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特開2022-93023積層造形方法及び積層造形装置、並びにモデル表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093023
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】積層造形方法及び積層造形装置、並びにモデル表示装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220616BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220616BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220616BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20220616BHJP
   B23K 9/32 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/00
B23K9/04 K
B23K9/04 A
B23K9/04 Z
B23K9/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206079
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(57)【要約】
【課題】積層計画の作成に用いるビードモデルを簡単な計算で調整でき、高い再現性で目標形状を造形できるようにする。
【解決手段】造形物を作製する積層造形方法は、3次元形状データに基づいた立体モデル形状を、複数の層に分割するとともに、分割した各層を溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割する工程を有する。台形ビードモデルBMbは4つの頂点P1,P2,P3,P4を有する。ビードモデルに分割する工程では、先に形成されるビードモデルBMaに隣接して後に形成されるビードモデルBMbを、先に形成されるビードモデルBMaと互いの重なり部73を有するように配置する。また、後に形成されるビードモデルBMbにおける底辺65両端の頂点のうち、重なり部73から遠い側の頂点P4を中心点として、中心点を除く他の3つの頂点P1,P2,P3をそれぞれ回転移動させて、台形ビードモデルBMRの形状を変更する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードをベース上に積層して、造形物を作製する積層造形方法であって、
前記造形物の3次元形状データを読み込む工程と、
前記3次元形状データに基づく立体モデル形状を複数の層に分割するとともに、分割した各層を、前記溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割する工程と、
分割された前記ビードモデルに沿って前記溶着ビードを形成する処理を、前記複数の層の下層から上層まで繰り返して前記溶着ビードを積層する工程と、
を有し、
前記ビードモデルは台形形状であり、ビード長手方向の垂直断面において、前記ベース側の底辺と反ベース側の上辺とが互いに平行で、且つ、同一層内に配置される前記ビードモデルの配列方向に対向する一対の側辺同士が互いに非平行にされ、
前記複数のビードモデルに分割する工程では、
同一層内において、先に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルと、当該溶着ビードに隣接して後に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルとを、互いの重なり部を有して配置し、
後に形成される側の前記ビードモデルの4つ頂点のうち、当該ビードモデルの底辺の前記重なり部から遠い側となる端部に配置される頂点を中心に、他の3つの頂点をそれぞれ回転移動させて、後に形成される側の前記ビードモデルの形状を変更する工程を含む、
積層造形方法。
【請求項2】
前記他の3つの頂点を回転移動させる回転角を、前記溶着ビードの溶接条件又は形成軌道に応じて設定する、
請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記他の3つの頂点を回転移動させる回転角を、前記頂点毎に異ならせる、
請求項1又は2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記他の3つの頂点を回転移動させる回転角は、予め定めた演算式に基づいてそれぞれ設定する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記演算式は、前記ビードモデルの前記底辺に沿った座標値を変数とする、直線又は曲線の関係式である、
請求項4に記載の積層造形方法。
【請求項6】
前記後に形成される側のビードモデルを前記台形形状に代えて、
前記後に形成される側のビードモデルにおける前記底辺の前記重なり部から遠い側の端にある頂点と、
前記後に形成される側のビードモデルにおける前記上辺の両端にある一対の頂点と、
前記後に形成される側のビードモデルにおける前記重なり部側の側辺と前記先に形成されるビードモデルの外周縁との交点と、
前記先に形成されるビードモデルの底辺の前記重なり部側の端にある頂点と、
によって囲まれた5つの頂点を有する形状に設定する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【請求項7】
最下層に配置されるビードモデルよりも上層に配置されるビードモデルの底辺における一端部又は両端部に、前記溶加材の溶融体の下層へ向けた垂れ落ちを表す垂れ部を設ける、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【請求項8】
前記垂れ部は三角形状である、請求項7に記載の積層造形方法。
【請求項9】
溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードをベース上に積層して、造形物を作製する積層造形装置であって、
前記造形物の3次元形状データを読み込む入力部と、
前記3次元形状データに基づく立体モデル形状を複数の層に分割するとともに、分割した各層を、前記溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割するモデル設定部と、
分割された前記ビードモデルに沿って前記溶着ビードを形成する処理を、前記複数の層の下層から上層まで繰り返して前記溶着ビードを積層する造形部と、
を備え、
前記ビードモデルは台形形状であり、ビード長手方向の垂直断面において、前記ベース側の底辺と反ベース側の上辺とが互いに平行で、且つ、同一層内に配置される前記ビードモデルの配列方向に対向する一対の側辺同士が互いに非平行にされ、
前記モデル設定部は、
同一層内において、先に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルと、当該溶着ビードに隣接して後に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルとを、互いの重なり部を有して配置し、
後に形成される側の前記ビードモデルの4つ頂点のうち、当該ビードモデルの底辺の前記重なり部から遠い側となる端部に配置される頂点を中心に、他の3つの頂点をそれぞれ回転移動させて、後に形成される側の前記ビードモデルの形状を変更する、
積層造形装置。
【請求項10】
前記モデル設定部により形状が変更された前記ビードモデルの情報が表示される表示部を更に備える、
請求項9に記載の積層造形装置。
【請求項11】
請求項9に記載の積層造形装置の前記モデル設定部により設定された前記ビードモデルの情報が入力される入力部と、
入力された前記ビードモデルの情報を表示する表示部と、
を備えるモデル表示装置。
【請求項12】
前記入力部に前記ビードモデルの調整指示の情報が入力され、
入力された前記調整指示の情報に応じて前記ビードモデルを調整し、調整後の前記ビードモデルの表示用データを前記表示部に出力する表示用データ生成部を備える、
請求項11に記載のモデル表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法及び積層造形装置、並びにモデル表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を用いて3次元の造形物を作製する技術として、例えば、アーク等の熱源を用いて溶加材(溶接ワイヤ)を溶融及び凝固させた溶着ビードを、所望の形状に積層する方式がある。
【0003】
また、このような造形物を作製する際に、コンピュータによる設計支援又は自動化制御を目的として、溶着ビードの断面形状をモデル化する技術が知られている(例えば特許文献1,2)。
特許文献1には、楕円形状のビードモデルを用いて、造形物の目標形状と、実測データベースから予測される予測形状との差分が許容値以下になるように造形条件を変更することが記載されている。また、特許文献2には、継手形状、板厚、開先角度・幅等のワーク条件に応じて、各層、各ステップの溶着ビードの形状を予測し、その予測したビード形状に応じて次層、次ステップでの適正なトーチねらい位置を決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-27558号公報
【特許文献2】特開昭63-84776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層する際には、溶融時に生じる溶融金属の垂れの蓄積、入熱の蓄積、凝固した溶着ビードの表面の凹凸形状、等の様々な因子が造形物の形状に影響する。例えば、図17に示すように、同一形状のビードモデルMoを4列×4層で配置した積層計画の場合、実際に作製した造形物Wの外縁形状が、実線で示すようにビードモデルMoの外縁形状と整合しない場合がある。
【0006】
そこで、溶着ビードの形成条件に応じてビードモデルの形状を細かく調整することも考えられるが、演算処理が煩雑となり、造形物の規模によっては現実的な時間で積層計画を作成できない。
【0007】
本発明は、積層計画の作成に用いるビードモデルを簡単な計算で調整でき、高い再現性で目標形状を造形できるようにした造形物の製造方法及び製造装置、並びにモデル表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードをベース上に積層して、造形物を作製する積層造形方法であって、
前記造形物の3次元形状データを読み込む工程と、
前記3次元形状データに基づく立体モデル形状を複数の層に分割するとともに、分割した各層を、前記溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割する工程と、
分割された前記ビードモデルに沿って前記溶着ビードを形成する処理を、前記複数の層の下層から上層まで繰り返して前記溶着ビードを積層する工程と、
を有し、
前記ビードモデルは台形形状であり、ビード長手方向の垂直断面において、前記ベース側の底辺と反ベース側の上辺とが互いに平行で、且つ、同一層内に配置される前記ビードモデルの配列方向に対向する一対の側辺同士が互いに非平行にされ、
前記複数のビードモデルに分割する工程では、
同一層内において、先に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルと、当該溶着ビードに隣接して後に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルとを、互いの重なり部を有して配置し、
後に形成される側の前記ビードモデルの4つ頂点のうち、当該ビードモデルの底辺の前記重なり部から遠い側となる端部に配置される頂点を中心に、他の3つの頂点をそれぞれ回転移動させて、後に形成される側の前記ビードモデルの形状を変更する工程を含む、
積層造形方法。
(2) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードをベース上に積層して、造形物を作製する積層造形装置であって、
前記造形物の3次元形状データを読み込む入力部と、
前記3次元形状データに基づく立体モデル形状を複数の層に分割するとともに、分割した各層を、前記溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割するモデル設定部と、
分割された前記ビードモデルに沿って前記溶着ビードを形成する処理を、前記複数の層の下層から上層まで繰り返して前記溶着ビードを積層する造形部と、
を備え、
前記ビードモデルは台形形状であり、ビード長手方向の垂直断面において、前記ベース側の底辺と反ベース側の上辺とが互いに平行で、且つ、同一層内に配置される前記ビードモデルの配列方向に対向する一対の側辺同士が互いに非平行にされ、
前記モデル設定部は、
同一層内において、先に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルと、当該溶着ビードに隣接して後に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルとを、互いの重なり部を有して配置し、
後に形成される側の前記ビードモデルの4つ頂点のうち、当該ビードモデルの底辺の前記重なり部から遠い側となる端部に配置される頂点を中心に、他の3つの頂点をそれぞれ回転移動させて、後に形成される側の前記ビードモデルの形状を変更する、
積層造形装置。
(3) (2)に記載の積層造形装置の前記モデル設定部により設定された前記ビードモデルの情報が入力される入力部と、
入力された前記ビードモデルの情報を表示する表示部と、
を備えるモデル表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積層計画の作成に用いるビードモデルを簡単な計算で調整でき、高い再現性で目標形状を造形できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、積層造形装置を示す概略構成図である。
図2図2は、ベースプレートに形成される溶着ビードの外観を示す概略斜視図である。
図3図3は、表示装置の機能ブロック図である。
図4図4は、造形物の形状に応じたビードモデルを設定する手順を示すフローチャートである。
図5図5の(A)~(D)は、ビードモデルを設定する様子を模式的に示す説明図である。
図6図6は、台形ビードモデルの断面形状と実際の溶着ビードの断面形状とを示す説明図である。
図7図7は、台形ビードモデルの形状を変更する様子を示す説明図である。
図8図8は、図7に示す台形ビードモデルの回転動作の詳細を示す説明図である。
図9図9は、半径距離xと角度θとの関係を一次関数で表したグラフである。
図10図10の(A)は、半径距離xと角度θとの関係を0次関数で表したグラフであり、(B)は(A)に示す関数を用いて角度θを決定した場合のビードモデルの形状を模式的に示す説明図である。
図11図11の(A)は、半径距離xと角度θとの関係を3次関数で表したグラフであり、(B)は(A)に示す関数を用いて角度θを決定した場合のビードモデルの形状を模式的に示す説明図である。
図12図12は、半径距離xと角度θとの関係をn次関数で表したグラフである。
図13図13は、図12に示すn次関数を用いて角度θを決定した場合のビードモデルの形状を示す説明図である。
図14図14は、図13に示すビードモデルを、台形ビードモデルに並べて配置した様子を示す説明図である。
図15図15は、溶着ビードの垂れ下がりを考慮したビードモデルを示す説明図である。
図16図16の(A),(B)は、溶着ビードの垂れ下がりを考慮したビードモデルと、ビードモデルを用いた積層計画で作製した積層造形体の外縁形状とを示す概略図である。
図17】従来の積層計画により作成したビードモデルと、造形物の外縁形状とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る積層造形方法においては、溶加材が溶融及び凝固して形成される溶着ビードを模擬したビードモデルを用いて積層計画を作成し、作成した積層計画に基づいて、溶着ビードをベース上に形成して造形物を作製する。
【0012】
<積層造形装置>
図1は、積層造形装置を示す概略構成図である。
積層造形装置100は、造形物、又は所望形状の造形物を得るための粗形材としての造形物を作製する装置であり、造形部11と、電源部13と、造形部11及び電源部13を統括制御するコントローラ15とを備える。なお、ここで示す積層造形装置100は、アークにより溶加材Mを溶融及び凝固させて溶着ビードBを形成し、複数の溶着ビードBを順次に積層することで造形物Wを造形するものであるが、積層造形の方式はこれに限らない。
【0013】
造形部11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。
【0014】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸には、溶加材Mを連続供給可能にトーチ17が支持される。トーチ17の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0015】
トーチ17は、溶加材Mを支持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生させる。トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する造形物に応じて適宜選定される。
【0016】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート25上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0017】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0018】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0019】
コントローラ15は、入力部31と、モデル設定部33と、積層計画部35と、記憶部27と、通信部39と、これらが接続される制御部41と、を有する。このコントローラ15は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成される。
【0020】
入力部31は、作製しようとする造形物の3次元形状データ(CADデータ等)を読み込む。モデル設定部33は、読み込んだ3次元形状データに基づいた立体モデル形状を複数の層に分割し、各層の形状を表す層形状データを生成する。そして、生成された層形状データを後述する複数のビードモデルにそれぞれ分割する。
【0021】
積層計画部35は、分割されたビードモデルに沿って溶着ビードを形成するためのトーチ17の移動軌跡、及び各種の溶接条件を決定する。そして、決定した移動軌跡及び溶接条件を用いて、造形部11及び電源部13の各部を駆動する駆動プログラムを作成する。この駆動プログラムは、記憶部37に記憶される。ここでいう造形プログラムとは、入力された造形物Wの3次元形状データから、所定の演算により設計された溶着ビードBの形成手順を、造形部11及び電源部13に実施させるための命令コードである。
【0022】
制御部41は、記憶部37に記憶された駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19及び電源部13等の各部を駆動する。これにより、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令を受けて、積層計画に応じた軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させる。また、溶接ロボット19は、トーチ17の移動と共に溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベースプレート25上に供給する。すると、ベースプレート25上に、線状の溶着ビードBが形成される。
【0023】
図2は、ベースプレート25に形成される溶着ビードBの外観を示す概略斜視図である。
図2に示すように、ベースプレート25上に溶着ビードBを繰り返し形成することで、複数の線状の溶着ビードBが凝固して配列されたビード層45が、高さhで形成される。図2には初層のビード層45を示しているが、このビード層45の上に、同様のビード層を複数回積層することで、図1に一例を示す多層構造の造形物Wが造形される。
【0024】
なお、ベースプレート25は、鋼板等の金属板からなるが、板状に限らず、ブロック体又は棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0025】
図1に示すモデル設定部33、積層計画部35等の各演算部は、コントローラ15以外に設けてもよい。例えば、通信部39にネットワークを介して接続されるサーバ又は端末等の外部コンピュータPCに、上記した演算部が設けられてもよい。外部コンピュータPCに上記した各演算部が設けられることで、積層造形装置100を要せずに所望の駆動プログラムを作成でき、プログラム作成作業が繁雑にならない。また、作成した駆動プログラムを、コントローラ15の記憶部37に転送することで、コントローラ15で駆動プログラムを作成した場合と同様に、造形部11及び電源部13を動作させることができる。
【0026】
また、詳細は後述するが、コントローラ15に液晶表示器等の表示部43を接続して、モデル情報を表示する機能を持たせてもよい。例えば、この表示部43にモデル設定部33で設定されたビードモデルの情報等を画面表示させることで、作業者に積層計画の各種情報の確認、又は計画内容の調整等が簡単に行える。つまり、造形物の設計支援を行える。また、外部コンピュータPCに接続されるモニタ等の表示部47に、同様のビードモデル等の情報を表示させる機能を持たせてもよい。このように、積層造形装置100が造形物の設計支援機能を備える構成であってもよく、積層造形装置100の外部に表示部43を備えた装置が接続された構成であってもよい。
【0027】
図3は、モデル表示装置200の機能ブロック図である。
造形物の設計支援を行うモデル表示装置200は、前述したモデル設定部33により設定されたビードモデルの情報が入力される入力部51と、入力されたビードモデルの情報を表示する表示部53とを備える。これにより、表示部53に表示されたビードモデルの形状、大きさ、又は実際の溶着ビードの形状との差、等の確認が視覚的に行える。また、入力されたビードモデルの情報を加工して表示用データを生成する表示用データ生成部55を有していてもよい。その場合、作業者が入力部51に各種条件を調整する指示を入力することで、ビードモデルの再設定を行うことができる。
【0028】
<積層造形方法>
上記した造形物Wは、溶着ビードの形成手順及び溶接条件等の各種条件を示す積層計画に基づいて、複数の溶着ビードBを積層して形成される。具体的には、図1に示すコントローラ15又は外部コンピュータPCによって、作業者が入力した情報に応じた積層計画を作成し、作成された積層計画に基づく駆動プログラムを生成する。そして、生成された駆動プログラムを制御部41が実行して造形部11及び電源部13を駆動することで、積層計画した所望の形状の造形物Wを作製する。
【0029】
上記した積層計画には、造形物Wの形状を、溶着ビードBの個々のビード形状を表すビードモデルの集合体に変換する処理が含まれる。ビードモデルは、溶着ビードを模擬して一方向に延びて形成された形状モデルであって、位置情報(トーチ移動軌跡の情報)と、各溶着ビードの大きさ、長さ、又は断面形状等の情報とを有する。ビードモデルに沿ってトーチ17を移動させながら溶着ビードBを形成すると、最終的に造形物Wが得られる。
【0030】
<ビードモデルの設定>
(モデル分割)
図4は、造形物Wの形状に応じたビードモデルを設定する手順を示すフローチャートである。図5の(A)~(D)は、ビードモデルを設定する様子を模式的に示す説明図である。
まず、造形対象とする造形物の形状を表す3次元形状データ(CADデータ等)を読み込む(S1)。読み込んだ3次元形状データの形状を、図5の(A)に示すように、溶着ビードの積層方向Hと直交する面61でスライスして複数の層に分割する(S2)。分割する手段は特に限定されず、公知の手段を採用できる。
【0031】
次に、図5の(B)に示すように、分割した各層BLを、溶着ビードのビード形状に対応するように、面63によって複数の矩形ビードモデルBM0に分割する(S3)。図5の(B)に示す矩形ビードモデルBM0は、図5の奥行き方向に連続する線状の立体モデルであるが、以降の説明では、矩形ビードモデルBM0が連続する長手方向(奥行方向)に直交する断面における矩形形状を、矩形ビードモデルBM0ということにする。つまり、上記の矩形ビードモデルBM0への分割処理は、各層BLの断面形状をビード単位毎に分割する処理を全層について行う。これにより、それぞれの層BLに複数の矩形ビードモデルBM0が配置される。矩形ビードモデルBM0の分割時においては、各モデルでビード長手方向の直交断面におけるビード断面積を一定にする等、条件を指定してもよい。
【0032】
そして、分割された複数の矩形ビードモデルBM0を、単純な幾何図形である台形に当てはめ、台形ビードモデルBMに変更する(S4)。台形ビードモデルBMは、ビード長手方向の垂直断面において、ベースプレート25側に配置される底辺65と、底辺65にビード積層方向に対向する上辺67とが互いに平行で、且つ層BL内のビード配列方向に対向する一対の側辺69,71が互いに非平行にされた4つの頂点を有する台形形状である。
【0033】
台形形状は任意に設定できるが、予め溶接条件とビード形状の関係をデータベースとして管理している場合には、そのデータベースを参照して設定してもよい。例えば、台形の底辺65、上辺67、側辺69,71の各長さ、及び底辺65と側辺69,71とのなす角度、等の各種パラメータを適宜に決定する。
【0034】
次に、図5の(D)に示すように、複数の台形ビードモデルBMのうち、特定の台形ビードモデルの形状を変更する(S5)。この処理は、隣接する溶着ビード同士が重なり合う影響を考慮して、製造工程で後に形成される側の溶着ビードに対応する台形ビードモデルBMに対し、その台形ビードモデルBMの各頂点位置を修正することで行う。
【0035】
図6は、台形ビードモデルBMの断面形状と実際の溶着ビードBの断面形状とを示す説明図である。
図6に示すように、同一形状の台形ビードモデルBMを単に配列するだけでは、台形ビードモデルBMに沿って溶着ビードBを形成した際、状況によっては、隣接する溶着ビード同士の重なりによるビード形状の変化を吸収できないことがある。その場合、実際に形成された溶着ビードの表面形状と、台形ビードモデルBMの形状との差δが生じて、造形体の目標形状からのずれが生じ得る。
【0036】
そこで、隣接する溶着ビード同士の重なりを考慮して、台形ビードモデルBMの頂点位置を変更することで、台形ビードモデルBMの形状を実際の溶着ビードの形状により近づける。ここでは、溶着ビードを図5の(C)における左端から順に積層することを想定しているため、重ねられる側である左端の台形ビードモデルBMの各頂点は回転移動させていない。
【0037】
(台形ビードモデルの形状変更)
図7は、台形ビードモデルBMの形状を変更する様子を示す説明図である。以降の説明では、同一の部材及び同一の部位に対する符号については、同じ符号を付与することでその説明を省略又は簡単化する。
【0038】
図7に示す複数の台形ビードモデルBMのうち、同一の層BL内に配置され、先に形成される溶着ビードの位置の台形ビードモデルをBMaとし、後に形成される溶着ビードの位置の台形ビードモデルをBMb(点線で表示)とする。また、先に形成される側の台形ビードモデルBMaと、後に形成される側の台形ビードモデルBMbとは、互いの重なり部73(ドットハッチで表示)を有するように配置する。
【0039】
ここで、後に形成される側の台形ビードモデルBMb(点線で表示)における、底辺65の重なり部73に近い側の端にある頂点をP1とし、遠い側の端にある頂点P4とする。また、ビードモデルBMbにおける上辺67の両端にある一対の頂点のうち、重なり部73に近い側にある頂点をP2とし、遠い側にある頂点をP3とする。また、ビードモデルBMbにおける重なり部73側の側辺69と、先に形成されるビードモデルBMaの外周縁(この場合は側辺71)との交点をQ1とする。また、先に形成されるビードモデルBMaの底辺65の重なり部73側の端にある頂点をQ2とする。
【0040】
そして、後に形成される側の台形ビードモデルBMb(点線で表示)の頂点P4を中心として、頂点P4を除く他の3つの頂点P1,P2,P3をそれぞれ回転移動させる。ここでは、台形ビードモデルBMbを、矢印で示すθの方向(時計回り方向)に回転移動させる。すると、回転中心の頂点P4はそのままで、頂点P1が頂点P1aとなり、頂点P2が頂点P2aとなり、頂点P3が頂点P3aとなる。つまり、回転後の台形ビードモデルBMbは、4つの頂点P1,P2a,P3a,P4aの互いの相対位置を回転前後で一定に維持しつつ移動して、回転前と同じ形状の台形ビードモデルBMbとなる。
【0041】
上記した台形ビードモデルBMbの回転動作を更に詳細に説明する。
図8は、図7に示す台形ビードモデルBMbの回転動作の詳細を示す説明図である。
図7においては、台形ビードモデルBMaの形状をそのまま維持したまま回転させた例を示したが、これに限らず、台形形状を変化させてもよい。図8に示すように、後に形成される台形ビードモデルBMb(点線で表示)の頂点P1を、頂点P4を中心に角度θ1で回転移動させて頂点P1aにし、同様に、頂点P2を角度θ2で回転移動させて頂点P2aにし、頂点P3を角度θ3で回転移動させて頂点P3aにする。各頂点Pi(i=1,2,3)を回転移動させる角度θj(j=1,2,3)は、回転中心である頂点P4からの半径距離xk(k=1,2,3)に依存した設定にできる。なお、頂点P4の半径距離X4は0となる。
【0042】
各頂点Piの回転移動には、回転後のビードモデルBMbが、変形前の台形ビードモデルBMbと等しい断面積になるようにする条件を付与してもよい。このようにして設定された台形ビードモデルBMa,BMbを積層計画用のビードモデルに設定して積層計画を作成する(S6)。
【0043】
図7及び図8においては、台形ビードモデルBMaに隣接する台形ビードモデルBMbと積層計画で用いるビードモデルとを示したが、図5の(D)に示すように、複数の台形ビードモデルBMbが繰り返し配列される。これらの台形ビードモデルBMbは、それぞれ同じ形状のモデルにすることで、ビードモデルの設定を簡単にできる。また、モデルの配置場所に応じて頂点Piの回転移動量を変更して、台形ビードモデルBMbの形状を適宜に変化させてもよい。
【0044】
<積層計画用のビードモデルの変形例1>
次に、上記のようにして各頂点Piを回転移動させて得られる台形ビードモデルBMbから、さらに実際の溶着ビードに近い形状にした積層計画用のビードモデルを説明する。
【0045】
ここで設定される積層計画用のビードモデルは、4つの頂点を有する台形ビードモデルBMbに代えて、図7に太線内をハッチングして示される5角形のモデルとする。すなわち、上記した頂点Q2と、交点Q1と、頂点P2aと、頂点P3aと、頂点P4とにより囲まれた5つの頂点を有する領域を、積層計画で用いるビードモデルBMRに設定する。
【0046】
また、同じ層BL内で最初に形成する溶着ビードに対応した台形ビードモデルBMaについては、そのままの形状で積層計画に用いるビードモデルBMRとして扱う。
【0047】
各ビードモデルBMRは、変形前の台形ビードモデルBMa,BMbの断面積と等しい断面積になるように設定してもよい。つまり、図7に示す頂点P1,P2,P3,P4からなる台形ビードモデルBMbの断面積と、頂点Q2,交点Q1,頂点P2a,P3a,P4からなる5角形のビードモデルBMRの断面積とを等しくする。
【0048】
ビードモデルBMRを積層計画用のビードモデルとして用いた場合、先に形成される溶着ビードに対応する台形ビードモデルBMaの片側の側辺71に沿って、隣接するビードモデルBMRが配置される。このため、双方のモデル同士の重なり部が生じず、より正確な積層計画を作成できる。
【0049】
(各頂点の回転移動量の設定方法)
前述した図8に示す頂点Piの回転移動の角度θj(J=1,2,3)は、溶着ビードの溶接条件と溶着ビードの形成軌道とに応じて設定できる。また、頂点毎に異ならせてもよい。溶接条件としては、例えば、コールドメタルトランスファー(CMT)方式、パルスアーク方式、若しくは低電圧(CV)溶接方式等の溶接方式、溶接電流、溶接電圧、溶加材の供給速度、又は溶接速度、等が挙げられる。形成軌道としては、直線軌道、曲線軌道、上向き軌道、又は下向き軌道等が挙げられる。また、角度θjは半径距離xkの関数を用いて設定してもよい。その場合、予め実験的に求めた造形物の形状と一致するように、各関数の係数をフィッティングさせる。
【0050】
図9は、半径距離xと角度θとの関係を1次関数で表したグラフである。1次関数は、例えばθ=ax+bで表され、係数a,bが適宜に設定される。この場合の角度θは、各頂点P1,P2,P3の頂点P4からの半径距離に応じて線形的に変化し、頂点P4に近いほど角度θが小さくなる。
【0051】
上記した角度θの設定には、上記した一次関数に限らず種々の関数を採用できる。
図10の(A)は、半径距離xと角度θとの関係を0次関数で表したグラフであり、(B)は(A)に示す関数を用いて角度θを決定した場合のビードモデルの形状を模式的に示す説明図である。
この場合の角度θは、各頂点P1,P2,P3で全て一定であり、4つの頂点からなる各台形ビードモデルBMb(点線で表示)は互いに合同となる。また、5つの頂点からなる各ビードモデルBMRは、それぞれハッチングで示された形状となる。
【0052】
図11の(A)は、半径距離xと角度θとの関係を3次関数で表したグラフであり、(B)は(A)に示す関数を用いて角度θを決定した場合のビードモデルの形状を模式的に示す説明図である。3次関数は、例えばθ=cx+dx+e+fで表され、係数c,d,e,fが適宜に設定される。
この場合の角度θは、頂点P1の半径距離x1付近で急激に増加する。そのため、台形ビードモデルBMbの頂点P1が、隣接する台形ビードモデルBMaの側辺71を超えて持ち上げられ、その結果、ビードモデルの形状が実際の溶着ビードの形状により近づく。
【0053】
図12は、半径距離xと角度θとの関係をn次関数(nは例えば1.5又は2)で表したグラフである。このn次関数としては、例えばθ=gx+hで表され、係数g,hが適宜に設定される。この場合の角度θ1,θ2と角度θ3とは、極性が反転している。
【0054】
図13は、図12に示すn次関数を用いて角度θを決定した場合のビードモデルの形状を示す説明図である。
図13に示すように、台形ビードモデルBMbの頂点P1,P2が頂点P4を中心に時計回りに回転移動しているのに対して、頂点P3は反時計回りに回転移動している。このような回転移動の向きを頂点に応じて異ならせることで、ビードモデルBMRの形状の設定自由度が高められ、ビードモデルBMRを実際の溶着ビードの形状により近づけられる。なお、台形ビードモデルBMbを用いる場合も同様の効果が得られる。
【0055】
図14は、図13に示すビードモデルBMRを、台形ビードモデルBMaに並べて配置した様子を示す説明図である。
図14に示すように、半径距離xと角度θとの関係を表すn次関数の次数及び係数を調整することにより、実際の溶着ビードの形状との近似度を更に向上できる。
【0056】
上記した積層造形方法によれば、台形形状のビードモデルの各頂点を回転移動させるという単純な計算で、ビードモデルの形状を簡単に調整できる。また、3つの頂点を回転移動させる回転角を、溶着ビードの溶接条件又は形成軌道に応じて設定することで、溶着ビードの場所、積層パターンに応じて、ビードモデルの形状をより適切な形状に設定できる。そして、回転移動させる回転角を頂点毎に異ならせることで、溶着ビードが台形の単純な回転では表現できない複雑な形状であっても、その複雑な形状を容易に再現が可能となる。このようにして、目標形状により近い形状の造形物が簡単に作製できるようになる。
【0057】
さらに、3つの頂点を回転移動させる回転角を、予め定めた演算式に基づいてそれぞれ設定する場合、演算式中の係数を調整して、実際の溶着ビードの形状にビードモデルをより近づけることができる。
また、回転させた台形ビードモデルに基づいた5つの頂点を有するビードモデルBMRを用いて積層計画を行う場合、既設の溶着ビードに隣接して形成する溶着ビードの形状を、より忠実に再現できる。つまり、既設の溶着ビードに隣接させてビード形成した場合、その溶着ビードの断面形状は、台形形状よりも平行四辺形に近い形状となる。そのような場合でも、5つの頂点を有するビードモデルBMRでフィッティングさせることで、実際の溶着ビード形状にモデルを良好に近似できる。
【0058】
<積層計画用のビードモデルの変形例2>
溶着ビードの形成時において、下層の溶着ビードの上に新たに溶着ビードを形成した場合、上層の溶着ビードには下層に向けて垂れ下がる部位を生じることがある。溶着ビードの一部が垂れ下がると、その垂れ下がりにより溶着ビードの肉盛り高さが減少する。そのため、実際の溶着ビードの肉盛高さが、計画していた高さよりも低くなりやすい。そこで、積層計画の段階で、溶着ビードの垂れ下がりを考慮したビードモデルを生成することが好ましい。
【0059】
図15は、溶着ビードの垂れ下がりを考慮したビードモデルBMRsを示す説明図である。
積層された台形ビードモデルBMa,BMbのうち、上層の台形ビードモデルBMa,BMbについては、底辺65の端部に、下方へ延びる垂れ部75A,75Bを追加して、ビードモデルBMRsに変更している。垂れ部75A,75Bは、それぞれ底辺65の端部を一辺とする三角形であり、前述した溶着ビードの溶接条件と形成軌道とに応じて、その形状と面積が設定される。垂れ部75Aと垂れ部75Bとは、同一形状であってもよいが、互いに異なる形状に設定してもよい。また、一対の垂れ部75A,75Bは、台形ビードモデルBMa,BMbの底辺65のいずれか一方の端部のみに設けてもよい。
【0060】
垂れ部75A,75Bを設けたビードモデルBMRsを積層計画用のビードモデルに設定することで、溶着ビードのビード高さが、溶着ビードに生じる垂れ下がりによる影響を受けにくくなる。よって、作製する造形物を、積層計画通りの形状により近づけられる。また、垂れ部75A,75Bの形状が単純な三角形であることで、演算負担を軽減できる。
【0061】
図16の(A),(B)は、溶着ビードの垂れ下がりを考慮したビードモデルBMRsと、ビードモデルBMRsを用いた積層計画で作製した造形物Wの外縁形状とを示す概略図である。図16の(B)は、溶加材の供給速度及び溶接速度を図16の(A)の場合よりも増加させた結果である。このように、いずれの場合でも、積層計画のビードモデルに近い形状で造形物Wを製造できる。
【0062】
<表示装置を用いた積層計画作成の支援>
以上説明した各種のビードモデルを用いた積層計画は、目標形状のモデル化と、モデルの修正とを繰り返すことで、造形物の形状を更に目標形状に近づけることができる。
図3に示すモデル表示装置200は、例えば、前述した図10の(B)、図11の(B)、図14、又は図16に示すようなビードモデルの形状等を表示部53に表示させることで、作業者にモデル化の是非を確認させたり、モデルの修正を促したりすることが容易に行える。また、モデルの修正が必要な場合には、作業者が入力部51から調整指示の情報を入力することで、ビードモデルを再設定することが可能となる。
【0063】
具体的には、図16に示す各ビードモデルと造形物Wの形状とを表示部53に表示することで、双方を比較し、目標形状への近似度が十分か否かを確認できる。また、調整指示の情報を入力してビードモデルの形状を更に変更した場合には、その変更内容の是非を視覚的に確認できる。このように、積層計画した内容を簡単に確認できるため、積層計画の作業性を向上できる。このモデル表示装置200を積層造形装置100に付帯された構成にすれば、例えば、造形直前であっても上記した確認が簡単に行えるため、積層造形の作業性を向上できる。
【0064】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0065】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードをベース上に積層して、造形物を作製する積層造形方法であって、
前記造形物の3次元形状データを読み込む工程と、
前記3次元形状データに基づく立体モデル形状を複数の層に分割するとともに、分割した各層を、前記溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割する工程と、
分割された前記ビードモデルに沿って前記溶着ビードを形成する処理を、前記複数の層の下層から上層まで繰り返して前記溶着ビードを積層する工程と、
を有し、
前記ビードモデルは台形形状であり、ビード長手方向の垂直断面において、前記ベース側の底辺と反ベース側の上辺とが互いに平行で、且つ、同一層内に配置される前記ビードモデルの配列方向に対向する一対の側辺同士が互いに非平行にされ、
前記複数のビードモデルに分割する工程では、
同一層内において、先に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルと、当該溶着ビードに隣接して後に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルとを、互いの重なり部を有して配置し、
後に形成される側の前記ビードモデルの4つ頂点のうち、当該ビードモデルの底辺の前記重なり部から遠い側となる端部に配置される頂点を中心に、他の3つの頂点をそれぞれ回転移動させて、後に形成される側の前記ビードモデルの形状を変更する工程を含む、
積層造形方法。
この積層造形方法によれば、台形形状のビードモデルの各頂点を回転移動させるという単純な計算で、ビードモデルの形状を簡単に調整できる。これにより、目標形状により近い形状の造形物を作製できる。
【0066】
(2) 前記他の3つの頂点を回転移動させる回転角を、前記溶着ビードの溶接条件又は形成軌道に応じて設定する、(1)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶着ビードの場所、積層パターンに応じて、ビードモデルの形状をより適切な形状に設定できる。
【0067】
(3) 前記他の3つの頂点を回転移動させる回転角を、前記頂点毎に異ならせる、(1)又は(2)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶着ビードが台形の単純な回転では表現できない複雑な形状であっても、その複雑な形状を容易に再現できる。
【0068】
(4) 前記他の3つの頂点を回転移動させる回転角は、予め定めた演算式に基づいてそれぞれ設定される、(1)~(3)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、演算式中の係数を調整することで、実際の溶着ビードの形状にビードモデルをより近づけることができる。
【0069】
(5) 前記演算式は、前記ビードモデルの前記底辺に沿った座標値を変数とする、直線又は曲線の関係式である、(4)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、回転中心となる1つの頂点からの半径距離に応じた回転移動量に設定できる。
【0070】
(6) 前記後に形成される側のビードモデルを前記台形形状に代えて、
前記後に形成される側のビードモデルにおける前記底辺の前記重なり部から遠い側の端にある頂点と、
前記後に形成される側のビードモデルにおける前記上辺の両端にある一対の頂点と、
前記後に形成される側のビードモデルにおける前記重なり部側の側辺と前記先に形成されるビードモデルの外周縁との交点と、
前記先に形成されるビードモデルの底辺の前記重なり部側の端にある頂点と、
によって囲まれた5つの頂点を有する形状に設定する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、既設の溶着ビードに隣接させて形成する溶着ビードのように、台形形状よりも平行四辺形に近い溶着ビードであっても、良好な形状のフィッティングが図れる。
【0071】
(7) 最下層に配置されるビードモデルよりも上層に配置されるビードモデルの底辺における一端部又は両端部に、前記溶加材の溶融体の下層へ向けた垂れ落ちを表す垂れ部を設ける、(1)~(5)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、ビードモデルに垂れ部を設けることで、溶着ビードのビード高さが、溶着ビードに生じる垂れ下がりによる影響を受けにくくなる。よって、作製される造形物の形状を、積層計画通りの形状により近づけることができる。
【0072】
(8) 前記垂れ部は三角形状である、(7)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、垂れ部の形状を単純な三角形にすることで、演算負担を軽減できる。
【0073】
(9) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードをベース上に積層して、造形物を作製する積層造形装置であって、
前記造形物の3次元形状データを読み込む入力部と、
前記3次元形状データに基づく立体モデル形状を複数の層に分割するとともに、分割した各層を、前記溶着ビードのビード形状に対応した複数のビードモデルに分割するモデル設定部と、
分割された前記ビードモデルに沿って前記溶着ビードを形成する処理を、前記複数の層の下層から上層まで繰り返して前記溶着ビードを積層する造形部と、
を備え、
前記ビードモデルは台形形状であり、ビード長手方向の垂直断面において、前記ベース側の底辺と反ベース側の上辺とが互いに平行で、且つ、同一層内に配置される前記ビードモデルの配列方向に対向する一対の側辺同士が互いに非平行にされ、
前記モデル設定部は、
同一層内において、先に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルと、当該溶着ビードに隣接して後に形成される溶着ビードに対応する前記ビードモデルとを、互いの重なり部を有して配置し、
後に形成される側の前記ビードモデルの4つ頂点のうち、当該ビードモデルの底辺の前記重なり部から遠い側となる端部に配置される頂点を中心に、他の3つの頂点をそれぞれ回転移動させて、後に形成される側の前記ビードモデルの形状を変更する、
積層造形装置。
この積層造形装置によれば、台形形状のビードモデルの各頂点を回転移動させるという単純な計算で、ビードモデルの形状を簡単に調整できる。これにより、目標形状により近い形状の造形物を作製できる。
【0074】
(10) 前記モデル設定部により形状が変更された前記ビードモデルの情報が表示される表示部を更に備える、(9)に記載の積層造形装置。
この積層造形装置によれば、ビードモデルの形状等を表示部に表示させることで、実際に造形物を作製して得られる形状に近い形状を、造形前に容易に確認できる。
【0075】
(11) (9)に記載の積層造形装置の前記モデル設定部により設定された前記ビードモデルの情報が入力される入力部と、
入力された前記ビードモデルの情報を表示する表示部と、
を備えるモデル表示装置。
このモデル表示装置によれば、ビードモデルの形状等を表示部に表示させることで、作業者にモデル化の是非を確認させたり、修正を促したりすることが容易に行える。
【0076】
(12) 前記入力部に前記ビードモデルの調整指示の情報が入力され、
入力された前記調整指示の情報に応じて前記ビードモデルを調整し、調整後の前記ビードモデルの表示用データを前記表示部に出力する表示用データ生成部を備える、(11)に記載のモデル表示装置。
このモデル表示装置によれば、作業者がビードモデルを調整した結果を表示でき、利便性が高められる。
【符号の説明】
【0077】
11 造形部
13 電源部
15 コントローラ
17 トーチ
19 溶接ロボット
21 溶加材供給部
25 ベースプレート
31 入力部
33 モデル設定部
35 積層計画部
37 記憶部
39 通信部
41 制御部
43,47 表示部
45 ビード層
51 入力部
53 表示部
55 表示用データ生成部
61,63 面
65 底辺
67 上辺
69,71 側辺
73 重なり部
100 積層造形装置
200 モデル表示装置
M 溶加材
PC 外部コンピュータ
BM0 矩形ビードモデル
BM 台形ビードモデル
BMR ビードモデル
BMRs ビードモデル
B 溶着ビード
BL 層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17