(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093299
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20220616BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220616BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20220616BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
F16F15/04 P
F16F15/08 D
F16F1/40
E04H9/02 331A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198869
(22)【出願日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2020206258
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100198568
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 絵美
(72)【発明者】
【氏名】森 隆浩
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC03
2E139AC04
2E139AC10
2E139AC20
2E139CA04
3J048AA01
3J048BA08
3J048BB01
3J048DA01
3J048EA38
3J059BA43
3J059BC11
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることを抑制する。
【解決手段】本発明の免震装置1は、複数の硬質材料層4のそれぞれと複数の軟質材料層5のそれぞれとが鉛直方向に交互に積層された積層構造体3を備えた、免震装置1であって、複数の軟質材料層5は、第1の等価減衰定数を有する第1の軟質材料で形成されている、第1の軟質材料層51と、第2の等価減衰定数を有する第2の軟質材料で形成されている、第2の軟質材料層52と、を含み、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数の、50%以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の硬質材料層のそれぞれと複数の軟質材料層のそれぞれとが鉛直方向に交互に積層された積層構造体を備えた、免震装置であって、
前記複数の軟質材料層は、第1の等価減衰定数を有する第1の軟質材料で形成されている、第1の軟質材料層と、第2の等価減衰定数を有する第2の軟質材料で形成されている、第2の軟質材料層と、を含み、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第1の等価減衰定数の、50%以下である、免震装置。
【請求項2】
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第1の等価減衰定数の、30%以下である、請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第1の等価減衰定数の、15%以上で、25%以下である、請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記第1の軟質材料および前記第2の軟質材料のそれぞれの、せん断ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線において、前記第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線の傾きおよび前記第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線の傾きを、それぞれ、第1の除荷後接線剛性および第2の除荷後接線剛性としたときに、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第1の除荷後接線剛性は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第2の除荷後接線剛性より、大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載の免震装置。
【請求項5】
前記第1の軟質材料および前記第2の軟質材料のそれぞれの、せん断ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線において、前記第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線の傾きおよび前記第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線の傾きを、それぞれ、第1の除荷前接線剛性および第2の除荷前接線剛性としたときに、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第1の除荷前接線剛性は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第2の除荷前接線剛性より、小さい、請求項1から4のいずれか一項に記載の免震装置。
【請求項6】
前記第1の軟質材料層は、鉛直方向において前記積層構造体における軟質材料層のうちの最上部と最下部とに配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の免震装置。
【請求項7】
前記第1の軟質材料層は、鉛直方向において前記積層構造体の端部側に位置する、前記積層構造体の、前記最上部および前記最下部を含む端部領域のみに配置され、前記第2の軟質材料層は、鉛直方向において前記端部領域よりも中央側に位置する、前記積層構造体の中央領域のみに配置されている、請求項6に記載の免震装置。
【請求項8】
前記第1の軟質材料層と前記第2の軟質材料層とは、鉛直方向において、交互に配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の免震装置には、複数枚の硬質板と複数枚の軟質板とを交互に積層してなる積層構造体を備え、軟質板Aと軟質板Bとの弾性率が異なるものがある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の免震装置によれば、低ひずみ域では、軟質板Aの弾性率が軟質板Bの弾性率より低く、高ひずみ域では、軟質板Aの弾性率が軟質板Bの弾性率より高いことによって、微小振動に対する減衰効果と地震時の大変形に対するバネ効果およびダンパー効果を兼備することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の免震装置によれば、高い減衰特性を有する軟質材料層を備えることによって、固有周期が長くならず、このため、地震等の揺れが免震装置上に載置された構造物に伝わることを十分に抑制しないことがある。このため、免震装置の上に載置されている上部構造が受ける衝撃が大きくなる、すなわち、免震性能が低下するおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることを十分に抑制することができる免震装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る免震装置は、
複数の硬質材料層のそれぞれと複数の軟質材料層のそれぞれとが鉛直方向に交互に積層された積層構造体を備えた、免震装置であって、
前記複数の軟質材料層は、第1の等価減衰定数を有する第1の軟質材料で形成されている、第1の軟質材料層と、第2の等価減衰定数を有する第2の軟質材料で形成されている、第2の軟質材料層と、を含み、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第1の等価減衰定数の、50%以下である。
本発明に係る免震装置によれば、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることを十分に抑制することができる。
【0007】
本発明に係る免震装置においては、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第1の等価減衰定数の、30%以下であると、好適である。
これにより、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることをより十分に抑制することができる。
【0008】
本発明に係る免震装置においては、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第2の等価減衰定数は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記第1の等価減衰定数の、15%以上で、25%以下であると、好適である。
これにより、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることをさらに十分に抑制することができる。
【0009】
本発明に係る免震装置においては、
前記第1の軟質材料および前記第2の軟質材料のそれぞれの、せん断ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線において、前記第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線の傾きおよび前記第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線の傾きを、それぞれ、第1の除荷後接線剛性および第2の除荷後接線剛性としたときに、
最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第1の除荷後接線剛性は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第2の除荷後接線剛性より、大きいと、好適である。
これにより、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることをさらに十分に抑制することができる。
【0010】
本発明に係る免震装置においては、
前記第1の軟質材料および前記第2の軟質材料のそれぞれの、せん断ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線において、前記第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線の傾きおよび前記第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線の傾きを、それぞれ、第1の除荷前接線剛性および第2の除荷前接線剛性としたときに、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第1の除荷前接線剛性は、最大せん断ひずみを±270%としたときの前記履歴曲線における前記第2の除荷前接線剛性より、小さいと、好適である。
これにより、積層構造体の破断時のひずみを大きくする、すなわち、より大きなひずみを受けなければ破断しないようにすることができる。
【0011】
本発明に係る免震装置においては、
前記第1の軟質材料層は、鉛直方向において前記積層構造体における軟質材料層のうちの最上部と最下部とに配置されていると、好適である。
これにより、積層構造体にモーメントが働いて発生するねじり応力によって、積層構造体のひずみを抑制することができるため、積層構造体ひいては免震装置の耐久性を向上させることができる。
【0012】
本発明に係る免震装置においては、
前記第1の軟質材料層は、鉛直方向において前記積層構造体の端部側に位置する、前記積層構造体の、前記最上部および前記最下部を含む端部領域のみに配置され、前記第2の軟質材料層は、鉛直方向において前記端部領域よりも中央側に位置する、前記積層構造体の中央領域のみに配置されていると、好適である。
これにより、積層構造体にモーメントが働いて発生するねじり応力によって、積層構造体のひずみをより抑制することができるため、積層構造体ひいては免震装置の耐久性をより向上させることができる。
【0013】
本発明に係る免震装置においては、前記第1の軟質材料層と前記第2の軟質材料層とは、鉛直方向において、交互に配置されていると、好適である。
これにより、第1の軟質材料層を構成する第1の軟質材料が、加振力のエネルギー吸収による発熱により特性が変化することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることを十分に抑制することができる免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震装置を、中心軸線を含む断面で示す、断面図である。
【
図3】等価減衰定数を説明するための模式図である。
【
図4】
図1の免震装置が含む積層構造体の軟質材料層を形成する軟質材料、および積層構造体の、履歴曲線の一例を示すイメージ図である。
【
図5】
図1の免震装置が含む積層構造体の軟質材料層を形成する軟質材料、および積層構造体の、履歴曲線の他の例を示すイメージ図である。
【
図6】
図1に対応する図面であり、免震装置の他の例を、中心軸線を含む断面で示す、断面図である。
【
図8】本発明の一実施例における、積層構造体の軟質材料層を形成する軟質材料、および積層構造体の、履歴曲線の一例を示すイメージ図である。
【
図9】積層構造体の積層体等価減衰定数比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の免震装置は、地震等の揺れが構造物(例えば、ビル、マンション、戸建て住宅、倉庫等の建物、並びに、橋梁等)に伝わるのを抑制するために、構造物の上部構造と下部構造との間に配置されていると、好適なものである。
【0017】
以下に、図面を参照しつつ、この発明に係る免震装置の実施形態を例示説明する。各図において共通する構成要素には同一の符号を付している。
【0018】
図1および
図2は、本発明の一実施形態に係る免震装置1を説明するための図面である。
図1は、本実施形態に係る免震装置1を、変形が生じていない状態で示す、軸線方向断面図(免震装置1の中心軸線AXを含む断面で示す、断面図。以下、同じ。)である。
図2は、
図1に示す免震装置1の斜視図である。
【0019】
図1に示すように、実施形態の免震装置1は、上下一対のフランジプレート21、22(以下、それぞれ「上側フランジプレート21」、「下側フランジプレート22」ともいう。)と、積層構造体3と、を備えている。
【0020】
本明細書において、免震装置1の中心軸線AXは、積層構造体3の中心軸線である。免震装置1の中心軸線AXは、鉛直方向に延在しているように指向される。本明細書において、免震装置1の「軸線方向」とは、免震装置1の中心軸線AXに平行な方向を指しており、中心軸線AXは、鉛直方向に延在しているように指向されているため、免震装置1の「軸線方向」は、免震装置1の鉛直方向に相当する。「軸直方向」とは、軸線方向に垂直な方向である。また、「上」、「下」とは、軸線方向における「上」、「下」をそれぞれ指す。
【0021】
上側フランジプレート21は、上側フランジプレート21の上に構造物(例えば、ビル、マンション、戸建て住宅、倉庫等の建物、並びに、橋梁等)の上部構造(建物本体等)が載せられた状態で、当該上部構造に連結されるように、構成されている。下側フランジプレート22は、上側フランジプレート21よりも下側に配置されており、構造物の下部構造(基礎等)に連結されるように構成されている。上側フランジプレート21および下側フランジプレート22は、金属から構成されていると好適であり、鋼から構成されているとより好適である。
図2に示すように、本実施形態において、上側フランジプレート21および下側フランジプレート22は、軸直方向断面において、円形の外縁形状を有している。しかし、上側フランジプレート21および下側フランジプレート22は、軸直方向断面において、多角形状(四角形等)等、任意の外縁形状を有していてもよい。
【0022】
積層構造体3は、上側フランジプレート21と下側フランジプレート22との間に配置されている。本実施形態において、積層構造体3は、軸直方向断面において、円形の外縁形状を有している。しかし、積層構造体3は、軸直方向断面において、多角形状(四角形等)等、任意の外縁形状を有していてもよい。
【0023】
積層構造体3は、複数の硬質材料層4と、複数の軟質材料層5と、被覆層6と、を備えている。複数の硬質材料層4のそれぞれと複数の軟質材料層5のそれぞれとは、鉛直方向に交互に積層されている。硬質材料層4および軟質材料層5は、軸直方向断面において、円形の外縁形状を有している。しかし、硬質材料層4および軟質材料層5は、軸直方向断面において、多角形状(四角形等)等、任意の外縁形状を有していてもよい。
【0024】
なお、本明細書において、積層構造体3、硬質材料層4、軟質材料層5、および被覆層6のそれぞれの「外径」とは、これらが軸直方向断面において非円形の外縁形状を有している場合、軸直方向断面におけるこれらの外接円の直径を指す。
【0025】
各硬質材料層4と、各軟質材料層5とは、上側フランジプレート21および下側フランジプレート22と同軸上に配置されている。すなわち、上側フランジプレート21および下側フランジプレート22と、各硬質材料層4と、各軟質材料層5とのそれぞれの中心軸線は、免震装置1の中心軸線AX上に位置している。
【0026】
積層構造体3の上下両端には、軟質材料層5が配置されている。積層構造体3の上下両端に配置された一対の軟質材料層5は、上側フランジプレート21および下側フランジプレート22にそれぞれ固定されている。
【0027】
硬質材料層4は、硬質材料で形成されている。硬質材料層4を形成している硬質材料としては、金属が好適であり、鋼がより好適である。
図1の例のように、硬質材料層4どうしの軸線方向の間隔は、互いに同一であると、好適である。ここで、「硬質材料層4どうしの軸線方向の間隔」とは、互いに隣り合う一対の硬質材料層4の軸線方向中心どうしの間の軸線方向の距離を指す。また、
図1の例のように、各硬質材料層4の厚さは、互いに同一であると、好適である。
【0028】
軟質材料層5は、硬質材料層4を形成している硬質材料よりも剛性の低い、軟質材料で形成されている。複数の軟質材料層5は、第1の等価減衰定数Heq(軟1)を有する第1の軟質材料で形成されている、第1の軟質材料層51と、第2の等価減衰定数Heq(軟2)を有する第2の軟質材料で形成されている、第2の軟質材料層52と、を含む。
【0029】
ここで、構造物(建物等)の下部に免震装置を設ける本来の目的は、免震装置を設けることによって、免震装置をも含む構造物の固有周期を長くすることにより、構造物に伝わる強い振動を十分に抑制することである。そのため、本発明において、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下である。ここで、「せん断ひずみ270%」とは、軟質材料層5の厚さ(鉛直方向の長さ)に対する、応力の方向(水平方向)における変位の割合が、270%であることを指す。また、「最大せん断ひずみを±270%としたときの」等価減衰定数とは、後述する、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線に基づいて算定される、等価減衰定数を、意味する。また、本発明において、「最大せん断ひずみを±270%としたときの」等価減衰定数を用いるのは、通常の大地震の際に想定される最大せん断ひずみが270%程度だからである。また、第2の等価減衰定数Heq(軟2)が第1の等価減衰定数Heq(軟1)の50%を超えると、等価減衰定数の異なる2種類の軟質材料層を使用する場合の作用効果が十分得られず、即ち、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることを十分に抑制することができない。第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、第1の等価減衰定数Heq(軟1)の5%以上であってよい。
【0030】
等価減衰定数とは、部材(軟質材料、または、積層構造体)が構成している免震支承が吸収する、単位体積当たりのエネルギーの合計ΔWを、単位体積当たりの弾性せん断ひずみエネルギーWに2πを乗じた値2πWで、除した値ΔW/2πWである。第1の軟質材料の第1の等価減衰定数Heq(軟1)、及び第2の軟質材料の第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、材料の特性によって定まる(当該材料によって形成される材料層の大きさおよび数によらない)減衰性能を示している。ここで、部材が構成している免震支承が吸収する、単位体積当たりのエネルギーとは、
図3に示すような、せん断ひずみεを横軸とし、応力σを縦軸とした座標系において、履歴曲線Lssで囲まれる面積(
図3において、実線のハッチが付された部分)に相当する値である。
【0031】
履歴曲線Lssとは、部材に加振力が印加されていない状態から、せん断ひずみがプラス最大せん断ひずみとなるまで、一の方向(以下、プラス方向という)の加振力を当該部材に印加し、その後、加振力が除荷されて、加振力の方向を反転させて、せん断ひずみがマイナス最大せん断ひずみとなるまで当該一の方向とは反対方向(以下、マイナス方向という)の加振力を当該部材に印加してから、再び加振力が除荷されて、加振力の方向を反転させて、せん断ひずみがプラス最大せん断ひずみとなるまでプラス方向の加振力を当該部材に印加する過程における、当該部材のせん断ひずみεと応力σとの関係を示す曲線である。プラス最大せん断ひずみとは、部材の、プラス方向への最大せん断ひずみである。マイナス最大せん断ひずみとは、部材の、マイナス方向への最大せん断ひずみである。
【0032】
単位体積当たりの弾性せん断ひずみエネルギーWとは、外力が仕事をした場合に蓄えられるエネルギーであって、履歴曲線Lssにおいて、せん断ひずみが、プラス最大せん断ひずみとなる点ST+およびマイナス最大せん断ひずみとなる点ST-を結ぶ線分L1と、点ST+および点ST-のそれぞれから横軸に垂直に引いた線分L2と、上記の座標系の横軸とによって囲まれる面積(
図3において、破線のハッチが付された部分)に相当する値である。
【0033】
第1の軟質材料層51を形成している軟質材料としては、弾性体が好適であり、合成ゴム(高減衰ゴム等)がより好適である。第2の軟質材料層52を形成している軟質材料としては、弾性体が好適であり、天然ゴム又は天然ゴムを主成分とするゴムがより好適である。第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52のいずれかが、互いに隣り合う一対の硬質材料層4の間、最も上側の硬質材料層4の上側(硬質材料層4と上側フランジプレート21との間)および最も下側の硬質材料層4の下側(硬質材料層4と下側フランジプレート22との間)に配置されている。
図1の例のように、各軟質材料層5の厚さは、互いに同一であると、好適である。
【0034】
ここで、せん断ひずみεを横軸とし、応力σを縦軸とした座標系での、第1の軟質材料、第2の軟質材料、ならびに、第1の軟質材料および第2の軟質材料でそれぞれ形成されている第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52を含む積層構造体3の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした、履歴曲線Ls11、Ls12、およびLs13について、
図4を参照して説明する。
図4では、第1の軟質材料の履歴曲線Ls11が破線で示され、第2の軟質材料の履歴曲線Ls12が一点鎖線で示され、これら両者を含む積層構造体3の履歴曲線Ls13が実線で示されている。なお、この例において、なお、第1の軟質材料、第2の軟質材料、および、積層構造体3のそれぞれに、せん断ひずみ、および、応力を発生させるために、それぞれに対して水平方向に0.33Hzの三角波で振動させるように加振力が印加される。また、
図4の例では、第1の軟質材料は、高減衰ゴムであり、第2の軟質材料は、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)が、第1の軟質材料の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下である、天然ゴムである。
【0035】
まず、第1の軟質材料の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした履歴曲線Ls11について説明する。
図4の例では、第1の軟質材料に加振力が印加されていない状態(原点O)から、第1の軟質材料にプラス方向に加振力が印加されると、破線(a1)で示すように、第1の軟質材料のせん断ひずみが大きくなり、せん断ひずみに対して、追って詳細に説明する第2の軟質材料の応力より大きい応力が発生する。第1の軟質材料の、せん断ひずみに対する応力の変化率は、加振力が印加されることによってせん断ひずみが発生し始めた時点において、最大であり、せん断ひずみが大きくなるにつれて減少する。
【0036】
第1の軟質材料のせん断ひずみが+270%になり(
図4の点A)、プラス方向に印加されていた加振力が除荷されて、加振力の方向が反転すると、すなわち、加振力が印加される方向がプラス方向からマイナス方向に変化すると、破線(b1)で示すように、第1の軟質材料のせん断ひずみは、小さくなり、当該せん断ひずみに対して、第1の軟質材料の応力は、第2の軟質材料の応力よりも急激に小さくなり始める。加振力がマイナス方向へ印加され続けると、第1の軟質材料の応力は、0になった後、マイナス方向に大きくなる。さらに、加振力がマイナス方向へ印加され続けると、第1の軟質材料のせん断ひずみは、0になった後、マイナス方向に大きくなり、第1の軟質材料の応力は、マイナス方向にさらに大きくなる。
図4の例では、第1の軟質材料の、せん断ひずみに対する応力の変化率は、加振力が除荷されて、加振力の方向が反転して、せん断ひずみが小さくなり始めた時点において最大であり、せん断ひずみがさらに小さくなり、0になった後、マイナス方向に大きくなるにつれて、減少する。
【0037】
第1の軟質材料のせん断ひずみが-270%になり(
図4の点B)、マイナス方向に印加されていた加振力が除荷されて、加振力の方向が反転すると、すなわち、加振力が印加される方向がマイナス方向からプラス方向に変化すると、第1の軟質材料のせん断ひずみは、マイナス方向に小さくなり、当該せん断ひずみに対して、第1の軟質材料の応力は、第2の軟質材料の応力よりも急激にマイナス方向に小さくなり始める(破線(c1)で示される部分)。なお、「マイナス方向に小さく」なるとは、値がマイナスであり、その絶対値が小さくなることを意味する。加振力がプラス方向へ印加され続けると、第1の軟質材料の応力は、0になった後、プラス方向に大きくなる。さらに、加振力がプラス方向へ印加され続けると、第1の軟質材料のせん断ひずみは、0になった後、プラス方向に大きくなり、第1の軟質材料の応力は、プラス方向にさらに大きくなる。第1の軟質材料の、せん断ひずみに対する応力の変化率は、加振力が除荷されて、加振力の方向が反転して、せん断ひずみがマイナス方向に小さくなり始めた時点において最大であり、せん断ひずみがマイナス方向にさらに小さくなり、0になった後、プラス方向に大きくなるにつれて、減少する。
【0038】
そして、第1の軟質材料のせん断ひずみが再び+270%になった(
図4の点A)以降は、上述した第1の軟質材料における、せん断ひずみおよび応力の変化を繰り返す。
【0039】
次に、第2の軟質材料の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした履歴曲線Ls12について説明する。
図4の例では、一点鎖線で示すように、第2の軟質材料に加振力が印加されていない状態(原点O)から、第2の軟質材料にプラス方向に加振力が印加されると、第2の軟質材料のせん断ひずみが大きくなり、第2の軟質材料のせん断ひずみに略比例した応力が発生する(一点鎖線(d1)で示される部分)。上述したように、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下であるため、加振力がプラス方向に印加され始めてから、当該加振力が除荷される直前までにおいて、第2の軟質材料の応力は、第1の軟質材料の応力より、小さい。また、
図4の例では、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の第1の軟質材料の応力と同じである。
【0040】
第2の軟質材料のせん断ひずみが+270%になり(
図4の点A)、プラス方向に印加されていた加振力が除荷されて、加振力の方向が反転すると、すなわち、加振力が印加される方向がプラス方向からマイナス方向に変化すると、第2の軟質材料のせん断ひずみは、小さくなり、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみに略比例して小さくなる(一点鎖線(e1)で示される部分)。加振力がマイナス方向へ印加され続けると、第2の軟質材料のせん断ひずみは、0になった後、マイナス方向に大きくなり、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみに略比例してマイナス方向に大きくなる。上述したように、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下であるため、加振力がマイナス方向へ印加され始めてから、当該加振力が除荷される直前までにおいて、第2の軟質材料の応力は、第1の軟質材料の応力より、大きい。また、
図4の例では、せん断ひずみがマイナス方向での最大せん断ひずみである-270%になった時(
図4の点B)の、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみがマイナス方向での最大せん断ひずみである-270%になった時の、第1の軟質材料の応力と同じである。
【0041】
第2の軟質材料のせん断ひずみが-270%になり(
図4の点B)、マイナス方向に印加されていた加振力が除荷されて、加振力の方向が反転すると、すなわち、加振力が印加される方向がマイナス方向からプラス方向に変化すると、第2の軟質材料のせん断ひずみは、マイナス方向に小さくなり、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみに略比例してマイナス方向に小さくなる。加振力がプラス方向へ印加され続けると、第2の軟質材料のせん断ひずみは、0になった後、プラス方向に大きくなり、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみに略比例してプラス方向に大きくなる。上述したように、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下であるため、加振力がプラス方向に印加され始めてから、当該加振力が除荷される直前までにおいて、第2の軟質材料の応力は、第1の軟質材料の応力より、小さい。
【0042】
そして、第2の軟質材料のせん断ひずみが再び+270%になった(
図4の点A)以降は、上述した第2の軟質材料における、せん断ひずみおよび応力の変化を繰り返す。
【0043】
このような特性を有する第1の軟質材料および第2の軟質材料によってそれぞれ形成されている第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52を含む、積層構造体3の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした履歴曲線Ls13について説明する。
【0044】
図4の例では、実線で示すように、積層構造体3に加振力が印加されていない状態(原点O)から、積層構造体3にプラス方向に加振力が印加されると、積層構造体3のせん断ひずみが大きくなり、せん断ひずみに対して、第1の軟質材料の応力より小さく、第2の軟質材料の応力より大きい応力が発生する(実線(f1)で示される部分)。また、積層構造体3の、せん断ひずみに対する応力の変化率は、加振力が印加されることによってせん断ひずみが発生し始めた時点において、最大であり、せん断ひずみが大きくなるにつれて減少する。また、加振力が印加され始めた直後から、加振力が除荷される直前までの間において、せん断ひずみに対する、積層構造体3の応力は、第1の軟質材料の応力より小さく、第2の軟質材料の応力より大きい。
図4の例では、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の積層構造体3の応力は、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の、第1の軟質材料の応力、および、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の、第2の軟質材料の応力と同じである。
【0045】
積層構造体3のせん断ひずみが+270%になり(
図4の点A)、プラス方向に印加されていた加振力が除荷されて、加振力の方向が反転すると、すなわち、加振力が印加される方向がプラス方向からマイナス方向に変化すると、積層構造体3のせん断ひずみは、小さくなり、当該せん断ひずみに対して、積層構造体3の応力は、第1の軟質材料の応力よりも緩やかに、かつ、第2の軟質材料の応力よりも急激に、小さくなり始める(実線(g1)で示される部分)。加振力がマイナス方向へ印加され続けると、積層構造体3の応力は、0になった後、マイナス方向に大きくなる。さらに、加振力がマイナス方向へ印加され続けると、積層構造体3のせん断ひずみは、0になった後、マイナス方向に大きくなり、積層構造体3の応力は、マイナス方向にさらに大きくなる。積層構造体3の、せん断ひずみに対する応力の変化率は、加振力が除荷されて、加振力の方向が反転して、せん断ひずみが小さくなり始めた時点において最大であり、せん断ひずみがさらに小さくなり、0になった後、マイナス方向に大きくなるにつれて、減少する。また、加振力がマイナス方向へ印加され始めた直後から、加振力が除荷される直前までの間において、せん断ひずみに対する、積層構造体3の応力は、第1の軟質材料の応力より大きく、第2の軟質材料の応力より小さい。また、
図4の例では、積層構造体3のせん断ひずみが-270%になった時の積層構造体3の応力は、第1の軟質材料のせん断ひずみが-270%になった時の応力、および、第2の軟質材料のせん断ひずみが-270%になった時の応力と同じである。
【0046】
積層構造体3のせん断ひずみが-270%になり(
図4の点B)、マイナス方向に印加されていた加振力が除荷されて、加振力の方向が反転すると、すなわち、加振力が印加される方向がマイナス方向からプラス方向に変化すると、積層構造体3のせん断ひずみは、マイナス方向に小さくなり、当該せん断ひずみに対して、積層構造体3の応力は、第1の軟質材料の応力よりも緩やかに、第2の軟質材料の応力よりも急激に大きくなり始める(実線(h1)で示される部分)。加振力がプラス方向へ印加され続けると、積層構造体3の応力は、0になった後、プラス方向に大きくなる。さらに、加振力がプラス方向へ印加され続けると、積層構造体3のせん断ひずみは、0になった後、プラス方向に大きくなり、積層構造体3の応力は、プラス方向にさらに大きくなる。積層構造体3の、せん断ひずみに対する応力の変化率は、加振力が除荷されて、加振力の方向が反転して、せん断ひずみがマイナス方向に小さくなり始めた時点において最大であり、せん断ひずみがマイナス方向にさらに小さくなり、0になった後、プラス方向に大きくなるにつれて、減少する。また、加振力がプラス方向へ印加され始めた直後から、加振力が除荷される直前までの間において、せん断ひずみに対する、積層構造体3の応力は、第1の軟質材料の応力より小さく、第2の軟質材料の応力より大きい。
【0047】
そして、積層構造体3のせん断ひずみが再び+270%になった(
図4の点A)以降は、上述した積層構造体3における、せん断ひずみおよび応力の変化を繰り返す。
【0048】
このように、積層構造体3は、第1の軟質材料および第2の軟質材料によってそれぞれ形成された第1の軟質材料層51と第2の軟質材料層52とを含むことによって、第2の軟質材料層52のみを含む場合に比べて、高い減衰特性を維持することができ、第1の軟質材料層51のみを含む場合に比べて、固有周期(除荷直後)を長くすることができる。このため、第1の軟質材料層51と第2の軟質材料層52とを含む積層構造体3を備える免震装置1は、高い減衰特性を維持しつつ、固有周期が長くなるため、地震等の揺れが構造物に伝わることを十分に抑制することができる。これにより、免震装置1に載せられた構造物が受ける、加振力の除荷に伴う衝撃を緩和することができ、免震装置1の免震性能を向上することができる。
【0049】
また、本実施形態において、第1の軟質材料および第2の軟質材料のそれぞれの、せん断ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線Ls11およびLs12において、第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線の傾きおよび第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線の傾きを、それぞれ、第1の除荷後接線剛性および第2の除荷後接線剛性としたときに、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls11における第1の除荷後接線剛性は、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls12における第2の除荷後接線剛性より、大きいと、好適である。
【0050】
図4の例では、上記「第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線」は、第1の軟質材料の履歴曲線Ls11の上述した破線(b1)の部分の、第1の軟質材料のせん断ひずみが最大せん断ひずみ270%である点Aにおける接線(すなわち、点Aにおいて、除荷後側である破線(b1)の部分から引いた接線)Lb1で表される。上記の「第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線」は、第2の軟質材料の履歴曲線Ls12の上述した一点鎖線(e1)の部分の、第2の軟質材料のせん断ひずみが最大せん断ひずみ270%である点Aにおける接線(すなわち、点Aにおいて、除荷後側である一点鎖線(e1)の部分から引いた接線)Le1で表される。
【0051】
積層構造体3は、第1の軟質材料によって形成された第1の軟質材料層51、および、第2の軟質材料によって形成された第2の軟質材料層52を含む。このため、積層構造体3の、ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線Ls13において、最大せん断ひずみ時における除荷後側の接線(
図4のLg1)の傾きを、第3の除荷後接線剛性としたとき、第3の除荷後接線剛性は、第1の除荷後接線剛性と、第2の除荷後接線剛性との間の値となる。そのため、上述したように、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls11における第1の除荷後接線剛性が、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls12における第2の除荷後接線剛性より、大きいと、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls13における第3の除荷後接線剛性は、第1の除荷後接線剛性より、小さい。したがって、積層構造体3のせん断ひずみが最大せん断ひずみとなった直後において、積層構造体3の剛性は、第1の軟質材料によって形成された第1の軟質材料層51のみを含み、第2の軟質材料によって形成された第2の軟質材料層52を含まない場合に比べて、小さい。
【0052】
このため、積層構造体3は、当該積層構造体3のせん断ひずみが最大せん断ひずみとなった直後における、応力の急激な変化を緩和することができる。したがって、積層構造体3のせん断ひずみが最大せん断ひずみとなった直後において、積層構造体3を備える免震装置1に載せられた構造物が受ける衝撃をより緩和することができ、免震性能をより向上することができる。
【0053】
さらに、第1の軟質材料および第2の軟質材料のそれぞれの、せん断ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線Ls11およびLs12において、第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線の傾きおよび第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線の傾きを、それぞれ、第1の除荷前接線剛性および第2の除荷前接線剛性としたときに、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls11における第1の除荷前接線剛性は、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls12における第2の除荷前接線剛性より、小さいと、好適である。
【0054】
図4の例では、上記「第1の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線」は、第1の軟質材料の履歴曲線Ls11の上述した破線(a1)の部分の、第1の軟質材料のせん断ひずみが最大せん断ひずみ270%である点Aにおける接線(すなわち、点Aにおいて、除荷前側である破線(a1)の部分から引いた接線)La1で表される。上記の「第2の軟質材料の最大せん断ひずみ時における除荷前の接線」は、第2の軟質材料の履歴曲線Ls12の上述した一点鎖線(d1)の部分の、第2の軟質材料のせん断ひずみが最大せん断ひずみ270%である点Aにおける接線(すなわち、点Aにおいて、除荷前側である一点鎖線(d1)の部分から引いた接線)Ld1で表される。
【0055】
積層構造体3は、第1の軟質材料によって形成された第1の軟質材料層51、および、第2の軟質材料によって形成された第2の軟質材料層52を含む。このため、積層構造体3の、ひずみを横軸とし応力を縦軸とした座標系での履歴曲線Ls13において、最大せん断ひずみ時における除荷前側の接線(
図4のLf1)の傾きを、第3の除荷前接線剛性としたとき、第3の除荷前接線剛性は、第1の除荷前接線剛性と、第2の除荷前接線剛性との間の値となる。そのため、上述したように、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls11における第1の除荷前接線剛性が、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls12における第2の除荷前接線剛性より、小さいと、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線Ls13における第3の除荷前接線剛性は、第1の除荷前接線剛性より、大きい。したがって、積層構造体3のせん断ひずみが最大せん断ひずみとなる直前において、積層構造体3の剛性は、第1の軟質材料によって形成された第1の軟質材料層51のみを含み、第2の軟質材料によって形成された第2の軟質材料層52を含まない場合に比べて、大きい。
【0056】
このため、積層構造体3は、当該積層構造体3のせん断ひずみが最大せん断ひずみとなる直前における、応力の増大に伴うせん断ひずみの増大を緩和することができる。これによって、積層構造体3の破断時のひずみを大きくする、すなわち、より大きなひずみを受けなければ破断しないようにすることができる。
【0057】
また、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線における第1の除荷後接線剛性が、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線における第2の除荷後接線剛性より、大きく、かつ、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線における第1の除荷前接線剛性が、最大せん断ひずみを±270%としたときの履歴曲線における第2の除荷前接線剛性より、小さいことによって、第1の軟質材料のひずみと第2の軟質材料のひずみとを同程度にすることができ、第1軟質材料および第2軟質材料を有する積層構造体3の破断時のひずみをより大きくする、すなわち、さらに大きなひずみを受けなければ破断しないようにすることができる。
【0058】
なお、
図4の例では、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の、第1の軟質材料の応力と同じであるが、この限りではない。例えば、
図5に示すように、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の、第2の軟質材料の応力は、せん断ひずみが最大せん断ひずみである+270%になった時の、第1の軟質材料の応力と異なっていてもよい。
【0059】
図5では、第1の軟質材料の履歴曲線Ls11が破線で示され、第2の軟質材料の履歴曲線Ls12が一点鎖線で示され、積層構造体3の履歴曲線Ls13が実線で示されている。
【0060】
図5の例では、せん断ひずみが+270%になった時の、積層構造体3の応力は、せん断ひずみが+270%になった時の、第1の軟質材料の応力と、せん断ひずみが+270%になった時の、第2の軟質材料の応力との間の値となる。また、せん断ひずみが-270%になった時の、積層構造体3の応力は、せん断ひずみが-270%になった時の、第1の軟質材料の応力と、せん断ひずみが-270%になった時の、第2の軟質材料の応力との間の値となる。その他の点については、
図5の例は、上述した
図4の例と同じである。
【0061】
また、
図1に示すように、本実施形態においては、積層構造体3は、径変化積層部31と、径一定積層部32とを有している。
【0062】
径変化積層部31は、積層構造体3の軸線方向の少なくとも一方の端部(
図1の例では、両方の端部)に位置している。
図1に示すように、径変化積層部31の外径は、軸線方向において積層構造体3の端から中央に向かうほど、小さくなっている。径変化積層部31に含まれている複数の硬質材料層4の外径は、積層構造体3の軸線方向において端から中央に向かうほど、小さくなっている。
【0063】
径一定積層部32は、径変化積層部31に軸線方向に隣接して中央側に位置し、積層構造体3の鉛直方向中央を含んでいる。径一定積層部32の外径は、軸線方向において、略一定である。径一定積層部32の外径は、径変化積層部31の外径のうち最小の外径と同一ある。径一定積層部32に含まれている硬質材料層4の外径は、径変化積層部31に含まれている硬質材料層4の外径未満である。径一定積層部32に含まれている複数の硬質材料層4の外径は、互いに同一とすることができる。
【0064】
このように、軸線方向の中央側に位置している径一定積層部32に含まれている硬質材料層4の外径を、軸線方向の端側に位置している径変化積層部31に含まれている硬質材料層4の外径より小さくすることにより、免震装置1に載せられた構造物の固有周期を長くする、ひいては、免震性能を向上させることができる。また、積層構造体3が急激に弾性変形したときでも、径一定積層部32より外径の大きい径変化積層部31が、径一定積層部32を支えることによって、当該積層構造体3の座屈の原因となる、端側の部分に生じる局所的な応力の集中を抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態においては、軟質材料層5は、2つの端部領域Eと、中央領域Cとの仮想的な領域に分けられる。
【0066】
端部領域Eは、径変化積層部31の、軸線方向におけるフランジプレート21、22側の少なくとも一部のみから構成されてもよいし、径変化積層部31の全部と、径一定積層部32の、軸線方向における径変化積層部31側の一部とから構成されてもよい(
図1の例では、上端部領域EUは、上側の径変化積層部31の全部と、径一定積層部32の、軸線方向における上側の径変化積層部31側の一部とから構成され、下端部領域EBは、下側の径変化積層部31の全部と、径一定積層部32の、軸線方向における下側の径変化積層部31側の一部とから構成されている)。
【0067】
端部領域Eが、径変化積層部31の、軸線方向におけるフランジプレート21側の少なくとも一部から構成される場合、中央領域Cは、径変化積層部31の残りの一部と径一定積層部32の全部とから構成される。端部領域Eが、径変化積層部31の全部と、径一定積層部32の、軸線方向における径変化積層部31側の一部とから構成される場合、中央領域Cは、径一定積層部32の、端部領域Eを構成しない部分から構成される。(
図1の例では、中央領域Cは、径一定積層部32の一部のみから構成されている。)
【0068】
本実施形態において、第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52は、鉛直方向に交互に配置されていてもよい。第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52が、鉛直方向に交互に配置されている場合、加振力が繰り返し印加されたときに、第1の軟質材料層51を構成する第1の軟質材料が当該加振力のエネルギー吸収による発熱により特性が変化することを抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態において、第1の軟質材料層51は、鉛直方向において積層構造体3における軟質材料層5のうちの最上部と最下部とに配置されていてもよい。
図1の例では、第1の軟質材料層51は、積層構造体3における軟質材料層5のうちの最上部と最下部とに配置されている。
積層構造体3に、水平方向加振力が印加されることによってせん断ひずみが発生している状態で、積層構造体3にモーメントが働いてねじり応力が発生する。このとき、積層構造体3における軟質材料層のうちの最上部と最下部とに第1の軟質材料層51が配置されていることによって、積層構造体3にモーメントが働いて発生するねじり応力に伴う積層構造体3のひずみを抑制することができるため、積層構造体3ひいては免震装置1の耐久性を向上させることができる。
【0070】
また、本実施形態において、第1の軟質材料層51は、鉛直方向において積層構造体3の端部側に位置する、積層構造体3の、軟質材料層5のうちの最上部および最下部を含む端部領域Eのみに配置され、第2の軟質材料層52は、鉛直方向において端部領域Eよりも中央側に位置する、積層構造体3の中央領域Cのみに配置されていてもよい。
図1の例では、第1の軟質材料層51は、最上部を含む上端部領域EUと、最下部を含む下端部領域EBとのみに配置され、第2の軟質材料層52は、中央領域Cのみに配置されている。
積層構造体3に、水平方向加振力が印加されることによってせん断ひずみが発生している状態で、積層構造体3にモーメントが働いてねじり応力が発生する。このとき、等価減衰定数の小さい第2の軟質材料層52が端部領域Eに配置されている場合には、第2の軟質材料層52にねじれ変形が生じる。一方、第2の軟質材料層52が中央領域Cに配置されていることによって、第2の軟質材料層52にねじれ変形が生じにくい。これにより、第2の軟質材料層52の局所的なひずみを抑制することができ、積層構造体3ひいては免震装置1の耐久性を向上させることができる。
【0071】
なお、第2の軟質材料層52が、端部領域Eに配置され、第1の軟質材料層51が、中央領域Cに配置されていてもよい。また、第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52は、鉛直方向において、ランダムな順に配置されていてもよい。
【0072】
本実施形態では、
図1に示すように、積層構造体3は、被覆層6を有しており、被覆層6は、硬質材料層4および軟質材料層5の外周側の表面を覆っている。本実施形態では、被覆層6は、軟質材料層5と一体に構成されている。
【0073】
本実施形態において、被覆層6は、硬質材料層4および軟質材料層5の外周側の表面の全体を覆っており、ひいては、積層構造体3の外周側の表面の全体を構成している。ただし、被覆層6は、硬質材料層4および軟質材料層5の外周側の表面の一部のみを覆っていてもよく、ひいては、積層構造体3の外周側の表面の一部のみを構成していてもよい。また、被覆層6は、設けられていなくてもよく、その場合、積層構造体3の外周側の表面は、硬質材料層4および軟質材料層5の外周側の表面のみから構成される。
【0074】
被覆層6を構成している材料は、軟質材料層5のいずれかの部分を構成している軟質材料と同一とすることができる。例えば、被覆層6の鉛直方向の各部分の材料は、当該部分が軸直方向に軟質材料層5に隣接している場合、当該軟質材料層5の材料と同一としてもよい。被覆層6の鉛直方向の各部分の材料は、当該部分が軸直方向に軟質材料層5に隣接していない場合(即ち、例えば、硬質材料層4に隣接している場合)、当該部分が軸線方向に隣接している、被覆層6の部分の材料と同一としてもよい。
【0075】
ただし、被覆層6を構成している材料は、軟質材料層5の鉛直方向の各部分を構成している軟質材料と異なっていてもよい。被覆層6の鉛直方向の各部分の材料は、当該部分が軸直方向に軟質材料層5に隣接していない場合(即ち、例えば、硬質材料層4に隣接している場合)、当該部分が軸線方向に隣接している、被覆層6の部分の材料と異なっていてもよい。被覆層6を構成している材料の全体が、軟質材料層5を構成している軟質材料の全てと異なっていてもよいし、被覆層6を構成している材料の全体が、軟質材料層5のいずれかの部分を構成している軟質材料と同一であってもよい。
【0076】
なお、積層構造体3の軸線方向の各位置における外径は任意であってよい。積層構造体3の軸線方向の各位置における外径の別の例について、
図6および
図7を参照して説明する。
図6は、
図1に示す免震装置1の他の例に係る免震装置10を、変形が生じていない状態で示す、軸線方向断面図である。
図7は、
図6に示す免震装置10の斜視図である。
【0077】
図6および
図7の例では、積層構造体3は径変化積層部31を備えず、積層構造体3の外径は一定であり、また、複数の硬質材料層4の外径は、互いに同一であり、複数の軟質材料層5の外径は、互いに同一である。複数の硬質材料層4の外径を、互いに同一とした場合、仮に、複数の硬質材料層4の外径が互いに異なる場合に比べて、硬質材料層4を容易に調達することができるため、積層構造体3を簡易に製造することができる。複数の軟質材料層5の外径を、互いに同一とした場合、仮に、複数の軟質材料層5の外径が互いに異なる場合に比べて、軟質材料層5を容易に調達することができるため、積層構造体3を簡易に製造することができる。
【0078】
他の例では、積層構造体3は、径の異なる複数の径一定積層部32を備えてもよいし、3つ以上の径変化積層部31を備えてもよい。
【0079】
また、本実施形態において、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下である、第1の軟質材料および第2の軟質材料で、それぞれ、形成されている第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52を含むように積層構造体3を構成した。これによって、大地震が発生したときに想定される、積層構造体3のせん断ひずみに応じて、免震装置1および免震装置10を適切に構成することができる。なお、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)の、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)に対する比率である等価減衰定数比Rに応じた、積層構造体3の特性については、追って詳細に説明する。
【0080】
さらに、第1の軟質材料および第2の軟質材料において、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%より大きい所定の値としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)も、最大せん断ひずみ(絶対値)を当該所定の値としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、50%以下であると好ましい。
所定の値は、270%より大きく、400%であるとより好ましい。これにより、想定されている大地震より大きい地震が発生したときのせん断ひずみに応じて、免震装置1および免震装置10を適切に構成することができる。
【0081】
上述のとおり、本発明の実施形態によれば、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わることを十分に抑制することができ、これにより免震性能が向上した免震装置を提供することができる。
【0082】
(実施例)
ここで、
図6を参照して、本発明の一実施例について説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
本実施例における積層構造体3は、上端部領域EUに配置された2層の第1の軟質材料層51と、中央領域Cに配置された4層の第2の軟質材料層52と、下端部領域EBに配置された2層の第1の軟質材料層51とを含んでいる。また、第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52は、軸直方向断面において、円形の外縁形状を有している。また、第1の軟質材料層51の厚さは26.8mmであり、外径は1000mmである。また、第2の軟質材料層52の厚さは26.8mmであり、外径は1000mmである。
本実施例における、第1の等価減衰定数Heq(軟1)は、0.159であり、第2の等価減衰定数Heq(軟2)は0.032である。すなわち、最大せん断ひずみを±270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)は、最大せん断ひずみを±270%としたときの第1の等価減衰定数Heq(軟1)の、20%である。
【0083】
図8は、本実施例の積層構造体3に含まれる第1の軟質材料層51を形成する第1の軟質材料、本実施例の積層構造体3に含まれる第2の軟質材料層52を形成する第2の軟質材料、および本実施例の積層構造体3のそれぞれに対して水平方向に0.33Hzの正弦波振動させるように加振力が印加された場合のシミュレーション結果を示したイメージ図である。
図8では、本実施例の第1の軟質材料層51を形成する第1の軟質材料の、最大せん断ひずみを270%(絶対値)としたときの、履歴曲線Ls21が破線で示され、本実施例の第2の軟質材料層52を形成する第2の軟質材料の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%としたときの、履歴曲線Ls22が一点鎖線で示され、本実施例の積層構造体3の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%としたときの、履歴曲線Ls23が実線で示されている。
【0084】
本実施例の積層構造体3に含まれる第1の軟質材料層51においては、当該第1の軟質材料層51を形成する第1の軟質材料の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした履歴曲線Ls21が示すように、
図4を参照して説明した例と同様に、加振によって、第1の軟質材料のせん断ひずみが変化し、応力が発生する(破線(a2)、(b2)、(c2)で示す部分)。
ただし、本実施例では、破線(b2)で示す部分の履歴曲線は、
図4に示す例の破線(b1)で示す部分の履歴曲線とは異なり、第1の軟質材料のせん断ひずみが+270%である点Aと、第1の軟質材料のせん断ひずみが-270%である点Bとを両端点とする線分の垂直二等分線Lvに対して線対称ではない。具体的には、
図8に示すように、本実施例の第1の軟質材料についての、破線(b2)で示す部分の履歴曲線の接線の傾き(せん断ひずみεに対する応力σの変化率)は、垂直二等分線Lvと、破線(b2)で示す部分の履歴曲線との交点におけるせん断ひずみε1より大きい、せん断ひずみε2より大きい範囲において、1より大きく、当該せん断ひずみε2より小さい範囲において、せん断ひずみε2より大きい範囲での履歴曲線の接線の傾きより小さい。すなわち、本実施例では、応力は、せん断ひずみが+270%からε2まで小さくなるにつれて、1より大きい変化率で小さくなり、せん断ひずみがε2から-270%まで小さくなるにつれて、せん断ひずみがε2から-270%までの変化率より小さい変化率で小さくなる。
また、本実施例では、破線(c2)で示す部分の履歴曲線は、
図4に示す例の破線(c1)で示す部分の履歴曲線とは異なり、垂直二等分線Lvに対して線対称ではない。具体的には、破線(c2)で示す部分の履歴曲線の接線の傾きは、垂直二等分線Lvと、破線(c2)で示す部分の履歴曲線との交点におけるせん断ひずみε3より小さい、せん断ひずみε4より小さい範囲において、1より大きく、せん断ひずみε4より大きい範囲において、せん断ひずみε4より大きい範囲での履歴曲線の接線の傾きより小さい。すなわち、本実施例では、応力は、せん断ひずみが-270%からε4まで大きくなるにつれて、1より大きい変化率で大きくなり、せん断ひずみがε4から+270%まで大きくなるにつれて、せん断ひずみが-270%からε4までの変化率より小さい変化率で大きくなる。
【0085】
本実施例の積層構造体3に含まれる第2の軟質材料層52においては、当該第2の軟質材料層52を形成する第2の軟質材料の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした履歴曲線Ls22が示すように、
図4を参照して説明した例と同様に、加振によって、第2の軟質材料のせん断ひずみεが変化し、応力が発生する(一点鎖線(d2)、(e2)で示す部分)。
【0086】
このような特性を有する第1の軟質材料および第2の軟質材料によってそれぞれ形成されている第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52を含む、積層構造体3においては、当該積層構造体3の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%とした履歴曲線Ls23が示すように、
図4を参照して説明した例と同様に、加振によって、積層構造体3のせん断ひずみが変化し、応力が発生する(実線(f2)、(g2)、(h2)で示す部分)。
ただし、本実施例では、実線(g2)で示す部分の履歴曲線は、
図4に示す例の実線(g1)で示す部分の履歴曲線とは異なり、垂直二等分線Lvに対して線対称ではない。具体的には、
図8に示すように、本実施例の積層構造体3についての、実線(g2)で示す部分の履歴曲線の接線の傾きは、垂直二等分線Lvと、実線(g2)で示す部分の履歴曲線との交点におけるせん断ひずみε5より大きい、せん断ひずみε6より大きい範囲において、1より大きく、せん断ひずみε6より小さい範囲において、せん断ひずみε6より大きい範囲での履歴曲線の接線の傾きより小さい。すなわち、本実施例では、応力は、せん断ひずみが+270%からε6まで小さくなるにつれて、1より大きい変化率で小さくなり、せん断ひずみがε6から-270%まで小さくなるにつれて、せん断ひずみが+270%からε6まの変化率より小さい変化率で小さくなる。
また、本実施例では、実線(h2)で示す部分の履歴曲線は、
図4に示す例の実線(h1)で示す部分の履歴曲線とは異なり、垂直二等分線Lvに対して線対称ではない。具体的には、実線(h2)で示す部分の履歴曲線の接線の傾きは、垂直二等分線と、実線(h2)で示す部分の履歴曲線との交点におけるせん断ひずみε7より小さい、せん断ひずみε8より小さい範囲において、1より大きく、せん断ひずみε8より大きい範囲において、せん断ひずみε8より大きい範囲での履歴曲線の接線の傾きより小さい。すなわち、本実施例では、応力は、せん断ひずみが-270%からε8まで大きくなるにつれて、1より大きい変化率で大きくなり、せん断ひずみがε8から+270%まで大きくなるにつれて、せん断ひずみが-270%からε8までの変化率より小さい変化率で大きくなる。
【0087】
積層構造体3の、等価減衰定数比Rに応じた、減衰特性、剛性、および固有周期について、
図9~
図11を参照して説明する。
図9~
図11は、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%としたときの第2の等価減衰定数Heq(軟2)の、最大せん断ひずみ(絶対値)を270%としたときの、第1の等価減衰定数Heq(軟1)に対する比率である等価減衰定数比Rが互いに異なる、複数の積層構造体3を加振するシミュレーションを行った結果である。積層構造体3の減衰特性、剛性、および固有周期は、それぞれ、第2の軟質材料層52の総厚さの、第1の軟質材料層51の総厚さに対する比率に依存する。本シミュレーションで加振された積層構造体3における、第2の軟質材料層52の総厚さの、第1の軟質材料層51の総厚さに対する比率は、100%(すなわち、第2の軟質材料層52の総厚さと第1の軟質材料層51の総厚さとは、同じ)である。
本シミュレーションにおける、複数の積層構造体3は、上端部領域EUに配置された2層の第1の軟質材料層51と、中央領域Cに配置された4層の第2の軟質材料層52と、下端部領域EBに配置された2層の第1の軟質材料層51とを含んでいる。また、第1の軟質材料層51および第2の軟質材料層52は、軸直方向断面において、円形の外縁形状を有している。また、第1の軟質材料層51の厚さは26.8mmであり、外径は1000mmである。また、第2の軟質材料層52の厚さは26.8mmであり、外径は1000mmである。
【0088】
図9は、積層構造体3の等価減衰定数Heq(積)の、等価減衰定数比Rが100%であるときの(すなわち、積層構造体3が、軟質材料層として第2の軟質材料層52を含まず第1の軟質材料層51のみで構成されているときの)積層構造体3の等価減衰定数Heq
100に対する比率である、積層体等価減衰定数比Heq(積)/Heq
100を示す図である。なお、「等価減衰定数Heq(積)」とは、複数の軟質材料層(本実施形態では、第1の軟質材料層51及び第2の軟質材料層52)からなる積層構造体3全体の等価減衰定数を指す。積層体等価減衰定数比Heq(積)/Heq
100が高いほど、積層構造体3の減衰特性は高い。
図9に示すように、積層体等価減衰定数比Heq(積)/Heq
100は、等価減衰定数比Rが低くなるほど、略線形的に低くなる。すなわち、等価減衰定数比Rが低くなるほど、積層構造体3の減衰特性は低くなる。
【0089】
図10は、積層構造体3の除荷直後の(すなわち、最大ひずみ時における除荷後側の)剛性率Gの、等価減衰定数比Rが100%であるときの(すなわち、積層構造体3が、軟質材料層として第2の軟質材料層52を含まず第1の軟質材料層51のみで構成されているときの)積層構造体3の除荷直後の剛性率G
100に対する比率である、剛性比G/G
100を示す図である。剛性比G/G
100が高いほど、積層構造体3の剛性は、高い。
図10に示すように、等価減衰定数比Rが低くなるほど、剛性比G/G
100は、低くなる。すなわち、等価減衰定数比Rが低くなるほど、積層構造体3の剛性は、低くなる。
【0090】
図11は、積層構造体3の除荷直後の剛性率Gから算出される固有周期Tの、等価減衰定数比Rが100%であるときの(すなわち、積層構造体3が、軟質材料層5として第2の軟質材料層52を含まず第1の軟質材料層51のみで構成されているときの)積層構造体3の除荷直後の剛性率Gから算出される固有周期T
100に対する比率である、固有周期比T/T
100を示す図である。積層構造体3の固有周期Tは、積層構造体3の自由振動における周期である。固有周期Tは、剛性率Gに相当するばね定数(せん断弾性率)をkとしたときに、1/kの二乗根に比例する。すなわち、剛性率Gが高くなるほど、固有周期Tは、短くなる。
また、積層構造体3の固有周期Tが長いほど、積層構造体3を備える免震装置1が配置されている構造物の固有周期がより長くなるため、地震等の揺れが構造物に伝わるのが抑制される。
【0091】
図11に示すように、等価減衰定数比Rが低くなるほど、固有周期比T/T
100は、高くなる。すなわち、等価減衰定数比Rが低くなるほど、積層構造体3の固有周期は長くなり、これに伴い、地震等の揺れが構造物に伝わるのが抑制される。
特に、等価減衰定数比Rが50%以下である範囲においては、等価減衰定数比Rが50%より大きい範囲に比べて、等価減衰定数比Rが低くなるほど、固有周期比T/T
100は、急激に高くなる。すなわち、等価減衰定数比Rが50%以下である範囲においては、等価減衰定数比Rが低くなるほど、積層構造体3の固有周期は急激に長くなり、これに伴い、地震等の揺れが構造物に伝わるのがよりよく抑制される。
さらに、等価減衰定数比Rが15%以上で、25%以下である範囲においては、等価減衰定数比Rが15%未満、又は25%より大きい範囲に比べて、等価減衰定数比Rが低くなるほど、固有周期比T/T
100は、より急激に高くなる。すなわち、等価減衰定数比Rが15%以上で、25%以下である範囲においては、等価減衰定数比Rが低くなるほど、積層構造体3の固有周期はより急激に長くなり、これに伴い、地震等の揺れが構造物に伝わるのがさらによく抑制される。
【0092】
図9および
図11のシミュレーション結果を併せて検討すると、等価減衰定数比Rが50%以下の範囲では、等価減衰定数比Rが低くなるほど、積層体等価減衰定数比Heq(積)/Heq
100が略線形的に低下するものの、固有周期比T/T
100は、より急激に高くなる。したがって、等価減衰定数比Rが50%以下である積層構造体3を有する免震装置1は、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わるのをよりよく抑制することができる。
また、等価減衰定数比Rが30%以下の範囲では、固有周期比T/T
100は、より高く、地震等の揺れが構造物に伝わるのをさらによく抑制することができる。
さらに、等価減衰定数比Rが15%以上で、25%以下の範囲において、15%未満、又は25%より大きい範囲に比べて、等価減衰定数比Rが低くなるほど、固有周期比T/T
100は、さらに急激に高くなる。したがって、等価減衰定数比Rが15%以上で、25%以下である積層構造体3を有する免震装置1は、高い減衰特性を維持しつつ、地震等の揺れが構造物に伝わるのをさらによく抑制することができる。
なお、本実施例で用いられた積層構造体3においては、上端部領域EUに第1の軟質材料層51が配置され、中央領域Cに第2の軟質材料層52が配置されているが、この配置関係を変えても、減衰特性、剛性、および固有周期について、同様の結果が得られることが確認されている。
また、本シミュレーションで加振された積層構造体3における、第2の軟質材料層52の総厚さの、第1の軟質材料層51の総厚さに対する比率は、100%であるが、これと異なる比率であっても(換言すれば、これと異なる比率に固定した場合にも)、減衰特性、剛性、および固有周期について、等価減衰定数比Rに対して同様に変化することが確認されている。なお、設計のし易さの理由から、第2の軟質材料層52の総厚さと、第1の軟質材料層51の総厚さとは、ほぼ等しいことが好ましい。より具体的に、第2の軟質材料層52の総厚さの、第1の軟質材料層51の総厚さに対する比率は、70~130%が好ましく、80~120%がより好ましく、本シミュレーションにおけるように100%であることが最も好ましい。
【0093】
上述したところは、本発明のいくつかの実施形態を開示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。上述した各実施形態に採用された様々な構成は、相互に適宜、置き換えまたは組合せることができる。
【0094】
本発明の免震装置は、地震等の揺れが構造物(例えば、ビル、マンション、戸建て住宅、倉庫等の建物、並びに、橋梁等)に伝わることを抑制するために、構造物の上部構造と下部構造との間に配置されると、好適なものである。
【符号の説明】
【0095】
1免震装置、
21:上側フランジプレート、 22:下側フランジプレート、
3:積層構造体、 31:径変化積層部、 32:径一定積層部、
4:硬質材料層、
5:軟質材料層、 51:第1の軟質材料層、 52:第2の軟質材料層、
6:被覆層、
AX:中心軸線、
C:中央領域、 E:端部領域、 EU:上端部領域、 EB:下端部領域、
La1、Lb1、Ld1、Le1、Lf1,Lg1:接線、
La2、Lb2、Ld2、Le2、Lf2,Lg2:接線、
Lss:履歴曲線、 Ls11:第1の軟質材料の履歴曲線、 Ls12:第2の軟質材料の履歴曲線、 Ls13:積層構造体の履歴曲線、 Ls21:実施例の第1の軟質材料の履歴曲線、 Ls22:実施例の第2の軟質材料の履歴曲線、 Ls23:実施例の積層構造体の履歴曲線、
L1:履歴曲線において、せん断ひずみがプラス最大せん断ひずみとなる点と、マイナス最大せん断ひずみとなる点とを結んだ線分、
L2:履歴曲線において、せん断ひずみがプラス最大せん断ひずみとなる点、および、マイナス最大せん断ひずみとなる点のそれぞれから横軸に垂直に引いた線分、
Lv:垂直二等分線
ST+:履歴曲線において、せん断ひずみがプラス最大せん断ひずみとなる点、
ST-:履歴曲線において、せん断ひずみがマイナス最大せん断ひずみとなる点