(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093144
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/29 20060101AFI20220616BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20220616BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20220616BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20220616BHJP
H01F 41/10 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H01F27/29 P
H01F27/29 123
H01F17/00 B
H01F17/04 F
H01F41/04 C
H01F41/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206264
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】星野 英昭
(72)【発明者】
【氏名】野木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】上山 義明
(72)【発明者】
【氏名】齊田 幸宗
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062FF01
5E062FG11
5E070AA01
5E070AB02
5E070BA12
5E070CB03
5E070CB13
5E070CB18
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外部電極の外表面においてクラックの発生原因となる凹部の形成を抑制するコイル部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コイル部品1において、複数の金属磁性粒子を含む基体と、コイル導体25と、外部電極21、22と備える。コイル導体25は、基体内に設けられたコイル部と、基体の第1端面10c、第2端面10dから露出する端面27a1、27b1と、を有する。コイル導体25は、コイル部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向の寸法に対し、端面27a1、27b1の短軸方向の寸法の比が、0.5以上0.95以下となるように構成される。外部電極21、22は、基体の第1端面10c、第2端面10dから露出する端面27a1、27b1と接続されるように設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属磁性粒子を含む基体(10)と、
前記基体内に設けられたコイル部と、前記基体の第1面(10c)から露出する端面(27a1)と、を有し、前記コイル部の電流が流れる方向(P)に直交する断面の短軸方向における寸法(T11)に対する前記端面の短軸方向における寸法(T12)の比(T12/T11)が0.5以上0.95以下となるように構成されたコイル導体(25)と、
前記基体の前記第1面にコイル導体の前記端面と接続されるように設けられた外部電極(21)と、
を備えるコイル部品(1)。
【請求項2】
前記基体の空隙率は、5%以上20%未満である、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記コイル導体は、コイル軸(Ax)の周りに巻かれた周回部(26)、及び、前記周回部の一端に接続され前記端面を有する引出部(27a)を含む、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記外部電極は、その外表面の前記引出部の前記端面と対向する位置に凹部(21a)を有しており、
前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法(T11)に対する前記凹部の深さ(T13)の比(T13/T11)は0.1以下である、
請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法は、30~110μmの範囲にある、
請求項3又は4に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記周回部及び前記引出部は同一組成の導電性ペーストから形成される、
請求項3から5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記引出部の空隙率は、1%未満である、
請求項3から6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記引出部の前記端面の長軸方向における寸法(W12)は、前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の長軸方向における寸法(W11)よりも大きい、
請求項3から7のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記引出部の前記端面の面積は、前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の面積と等しい、
請求項3から8のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記引出部は、単一の導体層から構成されており、
前記周回部は、複数の導体層から構成されている、
請求項3から9のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記引出部の前記端面の面積は、前記第1面に平行な平面で切断した前記基部の断面の面積と等しい、
請求項10に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記引出部の前記端面の面積は、前記第1面に平行な平面で切断した前記基部の断面の面積よりも大きい、
請求項10に記載のコイル部品。
【請求項13】
前記コイル軸に平行な平面で切断した前記周回部の断面の短軸方向における寸法(T11)に対する前記引出部の前記端面の短軸方向における寸法(T12)の比(T12/T11)が0.5以上0.6以下となる、
請求項3から12のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載のコイル部品を備える回路基板。
【請求項15】
請求項14に記載の回路基板を備える電子機器。
【請求項16】
複数の金属磁性粒子を含む基体と、前記基体内に設けられたコイル部及び前記基体の第1面から露出する端面を有し、前記コイル部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法に対する前記端面の短軸方向における寸法の比が0.5以上0.95以下となるように構成されたコイル導体と、を備える中間体を作製する工程と、
前記中間体の表面に前記端面を覆うように導電性ペーストを塗布する工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項17】
前記コイル導体は、コイル軸の周りに巻かれた周回部、及び、前記周回部の一端に接続され前記端面を有する引出部を含む、
請求項16に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項18】
前記引出部は、その一端が前記周回部に接続されている基部(28a)と、前記基部の他端に接続されており単一の導体層から成る先端部(29a)と、を有し、
前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部に対応する形状を有する第1導体層(41)を形成する工程と、前記磁性体シートの上に前記第1導体層に接するように平面視において前記基部及び前記先端部に対応する形状を有する第2導体層(42)を形成する工程と、を有する、
請求項17に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項19】
前記引出部は、その一端が前記周回部に接続されている基部(28a)と、前記基部の他端に接続されており単一の導体層から成る先端部(29a)と、を有し、
前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部及び前記基部に対応する形状を有する第1導体層(41)を形成する工程と、前記磁性体シートの上に前記第1導体層に接するように平面視において前記先端部に対応する形状を有する第2導体層(42)を形成する工程と、を有する、
請求項17に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項20】
前記引出部は、複数の導体層から成りその一端が前記周回部に接続されている基部(28a)と、前記基部の他端に接続されており単一の導体層から成る先端部(29a)と、を有し、
前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部に対応する形状を有する第1導体層(51)を形成する工程と、前記第1導体層の上に平面視において前記周回部、前記基部、及び前記先端部に対応する形状を有する第2導体層(52)を形成する工程と、を有する、
請求項17に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項21】
前記引出部は、複数の導体層から成りその一端が前記周回部に接続されている基部(28a)と、前記基部の他端に接続されており単一の導体層から成る先端部(29a)と、を有し、
前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部、前記基部、及び前記先端部に対応する形状を有する第1導体層(61)を形成する工程と、前記第1導体層の上に平面視において前記周回部及び前記基部に対応する形状を有する第2導体層(62)を形成する工程と、を有する、
請求項17に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項22】
前記引出部は、複数の導体層から成りその一端が前記周回部に接続されている基部(28a)と、前記基部の他端に接続されており単一の導体層から成る先端部(29a)と、を有し、
前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部、前記基部、及び前記先端部に対応する形状を有する第1導体層を形成する工程と、前記第1導体層の上に平面視において前記周回部に対応する形状を有する第2導体層を形成する工程と、を有する、
請求項17に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、コイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品は、磁性材料からなる基体と、当該基体内に設けられたコイル導体と、当該コイル導体の両端に接続された一組の外部電極と、を備える。コイル導体は、コイル軸の周りに延びる周回部と、この周回部の両端のそれぞれから基体の表面まで延びる一組の引出部と、を有する。コイル導体は、基体から露出する引出部の端面において外部電極と接続される。外部電極は、Ag等の金属粒子と熱硬化性樹脂とを混合した導電性ペーストを基体の表面の一部に塗布し、この導電性ペーストに熱処理を行うことで形成される。外部電極の表面には、Snめっき層及びNiめっき層が設けられてもよい。従来のコイル部品は、例えば、特開2020-126914号公報(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基体用の磁性材料として、特許文献1に記載されている焼結フェライト以外に、金属磁性粒子を含む金属磁性材料も用いられている。金属磁性材料は、フェライト材料よりも飽和磁束密度が高いため、大電流が流れるコイル部品の基体の材料として適している。
【0005】
本発明者らは、金属磁性材料から構成された基体の表面に外部電極の材料である導電性ペーストを塗布すると、塗布された導電性ペーストが基体の内部にしみ込むため、基体に塗布された導電性ペーストが引出部の端面と対向する領域において薄肉化しやすいことを発見した。また、本発明者らは、この薄肉化された領域を有する導電性ペーストに熱処理を行うと、外部電極の引出部と対向する位置に凹部が形成され、この凹部が外部電極におけるクラックの発生の原因となることを発見した。
【0006】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明の具体的な目的の一つは、外部電極の外表面においてクラックの発生原因となる凹部の形成を抑制することである。
【0007】
本明細書に開示される発明の前記以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかになる。本明細書に開示される発明は、前記の課題に代えて又は前記の課題に加えて、本明細書の記載から把握される前記以外の課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品は、複数の金属磁性粒子を含む基体と、コイル導体と、外部電極と、を備える。本発明の一又は複数の実施形態において、コイル導体は、基体内に設けられたコイル部と、基体の第1面(10c)から露出する端面(27a1)と、を有する。本発明の一又は複数の実施形態において、コイル導体は、コイル部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法に対するコイル導体の前記端面の短軸方向における寸法の比は、0.5以上0.95以下となるように構成されている。本発明の一又は複数の実施形態において、外部電極は、基体の第1面に引出部の端面と接続されるように設けられている。
【0009】
本発明の一又は複数の実施形態において、コイル導体は、基体内に設けられておりコイル軸の周りに巻かれた周回部、及び、周回部の一端に接続され基体の第1面から露出する端面を有する引出部を含む。
【0010】
本発明の一又は複数の実施形態において、外部電極は、その外表面の引出部の端面と対向する位置に凹部を有している。本発明の一又は複数の実施形態において、周回部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法に対する前記凹部の深さの比は0.1以下である。
【0011】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法は、30~110μmの範囲にある。
【0012】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記周回部及び前記引出部は同一組成の導電性ペーストから形成される。
【0013】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記基体の空隙率は、5%以上20%未満である。
【0014】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部の空隙率は、1%未満である。
【0015】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部の前記端面の長軸方向における寸法は、前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の長軸方向における寸法よりも大きい。
【0016】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部の前記端面の面積は、前記周回部の電流が流れる方向に直交する断面の面積と等しい。
【0017】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部は、単一の導体層から構成されており、前記周回部は、複数の導体層から構成されている。
【0018】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部の前記端面の面積は、前記第1面に平行な平面で切断した前記基部の断面の面積と等しい。本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部の前記端面の面積は、前記第1面に平行な平面で切断した前記基部の断面の面積よりも大きい。
【0019】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記コイル軸に平行な平面で切断した前記周回部の断面の短軸方向における寸法に対する前記引出部の前記端面の短軸方向における寸法の比が0.5以上0.6以下である。
【0020】
本発明の一又は複数の実施形態は、上記のいずれかのコイル部品を備える回路基板に関する。本発明の一又は複数の実施形態は、上記の回路基板を備える電子機器に関する。
【0021】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品の製造方法は、中間体を作製する工程を備えている。この中間体は、複数の金属磁性粒子を含む基体と、前記基体内に設けられたコイル部及び前記基体の第1面から露出する端面を有し、前記コイル部の電流が流れる方向に直交する断面の短軸方向における寸法に対する前記端面の短軸方向における寸法の比が0.5以上0.95以下となるように構成されたコイル導体と、を備える。本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品の製造方法は、前記中間体の表面に前記引出部の前記端面を覆うように導電性ペーストを塗布する工程をさらに備える。
【0022】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記引出部は、その一端が前記周回部に接続されている基部と、前記基部の他端に接続されており単一の導体層から成る先端部と、を有する。基部は、複数の導体層を有していてもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部に対応する形状を有する第1導体層を形成する工程と、前記磁性体シートの上に前記第1導体層に接するようにして平面視において前記基部 及び前記先端部に対応する形状を有する第2導体層を形成する工程と、を有する。本発明の一又は複数の実施形態において、前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部及び前記基部に対応する形状を有する第1導体層(41)を形成する工程と、前記磁性体シートの上に前記第1導体層に接するように平面視において前記先端部に対応する形状を有する第2導体層(42)を形成する工程と、を有する。
【0023】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部に対応する形状を有する第1導体層を形成する工程と、前記第1導体層の上に平面視において前記周回部、前記基部、及び前記先端部に対応する形状を有する第2導体層を形成する工程と、を有する。
【0024】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部、前記基部、及び前記先端部に対応する形状を有する第1導体層を形成する工程と、前記第1導体層の上に平面視において前記周回部及び前記基部に対応する形状を有する第2導体層を形成する工程と、を有する。
【0025】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記中間体を作製する工程は、磁性体シートの上に平面視において前記周回部、前記基部、及び前記先端部に対応する形状を有する第1導体層を形成する工程と、前記第1導体層の上に平面視において前記周回部に対応する形状を有する第2導体層を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、外部電極の外表面においてクラックの発生原因となるおける凹部の形成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態によるコイル部品の斜視図である。
【
図3】
図1のI-I線に沿ったコイル部品の断面を模式的に示す図である。
【
図4】
図3に示されている基体の断面のうち領域Aを模式的に示す図である。
【
図5a】
図3に示されているコイル部品の断面のうち引出部27a付近を拡大して示す拡大断面図である。
【
図5b】
図3に示されているコイル部品の断面のうち引出部27b付近を拡大して示す拡大断面図である。
【
図6a】導体パターンC16及び引出部27aが形成された磁性体層16を平面視した平面図である。
【
図6b】導体パターンC11及び引出部27bが形成された磁性体層11を平面視した平面図である。
【
図7a】
図1のコイル部品の右側面図である。ただし、外部電極21、22の記載は省略されている。
【
図7b】
図1のコイル部品の左側面図である。ただし、外部電極21、22の記載は省略されている。
【
図8a】
図3に示されているコイル部品の断面のうち外部電極21の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図8b】
図3に示されているコイル部品の断面のうち外部電極22の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程の一部(引出部を作製する工程)を説明するための説明図である。
【
図10】
図9に示されている製造工程の変形例を説明するための説明図である。
【
図11】
図9に示されている製造工程の変形例を説明するための説明図である。
【
図12a】
図1のコイル部品の製造工程の一部(導電性ペーストを塗布する工程)を説明するための説明図である。
【
図12b】従来のコイル部品の製造工程の一部(導電性ペーストを塗布する工程)を説明するための説明図である。
【
図13】T12/T11と外部電極21における凹部の発生率との関係を示すグラフである。
【
図14】T12/T11と高温信頼性試験における不良品の発生率との関係を示すグラフである。
【
図15】T13/T11と高温信頼性試験における不良品の発生率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通して同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0029】
図1から
図4を参照して、本発明の一実施形態によるコイル部品1の概略について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の斜視図であり、
図2は、コイル部品1の分解斜視図であり、
図3は、
図1のI-I線に沿ったコイル部品1の断面を模式的に示す図であり、
図4は、
図3に示されているコイル部品1の断面の領域10Aを模式的に示す図である。コイル部品1は、本発明が適用されるコイル部品の一例である。図示の実施形態において、コイル部品1は、積層インダクタである。この積層インダクタは、電源ラインに組み込まれるパワーインダクタ及びそれ以外の様々なインダクタとして使用され得る。本発明は、図示されている積層インダクタ以外の様々なコイル部品、例えば、薄膜プロセスにより作成されるコイル部品、及び、圧縮成型プロセスにより作製されるコイル部品にも適用可能である。
【0030】
図示のとおり、本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品1は、基体10と、コイル導体25と、基体10の表面に設けられた外部電極21と、基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。コイル導体25は、基体10の内部に設けられたコイル部と、基体10から露出する端面27a1、27b1と、を有する。後述するように、コイル部は、周回部26と、引出部27a、27bと、を有する。
【0031】
コイル部品1は、実装基板2aに実装されている。実装基板2aには、2つのランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、外部電極22とランド部3bとを接合することで実装基板2aに実装されている。このように、回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、コイル部品1及びコイル部品1以外の様々な電子部品を備えることができる。
【0032】
回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、サーバ、自動車の電装品及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。コイル部品1が搭載される電子機器は、本明細書で明示されるものには限定されない。コイル部品1は、回路基板2の内部に埋め込まれる内蔵部品であってもよい。
【0033】
図示の実施形態において、基体10は、おおむね直方体形状を有する。基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有しており、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1主面10aと第2主面10bとは互いに対向し、第1端面10cと第2端面10dとは互いに対向し、第1側面10eと第2側面10fとは互いに対向している。
図1において第1主面10aは本体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2主面10bが回路基板2と対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。本明細書においては、文脈上別に理解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向、及び「T軸」方向とする。L軸、W軸、及びT軸は互いに直交している。コイル軸Axは、T軸方向に沿って延びている。コイル軸Axは、例えば、平面視で長方形形状を有する第1主面10aの対角線の交点を通り第1主面10aに垂直な方向に延びる。
【0034】
本発明の一又は複数の実施形態において、コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1~4.5mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1~4.0mmとなるように形成される。これらの寸法はあくまで例示であり、本発明を適用可能なコイル部品1は、本発明の趣旨に反しない限り、任意の寸法を取ることができる。一又は複数の実施形態において、コイル部品1は、低背に形成される。例えば、コイル部品1は、その幅寸法が高さ寸法よりも大きくなるように形成される。
【0035】
基体10は、磁性材料から構成される構造体である。基体10は、例えば、表面に絶縁膜が設けられた複数の金属磁性粒子を結合させることによって形成される構造体である。
図4に示されているように、基体10に含まれる金属磁性粒子30の各々は、隣接する金属磁性粒子30と絶縁膜40を介して結合される。絶縁膜40は、金属磁性粒子30の表面が酸化されることで形成される酸化膜であってもよい。金属磁性粒子の表面の絶縁膜40は、絶縁性に優れた絶縁材料から成るコーティング膜であってもよい。一部の金属磁性粒子30同士は、絶縁膜40を介さずに直接結合されてもよい。一又は複数の実施形態において、金属磁性粒子30は、隣接する金属磁性粒子30と樹脂により結合されていてもよい。
【0036】
基体10において、金属磁性粒子30間には空隙が存在している。基体10の空隙は、基体10のうち金属磁性粒子30又は絶縁膜40によって占められていない領域を意味する。基体10の空隙率は、コイル導体25の空隙率よりも大きい。本発明の一又は複数の実施形態においては、基体10の空隙率は5%以上20%未満とされる。本明細書においては、基体10の断面の所定領域に占める空隙の面積の割合を基体10の空隙率とする。基体10の断面における空隙の面積は、例えば以下のようにして求められる。まず、基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により所定の倍率(例えば、2000倍から5000倍の範囲の倍率)で撮影して、基体10の断面の一部を観察視野とするSEM像を得る。次に、この撮影により得られたSEM像に例えば2値化処理などの画像処理を行って、空隙と空隙以外の領域とを区別し、空隙に分類された領域の面積を求める。2値化処理ではなく多値化処理を行ってもよい。そして、このようにして求められた観察視野内での空隙の面積を合計し、この観察視野における空隙の合計の面積を観察視野の面積で除することで空隙率が算出される。百分率で表される空隙率は、以下の式で表される。
空隙率(%)=(観察視野内の空隙の面積の合計/観察視野の総面積)x100
【0037】
一実施形態において、金属磁性粒子30は、(1)合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-AlもしくはFe-Ni、(2)非晶質のFe―Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、又は(3)これらの混合材料の粒子である。金属磁性粒子が合金系の材料から構成される場合には、金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、80wt%以上92wt%未満とされてもよい。金属磁性粒子が非晶質の材料から構成される場合には、金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、72wt%以上85wt%未満とされてもよい。Fe以外の元素(Si及びおよびFeより酸化しやすい金属元素)を含有することにより金属磁性粒子内のFeの酸化を抑制することができる。金属磁性粒子におけるSi及びFeより酸化しやすい金属元素の合計の含有比率は、8wt%以上とされてもよく、10wt%以上とされてもよい。
【0038】
基体10の材料として用いられる金属磁性粒子30は、互いに平均粒径の異なる2種類以上の粒子を含んでもよい。例えば、基体10の材料として用いられる金属磁性粒子30は、第1平均粒径を有する第1の金属磁性粒子と、この第1平均粒径よりも小さな第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子と、を含んでもよい。第2金属磁性粒子の平均粒径が第1金属磁性粒子の平均粒径よりも小さい場合、第2金属磁性粒子が隣接する第1金属磁性粒子の間の隙間に入り込み易く、その結果、基体10における金属磁性粒子の充填率(Density)を高めることができる。基体10における金属磁性粒子の充填率を高めることにより、基体10の空隙率を低下させることができる。一実施形態において、基体10の材料として用いられる金属磁性粒子30は、第2平均粒径よりも小さな第3平均粒径を有する第3金属磁性粒子をさらに含んでもよい。
【0039】
図2に示されているように、基体10は、積層された複数の磁性体層を有していてもよい。図示のように、基体10は、本体部20、この本体部20の上面に設けられた上部カバー層18、この本体部20の下面に設けられた下部カバー層19を備えてもよい。本体部20は、積層された磁性体層11~16を含む。上部カバー層18は、4枚の磁性体層18a~18dを含む。下部カバー層19は、4枚の磁性体層19a~19dを含む。基体10においては、
図2の上から下に向かって、上部カバー層18、磁性体層11、磁性体層12、磁性体層13、磁性体層14、磁性体層15、磁性体層16、磁性体層17、下部カバー層19の順に積層されている。コイル部品1は、磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~18d、及び磁性体層19a~19d以外にも、必要に応じて、任意の数の磁性体層を含むことができる。磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~18d、及び磁性体層19a~19dの一部は、適宜省略することができる。
図3においては、磁性体層間の境界が示されているが、本発明が適用された実際のコイル部品の基体10においては磁性体層間の境界は視認できないこともある。
【0040】
磁性体層11~磁性体層16の上面には、導体パターンC11~C16及び引出部27a、27bに対応する導体パターンがそれぞれ形成されている。これらの導体パターンは、磁性体層11~16の表面にAg等の金属粒子とバインダ樹脂とを混合させた導電性ペーストを印刷することで形成される。導体パターンC11~C16と、引出部27a及び引出部27bに対応する導体パターンとは、同じ組成の導電性ペーストから形成されてもよい。導電性ペーストに含まれる金属粒子は加熱処理により焼結されるので、コイル導体25は、緻密で空隙の少ない構造を有する。本発明の一又は複数の実施形態において、コイル導体25の空隙率は、1%未満とされる。コイル導体25の空隙率は、基体10の空隙率と同様にして測定され得る。
【0041】
磁性体層11~磁性体層15の所定の位置には、ビアV1~V5がそれぞれ形成される。ビアV1~V5は、磁性体層11~磁性体層15の所定の位置に、磁性体層11~磁性体層15をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に上記の導電性ペーストを埋め込むことにより形成される。各導体パターンC11~C16は、コイル軸Axの周りに延伸するように形成される。図示の実施形態において、コイル軸Axは、T軸方向に延伸しており、磁性体層11~磁性体層16の積層方向と一致する。
【0042】
導体パターンC11~C16の各々は、隣接する導体パターンとビアV1~V5を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターンC11~C16が、スパイラル状の周回部26を形成する。すなわち、コイル導体25の周回部26は、導体パターンC11~C16及びビアV1~V5を有する。
【0043】
導体パターンC11のビアV1に接続されている端部と反対側の端部は、引出部27bを介して外部電極22に接続される。導体パターンC16のビアV5に接続されている端部と反対側の端部は、引出部27aを介して外部電極21に接続される。このように、コイル導体25は、周回部26と、引出部27aと、引出部27bと、を有する。
【0044】
このように、コイル導体25は、コイル軸Axの周りに延びる周回部26を有しており、基体10内に配置されている。コイル導体25のうち引出部27aの端面27a1及び引出部27bの端面27b1は基体10から外に向かって露出しているが、コイル導体25の端面27a1及び引出部27b以外の部分は基体10内に配置されている。
【0045】
次に、
図5aから
図7bを参照して、コイル導体25についてさらに説明する。これらの図では、コイル部品1の使用時に外部電極21から外部電極22に向かってコイル導体25内を電流が流れると想定している。コイル導体25内を流れる電流の経路Pは、
図6a及び
図6bに図示されている。
図7aはコイル部品1の右側面図を示しており、
図7bはコイル部品1の左側面図を示しているが、いずれの図においても外部電極21、22の図示は省略されている。また、説明の便宜のために、
図7aにおいては基体10を透過して基部28aを図示しており、
図7bにおいては基体10を透過して基部28bを図示している。
【0046】
図5a、
図6a、及び
図7aに示されているとおり、コイル導体25の引出部27aは、一端において導体パターンC16に接続されている基部28aと、基部28aの他端に接続されている先端部29aと、を有する。つまり、基部28aは、導体パターンC16と先端部29aとの間に設けられている。図示の実施形態において、基部28a及び先端部29aはいずれもL軸方向に沿って延伸している。先端部29aは、端面27a1を有し、この端面27a1が基体10の第1端面10cから基体10の外部に露出している。先端部29aは、端面27a1において外部電極21と接続されている。引出部27aは、基部28aを備えなくともよい。引出部27aが基部28aを備えない場合には、先端部29aが導体パターンC16に接続される。
【0047】
図5aに示されているように、引出部27aは、先端部29aの端にある端面27a1のT軸方向における寸法T12がコイル導体25のコイル部のT軸方向における寸法よりも小さくなるように構成されている。コイル導体25のコイル部は、コイル導体25の一方の端面27a1と他方の端面27b1とを接続する部分を示す。コイル導体25のコイル部の形状は任意である。コイル導体25のコイル部の寸法を端面27a1又は端面27b1の寸法と比較する場合には、当該コイル部を電流経路Pに直交する平面で切断した断面の寸法が端面27a1の寸法又は端面27b1の寸法と比較される。本明細書において、端面27a1又は端面27b1の寸法と対比する文脈において周回部26の寸法に言及する場合には、周回部26の寸法は、周回部26のうち導体パターンC11~C16のいずれかの寸法を指し示し、ビアV1~V5の寸法を指し示さない。本明細書においては、コイル導体25の各部位を電流経路Pに直交する平面で切断した断面のT軸方向における寸法を、当該部位の「厚さ寸法」と呼ぶことがある。周回部26の厚さ寸法は、周回部26を構成する導体パターンC11~C16のいずれかの厚さ寸法を意味する。周回部26の厚さ寸法と端面27a1のT軸方向における寸法T12とを比較する際には、周回部26のうち引出部27aに接続されている導体パターンC16の厚さ寸法T11が周回部26の厚さ寸法として用いられる。よって、端面27a1の厚さ寸法T12が周回部26の厚さ寸法よりも小さいという場合には、端面27a1の厚さ寸法T12が導体パターンC16の厚さ寸法T11よりも小さいことを意味する。導体パターンC16の厚さ寸法は、基部28aの厚さ寸法と等しくても良い。この場合、基部28aの厚さ寸法(すなわち、T軸方向における寸法)もT11となる。本発明の一又は複数の実施形態において、導体パターンC16の厚さ寸法T11は、30~110μmの範囲にある。本発明の一又は複数の実施形態において、端面27a1のT軸方向における寸法T12は、15~105μmの範囲にある。
【0048】
図6aに示されているように、端面27a1のW軸方向における寸法W12は、導体パターンC16を電流経路Pに直交する平面で切断した断面のT軸に直交する方向における寸法W11よりも大きい。本明細書においては、コイル導体25の各部位を電流経路Pに直交する平面で切断した断面のT軸に直交する方向における寸法を、当該部位の「幅寸法」と呼ぶことがある。この用法に従って説明すれば、導体パターンC16の幅寸法は、W11である。本発明の一又は複数の実施形態において、導体パターンC16の幅寸法W11は、15~250μmである。導体パターンC16の幅寸法W11はこれより小さくても、大きくてもよい。導体パターンC16の幅寸法W11は、厚さ寸法T11よりも大きくてもよい。
【0049】
図示の実施形態では、基部28aの幅寸法は、導体パターンC16の幅寸法W11と等しい。先端部29aは、平面視したときに(T軸の方向から見たときに)、基部28aとの接続位置よりも第1端面10cに近い位置(例えば、端面27a1)において拡幅されている。よって、先端部29aの端にある端面27a1の幅寸法(W軸方向における寸法)W12は、基部28aの幅寸法W11よりも大きい。端面27a1の幅寸法W12は、その厚さ寸法T12よりも大きくてもよい。端面27a1の幅寸法W12は、その厚さ寸法T12の3倍以上であってもよく、5倍以上であってもよい。
【0050】
本発明の一又は複数の実施形態において、端面27a1の面積及び/又は先端部29aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積は、基部28aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積と等しい。本発明の一又は複数の実施形態において、端面27a1の面積及び/又は先端部29aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積は、周回部26を電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積と等しい。このように、先端部29aは、そのT軸方向における寸法T12が導体パターンC16のT軸方向における寸法よりも小さいが、その電流経路Pに直交する面積は、コイル導体25の他の部位の電流経路Pに直交する面積と等しいため、コイル導体25の直流抵抗を電流経路P上の位置によらず一定にすることができる。
【0051】
本発明の一又は複数の実施形態において、端面27a1の面積及び/又は先端部29aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積は、基部28aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積より大きい。本発明の一又は複数の実施形態において、端面27a1の面積及び/又は先端部29aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積は、周回部26を電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積より大きい。このように、先端部29aは、そのT軸方向における寸法T12が導体パターンC16のT軸方向における寸法よりも小さいが、その電流経路Pに直交する面積は、コイル導体25の他の部位の電流経路Pに直交する面積より大きいため、コイル導体25の直流抵抗を増大させずに、コイル導体25と外部電極21とをより強固に接続することができる。
【0052】
図7aに示されているように、先端部29aは、端面27a1のT軸方向における寸法T12がW軸方向における寸法W12よりも小さくなるように構成されている。このため、図示の実施形態では、T軸方向が端面27a1の短軸方向となり、T軸に直交するW軸方向が端面27a1の長軸方向となる。つまり、端面27a1の短軸方向における寸法がT12であり、長軸方向における寸法がW12である。同様に、基部28a及び導体パターンC16は、その厚さ寸法T12が幅寸法W12よりも小さくなるように構成されている。このため、図示の実施形態では、基部28aを流経路Pに直交する平面で切断した断面において、T軸方向がその短軸方向となり、T軸に直交する方向がその長軸方向となる。同様に、導体パターンC16を流経路Pに直交する平面で切断した断面において、T軸方向がその短軸方向となり、T軸に直交する方向がその長軸方向となる。つまり、導体パターンC16の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法がT11であり、長軸方向における寸法がW11である。
【0053】
本発明の一又は複数の実施形態において、コイル導体25のコイル部の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法の比は、0.5以上0.95以下とされる。図示の実施形態においては、引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T11(つまり、導体パターンC16の厚さ寸法T11)に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T12の比(T12/T11)が0.5以上0.95以下とされる。以下、説明の便宜のために、コイル導体25のコイル部の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法の比(例えば、T12/T11。)を「短軸方向寸法比」と呼ぶ。短軸方向寸法比(T12/T11)の上限は、0.9、0.85、0.8、0.75、0.7、0.65、又は0.6であってもよい。短軸方向寸法比が小さくなると、コイル導体25の電流経路Pの途中で厚さ寸法がT11からT12へ変化する位置に電流負荷が過度に集中してしまい、これによりオープン故障が発生しやすくなる。このように短軸方向寸法比が小さくなりすぎると信頼性が低下するため、本発明の一又は複数の実施形態においては、短軸方向寸法比の下限を0.5とする。
【0054】
図5b、
図6b、及び
図7bに示されているとおり、コイル導体25の引出部27bは、その一端が導体パターンC11に接続されている基部28bと、基部28bの他端に接続されている端とは反対の端に接続されている先端部29bと、を有する。図示の実施形態において、引出部27bは、
図3に示されている断面で見たときに、T軸に沿って延びる軸線を対称軸として引出部27aと線対称に形成されている。このため、引出部27aに関する説明は、矛盾の無い限り引出部27bの説明に援用される。繰り返しを避けるために、以下では引出部27bについて簡潔に説明する。。
【0055】
図5bに示されているように、引出部27bは、先端部29bの端にある端面27b1の厚さ寸法T22が周回部26(導体パターンC11)のT軸方向における寸法T21よりも小さくなるように構成されている。
図6bに示されているように、端面27b1のW軸方向における寸法W22は、導体パターンC11を電流経路Pに直交する平面で切断した断面のT軸に直交する方向における寸法W21(幅寸法W21)よりも大きい。端面27b1の面積及び/又は先端部29bの電流経路Pに直交する面積は、基体28bを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積及び/又は周回部26を電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積と等しくすることができる。この場合、コイル導体25の直流抵抗を電流経路P上の位置によらず一定にすることができる。
図7bに示されているように、先端部29bは、端面27a1の厚さ寸法T22が幅寸法W22よりも小さくなるように構成されている。端面27b1の面積及び/又は先端部29aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積は、基部28aを電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積及び/又は周回部26を電流経路Pに直交する平面で切断した断面の面積より大きくてもよい。これにより、コイル導体25の直流抵抗を増大させずに、コイル導体25と外部電極22とをより強固に接続することができる。
【0056】
本発明の一又は複数の実施形態において、導体パターンC11の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法T21に対する引出部27bの端面27b1の短軸方向における寸法T22の比T22/T21(つまり、引出部27bについての短軸方向寸法比)は、0.5以上0.95以下とされる。T22/T21の上限は、0.9、0.85、0.8、0.75、0.7、0.65、又は0.6であってもよい。
【0057】
次に、
図8a及び
図8bを参照して、外部電極21及び外部電極22についてさらに説明する。
図8aに示されているように、本発明の一又は複数の実施形態において、外部電極21の外表面の端面27a1と対向する位置には凹部21aが形成されている。外部電極21の外表面には、凹部21aが形成されていなくともよい。外部電極21に凹部21aが形成される場合であっても、凹部21aの深さは、コイル部品1のその他の部位の寸法に対して極めて小さい。例えば、凹部21aの深さT13の導体パターンC16の厚さ寸法T11に対する比(T13/T11)は、0.1以下である。本明細書においては、凹部21aの深さT13の導体パターンC16の厚さ寸法T11に対する比T13/T11を、外部電極21の「凹部深さ比」と呼ぶ。よって、本発明の一又は複数の実施形態において、外部電極21の凹部深さ比は、0.1以下である。外部電極21、22は、例えば、基体10の表面にAg等の金属粒子と熱硬化性樹脂とを混合した導電性ペーストを塗布し、この塗布した導電性ペーストを乾燥させたのちに加熱処理を行うことで作製される。この導電性ペーストには、ガラスが含まれてもよい。また、導電性ペーストには、バインダとなる樹脂が含まれてもよい。加熱処理により、導電性ペーストに含まれる金属粒子が焼結してもよい。外部電極21、22となる導電性ペーストは、基体10の表面に端面27a1及び端面27b1を覆うように塗布される。外部電極21、22は、めっき層を含んでもよい。このめっき層は2層以上であってもよい。2層のめっき層は、Niめっき層と、当該Niめっき層の外側に設けられるSnめっき層と、を含んでもよい。外部電極21、22は、複数の層からなっていてもよい。
【0058】
図8bに示されているように、本発明の一又は複数の実施形態において、外部電極22の外表面の端面27b1と対向する位置には凹部22aが形成されている。外部電極22の外表面には、凹部22aが形成されていなくともよい。外部電極22に凹部22aが形成される場合であっても、凹部22aの深さは、コイル部品1のその他の部位の寸法に対して極めて小さい。例えば、凹部22aの深さT23の導体パターンC11の厚さ寸法T21に対する比(T23/T21)は、0.1以下である。本明細書においては、凹部22aの深さT23の導体パターンC11の厚さ寸法T21に対する比T23/T21を、外部電極22の「凹部深さ比」と呼ぶ。よって、本発明の一又は複数の実施形態において、外部電極22の凹部深さ比は、0.1以下である。
【0059】
上記の実施形態においては、コイル導体25が周回部26を有する態様について説明したが、コイル導体25の一方の端面27a1と他方の端面27b1とを接続するコイル部の形状は任意である。コイル導体25のコイル部は、特定の軸の周りに1ターン以上巻かれていなくともよい。コイル導体25のコイル部は、平面視(T軸方向から見た視点)又は正面視(W軸方向から見た視点)において、湾曲した湾曲部、直線状に延びる直線部、又はこれらの組み合わせから構成されていてもよい。湾曲部は、特定の軸の周りに1ターン以上巻かれていなくともよい。コイル導体25のコイル部は、例えば、平面視において端面27a1から端面27b1に延びる直線状の形状を有していてもよい。
【0060】
次に、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。本発明の一又は複数の実施形態において、コイル部品1は磁性体シートを積層するシート積層法により作製される。シート積層法によりコイル部品1を作製する場合には、まず、上部カバー層18となる上部積層体、本体部20となる中間積層体、及び下部カバー層19となる下部積層体を形成する。上部積層体は磁性体層18a~18dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成され、下部積層体は磁性体層19a~19dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成され、中間積層体は磁性体層11~16となる複数の磁性体シートを積層することによって形成される。
【0061】
コイル部品1の製造工程においては、まず、磁性体シートを作製するために、金属磁性粒子を樹脂と混練してスラリー(このスラリーを「金属磁性体ペースト」という。)を生成し、この金属磁性体ペーストを成型金型に入れて所定の成形圧力を加えることで磁性体シートを作製する。金属磁性粒子と混練される樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂、又は前記以外の公知の樹脂が用いられ得る。磁性体シートは、後工程での加熱処理後に、基体10の空隙率が5%以上20%未満となるように作製される。例えば、磁性体シートにおける金属磁性粒子の充填率を調整することにより、基体10の空隙率を調整することができる。磁性体シートにおける金属磁性粒子の充填率は、金属磁性粒子として互いに平均粒径の異なる2種類以上の金属磁性粒子を混合すること、成型圧力を調整すること、及びこれら以外の方法で調整可能である。
【0062】
中間積層体は、導体パターンC11及び引出部27bに対応する未焼成導体パターンが形成された磁性体シート、導体パターンC12~C15に対応する未焼成導体パターンがそれぞれ形成された磁性体シート、及び導体パターンC16及び引出部27aに対応する未焼成導体パターンが形成された磁性体シートを積層することによって形成される。中間積層体用の磁性体シートの各々には必要に応じて積層方向に貫通する貫通孔が形成される。この貫通孔が形成された磁性体シートにスクリーン印刷等により導電性ペーストを塗布することにより、各未焼成導体パターンが形成される。このとき、導電性ペーストが磁性体シートの貫通孔内に埋め込まれ、ビアV1~V5となる未焼成ビアが形成される。
【0063】
図9を参照して、本発明の一又は複数の実施形態に従って磁性体シートに導体パターンC16及び引出部27aを含む未焼成導体パターンを形成する工程について説明する。
図9(a)に示されているように、まず磁性体シート116を準備する。次に、
図9(b)に示されているように、磁性体シート116の上面に導電性ペーストを塗布し、平面視において(T軸方向から見たときに)導体パターンC16に対応する形状を有する第1導体層41を形成する。平面視した導体パターンC16の形状は、
図6aに例示されている。
【0064】
次に、
図9(c)に示されているように、磁性体シート116の上面に第1導体層41に接するように、平面視において(T軸方向から見たときに)引出部27aに対応する形状を有する第2導体層41を形成する。後述する加熱処理後に、第1導体層41が導体パターンC16となり、第2導体層42が引出部27aとなる。
【0065】
このようにして、磁性体シート116の上に導体パターンC16及び引出部27aを含む未焼成導体パターンが形成される。磁性体シートへの導体パターンC11及び引出部27bに対応する未焼成導体パターンの形成も上記と同様にして行われる。
図9においては、説明の便宜上、第1導体層41と第2導体層42との間に境界を明瞭に描いているが、本発明が適用された実際のコイル部品においては第1導体層41と第2導体層42との間の境界は視認できないこともある。
【0066】
第1導体層41と第2導体層42の磁性体シート116への塗布は、どちらを先に行ってもよい。第2導体層42が先に塗布される場合には、磁性体シート116の上面に第2導体層42を塗布した後、この第2導体層42に接するように第1導体層41が磁性体シート116の上面に塗布される。第1導体層41と第2導体層42とが接する場合、第1導体層41の一部が第2導体層42の上面に付着してもよいし、第2導体層42の恥部が第1導体層41の上面に付着してもよい。
【0067】
第1導体層41及び第2導体層42の形状は、上述した形状には限られない。例えば、第1導体層41が平面視において導体パターンC16及び引出部27aの基部28aに対応する形状を有し、第2導体層42が平面視において引出部27aの先端部29aに対応する形状を有するように形成されてもよい。この場合、加熱処理後に、第1導体層41が導体パターンC16及び引出部27aの基部28aとなり、第2導体層42が先端部29aとなる。
【0068】
図10を参照して、
図9とは別の実施形態に従って磁性体シートに導体パターンC16及び引出部27aを含む未焼成導体パターンを形成する工程について説明する。
図10(a)に示されているように、まず磁性体シート116を準備する。次に、
図10(b)に示されているように、磁性体シート116の上面に導電性ペーストを塗布し、平面視において(T軸方向から見たときに)導体パターンC16及び引出部27aの基部28aに対応する形状を有する第1導体層51を形成する。平面視した導体パターンC16の形状は、
図6aに例示されている。
【0069】
次に、
図10(c)に示されているように、第1導体層51の上面に導電性ペーストを塗布し、平面視において(T軸方向から見たときに)導体パターンC16及び引出部27aに対応する形状を有する第2導体層52を形成する。第2導体層52を形成する際には、導電性ペーストの一部が第1導体層51からはみ出して磁性体シート116の上面に付着するように塗布される。このため、第2導体層52は、平面視において第1導体層51と重複している第1領域52aと、平面視において第1導体層51と重複していない第2領域52bと、を有する。後述する加熱処理後に、第1導体層51と第2導体層52の第1領域52aとが導体パターンC16及び基部28aとなり、第2領域52bが先端部29aとなる。
【0070】
このようにして、磁性体シート116の上に導体パターンC16及び引出部27aを含む未焼成導体パターンが形成される。磁性体シートへの導体パターンC11及び引出部27bに対応する未焼成導体パターンの形成も上記と同様にして行われる。
図9においては、説明の便宜上、第1導体層51と第2導体層52との間に境界を明瞭に描いているが、本発明が適用された実際のコイル部品においては第1導体層51と第2導体層52との間の境界は視認できないこともある。
【0071】
第1導体層51及び第2導体層52の形状は、上述した形状には限られない。例えば、第1導体層51は、平面視において導体パターンC16に対応する形状を有するように形成されてもよい。この場合、加熱処理後に、第1導体層51及び第2導体層52の第1領域52aが導体パターンC16となり、第2領域52bが基部28a及び先端部29aとなる。
【0072】
図11を参照して、
図10とはさらに別の実施形態に従って導体パターンC16及び引出部27aを含む未焼成導体パターンを形成する工程について説明する。
図11(a)に示されているように、まず磁性体シート116を準備する。次に、
図11(b)に示されているように、磁性体シート116の上面に導電性ペーストを塗布し、平面視において(T軸方向から見たときに)導体パターンC16及び引出部27aに対応する形状を有する第1導体層61を形成する。平面視した導体パターンC16及び引出部27aの形状は、
図6aに例示されている。次に、
図11(c)に示されているように、第1導体層61の上面に導電性ペーストを塗布し、平面視において(T軸方向から見たときに)導体パターンC16及び基部28aに対応する形状を有する第2導体層62を形成する。第2導体層62を形成する際には、導電性ペーストは、第1導体層61の上面の一部に塗布される。このため、第1導体層61は、平面視において第2導体層62と重複している第1領域61aと、平面視において第2導体層62と重複していない第2領域61bと、を有する。後述する加熱処理後に、第1導体層61の第1領域61aと第2導体層62とが導体パターンC16及び引出部27aの基部28aとなり、第2領域61bが引出部27aの先端部29aとなる。
図11においては、説明の便宜上、第1導体層61と第2導体層62との間に境界を明瞭に描いているが、本発明が適用された実際のコイル部品においては第1導体層61と第2導体層62との間の境界は視認できないこともある。
【0073】
第1導体層61及び第2導体層62の形状は、上述した形状には限られない。第2導体層61は、平面視において導体パターンC16に対応する形状を有するように形成されてもよい。この場合、加熱処理後に、第1導体層61の第1領域61a及び第2導体層62が導体パターンC16となり、第1導体層61の第2領域61bが引出部27a(基部28a及び先端部29a)となる。
【0074】
このように、周回部26を構成する導体パターンC16は、複数の導体層(上記の例では、第1導体層51及び第2導体層52、又は、第1導体層61及び第2導体層62)から構成され、引出部27aは、単一の導体層(上記の例では、第2導体層52又は第1導体層61)から構成されていてもよい。引出部27aのうち先端部29aのみが単一の導体層から構成され、基部28aは複数の導体層から構成されてもよい。
【0075】
次に、上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザー加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体が得られる。
【0076】
次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理することで中間体が得られる。チップ積層体への加熱処理は、例えば400℃~900℃で20分間~120分間行われる。脱脂と加熱処理とは同時に行われてもよい。この加熱処理により、各磁性体シートが磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~18d、及び磁性体層19a~19dとなり、各未焼成導体パターンが導体パターンC11~C16、引出部27a、及び引出部27bとなる。つまり、中間体は、磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~18d、及び磁性体層19a~19dを有する基体10、及び、導体パターンC11~C16、引出部27a、及び引出部27bを有するコイル導体25を備える。
【0077】
次に、上記のようにして作製された中間体の表面にAg等の金属粒子と熱硬化性樹脂とを混合した導電性ペーストを塗布し、この塗布した導電性ペーストを乾燥させたのちに加熱処理を行うことで外部電極21、22を形成する。外部電極21、22となる導電性ペーストは、基体10の表面に端面27a1及び端面27b1を覆うように塗布される。外部電極21、22は、表記の方法によらずとも、様々な方法で作成され得る。外部電極21、22は、例えば、基体10の表面にAg等の金属粒子とガラス、およびバインダとなる樹脂とを混合した金属ペーストを塗布し、この塗布した金属ペーストを乾燥させたのちに加熱処理を行うことで、金属粒子を焼結させることでも作製され得る。外部電極21、22は、複数の層からなっていてもよい。外部電極21、22は、さらに、めっき層を含んでもよい。このめっき層は2層以上であってもよい。2層のめっき層は、Niめっき層と、当該Niめっき層の外側に設けられるSnめっき層と、を含んでもよい。以上により、コイル部品1が得られる。
【0078】
続いて、
図12a及び
図12bを参照して、中間体に塗布される導電性ペーストの流動について説明する。
図12aは、本発明の一又は複数の実施形態における中間体の表面(第1端面10c)に塗布される導電性ペースト121の流動を説明するための説明図であり、
図12bは、従来のコイル部品を作製する過程で外部電極を作製するために基体の表面に塗布される導電性ペーストP121の流動について説明する図である。
図12aに示されているように、本発明の実施形態において、導電性ペースト121は、基体10の第1端面10cに、この第1端面10cから露出している引出部27aの端面27a1を覆うように塗布される。同様に、
図12bに示されている従来例においても、基体の第1端面P10cから引出部の端面P27a1が露出しており、導電性ペーストP121は、基体の第1端面P10cに、この第1端面P10cから露出している引出部の端面P27a1を覆うように塗布される。
【0079】
図12aに示されている本発明の実施形態と
図12bに示されている従来例とでは、引出部の端面の形状が異なっている。従来のコイル部品においては、コイル導体と外部電極との接合強度を高める目的又はそれ以外の目的のために、引出部の端面の厚さ寸法(短軸方向における寸法)が周回部の厚さ寸法(短軸方向における寸法)と同じかそれ以上となるように構成されていた。つまり、従来のコイル部品においては、導体パターンの電流経路に直交する断面の短軸方向における寸法に対する引出部の端面P27a1の短軸方向における寸法の比が1以上とされていた。これに対して、上記のとおり、本発明の一又は複数の実施形態においては、導体パターンC16の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法T11に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T12の比(T12/T11)が0.5以上0.95以下となるように構成される。よって、
図12a及び
図12bの記載から理解されるように、周回部の寸法が同一であれば、本発明の実施形態における端面27a1の短軸方向の寸法は、従来の端面P27a1の短軸方向の寸法よりも小さくなる。
【0080】
金属磁性材料により構成された基体は、フェライト材料から構成された基体よりも空隙率が大きくなるように構成されるため、金属磁性材料から構成された基体に塗布された導電性ペーストは基体内部にしみ込みやすい。導電性ペーストが基体の内部にしみ込むと、基体内部へのしみ込みが発生した領域に隣接する領域から導電性ペーストが流れ込む。導電性ペーストの引出部の端面に対する濡れ性は、基体の表面に対する濡れ性よりも格段に高いため、導電性ペーストに対して引出部の端面から作用する摩擦力は、基体の表面から作用する摩擦力よりも小さい。このため、引出部の端面付近で導電性ペーストが基体の内部にしみ込むと、引出部の端面にある導電性ペーストがしみ込みが発生した領域に流動しやすい。引出部の端面は、主にその長軸方向に延びる辺において基体の表面と接しているため、引出部の端面にある導電性ペーストは当該端面の短軸方向に流動しやすい。
【0081】
このように、導電性ペーストが基体の内部にしみ込むと、導電性ペーストのうち引出部の端面に塗布された部位が引出部の端面からその端面を取り囲む基体の表面に向かって主に短軸方向に流動する。基体の表面P10cから露出する端面P27a1の短軸方向における寸法が本願発明に比べて大きい従来のコイル部品においては、導電性ペーストP121が端面P27a1の短軸方向に流動する際に、導電性ペーストの短軸方向への移動を妨げる摩擦力が小さいため、引出部の端面の付近で導電性ペーストの基体内部へのしみ込みが発生した際に、導電性ペーストが引出部の端面P27a1から基体の表面P10cに向かって短軸方向に流動しやすい。このため、従来のコイル部品においては製造時に多くの導電性ペーストが短軸方向に流動するため、外部電極の端面P27a1と対向する位置に、端面P27a1の長軸方向に延びる凹部が形成されやすい。導電性ペーストに熱処理をする際には、導電性ペーストのうち凹部となる領域の近傍に熱応力が集中しやすくなり、また完成品のコイル部品においても外部電極の凹部付近に残留応力が残りやすくなる。このように、外部電極に導電性ペーストの基体内部への流動に起因する凹部が形成されていると、外部電極が脆くなり、クラックが発生する原因となる。また、導電性ペーストに熱処理を行う際に、外部電極の凹部近傍に応力が集中するため、熱処理工程で収縮する導電性ペーストから基体に対して不均一な応力が作用する。基体が複数の磁性体層の積層体である場合には、導電性ペーストの加熱工程において外部電極から基体に作用する応力により基体の層間が剥離しやすくなる。つまり、基体にデラミネーションが発生しやすくなる。
【0082】
これに対して、本願発明の一又は複数の実施形態におけるコイル導体25は、従来とは異なり、引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法が周回部26の断面の短軸方向における寸法よりも小さくなるように、具体的には、導体パターンC16の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法T11に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T12の比(T12/T11)が0.95以下となるように構成されている。このように、引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法が周回部26の断面の短軸方向における寸法よりも小さいため、引出部の端面の短軸方向における寸法が周回部の短軸方向における寸法と同じかそれ以上である従来のコイル部品と比べて、導電性ペースト121が端面27a1の短軸方向に流動する際に、導電性ペーストに対して引出部27aの端面27a1からの摩擦力だけでなく基体10の表面(第1端面10c)からの摩擦力も作用する。例えば、導電性ペーストがT軸の正方向に流動する際には、第1端面10cのうち端面27a1に対してT軸の負側にある領域から導電性ペーストに対してT軸正方向への流動を妨げる摩擦力(T軸負方向への摩擦力)が作用する。逆に、導電性ペーストがT軸の負方向に流動する際には、第1端面10cのうち端面27a1に対してT軸の正側にある領域から導電性ペーストに対してT軸負方向への流動を妨げる摩擦力(T軸正方向への摩擦力)が作用する。このように、本発明の実施形態においては、端面27a1から基体の第1端面10cの隣接する領域に流動する導電性ペーストに対して、端面27a1だけでなく基体10の第1端面10cからも摩擦力が作用するため、端面27a1と隣接する領域において導電性ペーストのしみ込みが発生しても、端面27a1から基体の第1端面10cの隣接する領域への導電性ペーストの流動が抑制される。このため、本発明の実施形態においては、外部電極21の表面のうち引出部27aの端面27a1と対向する領域における凹部の形成が抑制される。このように、外部電極21の表面のうち引出部27aの端面27a1と対向する領域には、凹部が全く形成されないか、凹部21aが形成される場合であってもその深さは小さくなるので、外部電極21における応力の集中を抑制することができ、これにより外部電極21、22におけるクラックの発生や、基体10におけるデラミネーションの発生を抑制することができる。
【実施例0083】
次に、本発明の実施例について説明する。評価対象とする試料を以下のようにして作製した。まず、金属磁性粒子とポリビニルブチラール(PVB)樹脂とを混練して得られた金属磁性体ペーストから、シート成形機を用いて複数の磁性体シートを作製し、この磁性体シートの所定の位置に貫通孔を形成した。この貫通孔が形成された磁性体シートに、Ag等の金属粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを混合した導電性ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、導体パターンC11及び引出部27bに対応する未焼成導体パターンが形成された磁性体シート、導体パターンC12~C15に対応する未焼成導体パターンがそれぞれ形成された磁性体シート、及び導体パターンC16及び引出部27aに対応する未焼成導体パターンが形成された磁性体シートを作製した。導体パターンC16及び引出部27aに対応する未焼成導体パターンが形成された磁性体シートとして、当該未焼成導体パターンの膜厚が異なる13種類の磁性体シートを準備した。この13種類の磁性体シートは、導体パターンC16及び引出部27aに対応する未焼成導体パターンにおいて、加熱処理後に導体パターンC16の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法T11に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T12の比である短軸方向寸法比(T12/T11)がそれぞれ以下の値となるように形成された。
(1)0.2
(2)0.35
(3)0.45
(4)0.48
(5)0.5
(6)0.54
(7)0.65
(8)0.8
(9)0.9
(10)0.95
(11)1.0
(12)1.1
(13)1.25
【0084】
次に、これらの未焼成導体パターンが形成された磁性体シート及び未焼成導体パターンが形成されていない磁性体シートを積層して本体積層体を作製し、この本体積層体をダイシング機で個片化してチップ積層体を作製した。次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理することで中間体を作製した。次に、上記のようにして作製された中間体の表面にAg粒子と熱硬化性樹脂とを混合した導電性ペーストを塗布し、この塗布した導電性ペーストに加熱処理を行うことで外部電極21、22を形成した。このようにして短軸方向寸法比が異なる13種類のコイル部品を作製した。1種類ごとに20個ずつのコイル部品を作製した。
【0085】
次に、以上のようにして作製した13種類のコイル部品の各々について、外部電極の引出部の端面と対向する位置に凹部が形成されているか否かを確認した。外部電極の表面に多少の凹凸は必然的に形成されるため、引出部の端面と対向する位置に、外部電極の導体パターンC16の厚さ寸法T11の0.1倍よりも深い凹部が形成されているコイル部品について凹部を有すると判定した。この実験結果を
図13に示す。
図13は、短軸方向寸法比(T12/T11)と外部電極21における凹部の発生率との関係を示すグラフであり、横軸に短軸方向寸法比を100分率で示し、縦軸に20個のコイル部品のうち凹部が確認されたコイル部品の数の割合を100分率で示している。
図13に示されているように、短軸方向寸法比が0.95以下のコイル部品においては、その外部電極に凹部が形成されていないことが確認できた。他方、短軸方向寸法比が1.0のときに、20個のコイル部品中の2個について外部電極の引出部の端面と対向する位置に凹部が形成されていることが確認された。つまり、短軸方向寸法比が1.0のコイル部品については、凹部の発生率が10%であった。
図13に示されているように、短軸方向寸法比が大きくなるほど凹部の発生率は上昇し、短軸方向寸法比が1.1のコイル部品における凹部の発生率は30%、短軸方向寸法比が1.25のコイル部品における凹部の発生率は70%であった。以上から、短軸方向寸法比(T12/T11)を0.95以下とすることにより、外部電極における凹部の形成を防止できることが分かった。
【0086】
また、作製した13種類のコイル部品について、短軸方向寸法比と高温信頼性との関係を評価した。この結果の一部が
図14に示されている。高温信頼性を評価する高温信頼性試験では、温度85℃の下で、各コイル部品の外部電極間に1V/μmの電界強度の電圧を印加し、電流が流れなくなった時点を故障(オープン故障)とみなし、この故障時間が1000時間を上回ったコイル部品を良品とし、故障時間が1000時間以下の試料については不良品とした。
図14に示されているように、短軸方向寸法比が0.5以上のコイル部品においては不良品の発生はなかった。他方、端面27a1が0.5よりも小さくなると不良品が発生し、短軸方向寸法比が0.48の20個のコイル部品のうち1つが不良品となった。
図14に示されているように、短軸方向寸法比が小さくなるほど不良品の発生率は上昇し、短軸方向寸法比が0.45のコイル部品における不良品の発生率は20%、短軸方向寸法比が0.35のコイル部品における凹部の発生率は45%、短軸方向寸法比が0.2のコイル部品における凹部の発生率は75%であった。以上から、短軸方向寸法比(T12/T11)を0.5以上とすることにより、優れた高温信頼性が得られることが分かった。短軸方向寸法比が0.5より小さいと、コイル導体25の電流経路Pの途中で厚さ寸法がT11からT12へ急激に変化し、その厚さが変化する位置に電流負荷が集中するためと考えられる。
【0087】
また、上記の高温信頼性試験の結果と、外部電極の引出部の端面と対向する位置に形成された凹部の深さT13の導体パターンC16の厚さ寸法T11に対する比である凹部深さ比(T13/T11)との関係を調査した。凹部深さ比と不良品発生率との関係は、
図15に示す関係となった。
図15に示されているように、凹部深さ比が0.1以下のコイル部品においては不良品の発生はなかった。凹部深さ比が0.1を超えると不良品が発生し、凹部深さ比が大きくなるほど不良品の発生率は上昇する傾向が確認された。
【0088】
次に、上記の実施形態による作用効果について説明する。本願発明の一又は複数の実施形態におけるコイル導体25は、周回部26(導体パターンC16)の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法T11に対する引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T12の比(T12/T11)である短軸方向寸法比が0.95以下となるように構成されている。このように、引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法が周回部26の断面の短軸方向における寸法よりも小さいため、引出部の端面の短軸方向における寸法が周回部の短軸方向における寸法と同じかそれ以上である従来のコイル部品と比べて、導電性ペースト121が端面27a1の短軸方向に流動する際に、導電性ペーストに対して引出部27aの端面27a1からの摩擦力だけでなく基体10の表面(第1端面10c)からの摩擦力も作用する。このため、端面27a1と隣接する領域において基体10内部への導電性ペーストのしみ込みが発生しても、端面27a1から基体の第1端面10cの隣接する領域への導電性ペーストの流動が抑制され、その結果、外部電極21の表面のうち引出部27aの端面27a1と対向する領域における凹部の形成が抑制される。このように、外部電極21の表面のうち引出部27aの端面27a1と対向する領域には、凹部が全く形成されないか、凹部21aが形成される場合であってもその深さは小さくなるので、外部電極21における応力の集中を抑制することができ、これにより外部電極21におけるクラックの発生や、基体10におけるデラミネーションの発生を抑制することができる。
【0089】
本発明の一又は複数の実施形態におけるコイル導体25は、周回部26(導体パターンC11)の電流経路Pに直交する断面の短軸方向における寸法T21に対する引出部27bの端面27b1の短軸方向における寸法T22の比(T22/T21)である引出部27bについての短軸方向寸法比を0.95以下となるように構成される。これにより、外部電極22においてもクラックの発生を抑制することができる。
【0090】
本発明の一又は複数の実施形態においては、引出部27aの端面27a1の短軸方向における寸法T12の比(T12/T11)である短軸方向寸法比が0.5以上であるため、信頼性に優れたコイル部品が得られる。本発明の一又は複数の実施形態においては、引出部27bについて短軸方向寸法比(T22/T21)が0.5以上であるため、さらに信頼性に優れたコイル部品が得られる。
【0091】
本発明の一又は複数の実施形態においては、外部電極21の外表面の引出部27aの端面27a1と対向する位置に凹部21aが形成される場合であっても、周回部26(導体パターンC16)の断面の短軸方向における寸法T11に対する凹部21aの深さT13の比(T13/T11)である凹部深さ比が0.1以下とされる。凹部深さ比が0.1以下となるように外部電極21を構成することにより、外部電極21において引出部27aの端面27a1との近傍への応力の集中を抑制することができ、これにより外部電極21におけるクラックの発生を抑制することができる。外部電極22においても同様に、凹部22aについての凹部深さ比が0.1以下となるように外部電極22を構成することにより、外部電極22におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0092】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0093】
コイル部品1は、シート積層法以外の当業者に知られている方法、例えばスラリービルド法、薄膜プロセス法、圧縮成形法により作製されてもよい。