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2022-93294樹脂組成物、マウスガード用シート、及びマウスガード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093294
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物、マウスガード用シート、及びマウスガード
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/20 20060101AFI20220616BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20220616BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220616BHJP
   C08F 210/06 20060101ALI20220616BHJP
   C08F 210/14 20060101ALI20220616BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C08L23/20
C08L23/10
C08L23/08
C08F210/06
C08F210/14
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197261
(22)【出願日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020206086
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 舞
(72)【発明者】
【氏名】植草 貴行
(72)【発明者】
【氏名】川名 誠
(72)【発明者】
【氏名】深川 克正
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA19
4F071AA20
4F071AA21
4F071AF23
4F071AF25Y
4F071AF53
4F071AH19
4F071BA09
4F071BB03
4F071BB04
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC03
4J002BB052
4J002BB05X
4J002BB132
4J002BB13X
4J002BB141
4J002BB142
4J002BB14W
4J002BB14X
4J002BB171
4J002BB172
4J002BB17W
4J002BB17X
4J100AA03Q
4J100AA17P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA09
4J100DA13
4J100DA24
4J100DA42
4J100DA52
4J100JA50
4J100JA57
(57)【要約】
【課題】成形体を製造した後に石膏型等から分離する際の分離性に優れ、噛みこんだ際の噛み心地が良好なマウスガード用シート及びマウスガードの製造に利用できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】周波数10rad/sにおける動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピーク値が0.40~1.27であり、前記ピーク値の温度が22℃以上である樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数10rad/sにおける動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピーク値が0.40~1.27であり、前記ピーク値の温度が22℃以上である樹脂組成物。
【請求項2】
37℃におけるショアーA硬度が75以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
15モル%~80モル%の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)及び20モル%~85モル%のプロピレンから導かれる構成単位(ii)(ただし、前記構成単位(i)の割合と前記構成単位(ii)の割合との合計は100モル%である。)からなる4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と、
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1つの重合体(B)と、
を含有する請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合体(B)が、アイソタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つである請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合体(B)が、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つである請求項3又は請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
30質量部~70質量部の前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と、70質量部~30質量部(ただし、前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と前記重合体(B)との合計量は100質量部である。)の前記重合体(B)と、を含有する請求項3~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
マウスガード用樹脂組成物である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の樹脂組成物の成形体からなるマウスガード用シート。
【請求項9】
請求項8に記載のマウスガード用シートを含むマウスガード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、マウスガード用シート、及びマウスガードに関する。
【背景技術】
【0002】
ボクシング、ラグビー、アメリカンフットボールなどの激しい動作を伴うスポーツでは、歯列や口腔内軟組織を保護するため、及び、脳への衝撃を緩和するため、一般にマウスガードと呼ばれる(マウスピースなどとも呼ばれる)保護具が広く用いられている。
【0003】
従来、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製のマウスガードなどが知られていたが、衝撃吸収性が低い、咬合力が加わることで破損しやすいなどの問題があったため、種々のマウスガードが開発されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位とからなる4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体と、熱可塑性樹脂とを含む組成物が、衝撃吸収性に優れ、従来のものよりも薄く、軽量化でき装着感の良いマウスガード用シート及びマウスガード(主に、スポーツ用マウスガード)の製造に利用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-40136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マウスガードは、石膏型等を用いて成形することができる。その際、成形後のマウスガードを、石膏型等から剥がして分離する。
特許文献1のマウスガード用シート及びマウスガードは、成形した後、石膏型等から分離するために、過度な力を要する場合があった。
また、石膏型等からの分離に過度な力を要しない場合でも、マウスガードを噛みこんだ際の反発弾性率が高いために噛み心地が悪くなる場合があった。
【0007】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、成形体を製造した後に石膏型等から分離する際の分離性に優れ、噛みこんだ際の噛み心地が良好なマウスガード用シート及びマウスガードの製造に利用できる樹脂組成物、上記樹脂組成物の成形体からなるマウスガード用シート、及び上記マウスガード用シートを含むマウスガードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 周波数10rad/sにおける動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピーク値が0.40~1.27であり、前記ピーク値の温度が22℃以上である樹脂組成物。
<2> 37℃におけるショアーA硬度が75以下である<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 15モル%~80モル%の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)及び20モル%~85モル%のプロピレンから導かれる構成単位(ii)(ただし、前記構成単位(i)の割合と前記構成単位(ii)の割合との合計は100モル%である。)からなる4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と、前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1つの重合体(B)と、を含有する<1>又は<2>に記載の樹脂組成物。
<4> 前記重合体(B)が、アイソタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つである<3>に記載の樹脂組成物。
<5> 前記重合体(B)が、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つである<3>又は<4>に記載の樹脂組成物。
<6> 30質量部~70質量部の前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と、70質量部~30質量部(ただし、前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と前記重合体(B)との合計量は100質量部である。)の前記重合体(B)と、を含有する<3>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物
<7> マウスガード用樹脂組成物である<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の成形体からなるマウスガード用シート。
<9> <8>に記載のマウスガード用シートを含むマウスガード。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、成形体を製造した後に石膏型等から分離する際の分離性に優れ、噛みこんだ際の噛み心地が良好なマウスガード用シート及びマウスガードの製造に利用できる樹脂組成物、上記樹脂組成物の成形体からなるマウスガード用シート、及び上記マウスガード用シートを含むマウスガードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
≪樹脂組成物≫
本開示の樹脂組成物は、周波数10rad/sにおける動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピーク値が0.40~1.27であり、前記ピーク値の温度が22℃以上である。
本開示において、「周波数10rad/sにおける動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピーク値」を、単に「ピーク値」と呼称する場合がある。
【0012】
本開示の樹脂組成物は、上記の構成を含むことで、成形体を製造した後に石膏型等から分離する際の分離性に優れ、噛みこんだ際の噛み心地が良好なマウスガード用シート及びマウスガードを製造することができる。
【0013】
<ピーク値>
ピーク値は、成形時における分離性が向上する観点から、1.20以下が好ましく、1.10以下が好ましく、1.05以下が特に好ましい。
一方、反発弾性率が向上することで、噛み心地が向上する観点から、0.50以上が好ましく、0.60以上がより好ましく、0.70以上が特に好ましい。
【0014】
本開示におけるピーク値は、例えば、後述の共重合体(A)の含有量を減らすこと又は後述の重合体(B)の含有量を増やすことで、小さくすることができる。
また、ピーク値は、後述の共重合体(A)の含有量を増やすこと又は後述の重合体(B)の含有量を減らすことで、大きくすることができる。
また、重合体(B)がプロピレン・α-オレフィン共重合体である場合には、Tanδのピーク値をより大きくすることができる。
【0015】
<ピーク値の温度>
ピーク値の温度は、成形時における分離性が向上する観点から、23℃以上が好ましく、24℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。
他方、ピーク値の温度は、操作性の観点から、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
【0016】
本開示におけるピーク値の温度は、例えば、後述の共重合体(A)の4-メチル-1-ペンテンの構成割合を減らすことで、低くすることができる。
【0017】
本開示におけるピーク値、ピーク値の温度の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0018】
上述のピーク値及びピーク値の温度を、上述の範囲に調整する方法としては特に制限はない。
例えば、本開示の樹脂組成物は、15モル%~80モル%の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)及び20モル%~85モル%のプロピレンから導かれる構成単位(ii)(ただし、構成単位(i)の割合と構成単位(ii)の割合との合計は100モル%である。)からなる4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)と、共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1つの重合体(B)と、を含有してもよい。
本開示の樹脂組成物は、上記構成を含有することで、上述のピーク値及びピーク値の温度を、上述の範囲に調整することが容易となる。
【0019】
(4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A))
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)(本開示中、単に共重合体(A)ともいう。)は、15モル%~80モル%の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)、及び25モル%~85モル%のプロピレンから導かれる構成単位(ii)(ただし、構成単位(i)の割合と構成単位(ii)の割合との合計は100モル%である。)からなる。
【0020】
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)の割合は、好ましくは40モル%~75モル%であり、より好ましくは50モル%~75モル%であり、さらに好ましくは65モル%~75モル%である。
また、プロピレンから導かれる構成単位(ii)の割合は、好ましくは25モル%~60モル%であり、より好ましくは25モル%~50モル%であり、さらに好ましくは25モル%~35モル%である。
【0021】
前記構成単位(i)の割合が15モル%以上であることで、成形物の衝撃吸収性、柔軟性、及び軽量性を向上させることができる。
前記構成単位(i)の割合が80モル%以下であることで、成形物の衝撃吸収性、及び柔軟性を向上させることができる。
【0022】
なお、前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)は、本開示の目的を損なわない程度の少量(たとえば、10モル%以下)であれば、他のモノマーから導かられる構成単位を含んでいてもよい。他のモノマーの具体例としては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどが好ましい。
【0023】
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の、135℃のデカリン中での極限粘度[η]は、好ましくは0.01dL/g~5.0dL/g、より好ましくは0.05dL/g~4.0dL/g、さらに好ましくは0.1dL/g~3.0dL/g、特に好ましくは0.5dL/g~2.5dL/gである。
後述するように重合中に水素を併用すると分子量を制御でき、低分子量体から高分子量体まで自在に得て極限粘度[η]を調整することができる。
【0024】
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定される質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは500~10,000,000、より好ましくは1,000~5,000,000、さらに好ましくは1,000~2,500,000である。
【0025】
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定される質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布;Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.5、より好ましくは1.2~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5である。
【0026】
Mw/Mnの値が上記範囲内にある前記共重合体(A)は、機械特性、耐摩耗性に優れた成形体を、優れた成形性で製造する上で有利であり、工業的な価値がより高い。
後述する触媒を用いれば、上記に記載の極限粘度[η]又は質量平均分子量(Mw)の範囲内において、Mw/Mnの値が上記範囲内にある前記共重合体(A)を得ることができる。
なお、前記Mw/Mn及び前記Mwの値は、後述する実施例において採用された方法で測定した場合の値である。
【0027】
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の密度(ASTM D 1505にて測定)は、好ましくは880kg/m~810kg/m、より好ましくは860kg/m~820kg/m、さらに好ましくは855kg/m~830kg/mである。
【0028】
密度は4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比によって変えることができ、上記範囲内にあるにある前記共重合体(A)は、軽量な成形体を製造する上で有利である。
【0029】
示差走査型熱量計(DSC)によって測定した前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の融点〔Tm〕は、110℃未満であるか又は認められないことが好ましい。融点は4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比によって変えることができ、上記範囲内にある前記共重合体(A)は、柔軟で、かつ、成形時の分離性が高い成形体を製造する上で有利である。
【0030】
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)は、-40℃~180℃の温度範囲において、10rad/sの周波数で動的粘弾性測定して得られる損失正接tanδのピーク値が、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.4~8.0、さらに好ましくは0.6~6.0、特に好ましくは1.5~5.0、とりわけ好ましくは2.0~4.0である。
なお、10rad/sの周波数での動的粘弾性測定について、測定条件等の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0031】
また、tanδの値が最大となる際の温度(即ち、tanδのピーク値の温度)は、-40℃~180℃であってもよく、好ましくは-40℃~100℃、より好ましくは-30℃~50℃、さらに好ましくは-10℃~40℃、特に好ましくは0℃~40℃の範囲にある。tanδのピーク値は4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比などにより制御することができ、例えば共重合体(A)中の4-メチル-1-ペンテン含量を20モル%~72モル%にすることで、tanδのピーク値を上記範囲内にすることが容易になる。
【0032】
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)は、下式で定義される反発弾性率(%)が、口腔内を想定した温度条件である40℃において、0%~25%であってもよく、好ましくは0%~20%、より好ましくは0%~10%である。
反発弾性率(%)=(跳ね返り高さ)(mm)/460×100
【0033】
反発弾性率は4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比により制御することができ、例えば4-メチル-1-ペンテン含量を20モル%~65モル%にすることで反発弾性率を上記範囲内にすることが容易となる。
【0034】
4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の製造方法としては、特に制限はない。
例えば、特開2012-40136号公報に記載の製造方法を用いて、4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)を製造することができる。
【0035】
(重合体(B))
重合体(B)は、共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1つである。
重合体(B)としては、特に制限はなく、例えば、以下の熱可塑性樹脂、ゴムなどが挙げられる。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂(前記共重合体(A)を除く。)、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ビニル芳香族系樹脂、熱可塑性ポリウレタン、アイオノマー、フッ素系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂等があげられ、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂、及び熱可塑性ビニル芳香族系樹脂が好ましい。
【0037】
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂(前記共重合体(A)を除く。)としては、具体的には、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸アクリレート共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。
これらの中でも、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレン・メタクリル酸アクリレート共重合体が好ましい。
【0038】
熱可塑性ビニル芳香族系樹脂としては、具体的には、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、スチレン系エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレンブロックポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックポリマー、スチレン・イソブチレン・スチレンブロックポリマー、これらの水素添加物など)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリスチレン及びスチレン系エラストマーが好ましい。
【0039】
ゴムとしては、例えば共重合体ゴムが挙げられる。
ゴムとしては、具体的には、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、プロピレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン・ジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。
これらの中でも、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、プロピレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン・ジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、及びシリコーンゴムが好ましい。
【0040】
これらの中でも、重合体(B)が、アイソタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、
重合体(B)が、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0041】
また、スポーツ競技によって定められるマウスピースの色で透明色が求められる場合には、アイソタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・α-オレフィン共重合体(例えば、三井化学株式会社製のタフマー)、プロピレン・α-オレフィン共重合体(例えば、エクソンモービル社製のVistamaxx)、1-ブテン・α-オレフィン共重合体がさらに好ましく、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、及び1-ブテン・α-オレフィン共重合体が特に好ましく、プロピレン・α-オレフィン共重合体がより一層好ましい。
【0042】
本開示における熱可塑性樹脂及びゴムとしては、特開2012-40136に記載の熱可塑性樹脂及びゴムを参照することができる。
熱可塑性樹脂及びゴムは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0043】
(他の添加剤)
本開示の樹脂組成物には、本開示の目的を損なわない範囲で、軟化剤、各種耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機又は有機の充填剤、有機系又は無機系発泡剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、難燃剤、離型剤等の添加剤が必要に応じて配合されていてもよい。
【0044】
添加剤の具体例としては、フェノール系安定剤、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、トコフェロール類、アスコルビン酸、ジラウリルチオジプロピオネート、リン酸系安定剤、脂肪酸モノグリセライド、N,N-[ビス-2-ヒドロキシエチル]アルキルアミン、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、ステアリン酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、クレイ、石膏、ガラス繊維、チタニア、炭酸カルシウム、カーボンブラック等が挙げられる。
【0045】
本開示の樹脂組成物は、30質量部~70質量部の前記共重合体(A)と、70質量部~30質量部の前記重合体(B)と、を含有することが好ましく、35質量部~65質量部の前記共重合体(A)と、65質量部~35質量部の前記重合体(B)と、を含有することがより好ましい。
特に、重合体(B)がプロピレン・α-オレフィン共重合体である場合、本開示の樹脂組成物は、30質量部~70質量部の共重合体(A)と、70質量部~30質量部の重合体(B)とを含有することが好ましい。
また、重合体(B)がエチレン・α-オレフィン共重合体である場合、本開示の樹脂組成物は、40質量部~70質量部の共重合体(A)と、60質量部~30質量部の重合体(B)とを含有することが好ましい。
ただし、共重合体(A)と重合体(B)との合計量は100質量部である。
【0046】
成形物の衝撃吸収性、室温での柔軟性、成形型からの離形性の観点からは、共重合体(A)の下限値は、好ましくは35質量部、さらに好ましくは40質量部であり、成形物の衝撃吸収性及び軽量性、噛み心地の良さの観点からは、共重合体(A)の上限値は、好ましくは65質量部、さらに好ましくは60質量部である。
【0047】
本開示の樹脂組成物は、前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)及び重合体(B)、ならびに任意に前記添加剤を混合することにより調製できる。製造方法としては、従来公知の混合方法、たとえば、プラストミル、ヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラブレンダー、ニーダールーダー等で混合する方法、あるいは混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練後、造粒あるいは粉砕する方法を採用して製造することができる。
【0048】
本開示の樹脂組成物は、樹脂組成物の成形体において、37℃におけるショアーA硬度が、75以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましく、65以下であることがさらに好ましい。
本開示の樹脂組成物は、樹脂組成物の成形体において、37℃におけるショアーA硬度が、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。
本開示の樹脂組成物は、加工性及び噛み心地が向上する観点から、樹脂組成物の成形体において、室温(23℃)におけるショアーA硬度が、99以下であることが好ましく、95以下であることがより好ましく、90以下であることがさらに好ましい。
本開示の樹脂組成物は、強度を向上させる観点から、樹脂組成物の成形体において、室温(23℃)におけるショアーA硬度が、60以上であることが好ましく、65以上であることがより好ましく、70以上であることがさらに好ましい。
37℃及び室温(23℃)におけるショアーA硬度について、測定条件等の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0049】
上記ショアーA硬度は、4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比、又は樹脂組成物中の成分の混合比などよって任意に変えることができ、ショアーA硬度が上記範囲内であると、成形体は柔軟性に優れる。
【0050】
本開示の樹脂組成物は、樹脂組成物の成形体において、下式で定義される反発弾性率(%)が、室温(23℃)において、好ましくは0%~30%、より好ましくは0%~20%、さらに好ましくは0%~15%である。
また、反発弾性率(%)が、口腔内を想定した温度条件である40℃において、好ましくは5%~30%、より好ましくは10%~25%、さらに好ましくは15%~20%である。
反発弾性率(%)=(跳ね返り高さ)(mm)/460×100
反発弾性率(%)について、測定条件等の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0051】
反発弾性率は、4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比、又は樹脂組成物中の共重合体(A)、重合体(B)の混合比などにより制御することができ、例えば4-メチル-1-ペンテン含量を20モル%~65モル%にすることで反発弾性率を上記範囲内にすることが容易となる。
【0052】
本開示の樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点Tmが、110℃未満であるか又は観測されないことが好ましい。
これによって、結晶性が抑制された樹脂組成物を得ることができる。
4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)のコモノマー組成比を制御することにより、融点Tmを上記範囲にすることが容易となる。
【0053】
(グラフト変性)
本開示の目的を損なわない範囲で、前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)の一部又は全部はグラフト変性されていてもよく、重合体(B)の一部又は全部はグラフト変性されていてもよい。グラフト変性に使用される極性化合物、グラフト変性の方法としては、従来公知の化合物、方法が挙げられ、たとえば特開2008-127440に記載された化合物、方法を採用することができる。
【0054】
グラフト変性体のグラフト量は、通常0.1質量%~40質量%、好ましくは0.2質量%~30質量%、さらに好ましくは0.2質量%~20質量%である。
前記4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A)又は重合体(B)がグラフト変性されていると、組成物の相溶性又は接着性の点で優位である。
【0055】
≪マウスガード用シート≫
本開示のマウスガード用シートは、本開示の樹脂組成物の成形体からなる。
本開示の樹脂組成物は、マウスガードを製造する際に好適に用いることができる。
即ち、本開示の樹脂組成物は、マウスガード用樹脂組成物として好適である。
本開示のマウスガード用シートを構成する成形体は、本開示の樹脂組成物を、押出成形、カレンダー成形、プレス成形、射出成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の任意の成形法によりシート状に成形することで製造できる。
【0056】
≪マウスガード≫
本開示のマウスガードは、本開示のマウスガード用シートを含む。
本開示のマウスガードは、本開示の樹脂組成物の成形体からなる本開示のマウスガード用シートを用いて製造できる。
本開示のマウスガードは、材料が本開示の樹脂組成物又はマウスガード用シートである点を除けば、従来のマウスガードと同様の方法により、たとえば国際公開第2002/98521号パンフレット、特開2010-131181に記載の方法により製造することができる。より具体的には、前記マウスガード用シートを、軟化するまで加熱し、歯列模型又は顎模型に沿わせてマウスガードを製造する方法、歯列模型又は顎模型を用いて凹型の型を作成し、その中に前記樹脂組成物を注入してマウスガードを製造する方法などにより、マウスガードを製造することができる。
【0057】
本開示のマウスガードは、前述した様々な特性に優れる本開示の樹脂組成物を含むため、以下のような利点を有している。
・ピーク値が0.40以上であることから、噛み締め時の動作速度における材料の衝撃吸収性が高くすることができるため、薄くても装着感に優れるだけでなく衝撃吸収性も高くすることができる。
・ピーク値が1.27以下であることで、噛み締め時の動作速度における材料の反発弾性率が低くすることができるため、フィット感、特に、強く噛み締めたときのフィット感に優れ、EVA製マウスガードと比べてゴム感が少なく噛み心地にも優れることができる。
・ピーク値が1.27以下であることで、体温付近での材料のショアーA硬度が低くすることができるため、歯の凹凸に追従し、装着感に優れている。
・ピーク値が1.27以下であることで、材料のべたつき感が少なく、マウスガード成形の際の研削がしやすくすることができる。
・ピーク値が0.40以上であることから、材料の耐摩耗性が高く、耐久性に優れることができる。
・本開示の樹脂組成物は、共重合体(A)を含む場合、スチレン系エラストマー製マウスガードと比較すると、臭気がなく、また、残留二重結合が少ないために品質安定性に優れる。
【実施例0058】
以下、本開示を実施例により説明するが、本開示は、これら実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
[測定条件等]
実施例における物性の測定条件等は、以下のとおりである。
【0060】
<各種測定用プレスシートの作製法>
実施例及び比較例の各樹脂組成物を、190℃に設定した神藤金属工業社製油圧式熱プレス機を用い、10MPaの圧力でシート成形してプレスシートを作製した。1mm~3mm厚のシート(スペーサー形状;240×240×2mm厚の板に80×80×0.5~3mm、4個取り)の場合、余熱を5分~7分程度し、10MPaで1~2分間加圧した後、20℃に設定した別の神藤金属工業社製油圧式熱プレス機を用い、10MPaで圧縮し、5分程度冷却して測定用試料を作成した。熱板として5mm厚の真鍮板を用いた。
【0061】
<各種測定用マウスピースの作製法>
上記で得られた厚さ2mmの各プレスシートを加熱により軟化させた後、真空成形機(エアバッグXQ、山八歯材工業株式会社製)によりプレスシートと歯型石膏模型との間の空気を吸入して真空にすることで、プレスシートを歯型石膏模型に密着させて歯型石膏模型に合うマウスピースを作製した。
【0062】
〔組成〕
共重合体(A)中の4-メチル-1-ペンテン及びプロピレン含量は、13C-NMRにより以下の装置及び条件により測定した。日本電子(株)製ECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒,試料濃度55mg/0.6mL、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。
【0063】
〔密度〕
共重合体(A)の密度は、ASTM D 1505(水中置換法)に従って、ALFA MIRAGE社電子比重計MD-300Sを用い、水中と空気中で測定された各試料の質量から算出した。
【0064】
〔極限粘度〕
極限粘度[η]は,デカリン溶媒を用いて135℃で測定した。
【0065】
〔分子量(Mw、Mn)・分子量分布(Mw/Mn)〕
共重合体(A)の分子量は、液体クロマトグラフ:Waters製ALC/GPC 150-C plus型(示唆屈折計検出器一体型)を用い、カラムとして東ソー株式会社製GMH6-HT×2本及びGMH6-HTL×2本を直列接続し、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼンを用い、流速1.0ml/分、140℃で測定した。
得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを使用した検量線を用いて解析することで、Mw/Mn値、Mw値及びMn値を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0066】
〔ショアーA硬度〕
ショアーA硬度(JIS K6253に準拠)の測定では、厚さ3mmのプレスシートを測定試料として用い、押針接触後15秒後の目盛りを読み取った。
測定は、37℃、室温(23℃)の両方で行った。
【0067】
〔動的粘弾性〕
厚さ3mmのプレスシートを作成し、さらに動的粘弾性測定に用いる45mm×10mm×3mmの短冊片を切り出した。ANTONPaar社製MCR301を用いて、10rad/sの周波数で-40~180℃までの動的粘弾性の温度依存性を測定し、ガラス転移温度に起因する損失正接(tanδ)がピーク値(最大値)となる際の温度(以下「ピーク時温度」ともいう。)、及びその際の損失正接(tanδ)のピーク値を測定した。
【0068】
〔反発弾性率〕
厚さ6mmのプレスシートを作成し、JIS K6400に準拠して、37℃でこのプレスシート上に460mmの高さから16.310gの剛体球を落下させた際の跳ね返り高さL(mm)を測定し、下記式により定義される反発弾性率を求めた。
反発弾性率(%)=L(mm)/460×100
【0069】
〔マウスピースの分離性〕
真空成形後のマウスピースを歯形石膏模型から剥がす際に、シートの収縮や粘着性が大きく過度な力をかける必要があるかどうかについて、以下の基準により評価して分離性の指標とした。
~評価基準~
A:マウスピースを歯形石膏模型から剥がす際に、離型剤(フッ素系離型剤、ダイフリー、ダイキン工業株式会社製)及びペンチを用いることなく剥がすことができた。
B:マウスピースを歯形石膏模型から剥がす際に、離型剤(フッ素系離型剤、ダイフリー、ダイキン工業株式会社)を用いることはなかったが、ペンチを用いる必要があった。
C:マウスピースを歯形石膏模型から剥がす際に、離型剤(フッ素系離型剤、ダイフリー、ダイキン工業株式会社)及びペンチを用いる必要があった。
【0070】
〔マウスピースの加工性〕
マウスピースを歯形石膏模型から剥がした後に、マウスピースの形に成形する際の加工性を以下の基準で評価した。
~評価基準~
A:加工する際に過度の力を要さず、マウスピースの端面が粗くないために研磨する量が少なく、研磨する際に発生する熱によってマウスピースが溶けなかった。
B:加工する際に過度の力を要さず、マウスピースの端面が粗さは通常通りであったが、研磨する際に発生する熱によってマウスピースが溶けた。
C:加工する際に過度の力を要し、マウスピースの端面が粗いために研磨する量が多く、研磨する際に発生する熱によってマウスピースが溶けた。
【0071】
〔マウスピース装着感の評価〕
得られた各マウスピースの装着感について、以下の基準により評価した。
なお、下記A及びBは装着感が良好であり、下記C及びDは装着感が良好ではないと判断する。
~評価基準~
A:噛みこんだ際に、元の形状に戻る力が小さく、噛んだ際の感触が良好であった。
B:噛みこんだ際に、元の形状に戻る力があったが、噛んだ際に反発する感触は弱かった。
C:噛みこんだ際に、元の形状に戻る力が大きく、噛んだ際に反発する感触が強かった。
D:噛みこんだ際に、元の形状に戻る力が非常に大きく、噛んだ際に反発する感触が非常に強かった。
【0072】
〔臭気の評価〕
製造したマウスピースについて、臭気があるかないかを評価した。
【0073】
〔結晶性評価〕
製造したマウスピースについて、示差走査熱量計(DSC)により融点Tmを測定できるか、又は、測定できる場合は融点Tmの値を測定した。
【0074】
~合成例1~
充分窒素置換した容量1.5リットルの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃でノルマルヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテンを450ml装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入し攪拌機を回した。
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧が0.40MPa(ゲージ圧)となるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいた、メチルアルミノキサンをAl換算で1mmol、ジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを0.01mmolを含むトルエン溶液0.34mlを窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。反応溶液にアセトンを攪拌しながら注いだ。
得られた溶媒を含むパウダー状の重合体を100℃、減圧下で12時間乾燥することでポリマー(4-メチル-1-ペンテン・プロピレン共重合体(A))を得た。
得られたポリマーは36.9gで、ポリマー中の4-メチル-1-ペンテン含量は72.5mol%、プロピレン含量は27.5mol%であった。各種物性について測定した結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
[実施例1]
合成例1にて得られたポリマー(共重合体(A))及びVistamaxx(登録商標)6202(重合体(B)、プロピレン・α-オレフィン共重合体、エクソンモービル社製)を、表2に記載の混合比で混合し、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を用いて、1mm~3mm厚のプレスシート及びマウスピースを作製した。
各評価についての結果を表2に示す。
【0077】
[実施例2~実施例7、及び、比較例1~比較例4]
表2に記載の共重合体(A)及び表2に記載の重合体(B)を、表2に記載の混合比で混合したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を用いて、1mm~3mm厚のプレスシート及びマウスピースを作製した。
各評価についての結果を表2に示す。
【0078】
【表2】


【0079】
表2中、「-」の表示は、該当成分が含まれていない又は該当項目の結果が存在しないことを意味する。
表2の記載についての詳細は以下の通りである。
・タフマー(登録商標)DF840:エチレン・α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製)
・ハイブラー5127:水素添加スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(株式会社クラレ製)
・ジーシーインパクトガード:スチレン・α-オレフィンブロック共重合体を用いたマウスガード材料(株式会社ジーシー製)
【0080】
表2に示すように、周波数10rad/sにおける動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピーク値が0.40~1.27であり、前記ピーク値の温度が22℃以上である樹脂組成物を用いた実施例は、成形体を製造した後に石膏型等から分離する際の分離性に優れ、噛みこんだ際の噛み心地が良好であった。
【0081】
実施例の樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比べ、作製したプレスシートにおいて反発弾性率を抑えることができた。そのため、作製したマウスピースを装着した際、ゴムのような感触がなく歯列及び口腔内粘膜に良好にフィットした。
【0082】
一方、tanδのピーク値が1.70である比較例1は、分離性及び加工性に劣っていた。
tanδのピーク値が0.30である比較例2は、加工性及び装着感に劣っていた。
tanδのピーク値の温度が20℃である比較例3は、分離性に劣っていた。
tanδのピーク値が0.30であり、tanδのピーク値の温度が測定できなかった比較例4は、装着感に劣っていた。
【0083】
比較例1の樹脂組成物は、作製したプレスシートにおいて反発弾性率を抑えることができなかった。そのため、作製したマウスピースを装着した際、ゴムのような感触があり歯列及び口腔内粘膜に良好にフィットしなかった。
【0084】
比較例2の樹脂組成物は、作製したマウスピースが石膏型に密着し、石膏型からの分離が難しく、過度な力がかかり石膏型が破損した。これに伴い、マウスピースの形状の一部を保持することができず、マウスピースとして不適であった。
【0085】
比較例3の樹脂組成物は、作製したマウスピースが石膏型に密着し、石膏型からの分離が難しかった。また、マウスピースに臭気があった。
さらに、ハイブラー5127は、密度が940kg/mであるため軽量性に劣っていた。
【0086】
上記実施例の中でも、tanδのピーク値が1.2以下である実施例2~実施例7は、tanδのピーク値が1.25である実施例1と比較して、分離性に優れていた。