開示されるように、インタナルリング(固定輪(2))の角部をR形状に面取りする方法が考えられる。しかしながら、インタナルリングの外周面の角部を面取りした場合でも、インタナルリングが傾斜した際における、ハウジング等の周辺の部材とインタナルリングとの間の間隔が少しでも確保されなければ、依然としてインタナルリングがハウジング等に接触したまま戻らなくなる虞が残る。
【0007】
本発明の目的は、インタナルリングが遊星ローラに押圧されて軸方向に対して傾斜した場合でも、インタナルリングの角部等がハウジング等の周辺の部材に接触することを抑制し、仮に接触した場合でも、そのまま戻らなくなることを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の例示的な第1発明は、トラクション変速機であって、中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの周囲に配置された複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラをそれぞれ保持しつつ前記中心軸を中心として回転するキャリアと、前記複数の遊星ローラのそれぞれの中心を通る各自転軸よりも径方向外側において、前記中心軸を中心として円環状に拡がり、かつ、軸方向に移動可能な可動インタナルリングと、前記可動インタナルリングの外周面から間隙を隔てた径方向外側を覆うケーシングと、を有し、前記複数の遊星ローラはそれぞれ、前記太陽ローラの外周面および前記可動インタナルリングの内周面の双方に接触しつつ、前記太陽ローラから動力を受けることによって、前記自転軸を中心として自転しながら前記中心軸を中心として公転し、前記可動インタナルリングの外周面は、前記中心軸を含む断面において軸方向に延びる直線部と、前記直線部の軸方向の両側に位置する一対の連結部と、を有し、前記連結部の軸方向の一端は、前記直線部と滑らかに繋がり、前記連結部の軸方向の他端は、前記可動インタナルリングの前記断面において径方向に延びる底面部と滑らかに繋がり、前記可動インタナルリングの前記断面における前記一対の連結部の軸方向の他端同士を結ぶ対角線の長さは、前記ケーシングにおける前記可動インタナルリングの径方向外側に位置する部位の内径以下である。
【発明の効果】
【0009】
本願の例示的な第1発明によれば、可動インタナルリングの外周面における一対の連結部の軸方向の他端同士(角部同士)を結ぶ対角線の長さは、ケーシングの内径以下である。これにより、可動インタナルリングが軸方向に対して傾斜した場合でも、インタナルリングがケーシングの径方向内側を滑らかに通過しやすく、かつ、一対の連結部の軸方向の他端(角部)がケーシングに接触することを防止できる。また、仮に、可動インタナルリングの一部がケーシングに接触した場合でも、接触したまま戻らなくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る電動機付きトラクション変速機の斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る電動機付きトラクション変速機の縦断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係るトラクション変速機の横断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係るトラクション変速機の部分縦断面図である。
図5図5は、第1実施形態に係るトラクション変速機の横断面図である。
図6図6は、第1実施形態に係るトラクション変速機の横断面図である。
図7図7は、第1実施形態に係る一方側リング、他方側リング、およびケーシングの縦断面図である。
図8図8は、第2実施形態に係る一方側リング、他方側リング、およびケーシングの縦断面図である。
図9図9は、変形例に係る他方側リングおよびケーシングの部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、後述するトラクション変速機の中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。また、以下では、説明の便宜上、図2図4図7、および図8中の入力側(右側)を「軸方向一方側」、図2図4図7、および図8中の出力側(左側)を「軸方向他方側」と、それぞれ称する。また、図2図4図5図7図8、および図9では、説明の便宜上、一方側リングの外周面および他方側リングの外周面とケーシングとの間の間隙D1を、実際の大きさよりも、やや大きく図示している。
【0012】
<1.第1実施形態>
<1-1.電動機付きトラクション変速機の全体構成>
以下では、本発明の第1実施形態に係るトラクション変速機1を含む電動機付きトラクション変速機10の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る電動機付きトラクション変速機10の斜視図である。図2は、本実施形態に係る電動機付きトラクション変速機10の縦断面図である。この電動機付きトラクション変速機10は、電動機11(モータ)から得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に変換して、出力軸90を回転させる。本発明のトラクション変速機1および電動機付きトラクション変速機10は、例えば、車輪等の小型部品に使用される。
【0013】
図1および図2に示すように、本実施形態の電動機付きトラクション変速機10は、電動機11、取付板120、およびトラクション変速機1を有する。
【0014】
電動機11は、水平方向(図2における左右方向)に延びる回転軸110に沿って配置される。トラクション変速機1は、水平方向(図2における左右方向)に延びる中心軸9に沿って配置される。なお、電動機11の回転軸110と、トラクション変速機1の中心軸9とは、互いに一致するものとする。電動機11は、電動機付きトラクション変速機10の動力源となる。電動機11は、静止部12、回転部13、および軸受14を有する。
【0015】
静止部12は、ステータ121と、電動機11の外枠を構成するモータハウジング111とを含む。ステータ121は、モータハウジング111の内周面に固定される。ただし、ステータ121を固定する方法は、これに限定されない。ステータ121は、トラクション変速機1の後述するケーシング100に、当該モータハウジング111等の別部材を介して固定され、または、ケーシング100に直接的に固定されていればよい。
【0016】
回転部13は、ロータ131およびシャフト132を含む。シャフト132は、回転軸110に沿って円柱状に延びる。シャフト132は、軸受14を介して、静止部12に対して回転可能に支持される。ロータ131は、シャフト132の周囲に固定される。ロータ131の外周面は、ステータ121の内周面と径方向に僅かな間隙を空けて対向する。さらに、シャフト132には、入力軸15が固定される。入力軸15は、回転軸110に沿って円柱状に延びる。なお、図2に示すように、本実施形態の入力軸15の直径(外径)は、シャフト132の直径(外径)よりも大径である。これにより、電動機11を組み立てる際に、ロータ131を軸方向に容易に位置決めすることができる。また、ロータ131が、シャフト132に対してトラクション変速機1側へ軸方向に位置ずれすることを抑制できる。さらに、入力軸15は、トラクション変速機1の後述する太陽ローラ20と接続される。ただし、入力軸15は、シャフト132または太陽ローラ20と一繋がりに形成されていてもよい。電動機11を駆動させると、ロータ131を含む回転部13、入力軸15、および太陽ローラ20は、ステータ121を含む静止部12およびモータハウジング111に対して、回転軸110(中心軸9)を中心として回転する。
【0017】
取付板120は、電動機11にトラクション変速機1を取り付けるための板状の部材である。取付板120は、中心軸9に対して略垂直に配置されている。取付板120には、モータハウジング111と、トラクション変速機1の後述するケーシング100が、ねじ等の固定具(図示省略)または接着によって固定される。ただし、モータハウジング111およびケーシング100と、取付板120とは、他の方法によって固定されてもよい。なお、図1図2に示すように、本実施形態では、取付板120の外径およびトラクション変速機1のケーシング100の入力側(軸方向一方側)の端部の外径は、モータハウジング111の直径(外径)およびケーシング100の出力側(軸方向他方側)の部位の直径(外径)よりも大きい。これにより、電動機11とトラクション変速機1とを、それぞれの径方向外側に突出する部位において、ねじ止め等によって締付固定することができるため、電動機付きトラクション変速機10の組み付け作業がより容易になる。また、電動機付きトラクション変速機10に、このような径方向外側に突出する部位を設けることにより、電動機付きトラクション変速機10以外の他の装置にも容易に組み付けることができる。
【0018】
トラクション変速機1は、電動機11の回転運動を減速させて、出力軸90に伝達する装置である。このトラクション変速機1には、歯車を用いることなく、太陽ローラ20の外周面と複数の遊星ローラ30の外周面とを、互いに接触させながら回転させることで動力を伝達する、いわゆるトラクション型の遊星減速機構が用いられている。
【0019】
図2に示すように、本実施形態のトラクション変速機1は、太陽ローラ20、複数の遊星ローラ30、一方側リング40、他方側リング50、キャリア60、キャリア軸受70、付勢部材80、出力軸90、およびケーシング100を有する。
【0020】
太陽ローラ20は、中心軸9と同軸に配置された、円柱状の部材である。上記のとおり、太陽ローラ20は、軸方向の入力側に位置する電動機11に連結される。電動機11を駆動させると、太陽ローラ20は、電動機11から受ける動力によって、中心軸9を中心として第1回転数で回転する。
【0021】
図3は、トラクション変速機1の、図2のA-A断面図である。複数の遊星ローラ30は、太陽ローラ20の周囲に配置される。図3に示すように、本実施形態では、太陽ローラ20の周囲に、3個の遊星ローラ30が周方向に等間隔に配置されている。3つの遊星ローラ30はそれぞれ、中心軸9と平行な自転軸91に沿って配置される。自転軸91は、各遊星ローラ30の中心を通る。ただし、自転軸91は、中心軸9に対して傾斜していてもよい。
【0022】
図4は、本実施形態に係るトラクション変速機1の部分縦断面図である。図4に示すように、複数の遊星ローラ30はそれぞれ、円板部31と、一対の軸部とを有する。以下では、当該一対の軸部のうち、入力側に位置する一方を「一方側軸部32」と称する。また、当該一対の軸部のうち、出力側に位置する他方を「他方側軸部33」と称する。本実施形態では、各遊星ローラ30において、円板部31、一方側軸部32、および他方側軸部33は、一繋がりに形成される。さらに、円板部31、一方側軸部32、および他方側軸部33はそれぞれ、軸方向に見たときに、自転軸91の周囲において同軸上で真円形状に拡がる。
【0023】
円板部31は、各遊星ローラ30における軸方向の中央部に位置する。円板部31の直径(外径)は、一方側軸部32の直径(外径)および他方側軸部33の直径(外径)よりも大きい。円板部31の一部は、各遊星ローラ30における最も径方向内側(中心軸9に最も近い位置)に位置する。円板部31は、当該最も径方向内側に位置する部位において、太陽ローラ20の外周面に接触して摩擦力を受ける。
【0024】
一方側軸部32は、円板部31から軸方向の入力側(軸方向一方側)に、中心軸9と略平行に延びる。また、一方側軸部32は、軸方向における円板部31とは反対側の端部に、円環状の一方側傾斜面320を有する。一方側傾斜面320は、一方側軸部32の先端へ向かうにつれて縮径するように、軸方向に対して傾斜する。他方側軸部33は、円板部31から軸方向の出力側(軸方向他方側)に、中心軸9と略平行に延びる。また、他方側軸部33は、軸方向における円板部31とは反対側の端部に、円環状の他方側傾斜面330を有する。他方側傾斜面330は、他方側軸部33の先端へ向かうにつれて縮径するように、軸方向に対して傾斜する。
【0025】
一方側リング40は、円板部31よりも軸方向の入力側(軸方向一方側)、かつ、3つの遊星ローラ30の自転軸91よりも径方向外側において、中心軸9を中心として円環状に拡がる部材である。一方側リング40の内周面400は、軸方向の入力側(軸方向一方側)へ向かうにつれて縮径する傾斜面である。一方側リング40の入力側には、取付板120が隣接する。また、一方側リング40の内周面400は、遊星ローラ30の円板部31よりも軸方向一方側において、一方側傾斜面320と接触する。上記のとおり、一方側傾斜面320は、軸方向の入力側へ向かうにつれて縮径する傾斜面である。これにより、一方側リング40は、ケーシング100に対して軸方向の位置が固定されている。すなわち、本実施形態の一方側リング40は、固定インタナルリングとなっている。また、本実施形態では、このような構造を有することにより、一方側リング40およびケーシング100を含むトラクション変速機1の径方向の幅を抑えつつ、一方側リング40と遊星ローラ30とを接触させることができる。
【0026】
他方側リング50は、円板部31よりも軸方向の出力側(軸方向他方側)、かつ、3つの遊星ローラ30の自転軸91よりも径方向外側において、中心軸9を中心として円環状に拡がる部材である。他方側リング50の内周面500は、軸方向の出力側(軸方向他方側)へ向かうにつれて縮径する傾斜面である。他方側リング50の内周面500は、遊星ローラ30の円板部31よりも軸方向他方側において、他方側傾斜面330と接触する。なお、他方側リング50の出力側には、付勢部材80が隣接する。他方側リング50は、付勢部材80によって軸方向の入力側(軸方向一方側)へ付勢されつつも、軸方向に移動可能である。すなわち、本実施形態の他方側リング50は、可動インタナルリングとなっている。本実施形態では、このような構造を有することにより、他方側リング50およびケーシング100を含むトラクション変速機1の径方向の幅を抑えつつ、他方側リング50と遊星ローラ30とを接触させることができる。
【0027】
図5は、トラクション変速機1の、図2のB-B断面図である。図6は、トラクション変速機1の、図2のC-C断面図である。図2図6に示すように、複数の遊星ローラ30はそれぞれ、キャリア60によって、太陽ローラ20の周囲で回動自在に支持される。また、3つの遊星ローラ30はそれぞれ、太陽ローラ20の外周面と、一方側リング40の内周面400および他方側リング50の内周面500との双方に接触する。太陽ローラ20が中心軸9を中心に回転すると、3つの遊星ローラ30はそれぞれ、太陽ローラ20から動力を受ける。そして、3つの遊星ローラ30は、太陽ローラ20の周囲で、自転軸91を中心として自転しながら中心軸9を中心として公転する。
【0028】
また、詳細を後述するとおり、複数の遊星ローラ30はそれぞれ、キャリア60に保持されながら自転および公転する過程で、しばしば揺動し、中心軸9に対する傾斜角度を変えながら、他方側リング50の内周面500を押圧する。このとき、他方側リング50も、中心軸9に対して傾斜することがある。なお、他方側リング50のより詳細な構造については、後述する。
【0029】
キャリア60は、複数の遊星ローラ30をそれぞれ保持しつつ、中心軸9を中心として回転する。図6に示すように、キャリア60は、遊星ローラ30の他方側軸部33の外周面と対向する接触面64を有する。他方側軸部33の外周面のうち、遊星ローラ30の公転の回転方向前側に位置する面の少なくとも一部と、接触面64とは、周方向に接触する。すなわち、接触面64と、他方側軸部33の外周面の少なくとも一部とは、中心軸9を中心とする周方向に接触する。同様に、キャリア60は、各遊星ローラ30の一方側軸部32の外周面と対向する接触面を有する。一方側軸部32の外周面のうち、遊星ローラ30の公転の回転方向前側に位置する面の少なくとも一部と、当該接触面とは、周方向に接触する。これにより、各遊星ローラ30は、太陽ローラ20の周囲で、自転可能に支持される。このように、遊星ローラ30の一部である一方側軸部32および他方側軸部33が、キャリア60によって支持される。このため、キャリアピンのような部材を別途設ける必要がなくなる。その結果、部品点数を減らして、トラクション変速機1を小型化できる。
【0030】
また、図4図6に示すように、本実施形態のキャリア60は、複数の収容部66を有する。複数の収容部66は、中心軸9を中心とする周方向に配列され、各々が径方向外側へ向けて開いている。そして、複数の遊星ローラ30の一方側軸部32および他方側軸部33は、収容部66に収容される。このため、トラクション変速機1の製造時に、遊星ローラ30をキャリア60の収容部66に対して径方向外側から挿入できる。これにより、トラクション変速機1の組み立てが容易となる。
【0031】
なお、本実施形態のキャリア60は、単一の部材により構成される。このため、キャリア60が複数の部材で構成される場合よりも、部品数を低減できる。これにより、トラクション変速機1をより小型化できる。また、トラクション変速機1の組み立てがより容易となる。また、キャリア60は、各遊星ローラ30を、軸方向に対して傾斜する自由度をある程度持たせた状態で保持する。これにより、各遊星ローラ30はそれぞれ、キャリア60に保持されながら自転および公転する過程で、しばしば径方向に揺動し、中心軸9に対する傾斜角度が変わる。このとき、各遊星ローラ30は、他方側リング50と接触する他方側傾斜面330付近において最も大きく変位する。
【0032】
キャリア軸受70は、キャリア60を、中心軸9を中心に回転可能に支持する。図2および図4に示すように、本実施形態のキャリア軸受70は、キャリア60の外周面の一部と接触する。さらに、キャリア軸受70は、キャリア60の軸方向の出力側の端面と接触する。これにより、キャリア60は、径方向および軸方向の移動が規制され、安定的に保持される。本実施形態のキャリア軸受70には、例えば、すべり軸受が用いられる。なお、キャリア軸受70には、ボールベアリング等が用いられてもよい。
【0033】
付勢部材80は、他方側リング50を軸方向の入力側(軸方向一方側)へ加圧する部材である。本実施形態の付勢部材80には、軸方向に伸縮する円環状の弾性部材が用いられる。より具体的には、本実施形態の付勢部材80には、例えば、ウェーブばねが用いられる。付勢部材80は、キャリア軸受70と他方側リング50との間に、自然長よりも軸方向に圧縮された状態で配置される。これにより、付勢部材80の反発力によって、他方側リング50が、入力側へ加圧される。
【0034】
上記のとおり、他方側リング50の内周面500は、遊星ローラ30の他方側軸部33の他方側傾斜面330と接触する。このため、他方側リング50が軸方向の入力側へ加圧されると、他方側軸部33は他方側傾斜面330を介して、径方向内側に向けて押圧力を受ける。すなわち、付勢部材80は、他方側リング50を、3つの遊星ローラ30へ向けて直接的に押し付ける。また、一方側リング40の内周面400は、遊星ローラ30の一方側軸部32の一方側傾斜面320と接触する。このため、付勢部材80によって、他方側リング50が軸方向の入力側へ加圧されると、3つの遊星ローラ30および一方側リング40も軸方向の入力側へ加圧される。これにより、一方側軸部32は、一方側傾斜面320を介して、径方向内側に向けて間接的に押し付けられる。
【0035】
ただし、付勢部材80の構造は、これに限定されない。付勢部材80は、他方側リング50を複数の遊星ローラ30へ直接的または間接的に押し付ける構成を有していればよい。例えば、付勢部材80は、周方向に複数配列されたコイルばねであってもよい。また、付勢部材80は、弾性部材以外のものであってもよく、例えば、中心軸9を中心とする回転トルクを入力側(軸方向一方側)へ向かう力に変換する、調圧カムにより構成されていてもよい。また、本実施形態の付勢部材80は、キャリア60の径方向外側のスペースに配置される。これにより、キャリア60と付勢部材80とを、異なる軸方向位置に配置する場合よりも、トラクション変速機1の軸方向の寸法を低減できる。その結果、トラクション変速機1をより小型化できる。
【0036】
ケーシング100は、太陽ローラ20の一部、3つの遊星ローラ30、一方側リング40、他方側リング50、キャリア60、キャリア軸受70、付勢部材80、および出力軸90の一部を内部に収容する部材である。本実施形態のケーシング100は、他方側リング50の外周面から間隙D1を隔てた径方向外側を覆う。
【0037】
図2および図4に示すように、本実施形態のケーシング100は、径方向内側に向けて延びる爪部101を有する。爪部101は、例えば、ケーシング100の出力側の端縁の周方向の一部分を、かしめることにより形成される。爪部101は、キャリア軸受70と軸方向に接触する。これにより、ハウジング100に対するキャリア軸受70の軸方向の位置決めを容易に行うことができる。その結果、トラクション変速機1を容易に組み立てることができる。また、爪部101は、キャリア軸受70と、中心軸9を中心とする周方向に接触する。これにより、ケーシング100に対するキャリア軸受70の相対回転を、容易に防止できる。
【0038】
また、図5に示すように、本実施形態の他方側リング50は、外周面の一部分に、径方向内側に凹み、表面が平面部である、複数(本実施形態では、2つ)の第2回り止め凹部53を有する。また、本実施形態のケーシング100は、径方向内側に凸となり、径方向内側の面が平面部である、複数の第2回り止め凸部102を有する。当該第2回り止め凸部102は、第2回り止め凹部53に嵌まり、第2回り止め凸部102の平面部と、第2回り止め凹部53の平面部とが接触する。これにより、ケーシング100に対する他方側リング50の相対回転を防止できる。その結果、遊星ローラ30およびキャリア60の回転が安定する。
【0039】
同様に、本実施形態の一方側リング40は、外周面の一部分に、径方向内側に凹み、表面が平面部である、図示を省略した複数の第1回り止め凹部を有する。また、ケーシング100は、径方向内側に凸となり、径方向内側の面が平面部である、図示を省略した複数の第1回り止め凸部を有する。そして、これらの嵌め合い構造により、ケーシング100に対する一方側リング40の相対回転を防止できる。ただし、ケーシング100に対する一方側リング40および他方側リング50の相対回転を防止する構造は、これに限定されない。例えば、一方側リング40の外周部付近および他方側リング50の外周部付近において、これらを軸方向に貫通する貫通孔を設け、軸方向に柱状に延びる部材を当該貫通孔に挿入し、取付板120やキャリア軸受70等の周辺の部材に固定してもよい。
【0040】
出力軸90は、中心軸9に沿って軸方向の出力側(軸方向他方側)に延びる円柱状の部材である。出力軸90は、キャリア60の軸方向の出力側の端部から、軸方向の入力側に凹む凹部65に、例えば、圧入されることで固定される。ただし、出力軸90とキャリア60との固定方法は、他の方法を用いてもよい。出力軸90は、キャリア60とともに、中心軸9を中心に回転する。
【0041】
複数の遊星ローラ30は、それぞれ、太陽ローラ20と、一方側リング40および他方側リング50と、常に接触する。そして、太陽ローラ20と遊星ローラ30との間には図示を省略した潤滑剤(トラクションオイル)が介在する。これにより、太陽ローラ20と遊星ローラ30との間にはトラクションが発生する。また、遊星ローラ30と、一方側リング40および他方側リング50との間には、図示を省略した潤滑剤(トラクションオイル)が介在する。これにより、遊星ローラ30と、一方側リング40および他方側リング50との間には、トラクションが発生する。電動機11の駆動力により、太陽ローラ20が第1回転数で回転すると、複数の遊星ローラ30は、太陽ローラ20からの動力を受け、太陽ローラ20との間のトラクションによって自転する。また、複数の遊星ローラ30は、一方側リング40および他方側リング50との間のトラクションにより、一方側リング40および他方側リング50に沿って、中心軸9の周囲を公転する。このとき、遊星ローラ30の公転の回転数は、第1回転数よりも低い第2回転数となる。
【0042】
複数の遊星ローラ30が減速後の第2回転数で公転すると、それに伴い、キャリア60も、中心軸9を中心として、第2回転数で回転する。また、キャリア60が回転すると、キャリア60に固定された出力軸90も、中心軸9を中心として、第2回転数で回転する。これにより、電動機11の第1回転数の回転運動は、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に変換されて、出力軸90に出力される。なお、トラクション変速機1は、太陽ローラ20、各遊星ローラ30、一方側リング40、および他方側リング50の径や、遊星ローラ30の個数を変更することによって、第1回転数に対する第2回転数の比率を変更することができる。すなわち、本発明のトラクション変速機1は、入力の回転数を、それよりも低い出力の回転数に変更でき、かつ、その減速比率を変更可能な装置である。
【0043】
<1-2.他方側リングの詳細な構造>
次に、他方側リング50の詳細な構造について、説明する。図7は、第1実施形態に係る一方側リング40、他方側リング50、およびケーシング100の、中心軸9を含む縦断面図である。なお、図7では、遊星ローラ30および付勢部材80を破線にて図示している。また、以下では、他方側リング50のうち、上記の第2回り止め凹部53が設けられていない部位の構造について説明する。ただし、第2回り止め凹部53においても、以下に記載する構造を適用することは可能である。
【0044】
図7に示すように、本実施形態の他方側リング50は、中心軸9に沿って配置された、概ね樽形の立体形状を有する。当該樽形形状の上面に相当する一方側底面部501と、下面に相当する他方側底面部502は、それぞれ、他方側リング50の中心軸9を含む断面において、径方向に延びる。また、当該樽形形状の側面に相当する面は、他方側リング50の外周面を形成している。当該外周面は、直線部503と、一対の連結部とを含む。以下では、当該一対の連結部のうち、入力側(軸方向一方側)に位置する一方を「一方側連結部504」と称する。また、当該一対の連結部のうち、出力側(軸方向他方側)に位置する他方を「他方側連結部505」と称する。
【0045】
直線部503は、他方側リング50の、中心軸9を含む断面において、軸方向に延びる。直線部503の軸方向の長さは、例えば、他方側リング50全体の軸方向の長さの4分の1程度である。ただし、直線部503は僅かでも設けられていればよく、直線部503の軸方向の長さの、他方側リング50全体の軸方向の長さに対する比率は、4分の1未満であってもよい。このように、他方側リング50の外周面の一部に軸方向に延びる直線部503を設けることによって、トラクション変速機1の組み立て時に、他方側リング50を、ケーシング100に対して、より真っ直ぐに容易に挿入することができる。また、直線部503の軸方向の中央C1は、他方側リング50の外周面における軸方向の略中央に位置する。そして、他方側リング50の外周面の形状は、直線部503の軸方向の中央C1に対して、入力側(軸方向一方側)と出力側(軸方向他方側)とで概ね対称である。他方側リング50の外周面を、このような左右対称の形状にすることによって、他方側リング50の外周面を加工する際の作業性を向上することができる。
【0046】
一対の連結部に含まれる一方側連結部504および他方側連結部505は、直線部503の軸方向の両側に位置する。一方側連結部504および他方側連結部505はそれぞれ、他方側リング50の、中心軸9を含む断面において、径方向外側に凸である曲線形状を有する。
【0047】
具体的には、一方側連結部504は、直線部503の入力側(軸方向一方側)に隣接する。一方側連結部504の軸方向の一端541は、直線部503と滑らかに繋がる。一方側連結部504の軸方向の他端542は、一方側底面部501と滑らかに繋がる。他方側連結部505は、直線部503の出力側(軸方向他方側)に隣接する。他方側連結部505の軸方向の一端551は、直線部503と滑らかに繋がる。他方側連結部505の軸方向の他端552は、他方側底面部502と滑らかに繋がる。
【0048】
本実施形態では、他方側リング50の、中心軸9を含む断面において、一対の連結部504,505の他端542,552同士を結ぶ対角線の長さD2は、他方側リング50の直線部503の直径D3以下である。また、上記のとおり、ケーシング100は、他方側リング50の外周面から間隙D1を隔てた径方向外側を覆う。すなわち、他方側リング50の、中心軸9を含む断面において、一対の連結部504,505の他端542,552同士を結ぶ対角線の長さD2は、ケーシング100における他方側リング50の径方向外側に位置する部位の内径(内径=「(D1*2)+D3」)以下である。
【0049】
ここで、上記のとおり、他方側リング50は、内周面500において遊星ローラ30と接触することによって、中心軸9に対して傾斜することがある。本実施形態では、他方側リング50が上記の構造を有することにより、他方側リング50が中心軸9に対して傾斜した場合でも、ケーシング100の径方向内側を滑らかに通過しやすく、かつ、一対の連結部504,505の他端542,552(角部)がケーシング100に接触することを防止できる。また、仮に、他方側リング50が中心軸9に対して傾斜して、一部がケーシング100に接触した場合でも、接触したまま戻らなくなることを抑制できる。この結果、他方側リング50がケーシング100に接触したまま戻らないことによる、トラクション変速機1の回転時の負荷の増大を抑制できる。
【0050】
また、本実施形態では、他方側リング50の、中心軸9を含む断面において、一対の連結部504,505の一端541,551同士を結ぶ対角線の長さD4は、ケーシング100における他方側リング50の径方向外側に位置する部位の内径(内径=「(D1*2)+D3」)以下である。これにより、他方側リング50が中心軸9に対して傾斜した場合でも、さらに一対の連結部504,505の一端541,551(角部)がケーシング100に接触することを防止できる。また、仮に、他方側リング50が中心軸9に対して傾斜して、一部がケーシング100に接触した場合でも、接触したまま戻らなくなることをさらに抑制できる。この結果、他方側リング50がケーシング100に接触したまま戻らないことによる、トラクション変速機1の回転時の負荷の増大をさらに抑制できる。
【0051】
なお、本実施形態では、一方側リング40の外周面と、他方側リング50の外周面とは、互いに略同じ形状を有する。また、一方側リング40の内周面400と、他方側リング50の内周面500も、互いに略同じ形状を有し、トラクション変速機1の組み立ての際に、一方側リング40の内周面400および他方側リング50の内周面500の形状が、軸方向に沿って(左右で)反対を向くように配置される。このように、一方側リング40の形状および他方側リング50の形状を互いに同じ構造にすることにより、一方側リング40と他方側リング50を、部品として共通化できる。
【0052】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0053】
図8は、第2実施形態に係る一方側リング40B、他方側リング50B、およびケーシング100Bの、中心軸9Bを含む縦断面図である。なお、図8では、遊星ローラ30Bおよび付勢部材80Bを破線にて図示している。本実施形態の電動機付きトラクション変速機は、主に他方側リング50Bの構造が、第1実施形態の電動機付きトラクション変速機10の他方側リング50の構造とは異なる。
【0054】
図8に示すように、本実施形態の他方側リング50Bは、中心軸9Bに沿って配置された、概ね樽形の立体形状を有する。当該樽形形状の上面に相当する一方側底面部501Bと、下面に相当する他方側底面部502Bは、それぞれ、他方側リング50Bの中心軸9Bを含む断面において、径方向に延びる。また、当該樽形形状の側面に相当する面は、他方側リング50Bの外周面を形成している。当該外周面は、直線部503Bと、一対の連結部とを含む。以下では、当該一対の連結部のうち、入力側(軸方向一方側)に位置する一方を「一方側連結部504B」と称する。また、当該一対の連結部のうち、出力側(軸方向他方側)に位置する他方を「他方側連結部505B」と称する。
【0055】
直線部503Bは、他方側リング50Bの、中心軸9Bを含む断面において、軸方向に延びる。本実施形態の直線部503Bの軸方向の中央C1は、他方側リング50Bの内周面500Bと各遊星ローラ30Bとの接触点T1の、概ね径方向外側に位置する。一対の連結部に含まれる一方側連結部504Bおよび他方側連結部505Bは、直線部503Bの軸方向の両側に位置する。具体的には、一方側連結部504Bは、直線部503Bの入力側(軸方向一方側)に隣接する。一方側連結部504Bの軸方向の一端541Bは、直線部503Bと滑らかに繋がる。一方側連結部504Bの軸方向の他端542Bは、一方側底面部501Bと滑らかに繋がる。他方側連結部505Bは、直線部503Bの出力側(軸方向他方側)に隣接する。他方側連結部505Bの軸方向の一端551Bは、直線部503Bと滑らかに繋がる。他方側連結部505Bの軸方向の他端552Bは、他方側底面部502Bと滑らかに繋がる。他方側リング50Bの外周面の形状は、直線部503Bの軸方向の中央C1に対して、入力側(軸方向一方側)と出力側(軸方向他方側)とで非対称である。
【0056】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、他方側リング50Bの、中心軸9Bを含む断面において、一対の連結部504B,505Bの他端542B,552B同士を結ぶ対角線の長さD2は、他方側リング50Bの直線部503Bの直径D3以下である。また、他方側リング50Bの、中心軸9Bを含む断面において、一対の連結部504B,505Bの他端542B,552B同士を結ぶ対角線の長さD2は、ケーシング100Bにおける他方側リング50Bの径方向外側に位置する部位の内径(内径=「(D1*2)+D3」)以下である。
【0057】
ここで、上記のとおり、他方側リング50Bは、内周面500Bにおいて遊星ローラ30Bと接触することによって、中心軸9Bに対して傾斜することがある。また、他方側リング50Bは、上記の接触点T1において遊星ローラ30Bと接触することによって、しばしば、当該接触点T1を支点として軸方向に対して傾斜する。本実施形態では、他方側リング50Bが上記の構造を有することにより、他方側リング50Bが接触点T1を支点として中心軸9Bに対して傾斜した場合でも、ケーシング100Bの径方向内側を滑らかに通過しやすく、かつ、一対の連結部504B,505Bの他端542B,552B(角部)がケーシング100Bに接触することを防止できる。また、仮に、他方側リング50Bが中心軸9Bに対して傾斜して、一部がケーシング100Bに接触した場合でも、接触したまま戻らなくなることを抑制できる。この結果、他方側リング50Bがケーシング100Bに接触したまま戻らないことによる、トラクション変速機の回転時の負荷の増大を抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、他方側リング50Bの、中心軸9Bを含む断面において、一対の連結部504B,505Bの一端541B,551B同士を結ぶ対角線の長さD4は、ケーシング100Bにおける他方側リング50Bの径方向外側に位置する部位の内径(内径=「(D1*2)+D3」)以下である。これにより、他方側リング50Bが接触点T1を支点として中心軸9Bに対して傾斜した場合でも、さらに一対の連結部504B,505Bの一端541B,551B(角部)がケーシング100Bに接触することを防止できる。また、仮に、他方側リング50Bが中心軸9Bに対して傾斜して、一部がケーシング100Bに接触した場合でも、接触したまま戻らなくなることをさらに抑制できる。この結果、他方側リング50Bがケーシング100Bに接触したまま戻らないことによる、トラクション変速機の回転時の負荷の増大をさらに抑制できる。
【0059】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態には限定されない。
【0060】
上記の実施形態において、一方側リングの外周面と、他方側リングの外周面とは、互いに略同じ形状を有していた。しかしながら、上記のとおり、一方側リングは、ケーシングに対する軸方向の位置が固定された固定インタナルリングであり、遊星ローラと接触した際でも、中心軸に対して傾斜することが抑制される。このため、一方側リングは、可動インタナルリングである他方側リングと比較して、ケーシングに接触する可能性は低い。そこで、一方側リングの外周面の角部においては、必ずしも、上記の実施形態のような、径方向外側に凸である曲線形状を有する連結部を設ける必要はない。
【0061】
上記の実施形態では、入力側(軸方向一方側)において、ケーシングに対する軸方向の位置が固定された固定インタナルリングが配置され、出力側(軸方向他方側)において、付勢部材によって付勢されつつもケーシングに対して軸方向に移動可能な可動インタナルリングが配置されていた。しかしながら、これらの配置は逆であってもよい。すなわち、入力側(軸方向一方側)において、ケーシングに対して軸方向に移動可能な可動インタナルリングが配置され、出力側(軸方向他方側)において、ケーシングに対する軸方向の位置が固定された固定インタナルリングが配置されてもよい。また、入力側(軸方向一方側)および出力側(軸方向他方側)の双方において、可動インタナルリングがそれぞれ配置されてもよい。
【0062】
図9は、一変形例に係る他方側リング50Cおよびケーシング100Cの部分縦断面図である。上記の実施形態では、他方側リングの外周面における一方側連結部および他方側連結部はそれぞれ、他方側リングの、中心軸を含む断面において、径方向外側に凸である曲線形状を有していた。しかしながら、図9の変形例に示すように、一方側連結部504Cおよび他方側連結部505Cはそれぞれ、他方側リング50Cの、中心軸を含む断面において、径方向外側に凸である曲線CLに加えて、直線SLを含んでいてもよい。
【0063】
上述の実施形態では、キャリアは、複数の収容部を有し、当該複数の収容部において、複数の遊星ローラを直接的に保持していた。しかしながら、キャリアは、キャリア本体と、キャリア本体に固定されつつ軸方向に延びる複数のキャリアピンと、複数のキャリアピンの周囲にそれぞれ固定された複数のすべり軸受とを有していてもよい。そして、複数の遊星ローラは、複数のすべり軸受を介して自転可能に、かつ、中心軸の周囲を公転可能に支持されてもよい。
【0064】
上述の実施形態および変形例では、太陽ローラの周囲に、3個の遊星ローラが周方向に等間隔に配置されていた。しかしながら、トラクション変速機が有する遊星ローラの数は、2個以下であってもよく、4個以上であってもよい。
【0065】
また、トラクション変速機および電動機付きトラクション変速機の細部の構成については、本願の各図に示された構成と相違していてもよい。また、上述の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、トラクション変速機および電動機付きトラクション変速機に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 トラクション変速機
9,9B 中心軸
10 電動機付きトラクション変速機
11 電動機(モータ)
12 静止部
13 回転部
15 入力軸
20 太陽ローラ
30,30B 遊星ローラ
31 円板部
32 一方側軸部
33 他方側軸部
40,40B 一方側リング(固定インタナルリング)
50,50B,50C 他方側リング(可動インタナルリング)
60 キャリア
70 キャリア軸受
80,80B 付勢部材
90 出力軸
91 自転軸
100,100B,100C ケーシング
121 ステータ
131 ロータ
132 シャフト
320 一方側傾斜面
330 他方側傾斜面
400 一方側リングの内周面
500,500B 他方側リングの内周面
501,501B 一方側底面部501
502,502B 他方側底面部
503,503B 直線部
504,504B,504C 一方側連結部
505,505B,505C 他方側連結部
541,541B 一方側連結部の軸方向の一端
542,542B 一方側連結部の軸方向の他端
551,551B 他方側連結部の軸方向の一端
552,552B 他方側連結部の軸方向の他端
C1 直線部の軸方向の中央
CL 曲線
SL 直線
T1 接触点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9