(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093252
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】自動補正方式
(51)【国際特許分類】
G01D 5/249 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
G01D5/249 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132331
(22)【出願日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2020205487
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 貢
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA11
2F077QQ03
2F077TT42
2F077UU19
2F077UU20
(57)【要約】
【課題】スケール上の周期信号を「SIN」,「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、信号に含まれるノイズおよび波形歪の影響を受け難い、「SIN」,「COS」信号の自動補正方式を提供する。
【解決手段】ある態様の自動補正方式は、「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、それぞれsinおよびcosに同期した成分を抽出して「SIN」信号および「COS」信号のそれぞれオフセットを得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケール上の周期信号を「SIN」、「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、変換したときの内挿誤差が小さくなるように、「SIN」,「COS」信号のオフセットを検出してそれぞれ小さくするように「SIN」、「COS」信号にフィードバックする自動補正方式であって、
「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、それぞれsinおよびcosに同期した成分を抽出して「SIN」信号および「COS」信号のそれぞれオフセットを得ることを特徴とする自動補正方式。
【請求項2】
スケール上の周期信号を「SIN」、「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、変換したときの内挿誤差が小さくなるように、「SIN」,「COS」信号の振幅差、位相差を検出してそれぞれ0、90度に近づけるように「SIN」、「COS」信号にフィードバックする自動補正方式であって、
「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、2分の1周期のsinおよびcosにそれぞれ同期した成分を抽出し、「SIN」信号と「COS」信号との振幅差および位相差をそれぞれ得ることを特徴とする自動補正方式。
【請求項3】
スケール上の周期信号を「SIN」、「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、変換したときの内挿誤差が小さくなるように、「SIN」,「COS」信号の2次歪を検出してそれらが小さくなるようにそれぞれ「SIN」、「COS」信号にフィードバックする自動補正方式であって、
「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、3分の1周期のsinおよびcosにそれぞれ同期した成分を抽出し、それぞれ「SIN」信号と「COS」信号の2次歪を得ることを特徴とする自動補正方式。
【請求項4】
スケール上の周期信号を「SIN」、「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、変換したときの内挿誤差が小さくなるように、「SIN」,「COS」信号の3次歪を検出してそれらが小さくなるようにそれぞれ「SIN」、「COS」信号にフィードバックする自動補正方式であって、
「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、4分の1周期のsinおよびcosにそれぞれ同期した成分を抽出し、それぞれ「SIN」信号と「COS」信号の3次歪を得ることを特徴とする自動補正方式。
【請求項5】
請求項1または2に記載された自動補正方式において、
リサージュ波形の半径変動波形からsin、cos、または2分の1周期のsin、cosに同期した成分を抽出するのに、リサージュ波形の半径変動波形にそれぞれsin(2πn/N)、cos(2πn/N)、またはsin(4πn/N)、cos(4πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものとすることを特徴とする自動補正方式。
ただし、N:偶数の自然数。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【請求項6】
請求項3に記載された自動補正方式において、
リサージュ波形の半径変動波形から3分の1周期のsin、cosに同期した成分を抽出するのに、リサージュ波形の半径変動波形にそれぞれsin(6πn/N)、cos(6πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものとすることを特徴とする自動補正方式。
ただし、N:偶数の自然数。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【請求項7】
請求項4に記載された自動補正方式において、
リサージュ波形の半径変動波形から4分の1周期のsin、cosに同期した成分を抽出するのに、リサージュ波形の半径変動波形にそれぞれsin(8πn/N)、cos(8πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものとすることを特徴とする自動補正方式。
ただし、N:偶数の自然数。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載された自動補正方式において、
sin(2πn/N)、cos(2πn/N)、sin(4πn/N)、cos(4πn/N)、sin(6πn/N)、cos(6πn/N)、sin(8πn/N)、cos(8πn/N)は、それぞれ量子化し、±1の2値又は0と±1の3値で表すことを特徴とする自動補正方式。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載された自動補正方式において、
リサージュ波形の半径変動波形値として、リサージュ波形の一周分をN分割した区間(Nは整数)ごとの半径を低域通過フィルタに通した値とすることを特徴とする自動補正方式。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載された自動補正方式において、「半径」の代わりに「半径の2乗」とすることを特徴とする自動補正方式。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダの出力信号の内挿誤差が小さくなるようその出力信号を自動的に補正する自動補正方式に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザスケールのインターポレータは、センサからの「SIN」、「COS」波形を元に、波形のカウント値に位置データを内挿するものである。内挿した位置データの真の値からの誤差を内挿誤差という。内挿誤差は「SIN」、「COS」波形から作ったリサージュ波形の1)中心位置のずれ、2)「SIN」,「COS」の振幅大きさのずれ、3)「SIN」,「COS」の位相差の90度からのずれから生じる。従来方式では、1)~3)のいずれも指定された位相での「SIN」、「COS」波形の瞬時値からの演算で得ている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なインターポレータにおいて、例えば「COS」のオフセットがずれた場合、リサージュ波形の中心から見た円周上の1点の角度もずれる。位置データは、この角度を使って計算するので、内挿誤差となる。
【0005】
従来方式では、例えば「COS」のオフセットの検出と補正は以下のようにしている。「COS」波形の+ピーク値(「COS」+)と-ピーク値(「COS」-)の平均を「COS」波形の中心値とし、これを0にするように「COS」波形にバイアスを加える。
【0006】
「COS」波形にノイズ波形が乗っていると+ピーク値検出値にノイズの+ピーク値(N+)が加わる。同様に-ピーク値検出値にノイズの-ピーク値(N-)が加わる。このときN+とN-の大きさが等しければ+ピーク値(「COS」+)と-ピーク値(「COS」-)の平均に影響はないが、N+とN-の大きさが異なるときは+ピーク値(「COS」+)と-ピーク値(「COS」-)の平均はN++N-(≠0)だけずれる。
【0007】
つまり従来方式では、上下非対称波形のノイズが加わるとオフセットの検出値に誤差が発生することになる。+ピーク値の検出時と-ピーク値の検出時でのそれぞれのノイズ量が異なるとオフセットの検出値に誤差が発生することになる。より具体的には、レーザスケールにおいて、理想的には検出ヘッド又はスケールの移動距離に比例して検出位置が変化するところ、オフセットがある場合にはその変化に波形状の変動が重畳される。この変動が検出位置の誤差、つまり内挿誤差として表れる。なお、内挿誤差の要因としてはオフセット以外にも後述する振幅誤差、位相誤差などが存在する。
【0008】
スケール上の周期信号を「SIN」,「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、信号に含まれるノイズおよび波形歪の影響を受け難い、「SIN」,「COS」信号の自動補正方式の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様の自動補正方式は、スケール上の周期信号を「SIN」、「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、変換したときの内挿誤差が小さくなるように、「SIN」,「COS」信号のオフセットを検出してそれぞれ小さくするように「SIN」、「COS」信号にフィードバックする。「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、それぞれsinおよびcosに同期した成分を抽出して「SIN」信号および「COS」信号のそれぞれオフセットを得る。
【0010】
この自動補正方式では、スケールからの「SIN」,「COS」信号によるリサージュ波形の半径を一定に保つよう、その周期のsin、cos成分、2分の1周期のsin、cos成分、または更にn分の1周期のsin、cos成分(ここでn=3、4、・・)を抽出し、それらを打ち消すようスケールからの「SIN」,「COS」信号にフィードバックする。
【0011】
本発明の別の態様の自動補正方式は、スケール上の周期信号を「SIN」、「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、変換したときの内挿誤差が小さくなるように、「SIN」,「COS」信号の振幅差、位相差を検出してそれぞれ0、90度に近づけるように「SIN」、「COS」信号にフィードバックする。「SIN」、「COS」信号によるリサージュ波形の半径変動波形から、2分の1周期のsinおよびcosにそれぞれ同期した成分を抽出し、「SIN」信号と「COS」信号との振幅差および位相差をそれぞれ得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スケール上の周期信号を「SIN」,「COS」信号として読み取り、周期信号から位置信号に変換するエンコーダシステムにおいて、信号に含まれるノイズおよび波形歪の影響を受け難い、「SIN」,「COS」信号の自動補正方式を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係るエンコーダシステムを模式的に表す図である。
【
図2】実施形態に係る自動補正方式の原理を表す図である。
【
図3】実施形態に係る自動補正方式の原理を表す図である。
【
図4】実施形態に係る自動補正方式の原理を表す図である。
【
図5】実施形態に係る自動補正方式の原理を表す図である。
【
図6】実施形態に係る自動補正方式の原理を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態の自動補正方式(補正装置)は、エンコーダから出力された90度の位相差を有する2つの正弦波信号に基づき変位情報を算出するエンコーダシステムに適用され、その変位情報の算出に先立って正弦波信号を補正する。以下、その2つの正弦波信号を正弦波および余弦波とし、それぞれ「SIN」、「COS」と表記する。
【0015】
「SIN」、「COS」のいずれかにおいてオフセットが生じると、「SIN」、「COS」で描くリサージュ波形の半径が変動する。本実施形態ではこの半径変動を利用し、半径変動の度合いによりオフセット量を検出する。また、その半径変動を表す波形(以下「半径変動波形」ともいう)において、「COS」に同期している成分と「SIN」に同期している成分がそれぞれ「COS」と「SIN」のオフセット量に比例する。また同様にして半径変動波形がリサージュの1周期に2回の変化をしていれば、その位相により「SIN」、「COS」のゲイン差(振幅差)、「SIN」、「COS」の位相差を検出できる。
【0016】
すなわち、エンコーダから出力された2つの正弦波信号からリサージュ波形を取得し、取得されたリサージュ波形の1周期分の半径の変動に基づいて補正値を算出できる。その補正値に基づいて正弦波信号を補正できる。以下、その詳細について説明する。
【0017】
図1は、実施形態に係るエンコーダシステムを模式的に表す図である。
エンコーダシステムは、エンコーダ10、補正装置12、内挿回路14(インターポレータ)等を備える。エンコーダ10は、例えば光学式又は磁気式のリニアエンコーダであり、スケール16および検出ヘッド18を含む。
【0018】
補正装置12は、A/Dコンバータ20,22、補正部24、補正値算出部26および変位情報変換部28を含む。検出ヘッド18からの「SIN」,「COS」信号は、A/Dコンバータ20,22により所定の周波数でサンプリングされ、デジタル信号に変換される。補正装置12は、このデジタル信号を処理する。
【0019】
補正値算出部26は、後述の自動補正方式にしたがって補正誤差を算出して補正値を得る。この補正誤差は、半径変動波形の変動分であり、オフセット誤差、振幅誤差、位相誤差、2次歪による補正誤差、3次歪による補正誤差等が含まれる(詳細後述)。補正部24は、補正値算出部26が算出した補正値に基づき、「SIN」,「COS」信号の補正誤差を補正する。変位情報変換部28は、補正後の「SIN」,「COS」信号から内挿回路14、補正値算出部26のために変位情報に変換する。
【0020】
この変位情報には補正後に得られるリサージュ波形の位相角θごとの半径R(θ)の情報が含まれる。この変位情報は、補正値算出部26にフィードバックされる。内挿回路14は、補正後の信号のリサージュ波形を内挿分割してエンコーダ10による検出精度を高めるが、その説明については省略する。
【0021】
図2~
図6は、実施形態に係る自動補正方式の原理を表す図である。
図2および
図3はオフセット誤差の検出方法を示し、
図4は振幅誤差の検出方法を示し、
図5は位相誤差の検出方法を示す。各図(A)はリサージュ波形を示し、各図(B)は正弦波信号の波形(実線)および半径変動波形(二点鎖線)を示す。
図6は2次歪の検出方法を示す。
図6(A)は「SIN」に2次歪がある場合を示し、
図6(B)は「COS」に2次歪がある場合を示す。ここでθは、リサージュ波形の位相角度を表す。
【0022】
1)オフセットの検出(「COS」):
図2
補正装置12への入力波形「COS」にオフセットBcがある場合、リサージュ半径R=√(「SIN」
2+「COS」
2)は
図2(B)の二点鎖線のように変動する(
図2(B)はBc=0.1の場合)。すなわち、リサージュ半径R(θ)は「COS」と同じ周期で変動する半径変動波形となり、補正誤差を有する。
【0023】
オフセットBcは、この半径R(θ)に基づいて次式(1)で求められる。
Bc=∫(R(θ)・cosθ)dθ/2π ...(1)
これはR(θ)のcosθ成分を求めるものである。つまり、リサージュ波形の半径の変動から一方の正弦波信号に対応する正弦波に同期した成分を抽出することで、一方の正弦波信号のオフセットを算出できる。
【0024】
2)オフセットの検出(「SIN」):
図3
補正装置12への入力波形「SIN」にオフセットBsがある場合、リサージュ半径R=√(「SIN」
2+「COS」
2)は
図3(B)の二点鎖線のように変動する(
図3(B)はBs=0.1の場合)。すなわち、リサージュ半径R(θ)は「SIN」と同じ周期で変動する半径変動波形となり、補正誤差を有する。
【0025】
オフセットBsは、この半径R(θ)に基づいて次式(2)で求められる
Bs=∫(R(θ)・sinθ)dθ/2π ...(2)
これはR(θ)のsinθ成分を求めるものである。つまり、リサージュ波形の半径の変動から他方の正弦波信号に対応する余弦波に同期した成分を抽出することで、他方の正弦波信号のオフセットを算出できる。
【0026】
3)振幅差の検出:
図4
補正装置への入力波形「COS」の振幅が「SIN」の振幅よりもGだけ大きい場合、リサージュ半径R=√(「SIN」
2+「COS」
2)は
図4(B)の二点鎖線のように変動する(
図4(B)はG=0.1の場合)。すなわち、リサージュ半径R(θ)は「COS」の2分の1の周期で変動する半径変動波形となり、補正誤差を有する。
【0027】
振幅差Gは、この半径R(θ)に基づいて次式(3)で求められる。
G=∫R(θ)・cos(2θ)・dθ/2π ...(3)
これはR(θ)のcos(2θ)成分を求めるものである。つまり、リサージュ波形の半径の変動から一方の正弦波信号に対応する2分の1周期の正弦波に同期した成分を抽出することで、2つの正弦波信号の振幅差を算出できる。
【0028】
4)位相差の検出:
図5
入力波形「COS」の位相がPだけ大きくずれている場合、リサージュ半径R=√(「SIN」
2+「COS」
2)は
図5(B)の二点鎖線のように変動する(
図5(B)はP=10°の場合)。すなわち、リサージュ半径R(θ)は「SIN」の2分の1の周期で変動する半径変動波形となり、補正誤差を有する。
【0029】
位相差Pは、この半径R(θ)に基づいて次式(4)で求められる。
P=∫R(θ)・sin(2θ)・dθ/2π ...(4)
これはR(θ)のsin(2θ)成分を求めるものである。つまり、リサージュ波形の半径の変動から他方の正弦波信号に対応する2分の1周期の正弦波に同期した成分を抽出することで、2つの正弦波信号の位相差を算出できる。
【0030】
5)半径の検出
本実施形態では、リサージュ半径R=√(「SIN」2+「COS」2)自体の検出に際し、次式(5)によりRの平均の大きさを算出できる。
R=∫R(θ)dθ/2π ...(5)
【0031】
6)2次歪の検出:
図6
「SIN」波形に2次歪(Ds・(sinθ)
2)があるとき、リサージュ半径R=√(「SIN」
2+「COS」
2)は
図6(A)の二点鎖線のように変動する(
図6(A)はDs=0.2の場合)。すなわち、リサージュ半径R(θ)は「SIN」の3分の1の周期で変動する半径変動波形となり、補正誤差を有する。
【0032】
Dsは、2次歪の振幅(「2次歪振幅」という)であり、この半径R(θ)に基づいて次式(6)で求められる
Ds=∫R(θ)・sin(3θ)・dθ/2π ...(6)
これはR(θ)のsin(3θ)成分を求めるものである。つまり、リサージュ波形の半径の変動から一方の正弦波信号に対応する正弦波の3分の1周期に同期した成分を抽出することで、一方の正弦波信号の2次歪を算出できる。
【0033】
一方、「COS」波形に2次歪(Dc・(cosθ)
2)があるとき、リサージュ半径R=√(「SIN」
2+「COS」
2)は
図6(B)の二点鎖線のように変動する(
図6(B)はDc=0.2の場合)。すなわち、リサージュ半径R(θ)は「COS」の3分の1の周期で変動する半径変動波形となり、補正誤差を有する。
【0034】
Dcは、2次歪の振幅(「2次歪振幅」という)であり、この半径R(θ)に基づいて次式(7)で求められる。
Dc=∫R(θ)・cos(3θ)・dθ/2π ...(7)
これはR(θ)のcos(3θ)成分を求めるものである。つまり、リサージュ波形の半径の変動から他方の正弦波信号に対応する余弦波の3分の1周期に同期した成分を抽出することで、他方の正弦波信号の2次歪を算出できる。
【0035】
次に、補正装置12の構成および具体的動作について説明する。
図7は、補正装置12の機能ブロック図である。
補正装置12の各構成要素は、FPGA(Field Programmable Gate Array)および各種コンピュータプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0036】
補正装置12は、入出力インタフェース部110、データ処理部112およびデータ格納部114を含む。入出力インタフェース部110は、外部装置とのデータのやりとりを含む入出力インタフェースに関する処理を担当する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110により取得されたデータおよびデータ格納部114に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110およびデータ格納部114のインタフェースとしても機能する。データ格納部114は、各種プログラムと設定データを格納する。
【0037】
入出力インタフェース部110は、入力部120および出力部122を含む。
入力部120は正弦波信号取得部124を含む。正弦波信号取得部124は、A/Dコンバータ20,22の機能を含み、エンコーダ10から正弦波信号(「SIN」,「COS」)をデジタル信号として取得する。
【0038】
データ格納部114は、サンプリングデータ格納部140を含む。サンプリングデータ格納部140は、所定のサンプリング周期で取得されたリサージュ半径Rのサンプリングデータを格納する。データ格納部114は、データ処理部112が演算処理を行う場合のワーキングエリアとして機能するメモリを含む。
【0039】
データ処理部112は、上述した補正部24、補正値算出部26および変位情報変換部28を含む。補正値算出部26は、半径変動算出部130、オフセット算出部132、振幅差算出部134、位相差算出部136および2次歪算出部138を含む。半径変動算出部130は、サンプリングデータ格納部140に格納されたサンプリングデータに基づき、上記式(5)に基づく演算処理を実行することにより、リサージュ波形の半径R(θ)の変動(半径変動波形)を算出する。
【0040】
オフセット算出部132は、データ格納部140に格納された半径R(θ)に対して上記式(1)および(2)に基づく演算処理を実行することにより、2つの正弦波信号のオフセットを算出する。振幅差算出部134は、上記半径R(θ)に対して上記式(3)に基づく演算処理を実行することにより、2つの正弦波信号の振幅差を算出する。位相差算出部136は、上記半径R(θ)に対して上記式(4)に基づく演算処理を実行することにより、2つの正弦波信号の位相差を算出する。2次歪算出部138は、上記半径R(θ)に対して上記式(6)および(7)に基づく演算処理を実行することにより、2つの正弦波信号の2次歪を算出する。
【0041】
補正部24は、算出されたこれらの補正誤差を増幅、積分した補正値として正弦波信号を補正する。変位情報変換部28は、補正後の正弦波信号を変位情報に変換し、補正値算出部26にフィードバックする。この変位情報はサンプリングデータ格納部140に格納され、補正処理が繰り替えされるごとに更新される。補正処理の繰り返しにより補正誤差が小さくなる。
【0042】
出力部122は変位情報出力部126を含む。変位情報出力部126は、補正により補正誤差が除去又は小さくされた変位情報を内挿回路14へ出力する。
【0043】
以上の構成において、補正値算出部26による補正値算出処理は、上記式(1)~(7)に基づく自動補正方式に基づくが、本実施形態ではその演算処理が離散的に実行される。具体的には以下のとおりである。
【0044】
(半径Rnの算出)
まず、半径変動算出部130は、2つの正弦波信号「SIN」,「COS」から一周分のリサージュ波形を取得する。そして、リサージュ波形の位相角をN個の領域(例えばN=8とした45度ごとの区間)に分け、領域ごとの位相においてリサージュ半径のサンプルデータRn(n:0~N-1の整数)を取得する。具体的には、各領域の半径Rn(n:0~N-1の整数)の保存に位相別アキュムレータを用いてもよい。このとき、0~N-1のN個の位相領域に分割される。
【0045】
N個の位相領域は等分割としてもよいし、例えば特許第3367226号公報に記載のように、「SIN」,「COS」のそれぞれのゼロクロス点と、「SIN」と「COS」とのクロス点をそれぞれ含む領域としてもよい。
【0046】
位相別アキュムレータは、例えばサンプリング1周期分の遅延を生じさせるディレイ素子と、フィードバック乗算器を含む積分回路で実現されてもよい。それにより、新たなサンプリングデータが入力されるごとに領域ごとのデータの平滑化が行われる。すなわち、リサージュ波形の半径変動波形値として、現在の区間nの半径を低域通過フィルタに通した平滑化された値とすることができる。平滑化により半径変動に重畳するノイズを除去又は抑制し、内挿誤差の要因を安定的に検出できるようになる。
【0047】
より詳細には、位相領域の区間ごとにノイズが重畳したデータが連続的に取得され、低域通過フィルタにてノイズが除去される。そして、ノイズが除去されたデータについて区間ごとに所定のポイント(安定したポイント:次区間の直前など)でデータの値をサンプリングし、そのサンプリング値をリサージュ波形におけるその位相領域の半径値とすることができる。あるいは、このサンプリングを複数周期分行い、区間ごとにサンプリング値の平均をとり、その平均値をリサージュ波形におけるその位相領域の半径値とすることもできる。このような平滑化および平均化を繰り返すことで、スケールの作動による変化も考慮した補正誤差の傾向を把握でき、ノイズ除去性能を高めることができる。
【0048】
(オフセットの算出)
オフセット算出部132は、「COS」のオフセットBcを下記式(8)に基づいて算出する。
【数1】
すなわち、リサージュ波形の半径変動波形から[COS]に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にcos(2πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものをオフセットBcとすることができる。ただし、N:偶数の自然数である。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【0049】
同様に、オフセット算出部132は、「sin」のオフセットBsを下記式(9)に基づいて算出する。
【数2】
すなわち、リサージュ波形の半径変動波形から[SIN]に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にsin(2πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものをオフセットBsとすることができる。ただし、N:偶数の自然数である。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【0050】
(振幅差の算出)
振幅差算出部134は、振幅差Gを下記式(10)に基づいて算出する。
【数3】
すなわち、リサージュ波形の半径変動波形から[SIN]の2分の1周期に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にcos(4πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものを振幅差Gとすることができる。ただし、N:偶数の自然数である。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【0051】
(位相差の算出)
位相差算出部136は、振幅差Gを下記式(11)に基づいて算出する。
【数4】
すなわち、リサージュ波形の半径変動波形から[SIN]の2分の1周期に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にsin(4πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものを位相差Pとすることができる。ただし、N:偶数の自然数である。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【0052】
(2次歪の算出)
2次歪算出部138は、「SIN」の2次歪振幅Dsを下記式(12)に基づき、「COS」の2次歪振幅Dcを下記式(13)に基づいて算出する。
【数5】
【数6】
【0053】
すなわち、「SIN」波形の2次歪に関してリサージュ波形の半径変動波形から[SIN]の3分の1周期に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にsin(6πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものをDsとしてもよい。「COS」波形の2次歪に関してリサージュ波形の半径変動波形から[COS]の3分の1周期に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にcos(6πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものをDcとしてもよい。ただし、N:偶数の自然数である。n:0~N-1の整数でリサージュ波形の1回転中の位相に比例する。
【0054】
なお、FPGAなどへの実装を考えると、掛け算のビット数が少ないほうが都合がよい。このため、上記離散化におけるsin(2πn/N)、cos(2πn/N)、sin(4πn/N)、cos(4πn/N)、sin(6πn/N)、cos(6πn/N)は、それぞれ量子化して最低1ビットまでビット数を減らしたものに置き換えてもよい。すなわち、リサージュ半径Rnに各値を掛ける際の重み係数を例えば0、±1の3値で設定してもよい。量子化しない場合、重み係数が少数となり演算アルゴリズムが複雑になる可能性があるが、量子化することでこれを回避できる。
【0055】
なお、振幅差および位相差の算出まで考慮すると、N=8よりもN=16(つまり16分割)とするのが好ましい。具体的にはオフセット用の重み係数に関し、sin(2πn/N)についてn=0~15に対応する値をS1~S16とすると、S1,S8,S9,S16=0、S2~S7=1、S10~S15=-1とすることができる。cos(2πn/N)に関し、n=0~15に対応する値をC1~C16とすると、C1~C3,C14~C16=1、C4,C5,C12,C13=0、C6~C11=-1とすることができる。
【0056】
また、振幅差用の重み係数に関し、cos(4πn/N)についてn=0~15に対応する値をG1~G16とすると、G1,G2,G8~G10,G16=1、G3,G7,G11,G15=0、G4~G6,G12~G14=-1とすることができる。位相差用の重み係数に関し、sin(4πn/N)についてn=0~15に対応する値をP1~P16とすると、P1,P5,P9,P13=0、P2~P4,P10~P12=1、P6~P8,P14~P16=-1とすることができる。
【0057】
以上、実施形態に基づいて自動補正方式について説明した。
従来の方式だと、「SIN」、「COS」波形のピーク値から半径やオフセットを求めるので、ピークの一瞬におけるノイズ波形の影響を受けやすいが、本実施形態の方式によると「SIN」、「COS」波形の1周期に亘って積分するなどの平均化処理により「SIN」や「COS」成分を求めるので、ノイズの影響を受けにくく、オフセットなどの検出値が安定する。これによりノイズによって引き起こされる内挿誤差の残差が少ない。
【0058】
同様に、オフセットなどの検出値が安定するので、それをフィードバックしたときの系の安定性が増す。その分フィードバックゲインを従来方式に比べ上げることができ、結果的に応答速度を上げることができる。
【0059】
また、「SIN」、「COS」波形に含まれる2次歪やあるいは3次歪も本実施形態の方式で検出できるので、従来の方式では困難であった高調波歪による内挿誤差も軽減することができる。
【0060】
より詳細には、実際の「SIN」波形、「COS」波形、およびそれらから作ったリサージュ波形の半径変動波形には、ノイズや不規則な変動が含まれる。既に述べたように、従来方式では、例えば「COS」のオフセットの検出を「COS」波形の+ピーク値(「COS」+)と-ピーク値(「COS」-)の平均を「COS」波形の中心値として0からのずれをオフセットとしている場合、ノイズなどの影響を受けやすくなっている。オフセット以外にも位相差や「SIN」、「COS」の振幅差の検出にも同様のことが言え、これらをフィードバックして得られる変位信号に含まれる内挿誤差をある程度以下には小さくできない原因になっている。ある程度のカットオフ周波数をもつ低域通過フィルタでノイズを低減することは可能であるが、ピーク値の検出精度を確保するためにはカットオフ周波数を十分に下げられず、ノイズの影響を十分に避けることはできない。
【0061】
この点、本実施形態によれば、上述の「SIN」、「COS」波形のピーク値は使用せず、少なくとも1周期にわたる半径変動波形の周期成分(その周波数成分および高調波成分)を使ってオフセットをはじめとする内挿誤差要因の検出を行うため、「SIN」、「COS」の周波数の数倍程度のカットオフ周波数でノイズ低減が可能である。つまり、半径変動波形の周期成分の検出と、十分に低いカットオフ周波数をもつ低域通過フィルタの利用とを組み合わせることで、従来実現できなかったレベルで内挿誤差の低減が可能となる。
【0062】
上記の実際の「SIN」波形、「COS」波形、およびそれらから作ったリサージュ波形の半径変動波形に含まれるノイズや不規則な変動には、「SIN」波形、「COS」波形の数周期以上の時間にわたって平均化したほうがよいものがある。例えばスケールまたは検出ヘッドの移動時にスケールと検出ヘッドとの間隔が不規則に変動し、「SIN」波形、「COS」波形の振幅などがそれに対応して変動することがある。この場合に、半径変動波形の1周期全体にわたる長時間の時定数をもつ低域通過フィルタを入れてしまうと、半径変動波形の周期成分も減衰してしまい、オフセットをはじめとする内挿誤差要因の検出が難しくなる可能性がある。各位相領域におけるノイズの影響が他の位相領域に及ぶためである。そこで本実施形態では、半径変動波形の低域通過フィルタとして、N分割した各部分用にN個のレジスタを用意し、各部分の波形データを別々に累積する。これにより、半径変動波形の各部分を複数周期に亘って平均化することができ、半径変動波形の周期成分も減衰してしまうことがない。
【0063】
[変形例]
上記実施形態では述べなかったが、3次歪を検出し、補正を行ってもよい。すなわち、リサージュ波形の半径の変動から一方の正弦波信号に対応する正弦波[SIN]の4分の1周期に同期した成分を抽出することで、一方の正弦波信号の3次歪を算出できる。また、リサージュ波形の半径の変動から他方の正弦波信号に対応する余弦波[COS]の4分の1周期に同期した成分を抽出することで、他方の正弦波信号の3次歪を算出できる。
【0064】
また、「SIN」波形の3次歪に関してリサージュ波形の半径変動波形から[SIN]の4分の1周期に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にsin(8πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均したものを3次歪としてもよい。「COS」波形の3次歪に関してリサージュ波形の半径変動波形から[COS]の4分の1周期に同期した成分を抽出するに際し、その半径変動波形にcos(8πn/N)を乗じたものをリサージュの直近の1周期にわたって平均化したものを3次歪としてもよい。
【0065】
なお、上記離散化におけるsin(8πn/N)、cos(8πn/N)についても、それぞれ量子化して最低1ビットまでビット数を減らしたものに置き換えてもよい。すなわち、オフセット検出に関して半径変動波形を複数ビット(例えば20ビット)で表し、sin(8πn/N)、cos(8πn/N)を乗算すると、乗算器が2個必要となり、さらに振幅差、位相差に関してもそれぞれ乗算器が1個ずつ必要となるため、回路規模が大きくなる。この点、sin(8πn/N)、cos(8πn/N)を仮に±1の2値又は0と±1の3値に量子化すると、乗算が不要になり回路規模が相当削減できる。その場合、乗算結果は誤差を含むが、上記実施形態ではオフセットなどを検出するとそれを増幅してフィードバックするので、最終的には検出値が限りなく0に近くなる。そのため、途中での乗算の誤差は問題にならない。
【0066】
上記半径変動波形の「半径」の代わりに「半径の2乗」を用いてもよい。
【0067】
上記実施形態では、リサージュ波形の半径変動波形値として、リサージュ波形の一周分をN分割した区間(Nは整数)ごとの半径を低域通過フィルタに通した値とする例を示した。そして、N=8およびN=16の場合を例示した。変形例においては、N=24としてもよい。「SIN」、「COS」の90度位相ずれに対応するにはNを4の倍数にするとよい。また3分の1周期成分を使った計算をする場合には、同時にNを3の倍数にするとよい。精度の都合上、更に上記に2倍以上の整数を掛けるとよい。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 エンコーダ、12 補正装置、14 内挿回路、16 スケール、18 検出ヘッド、24 補正部、26 補正値算出部、28 変位情報変換部、110 入出力インタフェース部、112 データ処理部、114 データ格納部、120 入力部、122 出力部、124 正弦波信号取得部、126 変位情報出力部、130 半径変動算出部、132 オフセット算出部、134 振幅差算出部、136 位相差算出部、138 2次歪算出部、140 サンプリングデータ格納部。