(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092933
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】シートベルト装置、及びシートベルト装置による乗員の拘束方法
(51)【国際特許分類】
B60R 22/14 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
B60R22/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205946
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浮田 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 征幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 俊志
(57)【要約】
【課題】シートベルト装置において、より確実に乗員を保護できる技術を提供する。
【解決手段】シートベルト装置において、シートベルトは、該シートベルトの少なくとも一部として形成され、乗員の身体に当接する帯状の拡幅部であって、乗員の身体が衝撃を受ける場合に通常状態から拡幅するように変形する拡幅部を含み、拡幅部が拡幅した拡幅状態における拡幅部の厚みは、拡幅部が拡幅する前の通常状態における拡幅部の厚み以下となり、且つ、拡幅状態における拡幅部とシートベルトのうち拡幅部を除く部位との接続部分の断面積は、通常状態における該接続部分の断面積と少なくとも同等である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の座席に対して乗員を拘束するシートベルトを含み、前記シートベルトが前記乗物の固定対象物に固定されているシートベルト装置であって、
前記シートベルトは、該シートベルトの少なくとも一部として形成され、前記乗員の身体に当接する帯状の拡幅部であって、前記乗員の身体が衝撃を受ける場合に通常状態から拡幅するように変形する拡幅部を含み、
前記拡幅部が拡幅した拡幅状態における前記拡幅部の厚みは、前記拡幅部が拡幅する前の前記通常状態における前記拡幅部の厚み以下となり、且つ、前記拡幅状態における前記拡幅部と前記シートベルトのうち前記拡幅部を除く部位との接続部分の断面積は、前記通常状態における該接続部分の断面積と少なくとも同等である、
シートベルト装置。
【請求項2】
前記拡幅部は、誘電エラストマー層と前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層とが前記拡幅部の厚さ方向に積層されたアクチュエータ部を含み、
前記通常状態において、前記一対の電極層へ所定の電圧が印加され前記誘電エラストマー層が前記拡幅部の厚さ方向に圧縮されることで、前記拡幅部が拡幅する、
請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記シートベルトが挿通されるタング部材と、
前記乗物に固定され、前記タング部材と係合可能なバックル部材と、を更に備え、
前記シートベルトは、前記アクチュエータ部の前記一対の電極層の夫々に接続されたベルト側導電部を有し、
前記タング部材は、該タング部材に挿通された前記シートベルトの前記ベルト側導電部と接触するように設けられたタング側導電部を有し、
前記タング部材と前記バックル部材とが係合することで、前記シートベルトにより前記乗員が拘束されると共に、前記所定の電圧を前記一対の電極層へ印加するための給電回路と前記タング側導電部とが前記バックル部材を介して接続される、
請求項2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
前記拡幅部は、前記拡幅部の厚さ方向に折り畳まれた折り畳み状態と展開した展開状態との間で状態を変化可能なシート部材と、前記通常状態において前記シート部材の状態を前記折り畳み状態に維持する状態維持部材と、を含み、
前記通常状態において所定の大きさを超える張力が前記シートベルトに作用した場合に前記状態維持部材による状態維持が解除され、前記シート部材が前記展開状態となることで、前記拡幅部が拡幅する、
請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
前記シート部材は、前記折り畳み状態において前記展開状態への復元力を有するように形成されている、請求項4に記載のシートベルト装置。
【請求項6】
前記拡幅部は、前記シートベルトの延在方向における該拡幅部の一端部を含む第1可動部と、該拡幅部の他端部を含むと共に該拡幅部の幅方向において前記第1可動部に隣り合うように設けられた第2可動部と、前記第1可動部と前記第2可動部とを連結する連結部材と、を含み、
前記通常状態において所定の大きさを超える張力が前記シートベルトに作用した場合に、前記第1可動部と前記第2可動部とが前記拡幅部の幅方向において互いに離間するように前記連結部材が回動することで、前記拡幅部が拡幅する、
請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
前記連結部材は、前記拡幅部の厚さ方向に延びる第1回動軸部を介して前記第1可動部と接続されており、且つ、前記拡幅部の厚さ方向に延びる第2回動軸部を介して前記第2可動部と接続されており、
前記通常状態では、前記拡幅部の延在方向において、前記第1回動軸部が前記第2回動軸部よりも前記拡幅部の前記他端部側に位置している、
請求項6に記載のシートベルト装置。
【請求項8】
前記拡幅部は、前記乗員が前記シートベルトにもたれかかることで該シートベルトに作用する張力によって前記通常状態から前記拡幅状態に変化する、
請求項4から7の何れか1項に記載のシートベルト装置。
【請求項9】
前記シートベルトの少なくとも前記拡幅部における前記乗員の身体に対向する面には、緩衝部材が設けられている、請求項1から7の何れか一項に記載のシートベルト装置。
【請求項10】
乗物の座席に対して乗員を拘束するシートベルトを含み、前記シートベルトが前記乗物の固定対象物に固定されているシートベルト装置による乗員の拘束方法であって、
前記該シートベルトの少なくとも一部を、前記乗員の身体に当接する帯状の拡幅部であって、前記乗員の身体が衝撃を受ける場合に通常状態から拡幅するように変形する拡幅部として形成することと、
前記衝撃によって前記乗員の身体が前記シートベルトにもたれかかることで前記拡幅部を含む前記シートベルトに作用する張力によって、前記拡幅部が拡幅した拡幅状態となり、前記拡幅状態における拡幅部の厚みが、前記拡幅部が拡幅する前の前記通常状態における前記拡幅部の厚み以下となり、且つ、前記拡幅状態における前記拡幅部と前記シートベルトのうち前記拡幅部を除く部位との接続部分の断面積が、前記通常状態における該接続部分の断面積と少なくとも同等となることと、
前記拡幅状態における拡幅部と前記乗員の身体との当接面積を前記通常状態における前記当接面積よりも大きくすることで、前記乗員の身体に作用する荷重を分散させることと、
を含む、シートベルト装置による乗員の拘束方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置、及びシートベルト装置による乗員の拘束方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗物に備えられるシートベルト装置は、乗物の衝突時等、乗員の身体が衝撃を受けるような場合にシートベルトによって乗員を拘束することで、乗員を衝撃から保護するように構成されている。シートベルト装置に関連して、特許文献1には、シートベルトの乗員当接領域を前部帯部と後部帯部とによって構成し、緊急時には前部帯部を支持する支持ブロックと後部帯部を支持する支持ブロックとをシートベルトの幅方向に相対変位させ、シートベルトを拡幅することで、乗員に作用する荷重を分散させるシートベルト装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-156902号公報
【特許文献2】特開2014-223841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、ウェビングを幅広とするときに第1の支持ブロックと第2の支持ブロックとの接続部分の断面積が減少する構造となっているため、緊急時に大きな荷重がウェビングに作用した場合には該接続部分に応力が集中し、該接続部分が破損する虞があった。そのため、より確実に乗員を保護できるシートベルト装置が望まれていた。
【0005】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シートベルト装置において、より確実に乗員を保護できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の技術は以下の構成を採用した。すなわち、本開示の技術は、乗物の座席に対して乗員を拘束するシートベルトを含み、前記シートベルトが前記乗物の固定対象物に固定されているシートベルト装置であって、前記シートベルトは、該シートベルトの少なくとも一部として形成され、前記乗員の身体に当接する帯状の拡幅部であって、前記乗員の身体が衝撃を受ける場合に通常状態から拡幅するように変形する拡幅部を含み、前記拡幅部が拡幅した拡幅状態における前記拡幅部の厚みは、前記拡幅部が拡幅する前の前記通常状態における前記拡幅部の厚み以下となり、且つ、前記拡幅状態における前記拡幅部と前記シートベルトのうち前記拡幅部を除く部位との接続部分の断面積は、前記通常状態における該接続部分の断面積と少なくとも同等である、シートベルト装置である。
【0007】
このようなシートベルト装置によると、拡幅部が拡幅状態となって乗員の身体との接触面積を大きくすることで、乗員の身体に作用する荷重を分散すると共に乗員の身体が前のめりになることを緩和できる。これにより、衝撃による乗員の身体への負担を低減できる。その結果、乗員を衝撃から保護できる。更に、拡幅状態における拡幅部と前記シートベルトのうち前記拡幅部を除く部位との接続部分の断面積が、通常状態における接続部分の断面積と少なくとも同等となることから、該接続部分の強度低下を伴うことなく拡幅部が拡幅状態となる。これにより、該接続部分の破損を抑制できる。
【0008】
また、本開示のシートベルト装置において、前記拡幅部は、誘電エラストマー層と前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層とが前記拡幅部の厚さ方向に積層されたアクチュエータ部を含み、前記通常状態において、前記一対の電極層へ所定の電圧が印加され前記誘電エラストマー層が前記拡幅部の厚さ方向に圧縮されることで、前記拡幅部が拡幅してもよい。
【0009】
また、本開示のシートベルト装置は、前記シートベルトが挿通されるタング部材と、前記乗物に固定され、前記タング部材と係合可能なバックル部材と、を更に備え、前記シートベルトは、前記アクチュエータ部の前記一対の電極層の夫々に接続されたベルト側導電部を有し、前記タング部材は、該タング部材に挿通された前記シートベルトの前記ベルト側導電部と接触するように設けられたタング側導電部を有し、前記タング部材と前記バックル部材とが係合することで、前記シートベルトにより前記乗員が拘束されると共に、前記所定の電圧を前記一対の電極層へ印加するための給電回路と前記タング側導電部とが前記バックル部材を介して接続されるように構成されてもよい。
【0010】
また、本開示のシートベルト装置において、前記拡幅部は、前記拡幅部の厚さ方向に折り畳まれた折り畳み状態と展開した展開状態との間で状態を変化可能なシート部材と、前記通常状態において前記シート部材の状態を前記折り畳み状態に維持する状態維持部材と、を含み、前記通常状態において所定の大きさを超える張力が前記シートベルトに作用した場合に前記状態維持部材による状態維持が解除され、前記シート部材が前記展開状態となることで、前記拡幅部が拡幅してもよい。
【0011】
また、本開示のシートベルト装置において、前記シート部材は、前記折り畳み状態において前記展開状態への復元力を有するように形成されてもよい。
【0012】
また、本開示のシートベルト装置において、前記拡幅部は、前記シートベルトの延在方向における該拡幅部の一端部を含む第1可動部と、該拡幅部の他端部を含むと共に該拡幅部の幅方向において前記第1可動部に隣り合うように設けられた第2可動部と、前記第1可動部と前記第2可動部とを連結する連結部材と、を含み、前記通常状態において所定の大きさを超える張力が前記シートベルトに作用した場合に、前記第1可動部と前記第2可動部とが前記拡幅部の幅方向において互いに離間するように前記連結部材が回動することで、前記拡幅部が拡幅してもよい。
【0013】
また、本開示のシートベルト装置において、前記連結部材は、前記拡幅部の厚さ方向に延びる第1回動軸部を介して前記第1可動部と接続されており、且つ、前記拡幅部の厚さ方向に延びる第2回動軸部を介して前記第2可動部と接続されており、前記通常状態では、前記拡幅部の延在方向において、前記第1回動軸部が前記第2回動軸部よりも前記拡幅部の前記他端部側に位置してもよい。
【0014】
また、本開示のシートベルト装置において、前記拡幅部は、前記乗員が前記シートベルトにもたれかかることで該シートベルトに作用する張力によって前記通常状態から前記拡幅状態に変化するように構成されてもよい。
【0015】
また、本開示のシートベルト装置において、前記シートベルトの少なくとも前記拡幅部における前記乗員の身体に対向する面には、緩衝部材が設けられてもよい。
【0016】
また、本開示の技術は、シートベルト装置による乗員の拘束方法としても特定できる。つまり、本開示の技術は、前記該シートベルトの少なくとも一部を、前記乗員の身体に当接する帯状の拡幅部であって、前記乗員の身体が衝撃を受ける場合に通常状態から拡幅す
るように変形する拡幅部として形成することと、前記衝撃によって前記乗員の身体が前記シートベルトにもたれかかることで前記拡幅部を含む前記シートベルトに作用する張力によって、前記拡幅部が拡幅した拡幅状態となり、前記拡幅状態における拡幅部の厚みが、前記拡幅部が拡幅する前の前記通常状態における前記拡幅部の厚み以下となり、且つ、前記拡幅状態における前記拡幅部と前記シートベルトのうち前記拡幅部を除く部位との接続部分の断面積が、前記通常状態における該接続部分の断面積と少なくとも同等となることと、前記拡幅状態における拡幅部と前記乗員の身体との当接面積を前記通常状態における前記当接面積よりも大きくすることで、前記乗員の身体に作用する荷重を分散させることと、を含む、シートベルト装置による乗員の拘束方法であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る技術によれば、シートベルト装置において、より確実に乗員を保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る車両用シートベルト装置が設けられた車両用シートの斜視図である。
【
図4】
図4は、通常状態における拡幅部の断面図である。
【
図5】
図5は、拡幅状態における拡幅部の断面図である。
【
図7】
図7は、スライド孔内における一対のタング側導電部と拡幅部との接続状態を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係るシートベルト装置の拡幅部の通常状態を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態2に係るシートベルト装置の拡幅部の拡幅状態を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態2の変形例1に係るシートベルト装の拡幅部の通常状態を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態2に係るシートベルト装置の拡幅部の拡幅状態を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態2の変形例2に係るシートベルト装置の拡幅部の通常状態を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態3に係るシートベルト装置の拡幅部の通常状態を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、実施形態3に係るシートベルト装置の拡幅部の拡幅状態を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、実施形態3の変形例に係るシートベルト装置の拡幅部の通常状態を示す斜視図である。
【
図16】
図16は、実施形態3の変形例に係るシートベルト装置の拡幅部の拡幅状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、以下に説明する実施形態は、本開示の技術を車両用のシートベルト装置に適用したものであるが、本開示の技術の適用対象は車両用のシートベルト装置に限定されない。車両は本
開示に係る乗物の一例であり、本開示の技術は車両以外の乗物のシートベルト装置に対しても適用できる。
【0020】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る車両用シートベルト装置(以下、シートベルト装置)1000が設けられた車両用シートS10の斜視図である。以下の説明における前後上下左右の向きは、特に記載が無ければ車両用シートS10における前後上下左右の向きとする。
図1における矢印は、車両用シートS10における前後上下左右の向きを表している。シートベルト装置1000は、車両の乗員が着座する車両用シートS10(乗物の座席の一例)に設けられており、車両の衝突時や急ブレーキによる車両の急減速時等、乗員の身体が衝撃を受けるような場合にシートベルト100によって乗員を車両用シートS10に対して拘束することで、乗員を衝撃から保護するように構成されている。
【0021】
[装置構成]
図1に示すように、シートベルト装置1000は、シートベルト100と、リトラクタ200と、ベルトアンカー300と、タング部材400と、バックル部材500と、ショルダーアンカー600と、を含む。シートベルト100は、帯状に形成されており、乗物の座席に対して乗員を拘束する。リトラクタ200は、車両のピラー(不図示)の下部に設けられ、シートベルト100の不使用時にシートベルト100の一端部を巻き取ることでシートベルト100を収納する。ベルトアンカー300は、シートベルト100の他端部を車両用シートS10のシートフレーム(固定対象物の一例)に固定する。タング部材400は、シートベルト100が挿通されることで、シートベルト100にスライド可能に装着される。バックル部材500は、車体に固定されており、タング部材400と係合可能である。ショルダーアンカー600は、車両のピラー(不図示)の上部に設けられ、シートベルト100をスライド可能に支持する。バックル部材500がタング部材400と係合することで、タング部材400が固定され、シートベルト100により乗員が拘束される。ここで、
図1に示すように、シートベルト100は、拡幅部10とベルト部20とを含んで形成されている。
【0022】
図2は、拡幅部10の通常状態(拡幅状態前)を示す図である。
図3は、拡幅部10の拡幅状態を示す図である。本実施形態に係る拡幅部10は、符号M1で示す乗員の身体が衝撃を受ける場合に、
図2に示す通常状態から
図3に示す拡幅状態に変形し、通常状態よりも幅広となることで、乗員M1の身体との接触面積を大きくし、乗員M1の身体に作用する荷重を分散すると共に乗員M1の身体が前のめりになることを緩和できる。これにより、衝撃による乗員M1の身体への負担を低減できる。
【0023】
図2に示すように、シートベルト100は、タング部材400を境に、乗員M1の上半身を拘束するショルダーベルト110と乗員M1の腰部を拘束するラップベルト120とに区分される。拡幅部10は、乗員M1の身体に当接するように、シートベルト100の一部として帯状に形成されている。本実施形態では、拡幅部10は、ショルダーベルト110からラップベルト120に亘って形成されている。つまり、拡幅部10がタング部材400に挿通している。但し、本開示に係る拡幅部の範囲はこれに限定されない。拡幅部は、乗員の身体に当接するようにシートベルトの少なくとも一部として形成されていればよい。例えば、シートベルトの全体が拡幅部として形成されてもよい。また、ショルダーベルトのみが拡幅部として形成されてもよい。ここで、シートベルト100の延在方向における拡幅部10の両端部のうち、リトラクタ200側(つまり、シートベルト100の上記一端部側)の端部を第1端部101とし、ベルトアンカー300側(つまり、シートベルト100の上記他端部側)の端部を第2端部102とする。ベルト部20は、シートベルト100における拡幅部10を除く部位である。ベルト部20は、一般的なシートベルトと同様に、帯状の布部材で形成されており、拡幅部10のような拡幅機能を有しない
。拡幅部10の第1端部101及び第2端部102には、夫々、ベルト部20が接続されている。
図2の符号C1は拡幅部10の第1端部101とベルト部20との接続部分を示し、符号C2は拡幅部10の第2端部102とベルト部20との接続部分を示す。
【0024】
図4は、通常状態(拡幅状態前)における拡幅部10の断面図である。
図4では、
図2のA-A断面が図示されている。つまり、
図4では、拡幅部10の断面であってシートベルト100の延在方向に直交する断面が図示されている。また、
図5は、拡幅状態における拡幅部10の断面図である。
図4の符号S1は拡幅部10の前面を示し、符号S2は拡幅部10の後面を示す。後面S2は、乗員M1の身体に対向する面であり、乗員M1の身体に当接する面である。また、
図4における矢印は、拡幅部10における幅方向及び厚さ方向を表している。
【0025】
図4に示すように、拡幅部10は、アクチュエータ部1とベルト側導電部2とカバー部3とを含んで構成されている。アクチュエータ部1は、拡幅部10の拡幅機能を実現するための構成である。アクチュエータ部1は、誘電エラストマー層11と誘電エラストマー層11を挟む一対の電極層12,13とを含み、これらが拡幅部10の厚み方向に積層されることで形成されている。
図4に示すように、電極層12は拡幅部10の前面S1側に設けられ、電極層13は拡幅部10の後面S2側に設けられている。
【0026】
誘電エラストマー層11は、絶縁性を有し、誘電率が高く、弾性変形可能な誘電性高分子によって、シート状に形成されている。誘電エラストマー層11の材料としては、アクリルゴムやシリコーンゴム等の誘電性高分子が挙げられる。但し、本開示に係る誘電エラストマー層の材料は、これらに限定されない。
【0027】
一対の電極層12,13は、導電性を有し、誘電エラストマー層11の弾性変形に応じて伸縮可能なシート状の電極である。一対の電極層12,13は、弾性変形可能な主材に導電性を有するフィラーが混入されることで形成される。このような導電性フィラーとしては、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、導電性金属フィラー等が挙げられる。但し、本開示に係る電極層の材料は、これらに限定されない。
【0028】
図4に示すように、ベルト側導電部2は、導電性を有する一対の導電板21,22を含んでいる。一対の導電板21,22は、拡幅部10の幅方向においてアクチュエータ部1を挟むように互いに反対側に設けられており、拡幅部10の厚さ方向に延びている。導電板21は電極層12と略L字状を形成するように電極層12の側端部に接続されており、導電板22は電極層13と略L字状を形成するように電極層13の側端部に接続されている。
【0029】
カバー部3は、アクチュエータ部1及びベルト側導電部2を覆う部材であり、絶縁性を有すると共に弾性変形可能に形成されている。カバー部3の材料は特に限定されないが、例えば、伸縮性を有する布材料や、アクリルゴムやシリコーンゴム等の樹脂材料が挙げられる。
図4に示すように、カバー部3は、前面カバー31と後面カバー32と一対の側面カバー33,34とを含む。前面カバー31は、拡幅部10の前面S1側に設けられ、電極層12を覆っている。後面カバー32は、拡幅部10の後面S2側に設けられ、電極層13を覆っている。一対の側面カバー33,34は、夫々、拡幅部10の幅方向両側に設けられ、一対の導電板21,22を覆っている。側面カバー33は、前面カバー31の一側端部に接続された第1側面カバー331と後面カバー32の一側端部に接続された第2側面カバー332とを含む。第1側面カバー331と第2側面カバー332は、その一部同士が拡幅部10の幅方向において重なっている。同様に、側面カバー34は、前面カバー31の他側端部に接続された第1側面カバー341と後面カバー32の他側端部に接続された第2側面カバー342とを含む。第1側面カバー341と第2側面カバー342は
、その一部同士が拡幅部10の幅方向において重なっている。
【0030】
図6は、タング部材400を示す図である。
図6(A)はタング部材400を拡幅部10の厚さ方向から視認した図、
図6(B)は
図6(A)のB-B断面図である。
図6(A)に示すように、タング部材400は、ベース部401とスライド孔402と一対のタング側導電部403,404と、タングプレート405とを含む。ベース部401は、樹脂製の部材である。ベース部401には、シートベルト100(即ち、拡幅部10)が挿通される孔であるスライド孔402が形成されている。タングプレート405は、ベース部401に接続され、バックル部材500と係合する金属製の部材である。一対のタング側導電部403,404は、導電性を有する線状の部材である。
図6(A)の点線は、ベース部401の内部における一対のタング側導電部403,404を表している。
図6(A)及び
図6(B)に示すように、一対のタング側導電部403,404は、タングプレート405の側縁に沿って延び、ベース部401の内部を通り、スライド孔402の内部にその先端を突出させている。ここで、
図6(B)に示すように、タングプレート405と一対のタング側導電部403,404との間には、絶縁性を有する絶縁層406が介装されている。また、本実施形態では、車両に設けられ、アクチュエータ部1を動作させるための所定の電圧を生成する給電回路(不図示)がバックル部材500と接続されている。そして、タング部材400のタングプレート405とバックル部材500とが係合することで、該給電回路と一対のタング側導電部403,404とがバックル部材500を介して接続される。
【0031】
図7は、スライド孔402内における一対のタング側導電部403,404と拡幅部10との接続状態を示す図である。
図7(A)は斜視図、
図7(B)は
図7(A)のC-C断面図である。
図7(B)に示すように、タング側導電部403は、側面カバー33の第1側面カバー331及び第2側面カバー332の一部を捲り上げるように変形させることで第1側面カバー331と第2側面カバー332との間に差し込まれ、ベルト側導電部2の導電板21に接触している。同様に、タング側導電部404は、側面カバー34の第1側面カバー341及び第2側面カバー342の一部を捲り上げるように変形させることで第1側面カバー341と第2側面カバー342との間に差し込まれ、ベルト側導電部2の導電板22に接触している。タング側導電部403がベルト側導電部2の導電板21に接触し、タング側導電部404がベルト側導電部2の導電板22に接触することで、バックル部材500及びタング部材400を介して給電回路とベルト側導電部2とが接続され、所定の電圧を一対の電極層12,13へ印加することが可能な状態となっている。タング部材400が拡幅部10をスライドする場合には、タング側導電部403が導電板21に摺接し、タング側導電部404が導電板22に摺接することで、タング側導電部403,404と導電板21,22との接触状態が維持される。また、上述のように、カバー部3は弾性変形可能に形成されていることから、一対のタング側導電部403,404が差し込まれていない部分では、
図4及び
図5に示すように一対の側面カバー33,34によって一対の導電板21,22が覆われた状態が維持され、絶縁性が保たれている。
【0032】
[動作]
以下、拡幅部10が通常状態から拡幅状態に至る動作について説明する。
図2及び
図4に示す通常状態において、図示しない衝撃センサからの信号に基づいて車両の衝突による衝撃や急ブレーキ等の急減速による衝撃をECUが検知又は予知すると、給電回路に作動電流が供給される。これにより、給電回路によって所定の電圧が一対の電極層12,13へ印加される。一対の電極層12,13に所定の電圧が印加されると、一対の電極層12,13間に静電力が発生する。この静電力により、一対の電極層12,13同士が引き合い、誘電エラストマー層11が厚さ方向に圧縮されて平面方向に伸長する。これにより、拡幅部10は、
図3及び
図5に示すように通常状態よりも幅広となった拡幅状態となる。これにより、拡幅状態における拡幅部10と乗員M1の身体との当接面積が通常状態にお
ける拡幅部10と乗員M1の身体との当接面積よりも大きくなり、乗員M1の身体に作用する荷重が分散される。
【0033】
ここで、誘電エラストマー層11が厚さ方向に圧縮されることから、拡幅状態における拡幅部10の厚みは、拡幅部10が拡幅する前の通常状態における拡幅部10の厚み未満となっている。また、拡幅部10は、静電力を利用したアクチュエータ部1の動作により拡幅することから、拡幅部10とベルト部20との接続部分C1,C2の形態は変化しない。そのため、拡幅状態における接続部分C1の断面積は通常状態における接続部分C1の断面積と同等であり、拡幅状態における接続部分C2の断面積は通常状態における接続部分C1の断面積と同等である。なお、ここでいう「接続部分の断面積」とは、接続部分の、シートベルト100の延在方向に直交する断面の面積のことを指す。
【0034】
一対の電極層12,13への電圧の印加が停止すると、誘電エラストマー層11が自身の弾性により元の形状に復元することで、拡幅部10が通常状態に戻る。なお、本実施例での作動は、急減速が発生する前(例えば、障害検知センサで、車両が障害物との衝突を回避できないと判断した段階)に作動させてもよい。
【0035】
[作用・効果]
以上のように、本実施形態に係るシートベルト装置1000のシートベルト100は、該シートベルト100の少なくとも一部として形成され、乗員M1の身体に当接する帯状の拡幅部10を含んでいる。そして、拡幅部10は、乗員M1の身体が衝撃を受ける場合には通常状態から拡幅するように変形することで拡幅状態となるように構成されている。
【0036】
このようなシートベルト装置1000によると、拡幅部10が拡幅状態となって乗員M1の身体との接触面積を大きくすることで、乗員M1の身体に作用する荷重を分散すると共に乗員M1の身体が前のめりになることを緩和できる。これにより、衝撃による乗員M1の身体への負担を低減できる。その結果、乗員M1を衝撃から保護できる。
【0037】
更に、拡幅状態における拡幅部10の厚みが通常状態における拡幅部10の厚み未満となることから、つまり、拡幅状態において拡幅部10が薄くなることから、拡幅部10の柔軟性を高めることができる。これにより、拡幅部10が乗員M1の身体に対してフィットし(隙間なく当接し)、拡幅部10と乗員M1の身体との接触面積を増やすことができる。これにより、拡幅部10に荷重斑が生じることを抑制し、乗員M1の身体への負担を低減できる。なお、本開示の技術は、拡幅状態における拡幅部の厚みが通常状態における厚み以下であればよく、拡幅状態と通常状態において拡幅部の厚みが同等であってもよい。
【0038】
ここで、シートベルト100によって乗員M1の身体を衝撃から保護する際には、乗員M1の身体がシートベルト100にもたれかかることで、シートベルト100に大きな荷重が作用する。このとき、仮に、拡幅部10が拡幅状態となることで接続部分C1,C2の断面積が通常状態における断面積よりも小さくなる場合には、接続部分C1,C2の強度が低下する可能性がある。その結果、接続部分C1,C2に集中する荷重により接続部分C1,C2が破損することが懸念される。これに対して、本実施形態では、拡幅部10の拡幅状態における接続部分C1,C2の断面積は通常状態における接続部分C1,C2の断面積と同等である。これにより、接続部分C1,C2の強度低下を伴うことなく拡幅部10が拡幅状態となるため、接続部分C1,C2の破損を抑制できる。なお、本開示の技術は、拡幅状態における接続部分の断面積が通常状態における断面積と少なくとも同等であればよく、拡幅状態における該断面積が通常状態における該断面積よりも大きくてもよい。
【0039】
また、本実施形態に係る拡幅部10は、誘電エラストマー層11と誘電エラストマー層を挟む一対の電極層12,13とが拡幅部10の厚さ方向に積層されたアクチュエータ部1を含んでいる。そして、通常状態において、一対の電極層12,13へ所定の電圧が印加され誘電エラストマー層11が拡幅部10の厚さ方向に圧縮されることで、拡幅部10が拡幅状態となるように構成されている。これによれば、アクチュエータ部1の駆動により拡幅部10が拡幅状態となることから、接続部分C1,C2の断面積の減少を伴うことなく拡幅部10を拡幅状態とすることができる。なお、拡幅状態となることで拡幅部10の厚みは薄くなるが、それと同時に拡幅部10が拡幅するため、拡幅部10の断面積が大きく減少することがない。そのため、拡幅状態となることによる拡幅部10の引っ張り荷重に対する強度低下の懸念はない。
【0040】
更に、本実施形態に係るシートベルト装置1000は、シートベルト100が挿通されるタング部材400と、車両に固定され、タング部材400と係合可能なバックル部材500と、を更に備えている。また、シートベルト100は、アクチュエータ部1の一対の電極層12,13の夫々に接続されたベルト側導電部2(一対の導電板21,22)を有しており、タング部材400は、該タング部材400に挿通されたシートベルト100のベルト側導電部2と接触するように設けられた一対のタング側導電部403,404を有している。そして、タング部材400とバックル部材500とが係合することで、所定の電圧を一対の電極層12,13へ印加するための給電回路とタング側導電部403,404とがバックル部材500を介して接続されるように構成されている。これにより、所定の電圧を一対の電極層12,13へ印加し、アクチュエータ部1を駆動することができる。
【0041】
<実施形態2>
以下、実施形態2に係るシートベルト装置について説明する。
図8は、実施形態2に係るシートベルト装置1000Aの拡幅部10Aの通常状態を示す図である。
図8(A)は拡幅部10Aをその厚さ方向から視認した図、
図8(B)は
図8(A)のD-D断面図である。
図9は、実施形態2に係るシートベルト装置1000Aの拡幅部10Aの拡幅状態を示す図である。
図9(A)は拡幅部10Aをその厚さ方向から視認した図、
図9(B)は
図9(A)のE-E断面図である。実施形態2の説明では、
図1~
図7で説明した実施形態1に係るシートベルト装置1000との相違点を中心に説明し、シートベルト装置1000と同様の点については詳細な説明は割愛する。
【0042】
図8(B)及び
図9(B)に示すように、本実施形態に係る拡幅部10Aは、シート部材5と状態維持部材6とを含む。シート部材5は、
図8に示すような拡幅部10Aの厚さ方向に折り畳まれた折り畳み状態と、
図9に示すような展開した展開状態との間で状態を変化可能である。
図9(A)に示すように、シート部材5は、拡幅部10Aの延在方向(シートベルト100Aの延在方向)に沿って延びる第1ヒンジ部H1及び第2ヒンジ部H2を境に、第1領域A1と第2領域A2と第3領域A3に区分される。第2領域A2は第1ヒンジ部H1を介して第1領域A1の一側端に接続されており、第3領域A3は第2ヒンジ部H2を介して第1領域A1の他側端に接続されている。
図8(B)に示すように、シート部材5の折り畳み状態では、第2領域A2及び第3領域A3が第1領域A1の前面に重なっている。
図9(B)に示すように、第2領域A2が第1ヒンジ部H1を軸として第1領域A1に対して回動し、第3領域A3が第2ヒンジ部H2を軸として第1領域A1に対して回動し、第1領域A1と第2領域A2及び第3領域A3が開くことで、シート部材5が折り畳み状態から展開状態となる。
【0043】
更に、シート部材5は、シート状の布部材である本体部51と本体部51に取り付けられたリブ52とを含む。リブ52は、弾性を有すると共に自然状態において直線形状となる線材であり、形状記憶合金により形成されている。本体部51には、複数のリブ52が
拡幅部10Aの幅方向に沿って延びるように取り付けられている。そのため、リブ52は第2領域A2、第1領域A1、第3領域A3にわたって本体部51と当接している。折り畳み状態においては、リブ52が本体部51と共に折り畳まれることで、リブ52には直線形状に戻ろうとする復元力が作用している。これにより、シート部材5は、折り畳み状態において展開状態への復元力を有するように形成されている。
【0044】
状態維持部材6は、通常状態においてシート部材5の状態を折り畳み状態に維持するための部材である。状態維持部材6は、通常状態において所定の大きさを超える張力がシートベルト100Aに作用した場合には該状態維持部材6による状態維持が解除されるように形成されている。本実施形態では、状態維持部材6は、折り畳み状態にあるシート部材5の第2領域A2と第3領域A3とを接続する面ファスナーである。シートベルト100Aに作用する張力により第2領域A2と第3領域A3との接続が解除されることで、面ファスナーが外れ、状態維持が解除される。
【0045】
拡幅部10Aの通常状態において、車両の衝突による衝撃や急ブレーキ等の急減速による衝撃により乗員M1の身体がシートベルト100にもたれかかることで所定の大きさを超える張力がシートベルト100Aに作用すると、状態維持部材6による状態維持が解除される。そうすると、リブ52の復元力によりシート部材5が展開状態となることで、拡幅部10Aが拡幅状態となる。これにより、乗員M1の身体に作用する荷重を分散すると共に乗員M1の身体が前のめりになることを緩和できる。その結果、乗員M1を衝撃から保護できる。また、シート部材5が折り畳み状態から展開状態となることで拡幅部10Aが通常状態から拡幅状態となるため、拡幅状態における拡幅部10Aの厚みは通常状態における拡幅部10Aの厚み未満となる。つまり、拡幅状態において拡幅部10Aが薄くなることから、拡幅部10Aの柔軟性を高めることができ、拡幅部10Aと乗員M1の身体との接触面積を増やすことができる。これにより、乗員M1の身体への負担を低減できる。また、本実施形態では、シート部材5が折り畳み状態から展開状態となることで拡幅部10Aが拡幅状態となるように構成されていることから、拡幅部10Aの拡幅状態における接続部分C1,C2の断面積は通常状態における接続部分C1,C2の断面積と同等である。これにより、接続部分C1,C2の強度低下を伴うことなく拡幅部10Aが拡幅状態となるため、接続部分C1,C2の破損を抑制できる。
【0046】
また、本実施形態に係る拡幅部10Aは、乗員M1がシートベルト100Aにもたれかかることで該シートベルト100Aに作用する張力によって通常状態から拡幅状態に変化する。つまり、乗員による荷重を利用して拡幅部10Aが拡幅するため、別途駆動源を設ける必要がない。
【0047】
なお、本開示の状態維持部材は面ファスナーに限定されない。例えば、面ファスナーに代えてスナップボタンを用いてもよい。また、面ファスナーに代えて、ジップロック(登録商標)等のジッパー付きプラスチック製袋に用いられるジッパーを用いてもよい。また、糸で縫い付けてシート部材を折り畳み状態に維持し、シートベルトに作用する張力により糸が切断されることで状態維持が解除されてもよい。糸を状態維持部材とする場合、伸縮性を有する部材でシート部材を形成し、シートベルトに作用する張力によりシート部材が一定の範囲を超えて伸びた場合に、糸が切断されるように構成してもよい。
【0048】
[実施形態2の変形例]
以下、実施形態2の変形例に係るシートベルト装置について説明する。変形例の説明では、シートベルト装置1000Aとの相違点を中心に説明し、シートベルト装置1000Aと同様の点については詳細な説明は割愛する。
【0049】
[実施形態2の変形例1]
図10は、実施形態2の変形例1に係るシートベルト装置1000Bの拡幅部10Bの通常状態を示す図である。
図11は、実施形態2に係るシートベルト装置1000Bの拡幅部10Bの拡幅状態を示す図である。
図10及び
図11では、拡幅部10Bをその厚さ方向から視認した状態が図示されている。
【0050】
図10及び
図11に示すように、本実施形態の変形例1に係る拡幅部10Bは、シート部材5Bと状態維持部材6Bとを含む。シート部材5Bは、
図10に示すような拡幅部10Bの厚さ方向に折り畳まれた折り畳み状態と、
図11に示すような展開した展開状態との間で状態を変化可能である。シート部材5Bは、拡幅部10Bの延在方向(シートベルト100Bの延在方向)に沿って延びるヒンジ部H3を介して接続された、第1シート部53と第2シート部54とを含む。第1シート部53は、拡幅部10Bの第1端部101を含み、接続部分C1を介してベルト部20に接続されている。第2シート部54は、拡幅部10Bの第2端部102を含み、接続部分C2を介してベルト部20に接続されている。シート部材5Bの折り畳み状態では、第2シート部54が第1シート部53の前面に重なっている。第2シート部54がヒンジ部H3を軸として第1シート部53に対して回動し、第1シート部53と第2シート部54が開くことで、シート部材5Bが折り畳み状態から展開状態となる。シート部材5Bは、超弾性合金を含む繊維にナイロン繊維を巻き付けた複合繊維により形成されており、超弾性合金を含む繊維は直線状に形状記憶されている。そのため、シート部材5Bは、折り畳み状態において展開状態への復元力を有するように形成されている。
【0051】
本実施形態の変形例1に係る状態維持部材6Bは、通常状態におけるシート部材5Bの状態を折り畳み状態に維持し、所定の大きさを超える張力がシートベルト100Bに作用した場合には状態維持が解除されるように形成されている。状態維持部材6Bは、ジップロック(登録商標)等のジッパー付きプラスチック製袋に用いられるジッパーである。第1シート部53と第2シート部54の夫々に、複数の状態維持部材6Bが拡幅部10Bの幅方向に沿って延びるように取り付けられている。第1シート部53の状態維持部材6Bと第2シート部54の状態維持部材6Bとが係合することで、折り畳み状態にあるシート部材5Bの第1シート部53と第2シート部54とが接続され、通常状態におけるシート部材5Bの状態が折り畳み状態に維持される。
【0052】
シートベルト装置1000Bでは、通常状態において、所定の大きさを超える張力がシートベルト100Bに作用すると、状態維持部材6Bの係合が外れることで該状態維持部材6Bによる状態維持が解除され、復元力によりシート部材5Bが展開状態となることで、拡幅部10Bが拡幅状態となる。これにより、乗員M1を衝撃から保護できる。拡幅状態における拡幅部10Bの厚みは通常状態における拡幅部10Bの厚み未満となり、拡幅部10Bの拡幅状態における接続部分C1,C2の断面積は通常状態における接続部分C1,C2の断面積と同等である。
【0053】
[実施形態2の変形例2]
図12は、実施形態2の変形例2に係るシートベルト装置1000Cの拡幅部10Cの通常状態を示す図である。
図12では、拡幅部10Cの断面であってシートベルト100Cの延在方向に直交する断面が図示されている。
【0054】
図12に示すように、本実施形態の変形例2に係る拡幅部10Cには、乗員M1の身体に対向する面に緩衝部材30が設けられている。緩衝部材30の材料は特に限定されないが、衝撃吸収性軟質ポリウレタンフォーム等が挙げられる。緩衝部材30により、乗員M1に対する衝撃を緩和することができる。また、緩衝部材30が乗員M1の身体に対向する面に設けられているため、緩衝部材30が拡幅部10Cの展開に干渉することがない。緩衝部材30は、拡幅部10Cと共に布製のカバー部材により覆われていてもよい。なお
、本開示の技術は、シートベルトの少なくとも拡幅部における乗員の身体に対向する面に緩衝部材が設けられていればよく、シートベルトのうち拡幅部を除く部分に緩衝部材が設けられていてもよい。
【0055】
<実施形態3>
以下、実施形態3に係るシートベルト装置について説明する。
図13は、実施形態3に係るシートベルト装置1000Dの拡幅部10Dの通常状態を示す斜視図である。
図14は、実施形態3に係るシートベルト装置1000Dの拡幅部10Dの拡幅状態を示す斜視図である。実施形態3の説明では、
図1~
図7で説明した実施形態1に係るシートベルト装置1000との相違点を中心に説明し、シートベルト装置1000と同様の点については詳細な説明は割愛する。
【0056】
図13及び
図14に示すように、実施形態3に係る拡幅部10Dは、第1可動部7と、拡幅部10Dの幅方向において第1可動部7に隣り合うように設けられた第2可動部8と、第1可動部7と第2可動部8とを連結する複数の連結部材9と、を含む。第1可動部7及び第2可動部8は、布部材により形成されている。第1可動部7は、拡幅部10Dの第1端部101を含み、接続部分C1を介してベルト部20に接続されている。第1可動部7は、接続部分C1からシートベルト100Dの延在方向に沿って延びている。第2可動部8は、拡幅部10Dの第2端部102を含み、接続部分C2を介してベルト部20に接続されている。第2可動部8は、接続部分C2からシートベルト100Dの延在方向に沿って延びている。第1可動部7の先端部71は第2可動部8の基端部82に接続されており、第2可動部8の先端部81は第1可動部7の基端部72に接続されている。連結部材9は、金属製の板部材である。連結部材9は、拡幅部10Dの厚さ方向に延びる第1回動軸部91を介して第1可動部7と接続されており、且つ、拡幅部10Dの厚さ方向に延びる第2回動軸部92を介して第2可動部8と接続されている。連結部材9は、第1回動軸部91及び第2回動軸部92回りに回動可能となっている。なお、拡幅部10Dは、図示しない布製のカバー部材により覆われている。
【0057】
拡幅部10Dは、
図13に示す通常状態から第1可動部7と第2可動部8とが拡幅部10Dの幅方向において互いに離間するように連結部材9が回動することで、
図14に示す拡幅状態となる。ここで、拡幅部10Dは、付勢部材(不図示)を有しており、付勢部材は、拡幅部10Dを通常状態に維持するように、連結部材9を付勢している。
図13に示すように、通常状態では、第1可動部7の先端部71付近が折り畳まれて折り畳み部73が形成されており、第2可動部8の先端部81付近が折り畳まれて折り畳み部83が形成されている。また、通常状態では、拡幅部10Dの延在方向(シートベルト100Dの延在方向)において、第1回動軸部91が連結部材9上に存在する第2回動軸部92よりも拡幅部10Dの第2端部102側に位置している。そのため、付勢部材の付勢力を上回る張力がシートベルト100Dに作用することで第1可動部7と第2可動部8とが互いに反対方向へ引っ張られると、連結部材9が第1回動軸部91及び第2回動軸部92回りに回動するようになっている。付勢部材は特に限定されないが、例えば、スプリング等が挙げられる。
【0058】
通常状態において、衝撃により乗員M1の身体がシートベルト100Dにもたれかかることで所定の大きさを超える張力がシートベルト100Dに作用すると、連結部材9が第1回動軸部91及び第2回動軸部92回りに回動する。これにより、第1可動部7と第2可動部8とが拡幅部10Dの幅方向において互いに離間し、拡幅部10Dが拡幅状態となる。ここで、上述のように、第1可動部7の先端部71が第2可動部8の基端部82に接続され、第2可動部8の先端部81が第1可動部7の基端部72に接続されている。そして、
図14に示すように、拡幅部10Dが拡幅状態となることで、第1可動部7と第2可動部8が伸び切った状態となっている。そのため、拡幅状態において連結部材9がこれ以
上回動して第1可動部7と第2可動部8とが接近することが規制されている。拡幅状態において、シートベルト100Dに作用する張力が所定の大きさを下回ると、付勢部材の付勢力により連結部材9が回動することで、拡幅部10Dが通常状態に戻る。
【0059】
本実施形態においても、拡幅部10Dが拡幅状態となることで、乗員M1の身体に作用する荷重を分散すると共に乗員M1の身体が前のめりになることを緩和できる。その結果、乗員M1を衝撃から保護できる。また、第1可動部7と第2可動部8とを幅方向において離間させることで拡幅部10Dが通常状態から拡幅状態となるため、拡幅状態における拡幅部10Dの厚みは通常状態における拡幅部10Dと同等となる。また、拡幅部10Dの拡幅状態における接続部分C1,C2の断面積は通常状態における接続部分C1,C2の断面積と同等であり、接続部分C1,C2の強度低下を伴うことなく拡幅部10Dが拡幅状態となるため、接続部分C1,C2の破損を抑制できる。
【0060】
また、本実施形態に係る拡幅部10Dは、乗員M1がシートベルト100Dにもたれかかることで該シートベルト100Dに作用する張力によって通常状態から拡幅状態に変化する。つまり、乗員による荷重を利用して拡幅部10Dが拡幅するため、別途駆動源を設ける必要がない。
【0061】
[実施形態3の変形例]
以下、実施形態3の変形例に係るシートベルト装置について説明する。変形例の説明では、シートベルト装置1000Dとの相違点を中心に説明し、シートベルト装置1000Dと同様の点については詳細な説明は割愛する。
図15は、実施形態3の変形例に係るシートベルト装置1000Eの拡幅部10Eの通常状態を示す斜視図である。
図16は、実施形態3の変形例に係るシートベルト装置1000Eの拡幅部10Eの拡幅状態を示す斜視図である。
【0062】
図15及び
図16に示すように、実施形態3の変形例に係る拡幅部10Eは、第1可動部7Eと、拡幅部10Eの幅方向において第1可動部7Eに隣り合うように設けられた第2可動部8Eと、第1可動部7Eと第2可動部8Eとを連結する複数の連結部材9と、を含む。第1可動部7E及び第2可動部8Eは、金属製である。第1可動部7Eは、拡幅部10Eの第1端部101を含み、ベルト部20の挿通孔である接続部分C1を介してベルト部20に接続されている。第1可動部7Eは、接続部分C1からシートベルト100Eの延在方向に沿って延びている。第2可動部8Eは、拡幅部10Eの第2端部102を含み、ベルト部20の挿通孔である接続部分C2を介してベルト部20に接続されている。第2可動部8Eは、接続部分C2からシートベルト100Eの延在方向に沿って延びている。連結部材9は、第1回動軸部91を介して第1可動部7Eと接続されており、且つ、第2回動軸部92を介して第2可動部8Eと接続されている。なお、拡幅部10Eは、図示しない布製のカバー部材により覆われている。
【0063】
拡幅部10Eは、
図15に示す通常状態から第1可動部7Eと第2可動部8Eとが拡幅部10Eの幅方向において互いに離間するように連結部材9が回動することで、
図16に示す拡幅状態となる。ここで、拡幅部10Eでは、拡幅部10Eを通常状態に維持するように連結部材9を付勢する付勢部材(不図示)を有している。
図15に示すように、通常状態では、拡幅部10Eの延在方向(シートベルト100Eの延在方向)において、第1回動軸部91が連結部材9上に存在する第2回動軸部92よりも拡幅部10Eの第2端部102側に位置している。
【0064】
通常状態において、衝撃により所定の大きさを超える張力がシートベルト100Eに作用すると、連結部材9が第1回動軸部91及び第2回動軸部92回りに回動することで、第1可動部7Eと第2可動部8Eとが拡幅部10Eの幅方向において互いに離間し、拡幅
部10Eが拡幅状態となる。ここで、
図16に示すように、第1可動部7E及び第2可動部8Eには、拡幅状態において連結部材9に当接することで、連結部材9がこれ以上回動して第1可動部7Eと第2可動部8Eとが接近することを規制する、規制部R1が形成されている。拡幅状態において、シートベルト100Eに作用する張力が所定の大きさを下回ると、付勢部材の付勢力により連結部材9が回動することで、拡幅部10Eが通常状態に戻る。
【0065】
<その他>
以上、本開示の好適な実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0066】
1000・・シートベルト装置
100・・シートベルト
10・・拡幅部
1・・アクチュエータ部
11・・誘電エラストマー層
12,13・・電極層
2・・ベルト側導電部
5・・シート部材
6・・状態維持部材
7・・第1可動部
8・・第2可動部
9・・連結部材
400・・タング部材
403,403・・タング側導電部
500・・バックル部材
M1・・乗員