(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093142
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】変性共重合体、ゴム組成物、樹脂組成物、タイヤ及び樹脂物品
(51)【国際特許分類】
C08F 8/00 20060101AFI20220616BHJP
C08F 236/04 20060101ALI20220616BHJP
C08F 210/00 20060101ALI20220616BHJP
C08F 212/00 20060101ALI20220616BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20220616BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220616BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F236/04
C08F210/00
C08F212/00
C08L15/00
C08K3/013
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206262
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】高野 重永
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA03
3D131AA04
3D131AA06
3D131AA07
3D131AA11
3D131AA14
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3D131BC39
4J002AC111
4J002DA036
4J002DJ016
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4J002GN01
4J100AA02Q
4J100AB02R
4J100AB03R
4J100AS02P
4J100CA05
4J100DA01
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4J100FA03
4J100FA19
4J100HB35
4J100HC69
4J100HC83
4J100JA29
4J100JA43
4J100JA57
4J100JA58
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】高い耐久性とともに、優れた低発熱性を発現し得る共重合体を提供する。
【解決手段】共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有し、ブチレン単位を有さない共重合体である変性共重合体であって、前記芳香族ビニル単位は、アルキルスチレン単位を含み、前記芳香族ビニル単位に、カルボニル部分(-C(=O)-)及びチオカルボニル部分(-C(=S)-)の少なくともいずれかを備える変性基が結合している、ことを特徴とする、変性共重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有し、ブチレン単位を有さない共重合体である変性共重合体であって、
前記芳香族ビニル単位は、アルキルスチレン単位を含み、
前記芳香族ビニル単位に、カルボニル部分(-C(=O)-)及びチオカルボニル部分(-C(=S)-)の少なくともいずれかを備える変性基が結合している、ことを特徴とする、変性共重合体。
【請求項2】
前記芳香族ビニル単位が、p-メチルスチレン単位を含む、請求項1に記載の変性共重合体。
【請求項3】
前記共役ジエン単位の割合が10mol%以上80mol%以下である、請求項1又は2に記載の変性共重合体。
【請求項4】
前記非共役オレフィン単位の割合が10mol%以上80mol%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の変性共重合体。
【請求項5】
前記芳香族ビニル単位の割合が0.1mol%以上20mol%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の変性共重合体。
【請求項6】
結晶化度が0.5%以上30%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の変性共重合体。
【請求項7】
前記変性基が、エステル結合(-C(=O)O-)及びジチオエステル結合(-C(=S)S-)の少なくともいずれかを備える、請求項1~6のいずれかに記載の変性共重合体。
【請求項8】
前記変性基が、-C(=O)OM、又は-C(=S)SM(Mは、アルカリ金属原子である)で表される基である、請求項7に記載の変性共重合体。
【請求項9】
前記変性基の割合が0.1質量%以上10.0質量%以下である、請求項1~8のいずれかに記載の変性共重合体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の変性共重合体を含むゴム成分を含有することを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項11】
更に充填剤を含有する、請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の変性共重合体を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【請求項14】
請求項12に記載の樹脂組成物を用いたことを特徴とする、樹脂物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性共重合体、ゴム組成物、樹脂組成物、タイヤ及び樹脂物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤ、コンベヤベルト、ゴムクローラ、ホース、防振装置に用いられる防振ゴム、免震装置に用いられる免震ゴムなどといったゴム製品には、耐久性が求められており、かかる要求を満足させるため、高い耐久性を有するゴム材料が用いられている。
【0003】
そのような高耐久性のゴム材料として、例えば、特許文献1には、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有する多元共重合体が開示されており、当該多元共重合体をゴム製品に用いることで、耐亀裂成長性等の耐久性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、上記の各種ゴム製品に対する要求性能は益々厳しいものとなっており、更なる性能として、低発熱性が求められるようになっている。しかし、上記特許文献1に記載される多元共重合体では、十分に対応できない場合があり、低発熱性の点では更なる改良が要望されている。
【0006】
そこで、本発明は、高い耐久性とともに、優れた低発熱性を発現し得る共重合体を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記共重合体を含むゴム組成物、樹脂組成物、タイヤ及び樹脂物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、所定の態様で変性させた共重合体、即ち変性共重合体が、低発熱性の向上をもたらすことを見出し、本発明をするに至った。
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明の共重合体は、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有し、ブチレン単位を有さない共重合体である変性共重合体であって、
前記芳香族ビニル単位は、アルキルスチレン単位を含み、
前記芳香族ビニル単位に、カルボニル部分(-C(=O)-)及びチオカルボニル部分(-C(=S)-)の少なくともいずれかを備える変性基が結合している、ことを特徴とする。
かかる本発明の変性共重合体は、高い耐久性とともに、優れた低発熱性を発現し得る。
【0010】
本発明の変性共重合体においては、前記芳香族ビニル単位が、p-メチルスチレン単位を含むことが好ましい。この場合、共重合体の充填剤との親和性をより向上させることができる。
【0011】
本発明の変性共重合体においては、前記共役ジエン単位の割合が10mol%以上80mol%以下であることが好ましい。この場合、伸びや強度を十分に向上させることができ、耐候性を向上させることができ、また、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。
【0012】
本発明の変性共重合体においては、前記非共役オレフィン単位の割合が10mol%以上80mol%以下であることが好ましい。この場合、組成物等の耐候性が向上し、破壊特性(特には、破断強度(Tb))が向上し、ゴム組成物等の高温での破壊特性(特には、破断伸び(Eb))が向上し、また、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。
【0013】
本発明の変性共重合体においては、前記芳香族ビニル単位の割合が0.1mol%以上20mol%以下であることが好ましい。この場合、ゴム組成物等の高温における破壊特性等の耐久性が向上し、また、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。
【0014】
本発明の変性共重合体は、結晶化度が0.5%以上30%以下であることが好ましい。この場合、耐亀裂性や強度が更に向上し、また、混練等の際の作業性が向上し、また、変性共重合体のタッキネスが向上する。
【0015】
本発明の変性共重合体においては、製造性の観点、及び低発熱性をより効果的に向上させる観点から、前記変性基が、エステル結合(-C(=O)O-)及びジチオエステル結合(-C(=S)S-)の少なくともいずれかを備えることが好ましい。
【0016】
本発明の変性共重合体においては、製造性の観点、及び低発熱性をより効果的に向上させる観点から、前記変性基が、-C(=O)OM、又は-C(=S)SM(Mは、アルカリ金属原子である)で表される基であることが好ましい。
【0017】
本発明の変性共重合体は、前記変性基の割合が0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。この場合、親和性が十分に高まり、高い耐久性とともに優れた低発熱性をより確実に発現することができ、また変性基同士の反応によるゲル化を十分に抑制することができる。
【0018】
本発明のゴム組成物は、上述した変性共重合体を含むゴム成分を含有することを特徴とする。かかる本発明のゴム組成物は、耐久性が高く、低発熱性に優れる。
【0019】
本発明のゴム組成物は、更に充填剤を含有することが好ましい。この場合、耐久性、補強性等を一層向上させることができる。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、上述した変性共重合体を含有することを特徴とする。変性共重合体と、他の樹脂成分と、を組み合わせることにより、該他の樹脂成分が元来有する耐久性、耐衝撃性等の諸性能が向上する。
【0021】
本発明のタイヤは、上述したゴム組成物を用いたことを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、高耐久性とともに低発熱性を有する。
【0022】
本発明の樹脂物品は、上述した樹脂組成物を用いたことを特徴とする。かかる本発明の樹脂物品は、高耐久性とともに低発熱性を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い耐久性とともに、優れた低発熱性を発現し得る共重合体を提供することができる。
また、本発明によれば、上記共重合体を含むゴム組成物、樹脂組成物、タイヤ及び樹脂物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0025】
(変性共重合体)
本発明の一実施形態の変性共重合体(以下、「本実施形態の変性共重合体」と称することがある。)は、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有し、ブチレン単位を有さない共重合体であって、上記芳香族ビニル単位は、アルキルスチレン単位を含み、上記芳香族ビニル単位に、カルボニル部分(-C(=O)-)及びチオカルボニル部分(-C(=S)-)の少なくともいずれかを備える変性基が結合している、ことを一特徴とする。
【0026】
本実施形態の変性共重合体は、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有する共重合体のポリマー鎖に、所定の変性基を結合させたものである。従来の共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有する共重合体は、高耐久性を発現し得るものであったが、特にゴム組成物に用いた場合には、該ゴム組成物に含まれるカーボンブラック、シリカ等の充填剤との親和性に関連して、低発熱性に対する性能を一層向上させる要求特性があった。これに対し、本実施形態においては、上記共重合体のポリマー鎖に、充填剤との親和性を有する所定の変性基を付与することで、得られる共重合体の充填剤との親和性が向上する結果、高い耐久性とともに優れた低発熱性を発現できことが見出された。また、本実施形態の変性共重合体は、樹脂組成物に用いた場合であっても、高い耐久性とともに優れた低発熱性を発現し得る。
【0027】
また、本実施形態の変性共重合体において、更に特筆すべきは、芳香族ビニル単位の少なくとも一部をアルキルスチレン単位とし、且つ、当該芳香族ビニル単位に所定の変性基が結合している点にある。そのため、本実施形態においては、グラフト化(グラフト重合)等とは異なり、ポリマーの主鎖にある二重結合を消費せずに変性させることが可能となる。その結果、本実施形態の変性共重合体は、共役ジエン単位(特に、主鎖に二重結合を有する共役ジエン単位)を有することの効果が低減することなく、上述したような変性基を有することの効果を良好に発現できる、という利点もある。
【0028】
ここで、共役ジエン単位は、共重合体の加硫を可能とし、また、ゴムとしての伸びや強度を向上させることができる単位である。また、非共役オレフィン単位は、大きく歪んだ際に、該非共役オレフィン単位に由来する結晶成分が崩壊して、エネルギーを散逸することで破壊特性等の耐久性を向上させることができる単位である。また、芳香族ビニル単位は、共重合体の作業性を向上させることができる単位である。本実施形態の変性共重合体は、これらの単位を組み合わせたものとすることで、ゴム組成物や樹脂組成物に用いた場合に、破壊特性等の耐久性について、特に優れた性能を発揮することができる。
【0029】
共役ジエン単位は、単量体としての共役ジエン化合物に由来する構成単位である。ここで、共役ジエン化合物とは、共役系のジエン化合物を意味する。共役ジエン化合物は、炭素数が4~8であることが好ましく、かかる共役ジエン化合物として、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。変性共重合体の単量体としての共役ジエン化合物は、得られる共重合体を用いた組成物等の耐久性を効果的に向上させる観点から、1,3-ブタジエン及びイソプレンから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、1,3-ブタジエン及びイソプレンから選ばれる少なくとも一種のみからなることがより好ましく、1,3-ブタジエンのみからなることがさらに好ましい。別の言い方をすると、変性共重合体における共役ジエン単位は、1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位から選ばれる少なくとも一種のみからなることがより好ましく、1,3-ブタジエン単位のみからなることがさらに好ましい。また、このような共役ジエン単位であると、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。
【0030】
変性共重合体における共役ジエン単位の割合は、10mol%以上80mol%以下であることが好ましい。10mol%以上であれば、伸びや強度を十分に向上させることができる。また、80mol%以下であれば、耐候性を向上させることができ、また、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。同様の観点から、変性共重合体における共役ジエン単位の割合は、20mol%以上であることがより好ましく、25mol%以上であることが更に好ましく、また、70mol%以下であることがより好ましく、65mol%以下であることが更に好ましい。
なお、変性共重合体における共役ジエン単位等の単位の割合は、実質的に、変性前の対応する共重合体における共役ジエン単位等の単位の割合と同じである。
【0031】
非共役オレフィン単位は、単量体としての非共役オレフィン化合物に由来する構成単位である。ここで、非共役オレフィン化合物とは、脂肪族不飽和炭化水素で、炭素-炭素二重結合を1個以上有する化合物を意味する。非共役オレフィン化合物は、炭素数が2~10であることが好ましく、かかる非共役オレフィン化合物として、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等のα-オレフィン、ピバリン酸ビニル、1-フェニルチオエテン、N-ビニルピロリドン等のヘテロ原子置換アルケン化合物等が挙げられる。非共役オレフィン化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。変性共重合体の単量体としての非共役オレフィン化合物は、得られる共重合体を用いた組成物等の耐候性をより向上させる観点から、非環状の非共役オレフィン化合物であることが好ましく、また、該非環状の非共役オレフィン化合物は、α-オレフィンであることがより好ましく、エチレンを含むα-オレフィンであることがさらに好ましく、エチレンのみからなることが特に好ましい。別の言い方をすると、変性共重合体における非共役オレフィン単位は、非環状の非共役オレフィン単位であることが好ましく、また、該非環状の非共役オレフィン単位は、α-オレフィン単位であることがより好ましく、エチレン単位を含むα-オレフィン単位であることが更に好ましく、エチレン単位のみからなることが特に好ましい。また、このような非共役オレフィン単位であると、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。
【0032】
変性共重合体における非共役オレフィン単位の割合は、10mol%以上80mol%以下であることが好ましい。10mol%以上であれば、結果として共役ジエン単位又は芳香族ビニル単位の割合が減少して、組成物等の耐候性が向上し、破壊特性(特には、破断強度(Tb))が向上する。また、80mol%以下であれば、結果として共役ジエン単位又は芳香族ビニル単位の割合が増加し、ゴム組成物等の高温での破壊特性(特には、破断伸び(Eb))が向上し、また、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。同様の観点から、変性共重合体における非共役オレフィン単位の割合は、20mol%以上であることがより好ましく、25mol%以上であることが更に好ましく、また、70mol%以下であることがより好ましく、65mol%以下であることが更に好ましい。
【0033】
芳香族ビニル単位は、単量体としての芳香族ビニル化合物に由来する構成単位である。ここで、芳香族ビニル化合物とは、少なくともビニル基で置換された芳香族化合物を意味し、共役ジエン化合物には包含されないものとする。そして、本実施形態の変性共重合体においては、製造性などの観点から、芳香族ビニル単位として、少なくともアルキルスチレン単位を有することを要する。別の言い方をすると、単量体として用いる芳香族ビニル化合物として、少なくともアルキルスチレンを用いる。変性共重合体の単量体としてアルキルスチレンを用いることで、変性共重合体の製造の際、容易に且つ多量に、所定の変性基を導入することができる。アルキルスチレンとしては、例えば、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン(2-メチルスチレン)、m-メチルスチレン(3-メチルスチレン)、p-メチルスチレン(4-メチルスチレン)等のメチルスチレン類;o,p-ジメチルスチレン;o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン等のエチルスチレン類などが挙げられる。アルキルスチレン単位(及び単量体としてのアルキルスチレン)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
なお、アルキルスチレン単位を有する共重合体に変性基を導入する場合には、当該アルキルスチレン単位におけるアルキル部分の1級炭素原子(末端の炭素原子)に、優先的に変性基が導入され易いものと考えられる。
【0034】
特に、本実施形態の変性共重合体においては、芳香族ビニル単位が、p-メチルスチレン単位を含むことが好ましい。p-メチルスチレン単位のメチル基部分は、共重合体の主鎖部分に比べて、共重合体における立体障害の寄与が小さいので、より容易に且つ多量に、変性基を導入することができ、ひいては、共重合体の充填剤との親和性をより向上させることができる。
【0035】
なお、本実施形態の変性共重合体は、芳香族ビニル単位として、アルキルスチレン単位以外の芳香族ビニル単位(例えば、スチレン単位など)を有してもよい。但し、上記効果をより十分に得る観点から、本実施形態の変性共重合体においては、芳香族ビニル単位におけるアルキルスチレン単位の割合が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%である(即ち、芳香族ビニル単位が、アルキルスチレン単位のみからなる)ことが更に好ましい。別の言い方をすると、単量体として用いる芳香族ビニル化合物におけるアルキルスチレンの割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%である(即ち、単量体としての芳香族ビニル化合物が、アルキルスチレンのみからなる)ことが更に好ましい。
【0036】
なお、芳香族ビニル単位における芳香族環は、隣接する単位と結合しない限り、共重合体の主鎖には含まれない。
【0037】
変性共重合体における芳香族ビニル単位の割合は、0.1mol%以上20mol%以下であることが好ましい。0.1mol%以上であれば、ゴム組成物等の高温における破壊特性等の耐久性が向上する。また、20mol%以下であれば、共役ジエン単位及び非共役オレフィン単位による効果が顕著になり、また、他の単位との組み合わせにより、耐久性とともに低発熱性が向上しやすくなる。同様の観点から、変性共重合体における芳香族ビニル単位の割合は、0.3mol%以上であることがより好ましく、0.5mol%以上であることが更に好ましく、また、10mol%以下であることがより好ましく、5mol%以下であることが更に好ましい。
【0038】
なお、変性共重合体は、所望の効果を確実に得る観点から、ブチレン単位を有しないこととする。つまり、変性共重合体は、例えば、ブタジエンの水添によって得られたポリマーや、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)といった、スチレン-ブタジエン共重合体の水添物を含まないことが好ましい。
【0039】
変性共重合体は、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位、及び芳香族ビニル単位以外の、その他の構成単位を有していてもよい。但し、所望の効果を得る観点から、共重合体全体に対するその他の構成単位の割合は、30mol%以下であることが好ましく、20mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることが更に好ましく、0mol%である(即ち、変性共重合体が、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位、及び芳香族ビニル単位のみからなる)ことが特に好ましい。
【0040】
変性共重合体は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が10,000以上、10,000,000以下であることが好ましい。変性共重合体のMwが10,000以上であることにより、機械的強度を十分に確保することができ、また、10,000,000以下であることにより、高い作業性を保持することができる。同様の観点から、変性共重合体のMwは、100,000以上であることがより好ましく、150,000以上であることが更に好ましく、また、9,000,000以下であることがより好ましく、8,000,000以下であることが更に好ましい。
【0041】
変性共重合体は、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000以上、10,000,000以下であることが好ましい。変性共重合体のMnが10,000以上であることにより、機械的強度を十分に確保することができ、また、10,000,000以下であることにより、高い作業性を保持することができる。同様の観点から、変性共重合体のMnは、50,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることが更に好ましく、また、9,000,000以下であることがより好ましく、8,000,000以下であることが更に好ましい。
【0042】
変性共重合体は、分子量分布[Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)]が1.00以上4.00以下であることが好ましい。変性共重合体の分子量分布が4.00以下であれば、変性共重合体の物性に十分な均質性をもたらすことができる。同様の観点から、変性共重合体の分子量分布は、3.50以下であることがより好ましく、3.00以下であることが更に好ましい。また、変性共重合体の分子量分布は、1.50以上であることがより好ましく、1.80以上であることが更に好ましい。
【0043】
なお、上述した重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として求める。
【0044】
変性共重合体は、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点が30℃以上であることが好ましく、また、180℃以下であることが好ましい。変性共重合体の融点が30℃以上であれば、変性共重合体の結晶性が高くなり、耐亀裂性が更に向上し、また、180℃以下であれば、加熱時の加熱温度を過度に高める必要がなくなり、作業性が更に向上する。同様の観点から、上記変性共重合体の融点は、140℃以下であることがより好ましい。なお、共重合体に融点が2つ以上ある場合は、最も高い融点を採用する。
【0045】
変性共重合体は、結晶化度(ΔH/ΔH0×100、「結晶量」とも呼ぶ)が0.5%以上であることが好ましく、また、30%以下であることが好ましい。変性共重合体の結晶化度が0.5%以上であれば、非共役オレフィン単位に起因する結晶性を十分に確保して、耐亀裂性や強度が更に向上する。また、変性共重合体の結晶化度が30%以下であれば、混練等の際の作業性が向上し、また、変性共重合体のタッキネスが向上するため、例えば、ゴム組成物から作製したゴム部材同士を貼り付け、タイヤ等のゴム物品を成形する際の作業性が向上する。同様の観点から、変性共重合体の結晶化度は、1%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることが更に好ましく、また、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましい。
なお、結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)で測定した、100%結晶成分のポリエチレンの結晶融解エネルギー(ΔH0)に対する、対象となる共重合体の吸熱ピークエネルギー(ΔH)の比率(ΔH/ΔH0×100)として求めることができる。なお、ポリエチレンの結晶融解熱(結晶融解エネルギー)は、293J/gである。
【0046】
変性共重合体は、主鎖が環状構造を有してもよく、或いは、主鎖が非環状構造のみからなってもよい。主鎖が非環状構造のみからなる場合には、ゴム組成物等の耐摩耗性や、架橋後の耐久性を更に向上させることができる。また、共重合体への所定の変性基の導入がし易くなる。なお、共重合体の主鎖が環状構造を有するか否かの確認には、NMRが主要な測定手段として用いられる。具体的には、主鎖に存在する環状構造に由来するピーク(例えば、三員環~五員環については、13C-NMRスペクトルチャートにおいて10~24ppmに現れるピーク)が観測されない場合、その共重合体の主鎖は、非環状構造のみからなることを示す。一方で、当該ピークが観測される場合、その共重合体の主鎖は、環状構造を有することを示す。
【0047】
本実施形態の変性共重合体は、好適には、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有する共重合体(未変性)に対し、変性基を所定の箇所に導入することにより、製造することができる。この場合、共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び芳香族ビニル単位を有する共重合体(未変性)としては、例えば、WO2017/065301A1に記載の共重合体を好ましく用いることができる。
【0048】
そして、本実施形態の変性共重合体は、カルボニル部分(-C(=O)-)及びチオカルボニル部分(-C(=S)-)の少なくともいずれかを備える変性基を有し、また、当該変性基は、該共重合体における芳香族ビニル単位に結合している。上記変性基は、製造性の観点、及び低発熱性をより効果的に向上させる観点から、エステル結合(-C(=O)O-)及びジチオエステル結合(-C(=S)S-)の少なくともいずれかを備えることが好ましい。かかる変性基としては、例えば、カルボン酸塩に相当する基、即ち、-C(=O)OR(Rは、任意の基である)、ジチオカルボン酸塩に相当する基、即ち、-C(=S)SR(Rは、任意の基である)等が挙げられる。更に、製造性の観点、及び低発熱性をより効果的に向上させる観点から、上記変性基は、-C(=O)OM、又は-C(=S)SM(Mは、アルカリ金属原子である)で表される基であることがより好ましい。かかる変性基は、要するに、カルボン酸金属塩又はジチオカルボン酸金属塩に相当する基である。
【0049】
なお、本実施形態の変性共重合体においては、上述変性基が、アルキルスチレン単位以外の任意の箇所に更に結合していてもよい。
【0050】
このような変性共重合体を製造するための方法としては、特に限定されず、(i)共役ジエン単位、非共役オレフィン単位及び少なくともアルキルスチレン単位を含む芳香族ビニル単位を有し、ブチレン単位を有さない共重合体(未変性)に、アルカリ金属化合物を添加する工程、及び、(ii)(i)工程で得られた生成物を所定の変性剤と反応させて、共重合体に変性基を導入する工程、を含む方法が挙げられる。
【0051】
上述の通り、変性前の上記共重合体は、例えば、WO2017/065301A1に記載に方法に従って調製することができる。
【0052】
上記(i)工程で添加するアルカリ金属化合物のアルカリ金属原子(M)としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csなどが挙げられる。アルカリ金属化合物としては、例えば、有機アルカリ金属化合物、有機アルカリ土類金属化合物などが挙げられる。アルカリ金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましい。
【0053】
有機アルカリ金属化合物としては、例えば、ヒドロカルビルリチウム及びリチウムアミド化合物などが挙げられる。
【0054】
ヒドロカルビルリチウムとしては、例えば、炭素数2~20のヒドロカルビル基を有するものが好ましく、例えば、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、tert-オクチルリチウム、n-デシルリチウム、フェニルリチウム、2-ナフチルリチウム、2-ブチルフェニルリチウム、4-フェニルブチルリチウム、シクロへキシルリチウム、シクロベンチルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムとの反応生成物などが挙げられる。
【0055】
リチウムアミド化合物としては、例えば、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジへキシルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピベラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミドなどが挙げられる。
【0056】
より効率よく共重合体に変性基を導入する観点から、(i)工程で使用するアルカリ金属化合物は、sec-ブチルリチウムが好ましい。
【0057】
(i)工程でアルカリ金属化合物を添加することによって、共重合体のポリマー主鎖の一方の末端以外の部分(ポリマー主鎖の途中など)にアルカリ金属原子が導入され(炭化水素鎖の水素原子がアルカリ金属原子で置換され)、その導入されたアルカリ金属原子が変性剤と反応し、変性基が導入される。
【0058】
(i)工程でアルカリ金属原子が導入される部分としては、例えば、アルキルスチレン単位のポリマー主鎖との結合部分の3級炭素原子、及びアルキル部分の1級炭素原子(末端の炭素原子)が挙げられる。但し、この場合、3級炭素原子よりも、1級炭素原子の方が、立体障害が小さいため、1級炭素原子の方にアルカリ金属原子が優先的に導入されると考えられる。
【0059】
(ii)工程で用いる変性剤としては、例えば、炭酸ガス(二酸化炭素)、二硫化炭素などが挙げられる。特に、炭酸ガスを用いることで、変性基をより容易に導入することができる。変性剤として炭酸ガスを用いた場合、共重合体に導入される変性基は、-C(=O)OM(Mは、アルカリ金属原子である)となり得る。また、変性剤として二硫化炭素を用いた場合、共重合体に導入される変性基は、-C(=S)SM(Mは、アルカリ金属原子である)となり得る。
【0060】
更に、変性共重合体を製造するための別の方法として、共役ジエン化合物、非共役オレフィン化合物、アルキルスチレンを含む芳香族ビニル化合物等の基礎的単量体のいずれかに予め変性基を付与させたものを単量体として用い、共重合する方法も挙げられる。
【0061】
上記変性共重合体における上記変性基の割合は、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。変性基の割合が0.1質量%以上であれば、親和性が十分に高まり、高い耐久性とともに優れた低発熱性をより確実に発現することができる。また、変性基の割合が10.0質量%以下であれば、変性基同士の反応によるゲル化を十分に抑制することができる。上記の割合は、アルキルスチレン単位に結合している当該変性基に限定されるものではなく、変性共重合体中に存在する当該変性基の割合を意味する。同様の観点から、上記変性共重合体における上記変性基の割合は、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、1.0質量%以上であることが一層好ましく、また、7.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが更に好ましく、3.0質量%以下であることが一層好ましい。
なお、変性共重合体における変性基の割合は、例えば、変性剤の投入量を増やす、上述したアルカリ金属化合物の投入量を増やす、共重合体における芳香族ビニル単位の量を増やす、更には芳香族ビニル単位としてのアルキルスチレン単位の量を増やす、等により、高めることができる。
変性共重合体における変性基の割合は、1H-NMRスペクトルから算出することができる。
【0062】
本実施形態の変性共重合体は、高耐久性とともに低発熱性を発現することから、後述するゴム組成物、樹脂組成物に好適に用いられる。とりわけ、本実施形態の変性共重合体を用いたゴム組成物は、高耐久性とともに低発熱性を有することから、タイヤの他、コンベヤベルト、ゴムクローラ、ホース、防振装置に用いられる防振ゴム、免震装置に用いられる免震ゴム等のゴム製品に好適に用いられる。
【0063】
(ゴム組成物)
本発明の一実施形態のゴム組成物(以下、「本実施形態のゴム組成物」と称することがある。)は、上述した変性共重合体を含むゴム成分を含有するものである。かかる本実施形態のゴム組成物は、上述した変性共重合体を含有するため、耐久性が高く、低発熱性に優れる。
【0064】
本実施形態のゴム組成物は、上述した変性共重合体以外のその他のゴム成分を含有することができる。その他のゴム成分としては、例えば、RSS及びTSRの他、高純度天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、水酸基化天然ゴム、水素添加天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等の天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
ブタジエンゴム(BR)としては、耐摩耗性の向上を考慮して、ハイシスポリブタジエンゴムを含むことができる。ハイシスポリブタジエンゴムとは、FT-IRによる測定において、1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合含有量が90%以上99%以下のハイシスポリブタジエンゴムのことである。ハイシスポリブタジエンゴムの1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合含有量は、好ましくは95%以上99%以下である。
【0066】
ハイシスポリブタジエンゴムの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により製造すればよく、例えば、ネオジム系触媒を用いてブタジエンを重合する方法が挙げられる。また、ハイシスポリブタジエンゴムは市販されており、例えば、「BR01」、「T700」(以上、JSR株式会社製)、「ウベポールBR150L」(宇部興産株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
ゴム成分中の本実施形態の変性共重合体の割合は、耐久性及び低発熱性の発現効果を確実に得る観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上がより更に好ましく、100質量%、即ち全量が変性共重合体であることが特に好ましい。
【0068】
また、本実施形態のゴム組成物は、更に充填剤を含有することが好ましい。充填剤を含有することにより、耐久性、補強性等を一層向上させることができる。充填剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウム、クレー、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。充填剤としては、変性共重合体への分散性の向上の観点から、シリカ及びカーボンブラックから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0069】
カーボンブラックとしては、特に制限されず、例えば、SAF、ISAF、HAF、FF、FEF、GPF、SRF、CF、FT、MTグレードのカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、カーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAFグレードのカーボンブラックが好ましい。
【0070】
シリカとしては、特に制限されず、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。シリカは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、シリカとしては、湿式シリカが好ましい。
【0071】
本実施形態のゴム組成物における充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して30~100質量部であることが好ましい。上記含有量が30質量部以上であることにより、耐久性及び耐摩耗性をより向上させることができ、100質量部以下であることにより、低ロス性及び高弾性率を良好に保持することができる。
【0072】
本実施形態のゴム組成物は、充填剤としてシリカを用いる場合は、該シリカの配合効果を向上させる観点から、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス-トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィド、ビス-トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
また、シランカップリング剤の含有量は、特に制限されるものではないが、充填剤としてのシリカの含有量に対して、好ましくは1~12質量%、より好ましくは3~10質量%である。シランカップリング剤の含有量が充填剤のシリカの含有量に対して1質量%以上であることで、充填剤の分散性の向上効果が得られやすくなり、12質量%以下であることで、シランカップリング剤の配合過多を抑制し、効率的に添加効果が得られるので、経済的なメリットもある。
【0074】
更に、本実施形態のゴム組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、架橋剤(硫黄等の加硫剤を含む)、架橋促進剤(加硫促進剤)、架橋促進助剤(加硫促進助剤)、老化防止剤、亜鉛華(ZnO)、軟化剤、ワックス類、酸化防止剤、発泡剤、可塑剤、滑剤、粘着付与剤、石油系樹脂、紫外線吸収剤、分散剤、相溶化剤、均質化剤等の成分を、適宜含有することができる。
【0075】
本実施形態のゴム組成物は、高耐久性とともに低発熱性を有していることから、後述するタイヤの他、コンベヤベルト、ゴムクローラ、ホース、防振装置に用いられる防振ゴム、免震装置に用いられる免震ゴム等のゴム製品に好適に用いられる。
【0076】
本実施形態のゴム組成物の製造方法としては、特に限定されず、例えば、上記の各成分を、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。ここで、配合及び混練に際しては、全ての成分を一度に配合して混練してもよく、2段階又は3段階等の多段階に分けて各成分を配合して混練してもよい。なお、混練に際しては、ロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用いることができる。さらに、ゴム組成物をシート状や帯状等に成形する際には、押出成形機、プレス機等の公知の成形機を用いることができる。
【0077】
また、本実施形態のゴム組成物は、架橋(加硫)して製造してもよい。架橋条件としては特に制限されず、通常は140~180℃の温度、及び5~120分間の時間を採用することができる。
【0078】
(樹脂組成物及び樹脂物品)
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、上述した変性共重合体を含有するものである。変性共重合体と、他の樹脂成分と、を組み合わせることにより、該他の樹脂成分が元来有する耐久性、耐衝撃性等の諸性能が向上する。更に、本発明の一実施形態の樹脂物品は、上述した樹脂組成物を用いたものである。上記樹脂物品は、高耐久性とともに低発熱性を有する。
【0079】
変性共重合体と組み合わせる樹脂成分としては、特に限定されず、種々の樹脂成分を採用することができ、樹脂物品に所望される性能に応じて適宜選択すればよい。このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン等の単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の共重合体、及びこれらのアイオノマー樹脂等のポリオレフィン樹脂、ビニルアルコール単独重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂及びそのエステル樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、カルボキシビニル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ビニルピロリドン単独重合体、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体等のポリビニルピロリドン樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、メルカプトメタノール、水素化スチレン-ブタジエン、シンジオタクチックポリブタジエン、トランスポリブタジエン、トランスポリイソブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、樹脂成分としては、変性共重合体に含まれる非共役オレフィン単位を含むポリオレフィン樹脂が好ましい。また、樹脂成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンがより好ましい。
【0080】
上記樹脂組成物において、全樹脂成分に対する変性共重合体の含有量は、組み合わせる他の樹脂、所望の性状等により適宜調整すればよく、通常1~99質量%程度であり、好ましくは5~90質量%である。
【0081】
また、上記樹脂組成物は、所望の性能に応じて、各種添加剤を含有することができる。各種添加剤としては、特に限定されず、樹脂組成物に通常含有される添加剤を用いることができ、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、酸化防止剤、上記ゴム組成物に含まれ得る充填剤として例示した充填剤、軟化剤、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0082】
(タイヤ)
本発明の一実施形態のタイヤは、上述したゴム組成物を用いたものである。かかるタイヤは、本実施形態のゴム組成物を用いているため、高耐久性とともに低発熱性を有するものとなる。
タイヤにおける本実施形態のゴム組成物の適用部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トレッド、ベーストレッド、サイドウォール、ベルトコーティングゴム、プライコーティングゴム、サイド補強ゴム及びビードフィラー等が挙げられる。本実施形態のゴム組成物の高耐久性とともに低発熱性を有するという優れた効果を有効活用する観点から、適用部位としてはトレッドが好ましく、特にスタッドレスタイヤのトレッドが好ましい。また、金属との接着剤としての適用も好適であることから、ベルトコーティングゴムへの適用も好ましい。
【0083】
上記タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。例えば、タイヤ成形用ドラム上に未加硫の本実施形態のゴム組成物及び/又はコードからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常タイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望のタイヤ(例えば、空気入りタイヤ)を製造することができる。
【0084】
(タイヤ以外の製品)
また、上述したゴム組成物や樹脂組成物は、タイヤ以外の種々のゴム物品及び樹脂物品に適用することができる。
例えば、上述した組成物は、自動車用部品(自動車用シート、自動車用電池(リチウムイオン電池等)、ウェザーストリップ類、ホースチューブ類、防振ゴム類、ケーブル類、シール材等)に好ましく適用することができる。
その他、上述した組成物は、コンベアベルト、クローラー、防振ゴム、ホース、樹脂配管、吸音材、寝具、事務機器用精密部品(OA(office automation)ローラー)、自転車用フレーム、ゴルフボール、テニスラケット、ゴルフシャフト、樹脂添加剤、フィルター、接着剤、粘着剤、インキ、医療器具(医療用チューブ、バック、マイクロニードル、ゴムスリーブ、人工臓器、キャップ、パッキン、注射器ガスケット、薬栓、義足、義肢)、化粧品(UV(ultraviolet)パウダー、パフ、容器、ワックス、シャンプー、コンディショナー)、洗剤、建築材料(フロア材、制震ゴム、免震ゴム、建築フィルム、吸音材、防水シート、断熱材、目地材、シール材)、包装材、液晶材料、有機EL(electro- luminescence)材料、有機半導体材料、電子材料、電子デバイス、通信機器、航空機部品、機械部品、電子部品、農業用資材、電線、ケーブル、繊維(ウェアラブル基盤)、日用品(歯ブラシ、靴底、眼鏡、疑似餌、双眼鏡、玩具、防塵マスク、ガーデンホース)、ロボット部品、光学部品、道路資材(アスファルト、ガードレール、ポール、標識)、保護具(靴、防弾チョッキ)、電気機器外装部品、OA外装部品、ソール、シール材等にも好ましく適用することができる。
【実施例0085】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0086】
(変性共重合体A1の調製)
十分に乾燥した2000mL耐圧ステンレス反応器に、芳香族ビニル化合物としてのスチレン16g及びトルエン364gを加えた。
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、モノ(ビス(1,3-tert-ブチルジメチルシリル)インデニル)ビス(ビス(ジメチルシリル)アミド)ガドリニウム錯体(1,3-[(t-Bu)Me2Si]2C9H5Gd[N(SiHMe2)2]2)0.025mmol、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[Ph3CB(C6F5)4]0.025mmol及びトリイソブチルアルミニウム0.75mmolを仕込み、トルエン15mLを加えて触媒溶液とした。その触媒溶液を上記耐圧ステンレス反応器に加え、60℃に加温した。
次いで、その耐圧ステンレス反応器に、非共役オレフィン化合物としてのエチレンを圧力0.6MPaで投入し、75℃で61分間共重合を行った。また、共役ジエン化合物としての1,3-ブタジエン80gを含むトルエン溶液260gを、4.0~7.0mL/minの速度で連続的に加えた。
次いで、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS-5)5質量%のイソプロパノール溶液1mLをその耐圧ステンレス反応器に加えて反応を停止させた。そして、大量のメタノールを用いた分離、及び50℃での真空乾燥を行い、共重合体A0(変性基導入前)を得た。
即ち、共重合体A0の調製にあたっては、単量体としてアルキルスチレンを用いなかった。
【0087】
1Lガラス瓶に、上記の共重合体20g及びシクロヘキサン380gを加え、80℃の湯浴で2時間撹拌して、共重合体をシクロヘキサンに溶解させた。次いで、そのガラス瓶に、sec-ブチルリチウム3.4mmolを含むヘキサン溶液とテトラメチルエチレンジアミン3.4mmolとを加え、80℃で1時間反応させた。反応後、ガラス瓶を湯浴から取り出し、反応後の溶液に対し、炭酸ガス(CO2)を、バブリングにより1分間投入した。その後、室温で一晩静置し、変性反応を完了させた。そして、大量のメタノールを用いた分離、及び50℃での真空乾燥を行い、最終的に、変性基(-C(=O)OLi)を有する(特に、スチレン単位のポリマー主鎖との結合部分の3級炭素原子に主として有する)共重合体A1を得た。
【0088】
(変性共重合体B1の調製)
十分に乾燥した2000mL耐圧ステンレス反応器に、芳香族ビニル化合物としてのp-メチルスチレン7g及びトルエン373gを加えた。
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、モノ(ビス(1,3-tert-ブチルジメチルシリル)インデニル)ビス(ビス(ジメチルシリル)アミド)ガドリニウム錯体(1,3-[(t-Bu)Me2Si]2C9H5Gd[N(SiHMe2)2]2)0.025mmol、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[Ph3CB(C6F5)4]0.025mmol及びトリイソブチルアルミニウム0.75mmolを仕込み、トルエン15mLを加えて触媒溶液とした。その触媒溶液を上記耐圧ステンレス反応器に加え、60℃に加温した。
次いで、その耐圧ステンレス反応器に、非共役オレフィン化合物としてのエチレンを圧力0.6MPaで投入し、75℃で117分間共重合を行った。また、共役ジエン化合物としての1,3-ブタジエン80gを含むトルエン溶液260gを、2.0~4.0mL/minの速度で連続的に加えた。
次いで、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS-5)5質量%のイソプロパノール溶液1mLをその耐圧ステンレス反応器に加えて反応を停止させた。そして、大量のメタノールを用いた分離、及び50℃での真空乾燥を行い、共重合体B0(変性基導入前)を得た。
【0089】
1Lガラス瓶に、上記の共重合体20g及びシクロヘキサン380gを加え、80℃の湯浴で2時間撹拌して、共重合体をシクロヘキサンに溶解させた。次いで、そのガラス瓶に、sec-ブチルリチウム3.4mmolを含むヘキサン溶液とテトラメチルエチレンジアミン3.4mmolとを加え、80℃で1時間反応させた。反応後、ガラス瓶を湯浴から取り出し、反応後の溶液に対し、炭酸ガス(CO2)を、バブリングにより1分間投入した。その後、室温で一晩静置し、変性反応を完了させた。そして、大量のメタノールを用いた分離、及び50℃での真空乾燥を行い、最終的に、変性基(-C(=O)OLi)を有する(特に、p-メチルスチレン単位の4位のメチル部分に主として有する)共重合体B1を得た。
【0090】
上記共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー社製HLC-8220GPC/HT、カラム:東ソー社製GMHHR-H(S)HT×2本、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。なお、測定温度は140℃である。結果を表1に示す。
【0091】
また、示差走査熱量計(DSC、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、「DSCQ2000」)を用い、上記共重合体を、-150℃~150℃まで、10℃/minで昇温し、その時の0℃~100℃の吸熱ピークエネルギー(ΔH1)及び100℃~150℃の吸熱ピークエネルギー(ΔH2)を測定した。そして、100%結晶成分のポリエチレンの結晶融解エネルギー(ΔH0)の値を用い、当該ポリエチレンの結晶融解エネルギー(ΔH0)に対する、共重合体の吸熱ピークエネルギーの比率((ΔH1/ΔH0)×100、(ΔH2/ΔH0)×100)から、共重合体の0℃~100℃の結晶化度及び100℃~150℃の結晶化度を算出した。結果を表1に示す。なお、上記結晶化度は、0~150℃の範囲における結晶化度であり、例えば、0~100℃の結晶化度と100℃~150℃の結晶化度とに分けて記載されている場合には、それらを合算した値が0~150℃の結晶化度となる。
【0092】
また、上記共重合体中の共役ジエン単位(1,3-ブタジエン単位)、非共役オレフィン(エチレン単位)、及び芳香族ビニル単位(スチレン単位、p-メチルスチレン単位)の割合(mol%)を、1H-NMRスペクトル(100℃、d-テトラクロロエタン標準:6ppm)の各ピークの積分比より求めた。結果を表1に示す。
【0093】
また、上記共重合体における変性基の割合を、1H-NMRスペクトルから算出した。結果を表1に示す。
【0094】
また、上記共重合体について、13C-NMRスペクトルを測定した。得られた13C-NMRスペクトルチャートにおいて、10~24ppmにピークが観測されなかった。このことから、合成した共重合体はいずれも、主鎖が非環状構造のみからなることを確認した。
【0095】