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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092957
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ヘモグロビン測定用試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20220616BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20220616BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/06 C
G01N30/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020205979
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 茉里
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、高精度の測定結果を得るための、試薬を提供すること。
【解決手段】下記(i)から(vii)からなる群から選択される非イオン性界面活性剤を含む、ヘモグロビン類測定用試薬。
(i)ポリオキシエチレン(10)デシルエーテル、
(ii)ポリオキシエチレン(6)2-エチルヘキシルエーテル、
(iii)ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル、
(iv)ポリオキシエチレン(10)ノニルエーテル、
(v)ポリオキシエチレン(16)イソステアリルエーテル、
(vi)ポリオキシエチレン(20)ベヘニルエーテル、
(vii)ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(6)デシルテトラデシルエーテル
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィーによりヘモグロビン類を測定するために用いられるヘモグロビン類測定用試薬であって、
下記(i)から(vii)からなる群から選択される非イオン性界面活性剤を含む、ヘモグロビン類測定用試薬。
(i)ポリオキシエチレン(10)デシルエーテル、
(ii)ポリオキシエチレン(6)2-エチルヘキシルエーテル、
(iii)ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル、
(iv)ポリオキシエチレン(10)ノニルエーテル、
(v)ポリオキシエチレン(16)イソステアリルエーテル、
(vi)ポリオキシエチレン(20)ベヘニルエーテル、
(vii)ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(6)デシルテトラデシルエーテル
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤が下記(i)、(iii)および(v)からなる群から選択される
、請求項1に記載のヘモグロビン類測定用試薬。
(i)ポリオキシエチレン(10)デシルエーテル、
(iii)ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル、
(v)ポリオキシエチレン(16)イソステアリルエーテル、
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤の含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下である、請求項1または2に記載のヘモグロビン類測定用試薬。
【請求項4】
赤血球含有試料を溶血させて測定用試料を調製するために使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘモグロビン類測定用試薬。
【請求項5】
前記液体クロマトグラフィーは陽イオン交換液体クロマトグラフィーである、請求項1~4のいずれか一項に記載のヘモグロビン類測定用試薬。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のヘモグロビン類測定用試薬を用いて、赤血球含有試料中のヘモグロビン類を液体クロマトグラフィーにより測定する工程を含む、ヘモグロビン類の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定のための試薬およびそれを用いたヘモグロビン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘモグロビンA1c(以下HbA1cと略す)は、血液中の糖が赤血球に入った後に、ヘモグロビン(以下、Hbと略す)と化学的結合することにより生成され、過去1~2ヶ月間の血液中の平均的な血糖値(血液中のグルコース濃度)を反映する。従って、HbA1cは、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するなどの糖尿病診断の指標として広く用いられている。
HbA1cを含むヘモグロビン類の測定には、高速液体クロマトグラフィーが広く用いられており、その際に、血液から測定用試料を調製するための溶血効果を有する界面活性剤として、従来はTritox X-100(登録商標)が使用されてきた。
しかし、近年、欧州のREACH規制によって環境に悪影響を与える界面活性剤の使用が規制
され、TritonX-100はREACH規制の対象の化合物となった。そこで、特許文献1ではTritonX-100以外の界面活性剤を含む、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定の
ための溶血試薬が開示されている。しかし、特許文献1に開示されている溶血試薬の数は限定的であり、環境への影響が少なく液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において高精度の測定を可能とする試薬がさらに求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6651066号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、高精度の測定結果を得るための、測定用試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、下記(i)から(vii)からなる群から選択される非イオン性界面活性剤を用いて液体クロマトグラフィーを行うことで、高精度かつ高再現性にヘモグロビン類の測定を実施できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
液体クロマトグラフィーによりヘモグロビン類を測定するために用いられるヘモグロビン類測定用試薬であって、
下記(i)から(vii)からなる群から選択される非イオン性界面活性剤を含む、ヘモグロビン類測定用試薬を提供する。
(i)ポリオキシエチレン(10)デシルエーテル、
(ii)ポリオキシエチレン(6)2-エチルヘキシルエーテル、
(iii)ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル、
(iv)ポリオキシエチレン(10)ノニルエーテル、
(v)ポリオキシエチレン(16)イソステアリルエーテル、
(vi)ポリオキシエチレン(20)ベヘニルエーテル、
(vii)ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(6)デシルテトラデシルエーテ
【0007】
本発明はまた、前記ヘモグロビン類測定用試薬を用いた液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、良好な測定結果を得ることができる。上記非イオン性界面活性剤を用いることで、血液などの赤血球含有試料(検体)に含まれる赤血球を効率よく溶血でき、効率よく測定用試料を調製することができる。また、液体クロマトグラフィーにおけるピークの分離能に優れ、ヘモグロビン類の精度良い測定が可能となる。さらに、検体と溶血試薬との混合液を調製したのち時間が経過してから混合液中のヘモグロビン類を測定した場合でも、再現性の良い正確なヘモグロビンの測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1のモードでヘモグロビンを測定した場合の良好なクロマトグラムの一例を示す図。
図2】第1のモードでヘモグロビンを測定した場合のノイズピークを有するクロマトグラムの一例を示す図(その1)。矢印はノイズピークを示す。
図3】第1のモードでヘモグロビンを測定した場合のノイズピークを有するクロマトグラムの一例を示す(その2)。矢印はノイズピークを示す。
図4】第2のモードでヘモグロビンを測定した場合の良好なクロマトグラムの一例を示す。
図5】第2のモードでヘモグロビンを測定した場合のノイズピークを有するクロマトグラムの一例を示す。矢印はノイズピークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ヘモグロビン類測定用試薬)
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は、
下記(i)から(xii)からなる群から選択される非イオン性界面活性剤を含む。
(i)ポリオキシエチレン(10)デシルエーテル、
(ii)ポリオキシエチレン(6)2-エチルヘキシルエーテル、
(iii)ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル、
(iv)ポリオキシエチレン(10)ノニルエーテル、
(v)ポリオキシエチレン(16)イソステアリルエーテル、
(vi)ポリオキシエチレン(20)ベヘニルエーテル、
(vii)ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(6)デシルテトラデシルエーテ

ここで、カッコ内の数字はオキシエチレン基またはポリオキシプロピレン基の付加モル数であり、当該付加モル数は、各ポリオキシエチレンアルキルエーテルの分子量から計算することができる。
(i)から(xii)のうち、(i)、(iii)、(v)のいずれかの非イオン性界面活性剤を
用いることがより好ましい。
【0011】
各非イオン性界面活性剤の構造は、化合物名から一義的に定まるが、明確化のために、(iii)、(v)および(vii)の化合物の構造を以下に示す。
(iii)ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル
【化1】
(v)ポリオキシエチレン(16)イソステアリルエーテル
【化2】

(vii)ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(6)デシルテトラデシルエーテル
【化3】
【0012】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は好ましくは液体試薬であり、好ましくは水溶液である。非イオン性界面活性剤の含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下であることが好ましく、0.05重量%以上1.0重量%以下であることがより好ましく、0.05重量%以上0.75重量%以下であることがさらに好ましく、0.09重量%以上0.50重量%以下であることが特に好ましい。
なお、使用時に水などの溶媒に、上記界面活性剤を好ましい濃度に溶解して使用してもよい。
【0013】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は上記界面活性剤を2種類以上含有してもよい。
ここで、本発明のヘモグロビン類測定用試薬が上記界面活性剤を2種類以上含有する場合においては、上記界面活性剤の合計含有量が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0014】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は、緩衝剤を含むことが好ましい。緩衝剤を含むことにより、pHを一定範囲、例えば、6.0~8.5、好ましくは6.5~8.0、より好
ましくは6.8~7.5の範囲に維持することができる。
緩衝剤としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウム等のリン酸塩、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アニリン、アニリン誘導体、アミノ酸、アミン化合物、イミダゾール化合物、アルコール化合物、エチレンジアミン四酢酸、ピロリン酸、ピリジン、カコジル酸、グリセロールリン酸、2,4,6-コリジン、N-エチルモルホリン、モルホリン、4-アミノピリジン、アンモニア、エフェドリン、ヒドロキシプロリン、ピペリジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、並びにグリシルグリシン等が挙げられる。ヘモグロビン類測定試薬が含む緩衝剤の濃度は、緩衝作用を発揮できる濃度であれば特に限定されない。ヘモグロビン類測定試薬が含む緩衝剤の濃度は0.5mM~50mMであってもよく、好ましくは1mM~10mMである。
【0015】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬はまた、無機塩類を含むことが好ましい。無機塩類を含むことにより、浸透圧を一定の範囲に調整することができる。
無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸カリウム等が挙げられる。
【0016】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は、さらに、防腐剤、ヘモグロビン安定剤等の成分を含んでもよい。
防腐剤としては、メチルパラベン、フェノキシエタノール、アジ化ナトリウム、チモール、およびプロピオン酸ナトリウム等が挙げられる。
ヘモグロビン安定剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、およびグルタチオン等が挙げられる。ヘモグロビン類測定用試薬が含むヘモグロビン安定剤及び防腐剤の濃度は限定されないが、0.01重量%~0.3重量%であってもよく、好ましくは0.02重量%~0.2重量%の濃度で含めることができる。
【0017】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は、液体クロマトグラフィーによりヘモグロビン類を測定するために用いられる。
ここで、液体クロマトグラフィーとしては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が好ましく、分離方法としては、陽イオン交換クロマトグラフィーが好ましい。
【0018】
陽イオン交換液体クロマトグラフィーで用いられる陽イオン交換カラムとしては、ヘモグロビンを吸着できる限り特に制限されず、公知の陽イオン交換カラムを用いることができ、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、またはリン酸基等のカチオン交換基を有する充填剤が充填されたカラムを使用することができる。より具体的には、例えば、アークレイ社製 グリコヘモグロビン分析装置 アダムス A1c HA-8190Vに使用される「カラムユ
ニット90」等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0019】
測定対象のヘモグロビン(Hb)類としては、特に制限されないが、HbA1c、HbF、HbS、HbC、HbE、HbDなどが挙げられ、この中ではHbA1cおよびHbFが好ましく、HbA1cがより好まし
い。ヘモグロビン類は2種類以上を測定してもよい。
【0020】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬は、液体クロマトグラフィーにおける洗浄液、溶離液や標準試料の希釈液として使用してもよいが、赤血球含有試料、特に、血液試料に含まれる赤血球を溶血させるための溶血試薬として使用されることが好ましい。
【0021】
本発明のヘモグロビン類測定用試薬を、赤血球含有試料に対して添加して、赤血球を溶血させて測定用試料を調製する際には、赤血球を十分に溶血させるに足る量のヘモグロビン
類測定用試薬を添加すればよいが、例えば、赤血球含有試料に対して、10倍以上、50倍以上、または100倍以上の容量のヘモグロビン類測定用試薬を添加することが好ましい。
【0022】
(ヘモグロビン類の測定方法)
本発明に係るヘモグロビン類の測定方法は、赤血球含有検体と、上述したヘモグロビン類測定用試薬とを混合して混合液(測定用試料)を得る工程と、上記混合液を液体クロマトグラフィーにより測定する工程とを備える。
【0023】
以下、好ましい態様としての陽イオン交換液体クロマトグラフィーの例を挙げて説明する。
陽イオン交換液体クロマトグラフィーは公知の手順に従って行うことができる。
具体的には、本発明のヘモグロビン類測定用試薬を、血液試料などの赤血球含有試料に添加して混合することで調製された測定用試料をカラムに負荷してヘモグロビン類をカラムに吸着させ、カラムを洗浄したのち、ヘモグロビン類を溶出させて、吸光度測定などによりヘモグロビン類を検出する方法が挙げられる。
溶出は、塩濃度の異なる溶離液や、pHの異なる溶離液を用い、塩濃度やpHを変化させながらカラム吸着成分の溶出を行うことで、実施しうる。塩としては、塩化ナトリウムなどが挙げられるが特に限定はされない。
塩濃度やpHを変化させる際には、連側的に(リニアグラジエント法)変化させてもよい
し、段階的に(ステップグラジエント法)変化させてもよい。
また例えば、ヘモグロビン類を吸着させたカラムに第1の溶離液を送液してHbF又は/及
びHbA1cを溶出した後、カラムに吸着したヘモグロビン類を溶出する溶出力が第1の溶離
液よりも強い第2の溶離液(洗浄液)を送液してカラムに吸着したヘモグロビンを全て溶出する第1のモードで、HbF又は/及びHbA1cを分析してもよい。
また、ヘモグロビン類を吸着させたカラムに第1の溶離液を送液してHbF又は/及びHbA1cを溶出した後、第1の溶離液よりも溶出力が強く第2の溶離液よりも溶出力の弱い第3の溶離液を送液する第2のモードで、HbF又は/及びHbA1cよりもカラムへの吸着力が強いヘモグロビン(例えばHbS、HbC、HbE、HbD等)を詳細に分析してもよい。
【0024】
吸光度測定などにより得られたクロマトグラムに基づき、ヘモグロビン類に相当する目的のピークの存在、形状、強度および/または面積を測定することで、ヘモグロビン類を検出し、定量することができる。例えば、ヘモグロビンのピーク面積の合計に対するヘモグロビンA1cのピーク面積の割合をヘモグロビンA1cの測定値(HbA1c%)とすることができる。同様にヘモグロビンのピーク面積の合計に対するヘモグロビンFのピーク面積の割合をヘモグロビンFの測定値(HbF%)とすることができる。
ヘモグロビン類の濃度既知の標準試料を用いて測定を行って検量線を作成し、検量線に基づいて検体におけるヘモグロビン類の濃度を算出することもできる。
【実施例0025】
以下、本発明を、実施例を参照して具体的に説明するが、本発明は以下の態様には限定されない。
【0026】
1.ヘモグロビン類測定用試薬の調製
表1のように、リン酸水素2カリウム、EDTA-2Na、非イオン性界面活性剤と水とを混合し、実施例1~実施例14のヘモグロビン類測定用試薬を調製した。ヘモグロビン類測定用試薬に用いた非イオン性界面活性剤は表2に示した。ヘモグロビン類測定用試薬に含まれるリン酸水素2カリウムの濃度は5.2mM、EDTA-2Naの濃度は1.3mMである。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


Triton X-100はナカライテスクより、それ以外は青木油脂工業より入手
【0029】
2.ヘモグロビン類測定用試薬の評価
2-1-1.溶血能の評価
1.5mL用のエッペンドルフチューブに1で調製したヘモグロビン類測定用試薬1mLと赤血球を含む全血10μLを加えてヘモグロビン類測定用試薬と全血との混合液を調製した。エッペンドルフチューブを遠心分離し、混合液の上清の色とエッペンドルフチューブの底に生じるペレットの有無を目視で確認した。
以下の基準で溶血能を判定した。
【0030】
【表3】

【0031】
2-1-2.混合後安定性の評価
1で調製したヘモグロビン類測定用試薬3 mLと全血検体30μLとを7 mL PPバイアル瓶で混合して混合液を調製した。
調製した混合液に含まれるHbA1cおよびHbFを、混合液を調製した当日に液体クロマトグラフィーによって測定した。
測定後、混合溶液を室温で保存し、翌日その混合液に含まれるHbA1cおよびHbFを同様に測定した。
混合液を調製した当日に測定したHbA1cの測定値(HbA1c%)と翌日に測定したHbA1cの測定値(HbA1c%)との差(ΔHbA1c)を求めた。
同様に、混合液を調製した当日に測定したHbFの測定値(HbF%)と翌日に測定したHbFの測定値(HbF%)との差(ΔHbF)を求めた。
【0032】
測定は以下の条件で行った。
【0033】
液体クロマトグラフィーの測定条件
測定装置:グリコヘモグロビン分析装置(アークレイ社「HA-8190V」)
測定原理:逆相分配陽イオン交換クロマトグラフィー
測定波長:420.5nm/500nm
溶離液:
第1の溶離液
第2の溶離液
第3の溶離液
ヘモグロビンの溶出力が高い順に溶離液を示すと、第2の溶離液、第3の溶離液、第1の溶離液の順となる。
測定条件:
先に説明した第1の溶離液をカラムに流してHbF及びHbA1cを溶出した後、第2の溶離液をカラムに流してカラムに残ったヘモグロビンを全て溶出する第1のモードで、ヘモグロビン類を測定した。
また第1の溶離液をカラムに流してHbF及びHbA1cを溶出した後、次に第3の溶離液をカラムに流してHbS、HbC、HbE及びHbDを溶出した後、第2の溶離液をカラムに流してカラムに残ったヘモグロビンを全て溶出する第2のモードで、ヘモグロビン類を測定した。
【0034】
以下の基準で混合後安定性を評価した。
【0035】
【表4】

【0036】
2-1-3.分離能の評価
1で調製したヘモグロビン類測定用試薬3 mLと実検体30μLとを7 mL PPバイアル瓶で混合して混合液を調製した。
調製した混合液を2-1-2と同様に液体クロマトグラフィーによって測定し、クロマトグラムを得た。
測定後、混合溶液を室温で保存し、翌日にその混合液を2-1-2と同様に液体クロマトグラフィーによって測定し、クロマトグラムを得た。
混合液を調製した当日に得たクロマトグラムから、ヘモグロビンの分離開始からHbA1cピークが検出されるまでの時間(Td1)とHbA1cピークにおけるピーク高さの半値を示
す部分の幅(T0.5w1)を求め、下記式(I)から分離能(R1)を求めた。
同様に混合液を調製した翌日に得たクロマトグラムから、ヘモグロビンの分離開始からHbA1cピークが検出されるまでの時間(Td2)とHbA1cピークにおけるピーク高さの半
値を示す部分の幅(T0.5w2)を求め、下記式(I)から分離能(R2)を求めた。
【0037】
なお、分離能はTdが長く、T0.5Wが短ければ大きい値を示す。そして、分離能の値が大き
いほど、HbA1cを他のヘモグロビンよりも分離する能力が高い。
【0038】
R=Td / T0.5W・・・(I)
R:分離能
Td: ヘモグロビンの分離開始からHbA1cピークが検出されるまでの時間
T0.5W:HbA1cピークにおけるピーク高さの半値を示す部分の幅(半値幅)
【0039】
以下の基準で分離能を評価した。
【0040】
【表5】

【0041】
2-2.溶血能、混合後安定性および分離能の評価結果
表6は、溶血能、混合後安定性および分離能の評価結果を示す。
実施例1から実施例14はいずれも良好な溶血能を示した。
さらに、実施例1から実施例14はHbA1cの測定値、HbFの測定値のいずれに対しても良好な混合後安定性を示した。
これは実施例1から実施例14に含まれる非イオン性界面活性剤はヘモグロビン類を変性する作用が小さいことによると考えられる。
以上の結果から、実施例1から実施例14のヘモグロビン類測定用試薬は、液体クロマトグラフィーによりヘモグロビン類を測定するうえで有用であることがわかった。
溶血能が非常に良好であることから、実施例1,2、4,5,6,8,9,10,12が好ましい。
【0042】
【表6】

【0043】
2-3.クロマトグラム形状の評価
2-3-1.クロマトグラム形状の評価
上記と同様に混合液を調製し、混合液を室温で保存した。
翌日に、保存していた混合液を2-1-2と同様に測定してクロマトグラムを得た。
【0044】
図1図5にクロマトグラムの例を示す。図1図5の横軸は分離開始(測定開始)からの経過時間(秒)、縦軸はヘモグロビンの吸光度(420.5nm)に応じたカウント値を示す。
図1図5にHbFとHbA1cとHbA0のピークを示す。図1図5のクロマトグラムの経過時間約4.8秒に現れるピークはHbFのピーク、経過時間約8.5秒に現れるピークはHbA1cのピーク、経過時間約18秒から約21秒に現れるピークはHbA0のピークである。
実施例によっては本来ピークが検出されない領域にノイズとしてピークが検出される場合がある。このノイズピークはヘモグロビン測定に用いる陽イオン交換カラム、溶離液の種類、溶離液の送液条件などヘモグロビンの測定条件が変わればノイズピークが生じる時間は変化する。本測定条件において、ノイズピークは第1のモードでは1.7秒付近と22秒付
近、第2のモードでは1.7秒付近と52.4秒付近に現れている。

図1は、第1のモードでヘモグロビンを測定した場合の良好なクロマトグラムを示す。
図2に示すクロマトグラムのように、実施例によっては第1のモードでヘモグロビンを測定する場合、測定開始から1.7秒付近にノイズピークが検出されることがある。
また、図3に示すように、実施例によってはHbA0ピークの後ろの22秒付近にノイズピークが検出される場合がある。
図4に第2のモードでヘモグロビンを測定した場合の良好なクロマトグラムを示す。
図5に示すクロマトグラムのように、実施例によっては第2のモードでヘモグロビンを測定する場合、測定開始から1.7秒付近と52.4秒付近にノイズピークが検出されることがあ
る。
本測定条件において、HbA1c、HbF、変異Hb測定には影響がないが、不要なノイズピークがクロマトグラムに出現しないほうが望ましい。
【0045】
以下の基準でクロマトグラム形状を評価した。
【0046】
【表7】

【0047】
ピーク形状の総合評価は以下のように行った。
【0048】
【表8】

【0049】
2-3-2.クロマトグラム形状の評価結果
表9はクロマトグラム形状を評価した結果を示す。
この評価結果から、実施例1、3、4、5、7、9~14は良好なヘモグロビン類測定用
試薬であることがわかった。
特に実施例1、5、9は非常に良好なヘモグロビン類測定用試薬であることがわかった。
【0050】
【表9】
図1
図2
図3
図4
図5