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特開2022-92940推定装置、推定方法および推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092940
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法および推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220616BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205956
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川越 隆
(72)【発明者】
【氏名】遠山 正之
(72)【発明者】
【氏名】金 憲経
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】笹井 浩行
(72)【発明者】
【氏名】小島 成実
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC01
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】煩わしい作業を行うことなく、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定する推定装置、推定方法および推定プログラムを提供する。
【解決手段】推定装置100は、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得する位置取得部133と、時系列順に取得された位置データに基づき特徴量を抽出する抽出部134と、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する第1推定部135と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定装置であって、
被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得する位置取得部と、
時系列順に取得された前記位置データに基づき特徴量を抽出する抽出部と、
前記特徴量を学習モデルに入力することで、前記学習モデルから前記被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する第1推定部と、を備える、推定装置。
【請求項2】
前記抽出部は、時系列順に取得された前記位置データと、当該位置データから特定される歩行周期とに基づき前記特徴量を抽出し、
前記歩行周期は、足が接地している立脚期と、足が地面から離れている遊脚期とに分類され、
前記立脚期は、第1立脚期と、当該第1立脚期の後の第2立脚期と、当該第2立脚期の後の第3立脚期とに分類され、
前記遊脚期は、第1遊脚期と、当該第1遊脚期の後の第2遊脚期と、当該第2遊脚期の後の第3遊脚期とに分類される、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記抽出部は、時系列順に取得された前記位置データに基づき、前記特徴量として前記第2遊脚期と前記第2立脚期と前記第3立脚期とにおけるつま先の速度データを抽出する、請求項1または請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記第1推定部は、前記特徴量を前記学習モデルに入力することで、前記学習モデルから前記被験者が、健常者、プレフレイル、フレイルおよび軽度認知障害のうちのいずれであるかを推定する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記抽出部は、時系列順に取得された前記位置データに基づき、前記特徴量として時系列のつま先の高さデータを抽出する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記位置取得部は、前記被験者の踵の前記位置データを時系列順に取得する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記位置取得部は、前記被験者の第1趾および第5趾の前記位置データを時系列順に取得する、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記抽出部は、時系列順に取得された前記位置データに基づき、前記特徴量として時系列の脛骨の角速度データを抽出する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項9】
前記学習モデルは、リカレントニューラルネットワーク(RNN)、長期短期記憶(LSTM)ネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、前記RNNと前記LSTMネットワークとを組み合わせたもの、および、前記CNNと前記LSTMネットワークとを組み合わせたもののうちのいずれかである、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項10】
複数のカメラと、
前記複数のカメラで前記被験者を撮影して得られた画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部が取得した画像から、前記被験者の部位の前記位置データを推定する第2推定部と、
前記複数のカメラで撮影された前記被験者がフレイルまたは軽度認知障害であるかを特定可能な情報と、前記抽出部が抽出した前記特徴量を教師データとして用い、前記第1推定部が用いる前記学習モデルを学習させる学習部と、をさらに備える、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項11】
被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得するステップと、
時系列順に取得された前記位置データに基づき特徴量を抽出するステップと、
前記特徴量を学習モデルに入力することで、前記学習モデルから前記被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定するステップとを含む、推定方法。
【請求項12】
コンピュータに、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得するステップと、
時系列順に取得された前記位置データに基づき特徴量を抽出するステップと、
前記特徴量を学習モデルに入力することで、前記学習モデルから前記被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定するステップと、を実行させる、推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定装置、推定方法および推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、フレイルを評価するための技術が開発されている。このような技術を開発する目的は、健康寿命の延伸に向けて高齢者に対して外出の促進や運動の誘発を行うことである。フレイルとは、加齢とともに運動機能や認知機能などが低下し、心身の脆弱性が出現した状態である。フレイルに至る前段階をプレフレイルという。加齢や疾患により筋量が減少すると、代謝や食欲などが低下する。これにより体重が減少し、体重の減少によりさらに筋量が減少する。このような悪循環のサイクルに陥ることで、フレイルが進行する。これにより、転倒骨折のリスクが高まり、要介護の要因となる。
【0003】
一方で、適切な予防の介入や支援により生活機能を維持向上させることが可能である。具体的には、外出や運動などの身体活動を促し、筋量を維持向上させることで、上述のような悪循環のサイクルから抜け出す、あるいは悪循環のサイクルに陥らないようにすることができる。
【0004】
また、65歳以上の高齢者の4人に1人は、認知症の前段階の状態を意味する軽度認知障害(MCI)または認知症であると言われている。軽度認知障害についても、治療や対策を行うことで認知症発症を予防したり発症を遅らせることができる。
【0005】
このように、プレフレイルや軽度認知障害(MCI)を早期に発見することで、高齢者がフレイルや認知症に至らないようにすることができる。このため、これらの状態を評価するための技術の開発が強く望まれている。
【0006】
フレイルを評価する技術として、たとえば、特表2017-535339号公報(特許文献1)には、体重を決定するように構成される測定装置に被験者が乗り、当該測定装置により取得される複数の力測定値によりフレイルを評価する方法および装置が記載されている。また、WO2018/066465号公報(特許文献2)には、フレイル評価項目に回答を入力することや計測した握力などによりフレイルを評価するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2017-535339号公報
【特許文献2】WO2018/066465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているフレイルを評価する方法および装置は、被験者の体重などの力測定値のみを入力するものであって、フレイルを評価するための入力データとして十分ではなく、評価結果の推定精度が十分であるとは言えなかった。また、特許文献2に記載されているフレイルを評価するシステムは、フレイル評価項目に回答を入力するなど、煩わしい作業をする必要があった。
【0009】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、煩わしい作業を行うことなく、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定する推定装置、推定方法および推定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示による推定装置は、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得する位置取得部と、時系列順に取得された位置データに基づき特徴量を抽出する抽出部と、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する第1推定部と、を備える。
【0011】
この構成によれば、データ入力などの煩わしい作業を行うことなく、また、時系列順に取得された被験者のつま先を含む部位の位置データに基づき特徴量を抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0012】
上記推定装置において、抽出部は、時系列順に取得された位置データと、当該位置データから特定される歩行周期とに基づき特徴量を抽出するようにしてもよい。この場合において、歩行周期は、足が接地している立脚期と、足が地面から離れている遊脚期とに分類され、立脚期は、第1立脚期と、当該第1立脚期の後の第2立脚期と、当該第2立脚期の後の第3立脚期とに分類され、遊脚期は、第1遊脚期と、当該第1遊脚期の後の第2遊脚期と、当該第2遊脚期の後の第3遊脚期とに分類されるようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、時系列順に取得された位置データと、当該位置データから特定される歩行周期とに基づき特徴量を抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0014】
上記推定装置において、抽出部は、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として第2遊脚期と第2立脚期と第3立脚期とにおけるつま先の速度データを抽出するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、特徴量として第2遊脚期と第2立脚期と第3立脚期とにおけるつま先の速度データを抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0016】
上記推定装置において、第1推定部は、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者が、健常者、プレフレイル、フレイルおよび軽度認知障害のうちのいずれであるかを推定するようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、被験者は推定結果に応じた対策を行うことができる。
【0018】
上記推定装置において、抽出部は、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として時系列のつま先の高さデータを抽出するようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として時系列のつま先の高さデータを抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0020】
上記推定装置において、位置取得部は、被験者の踵の位置データを時系列順に取得するようにしてもよい。
【0021】
この構成によれば、被験者の踵の位置データを時系列順に取得するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0022】
上記推定装置において、位置取得部は、被験者の第1趾および第5趾の位置データを時系列順に取得するようにしてもよい。
【0023】
この構成によれば、被験者の第1趾および第5趾の位置データを時系列順に取得するため、体のふらつきも含めた情報に基づき推定を行うことができる。
【0024】
上記推定装置において、抽出部は、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として時系列の脛骨の角速度データを抽出するようにしてもよい。
【0025】
この構成によれば、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として時系列の脛骨の角速度データを抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0026】
上記推定装置において、学習モデルは、リカレントニューラルネットワーク(RNN)、長期短期記憶(LSTM)ネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、RNNとLSTMネットワークとを組み合わせたもの、および、CNNとLSTMネットワークとを組み合わせたもののうちのいずれかであってもよい。
【0027】
この構成によれば、時系列データの入力に対する推定精度を高くすることができる。
【0028】
上記推定装置は、複数のカメラと、複数のカメラで被験者を撮影して得られた画像を取得する画像取得部と、画像取得部が取得した画像から、被験者の部位の位置データを推定する第2推定部と、複数のカメラで撮影された被験者がフレイルまたは軽度認知障害であるかを特定可能な情報と、抽出部が抽出した特徴量を教師データとして用い、第1推定部が用いる学習モデルを学習させる学習部と、をさらに備えるようにしてもよい。
【0029】
この構成によれば、複数のカメラで撮影することにより特徴量が抽出されるため、効率よく学習を行うことができる。
【0030】
本開示の他の局面に従うと、推定方法は、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得するステップと、時系列順に取得された位置データに基づき特徴量を抽出するステップと、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定するステップとを含む。
【0031】
この構成によれば、データ入力などの煩わしい作業を行うことなく、また、時系列順に取得された被験者のつま先を含む部位の位置データに基づき特徴量を抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【0032】
本開示の他の局面に従うと、推定用プログラムは、コンピュータに、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得するステップと、時系列順に取得された位置データに基づき特徴量を抽出するステップと、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定するステップと、を実行させる。
【0033】
この構成によれば、データ入力などの煩わしい作業を行うことなく、また、時系列順に取得された被験者のつま先を含む部位の位置データに基づき特徴量を抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0034】
本開示によれば、データ入力などの煩わしい作業を行うことなく、また、時系列順に取得された被験者のつま先を含む部位の位置データに基づき特徴量を抽出するため、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】推定装置100の全体構成の一例を示す模式図である。
図2】遊脚期におけるつま先高さの変化の一例を示す図である。
図3】遊脚期および立脚期における脛骨の角速度の変化の一例を示す図である。
図4】推定装置100のハードウェア構成を模式的に示す図である。
図5】推定装置100の機能構成を模式的に示すブロック図である。
図6】推定処理のフローチャートである。
図7】推定処理の入出力データの一例を示す図である。
図8】推定装置100が行う学習処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0037】
[フレイルについて]
フレイルとは、加齢とともに運動機能や認知機能等が低下し、心身の脆弱性が出現した状態である。フレイルに至る前段階をプレフレイルという。フレイルには、身体的、精神心理的あるいは社会的といった多面的な要因がある。本実施の形態において、フレイルとは、身体的な要因に起因するフレイルを指すものとする。
【0038】
フレイルを評価する基準としては、国際的な評価基準として、Friedらによる表現型モデルに基づくCardiovascular Health Study(CHS)基準がある。この評価基準によれば、フレイルは、「体重減少」、「疲労」、「身体活動の低下」、「歩行速度の低下」および「筋力低下」の5項目の診断指標により判定される。具体的には、「6カ月間で2~3kg以上の体重減少があった」場合に、「体重減少」に該当する。「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」場合に、「疲労」に該当する。「「軽い運動・体操」、「定期的な運動・スポーツ」のいずれもしていない」場合に、「身体活動の低下」に該当する。「通常歩行速度<1.0m/s」である場合に、「歩行速度の低下」に該当する。「握力低下:男性<26kg、女性<18kg」である場合に、「筋力低下」に該当する。
【0039】
上記5項目の診断指標のうち、3項目以上に該当すれば「フレイル」と判定され、1項目また2項目に該当すれば「プレフレイル」と判定される。1項目にも該当しない場合は、フレイルでもプレフレイルでもない(健常者である)。上記の診断指標から示されるように、フレイルは、筋量や歩行速度との間に相関関係がある。
【0040】
[推定装置の全体構成]
図1は、推定装置100の全体構成の一例を示す模式図である。推定装置100は、被験者を複数のカメラで撮影し、撮影した被験者の画像に基づき、フレイルであることまたは軽度認知障害(MCI)であることを推定可能な装置である。その際、被験者を歩行させてその様子をカメラで撮影する。あるいは、車に乗降する被験者を複数のカメラで撮影する。
【0041】
図1に示すように、推定装置100は、第2推定部132と、抽出部134と、第1推定部135とを含む。第2推定部132は、複数のカメラで撮影された被験者の画像から、被験者の部位の位置データを推定する。被験者の部位は、たとえば、左右のつま先、踵、足首、膝などであり、それぞれについて、x軸、y軸、z軸の3次元の座標データ(位置データ)が時系列データとして得られる。本実施の形態においては、被験者の部位は、主に歩行状態を特定可能な下肢の関節であるが、体全体の各関節の位置や人体の特徴的な位置であってもよい。
【0042】
抽出部134は、時系列順に取得した位置データ(3次元データ)に基づき特徴量を抽出する。特徴量は、たとえば、つま先の高さなどの時系列データである。また、これらの時系列データは、歩行周期の情報と対応づけられている。
【0043】
ここで、歩行周期は、立脚期と遊脚期とに分類される。立脚期は、足が接地している期間である。遊脚期は、足が地面から離れている期間である。
【0044】
本実施の形態においては、立脚期は、第1立脚期(「立脚期前期」とも称する)と、第1立脚期の後の第2立脚期「立脚期中期」とも称する)と、第2立脚期の後の第3立脚期「立脚期後期」とも称する)とに分類される。立脚期前期は踵が接地してから開始し、立脚期後期はつま先が地面から離れることで終了し、立脚期中期はその中間状態である。たとえば、立脚期中期は踵およびつま先が接地した状態を指してもよい。このように、立脚期を3つの期間に分割してもよいし、2つの期間や4つ以上の期間に分割してもよい。
【0045】
また、本実施の形態においては、遊脚期は、第1遊脚期(「遊脚期前期」とも称する)と、第1遊脚期の後の第2遊脚期「遊脚期中期」とも称すると、第2遊脚期の後の第3遊脚期「遊脚期後期」とに分類される。遊脚期前期はつま先が地面から離れてから開始し、遊脚期後期は踵が接地することで終了し、遊脚期中期はその中間状態である。このように、遊脚期を3つの期間に分割してもよいし、2つの期間や4つ以上の期間に分割してもよい。
【0046】
第1推定部135は、抽出部134が抽出した特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する。具体的に本実施の形態においては、第1推定部135は、特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者が、健常者、プレフレイル、フレイルおよび軽度認知障害のうちのいずれであるかを推定する。すなわち、第1推定部135による推定により出力される推定結果は、健常者、プレフレイル、フレイルおよび軽度認知障害のうちのいずれであるかを特定可能な情報(以下、「識別情報」とも称する)である。
【0047】
推定装置100により診断を行う場合、たとえば、被験者を所定時間(たとえば、1分)歩行させて、それを推定装置100の複数のカメラで撮影する。推定装置100は、撮影した画像に基づき、推定処理を行い、推定結果として識別情報を出力する。被験者がフレイルに該当する場合は、識別情報として、「フレイル」が出力される。
【0048】
出力された推定結果は、ディスプレイに表示させるようにしてもよい。たとえば、ディスプレイに、判定結果の選択肢として、「健常者」、「プレフレイル」、「フレイル」、「軽度認知障害」があり、推定結果として「フレイル」が出力されたことを特定可能な表示を行わせる。このようにすることで、被験者は推定結果に応じた対策を行うことができる。
【0049】
図2は、遊脚期におけるつま先の高さの変化の一例を示す図である。図2において、横軸は時間、縦軸はつま先の高さをそれぞれ示す。遊脚期における足の移動状態の一例をグラフの下に示している。図2に示すように、遊脚期が開始すると、地面からつま先が離れる。すなわち、つま先の高さは0よりも大きくなる。その後、遊脚期の後半においてつま先が高くなり、踵が接地して遊脚期が終了する。
【0050】
図に示すように、転倒経験者は非経験者に比べてつま先が地面から離れた直後のピークが極端に小さい。ここで、転倒経験者は転倒経験のある高齢者であり、非転倒経験者は転倒経験のない高齢者を指す。
【0051】
遊脚期の前半において転倒経験者のつま先の高さは、低いまま推移する傾向にある。非転倒経験者のつま先の高さは、前半部において高くなり、後半部において低くなるような二峰性がある。しかしながら、非転倒経験者のつま先の高さはこのような二峰性がない。また、遊脚期後半については、転倒経験者は非経験者よりばらつきが顕著に大きくなる。また、転倒経験者は、非経験者よりも立脚期後期から遊脚期前期にかけて下肢関節運動のばらつきが大きい傾向にある。
【0052】
筋量の減少によりフレイルが進行すると、転倒のリスクが高まる。このため、つま先の高さが図2の転倒経験者のように推移するような場合には、フレイルの進行が疑われる。このように、つま先の高さの推移とフレイルには一定の相関関係があると言える。
【0053】
図3は、遊脚期および立脚期における脛骨の角速度の変化の一例を示す図である。図3において、横軸は時間、縦軸は脛骨の角速度をそれぞれ示す。遊脚期および立脚期における足の移動状態の一例をグラフの下に示している。図において脛骨の角速度は丸で囲われた箇所(脛骨)の角速度を示している。なお、脛骨の角速度は、膝と足首の相対的な位置関係から算出可能である。
【0054】
図3に示すように、遊脚期が開始すると脛骨の角速度(以下、単に「角速度」とも称する)は急激に増加する(遊脚期前期)。遊脚期中期を経て、遊脚期後期では角速度が急激に減少する(遊脚期後期)。足が接地して立脚期が開始すると角速度は上下に振動する(立脚期前期)。立脚期中期では角速度の変化が小さくなる。立脚期後期では脛骨の角速度が減少する。
【0055】
立脚期後期において減少する角速度の量や角速度の変化率が小さいような場合は、つま先の蹴り出し速度が小さいと言える。筋量が減少するとつま先の蹴り出し速度が低下するため、フレイルが進行している場合は、つま先の蹴り出し速度が小さくなる傾向がある。また、フレイルが進行している場合は、遊脚期中期や立脚期中期の時間が長くなったり、移動速度が遅くなる傾向にある。
【0056】
このように、フレイルが進行している場合、ゆっくりとした弱い推進能力しかなく、つま先の蹴りだし速度や推進速度といった、体を前方へ加速させる能力が低下しているという特性がある。
【0057】
[推定装置100のハードウェア構成]
図4は、推定装置100のハードウェア構成を模式的に示す図である。図4に示すように、本実施の形態に係る推定装置100は、ハードディスク101と、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ103と、ディスプレイインターフェース104と、カメラインターフェース105とを含む。これらは、バスを介して相互に通信可能に接続されている。推定装置100は、パーソナルコンピュータまたはワークステーションを含む。
【0058】
ハードディスク101は、不揮発性の記憶装置である。ハードディスク101には、たとえば、OS(operating system)111と、第2推定用学習済モデル112(「位置推定用学習済モデル112」とも称する)と、第1推定用学習済モデル113(「識別情報推定用学習済モデル113」とも称する)と、学習用データセット114と、第1推定用プログラム115(「識別情報推定用プログラム115」とも称する)と、学習用プログラム116とが保存されている。図に示されるデータ以外にも、ハードディスク101には、各種処理を行うプログラムやデータが保存されている。
【0059】
CPU102は、ハードディスク101に保存されているプログラムをメモリ103に読み込んで実行し、推定装置100の各種機能を実現する。メモリ103は、揮発性の記憶装置であり、たとえばDRAM(Dynamic Random Access Memory)を含む。
【0060】
第2推定用学習済モデル112は、第2推定部132が推定を行う際に用いるニューラルネットワークモデルである。第2推定部132による推定は、公知の骨格推定技術により行えばよい。本実施の形態においては、公知の骨格推定技術として、複数のカメラで撮影した画像に基づき、3次元の骨格の位置の座標を推定するものを用いるが、これに限らず、1つのカメラで撮影した画像に基づき、2次元の骨格の位置の座標を推定するものであってもよい。
【0061】
第1推定用学習済モデル113は、第1推定部135が推定を行う際に用いるニューラルネットワークモデルである。学習用データセット114は、第1推定用学習済モデル113を学習させるために用いるデータのセットである。第1推定用プログラム115は、第1推定部135が推定を行う際に実行するプログラムである。学習用プログラム116は、第1推定用学習済モデル113を学習させる際に実行するプログラムである。
【0062】
CPU102は、ディスプレイインターフェース104を介してディスプレイ121に接続する。CPU102は、カメラインターフェース105を介してカメラ122とカメラ123とに接続する。
【0063】
ディスプレイインターフェース104は、ディスプレイ121を接続するためのインターフェースであり、推定装置100とディスプレイ121との間のデータの入出力を実現する。ディスプレイ121は、たとえば、LCD(Liquid Crystal Display)または有機ELD(Electroluminescence)ディスプレイなどで構成される。ディスプレイ121には、第1推定部135によって推定された推定結果などが表示される。
【0064】
カメラインターフェース105は、カメラ122とカメラ123とを接続するためのインターフェースであり、推定装置100とカメラ122およびカメラ123との間のデータの入出力を実現する。
【0065】
[推定装置100の機能構成]
図5は、推定装置100の機能構成を模式的に示すブロック図である。図5に示すように、推定装置100は、推定処理に係る機能部として、画像取得部131と、第2推定部132と、位置取得部133と、抽出部134と、第1推定部135とを備える。これらの各機能は、推定装置100のCPU102がOS111および各種プログラムを実行することで実現される。
【0066】
推定装置100は、被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する。具体的には、推定装置100は、推定結果として、被験者が、健常者、プレフレイル、フレイルおよび軽度認知障害のうちのいずれであるかを特定可能な識別情報を出力する。
【0067】
画像取得部131は、複数のカメラで被験者を撮影して得られた画像を取得する。複数のカメラは、被験者を撮影するためのカメラであり、カメラ122とカメラ123とを含む。具体的には、カメラ122とカメラ123とによって被験者が撮影され、画像取得部131は、カメラインターフェース105を介して、撮影された画像を時系列順に取得する。
【0068】
複数のカメラで撮影する際、被験者を歩行させてその様子を撮影する。あるいは、車に乗降する被験者を複数のカメラで撮影する。車に乗降する場合、たとえば、つま先や踵が地面から離れるまでの動作は歩行時と共通するため、このような動作はフレイルと相関がある。
【0069】
第2推定部132は、画像取得部131が取得した画像から、被験者の部位の位置データ(3次元の位置データ)を推定する。まず、第2推定部132は、カメラ122が撮影した画像に含まれる特徴量を学習モデル(第2推定用学習済モデル112)に入力することで、学習モデルから被験者の部位の位置データを推定結果として出力する。なお、後述するように、被験者の部位の位置データは、被験者のつま先を含む部位の位置データである。
【0070】
次に、カメラ123が撮影した画像に含まれる特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者の部位の位置データを推定結果として出力する。これらの被験者の部位の位置データは2次元データである。これらの複数のカメラで撮影された2次元データに基づき、3次元の被験者の部位の位置データを推定する。
【0071】
位置取得部133は、被験者の部位の位置データを時系列順に取得する。被験者の部位は、つま先を含む。具体的には、第2推定部132が推定結果として出力した被験者の部位の位置データ(3次元データ)を時系列順に取得していく。
【0072】
抽出部134は、位置取得部133が時系列順に取得した位置データに基づき特徴量を抽出する。抽出部134は、まず、歩行周期を推定する処理を行う。上述のように、歩行周期は、立脚期前期、立脚期中期、立脚期後期、遊脚期前期、遊脚期中期、遊脚期後期の6つに分類される。たとえば、つま先および踵のいずれもが接地している状態は立脚期に分類される。また、図2図3で示したように、つま先の高さや脛骨の角速度などに基づき、歩行周期を分類することができる。
【0073】
抽出部134は、時系列順に取得された被験者の部位の位置データと、当該位置データから特定される歩行周期とに基づき特徴量を抽出する。具体的には、抽出部134は、時系列の被験者の部位の位置データのそれぞれがいずれの歩行周期に該当するかを特定する。また、抽出部134は、特徴量として、立脚期前期、立脚期中期、立脚期後期、遊脚期前期、遊脚期中期、遊脚期後期のそれぞれの時間などを抽出するようにしてもよい。
【0074】
また、たとえば、つま先の位置データ(3次元データ)のうち、z軸方向のデータを取得することでつま先の高さデータを特徴量として抽出することができる。つま先の位置データの時間変化からつま先の速度データを特徴量として抽出することができる。膝および足首の位置データの時間変化から、脛骨の角速度を特徴量として抽出することができる(図3参照)。このように、被験者の部位の位置データから、各種の位置データ、速度データ、角度データ、角速度データなどを特徴量として抽出することができる。
【0075】
第1推定部135は、抽出部134が抽出した特徴量を学習モデル(第1推定用学習済モデル113)に入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する。具体的には、第1推定部135は、学習モデルから識別情報を推定結果として出力する。識別情報は、健常者、プレフレイル、フレイルおよび軽度認知障害のうちのいずれであるかを特定可能な情報である。
【0076】
本実施の形態では、学習モデルとして、リカレントニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)を適用する。RNNを適用することで、時系列データの入力に対する推定精度を高くすることができる。また、長期短期記憶(LSTM:Long Short Term Memory)ネットワークを適用するようにしてもよく、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を適用するようにしてもよい。さらに、RNNとLSTMネットワークとを組み合わせたものや、CNNとLSTMネットワークとを組み合わせたものを適用するようにしてもよい。なお、学習モデルとして、その他のものを適用、または組み合わせてもよい。
【0077】
識別情報は、要介護や認知症を特定可能な情報を含めてもよい。また、軽度認知障害とフレイル(あるいはプレフレイル)とのいずれにも該当する場合は、識別情報は、いずれもを特定可能な情報であってもよい。
【0078】
第1推定部135が出力した識別情報は、ディスプレイインターフェース104に対して送信される。ディスプレイ121は、ディスプレイインターフェース104は、識別情報を表示する。
【0079】
以上のように構成することで、被験者がフレイルを判定するための各種項目に回答したりそのデータを入力するなどの煩わしい作業を行うことなく、被験者が歩行するなどの動作を行うだけで、被験者がフレイルであるか否かまたは軽度認知障害であるか否かを精度よく推定することができる。
【0080】
また、たとえば、図2図3で示したように、つま先の高さなど、時系列の被験者の部位の位置データから特定されるいくつかの特徴量は、フレイルとの相関が高い。上述のように、時系列順に取得された被験者のつま先を含む部位の位置データに基づき特徴量を抽出することで推定精度を高めることができる。また、時系列順に取得された位置データと、当該位置データから特定される歩行周期とに基づき特徴量を抽出するため、推定精度を高めることができる。
【0081】
なお、被験者を撮影するカメラは2台に限らず、3台以上であってもよい。また、被験者を撮影するカメラは1台であってもよい。この場合、骨格推定を行う技術として2次元の位置座標を出力する技術を適用すればよい。その際、被験者の歩行状態がはっきりと確認可能なように1台のカメラにより撮影を行えばよい。たとえば、つま先や踵の移動状態がはっきり確認できるような位置で撮影を行う。
【0082】
[推定処理のフローチャート]
図6は、推定処理のフローチャートである。図6に示すように、CPU102は、推定処理を実行する。
【0083】
推定処理は、周期的に起動する処理である。たとえば、予め規定された時間ごとに複数のカメラで撮影された画像を取得する。なお、カメラで撮影された画像に限らず、ハードディスク101に保存された動画を用いて画像を取得するようにしてもよい。
【0084】
推定処理は、画像取得部131と、第2推定部132と、位置取得部133と、抽出部134と、第1推定部135とが実行する一連の処理である。推定処理は、画像取得処理と、第2推定処理と、位置取得処理と、抽出処理と、第1推定処理とを含む。
【0085】
画像取得処理は、画像取得部131が実行する処理である。第2推定処理は、第2推定部132が実行する処理である。位置取得処理は、位置取得部133が実行する処理である。抽出処理は、抽出部134が実行する処理である。第1推定処理は、第1推定部135が実行する処理である。以下では、ステップを単にSと記載する。
【0086】
推定処理を開始すると、CPU102は、S11において画像取得処理を実行し、処理をS12に進める。画像取得処理において、画像取得部131は、カメラ122とカメラ123とで被験者を撮影して得られた画像を取得する。
【0087】
CPU102は、S12において第2推定処理を実行し、処理をS13に進める。第2推定処理において、第2推定部132は、画像取得部131が取得した画像から、被験者の部位の位置データを推定する。
【0088】
CPU102は、S13において位置取得処理を実行し、処理をS14に進める。位置取得処理において、位置取得部133は、被験者のつま先を含む部位の位置データを時系列順に取得する。
【0089】
CPU102は、S14において抽出処理を実行し、処理をS15に進める。抽出処理において、抽出部134は、位置取得部133が時系列順に取得した被験者の部位の位置データに基づき、特徴量を抽出する。
【0090】
CPU102は、S15において第1推定処理を実行し、推定処理を終了する。第1推定処理において、第1推定部135は、抽出部134が抽出した特徴量を学習モデルに入力することで、学習モデルから被験者がフレイルであることまたは軽度認知障害であることを推定する。
【0091】
図7は、推定処理の入出力データの一例を示す図である。取得部131は、カメラ122とカメラ123とで被験者を撮影して得られた画像を取得する。第2推定部132は、画像取得部131が取得した画像から、位置推定結果として、被験者の部位の位置データを推定する。位置推定結果は、時系列の3次元データである。第2推定部132が推定する人体の部位は、つま先(左および右)と、踵(左および右)と、足首(左および右)と、膝(左および右)とを含む。
【0092】
これにより、図7に示すように、位置推定結果として、つま先の位置(左および右)と、踵の位置(左および右)と、足首の位置(左および右)と、膝の位置(左および右)ととを含む時系列の3次元の位置データが出力される。なお、第2推定部132が推定する人体の部位は、つま先として第1趾(足の親指)と第5趾(足の小指)とを含むものであってもよい。
【0093】
位置取得部133は、位置推定結果を取得する。たとえば、位置取得部133は、被験者の部位としてつま先や踵や膝などの3次元の位置データを時系列順に取得する。また、位置取得部133は、被験者の部位として第1趾および第5趾(左および右)の3次元の位置データを時系列順に取得してもよい。
【0094】
抽出部134は、位置取得部133が時系列順に取得した被験者の部位の3次元の位置データに基づき、特徴量を抽出する。特徴量としては、時系列データである特徴量1と時系列データでない特徴量2を含む。
【0095】
特徴量1は、つま先の高さと、つま先の角度と、つま先の速度と、踵の高さと、脛骨の角速度とを含むようにしてもよい。また、特徴量1は、第1趾および第5趾の高さや角度や速度を含むようにしてもよい。これらの各特徴量は、立脚期前期、立脚期中期、立脚期後期、遊脚期前期、遊脚期中期、遊脚期後期のうちのいずれであるかが特定可能となっている。たとえば、つま先高さのデータとして、(時刻,つま先高さ,歩行周期)=(t,0,立脚期前期)といったデータが特徴量として抽出される。また、特徴量として、第2遊脚期と第2立脚期と第3立脚期とにおけるつま先の速度データを抽出してもよい。
【0096】
特徴量2は、立脚期前期となる時間と、立脚期中期となる時間と、立脚期後期となる時間と、遊脚期前期となる時間と、遊脚期中期となる時間と、遊脚期後期となる時間と、つま先蹴り出し時間とを含むようにしてもよい。
【0097】
このように、抽出部134は、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として第2遊脚期と第2立脚期と第3立脚期とにおけるつま先の速度データを抽出する。図3に示したように、フレイルが進行すると第2遊脚期と第2立脚期と第3立脚期とにおいて、速度低下が起こりやすい。このため、特徴量として第2遊脚期と第2立脚期と第3立脚期とにおけるつま先の速度データを抽出することで、推定精度を高めることができる。
【0098】
また、抽出部134は、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として時系列のつま先の高さデータを抽出する。図2に示したように、つま先の高さとフレイルとは相関関係がある。このようにすることで、推定精度を高めることができる。
【0099】
また、位置取得部133は、被験者の踵の位置データを時系列順に取得する。踵の位置データを取得し、つま先と踵の位置データに基づき特徴量を抽出することで、接地状態やつま先の回転状態を抽出することができる。このようにすることで、推定精度を高めることができる。
【0100】
また、位置取得部133は、被験者の第1趾および第5趾の位置データを時系列順に取得する。第1趾および第5趾の位置データを取得することで、第1趾と第5趾との高さの違いから、体のふらつき具合を特定することができる。このようにすることで、体のふらつきも含めた情報に基づき推定を行うことができる。
【0101】
抽出部134は、時系列順に取得された位置データに基づき、特徴量として時系列の脛骨の角速度データを抽出する。この場合、膝の位置データと足首の位置データとを位置取得部133が取得すれば、これらの位置関係から、脛骨の角速度データが抽出可能となる。図3に示したように、脛骨の角速度とフレイルとは相関関係がある。このようにすることで、推定精度を高めることができる。
【0102】
また、特徴量としては、上記のものに限らず、歩行の特徴を表すデータであれば、どのようなものであってもよい。また、特徴量としては、上記の特徴量1や特徴量2うちの1つのデータであってもよく、複数のデータを組み合わせるものであってもよい。また、特徴量を抽出することなく、位置推定結果そのものを入力データとして第1推定部に入力するものであってもよい。また、たとえば、立脚期の下肢の動きに着目し、特徴量として、立脚期における下肢の各関節の位置データを抽出するようにしてもよい。遊脚期の下肢の動きに着目し、特徴量として、遊脚期における下肢の各関節の位置データを抽出するようにしてもよい。
【0103】
[学習処理]
図8は、推定装置100が行う学習処理を説明する図である。
【0104】
推定装置100は、学習部136を備える。学習部136は、複数のカメラで撮影された被験者がフレイルまたは軽度認知障害であるかを特定可能な情報と、抽出部が抽出した特徴量を教師データとして用い、第1推定部135が用いる学習モデルを学習させる。具体的には、カメラ122およびカメラ123で撮影された被験者の識別情報と抽出部134が抽出した特徴量とを教師データとして用い、第1推定部135が用いる学習モデル(第1推定用学習済モデル113)を学習させる。
【0105】
学習モデルは、ニューラルネットワークと当該ニューラルネットワークによって用いられるパラメータとを含み、カメラ122およびカメラ123で撮影された被験者に対応する識別情報と抽出部134が抽出した特徴量とに基づき学習されることで最適化(調整)される。
【0106】
具体的には、学習モデルは、上記特徴量が入力されると、識別情報を推定する。学習モデルは、自身が推定した識別情報と、入力された特徴量に関連付けられた識別情報とに基づき、両者が一致すればパラメータを更新しない一方で、両者が一致しなければ両者が一致するようにパラメータを更新することで、パラメータを最適化する。このように、学習モデルは、入力データである上記特徴量と、正解データである識別情報とを含む教師データを利用して、パラメータが最適化されることで学習される。
【0107】
本実施の形態では、問診などによってフレイル、プレフレイル、軽度認知障害、健常者と診断された複数の被験者(たとえば、それぞれ20人ずつ)を集め、カメラの前で歩行させてそれを撮影する。
【0108】
歩行が撮影された被験者に対応する識別情報(たとえば、フレイル)が正解データとなる。撮影された画像に基づき第2推定部132による位置推定を行った後に、位置推定結果に基づき抽出部134が抽出した特徴量が教師データとして用いられる。この場合、当該特徴量に基づく識別情報の推定結果が「フレイル」となるよう、学習によりパラメータが最適化される。
【0109】
なお、抽出部134が抽出した特徴量を教師データとして用いるものに限らず、位置取得部133が取得した時系列の位置データそのものを教師データとして用いるものであってもよい。たとえば、立脚期の下肢の位置データや遊脚期の下肢の位置データであってもよい。
【0110】
たとえば、問診などにより「健常者」と診断された被験者をカメラ122およびカメラ123で撮影する。第2推定部132は、画像取得部131が取得した画像から被験者の部位の位置データを位置推定結果として推測する。そして、抽出部134は、位置推定結果に基づき特徴量を抽出する。この場合、カメラ122およびカメラ123は「健常者」と診断された被験者を撮影しているので、識別情報の正解データは「健常者」となる。
【0111】
また、問診などにより「フレイル」と診断された人をカメラ122およびカメラ123で撮影する。第2推定部132は、画像取得部131が取得した画像から被験者の部位の位置データを位置推定結果として推測する。そして、抽出部134は、位置推定結果に基づき特徴量を抽出する。この場合、カメラ122およびカメラ123は「フレイル」と診断された被験者を撮影しているので、識別情報の正解データは「フレイル」となる。
【0112】
プレフレイルの場合であっても同様である。以上のように、システムを構築することで、複数のカメラで撮影すれば自動的に特徴量が抽出されるため、効率よく学習を行うことができる。
【0113】
軽度認知障害も同様である。ただし、この場合、「軽度認知障害」と診断された被験者に対して、脳に負荷をかけるような作業を行わせながら、カメラの前を歩かせる。たとえば、引き算をしながら、あるいは、動物の名前を挙げ続けながら歩行させる。これにより、軽度認知障害である場合に現れる歩行の特徴が表れやすくなるため、より精度の高い学習が行われる。
【0114】
また、図5に示ような学習済みのモデル(第1推定用学習済モデル113)を用いて推定を行う場合であっても同様である。引き算をしながら歩行させるなどの脳に負荷をかける作業を行わせることで、精度よく軽度認知障害を推定させることができる。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組み合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0116】
100 推定装置、101 ハードディスク、102 CPU、103 メモリ、104 ディスプレイインターフェース、105 カメラインターフェース、111 OS、112 第2推定用学習済モデル、113 第1推定用学習済モデル、114 学習用データセット、115 第1推定用プログラム、116 学習用プログラム、121 ディスプレイ、122 カメラ、123 カメラ、131 画像取得部、132 第2推定部、133 位置取得部、134 抽出部、135 第1推定部、136 学習部、137 特定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8