(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093253
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】携行型時計のストライク機構の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法
(51)【国際特許分類】
G04B 21/08 20060101AFI20220616BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G04B21/08
G01H17/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021134546
(22)【出願日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】20213374.0
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ユーヌ・カドミリ
(72)【発明者】
【氏名】ポリクロニス ナキス・カラパティス
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC42
2G064CC43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハンマーのストライクによってゴングが活性化されたときに特定の不調和音を排除する。
【解決手段】本発明は、ストライク機能付き携行型時計の少なくとも1つのゴングをチューンする方法に関する。ゴングは、その一端にて、携行型時計ケース内における適切な支持体上にてゴングホルダーに固定される。ゴングは、ハンマーによってストライクされて、測定機器の支持体上にて振動させて、高速フーリエ変換によって可聴周波数帯における周波数ピークを判断する。平面XY内における振動周波数と、平面外Zにおける振動周波数の1次の固有モードを比較して、比r=|f1p-f1h|/f1pを計算する。比rが0.006である所望の値以下であるときには、前記ゴングがチューンされている。この比rが前記所望の値よりも大きいときには、比rが0.006以下になるように前記方法のステップを必要なだけ繰り返す。
【選択図】
図3a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライク機能付き携行型時計のゴング(1)を調和的チューンする方法であって、
前記ゴング(1)は、前記ゴング(1)の端のうちの少なくとも1つによって、又は前記ゴング(1)の第1の端と第2の端の間に位置する中間部分によって、少なくとも1つのゴングホルダー(2)に固定され、
前記ゴング(1)をハンマーがストライクした後における、携行型時計平面XY内において発生する振動周波数と、携行型時計平面外の軸Zの方向において発生する振動周波数の比が発生し、
前記方法は、
前記ゴングホルダー(2)を用いて前記ゴング(1)を測定機器に適合する支持体上に配置する、又は前記ゴング(1)を備えるストライク機構を備える携行型時計ケースを前記測定機器に適合する支持体上に配置するステップと、
前記携行型時計の前記ストライク機構の、外部の部品である又は一部を形成している、ハンマーによって定められる方向に前記ゴング(1)をストライクするステップと、
前記ハンマーのストライクによって活性化され振動する前記ゴングの動的応答を前記測定機器によって取得するステップと、
前記測定機器のプロセッサーユニット又はマイクロコントローラーにおいて高速フーリエ変換を行うことによって、前記ゴングの動的応答の信号を処理するステップと、
選択された固有モードにおいて、20Hz~5kHzの範囲内の可聴周波数帯における振動ゴングの平面XY内と平面外Zにおける振動周波数に対応する少なくとも2つの周波数ピークを判断するステップと、及び
r = |fip-fih|/fip ≦ 0.006、又は
r' = |fih-fip|/fih ≦ 0.006
の少なくとも1つの比を計算するステップとを行い、
ここで、fipは、選択されたi次の固有モードの平面XY内における振動周波数であり、fihは、i次の固有モードの平面外Zにおける振動周波数であり、
前記比r又はr'の計算は、前記ゴングに対する前記ハンマーのストライクの方向に依存し、
前記方法は、さらに、比r又はr'を0.006である所望の値と比較して、r又はr'が前記所望の値以下であるときには、前記ゴングがチューンされていると判断し、また、r又はr'が前記所望の値よりも大きいときには、前記方法のステップを前記ハンマーによる前記ゴングのストライクから繰り返す前に、前記ゴングの調整操作を行うステップを行う
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
活性化され振動する前記ゴングの前記動的応答は、前記測定機器のマイクロフォンユニットによって取得される音ないし可聴信号である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性化され振動する前記ゴングの動的応答は、レーザー振動計によって取得される振動信号である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
20Hz~5kHzの範囲内の可聴周波数帯における前記ゴングのすべての固有周波数がチューンされる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ゴング(1)は、携行型時計平面に対応するゴングの平面にしたがって配置されるように構成しており、
前記ゴングは、前記ハンマーによって前記ゴングの平面の一方向にストライクされ、
比r = |fip-fih|/fip ≦ 0.006 を計算して、ゴングの調整操作を行う必要があるかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゴング(1)は、携行型時計平面に対応するゴングの平面にしたがって配置されるように構成しており、
前記ゴングは、前記ハンマーによってゴングの平面Zから外れた携行型時計平面に垂直な方向、又はストライクに対して斜めな方向に、ストライクされ、
比r' = |fih-fip|/fih ≦ 0.006 を計算して、ゴングの調整操作を行う必要があるかどうかを判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1回又は2回の順次的な調整ステップの後に、比r及び/又はr'が0.006である前記所望の値以下になるように実行すべき加工と調整のタイプを正確に確立することができるように、平面XY内と平面外Zの方向における振動周波数の差に応じて行ういくつかのシミュレーションを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記測定機器内のデータベースは、一度で変更と調整を行うように、前記高速フーリエ変換解析後に前記測定機器内で判断される周波数ピークに応じて、前記ゴングに対して正確にどのような調整を行うべきかを自動的に把握するように設計されている
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ゴングの各調整は、前記ゴングの材料に対してミリング、グラインディング又は局所的に粉砕することによって行う
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)のストライク機構の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法に関する。前記ストライク機構は、ゴングホルダーに固定される少なくとも1つのゴングと、及び前記ゴングを所定のタイミングでストライクする少なくとも1つのハンマーとを備える。
【背景技術】
【0002】
ミニッツリピーター携行型時計においては、振動音響的な改善は、主に、レギュレーション要素に関連しており、これによって、ストライクがトリガーされたときの機構のノイズを抑えることができる。また、外側要素も改善され、これによって、ストライクの音響レベルを高めることができる。これらの外側要素は、音響放射膜、又は携行型時計ケースの他の放射部品であることもできる。
【0003】
概して、音の振動を発生させる振動要素によって音が発生して、携行型時計ケースの外側部品によって放射されるが、この振動要素は、主にストライク機構のゴングである。概して、ゴングホルダーの近くにおける少なくとも1つのハンマーによる衝撃によって、ゴングの振動が発生する。この振動はいくつかの固有周波数によって構成しており、その値と強度、特に可聴域にあるものは、ゴングの形状、ゴングの固定又は支持の状態、衝撃条件、及び材料の物理的性質に依存する。
【0004】
なお、ゴングが最適化されることはほとんどない。ゴングの改良は、一方では、標的までの寸法構成に焦点を当てており、他方では、所望の周波数に焦点を当てており、これによって、時ゴングと分ゴングの部分音の少なくとも1つを一緒にチューンする。この場合は、このことは旋律的音程をチューンすることを意味する。また、ゴングを構成している材料は、発される音の周波数の豊かさを変える改善要因となりうる。しかし、ゴングを作る際に選択された寸法的な形状や材料に依存するゴングの全体的な周波数成分をマスターすることが難しい場合がある。
【0005】
これに関連して、欧州特許出願EP3211488A1について言及する。これは、携行型時計のストライク機構における平面XY内において平坦な形の異形のゴングについて記載している。このゴングは、その少なくとも一方の端においてゴングホルダーに接続され、このゴングホルダーは携行型時計のミドル部の内壁に固定することができる。このゴングには、その長さの一部にわたったいくつかの幾何学的な点に形成された複数のノッチがある。これによって、あらかじめゴングごとに定められた調和的チューンを行って、発される音を調和させることができるように、固有振動周波数を1kHz~5kHzの可聴帯域内に適合させることができる。しかし、このようなノッチを形成することによる固有周波数の適応は不可逆的である。このことは、ゴングの他の振動周波数に適応させようとする場合には不利になる。また、ストライクされたゴングが、平面内と平面外において振動周波数をこれらの振動周波数の近さに応じて発生させる不調和音を発生することを避けることができない。
【0006】
欧州特許出願EP2808745A1には、ゴングの振動モードを選択する選択手段を備える携行型時計用のストライク機構について記載されている。このために、この選択手段には、ゴングの一部にわたってこれと接触するように配置されたセレクター要素があり、このセレクター要素は、選択されるゴングの振動モードの振動ノードにおいて保持される。これによって、他の振動モードをブロックすることができる。このセレクター要素は、変位手段によってゴングの一部にわたって変位することができ、これによって、不可逆的ではなく振動モードを選択することができる。しかし、携行型時計の外側部品との微調整を可能にするように、ゴングの構成を最適化して、振動周波数を不可逆的ではないように適応させることは記載されていない。また、ゴングの平面内と平面外において発生する振動周波数によっては、ハンマーによるゴングのストライクの際の不調和音を避けることができない。
【0007】
スイス特許出願CH707078A1には、ストライク機構のためのゴングが記載されている。このゴングの振動周波数を調整するデバイスが提供されている。ゴングには慣性ブロックの形状をした要素が取り付けられて、ゴングの一部に局所的な機械的応力を作用させている。これによって、ストライクされたゴングの振動周波数を調整することができる。しかし、このような錘をゴングの一部に取り付けて作用させても、固有振動周波数を正確に調整することはできない。また、ハンマーでゴングをストライクした際のゴングの平面内とゴングの平面外の振動周波数を発する際の不調和音をすべて避けることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況で、本発明は、ストライク機能付き携行型時計の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法であってハンマーのストライクによってゴングが活性化されたときに前記携行型時計が発する音から特定の不調和音を排除するものを提案することによって、前記従来技術の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、本発明は、独立請求項1に記載の特徴があるストライク機能付き携行型時計の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法に関する。
【0010】
従属請求項2~9に、前記ストライク機能付き携行型時計の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法のいくつかの特定のステップが定められている。
【0011】
当該ゴングを調和的チューンする方法の利点は、基本固有モードにおける携行型時計平面XY内における振動周波数や、その後における20Hz~5kHzの可聴周波数帯の部分音が、人間の耳には感じられないように携行型時計平面外Zにおける振動周波数に非常に近くされることに基づく。これによって、このような周波数結合による音質の劣化につながる不調和音や拍動をいずれも避けることができる。前記携行型時計平面は、ゴングの平面に対応していることができる。
【0012】
好ましいことに、この方法においては、平面XY内と平面外Zにおける振動周波数を、以下の式又は比を尊重するようにチューンすることができる。
r = |fip-fih|/fip ≦ 0.006、又は
r' = |fih-fip|/fih ≦ 0.006
ここで、fipは選択されたi次の固有モードの平面XY内における振動周波数、fihは、i次の固有モードの平面外Zにおける振動周波数である。比r又はr'の計算は、前記ゴングに対する前記ハンマーのストライクの方向に依存する。この比の望ましい値は、可聴周波数帯内の各固有モードに対して常に同じである。これらの各固有モードの振動周波数が0.006のオーダー又はそれよりも小さい比r又はr'であれば、そのゴングはチューンされていると考えられる。この場合、このようなゴングは、不調和音をいずれも発生せず、互いに近い2つの周波数を人間の耳が識別しなくなる。また、この比の望ましい値は、0.005以下と定めることもでき、これは、人の音の感じ方に依存する。
【0013】
好ましいことに、平面XY内、平面外Z又は斜め方向においてハンマーによってストライクされるゴングの振動周波数をチューンすることができるようにするために、マイクロフォンユニットを備える音響測定機器、レーザー振動計を備える振動測定機器、又はゴングの動的応答を測定するための他のいずれかのデバイスが用いられる。ゴングは、携行型時計ケースの外にあるハンマーによってストライクされるように適切な測定支持体上に配置することができ、また、好ましくは、ストライク機構のハンマーによってストライクされるようにゴングを携行型時計ケース内にて直接取り付けることができる。測定機器は、ストライクされたゴングの音を取得するための入力マイクロフォンユニットを備えることができ、また、振動を測定するための振動計を備えることができる。また、測定機器のプロセッサー又はマイクロコントローラーユニットにおいては、マイクロフォン又はレーザー振動計によって取得される信号の高速フーリエ変換(FFT)解析を行って、ゴングの平面内と平面外の振動周波数に対応する2つの周波数ピークを得ることができる。この高速フーリエ変換解析の後に、ストライクされたゴングが発する音が不調和音にならないようにするために、平面内と平面外において、互いに十分に近い、2つの振動周波数を有するようにするために、ゴングに対してどのような調整を行えばよいのかを判断することができる。
【0014】
また、前記比が0.006の値よりも大きい場合には、ゴングの調整を行う必要がある。これは主に、解析した固有モードにおける振動周波数どうしの周波数差に依存する。
【0015】
特に図面を参照しながら、以下の説明を読むことによって、当該ストライク機能付き携行型時計の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法の目的、利点及び特徴を明確に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1aは、ゴングホルダーに固定されたゴングを上から見た図であり、
図1bは、ハンマーのストライクの前におけるゴングの平面外における様子を示している側面図である。
【
図2】
図2aは、振動しておりゴングホルダーに固定されたゴングを上から見た図であり、
図2bは、振動するゴングの平面外における様子を示している側面図である。
【
図3a】
図3a及び3bは、測定機器のマイクなどによって取得される信号についての高速フーリエ変換解析のグラフであり、2つの部分周波数における周波数ピークを表しており、
図3aは、ゴングを調整する前のものであり、
図3bは、ゴングを調整した後のものであり、2つの周波数レベルにおいて2つの振動周波数どうしが近い。
【
図3b】
図3a及び3bは、測定機器のマイクなどによって取得される信号についての高速フーリエ変換解析のグラフであり、2つの部分周波数における周波数ピークを表しており、
図3aは、ゴングを調整する前のものであり、
図3bは、ゴングを調整した後のものであり、2つの周波数レベルにおいて2つの振動周波数どうしが近い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明においては、少なくとも1つのゴングを備える、ストライク機能付き携行型時計のストライク機構のよく知られている部品についてはすべて、簡易的にしか説明していない。チューン済みゴングが、あらゆる方向、例えば、ゴングの平面XY内の方向、ゴングの平面外Zの方向、又は斜め方向、におけるハンマーのストライクの際に、不調和音やビートを発生させないような、ストライク機能付き携行型時計の少なくとも1つのゴングを調和的チューンする方法についてのみ言及する。
【0018】
図1a及び1bは、主に円弧状の伝統的な構成のゴング1のみを示しており、これは、携行型時計ケースに取り付けられたときに、携行型時計用ムーブメントの周部に配置することができる。ゴング1の長さの一部又は全長にわたった断面は、円形、楕円形、六角形、八角形、豆形又は他の形状であることができる。この場合、ゴングは、携行型時計平面である1つの平面内にある。また、ゴングの断面が一端から他端まで変動することも考えられる。
【0019】
図1aに示しているように、この円弧状のゴング1は、携行型時計平面XY内にて構成しており、ここで、この携行型時計平面XYは、一端がゴングホルダー2に固定され、他端が自由に動くような、ゴングの平面XYである。また、第1の端と第2の端の間の中間部分にゴングをゴングホルダー2に固定することや、自由に動く端のない各ゴングホルダー2にゴングの各端を固定することも考えられる。
図1bには、ゴング1を側方から見た図のみを示している。ゴングホルダー2は、概して、ねじのような固定手段3によって携行型時計用ムーブメントのプレートのような支持体に固定されるように設計され、あるいは随意的に、携行型時計ケースのミドル部の内面、他の外側要素又はさらには膜に固定されるように設計されている。ゴング1は、図示していないハンマーによって所定の方向、例えば、ゴングの平面XYの方向、その平面外Zの方向、又はさらには斜め方向に、ストライクすることができる。これによって、ゴングを構成している材料やハンマーとゴングの間の衝撃の条件に関連して発生する部分音の数に応じて1つ又は複数の振動周波数によって構成する音が発生する。前記ハンマーは、概して、利用可能な空間に応じて、ゴングの構成の内側におけるゴングホルダー2の近くでゴング1をストライクするように意図されている。
【0020】
ゴング1をハンマーでゴングの平面XYの方向にストライクすることで、平面XY内にて少なくとも1つの振動周波数を発生させることを期待することができる。このことは、通常は変形が平面XY内に位置する固有モードのみを活性化する必要があることを意味する。しかし実際には、ゴング1の加工公差、そして上記のようにハンマーの回転時のクリアランスに応じて、ゴング1に対するハンマーのストライクは、一方では平面XY内における振動周波数、他方では寄生方向Zにおける平面外の振動周波数、によって構成する少なくとも2つの基本固有モードをアクティブ化する。
【0021】
振動ゴング1の
図2a及び2bに示している例として、発される音の周波数スペクトルは、2つの周波数1788Hz及び1731Hzを含み、これらは、一方では平面XY内における振動周波数であり、他方では方向Zにおける平面外の振動周波数である。第1の固有振動モードで発生する2つの周波数は、互いに非常に近く、大部分が少なくとも20Hz~5kHzの範囲内である所定の可聴周波数帯において人間の耳で知覚されることが多い周波数差に非常に近い。この可聴周波数帯においては、人間の耳がこれらの2つの振動周波数を知覚することで、不調和音やビートが発生し、このことによって、知覚される音質が非常に明確に悪化してしまう。
【0022】
この2つの振動周波数を人間の耳で感知できないようにするためには、絶対値での以下の計算式ないし比を尊重するようにチューンする必要がある。
r = |fip-fih|/fip ≦ 0.006
ここで、fipは、i次の固有モードの平面XY内における振動周波数、fihは、i次の固有モードの寄生平面外Zにおける振動周波数である。これらのチューンされた振動周波数が、目標値ないし所定のしきい値である0.006のオーダーの比となるならば、ゴングをストライクすることによって発される音は、所望のように、クリアであって調和がとれており、もちろん人間の耳によって近くされる不調和音はない。しかし、上記の振動周波数の例を用いて計算できるように、比r = 0.032に達し、これは期待値の約5倍である。このため、この2つの振動周波数の差を補正する必要がある。本発明に係る方法は、これを実現しようとするものである。
【0023】
また、この方法においては、平面XY内と平面外Zにおける振動周波数を以下の式又は比を尊重するようにチューンすることができる。
r = |fip-fih|/fip ≦ 0.006、又は
r' = |fih-fip|/fih ≦ 0.006
ここで、fipは、選択されたi次の固有モードの平面XY内における振動周波数、fihは、i次の固有モードの平面外Zにおける振動周波数である。比rは、実質的にゴングの平面XY内のストライクの場合に選択され、比r'は、実質的に平面外Z、すなわち、ゴングの平面XYに垂直な方向、のストライクの場合に選択される。
【0024】
当然、
図1a、1b、2a、2b、3a、3bに示しているように、ゴング1がハンマーによってストライクされると、第1の基本周波数f1p、f1hの音と、少なくとも20Hz~5kHzの範囲内の可聴周波数帯内における、より大きい周波数のいくつかの部分音を発する。5kHzよりも大きい周波数においては、平面内と平面外における2つの振動周波数の近さは、あまり重要ではなくなる。これらの振動周波数の差は人間の耳では認識できなくなるためである。振動周波数のチューンは、主に、20Hz~5kHzの可聴周波数帯の周波数に対して行う必要がある。しかし、少なくとも、20Hzから、10kHzないし20kHzまでの可聴周波数帯においてゴング1のチューンを行うことも考えられる。
【0025】
携行型時計ケースの外側にて携行型時計のストライク機構(図示せず)のゴング1をチューンするために、特に、ゴングホルダーを用いて測定機器の支持体上にゴング1を配置して、ハンマーによってストライクすることができる。ゴング1は、直接、携行型時計のストライク機構の一部であることもでき、これによって、ゴング1を備えるストライク機構を備える携行型時計ケースを測定機器の適切な支持体上に配置して、所定の時間又はプログラムされた時間にて当該ストライク機構のハンマーによるゴング1のストライクを制御する。
【0026】
ゴング1がハンマーによってストライクされた後に、測定機器のマイクロフォンユニットや振動計が、振動するゴングからの音ないし振動信号を取得することができる。音ないし振動信号のフィルタリングを依然として行うことができ、そして、マイクロフォンユニット又はレーザー振動計からのフィルタリングされた又はフィルタリングされていない信号の高速フーリエ変換(FFT)演算を、測定機器のプロセッサーユニット又はマイクロコントローラーで行うことができる。また、高速フーリエ変換後の出力信号を測定機器に記憶することも依然として可能である。例として後述の
図3a及び3bに示しているように、振動ゴングの異なる可聴モードに応じた、平面XY内と平面外Zのいくつかの振動周波数の異なる周波数ピークについてのグラフ表示を高速フーリエ変換後に行うことができる。
【0027】
なお、一般的に、測定機器は、ハンマーによってストライクされた後におけるゴングの動的応答を測定するように構成している。つまり、動的応答は、音ないし可聴信号と、振動信号との両方によって構成している。
【0028】
図3a及び3bは、マイクロフォンユニットないし振動計からの信号を高速フーリエ変換解析したグラフである。その出力信号は測定機器にて記録される。
図3a及び3bに示している周波数のピークは、振動ゴングの平面XY内と平面外Zにおける振動周波数のものである。平面XY内と平面外Zにおける振動周波数は、一方では、ゴングの変更前、すなわち、
図3aのゴングの調整前に、そして、他方では、
図3bのゴングの変更後に観察される。この振動は、いくつかの固有周波数又は部分周波数によって構成しており、そのうちの2つが
図3a、3bにて可聴周波数帯にあるように示している。これらは、1.7kHzに近い第1の固有周波数と、3kHzに近い第2の固有周波数である。
【0029】
図3aの第1の固有周波数においては、平面XY内の第1の振動周波数f1pと、軸Zに沿った平面外の第1の振動周波数f1hとの2つの周波数ピークが発生している。第2の固有周波数においては、平面XY内の第2の振動周波数f2pと、Z軸に沿った平面外の第2の振動周波数f2hとの2つの周波数ピークが発生する。
【0030】
第1の固有周波数において描いている
図3bにおいては、ゴングの最終調整のすべてのステップの後に、平面XY内におけるチューン済みゴングの第1の振動周波数f1pfと、平面外Zにおけるチューン済みゴングの第1の振動周波数f1hfとの2つの周波数ピークが発生する。第2の固有周波数においては、平面XY内におけるにチューン済みゴングの第2の振動周波数f2pfと、軸Zに沿った平面外におけるチューン済みゴングの第2の振動周波数f2hfとの2つの周波数ピークが発生する。
【0031】
測定機器によって自動的に、又は
図3a及び3bのグラフを見て、制御が行われると、比r1 = |f1p-f1h|/f1p、及び比r2 = |f2p-f2h|/f2pを計算する必要がある。そして、比r1及びr2がそれぞれ0.006以下である所望の値以下であるかどうかを判断する必要がある。そうであれば、ゴングがチューンされていると考え、そうではなければ、ゴングをチューンして少なくとも1つの調整を行う必要があると考える。この調整とは、ゴングの一部、好ましくはゴングホルダーの近くの部分、に対して局所的な加工を行うことである。この加工は、一般的には機械的な手段で行われ、特に、第1の固有周波数及び/又は第2の固有周波数の平面XY内における振動周波数と平面外Zにおける振動周波数の間の周波数差を把握した後に、この調整を行うことが可能になる。
【0032】
以前に記憶された様々な調整と得られた結果の予備知識に応じて、比r1及び/又はr2が0.006である所望の値以下になるまで、ゴングに対する1回又は複数回の順次的な調整を行うことができる。このことは、1回目の調整後に、振動するゴングが発する音を再び測定機器が取得することを意味している。そして、第1の固有周波数と第2の固有周波数の平面XY内と平面外Zにおける周波数ピークを出力において制御するように、マイクロフォンからの信号の高速フーリエ変換処理をする。再度、比r1とr2の計算を行って、各比が0.006以下である所望の値以下であるかどうかを判断する。そうであれば、ゴングに対してさらに補正を行わず、そうでなければ、新たな調整操作を行い、期待された比が得られるまで繰り返す。
【0033】
この調整操作は、手動又は自動で行うことができる。このような条件の下で、以前に実行され記憶された様々な調整に応じて、各調整は、好ましくは、自動加工機の加工ツールによって自動的に実行することができる。これは、ミリング、グラインディング又は粉砕(塑性変形)であることができる。平面XY内と平面外Zにおける周波数の差に応じたいくつかのシミュレーションによって、非常に少ない順次的な調整ステップの後で、比r1及び/又はr2を所望の値0.006以下にするように、実行すべき加工のタイプと調整を正確に確立することができる。
【0034】
先に述べたように、この手順の目的は、2つの周波数ピークを互いに近づけ、すなわち、平面XY内モードの振動周波数と平面外Zモードの振動周波数を近づけて、前記比が0.006以下であるようにすることである。このために、ゴングの調整を行い、これらの調整後に各音響又は振動の記録を解析して、測定された信号の周波数成分を調査する。
【0035】
これまでの経験から、調整を行う箇所と必要な調整の量を正確に把握して、最良の場合に1回の操作で平面XY内と平面外Zにおける2つの振動周波数を補正することができる。測定機器内のデータベースは、高速フーリエ変換解析後に測定機器内で判断される周波数ピークに応じて、一度にゴングを補正してチューンするために正確にどの調整をゴングに対して行うかを自動的に把握するように設計されている。
【0036】
また、可聴周波数帯(0~5kHz)のすべての固有モード周波数について、0.006以下にする必要がある前記比が同じになるように制御を行い、これによって、人間の耳は、前記の互いに近い2つの振動周波数をもはや認識できなくなる。また、ゴングの形状はどのようなものでもかまわないが、特に、又は主として、平面XY内と平面外Zにおける振動周波数を制御することができるように1つの平面内に延在する形状であることができる。しかし、1つの平面内の形状だけでなく立体的な形状であるゴングも考えられ、例えば、コルク栓のような形状のゴングも考えられる。ゴングの実際の形状にかかわらず、少なくとも1つの固有モード又はすべての固有モードの平面XY内における振動と平面外Zにおける振動が可聴周波数帯で測定される。
【0037】
これまでの説明から、当業者であれば、特許請求の範囲において定められる本発明の範囲を逸脱することなく、当該ゴングを調和的チューンする方法のいくつかの形態を設計することができる。ゴングの各調整は、主にゴングホルダーの近くで、時計技師が手作業で行うこともでき、また、測定機器などによって制御される加工機によって自動的に行うこともできる。
【符号の説明】
【0038】
1 ゴング
2 ゴングホルダー
3 固定手段
【外国語明細書】