(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093053
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】真皮幹細胞の分化促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9794 20170101AFI20220616BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220616BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20220616BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220616BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20220616BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61Q19/08
A61K8/9789
C12N5/0775
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206121
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】野場 翔太
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD49
4B018ME10
4B065AA90X
4B065BD43
4B065CA41
4B065CA50
4C083AA111
4C083AA112
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化を促進する新規な物質を見出し、真皮幹細胞の分化促進剤として提供すること。
【解決手段】発芽状態の紫麦種子の抽出物、又は発芽状態の紫麦種子と、セイヨウミザクラ種子との混合物の抽出物を有効成分として含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽状態の紫麦種子の抽出物を有効成分として含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤。
【請求項2】
発芽状態の紫麦種子と、セイヨウミザクラ種子との混合物の抽出物を有効成分として含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤。
【請求項3】
真皮幹細胞を、請求項1又は2に記載の剤を含有する培地で培養する工程を含む、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進方法。
【請求項4】
真皮幹細胞を、請求項1又は2に記載の剤を含有する培地で培養する工程を含む、真皮線維芽細胞の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の剤を含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進用組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の剤を含有する、抗老化用化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、大別すると表皮、真皮、皮下組織の3層構造をとっている。真皮層には真皮線維芽細胞が存在しており、真皮線維芽細胞から産生されるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸は、肌のハリや弾力、潤いを保つのに重要な成分として知られている。また、シワやタルミの原因として、老化や炎症によって、これらの成分が減少することが挙げられていることから、真皮線維芽細胞は、シワやタルミのない若々しい皮膚を保つのに必須な細胞といえる。この真皮線維芽細胞を生み出す真皮幹細胞は真皮乳頭層直下に存在しており、必要に応じて増殖と分化を繰り返し、真皮層に新しい真皮線維芽細胞を常に供給し、その結果、皮膚は絶えず再生を繰り返している(非特許文献1)。コラーゲンやエラスチンなどの真皮成分は真皮幹細胞から生み出された真皮線維芽細胞から積極的に産生されていることから、真皮幹細胞から成熟した真皮線維芽細胞へ分化を導くことが健全な真皮組織を保つ上で重要である。
【0003】
近年、臓器・組織に存在する幹細胞が老化することが明らかになりつつある(非特許文献2)。具体的に幹細胞の老化とは、増殖能力や分化能力が低下することであり、臓器や組織の再生能力の低下の原因と考えられている。例えば、皮膚や皮下脂肪組織に存在する幹細胞は、加齢により数が減少し、分化能力が低下することが報告されている(非特許文献3~4)。よって、各臓器・組織に存在する幹細胞の分化能力を向上させる技術は、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、各種疾患の予防・治療・改善等、抗加齢(抗老化)の用途に極めて有効であると考えられる。また、幹細胞の再生医療や再生美容への応用を考えた場合、再生したい臓器や組織の細胞に幹細胞を効率よく分化誘導させる技術の開発が重要であり、さらに、目的の細胞に分化誘導できたとしても、臓器や組織は三次元的に構築されているため、これを再現できなければ、生体に移植しても、その効果(臓器、組織の再生)を発揮できない。すなわち、生体外において幹細胞を培養し、目的の細胞に自由自在に分化誘導させ、再生したい臓器や組織に類似した三次元的な構築を行う技術を開発できれば、今後の再生医療や再生美容の飛躍的な発展が望める。特に、皮膚組織は、複雑な三次元構造を取っており、また、人の身体の最外層に備わっているため、外的傷害によるダメージを受けやすい組織である。また、人の外観や美容に大きく関わる組織であり、この組織の再生技術を進歩させることは極めて重要である。
【0004】
これまで、真皮線維芽細胞におけるコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進する物質としては、酵母エキスとブナ属植物抽出物の混合物(特許文献1)、N-ベンゾイルグリシルグリシン(特許文献2)、コノテガシワ属植物の種子の抽出物(特許文献3)等が知られている。しかしながら、これらは真皮幹細胞に作用し、真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化誘導を促進するものでなく、より長期的かつ根本的にコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進するためには真皮幹細胞の分化を促進し、真皮線維芽細胞を増やすことが重要となる。これまでに、真皮幹細胞の分化誘導効果を有する物質としては紫麦種子の抽出物(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-158054号公報
【特許文献2】特開2014-55116号公報
【特許文献3】WO2012/057123号公報
【特許文献4】特開2010-22326号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hasebe Y.ら, J. Dermatol. Sci., 2016年,Vol. 89, pp. 205-207
【非特許文献2】Beane O.S.ら, PLoS One., 2014年, Vol. 9, 12号, e115963
【非特許文献3】Akamatsu H.ら,J. Dermatol., 2016年,Vol. 43, pp. 311-313
【非特許文献4】Yamada T.ら,J. Dermatol. Sci., 2010年,Vol. 58, pp. 36-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化誘導効果の高い新たな素材を見出し、真皮幹細胞の分化促進剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、発芽状態の紫麦種子の抽出物に未発芽紫麦種子の抽出物を凌駕する真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化誘導効果があること、また、他の植物種子であるセイヨウミザクラ種子の抽出物と併用することにより、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化誘導効果が顕著に促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)発芽状態の紫麦種子の抽出物を有効成分として含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤。
(2)発芽状態の紫麦種子と、セイヨウミザクラ種子との混合物の抽出物を有効成分として含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤。
(3)真皮幹細胞を、(1)又は(2)に記載の剤を含有する培地で培養する工程を含む、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進方法。
(4)真皮幹細胞を、(1)又は(2)に記載の剤を含有する培地で培養する工程を含む、真皮線維芽細胞の製造方法。
(5)(1)又は(2)に記載の剤を含有する、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進用組成物。
(6)(1)又は(2)に記載の剤を含有する、抗老化用化粧品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤は、真皮幹細胞の分化を促進して真皮線維芽細胞へ効率的に誘導することができるので、真皮線維芽細胞により産生されるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸といった肌のハリや弾力、潤いを保つ成分が皮膚内に十分供給され、加齢や紫外線等によるシワ、タルミ、ハリや弾力の低下の改善に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤
本発明に係る真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤(以下、「真皮幹細胞の分化促進剤」と記載する場合がある)は、発芽状態の紫麦種子の抽出物、又は発芽状態の紫麦種子と、セイヨウミザクラ種子との混合物の抽出物を有効成分として含有する。
【0012】
本発明において、「真皮幹細胞」とは、真皮線維芽細胞への分化が可能な細胞をいう。本発明において、「真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進」とは、本発明の薬剤を投与又は摂取する前と比較して、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化が活性化することをいう。
【0013】
本発明に用いる紫麦とは、頴、頴果、茎又は葉が紫色の大麦のことを指し、学名はHordeum vulgare L.である。例えば、大麦の品種ではOUC321、CI158、CI244等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いる紫麦種子は、栽培して入手することもできるし、市販品を購入することもできるし、生育地域から入手することもできる。また、紫麦種子は、通常、夏季に採種される。
【0015】
本発明においては、発芽状態の紫麦種子を抽出原料として用いる。ここで、「発芽」とは、発根を包含する用語であり、「発芽状態」とは、種子から幼芽又は幼根の先端が出現した状態をいう。本発明において、「発芽状態の紫麦種子」には、紫麦の発芽種子、麦芽(発芽した大麦の根及び芽をカットして乾燥させた種子)、発芽した幼植物体(スプラウト)等が包含される。ここで、発芽種子とは、一般に、根、胚軸、子葉及び胚乳を有するものをいい、幼植物体(スプラウト)とは、一般に、種子が発芽して胚乳を有さない状態まで生育したものをいう。
【0016】
本発明において抽出原料として用いる発芽状態の紫麦種子の容姿としては、紫麦の種子から根が伸び、新芽が出たものが好ましく、根、新芽を含めた種子全体が利用できる。発芽状態の紫麦種子の大きさとしては、新芽の長さは0.1mm~80mmが好ましく、1~50mmがより好ましい。根の長さは、1mm~200mmが好ましく、10mm~100mmがより好ましい。
【0017】
上記発芽状態の紫麦種子は、紫麦種子の発芽処理後、乾燥処理を行うことによって調製することができる。発芽処理は、生又は乾燥した紫麦種子を水に浸漬して休眠打破した後、播種床に播種し、種子が完全に乾燥しないように水を与えながら栽培することにより行う。
浸漬水の温度は、2~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。種子の浸漬時間は、0.5~24時間が好ましく、2~12時間がより好ましい。播種量としては、栽培面積当たり、0.1~5粒/cm2が例示できる。播種床としては、土以外の不織布、タオルペーパー、スポンジ、バーミキュライト、パーライト等を用いることができる。また、保湿するために水を吸わせたタオルペーパー等を被せ、さらに食品用ラップフィルム等を被せるのがより好ましい。栽培温度は、10~30℃が好ましく、20~25℃がより好ましい。また、栽培期間は、温度や光の照射条件によって異なるが、2~10日程度である。
【0018】
乾燥処理は、植物体の乾燥方法として通常用いられる方法が利用できる。例えば、自然乾燥(風乾)、天日乾燥、乾熱乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等が挙げられ、好ましくは、乾熱乾燥、通風乾燥、熱風乾燥である。乾燥処理の温度及び時間の条件は特に限定されないが、温度は40~70℃が好ましく、時間は乾燥温度、発芽状態の紫麦種子の水分含量、乾燥する総量によって異なるが、概ね4~24時間の範囲である。
【0019】
本発明に用いるセイヨウミザクラは、オウトウとも呼ばれ、学名はPrunus avium L.である。主要品種として、アメリカンチェリー、佐藤錦、ナポレオンなどの食用品種が挙げられる。本発明において、抽出原料としてセイヨウミザクラの種子を用いるが、当該種子は発芽していない種子(未発芽種子)を意味する。
【0020】
本発明において、発芽状態の紫麦種子(以下、「発芽紫麦種子」と記載する)及びセイヨウミザクラ種子の抽出には、当該種子又は種子を含む植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。また、本発明において、上記種子の抽出物を得るための抽出方法は、水や有機溶媒を用いた溶媒抽出法、圧搾抽出法のいずれでもよいが、溶媒抽出法が好ましい。
【0021】
溶媒による抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出、常温抽出、低温抽出、攪拌抽出またはカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水若しくは熱水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水若しくは熱水、低級アルコール、液状多価アルコール等が好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いてもよい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0022】
抽出溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば抽出原料(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、対象植物及び使用する溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。
【0023】
また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0024】
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤は、上記のようにして得られた発芽紫麦種子の抽出物を有効成分として含有してもよく、又は、発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の抽出物を有効成分として含有してもよい。発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物においてその混合比率は限定されない。
【0025】
発芽紫麦種子の抽出物、又は発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の抽出物(以下、「植物種子抽出物」という)は、生体レベル(生体内)でも又は培養レベル(生体外)でも真皮幹細胞の分化を促進する作用を有するので、本発明の真皮幹細胞の分化促進剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与することによって真皮幹細胞の分化を促進するための薬剤として、また、真皮幹細胞の分化を促進し、真皮線維芽細胞を製造するための幹細胞培養用培地添加剤、研究用試薬、医療用試薬としても使用することができる。
【0026】
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤は、有効成分である上記植物種子抽出物が、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進作用を有するので、真皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に真皮線維芽細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態を治療、改善、及び予防するのに有効である。かかる疾患又は病態としては、例えば、シワ、タルミ、ほうれい線(鼻唇溝)、マリオネットライン、ハリや弾力の低下、潤いやツヤの不足、ごわつき、くすみ、日光弾性線維症、強皮症、線維肉腫、色素性乾皮症、皮膚組織球腫、線状皮膚萎縮症(皮膚線条)、創傷、熱傷、褥瘡、瘢痕、母斑、肝斑などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤における植物種子抽出物の含有量は、特に限定されないが、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、又は乾燥物)により、例えば、当該薬剤全量に対して、0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%であることがより好ましい。
【0028】
2.真皮幹細胞の分化促進方法、真皮線維芽細胞の製造方法
本発明はまた、真皮幹細胞を、上記真皮幹細胞の分化促進剤を含有する培地で培養する工程を含む、真皮幹細胞の分化促進方法、ならびに、真皮幹細胞を、上記真皮幹細胞の分化促進剤を含有する培地で培養する工程を含む、真皮線維芽細胞の製造方法に関する。本発明に係る方法において真皮幹細胞から分化誘導して製造された真皮線維芽細胞は、一般的に体外で培養後、創傷部や組織を再生させたい部位に直接注射などで移植することが可能である。すなわち、本発明に係る方法にて製造された真皮線維芽細胞は移植材料(細胞移植剤)として用いることができる。
【0029】
本発明に係る方法において、真皮幹細胞を培養する培地、また同時に用いる添加剤としては、特に限定はされず、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化のために一般的に使用されている培地及び添加剤を用いればよい。
【0030】
具体的には、真皮幹細胞を培養する培地には、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbecco' s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank's balanced salt solution)等が用いられる。また、上記培地には、細胞の増殖速度を増大させるために、必要に応じて、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)等の増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント等を添加してもよく、また、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン等)等を添加してもよい。培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。上記各成分を基本培地に適宜添加した市販品の培地を使用することもできる。
【0031】
また、上記以外には、1~20%の含有率で血清(例えば、10%FBS)が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0032】
真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化誘導を行う培地は、市販品を用いることができ、例えば、Fibroblast Medium(三光純薬製)、正常ヒト線維芽細胞用培地(DSファーマバイオメディカル社製)などが挙げられる。
【0033】
上記の本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤あるいは本発明に係る方法に準じて、上記の植物種子抽出物を、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、真皮幹細胞の分化促進のための試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱い説明書等を含むことができる。あるいは、上記の植物種子抽出物を培地と混合し、真皮幹細胞の分化促進用培地として提供することもできる。
【0034】
真皮幹細胞の培養に用いる培養器は、真皮幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。培養器は、細胞非接着性であっても細胞接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0035】
幹細胞培養に使用される培地に対する植物種子抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤における植物種子抽出物の含有量に準じて適宜決定することができるが、植物種子抽出物の乾燥物に換算して、例えば10~10000μg/mL、好ましくは100~5000μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、これらの抽出物を定期的に培地に添加してもよい。
【0036】
幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは36~37℃である。CO2ガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0037】
真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化が促進されたか否かのin vitroでの判定は、当業者が通常行う方法によって行うことが可能であり、例えば、本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤の非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤の存在下で培養した該幹細胞において真皮線維芽細胞マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで有意に高いか否かで評価することができる。真皮線維芽細胞マーカー遺伝子としては、例えば、COL1A1(I型コラーゲンα1)、COL1A2(I型コラーゲンα2)、COL3A1(III型コラーゲンα1)、S100A4(S100カルシウム結合タンパク質)、αSMA(アルファ-平滑筋アクチン)、HAS1(ヒアルロン酸合成酵素-1)、ELN(エラスチン)、HYAL3(ヒアルロニダーゼ3)、galectin 9(ガレクチン9)などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0038】
3.真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進用組成物
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品等の各種組成物に配合して提供できる。特に、皮膚外用組成物に配合して提供することが好ましい。
【0039】
また、皮膚外用組成物は、抗老化用化粧品とすることが特に好ましい。ここで、「抗老化」とは、加齢や光老化のみならず、乾燥、紫外線、過度な皮膚洗浄、ホルモンバランスの乱れ、ストレス、生活習慣(睡眠や喫煙習慣)といった様々な内的因子又は外的因子による皮膚細胞の機能や活性の低下を抑制し、キメが整い、ハリやツヤのある若々しく健康な肌状態に導くことをいう。具体的には、真皮幹細胞の分化能の低下を抑制することによって、皮膚のシワ、タルミ、くすみ、ハリの低下、硬化等を予防又は改善することをいう。
【0040】
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、真皮幹細胞の分化促進剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0041】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
【0042】
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0043】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0044】
本発明に係る真皮幹細胞の分化促進剤を、前記皮膚疾患や病態を治療、改善、及び予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0045】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0046】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0047】
本発明の医薬品は、上記皮膚疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0048】
本発明の化粧品、医薬品、医薬部外品における真皮幹細胞の分化促進剤の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、上記の植物種子抽出物の乾燥物に換算して、0.001~30重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましい。上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0049】
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、植物種子抽出物として0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。
【0050】
また、本発明の真皮幹細胞の分化促進剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。本発明の真皮幹細胞の分化促進剤は、特に老化に伴うシワ、タルミ、ハリ、弾力の低下等の諸症状の改善及び予防のために長期にわたって服用が必要となる場合に、日常的に継続して摂取できる点で上記の健康食品等に好適に用いることができる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0051】
さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用する場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
【0052】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0053】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0054】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0055】
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程において植物種子抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、植物種子抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。カプセル状のサプリメントでは、植物種子抽出物を含有する液状、懸濁状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、又はカプセル基剤で被包成形して製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、鉄、カリウム等のミネラル類、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6等のビタミン類、葉酸、食物繊維等)を添加することもできる。
【0056】
本発明の飲食品における植物種子抽出物の配合量は、真皮幹細胞の分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【0057】
本発明の飲食品の摂取量は、前述の疾患又は病態の予防や改善を目的として摂取する場合、摂取させる対象の状態、摂取形態、摂食量等により異なるが、植物種子抽出物として、成人1日につき、0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。前記の量は1回で摂取させてもよいが、数回(2~4回)に分けて摂取してもよい。本発明の飲食品は、摂取量の目安とするため1回に摂取するべき量の飲食品が、1個の袋やビン等の容器に包装又は充填されていることが好ましい。
【実施例0058】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特記していない場合は、実施例に示す%とは重量%を示す。
【0059】
[実施例1]
(1)発芽紫麦種子の調製
抽出原料として用いる発芽紫麦種子は次のようにして調製した。紫麦の種子(乾燥物)200gを水に6時間浸漬し、水で湿らせたペーパータオルに播種し、ペーパータオルと食品用ラップフィルムを被せ、4日間室温で保湿することで発芽させた後、60℃で5時間乾熱乾燥し、発芽紫麦種子を194g得た。
【0060】
(2)抽出物の製造例
以下の抽出物の製造において、抽出原料が発芽紫麦種子の場合は、(1)で調製した発芽紫麦種子を、また、セイヨウミザクラ種子は、未発芽種子を用いた。
【0061】
(製造例1)発芽紫麦種子の熱水抽出物の製造
発芽紫麦種子10gに200mLの精製水を加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して発芽紫麦種子の熱水抽出物を0.98g得た。
【0062】
(製造例2)発芽紫麦種子の50%エタノール抽出物の製造
発芽紫麦種子10gに200mLの50%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して発芽紫麦種子の50%エタノール抽出物を1.00g得た。
【0063】
(製造例3)発芽紫麦種子の100%エタノール抽出物の製造
発芽紫麦種子10gに200mLのエタノールを加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して発芽紫麦種子の100%エタノール抽出物を0.24g得た。
【0064】
(製造例4)セイヨウミザクラ種子の熱水抽出物の製造
セイヨウミザクラ種子10gに200mLの精製水を加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してセイヨウミザクラ種子の熱水抽出物を1.33g得た。
【0065】
(製造例5)セイヨウミザクラ種子の50%エタノール抽出物の製造
セイヨウミザクラ種子10gに200mLの50%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してセイヨウミザクラ種子の50%エタノール抽出物を1.50g得た。
【0066】
(製造例6)セイヨウミザクラ種子の100%エタノール抽出物の製造
セイヨウミザクラ種子10gに200mLのエタノールを加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してセイヨウミザクラ種子の100%エタノール抽出物を0.29g得た。
【0067】
(製造例7)発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物の熱水抽出物の製造
発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物10gに200mLの精製水を加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の熱水抽出物を1.77g得た。
【0068】
(製造例8)発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物の50%エタノール抽出物の調製
発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物10gに200mLの50%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の50%エタノール抽出物を1.21g得た。
【0069】
(製造例9)発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物の100%エタノール抽出物の製造
発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物10gに200mLのエタノールを加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の100%エタノール抽出物を0.52g得た。
【0070】
(比較製造例1)未発芽紫麦種子の熱水抽出物の製造
未発芽紫麦種子10gに200mLの精製水を加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未発芽紫麦種子の熱水抽出物を0.90g得た。
【0071】
(比較製造例2)未発芽紫麦種子の50%エタノール抽出物の製造
未発芽紫麦種子10gに200mLの50%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未発芽紫麦種子の50%エタノール抽出物を1.12g得た。
【0072】
(比較製造例3)未発芽紫麦種子の100%エタノール抽出物の製造
未発芽紫麦種子10gに200mLのエタノールを加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未発芽紫麦種子の100%エタノール抽出物を0.33g得た。
【0073】
(比較製造例4)未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物の熱水抽出物の製造
未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物10gに200mLの精製水を加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の熱水抽出物を2.21g得た。
【0074】
(比較製造例5)未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物の50%エタノール抽出物の製造
未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物10gに200mLの50%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の50%エタノール抽出物を1.11g得た。
【0075】
(比較製造例6)未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物の100%エタノール抽出物の製造
未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の等量混合物10gに200mLのエタノールを加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子の混合物の100%エタノール抽出物を0.64g得た。
【0076】
[実施例2]真皮幹細胞の分化促進効果の評価
実施例1で製造した抽出物(製造例1~9、比較製造例1~6)の真皮幹細胞に対する分化促進効果の評価実験を次のとおり行った。
【0077】
真皮由来細胞として市販のヒト皮膚線維芽細胞(東洋紡社製)を用い、特開2017-093383号公報に記載の方法に準じて、NGFR(nerve growth factor receptor:Genbank number: Nucleotide NM_002507.3; Protein NP_002498.1)を指標として真皮幹細胞を分離した。15%FBS含有αMEM培地(Thermo社製)で維持した真皮幹細胞を2×104個となるように24ウェルプレートに(Falcon社製)に播種した。24時間培養し、細胞が生着した後、各抽出物の最終濃度が100μg/mLとなるように添加し、72時間培養した。培養終了後、4%PFA/PBSで固定し、0.2%Triron-X-100(wako社製)/PBSを用いて透過処理を行ったのち、真皮線維芽細胞のマーカータンパク質の抗体として、抗S100A4抗体、抗COL1A1抗体、抗αSMA抗体(いずれもNovus社製)、および蛍光標識2次抗体で処理し、免疫染色を行った。また、DAPI染色により個々の細胞の核を標識した。その後、蛍光顕微鏡及び画像解析ソフトウエア(ImageJ)を用いて、細胞あたりの各タンパク質の発現量(蛍光強度/細胞数)を算出した。なお、比較として、真皮幹細胞を、抽出物を添加しない培養液にて培養した細胞における各タンパク質発現量をコントロールとし、また、一般的に真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化誘導因子として使用されているTGFβ1を10ng/mL(Pepro Tech社製)添加した培養液にて培養した細胞における各タンパク質発現量を陽性コントロールとして設定した。被験物質未添加時(コントロール)のマーカータンパク質(S100A4、COL1A1、αSMA)の発現量を100%とし、これに対し、抽出物を添加して培養した細胞における同タンパク質(S100A4、COL1A1、αSMA)の相対発現量(%)の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示すように、発芽紫麦種子の抽出物(製造例1~3)は、真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化誘導因子として一般的に用いられているTGFβ1や、未発芽紫麦種子の抽出物(比較製造例1~3)に比べて、真皮幹細胞の分化促進効果が高かった。さらに発芽紫麦種子とセイヨウミザクラ種子を組み合わせた抽出物(製造例7~9)において、真皮幹細胞の分化促進効果について顕著な相乗効果が認められた。なお、セイヨウミザクラ種子の抽出物単独(製造例4~6)ではTGFβ1の分化促進効果より高い効果は得られず、組み合わせが未発芽紫麦種子であると、分化促進効果は単独よりは向上したが、顕著な相乗効果は得られなかった(比較製造例4~6)。
本発明の真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進剤は、生体内で又は生体外で、真皮幹細胞を効率的に真皮線維芽細胞に分化誘導させることができる。よって、本発明は、真皮幹細胞の機能低下や不全に起因する皮膚疾患や病態の治療、改善、及び予防するための化粧品や医薬品などの製造分野、移植材料の製造分野において利用できる。