(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022092993
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】滑り検出装置、把持機構および搬送装置
(51)【国際特許分類】
B25J 19/02 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
B25J19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206032
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 慎
(72)【発明者】
【氏名】坂東 慎之介
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707ES03
3C707ET08
3C707EV02
3C707HS13
3C707HS27
3C707HT20
3C707KS32
3C707KV06
3C707NS02
3C707NS07
(57)【要約】
【課題】把持機構によって把持された対象物の滑りを検出できる滑り検出装置、かかる滑り検出装置を備えた把持機構およびかかる把持機構を備えた搬送装置を提供する。
【解決手段】物体と接触する接触面に設けられ、接触面に対する物体の滑りを検出する滑り検出装置20であって、物体に接触する接触部21と、接触部21を接触面に対して出没可能に保持し、かつ、接触部21を接触面に没入させる力に対して反力を発生させる第一保持部22と、第一保持部22を接触面と平行な方向に移動可能となるように保持する第二保持部23と、第一保持部22の接触面と平行な方向に沿った移動を検出する検出部25と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体と接触する接触面に設けられ、該接触面に対する物体の滑りを検出する滑り検出装置であって、
物体に接触する接触部と、
該接触部を前記接触面に対して出没可能に保持し、かつ、該接触部を前記接触面に没入させる力に対して反力を発生させる第一保持部と、
該第一保持部を前記接触面と平行な方向に移動可能となるように保持する第二保持部と、
前記第一保持部の前記接触面と平行な方向に沿った移動を検出する検出部と、を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の滑り検出装置。
【請求項2】
前記第一保持部は、
前記接触部における接触面から突出する第一面の法線方向に沿って間隔を空けて配設された、該第一面の法線方向と直交する表面を有する一対の板部材を有しており、
該一対の板部材における前記接触面側に位置する板状部材に、前記第一面が前記接触面と平行になるように前記接触部が取り付けられている
ことを特徴とする請求項1記載の滑り検出装置。
【請求項3】
前記第二保持部は、
前記接触部における接触面から突出する第一面の法線方向と直交する方向に沿って間隔を空けて配設された、該第一面の法線方向と平行な表面を有する一対の板部材を有しており、
前記検出部は、
前記第二保持部の板部材の変形を検出する検出素子を有している
ことを特徴とする請求項1または2記載の滑り検出装置。
【請求項4】
前記検出部の検出素子が、
ひずみゲージおよび/または圧電フィルムである
ことを特徴とする請求項3記載の滑り検出装置。
【請求項5】
前記接触部は、
その第一面の摩擦係数が前記接触面の摩擦係数よりも大きい
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の滑り検出装置。
【請求項6】
物体に接触させる接触面を有する複数の把持部材と、
該複数の把持部材を物体に対して接近離間させる把持部と、
前記把持部材に設けられた滑り検出装置と、を備え、
該滑り検出装置が、
請求項1~5のいずれかに記載の滑り検出装置である
ことを特徴とする把持機構。
【請求項7】
前記滑り検出装置を複数備えており、
該複数の滑り検出装置は、
前記把持部材の接触面と平行な方向に沿った前記第一保持部の移動方向が互いに非平行となるように配設されている
ことを特徴とする請求項6記載の把持機構。
【請求項8】
前記滑り検出装置が前記把持部材の接触面に対する物体の滑りを検出すると、該滑りに関する信号を外部に送信する送信機能を有している
ことを特徴とする請求項6または7記載の把持機構。
【請求項9】
物体を保持する把持機構と、
該把持機構を移動する移動機構と、を備え、
前記把持機構が、
請求項6、7または8記載の把持機構である
ことを特徴とする搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り検出装置、把持機構および搬送装置に関する。さらに詳しくは、物体を把持する部材と物体との相対的な滑りを検出する滑り検出装置、かかる滑り検出装置を採用した把持機構、および滑り検出装置を採用した把持機構を備えた搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ものづくりの現場では、生産性・効率性の向上や労働力不足の解消を図るため、様々な装置が自動化されており、対象物(以下ワークという場合がある)を加工機等に搬送する搬送装置も自動化されている。
【0003】
搬送装置は、通常、ワークを掴んで保持する把持機構と、把持機構によって把持されたワークを把持機構とともに移動させる移動機構と、を有している。かかる搬送装置によってワークを加工機等に搬送する場合、ワークを適切な姿勢で、正確な位置に位置決めしなければ加工機等への受け渡し不良が生じたり、加工機等での加工不良が生じたりする可能性がある。
【0004】
例えば、移動機構により把持機構を正確に移動させることができても、把持機構とワークとの間で相対的な位置がズレれてしまえば、ワークは正確な位置に配置できなくなる。一般的な把持機構では、ワークを摩擦によって保持する構造となっているため、把持機構とワークとの間で以下のような滑りが発生した場合には、把持機構とワークとの間で相対的な位置がズレてしまう可能性がある。
1)ワーク搬送開始時および停止時の慣性力による滑り
2)ワークと周囲の物体との接触によりワークに加わる外力に起因する滑り
3)把持機構およびワークの接触面の表面性状や、表面に形成された油膜や錆などに起因する滑り
【0005】
したがって、加工不良を防いだり加工不良の製品を除去したりするためには、把持機構とワークとの間で滑りが発生したことを検出することが必要になる。つまり、滑りを検出すると、装置の監督者(モニタリングを行う者)に滑りの発生を通知するとともに、搬送装置を停止してワークの位置を調整することが必要になる。また、滑りが生じた状態でワークが提供された場合には、そのワークや加工品を不良品として搬送装置から除去したり別の工程で排除したりすることが必要になる。
【0006】
把持機構とワークとの間の滑りを検出する技術として、特許文献1~3に開示された技術がある。しかし、これらの技術はいずれも把持機構においてワークと接触する部位に突起等の設けるものであり、把持機構によってワークを把持した際の安定性が低下する可能性がある。しかも、これらの把持機構や滑り検出技術では、把持したり滑りを検出したりできるワークの形状および大きさが限定されるため、ワークに合せた構造を有する把持機構や滑り検出装置を採用する必要がある。
【0007】
特許文献4には、円筒形状の対象物を把持するロボットハンドにおいて、対象物の滑りを検出する技術が開示されている。この技術では、把持機構が、円筒形状の対象物をその半径方向から挟んで把持する構造を有しており、把持機構に滑り検出機構を設けている。この滑り検出機構は、把持機構によって把持された対象物の外周面に接触し対象物の滑りに追従して回転可能なローラと、ローラの回転を検出する滑り検出素子とを有しており、対象物が把持機構に対して回転するように移動すると、ローラが対象物の回転に追従して回転する。したがって、ローラの回転を検出すれば、把持機構に対する対象物の回転、つまり、把持機構に対する対象物の回転方向(または円周方向)への滑りを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-18253号公報
【特許文献2】特開昭60-93932号公報
【特許文献3】特開平1-316194号公報
【特許文献4】特開2020-49638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかるに、特許文献4の技術では、あくまでも円筒形状の対象物の回転方向の滑りを検出するものであり、対象物の軸方向に沿った滑りを検出することは想定していない。しかも、対象物の回転方向の滑りをローラの回転に変換してから滑りを求めているので、装置の構造が複雑になる。
【0010】
そして、特許文献1~4の把持機構や滑り検出技術は、いずれも把持したり滑りを検出したりできるワークの形状および大きさが限定されており、ワークの形状や大きさに係らず、滑りを検出できる装置が求められている。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、把持機構によって把持された対象物の滑りを検出できる滑り検出装置、かかる滑り検出装置を備えた把持機構およびかかる把持機構を備えた搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
<滑り検出装置>
第1発明の滑り検出装置は、物体と接触する接触面に設けられ、該接触面に対する物体の滑りを検出する滑り検出装置であって、物体に接触する接触部と、該接触部を前記接触面に対して出没可能に保持し、かつ、該接触部を前記接触面に没入させる力に対して反力を発生させる第一保持部と、該第一保持部を前記接触面と平行な方向に移動可能となるように保持する第二保持部と、前記第一保持部の前記接触面と平行な方向に沿った移動を検出する検出部と、を備えていることを特徴とする。
第2発明の滑り検出装置は、第1発明において、前記第一保持部は、前記接触部における接触面から突出する第一面の法線方向に沿って間隔を空けて配設された、該第一面の法線方向と直交する表面を有する一対の板部材を有しており、該一対の板部材における前記接触面側に位置する板状部材に、前記第一面が前記接触面と平行になるように前記接触部が取り付けられていることを特徴とする。
第3発明の滑り検出装置は、第1または第2発明において、前記第二保持部は、前記接触部における接触面から突出する第一面の法線方向と直交する方向に沿って間隔を空けて配設された、該第一面の法線方向と平行な表面を有する一対の板部材を有しており、前記検出部は、前記第二保持部の板部材の変形を検出する検出素子を有していることを特徴とする。
第4発明の滑り検出装置は、第3発明において、前記検出部の検出素子が、ひずみゲージおよび/圧電フィルムであることを特徴とする。
第5発明の滑り検出装置は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記接触部は、その第一面の摩擦係数が前記接触面の摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。
<把持機構>
第6発明の把持機構は、物体に接触させる接触面を有する複数の把持部材と、該複数の把持部材を物体に対して接近離間させる把持部と、前記把持部材に設けられた滑り検出装置と、を備え、該滑り検出装置が、第1~第5発明のいずれかの滑り検出装置であることを特徴とする。
第7発明の把持機構は、第6発明において、前記滑り検出装置を複数備えており、該複数の滑り検出装置は、前記把持部材の接触面と平行な方向に沿った前記第一保持部の移動方向が互いに非平行となるように配設されていることを特徴とする。
第8発明の把持機構は、第6または第7発明において、前記滑り検出装置が前記把持部材の接触面に対する物体の滑りを検出すると、該滑りに関する信号を外部に送信する送信機能を有していることを特徴とする。
<搬送装置>
第9発明の搬送装置は、物体を保持する把持機構と、該把持機構を移動する移動機構と、を備え、前記把持機構が、第6、第7または第8発明の把持機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
<滑り検出装置>
第1発明によれば、接触面に接触するように物体を配置すれば、第一保持部によって接触部と物体とを接触した状態とすることができる。すると、接触面に沿って物体が移動すれば、物体とともに接触部が移動し、第二保持部によって第一保持部が接触面と平行な方向に沿って移動する。したがって、この第一保持部の移動を検出部が検出すれば、接触面に対する物体の移動を検出することができる。
第2発明によれば、物体の形状に係らず、接触部を物体に押し付ける力を一定にできる。
第3発明によれば、接触部を接触面に沿った方向にのみ移動させることができる。しかも、検出素子によって第二保持部の板部材の変形を検出するので、接触面に対する物体の移動を精度よく検出することができる。
第4発明によれば、接触面に対する物体の移動を即時に精度よく検出することができる。
第5発明によれば、物体と接触部との間の滑りを抑制できるので、接触面に対する物体の移動を精度よく検出することができる。
<把持機構>
第6発明によれば、把持部材に対する物体の移動を検出することができる。
第7発明によれば、把持部材に対する複数の方向への物体の移動を検出することができる。
第8発明によれば、滑りに関する信号に基づいて把持部の作動を制御することができる。
<搬送装置>
第9発明によれば、把持部材に対する物体の移動を検出することができるので、物体の搬送不良を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の滑り検出装置20の概略説明図であって、(A)は側面図であり、(B)は正面図である。
【
図2】本実施形態の搬送装置1の把持部材11に滑り検出装置20を取り付けた状態の概略説明図であって、一対の把持部材11,11の間に搬送物Mを配置した状態の概略説明図である。
【
図3】本実施形態の搬送装置1の把持部材11に滑り検出装置20を取り付けた状態の概略説明図であって、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを挟んだ状態の概略説明図である。
【
図4】本実施形態の搬送装置1の把持部材11に滑り検出装置20を取り付けた状態の概略説明図であって、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを挟んだ状態で把持部材11に対する搬送物Mの滑りが生じていない状態の概略説明図である。
【
図5】本実施形態の搬送装置1の把持部材11に滑り検出装置20を取り付けた状態の概略説明図であって、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを挟んだ状態で把持部材11に対する搬送物MのX軸方向への滑りが生じた状態の概略説明図である。
【
図6】本実施形態の搬送装置1の一例を示した概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は(A)のB-B線断面図である。
【
図7】本実施形態の搬送装置1の一例を示した概略説明図であって、(A)は一対の把持部材11,11の間に搬送物Mを配置した状態の概略説明図であり、(B)は一対の把持部材11,11によって搬送物Mを挟んだ状態の概略説明図である。
【
図8】本実施形態の搬送装置1の一例を示した概略説明図であって、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを搬送している状態の概略説明図である。
【
図9】(A)は検出素子26にひずみゲージを使用した場合において、搬送物Mの滑りが生じた場合のひずみゲージの出力信号の概略説明図であり、(B)は検出素子26に圧電フィルムを使用した場合において、搬送物Mの滑りが生じた場合の圧電フィルムの出力信号の概略説明図であり、(C)は滑り検出装置20の周波数応答特性を示したものである。
【
図11】把持面と搬送物との間に生じる相対的な移動(滑り)について、ダイヤルゲージによる実測値と、本発明の滑り検出装置によって測定される出力値と、の関係について調べた実験結果を示したグラフであり、(A)はひずみゲージを使用した場合の実験結果であり、(B)は圧電フィルムを使用した場合の実験結果である。
【
図12】本実施形態の搬送装置としてロボットアームRAを採用した例の概概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の滑り検出装置は、物体が接触した接触面に対する物体の滑りを検出することができる装置である。
【0016】
本実施形態の滑り検出装置は、物体を把持する把持機構や、かかる把持機構を有する装置等において、物体と接触する部分(接触面)に対する物体の滑りを検出するために使用することができる。具体的には、少なくとも物体に接触する2つの接触面によって物体を挟んで保持する把持機構やかかる把持機構を有する装置等において、接触面に対する物体の滑りを検出するために使用することができる。
【0017】
例えば、長尺な鋼材等の物体を把持してその軸方向に沿って物体を搬送する搬送装置やこの搬送装置において物体を把持する把持機構において、物体と接触する部分(面)に対する物体の滑りを検出するために本実施形態の滑り検出装置を使用することができる。
【0018】
また、物体を把持するロボットハンドやこのロボットハンドにおいて物体を把持する把持機構、複数の爪を有するスクロールチャック等において、物体と接触する部分に対する物体の滑りを検出するために本実施形態の滑り検出装置を使用することができる。
【0019】
また、本実施形態の滑り検出装置を備えた把持機構によって把持される物体は、長尺な鋼材等のように軸方向に長い物体に限られない。ブロック状の部材や短冊状の部材、板状の部材のように平坦面を有する部材や、弧状に曲がった部材や屈曲した部材、球体等のように表面が曲面になっている物体等も本実施形態の滑り検出装置を備えた把持機構によって把持される物体に含まれる。
【0020】
以下では、代表として、長尺な鋼材等の物体を把持して物体をその軸方向に沿って搬送する搬送装置の把持機構に本実施形態の滑り検出装置を採用した場合を説明する。なお、以下では、搬送装置によって搬送される物体を搬送物という場合がある。
【0021】
<搬送装置1>
まず、本実施形態の滑り検出装置20を採用した把持機構10を有する搬送装置1を説明する。
【0022】
<搬送部3>
図6に示すように、搬送装置1はフレーム2を備えており、このフレーム2には長尺な鋼材等の搬送物Mを載せて移動させる搬送部3が設けられている。この搬送部3は、例えば、その長手方向に沿って並んで設けられた複数のローラ3rを備えている。このため、搬送部3の複数のローラ3r上に搬送物Mを載せれば、ローラ3rの回転によって搬送物Mを搬送部3の長手方向(つまり、搬送装置1の座標系のX軸方向、以下単にX軸方向という場合がある)に沿ってスムースに移動させることができる。
【0023】
なお、搬送部3は上述した構造に限られない。
図6に示すように、搬送物Mを直線的に軸方向に移動させる場合であれば、その軸方向に沿ってスムースに搬送物Mを移動させることができる構造を有していればよい。もちろん、搬送部3は、搬送物Mを直線状に移動させるものに限られず、任意の曲線に沿って搬送物Mを移動させるものでもよい。
【0024】
<移動機構5>
図6に示すように、搬送部3の上方には把持機構10が設けられており、この把持機構10を移動する移動機構5が設けられている。この移動機構5は、フレーム2に設けられた搬送部3のX軸方向に沿って延びるレールを備えており、把持機構10はレールに沿って移動可能に設けられている。また、移動機構5は、搬送部3のX軸方向に沿って設けられたボールねじ6と、このボールねじ6を回転させるモータ等の駆動部7と、を備えている。このボールねじ6には、把持機構10の移動台10aに設けられたナットが螺合している。したがって、駆動部7を駆動すれば、駆動部7の回転量に応じた長さだけ、ボールねじ6の軸方向に沿って把持機構10を移動させることができる。つまり、駆動部7の回転量に応じた長さだけ、把持機構10によって把持された搬送物Mを搬送部3のX軸方向に沿って移動させることができる。
【0025】
なお、移動機構5は上述した構造に限られず、把持機構10を搬送部3のX軸方向に沿って所定の量だけ移動させることができる構造を有していればよい。つまり、移動機構5は、上記のような機構に限られず、把持機構10を直線的に移動させることができる機構であればよく、とくに限定されない。例えば、一般的なリニアガイド等の直動システムを移動機構5として採用することができる。
【0026】
<把持機構10>
図6に示すように、把持機構10は、上述した移動機構5のレールに沿って移動可能に設けられた移動台10aを備えている。この移動台10aは、上述したようにナットを備えており、このナットに移動機構5のボールねじ6が螺合している。
【0027】
この把持機構10の移動台10aには、一対の把持部材11,11が設けられている。この一対の把持部材11,11は、互いに対向するように形成された一対の接触面11f,11fを有している(
図2、
図3参照)。この一対の接触面11f,11fは、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを把持する際に搬送物Mと接触する面であり、搬送部3のX軸方向と平行かつ互いに平行な平坦面に形成されている。
【0028】
図6および
図7に示すように、一対の把持部材11,11は、把持部12によって互いに接近離間可能に設けられている。具体的には、一方の把持部材11(
図7では右側の把持部材11)は移動台10aに固定されており、他方の把持部材11(
図7では左側の把持部材11)が把持部12によって一方の把持部材11に対して接近離間可能に設けられている。この把持部12は油圧シリンダであり、移動台10aにシリンダボディが固定されており、他方の把持部材11を保持する部材にロッドが連結されている。しかも、把持部12は、その伸縮方向が一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fと直交するように配設されている。言い換えれば、把持部12は、その伸縮方向がX軸方向と直交するように設けられている。言い換えれば、把持部12は、搬送装置1の座標系のZ軸方向(以下単にZ軸方向という場合がある)に伸縮するように設けられている。したがって、把持部12を伸縮させれば、一対の把持部材11,11をその一対の接触面11f,11fを平行に維持したまま、一方の把持部材11に対して他方の把持部材11を接近離間させることができる(
図7(A)、(B)参照)。つまり、把持部12を伸縮させることによって、一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11f間に搬送物Mを挟んだり搬送物Mを離したりすることができる。
【0029】
そして、一対の把持部材11,11のうち、少なくとも一方の把持部材11には滑り検出装置20が設けられている。例えば、
図6(B)であれば、一対の把持部材11,11のうち、移動台10aに固定された一方の把持部材11の接触面11fには、接触面11fから凹んだ凹み部11hが形成されており、この凹み部11hに滑り検出装置20が配設されている(
図4、
図5参照)。この滑り検出装置20は、一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対する搬送物Mの滑りを検出する装置である。
【0030】
なお、凹み部11hは、その幅(X軸方向の長さ)が後述する滑り検出装置20の幅よりも広くなっており(
図4、
図5参照)、滑り検出装置20の接触部21がX軸方向に沿って移動できるようになっている。
また、凹み部11hは、その深さ(奥行)(Z軸方向の長さ)が滑り検出装置20の奥行き方向の長さ(z軸方向の長さ、接触部21の第一面21aから板部材22bの背面(
図1の左側の面)までの長さ)よりも長くなっている。つまり、後述する滑り検出装置20を、その接触部21が把持部材11の接触面11fから突出した状態となるように取り付けると(
図2参照)、滑り検出装置20の接触部21がZ軸方向に移動できるようになっている。
【0031】
<搬送装置1の作動>
搬送装置1が以上のような構成であるので、以下のように搬送装置1を作動させれば、搬送物Mを所定の量だけ搬送することができる。なお、以下では、一例として搬送装置1によって、搬送部3の一方の端部に設けられた加工機Cに搬送物Mを所定の量ずつ供給し、所定の長さの加工品を製造する場合を説明する。
【0032】
図7に示すように、搬送装置1の搬送部3上に搬送物Mを載せて、把持機構10によって搬送物Mを把持する。具体的には、把持機構10の一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11f間に搬送物Mを配置する(
図7(A))。その状態で把持部12を作動させて一方の把持部材11を他方に把持部材11に接近させる。すると、一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに搬送物Mが接触し、一対の把持部材11,11によって搬送物Mが挟まれる(
図7(B))。その状態で、把持部12の移動が固定され把持部12によって搬送物Mが保持される。
【0033】
把持機構10によって搬送物Mが保持されると、移動機構5によってX軸方向に沿って把持機構10を搬送部3の一方の端部に向かって移動させる。具体的には、駆動部7を作動して所定の回転量だけボールねじ6を回転させれば、その回転量に応じた長さだけ、把持機構10を搬送部3の一方の端部に向かって移動させることができる(
図8(A)→
図8(B))。搬送部3の一方の端部から所定の長さだけ搬送物Mが突出した状態になると、駆動部7の作動を停止する。この状態で加工機Cを作動すれば、搬送物Mを所定の長さに切断した加工品を製造することができる。
【0034】
搬送物Mが切断されると、把持部12を作動して、一方の把持部材11を他方に把持部材11から離間させる。すると、搬送物Mが把持機構10から解放されるので、移動機構5によって把持機構10をX軸方向に沿って搬送部3の他方の端部に向かって移動させる(
図8(B)→
図8(A))。所定の量だけ把持機構10が移動すると駆動部7の作動を停止し、把持部12を作動して一対の把持部材11,11によって搬送物Mを挟み、把持機構10によって搬送物Mを保持する。
【0035】
把持機構10によって搬送物Mが保持されると、再び移動機構5によって把持機構10をX軸方向に沿って搬送部3の一方の端部に向かって移動させる。そして、搬送部3の一方の端部から所定の長さだけ搬送物Mが突出した状態になると駆動部7の作動を停止し、加工機Cを作動する。すると、搬送物Mを所定の長さに切断した加工品を製造することができる。
【0036】
上記作業を繰り返せば、長尺な搬送物Mから所定の長さに加工された加工品を連続して製造することができる。
【0037】
上述したように、把持機構10は搬送物Mを挟んだ状態で移動停止を繰り返すが、長尺な搬送物Mの重量が重い場合には、把持機構10が移動を開始する際、また、把持機構10が停止する際には、搬送物Mの慣性力によって搬送物Mが把持機構10の移動または停止に追従できず、搬送物Mが一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対して滑ってしまう場合がある。具体的には、X軸方向に沿って搬送物Mが一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対して滑ってしまう場合がある。かかる滑りが生じれば、加工品の長さが所定の長さからズレてしまい、加工不良が生じる可能性がある。
【0038】
しかし、一方の把持部材11の接触面11fには滑り検出装置20が設けられているので、一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対するX軸方向に沿った搬送物Mの滑りを滑り検出装置20が検出することができる。そして、滑りが検出されれば、搬送物Mの加工を事前に停止できるし、滑りで生じたズレを直すことができるので、加工不良が生じることを防止できる。
【0039】
<把持機構10について>
なお、上記例では、一対の把持部材11,11のうち、一方の把持部材11が固定され他方の把持部材11が移動する場合を説明したが、一対の把持部材11,11の両方が移動して互いに接近離間するように設けてもよい。
【0040】
また、上記例では、把持部12として油圧シリンダを使用した場合を説明したが、把持部12は、一対の把持部材11,11の一方または両方を移動させることができる構成であればよく、とくに限定されない。把持部12として、例えば、エアシリンダを使用してもよいし、モータを備えたボールネジ機構、パンタグラフのような拡大機構等を採用してもよい。
【0041】
<搬送装置の他の例>
上記説明では、搬送装置が移動機構によって長尺な搬送物をその軸方向に沿って移動させる場合を説明したが、搬送装置の移動機構は、把持機構を直線状に移動させるものに限られない。例えば、先端に把持機構を有するリンク機構、具体的には、ロボットアーム等を搬送装置の移動機構として採用してもよい。この場合には、ロボットアーム等を旋回されば、把持機構および把持機構によって把持された搬送物Mを任意の曲線に沿って移動させることができる。また、軸状の複数の腕部と複数の腕部を連結する関節を有するロボットアームであれば、関節の動きとロボットアーム全体の動きを組み合わせることによって、把持機構および把持機構によって把持された搬送物Mを所定のルートに沿って移動させることができる。また、搬送物Mをロボットアームによって所望の位置に配置することも可能である。
【0042】
また、ロボットアーム等を移動機構等とした場合には、把持機構として、複数の爪をモータ等の駆動源によって作動するロボットハンド等を採用することができる。この場合には、複数の爪が上述した把持部材11に相当し複数の爪を作動するモータ等が上述した把持部12に相当するものとなる。この場合、複数の爪において搬送物と接触する面が、滑り検出装置20が設けられる、上述した把持部材11の接触面11fに相当する面となる。
例えば、
図12に示すようなロボットアームRAを移動機構とした場合、ロボットハンドRHの一対の爪RC,RCの対向する面Rfが、上述した移動機構10の把持部材11の接触面11fに相当する面になる。したがって、一対の爪RC,RCの対向する面のうち少なくとも一つの面に滑り検出装置20が設ければ、一対の爪RC,RCの対向する面に対する搬送物の滑りを検出することができる。この場合、爪RCの対向する面に滑り検出装置20を設ける方法はとくに限定されないが、上述した把持部材11の接触面11fに滑り検出装置20を設ける方法と同じ方法を採用することができる。なお、
図12において符号RDは、一対の爪RC,RCを接近離間させる駆動機構(例えばモータ等)であり、上述した移動機構10の把持部12に相当するものである。
また、ロボットハンド等の複数の爪において搬送物と接触する面に滑り検出装置20を設ける場合、複数の爪の接触面は必ずしも互いに平行な面でなくてもよいし、接触面同士は互いに平行な状態を維持したまま移動するものでなくてもよい。なお、複数の爪によって搬送物を把持する場合でも、複数の爪のうち、少なくとも2つの爪の接触面が互いに平行な面となっていれば、その接触面に滑り検出装置20を設ければ、滑りの検出精度を高くすることができる。
【0043】
<滑り検出装置20>
つぎに、本実施形態の滑り検出装置20を説明する。
図1に示すように、本実施形態の滑り検出装置20は、接触部21と、第一保持部22と、第二保持部23と、検出部25と、を備えている。この本実施形態の滑り検出装置20は、2つの平行ばねをその変形方向が互いに直交するように組み合わせて形成されたものであり、この平行ばねの変形を利用して、接触部21に接触している搬送物Mの移動、つまり、把持部材11の接触面11fに対する滑りを検出するものである。
以下、本実施形態の滑り検出装置20の各部について説明する。
【0044】
<接触部21>
図1に示すように、接触部21はその表面(第一面21a)が平坦面を有する部材である。この接触部21は、平坦面である第一面21aを有し、幅方向(
図1に示す滑り検出装置20の座標系のx軸方向、以下単にx軸方向という場合がある)に比べて長さ方向(
図1に示す滑り検出装置20の座標系のy軸方向、以下単にy軸方向という場合がある)の長さが長い形状を有している。つまり、接触部21は、梁とみなせるような形状に形成されている。
【0045】
そして、この接触部21は、ある程度の曲げ剛性を有するように形成されている。ここでいう曲げ剛性とは、接触部21の第一面21aの法線方向(
図1に示す滑り検出装置20の座標系のz軸方向、以下単にz軸方向という場合がある)に平行な方向から力が加わった際における曲げ剛性を意味している。そして、「ある程度の曲げ剛性」とは、後述する第一保持部22の一対の板部材22a,22bにおいてその表面の法線方向(
図1のz軸方向)から力が加わった場合の曲げ剛性よりも大きい曲げ剛性を意味している。例えば、接触部21の曲げ剛性EIは、一対の板部材22a,22bの曲げ剛性EIの2倍以上となっていることが望ましい。
【0046】
なお、板材や梁の曲げ剛性は、EIに比例する。このE及びIは,それぞれ縦弾性係数(ヤング率)、断面二次モーメントを表している。なお、縦弾性係数Eは、接触部21および一対の板部材22a,22bを形成する素材によって定まる。また、断面二次モーメントIは、接触部21および一対の板部材22a,22bの断面形状及びその代表寸法等から求められる。
【0047】
また、接触部21は、ある程度の曲げ剛性を有するように形成されていればよく、その素材や断面形状はとくに限定されない。例えば、接触部21は、平板状であってもよいし、断面略コの字型であってもよい。この接触部21を形成する素材も前述した曲げ剛性に関わる条件を満足する範囲においては,とくに限定されることはない。
【0048】
<第一保持部22>
図1に示すように、接触部21の背面側には第一保持部22が設けられている。この第一保持部22は、上端および下端が連結部材22c,22dによってそれぞれ連結された一対の板部材22a,22bを備えている。
【0049】
この一対の板部材22a,22bは、幅方向(
図1のx軸方向)に比べて長さ方向(
図1のy軸方向)の長さが長い形状を有している。つまり、一対の板部材22a,22bは、梁とみなせるような形状に形成されている。
【0050】
この一対の板部材22a,22bは、その表面同士が互いに平行かつ接触部21の第一面21aの法線方向と直交するように(言い換えば、その表面が接触部21の第一面21aと平行になるように)設けられている。しかも、一対の板部材22a,22bは、接触部21の第一面21aの法線方向に沿って間隔を空けた状態となるように、その上端部および下端部がそれぞれ連結部材22c,22dによって連結されている。つまり、一対の板部材22a,22bによって平行ばねを形成している。このため、一対の板部材22a,22bは、その表面と交差する方向(
図1のz軸方向)から力が加わると、一対の板部材22a,22bが互いに平行な状態を維持したまま変形できるようになっている。
【0051】
そして、この一対の板部材22a,22bは、上述したように、その表面の法線方向(
図1のz軸方向)から力が加わった場合の曲げ剛性が、上述した接触部21の曲げ剛性よりもが小さくなるように形成されている。しかも、一対の板部材22a,22bのうち、
図1(A)において右側に位置する板部材22aの表面(
図1(A)では右側の面)には、接触部21の背面が連結されている。具体的には、板部材22aの下端部(板部材22aの上下方向の中間よりも下方の部分)が、連結部材21cを介して接触部21の背面に連結されている。この連結部材21cは、板部材22aのy軸方向の長さよりも長さが短く、連結部材22cのy軸方向の長さと同等または短くなるように形成されている。つまり、接触部21と板部材22aとは、その下端部同士が連結部材21cで連結されており、連結部材21cが設けられている部分以外は、接触部21によって板部材22aの変形が妨げられないように連結されている。したがって、第一保持部22に対してz軸方向から力が加わった際には、接触部21が変形する前に、一対の板部材22a,22bにおける連結部材22c,22dの間に位置する部分が変形する(
図3参照)。
【0052】
なお、一対の板部材22a,22bは、前述した曲げ剛性に関わる条件を満足するように形成されていればよく、その素材もとくに限定されない。
また、連結部材21cは、その厚さ(z軸方向の長さ)はとくに限定されないが、接触部21の第一面21aを把持部材11の接触面11fから突出させる長さよりも長くなるように調整される。つまり、連結部材21cは、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを挟んだときに、接触部21が板部材22bに接触しない厚さに形成されていればよい。
【0053】
また、連結部材22c,22dは、一対の板部材22a,22bが変形してもある程度までは変形しないように形成されていればよく、その素材や形状はとくに限定されない。
【0054】
<第二保持部23>
図1に示すように、第一保持部22の一対の板部材22a,22bの上端部には、第二保持部23が連結されている。この第二保持部23は、下端が第一保持部22の連結部材22dに連結され、上端が連結部材23cによって連結された一対の板部材23a,23bを備えている。
【0055】
この一対の板部材23a,23bは、一対の板部材22a,22bと同様に、幅方向(
図1のz軸方向)に比べて長さ方向(
図1のy軸方向)の長さが長い形状に形成されている。つまり、一対の板部材22a,22bは、梁とみなせるような形状に形成されている。
【0056】
この一対の板部材23a,23bは、その表面が第一保持部22の一対の板部材22a,22bの表面の法線方向(言い換えれば接触部21の第一面21aと直交する方向、
図1のz軸方向)と平行かつその表面同士が互いに平行になるように配設されている。しかも、一対の板部材23a,23bは、接触部21の第一面21aの法線方向と直交する方向(言い換えば、接触部21の第一面21aと平行な方向)に沿って間隔を空けた状態となるように、その上端部および下端部がそれぞれ連結部材23cおよび連結部材22dによって連結されている。つまり、一対の板部材23a,23bによって平行ばねを形成している。このため、一対の板部材23a,23bは、その表面と交差する方向、言い換えれば、接触部21の第一面21aと平行な方向(
図1のx軸方向)から力が加わると、一対の板部材23a,23bが平行を維持したまま変形できるようになっている。しかも、その力に対して、元の形状に戻そうとする反力がワークと接触部21の間に生じる摩擦力を上回らない範囲で発生するようになっている。
【0057】
なお、一対の板部材23a,23bは、前述した曲げ剛性に関わる条件を満足するように形成されていればよく、その素材もとくに限定されない。
【0058】
また、連結部材23cは、一対の板部材23a,23bが変形してもある程度までは変形しないように形成されていればよく、その素材や形状はとくに限定されない。
【0059】
<検出部25>
図1に示すように、第二保持部23の一対の板部材23a,23bには、検出部25の検出素子26が設けられている。具体的には、一対の板部材23a,23bの一方(
図1であれば板部材23a)または両方の表面には検出素子26が設けられている。この検出素子26は、板部材23a,23bの変形または変形速度を検出する検出素子である。検出素子26としては、例えば、ひずみゲージや圧電フィルムを挙げることができる。
【0060】
この検出素子26には、検出素子26の出力信号を受信し解析する検出部25の解析部27が電気的に接続されている。解析部27は、検出素子26の出力信号を解析して、一対の板部材23a,23bの変形(
図1であれば板部材23aの変形)が生じているか否かを判断する機能や、一対の板部材23a,23bの変形量を算出する機能等を有するものである。なお、検出素子26の作動にアンプ等が必要であれば、解析部27にはアンプ等も設けられる。
【0061】
<滑り検出装置20の作動について>
滑り検出装置20が以上のような構造を有しているので、接触部21の第一面21aに接触させた物体の移動を検出することができる。具体的には、物体を接触させた状態で接触部21の第一面21aに沿った方向(x軸方向)に物体を移動させれば、物体から接触部21を第一面21aに沿った方向(x軸方向)に移動させる力(移動力)が加わる。すると、第一保持部22の一対の板部材22a,22bを介して、第二保持部23の一対の板部材23a,23bにx軸方向に沿った移動力が加わるので、一対の板部材23a,23bは平行を維持したまま変形する。すると、第一面21aが物体に接触した状態を維持しつつ接触部21は物体とともにx軸方向に沿って移動する。しかも、一対の板部材23a,23bの変形に基づいて物体の移動を検出することができる。つまり、一対の板部材23a,23bの変形を検出した検出素子26の出力信号を解析すれば、物体がx軸方向に沿って移動したことを検出することができる。
【0062】
そして、滑り検出装置20は、上述したような構造、つまり、2つの平行ばねを組み合わせた構造に形成されているので、精度よく物体の移動(例えば、搬送装置1の一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対する滑り)を検出することができる。例えば、第一保持部22の一対の板部材22a,22bの素材や寸法、また、第二保持部23の一対の板部材23a,23bの素材や寸法を調整すれば、0.1mmオーダの微小な移動(滑り)であっても検出することが可能になる。
【0063】
なお、検出部25は検出素子26のみで構成し、検出部25に解析部27を設けなくてもよい。この場合、検出素子26を、上述した解析部27と同等の機能を有する外部の機器、例えば、搬送装置1の制御部等に接続してもよい。すると、搬送装置1の制御部等によって、一対の板部材23a,23bの変形、つまり、一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対する搬送物Mの滑りを検出したり検出量を算出したりすることができる。
【0064】
<搬送装置1の把持機構10への滑り検出装置20の適用>
そして、滑り検出装置20が以上のような構造を有しているので、上述した搬送装置1の把持機構10に以下のように滑り検出装置20を設置すれば、一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対する搬送物Mの滑りを検出することができる。
なお、以下では、搬送装置1の座標系と滑り検出装置20の座標系が一致するように滑り検出装置20を搬送装置1に設置した場合を説明する。
【0065】
図4、
図5、
図6(B)に示すように、滑り検出装置20を移動台10aに固定された一方の把持部材11の凹み部11hに設置する。このとき、滑り検出装置20は、接触部21の第一面21aが、把持部材11の接触面11fと平行になるように設置する。しかも、接触部21を、その第一面21aが把持部材11の接触面11fよりも突出した状態かつ、第一保持部22の一対の板部材22a,22bが把持動作によって変形した場合でも、その第一面21aが把持部材11の接触面11fと面一になるように設置する(
図2および
図3参照)。かかる状態とすれば、第二保持部23の一対の板部材23a,23bの変形方向(x軸方向)は、把持部材11の接触面11fと平行な方向(X軸方向)になる。
【0066】
なお、滑り検出装置20は、滑り検出装置20全体は一方の把持部材11に対して移動できないが、第一保持部22の一対の板部材22a,22bおよび第二保持部23の一対の板部材23a,23bは一方の把持部材11に対して自由に変形できるように設置される。
【0067】
かかる状態となるように滑り検出装置20が設置された把持機構10の一対の把持部材11,11によって搬送物Mを把持すると、接触部21の第一面21aを搬送物Mに接触させた状態とすることができる(
図3参照)。
【0068】
つまり、把持機構10の一対の把持部材11,11が搬送物Mを把持する際には、他方の把持部材11が一方の把持部材11に接近する。つまり、他方の把持部材11によって搬送物Mが一方の把持部材11に向かって押される。すると、搬送物Mは、一方の把持部材11の接触面11fに接触する前に、接触部21の第一面21aに接触する。
【0069】
さらに、他方の把持部材11が一方の把持部材11に向かって移動すると、搬送物Mはさらに一方の把持部材11に向かって押される。このとき、接触部21は第一保持部22の一対の板部材22a,22bによって保持されているので、第一面21aが一方の把持部材11の接触面11fと平行に維持されたまま、接触部21は凹み部11h内に埋没するように移動する(
図3参照)。つまり、接触部21はz軸方向に沿って移動する。
【0070】
やがて搬送物Mが一方の把持部材11の接触面11fに接触する状態となると、把持機構10の一対の把持部材11,11によって搬送物Mが把持された状態となる。ここで、接触部21は第一保持部22の一対の板部材22a,22bの変形で凹み部11h内に埋没しているが、接触部21の第一面21aは、一方の把持部材11の接触面11fと同じ状態(同一平面になった状態)で、搬送物Mに接触した状態が維持される。しかも、一対の板部材22a,22bは平行ばねを形成しているので、接触部21の第一面21aは、一対の板部材22a,22bが発生する反力によって搬送物Mに押し付けられた状態に維持される。つまり、接触部21の第一面21aは確実に搬送物Mに接触した状態が維持される。
【0071】
この状態で一対の把持部材11,11の一対の接触面11f,11fに対する搬送物Mの滑りが発生すると、接触部21には、把持部材11の接触面11fに沿った方向に力が加わることになる。つまり、接触部21にはx軸方向に沿った力が加わる。接触部21は、第一保持部22の一対の板部材22a,22bを介して第二保持部23の一対の板部材23a,23bに保持されているので、第二保持部23の一対の板部材23a,23bが変形して、接触部21は搬送物Mとともに接触面11fと同一面内をx軸方向に沿って移動する。すると、把持部材11の接触面11fに対する接触部21の移動、つまり、把持部材11の接触面11fに対する搬送物Mの滑り(X軸方向の滑り)を、第二保持部23の一対の板部材23a,23bの変形として検出することができる(
図5参照)。
【0072】
<接触部21の第一面21aについて>
滑り検出装置20を上述したように把持部材11に設ける場合、接触部21の第一面21aは、この第一面21aに対する物体の滑りが、把持部材11の接触面11fに対する物体の滑りよりも先に生じないようになっていることが必要である。例えば、接触部21は、その第一面21aの摩擦係数が把持部材11の接触面11fの摩擦係数よりも大きくなるように形成することが望ましい。すると、搬送物Mと接触部21の第一面21aとの間の滑りを抑制でき、把持部材11の接触面11fに対して搬送物Mの滑りが生じる前に、搬送物Mが接触部21の第一面21aに対して滑ることを防止できる。したがって、把持部材11の接触面11fに対する搬送物Mの滑りを精度よく検出することができる。接触部21の第一面21aの摩擦係数を把持部材11の接触面11fの摩擦係数よりも大きくする方法としては、接触部21自体を、把持部材11よりも摩擦係数が大きい素材で形成したり、接触部21の第一面21aに把持部材11よりも摩擦係数の大きい素材の層を設けたりする方法を採用することができる。例えば、把持部材11を構造用鋼で形成した場合であれば、接触部21の第一面21aに、加硫ゴムやビニルシート(ポリ塩化ビニル:PVC)などで形成された層を設ければ、接触部21の第一面21aの摩擦係数を把持部材11の接触面11fの摩擦係数よりも大きくすることができる。
【0073】
<第一保持部22および第二保持部23について>
滑り検出装置20は、第一保持部22および第二保持部23がいずれも平行ばねの構造を有しているので、以下のような利点が得られる。
【0074】
まず、第一保持部22を平行ばね構造とした場合には、「剛性(荷重/変形量の比)が荷重点位置の影響を受けにくい」という特徴と、「搬送物Mからの力(荷重)に対してほぼ平行にたわむ」という特徴を有している。このため、搬送物Mの形状が変化して接触部21の第一面21aと搬送物Mとの接触位置が変化しても、ほぼ同じ力で接触部21の第一面21aを搬送物Mに接触させることができる。すると、搬送物Mの移動量に比例した変形を平行ばね、つまり、一対の板部材23a,23bに生じさせることができる。したがって、搬送物Mの形状や大きさの差異に係らず、安定して搬送物Mの移動量、つまり、把持部材11に対する搬送物Mの滑りを検出することができる。
【0075】
また、第一保持部22の一対の板部材22a,22bと第二保持部23の一対の板部材23a,23bとは異なる方向に変形するので、それぞれ使用する条件(搬送する搬送物Mや一対の把持部材11,11の把持力)に適した性質、つまり、一対の板部材22a,22bおよび一対の板部材23a,23bの剛性をそれぞれ独立して調整することができる。例えば、一対の板部材22a,22bや第二保持部23の一対の板部材23a,23bの厚さや素材、幅、長さ等を変更すれば、一対の板部材22a,22bで形成される各平行ばねと第二保持部23の一対の板部材23a,23bで形成される平行ばねの変形性をそれぞれ独立して調整することができる。
【0076】
<一対の板部材22a,22bについて>
ここで、一対の把持部材11,11が搬送物Mを把持したときに一対の板部材22a,22bが発生する反力が大きすぎると、搬送物Mを、一対の把持部材11,11ではなく接触部21と把持部材11で把持してしまう状況になる。かかる問題を防ぐために、上記反力が一対の把持部材11,11の把持力よりも小さくなるように、第一保持部22の一対の板部材22a,22bはその剛性が調整される。
【0077】
また、上述したように、一対の板部材22a,22bには、その反力によって接触部21の第一面21aを搬送物Mに押し付ける機能が要求される。したがって、一対の板部材22a,22bは、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを把持した状態において、一対の板部材22a,22bがばねとしての機能を有すること、つまり、一対の板部材22a,22bが座屈しないようすることが必要となる。具体的には、以下の要件を満たすように、一対の板部材22a,22bは、その素材や断面形状、長さを調整することが望ましい。
【0078】
まず、接触部21の第一面21aは、初期姿勢(搬送物Mを把持していない状態)では、把持部材11の接触面11fよりも突出した状態に配置される(
図2参照)。
【0079】
このため、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを把持した状態において(
図3参照)、第一保持部22の一対の板部材22a,22bには、初期姿勢に対する把持状態の姿勢に応じた変位(たわみ)が発生し、たわみに比例した反力が発生する。すると、一対の板部材22a,22bの下端を連結する連結部材22cは、上述の反力と同じ大きさの曲げ荷重を受けることになる(作用・反作用の法則)。
【0080】
しかも、連結部材22cには,上述した曲げ荷重と、「搬送物Mと接触部21の第一面21aが接する位置」と「連結部材22cの中心(
図1のy軸方向における中心)」までの距離とを掛け合わせた曲げモーメントM
bも作用している。
【0081】
すると、連結部材22cのz軸方向の寸法をz0としたとき、2Mb/z0で求まる力が、一対の板部材22a,22bの板部材22aには引張荷重として作用する。また、一対の板部材22a,22bの板部材22bには圧縮荷重として作用する。
【0082】
一方、板部材22a(板部材22b)の座屈限界荷重P
crは,以下の式(1)で表される。なお、式(1)において、πは円周率、Eは板部材22a(板部材22b)のヤング率、Iは板部材22a(板部材22b)の断面二次モーメント,l
1は板部材22a(板部材22b)の長さ(連結部材22c,22d間の長さ、
図1(A)参照)である。
P
cr=π
2EI/l
1 式(1)
座屈(限界)荷重P
crに対して、上述した2M
b/z
0が十分に小さくなれば,一対の板部材22a,22bに座屈は生じない。
【0083】
したがって、一対の板部材22a,22bは、上記座屈は生じない条件を満たすように、その素材や断面形状、長さ(連結部材22c,22d間の長さ)を調整することが望ましい。
【0084】
<一対の板部材23a,23bについて>
また、第二保持部23の一対の板部材23a,23bに設けられた検出素子26によって接触部21の移動、つまり、把持部材11に対する搬送物Mの滑りを検出する。搬送物Mの滑りに一対の板部材23a,23bを追従して変形させるためには、一対の板部材23a,23bがばねとしての機能を有すること、つまり、一対の板部材23a,23bが座屈しないようすることが必要となる。
【0085】
さらに、搬送物Mの滑りが、非常に短時間に生じる衝撃的な現象である場合には、一対の板部材23a,23bに過渡的な固有振動を引き起こしやすい。もし、一対の板部材23a,23bの剛性が小さ過ぎる場合には、その固有振動数が低くなり、過渡的な振動の変位が大きくなる。すると、この振動がノイズとなり、検出素子26で検出した信号に基づいて把持部材11に対する搬送物Mの滑り変位を正確に評価することが困難となるので、一対の板部材23a,23bは、その固有振動数が十分高くなるよう剛性が調整される。
【0086】
以上のように、第二保持部23の一対の板部材23a,23bは、座屈を生じず、かつ固有振動数が十分高くなるように、その素材や断面形状、長さを調整することが望ましい。具体的には、一対の板部材23a,23bは、以下の要件を満たすように、その素材や断面形状、長さを調整することが望ましい。
【0087】
まず、把持部材11の接触面11fに対する搬送物Mの滑りに接触部21が追従することで、搬送物Mの滑り量、つまり、接触部21の移動量と同等のたわみが第二保持部23の一対の板部材23a,23bに生じるとみなすことができる。このときに、一対の板部材23a,23bの座屈を防ぐために、一対の板部材23a,23bの素材や断面形状、長さ(連結部材22d,23c間の長さl
2、
図1(B)参照)が調整される。具体的には、一対の把持部材11,11によって搬送物Mを把持した状態において第一保持部22の一対の板部材22a,22bに発生するたわみと同様に、搬送物Mの滑りに起因して一対の板部材23a,23bにたわみが生じた場合にも、上述した一対の板部材22a,22bにおける座屈が生じない条件と同様の条件を満たすように、一対の板部材23a,23bは、その素材や断面形状、長さ(連結部材22d,23c間の長さ)を調整することが望ましい。
【0088】
また、第二保持部23では、板部材23aに設けられた検出素子26(ひずみゲージや圧電フィルム等)によって滑りを検出する際に、滑りが衝撃的である場合には過渡振動の影響を受ける恐れがある。この過渡振動は、第二保持部23の一対の板部材23a,23bを梁とみなした場合、一対の板部材23a,23bの一次固有振動数の影響が大きく現れる。
【0089】
板部材23a(板部材23b)の固有振動数fnは、板部材23a(板部材23b)の曲げ剛性EI、板部材23a(板部材23b)の長さ(連結部材22d,23c間の長さ)l2、板部材23a(板部材23b)の密度ρ,板部材23a(板部材23b)の断面積Aによって決まる(式(2)参照)。したがって、過渡振動の影響を排除するには、板部材23a(板部材23b)の素材や断面形状、長さを適切に調整することが必要になる。
fn=k{π(EI/ρA)1/2}/(2l2
2) 式(2)
(kは、振動モードによって決まる定数)
【0090】
例えば、板部材23a(板部材23b)の素材や断面形状、長さは、固有振動数が50Hzより高くなるように設定することが望ましい。その理由は以下のとおりである。
【0091】
後述するように、検出部25の解析部27に、ノイズ除去フィルタの機能を設ける場合には、電源周波数を含むノイズとなりうる電圧信号を除去することが一つの目的となる。例えば、日本国内であれば、電源周波数は50Hzまたは60Hzとなるので、電源周波数のノイズを除去することが求められる。
【0092】
同時に、滑り検出の精度を高める上では、ノイズ除去フィルタによってノイズを除去した信号が、できるだけ広い範囲の信号を有していることが望ましい。
【0093】
したがって、ノイズ除去フィルタとしては、50Hz以上の周波数帯の信号を除去するために、カットオフ周波数が50Hzであるローパスフィルタを使用することが望ましい。なお、電源周波数が60Hzの地域であっても、ノイズ除去フィルタのカットオフ周波数は50Hzとすることで、電源周波数のノイズを除去することが可能である。
【0094】
ここで、50Hz以下の周波数の範囲に、板部材23a(板部材23b)の固有振動数が現れると、ノイズ除去フィルタでは板部材23a(板部材23b)の過渡振動の影響を除去できなくなるため、測定波形を乱すことになる。
【0095】
以上の理由から、板部材23a(板部材23b)の素材や断面形状、長さは、固有振動数が50Hzより高くなるように設定することが望ましい。
【0096】
<検出素子26について>
検出素子26は、一対の板部材23a,23bのいずれか一方または両方設けられ、一対の板部材23a,23bに発生する変形を検出するが、一対の板部材23a,23bの曲げ変形の向き(引張/圧縮)は、一対の板部材23a,23bの長さ方向の中央位置を境にして反転する。このため、検出素子26は、一対の板部材23a,23bの長さ方向の中央位置を跨がない位置に設けられる。
【0097】
また、検出素子26は、一対の板部材23a,23bの曲げ変形を検出できる検出素子であれば、種々の検出素子を使用することができる。使用する環境、条件に応じて適した検出素子を使用すればよい。以下では、一例として、滑り量の検出や比較的緩やかな滑りにも対応できるひずみゲージと、急激な滑りに対する応答性の高い圧電フィルムを使用した場合について説明する。
【0098】
<ひずみゲージを用いる場合>
図9(A)に示すように、検出素子26にひずみゲージを使用した場合、板部材23aの曲げ変形が生じると、ひずみゲージは曲げ変形に伴って出力が増大し、変形状態が維持されると出力も維持される。例えば、急激に曲げ変形が生じ一定量変形した後に変形状態が維持されると、ひずみゲージの出力は階段状になる(
図9(A)参照)。また、ゆっくりと曲げ変形が生じ一定量変形した後に変形状態が維持されると、ひずみゲージの出力は滑らかに変化し、ひずみゲージの出力はスロープ状になる。
【0099】
かかるひずみゲージを使用すると、その出力は一対の板部材23a,23bの曲げ変形量に比例する。一対の板部材23a,23bの曲げ変形量は接触板21の変位量、つまり、把持部材11に対する搬送物Mの滑り量に比例するため、ひずみゲージの出力から把持部材11に対する搬送物Mの滑り量を評価できる。具体的には、ひずみゲージの出力の差分を計算する機能を検出部25の解析部27が有していれば、この差分に基づいて把持部材11に対する搬送物Mの滑り量を評価することができる。
【0100】
<圧電フィルムを用いる場合>
圧電フィルムとは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表される薄いフィルム状の柔軟な圧電素子であり、この圧電フィルムを検出素子26として使用できる。圧電フィルムは伸縮によって電気的信号を発生するため、検出部25の解析部27が電流電圧変換アンプおよびA/D変換器を有していれば、検出素子26が貼り付けられている板部材23aの「ひずみ速度」に比例した電圧信号を得ることができ、この電圧信号を解析することによって、把持部材11に対する搬送物Mの滑りの有無を判断できる。
【0101】
図9(B)に示すように、検出素子26に圧電フィルムを使用した場合、瞬間的に板部材23aの曲げ変形が生じその状態が維持されると、曲げ変形の開始時にインパルス応答が現れ、それ以外の時刻においてはほぼゼロの出力となる。圧電フィルムはひずみ速度依存型の検出素子であるので、発生するひずみは小さくても、曲げ変形の変形速度が大きければ、大きな出力波形が得られるという特長がある。このため、検出部25の解析部27によって検出素子26からの出力信号をモニタリングしておけば、予め設定した闊値以上の出力が生じるか否かによって、把持部材11に対する瞬間的な搬送物Mの滑りの有無を判断できる。
【0102】
また、圧電フィルムの原理に基づくと、把持部材11に対する搬送物Mの滑りに伴って生じるインパルス応答波形から、ローパスフィルタによって高周波数成分のノイズを除去した後の波形の時間積分量(波形の面積)が滑り量に対応する。つまり、検出素子26の出力のうち、検出素子26から得られるカットオフ周波数以下の周波数領域の成分のみを抽出し、この抽出された成分の時間積分量を算出すれば、滑り量を把握することも可能となる。
【0103】
例えば、把持部材11に対する搬送物Mの滑りに伴って生じるインパルス応答には、過渡的な振動成分も混在する。このインパルス応答は、一般に低周波数領域に比較的平坦な特性を示し、高周波数領域へ向かうにしたがって応答が小さくなる傾向になる(
図9(C))。そして、把持部材11に対する搬送物Mの滑りに伴う検出素子26からの信号は、比較的平坦な形で現れる低周波数領域の応答特性が支配的となる。したがって、検出部25の解析部27に、検出素子26から得られる信号のうち、50Hz以下の周波数領域(つまりカットオフ周波数以下の周波数領域)の成分のみを抽出する機能、例えば、ローパスフィルタの機能を設ければ、検出素子26からの出力信号に基づいて、把持部材11に対する搬送物Mの滑り量を算出することが可能となる。
【実施例0104】
本発明の滑り検出装置の有効性を確認した
実験では、
図10に示す装置を使用して、ワークを把持機構の把持部材によって把持した状態でワークに衝撃を加えて、把持部材に対するワークの滑りを発生させた。そして、実測された滑り量と、本発明の滑り検出装置によって検出した滑り量とを比較した。
【0105】
実験では、
図1に示す構造を有する滑り検出装置を使用した。滑り検出装置において、ワークとの間に反力を発生させる平行ばねの2枚の板部材(
図1の板部材22a,22bが相当)には、長さ48mm、幅13mm、厚さ0.3mmのものを使用した。なお、2枚の板部材は、上端と下端がブロック状の部材(
図1の連結部材22c、22dが相当)によって連結されており、2枚の板部材が変形できる長さ(つまり、ブロック状の部材間の距離(
図1のl
1))は18mmである。
また、ワークの滑り方向に変形する平行ばねの2枚の板部材(
図1の板部材23a,23bが相当)には、長さ55mm、幅13mm、厚さ0.16mmのものを使用した。なお、2枚の板部材は、上端と下端がブロック状の部材(
図1の連結部材22d、23cが相当)によって連結されており、2枚の板部材が変形できる長さ(つまり、ブロック状の部材間の距離(
図1のl
2))は18mmである。
【0106】
使用した検出素子は、ひずみゲージ(共和電業株式会社製:KFG-2-120-C1-112M3R)、圧電フィルム(株式会社クレハ製:K0711-40AS-L30)、である。ひずみゲージ、圧電フィルムの先端部が、それぞれワークの滑り方向に変形する平行ばねの一方の板部材において、上端を連結するブロック材の下端から9mmの位置にくるように取り付けた。
ひずみゲージの信号は、衝突前後のひずみの差分を求めて、実測された滑り量と比較した(
図11(A))。
また、圧電フィルムの信号は、カットオフ周波数50Hzのローパスフィルタ処理を行い、ローパスフィルタ処理後の波形の最大値を実測された滑り量と比較した(
図11(B))。
【0107】
ワークの滑り量は、ダイヤルゲージ(株式会社ミツトヨ製:T1-153HX型)によって実測した。把持機構上にダイヤルゲージを設置し、ダイヤルゲージの先端をワークにおける打撃面あるいは衝突面と反対側の端部に当てておき、衝撃を加えた後のダイヤルゲージの読み値から滑り量を測定した。
【0108】
使用したワークは、鉄製の直径25mmの丸棒、鉄製の25mm角のパイプ(厚さ3mm)、鉄製の直径75mmの丸パイプ(厚さ4mm)の3種類を使用した。なお、ワークの長さは、いずれも760mmである。
このワークを、接触面が平面に形成された一対の把持部材によって軸方向と交差する方向から挟んで保持した。なお、本実施例では,把持部材をシリンダ径32mmの油圧シリンダで作動し、油圧シリンダに加える油圧を1.0MPa~2.0MPaの範囲で調整した。したがって、一対の把持部材の把持力は、およそ800N~1600Nの範囲で調整した。また、ワークは、装置に設けられたローラコンベア上に配置された状態で、一対の把持部材によって把持させた。
【0109】
ワークへの衝撃は、以下の2つの方法で加えた。
1)把持機構に把持された状態のワークの端部をスチールハンマでその軸方向(搬送方向)に打撃する方法(打撃による方法)。
2)把持機構に把持されたワークと同一寸法のワークを、ワークの搬送方向前方に別途設置し、ワークを搬送した際にワークをワーク衝突させる方法(ワークの搬送速度は約220mm/s、約390mm/s)(衝突による方法)。
【0110】
図11に示すように、ひずみゲージ、圧電フィルムのいずれの検出素子を用いても、滑り量に比例した出力値が得られることが確認された。
直径25mmの丸棒については、打撃による方法と衝突による方法の両方の実験結果を示しているが、滑りを発生させる方法に関わらず、ほぼ同一の感度直線上に出力が得られていることがわかる。
【0111】
また、打撃による方法について、三種類のワークを用いた場合の結果を示しているが、ワークの形状によらず、ほぼ同一の感度直線上に出力が得られていることがわかる。すなわち、ワークの形状や大きさの差異に起因する接触部に対するワークの接触位置を含む接触状態の違いが出力結果に与える影響が小さいことが確認できる。
【0112】
例えば、切断作業において求められる公差は0.1~0.2mmと言われており、この領域の滑り量の大きさも定量的に評価できることが確認された。
本発明の滑り検出装置は、長尺な鋼材などの搬送物を把持して加工機などに搬送する搬送装置やロボットハンド等において、搬送物や把持対象物を把持する機構に対する搬送物や把持対象物の滑りを検出する装置として適している。