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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093080
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】墨出し方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20220616BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20220616BHJP
   G01C 15/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G01C15/00 103B
G01C15/06 T
G01C15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206177
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】金本 章浩
(72)【発明者】
【氏名】堀江 和真
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 洋一
(57)【要約】
【課題】鉄筋トラス付デッキの床版施工に際して、墨出し方法の作業効率を改善する。
【解決手段】墨出し作業で用いるトータルステーションの反射プリズムの代わりに、鉄筋トラス付デッキに対して摩擦抵抗を有する接触層およびレーザー光の照射ターゲット層を表裏に有するターゲット板を準備する準備工程を経て、このターゲット板を鉄筋トラス付デッキに搭載してトータルステーションのレーザー光を照射する。その後、このターゲット板でレーザー光の照射スポットを視認する工程、照射スポットをターゲット板に設けた指標線を目安にしてターゲット板を鉄筋トラス付デッキ上で移動する工程、ターゲット板の縁に移動させた照射スポットの位置で墨出し位置を決定する工程を有し、このいずれかの工程が完了しない場合にターゲット板の準備工程に戻る工程を有する墨出し方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設前の躯体に配設した鉄筋トラス付きデッキと、この鉄筋トラス付きデッキを下側に配置したターゲット板と、このターゲット板に設けた指標線に向けてレーザー光を照射するレーザー測距手段を有する自動墨出し装置と、この自動墨出し装置で設定した墨出しポイントの位置情報を受け取る機能および前記墨出しポイントを指示する表示機能を有する携帯通信端末装置とを備え、前記指標線の端部が前記墨出しポイントに特定される墨出しシステムを用いた墨出し方法において、
前記レーザー光を受光するターゲット層がターゲット基体の上側面に配置されて且つ前記鉄筋トラス付きデッキの上側と接する接触層が前記ターゲット基体の下側面に配置され、前記ターゲット層と前記ターゲット基体と前記接触層とを一体に積層した前記ターゲット板の準備工程、
前記レーザー光が前記ターゲット板の前記指標線に照射スポットを形成する照射スポット形成工程、
前記照射スポットが前記ターゲット板の縁部まで前記指標線に従って移動し、前記縁部の直下を前記墨出しポイントとして指定する墨出しポイント決定工程、
前記照射スポット形成工程あるいは前記墨出しポイント決定工程が完了しない場合には、前記ターゲット板の準備工程に戻るための帰還工程、
を有することを特徴とする墨出し方法。
【請求項2】
コンクリート打設前の鉄筋トラス付きデッキを配設した躯体を施工するときに適用する、レーザー測距手段を含む自動墨出し装置を用いた墨出し方法において、
レーザー光を受光するターゲット層を上側に且つターゲット基体を下側に配置して、前記ターゲット層と前記ターゲット基体とを一体にして、さらに、前記鉄筋トラス付きデッキと接する接触層を前記ターゲット基体の下側面で一体にしたターゲット板の準備工程、
前記鉄筋トラス付きデッキの上側に在って且つこの上側に沿って移動可能な前記ターゲット板の下面を、前記鉄筋トラス付きデッキに搭載する前記ターゲット板の搭載工程、
前記レーザー光を前記ターゲット板の上面に照射して生成されるレーザーの照射スポットを、前記ターゲット板に設けた指標線に合わせる前記照射スポットの視認工程、
前記自動墨出し装置と通信する携帯情報端末装置あるいは前記自動墨出し装置で指定した墨出し位置を確認する墨出しポイントの確認工程、
前記鉄筋トラス付きデッキの上側に在って且つその上側と平行状態にして、前記ターゲット板の前記照射スポットが前記指標線に従って移動し、前記ターゲット板の縁部分に前記照射スポットを位置付けて停止する前記ターゲット板の停止工程、
前記墨出しポイントを前記鉄筋トラス付きデッキに表記するための筆記具が前記縁部分に接触している時に、前記ターゲット板が移動しない状態で前記指標線の前記縁部分の直下を前記墨出しポイントとして印付けを行う前記墨出し位置の決定工程、
そして、前記視認工程、前記確認工程、前記決定工程のうち、少なくとも一つの工程が完了できない場合に前記準備工程に戻るための帰還工程、
を有することを特徴とする墨出し方法。
【請求項3】
ターゲット板の準備工程において、不透明の白色アクリル材を前記ターゲット基体にして、そして、前記ターゲット層および前記接触層を養生テープで形成して、さらに、前記白色アクリル材と前記養生テープとを一体化する請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ターゲット板と前記鉄筋トラス付きデッキとの静止摩擦抵抗が、
前記ターゲット基体の下側面と前記鉄筋トラス付きデッキとの静止摩擦抵抗の場合よりも大きな抵抗になるように前記ターゲット基体の下側面を凹凸のある粗面層、あるいは
前記養生テープと前記鉄筋トラス付きデッキとの静止摩擦抵抗の場合よりも大きな抵抗になるように前記養生テープと異なる粘着テープ、
を準備して、
前記ターゲット板の準備工程で、請求項3で特定した前記ターゲット板に設ける前記接触層として用いた前記養生テープの代わりに、前記凹凸のある粗面層に置き換え、あるいは、前記養生テープと異なる別の前記粘着テープに置き換えて、
前記白色アクリル材および前記ターゲット層で用いる養生テープと、前記の置き換えた前記凹凸のある粗面層あるいは前記の異なる別の前記粘着テープと、を一体にする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記白色アクリル材と異なる光反射率のターゲット基体を準備して、前記ターゲット板を構成する前記白色アクリル材から、前記の異なる光反射率のターゲット基体に置き換える請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、前記照射スポットは、前記レーザー光が分光反射する前記ターゲット層で、作業者の視野角を拡げるための散乱光を生成する請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記自動墨出し装置で使用されるレーザー光が緑色レーザーの場合に、前記ターゲット板の準備工程において、緑色に着色されたポリエチレンを基材とする前記ターゲット層が形成される請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記自動墨出し装置で使用されるレーザー光の色に合う分光特性を有する前記ターゲット層を準備して、前記レーザー光の前記散乱光を生成する請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築躯体の墨出し方法に関して、特に、鉄筋トラス付きデッキを利用した躯体の墨出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天井や床スラブの施工に際し、上・下端筋(弦材)、ラチス材筋および底板デッキが結合された鉄筋トラス付きデッキをコンクリート打設前に配設する工法が使われている。この工法は、鉄筋トラス付捨型枠床版工法とも呼称される配筋の手間を取らない捨型枠であり、工期短縮の工法として知られている。
【0003】
この工法では、鉄筋コンクリート床の配管等のための配管用張り型のスリーブ、および天井から配管を吊り下げるためのボルトを固定するインサート等の施工をコンクリート打設前に行う。そこで、これらの作業の前には、そのスリーブやインサートの位置を決める墨出しを行う必要がある。
【0004】
古くから直尺、巻尺、コンベックスルール等を用いて測設点を定める墨出し作業を行っているが、近年はレーザー測量器として距離を測る光波測距儀および角度を測るセオドライトを組み合わせた自動墨出し装置のトータルステーションを用いた作業が採用されている。このトータルステーションを用いる鉄筋トラス付きデッキの墨出し作業は、初めに、作業者が手持ちするタブレットの携帯通信端末装置で誘導されて、同じく手持ちのレーザー再帰反射用プリズムを鉄筋トラス付きデッキの鉄筋間のすきまに立てる。このプリズムの使用によって所定のレーザー光をトータルステーションに戻すことだけではなく、鉄筋によるレーザー遮光の妨害を防ぐことにもなる。そして墨出し位置の決定に際して、作業者はプリズム位置に当たる床鋼板のデッキプレートに筆記具で印を付けて墨出し作業を完了させる。
【0005】
鉄筋トラス付きデッキと異なり、フロア全面が平坦な床を施工する場合は、コンベックス法であっても、あるいはトータルステーションを用いた方法であっても、作業者は墨出し作業のみに注意を払っていればよいが、鉄筋トラス付きデッキ現場では従来以上に作業上の注意が必要になる。
【0006】
図11は、鉄筋トラス付きデッキの床構造における従来のトータルステーションを用いた墨出し作業の様子である。この墨出し作業では、作業者(4)が鉄筋トラス付きデッキ(1)に備えたデッキプレート(2)に再帰反射用プリズム(3)を鉛直に立てて、ハンドグリップ(5)を手持ちしながらピンポール石突き(6)を指示点(7)に立てて墨出しを行っている。この墨出し作業では、作業者は(ア)約100mm以上の高さ幅で構成された鉄筋弦材(8、9、10)を避けたプリズム(3)の位置決め、(イ)このプリズム(3)を鉛直に保つ整準の保持、(ウ)鉄筋弦材(8、9、10)の間に自身の足が捕られる転倒リスク、および(エ)鉄筋弦材(8、9、10)で破損しないように気を使いながら携帯通信端末装置(図省略)の操作や画面確認等に注意して作業をしている。この作業ではコンベックス法に比べるとプリズムの取扱注意が増えるが、それでも、古くから行われてきたコンベックス利用の方法に比べれば、プリズム使用の墨出し法は作業効率が良い。
【0007】
鉄筋先組み床の施工現場における墨出しの効率をまとめた例として、表1に示すようにコンベックス法とプリズム法との作業効率の比較例がある。この作業効率の評価は、作業エリア内の墨出しポイントを一人の作業者が一時間に行う墨出し位置数(点数)の対比で可能になる。表1に示す初見現場の工場内墨出し作業(T現場)の場合、古くからの方法であるコンベックス利用で平均6.5点(墨出しポイント箇所数)であるが、プリズム使用では平均17.4点になる。この結果から、多くの点数を得るプリズム使用は効率の良い作業といえる。一方、高層ビルの類似フロアで同じ作業を繰り返した場合は、作業に馴れたコンベックス法でもプリズム法とおおむね同等の効率になる例も見られる。しかし、手間のかかる施工は初見現場になるので、作業性の良いプリズム法は利用価値の高い墨出し方法といえる。
【0008】
【表1】
【0009】
従来技術では、トータルステーションのシステムを用いて鉄筋トラス付きデッキを用いない平坦な床であっても、1分間に1点程度が墨出し点数として限界(特許文献1、段落0082)とされている。そこで、鉄筋トラス付きデッキのような墨出し作業のやりにくい条件を考慮すると、表1に示す実測した墨出し点数の最低6.5点、平均27~36点、最高44点は、従来周知の技術から乖離した低い数値というものでもない。
【0010】
ところで、鉄筋トラス付きデッキの施工現場でレーザー墨出しを行う従来技術としては、特許文献2に例示されるように、鉄筋トラス付きデッキを天井に配設する場合に適用する方法が知られている。この工法は鉄筋トラス付きデッキの上に搭載したアクリル板を下層階からレーザーターゲットにする墨出し方法である。しかし、この工法ではフロア内の床面に墨出しをおこなえない。そこで、従来からコンベックスやプリズム利用の作業を継続することになるが、鉄筋トラス付きデッキの施工現場では上記(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)の注意が必要になる。特に(ア)、(イ)のプリズム取扱に気を取られる作業者は(ウ)の転倒を起こし易く、(ア)、(イ)が作業効率の隘路になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-257223号公報
【特許文献2】特開2001-272232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、現状はコンベックス法およびプリズム法のいずれも利用されている。しかしながら、コンベックス法のみならずプリズム法の作業効率よりも優れた、さらに作業効率を向上させる画期的な作業方法を見いだすことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため作業効率の飛躍的改善を求めて、本発明はレーザー光のターゲットになる新規な構造を持つターゲット材をこのトータルステーションのシステムに組み込み、従来にない墨出しシステムを用いた新しい墨出し方法を提供する。この墨出し方法は、概略すると、ターゲット板で拡散反射させた高輝度のレーザースポットを生成して、ターゲット材に設けた指標線を用いて墨出し位置を特定することを特徴とする方法である。なお、本発明ではトータルステーションを用いて新たなターゲット材を組み込む新しいシステムで用いる工法として説明するが、トータルステーションと呼称される装置に限るものではなく、レーザー測距手段を含めた自動墨出し装置を含むシステムであれば適用可能な墨出し方法である。
【0014】
第1の請求項に係る本発明は、コンクリート打設前の躯体に配設した鉄筋トラス付きデッキと、この鉄筋トラス付きデッキを下側に配置したターゲット板と、このターゲット板に設けた指標線に向けてレーザー光を照射するレーザー測距手段を有する自動墨出し装置と、この自動墨出し装置で設定した墨出しポイントの位置情報を受け取る機能および前記墨出しポイントを指示する表示機能を有する携帯通信端末装置とを備え、前記指標線の端部が前記墨出しポイントに特定される墨出しシステムを用いた墨出し方法において、
前記レーザー光を受光するターゲット層がターゲット基体の上側面に配置されて且つ前記鉄筋トラス付きデッキの上側と接する接触層が前記ターゲット基体の下側面に配置され、前記ターゲット層と前記ターゲット基体と前記接触層とを一体に積層した前記ターゲット板の準備工程、
前記レーザー光が前記ターゲット板の前記指標線に照射スポットを形成する照射スポット形成工程、
前記照射スポットが前記ターゲット板の縁部まで前記指標線に従って移動し、前記縁部の直下を前記墨出しポイントとして指定する墨出しポイント決定工程、
前記照射スポット形成工程あるいは前記墨出しポイント決定工程が完了しない場合には、前記ターゲット板の準備工程に戻るための帰還工程、
を有することを特徴とする墨出し方法、である。
【0015】
第2の請求項に係る本発明は、コンクリート打設前の鉄筋トラス付きデッキを配設した躯体を施工するときに適用する、レーザー測距手段を含む自動墨出し装置を用いた墨出し方法において、
レーザー光を受光するターゲット層を上側に且つターゲット基体を下側に配置して、前記ターゲット層と前記ターゲット基体とを一体にして、さらに、前記鉄筋トラス付きデッキと接する接触層を前記ターゲット基体の下側面で一体にしたターゲット板の準備工程、
前記鉄筋トラス付きデッキの上側に在って且つこの上側に沿って移動可能な前記ターゲット板の下面を、前記鉄筋トラス付きデッキに搭載する前記ターゲット板の搭載工程、
前記レーザー光を前記ターゲット板の上面に照射して生成されるレーザーの照射スポットを、前記ターゲット板に設けた指標線に合わせる前記照射スポットの視認工程、
前記自動墨出し装置と通信する携帯情報端末装置あるいは前記自動墨出し装置で指定した墨出し位置を確認する墨出しポイントの確認工程、
前記鉄筋トラス付きデッキの上側に在って且つその上側と平行状態にして、前記ターゲット板の前記照射スポットが前記指標線に従って移動し、前記ターゲット板の縁部分に前記照射スポットを位置付けて停止する前記ターゲット板の停止工程、
前記墨出しポイントを前記鉄筋トラス付きデッキに表記するための筆記具が前記縁部分に接触している時に、前記ターゲット板が移動しない状態で前記指標線の前記縁部分の直下を前記墨出しポイントとして印付けを行う前記墨出し位置の決定工程、
そして、前記視認工程、前記確認工程、前記決定工程のうち、少なくとも一つの工程が完了できない場合に前記準備工程に戻るための帰還工程、
を有することを特徴とする墨出し方法、である。
【0016】
第3の請求項に係る本発明は、ターゲット板の準備工程において、不透明の白色アクリル材を前記ターゲット基体にして、そして、前記ターゲット層および前記接触層を養生テープで形成して、さらに、前記白色アクリル材と前記養生テープとを一体化する請求項1又は請求項2に記載の方法、である。
【0017】
第4の請求項に係る本発明は、前記ターゲット板と前記鉄筋トラス付きデッキとの静止摩擦抵抗が、
前記ターゲット基体の下側面と前記鉄筋トラス付きデッキとの静止摩擦抵抗の場合よりも大きな抵抗になるように前記ターゲット基体の下側面を凹凸のある粗面層、あるいは
前記養生テープと前記鉄筋トラス付きデッキとの静止摩擦抵抗の場合よりも大きな抵抗になるように前記養生テープと異なる粘着テープ、
を準備して、
前記ターゲット板の準備工程で、請求項3で特定した前記ターゲット板に設ける前記接触層として用いた前記養生テープの代わりに、前記凹凸のある粗面層に置き換え、あるいは、前記養生テープと異なる別の前記粘着テープに置き換えて、
前記白色アクリル材および前記ターゲット層で用いる養生テープと、前記の置き換えた前記凹凸のある粗面層あるいは前記の異なる別の前記粘着テープと、を一体にする請求項3に記載の方法、である。
【0018】
第5の請求項に係る本発明は、前記白色アクリル材と異なる光反射率のターゲット基体を準備して、前記ターゲット板を構成する前記白色アクリル材から、前記の異なる光反射率のターゲット基体に置き換える請求項3又は請求項4に記載の方法、である。
【0019】
第6の請求項に係る本発明は、さらに、前記照射スポットは、前記レーザー光が分光反射する前記ターゲット層で、作業者の視野角を拡げるための散乱光を生成する請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法、である。
【0020】
第7の請求項に係る本発明は、さらに、前記自動墨出し装置で使用されるレーザー光が緑色レーザーの場合に、前記ターゲット板の準備工程において、緑色に着色されたポリエチレンを基材とする前記ターゲット層が形成される請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法、である。
【0021】
第8の請求項に係る本発明は、前記自動墨出し装置で使用されるレーザー光の色に合う分光特性を有する前記ターゲット層を準備して、前記レーザー光の前記散乱光を生成する請求項6に記載の方法、である。
【発明の効果】
【0022】
後述の実施例によれば、表2に示す墨出し個数96点が得られた。この値は表1に示すコンベックス法の44点や30点、あるいはプリズム法の35点、そしてまた、従来周知の1分間に1点が限界と言われる値を凌駕している。さらに述べると、従来方法を適用したT現場およびM現場の平均27点(表1)、あるいはM現場エリア1の平均40点やエリア1、2を含むM現場の平均36点に対して、本発明では2倍以上の墨出しポイント数が得られることを示している。そしてその結果、本発明は従来のコンベックス法やプリズム法では得ることのできない飛躍的に効率の良い作業性であることが明らかになった。
【0023】
請求項1に係る発明は、作業者の不安定な足場になる鉄筋トラス付きデッキの施工現場において、作業者が気を使う必要のあるプリズムを使用しないで効率の良い墨出し作業を提供する。本発明では、従来から使用に慣れているトータルステーションを使い、作業者が扱いに慣れているタブレット操作や画面確認作業を従来通りに利用できる。そのうえ、本発明ではレーザー光やターゲット層等の特性データを調べる必要もなく、施工現場で入手可能な材料を使用する方法であり、ターゲット板の容易な準備を可能にする。そこで、本発明は施工現場で即時に適用可能であり、前述の如く従来の工法に比べて飛躍的に作業効率の良い方法を提供できる。
【0024】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明と同じく鉄筋トラス付きデッキの施工現場において、本願発明を実施する作業手順に従うことで、作業者はレーザー光やターゲット層等の特性データを調べることもなく、施工現場で入手可能な材料を用いて本発明を実施できるので、作業者は従来の工法に比べ飛躍的に作業効率の良い方法を実施できる。
【0025】
請求項3に係る発明は、事前準備工程で標準的に実装するターゲット層、接触層およびターゲット基体を接着して一体化したターゲット板の具体的構成を特定するので、本発明をより実施の容易な工法として提供できる。
【0026】
請求項4に係る発明は、事前準備工程でターゲット板と鉄筋トラス付きデッキとの相性を良くする条件を特定することによって接触層をより選択的に拡げ、本発明をより実施の容易な工法として提供できる。
【0027】
請求項5に係る発明は、事前準備工程でターゲット基体の適用可能な構成範囲を広げることによって前記接触層の構成をより選択的に拡げ、本発明をより実施の容易な工法として提供する。
【0028】
請求項6に係る発明は、事前準備工程でターゲット層としての必要条件を具体的に明らかにして、ターゲット層の機能を特定することで本発明をより実施の容易な工法として提供する。
【0029】
請求項7に係る発明は、レーザー光として緑色レーザーを使用する前記自動墨出し装置におけるターゲット層に適用する標準的な材料を特定することで本発明をより実施の容易な工法として提供する。
【0030】
請求項8に係る発明は、事前準備工程で自動墨出し装置に組み込むための必要条件を具体的に明らかにして、ターゲット層に適用する材料の選定条件を特定することで本発明をより実施の容易な工法として提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例を示す工程フローチャートである。
図2】本発明で使用するターゲット板の概略図である。
図3図1に示す工程フローのステップS30を実施する様子を示す写真図である。
図4図1に示す工程フローのステップS61を実施する様子を示す写真図である。
図5】ターゲット板面のレーザースポットの説明図である。
図6図1に示す工程フローのステップS62を実施する様子を示す写真図である。
図7図1に示す工程フローのステップS63を実施する様子を示す写真図である。
図8図1に示す工程フローのステップS64を実施する様子を示す写真図である。
図9図1に示す工程フローのステップS67を実施する具体的な説明図である。
図10図1に示す工程フローのステップS67を実施する様子を示す写真図である。
図11】鉄筋トラス付きデッキでのプリズムを使用する従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。なお、本発明で用いる自動墨出し装置のトータルステーションは公知の測量機器であり、詳細な機器説明を省略する。そして、本発明は、現況のトータルステーションの利用に限るものでなく、測距光を利用してターゲットの座標を計測する装置を組み込むシステムであれば、この発明の墨出し方法の適用範囲になり得る。
【0033】
周知のトータルステーションは、望遠鏡および半導体レーザーでターゲットを視準する照射部およびその再帰反射光の受光部とからターゲットの位置座標を求め、墨出しポイントの指定位置を予め読み込んだデータと測距点との座標差を算出する測距・測角部と、その座標情報を出力する表示部と、その表示内容を作業者の携帯情報端末装置であるタブレットに表示させる送信部と、作業者が必要情報を入力する操作部と、測距・測角のための駆動制御部で本体装置を構成している。
【0034】
図1は、そのようなトータルステーションを用いたシステムの中で、本発明の墨出し方法の作業手順を表すフローチャートを示している。図1の上部フローでは墨出し作業のための事前準備工程を表し、下部フローでは具体的な墨出し作業工程を示している。まず事前準備工程は、図1の右上部にトータルステーションを用いた作業フロー工程を示し、図1の左上部にターゲットの準備フロー工程を示す。
【0035】
トータルステーションの準備工程は、トータルステーション(以下TSと略す)を施工現場に設置してシステムオン(ステップS10)で始まる。作業者が施工現場をTSで指定(ステップS12)すると、該当エリアが選択されて、墨出しすべき箇所のデータが呼び出されて表示される(ステップS13)。作業を始めるに当たり、施工現場の基準ポイント(ステップS14)の指定作業をおこない作業者は現場床面の基準位置を確認する(ステップS15)。
【0036】
ターゲットの準備工程は、鉄筋トラス付きデッキの鉄筋弦材(8、9、10)と平行が維持できる剛性を有し且つその鉄筋間のすきまに落ちない程度の大きさで、そして、作業者の扱い易い重さになるような図2に示すターゲット板(11)の基体(12)を選ぶ(ステップS20)。この基体として、作業者が扱い易く、デッキ搭載時に変形しない剛性のある材料としてアクリルを基体(12)とするターゲット板(11)が好適である。後述の工程で説明するが、作業者が墨出し点のマーキングを行うために、このアクリル材基体(12)の縁部分(13)はアクリル材(12)の平面に対して直角に製作してある(ステップS21)。
【0037】
ターゲット板の基体(12)として利用する不透明の白色アクリル材は、TSから照射されるレーザー光が測距機能を十分動作するように光反射性を有する材料として選んでいる。不透明の白色アクリル材は全光線反射率が約90%(JIS K7375附属書A参照)であり、この測距機能を動作させるうえで好適である。実施例で適用した製品はメタクリル酸メチルエステルのアクリル樹脂で連続キャスト製造材であり、三菱ケミカル株式会社製(商品名アクリライト(登録商標))を用いた。なお、このアクリル板のサイズは500mm×500mm×3mm厚さにして、作業者が手持ちして移動が容易なように扱い易い軽量の約1Kgfの重量であり、鉄筋トラス付きデッキに搭載して墨出し作業に支障の無いように剛性を有する平板である。
【0038】
ターゲット板(11)にはレーザー照射の目安のために指標線(14)が必要である。この指標線(14)は図2に示すようにアクリル板の略中心で交差する十字ラインであり、ターゲット基体(12)に直交溝状に設ける、または、封入レンズ入り反射テープの貼り付けることや、あるいは、次の工程(ステップS24)で取り付ける養生テープの表面に直線状に油性や水性のフェルトペンでペイントマーキング付けてもよい。本発明の実施例では簡易的に筆記具で作成した(ステップS22)。
【0039】
ターゲット基体(12)にはTSから照射されるレーザーを受光するターゲット層(15)を貼り付けてある。このターゲット層(15)は作業者にレーザー照射位置を確認させるためのものであり、そのためにはターゲット層(15)がレーザー光の散乱反射、透過および再帰反射の作用を起こす必要がある。反射光には、概ね半球状に分布する散乱反射光と比較して強度の高い正反射光、および作業者に視認し易くなる大きな視野角を与える散乱反射光がある。また、ターゲット層の透過光は、ターゲット層(15)での吸収光およびターゲット基体(12)での再反射光になるが、ターゲット層(15)の分光特性を決める顔料・染料等の着色剤の影響を受ける。ここで、ターゲット基体(12)の反射光は、ターゲット層に含まれる非晶・結晶性構造および着色剤でさらに散乱して、ターゲット層表面のレーザー照射位置周辺に現れる低輝度レーザースポット(20)および、ターゲット層表面で直接反射して且つ低輝度レーザースポット(20)と相乗する高輝度のレーザースポット(22)になって、図5に示すように作業者に視認されることになる。この低輝度・高輝度レーザースポットは概ね直径数mm~十数mmであるが、この大きさはターゲット層およびターゲット基体の分光反射・透過特性と、トータルステーションからのレーザー強度およびコヒーレント性により異なる。
【0040】
ステップS24で用いるターゲット層としては養生テープを使用する。養生テープは建築現場で多用される工業用粘着テープの一種である。実施例で適用した製品はポリエチレンクロス繊維を縦横クロス状に0.16mm積層してアクリル系接着剤を含有するダイヤテックス株式会社製(商品名パイオランテープ、型式Y-09-GR)である。
【0041】
ところで、養生テープはポリエチレンクロスを基材として、粘着層に添加剤の混入が容易で接着調整に適したアクリル系樹脂の使用例が多いが、これに限定されていない。これは養生テープが主に一時的な仮作業として使用されるので、引張・破断の機械的強度、粘着性、扱い易さの剛軟性、耐水や暴露の耐久性等を製品として管理されていれば十分である。そこで、養生テープの製品管理は、価格等の影響を受け易すく永続的に保証されているものではない。この養生テープに類似した他の素材としては、紙質のクラフトテープ、ポリプロピレン系のOPPテープ、ポリスチレン、PET繊維のクロステープ、PET材にゴム系接着剤を用いたテープ、レーヨン・スフ系のクロステープ、塩化ビニール系の養生シート等、ポリエチレンを含むポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系の多種類の繊維や不織布および接着剤が存在しており、これらの素材は墨出し作業に限るものでない目的用途に応じてテープメーカーで任意に選ばれている。
【0042】
このように養生テープに限らず、養生シートやマスキングテープを含めた工業用テープに適用され得る素材の種類が多い上に、施工現場で都合が良いように各種の色分けも多様に存在する。着色は周知のように顔料・染料を含む着色剤の添加であるが、前述した散乱・透過光はこの着色剤の影響で分光散乱・分光透過になる。そのうえ前述の各種材料そのものの分光特性も含まれるので、ターゲット層の分光特性を墨出し作業現場で掌握することは困難である。
【0043】
ターゲット層(15)に必要な機能はTSから照射されるレーザー光を、作業者に視認し易いように適度な光強度で反射させることである。ここで適度な強度とする意味は、TSの墨出しシステムに適合させるのみではない。周知のようにレーザー光は作業者の健康を害する危険性があり、作業者には高強度のレーザー光を受光させてはならないが、TSはレーザークラスのレベル3(JIS C6802)が使用されているものもあり、正反射光を少なくなるように、拡散反射光や透過光に振り向ける考慮も必要である。このために、ステップS241、242は(A)TSの動作を維持しながら(B)作業者の許容被ばく量以下の安全性を含め且つ(C)視認性の良いターゲット層を取り付ける工程にも該当する。
【0044】
そして、高輝度の照射スポット(22)を明瞭にする正反射光と視野角を拡げる拡散反射光とは、ターゲット層(15)のレーザー照射面の凹凸粗さに影響されるので作業者がそのバランスを施工現場で取るようにターゲット層(15)を適宜変更する工程がステップS241に含まれる。
【0045】
さらに、ターゲット層(15)の選定でこれらの(A)、(B)および(C)の条件を満たすことが困難な場合には、ステップS242でターゲット基体(12)を選び直す工程として追加される。例えばターゲット基体(12)の反射率を下げる必要がある場合は、白色アクリル基体表面に養生テープを貼る前に面を粗くする手段、反射率の低い乳半色調アクリル板に代えてレーザー光量をターゲット板から通過させる手段、あるいは、反射光量不足の改善のためにターゲット基体の反射率を上げる必要がある場合は、白色アクリル基体の代わりに正反射型の研磨金属を利用する手段等、いずれもTSの動作に支障を与えない範囲で変更する。すなわち、実施例で説明したアクリル板は、これに限るものでなく、アクリル板と異なる反射率や透過率の基体を用いて、図1に記載するステップS20で代えることができる。
【0046】
さらにまた、仮に反射性の高い白色アクリル板が施工現場で入手できず、透過性の高い乳半・透明アクリル板を利用する場合には、後述する接触層に反射性のある素材をレーザー照射側の裏面に貼り付けるとアクリル材の内部拡散反射が起きるので、アクリル側面からレーザー光の照射を確かめる手段も取り得る。
【0047】
前述のようにターゲット層(15)およびターゲット基体(12)は種々の組み合わせが可能であるが、どのような組み合わせにするかは後述の工程で決定される。ここで、本発明の実施例で適用した構造の概略を改めてまとめると、本発明で用いる養生テープは、屋内建設現場の仮止め作業で多用する市販品であり、ターゲット基板の上下両面に設けるように貼り付けられる準備工程でターゲット板を用意する。なお、この両面貼り付けはターゲット板の裏表区別なく、すなわち、ターゲット板の上面および下面の区別なく、レーザースポットの視認用の表面および、後述するが、鉄筋トラス付きデッキ上側での摩擦力を生成するために有効である。そしてこの養生テープは、主にポリエチレンを基材とするクロステープであり、屋内利用で多い緑色クロスが緑色レーザー波長(波長532nm)の分光散乱に好適であることに基づいている。これは図4(ステップS61)、図7(ステップS63)に示すように作業者が容易に視認できる程度の視野角の広さを提供している。養生テープは粘着性や機械的特性を各製造メーカーが管理しているが、光学特性についての規定がないので本発明の工程ステップS61~S65で確認する必要がある。これらの点については後述の関連段落で詳述する。
【0048】
工程S24で仮置きしたターゲット層(15)およびターゲット基体(12)を有するターゲット板(11)は、図3の写真図に示すように鉄筋トラス付きデッキ(1)に搭載(ステップS30)されてTSを含むシステムに組み込む。初めに墨出し現場の基準点で基準高さをTSで設定する(ステップS16)。これで墨出し作業のセットアップ(ステップS17)で作業準備は完了する。
【0049】
墨出し作業の開始に当たり、タブレット画面で第1個目の墨出しポイントを指定する(ステップS18)。ここで図4の写真図に示すようにレーザー光をターゲット板に照射し、ターゲット板(11)にレーザー光が照射されていることを確認する(ステップS61)。この照射の確認は図5に示す高輝度レーザースポット(22)を視認できればよい。ここで視認できたら、ターゲット板(11)の指標線(14)に高輝度レーザースポット(22)を合致させるようにしてターゲット板(11)を鉄筋トラス付きデッキ(1)の上に搭載する(ステップS62)。もしこの視認ができない場合はターゲット板の準備工程(ステップS24)に戻る帰還工程(ステップS70)に入り、ステップS24からやり直すことになる。
【0050】
TSで用いる半導体レーザーは長波長域(600nm以上)の赤色レーザーや中波長域(500~600nm)の緑色レーザーが使用されているが、本発明で構成するシステムでは比視感度に優れている緑色レーザー(532nm)を用いることが望ましい。この緑色レーザーを用いた場合、高輝度レーザースポットを形成するためには緑色の発色をするように緑色の分光反射をするターゲット層としておく必要がある。例えば、緑色レーザー光を赤色分光反射体に照射しても高い輝度は得られないので作業者に視認し難い状態になる。したがって、前述のターゲット層の基材は各種選択可能としても、TSで用いる半導体レーザーの色の波長に合う分光特性を有する顔料や染料を有するターゲット層が視認し易い散乱光として好適である。
【0051】
緑色レーザーを用いたTSを利用する場合は、ターゲット層は無機系の酸化クロム、水酸化クロム、珪酸塩鉱緑土や有機系のフタロシアニングリーン含有のポリエチレン基材が好適であるが、顔料・染料には種々のものがある。前述したとおり、養生テープは光学部品でないので、その製造メーカーは機械的強度や粘着性の管理をするとしても光学的特性管理を行なわない。そこで、同一メーカー且つ同一型番の養生テープを使用したとしても、光学的特性の保証はなく、したがって、本発明の墨出しシステムを組む場合、図5に示す高輝度レーザースポット(22)の形成工程、すなわちステップS61のレーザー照射スポットの視認工程が不十分な場合は、準備工程で仕上げたターゲット板の見直しが必要になる。
【0052】
例えば、低輝度反射スポットの範囲が狭い、あるいは拡散反射光量の不足で視野角が狭く視認が困難な場合は、ターゲット基体を高反射率にする金属板の利用、ターゲット層の素材を染料系着色剤の添加物含有材料に選定し直す、ターゲット層の表面クロス繊維凹凸量の多い素材に選定し直す、等で拡散反射光量を多くする。逆に高輝度スポットの強度が過大の場合は、ターゲット基体表面を粗くすることで拡散反射面を拡げる、ターゲット基体を透過性の高い透明プラスチックを利用する、吸収性の高い木材等の低反射材に選定し直し、あるいはターゲット層に分光特性の異なる青色材に代えたり、またはヘイズ値の高い基材に選定し直したりする等で正反射量を減らす手段を選ぶ必要がある。
【0053】
また作業環境・条件においても視認性が変わるので作業現場に応じたターゲット層の適宜選択も取りえる。例えば、(一)薄暗い作業現場でのピーク比視感度の短波長化、(二)レーザー光ターゲット板低入射角で短波長化、(三)環境低温度条件での半導体レーザー出力レベル低下および発振短波長化、など作業者の個人差、作業の癖、あるいは使用するトータルステーションの違い等も含めてターゲット層の選択を考慮してもよい。
【0054】
高輝度レーザースポット(22)が視認でき、ステップS62(図6)に進んだ場合は、一方の指標線(14)を目安にしてターゲット板(11)を鉄筋トラス付きデッキ(1)の上に搭載して、指標線(14)とレーザースポット(20、22)とを合わせた状態から、そのまま鉄筋トラス付きデッキ(1)の上面でターゲット板(11)を平行に摺動させる(ステップS63、図7)。この指標線(14)に沿う移動は、デッキ面法線に従ってレーザー光軌跡をターゲット板面に写像することになる。
【0055】
そして、指標線(14)の縁部分(13)と高輝度レーザースポット(22)とが一致した所で、ターゲット板(11)の摺動を停止する(ステップS64、図8)。この時、作業者はタブレットで墨出し位置の確定表示を確認する(ステップS65)。ここで確認できたら、ステップS66に進む。仮に確定表示にならない場合はシステム動作に不具合があることを意味するので再びステップS24に戻る帰還工程(ステップS71)に入る。
【0056】
次に、鉄筋トラス付きデッキ(1)の底板プレート(2)に墨出しの印付け(ステップS67)を図9図10に示す作業に入るが、このときターゲット板(11)が鉄筋トラス付きデッキ(1)に対して摺動してしまう場合は、ターゲット板(11)の接触層(24)と鉄筋トラス付きデッキ(1)との静止摩擦抵抗が印付け筆記具(26)の押圧力より低いことになるので、再びステップS24に戻る帰還工程(ステップS72)に入る。
【0057】
すなわち、この方法での最後のチェック作業になるマーキング筆記具(26)によるターゲット板(11)のずれのチェック工程(ステップS66)を行う。ずれが発生しなければステップS67を介して第1ポイントの墨出し作業が完了する(ステップS68)。この際に、筆記具はターゲット板(11)との直角を維持するために、ターゲット板(11)の平面を基準にした曲尺を利用してもよい。
【0058】
ステップS67工程はターゲット板(11)の外周端を利用しているが、この外周端の利用に限るものではなく、例えばターゲット板(11)の準備工程で指標線の十字交点にマーキング用穴を開けておき、その穴をターゲット板(11)の縁部としてマーキングに利用する手段も可能である。すなわち、ターゲット板(11)の縁は板の外周に限られたものではなく、筆記具(26)のガイドとして機能する板エッジであれば利用できる。
【0059】
ステップS66の工程でターゲット板(11)が前述の如くマーキング筆記の際に移動してしまう場合は、接触層(24)と鉄筋トラス付きデッキ(1)との静止摩擦抵抗を大きくする必要があるが、通常は前記の養生テープを利用することで、このずれを生じさせない程度の静止摩擦抵抗を与えることができる。これは鉄との摩擦係数が低いポリエチレンを主に用いる養生テープを用いたとしても、養生テープは縦・横繊維をクロスさせた凹凸表面構造であり、鉄筋弦材との摩擦抵抗が大きく取れることによる。それでも滑り易い場合にはゴム材を利用してもよい。いずれにしても図1のフローチャートに示すステップS24の工程でターゲット板(11)を準備することになる。
【0060】
判定工程のステップS61、ステップS65、ステップS66で全てが完了して第1墨出しポイントが確定(ステップS68)後は、ステップS18から次の墨出し点(第2墨出しポイント)の作業を続けることになる(ステップS80)。通常、図1のフローチャートに従う繰り返し作業中は、温度、明るさ等の作業環境の急変がない限り、ステップS24に戻ることがなく、ステップS18~S68を繰り返すことになるので、同じターゲット板(11)を利用できる。
【0061】
表2はステップS24工程を繰り返すことなく、1回のみの工程を経て図1のフローチャートに示す作業で行った墨出し点数を、従来例と比較してまとめたものである。この表2から、墨出し環境が同じ現場エリア1で対比すると、最少35点~最多44点のバラツキがあるが平均値40点の従来技術に対して、本発明の墨出し点数の96点は従来技術より2倍以上の墨出し点数になる。この結果から本発明は作業効率を倍速化できるので、本発明の作業効率は従来技術に比べ優れた墨出し方法を提供できることが明らかになった。
【0062】
【表2】


【0063】
本発明の実施例では、主に緑色レーザー光を発射するレーザー測距儀を含むTSシステムに組み込み可能な不透明白色アクリル板および緑色養生テープの組み合わせを主として説明しているが、これらの組み合わせに限られるものでないことも明らかにした。すなわち、本発明は、レーザー光に合わせた分光特性を有するレーザー光散乱反射性を有するターゲット層と、レーザー照射スポットの形成に作用するように反射光量を調整する光学特性を有するターゲット基体と、鉄筋トラス付きデッキとの摩擦力を有する接触層とを組み合わせるターゲット板を構成し、トータルステーションのような自動墨出し装置と組み合わせたシステムで墨出しを行なう方法である。したがって、前述のターゲット材料以外に、より多くの材料が利用可能であり、また本発明に適合し得る自動墨出し装置であれば、当然に利用可能であることは言うに及ばず、本発明は様々な実施形態が可能になる。すなわち、上述した実施形態及び実施例の材料の組み合わせは発明の一例を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、近年多く採用されている鉄筋トラス付捨型枠床版工法に好適且つ効率的な墨出し施工で利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・鉄筋トラス付きデッキ、
2・・・デッキプレート、
3・・・再帰反射用プリズム、
7・・・墨出し指示点、
11・・・ターゲット板、
12・・・ターゲット板のターゲット基体として使用する不透明の白色アクリル板、
13・・・ターゲット基体の縁、指標線の縁、
14・・・指標線、十字ライン、
15・・・ターゲット板のターゲット層として使用する養生テープ、
20・・・低輝度レーザースポット、
22・・・高輝度レーザースポット、
24・・・鉄筋トラス付きデッキと接するターゲット板の接触層として使用する養生テープ、
26・・・マーキング筆記具
図1
図2
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