(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093298
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】データ予測装置および石英ガラスルツボ製造システム
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220616BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20220616BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20220616BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
G06N20/00 130
C30B15/10
C03B20/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198482
(22)【出願日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2020205695
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大谷 雅輝
【テーマコード(参考)】
4G014
4G077
【Fターム(参考)】
4G014AH00
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG01
4G077PD01
(57)【要約】
【課題】石英ガラスルツボの製造において、溶融条件の調整にかかるサイクルタイムを大幅に短縮可能なデータ予測装置を提供する。
【解決手段】本発明にかかるデータ予測装置は、ルツボ製造装置に設定された溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの、所定位置の寸法の実測値(入力データ)と重量の実測値(教師データ)とを紐付けることで作成したデータセットを記憶する記憶部12と、石英ガラスルツボの重量を予測するデータ予測モデルを、データセットを用いた機械学習により生成するモデル生成手段(制御部11)と、製造工程においてルツボ製造装置から出力される所定位置の寸法の実測値を入力データとして受け付け、学習済みのデータ予測モデルを用いて、前記製造工程で製造される石英ガラスルツボの予測重量を出力するデータ予測手段(制御部11)と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ製造装置に設定された溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの所定位置の寸法の実測値を入力データとし、前記溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの重量の実測値を教師データとし、前記入力データに前記教師データを紐付けることで作成したデータセットを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段から読み出したデータセットを用いて、石英ガラスルツボの重量を予測するデータ予測モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、
石英ガラスルツボの製造工程内の測定工程において前記ルツボ製造装置から出力される所定位置の寸法の実測値を入力データとして受け付け、学習済みのデータ予測モデルを用いて、前記製造工程で製造される石英ガラスルツボの予測重量を出力するデータ予測手段と、
を備える、
ことを特徴とするデータ予測装置。
【請求項2】
さらに、
前記データ予測手段が出力する予測重量を表示する表示手段、
を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ予測装置。
【請求項3】
前記所定位置の寸法の実測値を、石英ガラスルツボにおける直胴部の外径、底部の肉厚、コーナー部の肉厚、直胴部の肉厚、底部の透明層の厚さ、コーナー部の透明層の厚さ、および直胴部の透明層の厚さ、の全部または一部とする、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のデータ予測装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のデータ予測装置と、
成型工程、溶融工程および測定工程を含む製造工程により石英ガラスルツボを製造するルツボ製造装置と、
を備え、
前記ルツボ製造装置は、機械学習済みのデータ予測モデルとして動作する前記データ予測装置から出力された石英ガラスルツボの予測重量の傾向に基づいて調整された溶融条件で溶融工程を実施する、
ことを特徴とする石英ガラスルツボ製造システム。
【請求項5】
前記溶融条件を、溶融時の電流値、電圧値、積算電力値、電極開度、電極位置、溶融温度、圧力、冷却水温度、冷却水流量および溶融時間を含む溶融工程のデータとする、
ことを特徴とする請求項4に記載の石英ガラスルツボ製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボの重量を予測するデータ予測装置および石英ガラスルツボ製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、チョクラルスキー法(CZ法)が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ(以下、単に「ルツボ」と呼ぶ場合がある。)内に形成されたシリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引き上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
【0003】
このシリコン融液を収容するための石英ガラスルツボには、内面側に高純度の合成シリカガラスにより形成された透明層を有し、外表側に熱性に優れた天然シリカガラスにより形成された不透明層を有する、2層構造の石英ガラスルツボが用いられるのが一般的である。
【0004】
このような石英ガラスルツボの製造方法の一例として、回転モールド法が知られている。回転モールド法では、まず、回転するルツボ成型用モールドの表面に天然シリカガラスの原料粉末(天然シリカ粉)を積層し、さらに天然シリカ粉の層の表面に合成シリカガラスの原料粉末(合成シリカ粉)を積層し、原料粉末積層体を形成する(成型工程)。つぎに、アーク放電でこの原料粉末積層体を内側から外側へ加熱溶融し、その後、冷却することにより、内面側に合成シリカガラス層(透明層)が形成され、外表側に天然シリカガラス層(不透明層)が形成され、2層構造のルツボ成型体が得られる(溶融工程)。最後に、ルツボ成型体の上端部を切断することによって、2層構造の石英ガラスルツボが得られる(切断工程)。
【0005】
また、上記製造方法で得られる石英ガラスルツボには、重量について高い精度が要求される。そのため、上記切断工程の後には、実際に製造された石英ガラスルツボを用いて、重量の測定が行われる(測定工程)。そして、この測定結果により得られる重量の実測値に基づいて溶融条件の調整が行われている。なお、溶融条件の調整は、通常、製造作業者の経験に基づいて行われる。
【0006】
一方で、製造作業者の経験によらず、実際に製造された石英ガラスルツボの測定データに基づいて製造条件設定支援装置(コンピュータ)が製造条件(溶融条件を含む)を決定する方法について、従来から検討が行われている(特許文献1参照)。
【0007】
たとえば、特許文献1には、所定の物性パラメータおよび製造条件に基づくシミュレーションにより得られたデータと、その製造条件に基づいて実際に製造したルツボの測定データとの一致度を計算し、さらに、一致度が所定の水準になるまで物性パラメータおよび製造条件を変更しながらシミュレーションを繰り返し実行し、一致度が所定の水準以上となったときの製造条件を改善された製造条件として採用する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の石英ガラスルツボの製造方法においては、ルツボを製造した後に重量を測定する工程(測定データを得る工程)が実施されるため、測定データに基づく溶融条件の調整は、完成したルツボの測定データが製造作業者にフィードバックされた後の作業となる。
【0010】
すなわち、従来の石英ガラスルツボの製造方法を採用する場合、溶融条件の調整は、その調整作業を行う者が人あってもコンピュータであっても、ルツボを実際に製造し測定データがフィードバックされた後でなければ実施することができない。そのため、たとえば、特定の製造工程において溶融条件が設定された後つぎに調整された溶融条件が設定されるまでの時間(サイクルタイム)は、上記製造工程でルツボが完成するまでにかかった所要時間(リードタイム)を大幅に超えた時間となる。このような冗長なサイクルタイムは、ルツボ製造の効率化という観点から改善する必要がある。
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、石英ガラスルツボの製造において、溶融条件の調整にかかるサイクルタイムを大幅に短縮可能なデータ予測装置および石英ガラスルツボ製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるデータ予測装置は、ルツボ製造装置に設定された溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの所定位置の寸法の実測値を入力データとし、前記溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの重量の実測値を教師データとし、前記入力データに前記教師データを紐付けることで作成したデータセットを記憶する記憶手段(後述する記憶部12に相当)と、前記記憶手段から読み出したデータセットを用いて、石英ガラスルツボの重量を予測するデータ予測モデルを機械学習により生成するモデル生成手段(後述する制御部11に相当)と、石英ガラスルツボの製造工程内の測定工程において前記ルツボ製造装置から出力される所定位置の寸法の実測値を入力データとして受け付け、学習済みのデータ予測モデルを用いて、前記製造工程で製造される石英ガラスルツボの予測重量を出力するデータ予測手段(後述する制御部11に相当)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明にかかるデータ予測装置によれば、完成した石英ガラスルツボを用いて重量を測定するのではなく、予め学習済みのデータ予測モデルを用いて、完成予定の石英ガラスルツボの重量を予測する。これにより、完成した石英ガラスルツボを用いて重量を測定する場合と比較して、その重量が製造作業者にフィードバックされるまでの時間を大幅に短縮することができ、これに伴って、製造作業者による溶融条件の調整を早めに開始することが可能となる。そのため、たとえば、特定の製造工程において溶融条件が設定された後つぎに調整後の溶融条件が設定されるまでのサイクルタイムを大幅に短縮することができる。
【0014】
また、本発明にかかるデータ予測装置は、前記データ予測手段が出力する予測重量を表示する表示手段を備えることが望ましい。
【0015】
また、本発明にかかるデータ予測装置は、前記所定位置の寸法の実測値を、石英ガラスルツボにおける直胴部の外径、底部の肉厚、コーナー部の肉厚、直胴部の肉厚、底部の透明層の厚さ、コーナー部の透明層の厚さ、および直胴部の透明層の厚さ、の全部または一部とすることが望ましい。
【0016】
本発明にかかる石英ガラスルツボ製造システムは、前記データ予測装置と、成型工程、溶融工程および測定工程を含む製造工程により石英ガラスルツボを製造するルツボ製造装置と、を備え、前記ルツボ製造装置は、機械学習済みのデータ予測モデルとして動作する前記データ予測装置から出力された石英ガラスルツボの予測重量の傾向に基づいて調整された溶融条件で溶融工程を実施することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる石英ガラスルツボ製造システムにおいては、前記溶融条件を、溶融時の電流値、電圧値、積算電力値、電極開度、電極位置、溶融温度、圧力、冷却水温度、冷却水流量および溶融時間を含む溶融工程のデータとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかるデータ予測装置および石英ガラスルツボ製造システムは、石英ガラスルツボの製造において、溶融条件の調整にかかるサイクルタイムを大幅に短縮することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明にかかる石英ガラスルツボ製造システムのシステム構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、ルツボ製造装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、石英ガラスルツボの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、溶融工程にて形成されたルツボ成型体の断面図である。
【
図5】
図5は、切断工程により得られた石英ガラスルツボの断面図である。
【
図6】
図6は、本発明にかかるデータ予測装置として動作するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、データ予測モデルを生成するためのデータセットの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、ニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、入力データの構成の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、学習済みのデータ予測モデルによる予測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるデータ予測装置および石英ガラスルツボ製造システムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本願の明細書および図面において、同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する場合がある。
【0021】
<システム構成>
図1は、本発明にかかる石英ガラスルツボ製造システムのシステム構成の一例を示す図である。本実施形態の石英ガラスルツボ製造システムは、実際に製造する石英ガラスルツボの重量を予測する処理(以下、データ予測処理と呼ぶ。)および重量予測を実行する学習モデルを生成する処理(以下、学習モデル生成処理と呼ぶ。)を行うホストコンピュータとして動作するデータ予測装置1と、重量の予測結果に基づいて製造作業者2により調整および設定された溶融条件に従い石英ガラスルツボを製造するルツボ製造装置3と、を備える。
【0022】
<ルツボ製造装置>
本実施形態のルツボ製造装置3は、一例として、回転モールド法により、内面側に高純度の合成シリカガラスにより形成された透明層を有し、外表側に熱性に優れた天然シリカガラスにより形成された不透明層を有する、2層構造の石英ガラスルツボを製造する。
【0023】
図2は、本実施形態のルツボ製造装置3の構成の一例を示す断面図である。このルツボ製造装置3は、たとえば、複数の貫通孔(図示せず)を穿設した金型で構成された内側部材31と、その外周に通気部32を設けて内側部材31を保持する保持体33と、から構成されたルツボ成型用モールド34を備える。
【0024】
また、保持体33の下部には、図示しない回転手段に連結された回転軸35が固着され、ルツボ成型用モールド34を回転可能に支持している。また、通気部32は、保持体33の底部略中央から回転軸35の軸方向に貫通する排気口36に連結され、この排気口36がさらに減圧機構37に連結されている。
【0025】
また、内側部材31に対向する上部には、アーク放電用のアーク電極38と、図示はしていないが、原料供給ノズル、およびルツボの所定部位にガス(窒素ガス、酸素ガス等)を吹付けるノズル等、が設けられている。
【0026】
ここで、上記ルツボ製造装置3による石英ガラスルツボの製造方法について説明する。
図3は、石英ガラスルツボの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0027】
上記ルツボ製造装置3を用いて石英ガラスルツボを製造するには、まず、回転駆動源(図示せず)を使用して回転軸35を矢印の方向(
図2参照)に回転させることによって、ルツボ成型用モールド34を所定の速度で回転させる。そして、減圧機構37の駆動により通気部32を減圧させ、内側部材31に形成された多数の貫通孔を介して内側部材31内面側を吸引しつつ、内側部材31内に原料供給ノズルから石英ガラス原料粉末(天然シリカ粉、合成シリカ粉)を供給する。具体的には、先に粗粒の天然シリカ粉を供給し、吸引力および遠心力による押圧によって内側部材31の表面に天然シリカ粉の層を形成する。その後、微粒の合成シリカ粉を供給し、吸引力および遠心力による押圧によって天然シリカ粉の層の表面にさらに合成シリカ粉の層を形成し、2層構造の原料粉末積層体を形成する(ステップS1:成型工程)。
【0028】
原料粉末積層体を形成後、減圧機構37による減圧を継続しながら、アーク電極38に通電して原料粉末積層体を内側から加熱溶融し、まず表層をガラス化する(合成シリカガラス層が形成される)。その後も減圧機構37による減圧およびアーク電極38による加熱溶融を継続し、原料粉末積層体を外表側までガラス化し(天然シリカガラス層が形成される)、2層構造のルツボ成型体を形成する(ステップS2:溶融工程)。
【0029】
図4は、溶融工程にて形成されたルツボ成型体の断面図である。
図4に示すルツボ成型体40は、合成シリカガラス層を形成する透明層40aと天然シリカガラス層を形成する不透明層40bで構成される。
【0030】
ルツボ成型体40を形成後、このルツボ形成体40を用いて外観検査および寸法測定を行う(ステップS3:測定工程)。寸法測定においては、たとえば、ルツボ形成体40における所定位置の外径、肉厚および透明層の厚さ等を測定する。
【0031】
最後に、ルツボ成型体40の上端部を所定の高さで切断することによって、2層構造の石英ガラスルツボが得られる(ステップS4:切断工程)。具体的には、
図4に示すルツボ成型体40を点線部分で切断することにより2層構造の石英ガラスルツボが得られる。一般的に、回転モールド法で製造するルツボ成型体40は、完成形の石英ガラスルツボの要求寸法よりも高くなるように製造し、ルツボ成型体40の上端開口部分を切断することで要求寸法を満たしている。
【0032】
図5は、切断工程により得られた石英ガラスルツボの断面図である。
図5に示す石英ガラスルツボ41は、合成シリカガラス層を形成する透明層41aと天然シリカガラス層を形成する不透明層41bで構成される。
【0033】
なお、本実施形態においては、一例として、2層構造の石英ガラスルツボを製造する場合について記載したが、これに限るものではない。本発明にかかるデータ予測装置および石英ガラスルツボ製造システムについては、たとえば、3層構造以上の石英ガラスルツボを製造する場合においても同様に適用可能である。すなわち、内側層、中間層、外側層により形成された3層構造の石英ガラスルツボや、さらには、中間層が複数形成された4層構造以上の石英ガラスルツボ、を製造する場合においても適用可能である。たとえば、3層構造以上の石英ガラスルツボを製造する場合は、上述した成型工程および溶融工程において、内側層、単一または複数の中間層、外側層で構成された3層構造以上の原料粉末積層体およびルツボ成型体を形成することによって、3層構造以上の石英ガラスルツボが得られる。
【0034】
<データ予測装置の構成>
図6は、本発明にかかるデータ予測装置として動作するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図6において、データ予測装置1は、CPU(Central Processing Unit)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等で構成される制御部11と、ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等の各種メモリを含む記憶部12と、キーボードおよびマウス等のユーザインタフェースを含む入力部13と、印刷やスキャン等の入出力処理を行うインタフェース部14と、ディスプレイである表示部15と、所定のネットワークを介して外部と通信を行う通信部16とを備える。なお、
図6では、キーボードおよびマウス等のユーザインタフェースを含む入力部13を備えることとしたが、本実施形態のデータ予測装置1は、これに限るものではなく、表示部15にタッチパネルの機能を持たせることによって、入力部13を設けない構成、または入力部13と併用する構成としてもよい。
【0035】
図6において、制御部11は、本実施形態のデータ予測装置1によるデータ予測処理および学習モデル生成処理を実現するために、たとえば、石英ガラスルツボの重量を予測するデータ予測プログラムと、重量予測を行う学習モデルを生成するための学習モデル生成プログラムと、を実行する。記憶部12は、本実施形態のデータ予測処理および学習モデル生成処理にかかるプログラム(データ予測プログラム、学習モデル生成プログラム)および各種情報(学習のためのデータセット等)や、処理の過程で得られた各種データ(所定位置の寸法および予測した重量等)等を記憶する。制御部11では、記憶部12に記憶されている各種プログラムを読み出すことにより、本実施形態のデータ予測処理および学習モデル生成処理を実行する。
【0036】
なお、記憶部12は、内部メモリに限るものではなく、たとえば、DVD(Digital Versatile Disc)やSDメモリ等の外部記憶媒体であってもよいし、また、内部メモリおよび外部記憶媒体(DVDやSDメモリ等)の両方で構成されることとしてもよい。また、本実施形態のデータ予測装置1のハードウェア構成は、説明の便宜上、本実施形態のデータ予測処理および学習モデル生成処理にかかわる構成を列挙したものであり、データ予測装置1を構成するコンピュータのすべての機能を表現したものではない。
【0037】
また、本実施形態のデータ予測装置1は、デスクトップパソコン、ノートパソコン等の汎用PCを想定しているが、これらに限るものではなく、たとえば、スマートフォン、タブレット端末等の携帯端末であってもよい。
【0038】
<学習モデル生成処理>
つづいて、本実施形態のデータ予測装置1におけるデータ予測処理を説明する前に、その前提となる学習モデル生成処理について詳細に説明する。なお、学習モデル生成処理およびデータ予測処理において使用する入力データは、制御部11にて予め標準化されたものとする。すなわち、制御部11では、機械学習および重量予測を行う前処理として、入力データを構成する所定位置の寸法の実測値について、個別に、平均値を0とし標準偏差を1とする標準化処理を行う。
【0039】
本実施形態のデータ予測装置1において、制御部11は、石英ガラスルツボの重量を予測する学習モデル、すなわち、データ予測モデルとして動作し、たとえば、
図3に示す製造工程内の測定工程(ステップS3)においてルツボ製造装置3から出力される所定位置の寸法の実測値を入力データとして受け付け、石英ガラスルツボの重量(予測重量)を出力する。そして、このデータ予測モデルは、たとえば、ニューラルネットワーク等、公知の機械学習アルゴリズムを利用して生成する。
【0040】
また、機械学習アルゴリズムで使用するデータセットは、たとえば、ルツボ製造装置3に設定された溶融条件(後述する溶融時の電流値や溶融時間等)で実際に製造された石英ガラスルツボの所定位置の寸法の実測値を入力データとし、前述した溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの重量の実測値を出力ラベル(正解ラベル)とし、この入力データに出力ラベルを紐付けることで作成する。
【0041】
データセットの入力データは、上述したとおり、実際に製造された石英ガラスルツボの所定位置に対応する寸法の実測値であるが、本実施形態では、一例として、ルツボの位置Gの外径、位置Fの外径、位置Eの外径、位置Aの肉厚、位置Dの肉厚、位置Fの肉厚、位置Aの透明層の厚さ、位置Dの透明層の厚さ、位置Fの透明層の厚さ、の計9つの寸法(mm)とする。なお、各位置(A,D,E,F,G)は、
図5に示す石英ガラスルツボ41の断面図に記載のとおり、たとえば、底部(A)、コーナー部(D)、直胴部(E,F,G)の各箇所を指すものとする。
【0042】
また、本実施形態においては、上述したとおり、入力データを上記9つの寸法としたが、これに限るものではなく、この入力データは、たとえば、上記9つの寸法のうちの一部であってもよいし、上記9つの寸法に他の寸法を加えることとしてもよいし、または上記9つの寸法以外の寸法で構成することとしてもよい。さらに、上記入力データには、寸法以外のパラメータとして、たとえば、溶融データ(溶融時の電流値、溶融時間等)や気候条件等の環境条件を含ませることとしてもよい。また、寸法以外のパラメータを入力データに含める場合において、たとえば、そのパラメータに非数値の質的データ(たとえば、電極や金型等の設備等)が含まれる場合については、質的データを量的データ(数値)に変換して入力することになる。数値化の方法については、特に限定はしないが、たとえば、ダミー変数(One-Hotエンコーディング)等を利用して質的データを量的データに変換する。
【0043】
図7は、データ予測モデルを生成するためのデータセットの一例を示す図である。
図7において、ニューラルネットワークに機械学習をさせるためのデータセットは、上述した入力データ(実際に製造されたルツボの位置Gの外径、位置Fの外径、位置Eの外径、位置Aの肉厚、位置Dの肉厚、位置Fの肉厚、位置Aの透明層の厚さ、位置Dの透明層の厚さ、位置Fの透明層の厚さ等の実測値)と、上述した出力ラベル(実際に製造されたルツボの重量の実測値)との組み合わせで構成される。
【0044】
また、本実施形態においては、たとえば、データ予測モデルを訓練するためのデータセット(
図7に示すデータセット)を予め記憶部12に保存しておく。そして、記憶部12に保存されたデータセットのうち、約8割を訓練データとして使用し、約2割を評価データとして使用する。ここで、訓練データは、データ予測モデルの学習に使用されるデータセットであり、評価データは、モデルの学習には使用せずに、学習済みのデータ予測モデルに汎用性があるかどうかを検証するために使用されるデータセットである。データ予測モデルの検証はホールドアウト法により実施した。また、訓練データの数は、たとえば、データ予測モデルにおいて所望する精度が得られる程度の数を用意することが望ましい。また、本実施形態におけるデータ予測モデルの性能評価には、評価指標の1つである平均二乗誤差(MES:Mean Squared Error)を採用する。すなわち、実測値と予測値との差を2乗し、その総和をデータ数で割った計算結果を評価対象の値とするため、たとえば、その値が小さいほど誤差の少ないモデルといえる。なお、評価指標はこれに限定されるものではない。
【0045】
そして、上述したように用意されたデータセット(訓練データ、評価データ)が記憶部12に保存された状態において、制御部11は、記憶部12から上記訓練データを読み出し、たとえば、機械学習アルゴリズムの1つであるニューラルネットワークを利用して、訓練データによる教師あり学習を行わせることにより、ルツボの重量予測に最適化したデータ予測モデルを生成する。
【0046】
<機械学習アルゴリズムの一例>
図8は、機械学習を行わせるニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。本実施形態において使用する機械学習アルゴリズムは、全結合型のニューラルネットワークであり、たとえば、入力層と、1つまたは複数の層を有する中間層と、出力層で構成される。このニューラルネットワークの入力層の各ユニットは、上述したデータセット内の入力データを構成する所定位置の寸法(x
1,x
2,x
3,…)と1対1に対応する。すなわち、入力データを構成する各寸法の数が入力ユニット数となる。一方、出力層のユニット数は、ルツボの重量(出力ラベル:z)に対応し、本実施形態においては1つとなる。
【0047】
また、本実施形態においては、中間層における活性化関数をReLU(Rectified Linear Unit)関数とし、出力層における活性化関数を線形関数(Linear function)とする。なお、中間層の層数およびユニット数について規定はなく、任意に設定可能である。そのため、中間層の層数およびユニット数については、データ量やデータの種類、および要求される出力の精度等に応じて適宜決定する。たとえば、中間層の層数およびユニット数が増えるほど、分析の柔軟性や出力の精度等のニューラルネットワークのパフォーマンスは向上するが、一方で、データ量やメモリの使用領域、および演算量等は増大する。
【0048】
具体的には、まず、制御部11は、記憶部12から1つの訓練データを読み出し、この訓練データを構成する入力データ(x1,x2,x3,…,xn)を、入力層の各ユニットに入力する。そして、入力データ(x1,x2,x3,…,xn)にそれぞれ重み(w11~w1m,w21~w2m,w31~w3m,…,wn1~wnm)を乗算し、その乗算結果をつぎの層(中間層)の各ユニットに出力する。これにより、中間層の各ユニットの入力値(y1,y2,y3,…,ym)は、以下のようになる。なお、nは入力層のユニット数であり、mは中間層のユニット数であり、b1,b2,b3,…,bmはバイアスである。また、重み(w11~w1m,w21~w2m,w31~w3m,…,wn1~wnm)とバイアス(b1,b2,b3,,bm)は学習過程において更新される数値である。
y1=x1w11+x2w21+x3w31+…+xnwn1+b1
y2=x1w12+x2w22+x3w32+…+xnwn2+b2
y3=x1w13+x2w23+x3w33+…+xnwn3+b3
…
ym=x1w1m+x2w2m+x3w3m+…+xnwnm+bm
【0049】
つぎに、中間層の各ユニットでは、前層の各ユニットからの複数の入力値(y1,y2,y3,…,ym)に対し、それぞれ下式に記載のReLU関数を計算し、その結果を次層の各ユニットに出力する。なお、Mは1~mである。
【0050】
【0051】
出力層では、たとえば、線形関数を適用し、中間層の各ユニットから受け取った入力値を合計し、その合計値をルツボの重量の予測値(予測重量)として出力する。
【0052】
そして、制御部11は、出力層の出力である予測値と教師データの重量との平均二乗誤差を計算し、この誤差が最小となるように、予め規定するエポック(epoch)数にわたって繰り返し学習を行うことで、データ予測モデルが訓練(重みとバイアスの更新)される。
【0053】
なお、本実施形態においては、
図7に示すデータセットを用いて学習モデルを生成することとしたが、データセットの入力データはこれに限るものではない。たとえば、
図7に示す入力データを構成する各寸法の中から一部の寸法を選定し、選定した寸法(入力データ)と、実際に製造されたルツボの重量の実測値(出力ラベル)とを紐付けたデータセットを用いて、教師あり学習を行わせることとしてもよい。または、たとえば、上記入力データにその他のパラメータを新たに追加した入力データと、実際に製造されたルツボの重量の実測値(出力ラベル)とを紐付けたデータセットを用いて、教師あり学習を行わせることも可能である。
【0054】
また、本実施形態においては、機械学習アルゴリズムの一例としてニューラルネットワークを用い、上述したデータ予測モデルを生成することとしたが、データ予測モデルを生成するための機械学習アルゴリズムは、これに限るものではない。たとえば、LightGBMなどが代表される、決定木と勾配ブースティングを組み合わせたアルゴリズムなどの使用が考えられる。
【0055】
<データ予測処理>
つづいて、本実施形態のデータ予測装置1におけるデータ予測処理について詳細に説明する。
【0056】
本実施形態において、学習済みのデータ予測モデルとして動作する制御部11は、たとえば、
図3に示す製造工程内の測定工程(ステップS3)においてルツボ製造装置3が出力する所定位置の寸法の実測値(位置Gの外径、位置Fの外径、位置Eの外径、位置Aの肉厚、位置Dの肉厚、位置Fの肉厚、位置Aの透明層の厚さ、位置Dの透明層の厚さ、位置Fの透明層の厚さ)を入力データとして受け付け、製造中の石英ガラスルツボの重量(予測重量)を出力する。すなわち、制御部11は、石英ガラスルツボの完成を待つことなく、測定工程(ステップS3)で得られる所定位置の寸法の実測値の入力により、即座に、完成予定の石英ガラスルツボの重量を予測する。
【0057】
具体的には、まず、データ予測装置1の操作者(製造作業者2)が、ユーザインタフェース(キーボードおよびマウスを含む入力部13)を利用し、測定工程(ステップS3)で得られる所定位置の寸法の実測値を、入力データとしてデータ予測装置1に入力する(
図3のステップS11)。このとき、入力データとしては、データ予測モデルを生成したときと同一位置の寸法の実測値を入力する。
図9は、入力データの構成の一例を示す図である。なお、寸法以外のパラメータを入力データに含める場合において、たとえば、そのパラメータに非数値の質的データが含まれる場合については、上述したデータ予測モデルの生成時と同様の方法で質的データを量的データに変換してから入力する。そして、学習済みのデータ予測モデルとして動作する制御部11は、
図9に示す入力データを受け取り、完成予定の石英ガラスルツボの重量を予測重量として出力する(
図3のステップS12)。そして、ここで予測された重量(予測重量)は、データ予測装置1の表示部15に表示される。
【0058】
<製造工程への反映>
製造作業者2は、データ予測装置1の表示部15に表示された予測重量を確認することにより、現状の溶融条件で溶融工程を実施した場合に製造される石英ガラスルツボの傾向(寸法の大,小)を知ることができる。したがって、製造作業者2は、表示部15に表示された予測重量に基づいて、たとえば、重量の値の傾向が想定した値より大きい場合には小さくなるように、重量の値の傾向が想定した値より小さい場合には大きくなるように、現在の溶融条件を調整し(
図3のステップS13)、ルツボの溶融工程に反映する(
図3のステップS14)。
【0059】
なお、上記溶融条件の調整においては、たとえば、溶融工程のデータ(溶融データ)の調整が行われる。調整される溶融データとしては、たとえば、溶融時の電流値(アーク電極38の電流値)、電圧値、積算電力値、電極開度、電極位置、溶融温度、圧力、冷却水温度、冷却水流量および溶融時間等が含まれ、これらの溶融時の数値データには、設定値、平均値、最大値、最小値、積算値等が含まれるものとする。
【0060】
<効果>
本実施形態のデータ予測装置1は、ルツボ製造装置3に設定された溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの所定位置の寸法の実測値を入力データとし、前記溶融条件で実際に製造された石英ガラスルツボの重量の実測値を教師データとし、前記入力データに前記教師データを紐付けることで作成したデータセットを記憶する記憶部12と、記憶部12から読み出したデータセットを用いて、石英ガラスルツボの重量を予測するデータ予測モデルを機械学習により生成するモデル生成手段(制御部11)と、石英ガラスルツボの製造工程内の測定工程においてルツボ製造装置3から出力される所定位置の寸法の実測値を入力データとして受け付け、学習済みのデータ予測モデルを用いて、前記製造工程で製造される石英ガラスルツボの予測重量を出力するデータ予測手段(制御部11)と、を備えることとした。
【0061】
そして、本実施形態においては、完成した石英ガラスルツボを用いて重量を測定するのではなく(石英ガラスルツボの完成を待つことなく)、予め学習済みのデータ予測モデルを用いて、完成予定の石英ガラスルツボの重量を予測する。これにより、完成した石英ガラスルツボを用いて重量を測定する場合と比較して、その重量が製造作業者2にフィードバックされるまでの時間を大幅に短縮することができ、これに伴って、製造作業者2による溶融条件の調整を早めに開始することが可能となる。そのため、たとえば、特定の製造工程において溶融条件が設定された後つぎに調整後の溶融条件が設定されるまでのサイクルタイムを大幅に短縮することができる。
【実施例0062】
つづいて、上記学習モデル生成処理にて最適化したデータ予測モデルの実施例について説明する。
【0063】
本実施例においては、たとえば、ルツボの重量を予測するデータ予測モデルの生成に伴い、学習に使用するデータセットを6000件用意した。そして、このデータセットを訓練データと評価データの2つにランダムに振り分けた。その内訳は、訓練データを4800件、評価データを1200件とした。また、モデルの性能評価には、損失関数の1つである平均二乗誤差(MES:Mean Squared Error)を採用した。
【0064】
また、最適化アルゴリズムは“Adam”を用い、中間層における活性化関数をReLU関数とし、出力層における活性化関数を線形関数とし、さらに、学習率は初期値を“0.01”として、学習経過に応じて自動的に学習率を下げるようにした。バッチサイズは32とした。また、エポック(epoch)数の初期値を1000とし、過学習を防ぐことを目的として、前エポックのときと比べ誤差が改善されなければ学習を打ち切るようにした。
【0065】
そして、訓練データを用いて上記の仕様でニューラルネットワークに機械学習を行わせ、予め用意しておいたテストデータ9件を用いて、学習済みのデータ予測モデルに重量予測を行わせた。
【0066】
図10は、学習の評価結果を示す図であり、たとえば、学習の程度(Epochs)に対する平均二乗誤差(Mean Squared Error)の推移を示したものである。
図10に示すとおり、本実施例のデータ予測モデルは、学習が進むほど平均二乗誤差が小さくなっていることから、学習が順調に進行していることが確認できる。また、エポック数:4くらいからは平均二乗誤差が十分に小さく、以後、平均二乗誤差に変化がないことから、本実施例では、データ予測モデルの学習にはエポック数4程度が適していると言える。
【0067】
また、
図11は、テストデータを用いた学習済みのデータ予測モデルによる予測結果を示す図である。ここでは、ルツボの重量を予測するデータ予測モデルから出力された予測値と、教師データの重量(実測値)とをプロットし、その結果を観察した。
図11のプロットデータを観察した結果、教師データに対して予測値のばらつきは少なく、誤差は最大でも5%程度であった。