IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -膜電極接合体の製造方法 図1
  • -膜電極接合体の製造方法 図2
  • -膜電極接合体の製造方法 図3
  • -膜電極接合体の製造方法 図4
  • -膜電極接合体の製造方法 図5
  • -膜電極接合体の製造方法 図6
  • -膜電極接合体の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092988
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20220616BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220616BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206025
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 純一
(72)【発明者】
【氏名】西畑 慎吾
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126BB06
5H126FF04
5H126HH00
(57)【要約】
【課題】異物の混入を抑制することが可能な膜電極接合体の製造方法を提供することである。
【解決手段】第1電極を含む第1中間体、開口部を有するマスク部材、及び、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を準備する工程と、第1中間体と、マスク部材と、第2中間体とを、第1電極及び電解質膜がマスク部材と接するように、この順に重ねて配置する工程と、マスク部材を介して、第1電極を電解質膜上に転写する工程と、マスク部材を剥離する工程と、を含む膜電極接合体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を含む第1中間体、開口部を有するマスク部材、及び、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を準備する工程と、
前記第1中間体と、前記マスク部材と、前記第2中間体とを、前記第1電極及び前記電解質膜が前記マスク部材と接するように、この順に重ねて配置する工程と、
前記マスク部材を介して、前記第1電極を前記電解質膜上に転写する工程と、
前記マスク部材を剥離する工程と、を含む膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記マスク部材は、シート状のフィルムである、請求項1に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1中間体、前記マスク部材、及び前記第2中間体は、長尺状であり、
前記第1中間体、前記マスク部材、及び前記第2中間体をロールツーロール方式で搬送する工程をさらに含む、請求項1に記載の膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極接合体は、例えば、触媒層を有するアノード及びカソードと、アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを備える。
【0003】
例えば、特許文献1には、プロトン伝導性電解質膜の両面に、触媒層及び電極基材からなる触媒電極が形成され、電解質膜上で前記電極の周囲にマスクフィルムを配置した固体高分子形燃料電池用のマスクフィルム付き電解質膜- 電極接合体であって、電解質膜の少なくとも一方面の触媒層は、所望形状の開口部が形成されたマスクフィルムの該開口部を通じて電解質膜上に形成され、マスクフィルムは、電解質膜と面する一方面にガスバリア層を備え、他方面に離型層を備えており、電解質膜上に接着されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用のマスクフィルム付き電解質膜-電極接合体が記載されている。特許文献2には、電極を付与する前の燃料電池用電解質膜であって、電解質膜の少なくとも片面に所望する電極形状にくりぬかれた穴を有するマスキング部材を自着又は微粘着剤を介して貼り付け、電解質膜及び/又はマスキング部材がウェブであって、電解質膜がロールストックになっていることを特徴とする燃料電池用電解質膜が記載されている。
【0004】
従来、膜電極接合体の製造方法において、アノード及びカソードと電解質膜とを貼り合わせる際に、異物が混入する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5273207号公報
【特許文献2】特許第4737924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、異物の混入を抑制することが可能な膜電極接合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>第1電極を含む第1中間体、開口部を有するマスク部材、及び、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を準備する工程と、第1中間体と、マスク部材と、第2中間体とを、第1電極及び電解質膜がマスク部材と接するように、この順に重ねて配置する工程と、マスク部材を介して、第1電極を電解質膜上に転写する工程と、マスク部材を剥離する工程と、を含む膜電極接合体の製造方法。
<2>マスク部材は、シート状のフィルムである、<1>に記載の膜電極接合体の製造方法。
<3>第1中間体、マスク部材、及び第2中間体は、長尺状であり、第1中間体、マスク部材、及び第2中間体をロールツーロール方式で搬送する工程をさらに含む、<1>に記載の膜電極接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、異物の混入を抑制することが可能な膜電極接合体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の膜電極接合体を示す概略平面図である。
図2図2は、準備工程において準備する、第1電極を含む第1中間体を示す概略断面図である。
図3図3は、準備工程において準備する、開口部を有するマスク部材を示す概略平面図である。
図4図4は、準備工程において準備する、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を示す概略断面図である。
図5図5は、第1中間体と、マスク部材と、第2中間体とが配置された状態を示す概略断面図である。
図6図6は、第1電極と電解質膜とが接合された状態を示す概略断面図である。
図7図7は、マスク部材が剥離された状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示にて示す各図面における各要素は必ずしも正確な縮尺ではなく、本開示の原理を明確に示すことに主眼が置かれており、強調がなされている箇所もある。
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の膜電極接合体を示す概略断面図である。
【0013】
図1に示すように、第1実施形態の膜電極接合体100は、第1電極10と、電解質膜20と、第2電極30と、をこの順に備える。第1電極10は、第1触媒層11と、第1ガス拡散層12と、を有する。第2電極30は、第2触媒層31と、第2ガス拡散層32と、を有する。
【0014】
(第1電極)
第1電極10は、カソードであってもアノードであってもよい。
第1電極10は、電解質膜20と接する触媒層11と、触媒層11と接するガス拡散層12と、を有する。
【0015】
触媒層11は、例えば、触媒及びイオン交換樹脂を含む層である。
【0016】
触媒層11に含まれる触媒としては、例えば、担体に、白金、白金合金、コアシェル触媒、又はカーボンアロイが担持された触媒が挙げられる。中でも、触媒は、担体に、白金又は白金合金が担持された触媒であることが好ましい。
【0017】
担体としては、カーボン担体及び金属酸化物担体が挙げられる。中でも、担体は、カーボン担体であることが好ましい。
【0018】
カーボン担体としては、活性炭及びカーボンブラックが挙げられる。中でも、カーボン担体は、耐久性の観点から、熱処理等によりグラファイト化したものが好ましい。カーボン担体の比表面積は、200m/g以上が好ましい。カーボン担体の比表面積は、BET比表面積装置により、カーボン表面への窒素吸着により測定される。
【0019】
白金合金は、白金を除く白金族の金属(例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、及びイリジウム)、金、銀、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びスズからなる群から選ばれる1種以上の金属と、白金との合金であることが好ましい。白金合金には、白金と合金化される金属と、白金との金属間化合物が含まれていてもよい。
【0020】
白金又は白金合金の担持量は、触媒(100質量%)のうち、10質量%~70質量%であることが好ましい。
【0021】
触媒層11に含まれるイオン交換樹脂は、耐久性の観点から、含フッ素イオン交換樹脂であることが好ましく、イオン交換基を有するペルフルオロカーボンポリマー(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい。)であることがより好ましい。
【0022】
触媒層11の厚さは、触媒層中のガス拡散を容易にし、燃料電池の特性を向上させる観点から、1μm~20μmであることが好ましく、5μm~15μmであることがより好ましい。また、触媒層の厚さは、均一であることが好ましい。
【0023】
ガス拡散層12は、ガス拡散性基材を有する層であり、ガス拡散性基材は、導電性を有する多孔質基材であることが好ましい。ガス拡散性基材としては、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、及びカーボンフェルトが挙げられる。
【0024】
ガス拡散性基材は、撥水性及び親水性のいずれでもよいが、撥水性であることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、又は、ポリテトラフルオロエチレンとカーボンブラックとの混合物によって撥水処理されていることが好ましい。
【0025】
ガス拡散層12の厚さは、30μm~400μmであることが好ましく、50~100μmであることがより好ましい。
【0026】
第1電極10がアノードである場合、第1電極10の厚さは、5μm~500μmであることが好ましく、40μm~500μmであることがより好ましく、60μm~120μmであることがさらに好ましい。
【0027】
(電解質膜)
電解質膜20は、イオン交換樹脂を含む膜であることが好ましい
【0028】
イオン交換樹脂としては、含フッ素イオン交換樹脂及び非フッ素系イオン交換樹脂が挙げられる。中でも、イオン交換樹脂は、耐久性の点から、含フッ素イオン交換樹脂であることが好ましい。
【0029】
電解質膜20に含まれる含フッ素イオン交換樹脂は、イオン交換基を有するペルフルオロカーボンポリマー(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい。)であることが好ましい。また、電解質膜20に含まれる含フッ素イオン交換樹脂は、触媒層に含まれるイオン交換樹脂と同じイオン交換樹脂であることが好ましい。
【0030】
非フッ素系イオン交換樹脂としては、例えば、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリベンゾオキサゾール、スルホン化ポリベンゾチアゾール、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンスルホキシド、スルホン化ポリフェニレンサルファイド、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトンケトン、及びスルホン化ポリイミドが挙げられる。
【0031】
電解質膜20の厚さは、50μm以下であることが好ましく、3μm~40μmであることがより好ましく、5μm~30μmであることがさらに好ましい。電解質膜20の厚さを50μm以下であると、電解質膜20が乾燥した状態になりやすく、燃料電池の特性の低下を抑制することができる。電解質膜20の厚さが5μm以上であると、ガスリークの発生及び電気的な短絡を抑制することができる。
【0032】
(第2電極)
第2電極30は、カソードであってもアノードであってもよく、第1電極10がカソードである場合には、第2電極30はアノードであり、第1電極10がアノードである場合には、第2電極30はカソードである。
【0033】
第2電極30は、電解質膜20と接する触媒層31と、触媒層31と接するガス拡散層32と、を有する。触媒層31の好ましい態様は、第1電極10に含まれる触媒層11と同様である。ガス拡散層32の好ましい態様は、第1電極10に含まれるガス拡散層12と同様である。
【0034】
第2電極30がアノードである場合、第2電極30の厚さは、1μm~20μmであることが好ましく、5μm~15μmであることがより好ましい。
【0035】
(膜電極接合体の製造方法)
第1実施形態の膜電極接合体の製造方法は、例えば、第1電極を含む第1中間体、開口部を有するマスク部材、及び、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を準備する工程(以下、「準備工程」という)と、第1中間体と、マスク部材と、第2中間体2とを、第1電極及び電解質膜がマスク部材と接するように、この順に重ねて配置する工程(以下、「配置工程」という)と、マスク部材を介して、第1電極を電解質膜上に転写する工程(以下、転写工程」という)と、マスク部材を剥離する工程(以下、「剥離工程」という)と、を含む。
【0036】
(準備工程)
準備工程は、第1電極を含む第1中間体、開口部を有するマスク部材、及び、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を準備する工程である。
【0037】
図2は、準備工程において準備する、第1電極を含む第1中間体を示す概略断面図である。
【0038】
第1中間体1は、図2に示すように、剥離基材51と、剥離基材51上に設けられた第1電極10Aと、を有する。第1電極10Aは、剥離基材51と接する第1ガス拡散層12Aと、第1ガス拡散層12Aと接する第1触媒層11Aと、を有する。
【0039】
剥離基材51上に第1ガス拡散層用塗工液を塗工し、乾燥させることにより、第1ガス拡散層12Aを形成することができる。また、第1ガス拡散層12A上に第1触媒層用塗工液を塗工し、乾燥させることにより、第1触媒層11Aを形成することができる。上記方法により、第1中間体1を作製することができる。
【0040】
第1ガス拡散層12Aの詳細は、上記ガス拡散層12と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
第1触媒層用塗工液は、例えば、触媒を溶媒に分散させ、イオン交換樹脂を溶媒に溶解又は分散させることにより調製される。
【0042】
イオン交換樹脂が含フッ素イオン交換樹脂の場合、溶媒は、アルコール又は含フッ素溶媒であることが好ましい。
【0043】
アルコールとしては、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、及びtert-ブタノールが挙げられる。イオン交換樹脂の溶解性を上げるために、溶媒は、アルコールと水との混合溶媒であってもよい。
【0044】
含フッ素溶媒としては、例えば、2H-パーフルオロプロパン、1H,4H-パーフルオロブタン、2H,3H-パーフルオロペンタン、3H,4H-パーフルオロ(2-メチルペンタン)、2H,5H-パーフルオロヘキサン、3H-パーフルオロ(2-メチルペンタン)等のヒドロフルオロカーボン;パーフルオロ(1,2-ジメチルシクロブタン)、パーフルオロオクタン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロヘキサン等のフルオロカーボン;1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、1,1,1-トリフルオロ-2,2-ジクロロエタン、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等のヒドロクロロフルオロカーボン:1H,4H,4H-パーフルオロ(3-オキサペンタン)、3-メトキシ-1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のフルオロエーテル;及び、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール等の含フッ素アルコールが挙げられる。
【0045】
イオン交換樹脂が非フッ素系イオン交換樹脂の場合、溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、及びテトラクロロエチレンが挙げられる。
【0046】
第1触媒層用塗工液の塗工方法は特に限定されず、例えば、バーコータ法、スピンコータ法、及びスクリーン印刷法が挙げられる。
【0047】
第1触媒層用塗工液の塗工量は、第1触媒層11Aが所望の厚さとなるように、適宜調整される。
【0048】
第1触媒層用塗工液を塗工した後に乾燥させる際の乾燥温度は、例えば、70℃~150℃である。
【0049】
剥離基材51としては、樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の非フッ
素系樹脂のフィルム;及び、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂のフィルムが挙げられる。非フッ素系樹脂のフィルムは、離型剤で表面処理されていることが好ましい。
【0050】
図3は、準備工程において準備する、開口部を有するマスク部材を示す概略平面図である。
【0051】
マスク部材40は、図3に示すように、開口部を有する部材である。開口部の数は1個であってもよく、複数個であってもよい。
【0052】
マスク部材40は、シート状のフィルムであることが好ましい。マスク部材40を構成する材料は樹脂であることが好ましく、樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びエチレン-酢酸ビニル樹脂が挙げられる。中でも、マスク部材40は、2軸延伸ポリエチレンフィルムであることが好ましい。
【0053】
マスク部材40の厚さは、電解質膜20上に形成する第1電極10の厚さが所望の厚さとなるように、適宜調整される。
【0054】
マスク部材40は、例えば、シート状の樹脂フィルムから中央部分を略長方形に切り取ることによって形成される。切り取り場所及び切り取り面積は、電解質膜20上に形成する第1電極10の位置及び形状が所望の位置及び形状となるように、適宜調整される。
【0055】
図4は、準備工程において準備する、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を示す概略断面図である。
【0056】
第2中間体2は、図4に示すように、剥離基材52と、剥離基材52上に設けられた第2電極30と、第2電極30上に設けられた電解質膜20と、を有する。第2電極30は、剥離基材52と接する第2ガス拡散層32と、第2ガス拡散層32と接する第2触媒層31と、を有する。
【0057】
剥離基材52上に第2ガス拡散層用塗工液を塗工し、乾燥させることにより、第2ガス拡散層32を形成することができる。また、第2ガス拡散層32上に第2触媒層用塗工液を塗工し、乾燥させることにより、第2触媒層31を形成することができる。さらに、第2触媒層31上に電解質膜用塗工液を塗工し、乾燥させることにより、電解質膜20を形成することができる。上記方法により、第2中間体2を作製することができる。
【0058】
第2ガス拡散層32、第2触媒層用塗工液、及び剥離基材52の詳細は、上記第1ガス拡散層12A、第1触媒層用塗工液、及び剥離基材51と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
電解質膜用塗工液は、例えば、イオン交換樹脂を溶媒に溶解又は分散させることにより調製される。
【0060】
電解質膜用塗工液に含まれる溶媒としては、上記第1触媒層用塗工液に含まれる溶媒と同様のものが挙げられる。
【0061】
電解質膜用塗工液の塗工方法は特に限定されず、例えば、バーコータ法、スピンコータ法、及びスクリーン印刷法が挙げられる。
【0062】
電解質膜用塗工液の塗工量は、電解質膜20が所望の厚さとなるように、適宜調整される。
【0063】
電解質膜用塗工液を塗工した後に乾燥させる際の乾燥温度は、例えば、70℃~150℃である。また、電解質膜用塗工液を乾燥させた後、さらにアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理の温度は、例えが、100℃~250℃である。
【0064】
(配置工程)
配置工程は、第1中間体1と、マスク部材40と、第2中間体2とを、第1電極10及び電解質膜20がマスク部材40と接するように、この順に重ねて配置する工程である。
【0065】
図5は、第1中間体1と、マスク部材40と、第2中間体2とが配置された状態を示す図である。
【0066】
図5に示すように、第1電極10と電解質膜20とを接合するために、剥離基材51、ガス拡散層12A、第1触媒層11A、マスク部材40、電解質膜20、第2触媒層31、ガス拡散層32、及び剥離基材52が、この順に配置される。
【0067】
(転写工程)
転写工程は、マスク部材を介して、第1電極を電解質膜上に転写する工程である。
【0068】
第1中間体1と、マスク部材40と、第2中間体2とを図5に示すように配置した状態で、外側から加圧しながら熱処理を行うことにより、マスク部材40の開口部に位置する第1電極10Aが電解質膜20上に転写される。
【0069】
転写工程における熱処理の温度は、100℃~140℃であることが好ましい。また、転写工程における圧力は、1MPa~5MPaであることが好ましい。
【0070】
転写工程において、マスク部材40の開口部に位置する第1電極10Aが電解質膜20上に転写され、マスク部材40と接するように配置された第1電極10Aと、剥離基材51は除去される。図6は、剥離基材51が除去された後の、第1電極10と電解質膜20とが接合された状態を示す概略断面図である。図6に示すように、第1電極10と電解質膜20とが接合される。
【0071】
(剥離工程)
剥離工程は、マスク部材を剥離する工程である。
【0072】
図7は、マスク部材が剥離された状態を示す概略断面図である。
【0073】
第1電極10と電解質膜20とが接合された後、マスク部材40を剥離する。図7に示すように、第1電極10、電解質膜20、第2電極30、及び剥離基材52が、この順の配置された積層体が得られる。さらに、剥離基材52を剥離することにより、図1に示す膜電極接合体100が得られる。
【0074】
第1実施形態の膜電極接合体の製造方法では、上記準備工程と、上記配置工程と、上記転写工程と、上記剥離工程と、を含むことにより、異物の混入を抑制することができる。
【0075】
従来、膜電極接合体の製造方法において、アノードと、アノード上に設けられた電解質膜とを、備える積層体上に、所定の大きさに切り取られたカソードを配置し、積層体における電解質膜と、アソードとを接合する方法が用いられていた。しかし、カソードを所定の大きさに切り取った際に発生した断裁屑が、接合工程において混入する場合があった。異物の混入は、電解質膜の穴あきを引き起こす場合があった。これに対して、第1実施形態の膜電極接合体の製造方法では、特に、マスク部材を介して、第1電極(例えば、カソード)を電解質膜上に転写することにより、第1電極を切り取ることなく、第1電極と電解質膜とを接合することができる。そのため、第1実施形態の膜電極接合体の製造方法では、製造工程中において、異物の混入を抑制することができる。また、第1実施形態の膜電極接合体の製造方法では、マスク部材を介して、第1電極を電解質膜上に転写し、マスク部材と接するように位置する第一電極はマスク部材とともに除去されることにより、第1電極の輪郭部が直線的ではなくギザギザ状に形成される。これにより、第1電極に対して、膜電極接合体を補強する目的で、外枠部材を貼り付ける際に、外枠部材と第1電極との密着性が向上する。
【0076】
なお、上記第1実施形態では、第1電極及び第2電極のいずれも、触媒層及びガス拡散層を含む例を示したが、第1電極及び第2電極は、触媒層のみであってもよい。また、第1電極層及び第2電極層は、触媒層及びガス拡散層以外の他の層を含んでいてもよい。
【0077】
[第2実施形態]
第1実施形態では、第1中間体、マスク部材、及び第2中間体がシート状であり、バッチ方式で膜電極接合体を製造する方法を示したが、ロールツーロール方式で膜電極接合体を製造してもよい。
【0078】
第2実施形態では、第1中間体、マスク部材、及び第2中間体が長尺状である。第1中間体、マスク部材、及び第2中間体は、搬送機能を有する製造装置を用いて搬送され、第1中間体と、マスク部材と、第2中間体とが、この順に重ねて配置される。その後、第1中間体と、第2中間体とが、マスク部材の開口部において接合される。第1中間体と、第2中間体とが、マスク部材の開口部において接合された後、第1中間体における接合されなかった部分は剥離される。また、第1中間体における接合されなかった部分が剥離された後、マスク部材も剥離される。
【0079】
第2実施形態の膜電極接合体の製造方法では、第1中間体、マスク部材、及び第2中間体が長尺状であり、第1中間体、マスク部材、及び第2中間体がロールツーロール方式で搬送されるため、連続的に長尺状の膜電極接合体を得ることができる。長尺状の膜電極接合体は、適宜、所望の幅に裁断することにより、燃料電池等へ加工することができる。
【実施例0080】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
[例1]
<電解質膜用塗工液の調製>
TFEに由来する構成単位と、下記構成単位(U1-11)とを有するポリマー(イオン交換容量:1.1ミリ当量/g乾燥樹脂)を、エタノール/水=6/4(質量比)に分散させ、固形分濃度が20質量%のポリマー分散液Aを調製した。ポリマー分散液Aを電解質膜用塗工液とした。
【0082】
【化1】
【0083】
<アノード触媒層用塗工液の調製>
カーボン担体に白金が触媒全質量の20%含まれるように担持された触媒(製品名「TEC10EA20E」、田中貴金属工業社製)10gに、窒素雰囲気下で、蒸留水84.1g、エタノール78.9g、上記ポリマー分散液A32.0gを添加し、撹拌した。さらに、遊星ボールミルを用いて混合及び粉砕し、固形分濃度が8質量%のアノード触媒層用塗工液を得た。
【0084】
<カソード触媒層用塗工液の調製>
カーボン担体に白金・コバルト合金(白金:コバルト=57:6質量比)が触媒全質量の63%含まれるように担持された触媒(製品名「TEC36F62」、田中貴金属工業社製)10.0gを、蒸留水53.6gに添加し、撹拌した。さらに、エタノールの51.2gを添加し、よく撹拌した。これにポリマー(H1)分散液の14.8gを添加し、さらに、遊星ボールミルを用いて混合及び粉砕し、固形分濃度が10質量%のカソード触媒層用塗工液を得た。
【0085】
<中間層用塗工液の調製>
気相成長炭素繊維(商品名「VGCF-H」、昭和電工社製、平均繊維径:約150nm、繊維長:10~20μm)50gに、エタノール90g、水110gを添加し、撹拌した。上記ポリマー分散液A125.0gをさらに添加し、撹拌した。超音波分散機を用いて分散及び混合し、固形分濃度が20質量%の中間層用塗工液を得た。
【0086】
<第1中間体の作製>
ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレン共重合体)フィルムからなる剥離基材を毎分2mの速度で搬送しながら、剥離基材の表面に、中間層用塗工液を固形分量で3mg/cmとなるようにダイコータで塗布し、120℃で乾燥させた。これにより、剥離基材上に、中間層が形成された。
中間層が形成された剥離基材を毎分2mの速度で搬送しながら、中間層の表面に、カソード触媒用塗工液を白金量で0.35mg/cmとなるようにダイコータで塗布し、120℃で乾燥させた。これにより、中間層上に、カソード触媒層が形成され、剥離基材/中間層/カソード触媒層からなる第1中間体を得た。
【0087】
<第2中間体の作製>
ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレン共重合体)フィルムからなる剥離基材を毎分2mの速度で搬送しながら、剥離基材の表面に、アノード触媒用塗工液を白金量で0.05mg/cmとなるようにダイコータで塗布し、乾燥させた。これにより、剥離基材上に、アノード触媒層が形成された。
アノード触媒層が形成された剥離基材を毎分2mの速度で搬送しながら、アノード触媒層の表面に、乾燥後の全体の膜厚が18μmとなるように、電解質膜用塗工液を2回に分けてダイコータで塗布し、乾燥させた。これにより、アノード触媒層上に電解質膜が形成され、剥離基材/アノード触媒層/電解質膜からなる第2中間体を得た。
【0088】
<マスク部材の準備>
OPPフィルム(2軸延伸ポリプロピレンフィルム)に対して、トムソン型を用いて打ち抜き加工を行った。図3に示すように、204mm×104mmの開口部を複数有する長尺状のマスク部材を得た。
【0089】
<膜電極接合体の作製>
剥離基材/中間層/カソード触媒層からなる第1中間体、マスク部材、及び、剥離基材/アノード触媒層/電解質膜からなる第2中間体を、カソード触媒層とマスク部材、マスク部材と電解質膜とが接するように重ね、ホットプレス法によって接合した。さらに、150℃で15分のアニール処理を行った。マスク部材を剥離し、さらに剥離基材を剥離した。
【0090】
[例2]
例1と同様の方法で第1中間体を作製した後、トムソン型を用いて、表面が204mm×104mmの長方形となるように切り出した。切り出した第1中間体と、剥離基材/アノード触媒層/電解質膜からなる第2中間体とを、カソード触媒層と電解質膜とが接するように重ね、ホットプレス法によって接合した。さらに、150℃で15分のアニール処理を行った。剥離基材を剥離し、中間層/カソード触媒層/電解質膜/アノード触媒層からなる膜電極接合体を得た。
【0091】
作製した膜電極接合体について、異物の混入に関する評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
【0092】
(検査不良率)
作製した膜電極接合体に対して、目視検査用LED照明(製品名「FY-18N」、フナテック社製)を用いて照度20,000ルクスの光を照射した。検査距離を30cmとして、異物の有無を目視で確認した。100枚以上の膜電極接合体に対して評価を行い、
検査不良率を算出した。異物の検出下限値は0.3mmである。
【0093】
例1では、検査不良率が3%以下であったのに対して、例2では、検査不良率が30%であった。
【0094】
例1の膜電極接合体の製造方法では、第1電極を含む第1中間体、開口部を有するマスク部材、及び、第2電極と電解質膜とを積層した第2中間体を準備する工程と、第1中間体と、マスク部材と、第2中間体とを、第1電極及び電解質膜がマスク部材と接するように、この順に重ねて配置する工程と、マスク部材を介して、第1電極を電解質膜上に転写する工程と、マスク部材を剥離する工程と、を含むため、異物の混入が抑制されることが分かった。
【0095】
一方、例2の膜電極接合体の製造方法では、第1中間体と第2中間体とを接合する前に、第1中間体を裁断する工程が含まれるため、製造される膜電極接合体に異物が混入しやすい。
【符号の説明】
【0096】
1 第1中間体
2 第2中間体
10、10A 第1電極
11、11A 第1触媒層
12、12A ガス拡散層
20 電解質膜
30 第2電極
31 第2触媒層
32 第2ガス拡散層
40 マスク部材
51、52 剥離基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7