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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093200
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】膜付きガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/52 20060101AFI20220616BHJP
   B32B 17/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C23C16/52
B32B17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206361
(22)【出願日】2020-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊村 正明
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭伸
【テーマコード(参考)】
4F100
4K030
【Fターム(参考)】
4F100AA33B
4F100AG00A
4F100BA02
4F100EH66B
4F100JG01B
4F100JM02B
4F100JN01B
4K030BA11
4K030BA42
4K030BA45
4K030CA06
4K030CA17
4K030EA04
4K030FA10
4K030GA04
4K030GA12
4K030JA03
4K030KA23
4K030KA36
4K030KA41
(57)【要約】
【課題】成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板の変形を要因とする、成膜処理後の膜特性のばらつきを抑制することができる、膜付きガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板G1の主面Gaに成膜処理を施して膜付きガラス基板Gを製造する方法において、一方の主面Ga側が凸になるように、湾曲形状に反らせた状態でガラス基板G1を保持し、他方の主面Ga側からガラス基板G1を加熱しつつ、一方の主面Ga側からガラス基板G1に成膜用ガス(成膜材料)Gsを供給する膜付きガラス基板Gの製造方法であって、制御装置(監視手段)40によってガラス基板G1の反り量(実反り量α)を監視し、実反り量αaが予め設定された基準反り量αと相違した場合、反り量修正手段(一対の可動式保持治具10・10)によって、実反り量αaを基準反り量αとなるように修正する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の主面に成膜処理を施して膜付きガラス基板を製造する方法において、
一方の主面側が凸になるように、湾曲形状に反らせた状態でガラス基板を保持し、
他方の主面側から前記ガラス基板を加熱しつつ、
前記一方の主面側から前記ガラス基板に成膜材料を供給する膜付きガラス基板の製造方法であって、
監視手段によって前記ガラス基板の反り量を監視し、
前記反り量が予め設定された基準反り量と相違した場合、
反り量修正手段によって前記反り量を前記基準反り量となるように修正する、
ことを特徴とする膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記反り量修正手段は、
前記ガラス基板の幅方向の両側縁部を保持する一対の可動式保持治具からなり、
前記一対の可動式保持治具を、
互いに対向して配置するとともに、
近接方向及び離間方向に可動させることで、前記ガラス基板の反り量を修正する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記反り量修正手段は、
前記他方の主面側から前記ガラス基板を加熱する加熱装置からなり、
前記加熱装置は、
前記ガラス基板に供給する熱量を調整することで、前記ガラス基板の反り量を修正する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記監視手段は、
前記ガラス基板に対して、
少なくとも前記一方の主面側を除く側から、前記反り量を検知する反り量検知手段を備える、
ことを特徴とする、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記反り量検知手段は、
一対の投光器及び受光器を有する透過型のレーザ式変位センサからなり、
前記一対の投光器及び受光器を、
前記ガラス基板に対して、当該ガラス基板の幅方向の両側に各々配置する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記反り量検知手段は、
反射型のレーザ式変位センサからなり、
前記ガラス基板に対して、前記反り量検知手段を前記他方の主面側に配置する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記反り量検知手段は、
接触式変位センサからなり、
前記ガラス基板に対して、前記反り量検知手段を前記他方の主面側に配置する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス基板の主面に施される成膜処理は、熱CVD法によって実施する、
ことを特徴とする、請求項1~請求項7の何れか1項に記載の膜付きガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付きガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ベースとなるガラス基板上に、FTO膜(フッ素ドープ酸化スズ膜)、ATO膜(アンチモンドープ酸化スズ膜)、またはITO膜(酸化インジウムスズ膜)等からなる透明導電膜が設けられた膜付きガラス基板が知られている。
上記膜付きガラス基板の成膜処理においては、例えば、熱CVD法(熱化学気相成膜法)が用いられている。
即ち、このような膜付きガラス基板は、ヒータ等の加熱装置を用いてガラス基板を加熱しながら、当該ガラス基板の主面に成膜材料を供給することで成膜処理が施され、作製される。
その為、成膜処理時の加熱によって、ガラス基板に湾曲や波打ち形状等の予期せぬ変形が生じ易く、成膜処理後の膜厚が不均一となり、膜特性にばらつきが生じる要因となる場合があった。
【0003】
一方、このような膜付きガラス基板に対する薄板化の要望は、近年増々高まる状況下にあるところ、ベースとなるガラス基板が薄板化する程(例えば、厚さ2mm以下)、成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板の変形は、より複雑、且つ顕著なものとなるため、成膜処理後の膜特性は、より一層、ばらつき易いと言える。
【0004】
そこで、このような成膜処理時の加熱によるガラス基板の変形を抑制し、成膜処理後の膜付きガラス基板の品質向上を図るための技術の一例が、特許文献1によって開示されている。
即ち、上記特許文献1においては、ベースとなるガラス基板を、その幅方向の中央部が一方向に凸となるように、湾曲形状に反らせた状態で予め規制しつつ保持しておき、この状態において、ガラス基板の第一主面に成膜用ガスを供給しつつ、ガラス基板の第二主面を加熱することで成膜処理を行う、膜付きガラス基板の製造方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-99403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1における技術によれば、湾曲形状に反らせた状態で保持されたガラス基板の主面に一様な応力を作用させることで、成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板の複雑な変形を抑えることができ、膜特性にばらつきが生じるのを効果的に防止し、成膜処理後の膜付きガラス基板の品質向上を図ることが可能であると思われる。
【0007】
しかしながら、成膜処理が行われる実行時間によっては、当該実行時間の前半と後半とでガラス基板の熱履歴が異なり、実行時間の前半と比べて後半の方が、ガラス基板の温度が高くなり、当該ガラス基板の反り量が増加する場合がある。
その結果、成膜処理の実行直後から終了直前に亘って、成膜材料を供給するノズルの噴出し口と、ガラス基板の主面との間隔を一定に保つことが困難となることから、依然として、成膜処理後の膜厚が不均一となり、膜特性にばらつきが生じる要因となり得る。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点に鑑みてなされたものであり、成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板の変形を要因とする、成膜処理後の膜特性のばらつきを抑制することができる、膜付きガラス基板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法は、ガラス基板の主面に成膜処理を施して膜付きガラス基板を製造する方法において、一方の主面側が凸になるように、湾曲形状に反らせた状態でガラス基板を保持し、他方の主面側から前記ガラス基板を加熱しつつ、前記一方の主面側から前記ガラス基板に成膜材料を供給する膜付きガラス基板の製造方法であって、監視手段によって前記ガラス基板の反り量を監視し、前記反り量が予め設定された基準反り量と相違した場合、反り量修正手段によって前記反り量を前記基準反り量となるように修正することを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、監視手段によって常時監視することで、ベースとなるガラス基板の反り量を、常に予め設定された基準反り量に保持することが可能となり、成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板の変形を要因とする、成膜処理後の膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記反り量修正手段は、前記ガラス基板の幅方向の両側縁部を保持する一対の可動式保持治具からなり、前記一対の可動式保持治具を、互いに対向して配置するとともに、近接方向及び離間方向に可動させることで、前記ガラス基板の反り量を修正するのが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、他に別途、ガラス基板の反り量を基準反り量となるように修正するための機構部を、新たに設ける必要がなく、従来の設備と比べて設備コストの増加も抑えられ、経済的である。
【0012】
また、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記反り量修正手段は、前記他方の主面側から前記ガラス基板を加熱する加熱装置からなり、前記加熱装置は、前記ガラス基板に供給する熱量を調整することで、前記ガラス基板の反り量を修正することを特徴としてもよい。
このような構成からなる、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法であっても、他に別途、ガラス基板の反り量を基準反り量となるように修正するための機構部を、新たに設ける必要がなく、従来の設備と比べて設備コストの増加も抑えられ、経済的である。
【0013】
また、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記監視手段は、前記ガラス基板に対して、少なくとも前記一方の主面側を除く側から、前記反り量を検知する反り量検知手段を備えることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、成膜処理の実行に伴い、ガラス基板の一方の主面から立ち上る反応前後の成膜ガスを避けた位置に、反り量検知手段を設けることで、当該ガスを要因とする反り量検知誤差の低減を図ったり、反り量検知手段の使用寿命の低下を極力防止したりすることができる。
【0014】
また、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記反り量検知手段は、一対の投光器及び受光器を有する透過型のレーザ式変位センサからなり、前記一対の投光器及び受光器を、前記ガラス基板に対して、当該ガラス基板の幅方向の両側に各々配置することを特徴としてもよい。
このような構成を有することにより、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板に直接触れることなく、ガラス基板の反り量を検知することができるため、不意にガラス基板を傷付けるようなこともなく、作製される膜付きガラス基板の品質向上を図ることができる。
【0015】
また、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記反り量検知手段は、反射型のレーザ式変位センサからなり、前記ガラス基板に対して、前記反り量検知手段を前記他方の主面側に配置することを特徴としてもよい。
このような構成を有することにより、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、不意にガラス基板を傷付けるようなこともなく、作製される膜付きガラス基板の品質向上を図ることができるだけでなく、部品点数や配線等が減り、経済的である。
【0016】
また、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記反り量検知手段は、接触式変位センサからなり、前記ガラス基板に対して、前記反り量検知手段を前記他方の主面側に配置することを特徴としてもよい。
このような構成を有することにより、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、成膜処理が施される一方の主面を避けた他方の主面に、接触式変位センサを直接当接させて、ガラス基板の反り量を検知するため、より正確にガラス基板の反り量を検知することができる。
【0017】
そして、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法において、前記ガラス基板の主面に施される成膜処理は、熱CVD法によって実施することを特徴とする。
このように、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法は、加熱を伴う成膜処理である熱CVD法のように、ベースとなるガラス基板に湾曲や波打ち形状等の予期せぬ変形が生じ易く、成膜処理後の膜厚が不均一となり、膜特性にばらつきが生じる要因となる虞のある製造方法に対して、より効果的に、成膜処理後の膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法によれば、成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板の変形を要因とする、成膜処理後の膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法を実施する、膜付きガラス基板の製造装置の第一実施形態であって、その全体構成を示した概略側面図である。
図2】同じく、第一実施形態における膜付きガラス基板の製造装置の全体構成を示した図であって、(a)はその概略正面図であり、(b)はその概略斜視図である。
図3】加熱装置を説明するための図であって、(a)はその内部構成を示した長手方向に見た断面図であり、(b)はその作動状態を示した長手方向に見た断面図である。
図4】ガラス基板の反り量を監視するフィードバック制御の手順を経時的に示したフローチャートである。
図5】ガラス基板の実反り量を基準反り量に変位させる際の動作を説明するための図であって、(a)は加熱によってガラス基板の実反り量が増大した状態を示した概略正面図であり、(b)は可動式保持治具を可動させてガラス基板の実反り量を基準反り量に修正した状態を示した概略正面図である。
図6】第二実施形態における膜付きガラス基板の製造装置において、ガラス基板の実反り量を基準反り量に変位させる際の動作を説明するための図であって、(a)は加熱によってガラス基板の実反り量が増大した状態を示した概略正面図であり、(b)は加熱装置の出力を制御してガラス基板の実反り量を基準反り量に修正した状態を示した概略正面図である。
図7】他の別実施形態における膜付きガラス基板の製造装置を説明するための図であって、(a)は反射型レーザ変位計からなる測定手段を有する第三実施形態における膜付きガラス基板の製造装置を示した概略正面図であり、(b)は接触式変位計からなる測定手段を有する第四実施形態における膜付きガラス基板の製造装置を示した概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について、図1乃至図7を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては便宜上、図1及び図2(b)に示した矢印Aの方向を、ガラス基板G1の搬送方向と規定して説明する。
また、図1乃至図3、及び図5乃至図7においては、矢印Aによって示されるガラス基板G1の搬送方向を前方と仮定し、各矢印の方向によって、膜付きガラス基板Gの製造装置1(101・201・301)、または加熱装置30の上下方向、前後方向、及び左右方向を各々規定して記述する。
【0021】
[膜付きガラス基板の製造装置1(第一実施形態)]
先ず、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法を実施する、第一実施形態における膜付きガラス基板Gの製造装置(以下、単に「製造装置」と記載する)1の全体構成について、図1乃至図3を用いて説明する。
【0022】
本実施形態における製造装置1は、ベースとなるガラス基板G1の主面Gaに対して、熱CVD法を用いた成膜処理を施し、FTO膜、ATO膜、またはITO膜等の透明導電膜G2を形成して、膜付きガラス基板G(図3(b)を参照)を製造する装置である。
【0023】
ここで、本実施形態によって取り扱うガラス基板G1は、例えば、厚み寸法が0.05~2mm程度であり、長さ方向(長手方向)の寸法、及び幅方向(長手方向との直交方向)の寸法が、それぞれ50mm~500mm程度の外形サイズからなる、薄板のガラス基板であって、成膜処理時の加熱によって、湾曲や波打ち形状等の予期せぬ変形が生じ易いガラス基板である。
なお、成膜処理後のガラス基板G1の変形をできるだけ抑制する観点から、ガラス基板G1の歪点は、後述する加熱温度に比べて高いことが好ましい。
【0024】
図1に示すように、製造装置1は、主に、可動式保持治具10、成膜ノズル20、加熱装置30、及び製造装置1全体の運転を制御する制御装置40などを備える。
また、製造装置1は、例えば搬送コンベア等からなる図示せぬ搬送装置を備え、当該搬送装置は、可動式保持治具10によって保持されたガラス基板G1を、当該可動式保持治具10とともに、一方向(図1中に示される矢印Aの方向であって、本実施形態においては前方)へと搬送する。
【0025】
可動式保持治具10は、成膜処理を行うガラス基板G1を所定の保持態様で保持するものであって、後述するように、反り量修正手段としての機能を兼備する。
可動式保持治具10・10は、例えば図2(b)に示すように、成膜処理を行うガラス基板G1に対して、上記搬送装置(図示せず)の搬送方向(矢印Aの方向)との平面視直交方向(本実施形態においては、左右方向)の両側に一対設けられる。
また、各可動式保持治具10は、治具本体11及び治具可動部12などにより構成される。
【0026】
治具本体11には、水平面からなる載置面11x、及び当該載置面11xに対して直立する垂直面からなる規制面11yにより構成された、保持部11aが形成されている。
また、一対の治具本体11・11は、保持部11a・11aを互いに対向させた状態で配置され、近接方向及び離間方向(本実施形態においては、左右方向)にそれぞれ移動可能に設けられる。つまり、一対の治具本体11・11は、互いに独立して水平方向に離間しており、その間が空間となっている。
【0027】
そして、図2(a)に示すように、一対の治具本体11・11は、保持部11a・11aを介して、ガラス基板G1の幅方向(本実施形態においては、左右方向)の両側縁部Gb・Gbをそれぞれ保持する。
【0028】
一方、治具可動部12は、制御装置40からの指令信号に基づき、上記の近接方向及び離間方向に向かって治具本体11を移動可能とするものであり、例えば、サーボモータ等を駆動源とする電動式のアクチュエータや、油圧式または空圧式のアクチュエータなど、何れのような構成を有していてもよい。
【0029】
このような構成からなる一対の可動式保持治具10・10によって、ガラス基板G1は、以下に示す所定の保持態様にて保持される。
即ち、一対の可動式保持治具10・10によってガラス基板G1を保持する場合の、それぞれの治具本体11・11の位置は、各々の保持部11a・11aの規制面11y・11y間の間隔長さW1が、保持対象のガラス基板G1を平坦状(図2(a)中の二点鎖線で示されたガラス基板G1Aの状態)とした時の幅方向長さW0に比べて若干小さくなる所定位置に、予め設定されている(W0<W1)。
【0030】
そして、ガラス基板G1を未だ保持していない状態において、一対の治具本体11・11は、各々の規制面11y・11yによって規制することなくガラス基板G1を載置面11x・11xに載置可能な状態、即ち上記間隔長さW1が上記幅方向長さW0と比べて若干大きくなる位置(W0<W1)にて停止した状態となっている。
このような状態において、一対の治具本体11・11にガラス基板G1が載置されると、当該治具本体11・11は、治具可動部12・12によって、直ちに上記の所定位置まで移動される。
【0031】
その結果、ガラス基板G1は、各保持部11aの規制面11yによって、幅方向の中央部に向かう圧縮方向の規制を受けることとなり、当該幅方向の中央部が上に凸となる一様な湾曲形状をなした状態で、一対の可動式保持治具10・10によって保持される。
換言すると、本実施形態におけるガラス基板G1の所定の保持態様として、当該ガラス基板G1は、上下方向に主面Gaを向けつつ、長手方向を上記搬送装置の搬送方向とするとともに、一方の主面Ga(本実施形態においては、上面Ga1)側に凸となるように、湾曲形状に反らせた状態で、一対の可動式保持治具10・10によって保持される。
【0032】
そして、一対の可動式保持治具10・10によって保持された状態において、ガラス基板G1は、上方側に位置する成膜ノズル20、及び下方側に位置する加熱装置30に対して相対的に移動することで、成膜ノズル20から供給される成膜用ガスGsを、遮蔽物なく一方の主面Ga(上面Ga1)の全面にて受けることが可能であり、また、加熱装置30の加熱を、他方の主面Ga(下面Ga2)の略全面にて受けることが可能である。
【0033】
なお、後述するように、本実施形態においては、成膜処理の実行中、制御装置(監視手段)40によって、ガラス基板G1の実際の反り量(実反り量)αaを常時監視しており、一対の可動式保持治具10・10は、当該実反り量αaが予め設定された所定値である基準反り量αと相違した場合、直ちに近接方向または離間方向に可動(移動)して、前記実反り量αaを所定値である基準反り量αにまで修正する、反り量修正手段としての機能を兼備する。
【0034】
ところで、ガラス基板G1の製造過程において、成膜処理を他の処理と個別(オフライン)で行う場合、一対の可動式保持治具10・10は、ガラス基板G1を保持した状態で不動とし、且つ成膜ノズル20は可動とする設置態様か、若しくはその逆で、成膜ノズル20は不動とし、且つ一対の可動式保持治具10・10は、ガラス基板G1を保持した状態で可動とする設置態様とする。
また、ガラス基板G1の製造過程において、成膜処理を他の処理と連続(オンライン)で行う場合、本実施形態によって示されるように、一対の可動式保持治具10・10は、上記搬送装置に設置される。
【0035】
成膜ノズル20は、ガラス基板G1に対して、当該ガラス基板G1の一方の主面Ga(上面Ga1)側から、成膜材料の一例である成膜用ガスGsを供給するものである。
成膜ノズル20は、一対の可動式保持治具10・10によって保持されたガラス基板G1に対して、上方に配置される。
【0036】
成膜ノズル20は、噴出し口20aを下方に向けた状態で配置され、ガラス基板G1の幅方向全体に亘って均一に、FTO膜、ATO膜、またはITO膜等の透明導電膜G2(図2(b)を参照)を形成する成膜用ガスGsが、放出可能となっている。
【0037】
なお、本実施形態においては、成膜材料の一例として成膜用ガスGsを用いているが、これに限定されるものではなく、成膜用ミストを用いることも可能である。
【0038】
ここで、上述したように、ガラス基板G1は、一対の可動式保持治具10・10によって、幅方向の中央部が上に凸となる一様な湾曲形状をなした状態で保持されるため、これに合わせて、噴出し口20aも、上記幅方向の中央部が上に凹となる一様な湾曲形状をなすように構成されている。
つまり、噴出し口20aの下端と、ガラス基板G1の上面Ga1との間隔長さL1は、ガラス基板G1の幅方向に亘って、略均等化されている。
【0039】
加熱装置30は、成膜処理を行う際に、ベースとなるガラス基板G1を、他方の主面(本実施形態においては、下面Ga2)側から幅方向全体に亘って均一に加熱するものである。
加熱装置30は、図1に示すように、成膜ノズル20の直下であって、一対の可動式保持治具10・10によって保持されるガラス基板G1の下方において、当該ガラス基板G1の幅方向に沿って配置される。
【0040】
そして、加熱装置30は、ガラス基板G1に対して、主に成膜ノズル20から噴出した成膜用ガスGsが噴き付けられる範囲(即ち、透明導電膜G2が形成される成膜範囲X1)を内側に含むように設定された加熱範囲X2を中心として、熱CVD法による成膜処理において適切な温度である550℃程度に加熱する。
【0041】
なお、本実施形態においては、成膜処理の実行に際して、ガラス基板G1の温度が所定温度にまで昇温されるのにかかる加熱時間の短縮を図るため、加熱装置30に対して上記搬送装置の搬送方向上流側(本実施形態においては、後側)に、当該加熱装置30と同等の構成からなる予備用加熱装置30Aが設けられているが、これに限定されるものではない。
即ち、本実施形態における製造装置1においては、少なくとも成膜ノズル20の直下に位置する加熱装置30を備えていればよく、例えば、予備用加熱装置30Aを設けることなく、加熱装置30に対して上記搬送装置の搬送方向下流側(本実施形態においては、前側)に、当該加熱装置30と同等の構成からなるアニール用加熱装置(図示せず)を設けることとしてもよく、或いは、加熱装置30とともに、これらの予備用加熱装置30A及びアニール用加熱装置をともに設けることとしてもよい。
【0042】
加熱装置30は、図3(a)に示すように、一方側(本実施形態においては、上方側)に開口31aを有するケーシング31、ケーシング31内に配置された放射熱源32、及び放射熱源32から放射された赤外線を開口31a側に向かうように集光する集光ミラー33などを備える。
ここで、放射熱源32としては、輻射熱を利用して加熱対象物を加熱する公知の放射熱源、例えば、ハロゲンランプやキセノンランプ等の放射熱源を用いることができる。
【0043】
ケーシング31の開口31aには、放射熱源32から放射される赤外線のスペクトルを変換する変換部34が、配置されている。
変換部34は、Si元素を含有する物質により構成された、板状の赤外線放射部35を備えている。
ここで、赤外線放射部35を構成するSi元素を含有する物質としては、ガラス、窒化ケイ素、ムライト、ケイ酸アルミニウム、コーディエライト、及びジルコンが挙げられる。また、上記ガラスとしては、例えば、珪酸塩系ガラス、無アルカリガラス、及び結晶化ガラスが挙げられる。
【0044】
なお、赤外線放射部35を構成するSi元素を含有する物質は、加熱対象物であるガラス基板G1と近い放射特性(例えば、5~8μmの波長の放射率が90%以上)を有する物質であることが好ましく、ガラス基板G1と同じ放射特性を有する物質であることがより好ましい。
また、赤外線放射部35を構成するガラスは、熱膨張が抑制されたガラス(例えば、熱膨張係数が60×10-7/℃以下のガラス)であることが好ましい。
【0045】
赤外線放射部35は、放射熱源32からの赤外線が入射する側に位置する第1表面35a、及び第1表面35aの反対側であって、加熱対象物(ガラス基板G1)側に位置する第2表面35bを有する。
第1表面35aと第2表面35bとの間の距離として規定される赤外線放射部35の厚み寸法は、例えば、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
【0046】
赤外線放射部35の第1表面35aには、黒体により構成される赤外線吸収部36が設けられている。
赤外線吸収部36は、赤外線放射部35の第1表面35aに黒体塗料を塗布することにより形成される膜状の部分であり、第1表面35aの表面全体に一様に設けられている。
【0047】
赤外線吸収部36の放射率は、例えば、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
なお、赤外線吸収部36を構成する黒体塗料は、特に限定されるものではなく、公知の黒体塗料(例えば、ジャパンセンサー株式会社製JSC-3号)を用いることができる。また、赤外線吸収部36はカーボン等の黒色の物質から構成されてもよい。
【0048】
赤外線放射部35の第2表面35bは、外部に露出している。
従って、変換部34の加熱対象物側(本実施形態においては、上方側)の表面の少なくとも一部は、赤外線放射部35の第2表面35bによって構成されている。
【0049】
このような構成からなる加熱装置30によって、ガラス基板G1は、加熱範囲X2(図1を参照)を中心として幅方向全体に亘って均一に加熱される。
即ち、図3(b)に示すように、放射熱源32から放射された赤外線R1は、集光ミラー33により集光され、変換部34の赤外線吸収部36に吸収される。
赤外線R1を吸収した赤外線吸収部36は、熱輻射により発熱する。
【0050】
そして、赤外線吸収部36が発熱すると、当該赤外線吸収部36に接する赤外線放射部35が熱伝導によって加熱され、加熱された赤外線放射部35の第2表面35bから、赤外線放射部35を構成するSi元素を含有する物質の放射特性に基づくスペクトルの赤外線R2が放射される。
こうして、赤外線放射部35の第2表面35bの全面から均等に放射される赤外線R2によって、ガラス基板G1は、加熱範囲X2における幅方向全体に亘って均一に加熱される。
【0051】
制御装置40は、上述したように、製造装置1全体の運転を制御するものであって、一対の可動式保持治具10・10(図2(a)を参照)によって保持されたガラス基板G1の、実際の反り量(以下、適宜「実反り量」と記載する)αaを監視する、監視手段の一例である。
【0052】
制御装置40は、CPU(Central Processing Unit)からなる演算処理部や、ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)・HDD(Hard Disk Drive)等からなる記憶部などを備え、当該記憶部には、可動式保持治具10、成膜ノズル20、及び加熱装置30等の運転に関するプログラムが予め格納されている。
【0053】
また、図2(a)に示すように、制御装置40は、後述する変位検知センサ41と電気的に接続されており、上記記憶部には、ガラス基板G1に対して予め設定された所定の反り量(以下、適宜「基準反り量」と記載する)α、及び当該変位検知センサ41によって検知された情報に基づき、ガラス基板G1の実反り量αaを基準反り量αに修正するプログラムが予め格納されている。
【0054】
そして、制御装置40は、後述する成膜処理時の制御手順に従いフィードバック制御を実行し、一対の可動式保持治具10・10によって保持されたガラス基板G1の実反り量αaを常時監視しつつ、当該ガラス基板G1に対して成膜処理を実行する。
【0055】
変位検知センサ41は、一対の可動式保持治具10・10によって保持されたガラス基板G1に対して、実反り量αaを検知する反り量検知手段の一例であって、本実施形態においては、一対の投光器41A及び受光器41Bを有する、透過型のレーザ式変位センサによって構成されている。
【0056】
上記一対の投光器41A及び受光器41Bは、一対の可動式保持治具10・10によって保持されたガラス基板G1に対して、当該ガラス基板G1の幅方向の両側に各々配置される。
具体的には、一対の投光器41A及び受光器41Bは、成膜ノズル20に対して上記搬送装置の搬送方向上流側(本実施形態においては、後側)の近傍であって、一対の可動式保持治具10・10によって保持されたガラス基板G1の幅方向の両側において、互いに対向して配置される。
【0057】
そして、変位検知センサ41は、投光器41Aから受光器41Bに向かって照射されるレーザ光Laによって、上に凸となる一様な湾曲形状をなしたガラス基板G1の上端位置を、ガラス基板G1の実反り量αaとして検知し、電気信号として制御装置40に送信する。
つまり、変位検知センサ41は、ガラス基板G1に対して、少なくとも一方の主面(上面Ga1)側を除く側(幅方向の両側)から、上記上端位置、即ち実反り量αaを検知する。
【0058】
[膜付きガラス基板の製造方法]
次に、本実施形態によって具現化される膜付きガラス基板Gの製造方法であって、成膜処理を行う場合の製造装置1の動作手順について、図1乃至図5を用いて説明する。
先ず始めに、図1において、一対の可動式保持治具10・10は、成膜ノズル20に対して、前述した搬送装置(図示せず)の搬送方向上流側(本実施形態においては後側)に十分に離間した、所定の投入位置(図示せず)にて停止した状態となっている。
【0059】
また、図2(a)において、一対の可動式保持治具10・10は、各々の治具本体11・11が、所定の初期位置(図2(a)中の二点鎖線で示された治具本体11A・11Aの位置)にて停止した状態となっており、各々の保持部11a・11aの規制面11y・11y間の間隔長さは、保持対象のガラス基板G1の幅方向長さW0と略同等となっている。
【0060】
さらに、成膜ノズル20は、噴出し口20aから成膜用ガスGsを噴出することなく、待機した状態となっている。
また、加熱装置30及び予備用加熱装置30Aも同様に、放射熱源32(図3(a)を参照)から赤外線R1を放射することなく、待機した状態となっている。
【0061】
そして、このような状態からなる製造装置1において、一対の可動式保持治具10・10の載置面11x・11xにガラス基板G1が載置されると、制御装置40は、治具可動部12・12に指令信号を送信し、一対の治具本体11・11を、近接方向(載置されたガラス基板G1の幅方向中央部に向かう方向)に向かって移動させる。
【0062】
一対の治具本体11・11の移動が進むにつれて、ガラス基板G1は、幅方向の中央部が上に凸となる一様な湾曲形状をなしつつ、徐々に隆起する。
そして、前述したように、各治具本体11が、予め設定されている所定位置に到達すると、制御装置40は、一対の治具本体11・11の移動を停止させる。
これにより、一対の治具本体11・11は、前述した規制面11y・11y間の間隔長さがW1となる所定位置にて停止した状態となり、ガラス基板G1は、成膜ノズル20の噴出し口20aの形状に略沿った、上に凸となる所定の湾曲形状(成膜ノズル20の噴出し口20aに沿った所定の湾曲形状)に保持される。
【0063】
なお、上述した上記投入位置における一連の動作については、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、一対の可動式保持治具10・10において、各々の治具本体11・11が、上記初期位置に位置することなく、当初から規制面11y・11y間の間隔長さがW1となる所定位置にて停止していることとしてもよい。
【0064】
図1において、一対の治具本体11・11の移動が停止し、ガラス基板G1が所定の湾曲形状に保持されると、制御装置40は、前記搬送装置に指令信号を送信し、一対の可動式保持治具10・10とともに、ガラス基板G1を搬送方向(矢印Aの方向)に搬送する。
そして、ガラス基板G1における上記搬送方向の端部(本実施形態においては、前端部)が、成膜ノズル20の略直下であって、成膜範囲X1の領域内に到達すると、制御装置40は、前記搬送装置による搬送を一旦停止する。
【0065】
ガラス基板G1の前端部が成膜範囲X1の領域内に到達すると、当該ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理が開始される。
即ち、前記搬送装置による搬送を一旦停止した後、制御装置40は、直ちに加熱装置30及び予備用加熱装置30Aに指令信号を送信し、放射熱源32による赤外線R1の放射を開始する。
その結果、加熱装置30及び予備用加熱装置30Aから前述した赤外線R2が放射され、ガラス基板G1は、主に加熱範囲X2の範囲内において、幅方向全体に亘って均一に加熱される。
【0066】
加熱装置30及び予備用加熱装置30Aによるガラス基板G1の加熱が進み、少なくとも、当該ガラス基板G1における成膜範囲X1の温度が、所定の温度(例えば、500~600℃程度の温度範囲内にて設定され、本実施形態においては550℃)にまで昇温されると、制御装置40は、成膜ノズル20に指令信号を送信し、成膜用ガスGsの噴出を開始する。
また制御装置40は、前記搬送装置に再び指令信号を送信し、一対の可動式保持治具10・10とともに、ガラス基板G1を搬送方向(矢印Aの方向)に搬送する。
【0067】
前記搬送装置によるガラス基板G1の搬送が進むにつれて、当該ガラス基板G1の上面Ga1においては、前端部から上記搬送方向の反対側の端部(本実施形態においては、後端部)に向かって徐々に成膜用ガスGsが噴き付けられ、当該成膜用ガスGsが噴き付けられた領域には、直ちに透明導電膜G2が形成される。
【0068】
そして、ガラス基板G1の後端部が、成膜ノズル20の略直下の位置に到達すると、制御装置40は、前記搬送装置による搬送を再び停止する。
また、前記搬送装置による搬送を再び停止した後、制御装置40は、成膜ノズル20による成膜用ガスGsの噴出を停止するとともに、加熱装置30及び予備用加熱装置30Aによる加熱を停止する。
これにより、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理は終了する。
【0069】
ガラス基板G1に対する成膜処理が終了すると、制御装置40は、前記搬送装置に指令信号を送信し、一対の可動式保持治具10・10とともに、作製された膜付きガラス基板Gを搬送方向との反対側(矢印Aの方向との反対側)に搬送する。
【0070】
そして、上記投入位置に膜付きガラス基板Gが到達すると、制御装置40は、前記搬送装置による搬送を停止するとともに、一対の可動式保持治具10・10を、上述した所定の初期状態に復帰させる。
その後、作製された膜付きガラス基板Gが製造装置1より取り出され、当該製造装置1による成膜処理を行う場合の一連の動作が完了する。
【0071】
ところで、上述したように、ガラス基板G1の前端部が成膜範囲X1の領域内に到達し、加熱装置30及び予備用加熱装置30Aによる加熱が開始されると、当該ガラス基板G1は、供給される熱量に応じて熱膨張を起こし、主に加熱範囲X2の範囲内を中心として、局部的に実反り量αaが増加する(即ち、上に凸となる一様な湾曲形状が隆起し、当該湾曲形状の上端位置が上昇する)。
【0072】
また、成膜ノズル20による成膜用ガスGsの噴出が開始され、前記搬送装置によるガラス基板G1の搬送が進むにつれて、当該ガラス基板G1における、上記搬送方向の下流側(本実施形態においては、前側)では、形成された透明導電膜G2によって徐々に熱量が奪われる一方、上記搬送方向の上流側(本実施形態においては、後側)では、加熱範囲X2内にて継続して熱量を供給される。
従って、ガラス基板G1における上記搬送方向の上流側(後側)と、下流側(前側)とでは、熱履歴が大きく相違することとなり、当該上流側(後側)に向かうにつれて、実反り量αaが増加する。
【0073】
このように、ガラス基板G1の上面Ga1に対する、成膜処理の実行中においては、当該ガラス基板G1の実反り量αaが、前記搬送方向の上流側(後側)と下流側(前側)とで、経過時間によって任意に変化(増減)することから、成膜処理の実行直後から終了直前に亘って、成膜ノズル20の噴出し口20aと、ガラス基板G1の主面Ga(上面Ga1)との間隔を一定に保つことが困難である。
その結果、形成された透明導電膜G2の膜厚が不均一となり、膜特性にばらつきが生じる要因となり得る。
【0074】
そこで、本実施形態においては、少なくとも、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理を開始する直前から、当該成膜処理が終了した直後に亘って、以下の制御手順に従い、制御装置40によってガラス基板G1の実反り量αaを常時監視し、当該実反り量αaが予め設定された基準反り量αと相違した場合には、一対の可動式保持治具10・10によって、実反り量αaを基準反り量αとなるように修正する、フィードバック制御を行うこととしている。
【0075】
具体的には、ガラス基板G1の前端部が成膜範囲X1の領域内に到達した時点から、変位検知センサ41は、当該ガラス基板G1における上記湾曲形状の上端位置を常時検知し、所定の時間間隔(例えば、1/数百~1/数十sec)ごとに、検知した上記上端位置をガラス基板G1の実反り量αaとして電気信号に変換し、制御装置40に送信する。
【0076】
そして、図4に示すように、変位検知センサ41からの電気信号を受信した制御装置40は(ステップS01)、当該電気信号に基づき、検知された実反り量αaと、予め設定された基準反り量αとの比較演算を実行し、実反り量αaが基準反り量αと同等であるか否かを判定する(ステップS02)。
【0077】
その結果、実反り量αaが基準反り量αと同等であると判断した場合(YES判定)、制御装置40は、続いて後述するステップS04を実行する。
一方、実反り量αaが基準反り量αと同等でなく、相違すると判断した場合(NO判定)、制御装置40は、検知された実反り量αaと、予め設定された基準反り量αとの加減演算を実行して、ガラス基板G1の実反り量αaを基準反り量αに修正するための、一対の可動式保持治具10・10(より具体的には、治具本体11・11)の移動方向、及び移動距離を算出し(ステップS03)、当該算出結果に基づき、一対の可動式保持治具10・10(より具体的には、治具可動部12・12)に指令信号を送信する。
【0078】
即ち、図5(a)に示すように、例えば、熱膨張によって、ガラス基板G1の実反り量αaが基準反り量αに比べて増大している場合、制御装置40は、図5(b)に示すように、上記ステップS03によって、一対の治具本体11・11を、互いに離間方向(載置されたガラス基板G1の幅方向に向かう方向)に向かって所定距離だけ移動させ、ガラス基板G1の実反り量αaを、基準反り量αとなるように修正する。
或いは、図示はしないが、例えば、形成直後の透明導電膜G2による影響や、周囲の温度変化などの要因によって、ガラス基板G1の実反り量αaが基準反り量αに比べて減少している場合(即ち、平坦状に近似している場合)、制御装置40は、上記ステップS03によって、一対の治具本体11・11を、互いに近接方向に向かって所定距離だけ移動させ、ガラス基板G1の実反り量αaを、基準反り量αとなるように修正する。
【0079】
そして、図4に示すように、上記ステップS03の終了後、制御装置40は、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理が終了した否かを判断し(ステップS04)、当該成膜処理が終了している場合には(YES判定)、上記ステップ01~ステップS04による一連のフィードバック制御を終了する。
一方、当該成膜処理が終了していない場合には(NO判定)、変位検知センサ41から再び電気信号が受信されるのを待って、制御装置40は、上記一連のフィードバック制御を再開する。
【0080】
このように、本実施形態においては、少なくとも、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理を開始する直前から、当該成膜処理が終了した直後に亘って、上記ステップ01~ステップS04による一連のフィードバック制御を実行することで、制御手段40によるガラス基板G1の実反り量αaの監視を行い、可能な限り、当該実反り量αaを基準反り量αに保持することとしている。
【0081】
従って、成膜処理の実行直後から終了直前に亘って、成膜ノズル20の噴出し口20aと、ガラス基板G1の主面Ga(上面Ga1)との間隔を、略一定に保つことができ、形成された透明導電膜G2の膜厚が一となり、膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【0082】
[膜付きガラス基板の製造装置101(第二実施形態)]
次に、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法を実施する、第二実施形態における膜付きガラス基板Gの製造装置(以下、単に「製造装置」と記載する)101について、図6を用いて説明する。
第二実施形態における製造装置101は、前述した第一実施形態における製造装置1と略同等な構成を有する一方、主に加熱装置130が反り量修正手段としての機能を兼備する点について、製造装置1と相違する。
よって、以下の説明においては、主に前述した製造装置1との相違点について記載し、当該製造装置1と同等な構成についての記載は省略する。
【0083】
図6(a)に示すように、製造装置101は、主に、固定式保持治具110、成膜ノズル120、加熱装置130、及び製造装置1全体の運転を制御する制御装置140、変位検知センサ141、並びに、当該固定式保持治具110とともに、ガラス基板G1を搬送する搬送装置(図示せず)などを備える。
【0084】
なお、成膜ノズル120、制御装置140、変位検知センサ141、及び上記搬送装置の構成については、前述した製造装置1における成膜ノズル20、制御装置40、変位検知センサ41、及び搬送装置(図示せず)の構成と略同等であるため、説明を省略する。
【0085】
固定式保持治具110は、成膜処理を行うガラス基板G1を所定の保持態様で保持するものである。
固定式保持治具110・110は、例えば、成膜処理を行うガラス基板G1に対して、上記搬送装置(図示せず)の搬送方向(矢印Aの方向)との平面視直交方向(本実施形態においては、左右方向)の両側に一対設けられる。
また、各固定式保持治具110は、治具本体111などにより構成される。
【0086】
なお、治具本体111の構成については、前述した製造装置1における、可動式保持治具10の治具本体11の構成と略同等であるため、説明を省略する。
【0087】
一対の治具本体111・111は、保持部111a・111aを互いに対向させた状態で配置され、各々の保持部111a・111aの規制面111y・111y間の間隔長さW11が、前述した、保持対象のガラス基板G1を平坦状した時の幅方向長さW0(図2を参照)に比べて若干小さくなる所定位置となるように、予め設定されている(W0<W1)。
【0088】
そして、一対の治具本体111・111にガラス基板G1が載置されることにより、当該ガラス基板G1は、上下方向に主面Gaを向けつつ、長手方向を上記搬送装置の搬送方向とするとともに、一方の主面Ga(本実施形態においては、上面Ga1)側に凸となるように、湾曲形状に反らせた状態で、一対の固定式保持治具110・110によって保持される。
【0089】
なお、ガラス基板G1を所定の保持態様で保持する保持治具の構成については、本実施形態のような固定式保持治具110に限定されるものではなく、例えば、前述した第一実施形態における可動式保持治具10を採用することも可能である。
【0090】
加熱装置130は、成膜処理を行う際に、ベースとなるガラス基板G1を、他方の主面(本実施形態においては、下面Ga2)側から幅方向全体に亘って均一に加熱するものであって、後述する反り量修正手段としての機能を兼備する。
加熱装置130は、成膜ノズル120の直下であって、一対の固定式保持治具110・110によって保持されるガラス基板G1の下方において、当該ガラス基板G1の幅方向に沿って配置される。
【0091】
なお、加熱装置130の構成については、前述した製造装置1における加熱装置30の構成と略同等であるため、説明を省略する。
【0092】
加熱装置130は、制御装置140からの指令信号に基づき、放射される赤外線R2の出力を増減可能な構成となっている。
そして、本実施形態においては、成膜処理の実行中、制御装置(監視手段)140によって、ガラス基板G1の実反り量αaを常時監視しており、加熱装置130は、当該実反り量αaが予め設定された基準反り量αと相違した場合、直ちに赤外線R2の出力を変化させて、ガラス基板G1に供給する熱量を調整することで、実反り量αaを基準反り量αにまで修正する、反り量修正手段としての機能を兼備する。
【0093】
具体的には、少なくとも、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理を開始する直前から、当該成膜処理が終了した直後に亘って実行される、前述したフィードバック制御において、例えば、熱膨張によって、ガラス基板G1の実反り量αaが基準反り量αに比べて増大している場合、制御装置140は、図6(b)に示すように、直ちに赤外線R2の出力を抑えて、ガラス基板G1に供給する熱量を減少させ、ガラス基板G1の実反り量αaを、基準反り量αとなるように修正する。
或いは、図示はしないが、例えば、形成直後の透明導電膜G2による影響や、周囲の温度変化などの要因によって、ガラス基板G1の実反り量αaが基準反り量αに比べて減少している場合(即ち、平坦状に近似している場合)、制御装置140は、直ちに赤外線R2の出力を上げて、ガラス基板G1に供給する熱量を増加させ、ガラス基板G1の実反り量αaを、基準反り量αとなるように修正する。
【0094】
このように、第二実施形態における製造装置101においては、加熱装置130によって反り量修正手段を構成し、少なくとも、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理を開始する直前から、当該成膜処理が終了した直後に亘って、前述した一連のフィードバック制御を実行することで、制御手段140によるガラス基板G1の実反り量αaの監視を行い、可能な限り、当該実反り量αaを基準反り量αに保持することとしている。
【0095】
従って、本実施形態によっても、成膜処理の実行直後から終了直前に亘って、成膜ノズル120の噴出し口120aと、ガラス基板G1の主面Ga(上面Ga1)との間隔を、略一定に保つことができ、形成された透明導電膜G2の膜厚が一となり、膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【0096】
なお、第二実施形態における製造装置101によって、成膜処理を行う場合の他の動作手順については、前述した第一実施形態における製造装置1と略同等であるため、説明は省略する。
【0097】
[膜付きガラス基板の製造装置201(第三実施形態)]
次に、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法を実施する、第三実施形態における膜付きガラス基板Gの製造装置(以下、単に「製造装置」と記載する)201について、図7(a)を用いて説明する。
第三実施形態における製造装置201は、前述した第一実施形態における製造装置1と略同等な構成を有する一方、主に変位検知センサ241の構成について、製造装置1と相違する。
よって、以下の説明においては、主に前述した製造装置1との相違点について記載し、当該製造装置1と同等な構成についての記載は省略する。
【0098】
製造装置201は、主に、可動式保持治具210、成膜ノズル220、加熱装置230、及び製造装置201全体の運転を制御する制御装置240、並びに、当該可動式保持治具210とともに、ガラス基板G1を搬送する搬送装置(図示せず)などを備える。
【0099】
なお、可動式保持治具210、成膜ノズル220、加熱装置230、制御装置240、及び上記搬送装置の構成については、前述した製造装置1における可動式保持治具10、成膜ノズル20、加熱装置30、制御装置40、及び搬送装置(図示せず)の構成と略同等であるため、説明を省略する。
【0100】
変位検知センサ241は、一対の可動式保持治具210・210によって保持されたガラス基板G1に対して、実反り量αaを検知する反り量検知手段の一例であって、本実施形態においては、反射型のレーザ式変位センサによって構成されている。
【0101】
変位検知センサ241は、制御装置240と電気的に接続され、成膜ノズル220に対して上記搬送装置の搬送方向上流側(本実施形態においては、後側)の近傍であって、加熱装置230の上側、且つガラス基板G1に対して、他方の主面(下面Ga2)側に配置される。
【0102】
そして、変位検知センサ241は、ガラス基板G1の下面Ga2に向かってレーザ光Laを照射して反射させることにより、上に凸となる一様な湾曲形状をなしたガラス基板G1の上端位置を、ガラス基板G1の実反り量αaとして検知し、電気信号として制御装置240に送信する。
つまり、変位検知センサ241は、ガラス基板G1に対して、少なくとも一方の主面(上面Ga1)側を除く側(下面Ga2側)から、上記上端位置、即ち実反り量αaを検知する。
【0103】
なお、第三実施形態における製造装置201によって、成膜処理を行う場合の動作手順、及び少なくとも、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理を開始する直前から、当該成膜処理が終了した直後に亘って実行されるフィードバック制御については、前述した第一実施形態における製造装置1と略同等であるため、説明は省略する。
【0104】
[膜付きガラス基板の製造装置301(第四実施形態)]
次に、本発明に係る膜付きガラス基板の製造方法を実施する、第四実施形態における膜付きガラス基板Gの製造装置(以下、単に「製造装置」と記載する)301について、図7(b)を用いて説明する。
第四実施形態における製造装置301は、前述した第一実施形態における製造装置1と略同等な構成を有する一方、主に変位検知センサ341の構成について、製造装置1と相違する。
よって、以下の説明においては、主に前述した製造装置1との相違点について記載し、当該製造装置1と同等な構成についての記載は省略する。
【0105】
製造装置301は、主に、可動式保持治具310、成膜ノズル320、加熱装置330、及び製造装置301全体の運転を制御する制御装置340、並びに、当該可動式保持治具310とともに、ガラス基板G1を搬送する搬送装置(図示せず)などを備える。
【0106】
なお、可動式保持治具310、成膜ノズル320、加熱装置330、制御装置340、及び上記搬送装置の構成については、前述した製造装置1における可動式保持治具10、成膜ノズル20、加熱装置30、制御装置40、及び搬送装置(図示せず)の構成と略同等であるため、説明を省略する。
【0107】
変位検知センサ341は、一対の可動式保持治具310・310によって保持されたガラス基板G1に対して、実反り量αaを検知する反り量検知手段の一例であって、本実施形態においては、接触式変位センサによって構成されている。
【0108】
変位検知センサ341は、制御装置340と電気的に接続され、成膜ノズル320に対して上記搬送装置の搬送方向上流側(本実施形態においては、後側)の近傍であって、加熱装置330の上側、且つガラス基板G1に対して、他方の主面(下面Ga2)側に配置される。
【0109】
そして、変位検知センサ341は、ガラス基板G1の下面Ga2にプランジャ341aの先端部を当接させることにより、上に凸となる一様な湾曲形状をなしたガラス基板G1の上端位置を、ガラス基板G1の実反り量αaとして検知し、電気信号として制御装置40に送信する。
つまり、変位検知センサ341は、ガラス基板G1に対して、少なくとも一方の主面(上面Ga1)側を除く側(下面Ga2側)から、上記上端位置、即ち実反り量αaを検知する。
【0110】
なお、第四実施形態における製造装置301によって、成膜処理を行う場合の動作手順、及び少なくとも、ガラス基板G1の上面Ga1に対する成膜処理を開始する直前から、当該成膜処理が終了した直後に亘って実行されるフィードバック制御については、前述した第一実施形態における製造装置1と略同等であるため、説明は省略する。
【0111】
[効果]
以上のように、本実施形態(前述した第一実施形態~第四実施形態)によって具現化される膜付きガラス基板の製造方法は、ガラス基板G1の主面Gaに成膜処理を施して膜付きガラス基板Gを製造する方法において、一方の主面Ga(本実施形態においては、上面Ga1)側に凸となるように、湾曲形状に反らせた状態でガラス基板G1を保持し、他方の主面Ga(本実施形態においては、下面Ga2)側から当該ガラス基板G1を加熱しつつ、一方の主面Ga(上面Ga1)側から当該ガラス基板G1に成膜用ガス(成膜材料)Gsを供給する膜付きガラス基板Gの製造方法である。
そして、製造装置1(101、201、または301)は、制御装置(監視手段)40(140、240、または340)によってガラス基板G1の反り量(実反り量α)を常時監視し、当該実反り量αaが予め設定された基準反り量αと相違した場合、反り量修正手段(一対の可動式保持治具10・10(210・210、または310・310)、または加熱装置130)によって、実反り量αaを基準反り量αとなるように修正することを特徴とする。
【0112】
このような構成を有することにより、本実施形態(第一実施形態~第四実施形態)における膜付きガラス基板の製造方法によれば、制御装置(監視手段)40(140、240、または340)によって常時監視することで、ベースとなるガラス基板G1の実反り量αaを、常に予め設定された基準反り量αに保持することが可能となり、成膜処理の実行直後から終了直前に亘って、成膜用ガス(成膜材料)Gsを供給する成膜ノズル20(120、220、または320)の噴出し口20aと、ガラス基板G1の一方の主面Ga(上面Ga1)との間隔を一定に保つことができる。
従って、本実施形態(第一実施形態~第四実施形態)における膜付きガラス基板の製造方法によれば、成膜処理時の加熱によって生じ得るガラス基板G1の変形を要因とする、成膜処理後の膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【0113】
また、前述した第一実施形態によって示されるように、上記の反り量修正手段は、ガラス基板G1の幅方向の両側縁部Gb・Gbを保持する一対の可動式保持治具10・10からなり、当該一対の可動式保持治具10・10を、互いに対向して配置するとともに、近接方向及び離間方向(本実施形態においては、左右方向)に可動することで、ガラス基板G1の実反り量αaを修正することを特徴とする。
【0114】
このような構成からなる、第一実施形態における膜付きガラス基板の製造方法によれば、他に別途、ベースとなるガラス基板G1の実反り量αaを修正するための機構部を、新たに設ける必要がなく、主に、湾曲形状に反らせた状態で当該ガラス基板G1を保持するための可動式保持部材10・10を用いて、ガラス基板G1の実反り量αaを修正することができるため、従来の設備と比べて設備コストの増加も抑えられ、経済的である。
【0115】
また、前述した第二実施形態によって示されるように、上記の反り量修正手段は、他方の主面Ga(下面Ga2)側からガラス基板G1を加熱する加熱装置130からなり、当該加熱装置130は、ガラス基板G1に供給する熱量を調整することで(即ち、赤外線R2の出力を変化させることで)、当該ガラス基板G1の実反り量αaを修正することとしてもよい。
【0116】
このような構成からなる、第二実施形態における膜付きガラス基板の製造方法であっても、他に別途、ベースとなるガラス基板G1の実反り量αaを修正するための機構部を、新たに設ける必要がなく、ガラス基板G1の主面Gaを加熱する加熱装置130の出力(供給する熱量)を調整することで、ガラス基板G1の実反り量αaを修正することができるため、従来の設備と比べて設備コストの増加も抑えられ、経済的である。
【0117】
また、本実施形態(第一実施形態~第四実施形態)における膜付きガラス基板の製造方法において、上記の制御装置(監視手段)40(140、240、または340)は、ガラス基板G1に対して、少なくとも一方の主面Ga(上面Ga1)側を除く側から、当該ガラス基板の実反り量αaを検知する反り量検知手段(透過型のレーザ式変位センサからなる変位検知センサ41(141)、反射型のレーザ式変位センサからなる変位検知センサ241、または接触式変位センサからなる変位検知センサ341)を備えることを特徴とする。
【0118】
ここで、成膜処理の実行に伴い、成膜用ガス(成膜材料)Gsが供給されるガラス基板G1の一方の主面Ga(上面Ga1)からは、常時、当該成膜用ガス(成膜材料)Gsの一部がガスとなって立ち上る状態にあるところ、本実施形態(第一実施形態~第四実施形態)における膜付きガラス基板の製造方法によれば、このようなガラス基板G1の一方の主面Ga(上面Ga1)から立ち上るガスを避けた位置に、反り量検知手段(変位検知センサ41(141)、変位検知センサ241、または変位検知センサ341)を設けることで、当該ガスを要因とする反り量検知誤差の低減を図ったり、反り量検知手段(変位検知センサ41(141)、変位検知センサ241、または変位検知センサ341)の使用寿命の低下を極力防止したりすることができる。
【0119】
そして、前述した第一実施形態及び第二実施形態によって示されるように、上記の反り量検知手段は、一対の投光器41A及び受光器41Bを有する透過型のレーザ式変位センサからなる変位検知センサ41(141)によって構成され、当該一対の投光器41A及び受光器41Bを、ガラス基板G1に対して、当該ガラス基板G1の幅方向の両側に各々配置することを特徴とする。
【0120】
このような構成を有することにより、ガラス基板G1に直接触れることなく、透過型のレーザ式変位センサからなる変位検知センサ41(141)を用いて、ガラス基板G1の実反り量αaを検知することができるため、不意にガラス基板G1を傷付けるようなこともなく、作製される膜付きガラス基板Gの品質向上を図ることができる。
【0121】
なお、前述した第三実施形態によって示されるように、上記の反り量検知手段は、反射型のレーザ式変位センサからなる変位検知センサ241によって構成され、ガラス基板G1に対して、他方の主面Ga(下面Ga2)側に配置されることとしてもよい。
【0122】
このような構成を有することにより、上述した透過型のレーザ式変位センサからなる変位検知センサ41(141)を用いた場合と同様に、不意にガラス基板G1を傷付けるようなこともなく、作製される膜付きガラス基板Gの品質向上を図ることができる。
また、一対の投光器41A及び受光器41Bを構成部品として必要としないため、部品点数や配線等が減り、経済的である。
【0123】
また、前述した第四実施形態によって示されるように、上記の反り量検知手段は、接触式変位センサからなる変位検知センサ341によって構成され、ガラス基板G1に対して、他方の主面Ga(下面Ga2)側に配置されることとしてもよい。
【0124】
このような構成を有することにより、ガラス基板G1に対して、成膜処理が施される一方の主面Ga(上面Ga1)を避けた他方の主面Ga(下面Ga2)に、接触式変位センサからなる変位検知センサ341のプランジャ341aを直接当接させて、当該ガラス基板G1の実反り量αaを検知するため、より正確にガラス基板G1の実反り量αaを検知することができる。
【0125】
そして、本実施形態(前述した第一実施形態~第四実施形態)における膜付きガラス基板の製造方法において、ガラス基板G1の主面Ga(上面Ga1)に施される成膜処理は、熱CVD法によって実施されることを特徴とする。
【0126】
このように、本実施形態(第一実施形態~第四実施形態)における膜付きガラス基板の製造方法は、加熱を伴う成膜処理である熱CVD法のように、ベースとなるガラス基板G1に湾曲や波打ち形状等の予期せぬ変形が生じ易く、成膜処理後の膜厚が不均一となり、膜特性にばらつきが生じる要因となる虞のある製造方法に対して、より効果的に、成膜処理後の膜特性のばらつきを、抑制することができる。
【符号の説明】
【0127】
1 製造装置(第一実施形態)
10 可動式保持手段(反り量修正手段)
40 制御装置(監視手段)
41 変位検知センサ(反り量検知手段)
41A 投光器
41B 受光器
101 製造装置(第二実施形態)
130 加熱装置(反り量修正手段)
140 制御装置(監視手段)
141 変位検知センサ(反り量検知手段)
201 製造装置(第三実施形態)
240 制御装置(監視手段)
241 変位検知センサ(反り量検知手段)
301 製造装置(第四実施形態)
340 制御装置(監視手段)
341 変位検知センサ(反り量検知手段)
G 膜付きガラス基板
G1 ガラス基板
Ga 主面
Ga1 上面(一方の主面)
Ga2 下面(他方の主面)
Gb 側縁部
Gs 成膜用ガス(成膜材料)
α 基準反り量
αa 実反り量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7