(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093350
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】輸血を必要とする患者集団における有害事象を管理するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/14 20150101AFI20220616BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220616BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220616BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220616BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220616BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220616BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220616BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61K35/14 Z
A61P29/00
A61P9/00
A61P1/00
A61P11/00
A61P3/10
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P39/02
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022059674
(22)【出願日】2022-03-31
(62)【分割の表示】P 2018567201の分割
【原出願日】2017-06-22
(31)【優先権主張番号】62/354,041
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507318956
【氏名又は名称】ヘマネクスト インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ダレッサンドロ アンヘロ
(72)【発明者】
【氏名】コルデロ ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ダナム アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】キーガン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達郎
(57)【要約】
【課題】輸血を必要とする患者における炎症反応を低減させるのに使用するための酸素除去保存血液組成物の提供。
【解決手段】輸血を必要とする患者における炎症反応を低減させるのに使用するための酸素除去保存血液組成物であって、
前記酸素除去保存血液組成物が、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、前記酸素除去保存血液組成物が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液組成物と比較して、ロイコトリエンB4、トロンボキサンB2及びヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)からなる群から選ばれる少なくとも1つの炎症因子レベルが低下している、前記酸素除去保存血液組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸血を必要とするヒト患者における炎症反応リスクを低減させる方法であって、
炎症反応リスクが増加している、輸血を必要とするヒト患者への輸血のための酸素除去保存血液を提供することを含み、前記酸素除去保存血液が、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、前記酸素除去保存血液が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液と比較して、少なくとも1つの炎症因子レベルが低下している、前記方法。
【請求項2】
輸血を必要とする前記ヒト患者が、組織灌流バイパスを必要とする手術患者、慢性血管炎症を有する患者、慢性炎症性腸疾患を有する患者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者、鎌状赤血球症を有する患者、サラセミアを有する患者、臓器不全を有する患者、全身性炎症反応症候群(SIRS)を有する患者、真性糖尿病を有する患者、ベーチェット病を有する患者、リウマチ性関節炎を有する患者、煙吸入を有する患者、およびそれらの組み合わせを有する患者からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
輸血を必要とする前記ヒト患者が、遅発性溶血性輸血反応、虚血再灌流由来の損傷、過剰凝固、輸血関連急性肺損傷(TRALI)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、多臓器機能不全症候群(MODS)またはそれらの組み合わせのリスクの低下を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記炎症反応が、慢性血管炎症、慢性炎症性腸疾患およびそれらの組み合わせからなる群から選択される炎症反応を悪化させている、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの炎症因子が、
ロイコトリエン、
8-イソプロスタン、
トロンボキサン、
ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、および
それらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
RANTES、エオタキシン1、または可溶性CD40リガンド(SCD40L)から選択される炎症性サイトカインをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記保存期間が、少なくとも2日間、7日間、14日間、21日間、28日間またはそれ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
輸血を必要とする前記ヒト患者が、頻回輸血を必要とする患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記保存期間が2日間であり、酸素除去保存血液が、
前記初期酸素飽和が5%以下の場合、低下したレベルのトロンボキサンB2、
増加したレベルのグルタチオン(GSH)、
低下した割合のメトヘモグロビン、
増加したレベルのATP、および
増加したレベルの2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)を含み、
前記酸素除去保存血液中の前記増加または前記低下は、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記保存期間が少なくとも7日間であり、前記酸素除去保存血液が、
増加した比率のホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸をさらに含み、
前記酸素除去保存血液中の前記比率の増加は、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記保存期間が少なくとも14日間であり、前記酸素除去保存血液が、
低下したレベルのロイコトリエンB4、
前記初期酸素飽和が10%以下の場合、低下したレベルのヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、
増加したレベルのメチレンテトラヒドロ葉酸、および
増加したレベルのグルタミン酸塩をさらに含み、
前記酸素除去保存血液中の前記増加または前記低下は、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記保存期間が少なくとも21日間であり、前記酸素除去保存血液が、
前記酸素飽和が5%~10%の場合、より高い比率のGSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)(GSH/GSSG比)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド+水素(NADH)、および
前記初期酸素飽和が約5%である場合、低下したジオキシド化レベルのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)中のCys152をさらに含み、
前記酸素除去保存血液中の前記増加または前記低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記保存期間が少なくとも28日間であり、前記酸素除去保存血液が、
増加したレベルのNADPH
増加した比のNADPH/NADP+、および
増加したレベルのシステインをさらに含み、
前記酸素除去保存血液中の前記増加または前記低下は、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸素除去保存血液の少なくとも1ユニットを輸血することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記初期酸素飽和が、10%以下、5%以下、または3%以下である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、輸血医療の分野における改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来通りに保存された場合、血液では種々の保存障害に関連する劣化、特に、溶血、ヘモグロビン分解、小胞形成、酸化ストレスの増加、ATPおよび2,3-DPG濃度の低下などが着実に起こる。患者に輸血されると、保存中の着実な劣化の影響が、例えば、24時間での体内回復の低下、血管外溶血および非トランスフェリン結合鉄の増加として現れる。24時間回復の低減に起因するヘマトクリット値の急速な減少は、重度な場合、遅発性溶血性輸血反応(DHTR)をもたらす可能性がある。他の合併症、例えば、全身性炎症反応症候群(SIRS)、輸血関連急性肺障害(TRALI)、および輸血関連免疫調節(TRIM)は、保存血液の輸血に関連するが、根底にある原因の同定については不明なままであった。ある特定の症例において、輸血を受ける患者は、酸化ストレスの増加および酸化損傷に関連する糖尿病など、種々の基礎病態を患う。病態を管理または急性合併症を治療するために定期的な輸血を受ける鎌状赤血球症またはサラセミアを有する患者は、輸血された血液に有害反応を発症する可能性がある。これらおよび他の保存血液の輸血による医学的後遺症のために、保存が血液に及ぼす影響を最小限に抑え、医学的転帰を改善するための様々な手法が開発されてきた。例えば、Zimring et al.,“Established and theoretical factors to consider in assessing the red cell storage lesion”Blood,125:2185-90(2015)、D’Alessandro et al.,“Time-course investigation of SAGM-stored leukocyte-filtered red blood cell concentrates:from metabolism to proteomics”Haematologica 97(1):107-115(2012)、D’Alessandro et al.,“Red blood cell metabolism under prolonged anaerobic storage”Molecular BioSystems 9(6):1196-209(2013)、D’Alessandro et al.,“Red blood cell storage in additive solution-7 preserves energy and redox metabolism:a metabolomics approach,”Transfusion,55(12):2955-66 (2015)、D’Alessandro et al.,“Routine storage of red blood cell (RBC) units in additive solution-3:a comprehensive investigation of the RBC metabolome,”Transfusion,;55(6):1155-68(2015)、D’Alessandro et al.,“Citrate metabolism in red blood cells stored in additive solution-3,”Transfusion,;57(2):325-336(2016)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0003】
保存障害を最小限に抑え、輸血の転帰を改善することを目的とした数多くの手法が開発されている。手法としては、添加液(例えば、Hamasakiらに対する米国特許第4,769,318号およびSasakawaらに対する米国特許第4,880,786号、Hessらに対する米国特許第6,447,987号)、凍結保存(Serebrennikov Chaplinらに対する米国特許第6,413,713号、”Blood Cells for Transfusion,”Blood,59:1118-20(1982)、およびValeri et al.,”The survival,function,and hemolysis of human RBCs stored at 4 degrees C in additive solution(AS-1,AS-3,orAS-5)for 42 days and then biochemically modified,frozen,thawed,washed,and stored at 4 degrees C in sodium chloride and glucose solution for 24 hours,”Transfusion,40:1341-5(2000)(「Valeri 2000」)、D’Alessandro,et al.,”An update on red blood cell storage lesions,as gleaned through biochemistry and omics technologies,”Transfusion,55(1):205-219(epub 2014)、D’Alessandro,et al.,”Red blood cell metabolic responses to refrigerated storage,rejuvenation,and frozen storage,”Transfusion,57(4):1019-1030(2017)、およびD’Alessandro,et al.,”Red blood cell storage lesion,”International Society of Blood Transfusion,ISBT Science Series,12:207-213(2017)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、再生(Valeri 2000を参照されたい)が挙げられる。
【0004】
血液の品質を改善し、その有用性を拡張することで実績がある手法の1つは、酸素の枯渇によるもの、および嫌気性条件下での保存によるものである。酸素枯渇条件下で血液を保存することの利点の中には、ATPおよび2,3-DPGレベルの改善、ならびに溶血の低減がある。Bitenskyらに対する米国特許第5,624,794号、Bitenskyらに対する米国特許第6,162,396号、およびBitenskyに対する米国特許第5,476,764号(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)は、酸素枯渇条件下での赤血球の保存を対象としている。Bitenskyらに対する米国特許第5,789,151号は、血液保存添加液を対象としている。Bitenskyらに対する米国特許第6,162,396号(‘396特許)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)は、酸素不透過性の外層、酸素に対して透過性の赤血球(RBC)適合性内層を備え、内層と外層との間に配置された酸素スクラバーを有する、血液保存のための嫌気性保存バッグについて開示している。
【0005】
酸素枯渇条件下で血液保存することはまた、微小粒子レベルの低下(Yoshida et al.,“The effects of additive solution pH and metabolic rejuvenation on anaerobic storage of red cells,”Transfusion48:2096-2105(2008)およびYoshida,T.,et al.Reduction of microparticle generation during anaerobic storage of red blood cells.Transfusion,52,83A(2012)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、従来の条件下で保存された血液と比較した場合に、変形能喪失の低減、脂質およびタンパク質酸化の低減、ならびにより高い輸血後の生存率(D’Alessandro et al.“Red blood cell metabolism under prolonged anaerobic storage,”Mol Biosystems 6:1196-1209(2013)、Pallotta et al.,“Storing red blood cells with vitamin C and N-acetylcysteine prevents oxidative stress-related lesions: a metabolomics overview,”Blood Transfusion,12:376-387(2014)、Zolla and D’Alessandro,“Response to ‘platelets proteomics in transfusion medicine:a reality with challenging but promising future’,”Blood Transfusion,11:316(2013)、Blasi et al.,“Red blood cell storage and cell morphology,”Transfusion Medicine,22:90-96(2012)、Longo et al.,“Deoxygenation of leucofiltered erythrocyte concentrates preserves proteome stability during storage in the blood bank,”Blood Transfus 12(4):599-604(2014)(「Longo 2014」)、およびReisz,et al.,“Oxidative modifications of glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase regulate metabolic reprogramming of stored red blood cells,”Blood,(2016)(「Reisz 2016」)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)をもたらす可能性がある。
【0006】
イソプロスタン、ならびにバンド3、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼおよびヘモグロビンなどの酸化した構造タンパク質および機能性タンパク質などの脂質過酸化のマーカーの蓄積によって示唆されるように、保存中の酸化損傷は、濃厚赤血球(pRBC)の膜損傷の主要原因として関与しているとされてきた(Wither et al.,“Hemoglobin oxidation at functional amino acid residues during routine storage of red blood cells,”Transfusion, (56)2: 421-426, (2016) (「Wither 2016」)、およびReisz 2016を参照されたい)。保存期間中のサイトカイン量の増加も、輸血の負の転帰に関する潜在的な臨床的意義を有する保存障害の発生に関与し得る。
【0007】
ある特定の患者集団は、他の集団よりも保存障害の影響を受けやすい。患者集団を限定するものではないが、これらの患者集団は、大量にまたは長期に輸血されるレシピエント、例えば、外傷患者もしくは癌患者、またはヘモグロビン異常症を患う患者を含む(例えば、鎌状赤血球症)。これらのより感受性の高い集団の中には、非限定的な例として、外傷患者および癌患者が含まれる。有害な臨床転帰には、炎症を媒介し、細胞増殖を調節し、血管新生を調節し、T細胞の機能を調整する、サイトカインを含む生物学的応答調節物質(BRM)の蓄積が関係している。これらのBRMとして、インターロイキン17(IL-17)、エオタキシン(CCL11)、塩基性FGF(bFGF)、マクロファージ炎症性タンパク質1a(MIP-1a)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、ロイコトリエン、およびトロンボキサンが挙げられる。Behrens et al.,“Accumulation of biologic response modifiers during red blood cell cold storage,”Transfusion 49(Suppl3):10A(2009)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。また、サイトカインが血液の保存中に蓄積することも観察されており、これらの蓄積したサイトカインは、癌患者に周術期に投与された場合、負の転帰に関連する可能性がある。Benson et al.,“Accumulation of Pro-Cancer Cytokines in the Plasma Fraction of Stored Packed Red Cells,”J Gastrointest Surg.16:460-468(2012)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0008】
保存障害を低減するための方法は進んできたが、どのような変化が保存中に生じるかについての理解は欠如している。最近の分子、ゲノムおよび代謝研究は、保存プロセス中に赤血球中で発生する特定の変化を同定し始めた。D’Alessandro et al.,“Red blood cell metabolism under prolonged anaerobic storage,” Mol.Biosyst.9(6):1196-209(2013)(D’Alessandro 2013)、D’Alessandro et al.,“Time-course investigation of SAGM-stored leukocyte-filtered red blood cell concentrates:from metabolism to proteomics” Haematologica 97(1):107-115(2012)、およびRoback et al.,“Metabolomics of AS-1 RBC storage,”Transfus Med Rev.28(2):41-55(2014)、D’Alessandro et al.,“Red blood cell metabolism under prolonged anaerobic storage,”Mol.Biosyst.9(6):1196-209(2013)(D’Alessandro 2013)、D’Alessandro et al.,“Time-course investigation of SAGM-stored leukocyte-filtered red blood cell concentrates:from metabolism to proteomics” Haematologica 97(1):107-115(2012)、およびRoback et al.,“Metabolomics of AS-1 RBC storage,”Transfus Med Rev.28(2):41-55(2014)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。D’Alessandro 2013は、好気性および酸素を除去した条件下で保存された赤血球の代謝を比較することを意図したものであるが、定常状態のみの代謝パラメータは、現在の最先端の分析ワークフローからは程遠い、予備的なメタボロミクス手法で測定された。その中に採取された結果は、それゆえ本質的に予備的で、濃厚RBCの嫌気性保存に関連する代謝利益の解明を制限し、解糖および低酸素的に保存された赤血球のペントースリン酸経路を介した実際の代謝流量に関連した機構的証拠の欠如を負っていた。したがって、結果は、酸素除去保存血液の特性の改善を正しく明らかにしなかった。これらの不備が原因で、D’Alessandro 2013では、酸素除去保存が上昇させた酸化ストレスが、ペントースリン酸経路を介してグルコース代謝を制限することによりRBCの抗酸化能を損なう可能性があり、酸化還元平衡を調節するために不可欠な等価物(NADPH)の低減を生じさせる(例えば、酸化グルタチオンの再循環)と結論した。しかしながら、これらの定常状態の観察は、代謝流量の実際の直接の測定値を提供せず、その研究において直接的に検証されなかった。D’Alessandro 2013の結果とは対照的に、本開示の結果は、他の有益な特性の中でも特に、酸化ストレスおよびPPP活性化の減少を正確に明らかにする。
【0009】
溶血の低下(FDAにより保存期間の間1%未満に保つよう定められる)、ならびにATPおよび2,3-DPGレベルの低下を含む同定された改善のような種々の保存液における全体的な血液の健康について嫌気性保存が及ぼす影響を解明する保存試験。現時点では、いかなる国際規制機関からも必要とされているわけではないが、保存中のATPおよび2,3-DPGレベルの生理学的な維持が、全体的な一般生存率および輸液された血液製剤の治療有効性を改善する可能性を有する。
【0010】
本研究について、13C-グルコース(位置1、2および3)は、保存の初期に上昇し、保存期間の全体にわたり嫌気的および好気的両方で保存された細胞における乳酸+2および+3の同位体分子種比率、ならびにエネルギー代謝を計算することにより決定されるように、解糖によるグルコース酸化(高エネルギーリン酸化合物を生成する)およびペントースリン酸経路(抗酸化カスケードに燃料を供給する)の実際の流量を追跡して、比較する方法を提供する。簡潔には、理論に制限されるものではないが、ペントースリン酸経路(PPP)の非酸化部分は、エムデン-マイヤーホフ-パルナス経路(EMP)と交わり、5-炭素糖は、EMPに再び入り、乳酸として終わる。乳酸は、酸化PPP(逆反応、糖新生なしで)によって現れ、位置1で13Cを欠いているだろう(グルコースがPPPによって代謝される際、CO2の形で放出される)が、EMPによりグルコースから直接生成される乳酸は、13Cの3つの炭素全てを有するか、または全く有しないかのいずれかである。このようにして、代謝モデルを使用してPPPを介した流量を評価できる。リボース-5-Pがアデニンヌクレオチドプール(AXP)経路に入るので、ATP分解および再合成に対するさらなる洞察を推論することができる。Reisz 2016を参照されたい。
【0011】
20世紀の変わり目に血液型が同定され、1916年にRousおよびTurnerにより輸血のための血液を保存する方法が開発されて以来、輸血は日常的な治療になった。輸血治療は、手術中の外傷および血液交換の治療から、癌療法、ならびに鎌状赤血球貧血およびサラセミアのような遺伝病の治療にまで及ぶ。特に、血液型および免疫性不適合の判定を除けば、血液保存傷害の根底にある変化を理解し、または輸血療法由来の合併症リスクの状態にある患者を同定することは、ほとんど進んでいない。これまでに、最適な方法の勧告および患者集団の選択については、ほとんど関心が持たれてこなかった。近年、専門家らは、全血、未分画血液(非溶血性発熱輸血反応(NHFTRs)、同種異系免疫化、および感染を減らす白血球除去を除く)が提供された場合、血漿、血小板、およびRBCが1:1:1の比率で提供される場合の再組成された血液と比較して、外傷患者および出血患者の転帰の改善を認めた。全血について観察される改善に関して基礎をなす生化学および生理学は明らかではないが、観察により輸血のための患者集団の区別についての専門家間の議論がもたらされた。
【0012】
赤血球の酸素除去保存に関する生化学的および細胞生理学的な影響力についての理解があがるにつれ、輸血治療が画一的なアプローチを乗り越える必要があることを、患者病理学の不均一性により示されたことが明らかになった。むしろ、広範囲の慢性および急性病理により、定義のより微細な段階および血液製剤の生化学的および細胞構造に関する制御が、患者転帰を改善する可能性があることが示された。一部の患者集団、特に若く、1~2ユニットのみの急性輸血を必要とする比較的健康な患者は、通常、赤血球保存傷害の有害作用に耐性を示すが、生存のためにRBC輸血に依存する患者集団では、より輸血関連合併症に脆弱である。
【0013】
したがって、従来の輸血方法を使用した治療リスクがある患者集団、およびカスタマイズした輸血医療から恩恵を得る可能性がある患者集団を同定する必要性が高まっている。血液型に基づいて患者を区別することに加えて、以下に示された結果は、輸血を受ける患者の医学的な状況の評価、および患者と年齢、保存条件、添加液、および血液製剤の種別(全血、pRBC、再組成された、二重血小板など)とのマッチングが、特定の形態の輸血治療を処方する前に、医師によって考慮されるべきであることを示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、輸血を必要とする患者における炎症反応リスクを低減する方法であって、同一保存期間の間保存された酸素除去保存血液と比較した場合に、少なくとも1つの炎症因子レベルが低下した酸素除去保存血液を提供することを含み、該患者の炎症反応リスクが増加している方法、を提供し、かつ含む。
【0015】
本開示は、輸血を必要とするヒト患者の酸化ストレスを低減するための方法であって、輸血媒介型の酸化ストレスのリスクが増加し輸血を必要とするヒト患者への輸血のために、酸素除去保存血液を提供することを含み、該酸素除去保存血液は、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者の酸化ストレスリスクが増加している方法を提供し、かつ含む。
【0016】
本開示は、輸血を必要とし、心臓、腎臓および胃腸虚血再潅流傷害のリスクが増加しているヒト患者への輸血のために、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含む、輸血を必要とする患者における心臓、腎臓、および胃腸の虚血再潅流傷害を低減するための方法を提供し、かつ含む。
【0017】
本開示は、輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者への輸血のために酸素除去保存血液を提供することを含み、酸素除去保存血液は保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、患者の酸化ストレスリスクが増加している、輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者の有害事象リスクを低減するための方法を提供し、かつ含む。
【0018】
本開示は、輸血を必要とする患者の遅発性溶血性輸血反応を低減するための方法であって、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含み、患者の遅発性溶血性輸血反応リスクが増加している、方法を提供し、かつ含む。
【0019】
本開示は、添付図面を参照して開示される。
図1~20は、本開示の態様に従って、従来通りに保存された血液(正常酸素)および保存前に充分に酸素添加された血液(超酸素化または高酸素)と比較した、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和(酸素除去保存血液)を有する保存血液(この態様において、濃厚赤血球)の研究の結果を提示する。
対応する参照特徴は、いくつかの図を通して対応する部分を示す。本明細書において開示される実施例は、本開示のいくつかの実施形態を例示するが、いかなる方法においても本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素血液(---)、ならびに初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の嫌気性保存血液における、42日間のSO
2パーセントを示しているグラフである。
【
図2】
図2は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のロイコトリエンB4のレベルを比較している。
【
図3】
図3は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のトロンボキサンB2のレベルを比較している。
【
図4A】
図4Aおよび4Bは、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)のレベルを比較している。
図4Aは、42日間の上清中のHETEレベルを示す。
図4Bは、42日間にわたる酸素除去保存血液中のHETEレベルを示す。
【
図4B】
図4Aおよび4Bは、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)のレベルを比較している。
図4Aは、42日間の上清中のHETEレベルを示す。
図4Bは、42日間にわたる酸素除去保存血液中のHETEレベルを示す。
【
図5】
図5は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のNADPHのレベルを比較している。
【
図6】
図6は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のNADPH/NADP
+を比較している。
【
図7】
図7は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のNADPHおよびNADP
+の総貯蔵を比較している。
【
図8】
図8は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のNADPおよびNAD
+の総貯蔵を比較している。
【
図9】
図9は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のメチレンテトラヒドロ葉酸のレベルを比較している。
【
図10】
図10は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のグルタミン酸塩のレベルを比較している。
【
図11】
図11は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液の還元型グルタチオン(GSH)のレベルを比較している。
【
図12】
図12は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のGSH/GSSG比率を比較している。
【
図13】
図13は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のシステインのレベルを比較している。
【
図14】
図14は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液の尿酸塩のレベルを比較している。
【
図15】
図15は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のEMP流量を比較している。
【
図16】
図16は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のATP合成を比較している。
【
図17】
図17は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期SO
2パーセントが5%の酸素除去保存血液における、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼのCys152ジオキシド化を比較している。
【
図18A】
図18Aおよび18Bは、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のPIP3に対するPIPのリン酸化を比較している。
【
図18B】
図18Aおよび18Bは、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のPIP3に対するPIPのリン酸化を比較している。
【
図19】
図19は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のヘモグロビンβサブユニットのヒスチジン93の酸化を比較している。
【
図20】
図20は、本開示による実験結果を示しているグラフであり、従来通りに保存された正常酸素(実線)および高酸素(---)、ならびに初期初期SO
2パーセントが20、10、5および<3%の酸素除去保存血液のメトヘモグロビンレベルを比較している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
血液型判定以外の、幅広い種々の医学分野における個別医療の進歩とは対照的に、血液バンクから保存血液を受ける際、特定の集団に対するリスクはこれまで同定されておらず、リスクを減少または最小化するための有効な戦略および方法は開発されてこなかった。さらに具体的には、特定の集団は、根底にあるまたは付随的な続発性の病態に基づく、輸血療法由来の合併症のリスクが高い状態にある(例えば、既存の病態)。既存の病態とは、糖尿病、虚血性心疾患、外傷または感染によって引き起こされる全身性炎症反応症候群、外傷または感染によって引き起こされる多臓器不全、煙吸入、および感染、自己免疫疾患による全身性炎症などの慢性肺閉塞性疾患、および糖尿病などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに他の集団、例えば鎌状赤血球およびサラセミア患者は、例えば、頻回輸血の結果生じる合併症のリスクが高い。本明細書で提供される酸素除去保存血液および方法は、炎症因子レベルの新しく予想外な低下、酸化損傷からの保護の改善、微小粒子レベルの低下、および/または保存中のその他の変化を提供することができ、それによって、輸血治療を必要とする特定の患者集団に対して改善および安全性またはその他の有用性を提供する。本明細書において提供されるように、本方法は、リスクの増加に伴う既存病態を有するとみなせる特定の患者の罹患率および有害事象の減少を提供し、かつ含むものを含むものである。
【0022】
酸素除去保存血液の特定の有用性については当該技術分野で既知であったが、保存障害の性質および従来通りの保存中または酸素を除去した保存中に生じる変化に関しては、比較的ほとんど知られていない。以下の表1で提供されるように、保存血液に対する変化は低温保存開始後、早ければ2日間で認識可能である。
【0023】
本開示は、輸血を必要とするヒト患者において炎症反応リスクを減らすための方法であって、輸血を必要とするヒト患者への輸血のために、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含み、該患者の炎症反応リスクが増加している方法を、提供し、かつ含む(例えば、表1参照のこと)。本開示による態様において、酸素除去保存血液は、少なくとも1つの炎症因子レベルが低下している。本明細書において用いられる場合、初期酸素飽和とは、1~6℃での保存開始前の血液の酸素飽和を意味する。従来通りの保存について、採取および赤血球を濃縮する処置での静脈血の初期酸素飽和は約50%であり、保存期間の間、従来の保存バッグの透過性が原因で1~2週間で完全飽和にまで増加する(例えば、
図1参照のこと)。
【0024】
いかなる科学理論にも制限されるものではないが、他の変化の中でも、好気性環境での赤血球の保存は、保存中および輸血後の両方で、循環環境への微小粒子の浸出、および膜の小胞形成を促進する。しかしながら、酸素除去保存血液製剤の生成および維持は、ランズ回路の活性化ならびにカルシウムイオンチャネルの活性化を阻害することを介して、全体的な膜安定性を増加させ、そしてそれは細胞膜スクランブリングおよび脱落することに関連している。
図18を参照されたい。さらに、酸素除去保存血液はまた、ロイコトリエンB4(例えば、
図2を参照のこと)およびHETE(例えば、
図4を参照のこと)、強力な炎症促進性脂質のレベルを低下させた。ある態様において、酸素除去保存血液の使用は、輸血による炎症促進性の影響、特に既存の炎症性病理の患者について予防または軽減するだろう。加えて、酸素除去保存血液は、輸血関連急性肺障害(TRALI)および全身性炎症反応症候群(SIRS)などの新しい病理を予防することができる。
【0025】
本開示の方法は、炎症反応リスクの状態にある患者を同定することと、同定した患者に、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することと、を提供し、かつ含む。本明細書で使用される場合、酸素除去保存血液を提供することは、段落[0128]に提供されるように全血、および段落[0129]および[0130]に提供されるように赤血球、を含むが、これらに限定されない。
【0026】
保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、より低レベルの酸素で調整され得る。本開示により提供される場合、ある特定の改善は20%の初期飽和レベルの始まりで明らかである。本明細書で使用される場合、本開示において提供される、選ばれた患者に対する改善および有用性は、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対して(例えば、に比べて)である。重要なことに、これらの差異は、保存期間が増えるにつれておよび保存前の初期酸素飽和が減るにつれて、より顕著になる。
【0027】
本開示の一態様において、段落0047で特定されるように、少なくとも2日間保存された、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4を減らした。別の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、さらに、トロンボキサンB2の低減を含む。他の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2の低減、およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。他の態様において、段落[0128]、[0129]、および[0130]で特定されるように、酸素除去保存血液はさらに、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEをさらに含む。本開示の一態様において、炎症反応リスクを低減するのに好適な酸素除去保存血液としては、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEを有する酸素除去保存血液が挙げられる。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンの低減、残基H93でのβヘモグロビンの酸化の低減、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)貯蔵の増加、GSHの増加、ATPの増加、DPGの増加、NADPH貯蔵の増加、PIP対PIP3比率の低下、メチレンTHFの増加、グルタミン酸塩の増加、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加、尿酸塩の増加、およびシステインの増加をさらに含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、メトヘモグロビンの低減を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、残基H93におけるβヘモグロビンの酸化の低減を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)貯蔵の増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、GSHの増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、ATPの増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、DPGの増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、NADPH貯蔵の増加をさらに含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、PIP対PIP3比率の低減を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、メチレンTHFの増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、グルタミン酸塩の増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、尿酸塩の増加を含む。別の態様において、炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液は、さらに、システインの増加を含む。
【0028】
本開示の一態様において、例えば、段落0048で特定されるように、少なくとも2日間保存された、10%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4を減らす。別の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、さらに、トロンボキサンB2の低減を含む。他の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2の低減、およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、例えば、段落[0052]および[0054]で特定されるように、酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEをさらに含む。炎症反応リスクを低減するのに好適な酸素除去保存血液としては、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEを有する酸素除去保存血液が挙げられる。
【0029】
本開示の一態様において、例えば、段落[0049]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、5%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4を減らした。別の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、さらに、トロンボキサンB2の低減を含む。他の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2の低減、およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、例えば、段落[0052]および[0054]で特定されるように、酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEをさらに含む。炎症反応リスクを低減するのに好適な酸素除去保存血液としては、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEを有する酸素除去保存血液が挙げられる。
【0030】
本開示の一態様において、例えば、段落[0050]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、3%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4を減らした。別の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、さらに、トロンボキサンB2の低減を含む。他の態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2の低減、およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減およびHETEの低減を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、例えば、段落[0052]および[0054]で特定されるように、酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEをさらに含む。炎症反応リスクを低減させるのに好適な酸素除去保存血液としては、ロイコトリエンB4の低減、トロンボキサンB2、およびHETEを有する酸素除去保存血液が挙げられる。
【0031】
本開示の方法は、炎症反応リスクが増加している患者を同定することと、同定した患者に、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することと、を提供し、かつ含む。方法はまた、炎症反応リスクが増加している人物に輸血するために、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを提供する。また、炎症反応リスクが増加している患者に、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を輸血することを含む方法も含まれる。考察されるように、保存期間が増加するにつれて、酸素除去保存血液を輸血することの炎症反応リスクが増加している患者への改善および有用性は、従来の方法を用いて保存された血液に対して増加する。したがって、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供する方法は、10%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含む。20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供する方法は、さらに、5%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含む。20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供する方法は、3%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することをさらに含む。
【0032】
一部の態様において、炎症因子はタンパク質である。一態様において、炎症因子はサイトカインである。本開示による一部の態様において、少なくとも炎症因子は、少なくとも1つのエイコサノイド炎症性メディエーターである。少なくとも1つのエイコサノイド炎症性メディエーターおよび少なくとも1つの炎症性サイトカインの低減がさらに本明細書において提供される。本開示による一態様において、酸素除去保存血液は、少なくとも2日間保存され、低レベルの炎症因子をもたらす。一態様において、低減された炎症因子は、トロンボキサンB2およびヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)を含む。さらなる態様において、低レベルの炎症因子は、RANTES、エオタキシン1、可溶性CD40-リガンド(SCD40L)、またはそれらの組み合わせなどの生物反応修飾物質を含む。
【0033】
一態様において、本開示の方法は、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を炎症反応リスクが増加している患者に提供すること、を提供し、かつ含む。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、組織潅流バイパスを必要とする手術患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、慢性血管炎症を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、慢性炎症性腸疾患を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、鎌状赤血球症を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、サラセミアを有する患者である。一態様において、患者はα-サラセミアを有する。別の態様において、必要とする患者は、β-サラセミアを有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、臓器不全を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、真性糖尿病を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、ベーチェット病を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、リウマチ性関節炎を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、煙吸入を有する患者である。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、虚血性心疾患を有する患者である。
【0034】
また、基礎病態の組み合わせを有する患者が、提供され、かつ含まれる。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、鎌状赤血球およびβ-サラセミアを有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、糖尿病およびCOPDを有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、鎌状赤血球症およびSIRSを有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、糖尿病および虚血性心疾患を有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、MODSおよびSIRSを有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、COPDおよび虚血性心疾患を有する。一態様において、炎症反応リスクが増加している患者は、自己免疫疾患の外傷患者である。個々の患者が個々のリスクについて別々に評価されることは、当業者に理解されるであろう。つまり、個々のリスクについて参照するために提供される方法であって、リスク因子を選択するリスク一覧として提供するものではない。
【0035】
ある特定の態様において、本開示の方法は、増加したレベルの炎症因子を有する輸血された血液によって悪化する、2つ以上の基礎病態を有する患者により大きな利益を提供する。一態様において、既存の病態を悪化させるリスクが増加している患者は、鎌状赤血球およびβ-サラセミアを有する。一態様において、既存の病態を悪化させるリスクが増加している患者は、糖尿病およびCOPDを有する。一態様において、既存の病態を悪化させるリスクが増加している患者は、鎌状赤血球症およびSIRSを有する。一態様において、既存の病態を悪化させるリスクが増加している患者は、糖尿病および虚血性心疾患を有する。一態様において、既存の病態を悪化させるリスクが増加している患者は、MODSおよびSIRSを有する。一態様において、既存の病態を悪化させるリスクが増加している患者は、COPDおよび虚血性心疾患を有する。他の態様において、増加したレベルの炎症因子を有する血液を輸血することによって悪化する基礎病態リスクの状態にある患者は、長期輸血治療後に炎症反応が悪化した鎌状赤血球症に起因する慢性炎症の患者である。別の態様において、基礎病態を悪化させるリスク状態にある患者は、治療用輸血後に貧血がDHTRによって悪化した、鎌状赤血球および/またはサラセミアの溶血性貧血患者である。さらに別の態様では、基礎病態を悪化させる危険性のある患者は、輸血後に悪化した炎症反応が増加した、肥満および糖尿病に起因する全身性炎症の患者である。別の態様において、基礎病態を悪化させる危険性のある患者は、輸血を受けた後に炎症反応を悪化させた、外傷または感染に起因したSIRSSに罹患している患者である。一態様において、基礎病態を悪化させる危険性のある患者は、手術中に輸血を受ける虚血性心疾患の患者であり、活性酸素種および炎症性生体分子の輸血の結果として、組織損傷を増加させ得る。本明細書に提供されるように、本開示の酸素除去保存血液は、初期の、少なくとも早ければ保存期間の2日目から、炎症因子レベルの低下をもたらす。本明細書で使用される場合、「悪化」とは、既存の炎症性病態の炎症の増加を意味する。本開示の一態様において、反応の悪化を有する患者は、糖尿病、自己免疫疾患、または外傷から生じる基礎低級炎症性病態を有する患者である。
【0036】
本開示の方法は、慢性血管炎症を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。いかなる科学理論にも制限されるものではないが、慢性血管炎症は、鎌状赤血球症、血液癌、糖尿病および心疾患などいくつかの変性障害に伴う併存症である。これらの炎症促進性病態において、赤血球は、生物活性キナーゼおよび他のシグナル伝達分子を含有する膜微小粒子の放出によって炎症促進性シグナルを開始または伝達する可能性があることが示された。これらの微小粒子は、循環単球によって取り込まれる可能性があり、TNF-α、IL-1β、およびIL-6の放出を刺激する;さらにまた、RBC分泌した微小粒子の取り込みは、単球内皮癒着も促進する。Awojoodu et al.,“Acid sphingomyelinase is activated in sickle cell erythrocytes and contributes to inflammatory microparticle generation in SCD,”Blood 124(12):1941-50(2014)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。しかしながら、慢性炎症性障害は、通常の治療パラダイムまたは外科的介入の課程の中で、従来の赤血球製剤の輸血によって、さらに悪化する可能性がある。加えて、RBC保存またはエリプトーシスの結果として生成された、ホスファチジルセリン(PS)を露出する微小粒子は、レシピエントにおいて炎症増加の原因となり得る。Saas et al.,“Phosphatidylserine-expressing cell by-products in transfusion:A pro-inflammatory or an anti-inflammatory effect?” Transfusion Clinique et Biologique 19(3):90-97(2012)Saas et al.,“Phosphatidylserine-expressing cell by-products in transfusion:A pro-inflammatory or an anti-inflammatory effect?”Transfusion Clinique et Biologique 19(3):90-97(2012)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0037】
本開示の方法は、慢性炎症性腸疾患を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。潰瘍性大腸炎およびクローン病などの慢性炎症性大腸疾患患者は、循環環境から腸管腔に好中球の漸増が上昇した結果として、慢性的に活性化された腸内炎症によって特徴づけられる。Nielsen et al.,“Activation of neutrophil chemotaxis by leukotriene B4 and 5-hydroxyeicosatetraenoic acid in chronic inflammatory bowel disease,”Scandinavian Journal of Clinical and Laboratory Investigation 47(6):605-611(1987)(Nielsen et al.(1987)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。漸増に応じて、好中球は追加の免疫細胞の漸増を促進する炎症性サイトカインおよびケモカインを分泌し、炎症反応をさらに悪化させる。理論に制限されるものではないが、IBDにおける好中球の初期および継続的な活性化および漸増は、部分的にはヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)の結果である。Nielsen et al.(1987)and Nielsen et al.,“Release of leukotriene B4 and 5-hydroxyeicosatetraenoic acid during phagocytosis of artificial immune complexes by peripheral neutrophils in chronic inflammatory bowel disease,”Clin.Exp.Immunol 65(2):465-471(1986)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。本開示にて示すように、酸素除去保存血液は、低濃度のHETE酸(例えば
図4参照のこと)を含有する。加えて、酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4レベルを低下させ(例えば、
図2参照のこと)、潰瘍性大腸炎を患う患者において上昇することが示されてきた。酸素除去保存血液の輸血を受けた潰瘍性大腸炎およびクローン病などの慢性IBD患者は、HETE酸およびロイコトリエンB4への曝露の低下を有し、循環環境への好中球の活性化および漸増を減少させ、腸内壁の続発性の炎症リスクを潜在的に減少させる。
【0038】
本開示の方法は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患う人々は、気道の持続的な細菌コロニー形成を発症する(慢性のコロニー形成と呼ばれる)。Monso et al.,“Bacterial infection in chronic obstructive pulmonary disease.A study of stable and exacerbated outpatients using the protected specimen brush,”American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 152(4):1316-1320(1995)およびCrooks et al.,“Bronchial inflammation in acute bacterial exacerbations of chronic bronchitis:the role of leukotriene B4,”European Respiratory Journal 15(2):274-280(2000)(Crooks et al.(2000)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。この慢性のコロニー形成は、肺機能の低下をもたらす慢性気道炎症によるCOPDに関連した罹患率の一因となる。研究により、慢性細菌感染症のCOPD患者は、痰(感染中に、気道から吐き出される唾液および粘液の混合物)の中にある程度の高いレベルのロイコトリエンB4を有し、それは一次免疫細胞の活性化に関連する強力な炎症促進性サイトカインであることが示されている。Crooks et al.(2000)を参照されたい。COPDの急激な進行は、外科的介入を必要とする可能性があり、患者への輸血を余儀なくさせる。本開示は、従来通りに保存された血液に対して、酸素除去保存血液がロイコトリエンB4レベルを低下させる(例えば、
図2参照のこと)ことを提供する。血管内手術中に酸素除去保存血液を用いた輸血が、肺閉塞を悪化させるリスクを減少でき、優れた肺機能を促進することを本明細書で提供する。
【0039】
本開示の方法は、鎌状赤血球症を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。鎌状赤血球症における罹患率および死亡率の主要原因である、血管閉塞性事象の発症は、TNFαなど炎症性サイトカインレベルの上昇、ならびに好中球および単球など循環白血球数の増加を特徴とする、慢性的に炎症を起こした血管環境から引き起こす。Setty et al.,“Sickle red blood cells stimulate endothelial cell production of eicosanoids and diacylglycerol,”Journal of Laboratory and Clinical Medicine128(3):313-321(1996)、Lum et al.,“Inflammatory potential of neutrophils detected in sickle cell disease,”American Journal of Hematology76(2):126-33(2004)、Pathare et al.,“Cytokine profile of sickle cell disease in Oman,” American Journal of Hematology77(4):323-8(2004)、Finnegan et al.,“Adherent leukocytes capture sickle erythrocytes in an in vitro flow model of vaso-occlusion,”American Journal of Hematology82(4):266-75(2007)、およびMontes et al.,“Sickle erythrocyte adherence to endothelium at low shear: Role of shear stress in propagation of vaso-occlusion,”American Journal of Hematology70(3):216-27(2002)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。さらに、理論に制限されるものではないが、循環好中球は、ヒドロキシエイコサテトラエン(HETE)酸ならびにロイコトリエンB4への曝露に起因して、活性化される。輸血の投与は、鎌状赤血球症における血管閉塞性クリーゼの治療および解決のための共通の治療である。本開示は、酸素除去保存血液が、従来通りに保存された血液に対してHETE酸およびロイコトリエンB4(例えば、
図4および
図2参照のこと)レベルを低下させた、ことを提供する。酸素除去保存血液の輸血は、免疫性促進性活性化分子への患者の曝露を減少させることにより、血管急性発症を解決すること、ならびに後のクリーゼの発生をさらに予防すること、により有効である可能性がある。
【0040】
本開示の方法は、サラセミアを有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。αまたはβ重症型サラセミアの患者は、機能性ヘモグロビン分子を産生することができないので、結果的に重症貧血をもたらし赤血球(RBC)輸血を必要とせざるを得ない。定期的な(すなわち、長期的な)輸血を必要とする結果、サラセミアのある人々は、治療輸血後のヘマトクリット値の急激な減少を特徴とする、遅発性溶血性輸血反応(DHTR)を患う可能性がある。ある態様において、DHTRは、突然のエリプトーシスに対する反応として誘導されることがあり、マクロファージおよび単球によって循環させている赤血球の急激な除去をもたらす。
【0041】
理論に制限されるものではないが、エリプトーシスの1つの誘因は、従来の赤血球保存の結果として既知の、必然的に生じた酸化損傷であると考えられている。Bhavsar et al.,“Janus Kinase 3 is Expressed in Erythrocytes, Phosphorylated Upon Energy Depletion and Involved in the Regulation of Suicidal Erythrocyte Death,”Cellular Physiology and Biochemistry 27(5):547-556(2011)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。酸素除去保存血液細胞は、NADPH貯蔵の増加(例えば、
図5、
図6、および
図7参照のこと)、システインレベルの上昇(例えば、
図13参照)、GSHとGSSG比率の上昇(例えば、
図12参照のこと)により明示されるように、優れた抗酸化性防御を有する。
【0042】
さらにまた、理論に制限されるものではないが、赤血球がATPの充分なレベルをもはや有しない場合、エリプトーシスも促進され、それはまた、従来の保存中に起こる。Gurer et al.“Arachidonic acid metabolites and colchicine in Behcet’s disease (BD)”Prostaglandins,leukotrienes,and essential fatty acids 43(4):257-9(1991)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。しかしながら、酸素除去保存血液は、全体的なATPレベルを改善し(例えば、
図16参照のこと)、ペントースリン酸経路を介した持続的解糖による代謝活性を改善した(例えば、
図15参照のこと)。
【0043】
α-またはβ-サラセミアの人々の慢性治療用の輸血のために嫌気的に保存された血液製剤の使用は、酸化損傷からの防御の増加に起因するDHTR発症リスクの低減、および細胞内のエネルギー(ATP)の優れた保存、および輸血が必要とされる頻度を減少させるさらなる潜在的な利点、を有することができる。
【0044】
本開示の方法は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。以下の基準:38℃超または36℃未満の体温、毎分90拍(BPM)より速い心拍数、毎分20呼吸より大きい呼吸数、32mmHg未満の動脈二酸化炭素分圧、および異常な白血球(12,000細胞/μL超または4,000細胞/μL未満、のうち2つが満たされる場合、患者は全身性炎症反応症候群(SIRS)有すると考えられる。Lang,E.et al.,“Killing me softly - suicidal erythrocyte death,” The International Journal of Biochemistry & Cell Biology,44(8):1236-43(2012)およびDi Gennaro et al.,“Targeting leukotriene B4 in inflammation,”Expert opinion on therapeutic targets.18(1)79-93(2014)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。SIRSは、細菌感染症、インフルエンザ、感染性心内膜炎などの感染因子、ならびに非伝染性の原因、例えば重症火傷、自己免疫障害、出血ショック、血液学的悪性腫瘍および化学暴露などの結果として発症することがあり得る。現在SIRSを患っている患者は、該患者が輸血も受けるならば、血液ユニット内の炎症性生体分子およびサイトカインの存在に起因して悪化した病態を有する可能性がある。本明細書により提供される場合、酸素除去保存血液は、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)およびロイコトリエンB4(例えば、
図2および
図4参照のこと)などの炎症因子レベルを低下させた。したがって、SIRS患者は、HETE酸およびロイコトリエンB4への曝露の低下を提供できる、酸素除去保存血液の輸血を受けることができ、循環環境への好中球の活性化および漸増を減少させ、長期の臓器系損傷リスクを減少させる。
【0045】
さらに、従来通りに保存された血液が検出可能なレベルの炎症促進性サイトカインおよび生体分子を含有するので、従来通りに保存された血液の輸血は、SIRSの発症を引き起こすことがあり得る。炎症性生体分子の低下とともに、酸素除去保存血液の使用は、入院患者におけるSIRSの新規惹起のリスクをかなり低下させる。SIRSの発症は、非SIRS患者と比較しておよそ7日間でより高い死亡率を引き起こすことが過去の研究で示されたように、このことは考慮すべき利点である。Gurer,M.A. et al.,“Arachidonic acid metabolites and colchicine in Behcet’s disease (BD),”Prostaglandins,leukotrienes,and essential fatty acids.43(4)257-259(1991)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0046】
本開示の方法は、ベーチェット病を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。ベーチェット症候群としても知られるベーチェット病は、原因不明の希少な慢性自己炎症性障害である。その症状は、体全体の血管に損傷を引き起こす、血管炎によって起こされると考えられ、口腔病変または皮膚病変、眼性炎症、関節炎および胃腸傷害により特徴づけられる。現在の調査では、ベーチェット病の発症に関与し得る、ウイルス、細菌、遺伝子的および環境的要因が示唆されるが、特定の原因は確定されず、誘因は同定されなかった。慢性炎症の結果として、ベーチェット病のある人々は、白血球、例えば好中球を循環させる強力な活性化因子である、ロイコトリエンの血清レベルが増加した。Lang.et al.,“Oxidative Stress and Suicidal Erythrocyte Death,”Antioxidants Redox Signaling 21(1):138-153(2014)を参照されたい。本開示によって提供されるように、酸素除去保存血液は、低濃度ロイコトリエンB4およびHETEを含有する(例えば、
図2および
図4参照のこと)。したがって、酸素除去保存血液の輸血を受けたベーチェット病患者は、HETE酸およびロイコトリエンB4への曝露の減少を有することができ、循環環境に好中球を循環させることの活性化および漸増を減らし、合併症のリスクおよび慢性全身性炎症に関する続発性の罹患率を潜在的に減少させる。
【0047】
本開示の方法は、酸素除去保存血液を、リウマチ性関節炎を有する患者に提供することを提供し、かつ含む。リウマチ性関節炎は、手および足のわずかな関節に特徴的に関わる慢性自己免疫疾患である。疾患が進行するにつれて、患者の軟骨および骨は、関節の滑膜空間において分解し始め、Tリンパ球、メモリーBリンパ球およびマクロファージなどの大量の免疫担当細胞を含有する組織の過形成、浸潤性を特徴とする。ロイコトリエンは、まだ同定されない白血球に対する最も強力な内因性の走化性物質の1つである炎症性脂質であり、リウマチ性関節炎の滑膜組織への免疫細胞の漸増に強く関係する。Wellen,K.E.et al.,“Inflammation,stress,and diabetes,”The Journal of clinical investigation.115(5):1111-1119(2005)Wellen,K.E.et al.,“Inflammation,stress,and diabetes,”The Journal of clinical investigation.115(5):1111-1119(2005)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。リウマチ性関節炎を有する患者にとって、従来通りに保存された血液ユニット内の炎症性生体分子およびサイトカインの蓄積を輸血することの結果として、血液の輸血は患者の病態を悪化させる可能性を有する。しかしながら、本開示において提供されるように、酸素除去保存血液は、ロイコトリエンB4およびHETEなどの低濃度の炎症因子を有する(例えば、
図2および
図4参照のこと)。したがって、リウマチ性関節炎の患者は、強力な、外因性の炎症促進性分子への曝露を回避するだろう酸素除去保存血液の輸血を提供されることができ、それによって、関節炎病態の重症度を深刻化させるまたは悪化させるリスクの低下を可能にする。
【0048】
本開示の方法は、煙吸入を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。肺および気道への損傷は、火災関連の代表する死因の1つである。肺損傷プロセスは、煙のガスおよび粒子成分の毒素によって活性化され、得られた肺炎症によって永続する。この炎症過程は、多数の炎症カスケードの活性化および炎症性サイトカインの血漿レベルの増加を介して、自己永続的になる。Park,G.Y.et al.“Prolonged airway and systemic inflammatory reactions after smoke inhalation,”Chest.123(2):475-480(2003)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。加えて、煙害は、他の臓器を傷つけ、火傷障害プロセスを目立たせ、メディエーター誘発性細胞障害を続けて起こし、場合によっては多臓器不全がさらに起こるなどの、重大な全身異常を引き起こす。煙吸入などの重症外傷の後、患者は輸血を必要とする可能性がある;しかしながら、従来通りに保存された血液における炎症性分子のかなりの増加は、患者転帰および罹患率に悪影響を有する可能性がある。さらに、代謝物レベルの増加は、赤血球保存のマウスモデルにおける輸血後の不十分な回復と相関する(de Wolski et al.“Metabolic pathways that correlate with post-transfusion circulation of stored murine red blood cells,”Haematologica,101(5):578-586(2016)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。しかしながら、酸素除去保存血液の使用は、HETEおよびロイコトリエンB4(例えば、
図2および
図4参照のこと)などの炎症性分子レベルの減少を導入することができる。本開示において提供されるように、酸素除去保存血液は、煙吸入からの炎症反応の上昇のさらなる悪化を予防し、優れた患者転帰および回復を提供するために使用され得る。
【0049】
本開示の方法は、複数の血液ユニット(例えば、4より多い)または大量輸血(10ユニット以上)を必要とするヒト患者における炎症反応リスクを低下させる方法を提供し、かつ含む。一態様において、酸素除去保存血液の大量輸血を必要とする選ばれた患者は、既存の炎症状態を減らしまたは悪化させない。一態様において、複数ユニットまたは大量輸血を必要とする外傷患者は、低悪性度の慢性全身性炎症の体質である、既存疾患の患者である。一態様において、ヒト患者は、真性糖尿病、ベーチェット病、リウマチ性関節炎、COPD、煙吸入、およびアテローム動脈硬化症を有する。これらの病態の患者は、RBC輸血を必要とする事象の前に、既存の薬物刺激された炎症性の白血球を有することができる。既に感作された免疫系で、輸血されたRBC中のHETE、ロイコトリエンおよびトロンボキサンの浸出は、多臓器機能不全(MOD)、SIRSおよびTRALIなどの罹患率のリスクを増加させるだろう。さらに、より高い輸血量は、投与量を比例的に増加させ、影響を過剰にする。したがって、患者は、輸血として、HETE、ロイコトリエンおよびトロンボキサンの浸出の低下を有する、酸素除去保存RBCを提供されることができ、罹患の確率を低減させることができる。
【0050】
本明細書で使用される場合、炎症反応リスクが増加している患者は、炎症因子レベルの増加により悪化する、1つ以上の病態を有する患者である。一態様において、既存の炎症反応を悪化させるリスクが増加している患者は、慢性血管炎症を有する患者である。一態様において、炎症反応を悪化させるリスクが増加している患者は、慢性炎症性腸疾患を有する患者である。また、基礎病態の組み合わせを有する患者が、提供され、かつ含まれる。ある特定の態様において、本開示の方法は、増加したレベルの炎症因子を有する輸血された血液によって悪化する、2つ以上の基礎病態を有する患者により大きな利益を提供する。
【0051】
本開示は、炎症反応リスクの状態にある患者に酸素除去保存血液を輸血後の有害事象の低減を提供し、かつ含む。一態様において、酸素除去保存血液の輸血を受けている患者は、遅発性溶血反応リスクの低下を有する。
【0052】
本開示は、輸血関連急性肺傷害(TRALI)リスクが低減している、炎症反応リスクの状態にある患者に対して酸素除去保存血液を輸血後の有害事象の低減を提供し、かつ含む。TRALIは、呼吸困難(困難な呼吸)および頻呼吸(異常に急速な呼吸)の急激な発症を臨床的に呈する。さらに、患者は、発熱、チアノーゼ、および低血圧を示す可能性もある。患者の臨床検査により、うっ血心不全の徴候とは関係ない、肺性湿性ラ音(患者が呼吸しているときの聴覚性の「パチパチという音」)を明らかにすることができる。胸部X線は、急性呼吸促迫症候群(ARDS)に進行する可能性がある、心不全を伴わない両側性肺水腫、および両側性斑状浸潤の証拠を明らかにすることができる。本方法は、ロイコトリエン、8-イソプロスタン、トロンボキサン、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、炎症因子レベルの低下の少なくとも提示による、リスクの減少を提供する。ある特定の態様において、本方法は、サイトカインレベルの低下または緩和(増加ではない)を含む。論じたように、保存期間の増加は、従来通りに保存された血液と比較した場合に、本開示の方法のさらなる改善を提供する。
【0053】
本開示は、炎症反応リスクの状態にある患者に酸素除去保存血液を提供することによって、輸血後の有害事象の低減を提供し、かつ含む。一態様において、本開示の方法は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の発生率の低減を提供する。一態様において、以下の基準:38℃超または36℃未満の体温、90BPMより速い心拍数、毎分20呼吸より大きい呼吸数、32mmHg未満の動脈二酸化炭素分圧、および異常な白血球(12,000細胞/μL超または4,000細胞/μL以下、のうちの2つが満たされる場合、患者はSIRSを有すると考えられる。Lang et al.,“Killing me softly - suicidal erythrocyte death,”International journal of biochemistry & cell biology44(8):1236-43(2012)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。SIRSは、細菌感染症、インフルエンザ、感染性心内膜炎などの感染因子、ならびに非伝染性の原因、例えば重症火傷、自己免疫障害、出血ショック、血液学的悪性腫瘍および化学暴露などの結果として発症することがあり得る。現在SIRSを患っている患者は、該患者が輸血も受ける場合、血液ユニット内の炎症性生体分子およびサイトカインの存在に起因して悪化した病態を有する可能性がある。本開示は、酸素除去保存血液は、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)およびロイコトリエンB4(例えば、
図2および
図4参照のこと)などの炎症因子レベルを低下させたことを提供され得る、ことを提供する。したがって、酸素除去保存血液の輸血を受けるSIRS患者は、HETEおよびロイコトリエンB4への曝露の低下を有し、循環環境への好中球の活性化および漸増を減少させ、長期の臓器系損傷リスクを潜在的に減少させる。
【0054】
本開示は、多臓器機能不全症候群(MODS)リスクの低減を有する、炎症反応リスクの状態にある患者に対して酸素除去保存血液を輸血後の有害事象の低減を提供し、かつ含む。本明細書で使用される場合、MODSとは、患者が入院となった一次傷害とは関係ない、2つ以上の臓器系に関わる、潜在的に可逆性の生理学的撹乱の発症を意味する。臨床的に、MODSは、6つの主要臓器系から作られた生理学的な測定に基づきスコア化され、高スコアが臓器機能の低レベル化を示す。表2を参照されたい。
【0055】
特定の病因がないにも関わらず、重症、慢性炎症は集中治療室の患者のMODS発症と関連していた。全身性炎症は、細菌感染症、インフルエンザ、感染性心内膜炎などの感染因子、ならびに非伝染性の原因、例えば重症火傷、自己免疫障害、出血ショック、血液学的悪性腫瘍および化学暴露などの結果として発現することがあり得る。SIRSと同様に、全身性炎症に由来するMODSを有する患者は、HETE酸およびロイコトリエンB4への曝露の低下を有することにより、酸素除去保存血液の輸血から利益を得ることができ、循環環境への好中球の活性化および漸増を減少させ、長期の臓器系損傷リスクを潜在的に減少させる。
【0056】
フェントン反応またはハーバー・ワイス反応で説明されるように、酸化ストレスは、酸素および金属触媒の反応から生じる広範囲の疾患状態と関連している。広範な酸化ストレス源の1つは、我々の体内の酸素および金属、一般には鉄、の組み合わせであり、それが、ヒドロキシルラジカルおよびスーパーオキシドの生成後に、一連の酸化生成物が続くことを可能にする。酸化によって引き起こされるストレスおよび損傷に対抗するために、体には一連の制御が備わっている。例えば、システインまたはグルタチオンなどの還元チオールの存在は、酸化化合物を低減するための可逆的手段を提供する。これらのチオールの酸化型を、酸化損傷に対する防御を維持するために、酵素処理で減らす。慢性酸化ストレスの極度のストレスまたは状態の下で、チオールを再生する体の能力は、損なわれるようになる。
【0057】
サラセミアおよび鎌状赤血球症は、それらの赤血球におけるヘモグロビンの不安定性に起因する、酸化損傷に患者が曝露される慢性疾患である。分解ヘモグロビンは、鉄が自由に酸素と反応することを可能にし、言及した反応種を生成する。抗酸化プールの結果として生じる分解は、重要である;例えば、β-サラセミア患者のグルタチオンレベルは、正常対象レベルのわずか35%であることが実証されている。Kalpravidh,et al.,“Glutathione Redox System in β-Thalassemia/Hb E Patients,”The Scientific World Journal 2013,article ID 543973(2013)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。本開示に示すように、長期輸血は、鎌状赤血球症およびサラセミア患者のための一次治療であり、赤血球を冷蔵保存する過程で、酸化ストレスに対する防御は、劣化する。酸化ストレスは、脳卒中、肺低血圧症および下腿潰瘍への関与が示唆されていた脈管障害の主な原因である。
【0058】
本開示の方法は、虚血性心疾患を有する患者に酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。虚血性心疾患は、心筋に血液、酸素、および栄養素を提供する血管の狭窄を特徴とする。疾患が進行するにつれて、心筋は死に始め、心機能の喪失および最終的には心筋梗塞をもたらす。血管形成術およびステント配置、または血管バイパス移植のいずれかによって血流を再確立する外科的処置。いずれの場合においても、損傷部位への血流の復活は、新たな心筋障害をもたらす虚血/再灌流(I/R)障害を引き起こす可能性がある。具体的には、I/R障害は、細胞オートファジーを刺激する可能性がある活性酸素種に対する細胞の曝露を結果的にもたらし得る。Xia,Y.et al.,“Activation of volume-sensitive Cl-channel mediates autophagy-related cell death in myocardial ischaemia/reperfusion injury,”Oncotarget(2016)およびYousefi,B.et al.,“The role of leukotrienes in immunopathogenesis of rheumatoid arthritis,”Modern rheumatology/the Japan Rheumatism Association 24(2):225-235(2014)Xia,Y.et al.,“Activation of volume-sensitive Cl-channel mediates autophagy-related cell death in myocardial ischaemia/reperfusion injury,”Oncotarget(2016)およびYousefi,B.et al.,“The role of leukotrienes in immunopathogenesis of rheumatoid arthritis,”Modern rheumatology/the Japan Rheumatism Association 24(2):225-235(2014)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。理論に制限されるものではないが、従来通りに保存された赤血球は保存中に酸化損傷を受けると考えられ、外科的介入を受ける虚血性心疾患患者に著しい健康上のリスクを課す可能性がある。酸化損傷を有する赤血球の輸血は、I/R障害を悪化させる可能性があり、心臓組織へのさらなる損傷がもたらされる。酸素除去保存血液を提供することは、NADPH貯蔵の増加(例えば、
図5、
図6、および
図7参照のこと)、システインレベルの上昇(例えば、
図13参照のこと)、GSHとGSSG比率の上昇(例えば、
図12参照のこと)により明示されるように、優れた抗酸化性防御を提供する。結果として、これらの赤血球は、既に弱化または悪化した心機能を有する患者に虚血再灌流傷害を誘導するリスクの減少を有する。
【0059】
本開示の方法は、糖尿病を有する患者へ酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。糖尿病患者は、長期にわたる高血糖の結果として、長期間の血管合併症の重症リスクにある。グルコース自動酸化、ポリオール経路活性化、プロスタノイド合成、およびタンパク質糖化の結果として、活性酸素種が生成されることが示され、血管恒常性を維持する細胞内調節経路の調節不全がおこる。Baynes et al.,“Role of oxidative stress in diabetic complications:a new perspective on an old paradigm,”Diabetes.48(1):1-9(1991)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。治療しなければ、高血糖は下肢組織の永久的な損傷および壊死を結果として招き、多くの場合切断を余儀なくさせる。酸化ストレスとフリーラジカルとの関連のため、従来通りに保存された血液内の酸化剤の蓄積は、糖尿病に伴う同時罹患率を悪化させる可能性がある。例えば、NADPH貯蔵の増加(例えば、
図5、
図6、および
図7参照のこと)、システイン(例えば、
図13参照のこと)レベルの上昇、GSHとGSSG比率の上昇によって明示されるように、酸素除去保存血液細胞を提供することは、優れた抗酸化性保護を提供する(例えば、Figure 12、see Yoshida,et al.,”Enhancing Uniformity and Overall Quality of Red Cell Concentrate with Anaerobic Storage,”Blood Transfusion,15(2):172-181 (2017)、および Reisz 2016(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。結果として、これらの赤血球は、糖尿病患者における酸化損傷を導入するまたは悪化させること回避することになり、それによって、輸血後の糖尿病性同時罹患率を悪化させるリスクを減らす。
【0060】
本開示は、輸血を必要とするヒト患者の酸化ストレスを低減するための方法であって、輸血媒介型の酸化ストレスのリスクが増加しており、輸血を必要とするヒト患者への輸血のために、酸素除去保存血液を提供することを含み、該酸素除去保存血液は、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者の酸化ストレスリスクが増加している、方法を提供し、かつ含む。
【0061】
酸素除去保存血液の保存は、より高いシステイン、GSH、NADH、NADPH、およびGSH/GSSG、NADPH/NADP、ならびにNADH/NADのより高い比率を引き起こす(表1を参照されたい)。これらの結果は、酸素除去保存血液が低い酸化/還元可能性を有し、したがって、輸血後により高い抗酸化能を提供することを示す。したがって、本開示の酸素除去保存血液は、酸化損傷に対して優れた防御能力を提供する。長期的に輸血された鎌状赤血球症またはサラセミア患者において、従来通りに保存された血液を酸素除去保存血液と取り替えることは、従来通りに保存された赤血球からの追加的な酸化ストレスを回避し、酸化損傷に対する追加的な防御を提供することだろう。
【0062】
本開示は、さらに炎症因子レベルが低下している患者へ酸素除去保存血液の輸血を提供することによって酸化ストレスを低減するための方法を提供する。
【0063】
本開示の方法は、患者が輸血を必要とする場合、酸化ストレスを低減することから恩恵を受けるリスクにある患者を同定することと、同定した患者に、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することと、を提供し、かつ含む。本明細書で使用される場合、酸素除去保存血液を提供することは、段落[0128]に提供されるように全血、および段落[0129]および[0130]に提供されるように赤血球、を含むが、これらに限定されない。
【0064】
保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、酸化ストレスに対する抵抗性の改善で調整され得る(例えば、表1および実施例を参照されたい)。本開示により提供される場合、ある特定の改善は20%の初期飽和レベルの始まりで明らかである。本明細書で使用される場合、本開示において提供される、選ばれた患者に対する改善および有用性は、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対して(例えば、に比べて)である。重要なことに、これらの差異は、保存期間が増すにつれて、および保存前の初期酸素飽和が減るにつれて、より顕著になる。
【0065】
本開示の一態様において、酸化ストレスのリスクを低減するのに好適な酸素除去保存血液として、1つ以上のメトヘモグロビンの低減、残基H93におけるβヘモグロビン酸化の低減、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)貯蔵の増加、GSHの増加、ATPの増加、DPGの増加、NADPH貯蔵の増加、PIP対PIP3比率の低下、メチレンTHFの増加、グルタミン酸塩の増加、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加、尿酸塩の増加、またはシステインの増加を有する、酸素除去保存血液が挙げられる。
【0066】
本開示の一態様において、段落[0015]および[0081]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを減らした。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。Wither 2016、およびReisz 2016を参照されたい(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液は、さらに、NADPH貯蔵の増加、およびGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0067】
本開示の一態様において、段落[0015]および[0081]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンの低減、残基H93におけるβヘモグロビンの酸化の低減、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸+水素(NADPH)貯蔵の増加、GSHの増加、ATPの増加、DPGの増加、NADPH貯蔵の増加、PIP対PIP3比率の低下、メチレンTHFの増加、グルタミン酸塩の増加、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加、尿酸塩の増加、およびシステインの増加を有する。
【0068】
本開示の一態様において、段落[0015]および[0081]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、10%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを減らした。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸+水素(NADPH)貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液はさらに、NADPH貯蔵の増加、ならびにGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0069】
本開示の一態様において、段落[0015]および[0081]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、5%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを減らした。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ中のCys152ジオキシド化の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸+水素(NADPH)貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液はさらに、NADPH貯蔵の増加、ならびにGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0070】
本開示の一態様において、段落[0015]および[0081]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、3%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを減らした。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ中のCys152ジオキシド化の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液はさらに、NADPH貯蔵の増加、ならびにGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0071】
本開示の方法は、患者が輸血を必要とする場合、酸化ストレスを低減することから恩恵を受けるリスクにある患者を同定することと、同定した患者に、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することと、を提供し、かつ含む。方法はまた、患者が輸血を必要とする場合、酸化ストレスのリスクの状態にある患者に輸血するために、保存期間の間保存される前に、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを提供する。また、酸化ストレスリスクの状態にある患者に、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を輸血することを含む方法もまた含まれる。考察されるように、保存期間が増加するにつれて、酸化損傷リスクが増加している患者への改善および有用性は、従来の方法を用いて保存された血液に対して増加する。したがって、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供する方法は、10%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含む。20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供する方法は、さらに、5%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含む。20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供する方法は、3%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することをさらに含む。
【0072】
本開示によって提供されるように、酸化ストレスリスクが増加している、輸血を必要とする患者には、4ユニット以上の血液を必要とする外傷患者、10ユニット以上の血液を必要とする外傷患者、鎌状赤血球症を有する患者、サラセミアを有する患者、およびそれらの組み合わせが挙げられる。一態様において、本方法は、輸血媒介型の酸化ストレスリスクの増加を有し、輸血を必要とするヒト患者への輸血のために、酸素除去保存血液を提供することを提供し、該酸素除去保存血液は保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者が鎌状赤血球貧血を有する方法である。一態様において、本方法は、輸血媒介型の酸化ストレスリスクが増加しており、輸血を必要とするヒト患者への輸血のために、酸素除去保存血液を提供することを提供し、該酸素除去保存血液は保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者がサラセミアを有する方法である。一態様において、サラセミアはα-サラセミアである。別の態様において、サラセミアはβ-サラセミアである。本開示は、4ユニット以上の血液を必要とする外傷患者への酸化ストレスのリスクを低減する方法をさらに提供する。さらなる態様において、酸化ストレスのリスク低減を必要とする患者は、10ユニット以上の血液を必要とする外傷患者である。
【0073】
また、頻回輸血を必要とする鎌状赤血球およびサラセミア患者において酸化ストレスを減らす方法が、本開示に含まれ、提供される。一態様において、鎌状赤血球患者は、保存前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液のユニット、およびヘモグロビン濃度が5g/dL未満の場合に酸素除去保存血液の追加のユニットが提供される。別の態様において、鎌状赤血球患者は、経頭蓋ドプラ超音波(TCD)によって決定されるように、中大脳動脈のピーク中心線流速が200cm/秒超の場合、酸素除去保存血液の追加のユニットが提供される。さらなる態様において、鎌状ヘモグロビンレベルが30%を超える場合に、血液の追加ユニットが鎌状赤血球患者に提供される。またさらなる態様において、鎌状赤血球患者は酸素除去保存血液の定期的輸血を受け、全ヘモグロビンの30%未満の鎌状ヘモグロビンレベルを維持する。一態様において、酸素ストレスを低減する必要がある鎌状赤血球患者は、約30日毎に輸血を受ける。本明細書において使用される場合、約30日毎とは、25~35日間の間を意味する。
【0074】
本開示は、症状を軽減するために、急性発作を有する鎌状赤血球患者へ酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含み、酸化ストレスの低減を提供する。一態様において、鎌状赤血球患者は血管閉塞性クリーゼを経験している。
【0075】
本開示は、手術を必要とする鎌状赤血球患者へ酸素除去保存血液を提供することを提供し、かつ含む。一態様において、鎌状赤血球患者は、周術期の低酸素症、血流低下、またはアシドーシスを減らすために、1回以上の術前輸血を受ける。一態様において、鎌状赤血球患者は、2回以上の術前輸血を受ける。別の態様において、鎌状赤血球患者は、3回以上の術前輸血を受ける。特定の態様において、鎌状赤血球患者は、4回以上の術前輸血を受ける。
【0076】
手術中の麻酔の影響のため、鎌状赤血球症のある人々は、血流の低下(低灌流)、アシドーシス、および呼吸数の減少に起因する低酸素から生じる、血管閉塞性クリーゼを発症するリスク増加状態にある。これらの合併症を緩和するために、鎌状赤血球症のある人々は、赤血球の術中輸血を受けることができる。しかしながら、従来通りに保存された赤血球は、かなりのレベルの炎症性生体分子およびサイトカインを有し、脈管障害および血管閉塞を促進することが示された。結果として、従来の赤血球の周術期の輸血は、痛みの発作および臓器または組織損傷のリスクの増加をもたらし得る。酸素除去保存血液は、従来通りに保存された血液に対してHETE酸およびロイコトリエンB4(
図2および
図4)レベルを低下させた。酸素除去保存血液輸血は、術中または術後に輸血関連の血管閉塞性の事象を発症するリスクを低減し得る。
【0077】
さらに、鎌状赤血球循環環境に輸血される場合、従来の血液はエリプトーシスによる急激に除去されるリスクがあり、遅発性溶血性輸血反応(DHTR)の重症合併症を引き起こすことが示された。手術からの回復患者にとって、DHTRに伴うヘマトクリット値の急激な低下は、さらに致命的な、重症合併症を起こす可能性がある。酸素除去保存血液は、より安定した膜(
図18)、およびより高い細胞内ATP(
図15および
図8)によりDHTRリスクを減少させた。鎌状赤血球症患者のための術中輸血における酸素除去血液の使用は、DHTR関連合併症のリスクを減少させ、全体的な患者転帰および回復時間を改善する。
【0078】
本開示は、輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者の有害事象リスクを低減するための方法であって、輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者への輸血のために酸素除去保存血液を提供することを含み、酸素除去保存血液は保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者の有害事象リスクが増加している、方法を提供し、かつ含む。一態様において、本開示の方法は、ホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸のより高い比率を有する血液を提供することによって、鎌状赤血球症またはサラセミアを治療するための輸血後に、遅発性溶血性輸血反応の減少を提供する。別の態様において、本開示の方法は、保存後の膜はより生理学的な膜である、赤血球膜の改善を提供する。
【0079】
一態様において、輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者は鎌状赤血球患者である。一態様において、本開示の方法は、ホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸のより高い比率を有する血液を提供することによって、鎌状赤血球症またはサラセミアを治療するための輸血後に、遅発性溶血性輸血反応の減少を提供する。一態様において、本開示は、冷蔵保存の過程でより生理学的な膜を維持する血液を提供することによって、鎌状赤血球症またはサラセミアを治療するための輸血後に、遅発性溶血性輸血反応の減少する方法を提供し、かつ含む。本明細書で使用される場合、より生理学的な膜とは、1つ以上の以下の特徴を有する膜を意味する:
・細胞膜に沿ったCa2+イオンチャネル活性を減少させた膜;
・酸化ストレスによって活性化されるチャネルを介した塩素イオンの喪失によって示されるように膜過分極の予防;
・膜および細胞骨格酸化により活性化されたカルシウムチャンネルを介したカルシウムイオン流入の低減、および
・細胞膜の細胞質表面に沿ってホスファチジルセリンの非対称分布を維持する膜。
【0080】
酸素除去保存血液は、様々な機構を介してより生理学的な膜を提供する。例えば、カルシウムイオンイオンチャネル活性の減少は、高いPIP:PIP3比率により示され、細胞内の低いカルシウムイオンは、フローサイトメーターを使用して、Fura-2(Thermo-Fisher Scientific)などの蛍光プローブによって直接測定されてもよい。Mahmud et al.,“Suicidal erythrocyte death,eryptosis,as a novel mechanism in heart failure-associated anaemia,”Cardiovasc Res 98(1):37-46(2013)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。本開示において提供されるように、酸素除去保存血液は、膜過分極の低下を引き起こす、高いNADPH、NADP、およびGSH比率により明示されるように、低酸化ストレスを提供することができる。酸素除去保存血液は、脱水の低下およびカルシウムイオン流量の低下を提供することにより変形能の保持をさらに提供し、そこでは酸化がカルシウムイオンチャネルの活性化を引き起こす。細胞膜スクランブリングは、JAK3キナーゼの活性化によって促進され、細胞内のエネルギー欠乏(ATP喪失)の結果としてリン酸化される。酸素除去保存血液は、PPPおよびEMP経路の刺激によって明示されるように、高いATP産生を保持する。膜スクランブリングは、蛍光アネキシン-Vによる細胞膜の標識付けおよびフローサイトメトリーまたは顕微鏡による定量化によって測定できるホスファチジルセリン発現により特徴づけられる。上記Yoshida etal.,2008を参照されたい。当該技術分野において既知のウェスタンブロット分析、Luminex技術および他の方法によって、JAK3キナーゼ活性を測定することが可能である。Chang et al.,“Mammalian MAP kinase signaling cascades,”Nature 410(6824):37-40(2001)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0081】
本開示の方法は、鎌状赤血球症またはサラセミアを治療するための輸血後の遅発性溶血性輸血反応を減らすための方法であって、酸素除去保存血液はより少ない前エリプトーシス性の(pre-eryptotic)バイオマーカーを含む、方法を提供し、かつ含む。本明細書で使用される場合、前エリプトーシス性の(pre-eryptotic)バイオマーカーは以下の特徴を示す:
細胞膜に沿ったカルシウムイオンイオンチャネル活性を減少させた膜(高いPIP:PIP3比率によって明示され、蛍光イオン泳動によって直接に測定できる);
酸化ストレスにより活性化したチャネルを介して塩素イオンの喪失により定義される、過分極化されない膜(高いNADPH、NADP、およびGSH比率により明示される、酸素除去保存血液は低い酸化ストレスを有する);
細胞膜の細胞質表面に沿ってホスファチジルセリンの非対称分布を維持する膜;細胞内のカルシウム(カルシウムイオン)イオン濃度を増加させなかった細胞;リン酸化されたJAK3キナーゼレベルを上昇させない細胞;カスパーゼ-3(当該技術分野において既知の方法で測定される)などのカスパーゼを活性化しなかった細胞;およびAMP活性キナーゼ(AMPKα1)およびcGMp依存性プロテインキナーゼI型(cGKI)の活性を維持する細胞(当業者に既知の標準的な方法を使用して測定。
【0082】
赤血球の輸血は、鎌状赤血球症およびサラセミアの人々のための一次治療のうちの1つである。しかしながら、これらの血液病に特有の高い酸化環境は、細胞膜に変化を引き起こす、RBCへのカルシウムイオンの急速な流入を誘導し、形質膜の細胞外小葉に細胞質性バイオマーカーの再分布をもたらす。最終的に、細胞膜のカルシウムに依存する再構成は、エピトーシスによる循環赤血球の迅速なクリアランスをもたらす。Lang et al.,“Triggers,Inhibitors,Mechanisms,and Significance of Eryptosis:The Suicidal Erythrocyte Death,”BioMed Research International, vol.2015,Article ID 513518,16 pages,2015、Lang et al.,“Killing me softly-suicidal erythrocyte death,”Int J Biochem Cell Biol.44(8):1236-43(2012)、Lang et al.,“Oxidative Stress and Suicidal Erythrocyte Death,”Antioxidants Amp Redox Signal.21(1):138-153(2014)、およびGatidis et al.,“Hemin-induced suicidal erythrocyte death,”Ann Hematol.88(8):721-726(2009)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。加えて、赤血球の反復輸血は、輸血後の2~5日間以内の急速で極度の貧血によって特徴づけられる、遅発性溶血性輸血反応を生じている患者に重大なリスクをもたらす。DHTRは、キナーゼシグナル伝達経路を誘発する(JAK3活性化、AMPKα1およびcGKI抑制)細胞内のエネルギー(ATP)の喪失の結果として、提供された細胞のエリプトーシスの誘導のために誘発され得る。Lang et al.,“Killing me softly - suicidal erythrocyte death,”Int J Biochem Cell Biol 44(8):1236-43(2012)Lang et al.,“Killing me softly-suicidal erythrocyte death,”Int J Biochem Cell Biol 44(8):1236-43(2012)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0083】
特定の理論に制限されるものではないが、酸素を除去した血液の保存により、ホスファチジルイノシトール4-リン酸(PIP)の細胞濃度を増加させることが示され、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸(PIP3)の形成を予防する。結果として、赤血球膜に沿ったカルシウムチャンネルは不活性なままであり、それによって、カルシウムのサイトゾルへの流入を予防または減らす。さらに、酸素除去保存血液における酸素の減少はまた、細胞外および細胞質間の細胞膜小葉のバイオマーカーの非対称分布を維持するために、ランズ回路を活性化する。鎌状赤血球症の輸血治療における酸素除去保存血液の使用は赤血球膜の天然構造を保ち、それによって、エリプトーシス促進性(pro-eryptotic)バイオマーカーの細胞外発現を予防し、したがって、輸血されたRBCが鎌状赤血球循環環境で生存することができる。最終的に、これは、臨床医が輸血あたりの治療用量を低減させ、および/または患者が医療介入を必要とする頻度を減少させる能力につながり得る。酸素を除去した赤血球の保存は、保存中に赤血球のより高いエネルギー状態を確立することが示された。酸素の減少、およびその後の保存の間の低酸素の維持は、より高いEMP流量、ペントースリン酸経路を介したATPのより多数の新規合成、およびGAPDH酵素の保存を促進し、それによって、ホメオスタシス代謝調節を維持する。最終的に、鎌状赤血球症およびサラセミアの治療輸血用の酸素除去保存血液の生成および使用は、DHTRの発生を軽減し、より安全でより効果的な治療を可能にする。
【0084】
鎌状赤血球症は、主としてサハラ以南のアフリカ、中東および東南アジア系の人々を苦しめる遺伝子突然変異である。赤血球の輸血は、鎌状赤血球症(SCD)を有する人々における急性および慢性血管閉塞性の両方の症状の一次治療の1つである。しかしながら、レシピエントあたりの治療輸血(一回につき約15~20ユニット)に必要となる、RBCの頻度および総体積のため、治療輸血のレシピエントは、提供された血球に対する同種異系免疫化をしばしば生じ、重症、全身性合併症の治療有効性に減少をもたらす。結果として、輸血を必要とする従来の臨床場面と比較して、SCD輸血を目的とする血液のために、より広範囲な抗原型マッチングが、必要である。結果として、一般に、最も適合するドナーは患者と同じ人種的背景である;残念ながら、極めて高い適合ドナーである同人種集団はまた、高頻度のグルコース-6-リン酸ヒドロゲナーゼ(G6PD)欠乏症を有し、それは、比較的不十分な保存と相関しており、治療に使用され得る前に、血液を廃棄する必要性があった。Cappellini et al.,“Glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency,”Lancet 371(9606):64-74(2008)およびFrancis et al.,“Glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency in transfusion medicine:the unknown risks,”Vox Sang105(4):271-82(2013)、およびTzounakas,et al.,“Glucose 6-phosphate dehydrogenase deficient subjects may be better ‘storers’ than donors of red blood cells,”Free Radic Biol Med,96:152-165(2016)を参照されたい。
【0085】
(それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)。残念ながら、ドナー適格性スクリーニングの一部としてG6PD活性を試験するための確立されたプロトコールはない。
【0086】
G6PD活性は、天然の抗酸化性経路(すなわちグルタチオン介在性の過酸化水素の還元)に燃料を供給するNADPHなどのエネルギー性分子を維持するために重要であり、赤血球におけるヘモグロビン分子の生理活性を維持するために重要である;この酵素における活性の喪失または減少は、保存中に早発性溶血をもたらし、輸血後に細胞の乏しい保持率をもたらす。しかしながら、酸素除去保存血液は、NADPHの細胞内貯蔵、ならびに還元型グルタチオン(GSH)濃度の増加を結果的に引き起こす。さらにまた、酸素除去保存血液は、メチレンテトラヒドロ葉酸を増加させ、それによって全体的なNADPH産生を促進できる。血液の低酸素保存は、より良好な生存性を可能にし、それゆえにG6PD欠損ドナーからの血液の有用性を可能にする。これは、血液供給がより制限される農村地帯において、治療輸血を受けている鎌状赤血球症の人々に利用可能な血液供給を増やすだろう。
【0087】
本開示の一態様において、ヘモグロビン異常症のリスクを低減するのに好適な酸素除去保存血液として、メトヘモグロビンの低減、残基H93におけるβヘモグロビン酸化の低減、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)貯蔵の増加、GSHの増加、ATPの増加、DPGの増加、NADPH貯蔵の増加、PIP対PIP3比率の低下、メチレンTHFの増加、グルタミン酸塩の増加、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加、尿酸塩の増加、およびシステインの増加を有する、酸素除去保存血液が挙げられる。
【0088】
αまたはβ重症型サラセミアの患者は、機能性ヘモグロビン分子を産生することができないので、結果的に重症貧血をもたらし赤血球(RBC)輸血を必要とせざるを得ない。定期的な(すなわち、長期的な)輸血を必要とする結果、サラセミアのある人々は、治療輸血後のヘマトクリット値の急激な減少を特徴とする、遅発性溶血性輸血反応(DHTR)を患う可能性がある。理論によって制限されるものではないが、DHTRは、突然のエリプトーシスに対する反応として誘導されることがあり、マクロファージおよび単球によって循環されている赤血球の急激な除去をもたらす。
【0089】
理論に制限されるものではないが、エリプトーシスの主な誘因の1つは、従来の赤血球保存の結果として既知の、必然的に生じた酸化損傷である。Bhavsar et al.,“Janus Kinase 3 is Expressed in Erythrocytes,Phosphorylated Upon Energy Depletion and Involved in the Regulation of Suicidal Erythrocyte Death,”Cellular Physiology and Biochemistry 27(5):547-556(2011)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。酸素除去保存血液は、NADPH貯蔵の増加(例えば、
図5、
図6、および
図7参照のこと)、システインレベルの上昇(例えば、
図13参照)、GSHとGSSG比率の上昇(例えば、
図12参照のこと)により明示されるように、優れた抗酸化性防御を有する。
【0090】
さらにまた、赤血球がATPの十分なレベルをもはや有しない場合、エリプトーシスも促進され、それも従来の保存中に生じる。Gurer et al.,“Arachidonic acid metabolites and colchicine in Behcet’s disease (BD)”Prostaglandins,leukotrienes,and essential fatty acids 43(4):257-9(1999)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。しかしながら、酸素を除去した血液は、全体的なATPレベルを改善し(例えば、
図16参照のこと)、ペントースリン酸経路を介した持続的解糖による代謝活性を改善した(例えば、
図15参照のこと)。
【0091】
α-またはβ-サラセミアの人々の慢性治療用の輸血のために嫌気性血液製剤の使用は、酸化損傷の防御の増加に起因するDHTR発症リスクの低減、および細胞内のエネルギー(ATP)の優れた保存、ならびに輸血が必要とされる頻度を減少させるさらなる潜在的な利点、を有する。
【0092】
本開示の一態様において、段落[0017]、[0093]、[0099]および[00106]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを減少させた。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液は、さらに、NADPH貯蔵の増加、およびGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0093】
本開示の一態様において、段落[0017]、[0093]、[0099]および[00106]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンの低減、残基H93におけるβヘモグロビンの酸化の低減、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)貯蔵の増加、GSHの増加、ATPの増加、DPGの増加、NADPH貯蔵の増加、PIP対PIP3比率の低下、メチレンTHFの増加、グルタミン酸塩の増加、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加、尿酸塩の増加、およびシステインの増加を有する。
【0094】
本開示の一態様において、段落[0017]、[0093]、[0099]および[00106]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、10%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを低減させた。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液はさらに、NADPH貯蔵の増加、ならびにGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0095】
本開示の一態様において、段落[0017]、[0093]、[0099]および[00106]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、5%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを低減させた。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ中のCys152ジオキシド化の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液はさらに、NADPH貯蔵の増加、ならびにGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0096】
本開示の一態様において、段落[0017]、[0093]、[0099]および[00106]で特定されるように、少なくとも2日間保存された、3%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液は、メトヘモグロビンを低減させた。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ中のCys152ジオキシド化の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、残基H93のβヘモグロビンの酸化の低減を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の貯蔵の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSHの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、ATPおよびDPGの増加を有する酸素除去保存血液である。さらなる態様において、本開示の酸素除去保存血液はさらに、NADPH貯蔵の増加、ならびにGSH、ATP、およびDPGの増加を含む。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、PIP対PIP3比率の低下を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、メチレンTHFの増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、グルタミン酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)比率(GSH/GSSG比)の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、尿酸塩の増加を有する酸素除去保存血液である。一態様において、本開示の酸素除去保存血液は、システインの増加を有する酸素除去保存血液である。
【0097】
虚血再灌流障害は、血液供給が中断され、次いで再確立されるときに起こり、死亡率および罹患率の重大な原因である。血液供給、例えば心臓外科、腎臓移植、肝臓摘出または結腸切除の中断に関わる手術は全て、患者を虚血再灌流障害の危険にさらす。バイパスまたはP手術中の輸血に血液を提供するために方法の改善が望ましい。ここでは、従来通りに保存された血液に見られるより低レベルの炎症因子を有する酸素除去保存血液を提供することによって、患者へのリスクおよび損傷を減らす方法を提供する。したがって、ATPの改善、2,3-DPG、および変形能の改善に加えて、本明細書の酸素除去保存血液は、再灌流中の損傷、または組織への損傷のリスクを低下させる予想外の利点を提供する。
【0098】
理論によって制限されるものではないが、虚血変化の間、細胞代謝において、再開された血流による突然の酸素回復に反応して大量に生成される活性酸素種によって、イオン濃度および膜構成は細胞を損傷の影響を受けやすくさせると考えられる。Pell et al.,“Moving Forwards by Blocking Back-Flow:The Yin and Yang of MI Therapy,”Circ Res118(5):898-906(2016)およびHausenloy et al.,“Myocardial ischemia-reperfusion injury:a neglected therapeutic target,”J Clin Invest123(1):92-100(2013)(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。最終的に、酸化損傷は、酸素化血液流量の再確立の直接の結果として、細胞死および臓器の機能不全を引き起こす。酸化損傷に加えて、再灌流は、他の影響の中でも特に、凝固性亢進およびさらなる細胞障害を引き起こし得る炎症反応を誘導することがさらに考えられる。
【0099】
虚血/再灌流傷害を経験している患者は、以下の臨床症状およびそれらの組み合わせを示すことがある。
・手術中の止血剤の解除など一旦閉塞が取り除かれると、血管中の血流(「再流なし」と呼ばれる)が不足;
・心筋が正常心拍出量を事実上縮小して回復させる一過性の不能である、気絶心筋(心臓外科患者において);
・心筋への血流の回復の後、頻脈、心室細動または頻拍性心室調律の発症(心臓外科患者において);および
・腸運動性の障害、養分吸収、腸透過性の増加、ならびに門脈循環および体循環の細菌感染症(胃腸手術患者について);
・虚血再灌流傷害の一般的な結果は、多臓器機能不全症候群(MODS)および他の遠隔性臓器障害の発症である;最も一般的な系統は、呼吸不全をもたらす肺系統であり、肝臓、腎臓、GI、心筋、およびCNSの機能不全が続く。
【0100】
従来通りに保存された血液は、わずか2日間後にさえ、酸素除去保存血液と比較してトロンボキサンB2レベルの増加を有する(例えば、
図3を参照されたい)。7日目から、高レベルの酸素を有する血液は、ロイコトリエンB4レベルの増加を発現し始める(例えば、
図2を参照のこと)。ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)の細胞外レベルは、酸素除去保存血液よりも早く保存血液中で上昇し始め、より高い確率でより高いレベルまで増加する。細胞のHETEレベルは、酸素除去保存血液のHETEレベルに対して、早ければ2日目にも増加する。さらなる保存中、細胞のHETEレベルは、酸素除去保存血液に対して、より高いままであり、かつ増加する。米国仮特許出願第62/163,269号にて示すように、酸素除去保存血液は、BRM、RANTES、エオタキシン1、無細胞ヘモグロビン、およびイソプロスタンのレベルを低下させた。酸素除去保存血液は、従来通りに保存された血液と比較すると、一般的に炎症因子レベルを低下させた。したがって、炎症促進性化合物を含有する従来通りに保存された血液は、死亡率および有害事象の重大なリスクとなる可能性がある。
【0101】
血液保存の早期段階における炎症促進性化合物レベルの変化に加えて、酸素除去保存血液と比較すると、従来通りに保存された赤血球は、酸化損傷に対する防御能力を次第に喪失する。以前の、保存中に血中の評価されない変化を考慮すると、虚血事象後の再灌流の間、従来通りに保存された血液の輸血は、システイン、GSH、NADH、NADPHレベルの低下に起因する酸化ストレスの一因となり得る。対照的に、酸素除去保存血液はシステイン、GSH、NADH、NADPHのより高いレベルを維持し、酸素除去保存血液は酸化損傷からの保護に役立つことが期待される。
【0102】
本開示の一態様において、輸血を必要とするヒト患者は、大量輸血、反復輸血、または長期輸血を必要とする患者である。
【0103】
本開示の一態様において、輸血を必要とするヒト患者は、5g/dL未満のヘモグロビン濃度を有する鎌状赤血球症を有する。別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、鎌状赤血球症を有し、経頭蓋ドプラ超音波(TCD)によって決定されるように、中大脳動脈のピーク中心線流速が200cm/秒を超える。別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、鎌状赤血球症を有し、鎌状ヘモグロビンレベルを体内の全ヘモグロビンの30%未満まで減らすために輸血を受ける。別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、鎌状赤血球症を有し、急性胸部症候群を経験している。別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、鎌状赤血球症を有し、血管閉塞性発作を経験している。さらなる態様において、輸血を必要とするヒト患者は鎌状赤血球症を有し手術の必要があり、該患者は、周術期の低酸素症、血流低下、およびアシドーシスを減らすために1回以上の術前輸血を受ける。
【0104】
本開示の一態様において、輸血を必要とするヒト患者は、5g/dL未満のヘモグロビン濃度を有するサラセミアを有する。
【0105】
別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、手術患者である。別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を有する。別の態様において、輸血を必要とするヒト患者は、慢性血管炎症を有する。さらなる態様において、輸血を必要とするヒト患者は糖尿病を有する。さらなる態様において、輸血を必要とし、慢性血管炎症を有するヒト患者は糖尿病を有する。
【0106】
本開示の一態様において、輸血を必要とするヒト患者は、炎症、血管内皮炎、内皮細胞壁への癒着、凝固性亢進、血管収縮、補体系活性化、灌流障害、感染または免疫調節を有する。
【0107】
本明細書で使用される場合、「血液」という用語は、全血、白血球除去RBC、血小板除去RBC、ならびに白血球および血小板除去RBCを指す。血液という用語はさらに、濃厚赤血球、血小板除去濃厚赤血球、白血球除去濃厚赤血球、ならびに白血球および血小板除去濃厚赤血球を含む。血液の温度は、採取プロセスの段階に応じて異なり得るが、採取時点では37℃の正常な体温から開始し、血液が患者の体を離れるとすぐに約30℃まで急速に低下するが、さらにその後、未処置の場合、約6時間で室温まで低下し、最終的には約4℃~6℃で冷蔵される。
【0108】
本明細書で使用される場合、「血液製剤」は、分離された血小板、血漿、または白血球を含む。
【0109】
本明細書で使用される場合、「全血」は、白血球(WBC)、血漿中に懸濁された血小板を含み、電解質、ホルモン、ビタミン、抗体などを含む。全血中には、白血球が、通常、4.5~11.0×109細胞/Lの範囲で存在し、海面位での正常なRBCは、男性で4.6~6.2×1012/L、女性で4.2~5.4×1012/Lである。正常なヘマトクリット値、または血中血球容積は、男性で約40~54%、女性で約38~47%である。血小板数は、通常、男性および女性とも150~450×109/Lである。全血は、献血者から採取され、通常、抗凝固剤と組み合わされる。採取された全血は、最初は約37℃であり、採取中および採取の直後には約30℃まで急速に冷却するが、約6時間かけて周囲温度まで徐々に冷却する。全血は、30~37℃から開始して、または室温(典型的には約25℃)で、採取時に本開示の方法に従って処理され得る。
【0110】
本明細書で使用される場合、「赤血球」(RBC)、保存赤血球、酸素除去保存赤血球、ならびに酸素および二酸化炭素除去保存赤血球は、全血中に存在するRBC、白血球除去RBC、血小板除去RBC、白血球および血小板除去RBC、ならびに濃厚赤血球(pRBC)を含む。体内にあるヒト赤血球は動的状態にある。赤血球は、体中に酸素を運び、赤い血液にその色を与える鉄含有タンパク質であるヘモグロビンを含有する。赤血球で構成される血液の体積の割合は、ヘマトクリット値と称される。本明細書で使用される場合、別途限定されない限り、RBCは濃厚赤血球(pRBC)も含む。濃厚赤血球は、当該技術分野で一般的に知られる遠心分離技術を使用して全血から調製される。本明細書で使用される場合、別途指示されない限り、pRBCのヘマトクリット値は約70%である。本明細書で使用される場合、酸素除去保存RBCは、酸素および二酸化炭素を除去した保存RBCを含んでもよい。
【0111】
本明細書で使用される場合、「保存血液」は、1~6℃で保存された、酸素除去赤血球または酸素および二酸化炭素除去血液を含む。一態様において、保存血液は、保存赤血球を含む。本明細書で使用される場合、「保存赤血球」は、1~6℃で保存された、酸素除去赤血球または酸素および二酸化炭素除去赤血球を含む。一態様において、保存赤血球は、全血中に存在する赤血球(RBC)を含む。別の態様において、保存赤血球は、白血球除去全血中に存在するRBCを含む。別の態様において、保存赤血球は、白血球除去RBC中に存在する赤血球(RBC)を含む。さらなる態様において、保存赤血球は、血小板除去RBC中に存在する赤血球(RBC)を含む。さらに別の態様において、保存赤血球は、白血球除去RBCおよび血小板除去RBC中に存在する赤血球(RBC)を含む。
【0112】
本開示の一態様において、酸素除去保存赤血球は、少なくとも2日間保存され得る。別の態様において、酸素除去保存赤血球は、少なくとも7日間保存され得る。別の態様において、酸素除去保存赤血球は、少なくとも14日間保存され得る。別の態様において、酸素除去保存赤血球は、少なくとも21日間保存され得る。別の態様において、酸素除去保存赤血球は、少なくとも28日間保存され得る。別の態様において、酸素除去保存赤血球は、最長42日間保存され得る。
【0113】
本明細書で使用される場合、血液の「ユニット」は、抗凝固剤を含めて約450~500mlである。適切な抗凝固剤として、CPD、CPDA1、ACD、およびACD-Aが挙げられる。
【0114】
この方法における使用に適した血液は、抗凝固剤を有する酸素除去保存血液を含む。本開示の一態様において、酸素除去赤血球は、酸素除去保存血液を産生するために最長6週間保存される。別の態様において、通常酸素除去保存血液は、さらに、添加液を含む。本開示による適切な添加液は、AS-1、AS-3(Nutricel(登録商標))、AS-5、SAGM、PAGG-SM、PAGG-GM、MAP、AS-7、ESOL-5、EAS61、OFAS1、OFAS3、およびそれらの組み合わせを含む。一態様において、添加液は、成分分離の時点で加えられる。一態様において、添加液はAS-1である。別の態様において、添加液はAS-3である。他の態様において、添加液はSAGMである。
【0115】
本開示の一態様において、酸素除去保存血液ならびに酸素および二酸化炭素が除去された保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有する。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有する。別の態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有する。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有する。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有する。
【0116】
本開示の一態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも2日間保存される。一態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも4日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも7日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも14日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも21日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも28日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも35日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、40%以下の初期酸素飽和を有し、42日間保存される。
【0117】
本開示の一態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも2日間保存される。一態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも4日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも7日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも14日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも21日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも28日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも35日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、42日間保存される。
【0118】
本開示の一態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも2日間保存される。一態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも4日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも7日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも14日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも21日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも28日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、10%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも35日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、42日間保存される。
【0119】
本開示の一態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも2日間保存される。一態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも4日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも7日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも14日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも21日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも28日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも35日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、5%以下の初期酸素飽和を有し、42日間保存される。
【0120】
本開示の一態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも2日間保存される。一態様において、酸素除去保存血液は、20%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも4日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも7日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも14日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも21日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも28日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも35日間保存される。別の態様において、酸素除去保存血液は、3%以下の初期酸素飽和を有し、少なくとも42日間保存される。
【0121】
本開示は、輸血を必要とするヒト患者のエネルギー代謝を改善するための方法であって、輸血媒介型の酸化ストレスのリスクの増加を有し輸血を必要とするヒト患者への輸血のために、酸素除去保存血液を提供することを含み、該酸素除去保存血液は、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者の酸化ストレスリスクが増加している、方法を提供し、かつ含む。
【0122】
本開示の一態様において、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、輸血を必要とする患者に与えられる酸素除去保存血液は、輸血すべきユニット総数を減少させた。一態様において、輸血するべき全ユニット数は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、および少なくとも10減らされる。別の態様において、輸血するべき全ユニット数は、1~2、2~4、4~6減らされる。6~8、および8~10。
【0123】
本開示は、輸血を必要とする患者における炎症反応リスクを含むが、それに限定されない有害輸血事象のリスクを低減する方法であって、同一保存期間の間保存された酸素除去保存血液と比較した場合に、少なくとも1つの炎症因子レベルが低下した酸素除去保存血液を提供することを含み、該患者の炎症反応リスクが増加している方法、を提供し、かつ含む。
【0124】
本開示は、酸素制御RBCの浸透性および力学的な抵抗の改善のため、非常に重篤な患者の敗血症性合併症のリスクを減少させる方法の方法を提供し、かつ含み、そのことが生体内輸血後の溶血の可能性を減少させ、続いて、敗血症性レシピエントの負担となる、鉄過剰負荷および非トランスフェリン結合鉄(NTBI)に関して利益を提供する。
【0125】
本明細書で使用される場合、「より高い」または「増加した」という用語は、酸素除去または嫌気性保存血液の測定値が、別の方法で同等に処理された正常酸素または高酸素で従来通りに保存された血液の測定値と比較した場合に、各比較測定条件につき少なくとも5つの試料サイズで、少なくとも1標準偏差高いことを意味する。
【0126】
本明細書で使用される場合、「減少した」または「より少ない」という用語は、酸素除去または嫌気性保存血液の測定値が、別の方法で同等に処理された正常酸素または高酸素で従来通りに保存された血液RBCの測定値と比較した場合に、各比較測定条件につき少なくとも5つの試料サイズで、少なくとも1標準偏差低いことを意味する。
【0127】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、±10%を指す。
【0128】
本明細書で使用される場合、「未満」という用語は、より小さい量およびゼロを超える量を指す。
【0129】
「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」、「有する(having)」という用語、およびそれらの活用形は、「限定されないが~を含む」を意味する。
【0130】
「~からなる」という用語は、「~を含み、それに限定される」を意味する。
【0131】
「~から本質的になる」という用語は、追加の成分、ステップ、および/または部分が、特許請求される組成物、方法、または構造の基本的なおよび新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない場合に限り、組成物、方法、または構造が、それらの追加の成分、ステップ、および/または部分を含む得ることを意味する。
【0132】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別途指示されない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1つの化合物(at least one compound)」という用語は、それらの混合物を含む複数の化合物を含んでもよい。
【0133】
本出願を通して、本開示の種々の態様が範囲形式で提示されてもよい。範囲形式の記載は、便宜上および簡潔さのためであるに過ぎず、本開示の範囲に対する確固たる制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、全ての考えられる部分的な範囲、およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したとみなされるべきである。例えば、「1~6」などの範囲の記載は、「1~3」、「1~4」、「1~5」、「2~4」、「2~6」、「3~6」などの部分的な範囲だけではなく、その範囲内の個々の数字、例えば、1、2、3、4、5、および6も具体的に開示されたとみなされるべきである。これは、範囲の広さに関係なく適用される。
【0134】
本明細書に数値範囲が示される場合はいつでも、示される範囲内に挙げられたいかなる数値(分数または整数)も含むことを意味する。第1の指示数と第2の指示数「に及ぶ/との間の範囲」という句と、第1の指示数「から」第2の指示数「に及ぶ/までの範囲」という句は、本明細書において同義に使用され、第1および第2の指示数と、それらの間の全ての小数および整数を含むことを意味する。
【0135】
本明細書で使用される場合、「方法」という用語は、段落[0048]~[0051]、[0086]~[0091]、および[0111]~[0115]に記載の通り、少なくとも2日間保存された、20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を有する輸血を必要とするヒト患者に提供することを含むがこれらに限定されない、所与の課題を達成するための様式、手段、手法、および手順を意味する。
【0136】
本明細書で使用される場合、「均等」という用語は、20、10、5、および<3%のSO2を有する酸素除去保存血液の測定値を、別の方法で同等に処理された正常酸素または高酸素で従来通りに保存された血液の測定値と比較した場合に、各比較測定条件につき少なくとも4つの試料サイズで、互いの1標準偏差以内であることを意味する。
【0137】
一態様において、本開示は、以下の実施形態を提供する。
実施形態1:輸血を必要とするヒト患者における炎症反応リスクを低減させる方法であって、
炎症反応リスクが増加している、輸血を必要とするヒト患者への輸血のために酸素除去保存血液を提供することを含み、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液と比較して、該酸素除去保存血液が、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該酸素除去保存血液が、少なくとも1つの炎症因子レベルが低下している、方法。
【0138】
実施形態2:輸血を必要とする該ヒト患者は、組織灌流バイパスを必要とする手術患者、慢性血管炎症を有する患者、慢性炎症性腸疾患を有する患者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者、鎌状赤血球症を有する患者、サラセミアを有する患者、臓器不全を有する患者、全身性炎症反応症候群(SIRS)を有する患者、真性糖尿病を有する患者、ベーチェット病を有する患者、リウマチ性関節炎を有する患者、煙吸入を有する患者、およびそれらの組み合わせを有する患者からなる群から選択される、実施形態1に記載の方法。
【0139】
実施形態3:輸血を必要とする該ヒト患者は、遅発性溶血性輸血反応、虚血再灌流由来の損傷、過剰凝固、輸血関連急性肺損傷(TRALI)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、多臓器機能不全症候群(MODS)またはそれらの組み合わせのリスクが低下している、実施形態2に記載の方法。
【0140】
実施形態4:該炎症反応は、慢性血管炎症、慢性炎症性腸疾患およびそれらの組み合わせからなる群から選択される炎症反応を悪化させている、実施形態2に記載の方法。
【0141】
実施形態5:該少なくとも1つの炎症因子は、以下からなる群から選択される、実施形態1に記載の方法。
ロイコトリエン、
8-イソプロスタン、
トロンボキサン、
ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、および
それらの組み合わせ。
【0142】
実施形態6:RANTES、エオタキシン1、または可溶性CD40リガンド(SCD40L)から選択される炎症性サイトカインをさらに含む、実施形態5に記載の方法。
【0143】
実施形態7:該保存期間が、少なくとも2日間、7日間、14日間、21日間、28日間またはそれ以上である、実施形態1に記載の方法。
【0144】
実施形態8:輸血を必要とする該ヒト患者は、頻回輸血を必要とする患者である、実施形態1に記載の方法。
【0145】
実施形態9:該保存期間が2日間であり、酸素除去保存血液が以下を含む、実施形態5に記載の方法。
該初期酸素飽和が5%以下の場合、低下したレベルのトロンボキサンB2、
増加したレベルのグルタチオン(GSH)、
低下した割合のメトヘモグロビン、
増加したレベルのATP、および
増加したレベルの2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである。
【0146】
実施形態10:該保存期間が少なくとも7日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加した比率のホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸をさらに含み、
該酸素除去保存血液における該比率の増加は、同一保存期間に保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態9の方法。
【0147】
実施形態11:該保存期間が少なくとも14日間であり、該酸素除去保存血液が、
低下したレベルのロイコトリエンB4、
該初期酸素飽和が10%以下の場合、低下したレベルのヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、
増加したレベルのメチレンテトラヒドロ葉酸、および
増加したレベルのグルタミン酸塩をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態10の方法。
【0148】
実施形態12:該保存期間が少なくとも21日間であり、該酸素除去保存血液が、
該酸素飽和が5%~10%の場合、より高い比率の、GSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)(GSH/GSSG比)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド+水素(NADH)、および
該初期酸素飽和が約5%である場合、低下したレベルのジオキシド化レベルの、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)中のCys152をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態11の方法。
【0149】
実施形態13:該保存期間が少なくとも28日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加したレベルのNADPH
増加した比のNADPH/NADP+、および
増加したレベルのシステインをさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態12の方法。
【0150】
実施形態14:該酸素除去保存血液の少なくとも1ユニットを輸血することをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
【0151】
実施形態15:該初期酸素飽和が、10%以下、5%以下、または3%以下である、実施形態1に記載の方法。
【0152】
実施形態16:輸血を必要とするヒト患者の酸化ストレスを低減する方法であって、
輸血媒介型の酸化ストレスリスクが増加している輸血を必要とするヒト患者への輸血のために酸素除去保存血液を提供することを含み、該酸素除去保存血液は保存期間の間に保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者の酸化ストレスリスクが増加している、方法。
【0153】
実施形態17:酸化ストレスリスクが増加している、輸血を必要とする該ヒト患者は、4ユニット以上の血液を必要とする外傷患者、10ユニット以上の血液を必要とする外傷患者、鎌状赤血球症を有する患者、サラセミアを有する患者、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態16に記載の方法。
【0154】
実施形態18:酸化ストレスの該低下は、酸化化合物の減少、酸化保護化合物レベルの増加、およびそれらの組み合わせである、実施形態16に記載の方法。
【0155】
実施形態19:該保存期間が2日間であり、酸素除去保存血液が以下を含む、実施形態16に記載の方法。
該初期酸素飽和が5%以下の場合、低下したレベルのトロンボキサンB2、
増加した貯蔵のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、
増加した貯蔵の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、
増加したレベルのグルタチオン(GSH)、
低下した割合のメトヘモグロビン、
増加したレベルのATP、および
増加したレベルの2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである。
【0156】
実施形態20:該保存期間が少なくとも7日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加した比率のホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸とをさらに含み、
該酸素除去保存血液における該増加が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態17の方法。
【0157】
実施形態21:該保存期間が少なくとも14日間であり、該酸素除去保存血液が、
低下したレベルのロイコトリエンB4、
該初期酸素飽和が10%以下の場合、低下したレベルのヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、
増加したレベルのメチレンテトラヒドロ葉酸、および
増加したレベルのグルタミン酸塩をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態20の方法。
【0158】
実施形態22:該保存期間が少なくとも21日間であり、該酸素除去保存血液が、
該初期酸素飽和が5%~10%の場合、より高い比率のGSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)(GSH/GSSG比)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド+水素(NADH)、および
該初期酸素飽和が約5%である場合、低下したジオキシド化レベルの、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)中のCys152をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態21に記載の方法。
【0159】
実施形態23:該保存期間が少なくとも28日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加したレベルのNADPH
増加した比率のNADPH/NADP+、
増加したレベルのシステイン、および
増加したレベルの尿酸塩をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態22の方法。
【0160】
実施形態24:該保存期間が少なくとも42日間であり、該酸素除去保存血液が、残基H93にβヘモグロビンの酸化レベルの低下をさらに含み、該酸素除去保存血液中の該低下が、同一保存期間の間保存された酸素除去保存血液に対してである、実施形態23に記載の方法。
【0161】
実施形態25:該酸素除去保存血液の少なくとも1ユニットを輸血することをさらに含む、実施形態16に記載の方法。
【0162】
実施形態26:該初期酸素飽和が、10%以下、5%以下、または3%以下である、実施形態16に記載の方法。
【0163】
実施形態27:輸血を必要とする該ヒト患者は、大量輸血または長期輸血を必要とする患者である、実施形態16に記載の方法。
【0164】
実施形態28:該保存期間が、少なくとも14日間、21日間、28日間またはそれ以上である、実施形態17に記載の方法。
【0165】
実施形態29:輸血を必要とする該ヒト患者は、5g/dL未満のヘモグロビン濃度を有する鎌状赤血球症、7g/dL未満のヘモグロビン濃度を有するサラセミアを有する、実施形態17に記載の方法。
【0166】
実施形態30:該ヒト患者は鎌状赤血球症を有し、経頭蓋ドプラ超音波(TCD)によって決定されるように、中大脳動脈のピーク中心線流速が200cm/秒を超える、実施形態29に記載の方法。
【0167】
実施形態31:該ヒト患者は鎌状赤血球症を有し、鎌状ヘモグロビンレベルを体内の全ヘモグロビンの30%未満まで減らすために輸血を受ける、実施形態29に記載の方法。
【0168】
実施形態32:該ヒト患者は鎌状赤血球症を有し、約30日毎に輸血を受ける、実施形態29に記載の方法。
【0169】
実施形態33:該ヒト患者は鎌状赤血球症を有し、急性胸部症候群を経験している、実施形態29に記載の方法。
【0170】
実施形態34:該ヒト患者は鎌状赤血球症を有し、血管閉塞性発作を経験している、実施形態29に記載の方法。
【0171】
該ヒト患者は鎌状赤血球症を有し手術の必要があり、該患者は、周術期の低酸素症、血流低下、またはアシドーシスを減らすために1回以上の術前輸血を受ける、実施形態35に記載の方法。
【0172】
実施形態36:輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者の有害事象リスクを低減させる方法であって、
輸血を必要とするヘモグロビン異常症患者への輸血に酸素除去保存血液を提供することを含み、該酸素除去保存血液は保存期間の間に保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有し、該患者の有害事象リスクが増加している、方法。
【0173】
実施形態37:輸血を必要とする該ヘモグロビン異常症ヒト患者は、鎌状赤血球患者である、実施形態36に記載の方法。
【0174】
実施形態38:実施形態1:該有害事象は、エリプトーシス、遅発性溶血性輸血反応、赤血球非対称性の欠損、重症貧血、血管閉塞性発作頻度の低下、周術期低酸素症の低下、周術期の低灌流の低下、周術期アシドーシスの低下、網状赤血球減少症、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態36に記載の方法。
【0175】
実施形態39:輸血を必要とする該ヘモグロビン異常症ヒト患者は、5g/dL未満のヘモグロビン濃度を有する鎌状赤血球患者である、実施形態37に記載の方法。
【0176】
実施形態40:該ヘモグロビン異常症患者は鎌状赤血球症を有し、経頭蓋ドプラ超音波(TCD)によって決定されるように、中大脳動脈のピーク中心線流速が200cm/秒を超える、実施形態37に記載の方法。
【0177】
実施形態41:該鎌状赤血球患者は、総ヘモグロビン濃度の30%未満に鎌状ヘモグロビン濃度を下げるために1回以上の輸血に酸素除去保存血液がさらに提供される、実施形態38に記載の方法。
【0178】
実施形態42:該鎌状赤血球患者は、急性胸部症候群を経験している、実施形態37に記載の方法。
【0179】
実施形態43:該鎌状赤血球患者は、血管閉塞性発作を経験している、実施形態37に記載の方法。
【0180】
実施形態44:輸血ために該提供される酸素除去保存血液は、長期輸血療法を提供することを含み、またはヘモグロビン濃度が5g/dL未満に低下する場合、該輸血は3週間毎に提供される、実施形態38に記載の方法。
【0181】
実施形態45:輸血を必要とする該ヘモグロビン異常症患者は、輸血を必要とするサラセミア患者である、実施形態36に記載の方法。
【0182】
実施形態46:輸血を必要とする該サラセミア患者は、7g/dL未満のヘモグロビン濃度を有するサラセミア患者である、実施形態45に記載の方法。
【0183】
実施形態47:輸血ために該提供される酸素除去保存血液は、長期輸血療法を提供することを含み、またはヘモグロビン濃度が7g/dL未満に低下する場合、該輸血は2週間毎に提供される、実施形態45に記載の方法。
【0184】
実施形態48:該鎌状赤血球患者は手術の必要があり、該患者は、周術期の低酸素症、血流低下、またはアシドーシスを減らすために1回以上の術前輸血を受ける、実施形態37に記載の方法。
【0185】
実施形態49:該有害事象は遅発性溶血性輸血反応であり、輸血を必要とする該ヘモグロビン異常症患者が鎌状赤血球患者である、実施形態36に記載の方法。
【0186】
実施形態50:該有害事象が網状赤血球減少症である、実施形態36に記載の方法。
【0187】
実施形態51:該有害事象が、輸血のための酸素除去保存血液の該提供の1~10日後に生じる、実施形態36に記載の方法。
【0188】
実施形態52:該有害事象が重症貧血である、実施形態50に記載の方法。
【0189】
実施形態53:該保存期間が2日間であり、酸素除去保存血液は、
該初期酸素飽和が5%以下の場合、低下したレベルのトロンボキサンB2、
増加した貯蔵のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、
増加した貯蔵の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、
増加したレベルのグルタチオン(GSH)、
低下した割合のメトヘモグロビン、
増加したレベルのATP、および
増加したレベルの2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)、を含み
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態36に記載の方法。
【0190】
実施形態54:該保存期間が少なくとも7日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加した比率のホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸とをさらに含み、
該酸素除去保存血液における該増加が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態48に記載の方法。
【0191】
実施形態55:該保存期間が少なくとも14日間であり、該酸素除去保存血液が、
低下したレベルのロイコトリエンB4、
該初期酸素飽和が10%以下の場合、低下したレベルのヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、
増加したレベルのメチレンテトラヒドロ葉酸、および
増加したレベルのグルタミン酸塩をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態54の方法。
【0192】
実施形態56:該保存期間が少なくとも21日間であり、該酸素除去保存血液が、
該初期酸素飽和が5%~10%の場合、より高い比率のGSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)(GSH/GSSG比)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、
増加した貯蔵のNADH、および
該初期酸素飽和が約5%である場合、低下したジオキシド化レベルのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)中のCys152をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態55の方法。
【0193】
実施形態57:該保存期間が少なくとも28日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加したレベルのNADPH
増加した比率のNADPH/NADP+、
増加したレベルのシステイン、および
増加したレベルの尿酸塩をさらに含み、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態56の方法。
【0194】
実施形態58:該保存期間が少なくとも42日間であり、該酸素除去保存血液が、残基H93にβヘモグロビンの酸化レベルの低下をさらに含み、該酸素除去保存血液中の該低下が、同一保存期間の間保存された酸素除去保存血液に対してである、実施形態57に記載の方法。
【0195】
実施形態59:該酸素除去保存血液の少なくとも1ユニットを輸血することをさらに含む、実施形態36に記載の方法。
【0196】
実施形態60:該初期酸素飽和が、10%以下、5%以下、または3%以下である、実施形態36に記載の方法。
【0197】
実施形態61:輸血を必要とする該ヘモグロビン異常症患者が、大量輸血または長期輸血を必要とする患者である、実施形態36に記載の方法。
【0198】
実施形態62:該保存期間が、少なくとも14日間、21日間、28日間またはそれ以上である、実施形態36に記載の方法。
【0199】
実施形態63:輸血を必要とするヒト患者の心臓、腎臓および胃腸の虚血再灌流障害を低減する方法であって、
輸血を必要とし、心臓、腎臓および胃腸の虚血再潅流傷害のリスクが増加しているヒト患者への輸血のために、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供すること、を含む方法。
【0200】
実施形態64:輸血を必要とする該患者が、心臓手術患者、腎臓移植患者、肝臓摘出患者、または結腸切除患者からなる群から選択される患者である、実施形態63に記載の方法。
【0201】
実施形態65:該再灌流損傷の低減は、凝固性亢進、細胞損傷、または酸化損傷の低減である、実施形態63に記載の方法。
【0202】
実施形態66:該保存期間が少なくとも2日間であり、該酸素除去保存血液が、
該初期酸素飽和が5%以下の場合、低下したレベルのトロンボキサンB2、
増加した貯蔵のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、
増加した貯蔵の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、
増加したレベルのグルタチオン(GSH)、
低下した割合のメトヘモグロビン、
増加したレベルのATP、および
増加したレベルの2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)を有し、
該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態63に記載の方法。
【0203】
実施形態67:該保存期間が少なくとも14日間であり、該酸素除去保存血液が、
低下したレベルのロイコトリエンB4、
該初期酸素飽和が10%以下の場合、低下したレベルのヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、
増加したレベルのメチレンテトラヒドロ葉酸、および
増加したレベルのグルタミン酸塩をさらに含む、実施形態64の方法。
【0204】
実施形態68:該保存期間が少なくとも21日間であり、該酸素除去保存血液が、
該初期酸素飽和が5%~10%の場合、より高い比率のGSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)(GSH/GSSG比)、
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、
増加した貯蔵のNADH、および
該初期酸素飽和が約5%である場合、低下したジオキシド化レベルのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)中のCys152をさらに含み、
該酸素除去保存血液における該増加または該低減が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態67に記載の方法。
【0205】
実施形態69:該保存期間が少なくとも28日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加したレベルのNADPH
増加した比率のNADPH/NADP+、
増加したレベルのシステイン、および
増加したレベルの尿酸塩をさらに含み、
該酸素除去保存血液における該増加または該低減が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態68の方法。
【0206】
実施形態70:該保存期間が少なくとも42日間であり、該酸素除去保存血液が、残基H93にβヘモグロビンの酸化レベルの低下をさらに含み、該酸素除去保存血液中の該増加または該低下が、同一保存期間の間保存された酸素除去保存血液に対してである、実施形態69に記載の方法。
【0207】
実施形態71:該酸素除去保存血液の少なくとも1ユニットを輸血することをさらに含む、実施形態70に記載の方法。
【0208】
実施形態72:該初期酸素飽和が、10%以下、5%以下、または3%以下である、実施形態63に記載の方法。
【0209】
実施形態73:輸血を必要とする該ヒト患者は、大量輸血または長期輸血を必要とする患者である、実施形態63に記載の方法。
【0210】
実施形態74:輸血を必要とする患者の遅発性溶血性輸血反応を低減するための方法であって、保存期間の間保存される前に20%以下の初期酸素飽和を有する酸素除去保存血液を提供することを含み、該患者の遅発性溶血性輸血反応リスクが増加している、方法。
【0211】
実施形態75:輸血を必要とする該患者が、鎌状赤血球患者またはサラセミア患者、大量輸血を受ける外傷患者、ならびに長期輸血を受ける患者からなる群から選択される患者である、実施形態74に記載の方法。
【0212】
実施形態76:該保存期間が少なくとも7日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加したレベルのグルタチオン(GSH)、
増加したレベルのATP、および
増加した比率のホスファチジルイノシトール4-リン酸とホスファチジルイノシトール(3,4,5)-三リン酸、を有し、
該酸素除去保存血液における該増加が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態74の方法。
【0213】
実施形態77:該保存期間が少なくとも14日間であり、該酸素除去保存血液が、
該初期酸素飽和が10%以下の場合、低下したレベルのヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、をさらに含み、
該酸素除去保存血液における該低下が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態76の方法。
【0214】
実施形態78:該保存期間が少なくとも21日間であり、該酸素除去保存血液が、
該初期酸素飽和が5%~10%の場合、より高い比率のGSH対グルタチオンジスルフィド(GSSG)(GSH/GSSG比)、および
増加した貯蔵のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド+水素(NADH)をさらに含み、
該酸素除去保存血液における該増加が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態77の方法。
【0215】
実施形態79:該保存期間が少なくとも28日間であり、該酸素除去保存血液が、
増加したレベルのNADPH、および
増加したレベルのシステインをさらに含み、
該酸素除去保存血液における該増加が、同一保存期間の間保存された非酸素除去保存血液に対してである、実施形態78の方法。
【0216】
実施形態80:輸血を必要とする該患者が、鎌状赤血球症またはサラセミアを有する患者である、実施形態74に記載の方法。
【0217】
特定の実施形態を参照して本開示を説明してきたが、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、種々の変更が行われてもよく、また均等物がその要素と置き換えられてもよいことを理解するであろう。さらに、本開示の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適合させるために、多くの修正が行われてもよい。
【0218】
したがって、本開示は、本開示を実行するために企図される最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されるのではなく、本開示は、添付の特許請求の範囲の範囲内および主旨に属する全ての実施形態を含むことが意図される。
【実施例0219】
実施例1:血液の採取および試料調製
【0220】
合計で最大6ユニットの二重赤血球(2RBC)を、アフェレーシス、白血球除去、およびCPD2/AS-3に保存することによって健常ドナーから採取する。2RBCユニットをプールして、表1に記載の通り、高酸素、正常酸素、または種々のレベルの低酸素2RBCの6試料に分割する。低減させる各2RBCユニット(試料3~6)を、採取バッグをSorin D100膜型人工肺(Sorin Group,Arvada,CO)に接続することによって処置し、pCO2を約30mmHg(37℃)で維持しながら、95%N
2および5%CO
2のガス混合物を用いて、700ml/分の流速で注入し、保存前のSO
2%を得る。酸素を削減したユニットをキャニスター内で嫌気的に保存し、サンプリング、ならびにRBCの分離および上清は、N2充填嫌気性グローブボックス内で行われる。高酸素のユニット(試料2)に対して、O
2ガスの計算量を無菌的に添加し、90~98%SO
2を得る。高酸素(試料2)および対照(試料1)ユニットを周囲空気中で保存する。全てのユニットを4℃で6週間保存し、0日目、2日目、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目および42日目にサンプリングする。
図1に示されるように、低酸素ユニットにおけるSO
2%は減少し続け、高酸素ユニットは保存の42日間にわたって変化しないままである。
【0221】
1日目、21日目、および42日目に、細胞数、HCT、FHgB、ATP、2,3-DPGの分析を行う。RBCおよび上清をD’Alessandro,A.,et al.Transfusion,55(6),1155-1168)で既に記載される通り処理し、UHPLC-MS(Vanquish,Q Exactive-Thermo Fisher,San Jose,CAおよびBremen,Germany)により分析する。代謝物配分および同位体分子種分布は、Mavenによる内部標準物質ライブラリに対して測定される(Nemkov,T.et al.Amino Acids 2015;47(11):2345-2357)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。技術的な再現性(CV)は、重同位体で標識した標準混合物および異種代謝物5-フルオロウラシル(2.5μM)をモニタリングすることにより評価する。絶対定量は、重い標準物質(Cambridge Isotope Laboratory)の上昇に照らして行う。
【0222】
実施例2:酸素除去保存血液における炎症促進性分子の低減
3つの強力な炎症促進性の生体応答修飾物質(BRM)、すなわちロイコトリエンB4、トロンボキサンB2、およびヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)のレベルを、実施例1に記載されている6ユニットの血液中で評価する。ロイコトリエンB4は、有効な多形核好中球化学誘引物質である。
図2に示されるように、ロイコトリエンB4は、保存の42日間にわたって、従来通りに保存された、正常酸素(対照;実線)および高酸素RBCには蓄積されるが、ロイコトリエンB4は、低酸素RBCでは検出不能なままである。
【0223】
トロンボキサンA2は、血管平滑筋トロンボキサンA2受容体を介して血管収縮を刺激する不安定で強力な血管収縮剤である。トロンボキサンA2のより安定的な形態である、トロンボキサンB2は、保存の42日間にわたってSO
2が<3%の場合、対照(実線)RBC(
図3)と比較して、低酸素RBCにおいてより少なく蓄積する。
【0224】
図4Aおよび4Bで示されるように、HETEのような酸化脂質産物は、上清中の正常酸素および高酸素の保存血液と比較して、低酸素の保存血液中でより少なく蓄積する。正常酸素(実線)血液と比較した、低酸素RBC中のHETE蓄積におけるこの減少は、細胞中にも表れる。
【0225】
実施例3:13C1,2,3-グルコースを使用したグルコース代謝の測定
解糖(EMP)およびペントース経路(PPP)を介したグルコースの相対的流量は、添加液中に13C1,2,3-グルコース(13C-グルコース)を含むことによって測定することができる。酸化PPPによって生成される13C-乳酸は、13Cを全く、または2つ(13C2,3-乳酸)を含まないが、EMPを介してグルコースから直接生成される乳酸は、13Cの炭素を3つ全て持つか、あるいは全く持たないかのいずれかである。
【0226】
2グラムの13C1、2、3-グルコース(無水)を36.4mLの脱イオン化した組織培養グレードの水で溶解し、約300mMのグルコース溶液を作る。得られた溶液を、ラミナーフローフード内の50mLの無菌管に濾過滅菌し、無菌技術を使用して50mLのサンプリングPVCバッグに移す。記載の通り、酸素添加ユニットおよび酸素除去ユニットに分割する前に、プールされた血液に、7.2mLの300mM無菌13C-グルコース溶液を注入する。上述したAS-3は、およそ55mMグルコースを含有するように計算し、無菌13C-グルコース溶液の注入は、プールされた血液に追加でおよそ11mMグルコースを添加する。
【0227】
実施例4:より低い細胞内酸化還元の可能性
正常な保存条件下でRBC中に障害が形成される。酸化傷害は、酸素に依存する代謝調節、バンド3のN末端または他の残基にGAPDH結合を促進すること、還元当量(NADPH)を産生するようEMPからPPPに代謝転換を促進すること、に影響を及ぼす可能性があり、酸化還元平衡を回復させようと試みる可能性がある。しかしながら、
図5、
図6、および
図7に示すように、酸素除去保存血液は、対照血液(実線)と比較して、NADPHおよびNADPH/NADP+合成のより高い確率を有する。それによって、最長42日間保存された酸素除去保存血液が、より低いレベルの酸化ストレスを有する。
【0228】
酸素除去保存血液は、対照および高酸素血液(
図8)と比較して、NADH+NADプール合成のより高い確率をさらに示す。酸素除去保存血液の有益な影響は、保存の21~42日間で見られる。
【0229】
酸素除去保存血液はまた、対照(実線)と比較して、増加したレベルのメチレンテトラヒドロ葉酸(メチレンTHF)を有する。メチレンテトラヒドロ葉酸は、NADPHの産生を促進する。具体的には、酸素除去保存血液は、14日目および42日目にそれぞれ対照血液と比較して、メチレンテトラヒドロ葉酸の1.4倍および2倍の増加を示す(
図9)。
【0230】
グルタチオン合成のための前駆体であるグルタミン酸塩もまた、対照(実線)と比較して14日目から、酸素除去保存血液において増加した(
図10)。具体的には、グルタミン酸塩は、対照(実線)と比較して保存の42日目に、酸素除去保存血液中でおよそ2倍に増加する。さらに、グルタチオン(GSH)レベルは、対照(実線)と比較して保存期間42日間にわたって、用量依存的方法で、酸素除去保存血液中で増加する。特に、酸素除去保存血液は、7日目および42日目に、グルタチオンが対照と比較して2倍の増加を示す(
図11)。高グルタミン酸塩および還元型グルタチオンおよびGSH/GSSG比率(
図12)は、酸素除去保存血液中の酸素酸化ストレスの減少を示唆する。
【0231】
システインはGSH合成の律速基質であり、システインレベルは対照、高酸素、および酸素除去保存血液において評価される。細胞質の一炭素代謝反応によるメチオニン異化作用を介したシステイン合成は、酸素除去保存血液において最も高い。対照血液に対するシステイン合成の増加は、保存の28日後に明らかである(
図13)。
【0232】
酸化ストレスの低減の別の指標は、抗酸化尿酸塩の蓄積である。
図14に示すように、酸素除去保存血液は、保存の28~42日後の対照血液と比較して、尿酸塩レベルの増加を示す。
【0233】
実施例5:RBCのより高いエネルギー状態
図15に示すように、酸素除去保存血液はEMPを介して流量の増加を示し、それによって、より高いレベルのATPおよび2,3-DPGを生成する。酸素除去保存血液はまた、保存の7~35日間の間、ペントースリン酸経路を介して新規ATPの増加も示す(
図16)。
【0234】
活性部位残基Cys152およびHis179の酸化は、GAPDHの膜結合および触媒活性に支障を来す。保存中、特に21日目および42日目に、酸化還元感受性残基Cys152は、対照(黒いバー、
図17)と比較して、酸素除去保存血液(灰色のバー)中で酸化的に修飾されることが観察される。この触媒活性の喪失は、結果として、膜へのGAPDH移動および小胞形成による除去をもたらす。
実施例6:酸素除去保存血液のエリプトーシスおよび小胞形成の低減
【0235】
エリプトーシスはまた、輸血レシピエントにおける炎症の増加の原因となり得る。エリプトーシスは、ホスファチジルセリン曝露の低下、細胞収縮、および膜小疱形成を特徴とするRBCの自殺的な死である。細胞表面糖タンパク質に結合され、膜小胞形成によって媒介される、ホスファチジルセリン非対称の低下は、RBCクリアランスに関与する。
【0236】
試料を実施例1に記載のように調製およびサンプリングする。PIP3へのPIPリン酸化は、6個の正常酸素、高酸素および低酸素の保存血液試料で測定される。
図18Aおよび
図18Bに示すように、カルシウムチャンネルアゴニストPIP3に対するPIPのリン酸化は、嫌気性条件下で減らされる。PIP3に対するPIPのリン酸化は、保存の42日間にわたって、対照(実線)と比較して、酸素除去保存血液中で、用量依存的方法で低減される。酸素除去保存血液におけるこのPIP3に対するPIPリン酸化の予防は、マグネシウム/カルシウムポンプでPIP3の作用を予防し、そうでなければ細胞内のカルシウムの増加、ATP合成酵素の抑制を引き起こし、エリプトーシス性カスケードの活性化を介して(カルシウム依存性カルパインおよびカスパーゼによる)RBCの形態および生存を損なうだろう。
【0237】
酸素除去保存血液は、保存の42日後の対照と比較した、残基H93でのβヘモグロビン酸化の結果として、微小粒子形成の低減をもたらした(
図19)。
【0238】
メトヘモグロビンは不安定であり、疎水性および反応性のグロビンおよびヘミンに変性し、それにより、RBC膜を破壊し、小胞形成を誘発し、形態変化を誘発し、ヒドロキシルラジカル発生を触媒することがあり得る。
図20に示すように、酸素除去保存血液は、分析するあらゆる時点で、対照(実線)および高酸素保存血液と比較して、メトヘモグロビンレベルが低減した。
【0239】
ヘモグロビンの補欠分子族における酸化鉄の減少の原因となる酵素である、メトヘモグロビン還元酵素は、NAD(P)Hが機能することを必要とする。NADH/NAD+比率の増加は、低酸素でまたは嫌気的に保存されたRBCで観察され、糖分解流量の増加(より高い乳酸/ピルビン酸比率)に負っており、酸素除去のため細胞質の還元環境の変更から引き起こされる(ネルンスト式と一致する)。これらの考察は、低酸素で保存されたRBCのメトヘモグロビン蓄積について観察された減少を説明することに寄与する。
輸血を必要とする前記患者が、組織灌流バイパスを必要とする手術患者、慢性血管炎症を有する患者、慢性炎症性腸疾患を有する患者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者、鎌状赤血球症を有する患者、サラセミアを有する患者、臓器不全を有する患者、全身性炎症反応症候群(SIRS)を有する患者、真性糖尿病を有する患者、ベーチェット病を有する患者、リウマチ性関節炎を有する患者、煙吸入を有する患者、およびそれらの組み合わせを有する患者からなる群から選択される、請求項1に記載の酸素除去保存血液組成物。