(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092945
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】接着芯地作業を自動化する装置
(51)【国際特許分類】
D06H 3/08 20060101AFI20220616BHJP
A41H 43/04 20060101ALI20220616BHJP
D06H 5/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
D06H3/08
A41H43/04 A
D06H5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205963
(22)【出願日】2020-12-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.集会において発表 集会名:計測自動制御学会東北支部55周年記念学術講演会 開催日:令和1年12月16日 2.ウェブサイトにおいて発表 掲載アドレス:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjiiae/8/2/8_147/_pdf/-char/ja 上記掲載アドレスにてダウンロードされる産業応用工学会論文誌、2020年8巻2号、第147-153頁 掲載年月日:令和2年9月15日
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】長縄 明大
【テーマコード(参考)】
3B154
【Fターム(参考)】
3B154AB27
3B154BB66
3B154BB77
3B154BC16
3B154BC42
3B154CA03
3B154CA11
3B154CA27
3B154CA41
(57)【要約】
【課題】既存の圧着機に設置することが可能であるとともに、多種多岐に渡っている生地において、接着芯地作業の生地の積み重ねを精度よく自動化する装置を提供する。
【解決手段】圧着機に設置する接着芯地作業自動化装置であって、ベルトコンベア上を移動する生地を検知する入口側センサと、生地の画像を取得するカメラと、生地の画像から生地の位置ずれおよび生地の傾き角を演算する画像処理手段と、ベルトコンベア上を移動する生地を検知する出口側センサと、生地を把持し運搬する把持・運搬部と、生地を回転する積み重ね台と、を有し、把持・運搬部は生地の位置ずれを補正し、積み重ね台は生地の傾き角を補正すること、を特徴とする接着芯地作業自動化装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧着機に設置する接着芯地作業自動化装置であって、
ベルトコンベア上を移動する生地を検知する入口側センサと、前記生地の画像を取得するカメラと、前記生地の画像から生地の位置ずれおよび生地の傾き角を演算する画像処理手段と、前記ベルトコンベア上を移動する前記生地を検知する出口側センサと、前記生地を把持し運搬する把持・運搬部と、前記生地を回転する積み重ね台と、を有し、
前記把持・運搬部は前記生地の位置ずれを補正し、前記積み重ね台は前記生地の傾き角を補正すること、を特徴とする接着芯地作業自動化装置。
【請求項2】
前記把持・運搬部が、上下機構とベルトプーリー機構との二軸機構である請求項1に記載の接着芯地作業自動化装置。
【請求項3】
前記把持・運搬部が、前記生地を把持する2個以上の把持パッドを有し、概把持パッドの中心間距離を調整できる請求項1または請求項2のいずれかに記載の接着芯地作業自動化装置。
【請求項4】
前記把持パッドが、非接触パッドである請求項3に記載の接着芯地作業自動化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着芯地作業を自動化する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国内の縫製工場において、国内産業規模の維持と人材不足の解消のために、製品の品質向上とともに各種作業工程の自動化が進められている。例えば、特許文献1は、織物生地の延反、定寸裁断及び縮絨処理可能な自動移送装置を開示している。また、特許文献2は、位置合わせ方法及び位置合わせ装置並びに生地縫着装置を開示している。さらに、特許文献3は、生地接着装置を開示している。しかしながら、現状では、ミシンの性能向上の他、CAM(Computer Aided Manufacturing)、裁断機、生地の延反・定寸裁断・縮絨処理を可能とする装置、および、接着装置など一部の装置に限られている。
【0003】
一般的に、縫製工場の作業工程には、仕様に基づきCAD(Computer Aided Design)を用いた縫製生地の型の作成作業工程、生地の延反および型を用いた裁断(荒裁ち)作業工程、接着芯地作業工程、縫製生地の輪郭を揃えるための裁断(正裁ち)作業工程、縫製とボタン付けなどの仕上げ加工作業工程等がある。中でも、接着芯地作業工程は、製品の生地の裏面と、芯地と呼ばれる薄い補強用の生地を貼り合せる工程であり、この工程により、襟部やボタン部などの生地に強度を持たせることができる。その結果、衣服の形態が整えられ、着用した際の見た目が良くなる。
【0004】
従来の接着芯地作業は、生地は柔軟性があること、生地の種類や大きさは様々であり、輪郭形状もシンプルなものから凸凹があるものなど、多種多岐に渡っているため、接着した生地を把持して運搬し、次の工程の作業がしやすいように形状を揃えて積み重ねることは、人による手作業で行われている。
【0005】
具体的には、人が圧着機の入口側で生地の裏面と芯地を重ね合わせており、重ね合わせられた生地および芯地は、ベルトコンベアに乗せられ、圧着機に挿入される。圧着機の内部では、スチーム熱等によって、重ね合わせられた生地および芯地が接着され、ベルトコンベアで出口側へ運ばれる。出口側では、次の工程で縫製生地の輪郭を揃えるための裁断(正裁ち)作業が行われるため、複数枚の接着芯地作業後の生地を、同時に裁断できるように人が輪郭形状を揃えて手作業で積み重ねていく。しかし、この作業は圧着機入口側における生地と芯地の重ね合わせ作業と同じように、人手に頼っているのが現状であり、人材不足を解消するためには自動化することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-219617号公報
【特許文献2】特開平10-118375号公報
【特許文献3】特開2001-164457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、かかる点に鑑み、既存の圧着機に設置することが可能であるとともに、多種多岐に渡っている生地において、接着芯地作業の生地の積み重ねを精度よく自動化する装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様は、圧着機に設置する接着芯地作業自動化装置であって、ベルトコンベア上を移動する生地を検知する入口側センサと、生地の画像を取得するカメラと、生地の画像から生地の位置ずれおよび生地の傾き角を演算する画像処理手段と、ベルトコンベア上を移動する生地を検知する出口側センサと、生地を把持し運搬する把持・運搬部と、生地を回転する積み重ね台と、を有し、把持・運搬部は生地の位置ずれを補正し、積み重ね台は生地の傾き角を補正すること、を特徴とする接着芯地作業自動化装置である。
【0009】
また、把持・運搬部が、上下機構とベルトプーリー機構との二軸機構であってもよい。 また、把持・運搬部が、生地を把持する2個以上の把持パッドを有し、概把持パッドの中心間距離を調整できてもよい。さらに、把持パッドが、非接触パッドであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既存の圧着機に設置することが可能であるとともに、多種多岐に渡っている生地において、接着芯地作業の生地の積み重ねを精度よく自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、接着芯地作業自動化装置100の概要を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、接着芯地作業自動化装置100の概要を示す平面図である。
【
図3】
図3(a)は、ベルトコンベア上を移動する生地の様子の一例を示す図、
図3(b)は積み重ねられた複数枚の生地を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、把持・運搬部を上から見た平面概要図である。
【
図5】
図5は、把持・運搬部の
図4のI-I線における断面概要図である。
【
図6】
図6は、非接触パッドについて説明する図である。
【
図7】
図7は、積み重ね台について説明する拡大概要図である。
【
図8】
図8は、取得した生地の画像の一例と画像処理について説明する図である。
【
図9】
図9は、自動化された接着芯地作業工程を説明するためのフローチャートの一例である。
【
図10】
図10は、接着芯地作業自動化装置の評価に用いた2種類の生地の形状を示す図であり、
図10(a)が生地1、
図10(b)が生地2である。
【
図11】
図11はX方向およびY方向における接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差を示す図であり、
図11(a)は生地1、
図11(b)は生地2の結果である。
【
図12】
図12は、ベルトコンベアを30分間駆動させた際のずれを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態にかかる連続式圧着機に設置する接着芯地作業を自動化する装置(以下、接着芯地作業自動化装置100ともいう)について、接着芯地作業自動化装置の全体構成、画像処理、自動化される接着芯地作業工程を順に説明する。ただし、本発明は実施形態に限定されない。
【0013】
[接着芯地作業自動化装置の構成]
図1および
図2は、接着芯地作業自動化装置100の概要を示す斜視図および平面図である。
図1および
図2に示されるように、接着芯地作業自動化装置100は、カメラ10、入口側センサ20、出口側センサ30、把持・運搬部50、積み重ね台60が備えられ、ベルトコンベア40上を移動し連続式圧着機(以下、圧着機70ともいう)で接着される生地に対して、把持、運搬、および、積み重ねの作業工程を自動化する装置である。本発明の接着芯地作業自動化装置100は、既存の圧着機を改造することなく併設でき、ベルトコンベア40上を移動する生地を把持し、積み重ね台60に運搬し、生地の形状を合わせて積み重ねる作業を実現する。
なお、
図1、
図2を含む、以下図において、矢印Aはベルトコンベア40上を生地が移動する方向を示し、ベルトコンベア40の進行方向をX方向、ベルトコンベア40の幅方向をY方向、生地を積み重ねる高さ方向をZ方向とする。
【0014】
<入口側センサ>
入口側センサ20は、圧着機70の入口側に設置され、生地が圧着機に入るタイミングを検知する。入口側センサ20は、ベルトコンベア上を移動する生地の有無を検出できれば公知のセンサを用いることができ、例えば、光電センサ、レーザセンサ、近接センサ、超音波センサ、画像判別センサ等が挙げられるが、本実施形態では光電センサを用いた。なお、次のカメラで撮影する動画からタイミングを検知することもできる。
【0015】
<カメラ>
カメラ10は、圧着機70の入口側に設置され、ベルトコンベア40上を移動する生地を撮影する。カメラ10によって撮影された画像を基に、画像処理手段によって、後述する画像処理が行われる。よって、カメラ10は、画像処理ができる生地の画像が取得できる性能を有していればよく、公知のカメラ、ビデオカメラ等を制限なく用いることができ、画像は静止画、動画であることを問わない。カメラ10によって画像を取得することで、様々な輪郭形状や大きさの異なる生地においても精度よく積み重ねが可能になる。なお、入口側センサ20によって画像が取得されるタイミングが決定されてもよい。
【0016】
<画像処理手段>
画像処理手段は、カメラ10によって撮影された画像を基に画像処理を行う手段であり、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータからなる。CPUは、画像処理プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する画像処理プログラムや画像処理データを記憶する。RAMは、主として画像処理のための各種作業領域として使用される。
画像処理の詳細については後述するが、画像処理手段によって、生地の重心とそのXY座標、およびベルトコンベア40の進行方向に対する生地の傾き角θ等が演算され、その結果を用いてベルトコンベア40上を移動する生地の位置ずれは、把持・運搬部50および積み重ね台60で補正され、複数枚の生地の輪郭形状を合わせながら積み重ねることが可能になる。
【0017】
<出口側センサ>
出口側センサ30は、圧着機70の出口側に設置され、生地が圧着機から出てくるタイミングを検知する。出口側センサ30は、入り口側センサと同様に、ベルトコンベア上を移動する生地の有無を検出できれば公知のセンサを制限なく用いることができ、例えば、光電センサ、レーザセンサ、近接センサ、超音波センサ、画像判別センサ等が挙げられるが、本実施形態では光電センサを用いた。
【0018】
入口側センサ20と出口側センサ30により、生地が検知され、生地が圧着機を出て、把持されるタイミングが決定される。出口側センサ30により、ベルトコンベア40上を移動する生地の搬送速度のずれを検出し、生地が後述するアーム54の真下に来たタイミングで把持する。
【0019】
図3(a)は、ベルトコンベア上を移動する生地の様子の一例を示す図、
図3(b)は積み重ねられた複数枚の生地を模式的に示す図で、左側が平面図、右側が断面図である。
図3においては、生地3枚分の例が示されているが、人が手作業で圧着機70の入口側で生地F1と芯地F2を重ね合わせた生地Fを、ベルトコンベア40上に平面置きするため、各生地の位置にばらつきが発生することを説明するものである。
図3(a)に示すように、例えば、3枚の生地の各重心C1、C2、および、C3の各XY座標を(X1,Y1)、(X2,Y2)、(X3,Y3)とする。このとき、ベルトコンベア40上のY方向の位置Y1、Y2、Y3は、出口側で生地を把持するために必要な情報となる。一方、ベルトコンベア40を動作させるためのモーターの回転ぶれやベルトの摩擦などの影響により、ベルトコンベア40上を移動する生地の搬送速度にずれが生じる場合がある。このため、入口側センサ20に加え、出口側センサ30で生地を検知することにより、移動する生地の搬送速度のずれを把握することができ、生地を把持するタイミングを決定することができる。その結果、生地がアーム54の真下に来たタイミングに把持することによって、ベルトコンベア40の進行方向に対する生地の位置を補正する機構が必要なくなり、把持・運搬部50の構成をシンプルにすることができる。なお、X方向の精度を高める必要がある場合には機構を追加しても良い。
【0020】
<把持・運搬部>
把持・運搬部50は、圧着機70の出口側に設置され、ベルトコンベア40上を移動する生地を把持し、積み重ね台60に運搬する。
図4は、把持・運搬部を上から見た平面概要図であり、
図5は、把持・運搬部の
図4のI-I線における断面概要図である。
図4および
図5に示されるように、把持・運搬部50は、ベルトコンベア40上を移動する生地を把持する把持機構51と、把持機構51によって把持した生地を積み重ね台60に運搬する運搬機構52との2軸機構により構成される。
また、把持・運搬部50の大きさは圧着機70の出口部に合わせたサイズである。より具体的には、把持・運搬部50のX方向長は圧着機70の出口側のベルトコンベア40の進行方向の長さより同じか小さければよく、この長さにより把持することができる生地のX方向長さが決まる。一方、Y方向長は圧着機70の全幅長より小さければよく、Z方向長は特に制限されないが、把持機構51が速やかに行われるよう圧着機70の全高より小さいことが好ましい。なお、把持・運搬部50のY方向への移動は、ベルトコンベア40のY方向長に加え、回転テーブル61の幅分を必要とするため、レール57はベルトコンベア40のY方向長より長くなる。
【0021】
(把持機構)
把持機構51は、ベルトコンベア40上を移動する生地を把持し上下するための機構であり、ベルトコンベア40上を移動する生地を上記の把持するタイミングで把持する。なお、生地を把持するタイミングでは、ベルトコンベア40の幅方向(Y方向)における位置ずれを補正するように把持・運搬部50は移動されている。
把持機構51は、生地を把持し上下できる機構であれば公知の機構を制限なく用いることができるが、例えば、
図5に示すように、把持パッド53で生地を把持し、把持パッド53が備えられたアーム54が、モーター55により上下に駆動され、把持した生地を上下することができる。
【0022】
図5に示すように把持パッド53を2個導入した場合の把持点は、生地の重心の位置によって調整される。具体的には、ベルトコンベア40上を移動する生地の進行方向の生地の長さに応じて把持点は決定され、2つの把持パッド53の間隔が調整される。例えば、
図5に示したように、把持パッド53が2個の場合には、把持パッド53の中心間距離を調整すればよく、その距離は0より長く、ベルトコンベア40上の進行方向の生地の長さ以下であればよい。このため、2つの把持パッド53は、X方向にその位置の調整ができることが必要になるが、その方法は自動でも手動でもよい。
把持するパッドの数について、生地は柔軟であるためパッドで把持した場合、生地の中心部および把持パッドより外側の輪郭部では、生地にたるみが生じる。このたるみは、生地を積み重ねる際の折れ目になることが考えらえるため、パッドの数は必要に応じて3個以上とする場合もあり、これらを配置する間隔は積み重ねる際に、生地に折れ目ができないようにする必要がある。
【0023】
また、把持パッド53は、生地の把持ができれば、公知の把持パッドを制限なく用いることができるが、生地にシワを作らず、また生地を汚さない観点から、非接触パッドが好ましい。
図6は、非接触パッドの一例を説明する図である。
図6に示すように、非接触パッドでは、供給ポート53Aから導入された圧縮空気が、非接触パッド本体53Bとノズル53Cとの隙間から非接触パッド本体53Bの表面に沿って放射状に吐出し、非接触パッド本体下方部53Dに負圧を発生させ、吸着ワークである生地53Eを吸引する。吐出空気は非接触パッド本体53Bと吸着ワークである生地53Eとの間を通り、非接触パッド本体53Bの外周側へ流れ出る。吸着ワークである生地53Eが非接触パッド本体53Bに接近すると、吐出空気の層が反発力として作用し、吸着ワークである生地53Eとの接触を阻止するため非接触での保持が可能となる。
なお、非接触パッドは圧縮空気を排出することにより物体を把持することができるが、圧縮空気を吸引するタイプのパッドにおいて、生地にしわを作らないようなものであれば導入することができる。
【0024】
アーム54は把持パッド53を保持する部材であり、生地を把持するパッドを上下移動させる観点から、左右に各1本のシャフトとそのシャフトを支えるリニアブッシュなど、リニア駆動を支えるものであれば公知のシャフトを制限なく用いることができる。なお、シャフトの断面は円形でも多角形でも、上下移動に支障がなければ制限はない。
【0025】
モーター55はアーム54を上下に駆動する部材であり、公知のモーターとモーターに合わせた上下機構を制限なく用いることができ、例えば、ステッピングモーター等が挙げられるが、把持・運搬・積み重ねの作業を行うための動作速度と、把持パッド53を搭載したアームを上下するためのトルクを有しているものが好ましい。
【0026】
(運搬機構)
運搬機構52は、生地を運搬するための機構である。より具体的には、生地を把持するタイミングにおいて、ベルトコンベア40の幅方向(Y方向)における位置ずれを補正するようにアーム54を移動し、把持機構51にて生地を把持したのち、把持パッド53に把持された生地を積み重ね台60まで運搬する。
【0027】
図3(a)に示すように、人が手作業で圧着機70の入口側で生地Fをベルトコンベア40上に平面置きするため、Y1、Y2、Y3の位置が異なる。つまり、ベルトコンベア40の幅方向(Y方向)に生地の位置ずれが生じる。把持機構51によって、生地を把持する前に、ベルトコンベア40の幅方向(Y方向)における位置ずれを補正するようにアーム54を移動し、生地がアーム54の真下に来たタイミングで把持できるようにする。さらに、把持機構51によって、把持パッド53に把持された生地は、ベルトコンベア40の幅方向(Y方向)に配置されたレール57に沿って、積み重ね台60まで運搬される。
【0028】
運搬機構52は、生地が運搬できる機構であれば公知の機構を制限なく用いることができるが、例えば、ラック・ピニオン機構やリニアモーター機構、ドライブプーリー56による機構が挙げられる。ドライブプーリー56とは、軸にプーリーと呼ばれる円筒または円盤状の部材を取り付け、このプーリーの外周にタイミングベルトを掛けて、タイミングベルトとモーターとを接続し駆動する機構であり、安価でありながら安定して生地の運搬のできる機構であり、潤滑油が不要なので、生地等を汚損する可能性が少ない。プーリーの材料としては、例えば、塩ビパイプ等が挙げられ、タイミングベルトの材料としては、柔軟性と抗張力を併せ持ち、表面の摩擦力の高いことと摩耗の少なさが保たれる公知の材料を用いることができるが、例えば、皮革、布帯、ゴムなどのエラストマー、エラストマーと繊維などからなる複合素材、金属製のVベルト等が挙げられる。 モーターは、公知のモーターを制限なく用いることができ、例えば、ステッピングモーターを用いることができる。
【0029】
レール57はベルトコンベア40の幅方向(Y方向)に配置され、レール57に沿ってアーム54を移動させることで、把持パッド53に把持された生地を積み重ね台60まで運搬する部材である。レール57は、軽量性・強度等の観点から、4面溝を有するアルミフレーム等が好ましい。なお、レール57の本数に制限はない。
【0030】
運搬機構52による生地の搬送速度は、ベルトコンベア40を移動する生地の速度に応じて調整される。例えば、圧着機70の入口側で、手作業で生地の重ね合わせに要する時間をT1秒、重ね合わせられた生地がベルトコンベア40に乗せられ圧着機70の出口側に到着するまでの時間をT2秒とすると、T1+T2秒の間隔で生地がベルトコンベア40上を移動することになる。接着芯地作業自動化装置100は、1枚ずつ生地を把持して運搬し、これを繰り返して積み重ねるため、1枚の生地に対する作業時間T1+T2秒より短い時間で運搬作業を終えるよう速度は調整される。なお、T1は、生地の大きさや作業員の熟練度等により異なるが、小さいもので約5秒、大きいもので約25秒である。
【0031】
<積み重ね台>
生地は、把持・運搬部50により、積み重ね台60に運搬される。
図7は、積み重ね台について説明する拡大概要図である。積み重ね台60は、回転テーブル61を備えており、
図7(a)に示すように、把持・運搬部50により運搬された生地が積み重ね台60に置かれる際に、回転テーブル61はベルトコンベア40の進行方向に対する生地の傾き角θ分回転しており、生地は回転テーブル61の中心に生地の重心が重なるように置かれる。そして、
図7(b)に示すように、回転テーブル61は生地の傾き角θ分だけ回転し、ベルトコンベア40の進行方向に対して生地が傾き角θを持たないように補正される。なお、圧着機70の入口側で人が手作業で生地をベルトコンベア40に置く際に発生する、ベルトコンベア40の進行方向に対する生地の傾き角θは、概ねベルトコンベア40の進行方向±20度程度である。なお、この傾き角はこの範囲を超えても良い。
回転テーブル61の形状は、
図1および
図2においては角を丸くした長方形であるが、円形、楕円形、略円形、正方形、多角形等どのような形状でもよいが、圧着機の横に設置する観点から、細長い形状が好ましい。また、回転テーブル61の大きさは長い生地を乗せる観点から、圧着機の出口部のX方向長さ程度であること好ましいが、生地を乗せた際、その回転に支障がない大きさまで小さくすることができる。
【0032】
生地を把持・運搬する機構(把持・運搬部50)に、ベルトコンベアの進行方向に対する生地の角度を補正する機構(積み重ね台60)を取り入れてもよいが、両機構が別々であることによって、接着芯地作業自動化装置100の機構が簡素化される。また、生地を把持・運搬する機構(把持・運搬部50)が、上下方向(Z方向)のみの動作である把持機構51と左右方向(Y方向)のみの動作である運搬機構52との二軸機構であることによって、接着芯地作業自動化装置100の機構は簡素化される。機構の簡素化は、費用の低減にもつながる。さらに、把持・運搬部50と積み重ね台60を別々にすることは、把持・運搬部50の軽量化につながり、その結果、モーターに要求されるトルクが小さくなるため、接着芯地作業自動化装置100を駆動するための電力の低減にもつながる。
【0033】
[画像処理]
図8は、取得した生地の画像の一例と画像処理について説明する図である。接着芯地作業工程においての圧着機70の入口側では、人が手で重ね合わせた生地をベルトコンベアに乗せるため、生地の位置ずれが生じる。そこで、
図8に示すように、画像処理手段によって、生地の重心CとそのXY座標、および、生地の輪郭を長方形で近似して生地の傾き角θを演算する。生地の傾き角θは、ベルトコンベア40の進行方向(X方向)と長方形で近似したX’方向とのなす角のことである。画像処理には、例えば、取得した画像を8bitグレースケールに変換後、固定閾値Tを用いて二値化処理を行う方法等が挙げられる。本実施形態では、固定閾値Tを80とした。なお、画像処理には他の方法もあり、例えば、ベルトコンベアのベルトと生地の色が近い場合には上記の方法で処理することが難しくなると考えられるが、近赤外線カメラとその処理装置などを導入することにより改善できるため、導入する画像処理の方法に制限はない。
画像処理結果を用いてベルトコンベア40上を移動する生地の位置ずれは、把持・運搬部50および積み重ね台60で補正され、複数枚の生地の輪郭形状を合わせながら積み重ねることが可能になる。
【0034】
[接着芯地作業工程]
接着芯地作業工程は、生地の延反および型を用いた裁断(荒裁ち)作業工程後、縫製生地の輪郭を揃えるための裁断(正裁ち)作業工程前に行われる作業工程であり、接着芯地作業自動化装置100は接着芯地作業工程を自動化する装置である。
図9は、自動化された接着芯地作業工程S1を説明するためのフローチャートの一例である。
図9に示すように、接着芯地作業工程S1は以下工程S10~S70を備えており、各工程について詳述する。
【0035】
工程S10は、入口側の生地の検知工程である。工程S10では、圧着機70の入口側で人が手作業でベルトコンベア40上に置いた生地を、入口側センサ20で検知する。
【0036】
工程S20は、生地の画像の取得工程である。工程S20では、圧着機70の入口側に設置したカメラ等により、工程S30の画像処理に用いる生地の画像を撮影する。
【0037】
工程S30は、画像処理手段による演算工程である。工程S30では、工程S20で得られた画像に対して、画像処理を行い、生地の位置ずれおよびベルトコンベア40上の進行方向に対する傾き角θを演算する。
【0038】
工程S40は、生地の位置ずれ(Y方向)の補正工程である。工程S40では、工程S30で演算されたデータに基づき、ベルトコンベア40上を移動する生地を把持できるよう、把持パッド53を保持したアーム54を移動する。より具体的には、工程S30で演算されたベルトコンベア40の幅方向(Y方向)における位置ずれを補正するようにアーム54を移動する。
【0039】
工程S50は、出口側の生地の検知および把持工程である。工程S50では、出口側センサ30で、ベルトコンベア40上を移動する生地の搬送速度のずれ、すなわち、ベルトコンベア40の進行方向(X方向)における位置ずれを検出し、生地がアーム54の真下に来たタイミングを補正して把持する。
【0040】
工程S60は、生地の運搬工程である。工程S60では、工程S50で把持した生地を積み重ね台60まで運搬する。
【0041】
工程S70は、生地の傾き角θの補正工程である。工程S70では、工程S30で演算されたデータに基づき、積み重ね台60の回転テーブル61を回転させる。より具体的には、工程S30で演算されたベルトコンベア40の進行方向(X方向)に対する生地の傾き角θを補正するように回転テーブル61を回転させる。
【0042】
接着芯地作業工程S1を自動化した接着芯地作業自動化装置100によって、多種多岐に渡っている生地においても、精度よく複数枚の生地の輪郭形状を合わせながら積み重ねることが可能になる。
【実施例0043】
発明者は、実際に設計した接着芯地作業自動化装置によって、生地を積み重ねる際の誤差に関する検討を行った。以下に条件、試験および評価の方法を示す。
【0044】
[条件]
実際の縫製工場に設置してある圧着機70の全長LPは4700mm 、幅(Y方向長さ)は1400mmである。設計した接着芯地作業自動化装置の試験は、模擬的な装置を製作して行ったが、ベルトコンベア40のベルト幅は490mm、ベルトコンベア40の速度は実際の工場の装置の速度と同じ0.25m/sとした。把持・運搬部50は、X方向の長さが1180mm、Y方向の長さが1850mm、Z方向の長さが1160mm、レール57のY方向の長さが1850mmである。
なお、重ね合わせられた生地がベルトコンベア40に乗せられ圧着機70の出口側に到着するまでの時間T2が約15秒であったため、運搬機構52による生地の搬送速度は、ベルトコンベア40の速度と同じ0.25m/sとし、接着芯地作業自動化装置100が生地を繰り返して積み重ねる時間を約17秒となるよう、アーム54の移動速度などを調整した。
また、把持パッド53には2個の非接触パッドを用い、把持パッド53の中心間距離は280mmと固定し、非接触パッドに供給する空気の圧力値は0.7MPaとした。
さらに、積み重ね台60の回転テーブル61は、直径350mmの円形テーブルを用いた。
【0045】
図10は、接着芯地作業自動化装置の評価に用いた2種類の生地の形状を示す図であり、
図10(a)が生地1、
図10(b)が生地2である。
図10に示すように、生地1は、大きさが450×200mmで輪郭形状に複雑な曲線が含まれており、生地2は、大きさが510×130mmで輪郭形状が直線的で生地1よりも単純な輪郭形状をしている。生地1と生地2とのそれぞれに対して50枚分の積み重ね実験を行った。
【0046】
[評価の方法]
接着芯地作業工程は、生地の延反および型を用いた裁断(荒裁ち)作業工程後、縫製生地の輪郭を揃えるための裁断(正裁ち)作業工程前に行われる作業工程である。生地の延反および型を用いた裁断(荒裁ち)作業工程は、接着芯地作業工程で生地と芯地が重ね合わされて圧着機に挿入された際、生地が熱収縮しても、縫製生地の輪郭を揃えるための裁断(正裁ち)作業工程で必要な寸法を生地に残すため、余白を確保して裁断するものである。この余白の大きさは、縫製工場や縫製する製品によって異なるが、概ね15mm 程度とされており、生地が大きくなるとさらに大きな余白が確保される場合もある。一方、生地が小さくなると、裁断(荒裁ち)作業工程における余白を小さくする必要がある。よって、接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差が±15mm以内を満たした場合、目標Aを達成したとし、接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差が生地全体の大きさの±1 %以内を満たした場合、目標Bを達成したとする。なお、目標Bは、生地が大きいものと小さいものでは余白が異なるため、これらを統一的に評価するために単位として%で設定した。
【0047】
[結果]
図11はX方向およびY方向における接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差を示す図であり、
図11(a)は生地1、
図11(b)は生地2の結果を示す。
図11(a)に示すように、生地1のX方向の誤差は0~5mmであり平均誤差は1.88mm、Y方向の誤差は0~3mmで平均誤差は0.92mmとなり、50枚全ての生地において、±15mm以内であり、目標Aを達成した。また、目標Bの±1%以内の基準は、X方向に±4.5mm以内、Y方向に±2mm以内の誤差であるが、47枚すなわち94%の生地で目標Bを達成した。
図11(b)に示すように、生地2のX方向の誤差は0~8mmであり平均誤差が3.54mm、Y方向の誤差は0~2mmで平均誤差が0.72mmとなり、50枚全ての生地において、±15mm以内であり、目標Aを達成した。また、目標Bの±1%以内の基準は、X方向に±5.1mm以内、Y方向に±1.3mm以内の誤差であるが、41枚すなわち82%の生地で目標Bを達成した。
【0048】
[誤差の要因]
生地1および生地2において目標Bの接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差が生地全体の大きさの±1 %以内で評価した場合にX方向の誤差が大きく、Y方向の誤差が小さい傾向があった。
Y方向の誤差が生じる原因は、画像処理データをもとに計算する移動距離と実際に移動するアームの誤差、また生地が傾いている場合に生じる把持点のわずかなずれなどが考えられる。X方向の誤差は、Y方向の誤差と同様に画像処理データをもとに計算する移動距離と実際のアームの誤差に加え、ベルトコンベアの回転むらによる原因が考えられる。
以下、把持点のわずかなずれの要因となる生地の滑りによる接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差に対する検証、ベルトコンベアの回転むらの要因となるベルトコンベアの速度変化による接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差に対する検証について説明する。
【0049】
(ベルトコンベアの速度変化による誤差)
上記検討で用いたベルトコンベアの速度変化について、ベルトコンベア上(1 周3.75m)にカラーテープを1枚貼り、入口側センサおよび出口側センサで用いられた光電センサがこのテープを検出する時間間隔をデータロガー(キーエンス社製NR-500、サンプリング周期2ms)で計測した。
図12は、ベルトコンベアを30分間駆動させた際の回転むらを示す図である。なお、
図12では回転速度差を明確化するため、1周目に要する時間を基準とし、2周目以降はこの時間との差を表示した。
図12より、最大で約58msの回転時間差が生じていたことが確認でき、その主な原因は、駆動プーリーとベルトのすべりによるものと考えられる。つまり、ベルトコンベアの回転速度を0.25m/sとしていた上記検討において、4msで1mmのずれが発生していたことになる。すなわち、ベルトコンベアの回転むらが低減されれば、接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差も低減される。
【0050】
(生地の滑りが原因となる誤差)
生地は、両端部を把持すると中央部にたわみが生じるため、長い生地を把持すると、中央部のたわみ量が大きくなる。そこで、生地2を把持した際のたわみの影響による生地の滑りについて検証した。
上記検討で用いた2個の把持パッドの中心間距離を380mmとし、生地にはすべりがわかるよう2つの赤いテープを把持位置より内側(テープ間距離は320mm)に貼って、 把持したところ、生地が滑り、赤いテープのラインが中央のたるみ側に移動している様子が確認できた。たわみ量は、生地の把持点で異なるが、この滑りの影響が接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差を大きくした可能性がある。しかしながら、非接触パッドにおいては、生地の把持力は供給する空気圧を上げることができるため、把持の際に生地が滑らないよう空気圧を調整すれば接着芯地作業工程終了後の積み重ね誤差も低減される。
【0051】
本開示の接着芯地作業自動化装置によれば、既存の圧着機に後から設置することが可能であるとともに、多種多岐に渡っている生地においても、接着芯地作業工程終了後の積み重ねられた生地間の位置ずれを抑制しつつ、接着芯地作業を自動化することができる。
本開示の接着芯地作業を自動化する装置によると、紳士・婦人服、病院などで着用されている白衣、ジーンズや作業服など様々な分野・場面で用いられる服の製造で行われている接着作業の自動化が可能であり、この技術を発展させることは生地の把持・移動・積み重ねの各工程は接着芯地作業のみならず、ミシンによる縫製作業などにおける生地の把持・運搬などへも展開することができ、縫製工場の自動化へ多大に貢献できると考えられる。