(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022093383
(43)【公開日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼されるように用いられることを特徴とするドライアイ治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7084 20060101AFI20220616BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20220616BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220616BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220616BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220616BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220616BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220616BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220616BHJP
A61K 47/16 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61K31/7084
A61P27/04
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/16
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065461
(22)【出願日】2022-04-12
(62)【分割の表示】P 2021017223の分割
【原出願日】2016-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2015114596
(32)【優先日】2015-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【弁理士】
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】大下 善弘
(72)【発明者】
【氏名】中澤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】松岡 功
(72)【発明者】
【氏名】神村 明日香
(57)【要約】
【課題】ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療する薬剤を探索する。
【解決手段】ジクアホソル四ナトリウム塩を含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、ドライアイ治療剤、に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは目が乾く、ゴロゴロするという不快感程度の症状から始まり、悪化すると日常生活に多大な支障をきたす疾患である。ドライアイ患者数は、高齢化社会の到来やパソコンなどのVDT(video display terminal)作業の増大に伴い年々増加しており、米国内の推定患者数は1,000万人以上、わが国においても800万人以上と言われている。
【0003】
ドライアイの病態については完全には明らかとなっていないものの、涙液分泌の減少、涙液層の安定性の低下に伴う涙液蒸発の亢進がその主な病因であると考えられている。すなわち、これらは、眼不快感、眼乾燥感、眼疲労感、充血、角結膜上皮障害などの病的症状および/または所見を引き起こす。これらの病的症状および/または所見が進行すると、究極的には視覚異常が生じるため、ドライアイを早期且つ適切に治療することは極めて重要である。
【0004】
ソフトコンタクトレンズ装用は涙液層の安定性の低下を導くことから、ドライアイ患者のソフトコンタクトレンズ装用はドライアイ症状の悪化に繋がることがある。また、ソフトコンタクトレンズ装用によりドライアイが発症することもある。しかしながら、そのようなドライアイ患者であっても、利便性の観点からソフトコンタクトレンズ装用の中止を望まないケースもある。
【0005】
一方で、我が国において、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療する薬剤として広く認知されているものは存在しない。むしろ、我が国においてドライアイ患者に広く使用されている「ジクアス(登録商標)点眼液3%」、「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.1%」、「ヒアレイン(登録商標)点眼液0.3%」については、ソフトコンタクトレンズ装用者への使用自体が禁忌とされている。
【0006】
ところで、前記「ジクアス(登録商標)点眼液3%」は有効成分として3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有しており、さらに防腐剤としてベンザルコニウム塩化物をも含有する。ジクアホソルはP1,P4-ジ(ウリジン-5’)四リン酸またはUp4Uとも呼ばれるプリン受容体アゴニストであり、特許文献1に開示されているように、涙液分泌促進作用を有することが知られている。しかしながら、ジクアホソルがソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化にどのような効果を及ぼすのかは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療する薬剤を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療する薬剤を探索するため鋭意研究を行なったところ、ソフトコンタクトレンズが装用されたカニクイザルの眼に、ジクアホソル四ナトリウム塩を含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液(以下、「本点眼液」ともいう)を点眼したところ、人工涙液では認められない顕著なNIBUT(非侵襲涙液層破壊時間)の上昇、すなわち涙液層の安定化が生じることを見出し、本発明を完成するに至った。背景技術の項で述べたように、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化は涙液層の安定性の低下に起因するものであることから、涙液層の安定化はソフトコンタクトレンズ装用者のドライアイ治療に資する。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に掲げる、ドライアイ治療剤を提供する。
(1)ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、ドライアイ治療剤(以下、「本剤」ともいう)。
(2)ユニットドーズ型である、(1)に記載の治療剤。
(3)マルチドーズ型である、(1)に記載の治療剤。
(4)ベンザルコニウム塩化物以外の防腐剤を含有する、(3)に記載の治療剤。
(5)ベンザルコニウム塩化物以外の防腐剤がクロルヘキシジン類、ホウ酸類、亜塩素酸類、パラベン類、ソルビン酸類、クロロブタノールおよび塩化ベンゼトニウムからなる群から選択される少なくとも一つである、(4)に記載の治療剤。
(6)ベンザルコニウム塩化物以外の防腐剤がクロルヘキシジン類である、(4)または(5)に記載の治療剤。
(7)ジクアホソルまたはその塩の濃度が0.5~5%(w/v)である、(1)~(6)のいずれか一項に記載の治療剤。
(8)ジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の治療剤。
(9)ドライアイがコンタクトレンズ装用により引き起こされる、(1)に記載の治療剤。
【0011】
また、本発明は、以下に掲げる点眼剤も提供する。
(10)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、涙液層の安定性を向上させるための点眼剤。
(11)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感を治療するための点眼剤。
【0012】
また、本発明は、以下にも、関する。
(12)ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼することを含む、ドライアイの治療における使用のための、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液。
(13)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼することを含む、涙液層の安定性の向上における使用のための、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液。
(14)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼することを含む、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感の治療における使用のための、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液。
【0013】
また、本発明は、以下にも、関する。
(15)ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ドライアイの治療のための医薬を製造するための、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液の使用。
(16)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、涙液層の安定性を向上させるための医薬を製造するための、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液の使用。
(17)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感を治療するための医薬を製造するための、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液の使用。
【0014】
また、本発明は、以下にも、関する。
(18)ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に、ジクアホソルまたはその塩の治療有効量を含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液を投与することを含む、ドライアイの治療方法。
(19)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に、ジクアホソルまたはその塩の治療有効量を含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液を投与することを含む、涙液層の安定性を向上させるための方法。
(20)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に、ジクアホソルまたはその塩の治療有効量を含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない点眼液を投与することを含む、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感を治療するための方法。
【0015】
また、本発明は、以下にも、関する。
(21)ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、ドライアイの治療のための点眼液。
(22)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、涙液層の安定性を向上させるための点眼液。
(23)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しない、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感を治療するための点眼液。
【発明の効果】
【0016】
ジクアホソル四ナトリウム塩を含有し、ベンザルコニウム塩化物を含有しないドライアイ治療剤は、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、薬理試験1におけるNIBUT上昇作用の評価試験の結果を示す図である。
【
図2】
図2は、薬理試験2におけるNIBUT上昇作用の評価試験2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ジクアホソルは下記式で表される化合物である。
【0019】
【0020】
ジクアホソルは有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造でき、また、特表2001-510484号公報に開示された方法により製造することができる。
【0021】
ジクアホソルの塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;鉄、亜鉛などとの金属塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0022】
本発明における「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのは、下記式で示されるジクアホソルの四ナトリウム塩(以下、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)である。
【0023】
【0024】
ジクアホソルまたはその塩に幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、当該異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。また、ジクアホソルまたその塩にプロトン互変異性が存在する場合には、当該互変異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。
【0025】
ジクアホソルまたはその塩、水和物もしくは溶媒和物に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0026】
ベンザルコニウム塩化物は点眼液に汎用される防腐剤であり、一般式:[C6H5CH2N(CH3)2R]Clで示される。なお、前記一般式において、Rはアルキル基を示し、該アルキル基の炭素数が12であるベンザルコニウム塩化物(以下、単に「BAK-C12」ともいう)または該アルキル基の炭素数が14であるベンザルコニウム塩化物(以下、単に「BAK-C14」ともいう)は特に点眼液に汎用されている。
【0027】
本発明において、「ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼される」とは、ドライアイ患者の角膜上にソフトコンタクトレンズが装用された状態で、点眼液が点眼されることを意味する。
【0028】
ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするコンタクトレンズまたはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズなどが挙げられる。
【0029】
本発明の適用対象となるソフトコンタクトレンズの種類については特に限定されるものでなく、また、イオン性または非イオン性、含水性または非含水性の別を問わない。例えば、繰り返し使用されるレンズの他、1日使い捨て用レンズ、1週間使い捨て用レンズ、2週間使い捨て用レンズなどの現在市販されているまたは将来市販されるすべてのソフトコンタクトレンズに適用可能である。
【0030】
ドライアイは「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患」と定義づけられ、乾性角結膜炎(KCS)はドライアイに含まれる。本発明においては、ソフトコンタクトレンズ装用を原因とするドライアイ症状の発生もドライアイに含まれるものとする。
【0031】
ドライアイ症状には、眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の他、充血、角結膜上皮障害などの他覚所見も含まれる。
【0032】
ドライアイの病因については不明点も多いが、シェーグレン症候群;先天性無涙腺症;サルコイドーシス;骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease);眼類天疱瘡;スティーブンス・ジョンソン症候群;トラコーマなどを原因とする涙器閉塞;糖尿病;角膜屈折矯正手術(LASIK:Laser(-assisted) in Situ Keratomileusis)などを原因とする反射性分泌の低下;meibom腺機能不全;、眼瞼炎などを原因とする油層減少;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全または閉瞼不全;胚細胞からのムチン分泌低下;VDT作業などがその原因であると報告されている。
【0033】
本発明において「ドライアイ治療」とは、ソフトコンタクトレンズ装用眼における涙液層の安定性の向上によってドライアイ症状を改善せしめることを意味する。なお、ドライアイ症状の改善には、ドライアイ患者がソフトコンタクトレンズ装用することで悪化するに至ったドライアイ症状の改善、ソフトコンタクトレンズ装用そのものにより発生するに至ったドライアイ症状の改善をも意味する。また、本発明において、「ドライアイ治療」には、「ドライアイの予防」を含む。
【0034】
涙液層の安定性の向上とは、涙液が量的または質的に改善されることを意味する。なお、涙液層の安定性はBUT(涙液層破壊時間)を測定することで確認することができる。BUTの中でも、染色液等の負荷をかけずに、より自然の状態に近い測定したものをNIBUT(非侵襲涙液層破壊時間)と言う。
【0035】
本発明において、「マルチドーズ型容器」とは、容器本体と当該容器本体に装着可能なキャップを備えた点眼容器であって、キャップの開封、再封を自由に行うことができる点眼容器のことをいう。当該マルチドーズ型容器には、通常一定期間使用するために複数回分の点眼液が収容されている。
【0036】
本発明において、「ユニットドーズ型容器」とは、瓶口部にキャップが融着封止され、使用時に当該キャップと瓶形本体との融着部を破断開封して使用することを目的とした点眼容器のことをいう。当該ユニットドーズ型容器には、一回または数回使用分の点眼液が収容されている。また、当該ユニットドーズ型容器には、瓶口部にキャップが融着封止され、使用時に当該キャップと瓶形本体との融着部を破断して容器を開封した後でも再度完全なキャッピングが可能な容器であって、一日使い切りのために数回使用分の点眼液が収容される点眼容器も含まれる。
【0037】
また、本剤は、ベンザルコニウム塩化物以外の防腐剤を添加し、通常のマルチドーズ型であってもよい。
【0038】
本発明において、「ベンザルコニウム塩化物以外の防腐剤」とは、ベンザルコニウム塩化物以外の化合物であって、防腐効果を有することが知られているものであれば特に限定はされないが、好ましくは、クロルヘキシジン類、ホウ酸類、亜塩素酸類、パラベン類、ソルビン酸類、クロロブタノール、塩化ベンゼトニウムであり、さらに好ましくはクロルヘキシジン類である。
【0039】
本剤がクロルヘキシジン類を含有する場合において、「クロルヘキシジン類」には、クロルヘキシジンおよびその塩が含まれる。クロルヘキシジンは、下記化学構造式で示される化合物であり、1,1’-ヘキサメチレンビス[5-(4-クロロフェニル)ビグアニド]とも称される化合物である。
【0040】
【0041】
上記クロルヘキシジン類の内、「クロルヘキシジンの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(グルコン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩および/または無機酸塩、より好ましくはオキシカルボン酸塩、モノカルボン酸塩および/または無機酸塩、更に好ましくはグルコン酸塩、酢酸塩および/または塩酸塩、特に好ましくはグルコン酸塩が挙げられる。これらのクロルヘキシジンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0042】
クロルヘキシジンおよびその塩は、公知の方法により合成してもよく、市販品として入手することもできる。
【0043】
本剤がクロルヘキシジン類を含有する場合、その濃度は、0.0001~0.1%であるが、0.0005~0.05%(w/v)であることが好ましく、0.001~0.005%(w/v)であることが特に好ましい。
【0044】
本剤がホウ酸類を含有する場合において、「ホウ酸類」には、ホウ酸およびその塩が含まれる。上記ホウ酸類の内、「ホウ酸の塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、具体的には、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂などが挙げられ、好ましくは、ホウ砂である。
【0045】
本剤が亜塩素酸類を含有する場合において、「亜塩素酸類」には、亜塩素酸およびその塩が含まれる。上記亜塩素酸類の内、「亜塩素酸の塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、具体的には、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0046】
本剤がパラベン類を含有する場合において、「パラベン類」には、パラベンおよびその塩が含まれる。上記パラベン類の内、「パラベンの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、具体的には、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチルなどが挙げられ、好ましくはパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルである。
【0047】
本剤がソルビン酸類を含有する場合において、「ソルビン酸類」には、ソルビン酸およびその塩が含まれる。上記ソルビン酸類の内、「ソルビン酸の塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、具体的には、ソルビン酸カリウムなどが挙げられる。
【0048】
本剤の剤型は、点眼液である。
本剤は、ジクアホソルまたはその塩以外の有効成分を含有することもできるが、好ましくは、ジクアホソルまたはその塩のみを唯一の有効成分として含有する。
【0049】
本剤は、好ましくは0.5~5%(w/v)、より好ましくは1、2、3または4%(w/v)、さらに好ましくは3%(w/v)の濃度をジクアホソルまたはその塩を含有する。
【0050】
本剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤を選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4~8の範囲内が好ましい。本剤には、適宜、塩酸や水酸化ナトリウムなどのpH調節剤を添加することができる。
【0051】
本剤は、1日1~10回、好ましくは1日2~8回、より好ましくは1日4~6回、さらに好ましくは1日6回に分けて点眼することができる。
【0052】
以下に、薬理試験および製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0053】
[薬理試験1]NIBUT上昇作用の評価試験
ソフトコンタクトレンズ装用により、涙液層の安定性が低下した眼における、ジクアホソル点眼液のNIBUTを検討した。
【0054】
(試料調製)
ジクアホソル点眼液として、以下点眼液1を調製し、試験に使用した。
【0055】
点眼液1:
ジクアホソルナトリウム(3g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、塩化ナトリウム(0.39g)、塩化カリウム(0.15g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.01g)およびクロルヘキシジングルコン酸塩(0.0025g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5とした。
【0056】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(製品名:メニコンソフトMA(登録商標))を装用したカニクイザルの眼に、点眼液1(20μL/眼)を点眼する前、および点眼15、30、45、60分後のNIBUTをドライアイ観察装置(DR-1、コーワ)で測定した。対照薬として人工涙液(製品名:ソフトサンティア(登録商標))を用いた(N=10~11眼)。
【0057】
(結果)
試験結果を
図1に示す。
図1から明らかなように、ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼液1を点眼すると、点眼60分後までの全測定ポイントで、点眼前と比較して顕著なNIBUTの上昇が認められた。一方、人工涙液点眼ではNIBUTの上昇が認められなかった。
【0058】
(考察)
上記の結果から、本剤は、ソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することが示された。よって、本剤は、ソフトコンタクトレンズ装用によるドライアイ症状の発生/悪化を治療するのに有用である。すなわち、本剤は、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼され、ドライアイを治療することができる。また、ソフトコンタクトレンズ装用が眼乾燥感や眼不快感といった自覚症状を引き起こすことが報告されている。これは、ソフトコンタクトレンズ装用が涙液層の菲薄化を引き起こし、涙液層の安定性が低下することに起因すると考えられる。上記の結果から、本剤は、ソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することから、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感を治療するのに有用である。
【0059】
[薬理試験2]NIBUT上昇作用の評価試験2
ソフトコンタクトレンズ装用により、涙液層の安定性が低下した眼における、ジクアホソル点眼液のNIBUTを検討した。
【0060】
(試料調製)
ジクアホソル点眼液として、薬理試験1と同様に点眼液1を調製し、試験に使用した。
【0061】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(製品名:メニコンソフトMA(登録商標))を装用したカニクイザルの眼に、点眼液1(20μL/眼)を点眼する前、および点眼5、15、30、45、60分後のNIBUTをドライアイ観察装置(DR-1、コーワ)で測定した。対照薬として人工涙液(製品名:ソフトサンティア(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウム(製品名:ヒアレイン(登録商標)ミニ点眼液0.1%)を用いた(N=11眼)。
【0062】
(結果)
試験結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼液1を点眼すると、点眼60分後までの全測定ポイントで、点眼前と比較して顕著なNIBUTの上昇が認められた。一方、人工涙液点眼ではNIBUTの上昇が認められなかった。また、ヒアルロン酸ナトリウム点眼では点眼5分後NIBUTの上昇が認められたものの、その上昇作用は点眼液1より低く、点眼15分後以降はNIBUTの上昇が認められなかった。
【0063】
(考察)
上記の結果から、本剤は、ヒアルロン酸ナトリウムよりもソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することが示された。
本試験結果は、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼された場合、ヒアレイン(登録商標)ミニ点眼液に比して、本剤が極めて強いドライアイ治療効果、ソフトコンタクトレンズ装用に伴う眼乾燥感または眼不快感の治療効果を奏することを示す。
【0064】
[薬理試験3]NIBUT上昇作用の比較試験
ソフトコンタクトレンズ装用により、涙液層の安定性が低下した眼における、本点眼液とベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液のNIBUTを比較検討した。
【0065】
(試料調製)
点眼液1:
本点眼液として、薬理試験1と同様に点眼液1を調製した。
点眼液2:
本点眼液として、防腐剤を含有しない点眼液2を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、塩化ナトリウム(0.41g)、塩化カリウム(0.15g)およびエデト酸ナトリウム水和物(0.01g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5とした。
点眼液3:
比較例として、ベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液3を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、塩化ナトリウム(0.41g)、塩化カリウム(0.15g)およびベンザルコニウム塩化物(0.0075g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5とした。点眼液1、2および3は、共に同一濃度の有効成分(ジクアホソルナトリウム)を含有する点眼液である。また、点眼液1と点眼液3は、共に日本薬局方の保存効力試験基準に適合し、同等の保存効力を有する点眼液である。
【0066】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(製品名:メニコンソフトMA(登録商標))を装用したカニクイザルの眼に、点眼液1~3(20μL/眼)を点眼する前、および点眼30分後のNIBUTをドライアイ観察装置(DR-1、コーワ)で測定した(N=11眼)。
【0067】
(結果)
試験結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
日本薬局方の保存効力試験基準に適合し、同等の保存効力を有する、点眼液1と点眼液3の点眼30分後におけるNIBUTを測定し、比較検討した結果、点眼液1はベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液3よりも高いNIBUT上昇作用を有することが示された。また、防腐剤を含有しない点眼液(点眼液2)も同様にベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液3よりも高いNIBUT上昇作用を有することが示された。
【0070】
(考察)
本点眼液はベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液よりもソフトコンタクトレンズ装用による涙液層の安定性の低下を改善することが示された。
【0071】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
(製剤例1:点眼液(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.0001~0.1g
ポリソルベート80 0.0001~0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。